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一回戦 第十三試合 無限彼方 VS 一条彼方

作者 ◆6US8U1tkPE

創発最強トーナメント、第13試合。
「ふぅ……参ったなー」
足元に転がった数体のクリーチャーの死骸を乗り越え、その完璧なボディラインを誇る三編みの十四歳、一条彼方はため息をついた。
歓声の飛び交う闘技場。そのリング内で対峙していたおかっぱ頭の和装の女は、作り物のような美しい面に微笑を作る。
「さすがに亜煩では役不足でしたか」
奇しくも一条彼方と同じ名前を持つその対戦相手、無限彼方は、着物の袖から新たな呪札を取り出し、宙に放った。
「来なさい。猿参」
無限彼方の声に合わせて、札から黒い濃霧が噴き出す。
――まただ。
こんなの不公平だ、と髪を弄りながら一条彼方は胸中で吐き捨てていた。仮にも武器使用禁止を謳うなら、あの召喚札は取り上げるべきだろう。
こちらはこうして手ぶらで試合をしているというのに。
まあ姉はステッキ持参を認められたらしいが。大方お子様だから大目に、みたいなノリで許されたのだろう。まさかこんな所で自分の美女オーラが裏目に出るとは。
霧の中から現れた巨大な猿は、野太い咆哮を上げながらこちらへと突進してくる。
とはいえ正味問題はなかった。足元を流れる地脈からマナを器用に収集し、一条彼方は掌を猿参に向けた。
「ブチ抜け」
圧縮されたマナは純白の熱線へと姿を変え、耳障りな雄叫びを上げ続けていた巨大な猿の頭部を跡形もなく消し飛ばしていった。光は天井に激突し、会場を揺らす。
白燐超高熱兵器の真似事に、周囲の観客は無邪気に沸いているが……。
仮にもロボスレキャラが、まさかこんな魔法使いじみた戦闘スタイルを披露する羽目になるとは。
屈辱である。
しかし、なりふり構ってはいられない。
――ハル姉ぇの敵は、私が全部倒す。
消耗戦では分が悪い。無限彼方本体の戦闘能力が皆無なのは、これまでの経緯から見ても確定的である。
「死んでも恨まないでよ」
生身の人間相手には過ぎた火力だが、いつまでも茶番に付き合ってられるほど一条彼方の気は長くなかった。
無限彼方の掌に収束したマナが、レーザーとなって射出される直前。
「来なさい。影糾、練刀」
新たな札を放った無限彼方の呟きの直後、一条彼方の身体は自由を奪われた。
「な……?」
「一応説明しておきましょうか。私たち無限は『寄生』と呼ばれる存在を討伐することを使命とする一族です」
歌うような軽やかな口調で、無限彼方は続ける。
「私が先程から使役しているのは、姉である無限桃花がこれまでに封印した寄生です」
呪札から現出したのは、左右一対の刀剣を握った黒ずくめのゴスロリファッションスタイルの少女である。
「そしてこれが、姉の討伐した中で最強の寄生、影糾です。一定時間、敵対者の一切の動きを封じる特性を持っています」
頬に手を当てながら、和服の美少女は嘆息した。
「本当はもっと後の試合まで残しておきたかったんですけどね…まあ仕方ありません。姉さんとぶつかるまで、負ける訳にはいきませんから」
――負けるわけにはいかない。
「それは……」
マナで強引に身体を強化し、一条彼方は動き出した。身体の上げる無言の悲鳴にも構わず、彼女は最強の寄生に飛びかかる。
「こっちも、同じ!」
双剣から繰り出された影糾寄生の斬撃を、局所的に発生させたマナの障壁で弾き飛ばす。
得意の寝技に持ち込む余裕などない。強化した貫手で影糾寄生の首に問答無用で大穴を開け、すり抜けざまにその奥にいた無限彼方の眼前に迫る。
「これで――」
「終わりみたいですね」
こめかみに拳を打ち込むのと同時に、無限彼方の華奢な身体は弾丸のような速度で会場席の一角に突き刺さっていた。
「……痛った~……」
力の抜けた拳の骨は砕け、無理やり動かした足も尋常でない痛みを訴えていた。視界も揺れ、意識は朦朧としている。
――こりゃ、次は無理かな。
「……負けんなよ、ハル姉ぇ」
観客席で口元に手を当てながら、目を大きく見開いている小さな姉に拳を向け、一条彼方は満面の笑みを浮かべた。
そして瞼を閉じた彼女は、砂のリングの上に無言で倒れるのだった。

