「抹茶白玉あんみつ」、「冬」、「輪廻」①
424 名前:一窮さん 1/5 ◆phHQ0dmfn2 [sage] 投稿日:2008/11/26(水) 02:28:52 ID:SvHoEmEf
むかしむかし……ではなく、現代のお話。あるお寺に、一窮さんという見習いの子坊主
がおりました。
この一窮さん、まだ小さいのにたいそう頭が良く、ことあるたびに見事なとんちを披露
しては、周りの者たちを感嘆させておりました。
がおりました。
この一窮さん、まだ小さいのにたいそう頭が良く、ことあるたびに見事なとんちを披露
しては、周りの者たちを感嘆させておりました。
さて、この地方は冬になると深い雪に覆われます。外出することもままならず、時間を
持て余した一窮さん。彼は次第にネットサーフィンで時間を潰すようになりました。
もともと頭が良かった一窮さんは、ネットを通じて様々なことを覚えました。情報革命
により、今や子供でも簡単に知識を得られる時代なのです。瞬く間に、大人顔負けの知識
を身に付けてしまいます。
しかし少々問題が。部屋に閉じこもって、パソコンばかりいじっていたせいか、いささ
か性格がひねくれてしまったようです。頭の良さを鼻にかけ、他人や世の中を小馬鹿にす
るような子供になってしまいました。
「一窮や、輪廻転生の話は知っておるな。お前はたいそう頭がいい、もしかすると本当に
一休さんの生まれ変わりかもしれんな」
和尚様は笑いながら話しかけます。ほめたつもりだったのですが、一窮さんは素直には
喜びません。
持て余した一窮さん。彼は次第にネットサーフィンで時間を潰すようになりました。
もともと頭が良かった一窮さんは、ネットを通じて様々なことを覚えました。情報革命
により、今や子供でも簡単に知識を得られる時代なのです。瞬く間に、大人顔負けの知識
を身に付けてしまいます。
しかし少々問題が。部屋に閉じこもって、パソコンばかりいじっていたせいか、いささ
か性格がひねくれてしまったようです。頭の良さを鼻にかけ、他人や世の中を小馬鹿にす
るような子供になってしまいました。
「一窮や、輪廻転生の話は知っておるな。お前はたいそう頭がいい、もしかすると本当に
一休さんの生まれ変わりかもしれんな」
和尚様は笑いながら話しかけます。ほめたつもりだったのですが、一窮さんは素直には
喜びません。
425 名前:一窮さん 2/5 ◆phHQ0dmfn2 [sage] 投稿日:2008/11/26(水) 02:30:50 ID:SvHoEmEf
「知らないのですか和尚様? とんち小僧の『一休さん』のイメージは、アニメなどによ
り、後世つくられたものなんですよ。実在の一休宗純とは何の関わりもありません。その
くらい常識ですよ」
万事こういった具合です。いらぬことを言っては、大人たちから叱られておりました。
り、後世つくられたものなんですよ。実在の一休宗純とは何の関わりもありません。その
くらい常識ですよ」
万事こういった具合です。いらぬことを言っては、大人たちから叱られておりました。
ところで、このお寺には名物があります。抹茶白玉あんみつです。
参詣客に振る舞うためのものなのですが、代々伝わる秘伝の製法でつくられたあんみつ
は絶品で、それ目当てに寺を訪れる者もいるくらいです。
しかし、修行の妨げになるという理由で、一窮さんは食べさせてもらえません。不満に
思い、和尚様を問い詰めます。
「酒やタバコがダメというなら分かります。ですが、糖分は人間が生きていく上で必要不
可欠な栄養素ではないですか。こんな制約を設けるなんて馬鹿げている」
しかし和尚様は取り合ってはくれません。
「ダメなものはダメじゃ。我らは質素倹約を旨とせねばならん。いたずらに美食を追求す
