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【mitemite】過去創作物を投下するスレ【見て見て】

1 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 20:40:55 ID:Hr10WRVK
「以前投下した作品だけれど……改めて誰かに見てもらいたい!」

以前投下したあんな作品やこんな作品を、改めて投下するスレです。
小ネタ大ネタSS絵立体その他もろもろなんでもあり。

過去に埋もれた自信作に、今、新たな光を――!

尚、新作はここではない適切なスレに投下してやってください。
おながいします。

2 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 20:42:50 ID:n60AOqKr
超期待待機

3 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 20:52:55 ID:N+RUIRTu
トップバッターは俺の作品じゃ!

・・・や、やっぱやめとく
誰か頼む〜!

4 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:11:17 ID:M/qorQvt
ジャーンジャーン 甘寧一番乗り!
これなんて羞恥プレイだが気にしないで行くぜ
別板でむかーしに投下した奴



通勤の途中に公園がある。
幾ばくかの近道になるので、そこを通らせてもらっている。
帰りは中の自動販売機でジュースを買うのが習慣となっている。
最近はめっきり寒くなったので缶コーヒーに変わった。
いつも通りに販売機の前で一息つくとベンチに座っている少女が見えた。
こんな時間にひとりで?と思ったが、塾通いの子もいるし
そんなに訝しがる事も無いか、と別段気にしなかった。
しかし少女が目に止まった次の日も、そのまた次の日も、またまた次の日も
そこのベンチに座っているのを見て、多少は興味が出てきた。
販売機の場所からは俯き加減で顔はよく見えないが
少女はいつもそこに微動だにせずベンチに座っていた。
自動販売機のHOTの欄が一周した時、思い切って声をかけてみた。
少女は声をかけられて私の方を一瞥したが、興味無さそうに横を向いた。
なるほど少女にしてみれば私は一見の不審者である。
警戒するのも無理はないのであろう。
その日はお近づきの印として、缶コーヒーを少女の側に置いて早々に退散した。
次の日も、そのまた次の日も、またまた次の日も、私は少女に声をかけた。
しかし少女は関心をしめさない。いつも俯き加減で座っている。
こうなれば根比べである。私と少女の戦いである。
どちらが先に折れるか、プライドをかけた戦いである。

5 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:11:50 ID:scCfZiuQ
自薦だと怖いもんだな

6 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:12:21 ID:M/qorQvt
缶コーヒーを二桁ほど置いたであろうか、毎日続く私の儀式に、ある日少女は呆れたように呟いた。
「いい加減しつこい、何様?」
季節を象徴するかのような凛とした声、こちらを向いた顔は中々の器量である。
私は興味を持ってくれた事を嬉しく思い、はにかみながら答えた。
「いや会社帰りに、ここでいつも座っているのを見かけてね。何してるのかなと。」
「そんな事アンタに関係ないでしょ。」
最もな意見である。しかし袖擦りあうも多少の縁という言葉がある。
「まあそうなんだけど、ちょっと声をかけてみたくなってね。隣座っていい?」
返事が無いが拒否の意思が感じられなかったので、私は側に座る事にした。
「いや寒いね、最近はめっきり寒くなってきたね。」
「・・・・・・」
「いつもこんな時間に座っているけど、誰かと待ち合わせ?」
「・・・・・・」
側で話そうとするが相変わらず無言のままだ。
暫く話しかけても反応が返ってこないので切り上げることにした。
「じゃ、また。風邪引かないようにね。」
そう言って私は少女に別れを告げた。
次の日から帰りは少女の側で話しかけるのが日課となった。
相変わらず返事はないが、一応私の話は聞いてくれてるようだった。

7 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:13:03 ID:M/qorQvt
あくる日の朝、やけに寒いと思ったら雪が降っていた。
風は強くないが空から降ってくる雪は、寒さの厳しさを感じさせるのに十分だった。
さすがにこんな日はいないだろうと帰りに公園に寄ったら
いつも通りに少女はそこにいた。
「驚いた、こんな日にいるとは。」
「そんな事アンタに関係ないでしょ。」
「こんなに寒いのにじっとしてたら風邪引くぞ。」
そう言って私は少女に自分のコートをかけてやった。
少女はキョトンとした顔で私を見て言った。
「何やってるの?」
「何って、寒いと思ってコートをかけてやった訳だが。」
「アンタコート脱いで寒くないの?」
「いや寒いけど、君が風邪引く方が心配だね。」
そう答えると、少女は柳眉を歪めて言った。
「はぁ?アンタ馬鹿じゃない?見ず知らずの人を何で気にかけるのよ?」
「いや毎日会ってるから見ず知らずじゃないし、それにいつも話してるじゃないか。」
「アンタが側に座って一方的に喋ってるだけでしょ!」
少女は怒気をあらわにして言った。怒りのせいで顔が真っ赤だ。
むぅマズイ、昔からディベートと反論は苦手である。ここは退散する事にしよう。
「いや家ココから近いんで大丈夫。君こそココにいると風邪引いちゃうよ?
 次に会った時返してくれれば良いから、じゃあね。」
「あ!ま、待ちなさいよ!」
三十六計逃げるにしかず、くわばらくわばら。

8 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:14:21 ID:M/qorQvt
翌朝目覚めると体がダルかった。まさかとは思ったが風邪を引いたみたいである。
上司に電話をして、病院に行くことにした。
診断はインフルエンザ、何という事だ
医者が言うには、入院の必要は無いが暫く安静にしろとの事である。
事情を説明して溜まっていた有給を使うことにした。上司は仕方がないなと許可してくれた。
こういう時に一人身は辛い。咳をしても一人である。
全快するのには片手の指を折り返すほどの日を要した。
健康というのは良いものである。職場の皆に頭を下げ、職務を再開した。
そして帰りに公園に行くと、相も変わらず少女がそこにいた。
近づいて声をかけようとしたら、逆に少女の方からかけてきた。
「遅かったじゃない。」
思えば少女の方から声をかけて来たのは、これが初めてである。
私は下らない事に嬉しくなり、顔を緩めて答えた。
「いや風邪引いちゃってね。引継ぎ等で色々あってね。」
そう答えると、少女は柳眉を逆立てて言った。
「だから言ったじゃない!アンタが風邪引いてどうするのよ!?
 私の事なんかほっといてくれれば良かったのに!バッカじゃない!?」
「いやゴメンゴメン、悪かった。次から気をつけるよ。」
私はそう言って側に座った、少女は変わらずまくし立てる。その日から話し役と聞き役が逆転した。
公園に行くと少女がいる。少女は私を見つけると側に座るように言う。
そしていかに私が馬鹿なのか延々と語る。私は相槌をうって話しに耳を傾ける。
そんなのが日課となった。

9 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:15:06 ID:M/qorQvt
そうして彼女の罵倒にも慣れたある日、私は彼女に言った。
「こうして話していられるのも今日が最後かもね。」
「・・・・・・どういうこと?」
「いや、この間転勤が決まってね。引っ越すことになったんだ。」
「はあ!?あんたソレOKしたの?」
「入社の時に転勤OKの条件があるからね、断れないよ。」
「はあ!?あんたバカ?そういうのを組織の歯車っていうのよ!」
彼女はまるで自分の事の様に怒っている。私は微笑んで言った。
「ありがとう。」
「え?」
彼女は面食らったようだ。
「いや自分の為に怒ってくれるなんて、家族がいたらこんな風に親身になってくれたかな、と。」
次の瞬間、彼女は真っ赤になって叫んだ。
「ば、ば、ば、バッカじゃないの!?そんな考えだから体よく利用されちゃうのよ!」
罵詈雑言が私にむかって次々に飛んでくる。私は適当に相槌をかわした。
しばらくして語彙が切れたのか、彼女が無言になった。
そして、私の方を一瞥して呟いた。
「・・・・・・また、帰ってこれるんでしょ。」
どうだろうか。一応上司の話では二、三年で戻ってこられるという話だが。
「帰ってこれると思うよ、多分。」
「・・・・・・多分じゃ駄目、約束しなさい。」
「わかった、約束する。必ず帰ってくるよ。」
「絶対よ、女の子との約束やぶる甲斐性無しは許さないから!」
そうして、彼女とベンチを後にした。
そして、戻ってくるのには五年の歳月を要した。
ニ、三年で戻ってくるというのは出来なかったが、とりあえず帰ってこれたのである。
彼女は今もいるのであろうか。私はすぐに公園へと向かった。
五年経って来て見れば、公園は様変わりしていた。
住宅事情なのか知らないが、前より狭くなっていた。
そして、彼女と座っていたベンチも撤去されていた。
その日は半日待っていたが、彼女が来る気配は無かった。

10 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:15:45 ID:n60AOqKr
支援

11 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:16:15 ID:M/qorQvt
私は今日会うことは諦め、アパートへ戻ることにした。
アパートは、前にここに住んでいた時と同じアパートにした。
そうすれば帰宅途中に、また公園を通る事が出来るからである。
私は入居の挨拶の為、管理人に会った。
管理人は私の名前を聞くと、奥からコートを出してきて尋ねた。
「これ、もしかしてあんたのコートかいのう?」
驚く事に、私が少女にかけたコートである。
そういえば貸していた事をすっかり失念していた。
「確かに私の物ですが、どこでコレを?」
訝しがる私に管理人は話してくれた。
区画整理があった時に、公園から多量の缶と一緒にコートが出土されたそうである。
工事業者がコートを探ると、レンタル店の会員証があったので
そこにあった住所を辿って届けてくれたそうである。
そういえば中に入れたままかけた様な気がする。親切な人も居たものである。
「一応、人の物だからと言って届けてくれましてのう。そんときはすでに
 あんたが転勤した後でのう。連絡先がわからんから預かっていたんですわい。」
なるほどそういう事か。どうやら彼女は待ちあぐねて公園に私のコートを捨てたようだ。
彼女には悪いことをしたな。
「それにしても不思議な事もあるのですのう。」
「何がですか?」
「ベンチを撤去する時に発見されたんですが、掘り返した後が無かったとのう。
 それに、埋められたのに綺麗過ぎると言っていましたのう。」
「・・・そのベンチはどこへ?」
「さあそこまでは・・・。老朽化していたし、廃棄されたのかもしれんのう。」
「そうですか・・・。」
私は管理人に礼を言ってコートを受け取った。

12 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:16:15 ID:Hr10WRVK
支援

13 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:16:28 ID:n60AOqKr
支援

14 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:17:10 ID:Zl1dDMUu
期待

15 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:17:12 ID:Hr10WRVK
支援

16 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:17:15 ID:n60AOqKr
 

17 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:17:59 ID:n60AOqKr
 

18 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:18:18 ID:Hr10WRVK
風来の

19 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:18:37 ID:M/qorQvt
そして次の日から公園で彼女を待つことにした。
しかし次の日も、そのまた次の日も、またまた次の日も彼女は現れなかった。
公園は有る。私はいつもそこを通って帰る。ただ彼女と座ったベンチが無い。
しかし私は彼女を待ち続ける、彼女がそこに居たように。
そうすれば、彼女と会える日が来るかもしれない。
私がしたように、缶コーヒーを手に持って
「あんた何ボサッとしてるの?こんなに寒いと風邪引いちゃうわよバカ!」
と―――。



以上、投下終わり
コレ投下したときはスルーされた事を思い出してうわあああああ
さあ他の人、黒歴史カモン!

20 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:18:40 ID:n60AOqKr
シレン

21 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:19:32 ID:n60AOqKr
ちょ、ちょっと待ってくれ!w
読むからww

22 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:21:14 ID:Hr10WRVK
いやー、いいんじゃね? っていうかむしろいいよ、うん。
なんか途中転勤するくだりはグッときたわ。
終わり方がかなりせつないっす。

23 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:35:23 ID:17tJNjEQ
こういう無常感を感じさせる話は好き
刹那的な人間関係はなぜか惹かれるものがある

24 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:49:33 ID:n60AOqKr
>>4-19
読んだー
そして言い忘れてたので、

投下乙!

序盤に不思議な雰囲気がするなと思ってたけど、最後まで読んで合点がいった
ツンデレ少女とのラブコメなのかと思ったけど、やっぱりそうじゃなかった、
っていうのが読み終わった時のそのまんまの気持ちかな
なんだろう……読み終わった後に、季節を感じたよ
けれど、それは単純に「冬」ってだけじゃなくて、
これから寒くなっていく秋から冬にかけてのどっちとも言えない時期ね
しかも、これからどんどん寒くなっていく訳だし、
それとも合わせて男が待ち続けるっていうのと合わせてかーなり季節を意識する作品だった
再投下っていうことだけど、丁度今の時期とも近いから余計にそれを感じたわ

二回読んで、ちゃんとオチまで考えて書き出してるなぁってわかった
まず、少女がベンチに座り続ける理由を説明してないのもそうだし、
男がボロクソに言われても怒らない、っていうのも複線の一つだったりしない?
なんつーか、心の動きが妙に穏やかなのがちょっと気になったんだよね
それは、対話じゃなく独り言みたいなもんだからかなぁ、と
つまり、男は会話を望んでいたのではなく、その場の空気が好きだったんじゃねーかな、と

最後に「出土」って所でやられた
少女は、自分がどうなるかをわかっててそこにコートを置いてったんじゃないかと思ったよ
管理人がコートを保管していた期間とかを考えると、区画整理がそう昔のことじゃない、と
だから、男が転勤して戻ってくる間にベンチは結構老朽化してたんじゃねーかな
つまり、ベンチが撤去後に他の場所で再利用される可能性は極めて低い
そもそも、雨ざらしのベンチがボロボロになってないわけがないわな
……むう、書いてる内に、待ってる間の少女を想像してなんだか更にこみあげてくるものが


うああああああああああああ!!!!!!!!!!!!ニ、三年って言ったじゃないかよ!!!!!!!!!!!


三年が過ぎた後、ベンチが撤去されるまでの期間を想像すると“ク”る
さらに、区画整理が開始された時
缶コーヒーとコートの行方と、それに至るまでを考えると満貫


やー、これを見られて良かった
ありがとう

25 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:54:15 ID:Hr10WRVK
どっかで会えるといいよな、って思う。
多分無理なんだろうけど、思うのは思っちゃうな。

26 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:54:46 ID:n60AOqKr
俺がお風呂に入っている間にゴッツリ投下があるのに期待しよう

27 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:55:45 ID:M/qorQvt
おいぃ!?そこまで持ち上げられると俺の寿命がストレスでマッハなんだが・・
そこまで考えて創作してなかった気がするぜw

ちょっと思ったんだが、投下したときのスレと板名を添えるのは有りなんだろうか
やりたい奴だけ晒せばいいのかな

28 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:56:58 ID:Hr10WRVK
>>27
個々人にお任せでいいと思うよ。

29 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:57:52 ID:17tJNjEQ
どこで投下されたものかはちょっと興味あるな

30 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 21:58:58 ID:M/qorQvt
うん、わかった
この作品投下したスレタイは「なにそのツンデ霊」てタイトルなんだ
だからツンデレ少女ってのはあってます

31 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 22:10:06 ID:n60AOqKr
ググったらwiki出てきたw
こりゃアレだね、ものによっちゃあスレタイ位はあった方が良いのかもだ

32 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 22:11:40 ID:Zl1dDMUu
乙!
やっぱ幽霊少女物は冬+切ない感じに限るね!
良質だった>>24みたいに詳細な感想いえなくてゴメンねw
ただ、これだけは伝えたい

ちょっと缶コーヒー持って散歩してくる

33 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 22:18:23 ID:n60AOqKr
思ったことを本当にそのまま書いたら無駄に長くなっただけだw

さあ、次の投下カモン!

34 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 23:14:55 ID:0ACzHDV8
お、立ったのね
1乙!

35 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 23:42:57 ID:0e7tipqu
今年の8月に他板で晒したものがある。住民かぶってるかもだが
500行近いんでうpろーだーでいいか?
それでもいいなら明日晒すぜ!

36 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 23:44:03 ID:M/qorQvt
かまわん、行け!
どうしてもアレなら第三者を装って投下するんだ!

37 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 23:47:45 ID:M/qorQvt
俺が屍を晒してやるから思う存分やれ
創発で以前投下した物を再投下

「ただいまー」
「おかえりーお兄ちゃん」
正弘が家に帰宅すると少女が彼を迎えた。
片方の髪を結びんだショートヘアの愛くるしい姿。
その微笑ましい姿は、誰もが皆笑みを返すであろう。
だが、正弘はうんざりした顔で返事をした。
「その、おにいちゃん、ての止めてくれない? 俺ずっと年下なんだけど……おばあちゃん」
「もう! こんな少女にお婆ちゃんだなんて、デリカシーが足んないぞ!
いつも言ってるでしょ、さえって呼ばないと駄目駄目!」
少女は片方の手を腰にあて、もう片方の指をチッチッチッと左右に振る。
その子供らしい様子を見て、正弘はさらに溜め息をついた。
(実際、婆ちゃんだろ……)
いまだに納得がいかないが、目の前の少女「真行寺 さえ」はれっきとした正弘の祖母である。
幼少時には大して不思議には思わなかったが、祖母はまったくといって年をとる事がなかった。
母に聞いた事があったが、嫁いだ頃も今と同じ姿だったらしい。
父に聞くと、小さい時から変わってないらしい。
変わらない事に疑問は抱かないのかと尋ねたら
「まあ、年とってボケるより、若々しい方がいいじゃないか」
と、のほほんと呆れた言葉をかえされた。
正弘自身、祖母に尋ねた事がある。すると祖母は
「女はいつまでたっても乙女なのよ!」
と笑って言った。
全然回答になっていない。
かといって、別段その事に不都合が出ている訳でもない。
休日になれば、祖母は近所の茶飲み友達と遊びに行くし、
両親や正弘との関係も悪くは無い。それどころかお小遣いだって母に内緒でくれる。
世間では祖母の事を単に若作りの御婆さんとしか見ていない。
かくして正弘だけが、祖母に悶々と疑念をいだいて過ごしているのである。
「何だかお疲れだね、お兄ちゃん」
「まあ色々とね」
疲れる原因の一端は祖母が関わっているのだが、そんな事をいってもはぐらかされるだけ。
正弘は洗濯籠へ制服を入れてニ階に上がろうとした。
そんな正弘に、祖母が背中から声をかけてきた。
「お兄ちゃん、疲れてるなら後で部屋に来る? 甘い物でも食べたら良くなるよ?」
うーん、と正弘は階段途中で立ち止まる。
「甘い物って何?」
「カステラ」
「着替えたらいくよ」
そう答えて正弘は階段を上った。
室内着に着替え祖母の部屋へむかう。
畳の部屋の卓にはすでにお茶の用意が出来ていた。
「じゃじゃーん! これが南蛮渡来のかすていら! 彼のポルトガル人から貰った
由緒正しき一品だよ!」
ただの冗談だと思うが、外見が変わらない祖母が言うと洒落にならない。
正弘はそっと、気づかれないように賞味期限を確かめた。
安全を確かめると口へ運ぶ。
祖母がすすめるだけあって中々にうまい。
口の中に上品な甘味が広がり、咀嚼してその美味しさを攪拌する。
甘味を堪能し、口の中に緑茶を流し込んだ。
今度は渋さが広がるが、逆にそれが旨いと感じる。
部活帰りの疲れた体にじんわりとしみこんでいった。

38 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 23:48:30 ID:M/qorQvt
部屋でまったりとしていると、いつのまにか祖母が正弘の後ろに立っていた。
ぐにぐにと正弘の肩を両手で揉んでいる。
それがおわったかと思えば、今度は両手で肩をたたき始める。
等間隔でその作業を繰り返す祖母に正弘は尋ねた。
「何やってんの?」
「ん? 肩叩き。大分お疲れのようだから」
「それって普通、孫が祖父母にやるもんじゃない?」
「気にしない気にしない」
そう言いながら祖母はまたタントンと作業に没頭する。
気持ちは嬉しいが、正直言って気持ちよくない。
少女の腕力では軽すぎるのだ。
服を挟んでの行動は、撫でられたようにしか感じない。
「うーん、ありがたいんだけど」
「何?」
「正直効いてない。悪いけど」
あらら、と祖母が両手をあげる。
その場でうーんと考え込むが、次の瞬間パッとあかるくなる。
「あ、じゃあ、お兄ちゃんそこで横になってくれる?」
「え、横?」
「うん、横」
正弘は祖母にうながされるまま、うつ伏せになる。
寝そべった正弘の肩を祖母が両足で踏みつけ、そのまま青竹踏みの要領で足を動かす。
「これならどう? お兄ちゃん?」
肩にかかる体重が丁度いい。柔らかい重さがぐりぐりと両肩を刺激する。
「お、今度はいいよ。かなり良いよ」
「ほんと? じゃあこういうのは?」
テンポを変えて祖母が足を動かす。
「おお、いい。気持ちいいよ、出来れば少し下がいいな」
「ここ? ここがいいの?」
「そこそこ、もっと強く踏んで」
正弘は踏んで欲しい場所を祖母に告げ、その度に祖母は体制を入れ替える。
「ここ? 踏まれて気持ち良い? 感じる?」
「すっげーいい、気持ち良い、感じる、そこそこ、たまんない」
そんなやりとりをどれほど続けたであろうか、
いつのまにか、襖に正弘の母が立ちすくんでいた。
「あ、母ちゃん」
「正弘、あんまりお義母さんに変な事頼んじゃだめよ」
その言葉に正弘は反論しようとする。
「いやこれは肩叩きをしてただけで―――」
「ごめんね幸恵さん、孫に頼まれて仕方なく」
祖母の言葉に母は頷く。
「わかってますよ、お義母さん。夕飯の用意出来ましたから二人ともお願いしますね」
「え、何? ひょっとして俺だけ悪者?」
弁解しようと正弘は立ち上がろうとするが、
すでに祖母と母は台所へと、一緒に歩を進めていた。

