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【三題使って】 三題噺その3 【なんでも創作】

1 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/25(月) 00:19:24 ID:8tJBQi+R
三つのお題をすべて使って創作するスレです。

創作ならなんでも可。
折を見て新しいお題を出し合います。
過去のお題の投下もどうぞ。

お題の提出は一人一題まで。早い者勝ちです。
お題クレクレ以外はsage推奨です。

初代スレ 三題噺
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1219901189/
前スレ 【三題使って】 三題噺その2 【なんでも創作】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1239028681/

2 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/25(月) 00:22:52 ID:waiZ1CaZ

  ○  >>1 乙 もうお前に用はない 
 く|)へ
  〉   ヽ○ノ
 ̄ ̄7  ヘ/
  /   ノ
  |
 /
 |


3 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/25(月) 00:54:09 ID:n+FT7Udv
お題を決めるぞ
「ダンディなかっこいいおじ様」
「日本鬼子」
「ハルトシュラー」


冗談だ!

4 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/25(月) 01:03:39 ID:PzBlu/CI
おお、三題噺スレ立ったんだ
>>1乙です!

まずはお題か
>>3はどれか一つ有効にするの?

ベタだけど
「かぼちゃ」
でひとつ

5 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/25(月) 01:05:24 ID:PC5LidSK
おお、乙です乙です。自分で立てようかどうしようか迷ってたのでありがたいw

6 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/25(月) 01:06:51 ID:PC5LidSK
>>4
まあ、冗談って言ってるから、一先ず向こうでいいんじゃないかな?w
どれも単体お題(?)でスレ(もしくは企画)があるし。

7 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/25(月) 01:10:17 ID:PzBlu/CI
>>6
おk
んじゃ、あと二つは他の方に↓

8 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/25(月) 01:25:33 ID:8tJBQi+R
 

  ヽo/ スタッ
        |__
  __| |    三題噺スレは蘇るのさ、何度でも!



早速お題だ!「軍艦」

9 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/25(月) 01:27:23 ID:8tJBQi+R
………なんという様だ

10 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/25(月) 16:00:18 ID:KEZ6XevM
お題「天気予報」でお頼申します

11 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2010/10/26(火) 19:18:54 ID:BTUFHFCJ
初めてここで投下します。
「カボチャ」「軍艦」「天気予報」ですが、こういうのが出来ました。


12 名前:ウソと本当、竹とんぼ ◆TC02kfS2Q2 :2010/10/26(火) 19:20:21 ID:BTUFHFCJ
学校の図書館で舟をこいでいた。うつらうつらとしているつもりが、いつの間にかに夢の中に紛れ込んでしまった。
秋の日差しは意地悪で、ガラス窓越しにぼくの時間を奪ってゆく。だから、気が付くと夕方近いと傾く太陽が教えてくれた。
「……どっかで見たような」
いつものように律儀に沈む夕日に、日常を感じているなかぼくが枕にしていた机の上に日常からかけ離れた日常のようなものがいつの間にか転がっていた。

見た目は普通の竹とんぼ、ただ竹を削って作られたものではなくプラスチックのような肌触り。手に取ると小さな体の割には
意外とずしりと重くくるものがあった。羽根の中心から軸が伸び、吸盤のような半球状の皿。竹とんぼを立てようと思えば立てられる。
ぼくはその竹とんぼを机に立ててみると、Tの字をした薄い影が机に伸びて横たわっていった。
なにが本当で、なにがウソ。眠気まなこにこの質問はきつい。ウソならウソで諦めがつくけど、微かな希望がぼくを揺り動かす。

好奇心は恐ろしい。
そんなつもりは無いのに、体が勝手に思考を逸脱してくる。
小さい頃いつもどこかで見ていたことがあったからか、そうすることが当たり前のような行動を取る。
不思議がることなく小さい頃見ていたように竹とんぼを手に取り指で摘み、そして小さい頃見ていたように頭の上に乗せてみる。
言い訳がましく自分の行動を恥じると、竹とんぼはぼくの頭の上にちょこんと立った。まるでさっきぼくが机の上に立てたように。
不確かな自信がぼくを動かす。小さい頃いつも見ていたように窓を開けて、図書館から抜け出すとぼくの体はふわりと宙に浮いていった。
ぼくの気持ちを汲んでか、竹とんぼの羽根は季節外れの扇風機のように廻りだす。風が心地よい。
本当だったんだ。

当たり前だと思っていた。
だって、本に書いてあることは本当だもん。
テレビの言うことは本当だもん。
ネットの書き込みだってウソつかないもん。
しかし、それがオトナの戯言だと知ったのはいつの頃だろう。
オトナは本当のことを教えてくれない。
イチョウの木によじ登っていた小学校の頃か、オンナノコに心傾きかけた中学校の頃だろうか。
いつかは分からない。オトナの言うことは真面目な顔でぶちまける天気予報でさえ、嘘っぱちに聞こえてきた。
「降水確率は100パーセント、傘の準備は必要ありません」

だが、それらが本当のことだと知った今、すうっと秋の空に吸い込まれる自分が否定できなくなった。
唯一の自分の眼に見せ付けられたら、これを拒む方がおかしい。
本当だったんだ。

ぼくの足元はグラウンドからはるか高く、手元は自由すぎてつかまるものが欲しいぐらいの不安がよぎる。
町が遠く見える。人が小さく見える。大きく旋回しながらグラウンドを廻ると、ウソだと疑っていたことが本当のことに見えてきた。
「本当だったんだ」
そうなのだ。

制服のカーディガンだけでは空気が通り体中の体温を奪ってしまう。「空を自由に飛べる」のはいいが「自由」の引き換えが酷過ぎる。
ぼくはグラウンドの上を彷徨いながら、校舎の屋上へと進路を固めた。竹とんぼはぼくの意のままに屋上へと誘う。脚が少し重い。

13 名前:ウソと本当、竹とんぼ ◆TC02kfS2Q2 :2010/10/26(火) 19:21:14 ID:BTUFHFCJ
「乾っ。なにやってるのよ!」
まさか屋上で誰かから見上げられるとは思わなかった。ぼくの名を呼ぶ者が、上目遣いで屋上に居るとは思わなかった。
同じクラスの岩見が一人で料理の本をかじりつくように読み漁っているところだったのだ。
両膝を閉じて短いスカートを庇うように、岩見は座ったまま丸くなる。まさか上空から発見されるとは思っていなかったのだろうか。
顔は上から良く見えないが、きっと頬を紅くしている。多分頬を紅くしている。

岩見はクラスでは割りと目立たない方なのだ。だが、結構世話焼きとも聞いている。両親は共働きで小さい弟がいるかららしい。
少し岩見の『子どもっぽい』ところを垣間見たような気がする。岩見はぼくにはバレバレの本を隠してすっと立ち上がる。
「なにやってるの、乾」
「岩見こそ。こっちが聞きたいよ」
「教えたくない」
ぼくの目に狂いがなければ、岩見はきっと料理のレパートリーを増やそうと一人で研究していたに違いない。
学校に居るときさえも家事のことを考えなければならない岩見が、ぼくと同い年なのにオトナに見えてきた。うそつきなオトナに。
岩見が手にしている『四季の野菜クッキング100』と題された本には、後ろのページに固まって付箋紙が顔を見せているゆえ、
いくら岩見が隠そうとしても、彼女より上方で漂うぼくからは何をしているのかは筒抜けなのである。
オトナな顔を見せる岩見も同い年の子。

「やってみたんだ。乾も」
「なんのこと」
「ほら、頭の上の竹とんぼ」
ぼくが「屋上に降りたい」と願うと、竹とんぼは素直にぼくを屋上へとゆっくり下降を許してくれた
空から屋上に降りることは始めての体験。正直、自分が降り立つ屋上が少しずつ近づいてくるのが見えるのは怖かったが、
母船に帰還してきた飛行機を労うように屋上が受け入れてくれたのが優しかった。弾みで二、三歩進む。
とん。と、上靴がタイルに触れる感触が何故か慣れない。しっかり屋上に立っているというのに今だ空の上の感覚が続く。
ただ、空を飛んでいたときと同じように風が吹いていた。ある意味、屋上も空の上と等しい。
煽られて岩見のスカートがふわりと舞う。岩見が頬を紅くする。そして、恥ずかしそうにぼくの頭上を一瞥する。
気になっているのは竹とんぼ。

「最近、流行ってるってね」
「うん。お弁当作ってくる男子もクラスで増えてるしね」
「違う!お料理の話なんかしたくないし」
岩見をわざと怒らせるのは楽しい。読み込まれて元の厚さよりも厚くなった本を隠しきれない岩見が面白い。
頬を紅くして肩を小さくする岩見とぼくの間を風が通り抜ける。秋めいた風はぼくらには薄情だ。
「乾の頭の上のヤツだよっ」

14 名前:ウソと本当、竹とんぼ ◆TC02kfS2Q2 :2010/10/26(火) 19:22:06 ID:BTUFHFCJ
風はお構いなしにぼくらをなぞる。だが、空を飛んでいたときより寒く感じないのは不思議なことだった。
「いいなっ。乾は空が飛べて」
「岩見も飛べると思うよ」
「そういう意味じゃないの。いつでも空が飛べていいなっ」
急に屋上の風は冷たくなり、岩見はスカートを抑えるのに必死だ。岩見の指が傷だらけだった。
オンナノコをやりながら女の子なことを悔む岩見は、自由に空を飛べるぼくを羨ましがる。
不思議がるぼくのことを「鈍感」と一蹴すると、少女の顔を取り戻して岩見がしおらしくなった。

「ほら、チュニックとかフリルのついたかわいめなゆるーい服着て飛んだら、風をバタバタ受けてすんごく疲れるでしょ。靴だって落っことしそうだし。
かと言って、体の線が出る服は嫌だな。いいなあ、男子って。そいつさえあれば、飛びたいなって思ったときに空を飛べるんだからさ」
「女の子も大変だね」
こくりと頷く岩見に女の子らしさを見た。
傷だらけの指はきっと料理の最中につけたものだろう。弱音を見せないのは、本当のことを言いたくないから。
それをそっとしてあげるのは『男の子』の役目であり、気付いてあげるのは『男子』の役目なのだ。
ウソはもう、たくさん。
「……きょうさ、寒くない?飛んできたばかりでしょ?空を。乾、風邪引くからさ、大根のはちみつ漬け作ってあげよっか?」
確かに岩見の言う通りに寒い。想像以上に寒かった。秋のせいではないことぐらいは分かっている。
カーディガンだけでは限界がある。鼻をちょっとすするのを岩見は聞き逃さない。

「うん……風邪引くかも」
「引いちゃいなさいよ」
「ひどい」
「でも、よく言うじゃない……ほら」
「バカは風邪……」
「ちがう。冬至にカボチャを」
「食べると風邪を引かない。そのくらい知ってるよ」
岩見はぼくの頭の竹とんぼをひったくってニコリと笑った。
さも興味なさそうに、ぼくの竹とんぼは岩見の手に奪われた。興味なさそうに。

「乾のバカー。冬至が来る前に風邪引いちゃえ」
もしかしてオトナより女の子の方が本当のことを教えてくれないのかもしれない。
冬が来る。


おしまい。

15 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2010/10/26(火) 19:22:56 ID:BTUFHFCJ
ネコ型ロボットのマンガのおまーじゅです。
投下終わり。

16 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:27:34 ID:UpjyOUSt
おじゃましまーす。

【お題】
>>4 かぼちゃ
>>8 軍艦
>>10 天気予報

17レス投下します。



17 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:30:19 ID:rdo8jcIF
   

18 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:32:12 ID:UpjyOUSt

「軍曹、現状の報告をせよ」
「はっ。当艦は戦闘海域まで現在50キロの位置です。到着予定は約1時間後となります」
「現地の天候は」
「観測班から、当分低気圧の接近はないものと報告を受けております」
「そうか、ならば、作戦の遂行に支障はないな」

艦橋にある司令官用の椅子に座るいかつい顔をした男と、
軍曹と呼ばれた、これまたいかつい顔をした男が、硬い表情で話し合っていた。

ここは、国際法によって指定された戦闘海域から少し離れた海上。
見渡す限り、空と海以外何も見えない場所だ。
戦闘海域とはすなわち、国と国が戦争を行うための場所であって、
流れ弾による被害などをなくすため、陸地からかなり遠方の海域が指定されていた。
周りに陸地は全くなく、風もなく、波もほとんどなく、穏やかな水面がただただ広がっていた。
そして、その海の上に一隻の、

19 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:35:16 ID:UpjyOUSt




一個のかぼちゃが浮いていた。




20 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:36:01 ID:rdo8jcIF
    

21 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:36:29 ID:OKRTQdU8
    

22 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:36:32 ID:UpjyOUSt

生意気にも推進装置をそなえ、白波を立てて海上をゆるゆると進んでいる。
ヘタに当たる部分には艦橋がそびえ立ち、艦首?と思われる部分には、
主砲が一門と副砲が二門備え付けられていた。

艦橋で作戦を話し合っている司令官や軍曹の周りでは、かぼちゃ頭の兵士たちが
船の操縦を行っている。もちろん、司令官も軍曹もかぼちゃ頭だ。
そりゃあ、いかつい顔で硬い表情なのもうなずけるというものだ。

「今日は、我らかぼちゃ王国の憎きライバル、にんじん帝国との決着の日だ。なんとしても負けるわけにはいかん」
「もちろんそうですとも。国際法により、最後の決着は双方の国が一隻ずつの戦艦を出して戦うことになっています。
一対一であれば、我が国最強のこの艦が破れることはありません」
「うむ。しかし、油断は禁物だぞ。少しの隙も見せず、完膚なきまでに奴らの艦を叩きのめすのだ」
「はっ、心得ております」

こうして、いかつい顔の兵士たちをのせたかぼちゃ軍艦は、にんじん帝国の待つ海へと邁進するのであった。




23 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:36:59 ID:rdo8jcIF
        

24 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:37:58 ID:UpjyOUSt

かぼちゃ戦艦が指定された戦闘海域に到着すると、そこにはすでに、
にんじん帝国のにんじん戦艦が待ち受けていた。
朱色に染まった細長いシルエットのど真ん中、茎にあたる部分に、
大口径の主砲が備え付けられているのが見える。
艦は後ろに行くほど先細り、前に行くほど太くなる構造だ。
スマートな見た目とは裏腹に、なんとも水の抵抗が強そうな戦艦だった。

「艦長。どうやら敵は、あの波do砲のような主砲で、一撃必殺を狙っているようですね」
「そのようだな。あの艦の真正面に立つのは非常に危険だ。周りを旋回しながら、細かく攻撃を仕掛けていくことにしよう」
「了解いたしました」

軍曹の指示が飛び、艦橋の兵士たちが艦の操作を行う。
まもなく、指定された戦闘開始時刻だった。
かぼちゃ戦艦とにんじん戦艦は、互いに横腹を向けた状態で、静かににらみ合っていた。

25 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:38:12 ID:rdo8jcIF
       

26 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:39:09 ID:UpjyOUSt


ぴっ  ぴっ  ぴっ  ぽーん


お昼の時報が鳴り、戦闘の開始が告げられた。
かぼちゃ王国のお茶の間では、今頃、サングラスをかけたかぼちゃ司会者が
いつものあのセリフを観客に叫んでいるころだろう。

「諸君! 今まさに、この戦争最後の火ぶたが切って落とされた。勝利に向け、粉骨砕身の活躍をしてくれるかな?」
「いいともー!!」

司令官の号令と共に、兵士たちがときの声を上げる。
双方の戦艦が動き出し、戦闘状態へと突入した。

27 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:41:24 ID:rdo8jcIF
       

28 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:41:49 ID:UpjyOUSt

当初の予想通り、にんじん戦艦は主砲攻撃を行うために、
かぼちゃ戦艦に艦首を向ける針路を取り始めた。
かぼちゃ戦艦は相手の旋回速度に合わせ、
常に相手の横側を見るように、艦首の真正面に入らないように針路をとる。

にんじん戦艦は、細長い胴体が災いして、艦の回頭速度は非常に遅かった。
一方、かぼちゃ戦艦はまん丸であるため、回頭をすばやく行うことができ、
いまだこちらに横腹をさらしているにんじん戦艦の方角に艦首を向け、
主砲の照準を合わせることができた。

29 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:42:14 ID:rdo8jcIF
     

30 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:43:39 ID:UpjyOUSt

「艦長、砲撃手より、主砲発射準備完了の報が入りました」
「よし、主砲発射! にんじん戦艦を沈めるのだ!」

主砲発射! 主砲発射!

兵士たちの復唱が艦内をこだまのように響いていく。
間もなく、轟音と共に一発の砲弾がかぼちゃ戦艦から発射された。

どかん!

砲弾は放物線を描きながらにんじん戦艦に向かい、艦尾に近い甲板上に命中した。
にんじん戦艦から煙が立ち上る。撃沈にはいたらなかったが、確実にダメージを与えることができた。

31 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:45:14 ID:UpjyOUSt

「主砲命中! 次弾装填!」
「主砲命中! 次弾装填!」

命令と復唱が艦内を飛び交う。砲兵が主砲の発射準備を行う間、副砲の機関銃により、
にんじん戦艦へ威嚇射撃が行われる。統制のとれた兵士たちは素早く次弾の装填を行い、
敵がこちらへ艦首を向ける前に、再度主砲発射の準備が完了した。

「艦長、主砲発射準備完了です!」
「次こそ、敵の戦艦を沈めるのだ! 主砲発射! 我が祖国に勝利を!」

主砲発射! 主砲発射!

さきほどと同じように、兵士たちが口々に復唱を行う。
そして、照準の微調整が完了し、今まさに主砲が放たれんとした瞬間、

32 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:46:37 ID:rdo8jcIF
     

33 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:46:44 ID:UpjyOUSt


ずがーん!!


