創作発表板@wiki

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匿名ユーザー

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一回戦 第五試合 ほっしー VS S.ハルトシュラー

作者 ◆WASHIx.sok

「閣下! 閣下! 閣下!」「ハルトシュラー閣下あああああ!!」
「オールハイル・ハルトシュラー! オールハイル・ハルトシュラー!」
「ババア、俺だ! 結婚してくれー!」「ハ・ル・ト! ハ・ル・ト!」

暑苦しい応援のコールが、無機質な天井にこだまする。
yuzuru鯖のお庭に集う男たちが、今回も戦士のような無垢な笑顔で、背の低い幼女を眺め愛でている。
汚れを知らない心身を包むのは、デカい『春』のロリータ服。
鋼鉄の精神は乱さないように、強い勝利への欲求は翻らせないように、しっかり戦うのがここでのたしなみ。
もちろん、敗北ギリギリで走り去るなどといった、ワンパンでのされるタイプのモヒカン雑魚など存在していようはずもない。

S・ハルトシュラー。
享年二歳のこの幼女は、もとは得意の創作の一環でつくられたという外見を持つロリババア系創作家少女である。
創作発表板。
VIPの面影を未だに残している移転の多いこの板で、神と崇められ、小説からイラストまでのあらゆるジャンルがウケられる万能の者。
時代が移り変わり、ハルトシュラーが0歳から2回も歳を取った享年の今年でさえ、
ちょっと気が向けばハイクオリティの世界的名作が名無しで発表される、という仕組みが未だに健在である貴重な存在である。

「ふん……なかなか盛り上がっとるようやないか」

そんな風に神と称される創作者と相対する哀れな対戦者。
かの者も、当然ながらハルトシュラーの評判は知っている。
しかし、彼の闘志は萎えるどころか一層燃え上がっていた。
何故なら彼にはハルトシュラーと因縁があるからである。
激戦区と呼ばれる左下のブロック最初の試合を務める、その男の名は――






                  ____
                /__.))ノヽ
                .|ミ.l _  ._ i.)    「わしや」
               (^'ミ/.´・ .〈・ リ
               .しi   r、_) |
           ,--ーー  |  `ニニ' / ー-、_
          /   /i/ `'`ー―i´ | `ー、_
         /    /  llヽ/ ̄/  |    l
        /  Y L  |,) ∧ノ↑  ,> ィ   |
      /    |ヽ  |,バ  |  7 /  |
     /     .イ| |  |rA,| /  / /   |
    /      / |  |  |gca| |  / /|    )
   /     / /  | .|aAi| | / //    l
   レー-、_ / ̄`__-、__,l Aec.| | / /(     |
  fク´"''ノ_V    `\ノノavkj ̄レ ノ ノ     ノ
  / ,、 i  \      \_,ニコ∠、,≦    ,イ






ほっしーである。
勿論、創発フリークだらけの観客が彼のことを知らないはずがない。


「………………」
「…………はぁ」
「ちょ、お前ら、何やねんそのリアクションは! もっと盛り上がらんかい!」

が、しかし、入場前のハルトシュラーコールと比べ、観客席は確実に盛り下がっていた。
確かに幼女とおっさんとでは、カタログスペックに絶望的な差があると言えよう。
それに、トップクラスの人気を誇るハルトシュラーに匹敵する声援など、トーナメントの他の参加者でも容易に貰うことはできない。

だがしかし、盛り下がっている一番の原因は、そんなことではなかった。
勿論、戦闘スタイル云々などは問題になっていない。
問題になっているのは、ほっしーもハルトシュラーも前回に引き続いての参加者であるということだ。

それは即ち、既に一度『過去の戦績』という形で優劣がついているということである。
勿論今回下克上が起きてもおかしくないのだが、ほっしーにソレを期待している観客などはほぼ皆無だった。
何せほっしーは前大会を初戦で敗退。
それも接戦で惜敗でも激戦の末の敗北でもなく、幼女相手にワンサイドゲームをされたうえでのフルボッコ。
しまいには無様な命乞いをしたうえでの重傷退場である。