第13試合 試合後

作者 ◆1m8GVnU0JM

 試合後――――

「彼方……大丈夫?」
 医務室のベッドに横たわる妹に、一条 遥は声をかける。
 戦いに敗北した彼方の身体はぼろぼろで、特に腕はひどいありさまだった。

「ぐへへへ……もう……食べれないよ……ハル姉ぇ……」

 ……本人は全然大丈夫そうだが。

 ――――まったくこの子は、心配かけさせて。

 ほっと胸を撫で下ろし、妹の黒髪を撫でる。幸い顔にはあまり傷はついてなかった。可愛い顔に傷がつくのは非常によろしくない。

「ほんと、よかった……」

 刹那、彼方がゆっくり目を開く。

「あれ……ハル姉ぇ……」
「おはよう、カナ……負けちゃったね」
「あれ、そうだっけ……あー、なんか記憶が曖昧で……」

 彼方が眉間を押さえた。途端、涙が彼方の頬に道を作る。

「……ごめん、ハル姉ぇ、負け、ちゃった……」

 鳴咽を堪える彼方を、遥が優しく抱きしめた。

「負けてもいいんだよ、カナ。負ける事は悪い事なんかじゃない、負けて、そこで停滞しちゃう事がいけない事なんだ」

 「だから」遥が彼方の顔を自分の胸に押し当ててやる。

「今はいっぱいいっぱい、たくさん泣いて、それから……頑張ればいいんだよ」
「ひっぐ、ふぇぇ……お姉ちゃぁぁぁぁぁん」
「よしよし」

 幼い子供のように泣きじゃくる彼方の背中を、幼い子供のような背格好nジョインジョインハルカァ 母性に溢れる笑顔で、遥がさすってやる。
 背が大きくなっても、胸が大きくなっても、どれだけ時間が経っても変わらず自分に甘えてくれる妹を、遥は愛しく思った。
 そのおり、だ。誰かが部屋に入ってきたのは。
 遥が客人へと視線を巡らせる。そこにいたのは、

「あ。あなたはさっき彼方と戦った……」
「無限彼方です」
「そうそう、無限彼方ちゃん。どうしたの?」

 ゴスロリファッションスタイルの少女であった。
 無限彼方を、涙を拭いながら一条彼方が睨みつける。

「……なに、私になんか用? もう試合は終わったんだから、次の試合の準備でもしてくれば?」

 しかし無限彼方は、一条彼方に無言で手を差し出した。

「な、なにさ」

 無限彼方はゴホンと一回、咳ばらいして、

「いい勝負だったから、握手をしてこいと、姉が……」

 ちょっと恥ずかしそうに、視線を逸らした。

「ああ、そういうこと、ふーん」

 差し出された手を握る寸前、中指で彼方が彼方の手を弾く。

「拒否」
「な……っ! このやろう、生意気な奴」
「あー! キャラ変わった! それが素か! それが素か! やーい、ネコ被りー!」
「世の中を生き抜くためにはネコを被る事も必要なんだよばーかばーか!」
「馬鹿って言った奴が馬鹿なんだよばーかばーか!」

 子供っぽい罵倒の応酬を聞きながら、「妹ってみんなこんなものなのかしら」と遥が胸中で呟く。

「大体あたし負けてねーし! 試合には負けたけど、勝負には負けてねーし!」
「はぁ!? それは一体どういう――――」
「自分の胸に手を当ててみれば?」

 無限彼方が自分の胸に手を当ててみる。も、さっぱり意味がわからない。
 が、その意味はすぐにわかった。視線を胸から戻すと、一条彼方も自分の胸に手を当てていた。そしてドヤ顔でこう言ったのだ。

「ほーら、勝った」

 と。

「そっ……そのうち大きくなるんだよ! そのうち!」
「そうだよね彼方ちゃん! 希望は捨てちゃ駄目だよね!」
「そうそうそうそう!!」

 遥と彼方が、がっしりと手を組んだ。貧乳連合誕生の瞬間である。

「ちょっとハル姉ぇ、どっちの味方なの!?」
「私は常に小さい者の味方だよ!」
「くっ……エンフィールド先生の邪気にあてられたか……!」
「ふふふ……これで2対1だけど、どうしますか?」
「いきなりキャラ戻すなちっぱい」
「カナ! 小さ……控えめな胸を馬鹿にするのはお姉ちゃんが許さないよ!」
「わかった! わかったから! ……やい、無限彼方」
「なに? 一条彼方」

 むすっとした顔で彼方を呼ぶ彼方と、むすっとした顔で彼方を見る彼方。

「……あたしを負かしたんだから、せめて準優勝くらいはしてよね」
「当然」

 二人の彼方は掌を打ち付け、微笑んだ。

 しばらくして、医務室を出ていく彼方の背中を見、彼方が静かに呟く。

「……あんたは勝ちなよ、お姉ちゃんに」











「ところでカナ、今ハイタッチしてたけど、さっきの試合の怪我はもう大丈夫なの?」
「え? ……あ」

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