かぼちゃ戦艦に激しい轟音が響く。
強烈な衝撃が艦体を貫き、続いて立っているのが困難なほどの震動が兵士たちに襲いかかる。
これは、敵の攻撃により、かぼちゃ戦艦で爆発が起こったことを示していた。

「軍曹! いったい何が起こった!!」
「分かりません! にんじん戦艦からは、一発の砲撃も魚雷も発射されていません!」

艦橋内は混乱を極めていた。様々な情報が錯綜するが、確実な報告はいまだ入ってこない。

「被害個所の確認を急げ! 隔壁を閉鎖! 浸水を食い止めろ!」
「負傷兵を救護室に運べ! 看護兵は何をしている! 早く手当てに向かうんだ!」

これ以上の被害を食い止めるため、様々な役割の兵士が縦横無尽に艦内を走り回る。
一時的に混乱はしたが、厳しい訓練を受けている軍人達である。
すぐに統制を取り戻し、迎撃態勢に着いた。

34 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:47:05 ID:OKRTQdU8
      

35 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:47:35 ID:UpjyOUSt

「うむ、うむ、よし! 艦長! 爆発の原因が分かりました! にんじん帝国の潜水艦です!」
「なに、潜水艦だと?!」
「観測班が、ソナーに潜水艦二隻の船影を捉えました。先ほどの爆発は、この潜水艦からの魚雷です!」

軍曹が、艦長に向けて先ほどの攻撃の報告を行う。
観測班が覗き込むレーダーソナーには、黒い点が二つ、かぼちゃ戦艦の後方に映っていた。

36 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:49:25 ID:UpjyOUSt

「どういうことだ! この戦いは、戦艦同士の一騎打ちではないのか!」
「にんじん帝国は国際法を破って潜水艦を隠し、不利になればこちらを攻撃するつもりだったようです!」
「なんとひきょうな……。くっ! 操舵手に命令! 最大船速! 当艦は戦闘海域を離脱する!」

苦虫を噛み潰したような顔で、艦長が艦の操縦を行う兵士に命令を下す。
その命令を聞き、軍曹が驚愕の表情で艦長に叫ぶ。

「艦長! 戦闘を放棄するのですか?!」
「そうだ! 一対三では、当艦に勝ち目はない! 敵戦艦を沈めても、潜水艦に撃沈されては意味がない!」
「しかし!」
「いいか! 我々はこの卑怯な仕打ちを全世界に伝えなくてはならないのだ! 今沈めば、この事実は闇に葬られる!」
「それは! しかし! ……ぐぅぅ!」
「分かってくれ、軍曹。艦長である私は、君たち兵士の命を守ることも使命なのだ。今は、逃げることが最善なんだ」

悔し涙が、軍曹のごつごつした頬を流れ落ちる。
艦橋には、軍曹と同じように涙をながす兵士が他に何人もいた。

37 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:52:07 ID:UpjyOUSt

「操舵手、もう一度命令する。最大船速、当艦は戦闘海域を離脱する」
「……了解。最大船速、当艦は戦闘海域を離脱します」

艦長の指示により、かぼちゃ戦艦は速度を上げ始める。
レーダーに移っていた潜水艦は、やがてその姿を画面から消した。
もともと、この潜水艦はこの海域にいてはならないものだ。
離脱を始めたかぼちゃ戦艦を追跡して他の船に発見されるよりは、
追跡をあきらめ隠れた方が発覚の恐れは低いとの判断なのだろう。
だが、このままかぼちゃ戦艦を帰してしまっては、レーダーの記録から
一対一の戦闘に潜水艦を使ったことがばれてしまう。
つまり、にんじん帝国は、なにがなんでもかぼちゃ戦艦をこの場で沈めなくてはならないのだ。

回頭を続けていたにんじん戦艦の艦首が、離脱するかぼちゃ戦艦に矛先を合わせた。

38 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:53:02 ID:rdo8jcIF
      

39 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:53:24 ID:UpjyOUSt



がおおおおおん!!



すさまじい閃光がかぼちゃ戦艦のすぐ脇をかすめる。
にんじん戦艦から放たれた主砲の砲撃による光だった。
かぼちゃ戦艦は、命中こそ免れたものの、閃光がかすめた右腹部分は完全にえぐり取られ、
中身の黄色い果肉が外気にさらされていた。
かぼちゃ戦艦の装甲は非常に硬い。にもかかわらず、ほんの少し閃光に触れただけで、
まるで電子レンジで温められたかぼちゃの皮のように装甲が崩れてしまった。
もし命中すれば、かぼちゃ戦艦といえどもひとたまりもないのは間違いなかった。

40 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:53:27 ID:OKRTQdU8
     

41 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:54:05 ID:rdo8jcIF
      

42 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:54:10 ID:UpjyOUSt

「……軍曹、どうやら、我々の命運はここで尽きたようだ」
「艦長……」

暗い雰囲気が艦橋を支配する。
あの威力の攻撃を見せ付けられ、完全に彼らの戦闘意思は削がれていた。
もともと、一対一の戦いのために用意されたはずの戦艦だ。
こちらも最強の艦と精鋭の兵士をそろえている以上、相手も同様だと考えるべきであり、
おそらく、次の攻撃を外してくることはないだろう。
兵士たちはじっと目を瞑り、最後の時を迎え入れようとしていた。

43 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:55:30 ID:UpjyOUSt

「……ん? 観測班、どうした。………なに、それは本当か! よし、わかった!! 艦長!」
「どうした、軍曹。そんな大声で叫ばなくとも、お前の声は聞こえているぞ」
「艦長、まだ、諦めるのは早いかもしれません」
「……どういうことだ」
「気象観測班から報告です。突然、この海域に猛烈な低気圧が発生し、大嵐となる可能性が出てきました」
「大嵐?」

色めき立つ軍曹の声に、いぶかしげな表情で艦長が聞き返す。
軍曹は、表情に力を込め、艦長に告げる。

「そうです。嵐により波が高くなれば、敵艦の砲撃は照準をつけられなくなります。嵐が発生するまで逃げ切れれば――」
「しかし、その嵐が発生する確率はどれほどなんだ。あまり低くては、望みとしては期待できんぞ」
「報告によれば、30分後に4メートルの大波を伴う嵐が発生する確率は、90%です」

44 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:56:55 ID:UpjyOUSt

艦橋から上空を見やると、すでにそこには巨大な暗雲が立ち込めていた。
さきほどまでの快晴が嘘のようだった。
艦橋の窓に、大粒の雨が当たり始める。風がうなり、ごうごうという低音が艦を包み込む。
もう、確率など意味がない。嵐が来るのは確実だと、誰もが確信した。

「とり舵いっぱい! 敵艦の射線から離れろ! 最大船速を維持! あと30分だ! 何としても逃げ切れ!」

艦長の指示により、艦が左へ回頭を始める。
次第に大きくなる波に揺さぶられ艦全体がぐらぐらと揺れているが、兵士たちの顔はみな明るかった。

45 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:58:27 ID:UpjyOUSt

「軍曹、我々は、にんじん戦艦のあの攻撃から逃げ切れると思うか」
「もちろんです。絶対に逃げ切れます」
「ずいぶんと自信があるな。その根拠を、ぜひ私に教えてくれ」
「『かぼちゃは足が速い』という言葉です。この言葉に基づき設計されたこの艦は、必ずや敵の攻撃から逃げ切るでしょう」
「そうか。そうだな。観測班の気象予報とその言葉を信じよう。我々は生き延び、なんとしても祖国に帰るぞ」
「はい、艦長」

ひと際大きい波にかぼちゃ戦艦の艦首が突き刺さり、波が大きく割れる。
横殴りの雨が艦にぶつかり、激しい雨音をたてている。
外の天気がどんどん暗くなるにもかかわらず、
兵士たちの顔には、明るい笑顔があふれていく。

かぼちゃ王国の戦争は、まだ始まったばかりだ。

46 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 20:58:43 ID:rdo8jcIF
投下乙ー

47 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 20:59:26 ID:UpjyOUSt
あれ、打ち切りエンドになっちゃった。まいっか。
おっじゃましました〜。

48 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 21:03:44 ID:UpjyOUSt
追伸
支援ありがとうございましたです。

49 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 21:52:22 ID:IG0SWm3q
>>18
これはいいww
こういうシュールな設定でマジ展開が大好きww いいっすね! 

随所に本物の野菜の特性を盛り込んでるのがニヤリとさせられます
言葉遊び(敗れる→破れる)や権利関係回避(波do砲)なんかも笑っちゃいますww



ただ……非常にこまけぇことなんですが

「天気予報」でなく「気象予報」なのですね
作品によってはその言葉の別の意味や、ニュアンスの微妙な違いを活かしたものもあるので……

自分も以前、言葉を替えて(意訳して)使って指摘されたことがあります
たしかに、三題をそのまま織り込む方がよりこの企画を楽しめる気がします
(縛りがきつくなりますがww)

あまりルールガチガチもつまらなくなるので、そこは柔軟に……

ともあれ、乙でした! 面白かったです

50 名前: ◆31cZ/2c.Zk :2010/10/26(火) 22:11:41 ID:UpjyOUSt
>>49
あー、気にはなったんですよね。
ただ、軍隊もので「天気予報」はちょっとカッコ悪いかなーと思って、あえて差し替えました。
そういう意味だと、軍艦も戦艦になってますしね。

お題の使い方としては、
「かぼちゃ」+「軍艦」=かぼちゃ戦艦(主役)
「天気予報」=ストーリーのキーポイント
というふうに考えて、最初の予報とは異なる天気が突然発生して
かぼちゃ戦艦の危機を救う、みたいな感じで書いてました。

> 言葉遊び(敗れる→破れる)

やっべ、これ誤植だ。恥ずっ!
んーまー、結果おーらいということで。

感想どうもでした。
またよろしくです。

51 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 22:50:17 ID:ZDcFyGrk
次のお題は「赤い羽」でいいですか?

52 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 23:02:36 ID:yDIEcPhE
普通の仮想戦記っぽいのかと思いきや、割とストレートにお題盛り込んできたなw
そして打ち切りエンド
カボチャ先生の次回作にご期待ください

お題は「お経」で

53 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 23:14:08 ID:wCdwPT/b
>>11
初めての投下乙でしたー。

ファンタジックな感じで、個人的には竹とんぼを頭につけて
窓外に飛んでいくくだりが好き。
半分夢見てるようなぽわーんとした感じがよく出てるねー。

「軍艦」がどこに入ってるか分かんないんだけど、見落としたかな…?

54 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2010/10/26(火) 23:21:17 ID:BTUFHFCJ
>>53
感想ありがとうございますー。

>「軍艦」がどこに入ってるか分かんないんだけど
うわああ、ごめんなさい。一応「軍艦」でなく他の言葉(母船)に置き換えてしまったんす。
2レス目の真ん中ぐらいです。分かり辛かったですね……。すいません。

またよろしゅう。

55 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/29(金) 07:50:25 ID:p8svCLBJ
お題「バス」

56 名前:創る名無しに見る名無し:2010/10/29(金) 21:14:43 ID:KKUAy2FI
「赤い羽根」
「お経」
「バス」

この三つか。
尚、以前からの慣例通り、過去お題で書くのもOKなので、
書きかけの人も心配なさらずに続きをどうぞどうぞ。

57 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/02(火) 14:03:23 ID:hPHzqcco
バスにて
「何聴いてるの?」
「え……お経だけど……君、誰?」
「へぇ、お経。iPodでそんなもの聴いている人、初めて見た。マニアなの?」
「違う。俺、佛教大生だから。で、君は誰?どっかで会った?」
「佛教大ね。じゃあ将来はお坊さんだ」
「いや答えろよ。君は誰なんだ」
「……面識のある他人。もっと詳しく言うと、困り事をかかえた面識のある他人」
「わけがわからない。もう話し掛けないでくれる?」
「ごめん、言い方が悪かったかも。簡単に言うと、何時もこの時間にこのバスを使う一人。
あなたの顔を見たことは何度もあるけど、話したことはない」
「なるほど。確かに見たことのある顔だ」
「でしょ。で、今回話し掛けたのは他でもない、私の困り事の解決に協力して欲しいの」
「困り事……」
「あ、心配しないで。変な勧誘ではないし時間もかからない」
「……ほんとかよ」
「ほんとほんと。ただ千円貸してくれるだけで良いの」
「知らない奴に金は貸せない」
「そういわないでさぁ……ほら、今募金の季節じゃない。今朝、募金しなかった?してないか、羽根付けてないもんね」
「君はしたみたいだな、募金」
「うん。でも、それがあだになっちゃった。帰りの電車賃が足りなくなってさ」
「……なんで募金したんだよ」
「小銭しかなかったから、思い切って全部募金箱に入れたんだ。ジャラッと。
そうしたら、カードで帰るつもりだったのに、チャージし忘れててさ」
「迂闊だったな」
「うかつだった。だから千円……お願いっ」
「……次会ったら、必ず返せよ」
「ありがとう!私の番号渡すね。それとコレ」
「……なんで羽根?」
「借金のカタ、って奴かな。わたしこの駅で降りなきゃ。じゃあね」


駅にて
「ヨッシャ!収入安牌フラグとのツテげっと!」

58 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/03(水) 21:26:22 ID:jUGZvpEa
フラグてwww
現金な子やなぁw

59 名前:「赤い羽根」「お経」「バス」 ◆91wbDksrrE :2010/11/04(木) 20:41:39 ID:nv24Dr3G
 お経の響く部屋から、俺はそっと抜けだした。
 何も考えたくない……と言うわけではなかったけれど、少なくとも、その陰鬱たる
空気が蔓延している部屋から出で、ボーっとできる場所には行きたかった。
 行きたかった、か。
 生きたかったんだろうか、あの人は。

「……ありゃ」

 中学の頃から吸い続け、すっかり中毒になってしまっているタバコは、定位置で
ある右の胸ポケットにはなかった。普段着ていないこの真っ黒な服を着ているせいで、
定位置に仕込み直すのを忘れていたのだ。わざわざ値上がり前にまとめ買いした
というのに、これでは新しく買いなおさなくてはならない。

「ちっ……出鼻くじかれた気分だな」

 これもあの人の嫌がらせだろうか。いや、違う。あの人は嫌がらせなんかできる
ような性格(たま)じゃなかった。もしもこれがあの人の仕業だとすれば、それは
嫌がらせなどでは全くなく、純然たる"親切"なのだろう。
 あの人は、そういう女だった。いつも誰かに何かしら"親切"をしてるような奴で、
年末には胸ポケットに赤い羽根をいっぱいにして帰ってくるような、そんな奴だった。
 無論、小さな親切何とやら、という言葉もあるわけで、俺にとってのあの人の
"親切"は、まさにその何とやらだったわけだが。
 考えて見れば、あの人はいつもそうだった。いつも俺の事を本気で心配して、
いつも俺の全てを本気で考えて言葉をかけてくれて、いつも俺の将来を本気で
案じて困った顔をしていたものだ。
 ……どうして、思い浮かんでしまうんだろうか。
 俺はあの人が、嫌いだったはずなのに。
 どうして、困った顔ばかり思い浮かんでしまうんだろうか。
 俺はあの人の、そんな顔が嫌いだったはずなのに。
 ……あの人がそんな顔をするのが、俺のせいだったという事はわかってる。
 だから、俺は嫌いだったんだ。あの困り顔が。
 こんなダメな俺みたいな奴なんて、放っておけばいいのに。
 でも、あの人はそれが出来ずに、いつも困った顔で俺に色々な"親切"をして
くれていた。もちろん、それが義務だったから、というのもあるんだろうけど、
そんな義務なんか要らないと、俺はずっと思っていた。口に出しても言っていた。
 その度に、あの人はやっぱり困った顔をする。俺の大嫌いな、困り顔を深める。
 終いには涙すらその目に浮かべ始めて、そこでようやく俺は嫌々ながら、あの
人の言う事を聞くのだ。
 それがいつもの、俺とあの人のやりとり。
 でも、泣かれるのが嫌だからと、俺が改心したりする事はなく……結局、あの人の
表情で一番多く見たのは、困り顔だった。

「……ん?」

 わずかに聞こえるエンジン音。
 見れば、こちらに近づいてくるバスが一台。
 とりあえず、街の方に出るつもりだった俺は、それに乗ろうと、バス停の近くに立つ。

60 名前:「赤い羽根」「お経」「バス」 ◆91wbDksrrE :2010/11/04(木) 20:41:55 ID:nv24Dr3G
「……げ」

 が。そこで俺は大事な事に気づいた。
 タバコが無いのと同じく、財布もポケットの中に入っていない。
 言うまでもなく、これもまた、気慣れない黒服をまとっているせいだ。普段のズボンに
いれっぱなし、という事である。これではバスに乗る事はできない。タバコを買い直す
事も、無論。
 まあ、バスに乗る前に気づいて幸いだった、というべきか。あの人流に言わせれば、
人生いつだってプラス思考という奴だ。俺にはそんな楽観論はできそうにないと嘲笑って
きていたが、今は何故か素直にあの人の持論に乗る事が出来た。
 俺は一時間に一本しかやってこないバスが近づいてくるのに背を向ける。
 こうなっては、戻るしかない。流石に、歩いて二時間の距離を踏破してまで
街に出ようとは思えなかった。俺ももう、そんなに若くない。タバコが問題なく
吸える歳になって、早数年だ。

「……ちっ」

 何故かその時、脳裏に浮かんだのは、あの人の笑顔だった。
いつも困った顔をして俺に"親切"をしてくれて、そして泣きそうになり、そこで
俺が言う事を聞いたその時に、あの人はいつもそんな笑顔を見せてくれた。
 別に、その笑顔がみたくて、いつも最終的には言う事を聞いていたわけじゃない。
 俺は、そんな笑顔なんか、別に見たくはなかった。ただ、泣かれるのが面倒だった
だけだ。それだけだ。
 でも、どうしてだろう。
 あれだけ困り顔しか浮かんでこなかったあの人の表情が、今は笑顔しか
思い浮かばない。
 ……なるほどな。
 この一連の俺のうっかりは……あの人の"親切"って事か。

「んっとに……大きなお世話だよ……」

 ちゃんと向かい合いなさい。でないと泣いちゃうわよ?
 そんなあの人の声が、聞こえた気がした。
 だから俺は、あの陰鬱たる空気の蔓延した部屋へと、戻る事にした。
 考えて見れば、まだ手も合わせちゃいなかったからな。

「……禁煙、するか」

 もし、そうしてたら、そして、その時あの人が生きてたら、今まで見たことも
無いような笑顔を、見せてくれただろうか。
 ふと浮かんだそんな考えに、俺の視界はぼやけた。まるで霞でもかかったかのように。

「ちっ……うっせえよ。泣いてねえっつうの」

 泣いたらダメよ。泣いたら泣いちゃうから!
 そんなあの人の声が聞こえた気がして、俺は黒服の袖で目端を拭う。
 ゴミが目に入ったからであって、他に意味は無い。絶対に。

「ま、もう孝行はできねえけど……養生はするさ。あんたの分まで長生きしてやる」

 だから……俺があと五十年くらいして、そっち行った時にゃ……笑って迎えてくれよ。

「頼むぜ――母ちゃん」

                                               おわり

61 名前: ◆91wbDksrrE :2010/11/04(木) 20:43:03 ID:nv24Dr3G
ここまで投下です。

三題スレ復活おめでとうございます。

62 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/04(木) 22:32:04 ID:Rmkwe/KF
投下乙です、やっぱさすがっす!