そんな光景を生で見せられた者達が、彼に一体どんな期待を抱けるというのか。
正直、猛者がひしめく今大会にエントリー出来たこと自体奇跡だと思われている。
それくらい、ほっしーの立場は悪かった。

「さあほら、わしをもっと奉らんかい! ドリーム・マッチやで!? 創発のアイドル決定戦やで!?」
「やかましいわオッサン!」「幼女相手に醜態さらす程度のカスが閣下に勝てるわけねーだろ!」
「調子乗ってると道頓堀沈めるで!」「ほっしーとかわりとどうでもいい!!!」
「あ、お姉さんビールひとつ」「消化試合なんだからさっさと始めろー!」

ほっしーの飛ばした野次の数倍の野次が帰ってくる。
観客にとって、ほっしーの試合など所詮余興に過ぎなかった。
もっとズバリと言ってしまうと、この試合は単なる前座。
ハルトシュラーの公開ウォーミングアップ。そのくらいにしか観客達は考えていない。

というのも、この試合での勝者は、おそらく第二回戦で前回大会優勝者の加藤キューピーと戦うことになるからだ。
ハルトシュラーが勝ち上がり、リベンジマッチが行われる――そんな展開を、観客達は望んでいた。

勿論、加藤キューピーが負ける可能性はある。
だがしかし、それはそれで面白いことになるのではという予感があった。
前回大会優勝者が初戦で敗れる大波乱と、その波乱で実力を見せつけたダークホース系幼女がハルトシュラーと最強幼女決定戦を行うという展開。
その2つが同時に見られるのなら、加藤キューピーは観客的に負けてもいいのだ。
つまり、マシロと加藤キューピーは、どちらが勝っても観客としては大盛り上がり間違いなしなのである。

が、しかし、ハルトシュラー対ほっしーとなると、どっちが勝ってもOKですなんてことにはならない。
ほっしーには加藤キューピーと因縁なんて何もないため、ハルトシュラーが勝ち上がりリベンジマッチをする展開と比べると、いまいち盛り上がりに欠ける。
更に言うと、愛らしいハルトシュラーの見た目と違い、ほっしーはむっさい中年男性である。
なので、折角マシロが勝ち上がってきたとしても目にやらしい、もとい目に優しい幼女対決にはならない。
エロ展開にしようにも、アグネス乱入間違い無しの絵面である。

要するに、どう考えてもほっしーよりハルトシュラーが勝ち上がる方が見ている方には得なのだ。
ハルトシュラーの応援団が異常に多いのも頷ける。


「今わしを笑った奴、そこ動くなよ! 前歯全部へし折ってる!」

観客席に乗り込もうと駈け出すほっしー。
その腕を抱きしめるようにして、審判が何とか彼をリングの中に留まらせた。

「何でそう血の気が多いんだーっ!? アンタの入場で時間食ってて時間押してるんだぞーっ!
 そろそろ二人に出揃ってもらってゴング鳴らさないといけないし、乱闘とかは勘弁してくれーっ!」
「(わしが乱闘しちゃ)いかんのか?」

だめです。
何とか毅然とした態度で注意していたというのに、なんということでしょう。
辛口でのツッコミは、どこからともなく聞こえてきたよく通る声に遮られました。

「いかんだろう」

その声の主は、いつの間にか舞台の真ん中に立っていた。
別に瞬間移動をしてきたというわけではない。
こっそり入り、誰かを驚かせてやろう、などといったお茶目な行動理由でもない。
煽り合いで皆がほっしーに意識を向けている時に、入場時間が来たからと勝手に入ってきた結果、誰にも気が付かれなかったというだけの話である。