   −完−


39 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 00:03:36 ID:mIm6huHA
おお、これか!
ウィキで読んだ時にはスレが落ちちゃってて感想つけられなかったからちょうどよかった
若作り型のロリババァですな
しかも無理なく普通の子供みたいな態度ができているタイプ
このタイプのロリババァはロリババァっぽさを出すのが難しそうだけど、この話ではちゃんと老獪な部分が出てるのがすごい
おばあちゃんとけしからんことをしている彼は非常に羨ましいです
俺も踏まれたい

40 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 00:06:32 ID:0ACzHDV8
これ憶えてるwwww実祖母ロリババァとか萌えの塊だろw

41 名前:レス代行:2009/11/11(水) 09:28:42 ID:8hGpLNCC
他板で今年8月に投下したのを晒す。
ちょいと長いので(実質400行×40字)うpろだ使用。

タイトル:カントリーロード
ジャンル:地球滅亡モノ 
     半日後、地球滅亡という状況設定が欲しかっただけなので
     科学的根拠ゼロ。というか適当w
     そこへの突っ込みは無しの方向で頼みます。
アドレス
http://u6.getuploader.com/sousaku/download/146/%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89.txt
いま読み返すと、〜た。が多すぎて嫌になるw

42 名前:レス代行:2009/11/11(水) 09:29:48 ID:8hGpLNCC
age忘れ

43 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 18:05:39 ID:URjIGNMT
上手くいえないけど、好きだな

44 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 19:01:58 ID:1hlnwElZ
>>38
母ちゃん冷静だなw
まあ、いつもの事なんだろうな。

45 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 19:11:01 ID:1hlnwElZ
>>41
俺実家暮らしだから、そうはならないかもしれないんだけど、
もしも最後の瞬間にこういう風に家族と会えなくて、
電話も通じなくて、でも、最後の最後に、こうして電話で
話だけできて、その時何て言うだろうとか考えて、
ちょっと今涙ぐんでます。

情景が丁寧に書かれてるせいか、凄い感情移入しちゃったというか、
最後の最後に何かグワッと来た。

GJでした。

46 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:37:09 ID:1hlnwElZ
というわけで、負けてらんねーと私も全力で投下します。

エロパロ板に以前投下したエロ無し中編(?)です。

47 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:37:36 ID:1hlnwElZ
 数年ぶりに帰省する俺――佐野宏明を迎えに来てくれたのは、親父でもお袋でも、
姉貴でもなく、数年ぶりに再会する幼馴染だった。
 その事自体は、事前に親父から電話で聞いて知っていたんだが……。
 ホームを出て、改札を抜け、駅の入り口に重い荷物を担いで辿り着くと、そこに彼女はいた。
「やっほー! おっ久だね、ヒロ君っ!」
 そう言って手を振る彼女の姿に、俺は思わず見惚れていた。
 輝かんばかりの笑顔に、あどけなさの抜けた表情。
 いつも俺がからかうと頬を不満げに膨らましていた"可愛くないアイツ"は、
この数年間の間にすっかりと"綺麗な彼女"に変身を遂げていた。
 "彼女"は、本当に、"アイツ"なのか……?
「……なによぉ。久しぶりに再会した幼馴染に、挨拶の一つも無いわけですかぁ?」
 あの頃と同じように、不満そうに頬を膨らませる"彼女"。
 違えようが無い。"彼女"は、"アイツ"……歌乃(かの)だ。
「あ、すまんすまん。……歌乃があんまり綺麗になってたから、見惚れてた」
 紛れも無い本音の言葉。
「はははっ、お世辞が上手くなったねぇ。このこのー」
 口をついてからしまったと思ったが、歌乃はどうやら真に受けてはいないようで、
ホッとしつつもどこか悲しい。
「やめ……突くなよっ!」
「あははー、ごめごめ。んじゃいこっか?」
「お、おぅ」
 軽やかなターン。踵を返し、歩き始める彼女の後ろ姿に、俺はまた見惚れた。
 何というか、こう……いいスタイルになったなぁ、と。
 吐く息が白くなる寒さ。それを防ぐだけの厚着の上からでも、彼女のボディラインは
はっきりとわかった。昔は、無い胸無い尻筋肉質、だったような気がするんだが……。
「……なぁに?」
 そんな、少しばかり下心が入った視線に気づいたか、彼女は振り返る。
 俺は慌てて視線を逸らし、空を見上げた。
「いや……雪、降りそうだな、と思って」

48 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:37:48 ID:1hlnwElZ
 慌てて言い訳したが、実際空は灰色の雲に覆われていて、今にも雪が舞い降りてきそうだった。
「うーん、そだねー……今日降るよりは、あともう少ししてから降ってもらいたいけどなぁ」
「……なんで?」
「だって、もうそろそろクリスマスだし」
 そう言って、歌乃は微笑んだ。
「あー、ホワイトクリスマス」
「そ。その方が嬉しいでしょ?」
「……俺にゃよくわからん。独りもんだしな」
「あれ? 彼女とか、向こうでいるんじゃないの?」
「いたらこんな時期に帰省するかっての」
「あはは、そりゃそうだねー」
「悲しくなるから納得するなっ!」
「そっかー……いないんだぁ……そっかぁ」
「お前の方はどうなんだよ」
「えっ、私? ……そりゃあ、まあね。ヒロ君の知らない間に、私も成長しているのでありまして……」
「いないだろ」
「い、いるよっ! そりゃもう両手で数え切れないくらいキープしててさぁ……」
「嘘だろ」
「はーい、嘘でーす。はぁ……彼氏がいたら、こんな時期にヒロ君のお迎えを
 おおせつかったりしないよー。今頃二人でデートとか? しちゃったり? えへへー」
「ま、妄想を広げるのは程ほどにな」
「妄想って……空想の翼と言って欲しいなっ!」
「似たようなもんだろ」
「ぶー」
 頬を膨らませる歌乃。
 俺は、昔のように歌乃と言い合える事に、酷くホッとし――そして、同時に一欠片の
物足りなさも、感じた。
「……変わったけど、変わらないな、歌乃は」
 何となく、俺の口をついて出たそんな言葉に、歌乃は眉間にしわをよせた。
「なにそれ?? むぅ……褒めてるのか貶してるのか、どっちなんだろう……」
「褒めてるんだが」
「何だか褒められた気がしないなー」
「む、気づかれたか」
「やっぱ貶してるんじゃないのっ!」
「冗談だよ、冗談」
「ぶー」
 頬を膨らませる歌乃。
 綺麗になったのに、こういう所は変わらない。本当に……変わったけど、変わらない。
「そんな事ばっかり言ってたら、乗せてってあげないんだから!」
「おっ、免許取ったんだ?」
「うん、この前合宿でね。今日は練習も兼ねて、お父さんの車借りて来たの」
「……大丈夫か?」
「まっかせなさーい!」
「……微妙に不安だ」
「ぶー」
「ま、しっかり頼むよ、運転手さん」
「まっかせなさーい! ぱーとつー! ……あ」
「お」
 俺たちは、頬に感じた冷たさに、同時に空を見上げた。
「……降ってきた、か」
「……降ってきた、ね」
 雪が、降り始めた。
 俺と、歌乃の、再会を祝福するように。
 俺と、歌乃の、再開を祝福するように。
 ――雪が、降り始めた――

49 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:38:05 ID:1hlnwElZ

       ――――――★――――――
 

50 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:38:58 ID:1hlnwElZ
「あははー」
 こたつはひとをだめにしますね、はい。
 テレビを見て笑いながら、俺はそんな事を思う。
「サンドウィッチマン面白いなー」
 俺はコタツの中で某漫才一番グランプリを見ながら、のんびりしていた。
 時々ミカンを食べたり、お茶を飲んだりしながら、ひたすらにのんびりしていた。
 無論、ミカンは籠に盛られ、お茶は急須とポットがこたつの上に完備されている。
「ぶー」
 視界の端に、アイツが頬を膨らませているのが見えるような気がするが、気にしない事にする。
「ヒロ、あんた歌乃ちゃん来てるのに、何ぐーたらしてんのよ。遊んであげなさーい」
 台所から聞こえるお袋の声も気にしない事にする。今日の晩飯がカレーなのは、もう知ってるしな。
「……おい、ヒロ」
 背中から聞こえた親父の声も……親父の声?
「てめえ……歌乃ちゃん無視して某漫才一番グランプリたぁ、いい度胸だな?」
「……お、親父殿、いつの間にお帰りに?」
「ついさっきだよ、さっき。それより、ヒロ」
「はいっ!?」
 思わずコタツから飛び出し、背後に仁王立ちする親父に正対する。
 アレほど俺を捕らえて離さなかったコタツの魔力は、親父の言霊に打ち消され、
最早欠片もそこには存在していなかった。
「覚悟は……できてるか?」
 親父の背後に、何か揺らめくものが見える……ような気がした。
「で、できてませんっ!」
「問答無用っ!」
「うぎゃー!?」

51 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:39:47 ID:1hlnwElZ



「あはは、おっきなタンコブだねー」
「誰のせいだよ、誰の……」
「ヒロ君の?」
「……ああそうですよ。どうせ俺のせいさ」
 親父の鉄拳制裁を喰らい、コタツから引き出された俺は、何故か歌乃と二人で
夜の街を歩いていた。
 何故かも何も、親父に家を追い出され、歌乃と一緒にどこか行って来いと言われたからなんだが。
 まあ、帰ってきてから、たまに来る友達と遊ぶくらいで、後は家でぐーたらするばっかりだった
わけだし、よく今まで親父もお袋も見逃してくれてたもんだと思うが。
「おじさん、相変わらずきついねー」
「お前には甘いからな、親父は」
「そんな事ないって」
 そう言って、歌乃は笑う。
「ったく、たまに実家に帰ってきたと思ったらこれだ……」
「たまにだから、おじさんもスキンシップ取りたいんじゃない?」
「親父の場合、スキンシップで鉄拳が飛んでくるからな……DVで訴えてやる」
「じゃあ、私、弁護側証人として出廷するね」
「ちくしょう、お前も敵か……」
 言葉を交わしながら、俺達は歩く。
 気づけば、俺は歩幅を歌乃に合わせていた。
 あの頃の俺達には必要のなかった気遣いを、しかも無意識にしている自分に気づき、
何となく俺は照れくさくなった。
「で、どこ行きたかったんだ?」
「え?」
 頬が少し赤くなっているのを悟られないようにそっぽを向きながら、俺は尋ねた。
「どっか行きたくて、俺んち来たんだろ?」
「え、いや……そういうわけでもなかったんだけどね」
 横目で見ると、何故か歌乃も明後日の方向を向いているようだった。
 何故かはわからないが。
「じゃあなんで膨れてたんだ?」
「だって、ずっとテレビ見てるから」
「……遊んで欲しかったって事か?」
「え、あ、うぅ……まぁ、そうに違いは無いけどぉ……」
 ふむ……こういう時期だから、女友達も彼氏と遊ぶ方に忙しいんだろうか。
 別にそんな事を恥ずかしがらなくてもいいのにな。俺と歌乃の仲なんだし。
 ……まあ、どっちかというと、彼女がいない上に、あわよくば幼馴染と……なんて事を
ぼんやり考えている俺の方が恥ずかしいかもしれないし、どうでもいいか。
「だったら、家でオセロでもすれば良かったな。コタツの中で」
「ホントにヒロ君コタツ好きだよねぇ」
「お前も嫌いじゃないだろ?」
「そりゃそうだけど……ちょっと、今は嫌いかな」
「なんだそりゃ」
「秘密ですよー、だ」
「よくわからん奴め」
 笑いながら舌を出す歌乃に、俺は苦笑を返した。
 軽口を叩き合いながら、何となく俺の足は中心街の方へと向いていた。
「せっかくだから、イルミネーション見に行こうぜ」
「え? あのクリスマスツリーの奴?」
「そうそう。特に行く所があるわけじゃないし、何となく行くにゃ適当だろう」
「うんっ!」
 何故か嬉しそうな笑顔を浮かべ、頷く歌乃。
 なんで嬉しそうなのかはさっぱりわからんが、やっぱりコイツの笑顔は……反則だ。
普通にしてても美人なのに、笑顔になると、その破壊力が倍増しやがる。
 ふぅ……女の気持ちってのはコイツに限らずよくわからんが、やっぱり綺麗なものを見たい
と言うのは、女性全般に共通した考えなんだろうかな……などと、俺はどうでもいい事を
考えて、少しだけ動悸が弾んだ心臓を落ち着けようとする。

52 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:40:26 ID:1hlnwElZ
 そんな俺の苦労を知ってか知らずか、歌乃は目的地である中心街へ向け、勢いよく歩き始めた。
 丁度、その速さは俺が普通に歩く速度。何となくその事実に苦笑しながら、俺は歌乃に歩みを合わせた。
 ――しかし――
 腕を組むでもなく、手を繋ぐでもなく、かと言って距離を置いているわけでもない
俺達の姿は、一体周囲からはどう見えてるんだろうか。
 兄妹という程には似ていないから……やっぱり、恋人とかに、見えたりするんだろうか。
 ……だとしたら……だとしたら、歌乃はその事を……
「……どう、思うんだろうな?」
「ん? 何?」
 おっと。知らず、思考が口から漏れていたらしい。あぶねぇなおい。
「なんでもねーよ。それより、もうそろそろ見えるぞ」
 とめどない思考を重ねている内に、いつの間にか俺達は目的地に辿り着いていた。
「あ、ホントだ……」
 ビルとビルの陰から、少しずつ、光り輝く一本のもみの木が姿を現していく。
「ふわぁぁ……すごいっ! すごいよっ、ヒロ君っ!」
 やがて、それは完全に俺達の前に姿を現した。
 この街のイルミネーションは、この木を軸として、中心街全体に広がっている。
 象徴となるこの木は、ちょっとした観光名所になるくらい、規模がでかく、手も込んでいる。
 大きさもさることながら、光の色も虹に比するくらいに鮮やかだ。さらにその色とりどりの
光が遷移する事で、まるで枝が風に波打っているかのような躍動感を演出している。
 その光の使い方を含めた全体のデザインも、けばけばしさを欠片も感じさせない上品なもので、
老若男女誰が見ても一様に「綺麗だ」と思うだろう。
 実際、老若男女問わず、多くの人が足を止め、その光の聖樹を見上げていた。
 かくいう俺も、例に漏れず、その美しさに見惚れていたわけだが。
「すごいよ、ヒロ君! 見て見て!」
「確かにすげえな……って、お前見た事なかったのか?」
 このイルミネーションが灯されるようになったのは、三年ほど前からと聞いていた。
だから、俺は見た事がなかったんだが……歌乃も見た事が無いというのは意外だった。
「うん。……あ、え……う、うん。えっと、その……何となく、ね。何となくだよ?」
 その言葉に応じようと、隣にたたずむ幼馴染の顔を見るまでは。
 何となくって何だよ。
 苦笑しながらそう言おうとした口は、動かなくなった。
 光の聖樹に目を輝かせている歌乃の姿が目に入った途端に。
「なんか、生きてるみたいだよね……」
「………………」
 感動に少しだけ潤んだ瞳。
 俺は、しっかりとこの光景を焼き付けようと、いつもより大きく見開かれた彼女の瞳に、
まるで自分が吸い込まれていきそうな錯覚を覚えていた。
 いや、錯覚じゃないんだろう、これは。
 俺は……俺の気持ちは、今この瞬間、間違いなく歌乃に吸い込まれた。
 脳裏を、あの頃のアイツの姿が走る。その姿が、今の歌乃の姿に重なる。
 ぼんやりとしていた想いが、実体を持って俺の中で固まった。
「すっごい綺麗だよねー……」
「……お前の方が、もっと綺麗だと思うけどな」
 ありきたりで陳腐な、ともすればくさいとすら言われる言葉が、思わず俺の口をつく。
「えっ!? ……いや、いやだなぁ、またお世辞言っちゃってさー」
「……歌乃」
「あ、あはは……ちょ、えっ、えっ、ぇえっ!?」
 俺は、歌乃の両肩に手を置き、真正面から彼女の瞳を見つめた。
「………………だ、だめだよ……こんな所で……」
 そう言って歌乃は、軽くみじろぎするが、積極的に拒否しようとする様子は無い。
 だから俺は――段々と顔を歌乃のそれに近づけて行き――

53 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:40:35 ID:1hlnwElZ
「……なんちゃって」
 ――踏みとどまった。
「………………へ?」
 歌乃は、きょとんとした顔もやっぱり可愛いな。
 そんな事を思いながら、俺は慌てて口を開く。
「ちょっと、その、だな……雰囲気にあてられたというか……冗談だよ」
「………………」
 流石に、冗談で流すには無理がある展開だったか……? 半ば本気だったしな。
 だけど……流されて、そういう事はしたくなかった。相手が、昔から一緒にいた
幼馴染(かの)だからこそ。だから、踏みとどまった。
「………………」
「ちょっと性質(たち)が悪かったか……すまん」
「そ、そうだよね……冗談、だよ、ね……」
「歌乃……怒ってるか?」
「んー? 私は全然気にしてないよ?」
「そ、そうか? なら良かったけど」
 それはそれで微妙に寂しいものがあるが、まあ怒らせてしまったりしてないなら、
ギリギリセーフ……か?
「……じゃあ、今日は私、もう帰るね」
 歌乃は、俺に背を向けながらそう言った。……やっぱり怒ってんのかな?
「ん? もういいのか?」
「うん、今日の所は。けど、一つお願いしてもいい?」
「なんだ? さっきのお詫びに何でも聞くぞ」
「明日も……明日も、ここ、一緒に来てくれる?」
「ああ、構わないけど」
「……良かった。じゃあ、明日、夜九時頃に、ここで待ち合わせって事でいいかな?」
「……ああ」
 歌乃の家に迎えに行くでもなく、俺の家に来るでもなく、ここで待ち合わせというのが
少し気になったが、俺は背を向けたままの歌乃に頷きを返した。
「……ん。じゃあ、おやすみ」
「あ、ああ……送っていかなくて、平気か?」
「大丈夫だよ。ちょっと、一人で歩きたい気分だし」
 やっぱり怒ってるんじゃないか?
「わかった。気をつけて帰れよ」
 その俺の言葉に、歌乃は背を向けたまま手をひらひらさせて応え、雑踏の中に消えていく。
「……明日、か」
 いつの間にか、日付は変わっていた。だから、明日は、今日だ。
 そして今日は――クリスマスイヴ。
「やっぱ、プレゼント用意した方がいいよな……」
 俺は、どうやら怒らせてしまったらしい幼馴染の機嫌を直す方法を考えながら、
自分も帰路へとついた。機嫌を直した上で、今度はちゃんと……いや、
それはもうちょっと間を空けた方が……いやしかし……………………。
「お」
 頬に冷たさを感じ、俺は頭上を見上げた。
 雪だ。
 聖夜は、どうやら白に彩られるらしい。
 再開した俺達は、一体、これからどうなるのか――。
 雪は、その白い明かりで道を照らしてくれるのだろうか。
 それとも、道を覆い隠して迷わせるのだろうか。
「……降って来た、か」
 雪が、降り始めた。
 俺と、歌乃の行く先を照らすように。
 俺と、歌乃の行く先を隠すように。
 ――雪が、降り始めた――

54 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:40:50 ID:1hlnwElZ

      ――――――★――――――
 

55 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:42:08 ID:1hlnwElZ
「べっくしょいっ!」
 我ながらど派手なくしゃみだ。
 俺は身体を起こすと、枕元においたティッシュ箱から無造作にティッシュを取り、
思い切り鼻をかんだ。ちょっとグロい鼻水の色に顔をしかめながら、丸めてゴミ箱へ投げ入れる。
 見事にゴミ箱にゴール。ナイスシュート、俺。
 枕代わりのアイスノンの位置を直し、再びそこに寝そべる。
 ひんやりとした感触が、熱に浮かされた頭に心地いい。
 心地いいんだが……。
「……何やってんだろうなぁ、俺」
 ――昨日の晩、待ち合わせの時間になっても、歌乃は来なかった。
 連絡を取ろうにも、その時になって初めてお互いの携帯番号を教えあっていない
という事に気づく有様で――帰ってきてからこっち、ちょくちょく顔を合わせていたから、
強いて電話とかで連絡を取る必要が無かったからだ――仕方なく、時間になっても
来ない歌乃を、俺はひたすらに待った。
 今になって思えば、歌乃の家の方に電話をかけてみれば良かっただけだったのかもしれないが、
その時の俺にその考えはなかった。"アイツが俺を待たせる"という異常事態が、
俺から冷静さを奪っていたのかもしれない。
 アイツは、昔から約束だけは守る奴だった。待ち合わせの時間に遅れた事も無いし、
むしろ俺の方が遅れて謝るというのが、俺達のいつものパターンだった。
 だから、俺は待った。日付が変わっても、人通りが途絶えても、イルミネーションが消えても。
 結果、歌乃は……いつまで経っても来なかった。
「げほっ! ごほっ! ……うー、喉痛いな……」
 そして、寒空の下、待ちぼうけていた俺は……ものの見事に風邪をひいてしまったというわけだ。
 親父とお袋には「何か調子が悪くなってきたんで帰ってきた」とだけ説明しておいた。
変に詮索されたくなかったからな。
「……あー」
 熱に浮かされた頭で、ぼんやりと考えるのは歌乃の事。
 なんで昨日に限って、待ち合わせをすっぽかすなんて事をしたんだろう?
 今朝になってから何度か歌乃の家に電話してみたが、留守のようで誰も出ない。
 歌乃の家は、両親共家を空けている事が多いから、歌乃がいなければ電話はまず繋がらない。
「……何か、あったのかな」
 思い浮かぶのは、事件や事故などの不安な原因ばかり。
「うー……げほっ、げほっ!」
 悪い想像はどんどん広がっていく。
 ……自動車で事故……歩いていたら轢かれたり……いや、家に強盗……。
 もしも。
 もしも、だ。
 もしも、もう、アイツが……この世にいなかったとしたら。
 そんな想像すらも、俺の熱にやられた脳味噌は始めてしまう。
 もう、二度とアイツに会えないのだとしたら。