         J( 'ー,`)し 
(´-`).。oO
カーチャン……

63 名前: ◆CELuXwgC6K65 :2010/11/06(土) 13:59:51 ID:HEd4HuC3
全部のお題使ってみた。
「かぼちゃ」「軍艦」「天気予報」「赤い羽根」「お経」「バス」

64 名前: ◆CELuXwgC6K65 :2010/11/06(土) 14:06:14 ID:HEd4HuC3
岬めぐりのバスに乗っていると、
秋のかたむき加減の日差しに反射して、遠くの海原がきらきらと光った。
そうすると、ほら、いつもの骨に染み込んでしまったような
日々の疲れが遠ざかり、奇妙に胸の内が沸き立って、
波のように持上がり、甘い余韻を残して平らかになる。

ああして海が光るのを見ていると、
そこは、例えようもないくらいの幸せに満ちた、
この世に無いはずの場所のような気がしてくる。

私はバスに乗って町へ出る日には必ず天気予報を聞いてくる。
今日の予報は曇り。けれどもうっすらと雲間から日が射すこともあり、
そんなときにバスに乗ると、今みたいな光景を拝むことができる。
町の市場に出てかぼちゃを売りさばくのは、
商売上手とは言えない私にとって、とても疲れることなのだけれど、
帰りにこの光を見られるかもしれないと思うと、不思議と力が湧いてくる。

私の二列前の席にもたれるように座っている制服姿の女の子が咳をした。
かすれたような乾いた咳で、おかっぱ頭が揺れた。
あの子はロータリー前で募金の呼び込みをしていた子だ。
黒い襟に白いリボン。一列にならんだ少女たちが
高らかに報国のお経を誦する声がロータリーに響いていた。
募金箱をもった女の子に硬貨をさしだすと、白い歯を見せて、
にっこり笑って私の襟に赤い羽をつけてくれた。
女の子のかけているたすきには「国民総祈念 国土を穢れから守ろう」
という文字が、太く勇ましい書体で黒々と書かれていた。

バスの中の女の子は疲れきったように制服の襟に顎を埋めて
ぐったりと眼を閉じている。
窓から射す西日が、女の子の白桃のような頬のうぶ毛を透かして輝かせた。
それを見ているとふいに鼻の奥がつんとしてきて、
慌てて目を窓の向こうへと向ける。
黒い制服を着て、白いリボンをつけて、一心にお経を詠む頃が、私にもあった。

あたしたち、こんなにも若いのにね…。

65 名前: ◆CELuXwgC6K65 :2010/11/06(土) 14:09:58 ID:HEd4HuC3
バスを降りると強い北風が吹き付けてきた。
今夜は嵐かもしれない。灰色の雲が次々に流れていく。
かぼちゃ畑に囲まれた私たちの小さな家を取り巻く坂道では、
私は必ずあなたの姿を見る。

届けられた郵便を見ている肩のあたり。
私の涙を拭ってくれた、大きい荒れた手。
地面に突き立てられた鍬。
薄紅色の紙。

”すまんなあ”
”きっとすぐに、戻るよ”

ロータリーで聞いたお経がくるくると頭のなかで回っていて
なかなか私を離してくれない。踏み出す足の動きと一緒になり、
いつのまにか私は小声で詠いながら坂道を登っていた。

”……ハ ラ カラ ジン ボツ ストモ 
 ア ガ クニ ク オン ナ リ……” 

坂を登りきると、ひときわ強い一陣の風が海から吹き付けて、
私は思わず振り返って海を見た。
雲はすでに厚くたれ込めていて、水平線に近い所だけが少し明るい。
風は顔を叩き付けてくるように強く、口を開けていると
窒息してしまいそうだった。
”……ハ ラ カラ……”
お経の律動が鎖のように私の身体を縛り、四肢が重く痺れた。
私は髪が乱れるのもかまわず、ぼんやりと立ち尽くして鈍色に沈んだ海を眺めた。
”……ア ガ クニ ク オン ナ リ……”

66 名前: ◆CELuXwgC6K65 :2010/11/06(土) 14:14:05 ID:HEd4HuC3
その時、暗雲が割れ、隙間から太陽の光がもれて、
うんと遠くの海の一角にぽっかりと光の草原を作った。
そしてその近く、光の満ちるすぐ脇に
一隻の軍艦がぽつりと浮いているのが見えた。
私は手を振って、叫んだ。
「おーーーい!」
まつわりつく髪を首を振って払い、
めちゃくちゃに両手を振り回してかぼちゃ畑を走る。
「おおおおぉーーーーいい!」
束ねていた髪が解き放たれて広がり、宙に躍る。
襟もとの赤く染められた羽が風にもぎ取られて、飛んでいった。
「おおおおおぉーーーーーーーーいいいい!!」

いい。もう、いい。
それならそれでいい。

私は訳の分からないことを思いながら、
あらん限りの声をあげて軍艦に向かって手を振り続けた。

ふと気がつくと私の体を乗っ取っていたお経の律動は
どこかへ吹き飛んでしまっていた。
光は消え、軍艦もどこかへ去ってしまっていて、
息が切れて、寒さに震えて喉も枯れたけれども、
バスの中で海が光るのを見た時の、静かでありながら全身が脈打つような、
あの清らかなであたたかな心地に私は全身浸されていた。

ああ、なんて気持ちがいいんだろう。
こんな風に海が煌めくだけで胸を躍らせ、うっとりと陶酔する私を
人は変に思うかもしれない。
けれども、私にはやっぱり、単なる気象現象が作り出しているのだとしても、
あの光に満ちた海原の一角がこの世ならぬ所に思えて、
もしかするとあなたもそこにいるのかもしれないと思うと、
身体が熱い涙の温度をしたもので一杯になるのです。

今夜はきっと嵐になるだろう。
古いかぼちゃをくりぬいて、たくさんのランタンを作ろう。
そうすれば、暗い夜の海を行く軍艦からは、
帰ってこいと彼らを呼ぶ、灯台のように見えることだろう。

67 名前: ◆CELuXwgC6K65 :2010/11/06(土) 14:18:02 ID:HEd4HuC3


かぼちゃのランタンっていうのは
例の顔の形をしているやつではないものをてきとうに思い浮かべてください。

68 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/09(火) 01:16:50 ID:FKaYkUqF

ちょっぴり切ない気持ちになったよ。よかったです

69 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/09(火) 20:00:43 ID:e0rr/9Tc
次のお題でも

一つ目『鏡』で

70 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/09(火) 20:52:56 ID:VmiZ20v3
公園

71 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/09(火) 21:31:39 ID:3n8MXAOK
じゃ「タヌキ」で

72 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2010/11/10(水) 23:00:48 ID:nbpk82SM
「タヌキ」「公園」「鏡」で書いてみました。

73 名前:タヌキの鏡 ◆TC02kfS2Q2 :2010/11/10(水) 23:02:57 ID:nbpk82SM
「すいませーん。タヌキですぅ」
仕事に煮詰まり、わたしは近所をふらふらと歩いていた。閑静な住宅街と言えば通りが良いが、はっきり言えば何の特徴の無い町。
のどかな山に囲まれて、人々の住む町が遠慮するように栄えているわたしの住む町。他の言葉で言えば新興住宅街。
山のケモノの代わりに人間が住み着き、ケモノが狩りに出かける代わりに人間が都心に仕事に出る。
「おねえさんーん。タヌキですが」
原野を切り開いた模型のような町をいくらふらついても、何もときめくようなアイディアは開けない。
わたしは漫画家。名ばかりの漫画家。マイナーな雑誌で貴重な紙面を頂いている、ぽっと出の絵描きだ。
わたしのような新人にも、眼だけ描いてればいいような大御所にも等しくやって来るのは『締め切り』。ネタ探しを大義名分に
忍び寄る締め切りの足音を聞き逃そうと、自分の耳を塞ごうとしているのは、もう否定はしない。

歩いても、歩いても、代わり映えの無い景色。刺激は無い。求めることが間違っているような気がする。
「タヌキです!すいませーん!」
秋風を防ぐパーカーはわたしにとって貴重なおしゃれ着。女を捨てたファショナブルな着こなしが自慢だ。
文学少女が大きくなったそのままのショートヘアにメガネっ娘。わたしのアイデンティティは単純すぎる。
そう言えばきのうは夕方が来るまで大雨が降っていた。夕焼けが美しかった覚えがある。それ故、空気が肌寒い。
一雨ごとに季節が変わる四季折々。毎年のことなのに、この時期になると人恋しくなるのは不思議でしょうがない。
「お、ね、え、さーん!タ、ヌ、キ、でーす!!」
でも、この国に生まれてよかった。何気ない毎日に感謝……しようとしていたわたしに訪れた日常の中の非日常。

さっきから突き刺さる聞きなれぬ声に、不思議なフレーズ。誰もいないはずの道に背後からこだまする声。
振り向くと道路の真ん中にタヌキが立っていた。まるでぬいぐるみのよう。眼がビー球のように丸くて濁りが無い。
ケモノなのに人間のような声でわたしに話しかけてくる。ただ、この子の瞳が全てを許した。ウソをついているように見えなかったのだから。
ただ、灰色の空でも暖かそうな毛並みは少し羨ましかった。ケモノに対してこんな感情を抱くわたしを許して欲しい。

74 名前:タヌキの鏡 ◆TC02kfS2Q2 :2010/11/10(水) 23:05:07 ID:nbpk82SM
「あの、おねえさんにお礼を言いたくて、さがしていました」
正直、タヌキから感謝されるようなことをしたことをまったくもって覚えがない。ここ最近といえば、部屋に篭ってネームを描いて
電話で編集者にひたすら謝って描き直して、そこそこ家事をこなして昨晩はゴミをキチンと出したぐらいだ。
水曜の夜は生ゴミの日なのはこの町での常識。このように一人暮らしの小市民を名乗るのが相応しいぐらいに慎ましく暮らしてきただけだ。
タヌキは続けてわたしに深々とお辞儀をしながら、丁寧な言葉遣いでわたしを君子聖人のように崇める。
「この間のお礼に、おねえさんにわたしのたからものを見せたくて、さがしていたんです。みつかってよかった!」
誰かから感謝されたり、感激されることは悪い気持ちがしない。わたしが漫画を描き続けるのは読者から喜んでもらう為。
それを考えるとタヌキの喜ぶ姿が非常に愛しくて堪らない。わたしの漫画を読んで頂いたみなさんもこんな気持ちなのだろうか、と。
「見せたいものは公園にあるんですよ。こっちこっち!」
タヌキがそう言いながら駆けるので、わたしはその子について行くことにした。

わたしも知っている近所の公園。山を切り開いて出来た街のせいか、まだまだ垢抜けないのがいじらしい。
それ故、タヌキが現れてもおかしくは無い雑木林が、まるで手に届くように群がっている。子供たちが学校から帰る前の時間なので、ひと気は殆ど無い。
公園のグラウンドをタヌキが横切る。仔犬のように、短い四肢で足跡をつけてゆく。尻尾が揺れていた。
「すごくきれいなところなんですよ。そこでわたしたちは化けるれんしゅうをしているんです」
タヌキのふかふかな尻尾を追いかけながら、わたしはこの子が目を輝かせている顔を想像する。だって、自慢の宝物ですもの。
きっと、きらびなかな宝石のようなものなんだろう。お金に出来ないものなんだろう。と、みなさんは思うかもしれない。
だけども言おう。この子の言う宝物はきっと「公園の池」だ。この公園に池があることぐらいは知っている。
しかし、わたしはタヌキに心打たれて知らない振りを演じる。もう、なんの恩返しかどうかはこの際関係ない。
雑木林をくぐる。小道を駆け抜ける。風が通り抜ける。はらはらと落ち葉がタヌキに舞い落ちる。久しぶりに心揺さぶられ、
日常とともに雑木林を抜け出すと、大きな池がわたしたちの目前に広がった。だが、わたしを連れたタヌキは尻尾を力なく垂らしていた。

75 名前:タヌキの鏡 ◆TC02kfS2Q2 :2010/11/10(水) 23:06:56 ID:nbpk82SM
「ない……。わたしのたからものが」
きのうまでの大雨のせいで池の水は濁り決して『たからもの』と呼べるような輝きを持っていなかった。
タヌキは泥水のような水面を覗き込むと、まるで捨て猫のような声でわたしに教えてくれた。
「ここの池でわたしたちは『化ける』れんしゅうをしているんです。自分たちのすがたをうつして、みんなで化けかたをけんきゅうしているんです」
確かに池の周りには水銀燈が並び、夜行性の彼らにはお誂えの広場であることは言うまでもない。
タヌキはちょんと前足を冷たい水面に付けると、動物らしく反射的に引っ込めて耳を震わせていた。
「この前まできれいにわたしたちのすがたがうつっていたのに、きょうはうつってません……。どうしよう」
この子の後姿を見つめていたら、わたしも何かをしてやらねば、と言う恩義が芽生えてきた。
誰かを悲しい気持ちにさせたままだなんて、人を楽しませる為の仕事を生業としている者として黙ってられなかったのだ。
わたしは「ここで待ってて」とタヌキに言い残して自宅へ駆け戻った。『締め切り』なんかは……知らん。

―――タヌキの待つ公園の池に戻ると、ちょこんと池のほとりの石にその子は腰掛けていた。
わたしが自宅から持ってきた物をタヌキの目の前に差し出すと、円らな瞳が輝きを増していくのが目に見えた。
「わあぁ!わたしだあ!」
「気に入った?これ、あげるよ」
タヌキでさえ喜んでもらえることはわたしだって嬉しい。
「いいんですか?」と謙虚な姿勢を見せるもの、ケモノだったら遠慮はいらないよ、とばかりにわたしはA4サイズ程の鏡をタヌキに差し上げた。
わたしがいつも使っているごく普通の鏡。いたって変わりは無い。魔法なんぞは使えない。それでもタヌキは喜んだ。
「これでいつでも化けるれんしゅうができます!!」と諸手を挙げて喜ぶ。もっとも「諸手を挙げる」ことは出来やしないのだが、
わたしだったらそうするだろう、とタヌキの姿を想像したのだった。心がすっとするのはどうしてだろう。気持ちがよい。

76 名前:タヌキの鏡 ◆TC02kfS2Q2 :2010/11/10(水) 23:08:42 ID:nbpk82SM
―――タヌキとの出会いから一週間後の水曜。
タヌキから何かを得たせいか、わたしの筆は留まることを知らなかった。『締め切り』という言葉が心地よい。
今ならページ単価が倍になってもいいんじゃないかと言う、勘違い甚だしい錯覚さえ覚えてきた。
深い夜、わたしのGペンの音だけが闇を裂く。言い過ぎかもしれない。それに突っ込むように表で音がする。
どうしてもそれが気になって、休憩がてらに筆を休めて、窓から外を覗くとどこかで見た人物がいた。わたしだ。
そっくりだ。そっくりすぎる。女っ気を捨てたパーカー、文学少女そのままのショートなメガネっ娘。どう見てもわたしだ。
いや、わたしはここにいる。じゃあ、誰なんだ、お前って言う前に窓の外のわたしは返事を返してきた。

「おねえさん!この間はありがとうございます!おかげで毎晩、化けるれんしゅうができるんですよ」
わたしに化けたタヌキに相槌すると、タヌキはわたしの顔をして薄暗いなか目を輝かせていた。
それにしてもそっくりだ。わたしの顔、眼、服装、メガネまでこと細かに再現されている。タヌキが化けると言うのは本当だった。
それに、わたしが贈った鏡のおかげで練習に練習を重ね、このクオリティを極めることが出来たのだとタヌキは語る。
「それもこれも、おねえさんのおかげです!今夜もおくりもの、ありがとうございます」
そのようにタヌキは言いながら、わたしの姿でわたしが出した生ゴミを美味しそうに漁っていた。


おしまい。

77 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2010/11/10(水) 23:10:47 ID:nbpk82SM
投下終了!!

78 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 23:12:12 ID:mJh6Li2M
確かにシュールな絵だな
結局何の恩返しだったんだろう……

79 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 23:44:52 ID:2Ok07fwO
生ゴミ→たぬきのご飯を出してくれて有難う、て意味かな

80 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/11(木) 01:30:29 ID:9qbNs8zK
自分の顔で生ゴミあさりかw
何とも言えないなw

81 名前: ◆91wbDksrrE :2010/11/11(木) 20:22:06 ID:avIm+PDy
「……ん?」

 異変に気づいたのは、不意に……まあ、その、したくなって行った、公園のトイレ
での事だった。
 自分の顔が歪んでいる。何やら、実写版ピカソの絵のような、とんでもない姿に
なっているのだ。
 慌てて私は自分の顔を手で触れて確認してみる。
 ……が。

「……なんともなって、ない……よね?」

 だが、鏡の中の私は、相変わらずピカソだ。
 笑ってみると、ピカソが笑った。
 困った顔をしてみると、ピカソが困った顔をする。
 ……一体なんなんだこれは?

