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「カラス」、「加湿器」、「ラベンダー」④

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shoyu

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「カラス」、「加湿器」、「ラベンダー」④


397 名前:創る名無しに見る名無し[sage] 投稿日:2008/11/24(月) 23:37:55 ID:b0hFje6g

書いてみました

「カラス・加湿器・ラベンダー」


香水瓶の中に青いオイル。
それは加湿器の中に注がれて、暖炉で暖められた部屋に放散される。

マリーアの褐色の肌はわずかに上気し、首筋の辺りは汗ばんでいた。彼女の体温は、
いつも僕のそれよりわずかに高い。濡れたように光る黒い大きな目、奔放に跳ね回る
長い黒髪。歯を見せて明るく笑うマリーアは、そんなことを彼女に言うととても怒ら
れるのだけれど、カラスのような印象を備えていた。

――そうだった

僕はささやくように言う、マリーアの濃紺の唇が僕の肩口を吸う。

――君は加湿器にブランデーを入れるのが好きだったね。いつの間にか僕たちは夢
心地になって、君はとめどなく放埓になるんだ

ブランデーなんて入れていないわ、とマリーアは言う。今日はラベンダーのオイルよ。
この甘く奥深い香りは確かにラベンダーのものだ、君はいつも香りで僕を支配して、
ただならぬ恍惚の淵へと引きずり込む。君の大きな目は感情の動きにくるくると表情
を変え、肌理の細かい肌は僕のあらゆる部分に密着して体温を伝える。君の高揚と陶
酔は、呼気と体温という形で僕に流れてくる。

398 名前:創る名無しに見る名無し[sage] 投稿日:2008/11/24(月) 23:39:01 ID:b0hFje6g [2/2]
僕は、いつもそうであったように夢とうつつの境にあった。マリーアの柔らかな
両手が僕の顔を撫で、熱い息が僕の顔にかかる。

――だめだよ、マリーア

僕は必死に抵抗する。だが心も体も、すでに彼女のものになっていた。暖炉の赤い灯
がマリーアの背後に揺らめき、彼女の白い歯が獰猛な笑みとともにこぼれる。
何故だめなの。彼女がからかうようにたずねる。

――僕たち、まだ十歳にもなっていないじゃないか

何を言っているの。マリーアは困ったような面持ちになって、小首を傾げて僕の腰の
あたりを探る。それは子供の頃の話かしら。

――ラベンダーを嗅いだから、時を少しだけ、遡ったんだよ。

そう、とマリーアは言って、もう喋るなとばかりに僕の唇をふさいだ。
カラスの羽ばたくような長い黒髪。暖炉の灯とむせ返るような芳香。彼女は何も
変わっていない。僕のあらゆる記憶の中で、マリーアはいつも明るく、奔放で、
そして、とても熱かった。


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