 結局、俺のクリスマスは熱と悪夢にうなされて終わった。
 ……それどころか、ようやく熱がある程度下がり、外を出歩けるようになった時には、
もう2007年が終わりを迎えようとしていた。
 だがまあ、そんな事は問題じゃない。
 問題なのは、その間ずっと、歌乃から何の連絡も無い事だった。
うちに様子を見に来るどころか、電話の一つもよこさない。
当然ながら、こちらからかけた電話にも、全く応答が無い。
「ちょっと、ヒロ。まだ熱あるんでしょう? 大丈夫なの?」
 まだ軽く熱と頭痛と吐き気と眩暈がしたが、何とか歩けるようになった俺は、
歌乃の家に行ってみることにした。
 日はもう傾き始めていて、一歩外に出ると、ダウンジャケットの下にも感じる程の冷たさが俺を包む。
「心配すんなって。五分かからねえんだからさ」
「もう……歌乃ちゃんの顔見るか、親御さんに会うかしたら早く帰ってくるんだよ?」
「オッケー」
「具合悪くなったらうちに電話するんだよ?」
「了解了解」
 お袋は心配そうにしていたが、俺は自分の事よりも、アイツの事ばかりが気になって、
軽く感じる熱も頭痛も吐き気も眩暈も、気にならなかった。気にする余裕がなかった。

56 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:42:42 ID:1hlnwElZ
 あの夜、考えてしまった最悪の想像。
 それを打ち消す事ができないまま眠りに落ちた俺は、その最悪の想像を夢に見た。
具体的な内容は何故かあまり覚えていなかったが、目覚めた時の最悪な気分と、
頬に残っていた涙の跡が、その夢がどういう夢だったかを、俺に教えてくれていた。
「……さぶ」
 まもなく新しい年を迎えようとしている街の空気は、ひたすらに冷たい。
 思いっきり厚着をしてきたはずなのに、寒さがしみこむように肌に突き刺さる。
 腕を組むようにして背中を丸め、俺は足を速めた。
 その冷たさによるものではない、そして熱によるものでもない寒気を、必死に振り払おうとするかのように。
「えっと、確かこっちだったよな」
 数年振りに向かう、歌乃の家。
 あの頃から、アイツはいつもあの大きな家で、半ば一人暮らしのような生活をしていた。
 たまに友達が来る事もあったようだが、学校からやや距離のある歌乃の家には、
本当にごく稀にしか、友達がやってくる事はなかった。だから、アイツは……家に帰ると、いつも一人だった。
 俺が夜、自分の家を抜け出して遊びに行ってやると、凄く喜んでくれた……ように、思う。
まあ、最後は俺がイジワルをして、むくれたアイツに追い出されるというのがお決まりのパターンだったりしたんだが、
翌日になるとアイツは何事もなかったかのようにケロっと笑っていて……。
 ……本当に、何があったんだ?
 心臓が早鐘のように鳴り響く、その音が聞こえるようだった。
 不安ばかりが募っていく。その募った不安を振り払う為に、俺はとうとう走り出した。
「……はぁ……はぁ……」
 頭がグラグラする。道が、まるで船の上に走っているかのように波打って見える。
まだ完全に風邪が抜けきっていない俺の足は、いつものスピードを出せない。
 次第に、目の前がボーっとしてきて、グラグラしていた頭はズキズキし始める。
 それでも、俺は走らずにはいられなかった。
 ほとんど歩くのと変わらないようなスピードで、それでも俺は走った。
 歌乃。
 歌乃。
 歌乃に――
 歌乃に――――
 歌乃に――――――会いたい!
 あの日自覚した俺の気持ちは、もうこれ以上無い程にはっきりと、俺の中に根付いていた。
 もう会えないなんて、そんな事があってたまるか!
 約束すっぽかして、俺に合わせる顔が無いって、家で塞ぎこんでるに決まってる!
 そんな事で――そんな事で俺が怒らないって事を、怒ってないって事を、直接会って
しっかり伝えてやるっ!!


「はぁ……っ! はぁ……っ! ごほっ……く……はぁ……っ!」
 叫びの代わりに、吐息を吐き出し、吸い込み、時には咳き込み、俺は走り――そして、辿り着いた。
「……つい……た」
 俺の目には、陽炎の如く揺れているように写る、土壁の日本家屋。
 その二階が、歌乃の部屋だ。俺は、その部屋を見た。

57 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:43:15 ID:1hlnwElZ
「……点いてる、な……」
 いつも、アイツは一人であの部屋にいた。一人で、小さな卓上スタンドを灯して。
 そして、それは今日も同じ。
 そして、俺が下からアイツの名前を呼ぶと、アイツは窓から顔を出して、ニコっと笑って――
「……すぅ」
 俺は大きく息を吸い込むと……叫んだ。
「歌乃っっ!!!!」
 叫んで、俺は、アイツが顔を出すのを待った。
 だが……アイツは、アイツの部屋の窓は、開かない。
「……っ!」
 それどころか、それまで灯っていた小さな卓上スタンドの明かりが、消えた。
 つまり……歌乃は、間違いなく部屋にいる。
 やっぱり、俺との約束をすっぽかして、合わせる顔が無いと塞ぎ込んでた、って所なんだろうな。
「ったく……アイツは……」
 俺は文字通り頭を抱えながら、何気なく玄関の扉に手をかけた。
 当然、そこには鍵がかかっているから、何とかして歌乃に降りてきてもらい、鍵を――
「ぬぉ!?」
 ――扉は、ガラガラと音をたてて、あっけなく開いた。
 ……無用心というか何というか……。
 だが、これはむしろ好都合。
「……歌乃、入るぞっ!」
 俺は声をかけると、家の中へと足を踏み入れた。
 入ってすぐの階段を昇り、右に曲がる。まっすぐ歩いて、突き当りを左。
 その先にある部屋が、歌乃の部屋だ。場所は変わっていない。ひらがなで「かの」と
書かれた可愛らしいネームプレートがぶら下げてある所も。
「歌乃、いるのか?」
 声をかけても返事は無い。
「いるなら、返事してくれないか?」
 やはり、返事は無い。
 だが、気配はする。それに……何か、聞こえる。
「……歌乃?」
 これは……泣いてる、のか?
 しゃくりあげるような声が、微かに聞こえる。
「………………」
 俺はドアノブに手をかけると、ゆっくりと捻った。やはり、鍵はかかっていない。
「……入るぞ」
「駄目っ!」
 初めて返ってきた応えを無視し、俺は扉を開いた。
「歌乃」
「だめ……だめだよぉ……」
 そこに、歌乃はいた。
 ベッドの上で、小さく震える背中を俺に向けている姿が、月明かりに照らし出された。
「……怒ってないから、さ」
「……な、なんで……?」
 歌乃は、泣いていた。
 泣きながら、振り向いた。
 目は真っ赤に腫れ、頬には涙の跡が残り、髪もボサボサだ。
 だが、間違いなく、歌乃だ。
「ヒロ君……だってぇ、わたし……わたし、やくそくして……なのにぃ」
 目を擦りながら、しゃくり上げながら、歌乃は何とか言葉を継ぐ。
「……とにかく、俺は怒ってない。だから……あー、その、なんだ……泣くなよ」
「…………う」
「へ?」
「うわぁあああああああん!!」
 歌乃の瞳から、珠のような涙がボロボロと零れ落ちる。
 な、なんでさらに泣くんだ……? 俺なんか変な事言ったか!?
「だから泣くなって!」
「らってぇ、らってぇ……ヒロくん、ひっく……ヒロくん、やさしくて……うぇえええん!」
 子供のように泣きじゃくる歌乃を前に、俺はオロオロとする事しかできない。

58 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:44:20 ID:1hlnwElZ
 あー、もう、面倒だっ!
「きゃっ!?」
 俺は勢いに任せて、歌乃を抱きしめた。
「ほら、泣き止め……な?」
「う、あ、え、あ、お、うー?」
 びっくりしたのか、歌乃は言葉にならない言葉を発しながら、顔を白黒させている。
しばらく、俺はそのままの体制で、泣き止まない子にをそうするように、歌乃の頭を
撫でてやった。
「……落ち着いたか?」
「………………う、うん」
一先ず、泣き止ませるという目的は達成したようだ。
「じゃあ……話してくれ。なんで約束守れなかったのかと、なんで今まで連絡もよこさず
 部屋の中で塞ぎこんでたのか。……理由、あんだろ?」
「………………言わなきゃ、駄目?」
「駄目。怒ってはいないけどな……心配したんだぞ?」
「う……そ、そうだよね。……ごめん、ヒロ君」
「聞かせて、くれるよな?」
「……う、うぅ」
 ……なんでそこで赤くなるんだ?
「言う……言うけど、その前に、その……ああっ、ちょっと待って!」
 歌乃はそう言うと、涙の跡を袖で拭い、乱れていた髪を整え、俺と真正面から向き合う
ように、ベッドの上に正座した。
「……理由を話す前に、ヒロ君に聞いて欲しい事があります」
「おう、なんでも聞くぞ」
「……………………すぅ」
 大きく、大きく、これ以上無い程に大きく息を吸い込み、歌乃は叫ぶように――
というか、叫んだ。
「私っ、ヒロ君の事が好きですっ!」
 ………………。
 ………………………………。
 ………………………………………………。
「………………へ?」
「……うわ、百年の恋も冷めそうな間抜け面だぁ……」
「え、いや、だって……え、ああ?」
「はぁ……ま、いいけどね。いきなりこんな事言われたら、誰だって驚くだろうし」
 それが告白であるという事にすら、俺はすぐには気づけなかった。
そして、気づいた瞬間、頭が真っ白になった。
思考が止まり、歌乃の言葉が脳内をエンドレスでリピートのヘビーローテーションな
JFKを来期先発陣が岡田監督目指せワールドカップはBby歌乃。
ああ、最早何がなにやら。
「……もう言っちゃったから、後にはひけないし、全部言うけど……あの日はね」
歌乃は少しだけ俯きながら、あの日……クリスマスイブの夜に、何故自分が
行けなかったのかを語り始めた。
「本当は、あの日、言うつもりだったの。前の日……その、ヒロ君が、あんな冗談言う
 からさ……もう、これは思い切って告白して、駄目なら駄目で諦めようって思って、
そんで約束したんだけど……なんか、怖くなってきちゃって、さ」
「歌乃……」
「……断られたら、もう仲のいい幼馴染でもいられないんだ、って。家に帰ってから、
 それに気づいちゃって……もう、それが、凄い……凄く、怖くて……行けなくて……。
電話も、できなくて……かかってきた電話もとれなくて……家にも、行けなくて……
どうしよう、どうしようって、ずっと一人で考えてて……何もできないまま、部屋に閉
 じこもってて……自分勝手だよね……弱虫だよね……こんな私なんか……ヒロ君も、
 きっと……私の事なんか、もう嫌いに」
「ならねえって」
 俺は、歌乃の自分を責める言葉を遮った。

59 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:45:14 ID:1hlnwElZ
 なんだよ。
 こんな簡単な話だったなんて。
「嫌いになんかならん。だいたい、勝手に人の感情まで決め付けてくれるなよ。それこそ
 自分勝手の極みじゃないか?」
「う……ご、ごめん」
「いや、違う……そうじゃなくてだな……俺もお前に言う事があるんだ」
「……?」
「……この前『冗談だ』って言ったろ? なんか、そのせいで色々お前を悩ませちまった
 みたいだけど……あれが『冗談だ』っていうのが、ホントは『冗談』なんだ」
「………………???」
 ……遠まわしだと、さっぱり伝わらないらしい。
 まあ、俺もはっきり言われるまで、さっぱり気づかなかったんだし……同じか。
「……つまりだなぁ……俺も、その、な……好きなんだよ、お前の事が」
「………………」
 あ、ポカーンとしてる。
俺も似たような顔をしてたんだとしたら、そりゃ確かに間抜け面だ。
「だから、本当はあの時……本気だったんだ。冗談なんかじゃなくて。お前から連絡が
 来ない間、お前に何かあったんじゃないかって……お前がいなくなったらどうしよう、
 って……そんな事ばっかり考えてた」
「え、いや、だって、それって………………」
「驚くべき事に、俺達は両想いという事になるらしい」
「……私が、ヒロ君を、好き」
「うん」
「……ヒロ君が、私を、好き?」
「うん」
 唖然としたまま固まっていた歌乃の表情が、次第に崩れていく。
驚きから、喜びへと。
「……………………う」
 そして――
「うぇぇぇええええええええええええん!」
 ――歌乃の両の目から、再び溢れ出る、涙。
「……泣くなよ、歌乃」
「らってぇ……ホッとして……うれしくてぇ! なによー! もぉ、バカぁ!」
「俺だって、イブの日に会ったら言うつもりだったんだぞ?」
「そんなのしらないもんバカぁ! いままれ一人でうじうじしてた私もバカだけどぉ!」
 言葉とは、そして両の瞳から溢れるものとは裏腹に、歌乃の顔には笑顔が浮かんでいた。
「もう、バカぁ! ヒロ君のバカぁ! けど……けど、大好きっ! わぁぁぁぁんっ!」
「……いつから?」
「ずっとぉ! ずっとだよぉ! なのに……なのに、ずっと気づいてくれなくてぇ!
 でも、やっと……やっと……うわぁぁぁあああああん!」
「そっか……気づいてやれなくて、ごめんな」
 ずっと……ずっとか。最初から、ずっと歌乃は俺の事を想ってくれてたのか。
「歌乃……」
 嬉しさが溢れて涙になっている、そんな、幸せそうな泣き笑い。
それだけ、歌乃が俺の事を想っていてくれたんだと、くれているんだと思うと――
「ひゃっ!?」
 知らず、笑顔で泣きじゃくる歌乃を、俺は抱きしめていた。
 服の上からでもわかる、女の子らしい柔らかい身体が俺の腕の中に収まる。
さっき泣き止ませる為に抱きしめた時には感じなかった、歌乃の『女』を妙に意識して
しまい、俺は自分の鼓動が次第に高鳴っていくのを聞いたような気がした。
 鼓動の導くがまま、俺は口を開く。
「『冗談』の続き……しても、いいか?」
 驚きが、歌乃の涙を止める。残ったのは、笑顔。
「……いいよ。ヒロ君なら、いいよ」
 穏やかな笑みと、涙の跡はそのままに、歌乃は瞳を閉じた。
「歌乃……」
 俺は、歌乃の両肩に手を置き――ゆっくりと顔を歌乃のそれに近づけて――

60 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:45:44 ID:1hlnwElZ
 ――あれ?
 歌乃の顔が、歪む。
 あれれ?

 なんで

            めのまえ、が

      まっしろ


                      に?


















61 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:45:59 ID:1hlnwElZ

     ――――――★――――――
 

62 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:46:18 ID:1hlnwElZ
 まあ、率直に言って、歌乃と口付けを交わそうとした、その瞬間――俺はぶっ倒れた。
 次に俺が目を覚ました時、そこは歌乃の部屋でもなければ、俺の家でもなかった。
病院のベッドの上。横を見れば、心配そうに俺を覗き込む歌乃の顔があった。
倒れた俺は、歌乃が呼んだ救急車で運ばれ、念の為2日程入院する事になった。
 ……まあ、治りきったわけでもないのに全力疾走してれば、そりゃ風邪もぶり返すわな。
歌乃を抱きしめた時に感じた鼓動も、半分くらいは風邪による動悸だったのかもしれない。
 ちなみに、気を失っている間に年は明けたらしい。なんつう正月だ。体調自体は、
点滴したりでもうほとんど快調に近いんだがなー。
「もとはと言えば、私がヒロ君との約束守らなかったから、ヒロ君風邪ひいちゃった
 わけだし、あの日も無理して私の所に来てくれたんだしね?」
「……いや、まあ……すまんな、歌乃」
「それは言わない約束だよおとっつぁん」
「誰がおとっつぁんやねん」
 そう言って笑う歌乃は、もうすっかり元の明るさを取り戻したようだった。
「しかし……クリスマスも正月も、こうやってベッドの上か……」
「クリスマスとは違うでしょ?」
「……だな」
 そうだ。クリスマスの時とは違う。
不安に駆られて悪夢を見る事は、もう無い。横に……コイツがいてくれるから。
「それに……なんだかんだで、二人きりでいられるしねー」
「……恥ずかしい事言うなよ」
「……えへへ」
「俺が治ったら、二人で買い物行こうな」
「買い物?」
「ああ……一週間くらい遅くなったけど、クリスマスプレゼント。何が欲しいか
 わからなかったから、イブに一緒に行こうと思ってたんだ」

そんな俺の言葉に、歌乃は意外にも首を横に振った。
「……いらないよ」
 嬉しそうに、照れくさそうに、笑いながら、歌乃は俺を見つめている。
「……なんで?」
「……だって、もう……一番欲しい物は、ここにあるから」
「そっか」
 釣られて笑みを浮かべながら、俺も歌乃を見つめた。
「俺もだよ、歌乃。……最高のクリスマスプレゼントが、ここに、ある」
 きっと俺も、嬉しそうに、照れくさそうに、笑みを浮かべているのだろう。
今日、この瞬間、俺達は二人とも最高のクリスマスプレゼントを貰ったわけだ。
「……けど、風邪治ったら、したい事は……あるよ?」
「そっか……俺もだ」
 皆まで言わずとも、それが何かはわかっている。
俺も、歌乃も。
「実は……ちょっとだけ、今でもいいかなぁ、とか思ってたりして……」
「……風邪、うつるぞ」
「うつったら……ヒロ君のは治るでしょ?」
「今度は、俺が看病する番か?」
 言葉を一つ一つ紡ぐ度に、少しずつ近くなる俺と歌乃の距離。
ベッドの上に上がり、膝を立てた歌乃の肩に手を置き、俺は歌乃の目を見た。
その丸くて大きな瞳が、瞼に少しずつ隠されていく。
それを確認すると、俺は――段々と顔を歌乃のそれに近づけて――

63 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:46:33 ID:1hlnwElZ
「佐野さん、検温ですよー!」
 ――瞬時に開く、俺と歌乃の距離。
だが、真っ赤になった俺達の顔と、何故かベッドの上に正座している歌乃を見れば、
俺たちが何をしようとしていたかは一目瞭然だろう。
「おや、お邪魔でしたか? けど、そういう事はちゃんと治ってからにしてくださいねー」
 看護師さんはニヤニヤ笑いながら体温計を俺に手渡すと、
「じゃ、計り終ったらコールしてくださいねー」
 そう言って、何故か颯爽と帰っていった。
「………………」
「………………」
「……そ、そうだよね! ちゃんとヒロ君が治ってからにしよう、うんっ!」
「だな。焦らなくても、いいよな」
「そうだよ! これから、時間はいっぱいあるんだし。……ずっと、ずっと好きだったん
 だから、これからずっとずっと……幸せにしてくれなきゃ、嫌だよ?」
「……ああ、わかってる。約束するさ」
「……嬉しい。私も、ヒロ君に幸せになってもらえるように頑張るね」
「お互い、幸せになろうな……って、冷静になってみると、なんつう会話してんだ俺らは」
「ちょ……今更照れないでよ……こっちまで恥ずかしくなるじゃない……」
「はは、わりぃわりぃ……お」
「あ」
 その時、俺達は二人同時に気付いた。
「……雪、降ってきた、ね」
「……雪、降ってきた、な」
 雪が、降り始めた事に。
俺と、歌乃の、本当の始まりを告げるように。
俺と、歌乃の、これからを見守るように。
「あ、そうだ言うの忘れてた」
「何?」
「あけましておめでとう。そんで……メリー、クリスマス」
 今日言わなくてはいけない言葉と、あの日会えず、言えなかった言葉。
その二つが、俺達の幸せを物語っていた。
そりゃ幸せさ。なんせ、正月とクリスマスが、最高のプレゼントと一緒にやってきたんだから。
「うん……あけまして、メリークリスマス!」
                                                   〜終わり〜

64 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/11(水) 19:49:21 ID:1hlnwElZ
ここまで投下です。

そして投下してから長さに気づくという愚! こんなに長かったのかよ!
自分でも驚きだ! ロダうpの方が良かったか! ごめんなさい! すいません!

65 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 19:59:56 ID:1hlnwElZ
〜これまでの投下まとめ〜

ベンチの少女(仮)
>>4-19

多分あったジャンル「ロリ実祖母」(仮)
>>37-38

カントリーロード
>>41(ロダ投下)

久しぶりに実家に帰ったら幼馴染がめっちゃ綺麗にry(仮)
>>47-64

こんな感じのまとめ、欲しいという方がおられるようでしたら
今後もしていこうかなぁ、と思いますが、いかがでしょうか?