「………………」

 小一時間程、私は考え込んでいたが、結論は一つだった。

「……帰ろっか」

 とりあえず、家の鏡で見てもピカソなら、ちょっとばかり考えなくてはいけない
かもしれないが、そうでないなら問題はこの公園のトイレの鏡にあって、私には
無いという事になる。だったら、あまりここで悩んでいても仕方が無い。外の風景
は夕闇に包まれ、夜が近づいてきている事を私に知らせている。
 私がそう考え、最後にもう一度だけ鏡を見た、その時だった。

「あれ?」

 鏡の中の私が、私になっていた。
 ピカソじゃない私……普通の私が、そこにいる。
 同時に、入り口の方から何かが駆け去る足音が聞こえた。

「……ん」

 慌てて私は、入り口から外を覗いた。
 きっと、この現象は、足音の主のいたずらだったのだろう。だとすれば、一言
物申さねばなるまい。

「って……」

82 名前: ◆91wbDksrrE :2010/11/11(木) 20:22:13 ID:avIm+PDy
 足音の主を視界にとらえて、私は少しばかり驚いた。自分の顔がピカソになって
いたのを見た時よりも、ずっと。

「……タヌキ?」

 多分、そうだったと思う。もしかするとアライグマかレッサーパンダかもしれなかった
けど、多分アレはタヌキだ。

「……化かされ、た?」

 タヌキは人間を化かすというのは有名な話だ。
 今逃げて行ったのがタヌキなら……つまり、私は化かされたのだという事になる。
 そう考えれば、鏡に写った私のピカソ化にも合点がいかないでもない。
 色々とツッコミを入れたいところはあるが。

「……こんな街中に、タヌキか」

 タヌキは、もうすっかり見えなくなった。
 野生動物が、街中に出現するというニュースを最近よく耳にする。なんでも、山に餌
が不足しているから、という事らしい。あのタヌキも、餌を求めて街に降りてきて、それで
私を化かして、何か食べ物でも頂戴しようという魂胆だったのだろうか。
 それはもう、タヌキが姿を消してしまったのでわからない。
 ……まあ、こんな街中に住んでて、タヌキに化かされるなんて経験、なかなか出来ない
物だと思うし、今回はいい経験が出来たという事にしておこう。実害もなかったし。

「……帰ろっか」

 そんな風に自分の内心を納得させると、私は家路についた。

                 ☆

「父ちゃん父ちゃん!」
「おお、首尾はどうだった息子よ」
「父ちゃん、都会の人間は全然おいらの幻術にびっくりしないんだ! ずっと鏡見て、
 ふむ、とか、うーむ、とか言ってるばっかりで、驚いたり慌てたりとかしないんだよ!」
「……なんと。都会の人間は肝が座っておるのだな」
「驚いた所に声かけて食べ物ゲット大作戦は計画倒れだよ父ちゃん!」
「うーむ……これは都会の人間を舐めておったわい。山中の村なら、そんな肝の
 座った人間などおらんかったのだがなぁ……作戦の練り直しだのう」
「うん、父ちゃん! オレやるよ! 頑張るよ! あんなメスでも、びっくりさせてやれるように!」
「おお、なんという殊勝な心がけ……! 息子よ、強く生きていこうな!」

                  ☆

「へっくちゅ!」

 ……風邪でもひいたのだろうか。それとも、誰かが
 今日は早く帰って、暖かくして寝るとしよう。

                                               おわり

83 名前: ◆91wbDksrrE :2010/11/11(木) 20:22:33 ID:avIm+PDy
ここまで投下です。

84 名前: ◆91wbDksrrE :2010/11/11(木) 22:33:40 ID:avIm+PDy
って違う方投下してるのに今気づいた! 修正修正・・・。

----------------------------------------

「父ちゃん父ちゃん!」
「おお、首尾はどうだった息子よ」
「父ちゃん、都会の人間は全然おいらの幻術にびっくりしないんだ! ずっと鏡見て、
 ふむ、とか、うーむ、とか言ってるばっかりで、驚いたり慌てたりとかしないんだよ!
 その内、何事もなかったかのようにそこから離れようとするから、おいら逃げてきちゃった!」
「……なんと。都会の人間は肝が座っておるのだな」
「驚いた所に声かけて食べ物ゲット大作戦は計画倒れだよ父ちゃん!」
「うーむ……これは都会の人間を舐めておったわい。山中の村なら、そんな肝の
 座った人間などおらんかったのだがなぁ……作戦の練り直しだのう」
「うん、父ちゃん! おいらやるよ! 頑張るよ! あんなメスでも、びっくりさせてやれるように!」
「おお、なんという殊勝な心がけ……! 息子よ、いつかそのメスに目にもの見せてやれ!」

                  ☆

「へっくちゅ!」

 ……風邪でもひいたのだろうか。それとも、誰かが噂でもしているのだろうか。
 何にしろ、今日は早く帰って、暖かくして寝るとしよう。

                                               おわり

----------------------------------------

以上、修正でしたー
失礼しましたー(汗

85 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/16(火) 23:38:25 ID:rHBjiLn0
誰もいないの?掻かないの?                                                                                                  

86 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/17(水) 00:22:40 ID:OblBUv1P
いる

87 名前:HANA子 ◆c6PZzYalbM :2010/11/17(水) 00:24:06 ID:OblBUv1P
鏡を見ると、そこにはタヌキがいた…とでも思っていただきたい。
無論、比喩だ。
「あぁ、最悪…」
がっくしと肩を落とし、しばし呻き声を絞り出し続けるあたし。
これというのも課長のせいだ。ウー子も悪い。コヨミも悪い。ミソノも悪い。ノゾミも悪い。ミっちゃんだって悪い。
「ん…ん、ん、ん、ん? ん〜はないな」
って、なにをやっているんだあたしは。
ますます陥る自己嫌悪。がっくし落ちた肩に続いて頭も落とし、あたしは……、
「サヤカ! 洗面所にいつまで引き篭もってるのっ! 会社におくれるわよ!!」
という、母の声でようやく自分の今の立場を思い出したのだった。
≪あたしはしょうきにかえった!≫

「あ〜あ、ファンデのノリ最悪ゥ」
駅まで走る10分間、気になることといったらやっぱりお化粧の仕上がりだ。バッグの中のコンパクトで確かめてみても、そこに映るのはタヌキみたいなあたしの顔。
なんでこの世には残業なんてものがあるんだろう。だいたい残業あるんだったら飲み会なんてするなよって思う。それも次の日普通に仕事じゃんか! 深酒なんてさせんな!!
「あ〜あ」
ポケットに手を入れて探る。なにも見つからない。
タバコは先週止めたのだ。
「ん、もう!」
舌打ちをするあたし。おじさんがその脇を足早に駆けていった。
「おじさんはいいなぁ。毎朝お化粧しなくていいもんね」
そんなぼやきが口からこぼれたその時、
「おい、そこのタヌキ」
とんでもなく失礼な言葉の槍が、あたしの胸を貫いた。
ふと見ると、駅前の小さな公園の中からヒラヒラとおいでおいでをしている手が見える。
あたしはフラフラとそっちの方へと歩いていった。
「おっす」
「やっぱあんたか」
ベンチに座ったそいつは缶ビール片手に手を振って見せた。
「朝からビールとはいいご身分ねェ」
「だってオレ、さっき仕事終わったとこなんだもん」
ニヤリと笑うと八重歯が覗く。仕立てのいいスーツを着ていなければ未成年と言われても信じてしまうような童顔。ホストなんてやってるだけあって、確かにいい男ではあるのだ。
「あんた、よくここからあたしのことがわかったわね」
「サっちゃんのことならどんなに遠くからでもわかるんだよね」
ウッサイシネ、と脳天唐竹割チョップをかま……そうとして、あたしは手を絡めとられてしまった。
「え?」
そのまま手をひかれ、あたしは二の腕まで抱えられるようにして引っ張られていく。
「え、ちょっと?」
「サっちゃんってば、オレのこと普通に男として意識してないもんねぇ」
笑いながらこの子があたしを引っ張って行く先は……公園のトイレ?
「ちょっ…! 待って、やだっ」
「待たない〜?」


「はい、おしまい」
トイレの中には二人だけ。あたしの視線は鏡の中のコイツとあたしを行ったり来たりしていた。
「どう? もう目の下の隈は目立たないっしょ」
目立っていない。それはもう、魔法の様に消えてしまっているのだ。鏡の中のタヌキは、もはやいつも通りのあたしの顔に戻っていた。
そういえばこいつ、美容師になるのが夢だったとか言ってたっけなぁ。
だからなのか、化粧の手際も髪を整える手際もずいぶんテキパキとしてた。髪をとかす手つきはとても優しくて、化粧を施していく指先はとても繊細で、それはもうずいぶんと…
「かっこよかった?」
うん……とあたし、言いかけて
「ちょうしにのんな!」
鼻っ柱に裏拳をかます。
「ちょ、顔は俺の商売道具っ!」
ごめんねぇと笑って、腕の中からスルリと抜ける。イカンイカン、ちょっとときめいてしまったではないか。
そういう訳にはいかんのだ。この手の男に化かされてしまうようじゃ、イイ女だなんて言えぬのだ!
≪あたしはしょうきにかえった!≫

88 名前:HANA子 ◆c6PZzYalbM :2010/11/17(水) 00:26:42 ID:OblBUv1P
「タヌキ」「公園」「鏡」で書いてみやした
あるOLのたまにありそうな日常みたいな

89 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/19(金) 20:11:39 ID:uTjPAWkA
>>87
>>あたしはしょうきにかえった!
かえってないw 正気に返ってないよwww


次のお題として「かもめ」

90 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/19(金) 22:33:44 ID:dN1eot98
お題「めがねっ娘」

91 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/20(土) 09:10:51 ID:916yiS6w
高圧線

92 名前:とある名も無きしりとりの最期:2010/11/20(土) 14:40:39 ID:STz90Hf2
A「かもめ」
B「めがねっ娘」
A「高圧線……あ!」
B「というわけで、毎日マッ缶3本おごりね」

93 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/20(土) 14:52:21 ID:916yiS6w
しりとりになっているとは気づいてなかったw

94 名前:イッヒムスシュターベン ◆/6V.PHILIA :2010/11/29(月) 22:51:00 ID:PaWZSDIV
『カモメのジョナさん』
(お題:かもめ、めがねっ娘、高圧線)


 おれはカモメのジョナ。みんなおれのことをジョナさんと尊敬の眼差しで呼ぶ。
146ヶ月も続いた空間戦争も今は一段落ついているから、俺は見張りをしている。
突撃兵のおれが警邏をするというのもおかしな話だが、
羽もち無沙汰になるのも嫌だからこれはこれでいい。

 目下に街が広がっている。ヒトとかいう無翼の獣が築き上げたものだ。
基本的に奴らはおれたちに無関心だが、なぜか奴らの居住圏ではなく森林部などで奴らは敵と化す。
それに奴らは馬鹿デカい鉄のコンドルを使役している。ヒトはそのコンドルに食われても物ともしない。
注意しておいて損はない。

 街の外れの畦道を、ヒトのメスが歩いている。
手にはなにも持っていないが、その先に仲間の狙撃手がいるのかもしれない。
おれはムスメの上空を注意深く旋回し続ける。
なるべく視界に入らないよう、メスの後背側を中心にして。

 おっと。鉄のコンドルが飛んでいく。危ねえ危ねえ。
あんなでけぇヤツにあの速度で衝突されちゃ、ひとたまりもねえや。
うるさくて頭が痛くなっちまわあ。

 おれが視線を戻すと、メスは立ち止まっていた。
……いよいよ怪しい。こんな田園風景、あのメスにとってなんの意味があるってんだ。
あんな若いムスメが独りで農耕をするというのもおかしい。

 しかし……黄金の絨毯。サマになってらあ。
畦道の両脇に金の穂がこうべを垂れて、まるで女神に膝を附いているようだ。
街は遠く、山海も隔てている。そして黄金を割っていく少女……

 あ。ムスメが首を動かして、横を見ようと……違う、ムスメはこっちを、おれのほうを……

「ジョナさん……」

 それはムスメの声だったのだろうか。
頬にそばかすのあるそのムスメは、三白眼に丸縁のメガネをかけていた。
それは金の田園と溶けて、あどけなさまで金色に……






 彼女は、高圧線に触れて墜落していくカモメを見ていた。
地面と衝突する小さな音を耳にしながら、
私はどうしてこんなところにいるんだろう、と頭の端で考えていた。

「ジョナさん……」

 なぜかその妙な名前が脳裏をよぎり、
雷の霊――いつか感じたような、刹那に身を焼く痛み――に体を震わせた。
 帰路へつくため来た道を戻る彼女は、カモメの落ちた場所もその事実も健忘してしまっていた。
涼やかな風が、穂を柔に撫でた。

95 名前:創る名無しに見る名無し:2010/11/29(月) 23:00:37 ID:pRif9U+V
ただのパロかと思ったら、なんか神秘的なふいんき(なぜかry

96 名前:眼鏡っこ、カモメ、高圧線 ◆4c4pP9RpKE :2010/12/08(水) 02:38:40 ID:04ghE8tp
「乱視ですね」

眼鏡屋さんで、私は乱視を言い渡された。
フレーム調整だとかレンズの強化だとかで二万円プラスαが財布から蒸発した。
福沢諭吉がアイルビーバックなんて言いながら熱々のキュポラに沈下していく幻視を振り払い、私はできたてほやほやの眼鏡を掛ける。
電信柱を見た。
広告が見える。
そこから、NHKとNTTと電気屋さんが柱に登るときに使う足場を、右左、と登る。
視線は登って、変電用のバケツみたいなキュービクルを見る。
キュービクルから家々に伸びる電線を伝うと、更に向こうにある発電所の鉄塔から生える高圧線と、それが重なる。
アミダくじのように視線は高圧線を辿り、やがて遠景にある紅葉の綺麗な山の稜線に至った。
建物やら電線やらに区切られた稜線は、やけに遅筆の漫画家がこだわって描いた背景みたいで、ウソみたいな秋色だった。
二人の諭吉と雑兵的夏目漱石と桜と鳳凰堂を焼失せしめたオソルベキ双眼の屈折鏡は、なるほど確かに二万円の価値があるようだった。
私は眼鏡を外した。
途端に、稜線も電線も建物もキュービクルも電柱も、全部滲んだ。
輪郭の曖昧な、味のある水彩画みたいになった。
私は、カモメのジョナサンの訳者あとがきを思い出す。
この小説はヒッピーが憧れたアメリカンドリームの寓話だ。でも、そうと言い切ってしまうのも面白くない。
眼鏡を、付けたり外したりしながら帰った。
ペイントソフトでフィルタ→輪郭強調、ctrl+Z、フィルタ→水彩風。
それを繰り返しているみたいだ。
眼鏡は輪郭フィルタプラグインと呼ぶべきなんじゃないかな、と考えながら、私はお酒とおでんを買った。
今日はお酒がおいしそうだ。

終わり


97 名前:創る名無しに見る名無し:2010/12/08(水) 20:55:03 ID:t0vQtKWW
>>96
こういう感じは結構好きかも

98 名前: ◆91wbDksrrE :2010/12/08(水) 23:21:59 ID:IvjmJMi0
「かもめって、なんでジョナサンがデフォ名なの?」

 ある日、彼女が投げかけてきた唐突な疑問に、僕は即座に答えた。
 彼女は普段とすこしばかり風体が違っていたが、その疑問が脈絡の無い、
唐突な物である事は、いつもと変わりなかった。

「そういう小説があるんだよ……っていうか、ジョナサンがデフォ名か、かもめって?」
「いいじゃない。私はデフォだと思ってんだから。ほら、セバスチャンみたいな」
「セバスチャンの元ネタは、実際には執事ではなく使用人だったんだけどな」
「へえ、そうなの? っていうか元ネタってあったんだ」
「アルプスの少女ハイジのキャラクターが元ネタなんだと」
「クララが立つお話のあれ?」
「間違っては無いが……間違ってるような」
「細かい事は気にしない! 男は度胸だよ!」
「それも間違ってるような……まあいい。ところで、なんでかもめの話を?」
「あのね、この前向こうのアレ、高圧線の鉄塔があるじゃん」
「ああ、あのでかい奴か」
「そそ。そこにかもめがいたの」
「……ここ、山奥のはずだが」
「でしょー、不思議よね?」
「不思議と言えば不思議だが、それがどうしてジョナサンの話になるんだ?」
「そこはそれ、セバスチャン的発想で」
「どんな発想だ」

 そんなとりとめの無い会話を交わしている間中、彼女はかけている眼鏡を
しきりに指で押し上げる仕草を繰り返す。先日まで彼女の眉目を飾っていなかった
それを、やたらと強調するように。その意味する所は、つまり……そういう事なんだろうな。

「……眼鏡、似合ってるぞ」
「ななななな!? なんですか突然気持ち悪い!」
「き……気持ち悪いって」

 ……酷い言われようだ。そういう事じゃなかったのか? 以前髪を切った時に
さっぱりアピールに気づかずに怒らせてしまった事に学習したつもりだったのだが……。

「そういうのは、もっと自然に、流れに乗って言ってくれなきゃ……驚いちゃうよ」
「流れって……どうやって眼鏡褒める流れにしろって言うんだよ」
「その為の振りはわたしが作ってあげてたじゃん!」
「かもめ振りからどうやって眼鏡に結び付けろと……!?」
「だって、普通山奥にかもめはいないでしょ!? だったらそれは見間違いに決まって
 るじゃない! となると、目が悪くなった……これは、眼鏡の流れに相違いなし!」

 ……わけがわからん。

「あー、もう、わけがわからんって顔しなーい。せっかっくめがねっ娘好きな君の
 好みに合わせてめがねっ娘になったってのにー」
「……それで、コンタクトにしなかったのか?」
「うん!」

 ……はぁ、まったく。どうしてこいつはいつもこうなんだろうな。

「……僕は別にめがねっ娘好きってわけじゃないが……」
「えー!? そうだったのっ!? だって眼鏡かけてるじゃん!」
「そりゃ眼が悪いからに決まってるだろ……でも、お前がかけてるのは……その、
 似合ってると思うし……いいと、思うぞ」

 僕の言葉に、照れたような笑みを浮かべ、まるで猫のように擦り寄って来る彼女の頭を、
俺はいつものように撫でてやった。気持ちよさそうに目を細める姿に、俺の頬も自然と緩む。
 まったく……いつまでも、こんな感じでやれたらいいんだがな。
                                            おわり

99 名前: ◆91wbDksrrE :2010/12/08(水) 23:22:12 ID:IvjmJMi0
ここまで投下です

100 名前:創る名無しに見る名無し:2010/12/10(金) 04:06:47 ID:GhASz2dQ
彼女持ちは爆発すべき

次のお題「爆発」

101 名前:創る名無しに見る名無し:2010/12/10(金) 08:30:55 ID:5Z9IgDyl
お題「白米」

102 名前:創る名無しに見る名無し:2010/12/10(金) 09:32:26 ID:rt9hN93z
お題「中央アジア」

103 名前:爆発、白米、中央アジア ◆4c4pP9RpKE :2010/12/12(日) 04:05:05 ID:N85IhmDg
大ヤポンスキ帝国から貧困著しい中央アジアに救難物資が投下されることになった。
しかしヤポンスキ帝国総帥の管直人(くだじきにん)提督はあんま外交が上手くなくて、
パン食の地域にあまった備蓄米を勘違いで送ってしまった。
「んあーどうしたらいいんだ。また管乱(くだらん)失策とか言われてしまうー」
「提督しっかりせんか」
「おお、殲獄さん」
「わしがアイデアを出してやる、自衛隊に指示をだすんじゃ」
「おK」
そして空自は連絡を受けた。
貨物を積んだ輸送空挺部隊の無線が鳴り響く。
「……マジすかマジで言ってんすか。そんなもん戦争になりますよマジで」
『っさいボケ。総帥の指示をシカトできっか』
「り、了解しました」
そして米の詰まったコンテナが投下された。
食うや食わずで生きていた中央アジアの難民はこぞってコンテナに群がり、そして弾けて死んだ。
コンテナが大爆発したのだった。
次の日に新聞はこう書き立てた。
『管乱思い付き、現地民殺傷!』
管提督はインタビューでこう答えた。
「……白米爆発させてポン菓子にすりゃパン食の人も食うと思ったんです」
直人(じきにん)、じきに不信任。
そうこき下ろされたのは言うまでもない。

終わり

104 名前:創る名無しに見る名無し:2010/12/12(日) 04:08:49 ID:N85IhmDg
政権安定して欲しいねぇ

105 名前:創る名無しに見る名無し:2010/12/19(日) 15:30:59 ID:J786QEVC
くそwwひでえ話www

106 名前:創る名無しに見る名無し:2010/12/22(水) 15:48:58 ID:i7X56YmR
>>96
(・∀・)イイ!! こういう感じ好きだ
さりげに出てくる専門用語もいい感じを演出してる