るは、煩悩の始まりであるぞ」
逆に説教をされてしまいました。
参詣客に振る舞うためのものなのですが、代々伝わる秘伝の製法でつくられたあんみつ
は絶品で、それ目当てに寺を訪れる者もいるくらいです。
しかし、修行の妨げになるという理由で、一窮さんは食べさせてもらえません。不満に
思い、和尚様を問い詰めます。
「酒やタバコがダメというなら分かります。ですが、糖分は人間が生きていく上で必要不
可欠な栄養素ではないですか。こんな制約を設けるなんて馬鹿げている」
しかし和尚様は取り合ってはくれません。
「ダメなものはダメじゃ。我らは質素倹約を旨とせねばならん。いたずらに美食を追求す
るは、煩悩の始まりであるぞ」
逆に説教をされてしまいました。
426 名前:一窮さん 3/5 ◆phHQ0dmfn2 [sage] 投稿日:2008/11/26(水) 02:33:06 ID:SvHoEmEf
しかしある日、片づけものをしようと調理場に入ると、和尚様がこっそりあんみつを食
べているではありませんか。一窮さんは、たまらず詰め寄ります。
「ずるいですよ自分だけ。僕にはあれだけ偉そうなことを言うくせに、恥ずかしいと思わ
ないんですか」
たじろぐ和尚様、苦し紛れにこのような弁明をいたします。
「い、今まで黙っておったが本当のことを教えよう。じ、実はな、これは子供にとっては
猛毒なのじゃ。口にすると死んでしまう。つまり、食べていいのは大人だけなのじゃ」
そう言ってそそくさと退散してしまいました。しかし、そんなことで納得する一窮さん
ではありません。
「子供だましの言い訳だ、理屈も何もあったもんじゃない。これだから最近の大人は」
べているではありませんか。一窮さんは、たまらず詰め寄ります。
「ずるいですよ自分だけ。僕にはあれだけ偉そうなことを言うくせに、恥ずかしいと思わ
ないんですか」
たじろぐ和尚様、苦し紛れにこのような弁明をいたします。
「い、今まで黙っておったが本当のことを教えよう。じ、実はな、これは子供にとっては
猛毒なのじゃ。口にすると死んでしまう。つまり、食べていいのは大人だけなのじゃ」
そう言ってそそくさと退散してしまいました。しかし、そんなことで納得する一窮さん
ではありません。
「子供だましの言い訳だ、理屈も何もあったもんじゃない。これだから最近の大人は」
それからいくばくか経った別の日、一窮さんは和尚様からこっぴどく叱られてしまいま
した。理由は一窮さんが嘘をつき、務めをさぼろうとしたことにあります。罰として、座
禅を命じられてしまいました。
真冬の本堂の寒さは、骨身に堪えます。一窮さんはくやしくてなりません。
「自分のことは棚に上げてなんだよ。それに僕より頭が悪い癖に偉そうに。くそ、今に見
てろ……」
した。理由は一窮さんが嘘をつき、務めをさぼろうとしたことにあります。罰として、座
禅を命じられてしまいました。
真冬の本堂の寒さは、骨身に堪えます。一窮さんはくやしくてなりません。
「自分のことは棚に上げてなんだよ。それに僕より頭が悪い癖に偉そうに。くそ、今に見
てろ……」
427 名前:一窮さん 4/5 ◆phHQ0dmfn2 [sage] 投稿日:2008/11/26(水) 02:36:02 ID:SvHoEmEf
自慢のとんちの出番です。
翌日、和尚様は用事のために寺を空けることになりました。
出発を見送った後、一窮さんは納屋から金属バットを持ち出し、和尚様の部屋へと向か
います。部屋に入ると、数々の豪華な調度品が目に飛び込んできました。質素倹約とはま
るで無縁のようです。
一窮さんはバットを振りかざすと、自慢の調度品の数々を次々と壊しにかかります。青
磁の壷を割り、伊万里の皿を砕き、五十インチプラズマテレビの画面を粉々にしてしまい