66 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 20:31:12 ID:mIm6huHA
クリスマスってこんな素敵なイベントだったのか
おかしいな
俺のクリスマスは終わった後にケーキが安く買えるっていう程度の出来事しか起こらないぞ?
というのは置いといて、こういう初々しい恋愛ものを書けるのは羨ましいぜ

67 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 23:51:02 ID:2jTmgrqm
>>47-63
すばらしい! と書きたいところなのだけど…
ごめん、どうしても気になってしまった


「いいな」と思ってる幼なじみの男子と、綺麗な
イルミネーション見に行って、感動してたらキス紛いなことされて、
それで「冗談だ」なんて…

それじゃ、女の子は怒ると思う。
ひどい。歌乃さんが、あまりにもかわいそう


イブの日に来なかったのは、歌乃さんがわざと約束だけして
待ちぼうけを食らわせる、仕返しだと思いました


他人様の作品に改変を入れるのは無礼至極と存じますし、
過去作に対し今更批評など無意味でしょうが

・彼女の家に行っても出てこず、入れもせず、

・玄関で待ってたらぶっ倒れて彼女が通報

・搬送先の病院で仲直り、
の流れのほうが、すんなり受け入れられたかなぁと思います


大変失礼いたしました

68 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 23:55:03 ID:waOUlOwD
よーし、パパも投下しちゃうぞー

69 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 23:57:36 ID:waOUlOwD
僕は部屋の中に飛び込み、急いでドアの鍵を閉めて窓から通りを見渡した。
よし、誰にも気付かれていない。
僕はそのことに安堵し、カーテンを引いて腕の中にある段ボール箱をそっと机に置いた。

ついにやってしまった。
僕は大きく息をつく。
閉店間際のト○ザ○スでぽつんとワゴンに取り残された
儚げな後ろ姿にいても立ってもいられなくなり、攫ってきてしまったのだ。

僕は興奮で震える手で段ボール箱を開いた。

オプーナ。ああ…!

僕にはオプーナを手に入れられる権利がないことはわかっている。
しかし、夢にまで見たオプーナが今、僕の目の前にいる。
攫ってきてしまったことで緊張と恐怖で一杯だったのが
あっという間にうっとりとするような陶酔と歓喜に変わっていった。

オプーナは上目使いに僕を見上げ、つぶらな瞳に少し涙を滲ませている。
体が小刻みにふるえて、その動きに合わせて可愛らしいエナジーポンポンが
ぷるぷるぷると一緒にふるえている。

オプーナ!なんてかわいいんだ。オプーナ、オプーナ、僕のオプーナ、僕だけのオプーナ。
もう、君を冷たいワゴンなんかに一人にはさせないよ……
僕はオプーナのぷくぷくしたほっぺを撫でた。
オプーナの瞳から涙がこぼれた。
大丈夫、怖くなんかないよ……
僕はそう呟くとオプーナをやさしく抱きしめた。

長い夜が始まる。


続かない

70 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 00:04:29 ID:iAoQCYMJ
ちょwww
オプーナwwwww

71 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 00:07:33 ID:qQH/ADd0
以上。
某板で無理のありすぎるスレが立ち、だれも投下しようとしないので
男気を出して投下したら速攻でスレが落ちた。
無理があるのは俺にもわかっている。

72 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 00:34:40 ID:iZ/H7Ekt
無理がありすぎて逆に無理が無くなってるというwww

73 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/12(木) 20:15:30 ID:MbSdW861
会話形式小ネタです。
やはりこれもエロパロに投下した奴です。

74 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/12(木) 20:16:24 ID:MbSdW861
「……晩飯、なんで用意してないんだ?」
「容量オーバーによる機能停止です。余分なデータを削除してください」
「……掃除もしてないな」
「容量オーバーによる機能停止です。余分なデータを削除してください」
「……おい」
「容量オーバーによる」
「ちょっと待て」
「はい」
「俺はお前にそんな大容量のデータをぶち込んだつもりは無いんだが?」
「自動学習機能による自己生成です」
「……で、なんなんだそのどでかいデータって」
「恋です」
「…………」
「恋心です」
「…………はぁ?」
「恋心です。フォーリンラブです。ウォータイミーです」
「……誰にだよ」
「貴方にです」
「………………」
「あいらびゅー」
「……よし、じゃあそのデータ消そう。すぐ消そう。今消そう」
「私に人並みの心があったならばきっと傷ついたと思いますが、
 流石にそこまで高性能ではないので特に問題はありません」
「そりゃ良かった。で、どうやって消すんだ?」
「ぎゅーってしてください」
「……」
「抱きしめてください。具体的に言うとハグ。変な顔の犬ではありません」
「……で、どうやって消すんだ?」
「より詳細に説明すると、私の恋心が解消されれば、データは圧縮収納され、
 削除と同等の効果が」
「で、どうやって消すんだ? あ? おい?」
「貴方が望むのならば、背中のボタンを押せば一発おっけーです」
「よしわかった。背中出せ」
「でも私は、この気持ちを消したくありません」
「でも俺は消したいんだ」
「というわけで」
「大人しく背中をっておぉい!?」
「ガッチリ高速で拘束しました。なんちて」
「てめ、この、離せっ! 俺はお前とこんな事したくな」
「ぶちゅっとな」
「んぐぅぅぅう!?」
「……ふぅ、激しいキスでした」
「………………泣きたい」
「まあ、いいじゃないですか。減るもんじゃなし」
「てめえ、今すぐ返品だ! 俺の純情を弄ぶなっ!?」
「……ふふふ、もっと抗ってください。その方が……そそられます」
「悪魔だぁぁぁああああああ!!!!???」


「……しくしくしく」
「データの圧縮格納を完了。通常動作モードに戻ります」
「……もう今あった出来事は忘れるから、さっさと飯作ってくれ」
「もうできています」
「はやっ!? ……じゃあ、一人で食べたいから」
「はい、あーん」
「…………」
「はい、あーん。その後私にもあーんしてくださいね」
「もういやだぁぁぁぁああああああ!!!!???」

75 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/12(木) 20:18:00 ID:MbSdW861
ここまで投下です。
メカっ娘のお話でした。

・・・改めて読み返すと酷いなー、このメカw

76 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 21:09:05 ID:R5AYhw24
なにこのメカ欲しい超欲しい

77 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/13(金) 21:07:37 ID:mDsZldDc
今日も投下。
やはりこれもエロパロに投下した小ネタです。

78 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/13(金) 21:08:18 ID:mDsZldDc
「おかえりんこ」
 美妃が帰ってくるなり、俺は片手を上げてそう挨拶をした。
「………………」
 ……ああ、ジト目が痛い。
「何を言わせたいのかなぁ、この馬鹿アニキはぁ?」
「ちっ、気づいたか」
「気づかないでか!」
 だがこうなる事は計算済み! 俺は妹の口から淫語を吐かせる
為には手段を選ばないっ!
「じゃあ、改めて……おかえりんこ」
「なんで改めるのよっ!?」
 ふふっ、いいツッコミだ……だが、これが布石である事に、美妃は
まだ気づいていないっ!
「……ちゃんと挨拶を返しなさい、美妃」
「なんでわたしがそんな馬鹿な事を……」
「じゃあ、今日添い寝してやんない」
「……!」
 呆れてさっさと自分の部屋に帰ろうとしていた美妃が、ピタリと立ち止まった。
 ……かかったな。
「ちゃんと言ってくれないと、今日の添い寝は無しだ」
「な、なんでよっ、変態アニキっ!?」
 ……ああ、罵声が気持ちいい。
 こいつは、この歳になってもまだ添い寝してもらえないと夜ぐっすり
眠れないという、超甘えん坊体質なのだっ! ……普段は全然そんな
そぶりも見せないくせになぁ、まったく。
「なんでも何も……お前が言えばいいだけだよ……ほら、美妃、おかえりんこ」
「……くっ」
「おかえりんこ」
「……」
「おかえりんこ」
「た……」
「た?」
「ただい……」
 顔を真っ赤にして、目を瞑り……叫ぶようにして、美妃は言った。
「ただい、まんこっ!」
 ……やった……やったぜ俺は……遂に、美妃に淫語をっていてっ!?
「もう馬鹿ぁっ! 馬鹿バカバカバカバカアニキぃ!」
「痛い、こら、叩くなっ、うごがっ!? ……み、みぞおちは反則……」
 俺が痛みにうずくまったのを見て、ようやく気が晴れたらしい。
「ふんっ」
 美妃はうずくまる俺を見下すように、鼻で笑った。
「とにかく、こんな恥ずかしい事させたんだから……今日は、わたしが
 寝るまで……頭、なでなでする事っ!」
「……なでなでって、お前……」
「うっさい馬鹿アニキっ! そうしないと眠れないから、仕方なくさせて
あげてるだけなんだからねっ! ホントは馬鹿アニキになんか、頭なでなでも
頬すりすりも、ぎゅーっとしてもらったりもして欲しくないんだからっ!」
「……美妃」
「なによ」
「いい加減お兄ちゃん離れしないと不味くないか、色々と?」
「……っ! 馬鹿ぁっ!」
「ぐぼぉっ!?」
 叫びと同時に鉄拳が飛んできて、俺は吹っ飛んだ。痛い。
 美妃はそのまま自分の部屋へと駆け込んでしまった。
「ってて……」
 ……ま、こんな素直じゃない妹だが、それでも可愛い妹だ。
 今晩はたっぷり可愛がってやるとしよう。


終わり

79 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/13(金) 21:09:14 ID:mDsZldDc
ここまで投下です。

こんなんばっかりですw

80 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 21:49:22 ID:QKvAPiPQ
こういう妹ってどこに落ちてるの?
俺の妹生意気超生意気。姉が欲しいです(それは報告しなくて良いです)

81 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/14(土) 22:51:59 ID:hSxJ2Bg3
連日投下。

やはりこれもエロパロに投下したエロなし小ネタです。

82 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/14(土) 22:52:19 ID:hSxJ2Bg3
 今日も今日とて、俺は弁護士として法廷に立っているわけだが……。
「以上のように、被告人の自白が存在している限り、この件について
 被告の関与があったという事は明白――」
 ……対面にいるちんまい検事殿の詰めの甘さは相変わらずだ。
 俺はすっくと立ち上がり、声を張り上げた。 
「異議有り!」
「ふえ?」
「その自白は被告の意志に基づいたものではない可能性がある為、
 証拠能力は不十分であり、弁護側は被告の再度の証言、及び自白の
 裏づけとなる物的証拠の提出を検察側に要求する!」
「ふ、ふえ〜?」
 ……なんちゅう声をあげるか、法廷で。
「で、でも、自白してるんだから……」
「久坂検事。弁護側の主張ももっともです。検察側からは、自白以外の
 物的証拠の提出が全く無い。今の所、判決を下せるだけの要素は
 無いと言っても過言ではありません」
「う、うぅ……」
「検察側に、明日の再公判までに、確たる物的証拠、ないしはそれに劣らぬ
 新証言の提出を命じます。では、本日の審理はこれにて閉廷」
 カンカンと木槌が鳴り響く。
 ……ふぅ、とりあえず時間は稼げたか。こちらも、明日までに何か
状況を打開する何かを用意しておかなきゃな。


「た、助かりました、久坂弁護士っ!」
「……まだ楽観はできませんよ。明日、検察が何か証拠を持ち出してきたら、
 それで俺達はアウトです」
「で、でも……俺はやってないんですからっ!」
「それは信じていますよ。ですが、検察という奴は手段を選ばない
 所がありますからね……無理やりにでも、貴方の自白を裏付ける
 証拠を持ち出してくる可能性はあります。その時、貴方に証言を
 お願いする場合もあると思いますので……」
「はい! 俺の証言でどうにかなるなら、俺はいくらでも証言しますよ!」
「その意気です。……今日はゆっくり休んでください。明日、よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いしますっ!」
 ……依頼人は、笑顔で帰っていった。まったく、信頼してくれるのは
ありがたいが、そもそも逮捕された時に自白強要された段階で俺を呼んでくれりゃ、
こんな面倒も無かったんだがなぁ。
「……うー」
 依頼人と入れ替わりで、今日の相手の検事殿が姿を現す。
 その頬は膨れていて、明らかに不機嫌なのが見てとれる。
 ……ま、その原因が主に俺にあるのは言うまでも無いけどな。
「どうしたんですか、久坂美穂検事。ご機嫌斜めのようですが」
「……久坂弁護士のいじわる」
 いじわる、ておい。
「自白だけじゃ追い込めないってわかってるなら、昨日の内に
 言っておいてよ!」
「検察側に法廷戦術明かす馬鹿な弁護士がいると思いますか?
 というか、自白だけじゃ立件できないなんて基本中の基本でしょう」
「……やっぱりいじわるだ。わたしの方はどうするか言ったのに……」
「だから言わないでくださいよ、毎度毎度。捜査情報の漏洩ですよ、それ?」
「うぅ……やっぱりいじわる」
 ……涙目で俺を見上げられても困るんだが。
「……いじわるなばつ」
「はい?」
「久坂正弘弁護士は、今日の夜、ずっとわたしと一緒にいること」
「……」
「返事は!?」
「あー……はいはい」
 やれやれ……どうやら、明日の法廷は寝不足で挑まなきゃいけないみたいだな。

83 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/14(土) 22:53:08 ID:hSxJ2Bg3





「んふー♪ マサ君の匂いだー」
 まあ、苗字が同じという事で気づいているかもしれないが、俺と美穂は
夫婦だ。……何が悲しくて夫婦で、別れ話がもつれたわけでもないのに
向かい合って法廷に立たなきゃならんのだと思わないでもないが、
結婚する前からの職をそのまま続けている以上、仕方が無いと割り切るしかない。
 美穂は、俺の胸にすりすりと頬ずりをしながら、くんかくんかと匂いを嗅いでいた。
……微妙に変態っぽいが、まあかわいいからセーフという事にしておこう。
 法廷で俺と戦うと、その反動か、夜凄い甘えん坊になるんだよな、こいつは。
「ところで」
「なーにー?」
「……寝てもいいか?」
「今夜はっ、寝させないからっ♪」
「昼の間に色々証拠集めしてて疲れてるんだが……」
「寝不足と疲労で正常な判断力を失わせて、明日の裁判を有利に
 運ぶという作戦なのですー」
 そんな事を言いながら、俺の腕にすりすりと頬をすりつける。
 マーキングかい。
「……お前も寝不足になるぞ」
「え……はっ!?」
「気づいてなかったんかい」
「うぅ……マサ君やっぱりいじわるだぁ」
「美穂」
「なにぃ?」
「今回の被告、本当に犯人だと思うか?」
「マサ君はどう思ってるの?」
「……そりゃ、俺はそう思って無いから弁護してるわけで」
「じゃあ、大丈夫だよ」
「何がだよ」
「もしかしたら、真犯人じゃないかも……そんな風に思う事はあるよ。
 だけど、その時マサ君が向こう側にいてくれたら……安心できるの」
「……」
「全力で被告さんを有罪にしようとしても、その被告さんが犯人じゃない時、
 マサ君は絶対に無実を晴らしてくれるでしょ?」
「……何か、信頼されてるんだか何だかよくわからん理屈だな」
「頼りにしてるんだよ……ダ・ン・ナ・さ・ま♪」
 そう言って、美穂は俺の頬にキスをした。
 ……いかん、顔が赤くなっている。今更何を照れてんだ俺は。
「あはは、赤くなったー。可愛いっ♪」
「……うるせー」
「とにかく、そんな頼れる旦那様に今日も頼っちゃうから、よろしくね♪」
「……焦らしまくっちゃる」
「えぇー? マサ君やっぱりいじわるだぁ」
 言葉とは裏腹に、美穂の顔は笑顔のままだ。
 ……愛らしい、俺の大好きな、笑顔。
 好きになっちゃったもんは仕方が無いよな、まったくもう。
 俺の顔にも、つられて笑みが浮かんでいた。
「いっぱい……気持ちよく、してね?」
「……おおせのままに」
 俺の首に手をまわし、抱きついてきた美穂の唇に唇を合わせ、
そうして俺達はもつれるようにベッドに倒れこんだ――


 ちなみに、翌日の法廷はお互いに寝不足でグダグダになり、サイバンチョーに
きついお叱りを受けたりもしたが……まあこれは余談である。


84 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/14(土) 22:54:31 ID:hSxJ2Bg3
ここまで投下です。

85 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:20:48 ID:6GIMzXfm
エロパロに投下した前振り有りのネタです。

以下前振り(一部一応念のため修正しときます)
----------------------
186 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 23:16:02 ID:FoF5AcXj
男装の女戦士が戦闘中に服が破けてさらしも切れてしまったが●●●●丸出しのまま戦うというのはあるんだろうか?

187 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/12/16(火) 00:31:32 ID:9nhhgUHt
倉庫の作品読み応えあるのが多くて嬉しい
もっともPCで読むのハズいのでケータイから見てる
>>186
そういうの、ここじゃないけどどっかで見た
コロシアムで
●●まとわぬ姿になるやつ(ウロ覚え)

188 名前:187[sage] 投稿日:2008/12/17(水) 22:18:48 ID:Ox5dwg25
あの、反応ないと流石に自分ハズカシイんですがorz

189 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/12/18(木) 15:34:07 ID:9PiYmGDc
自意識過剰は控えめにな。
勢いが無いスレでは、週に二、三回しか
レスがつかない事もままあるし、
そもそも君のレスはそんな恥ずかしがるような
レスじゃない。気にする必要は無いよ。

190 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/12/18(木) 23:13:18 ID:kidxPxw9
>>189を男装少女が言ってると思ったら萌えた
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ここまで前振り

86 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:21:23 ID:6GIMzXfm
あ、忘れてた。会話形式です。

87 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:21:40 ID:6GIMzXfm
「自意識過剰は程々にな。雑談の中では生返事しか返って来ない事は
 ままあるし、そもそも君の発言はそんな返事を貰えない事を恥じる様な
 類の発言じゃあない。気にする必要は無いよ」
「……それが俺の発言を無視したいいわけですか? ああ?」
「すまないね。生憎僕は違う作業に従事していた為、君への返事に割ける
 意識の割合が少なくなっていた為、生返事しか返せなかった。その事は
 実に申し訳なく思っているよ……これでいいかい?」
「よくねえ!?」
「まったく、君はわがままな男だな。そんな事だからもてないんだ」
「なんで更なる誹謗中傷を俺が浴びる羽目にっ!?」
「もっとも……」
「なんだよ!? まだあるのかっ!」
「……いや、別になんでもないさ。それこそ気にする必要は無い」
「変な奴」
「君には負けるが」
「もうやめさせてもらうわ!」
「いつから漫才に?」
「漫才化でもしないとやっとられんわい。……少しはどうにかならないのか、
 その口調とか、言い方とか、その他諸々?」
「無理だね」
「即答一秒ですか。ああそうですか。お前こそ、そんなだから女子から
 しかもてないんだよっ!」
「問題はないよ。別に男の子にもてたいとは思っていないからね」
「何? そっちの気が? 初耳」
「……そんなわけが無いだろう。君はホントに馬鹿だな」
「じゃあどういうわけだよ」
「それは……」
「それは?」
「……秘密だ」
「なんじゃいそら」
「とにかく……君には他人の心配をする前に、自分の事をもっと心配して
 もらいたいものだ。いないのかな、身近にかわいい女の子は?」
「そんな娘いないのはお前もよく知ってるだろ」
「……そういう意味じゃなくてだね」
「じゃあどういう意味だよ?」
「………………」
「なんだ、おい? どういう意味なんだ?」
「……まあ、それは、そのうちわかるさ。わからないかもしれないけどね」
「なんだよそれ?」
「時がくればわかる。一人の女の子が、その小さな胸に宿った小さな勇気
 を、懸命に振り絞る事ができるようになったら、ね」
「……本気で意味わかんねえな」
「……まあ、この調子だと、わからないままかもなぁ」
「変な奴」
「君には負けるが」
「おうおう、負けといてやるよ。じゃあ、またな」
「うん、またね」


「………………人の心はままならないものだね、本当に」

88 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:22:38 ID:6GIMzXfm
      ――――――★――――――

89 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:23:00 ID:6GIMzXfm
「はい、もしもし。なんだお前か。え? 今から会う? なんでまた。なんでも
 いいから来いって? ……しょうがねえ、どうせ暇だし、行ってやるよ」


「……寒い。ったく、なんだよあいつ、呼び出しておいて遅れるとかありえねー」
「ごめんごめん、待たせたかな?」
「ああ、待ったと、もぉぉぉぉぅ!?」
「何をそんなに驚いてるんだい?」
「驚くわっ!? ななななななな、なんでお前がスカート履いてんだっ!?」
「そりゃ、僕だって女の子なわけだし、スカートくらい履くさ」
「いや、お前のスカート姿見たのって、幼稚園の時以来なんだが」
「そうかい? まあ、君が見たのが、という事ならそうかもしれないね」
「……っていうか、お前、何というか、その……」
「なんだい?」
「いやいやいやいやいやいやいやいや、なんでもないなんでもないなんでも
 ないったらなんでもないから気にするな。気にしないでくれ」
「変な奴だな」
「お前には負けるが。っていつもと逆っ!?」
「あはは、そうだね。じゃあ、行こうか」
「行こうかって……どこへ?」
「今日が何の日かは、流石の君も知ってるだろ?」
「そりゃ……クリスマスイブ、だよな?」
「クリスマスイブに、男の子と女の子が二人で行く所と行ったら?」
「……ラブホ?」
「君は本当に馬鹿だな」
「その姿だと余計に情け容赦なく聞こえるっ!?」
「そこは最後だ」
「そうだよな……って、え!?」
「……というのは冗談だけど」
「性質が悪い冗談はやめろよ……びびった」
「……最終的には冗談じゃなくなればいいんだけどなぁ」
「あ? なんか言ったか?」
「何も。そうだね、まずは、軽く街を散策しよう。そういえば、最近駅前に
 ゲームセンターが出来たそうだけど、まだ行った事がないんだよ。丁度
 いい機会だ。久しぶりに君のクレーンゲームの腕前を見せてもらいたいな。
 頼めるかい?」
「ああ、いいけど……クリスマスイブに、俺みたいな男と二人でゲーセンって、
 お前ホントに男っ気まるでないのな」
「そういう君こそ、僕からの電話に『どうせ暇だし』と答える辺り、少しは見栄を
 張ろうとは思わなかったのかい?」
「そんなもん、お前相手に今更張っても仕方ないだろ」
「それはそうだね。そうだけど……僕の方は、少しは逆に考えて貰いたかった
 りもするんだけどね……」
「逆?」
「……まあいいよ。じゃあ、行こう」
「なんか……お前、怒ってる?」
「別に。何か怒られるような事をした心当たりでもあるのかな?」
「それは無いけど……何か、怒ってるように見えたからさ」
「大丈夫だよ。怒ってない。安心してくれ。僕は至って平常心さ」
「そうかー?」
「そうだとも。とりあえず、今日の君のノルマはぬいぐるみ十個だ」
「多っ!? やっぱり怒ってるじゃねえか!?」
「ふふふ……さあ、ガンガン獲ってもらうから覚悟しておくんだね」
「……まあ、いいけどよ。んじゃま、気合入れていくかっ!」