>>98
あいかわらず甘酸っぱいww
さすがです!
(細かいことだけど、終盤の一人称は統一して欲しかったかも)

>>103
これをギャグと言い切れないところが、ホラーだよなぁ


107 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/02(日) 15:07:27 ID:u3h2+04p
では、お題「尻尾」

108 名前: ◆91wbDksrrE :2011/01/02(日) 15:27:32 ID:Z/NjdNWt
「耳」

>>106
修正し忘れです。すまんこってす。

109 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/02(日) 16:46:02 ID:yzf2GsPm
お題:「屋根」

110 名前:尻尾、耳、屋根 ◆mmZT.eqshg :2011/01/03(月) 19:24:51 ID:hRrxqxpv
吾輩は猫である。もはや猫である。
「かわいー。キモイけど」
「うぜえ」
頭を執拗になでてくるミハヤの手を頭をフリフリ振り払うと、今度は耳を掴まれた。痛い。
「だってネコ耳萌えって言ったじゃん。ふわふわー」
「だったらお前生やせよ!何で俺に生えてんだよ!」
ムカつくよりも先にマジで痛い。ミハヤの手をはたいて空中で追撃した。
「貴方が願ったのでしょう。どうして文句を言うのです」
俺ら二人のやりとりを見ていて、白菜色した長い髪の外人が不思議そうに聞いてきた。
「見てわかんねえ?むさい俺にネコ耳生やしてどうすんだよ!」
自称千歳の精霊はキョトンとして俺の目を覗き込む。理解していないのは間違いない。
「はあ。ネコ耳を生やしてどうするのか、私に聞かれても困りますが」
「この人ネコ耳生えるのが夢だったんですよ」
「俺の頭にじゃなくてな!?」
経緯はこうだ。屋根裏を整理していたら、謎のランプが出てきた。
謎のランプから精霊さんが出てきて、3つ願いをかなえてくれるという。
1つ目の願いで100万円もらった。二人で山分けした。
2つ目の願いでネコ耳を生やしてくれといった。こいつに、とは言わなかったのが失敗だった。
「自分がされて嫌な事をしようとしたんじゃない。罰が当たったのよ」
「俺に生えたってかわいくねーよ」
「かわいいじゃん。キモイけど」
「お前に生えた方がかわいいだろ」
思わず口走った。からかわれると思って身構えたが、ミハヤは何も言わない。
チラッと横目で見ると、顔をガン見されている。おもむろに頭をナデナデされた。
「尻尾も生やしてみる?」
「はあ?ふざけんなよミハヤお前!」
「冗談。何もない方がかわいいよ、あんたは」
「はあ?寝ぼけんなよ?」
からからと笑うミハヤ。1歳しか違わないのに、時々妙に人を年下扱いするところが癪に障る。
「うん。ねえ、これ。元に戻して」
「承った」
唐突に、屋根裏が白菜色の光に包まれた。気がつくと、屋根裏で仰向けになって寝ていた。
「……夢、か」
そう言えば、屋根裏を整理していたんだった。ちょっと長めに居眠りしてしまったのか、枕が妙に生暖かい。
「起きた?」
枕が話しかけてきた。枕と思っていたのはミハヤの膝だった。
「ああ。枕が固いせいで変な夢見たよ」
頭をぐりぐりされる。手を押しのける。ネコ耳は無かった。
「やっぱり、今のほうがかわいいよ」
「あ?何て?」
「屋根裏の整理やんないと、終わんないよ。おばさんに言われたんでしょ」
うぜえ。俺はやっぱりミハヤはかわいくないと思う。わざとゆっくり体を起こす。
「うっせーよ。指図すんな」
見た目は悪くないから。ネコ耳でも生えたら、ちょっとはましになるかも知れないけど。

111 名前:「尻尾」「耳」「屋根」 ◆/6V.PHILIA :2011/01/04(火) 21:06:02 ID:0VXFZk+/
「ヤカンにはお気をつけください」

 僕、中之下之姿(なかのしたこれなり)は、ケモナーである。
ケモナーとはケモノをこよなく愛する者の総称で、
ケモノとはおよそ動物のキャラクタや動物の一部もしくは多数の部位をもつ人間のことである。
 年も明けて悠々自適のニート生活をしていると、
おふくろに「年末の大掃除もサボったんだから、このヤカンでも洗ってなさい」と云われた。
その悲しげ、もしくは侮蔑の浮かんだ表情からは、言外に
「働きもしないんだから」という理由も附け加えられていた。
さらに云えば、忿怒の表情も浮かんでいて、そこからは言外に
「あんたが焦がしたキッチンをどうすることもできないんだから、それぐらいしやがれ」
という理由も附加されていた。
モチを焼こうとコンロの火をつけたら、ベジータの髪のように炎がぶわっと巻き起こり、僕の前髪に着火。
慌てて風呂場に駆け込んで水を浴びた後、前髪の状態を確認している間に、
消し忘れていた火が壁を這って天井に燃え移った。
母さんが気づいてすぐに鎮火されたが、コンロをはじめとするキッチン器具は使えなくなってしまった。
(が、僕の前髪はベジータにならずにすんだ)
 そのとき傍にあったヤカンは熱で溶けるのを免れたものの、黒く焦げてしまった。
だからせめてそのヤカンは使えるようにしろ、と
おふくろは僕のコミュニケーション能力を試しながら言外に云ったのである。
まったく。ニートに空気を読ませるなよ。
 ――とヤカンをゴシゴシ洗っていると、タコのようなヤカンの口から煙が出てきた。
煙が出るような熱をもつほど摩擦した憶えはないぞ、と驚いていると、煙が人の形をなして色が変わっていく。
見る見るうちに、洋服の至る所にススをつけて、ドリフの爆発コントのような黒アフロをしたジジイが現れた。
「わしはヤカンの――」
「なんでコント仕様!?」
 驚く僕に、ジジイは前蹴りを喰らわせてきた。
「わしはヤカンの精じゃ。お主がヤカンを焦がしたせいでわしはこんな姿になっておる。
この恨み晴らさでおくべきか」
 それじゃ怨霊じゃないか、と云う僕の呟きは、腹が痛くて呻く声にしかならなかった。
「3つ願いを叶えてやろう――と云いたいところじゃが、お主には3つも贅沢じゃ。1つだけ叶えてやる。感謝せい」
 のちのち「願いを叶えてやるから、この壺を買え」と心霊商法まがいのマルチをしだすんじゃないかと訝ったが、
そのときはそのときで追い返せばいい、と損得勘定が働いた。
「ケモノをください」
「ケモノ?」
 やはり願いを叶える精とはいえ、ジジイだ。ケモノを知らないようだ。
「猫の耳と尻尾をもったコのことですよ」
「よし、叶えてや――」
 その瞬間、また損得勘定が働いた。一瞬、あの忿怒の表情が浮かんだのだ。
「ケモノと新しい家をください」
 ジジイが表情を曇らせる。さらに僕は上乗せした。
「ケモノはケモノでも僕のことを大好きなすごく可愛いケモノと、
家は家でもこんな狭くなくて広々とした家をください」
 僕の聡明な「2つの命題を1つの文にすることで、1つの願いと見なさせる作戦」に、
ジジイはあからさまに面倒そうな顔をした。
「はいはい、やってやる。やってやるからこれでお役御免じゃ」
 ヤカンの精もリーマンみたいにノルマとかあんのかな、
と不思議がっていると、部屋のなかが煙でいっぱいになっていく。
 慌てて外に出ると、家全体が煙に包まれて消防車がやってきた。買い物に出かけていたおふくろも驚いている。
放水され始めるも、煙がどんどん大きくなって周りの家を押し潰していく。
そして煙が固まって、広い家になった。
家には猫の耳と尻尾が申し分程度に附いていて、
「ゴロゴロニャ〜ン。之姿くんのこと大好きだニャ〜ン」としゃべった。

 後に残ったのは、潰した家の修繕費や消防車の出張代を含めた多大な借金と、
無断建築の罪、そして世間からの白い目だった。
黒焦げのヤカンは、捨てた。
ジジイは「壺より高くついたじゃろ」とヤカンの口から顔を覗かせ嘲笑ったが、
ヤカンをゴミ集積所に叩きつけると、カーンという高い金属音を最後に黙った。
 みなさん、ヤカンにはお気をつけください。

112 名前: ◆/6V.PHILIA :2011/01/04(火) 21:41:40 ID:0VXFZk+/
やっべ
もろかぶりじゃん

113 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/05(水) 00:01:20 ID:CAS0WwzC
ネタがかぶっているにも関わらず両者ともどもなかなか楽しかった。
>>111のネコミミとしっぽのついたしゃべる家を想像すると
ちょっと笑えるw住んでみたいw

今唐突に思いついたんだけど、
わざとネタかぶらせて競ってみるっていうのもおもしろいかもね



114 名前:110コテ忘れた:2011/01/06(木) 23:17:15 ID:KqpAvfOw
尻尾と耳をケモナーで消化して舞台は自宅で
ランプorやかんの精が3つの願いをかなえて
調子こいた主人公が痛い目にあって
しかも事の発端がおかんの命令というw

そこまでかぶってるのに
作品はちゃんと違うものになるからすげー。
>>111見て正直あせったw

>>113
謹んでお断りしなくもない。

115 名前:「尻尾」「耳」「屋根」 ◆q/J/TnXO.s :2011/01/16(日) 09:17:52 ID:DJsOyfht
体中に鼠の糞を付けながら慎重に天井裏を這い、目的の部屋の上に辿り着く。
予め開けておいたのぞき穴から下を覗くと、殿様は膝に座らせた猫を撫でているところだった。
さらに中をよく見ると、殿様の向かいにはその腹心たる重臣が座っている。
しめた。こいつと殿様の間柄なら、隠し立てすることは何もない。
そもそも俺が潜入している目的も、こいつの腹の中を探ることである。

重臣はそのまましばらく猫を可愛がる殿様を見ていたが、やがてふと思い付いたように口を開いた。
「殿、一つ問答がございます」
「問答?ふむ、よかろう。申してみよ」
「は、では……」
これはもしや、何か重要な政策に関する伏線だろうか?
俺は一言一句聞き漏らさぬようさらに耳をそばだて、重臣の次の言葉に集中した。
「その者、人の見下ろすところを見上げております」
「人の見下ろすところを見上げる……?小人か?」
人の見下ろすところを見上げる……?どういうことだ?
「その者同じくして、人の見上げるところを見下ろしております」
「ははあ、わかったぞ。それはわし自身のことを言っているのであろう。
下々が皆恐れ平伏するそなたも、わしにとっては頼もしい家臣じゃからのう」
「有難きお言葉ですが、違います」
一体何のことだろうか?
人の見下ろすところを見上げ見上げるところを見下ろす?
俺は必死に考えたが、答えは浮かんで来ない。
それは殿様も同じらしくしきりに首を傾げながらぶつぶつ言っていたが、やがては俺と同じく観念した。
「解らん。答えを教えてたもれ」
「わかりました、すぐにお見せいたしましょう」
見せる?すぐに?
どうやらこの重臣は、既に『答え』をこの場に用意しているらしい。
俺はまたのぞき穴から目を凝らした。
問答の解けぬ自分の愚かさは悔しいが、『答え』であるところの現物を早く見たくて仕方ないのだ。

しかし、問答のこと以前に己の愚かさを知ることになるのはすぐのことだった。
そもそもここでふと思い付いたに過ぎない問答の答えを、そんなに都合よく持っているはずが無かったのだ。
重臣は壁に立て掛かっていた槍(おそらくこのような時のために据え付けてあったのだろう)を
抜く手も見せぬ速さで取ると、真っ直ぐに俺の下腹部あたりをめがけて突き上げた。
俺はとっさに仰向けに寝返ってかわそうとしたが間に合わず、槍は肛門の少し上のところに突き刺さった。
その痛みに悶絶して体を反らせた時、全てが解った。
今俺が居るのは館の天井裏。そう、屋根裏と言ってもいいだろう。
そして今俺が見上げているのは、館の屋根。今まで地面のように下に見ていたのが、部屋の天井。
屋根の表は上から人の見下ろすところであり、天井の表は下から人の見上げるところ。
もはや部屋をのぞくことなど叶わなかったが、槍をさらに突き上げる重臣の声はかろうじて聞くことが出来た。
「鼠、でございますよ。ようやく尻尾を掴みました」

116 名前: ◆q/J/TnXO.s :2011/01/16(日) 09:19:05 ID:DJsOyfht
問答に結構強引なところがあってすみません。
>>113に乗ったわけじゃないけど新しいお題も出ていないので「耳」「尻尾」「屋根」で書いてみました。
次のお題はせっかく最後をしめたんで「鼠」でお願いします。

117 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/16(日) 22:07:41 ID:V2dxi8ro
言い回しに多少変なところがあるけど、話の作りうまいな

118 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/16(日) 22:16:24 ID:QEUAXFAl
お題「スペース」

119 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/16(日) 23:06:50 ID:lYtMWmKw
>>116
乙。なんか落語っぽい感じ

お題「日記帳」

120 名前: ◆4c4pP9RpKE :2011/01/20(木) 02:39:46 ID:/iuNdnSo
ディズニーがネズミをスペース裁判にかけた。
訴状にはこう書かれている。
『当社に権利のある版権キャラクターに無断で擬態したことに対する著作権侵害の嫌疑』
別に鼠はミッキーマウスを真似たわけではないが、ディズニー社は訴えて金の取れるものには容赦なかった。
ネズミは審問官に即時異義を申し立てたが「チュー」と鳴いただけで終わってしまった。
「異義は無いようなので、判決を降します。ネズミを有罪とする」
スペース地方裁判所太陽系支部はお役所体質なので、書類を完璧につくってきたディズニーの勝訴を何にも考えずに決めた。
「量刑は、存在の消去と派生情報の全削除。海賊版ネズミもつくれないようにするために、近傍の系譜に属する生物も駆除する」
そしてネズミは消滅し、人類も消滅し、もちろんディズニーも消滅した。
スペース役人には苦も無い仕事だった。
文明が潰えたことで太陽系支部は閉鎖となり、スペース役人は棚ぼたの栄転に預かった。
地球は植物だけの星になった。
何らかの方法でネズミに近似する生命を一掃したその星は、ただ青く、ただ碧かった。
人のいなくなった家。
主のいなくなった部屋。
閉じる者のいなくなった窓。
恵みを享受する者のいなくなった雨。
雨はシトシト降り続けた。
窓辺の机の、書く者のいなくなった日記帳を、じっとり湿らせながら。
しとしとしとしとしとしとしと。
しとしとしとしとしとしとしと。
穏やな時が流れた。


終わり

121 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/20(木) 21:19:46 ID:3rNSf1FP
なさそうでありそうな、やっぱりなさそうな感じの話

122 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/22(土) 09:47:51 ID:lvOaMsD+
おいおいお題出そうぜ

つ「お茶」

123 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/22(土) 10:57:40 ID:JdXm5uHn
「ヒバゴン」

124 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/22(土) 11:09:44 ID:oaRFZPxS
「特別室」

125 名前: ◆91wbDksrrE :2011/01/23(日) 03:07:40 ID:Ecr9Jz3O
ひ、ヒバゴン・・・だと・・・?

126 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/23(日) 08:50:34 ID:rEuyLk9l
特別室は特別室というだけあって特質な人間が訪れる。
今日も妙な…否、特質な人が現れた。
相談予約の時間に5分間先どって特別室を訪れた律義な古きよき日本人気質を備えたその男は、
仕立ての良いストライプのスーツを着、頭に白髪の混じり始めたくらいの年の頃をした老紳士だった。
男は特別室の扉の前で静かに腕を上げ腕時計を睥睨していたが、私が呼び込むと自然な応対で応接室に入った。
私がお茶を差し出して対面のソファに腰掛けると、男は静々とお茶を飲んだ。
啜り上げる音も立てないで茶を飲む様は、
この男にリモコンが付随されていたらきっとまず消音ボタンを押して消音機能を解除し音量をあげてみる行動をほとんどの人が取るであろうと思しいほどだった。
一通り口を湿らすと、男は言葉らしい音を漏らした。
「では、依頼の話をしましょう……」
男の口調は重く、もし文に起こすなら絶対に三点リーダーが二つ並べられて然るべきような気がした。
「緋馬金(ヒバゴン)、という生き物をご存知ですか……」
「ヒバゴン、ですか」
「はい……緋きタテガミを持ち赤銅に輝く毛並みをした、幻の獣……」
「それはつまり龍や麒麟みたいなものですか?」
「違います、空想ではなく……そうですね、絶滅危惧種、と言えます……」
男は三点リーダーの余韻に続いて、ストライプのスーツの内ポケットから革のカードケースを取り出した。
名刺交換を忘れていたことを思いだし、こちらも名刺を探ったが、男は名刺ではなく一枚の写真を取り出した。
「ご覧ください……」
名刺を探ることを放棄して受け取った写真には、グロテスクなものが写っていた。
皮を剥いだ上で黒く腐らせた人間の死体にドレットヘアのように何かの動物の腸を無理矢理縫い付けた、趣味の悪いオブジェだった。
「私の孫娘が病に倒れましたので、秘術によって緋馬金に転生させました……」
幾分嬉々とした様子を見せるその男の話を聞きながら、私は微笑みを絶やさなかった。
イカレた異常者のよた話を聞くだけで金が貰えるのだ。
だから精神科医はやめられない。
異常が法に抵触してしまうレベルに達した特質な人間の話を聞く場所、特別室。
あなたも来てみませんか。

おわり

127 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/23(日) 12:31:11 ID:Y3+IAeTB
乙!