『あ、あーーーっと! 入場! 入場です! ハルトシュラー選手、いつの間にやら入場しておりましたーーーーーーー!』

勿論その名はハルトシュラー。
先述のほっしーの相手にして、創作の魔王様。
彼女が既に居ることに気付いた者が声をあげ、やがてその声は会場中に伝播する。
会場内がハルトシュラーコールに包まれるのに、2分とかからなかった。

「気にいらんやっちゃで……」
「別に気に入られる気もない。だがしかし、一つ忠告しておいてやろう。
 あまり大きな口を叩かない方がいい。己の格を下げるだけだし、品位の程が知れてしまうぞ?」

大音量のハルトコールに掻き消されそうなその声を、ほっしーの耳は一応しっかり拾っている。
戦場で慌ただしく指示を出しながら報告を聞くという《監督》の職業柄、どんな場面でも自分宛ての言葉は聞き逃さないのだ。 

「そういう所が気に食わんのや。小難しい喋り方しおって……
 もっと簡潔に言う事はできんのか? シンプル・イズ・ベストやで」
「良いことを言うな。シンプル・イズ・ベスト。その通りだ。
 ならばこそ、歓声だってシンプルな手段で貰えばいいだろう?」

そう言うとハルトシュラーはほっしーに背を向けて、観客席へと視線を送る。
すると視線の先にいた一段が、一際大きな歓声を上げる。
やれ自分に向けられただの、やれハルトさん可愛いっすだの、ロリコン共は好き放題のたまっていた。
それを無視して再びほっしーへと向き直り、ハルトシュラーは不敵な笑みを湛える。


「私は今、顔を客に向けることで歓声を創った。
 先程は、適切なタイミングで煽り合いに割り込むことで、そちらに夢中な客の意識と声をこちらに向けさせてもらった。
 ――言葉で説得するなんて、それこそ煩わしいだろう?」
「……ふん。過去の人気を利用しただけの奴が偉そうに」
「否定はせん。だが、そんな過去の産物は、“今”の偉業の前では容易く崩れ去るだろう。
 歓声が欲しければ、実力と行動を持って奪えばいい。その方がよりシンプルだろう?」
「なるほどな、その通りや」

不敵な笑みには不敵な笑みを。
笑い返したほっしーが、臨戦態勢を取る。
それを見て、慌ててよし子が間に入った。
何の因果か、彼女はこの試合で審判を務めることになっている。

「ちょ、お前ら勝手に始めんなーっ! 一応これはルールに則った試合なんだからなーっ!?」

些細なボケも見逃さずツッコむ目敏さを買われ、何故か審判にさせられたよし子。
最初は猛反対していたし、今も乗り気ではないのだが、始まってしまった以上仕事はきっちりこなすつもりだった。
自分の感情で、大舞台を台無しには出来ない。
そういう真面目で常識人な所も、審判という面倒な役をを押し付けられた所以か。

「ふん。ならさっさとゴング鳴らせ。その小娘がやったのよりも速く、この会場をわしコールで埋めたるわ」
「ほほう、それはまた大きく出たな。先のコール強奪は、2分とかかってなかったが?」

互いの顔を見据えながら、互いに一歩ずつ歩み寄る。
先に行われた2試合の開戦時に倣った距離で双方ともに足を止め、開戦の合図を待った。

「二人とも準備はいいかーっ!?」
「安心せぇ。この試合には2分もいらんわ」
「それは困るな。せめて2分は持っていてもらわないと、ウォーミングアップにもならない」
「はあ? 頭ン中まで退行したんか? 負けるのはお前さんの方やで?」
「聞けよ人の話ーっ! ちゃんとゴングは聞いてくれなきゃ困るからなーっ!?」

必至に己をアピールするも、どうやら徒労になりそうだとよし子は気付く。
諦めたように解説席へと視線をやり、アンテナさんが頷くのを確認すると、そのか細いてを高々と上げた。
もうこの際さっさと試合を始めるのが得策だと判断したのだ。
よし子の声が、会場へと響き渡る。

