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「デジカメ」、「灰皿」、「ためいき」

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shoyu

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「デジカメ」、「灰皿」、「ためいき」


61 名前:デジカメ・灰皿・溜め息[sage] 投稿日:2008/09/11(木) 04:20:00 ID:MOhgauKZ [2/3]

デジカメのメモリに残された、家族の写真。
これは父が亡くなった日に撮られた、家族全員が写る最後の一枚だ。
私は父と過ごした、この日の記憶を覚えていない。
あの日、久しぶりに帰省した私を、父と母が嬉しそうに出迎えてくれた所までは覚えている。
しかし、その後両親と何を話して、どう過ごしたのか、私の記憶からすっかり抜け落ちている。
母は混乱する私を気づかって、気丈にも一人で、葬儀の準備から進行までの全てを請け負った。

日々は慌ただしく過ぎ行き、すべてが終わった今、母と私は父の仏壇を前に座り込んでいる。
何もする気が起きなかった。それは母も同じ気持ちなのだろう。
ふと、私は家族の思い出が収められたデジカメを手にとり、メモリを見返す。
もはや戻らない日々の記憶を思い返しながら、メモリを一つ一つ見返していく。
すぐに父の亡くなった日に撮られた、家族が共に写った最後の一枚に行き着いた。
これが最後か。目頭を拭い、デジカメを離そうとしたところで、まだ先があることに気付く。
不可解に思いながら、撮った覚えのない最後の一枚を画面に表示する。

灰皿を父に向けて振り上げる、鬼の姿があった。
いや、鬼ではない。これは、この一枚は……

ふぅ。

かたまる私の背後で、仏壇を前に座り込む母の漏らした溜め息が、嫌に大きく、私の耳に響いた。


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