次のお題は「空手」

128 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/23(日) 13:39:30 ID:rEuyLk9l
お題出すときくらいアゲるか
「ボクシング」

129 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/23(日) 15:32:26 ID:WEAdEhxo
まさか明るそうなお題でこんなショッキングな話になるとは

お題なら「卵」

130 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/24(月) 01:21:38 ID:ybJx4aLY
流れ早い…

131 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/24(月) 07:54:54 ID:WA4BD1h6
過去のお題で書いても問題無いので、悪しからず。

132 名前:空手、ボクシング、卵 ◆4c4pP9RpKE :2011/01/26(水) 06:32:39 ID:P58nbQ/h
「にいちゃん、空手とボクシングとタカツメヒルガエシケンだと、どれが強いの?」
「鷹爪翻子拳(ようそうほんしけん)だな」
俺達兄弟は煙草の煙幕が張られた古びたゲーセンみたいな臭いが漂う地下闘技場に居た。
此処では日夜狂乱のヒメゴトつまるところ賭博格闘が行われていて俺は弟にこの宴の狂乱に興じることで得られる昂じた熱の感覚を教えようとこの魔窟へ弟を連れて来た。
勿論全部嘘だ。
なんの変哲もない普遍的な古びたゲーセンに連れて来ただけ。
煙草の脂で見るからにネトネトしたアナログテレビに3D格闘ゲームの映像が映っていた。
鷹爪だの空手だのはこの観覧用ディスプレイを見ての会話だ。
画面を見ながら分かりもしないのに「でも中国人負けてるじゃん」とか言ってる弟を無視し、プレイヤーのほうを見た。
この店はあまり広くない敷地に無理矢理ゲーセンを開いているので、格ゲーを普通通りの対面に置かず横に並べている。
虚ろな視線を筺体に投げるプレイヤーは、髪が異様に長い男だった。
彼はこの界隈で有名な格ゲージャンキーで、鷹爪使いだ。
全てのキャラの当たり判定を熟知していて、凶悪なカウンターを駆使して戦う猛者である。
一方、対戦相手は2人連れの不良だった。
ジャンキーがヤンキーを刺激しないようにそこそこ接戦ぽく演出してあげているのだとすぐに気がついた。

ヤンキーが惜しかったのになーキモロン毛マジウゼェギャハハと機嫌良く帰って行くのを見届けた店内はむしろさすがジャンキー大人の対応と尊敬するような空気が流れた。
「にいちゃん、タカツメ弱いんじゃないの?けっこう苦戦してたよ?」と弟が言った。
何も知らない弟の頭をパチリと叩いてヤンキーがどいた席に座る。
「ジャンキー、弱くなったじゃん」コインを飲ませながら言った。
「三次元で乱入されちゃ困るからね」
ジャンキーは俺に気がついて返事をし、表情を緩めた。
だけど手元は引き締まる。つまみ持ちから、ブッサシ持ちに変えた。
ジャンキーは対戦相手の強さによってレバーの握りを変える。
いつかジャンキーにウメハラ持ちをさせるのが夢だったのだけど、それはもう叶わないかもしれない。
「この店、今週で閉店だってな」
「らしいね」
「ジャンキーは、他の店行くのか?」
「うーん、僕はここが好きだからね、よそは行かないかも。君もようやく受験勉強に集中できるね」
「……そうだな」
その日、後は黙々と戦った。
弟は見てないうちに2D格闘にはまってしまったようだが、もうゲーセンは無くなる。
馴染みのゲーセンと馴染みの常連が消えたら、俺もゲームは卒業かもしれない。
オンラインではゲーセンの熱が出ないんだ。
青春が消えていくみたいで、午後からの予備校も黄昏しか残らなかった。
翌週、ゲーセンは取り壊された。
新しい建物が建てられて……なんと新しいゲーセンになった。
しかも店長はジャンキーだった。
「格ゲーマーの卵がいる限り、ゲーセンのネオンは消せないからね」
髪を切り店員の制服を着たジャンキーは、ワイン持ちで弟の対戦相手をしていた。
終わり

133 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/26(水) 06:46:17 ID:P58nbQ/h
あげー

134 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/26(水) 13:07:28 ID:pOYeFzr/
おお、これはさりげなくいい話。

135 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/27(木) 17:08:25 ID:KH7aoEPu
GJGJ!

136 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/27(木) 17:42:15 ID:+3nOYYcl
これはいい
ちょっと長い話で読んでみたい

137 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/27(木) 18:34:06 ID:KH7aoEPu
お題「女王」

138 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/27(木) 20:27:19 ID:wthiNNEG

俺の双子の妹は卵から生まれた。
しかもその卵は、どうやら父さんが生んだらしい。

『静粛に!』

父さんはここ数年ずっと引きこもりをしていた。
もともとは、大学の付属病院で精神科医をしていたが患者の話を聞きすぎたのか、
自身が精神を患ってしまい、それからはずっと自分の部屋で乳製品をひたすら食べてお茶を大量に飲み、寝ることしかしていない。
乳製品とお茶って食べ合わせがあまりよくない気がするけど、
引きこもりだってあまりよくない気がするし、俺はもう深くは考えないことにしている。

母さんは父さんと同じ大学の付属病院で外科として働いていたから、生活する上での支障はそれほど無かった。
けど、俺と2人で生協から届けられた大量のチーズ、お茶、プリン、ヨーグルトを冷蔵庫に詰めている母さんの顔が
青白く照らされている時は、何だか恐ろしく、また申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「父さん、俺、明日大学の入試なんだよね。」

俺は久しぶりに思い切って父さんの部屋に行き、父さんへ声をかけてみた。
父さんの部屋は恐ろしい程の熱気に包まれている。
曾祖父の代から住んでいるこの家で最も日当りの良い部屋を選んでいることも作用しているのだと思う。
だが、加湿器、ストーブ、エアコン、蓋を開いたまま沸かされ続けているポットがその熱気に更なる拍車をかける。
父さんはどこからか引っ張りだして来た異常な量のふかふかの寝具に包まれているため、姿が見えず生存の判別がつかない。
けど、ドアの付近に空になったお茶のペットボトルとチーズの包み紙が置かれているから、少なくとも今日の夕方までは生きていたのだろう。

俺はゴミを静かに手に取り、部屋を後にする。

「これからは、ミイラ取りがミイラになるんじゃなくて、ミイラがミイラ取りになるのよ。」

大学入試を終えた夜、母さんと2人で夕食を食べていたら、唐突にそう言われた。

「どういうこと。」
「女王は父さんの顔覚えてる?」
「まあ、うん、父さんだしね。」

唐突だが俺は父さんと母さん女王と呼ばれている。幼かった頃の俺は女王と呼ばれると酷く喜んだかららしい。
小学校へ入るころには流石に人前で俺のことを女王と呼びはしなかったが、今でも家の中では母さんは俺のことを女王と呼ぶ。
俺も、男の俺が女王と呼ばれることが一般的に考えておかしいと分かる年だが、
本名よりも女王と呼ばれる方がしっくりくるのでそのままにしている。

「母さんはもう忘れちゃいそう。ああ、早く、新しいミイラが来ないかしら。」

正直俺は母さんが何の話をしているのかが全く分からなかった。
分からなかったけど、母さんの顔が大量の乳製品とお茶を冷蔵庫に詰めている時のそれと同じだったから、
俺はただ頷いて、母さんの言うことが全て分かっている振りをした。

母さんの作ったぶり大根は相変わらず美味しかった。

-つづく-

139 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/27(木) 20:28:58 ID:wthiNNEG
俺が大学の入学式を終えた夜、部屋でシラバスを読んでいたら突然奇妙な叫び声が聞こえた。

驚いて部屋を出ると父さんの部屋の灯りがついていて、叫び声はそこから響き渡っている。
部屋に入ると、どろどろに溶けた岩石の様な笑みを浮かべた父さんと、引きつった笑みを浮かべている母さん、
そして小さな、大福のような人間が2つ、ゴミ箱一杯に入れられたお茶の中に浸りながら叫んでいた。

「あら女王、ごめんね起こしちゃった?」
叫び声がうるさくて母さんの声が聞き取りづらい。
「え、うん、いや、どうしたの。」
「女王、よかったわね。双子の妹よ。」
「いや、何で、え、何が。」
「ほら、名前は何にしようか、ね、あなた。」
母さんはゴミ箱からお茶まみれの小さな人間を1人づつ、右手と左手ですくいあげる。
母さんが触れた途端それらは静かになる。
父さんの部屋が静寂に包まれてしまう。
沈黙の中で笑みを浮かべ続ける父さんと母さん、そして2つの小さな人間。
父さんの寝具から、コピー機サイズの巨大な割れた卵が1つ、ある。

「い、意味が分からない、何、この小さいの、何で、え、父さんは、あれ?ちょっと、母さん、ね、なにそれ、」
俺は母さんの肩をつかんで揺さぶりながら聞いた。聞きながら、力がどんどん強くなり、声が大きくなるのが分かったが止められなかった。
母さんは訝しそうに俺のことを見ていた。
「どうしたの女王、喜んでくれるかと思ったのに。」
「はは、どうして、ええ?喜ぶって、そんな、わけ?え、妹?」
俺はますます混乱して、母さんはますます困惑した表情を浮かべた。

「静粛に!」

突然、数年ぶりに父さんの声を聞いた。
俺は母さんの方をつかんだまま父さんの方を勢いよく向く。
父さんは、さっきまでの笑みを消し荘厳な様子で立っていた。

「父さんが生んだんだ。」
「何を。」
「卵をだ。その卵から、娘たちが生まれた。」
「娘であり、ミイラなのよ。」
「は、父さん、どうしたの、母さん、ちょっと、」
「母さんは黙ってなさい。女王、お前もこのようにして生まれたんだよ。」
「...?」
「お前も、この子たちも、私が生んだんだ。卵から。」
母さんはにこにこと微笑んでいる。
「お前が、次の女王になるのだから、これから色々教えていこう。もう、大学生だろう。」
今度は父さんがにこにこと微笑んでいる。
「ここ数年、ずっと不調だったんだ。だが、ようやく、2人も授かった。」
「このエリアでは平均3人生むのが平均だから、焦っていたのよね。」
父さんも母さんも、嬉しそうに俺と2つの人間を交互に見ている。
「今、地球の4割の人口が私たちの同朋なのだからそんなに心配することは無い。」
「大丈夫よ女王、大学にもたくさん仲間がいるそうだから。」

俺はゆっくりと母さんの肩から手を離しうなだれた。
『静粛に!静粛に!静粛に!』
さっきの父さんの声が頭の中で響き続けている。
俺は、一体何なんだ。俺は、人間ではなかったのか。

俺は泣きそうになったが必死にこらえた。
俺は、父さんと母さんが好きだから。大切だから、もうどうしようもない。

震える手で、俺は母さんの手から新しい家族を手に取り、抱きしめた。
その温かさと小さな鼓動に、ついに俺は泣いた。

-おわり-長くなっちゃってごめんなさい!

140 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/30(日) 01:05:44 ID:2JmI7WHW
なんか怖いな

お題ふたつめ
「ギロチン」

141 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/30(日) 18:13:01 ID:2JmI7WHW
お題みっつめ誰か頼む!

142 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/30(日) 18:41:45 ID:V3iwUiiY
「葉書」

143 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/01/30(日) 19:22:15 ID:+52+xXnK
いまさら「耳」「尻尾」「屋根」で投下。

144 名前:あめちゃん ◆TC02kfS2Q2 :2011/01/30(日) 19:22:57 ID:+52+xXnK
「デートの約束ぐらいないの?」と黒スト脚を組んだ主任にからかわれながら、ぼくはデスクで残った仕事を片付けていた。
夜9時過ぎたオフィスの空気を二人っきりで共有する。街の灯から切り離されたように静かで冷たくて。
主任が椅子から立ち上がり、うーんと伸びをする。ふと、ぼくはキーボードを打つ手を止める。
コツコツとパンプスの音鳴らしてぼくのデスクに近寄る主任は、ぼくの姉と同じぐらい年上なので話しやすい。
だからぼくの返事も「ないですよぉ」と上司相手とは言え、結構砕けてしまう。もしかして、満ちた月明かりのせいかもしれない。
人を狂わせる満月の夜、月に一度の夜景が無機質な街を照らす。部屋はエアコンとPCのファンにぼくが叩くキーボードの音だけ。

「主任こそ夜遅くまで残って、よくないですよ」
「この時間の方がね、地下鉄が空いてるの。皆実くんこそ、こんな処理あしたにしなさいよ」
「早くきりをつけたいんです」
「皆実くんの残業代はタダじゃないのよねー」
社会人2年生のぼくには耳が痛いセリフ。ニッと白い歯を見せる主任は子どものように見えた。
ブランド素人のぼくにでも「名前は知らないが高級そうだ」と印象を与えてくれる主任のスーツと、ぼくが半年で二次元に費やす金額は、
もしかして同じぐらいの値ではなかろうか。オトナの世界はまだまだわからない。ただ、オトナ買いは楽しい。

仕事半分上の空、今期始まるアニメの新番組のことを考えているとPCの画面を主任が覗き込む。白い画面が眩しかった。
「このデキじゃ、家でテレビを見ながらごろりとしている方がよかったかもねえ」
人を見透かすようなことを言う主任は怖い。一瞬、主任の言う自分を思い浮かべるぼくもなんだか憎たらしい。
潤んだくちびるからぼくを困らせるセリフが飛び、白魚のような指でぼくの頬を突き刺す。
ほんのりと香水の花びらを振りまいて、主任は腕を組んで側に立っていた。キーボードに手を添えたまま何も打つことができない。
なんだかもどかしい。ファンの廻る音がPCに対して申し訳なく聞こえる。
「皆実くん。あめちゃん、食べる?」
「あめちゃんですか」
踵を返して自分のデスクに戻る主任の尻尾がぼくの手の甲をなぞった。

ふわりと、やわかく。
豊饒の大地のように。
気高く、眩しい、大人の尻尾。

大きな尻尾を揺らしながら、小走りで自分のデスクに主任は向かった。
「そう言えば、主任は関西の出身でしたよね」
「ええ、和泉ってところ」
きょうびあめ玉のことを『あめちゃん』と呼ぶなんて。引き出しからあめちゃんの袋を取り出すと、
主任は駄菓子屋にたむろするお子たちのように無邪気な顔をしていた。

「随分、実家に帰ってないなー。おとん元気かな」
「実家ですか」
「神社なの」
隠していた訛りがふとこぼれると、主任の頬が紅くなる。
主任のぴょこんと生えたキツネの耳のおかげで、主任の感情があらわになっていた。倒れ伏していたキツネ耳が静けさを誘う。
ぼくは主任から頂いたあめちゃんを口に含むと、不思議に体が軽くなった。きつねに化かされたように、
今なら窓に広がるビルの屋根を飛び越えられるかもしれない。主任から頂いたあめは甘い。

眼下に街を眺めている妄想に取り付かれているうちに、エアコンの音が止まった。
「帰るよー」
扉を開けようとする主任に気付いたぼくは、急いでバックアップを取りPCを閉じる準備に取り掛かった。
この時間なら地下鉄は空いている。人の群れが苦手な尻尾はこの時間帯を好む。誰にも迷惑をかけないから。
「そんなにわたしの尻尾……、珍しいかなあ」と、言いたげに彼女はパンプスの音を響かせた。


おしまい

145 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/30(日) 21:03:38 ID:V3iwUiiY
おお。この空気感いいなあ

146 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/30(日) 22:20:07 ID:2JmI7WHW
クソー、男むさい仕事じゃなくてこういうカッコイイ女性の先輩が居る会社につきたかった!
就職氷河期爆発しろ!

147 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/30(日) 22:59:12 ID:V3iwUiiY
おしゃれな女主任とかわいい女課長のもとで働いている俺は勝ち組

148 名前:女王、ギロチン、ハガキ ◆4c4pP9RpKE :2011/01/31(月) 02:49:45 ID:Gfh4nxhI
時はフランス革命の頃。
市民の忿懣が世を揺るがしたとき、それの根底を支えたものがあった。
それは、市民同士の横の連絡を秘密裏に行うことを可能にした私信、手紙である。
手紙は当時とても高価で、文面がすぐ見られるハガキは受け取るとすぐに金を払わねばならなかった。
まして、万人が万人識字しているわけでもない。
だが、手紙は開けるまでは、金を払わなくてよいし、文字が読めなくても紙の形はわかる。
人々は手紙を利用した情報のやりとりを、タダで行う方法を考えだした。
方法は簡単で、予め意味を決めておいた形の紙を手紙に納めて送り、
受け取ったがわは手紙を透かして紙の形だけを見、手紙は開けずに配達員につっかえす、というわけだ。
戦地に赴いた兵士が家人に安否を伝えるためにもちいた手法が、街を戦地に変えるとは、なんとも皮肉な話。
ちょうど革命の前日、街には手紙が沢山配達された。
手紙には丸い紙が封入されていた。
その手紙を透かせば、手紙の長方形に、丸い影。
奴らの首を跳ね飛ばせ、と言う決意を込めた、ギロチンを摸したシルエットの手紙であった。
「いよいよなにかやらかすな…」
郵便の配達員は、普段と違う雰囲気の手紙と、普段と違う緊迫を受け取る客達を見て、何かが起こることを感じていた。
それでも、市民から賄賂をたんまり受け取っているから、告発することもなく郵便配達員はしゅくしゅくと仕事をこなした。
何時も留守にしている家にも、一応のノックをする。
真鍮の獅子がくわえた真鍮のワッカを、ゴンゴンゴン、と木戸に打つ。
「はい」
木戸のむこうから良く通る男の声が響いた。
普段は人のいない家から思わぬ返事が帰って来て、配達員はちょっと驚いた。
「郵便屋です。手紙をお持ちしました」
配達員がそういうと、木戸が少しだけギィと開き、男の手だけが出てきた。
その手はすべらかで白磁を思わせる流線に縁取られ、なおかつ逞しい筋肉と気品を持っており、まるで貴族の道楽が作らせた神々を摸す磁器彫刻のようだった。
その手が、配達料より随分と多い金を握っている。
「釣りは要らない、今後のために取っておきたまえ……ふふふ。手紙は戸の下から滑らせてくれ」
「あ、は、はい」
配達員は奇妙に思いながら、不意に舞い込んだ臨時収入を喜んで、その晩にはみんな忘れてしまった。
戸の下から手紙を受け取った男は、それを透かし見た。
浮かぶギロチンのシルエット。
男はジューシーでクリーミーでボリューミーなプリンの顔に、すこしだけ悲しげな表情を浮かべた。
「マリー…僕の作る菓子を何より愛してくれた人。明日、必ず見送りに行くよ…ふふふ」
プリンの頭をした男が手紙を蝋燭に翳すと、香ばしいカラメルの匂いが、むせ返るほど室内に溢れた。

終わり

149 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/31(月) 04:08:06 ID:4o8bMvZj
面白いな
実話なのか創作なのかわからんがいい発想だと思う
でもボリューミーってw

150 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/31(月) 12:12:08 ID:fJGTQBIf
お題「冷たい饅頭」

151 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/31(月) 13:56:47 ID:0CN7Y/KA
すごくいい雰囲気なのにwプリン妖精自重しろwww
そしてあの亜人スレのあの話につながるんですね

152 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/01/31(月) 17:41:10 ID:BPbKo+ca
プリンの人気に嫉妬。
「女王」「手紙」「ギロチン」で。