「それじゃあ――――ファイッ!」
手を振り下ろすとほぼ同時に、バックステップでよし子は舞台の中央から去る。
本来なら審判は、至近距離にいるべきだろう。
だがしかし、何せこれは超人揃いの創発最強トーナメント。
至近距離をうろついていては何時巻き込まれてKOされるか分かったものではないのだ。
よし子も目敏さには自信があったし、この距離ならば反則行為もしっかり見られると判断したうえでの撤退だ。

邪魔な審判が離れるのを横目で確認したほっしーが、獰猛な笑みを浮かべる。


「安心せぇ。ウォームアップは必要ないで。何せここで負けるんやからなァァァァーーーーーーーッ!」
『な、なんとォ!? は、ハルトシュラー選手が背後を――!』
「早々に休ませたるわ! わしに感謝してええで!」

実況のアンテナさんが思わずその身を乗り出す。
ほっしーはその無駄に靭やかな体躯をもって、いとも容易くハルトシュラーの背後を取った。
そして勿論、背後を取ってはいおしまい、なんてことにはならない。
ハルトシュラーの小さな背に、無骨な拳が一発、また一発と叩き込まれ――

『な、なんということでしょう!』

――なかった。
ハルトシュラーは背後を取られながらも、舞でも踊るかのように軽やかに身を翻し、迫り来る拳を全てかわしている。

『ハルトさんは、享年二歳とされながらも、数多くの作品を世に出しています。
 個々の高いクオリティにばかり目が行ってしまいがちですが、創作速度もかなりのもの……
 多くの作業を並行してやる機会も多々あったのでしょう。
 それも、ただ並行するだけでなく、クオリティも落とさずに超速で仕上げる超人的技術です』
『つ、つまり……どういうことですか?』
『ハルトさんは、速い。どの創作人よりも。つまりはそういうことですよ』
『なるほど……速さにも定評のあるハルトシュラー選手にとって、ほっしーの攻撃を捌くくらい難ないと』

実況席でハルトシュラーの速さについての解説が行われているその間も、ほっしーの猛攻は続いている。
そのことごとくが空を切っているのだが。

「このダンスも少々飽きた。終いにしよう、バ監督」

ハルトシュラーが始めてその手をほっしーへ向ける。
まるで撫でるかのように迫り来る拳に触れ、その軌道を軽く逸らす。
そしてそのまま一歩踏み込み、空いていたもう片方の手で掌底を叩き込んだ。

「うわらばっ!」

デタラメな軌道の回転を空中で披露した後、ほっしーは壁へとダイブした。
もくもくと派手な土煙が上がる。
場内に響く歓声が、一際大きなものになった。


『決着ゥゥーーーーー!! 下馬評通り、ハルトシュラー選手が二回戦にコマを――』
「貴様の拳は軽い。誇りも、信念も、何もない。そんな風だから北京で失態を起こすのだ」
『――はれ?』

興奮気味に勝者の名を叫んでいたアンテナさんが、間の抜けた顔で言葉を止める。
ハルトシュラーは悠然と会場を去ると思っただけに、正直予想外であった。

「貴様の監督としての腕も、貴様の部下達の実力の程も高が知れるな」

会場内がざわつき始める。
敗者に鞭打つその姿は、普段のハルトシュラーからは想像し難いことだった。

『これは、挑発……ですかね? 解説の柏木さん』
『ええ、おそらく。らしくないですが』

実況席の二人にも、その真意は分からない。
挑発とは、向き合っている相手に対して何らかの意図をもって行われるものである。
ダウンした相手にやるのは単なる不敬行為に過ぎない。
故に二人は訝しむ。
二人にとって、既に勝負は決着しているものだから。

「お前さん……今……なんつった?」

だからこそ、土煙の向こう側でほっしーが立ち上がっていたことに、実況席は口をあんぐりさせることしか出来なかった。
ハルトシュラーとは違い、完全に防いだわけではないらしい。
下品にも血の混じった赤い唾を床へと吐き捨てていた。
そして、そんな状況ではあるものの、ほっしーは確かに戦意も健在で立っていたのだ。
これに一番驚いたのは、会場のお手伝いボランティア達だろう。
誰が掃除すると思ってんだコノヤロー、と。