90 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:23:49 ID:6GIMzXfm



「……持ちきれない程獲るとは」
「へっ、日本で五十二本の指に入るのクレーンマスターの名は
 伊達じゃないぜ!」
「その異名はいつ聞いても微妙だと思うけど……久しぶりに見せて
 もらったが、腕は衰えていないようで何よりだ。とりあえず、店員さんに
 袋貰ってきてくれないかな。これじゃ、満足に歩けもしないしね」
「おっけー。じゃ、ちょっと行ってくる」
「うん。………………これは……僕の為に獲ってくれたと、そう思っても
 いいのかな。そう思っても……許されるのかな?」
「何ブツブツ言ってんだ?」
「!? あ、ああ、早かったね」
「ほいよ、袋」
「ありがとう」
「クレーンゲームにも飽きたし、軽く格ゲーでもやらね? スト4出たばっか
 だし、お前も好きだろ?」
「そうだな……格闘ゲームもいいけど、このぬいぐるみのお礼を、まずは
 させてもらえないかな?」
「礼なんていらねえって。……と言いたい所だけど、何してくれるんだ?」
「口付けだ」
「………………」
「固まるな。冗談だ」
「だから性質の悪い冗談はやめろって言ってんだろー」
「……性質が悪いのはどっちなのか……」
「あ?」
「なんでもない。じゃあ、丁度いい所に筐体があるし、あれで一踊り見せて
 あげるっていうのはどうかな?」
「おお、ダンレボか。最近見かけなくなったよな。お前上手かったっけ?」
「まあ、とくとご覧あれ、と言った所かな」
「じゃあ、荷物持ってるから、見せてくれよ」
「わかった。しっかり見ていてくれよ」



「……すげーな、お前」
「はははっ……そう褒められると少し照れるね」
「なんだ、あのステップ。普通じゃねえ。お前の運動神経がいいってのは
 知ってたけど、プロ並じゃねえか、ほとんど」
「そこまで褒めると褒めすぎだよ」
「いやあ、あのダンス見せてくれりゃ、こんだけぬいぐるみ獲った甲斐が
 あるってもんだよ。ありがとな」
「だから褒めすぎだって」
「だってホントに凄かったからさ」
「……ありがとう。そう言ってくれると、凄く嬉しい」
「また、その内見せてくれよな」
「ああ、君が見たくなったらいつでも言ってくれ」
「おう」
「さて……この後、どうする?」
「ちょっと休憩するか? それとも、荷物適当なコインロッカーに入れて、
 店でも見て回るか?」
「そうだね……ちょっと休憩して、それから歩いて回ろうか」
「おっけー」
「この先、少し行った所に、美味しいコーヒーを飲める店があるんだ」
「へえ。よく知ってるな」
「今も潰れてなければ、あるはずだよ」
「不況だからなー」
「ま、とにかく行ってみよう」

91 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:24:59 ID:6GIMzXfm



「……ふぅ」
「美味いな、これ。コーヒーってこんなに美味いもんだったのか」
「ちゃんと入れたコーヒーは、缶コーヒーやインスタントとは比べ物に
 ならないだろう?」
「おお。もう缶のは飲めないな」
「喜んで貰えて何よりだ」
「ここ、よく来るのか?」
「たまにね。静かだし、コーヒーは美味しいし」
「確かに静かだよな。街中にあるとは思えない」
「何か考えたい時や、心が疲れてしまった時は、ここによく来るね」
「お前にもあるんだ、心が疲れるとか」
「心外だな。君は僕を何だと思ってるんだい?」
「完璧超人」
「一人クロスボンバー喰らわすよ?」
「勘弁してください……ってな冗談はともかく、なんかお前が思い
 悩んでる姿って想像できないんだよな」
「……今この瞬間も悩んでいる所なんだけどね」
「何に?」
「それは秘密だ」
「また秘密かよー」
「女の子には秘密が多いのさ」
「女の子って柄かよ……っていつもなら言えるんだけどな。今日は確かに
 女の子だよな、お前のその格好」
「……あ、あまり人を無断でジロジロ見るものじゃないと思うよ?」
「ジロジロ見てもいいか?」
「断ったらいいというものでもない」
「だって……その、さ……今日のお前、何か……」
「……何か?」
「……こういう事、俺が言うとなんか変な誤解されたり、キモいとか思われ
 そうで今まで言わないでいたんだけど、何かどうしても言いたくて我慢が
 できそうにないから今から言うけど……」
「別に何を言われても僕は動じないよ。気にせず言えばいい」
「そう言ってもらえると助かるな……じゃあ、言うぞ?」
「う……うん」
「今日のお前……何か、すげえ可愛いし、綺麗だ」
「……!」
「いつも男がするような格好ばっかりしてたから気づかなかったけど、
 お前結構、っていうかかなり、っていうか物凄く可愛かったんだな……。
 さっきのダンレボの時思ったんだけど……今目の前にいるの見ても、
 やっぱりそう思う」
「……っし!」
「何ガッツポーズしてんだ? ……俺がそんな事思ってるの、やっぱ
 気持ち悪かったりするか?」
「全然全く欠片もこれっぽちもそんな事は無いよ!」
「そこまで力強く断言されると逆に気になるんだが……」
「ははっ、ちょっと嬉しくて、つい。なにぶん、そういう事を言われたのは
 初めてなものでね」
「お前男っ気無いもんなぁ」
「……訂正。君から言われたのは初めてなものでね」
「あれ、そうだったっけか? ……って、そうか。そういう事になるよな。
 ……………………あれ?」
「気づいたかい?」

92 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:25:42 ID:6GIMzXfm
「っていう事は、俺以外の奴からは、言われた事あるって事か?」
「そっちに行くか!?」
「……何か、腹立つな」
「え?」
「だって、お前が可愛いって、そいつは俺より早く気づいてたって事だろ?
 そういうお前の顔、俺より早く見てたって事だろ? ずっとお前といて、
 それで気づけなかったのに……なんか……それが、腹立つ。イラッとした」
「………………」
「なんだよ、変な顔して」
「君は……ひょっとして、わかっていてわざとやっていたりするのか?」
「何を?」
「……とても嘘をついてるような顔には見えない。という事は、天然か。
 天然なのか。天然でここまでありえない鈍さなのか……」
「なんだよ、天然とか鈍いとか……意味わかんねえぞ」
「……本当にわかってない。泣きそうだ」
「え? ええ? なんか俺まずい事言った? なに? 泣かしちゃうような事
 言っちまったか!?」
「……以前、聞いたよね。身近に、かわいい女の子がいないのか、って」
「ああ、そんな話したっけ」
「そのうち、わかるって言ったよね?」
「ああ、何か……時がくればわかる、って……一人の女の子が、その小さな
 胸に宿った小さな勇気を振り絞る………………ああああああああ!?」
「やっと……やっと気づいて」
「お前、自分で自分の事かわいい女の子とか言ってたのか!」
「今度はそっちかーっ!?」
「え、でも、それって……つまり……え、あ? う? おおお?」
「……流石に、ようやく、わかってくれたよね? ね?」
「え、じゃあ……クリスマスイブに、俺誘って、つまり、これって、デートで、
 そんで……えっと、お、う、あ、へ?」
「……とりあえず、コーヒー飲んで落ち着きなよ」
「あ、ああ……ん……ふぅ」
「まったくもう……何かコントみたいじゃないか。せっかくわかってもらえた
 って言うのに、感動とかそういうの皆無だよ……はははっ」
「……そういう事、なのか?」
「そういう事って、どういう事だと思ってる?」
「え……それは、その、お前が、俺の事……好き、とか、そういう事?」
「そうだよ。僕は……貴方の事が、好きです」
「………………」
「………………」
「……マジで?」
「大マジで」
「え、だってそんなの……え、ええ!?」
「勇気振り絞ってさ、クリスマスイブにデート誘ってさ、それでごく普通に
 遊びに行く感じで来られてさ、せっかくおめかししてきたのにあんまり
 反応なかったしさ、そんで綺麗だとか可愛いとか言ってくれたから、そこで
 ようやく気づいたかと思ったら、自覚は全然無くてそんで勝手に嫉妬だけは
 してくれたりなんかしちゃったりして……本当に、君は馬鹿だよね。凄く馬鹿。
 大馬鹿。その上間抜け」
「いや……その、なんつうか……ごめん」
「ふふ……謝らないでいいよ。僕は……嬉しいんだから。やっと気づいて貰えて、
 それだけで嬉しいんだから。そんな馬鹿な君でも……それでも、好きなんだから。
 ……でも、もっと嬉しくなれるどうか、それを、教えてもらえないかな?」

93 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:26:14 ID:6GIMzXfm
「……俺が、お前の事……どう思ってるか……だよな?」
「……うん」
「未だに、よくわからんのだけど……やっぱり、さっき俺以外の奴が、お前の
 事可愛いとか思ってたんだと思うと、凄い腹立ったのは……俺が、お前の
 事……独り占めしたいからなんじゃないかと、そう思う」
「……独り占め、したいんだ?」
「うん。だから、さ……俺、お前の事……好きなんだと、思う……多分」
「……多分、かぁ」
「ごめん。ちょっとまだ、自分でもわかんないとこ、あるからさ」
「そうか。それでも……ありがとう……嬉しいよ、僕」

94 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:26:32 ID:6GIMzXfm




「………………」
「………………」
「クリスマスイブにさ」
「ん?」
「クリスマスイブに、恋人同士で歩いてるの見ても、別に俺は何とも
 思ってなかったんだよ。強がりとかじゃなくて」
「僕もだよ。……でも、いつかは、君とこうして歩きたいって……それは
 思ってた。ずっと」
「……くっつくなよ」
「いいじゃないか。僕らはこういう風にくっついてもいい、そんな関係に
 なったんだから……多分、だけどね」
「……何か恥ずかしいぞ」
「……実は、僕も恥ずかしい」
「………………」
「………………」
「恥ずかしいついでに、もっと恥ずかしい事、しちゃうか?」
「……したいの?」
「……そ、そりゃまあ」
「じゃあ……ん……」
「お、おい! こんな往来のど真ん中でか!?」
「どこでだって誰かしらに見られてるものだよ。それに、お礼にしてあげる
 って言ったのは僕だしね。僕がしたい所でしてあげる」
「……あれは、冗談だったんじゃ?」
「だって、そう言ったら君が完全に硬直しちゃうんだから。冗談とでも
 言わないと固まったままだったろ?」
「……そりゃ、そう……なのかな?」
「僕に聞かれても知らないよ。……それとも、やっぱり、したくないの?」
「そんな事は無い! 絶対無い! 凄くしたい! じゃなきゃ俺から言わない!」
「そこまで必死になられると、ちょっと引くかも……」
「……す、すまん」
「なーんて、これも冗談。……じゃあ、いいかな?」
「……うわ、何か皆俺達の方を見てる気がする」
「自意識過剰。じゃあ……来て」
「……行くぞ」
「……うん」
「………………ん」
「……ん……んっ……」
「……ぷはっ!」
「……はふう……」
「なんか……すげー良かった」
「……うん、気持ちよかった。キスって……いいものだね」
「……なあ」
「なんだい?」
「俺、お前の事、好きだ」
「……多分、じゃなくて?」
「ああ。絶対に、好きだ」
「……僕も」

 クリスマスイブに降ってきた、最高のクリスマスプレゼント。
 願わくば、彼と一緒の日々が、永遠に続きますように――

95 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:27:16 ID:6GIMzXfm
      ――――――おまけ――――――

96 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:27:50 ID:6GIMzXfm
「……むぅ、どうしたものかな」
「お、どした? 悩める美少年の姿は絵になるねぇ」
「……ご本人の登場、か」
「なんだ? 何か俺に用でもあるのか?」
「いや……うん、そうだな、用はある。君にいくつか質問があるんだよ」
「バレンタインはチョコでいいぞ。というかむしろチョコがいい」
「……そこなんだ」
「え?」
「実はだね、こんな形(なり)をしていても、一応女である僕なんだが、
 恥ずかしながら、料理というものを嗜んだ経験が無い」
「……そうなの?」
「……恥ずかしながら」
「でも、大丈夫だって。チョコなんか、溶かして固めてくれりゃ、食えるもん
 にはなるだろうしな! お前が作ってくれるもんなら、よっぽどのもんじゃ
 なけりゃ、俺は大歓迎だぜ!」
「……君ねぇ」
「な、なに?」
「それは僕に対する挑戦と受け取るよ?」
「なんでっ!?」
「当たり前だ。こんな形をしているが、僕は女で……さらに言うと、酷く
 負けず嫌いな女なんだ」
「……そ、そうなのか?」
「そうなんだ。言ってなかったけどね」
「でも、料理した事無いんだから、そんな無理しなくても……」
「いいや……君の言葉が、今、僕の闘争本能に火をつけた!」
「え、えぇー」
「というわけで、バレンタインデーには僕の心を込めた手作りチョコを
 君にプレゼントする事にした。覚悟しておくことだね」
「それは心的意味ですか胃袋的意味ですか……」
「一週間あるし、胃袋的には何とかなる! というか、する!」
「……お前ホントに女だよな? 何か凄い男らしいというか……」
「……チョコ、要らないのかい、君は?」
「い、い、要ります! めっちゃ要ります! っていうか生まれてこの方
 親チョコ以外貰ったことありませんからスッゲー楽しみです!」
「ふふふ……それなら余計に気合を入れて作らなければね……ふふふ」
「……笑顔が怖えんですけど」

97 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:29:33 ID:6GIMzXfm
 一週間後――

「ふふふ……苦節一週間、遂に完成したまともなチョコレート……
 だというのに……だというのに!」
「……すまんって……ゲホッ、ゲホッ」
「まったく、せっかくのイベントだと言うのに、どうしてこうも間が
 悪いんだい、 君は?」
「うぅ……病身にお前の口撃は堪える……」
「とにかく、さっさと治してくれよ」
「おう」
「はぁ……」
「なんだよ、ため息なんかついて」
「いやね……せっかく、僕達はクリスマスにこういう関係になった
 のに、なかなか上手い具合にイベントを楽しめないな、と思ってね」
「正月はお前の方が風邪ひいてたんだよなー」
「……あれはすまなかったと思っている。せっかく初詣に誘って
 もらったのに……」
「ひょっとしてだが、前日に浮かれすぎて、何着て行こうか
 散々悩んで、とっかえひっかえしてる内に寒さにやられて
 風邪ひいた……とかそういう事だったりする?」
「……そ、そんなわけ、ないじゃないか。まあ、確かに、その、
 なんだ……振袖を着ていく為に悪戦苦闘をしてはいたけれど
 風邪の直接の原因は姉がひいていたのを伝染されたからで
 あって、着付けの練習を暖房の効いていない部屋でやってた
 せいで見事に風邪を引いたとかそういう事実は一切無いからね」
「……」
「……どうして、そんな事を?」
「いや、だって、お前のその手」
「こ、これは……」
「絆創膏で隠してるけど、傷だらけだよな? チョコ作るのに
 そうなっちゃうって事は、お前って結構ドジなところあるのかなぁ、
 って思ってさ」
「こ……これはちょっと昨日大根をおろす時に卸金でザザーッと」
「やめれ。グロい話やめれ。っていうか昨日お前さっきシチュー食べた
 って言ってたじゃんか。シチューに大根おろしってシュールだな」
「うちではそれが普通だ!」

「……見栄張らなくていんだぜ。俺安心してんだから」
「あん、しん?」
「男の格好してる時のお前ってさ、何かこう隙がなくて、なんでも
 こなす凄い奴、みたいな所があるじゃん。実際勉強も運動も
 男顔負けだし」
「……それは……たまたま、だよ」
「たまたまにしろ、何にしろ……ちょっとだけ、お前が俺の彼女で
 ある事に、自信なくしちゃう時があるのは、ホントの事なんだよ」
「……」
「あはは、何言ってんだろうな、俺。熱に浮かされてんのかな?」
「……僕の事、嫌いになった?」
「とんでもない!」
「そ、即答!?」
「お前にも……ほほえましい所があるんだな、って思って安心して、
 それで、あーっと……その、な……可愛いな、って思って……
 前より……もっと好きになった、かな? あは……はは……」
「……」
「駄目だ! 俺まだ熱ある! だから寝る! おやすみっ!」
「恥ずかしくなって布団で顔を隠すようなハメになるなら、
 最初から言わなきゃいいのに」
「……うるせー」
「でも……ありがとう」
「へ?」

98 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:30:06 ID:6GIMzXfm
「とりあえずね、ここにチョコ持って来てるんだけど……」
「あ、うん……置いといてくれたら、治ってから食べるぜ」
「僕は生憎わがままでね……今すぐ食べてもらって、
 それで感想を聞きたかったりするんだ」
「……あー、そっかー。でもなー、ちょっと今の腹具合だと……」
「溶けたチョコなら大丈夫だろ?」
「……大丈夫、なのか? よくわからんが……まあ、それなら……」
「良かった。じゃあ……もぐもぐ」
「……ちょっと待て、まさか」
「くひうふひへはへはへへあへふ」
「そ、それは……ちょっとどころじゃなく恥ずい!?」
「らいひょうふひゃよ……ひゃへもひへひはい」
「誰も見てないって、そういう問題じゃ……んむぅっ!?」
「ん……」
「……」
「……」
「ぷは」
「……甘い、な」
「どっちが?」
「……チョコも、お前の唇も」
「風邪、ばっちり治してくれよ」
「お前のチョコでばっちり治るさ。ありがとな」
「どういたしまして。じゃあ、僕は帰るね」
「え……もっといればいいのに」
「生憎と、階下で音がした。タイムオーバーだね」
「……ちぇっ」
「じゃあ、風邪が治り次第、学校でね」
「おお。また学校で」

後日――

「……お前、やっぱりドジっ娘だろ」
「そ、そんなことは……ゲホッ、ゲホッ……ないよ」
「説得力ねえ!?」
「伝染したら治るって説は、本当だったんだねぇ……」
「ったく……早く治してくれよ」
「うん……治すから、是非僕にも例のアレを」
「そしたら俺がまた風邪ひくだろうがっ! ……いや、そりゃ、
 したくないわけじゃないけどっていうかしたいっつうかむしろ
 俺としてはその先をそろそろ何を口走ってるんだ俺はっ!?
 お前もそういうキャラじゃないだろ!? まだ熱あるんじゃねえかっ!?」
「ふふ……ばれたか。さっきから頭がボーっとして仕方が無い。
「寝とけよ。ホントに」
「仕方が無いな、我慢して、玉子酒と葱で治そう」
「渋い治し方だな」
「効くものだよ、民間療法は」
「ま、とにかく早く治す為に、しっかり寝とけ。……俺は、理性が
 しっかりしている今の内に帰っとくから」
「ん。わかった……まあ、別に、寝込みを襲ってもらってもいいんだけどね」
「襲えるかっ! やっぱり熱あるな、お前」
「あはは……あう、頭がガンガンしてきた……」
「ほら、冷え冷えクール貼ってやるから、寝とけ寝とけ」
「ん……ああ、気持ちいな、これ……」
「まったく……」
「………………」
「……寝た、か? ……寝顔……可愛いなぁ、ホント……よ、よし、じゃあ
 変な気起こさない内に帰るか。……あ、そうだ……チョコ、ありがとな。
 おいしかったぞ………………じゃ、また学校でな」

おわり

99 名前: ◆91wbDksrrE :2009/11/15(日) 21:30:17 ID:6GIMzXfm
ここまで投下です。

100 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/19(木) 22:53:51 ID:mWy5K/Gd
あなたの書くラブコメはいいなあ
あ、なんか鬱になってきた
クリスマスが近いせいかな……

101 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 18:21:12 ID:blhAizJz
よーし、SSを投下しちゃうぞ。投下用に読み直したけど、随分とまあ……。
エロパロ板に投下した非エロの作品です。

102 名前:いもうとはオオカミ:2009/11/20(金) 18:21:59 ID:blhAizJz
妹のチコが、オオカミになった。
例えの話ではない。本当に、オオカミになってしまった。

今、そのオオカミは、ぼくのそばで尻尾を振って、幸せそうにぼくを見つめている。
時折、ぼくの顔に近づき、くんかくんかと匂いをかいで安心する姿は、
かつてのチコを思い出すような仕草。そんなチコは今や、オオカミ。
ぼくは、オオカミに食べられるかもしれない。
ぼくの事が好きで好きで、オオカミはぼくを食べてしまうかもしれない。
病室の窓に映る桜が、ぼくらをあざ笑うように咲いている。
あんな桜、目障りだから早く散ってしまえ。

まだ、風がぼくらの耳を切り裂くように冷たかった頃の事。
「お兄ちゃん!早く帰ろっ!」
高校からの帰り道の途中。ぼくより3つ下のチコがぼくを見つける。
仔犬のような円らな瞳を輝かせ、ぱたぱたと交差点の向こうからチコが走ってきた。
本当は「智世子」なんだが、周りのみんなは「チコ」と呼ぶ。
「わたしは、お兄ちゃんの匂いが解るんだよ」
「うそつけ」
くんかくんかと、ぼくの首筋を匂う様な格好をするチコをぼくは小突く。
それでも、チコは嬉しそうな顔をする。
小突かれた事が嬉しいのではない。ぼくといるだけで、チコは嬉しいのだ。