153 名前:女王の手紙 ◆TC02kfS2Q2 :2011/01/31(月) 17:41:56 ID:BPbKo+ca
女王が大臣たちにカミナリを落としていた。
大臣たちも「またか」と思いつつ、女王の怒りの矛先を受け止めた。
「いい?盛大な式典なんだから失敗は許されないのよ」
女王は始め、この式典には乗り気ではなかったもの、下々の声や大臣たち、家来たちの進言には彼女とて逆らえなかった。
女王は見栄っ張りだった。やるからには、ウソでもいいから他人よりもよく見られたいという願望が強かった。
とにかく閑古鳥鳴くような式典にはしたくない。全国から人を集めろ、今まで以上にない華々しいものにしろ。と、大臣たちに檄を飛ばす。
「しかし、どのようにして国民を集めるべきなのか……」
「手紙を出せばいいじゃない?女王の名で」
「しかし、莫大な費用が掛かりますぞ。今回の件も国家予算の浪費が……」
大臣の一人が汗を流しながら意見を述べるも、女王の一言であっさりと覆された。

「封筒を使うからいけないのよ。封筒を開いて、一枚の紙にする。さらに半分に切って二枚にする。
中身の紙を入れて三枚も得するじゃない。国中が知ることなんだから、文面は野ざらしで結構。彼らにはこのくらいで十分よ」
大臣以下、城中の者は全て全国民に宛てた「手紙」を書くことになった。蛇足だが、これが「ハガキ」の始まりであると言われている。

―――冬風の寒い晴天の日。式典が行われようとしていた。
「わたしだけの舞台だからなんとかして成功させてちょうだい!」
きっときょうは立派なセレモニーになるだろう。ひしめき合う民衆が、わたしだけを見ている。
女王として君臨して以来、いままでにない式典を開くのだ。彼女は非常に見栄っ張りだったから。
この国で作られたもので、これ以上のものがないほど豪華なドレスに身を包み、女王は馬車に揺られて会場へと向かう。
パレードもこの国が出来てもっとも賑やかなものだった。車を引く馬の足も軽やかに、石畳の街路を進む。乾いた蹄鉄の音だけが響く。
晴れ舞台は間近。揺れる女王の心臓。興奮とは裏腹に会場に近づくにつれ、女王は顔を曇らせた。
彼女は馬車を止めて立ち上がる。

「どうして?どうしてなの」
式典の会場はただのだだっ広い広場だということを改めて思い知らされる光景。
人で埋め尽くされると思っていた石畳が、ただ風が吹く抜けているだけだった。
「大臣!どうして誰もいないの!あれだけ見物に来るようにって手紙を国民に送りつけたのに!」
「いや……。わたしどももわかりかねます」
「どう見たって、惨めじゃないの。国の恥よ!」
式典の準備は刻々と近づく。女王でさえそれを止めることはできなかった。
重臣の一人が彼女の手を引いて優しくエスコートするも、女王は腕を振り払おうとするだけ。
女王と民衆の板ばさみから解放されると思いつつ、彼は親愛なる女王を最後の舞台へと誘う。
向かう先は、広場中央のギロチン台。二の腕を掴まれ、彼女は馬車から下ろされて広場中央へ引きずられていった。
「さ。女王陛下、お時間です。大審院の判決は覆りません」
「光に満ちたわたしの生涯の最期なのに、国民は誰も気にしていないなんて……いやっ、いやああ!」


おしまい。

154 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/31(月) 18:07:21 ID:/mTEqTTe
おちゅー
これぞショートショートって感じのオチがステキ


新お題:「戦友」で

155 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/31(月) 18:11:40 ID:pwtyonq9
最後のインパクトで話全体がどうしてもギャグに見えるwwww


>>153
こっちのオチはブラックで好みだ
昔はギロチンは娯楽だったんだっけか?

156 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/31(月) 22:16:31 ID:g19XBLmb
お題「標本」

157 名前:創る名無しに見る名無し:2011/01/31(月) 22:48:16 ID:0CN7Y/KA
正直お題に入ってなければオチにもっと驚いた気がするけど、
ただのわがままなお嬢様っぽい印象を最後でひっくり返すのが見事
いいブラックだ

お題「ライター」

158 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/01(火) 00:15:29 ID:2cuKC1eQ
おいお題4つ出てるぞw
>>150
>>154
>>156
>>157

159 名前:カボチャ、軍艦、天気予報 ◆4c4pP9RpKE :2011/02/01(火) 03:34:20 ID:9ttQPtVa
過去お題でひとつ投下

160 名前:カボチャ、軍艦、天気予報 ◆4c4pP9RpKE :2011/02/01(火) 03:37:25 ID:9ttQPtVa
海兵がいた。
その海兵は、名誉ある職務に就きながら、ただ恐ろしがっていた。
やおら優秀だったから、やおら偉かったから、やおら知っていたから、ただ恐ろしかった。
海兵はセーラーも着ない将校卒で、軍服を纏って艦橋の中で指揮を取る係だった。
必死に堪えていたが、歯の根は今にもガタつくぞと海兵を責め立てたし、歩きもしない膝がガクガクと高笑いした。
海図にコンパス、赤鉛筆の航路。
知謀に富んだ自覚ある才覚者達。
勇猛屈強な水夫達。
海兵にはそれら全てが不安だった。
希望に繋がる要素などひとつも無いと、海兵は知ってしまっていた。
戦略やら天気予報などを侃々諤々叩き突け合う指揮官仲間をよそ目に、海兵は脱出の機材の位置を完全に記憶した。
この海兵は、元は船舶のエンヂニヤを目指していたのだ。
あまりに少ない燃料、見せ掛けの性能、散り行く運命。
全部透けて見えていた。
エンジニヤは厠に早足で逃げ込み、左手の親指の爪を噛んだ。
血が滲むほど噛んだ。
「まるで南瓜の馬車だ……」
臣民を軍神に変える恐るべき魔法は、夜半の天頂を迎えても解けることはない。
海兵の乗った軍艦は、帰ることなく沈んだ。

◆◆◆

海上自衛隊員の結婚式が行われた。
親族からのスピーチで、新郎の祖父が檀上でぽつぽつと自らの海兵時代の事を語った。
同僚席から新郎に声が掛かる。
「君のお祖父さんは海兵だったのか。何に乗ってたんだい」
新郎はさも誇らしげにこう言った。
「はい。大和、だそうです」
仰天した海上自衛隊員達は、一斉に立ち上がって敬礼した。
元海兵のお祖父さんは皺だらけの顔でにっこり笑って、檀上を下りた。
降りた途端に、顔色が曇る。
「生き延びたばかりに、今度は自分が魔法使いになってしまった」
誰に言うわけでもなく呟き、お祖父さんは左手の爪を噛んだ。
終わり

161 名前:鏡、公園、タヌキ ◆4c4pP9RpKE :2011/02/02(水) 13:11:23 ID:AoYGFY7k
公園には、狸と、狐と、鳩がいた。
みんなそれぞれ群れている。
狸がぎゃんぎゃん二十匹、狐もけんけん二十匹、鳩はぽっぽと六十羽。
いくら公園が広くても、これだけいれば大変な騒ぎだ。

狸がぎゃんぎゃん木の実をあさり、狐がけんけん鳩を食う。
鳩は平和を囀るうちに、狐にどんどん食べられた。
やがて鳩たちは、たったの二十羽。
鳩は一計、謀をした。
鳩の大将は、狸の大将と、狐の大将に、旅立ちを告げた。

「ぽっぽくるくる、くるぽっぽ。わしらは次の住処を探す。去ったら、お前らでここを分けたまえ」
「ぎゃんぎゃんぎゃうん。そうか、それはいいことだ。木の実が糞に塗れずにすむ」
「けんけんけけん。そいつは困る、わしらは貴様らを食っている。逃げるな逃げるな」

たすかる狸に、飢餓する狐。
鳩をいかに扱うべきか、狸と狐は決めかねた。
鳩の大将は待ってましたと提案をした。

「くるくるぽっぽ。それなら対決、したらどうだ。
互いに互いを真似っこしあう、鏡合わせの化けあいだ。
鳩は取柄がないからな、お前らの、化かしのうまいほうに従うよ」

狸と狐は化けるのに大層自信がある。
常々、化かしのうまさで喧嘩していた。
狸は、鉄やら銅やら、陰陽五行の理を無視して化けられる。
木気の獣が金気に化けるのは、大層難しいのだ。
狐は、たった一匹で、見事なニンゲンの女に化ける。
陰気の強い狐には、女に化ける天賦があるのだ。
化けあいにそれぞれ一家言持った狸と狐のこと、すぐに勝負に乗ってきた。

「くるくるっぽ、ぽっぽっぽ。そんじゃあ、せっかくだから、全員でやったらどうだ。
大将たちが変化のうまいのは、わしもよっく知ってる。
いっそ、どっちの方が格上か、みんなまとめて化けあって、確かめたらどうだ」



162 名前:鏡、公園、タヌキ ◆4c4pP9RpKE :2011/02/02(水) 13:12:16 ID:AoYGFY7k
そうして、狸がぎゃんぎゃん二十匹、狐がけんけん二十匹、
はとはぽっぽと二十羽、公園の住人がぞろぞろと集まった。


「ぎゃんぎゃん。いけすかねぇ狐どもめ、今日こそ見せ付けてやるぜ」
「けんけんけーん。こっちの台詞だ、古狸ども」

それぞれ口上たれあって、ついに変化の決定戦が始まった。
お互いの姿をよく観察して、木の葉を鼻先にちょんと乗せ、肉球の手で印を結ぶ。
にらみ合っていた狸と狐が、一斉に、狐と狸に変化する。
どろんどろん、どろんどろんどろん。

「ぎゃんぎゃん。なんだ、それがわしらの真似か、どぶ猫みたいじゃないか」
「けんけんけん。よく言うことだ、わしらの尻尾はそんな麦穂みたいじゃないだろう」

狸だった狐と、狐だった狸が、お互いの変化を貶しあう。
実際は、その変化はどちらもとてもうまい変化で、
いつの間にか狸と狐が場所を入れ替わっただけにすら見えた。
でもここまできたら意地の張り合いだ。

「ぎゃんぎゃん。じゃあ変化をといてみろ、まるでおんなじはずだぜ」
「けんけんけん。いいだろう、そっちもといてみせろ」

どろんどろん、どろんどろんどろん。
狸だった狐と、狐だった狸は、
狸だった狐だった別の何かと、狐だった狸だった何かに変化した。
相手の変身が間違っていた、不細工だったというふうに仕立てるために、
お互い最初の自分とは似ても似つかない何かに変身したのだ。

「ぎゃんぎゃんぎゃーん。お前ら、まさかイカサマしようってのか」
「けんけんけんけーん。お前らだってイカサマだ」

でもここまできたら意地の張り合いだ。
お互いを真似て、自分を変えて、お互いを真似て、自分を変えて。
そんな化けあいを繰り返しているうちに、狸も狐も、元の自分を忘れてしまった。
終いには、どんどん変化してゆくから、そこらで見守っていた変身しない鳩にどんどんつられて、
狸も狐も鳩になってしまった。

「くるくるぽっぽ。どうやら引越しは、ご破算のようだ」

終わり

163 名前:携帯 ◆4c4pP9RpKE :2011/02/02(水) 13:27:13 ID:AoYGFY7k
あと一つで今スレの過去お題コンプ!

164 名前:「冷たい饅頭」「戦友」「標本」 ◆q/J/TnXO.s :2011/02/04(金) 09:11:32 ID:6W3InuvO
皇紀2565年 満州は奉天郊外にて

丘の上で歩哨に立っている二人の古参兵のところに、町の方から馬に乗った将校がやって来ました。
「あ、どうも」
「寒い中大変ご苦労。あ……そうだ」
将校は鞄を探ると、何やら葉っぱの包みを取り出しました。中に入っているのは肉饅頭のようです。
「悪いな、ちょっと冷たくなってる上に一つしか無い。二人で半分にでもしろ」
「いやあ、贅沢なんか言いませんよ。こないだみたいに露助の肉が入ってたりしなきゃね!」
「こら、いつまで引っ張るんだ!あれは知らんで買ったと言っとるだろう!」
将校は野営地の方へ馬をとばし、二人は敬礼をしてそれを見送りました。
そしてその姿も見えなくなった時、いつも無口な相方の男がぽつりと喋り出しました。
「なあ……賭けをしないか?」
「賭け?」
「ああ、その饅頭を賭けてな」
冷たい饅頭とは言われましたが、触ってみると中の具がまだ熱いのがわかります。
外側は冷たくても中身は熱い、例えるならかの東郷提督のような饅頭です。
たとえ海戦当時から共に戦っている戦友でも、いやしい二人はこの貴重な東郷提督を互いに譲れません。
無口な男が何も言わなくても、饒舌な男の方が似たようなことを言い出したでしょう。
「いいぜ。で、何をする?」
「いやあ、簡単なことさ。『だんまりくらべ』だよ。先に口をきいた方の負け」
「『だんまりくらべ』……か」
一見すると無口の方が有利に見えますが、この饒舌の方にはすぐに勝算が浮かびました。
今日は普段より交替の時間が早く、またその交替員が今さっき丘を登ってくるのを見たのです。
無口の方はそのことに気付いていません。不利に見えて、これは断然有利な賭けでした。
少しの間標本のように黙って立っているだけで、この饅頭は自分の物になるのです。
「よし。じゃあ、俺が手を叩いて合図をしたら始めだ」
「いいとも」
饒舌な男は傍らの岩の上に饅頭の包みを置いて、早速手を大きく叩きました。
しかし次の瞬間、無口な男は信じられないことにその饅頭を取って食べ始めたのです。
突然の出来事に饒舌な男は呆気に取られていましたが、当然すぐに抗議しました。
「お、おい!何をするんだ!?」
しかし無口は男は、饅頭を齧りながら事も無げに言い放ちました。
「口をきいたな、お前の負けだ」

165 名前: ◆q/J/TnXO.s :2011/02/04(金) 09:16:15 ID:6W3InuvO
「標本」が強引でしたね(´-`)
次のお題は主題になった「沈黙」でお願いします

166 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/04(金) 14:36:02 ID:eDphKmrJ
言われるまで標本のお題気づかなかったw

一休さん的なとんちが利いてて面白いな

167 名前:女王・ギロチン・葉書 ◆CkzHE.I5Z. :2011/02/04(金) 16:50:30 ID:sjdjxQf6
毎度一杯のお運び、厚く御礼申し上げます。
不景気だのブラック企業だのという言葉を耳にするようになって久しいですが、
さて大昔、江戸落語の時代はどうだったのかというと、やはり似たような事はありましたようで。
「おい熊公、就職氷河期で仕事が見つからねえんだ。どこか紹介してくれ」
「氷河期ってんなら高利貸し(氷菓子)はどうだ?」
「……そういうの、今いらねえから」
「ひゃ、ひゃい(は、はい)」
全治三ヶ月の重症であったそうな。
とかく物事というのは、ものさしの捉え方、光の当て方次第なもののようです……。


「定や、定吉はいるかい?」
「ハーイハイハイ! 来たよ! なんだい、おばさん!」
「『なんだいおばさん』じゃないよ、口の利き方を知らない子だねえ」
「えー、なんでございましょう、女王様」
「この子、今度は女王様ときたよ。そんな呼び方でなく、おかみさんとお呼びよ。
 定吉や。お前さん、ここに丁稚奉公に来てどれくらいになる?」
「えー、たしかお正月を少し過ぎたころからだから……おかみさん、今日は幾ン日でしたっけ?」
「呆れた子だねえ。お前さんが毎日掃除してる店の壁のどこかに、暦ぐらいあるだろうに」
「……あー! あの若旦那が大切にしてる、花魁が四人で楽器もってる!」
「息子の趣味は関係ないでしょうよ……」
「何日か前に月が替わったからって、新しく捲ってやろうとしたら、若旦那にカンカンに怒られたんですよ。
 えっと、今は二月を何日か過ぎたところでしょう? 当たり? 賞品は何くれるんです?」
「何も出やしないよ、おかしな思い出しかたをする子だねえ。
 お前さん、この店で一ヶ月になるんだ。そろそろ中の手伝いも慣れたろう?」
「はい」
「今日は一つ、軽いおつかいを頼まれて欲しいんだ。
 何、難しいことじゃないよ。この葉書を一枚出して来て貰うだけだから」
「葉書ってことは、郵便屋さんですか」
「そうそう郵便局だね。場所はわかるだろ」
「ははぁ、さては年賀葉書を出すんですね」
「二月にもなって年賀状出す莫迦がいるかい。
 少し遅いけど寒中見舞いだよ。相手方は今年は喪中でね、誰彼構わず目出度いってわけにも行かないのさ」
「はぁ、カンチューがモチューですか」
「なんだいチューチューとネズミじゃあるまいし。寒中見舞いだよ。
 そうそう、うちの切手が切れてたから、そこで一枚買って出しておくれ。
 ついでに十枚ばかり買って貰おうかね。お金を少し多目に渡しておくから」
「わぁっ、こんな大金、見たこともない」
「大げさな子だねえ。そんな大金を子供に預けるもんですか。
 せいぜいが切手を買って、ほら、郵便局の向かいのあんみつ屋、あるだろ? あそこで一杯食べてこれるぐらいだねえ」
「あんみつですか」
「ウチの人にはあたしから言っておくから。
 お前さんもこの一月頑張ったんだ、短い時間だけど羽を伸ばしてくるといいよ」
「は、はい。おかみさん、ありがとう」
「あぁ、ただし無駄遣いするんじゃないよ? 少しばかりとはいえ主人から預かった金、
 その使い方で、これからの商売人としての、人としての道が決まってしまう
 ……というのは、決して言い過ぎじゃないんだからね」
「は、はい」


168 名前:女王・ギロチン・葉書 ◆CkzHE.I5Z. :2011/02/04(金) 16:51:49 ID:sjdjxQf6

 少しばかり怯えながら、小銭の入った包みを受け取る定吉であります。
 この時代の奉公人はといいますってえと、ほぼ年中無休、休みは年に二回、盆と小正月にあるっきり。
 これを薮入りと申しまして、主人は奉公人達に着物やら履物やら、小遣いやら手土産やらを与えて、
 大層ゴージャスに実家へと送り出していたそうですな。
 江戸の薮入りから現代の盆年末年始休みボーナス、果ては高速渋滞帰省ラッシュUターンラッシュと、
 言葉が変わっても人の、暮らしや営みなどは、今も昔もさほど変わらないもののようです。

「お前さんは正月のすぐ後に来たから、薮入りの休みも貰ってないだろう?
 ちょっと粗忽なところもあるけど、こうやって最初の一月頑張ったんだ。いいよ。行っといで」
「あ、ありがとうございます、おかみさん!」
「行きなったら、ふふ。
 でも、くれぐれも羽目を外しすぎて、外でこの店の看板に泥をぬるようなことをしたら、ただじゃおかないよ?」
「は、はい……」
「そう、もしそんなことになったら……」

 そこで少し脅かすように、おかみさんが口を閉ざします。間をもたせるよう、すーっと部屋の中を見渡す。
 するってえと床の間の上、この冬初めて花開いた椿の枝。
 風流だってんでこれを生けておいた花瓶から、