「あの阿呆共を何と罵っても構へん……しかしわしを馬鹿にすることは許さへんでェェェェェェーーーーーッ!!」
『まあ、そうでしょうね……』

ツッコム気も起きないという風に呟く柏木。
解説として出典スレ全てを見ている柏木にとってこのリアクションは十分に予想しうる範囲であった。
むしろ、「仲間を悪く言うことは許さん!」などと言い出したら、それこそ「そっち!?」とツッコミそうなくらいである。

『ま……ま……』

一方のアンテナさんは、口をパクパクさせていた。
衝撃ですぐには言葉を発せられなかったが、それでもツッコミを入れずにはいられない。
改めて、叫んだ。

『真っ赤だァァァァーーーーーーーッ!?』

砂煙の向こうから現れたのは、全身赤く染まったほっしー。
公衆の面前で罵られた羞恥や怒りでああなったわけではないだろう。
もしそれで赤くなるなっただけだとしたら、角が生えているのはおかしい。

『いや、他の理由だとしても角生えるのはおかしいよ!?』

……地の文にツッコミを入れないで下さい。


『ほう……あれは……』
『知っているんですか柏木さん!?』
『前大会のほっしー選手のやられっぷりと、周知されているハルトさんの強さ。
 その二つがあるため、先の一撃でケリがついたと思い込んでいました……
 しかし先入観抜きで、資料のデータのみをソースに分析してたら、こうなることは読めていたでしょう』
『はあ……?』

苦々しげに呟きながら、柏木が資料をめくる。
アンテナさんは間の抜けた顔でそれを眺める以外に出来ることはなかった。

『前回大会時は監督として指示を出す一般人の立場でだったほっしー選手ですが……あの頃はまだ、スレが1巡する前でした。
 即ち、ここにいるほっしー監督とはほぼ別物。そしてここにいるほっしー選手は、現実の星野監督ともまるで違う。
 選手の育成そっちのけで自ら肉弾バトルを行う、正真正銘の戦士っ……!』

そう、ほっしーは2大会連続出場にして2大会連続同じスレ出典。
だがしかし、厳密に『出典作品』を問うと、『初代わしスレのほっしー』と『二代目わしスレのほっしー』という違いがあるのだ。
今回のほっしーは、一巡した世界――剣と魔法のファンタジー世界のような世界観(仙と魔星野ファンわしー)出身。
それは即ち、前回と比べ戦闘力の大幅な上昇を意味しているッ!

『最初はまだ選手育成をしてましたが、京都での戦い以来、パーティを自ら分断し肉弾戦を行ってばかりのようです。
 それで、閣下の攻撃にも耐え得るだけのレベルを身につけたのでしょう。
 住人からも、すっかり肉体派として認知されているようですし』
『は、はあ……それは分かりましたが、それが全身赤くなるのと何の関係が?』

ついでに補足しておくと、ほっしーが肉弾戦した相手には、スピード自慢がやたらと多い。
高速で動き素早く弾幕を放つ梵永琳、硬さと破壊力と機動力を兼ね揃えたテッカマン、
やらかさなければ走攻守兼ね揃えたゴッツとその相方であるグッチ、変な化物のラダム――
その他諸々、ほっしーの相手はとにかく速さが売りの奴らが多かった。
故に、ハルトシュラーの高速カウンターにでも自然と体が反応し、衝撃を僅かにだが殺していたのだ。
わしスレではほぼ全勝している戦績は伊達ではないッ。

『その京都での戦いで披露した必殺技――それが、これなんですよ。
 安価で発動させた一回きりの技なので、てっきりもう死に設定だと思っていたんですが……』
『なんかもう、安価スレってなんでもありですねぇ……』