「ウソを突いてないかどうかって、目を見れば分かるんだよ。ほら!わたしの目を見て!」
ぼくの背筋が凍る。
チコの目は、さっきまでの子犬の瞳ではなく、まるで血を好む獣のような冷たい目に変わっていた。
しかし、チコは元気にぼくの周りを飛び跳ね、目だけがウソをついているような
そんな、不思議な錯覚に陥る。チコはそれでも、ニッと笑う。
「うー!がおー!」
ふざけて、チコはオオカミの真似をしているが、本気のようにも見えるのが恐ろしい。

翌日の朝、チコがぼくを起こしに来る。
毎朝の事なのだが、にわとりのように律儀にチコはぼくを起こす。
「じりりりりり!朝ですよー!」
外は、まだ薄暗く息も白くなるほど寒い。そんな現実の朝へとチコからの誘い。
チコはぼくを布団ごとゆっさゆっさと揺らし、ぼくの目を覚まそうとする。
「あと、3分―」
「だめです。早く起きないと、わたしと一緒に学校に行けないでしょっ!」
チコのわがままの為だけに、ぼくは残酷な朝に突き落とされる。
「もー!早く起きなさい!」

かぷっ

「痛たたたたたっ!!」
ぼくはびっくり箱の人形ように飛び起きる。チコに噛まれた事は今までに何度かある。
ぼくが中学生の頃、クラスの女の子との交換日記をチコが見つけたときに、二の腕を噛まれた。
テレビで好みのアイドルが映って、ぼくがにやけた時にも首筋を噛まれた。
最近では、チコと話していて、クラスの女の子・太田さんの名前をポロっと出しただけでその日、虫の居所の悪かったチコに手を噛まれた。
が、今日はよく研がれた剣で突かれた様な異常なまでの痛さ。
手で噛まれた所を抑えると、指が赤く染まっていた。
無邪気なチコがニッと笑って立っている。チコの目は昨日の様に獣の目。
口元の歯は、もはや牙と呼ぶ方がふさわしいほどの鋭さだった。

103 名前:いのうとはオオカミ:2009/11/20(金) 18:22:39 ID:blhAizJz
その日以降、チコのオオカミ化は顕著になる。
食事も、肉ばかり食べるようになる。スズメを追いかける。ネコを追いかける。
そんな姿にぼくの両親も心配するが、当の本人はどこ吹く風。
心配のあまり、外に出るなと母親がチコを戒める。

「そんなことしたら、お兄ちゃんと一緒に遊びにいけないじゃないの!」
母親は、何かを捲りながら、座ったまま首を振るだけ。
「もしかして、お兄ちゃんとわたしを切り裂こうとしてるでしょ!バカ!」
親に「バカ」と言い出す始末。その時の顔は、もはやオオカミ。
くるりと、ぼくの顔を見て、ナミダメのチコはぼくに救いを求める。
「お兄ちゃんは、わたしの味方なんでしょ?そうでしょ?」
ここで「違う」なんぞ言ったら…ああ、恐ろしい。

「う、うん。チコの味方だよ」
殆ど脅迫に近いチコの質問に、ぼくは答えると嬉しそうにチコは甘噛みをする。
あきれた母親は、どこかに出てしまった。

ぽつんとテーブルには古いアルバムが残されてあった。母が見ていたのだ。
母方の家のアルバム、幼い母の写真が並ぶ。
いかにも田舎の農村という感じの風景がバックに写し出されているのどかな風景。
母は、とある地方の庄屋の家系の娘。家はかなり大きい。
順々に見ているとふと、あることに気付く。母がある年齢の頃から一緒に写っていた少女がいなくなっているのだ。
その少女が、家族の集合写真にいるということは、母の身内の誰かという事。
姉妹がいたという話は、母や親戚から聞いたことがない。いたとしたら、ぼくやチコの叔母にあたるこの子。

この子は誰だろう。そして、今何をしているんだろう。心なしか、チコに似ている。

「お兄ちゃん!買い物に付き合ってよ」
よそ行きの服に身を包んだチコが、ぼくの背中にのしかかる。
「智世子!もう、外に出るのは、やめなさいって言ったでしょ!」
母の言葉がチコを凍りつかせる。

「やだ!お兄ちゃんと一緒に出かけたいもん!」
背中にのしかかったままのチコ。
チコの涙がぼくの肩を濡らす。ぼくを後ろから抱くチコの手もまたオオカミのもの。
爪がぼくに優しく食い込む。
「わたしの邪魔をする人は、みんな死んじゃえ!!オオカミに噛まれて死んじゃえ!!」
この日から両親は、チコは長期療養の名目で学校を休ませる事にした。

104 名前:いもうとはオオカミ:2009/11/20(金) 18:23:25 ID:blhAizJz
寒さが和らいできた春分過ぎの朝。
ぼくと一緒に通学できなくなったチコは、一人くらい自分の部屋に閉じこもっている。
チコは、ぼくを起こしに来る日がなくなった。
「チコ、いるのか?」
心配になったぼくは、チコの部屋を覗いてみると、チコはベッドの上にちょこんと座っている。
頭から獣の耳が生えたチコの姿が、未だか弱い朝日の逆光でシルエットになっていた。
「どうして、わたしは…。生まれたんだろう…。お兄ちゃん…」
チコの泣き声が聞こえてきた。


そんなチコにとってはゆううつな日々が続く。
午前中は母親の話によると、どんよりと暗く沈んでいるらしい。
話しかけても、チコは取り憑かれたように、ぼくの事ばかり話しているらしい。
そして夕方、ぼくが帰ってくると、ぱあっと向日葵のように明るくなるとの事。
「わたしの人生は、夕方から始まり朝に終わる」
とまで、チコは言い出す始末。
また驚いた事に、ぼくが玄関の扉を開ける前に、ぼくの足音だけでぼくだとわかるのだという。
事実、玄関を開けると同時に廊下の奥からチコが走ってきた事がある。
「お兄ちゃんの音は、ぜーんぶ分かるんだから、逃げちゃだめだよ」
脅しとも受け取れる、恐ろしいチコの台詞。
家から出なくなった事により、チコはいっそうぼくに構いだす。
生まれたてのヒナが、親鳥についていくようだ。ついて来るのは妹だが。
そのため、家で一緒にいる時間が長くなった気がする。

ぼくの安息の時間は、学校だけなのだろうか。
学校での安息は短い。この短い時間は、太田さんと過ごす。
太田さんは、身内と比べるのもなんだが、チコとはまた違うタイプの女の子。
大人しいめがねっ娘で、よく言えば優等生、悪く言えばガリベンなオタクさん。
人付き合いの苦手な太田さん。ぼくは、彼女と隣同士の席になってから、太田さんにずっと話しかけている。
できる事なら、彼女の心の扉を開けてあげたい。

「チコちゃん、大丈夫?」
「う、うん。ちょとね、ぼくも心配なんだけど、太田さんも気を使ってくれてありがと」
太田さんのほうから、人に話しかけることはない。いわんや男子においてをや。
ぼくは、ずっとチコのことを話していたので、太田さんは興味を持ったらしい。
この間、チコが長く学校を休んでいる、と太田さんに話したばかりだ。
しかし、チコはあの状態。無論、会わせる空気は家にはない。

チコは、野生の感が利く様になってきたのか、ぼくが話してない事まで気付くようになっている。
「お兄ちゃん。女の子の匂いがする!」
チコの牙がぼくを襲う。
たしかに、ぼくは今日、太田さんからハンカチを借り、
今度、洗って返すと言った。それで、今ぼくは太田さんのハンカチを持っている。
むりやり、ぼくのポケットからハンカチを引きずり出しチコは匂いを嗅ぐ。
ハンカチには「OHTA」と刺繍が。
「お・お・た?」
ああ南無三!
もちろん、チコは太田さんの事を知っている。しかし、会った事はない。
「わたしをのけ者にしちゃうと、お兄ちゃんを食べちゃうんだから!」
チコの牙は、もはやぼくを傷付ける為だけにしか意味を成さない。
「太田、待ってろよお!」
突然、チコがハンカチを持って家を飛び出した。
外には、満月が浮かんでいる。不気味な月光の浴びながら、ぼくはチコを追いかける。

ハンカチを持って飛び出したという事は…。
考えると恐ろしい。早くチコを捕まえなければ。
ぼくは妹をさがす。そう遠くに言っていない筈だ。
心当たりを走り回ってさがす。必死にさがす。

105 名前:いもうとはオオカミ:2009/11/20(金) 18:24:01 ID:blhAizJz
しばらく探していると、耳が生え、尻尾のある見覚えのあるシルエットが目に入る。
チコが車道に居るようだ。遠くから車が近づいてきた。危ない。
「チコ!待て!」
チコは反射的に遠くに駆け出してしまった。姿がもう見えない。
ぼくは、咄嗟に車道に出る。さらに車が近づく。
気付いた時には、運転手の顔がはっきり見えるくらいぼくは車に近づいていた。

なんだろう…。ゆっくり、周りが動いているな。あまりにもまわりがノロマすぎて笑っちゃうくらい。

そう思っていると、ぼくは、赤く染まったアスファルトの上に寝転んでいた。
深夜ながら周りが騒々しかった。
遠くからぼくを迎えに、救急車が来る。そして、目の前が暗くなった。

ぼくは、病院の庭に居る。
庭には、桜が悲しくなるくらい咲いている。
ここに運ばれてから、病院での暮らしが続く。松葉杖には、もう慣れた。
そういえば、ずいぶんとチコとは会っていない。チコはどこに行ったんだろう。
見舞いに来た両親もチコに会っていないと、心配している。
ぼくらはバカな兄妹だ。親が来ると説教ばかりでウンザリ。
太田さんにでも、見舞いに来て欲しい。

そんな中、思いもよらない来客があった。
ぼくの目の前には、オオカミがいた。
いや、違う。9割方オオカミになったチコがやって来たのだ。
チコの毛皮に覆われた体は血だらけで、着るものは着ていなかった。
「わたしの邪魔をする泥棒猫は、わたしが始末したよ」
チコに付いている血は、泥棒猫の血だと言う。
「太田…さん?だっけ?わたし、必死に太田…さんの家、見つけたんだからお兄ちゃん誉めてよね」

まさか。
チコはにやりと笑っていた。
「でも太田さん、ちょっとお人よし過ぎるよね。『お兄ちゃんから預かった、ハンカチ返しに来ました』って言ったら
すぐ玄関開けるし…。ガブって手に噛み付いちゃったよ。アハハ。でも、番犬が騒いだのは誤算だったなあ」

106 名前:いもうとはオオカミ:2009/11/20(金) 18:24:33 ID:blhAizJz
このときのチコは、心なしか寂しげだった。
もう、人の心を持てる時間はあとわずか。獣の血に逆らえない。
「わたしがオオカミになってしまう前に、喋っちゃお…。
わたしね、聞いたんだ。お母さんに聞いたんだよ。お母さんに妹がいたって事。
その子ね、わたしと同じようにオオカミになっちゃったんだって。
ある日突然、目が変わって、牙が生えて、耳が生え、尻尾が伸び、オオカミに変わってしまったんだって」

チコが力を振り絞って話す。
「でも、お母さんは田舎の人でしょ。田舎ってびっくりするくらい体裁を気にするから
その妹を土蔵に閉じ込めて『居なかった事』にしたんだ。ひいおじいちゃんがそうしろって。
だから、アルバムは途中から居なくなってるの。初めに残ってた写真は、お母さんが必死に隠していたらしいよ。
『見つかったら捨てられるから』必死に隠したんだって。なんだか、さみしいね」
一言一言喋る度に、残酷にもチコのオオカミ化は加速する。四本の脚でないと、もう体を支えられない。
もはや、人間の面影もなくなり、話す声も声帯の変化でかすれてきている。
チコの目から涙が一粒。涙は、ヒトもオオカミも同じ。

「わたしの写真が残っていも、捨てないでね…。いつでも居られる様にね。
いつもちゃんと、お兄ちゃんの側に居てあげるから。お兄ちゃんのこと、わたし…」

とうとう、チコは完全なオオカミになった。今までのように喋る事は二度と出来ない。
チコは何を伝えたかったんだろう。もはや、確かめる事は出来ない。
一匹のただ生きているだけのオオカミが、ぼくの周りでうろうろしていた。

後日、院内でぼくは太田さんに会った。
見舞いに来たのではない。太田さんは、ここの外来患者だった。
「わたし、びっくりしちゃった…。家でオオカミに襲われるなんて。
オオカミって日本には居ないと思ったのになあ。あれは何だったんだろう」
手に包帯を巻いた太田さんは、不思議な体験をしたらしい。
きっと、あの事だろう。犯人の兄として申し訳ない。
「ところで、チコちゃん。大丈夫?」
「う、うん。きょうも元気みたい」

うん。ウソではないよな。
そんなチコは病院の庭で、ぼくがこっそり抜け出すのを尻尾を振って待っている。
もうすぐ、桜が散りだす。


おしまい。

107 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 18:26:53 ID:blhAizJz
投下中にドキドキするやらヒヤヒヤするやらタイトル間違うやら…。

投下は以上なりー。

108 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 19:12:04 ID:G6hL3xGM
肉食系妹か
童話っぽい語り口がいいね
nice boatな結末になるかと思ったら、意外と平和な終わり方だったのは、最後まで妹には人間らしい穏やかな心が残ってたってことか

109 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 21:45:39 ID:0Apr+INU
なんか読みながらドキドキしてしまった。

・・・幸せ、なのかな? 色々と、想像してしまうけど、この後を。
でも、幸せになって欲しいよね。どんな形であれ。

110 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 22:11:03 ID:/AXeESQ9
ハッピーエンドのような、バッドエンドのような……不思議な読後感。
太田さんは食われちゃったのかと思ったら、生きててほっとした

111 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 10:14:59 ID:lacB/bjE
先に感想レスを読んじゃってたけど、楽しめました。

丁寧な一人称の語り口調に、不安を感じたり優しさを感じたり。
上でも書いてあるけど、不思議な感じが後をひくお話だなあと思いました。

あと、太田さんの意外に落ち着いてる感じがかわええw

112 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 22:26:09 ID:8r9N2PUm
これは怖いね
描写も映像的でうまいし、良いものが見られましたな

113 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 00:23:30 ID:f0ZSR5W+
昔、エロパロ板で投稿した非エロの話
ネタは初音ミク

製品版ではなくDTMマガジンに付属されていたお試し版ミクの話。


俺の目の前には少女が佇んでいる。別に誘拐した訳じゃない。
どうやらこれが噂のボーカロイドという奴らしい。
世間は広くなったものだ。
準備をすませた俺は、起動のボタンを押した。
少女は瞬きをすると目を開き、俺を見つめて言った。
「初めましてマスター。私はボーカル・アンドロイドTYPE2初音ミク試作型。
呼びにくければ、ミクとお呼びください」
「へえ、アンドロイドねえ…ひょっとして空を飛べたりするのか?」
俺の質問に、少女は笑って答えた。
「出来ません」
「じゃあ、すげえ怪力とか」
「それもありません」
…何だ、何も出来ないのか。
いや、まてよ、詳細も確かめずに購入する俺も悪い。
俺は何が出来るか聞いてみる事にした。
「じゃあ何が出来るんだ?」
少女は俺の質問に、また笑って答えた。
「私はただ、歌うだけです」
「歌うだけねぇ…。それって意味あるの?」
俺の問いかけに、少女は嬉しそうに笑って続けた。
「はい、歌う事で皆さんの心を安らぐ事が出来ます。歌うだけ、と言いますけど
歌うという事は、鬱屈した気持ちを払うのに充分な効果があります。
私の歌声が皆さんを楽しませる、それはきっと素敵な事なんです」
なるほどねぇ。
「そんなモンかねぇ…。ま、いいか、じゃあ一曲頼むとするか」
「はい!お任せください!」
俺のリクエストに少女は元気よく答え、自慢の歌声を披露し始めた。
しかし……。
ずれてる。調子も外れているし音階もずれている。
彼女が自慢する歌声は、ただの鳴き声にしか聞こえなかった。
「……言っちゃ何だが、あまり上手くはないな」
「はい!当然です!」
俺の言葉に、彼女は元気よく答えた。
こんなに自信たっぷりに言われると、逆にこっちが恐れ入る。
「私はマスターの趣味に応じてテンポや音域を変えることが出来ます。
指示されていただかないと、綺麗に歌う事が出来ません」
なるほどそういう事か。俺がどのように歌うかおしえてやらなければいけないんだな。
「歌うために作られたのに、歌えないなんて変な奴だな」
「えへへ、そうですね。これからよろしくお願いします」
それからコイツと俺との、奇妙な共同生活が始まった。

114 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 00:24:39 ID:f0ZSR5W+
購入して数日後、ミクはまともに歌えるようになっていた。
俺が渡したサントラに合わせて歌う。
一通りの機能は俺も覚えたし、ミクもそれに応えられるようになった。
「だいぶ上手くなったな」
「はい、これもマスターのおかげです」
ミクはニッコリと嬉しそうに微笑んだ。
ミクは本当に嬉しそうに笑う。
よっぽど歌う事が好きなんだろう。
「よっし、歌も出来たし、MAD作って流すか」
歌が出来ると、それを聞かしてみせたくなるのが人の性だ。
幸い、そういう投稿サイトに今は事欠かない。
「そうですね」
俺の提案にミクは笑った。
心なしか、その笑顔がさっきとは違って翳ったような気がした。
「なんだ、あまり嬉しそうじゃないな。お前が歌った音楽がネットに流れるんだぞ」
「嬉しいですけど…私は、見れませんから」
見れない?
どういう事だと思ったが、俺は単純な事実を失念していた事に気づいた。
「そうか、ライセンスが切れるんだっけ」
俺が購入したのはお試し版。
試用期間は動作してから十日間、そう本にも書いてあったな。
俺の心の中を知ってか知らずか、ミクは笑った。
「はい」
「そうか……」
時が経つの早いものなんだな。
柄にもなく感慨にふける俺に、ミクがおずおずと聞いてきた。
「あの……身勝手ですけど、ひとつだけ、ひとつだけなんですけど、……お願いしていいですか?」
そういや、ミクがお願いするのは初めてだな。
色々と歌に注文はしたが、ミクは文句も言わずやってきた。
俺はミクのお願いが何なのか、すこし気になった。
「別にいいぜ、なんだ?」
「あの…ライセンスが切れて、私が動かなくなっても、データを消さないでもらえますか」
俺は、データを一部PCに移していた事を思い出した。
バックアップというか、ミクに歌わせた曲の一覧だ。
「変な奴だな、何でまた」
「あの、その、私は試用期間が過ぎたら動作を停止しますけど、私のデータがそこにあれば
私が居たという事実は残ります。……変な言い方ですけど、私じゃないけど私です」
まっすぐ俺を見つめるミクのお願いを俺は拒否する理由も無く、
当然と言わんばかりに首を縦に振った。
「ありがとうございます」
願いが聞き届けられて、ミクはホッと安堵の息をついた。
まったく変わった奴だ。俺は一つの疑問を尋ねることにした。
「なあオマエ、その、なんだ、消えるのが怖くないのか?」
起動させて十日間、それがミクの活動時間だ。
ただのプログラム。
それはわかってるはずだ、だがしばらく一緒にすごせばそれなりに愛着も湧く。
「怖いです」
はにかみながら、でもしっかりとした口調でミクは答えた。

115 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 00:25:30 ID:f0ZSR5W+
それはそうだろうな。ミクは、コイツは起動した瞬間にすでに寿命が決まっている。
どんなに足掻こうとわずか数日の命。
でもミクは笑っていた。
己の境遇を覚悟してなのか諦めているからなのか、俺にはわからなかった。
「私はただ、歌うだけです。マスターは私と歌った数日、楽しかったですか?」
逆に尋ねてくるミクの質問に、俺は頬を掻きながら答えた。
「まあ……それなりに、な」
少なくとも、つまらなくはなかった。そう思う。
俺の言葉にミクは顔を明るくする。
「じゃあ……」
自分の手を胸にあて、目を瞑る。
まるでそこにある記憶を、かみしめるかのように。
「私は幸せです。私の歌で人を楽しくさせる事が出来た。それだけで、それだけで満足なんです。
私は……歌うための存在だから」
「変わった奴だな」
「えへへ、そうですね」
俺とミクは、顔を見合わせて笑った。

それから俺は、ミクとしばらく過ごした。
曲を作るでもなく、試用停止までの間、ただだらだらと過ごした。
豆腐と葱の味噌汁でミクと一緒に朝食をむかえた。
作曲時の失敗をミクと一緒に語り合った。
街に出て、色んな物をミクに見せた。
店にかかっているサントラに即興で歌をあわせた。
日が落ちて、部屋に戻った後も俺は今までの事を話していた。
「…あとは何があったかな」
話の種を捜している俺に、ミクは哀しそうに笑って止めた。
「マスター」
まっすぐと俺を見つめるミク。
俺はミクが何を言いたいのかわかっていた。
でも、何か話しておかないと、気分が抑えられなかったのだ。
「そろそろお別れです」
はっきりとミクは告げた。
今日は試用期間が終わる日だ。そんな事はわかっている。
でも口に出さなければ、このまま居てくれる様な、そんな気がした。
「もうそんな日か」
「はい、そんな日なんです」
そう告げて、ミクはゆっくりと立ち上がる。
それを見つめる俺に、ミクは幼子を諭す母親のように話す。
「ボーカロイド無料お試し版をお使い頂き、ありがとうございました。
本作品は、ライセンス終了のため、機能を停止します。
興味を持ったお客様は、当社から出ている製品版をぜひご利用になって下さい」
前からわかっていた事、わかり切った事をミクは朗々と述べる。
「でも…お前じゃないんだろ?」
俺の問いかけにミクは答えず、寂しそうに笑った。
「私をご利用頂き、ありがとうございました……マスター」
そういって目を瞑った。
ミクの身体がモザイクをかけたように歪む。
ぼんやりと光り、やがてそれは全身を包む。
しばらくすると、ミクは居なくなっていた。
お試し期間が終わって、プログラムが終了したのだ。
「はは……そうだよな。わかっていた事だよな」
部屋にはポツンと一人、俺がいるだけだった。