ました。
「はあ、すっきりした」
日頃の鬱憤を晴らし、すがすがしい顔の一窮さん。その足で、調理場へと向かいます。
出発を見送った後、一窮さんは納屋から金属バットを持ち出し、和尚様の部屋へと向か
います。部屋に入ると、数々の豪華な調度品が目に飛び込んできました。質素倹約とはま
るで無縁のようです。
一窮さんはバットを振りかざすと、自慢の調度品の数々を次々と壊しにかかります。青
磁の壷を割り、伊万里の皿を砕き、五十インチプラズマテレビの画面を粉々にしてしまい
ました。
「はあ、すっきりした」
日頃の鬱憤を晴らし、すがすがしい顔の一窮さん。その足で、調理場へと向かいます。
調理場の冷蔵庫には、ボウル一杯の抹茶白玉あんみつが作り置きしてありました。
「すみません、僕はとんでもないことをしてしまいました。もはや、命を以て償う他あり
ません。和尚様は、これを『毒』だとおっしゃいました。僕は反省の証に、この毒を飲も
うと思ったのです」
先ほどの破壊行為を咎められたら、こう弁明するつもりでした。
「すみません、僕はとんでもないことをしてしまいました。もはや、命を以て償う他あり
ません。和尚様は、これを『毒』だとおっしゃいました。僕は反省の証に、この毒を飲も
うと思ったのです」
先ほどの破壊行為を咎められたら、こう弁明するつもりでした。
428 名前:一窮さん 5/5 ◆phHQ0dmfn2 [] 投稿日:2008/11/26(水) 02:38:07 ID:SvHoEmEf
和尚様は、自分が「嘘をつくな」と説教をした手前、「本当は、このあんみつは毒なんか
じゃない」などとは、今さら言えるはずがありません。一窮さんの思う壺。
「僕にかかれば、世の中ちょろいもんさ」
そうほくそえみ、白玉あんみつを口に放り込みます。
「これは……美味しい!」
一口食べると、そのあまりの素晴らしい味に驚いてしまいました。さわやかな甘味と風
味が口の中に広がり、えも言われぬハーモニーを奏でます。まさに絶品スイーツ、これ目
当てに参詣客が訪れるというのも納得です。二口、三口と食べ進めるうちに止まらなくな
り、無我夢中であんみつを頬張ります。
その時、異変が起こりました。欲張りすぎたのでしょう、口一杯に詰め込んだ白玉が、
喉につかえてしまったのです。
「……んぐっ……んぐっ!」
苦しさで、思わずその場に倒れ込んでしまいました。水を飲むため蛇口に向かおうとし
ましたが、手足に上手く力が入らず、立ち上がれません。息ができないため、助けを呼ぶ
こともできません。
白目をむいてバタバタともがいていましたが、次第に顔が青ざめ……
じゃない」などとは、今さら言えるはずがありません。一窮さんの思う壺。
「僕にかかれば、世の中ちょろいもんさ」
そうほくそえみ、白玉あんみつを口に放り込みます。
「これは……美味しい!」
一口食べると、そのあまりの素晴らしい味に驚いてしまいました。さわやかな甘味と風
味が口の中に広がり、えも言われぬハーモニーを奏でます。まさに絶品スイーツ、これ目
当てに参詣客が訪れるというのも納得です。二口、三口と食べ進めるうちに止まらなくな
り、無我夢中であんみつを頬張ります。
その時、異変が起こりました。欲張りすぎたのでしょう、口一杯に詰め込んだ白玉が、
喉につかえてしまったのです。
「……んぐっ……んぐっ!」
苦しさで、思わずその場に倒れ込んでしまいました。水を飲むため蛇口に向かおうとし
ましたが、手足に上手く力が入らず、立ち上がれません。息ができないため、助けを呼ぶ
こともできません。
白目をむいてバタバタともがいていましたが、次第に顔が青ざめ……
教訓:世の中そんなに甘くない、大人の言うことは素直に聞こう。