そう言って、手元の参加者リストに目を落とす。
なるほど、安価スレは何でもありだ。
そう思わせてくれる名前がここに散見される。ビッグペニスとか。

『……って、言ってる間に何だかよく分からないことになっております!
 こ、これがよくある「早すぎて見えない」というやつなのでしょうかぁぁーーー!?』

参加者リストから正面へと移されたアンテナさんの視界には、ハルトシュラーしか映っていない。
せわしなく動かされるハルトシュラーの両腕と、何かがぶつかる音から、未だに戦闘中であるということはアンテナさんにも理解できた。

『でしょうね。ほっしー選手は、全身赤くなることで身体能力を三倍にすることができる。
 通常時でもスピードタイプの選手とタメを張れるその素早さも、だ。
 さっきまでは余裕で回避していたハルトさんが、今度は一々攻撃を腕で捌いていることからも、その速さが上昇していることは分かるでしょう』
『つまり、ギアセカンドや界王拳に相当する技である、と?』
『そうなるね。この技術に名前があるのかは知らないが、人はこの状態のほっしー選手をこう呼ぶらしい。
 ――赤い彗星野ワシャア、と』

柏木がそう呟くと同時に、ハルトシュラーが吹き飛ぶ。

『い、一体何が……』
『ふむ。敢えて連打を捌かせて、足使いを誘導する。
 そして開いた股をスライディングでくぐり抜け、一気に背後を取った。
 まあ、そんな所でしょう。そうやって無防備にした相手に対して渾身の延髄斬りと』

再び観客席とステージとを仕切るリングの壁に選手の体が激突した。
そして巻き上がる土埃。
吹き飛ばされた者こそ違えど、そこの展開は同じだった。
そしてやはり、先程と同じように、土煙の向こうにあるのは倒れ伏した選手の姿ではなかった。

「なるほど、少しは楽しめそうだ」

一時のみほっしーへと向けられていた歓声が、ハルトシュラーのものへと変わる。
ダメージを受けた様子の先のほっしーとは違い、ハルトシュラーはダメージを受けた様子ひとつ見受けられない。
首を軽く鳴らしながら、不敵な笑みを浮かべている。

観客が尊敬する対象が、再び相手に移ってしまった。
そのことへの不快感を露骨に顔に出しながら、下品だろうとおかまいなしに、ほっしーは指を突き立てる。
立てられた指は、勿論ど真ん中の指。
とても指導者のやる行いとは思えないが、その辺は気にしたら負けである。

「やかましいわ。お前さんは、わしを捉えることも出来ずに死ぬッ!」
「やれるかな? 決定力のない貴様に」
「ほざけ! なら、とっておきの拳法でお前さんを地の果てまで殴り飛ばしたるわ!」

言うが早いかほっしーは腰を低くし、自身の両掌を開く。
肘を限界まで下げ、片足を一歩下げる。
何のポーズか分からないが、それが攻撃体勢であることはその場の誰もが理解できた。

当然、ハルトシュラーも理解している。
いつものように優雅に佇まいながらも、ほっしーの一挙一動を見逃さぬようその眼に神経を集中させていた。

どちらも臨戦態勢。
おそらく勝負は一瞬。
ほっしーが仕掛け、それをハルトシュラーが捌けるか否かが勝敗を分ける。
先のスピードを上回る攻撃だとすると、瞬き一つしている間に全てが終わっていてもおかしくはないだろう。
だからだろうか、先程から観客席は静まり返り、口の代わりに目を思い切り開いていた。

そんな緊張感のせいで、アンテナさんは空気を実況を止めてしまっている。
別に実況の仕事を忘れてしまったわけではないが、なんとなく、この張り詰めた空気の邪魔になりかねない行いはしてはいけない気がした。
ごくり、とアンテナさんが唾を飲む音がマイクを通して場内に響き渡る。

それを合図に、ほっしーが動いた。
力強く一歩踏み込み、そして――

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