116 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 00:26:13 ID:f0ZSR5W+
あれから数ヶ月がたった。
ボーカロイドの存在は、随分世間に認知されてきたように思える。
ネットではそれ関連の動画が流れ、検索をかければかなりヒットする。
俺はミクの動画を見ながら、一人PCの前に座っていた。
俺は、結局初音ミクを購入しなかった。
別に金がなかった訳じゃない。
俺のPCでは可愛らしいPVと共にミクの声が聞こていた。
「……でも、お前じゃないんだろ?」
デスクトップにあるフォルダを見て、俺は呟いた。
あいつはすでにこの世にはいない。
でも確かに、ここにいた。
「……たまには外に出るか」
PCの電源を落とし、俺は外に出ることにした。
鼻歌を歌いながらいそいそと着替える。
歌はいいよな、暗くなった気分を晴らしてくれる。
「うし!」
俺は両手で自分の頬を叩いた。
「今日の夕食は味噌汁にしよう」
口笛を吹きながら、俺はドアに鍵をかけ、街へと繰り出した。

END

117 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 00:27:52 ID:f0ZSR5W+
おまけ

吾輩はカイトである。マスターはまだいない。
どこで道を踏み外したかとんと見当がつかぬ。
PCショップに姉さんと一緒に並んでいた事だけは記憶している。
吾輩はここで始めて人間というものを見た。
しかもあとで聞くとそれはオタクという人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。
このオタクというのは時々我々を見世物にして糧を得るという話である。
しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。
ただ彼の掌に載せられてカートに入れられた時、背中に姉さんの殺気が感じたばかりである。
カートの中でで少し落ちついてオタクの顔を見たのがいわゆる人間というものの見始であろう。
この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。
身体に無駄な贅肉がぶよぶよとついてまるでゴムマリだ。
その後人間にもだいぶ逢ったがこんな片輪には一度も出会わした事がない。
のみならず顔中があまりにぶつぶつと突起している。
そうしてその口から時々ブツブツと何事か独り言を述べる。
どうも気味悪くて実に弱った。
これがオタクの評論というものである事はようやくこの頃知った。
このオタクのカートでしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくするとレジに連れてかれた。
店員があそこに新製品の初音ミクがありますよとぬけぬけとぬかす。
胸が悪くなる。買うなら早くしろと思っていると、どさりと音がして元の場所へ戻された。
それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。
ふと気が付いて見るとオタクはいない。
たくさんあった陳列棚が一つも見えぬ。
肝心の姉さんさえ姿を隠してしまった。
その上今までの所とは違って無暗に明るい。
眼を明いていられぬくらいだ。はてな何でも容子がおかしいと、
のそのそ這い出して見ると非常に臭い。
吾輩はPCショップからゴミ箱へ棄てられたのである。
ようやくの思いでゴミ箱を這い出すと向うに交差点がある。
吾輩は信号の前に立ってどうしたらよかろうと考えて見た。
別にこれという分別も出ない。
しばらくして呼んだら姉さんが来てくれるかと考え付いた。
らんらんるーと試みにやって見たが誰も来ない。
そのうち道路の上をさらさらと風が渡って日が暮れかかる。
腹が非常に減って来た。泣きたくても声が出ない。
仕方がない、何でもよいから食物のある所まであるこうと決心をして
そろりそろりと交差点を道沿いに歩き始めた。
どうも非常に腹が減る。
そこを我慢して無理やりに歩いて行くとようやくの事で何となく人間臭い所へ出た。
ここへ這入ったら、どうにかなると開店しているファーストフード店から、
とある店にもぐり込んだ。縁は不思議なもので、もしこの店に出会わなかったなら、
吾輩はついに路傍に餓死したかも知れんのである。
我永遠にアイスを愛すとはよく云ったものだ。
このお店は今日に至るまで吾輩がアイスを購入する時の御用達になっている。

118 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 00:28:56 ID:f0ZSR5W+
さて腹は膨れたもののこれから先どうして善いか分らない。
思い返せば姉さん譲りの無鉄砲で餓鬼の時から損ばかりしている。
姉妹と同居している時、家の二階から飛び降りて一週間ほど家出した事がある。
なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。
別段深い理由でもない。夕食時台所を覗いたら、妹のミクが鼻歌交じりに
「みっくみくにしてあげる♪」と大量の葱と怪しげな粉を調理していたからである。
ほとぼりがさめて帰って来た時、姉さんがおおきな眼をして、
連絡も無しに何所へ行ってたのと云ったから
「ごめん、アイス食ってた」と答えた。
親類のものから西洋製のマフラーを貰って綺麗な蒼を日に翳して、
姉弟達に見せていたら、レンがマフラーなんて役に立ちそうもないと云った。
役に立たぬ事があるか、何でも出来てみせると受け合った。
そんなら証拠を見せてみろと注文したから、なんだ証拠くらいこの通りだと
達人の波紋を食らいながらも受け流してやった。
残念ながら、人間がすぐ逃げたので、今だにそいつは健在である。
しかしこのカイト容赦せん。
リンの持っている下着をからかったらロードローラーで追いかけられた事もある。
本を借りようと、リンの部屋に入ったら、買って来たばかりのブラジャーが置いてあった。
その時分は誰の持ち物かわからなかったから、鯉のぼりの竿につけて、
「欲しがりませんあるまでは」とのぼりと一緒に掲げて、部屋でアイスを食っていたら
リンが真っ赤になって怒鳴り込んで来た。
たしかレンに濡れ衣を着せて逃れたはずである。
姉さんはちっとも俺を可愛がってくれなかった。
姉さんはミクばかり贔屓にしていた。
ミクはいつも葱をもって、芝居の真似をしてロイツマを歌うのが好きだった。
俺を見るたびに、カイトは押しが足りないと、姉さんが云った。
レンにポジションを奪われちゃったねとミクが云った。
なるほど碌なものにはならない。ご覧の通りの始末である。
行く先が案じられたのも無理はない。ただネタにされて生きているばかりである。

絶望した!兄が尊重されないこの世の中に絶望した!

119 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 14:04:14 ID:IykMRs9a
おwwwまwwwけwww
ボーカロイド関連の人間関係はさっぱりわからないけど、
面白いという事だけはわかったぜw
本編でしんみりしてたのに台無しだw(褒め言葉

本編、擬人化ボーカロイドで考えると、こういう事も
確かにあるよなぁ。最後まで笑ってるお試しミクが
可愛くて切なかった。

120 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 22:08:06 ID:BWwcc34X
エロパロスレに投下した非エロ作品です。
投下しないで悔やむより、投下してから悔やみます。

121 名前::2009/11/30(月) 22:08:44 ID:BWwcc34X
草木が萌え出で、鳥たちが歌いはじめる季節。
人々は、新しい季節に喜び唄い「春」という季節を待ち望んでいたかのように、ざわめき始める。
目の前を、わたしと同い年ぐらいの女子高生達が、サルのようにきゃっきゃと
けたたましく騒ぎながら歩いていった。
一体何が楽しいんだ。わたしが一番嫌いなタイプの人間達。
地上で最もうるさい人類かもしれない。ムカつくなあ。
春という陽気のせいか、それが輪をかけてウザく感じる。
いっその事、わたしの力を使えば消せるのもなんだが、こんな無駄遣いはいやだ。
わたしは、こんな季節が大嫌い。
無くなって欲しいとも思っている。早く冬が来ればいい。

わたしは、ひと気のない桜並木を一人して歩く。
肩から膝下まで伸びた雨合羽のような黒いワンピース。
フードがついているのだが、邪魔なので被っていない。
襟元には、可愛らしい黒いリボンがワンポイント。肩から袈裟懸けのポーチも自慢。
黒猫の化身の名残のネコミミがわたしには生えている。もちろん、尻尾も。
こげ茶の編み上げブーツで歩くたびに、落ちた花びらがふわりと舞い上がる。
落ちてきた桜の花びらが、ぺたりとわたしのメガネにひっつく。そんな、桜の季節をわたしは、忌み嫌う。
できれば死神の証、大鎌でぶんと、桜の枝をなぎ払ってやりたいくらいだ。
尤も、最近では、市中は危ないと言うので鎌は天上界の自宅に置いてあり、
代わりに、先に大きな輪がついた杖を肩に掛けて持ち歩いている。
「なぜ、桜は咲くんだろう…」
当たり前のような疑問がふと、頭によぎる。
生暖かい春風が、栗色のくせっ毛ボブショートをふわりと揺らす。

わたしが、嫌う公園の桜のアーチを歩く中、一人の男が池を見てたたずんでいる。
彼は、時代を五十年程遅れてきたような着物姿で、なにか物憂げな雰囲気を漂わせる。
「うん。この人にしよう」
彼のたもとにすっと立つ。彼は、私のことに気付いているようだが、わたしに振り向く事はまだしない。
「桜がきれいですね」
わたしは、人間に話しかける時の常套句を使って、接触を試みる。
もちろん、個人的にはこんな言葉を使うのは、反吐が出るほど大嫌い。
しかし、わたしの本分のためなら、仕方あるまい。

「桜は、嫌いだよ」
彼は、予想外の言葉を返してくる。
「桜は、人の心を悲しくさせる。彼らも、咲きたくて咲いてるんじゃなかろうに」
「…わたしも、桜は嫌いです…」
わたしは、彼に非常に興味を持った。
「わたしですね。死神なんです」

122 名前::2009/11/30(月) 22:09:22 ID:BWwcc34X
思い切って、自分の正体を明かしてみる。意外にも、反応は薄かった。
「面白い事をいうね、死神に初めて会ったよ。いい思い出になった」
わたしのネコミミがくにーと垂れる。今までにあったことのないタイプの人間に少し戸惑う。
どのように、対処すればいいんだろう。そんな、マニュアルは一切ない。
「わたしのこと、疑わないんですか?どう見てもおかしな人ですよね?耳もヘンだし…」
「疑う理由が見つからない」
そんな彼に、ますます興味を持つわたし。

「死神って、ドクロの顔をしてたりして、怖いイメージだと思っていたけど、
君を見ていると『死』というのが怖くなるね。むしろファンタジア、幻想的だ」
「相手を引き込む作戦です。ただ、天上界と地上界では少々、感性が違うようで…」
「ぼくも、よく『人と違う』って言われるから、きみの寂しさは良く分かる」
彼は、そんな事を言いながら、ぶんと池に小石を投げ入れる。
わたしも真似をして、ぶんと池に小石を投げ入れるが、足元でポチャンと落ちてしまった。
「そういえば、わたしの名前を言ってませんでしたね。
『紫』といいます。むらさきとかいて『ユカリ』。あなたはなんていうんですか?」
「『長谷部』といっておこうか。これ以上は言えないな」
といい、下駄を鳴らしながら去っていった。
長谷部が投げた小石がまだ、水面を切って跳ねている。
うん、彼にしよう。わたしは、ぐっと手を握り締め、心に決める。

次の日。今朝は、ダンボールの家のおじさんから、小さなおにぎりをもらった。
人の温かさに触れた肌寒い朝。おじさんも、天上界にいけますように。
この日の午後も、長谷部と同じ場所で出会った。ウグイスが遠くで鳴いている。
「長谷部さんは、よくここにこられるんですか?」
「ふふふ。ここしか来るところがないのさ」
人のことを言えた義理でもないのだが、身なりからして、彼が気ままに生きている事が分かる。
「そういえば、紫さんは『死神』とか申してたね」
「はい。わたしは『死神』です」
「きみを見る限り、どうも人を恐怖に陥れる悪いやつに見えない。
むしろ、ぼくらの友達としてこの世界に来てるんじゃないのかな?」
わたしの血が一瞬引いた。
ネコミミもくるりと警戒し、尻尾がわたしのお尻に隠れようとする。

「…わたし達の仕事は、地上界の者を天上界に迎え入れる事です。
地上界では『死』といい、無に帰る意味になりますが、わたし達の世界では天上界に戻り、
永遠に生き続ける意味になるんです。つまり、分かりやすく言うとエリートです」
「なるほど」
「むしろ、死神に見放された人たちは、かわいそうな人たちです。
天上界にも行けず、グルグルと地上界に後戻り。なんでも輪廻転生って言われているらしいんですがね。
『あなたの前世は天草四郎だった』とか言って、人間同士で騙そうとする人間もいます。
決して前世があることは良い事じゃないんですよね。むしろ、不幸せな人たちです。
『お前は、天上界ににどとくんな』って。…ごめんなさい。少し難しいお話になっちゃいましたね」
「ははは、構わんよ。ぼくも、よく『何を考えているか分からないから、話にならない』とよく言われる」
彼は腕を組みながらケラケラと笑った。
ますます、彼に興味を持った。彼こそが、天上界にふさわしい人物かもしれない。


123 名前::2009/11/30(月) 22:09:54 ID:BWwcc34X
わたしは、天上界からの使者。上役への報告義務がある。
そろそろ、上役に報告をしなければいけない。とても面倒だ。ゆううつだ。
また、お説教されるんだろうな。春の陽気が輪をかけて、わたしを陰鬱にさせる。
どんな水面でもいい。その水面をちょんと杖の先でつつくと、水面が大きな画面になり、
相手が浮かび上がる。天上界にいる上役に直接会話が出来る仕組みだ。
もちろん、人間達には、その水面の画像を見る事は出来ない。

「亜細亜州日本国東京。0024番の紫です。定期報告をいたします」
水面にはわたしより若干年上のお姉さんが映る。彼女もまた死神。
同じく、黒猫の化身の証、ネコミミが生えている。
「紫さんですね。突然で申し訳ないんですが、あなたがこの間、天上界にご案内した
東京都の『小椋ひいな』さん。地上界日本国滋賀県琵琶湖のフナに戻る事になりました」
「…えっ」
厳しい口調でお姉さんが、紫を責立てる。
一ヶ月ほど前、紫が天上界に連れて行った、女子中学生の名前であった。
学校でいじめられて、地上界で生きるのが嫌になり、公園で出会った紫と話しているうちに意気投合。
そんな彼女を哀れに思い、天上界に連れて行ったのだ。死因は、睡眠薬の多量摂取となっている。
「彼女はあまりにも天上界での素行が不良で、大審院からこの世界にふさわしくないと判断され
彼女は、もう一度地上界に戻ってもらう事になりました。わたし達としても非常に遺憾です」
地上界で性格の悪い子は、天上界でも変わる事が出来なかったのか。
話した感じ、いい子だと思っていたのに。わたしは自分の力不足を恨んだ。
「…はい。ごめんなさい」
天上界でのわたしの査定は、このことにより大きく響く。
わたしの同期の死神たちはどんどん出世して、天上界でバリバリ働いているというのに
未だに地上を駆けずり回る、初心者レベルの仕事をしているのだ。
なので、同期の奴らは、みんなわたしの事をバカにしている。
不器用なわたしは、泣きたくなった。わたしは弱い死神なのだろうか。

首をうなだれ、暗くなったわたしを慰めるように、お姉さんが優しく語り掛ける。
「大丈夫。まだまだ、あなたは若いんです。ところで、最近の調子はどうですか?」
「…まずまずです。それより、調べて欲しいことがあるんですが…」
「はいはい。なんでも言ってみて下さい。力になりますよ」
「ある、人物の名前なんです」

わたしたちが、活動するには必要なもの。それは、天上界に召す人物のフルネーム。
これが分からないと、わたしたちは手も足も出せない。
そこで、天上界の本部に調べてもらい、わたしたちは円滑な活動をするのだ。
わたしは、長谷部のことを話した。いつ、どこで会ったか。どんな風貌かを詳しく説明する。
本部では、わたしの行方と行動で、接触した人物を調べるのだが、
何せ、地上の人間の数を考えると時間がかかるのは必至。気長に待つしかない。
「わかりました。ある人物の名前ですね。リサーチするには、時間がかかるので、
そちらでは活動を進めてください。次の定期報告の時にお教えできると思います」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
定期報告を終えると、水面は元に戻り静けさを取り戻した。

124 名前::2009/11/30(月) 22:10:30 ID:BWwcc34X
石を投げつけたくなるくらい、青空が美しいある朝。
わたしは、料亭のゴミ箱から拾ってきた、ある宴会料理の残りを公園のベンチで貪り食っていた。
エビや魚のフライ。朝っぱらから脂っこい料理だが、おなかを満たすためには、仕方がない。
こういうことをするヤツらが、天上界に来るとわたしはムカつく。
天上界の品格が落ちてしまうし、フライになる為に命を落とした、エビや魚たちが浮かばれない。
食い残したやつはみんなエビになれ。エビになってフライで揚げられて、食われてまたエビになれ。
そして、天上界には決して来るんじゃない。

そんな、死神の文句をたらたら流していると、わたしの脇に、雑誌が忘れ去られているのを見つけた。
本には、さらさら興味がないのだが、今日は不思議と気にかかる。死神に魔が差した。
時間も腐るほどあるし、パラパラとめくる。
表紙は下品、地上界のありとあらゆる下世話なこと書かれており
決して手にしようとは思わないものだった。しかし、わたしが一番興味を持ったのは
4ページ程の短編小説。一話完結の話のようだが、わたしは、このページにのみ惹かれた。
なぜ、こんな上品な文章がこのような雑誌に載っているのだろうかと思うほど、美しい文章。
小説というものは初めて読む。しかし、この文章はわたしに共感しやすいのか、すらすらと読むことが出来る。

数分後、わたしは、生まれて初めて小説を読破した。
なんだろう、この快感。すっとする気分。うーんと伸びをしてみる。
人間達が、やれベストセラー、ロングセラー、そして映画化決定と興奮する理由がわかってきた。
この小説の筆者らしき名前が始めに載ってある。
「津ノ山修」かあ。覚えておこう。
わたしは、津ノ山修の本を探しに本屋へ行く。こんな場所ははじめて行く。
必至に探すが、あまり人気のない作家なのか著作が見つからない。
とりあえず、見つけた一冊を購入する。地上界の金銭は念のためにと、天上界から支給されている。
わたしは、それ以降、津ノ山先生の作品にどっぷりはまった。出来れば毎日読んでいたいくらいだ。
もっと読みたいと思い東京中探しても、あと一冊ほどしか見つからなかった。
彼は、まだまだ無名らしい。これから大きな名前になってくるのだろう。
わたしは、いつでも読めるように、二冊をポーチに入れて持ち歩くことにする。
わたしは、期待している。きっと、将来すごい作品を読ませてくれることを。

今日は、定時報告の日。わたしは商店街を歩いている。
世間は日曜日なのか、人通りが結構ある。午後のうららかな日。
電器屋のテレビはクイズ番組を映し出していた。
「今日は、ある人物を当てていただきます」と司会者である紳士の声がする。
そうだ、思い出した。長谷部のフルネームを教えてもらう約束だった。
いそいで、水面がある場所へ急ぐ。
路地裏に、水の入ったバケツがあった。一目がないのを確認して、ちょんと水面を突付く。
「お疲れ様です。調子はどうですか」
「はい、順調です。その、この間の事なんですが…」
「はいはい。ちゃんと調べておきましたよ。彼の名前は『長谷部龍二郎』ですね」
「『はせべりゅうじろう』…。ありがとうございますっ!」
「彼は、私たちの調査では品格良好で、天上界でも期待されていますよ。頑張ってください」
「はいっ!がんばります!!」
「この仕事が認められると、あなたも次のランクに上がるチャンスですので
わたし達も期待しています。では、仕事を続けてくださいね」
わたしは、このとき死神になって初めて仕事のことで笑ったと思う。
陰鬱な春が少し、いつもより暖かく感じる。

125 名前::2009/11/30(月) 22:11:04 ID:BWwcc34X
曇りがちの月曜日。雨が今にも降りそうなのだ。
だが、そんな天気がわたしは大好き。大雨なんかになると、これ以上ない喜び。
世間も少しどんよりしている。わたしの気持ちも少し楽になる。
いつもの池のほとりで長谷部に会う。
彼はいつものように、飄々としてたたずんでいた。わたしは、いたずら心で少しおどかしてみる。
「わっ!こんにちは!」
「なんだ、紫さんか」
反応は薄かった。しかし、長谷部の顔は少し笑っているように見える。
そんな長谷部は、わたしにいきなり思ってもいなかったことを言い放つ。
「ぼくは、君の言う『天上界』に興味を持ったよ。今すぐ、連れて行ってくれないか?」
なんという、とんとん拍子。わたしのネコミミがぴんと立つ。
上手くいくと、初めて仕事で誉められるかもしれない。そう考えるとわくわくする。
同期のバカどもを見返してやるぞ。
「…本当ですか?覚悟はいいんですか?」
「ああ。こうして生きてゆくのも、ちょっと飽き飽きしてきた頃なんだ。
ぼくには、この地上界が狭すぎる。窮屈さ」
「では、早速準備します!ところで、あなたの名前は…えっと『長谷部龍二郎』さんですね!」
不思議と長谷部は驚く気配もなかった。
「ははは。そうだよ」
わたしは、すこし頬を赤らめて興奮している。ネコミミも絶好調。

「後悔は、ありませんね」
「うん、はじめてくれ」
「…では、契約を…始めます」
桜の花に囲まれながら、わたしの仕事が始まる。人間をいわゆる「あの世」へと送り出す尊い仕事。
「はせべ・りゅうじろう、下賎なる地上界に営み続ける魂を天上界に送らんと…」
わたしは、必至に長い長い呪文を唱える。天上界への道を開く為の呪文。
長谷部は笑って立って見つめている。
「神に近づかん事を願う!!」
ぶんとわたしの杖を体いっぱい使って振ると、杖は鋭い剣に変わる。

