「台風」、「理性」、「かなりアレ」
90 名前:台風・理性・かなりアレ1/3[sage] 投稿日:2008/09/13(土) 20:06:58 ID:ws1M/ng0 [1/5]
「私、台風おじさんなんですよ」
男は真面目な顔で語り始めた。
「台風の現地リポートをするあのお仕事ですか?」
「いえ、晴れ男とか雨女ってよく言うでしょう? 私の場合は台風を呼んでしまうんですよ」
「それは大変ですな」
何を馬鹿なと思ったが、そんなことはおくびにも出さない。長年バーテンダーとして働
いてきた私は、この手の変わった客への対応には慣れている。
店内には彼と私の二人だけ。外では今まさに台風が暴れており、そのせいで客足は遠の
いている。
「では、この台風もあなたが呼んだのですか?」
「ええ、ご迷惑おかけして申し訳ない。台風の時期はなるべく各地を転々とし、一カ所に
被害が集中しないようにしているのですが」
なかなか面白い、ここは適当に合わせてみる。
「では、いっそのこと海外旅行にでも行かれてみては? 台風もまさか外国までは追って
こないでしょう」
「なるほど……それは名案かもしれませんな」
冗談で言ったのだが、彼は私のアイディアに感心したようだ。
ウイスキーを三杯ほど飲み干すと、彼は金を払い出ていった。
「変な客だったな」
掃除をしようと客席を見ると、男はバッグを忘れていた。男を追いかけようと店の外に
出るが、すでに姿はない。
嵐は止んでいた。
男は真面目な顔で語り始めた。
「台風の現地リポートをするあのお仕事ですか?」
「いえ、晴れ男とか雨女ってよく言うでしょう? 私の場合は台風を呼んでしまうんですよ」
「それは大変ですな」
何を馬鹿なと思ったが、そんなことはおくびにも出さない。長年バーテンダーとして働
いてきた私は、この手の変わった客への対応には慣れている。
店内には彼と私の二人だけ。外では今まさに台風が暴れており、そのせいで客足は遠の
いている。
「では、この台風もあなたが呼んだのですか?」
「ええ、ご迷惑おかけして申し訳ない。台風の時期はなるべく各地を転々とし、一カ所に
被害が集中しないようにしているのですが」
なかなか面白い、ここは適当に合わせてみる。
「では、いっそのこと海外旅行にでも行かれてみては? 台風もまさか外国までは追って
こないでしょう」
「なるほど……それは名案かもしれませんな」
冗談で言ったのだが、彼は私のアイディアに感心したようだ。
ウイスキーを三杯ほど飲み干すと、彼は金を払い出ていった。
「変な客だったな」
掃除をしようと客席を見ると、男はバッグを忘れていた。男を追いかけようと店の外に
出るが、すでに姿はない。
嵐は止んでいた。
91 名前:台風・理性・かなりアレ2/3[sage] 投稿日:2008/09/13(土) 20:09:32 ID:ws1M/ng0 [2/5]
そのうち受け取りに来るだろうと思い、バッグは預かっておくことにした。
しばらくして忘れかけた頃、テレビのニュースを観ていた私はアッと驚いた。
「続いてのニュースです。ミャンマーで突如発生したサイクロンにより、日本人男性一名
が行方不明となり……」
映し出された顔写真は彼のものだった。数日後、彼の死亡が確認される。
「まさか、彼は本当に“台風おじさん”だったのか? もしかすると、私があんな提案を
したせいで命を……」
何となく罪悪感を覚える。
そのとき、彼のバッグのことを思い出した。開けて中を見てみると、身元が分かるものも
いくつか入っていた。家はここからそう遠くない。
罪滅ぼしの気持ちもあって、私は家族の元にバッグを届けることにした。
しばらくして忘れかけた頃、テレビのニュースを観ていた私はアッと驚いた。
「続いてのニュースです。ミャンマーで突如発生したサイクロンにより、日本人男性一名
が行方不明となり……」
映し出された顔写真は彼のものだった。数日後、彼の死亡が確認される。
「まさか、彼は本当に“台風おじさん”だったのか? もしかすると、私があんな提案を
したせいで命を……」
何となく罪悪感を覚える。
