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「魔法」、「パンダ」、「黒子」②

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konta

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「魔法」、「パンダ」、「黒子」②



460 名前:創る名無しに見る名無し:2008/11/30(日) 22:53:04 ID:moV+zKd5
 突風に晒されながら、僕は揺らぐことも無く立っていた。
 地上三十階建ての、この街では一、二を争う高さのビル。そこに、
僕は立っていた。
 僕の、生まれつき白みがかった髪と肌は、夕焼けの色に染められ、
心の中は、これから訪れる宵闇のような青に染まっていた。
 今日も、これから戦いだ。
「……世界は間違っている」
 そんな僕の怨嗟の声は、どこにも届くことは無い。如何に間違って
いようが、世界は止まる事無く、前を向いて進んでいくのだから。
 僕の声に追いつかれまいと、先んじて進んでいくのだから……。
 僕の苦労が報われる事が無いのを、如何に不満に思っていようと、
そんな事は世界にとっちゃ知ったこっちゃないのだ。
「……レンレン」
 僕は、肩に乗っかった“相棒”に声をかけた。
「レンレンって言うな。……なんだよ」
 白と黒のツートンカラー。いわゆるパンダの姿をしたそれは、
動かなければただのぬいぐるみにしか見えない。
 だが、それは動く。それどころか、喋りすらする。あまつさえ、人並み
以上の知性すら持ち合わせている。
 彼――性別は、一応オスらしい――は、彼自身の証言を鵜呑みに
するのならば、魔法の国からやってきた魔法の国の住人なのだとか。
 名前はレン。僕は、愛着を込めてレンレンと呼んでいるが、彼には
その呼び名はあまり気に入られていないようだ。
 勿論、最初は単なるトリックだと思って、そんな発言は真に受けて
いなかった。どこかに発信機が無いか、どういうギミックで動いているのか、
色々と彼を調べたりもした。でも、彼から力を貰い、僕はその言葉を信じる
しかなくなった。そして――
「……いつになったら、終わるの?」
 ――この、忌々しい戦いに、参加せざるをえなくなった。
 別に、僕の戦いを誰かに見て欲しいとか、評価して欲しいとか、そういう
事を思ってるわけじゃない。だけど……これは、あんまりにもあんまりだ。
「そりゃあ……ステージモンスターを全部倒すまで」
「……はぁ」
 それは、わかっている。問題は、怪物共が、あと一体何対いるのか、
という事だ。僕は、返ってくる答えをわかっていながら、あえて聞いた。
「あと、何体いるの?」
「わかんない」
 ……やっぱり。
「ずっとわかんないままなの? 前聞いた時もわかんなかったよね?」
「そんな事言われても……俺、そういう情報収集苦手で……」
「……はぁ」
 この頼りにならない相棒の存在も、僕のため息の数を増やす一因だ。
 とはいえ、彼がいなければ僕がここにこうして立っている事はなかった
わけで、そういう意味では感謝はしている。僕の命を救ってくれた事に関しては。
 でも……もうちょっと違う救い方はなかったのかな?
「とにかく、今日も出るんだよね、これから?」
「うん、それは間違いない。さっきステモンの気配感じたから」
 ……命と引き換えに、戦う宿命を背負わされた、か。
 言葉にするとカッコいいんだけどね……僕も、最初は結構いいかも、
って思ってたりしたくらいだし。
 でも……やっぱり、これはあんまりにもあんまりだよ……。
「先に変身しとこうよ、美由!」
「……」


461 名前:創る名無しに見る名無し:2008/11/30(日) 22:53:20 ID:moV+zKd5
 僕はジト目でレンを見る。
 僕が変身したくないって事、一向に彼は理解してくれない。
 こんな口調にこんななりだけど、僕も一応女の子だ。魔法の国の
住人の力で変身するとなれば、それは当然魔法少女なわけで、初めての
変身の前には、僕は凄く期待した。
 ……そして、その期待は見事に裏切られたのだ。
 きらびやかなコスチュームに、華やかに彩られた魔法のステッキ。
 そんなものは僕には一切与えられず――
「あっ、ステモンの気配が近いよ! さあ、美由、変身だ!」
「……はぁ」
 戦う力は、“あの姿”にならなくては手に入れられない。そして、僕が
戦わなくては、大勢の人にステージモンスターは迷惑をかける。
「……マジカルウラカタスタッフサン、ショーオンザステージ!」
 ――与えられた姿は、これだ。
「魔法の黒子、マジカルミュー、こっそり見参!」
 黒子。そう、黒子。もう、ほかに説明のしようが無いくらい、どうしようも
無く黒子。舞台の袖で待機し、大道具小道具を捌けるのに全力疾走し、
観客の意識を捉えないよう、黒に全身を包む、裏方専門スタッフ。
 その黒子に、僕は変身するのだ。
 ………………。
 黒子って……黒子って……。
 これは、無いよ……何度変身しても、やっぱりそう思う。
「さあ、今日も背後からこっそり忍びよって、気づかれない内にステモンの
 急所をそのステッキで一突きだ!」
 しかも戦い方こんなのだし……これも無いよ……なんで? なんでなの?
 別に誰かに知ってもらいたいわけじゃない。派手な戦いをして目立ちたい
わけでもない。でも……でもね……これは酷いでしょ?
「……やっぱり、世界は間違っている」
 怨嗟の声は、やっぱりどこにも届く事は無く――
 今日も僕の戦いは、ため息に彩られて始まるのだった。

                                      終わり



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