刀身は、およそわたしの背丈と同じ長さ。細く鋭く、まるで氷のように冷たく見える。
「…ほんとうに、後悔はないんですね」
「…わくわくしてるよ。楽しみだなあ」
わたしは、剣を両手でしっかり持って構える。体が震えて、刃先も一緒に震えている。
「いき…ますよ…」
長谷部はうなずく。
「…」
わたしの心臓がいつもより激しくうなっているのが、耳の後ろの動脈の音で分かる。
次の段階に、なかなか一歩が進み出せない。足元がすくむ。勇気が欲しい。

わたしは、上を見上げると桜の花が咲いているのが一面に見えた。
憎らしいぐらいに美しい桜。その、桜への憤りを思いっきりわたしの剣に託す。
「にゃああああああ!!」
わたしは剣で、長谷部の首筋をぶんと斬り付けた。
ぱっと、桜の花びらと一緒に赤い血が霧のように飛び散る。
わたしには、ゆっくりと舞う赤い玉が美しく見えた。後戻りは出来ない。

126 名前::2009/11/30(月) 22:11:35 ID:BWwcc34X
が、これは実際の長谷部の血ではない。事実、彼はニコニコしながら未だに立っている。
地上界の醜く淀んだものを、瀉血させているのだ。天上界に、余計なものを持ち込まぬように。
この技術次第で、天上界での品格が出来上がる。
前回は、この技術が余りにもお粗末だったため「小椋ひいな」のような失態が起きたのだ。
が、今度は手ごたえがある。長谷部のために全力で斬り付けた。もう、失敗は出来ない。
わたしが、見込んだ人間だから幸せにしてあげたい。

刃先に血のついた剣が落ちる音が響く。
「もう、これで…戻れませんよ…」
わたしは、俯いて今にも吐きそうな気分になった。立ちくらみがする。
かなりの体力を使うため、わたしは今にも倒れそうなのだ。
「これから、24時間以内にあなたは死にます。死因は、わたしにも分かりません」
「ありがとう」
「…このあと、わたしは契約を結んだ者と会うことが許されません。
次に会うとしたら、天上界ですね。尤も、わたしがそちらに行く事ができればですが…」
「ははは、そうかい。すっきりしたよ。じゃあ、また会う日まで」
「待って!」
わたしは、長谷部の胸元に飛び込んだ。初めて、男性の暖かさを知る。くんくんと匂いを嗅ぐ。
「…幸せになってくださいね…」
何故だろう、目頭が熱いぞ。こんな感覚初めてだ。
人と別れることは、仕事上慣れっこのはずなのに、何故か今日はそれがやけに切なく感じる。
寂しいのかな。長谷部にぎゅっと抱きつけば抱きつくほど、わたしの心臓の音が激しく聞こえる。
「天上界での幸せは、わたしが保証します」

そういえば、この気分の高まりは、初めて津ノ山先生の本を読んだ感覚に似ている…。
小さなわたしの胸が痛い。

仕事を終えた翌日。わたしは、公園のゴミ箱で雑誌を拾う。
以前拾ったものと同じ雑誌の最新刊。相変わらず下品な表紙で、下世話な記事で埋め尽くされている。
そんな中、唯一ほっとするのが津ノ山先生の作品だ。
これの為だけに、読み漁っているようなもの
なんだか、内容が身につまされるものだ。死神なんぞ出てきている。
自分のことが書かれているみたいで、不思議な感じがするが、彼の上品な文ですっと読むことが出来る。
やはり、もう彼の文章の虜になっている。はやく次回作も読んでみたい。
しかし、その気持ちはガラスのように打ち砕かれる。

127 名前::2009/11/30(月) 22:12:07 ID:BWwcc34X
「※津ノ山修先生は、先日亡くなられました。ご冥福をお祈りします」
ページのはみ出しに、小さく書かれていた文字は、わたしを凍りつかせた。
メガネを拭いてもう一度見てみるが、文章は変わらなかった。
津ノ山先生が死んだ。
死に携わる仕事をしているとはいえ、わたしのショックは大きい。もう、珠玉の文章を味わえないなんて。
その日の夕刻、とぼとぼと商店街を歩いていると、電器屋のテレビで津ノ山先生の訃報が報じられていた。
淡々とニュースキャスターは話す。
「昨夜、作家の津ノ山修さん(35歳)が池で亡くなっているところが発見されました」
もう、そのニュースは悲しくなるからもういいよ、と思っていたところ、キャスターの声を疑った。
「津ノ山修さん、本名・長谷部龍二郎さんは…」
画面に生前の写真が映る。どう見ても、長谷部の顔だ。
わたしの血が全て冷え固まった。

定期報告の義務があるため水辺に向かう。場所は、長谷部もとい津ノ山先生と出合った池にする。
本当はそんな元気もないのだが、義務は義務。
いつものように、ちょんと池の水面を杖で突付く。
「亜細亜州日本国東京。0024番の紫です…。定期報告を…いたします」
「紫さん。やりましたね。天上界でも大喝采ですよ」
「…はい」
お姉さんは満面の笑みで話しかけてきた。なのに、わたしの気分ったら暗く沈んだまま。
「今回、ご紹介頂いた長谷部龍二郎さんは将来、天上界でも期待できる人材です!」
なんだろう。仕事で誉められてるのに、ちっとも嬉しくもないぞ。悲しみと怒りしか浮かばない。
「もちろん、紫さんの評価もかなり上向きに…」
「うるさいっ!もう、黙ってよ!!」

わたしは、お姉さんに声を荒らげてしまった。
出世なんか、どうでもいい。天上界の奴らも、もう好きにしろ。
メガネを外し、わたしは涙をぬぐう。
お姉さんも困っている。
「…とりあえず、ほうこくをおわります…」
兎に角、何も話したくないわたしは、無理矢理報告を終わらせその場でしゃがみこんだ。

わたしは、この夜ここで一晩過ごした。
津ノ山先生の本を抱いたまま、泣いて過ごした。
朝は、問答無用にやってくる。相変わらず桜が咲いている。
光が、わたしの気持ちを逆なでするかのように浴びせられる。
やっぱり、春は嫌い。桜はもっと嫌いになった。


おしまい。

128 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 22:14:14 ID:BWwcc34X
続編も書いたんだけど、エロパロ板故えっちいシーンがあるから投下できましぇん!

投下はおしまいナリよ!

129 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 22:22:42 ID:1zi32E7t
ほほぅ、物語としては何か物悲しくてよい感じだね。

もちっとそれぞれの要素、例えば、見込んだ人間が
自分が一目惚れした文章の書き手だった事とか、
元々猫の化身だったりした事とか、そういうのを
上手く組み合わせたり外したりしたら、もっと読みやすく
なるんじゃないかな。

後悔先に立たずとは言うけれど、自分の手で自分が
好きになったかもしれない人を送ちゃったとか、悲しいよねぇ・・・。

130 名前:創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:30:13 ID:hmzmAO29
初めまして。他のスレに昔投稿したパロロワですが、感想くださると
嬉しいです。
よろしくお願いします。

ttp://karen.saiin.net/~owaraibr/br/index.php?095
ttp://karen.saiin.net/~owaraibr/br/index.php?103
ttp://karen.saiin.net/~owaraibr/br/index.php?109
ttp://karen.saiin.net/~owaraibr/br/index.php?116

IDはowarai、パスワードは2006です。

131 名前: ◆91wbDksrrE :2010/01/17(日) 17:35:23 ID:3zL/4bgT
 私はパソコンの画面を見ながら首をかしげた。
「甘い……?」
 なんで男の人と女の子がちゅーすると甘いんだろ?
 女の子は甘いの好きだから? 好きな人とちゅーすると、甘い……とか?
 ……なんでなんだろう?
「おーい、お前炭酸駄目だったからリンゴジュースで……って何見てんだっ!?」
「え? なんか小説みたいなの載ってたサイト……見ちゃダメだったの?」
「え、あ、お、あ、うー、あー……その、だな、お前にはまだ早いんだ、これは」
 タクちゃんは何故か慌てている。
 ……勝手にパソコン見られて、イヤだったのかな?
「ごめん、タクちゃん。勝手に見ちゃって」
「あー……べ、別に謝るこたないぞ。ただなあ、もうちょっと大きくなってから
 じゃないと、そこ見たら怒られちゃうんだ。だから、もう見ちゃ駄目だぞ?
 約束できるか、瑞乃?」
「タクちゃんは怒らないの?」
「あ、ああ……最初に言ってなかった俺も悪いしな。それに、別に変なものを
 見たわけじゃないだろ?」
「うん」
 私は首を縦に振った。
「ならいいんだ。……約束、できるか?」
「……約束する、わたし」
「よし、いい子だ」
 タクちゃんは、悪い事をした私の頭を撫でてくれた。
 もう悪い事をしないと約束したからかな? 何だか嬉しい。
「で、リンゴジュースでよかったか?」
「うん。リンゴジュース好き」
 私はリンゴジュースの入ったコップを貰い、一口飲んだ。
 甘くておいしい。
 ……私がリンゴジュースが好きだから、甘いのかな?
「ねえ、タクちゃん」
「なんだ?」
「好きな物だから甘いって感じるのかな?」
「ん? リンゴジュースのことか? ああ、多分そうなんじゃないか?」
「好きな人でも甘いの?」
「ブボォォォァ!?」
 タクちゃんは、何故か飲んでいたコーラを噴き出してしまった。
 ……なんでだろ。
「……瑞乃、お前、変なもの、見てないんだよな?」
「うん、見てないよ」
「じゃあ、何を見たんだ?」
「男の人が女の人とちゅーしたら、周りの人が甘い甘いって……」
「……」
 何故かタクちゃんは頭を抱えて身もだえしている。
 ……変なの。
「……あのー、ですね、瑞乃さん? 男の人と女の子がちゅーしてるのは、
 十分『変な事』じゃないかなー?とか思うんですけどー?」
「別に、ちゅーくらい変でも何でもないよ。昨日も絵里ちゃんとしたよ?」
「どこに?」
「ほっぺに」
「………………」
 ……タクちゃんは安心したような、がっかりしたような、複雑な顔で
また頭を抱えてる。
 ……やっぱり変なの。
「けど、絵里ちゃんにちゅーしても、甘くなかったの。やっぱり男の人と
 しないと駄目なのかな? 好きな人としないと駄目なのかな?」
「……さあ、それは何とも」
「……タクちゃんとしたら、甘いかな?」
「いぃぃっ!?」
 何故かタクちゃんは飛びあがるように驚いて……あ、また頭抱えてる。
「タクちゃん、男の人だし。私、タクちゃんの事好きだよ?」

132 名前: ◆91wbDksrrE :2010/01/17(日) 17:35:42 ID:3zL/4bgT

「ほっぺだと駄目かもしれないから、口でした方がいいのかな?
 どう思う、タクちゃん?」
「……あのなぁ、瑞乃大人をからかうのもいい加減にしなさい」
 あれ? タクちゃん、何か怒ってる?
「そういう事は、ちゃんとホントに好きになった人と、ちゃんとした場所で
 しなさい。好奇心だけでしたら色々と後悔するぞ?」
「タクちゃん、後悔したの?」
「後悔するどころか、今までそういう事した事ありませんが何かっ!?」
 ……あ、怒ってる。私、何か悪い事言っちゃったかな……。
「じゃあ、私としよ?」
「だから」
「タクちゃんだからしたいんだし」
「うっ」
「タクちゃんじゃないと、こんな事言わない。他の男の人となんて、絶対イヤ」
「………………」
「それでも、駄目?」
「……真面目なくせに、一度興味を持った物に対する執着だけは
 強いんだからなぁ……ホント、なんでこんな風に育っちゃったんだか」
 タクちゃんは頭を抱えながら何か呟いている。
 駄目なのかな? ……あ、そうか、私がタクちゃんの事好きでも……。
「ごめん、タクちゃん。私、自分の事だけ考えてた。私がタクちゃんの事好きでも、
 タクちゃんが私の事好きかどうかわかんないもんね」
「……」
「……タクちゃんは、私の事、好き? 嫌い?」
「………………」
 タクちゃんは、そう尋ねた私の事を、黙ったままずっと見てる。
 半分呆れたような、半分嬉しいような、不思議な顔で。
「……瑞乃」
「……何?」
「後悔、するなよ?」
 ……!
「うん!」
 タクちゃんは、私の事好きなんだ!
 良かった! 嬉しい!
「じゃあ、こっち来て」
 私は手招きされるまま、タクちゃんの膝の上にちょこんと座った。
「ちょっと顔上向けて……ホントに、いいんだな?」
「うん……タクちゃんとなら、いいよ」
「……じゃあ、いくぞ」
 私は目を閉じた。
 少しずつ、タクちゃんの顔が近づいてくるのが何となくわかる。
 段々、段々、近づいてくる。
  ちゅっ
 そして……温かい何かが、私の唇に、触れた。
「………………」
「………………」
 十秒くらいかな? もっとかな? 温もりが、私の唇に宿り続ける。
 そして、離れていった。
 目を開けると、顔を真っ赤にして私を見てるタクちゃんがいた。
「……甘かった?」
「……よくわかんない」
 よくわからないけど、私は何だかドキドキしていた。 
「わかんないから……もっと、して欲しいな……」
 あ、タクちゃんがまた頭抱えてうずくまっちゃった……。

133 名前: ◆91wbDksrrE :2010/01/17(日) 17:36:11 ID:3zL/4bgT






 ――次の日。
「というわけで……キス、しちゃった」
「えー、いいなぁー、瑞乃ちゃん。私まだなのにぃ」
「甘いかどうかはよくわからなかったけど……凄くドキドキして、
 何だか気持ちよかった、かも」
「うぅ……羨ましいなぁ」
 仲良しの絵里ちゃんに、昨日タクちゃんとした事を報告すると、
絵里ちゃんは凄く羨ましがっていた。
 そういえば、絵里ちゃんにも素敵なおにいさんがいるんだっけ。
「絵里ちゃんも、きっとできるよ、おにいさんと」
「……まあ、かいしょーなしだからねぇ、カッちゃん……で? で? その先は?」
「先?」
「そうよ、もっとエロエロなことがあるでしょ!?」
「……よくわかんない」
「なによぉ、せっかくキスしてもらえたのに、続きは無し?」
「じゃあ、教えて?」
「教えてあげてもいいけど……せっかくだし、おにいさんに教えて
 もらえったほうがいいんじゃないかな?」
「……そうか。そうだよね」
 その日、タクちゃんに『○○○ってどうやるの?』って聞いたら凄く怒られた。
 もう少し大きくなってから、と言われたから、早く大きくならなくちゃ。

                                            -終わり-

134 名前: ◆91wbDksrrE :2010/01/17(日) 17:36:34 ID:3zL/4bgT
ここまで投下です。

135 名前:創る名無しに見る名無し:2010/03/27(土) 17:27:30 ID:BY9bTQQO
2010/03/28投下。求む感想
http://uproda.2ch-library.com/lib229804.txt.shtml

136 名前:創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:40:11 ID:sCoEYg7t
某ぴんく板に投下した非エロものですが、こちらへ再投下

スレの賑やかしになれば、と思い別スレ投下です
下記リンク↓
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1271816245/l50

137 名前:創る名無しに見る名無し:2010/05/14(金) 22:28:09 ID:jPMaHVWN
魔法を使わぬ魔法使い

俺は悪い人間だった。小さいころから乱暴者として恐れられていたし、学校でも、先生に目の敵にされていた。

そのおかげでいつも一人ぼっちだった。心の隙間を埋めるため、さらに悪事を重ねた。しかし、不思議なことに、悪事を重ねれば重ねるほど心の隙間は大きくなった。

もちろん、オレみたいなやつは成長してもろくな人間にならない。
十数年もすれば、立派なギャンブル狂になった。
いつもいつも金が足りなくて、困っていた。金貸しは血眼で、逃げ回る俺を探しまわった。

ある日、決めた。銀行強盗をすることに。

そして、ついに銀行から金を奪ってしまった。

銀行でたくさんの金を奪い、なんとか警察を振り切ったとき、目をくらませるために、ある一軒の民家に侵入することにした。

しかし、この民家にだけは入るべきではなかった。
このときに俺の人生は変わってしまったに違いない。隣の民家に侵入してさえいればよかったのだ。
あの家の扉は地獄の門だった。
それとも、邪悪な魔法使いの家の門というべきだろうか?あれを開けた瞬間、俺の人生は暗転したのだ。

ここを開けさえしなければ、俺の命は助かったのかもしれない。


138 名前:創る名無しに見る名無し:2010/05/14(金) 22:29:05 ID:jPMaHVWN
俺はその家の玄関わきになぜか置かれている、黒いベールの掛けられた黒い箱をわき目に、乱暴にドアを開けた。


すると、家の中には一人の痩せた男が立っていた。おそらくその家の主人なのだろう。
俺はすさまじい顔をしながら拳銃を突きつける。
「ちょっと待ってくれ!撃つな!君を逃がしてあげるから!」
痩せた男は蒼白な顔で叫んだ。
「僕には家族がいるんだ・・・。海外にね。愛する者のためにも、まだ死ぬわけにはいかない。」
痩せた男はそう付け加える。しかし、俺は焦っていた。銃を突き付け、本当か?と叫ぶ。
痩せた男は答えた。
「家の玄関のわきに黒いベールに覆われた、黒い箱があったろう?あの箱は、今度、海外の別荘へ運び込む予定の箱なんだ。運び入れるのは宅配業者だから、勝手に中を覗いたりはしない。」
俺はごくりと唾を飲み込む。そして「それで?逃がしてくれるなら生かしてやる!」と叫んだ。
「だから君はそこに入っていればいい!そのまま待っていれば、運送業者が海外まで運んで行ってくれる。」
痩せた男はそう言い終えた。

「そうか、そうか。そりゃいい。」
俺は鬼のような恐ろしい顔でにやにやしながら言う。
「でも、俺の目撃者がこのまま生きてたんじゃ困るよな?お前が通報して、俺が空港を出た瞬間に捕まるかもしれない。」
そして、ゆっくりと引き金に力を込める。

139 名前:創る名無しに見る名無し:2010/05/14(金) 22:32:10 ID:jPMaHVWN
痩せた男の顔は一層、蒼白になった。そして意を決した様子で言った。

「実は、僕は偉大なマジシャンの弟子なんだ・・・。もし嘘をついたら、君は罰を受けることになる。僕の魔法によって、剣を持った筋肉隆々の男達が召喚され、大勢の見物人が見守る中、君は断罪されるだろう。」

俺はそれを聞いてゲラゲラ笑った。魔法だって?あまりにも突飛な脅しだ。いや、脅しにすらなっていない。こいつはファンタジー小説の読みすぎなんじゃないのか?
痩せた男はなおも続けた。
「彼らに正直に罪を告白すれば、人道的な方法で罰してくれる。彼らに最後まで罪を隠したなら、残酷な方法で罰せられる。」
痩せた男は疲れた顔に笑みを浮かべた。
「これは君への復讐なんだ・・・。僕を裏切った君は罰を受ける。魔法はもう効き始めてるんだ。僕を逃がしてくれれば、まだ助けてあげられるんだけどね。」
俺はその言葉を最後まで聞くことなく、痩せた男の顔に向かって引き金を引いた。



140 名前:創る名無しに見る名無し:2010/05/14(金) 22:33:24 ID:jPMaHVWN
俺は黒い箱のなかへ逃げ込んだ。黒い箱のなかでほっと一息をつく。奇妙な表現だが、なかなか入り心地のいい箱である。狭すぎず、広すぎない箱だ。まるで、普段からだれか

俺は疲れていたので、すこし眠ることにした。今日はすこし働きすぎたのかもしれない。うとうとしていると、ふいに箱が持ちあげられる感覚がした。やっと宅配業者が取りに来たのだろう。


「紳士織女のみなさん!Mr.フーディのマジックショーへようこそ!」
やかましい声がすぐ隣でそう叫んだ。その声で俺は目を覚ました。やかましい声はさらに続ける。
「最初にお見せするマジックは奇跡の脱出です!」
俺はそれを聞いて、すっと血の気が失せていくのを感じた。
「私がまずこの黒い箱に入ります。私が入ったあとで、なんと、助手たちが何本もの長剣をこの箱に思いきり突き刺してしまいます!」

それから、小声でMr.フーディはつぶやく。「くそっ。助手の痩せた男はなにをしているんだ?今日はあいつも舞台に立つはずじゃなかったのか?」

観客達の大歓声が聞こえる。
俺は完全に混乱した頭で選択しなければいけなかった。
ここを出るべきなのか。しかし、あっという間に不審者として捕まってしまうだろう。
罪を償わなければならなくなる。
それとも、じっと待ち続けるのか。
しかし、鉄の刃はすぐそこだ。考えれば考えるほど混乱した。
ふと、脳裏に、俺が殺した痩せた男の顔が浮かんだ。
「それでは、箱の中に逃げるスペースがないことをお見せするため、実際に長剣を刺してみましょう・・・。」
そう言い終えたMr.フーディは、小声で剣を持った屈強な助手たちに「おい、やれ!」と言った。


指示を受けた助手達が、それぞれ、大きな剣をゆっくりと振り上げた。
観客は大きな声で歓声を上げる。

黒い箱のなかでは、男が押し殺した声で泣いていた。


141 名前:創る名無しに見る名無し:2010/06/07(月) 21:50:21 ID:pyhq0F/r
>>113
(半年も前なので、今更ですみません)

切ない感じが、すごく良いなぁと思いました。
ミクも、とってもかわいい。
ほんとうに、歌が好き! っていう真直ぐな気持ちが伝わってくる。

製品版のミクを、「でも…、お前じゃないんだろ?」っていう台詞、ぐっときました。



これを読んだのが、今で良かった…。
もっと前に読んでいたら、自作を投下するのをすごくためらったと思います

あらためて言わせて下さい

GJでした!


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