そのとき、彼のバッグのことを思い出した。開けて中を見てみると、身元が分かるものも
いくつか入っていた。家はここからそう遠くない。
罪滅ぼしの気持ちもあって、私は家族の元にバッグを届けることにした。
郊外の一軒家を訪ねると、一人の男性がドアを開けた。彼の弟で、ここで二人で暮らし
ていたそうだ。事情を話すと快く迎え入れてくれた。
「わざわざご親切にありがとうございます」
「いえ、とんでもない」
見渡すと、室内はかなり荒れている。
「恥ずかしい話ですが、兄が亡くなってからこの体たらくでして」
ていたそうだ。事情を話すと快く迎え入れてくれた。
「わざわざご親切にありがとうございます」
「いえ、とんでもない」
見渡すと、室内はかなり荒れている。
「恥ずかしい話ですが、兄が亡くなってからこの体たらくでして」
92 名前:台風・理性・かなりアレ3/3[sage] 投稿日:2008/09/13(土) 20:12:30 ID:ws1M/ng0 [3/5]
聞けば弟の方は、結婚もせず定職にも就かず、それどころかまともに外に出ることすら
ないというのだ。引きこもりというやつだろう。
「それはいけませんな。お兄さんが亡くなったのだから、あなたも一人立ちしなくては」
「私にできるのでしょうか……」
「もちろんですよ、私でよければ職探しの手伝いくらいはしますよ。そうだ、よかったら
今からお兄さんの墓参りに行きませんか?」
彼は渋っていたが、半ば強引に連れ出した。彼を社会復帰させることでお兄さんに対す
るはなむけとしよう。私はそんなことを考えていた。
地図を見て菩提寺へと向かう。途中、弟は不安そうにあたりを見回している。久方ぶり
の外出なのだろうから無理もない。
しかし、天候が変わり辺りに暗雲が立ちこめてくると、彼は理性を失ったかのように叫
び震えだした。
「ああ! やはり僕には外出なんて無理だったんだ」
「一体どうしたというんです?」
尋常ではない怯え方に、私もさすがに不安になる。その気持ちを代弁するかのように、
空は黒さを増し、ゴロゴロと低い唸り声を上げ始める。
「実は僕はカミナリ親父なんです。僕が外に出ると必ず……」
その刹那、空から降り注いだ光で私の視界は真っ白になり……
ないというのだ。引きこもりというやつだろう。
「それはいけませんな。お兄さんが亡くなったのだから、あなたも一人立ちしなくては」
「私にできるのでしょうか……」
「もちろんですよ、私でよければ職探しの手伝いくらいはしますよ。そうだ、よかったら
今からお兄さんの墓参りに行きませんか?」
彼は渋っていたが、半ば強引に連れ出した。彼を社会復帰させることでお兄さんに対す
るはなむけとしよう。私はそんなことを考えていた。
地図を見て菩提寺へと向かう。途中、弟は不安そうにあたりを見回している。久方ぶり
の外出なのだろうから無理もない。
しかし、天候が変わり辺りに暗雲が立ちこめてくると、彼は理性を失ったかのように叫
び震えだした。
「ああ! やはり僕には外出なんて無理だったんだ」
「一体どうしたというんです?」
尋常ではない怯え方に、私もさすがに不安になる。その気持ちを代弁するかのように、
空は黒さを増し、ゴロゴロと低い唸り声を上げ始める。
「実は僕はカミナリ親父なんです。僕が外に出ると必ず……」
その刹那、空から降り注いだ光で私の視界は真っ白になり……
95 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/13(土) 20:32:02 ID:lBYKN4TD
理性とかなりアレはどこ?
という気はするが、まとまりは上手いね
理性とかなりアレはどこ?
という気はするが、まとまりは上手いね
96 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/09/13(土) 20:47:27 ID:ws1M/ng0 [5/5]
>>95
ああ悪い、「かなりアレ」→「かなり荒れ……」と勝手に変換してた。
>>95
ああ悪い、「かなりアレ」→「かなり荒れ……」と勝手に変換してた。