 真っ赤な椿の花が、ポロリ。

 その様子から、首が落ちる花、とも例えられる椿の花であります。
 可哀想にこれを見て震え上がった定吉、頭に浮かぶのはギロチン台に乗っけられて首を落とされる自分の姿。
「い、行ってまいりまあす!」
 逃げるように店を出て行っちゃった。

「はぁっ、はぁっ、おっかないなぁ、おかみさんも。
 この一月間、やさしい人だと思ってたけど、まったく商売人ってのは、外で笑ってても内ではなに考えてんだか……。
 っと、ここだここだ。赤い建物に赤いポスト、間違いないや。
 ごめんください! ごめんください!」
「そこは自動ドアですよ」
「おっとと。ごめんくださいまし、切手をください!」
「はいはい。額はお幾らの物が宜しいでしょうか?」
「ガクですか。それはザクとは違うんですか」
「違いますよ」
「ごめんなさい、初めてだからよくわからなくて」
「ええと、それじゃ坊や、何円の切手が良いのかな?」
「あっ、この葉書!」
「葉書用の切手ですか」
「そうそうカンチューハイ」
「……寒中見舞い?」
「そうそう、今年はモモチューハイだから」
「モモチュー……喪中? 喪中だから寒中見舞いの葉書を出すってことかい?」
「二月にもなって年賀状出す莫迦がいるかい」
「莫迦呼ばわりとは参ったね。切手は一枚五十円だよ。
 はい、それじゃ五十円。確かに」
「あ、それと十枚ばかり! 十枚! ばか!」
「やけにバカを強調する子だね。それじゃ五百円っと、確かに」
「おじさん! これでどうすればいいの? あんみつは!?」
「切手を貼ってここに持ってくるか、外のポストに投函するんだよ。あんみつはお向かいの店だよ」
「切手を貼るにはどうすればいいの?」
「切手の裏を、こうやって舐めるんだよ」


169 名前:女王・ギロチン・葉書 ◆CkzHE.I5Z. :2011/02/04(金) 16:52:38 ID:sjdjxQf6
「こう?」
「ああ、そうやってペロッと舐めて……坊や、舐めた切手はどこ行った?」
「呑み込んじゃった」
「おいおい、食べたらいけないよ」
「じゃあもう一枚……」
「そうそう、指の上にそっと乗せて、やさしく丁寧に、ペロッと……なんでまた切手がなくなってるんだい!?」

 人間どこに苦手……あるいは才能があるかわからないもので。
 定吉、買い置き用の残りの切手も全部呑み込んじゃった。
 それを見て流石に呆れた郵便局員が、最後には新しい切手を貼ってくれたものの、後の祭り。
 また切手を買いなおしたので、あんみつを食べるお金もなくなってしまいます。
 あんみつ屋ののれんを未練がましく見つめるものの、店のおかみさんに無駄遣いをするなと言い含められておりますもので
 肩を落とした定吉はとぼとぼと店に帰るしかない。
 とそこへ通りかかったのがお店の旦那。項垂れてる定吉から事情を聞きだすと、これが意外や喜んだ顔。

「定や。人間はな、誰だってヘマをすることはある。
 ましてや初めての仕事だ、どこか失敗するのが当たり前で、それは次の機会に活かせば良い。
 しかも今回は子供の使いだ。商売人なら、失敗を安く買えたことを喜ぶべきなんだ。
 そして失敗を経験に変えて、今度はその経験を高値で売ればいい。それが商売人だ。
 だがそれよりも、お前のその正直なところを、私は買っておきたい。
 こんな子供が、貰ったお金に手をつけず欲に打ち克った。それは小さな事だが、そこにこそ価値がある。
 商売に狡賢さは大事だが、信用はな、もっと大事なんだ。商売の道を進めばお前にも今にわかる。
 それに、そもそもお前は半分だが頼まれ事を果たしたじゃあないか。葉書を出したし、切手も買った」
「頼まれ事の、半分ですか」
「残りはお前が羽を伸ばすことと、あんみつを食べることだったな。
 ……ははっ、商売人は泣いてちゃいけない。ほら、いつも笑ってなければな。
 どれ、今からでも頼まれ事を果たすとしよう。まだ店は開いてるだろう。
 お前の初仕事を無事に終わらせないとな。
 心配するな、わしからも言っておくから、ウチのおかみも怒りはせんだろう。
 ……どうした、おかみの話をした途端に急に喜んで。
 ウチのに怒られないのがそんなに嬉しいのか?」

「はい。
 おかげで、しょけい(初回)を許されてクビを切られずにすみそうです」




170 名前:女王・ギロチン・葉書 ◆CkzHE.I5Z. :2011/02/04(金) 16:54:10 ID:sjdjxQf6
 椿奉公という一席でございました。
 おあとが宜しいようです

171 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/04(金) 21:01:33 ID:n9UsArpr
>>167
つ木戸銭

まさか創発で落語が読めるとは!

172 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/05(土) 09:38:19 ID:2kyjn68x
>>164
オチは笑い話なのに舞台が満州とか最初シリアスな話かと思ったw
戦場のちょっと笑える話って感じでおもしろいね

173 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/05(土) 09:41:09 ID:2kyjn68x
提案なんだが
できればお題の提示は今までのように誰かがお題クレクレ!したあと
先着3名が提示っていうようにしないか?
投下後とか突発的にお題出されるとどれが1セットか分かんなくなっちゃうんだ

174 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/05(土) 09:41:35 ID:pyWzAx4W
>>167
乙!

こりゃ面白い
肉声で聞きたいね
あと次のお題誰かたのむ

175 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/05(土) 21:51:21 ID:4omU3DyD
そろそろ冬も終わりになってきましたね。
というわけで『名残雪』で。

176 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/05(土) 23:25:23 ID:LktUEb2K
お題:twitter

177 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/06(日) 09:01:11 ID:aNc06JHI
お題:明治時代

178 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/06(日) 10:29:50 ID:ENRJgLXA
>>157
>>165
>>175
>>176
>>177

おいおい今度は未消化お題5つになったぞ

179 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/06(日) 20:18:17 ID:5eCH789D
>>174が要求した後の最新三つでいいじゃん

180 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/06(日) 20:22:45 ID:HPT19FlY
やりたいの選べばいいじゃんw

181 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/06(日) 22:23:21 ID:7Gg6bR3t
もーだから言ったじゃん…
こんなにお題増やしてどうすんだよー
あと今、例の奴が来てんだからあげんな


182 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/07(月) 22:31:05 ID:lSl041Vk
過去お題でもOKってのは、あくまで三つワンセットで
出すの前提の話だからね。そこら辺、過去の分も見て、
徒にお題を乱発しないように、という配慮は欲しいかもしれない。
誰か書く意志のある人がクレクレしてからでも、別に遅くは無いんだし。
三つ好きに選んで書けばいい、ってのはスレの趣旨とは違うしね。

----------------------------------------
>>150
>>154
>>157
----------------------------------------
ここまでワンセット

----------------------------------------
>>157
>>165
>>175
----------------------------------------
ここまでワンセット

----------------------------------------
>>176
>>177
三つ目まだ
----------------------------------------
ここまでワンセット

一応、順番通りにまとめるとこうなった。


183 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/07(月) 22:41:10 ID:lSl041Vk
まとめ間違えてんじゃねえよ俺w

----------------------------------------
>>150
>>154
>>157
----------------------------------------
ここまでワンセット

----------------------------------------
>>165
>>175
>>176
----------------------------------------
ここまでワンセット

----------------------------------------
>>176
二つ目まだ
三つ目まだ
----------------------------------------
こうですね。

184 名前:「冷たい饅頭」「戦友」「ライター」 ◆91wbDksrrE :2011/02/07(月) 23:05:10 ID:lSl041Vk
 死後硬直という言葉がある。
 死体は死後、生体反応を失う事で硬直するという、アレだ。
 だが、その死後硬直も、時間が経てばだんだんと解けていく。たまに勘違いしている
人がいるが、死体というのはずっと硬いままじゃない。死後硬直が解ければ柔らかく
なっていくものだ。
 俺は目の前で寝ているあいつの頬を、指でつついてみた。
 柔らかい。まるで冷たい饅頭のようだ。
 ――冷たい――
 そう。あいつの頬は、肌色を失い、土気色を得て、冷たくなっていた。
 もう、からかった時に赤くなる事もなければ、膨らませて怒りを表す事も無い。
 あいつは寝ている。永遠に、だ。もう起きてくる事は無い。その身体が熱を持つ事も無い。
ただただ冷たいまま……いや、それすらもすぐに終わる。死後硬直の終わった身体は、
放っておけば後は腐っていくだけなのだから。

「……なんで俺の戦友は、皆先に逝っちまうかねぇ……」

 あいつの形見で、咥えたタバコに火を点けながら、俺は呟いた。
 もう届く事の無い呟きだ。他の誰が死んだ時も、ついぞ漏らした事の無い呟きだ。

「お前には……もっと違う道があっただろうによ」

 眠っているように死んでいるその顔は、土気色であるというのに、まるで何かの
美術品かのように、整って、綺麗だった。
 女だてらに戦場を駆け、そして死んでいったこいつは、いつだって美しかった。
 死して尚美しいくらいなんだから、戦場なんかに出てこなけりゃ、いくらでも幸せを
掴む道はあっただろう。鉛玉を腹に喰らって、泣きわめきながら、でも最後は歯を
食いしばって、俺を安心させようと笑顔を見せながら死ぬなんて、そんな目に遭わ
なくても良かったはずだ。

「……なんども隊を抜けろと言ったが……お前は、聞かなかったよな」

 違う。
 その違う道を選ばせなかったのは、俺だ。
 こいつを、こうやって殺したのは、俺だ。
 本当はわかっていたのに。言っても聞くわけがないと。
 本当はわかっていたのに。こいつが、どうして戦場にいる事に拘るのか。

「なんで……俺なんだ。なんで、俺だったんだよ……」

 そこに、俺がいたからだ。
 俺が、そこに居続ける事しか出来なかったからだ。
 だから、こいつは俺の側に居続けようとした。
 だから、こいつもまた、戦場に居続けるしか無かった。
 他の道なんて、こいつにはあり得なかったのだと……それが、今、ようやく、はっきりと
わかった。こいつの形見で灯した火が照らしてくれたかのように、見えた。

「……ちっ……こんなに不味かったっけかな、これ」

 いつも吸い慣れてるはずのタバコが、酷く苦く、塩っぱく感じた。
 思えば、あいつは、俺に戦場に出るなとは言わなかった。でも、タバコだけはやめろと
いつも言っていた。そのくせ、俺がよく火を忘れるからと、懐にいつもこれを忍ばせていた
のだから、まったく本気でやめて欲しいと思っていたのかどうか。
 でも、その願いは、どうやら叶いそうだな。もう、こんなに不味いんじゃ、タバコなんて
吸う意味は無い。お前の形見のこのライターは、俺のタバコに金輪際火を点ける事は無いだろう。
 代わりに――このライターは、俺の心に火を灯し続ける――俺が死ぬまで、ずっと。

                                            おわり

185 名前:「冷たい饅頭」「戦友」「ライター」 ◆91wbDksrrE :2011/02/07(月) 23:06:50 ID:lSl041Vk
ここまで投下です。

ってまたしてもまとめ間違ってるやん!?
一番最後>>176やなくて>>177やん!?

・・・修正してやるー(自分を

186 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/07(月) 23:14:16 ID:gfthJ+KL
杓子定規に順番通りに並べなくても、使われずに流れたお題は抜いて考えればいいじゃん
その後は三つずつセットで出てるわけだし

187 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/07(月) 23:17:26 ID:lSl041Vk
何をもってして流れたと判断するのかが問題じゃないかな、と。

188 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/07(月) 23:18:26 ID:lSl041Vk
あ、標本(>>156)抜けてるし・・・

ダメダメだ・・・すんません。

189 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/07(月) 23:28:55 ID:gfthJ+KL
>>184
1レスの話に詰め込むにはもったいないな
こういうのはじっくりキャラに感情移入してから読みたい


適当でいいよ、流れたかどうかの判断なんてw
順番分からなくなる程入り組んでるのをほじくり返すより最新の三つ使った方が早いじゃんってだけのことだから
別にお題とばしたって不都合あるわけでもないし

190 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/08(火) 00:15:23 ID:LFkN02TX
以前、投下した事があるんだがお題って3つじゃないといかんの?
あと投下するならコテ付けた方がいいんかな

ついでにお題「小説」
お好きな解釈でお料理くださいw

191 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/08(火) 00:18:08 ID:LFkN02TX
すまん、スレタイが三題噺だったのすっかり忘れた
マジすんません……orz

192 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 20:18:24 ID:KnBVVB2F
twitter
小説

あと一つは何!?


193 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 22:11:18 ID:PTnGqG2X
じゃあ「流氷」

194 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/17(木) 22:12:01 ID:5cC8TfuF
トリップはつけてもつけなくても、お好みでww

195 名前:「twitter」「小説」「流氷」:2011/02/18(金) 02:17:47 ID:tRGfYhge
最近、はやっているのがtwitterで小説を書くというものだ。私も一つ書いてみたところ、フォロワーから大絶賛。
かつて新宿公園でのホームレス生活を題材にしたもので、そのリアリティーが受けたようだ。知られざるホームレスの
実態に興味津津なのだ。まったく庶民というものは人の苦難と頑張りを傍から見ることが好きなのだ。あさましいものである。
ついには、出版社から本を出さないかと言われ、試しに書店に並べると、これまたバカ受けで、ミリオンセラーを突破した。
私はもうウハウハである。昭和のなり金のような生活をしている。周囲からは次回作はまだかとせっつかれる。
贅沢な暮しをずっと続けたいので、しかたなく筆をとってみたところ遅々として書けない。2作目にしてスランプである。
編集者に相談してみると、それは資料が足りないせいだ、再び苦境に立つべきだ、と諭された。そして、私は流氷の浮かぶ
北極にいる。ぜいたくとは程遠い暮らしをしている。どうしてこうなったか、私はペンギンに相談する毎日である。


196 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/18(金) 13:55:05 ID:pV5tF4Wr
乙!いったんお題をリセットするか

てことで次のお題一つ目は「リセット」

197 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/18(金) 15:30:22 ID:Yhg96Uxf
「リミット」

198 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/18(金) 15:52:38 ID:ii6c+Fcx
リカント

199 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/18(金) 19:57:01 ID:m/W6ORz6
人はどんどん刺激を求めていくものだよなw
乙!

お題なら「手鏡」

200 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/18(金) 20:03:16 ID:UwpoOmlW
マンネリを楽しめるのも大事だよ。うん

お題「縄」

201 名前:「リセット」「手鏡」「縄」:2011/02/19(土) 00:03:27 ID:5TTBeRW1
 人生をリセットしよう。
 夜の神社の境内。人気がなく、虫の声だけが響く。首をくくる縄を片手に、私は無気力なまま進んでいく。
 失恋。失職。借金。母の死。いくつもの不幸に見舞われてきた。毎日がつらかった。
 でも、もうそんな日も今日で終わり。私は踏み台に乗り、境内の樹木の枝に縄をかける。縄の先に輪を作り、首を通す。
 さよなら。
 踏み台を蹴りとばし、私は空中にぶら下がる。懐に入れていた手鏡が地面に落ちた。そこから先は苦しくて、何も考えられなくなった。

「……私、生きてる?」
 気付いたとき、私は冷たい境内の地面に寝ていた。私の頭の上、見上げると誰かの両足があった。
「無事なようだね」
 低い、男の人の声。
「動かないで、そのまま。君は確かに死のうとした。僕はそこを助けた」
「……あなたは誰なの……?」
 体は動かず、目もはっきりと見えない。私はかすれる声でそう言った。
「僕は君たちが悪魔と呼ぶ存在だ。信じる、信じないは君の自由だ」
「……どうして私を助けたの?」
「君の手鏡が引き金になった、とだけ言っておこう。とりあえず用件を言おう」
 男はそこで言葉を切り、
「君は不幸のどん底にいるそうだな。僕が君を幸せにしてあげよう。但し、一つ契約してもらおう」
「何を……?」
「僕と出会ったことを、この先の人生誰にも話してはいけない。話したならば、君は今より不幸になる。じゃあね、幸せにおなり」
 私の視界にあった足は消えた。

 境内からの帰り、私は苦しんでいる老紳士を見かけ、救急車を呼んだ。私の即座の対応で紳士は救われた。
 彼は私に職を斡旋してくれて、私は彼の会社で事務の仕事を任されるようになった。それから仕事はとんとん拍子に進んだ。
 私はプロジェクトを任されたのをきっかけに次々昇進し、子会社の部長を任されるようになった。
 時期を同じくして社内で恋人ができ、結婚した。二人の子供に恵まれ、私はすっかり充実して幸せな毎日を送れるようになった。
「そういえば会社に入ったきっかけって何だったの?」
 ある晩夫に聞かれ、私は経緯を話す。話の流れで、私はついあの男の事を話してしまった。
「……喋ったね」
 冷たい声に私ははっとなる。それは、あの晩聞いた声と一緒だった。
「さよなら、僕の愛しい人」
 夫の、男の声が聞こえたと思うと、私は境内の冷たい地面に寝ていた。
 私の頭の上、見上げても誰の足も見えなかった。

<了>

202 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/19(土) 03:59:15 ID:CAc8MlSE

じゃあお題「腕時計」

203 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/19(土) 08:04:26 ID:ZkuvdqJU
次のお題でるの早くないか?
出すけどさ→お題 「フラクタル模様」

204 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/19(土) 11:10:18 ID:oBNtrnK5
幸せを見てしまってから、不幸のどん底の時期に戻すとはまさに悪魔
同じ境遇でも確かに「今より不幸になる」な
GJ!

205 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/20(日) 08:35:36.26 ID:XVabX4RM
お題「猪苗代湖」

206 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/20(日) 15:19:24.25 ID:ULtsu8mj
お題「腕時計」「フラクタル模様」「猪苗代湖」



207 名前:「腕時計」「フラクタル模様」「猪苗代湖」 :2011/02/24(木) 14:39:14.27 ID:kfnTSIHz

「両親からお見合いをしろと言われたの」
 私は恋人の金内君にそう告げた。彼は大して驚いた素振りを見せなかった。
「……君のご両親は、あまり僕のことを好意的に思っていないしね」
 彼は左腕に付けた腕時計を締め直す。私が5年前にプレゼントしたもの。
 私たちは付き合ってもう10年だった。
学生時代に知り合って、婚約もすることなくずっと付き合っている。私は銀行員になり、彼は画家になった。
 金内君は売れない画家だった。
私は彼の絵は好きだけど、彼にはパトロンもついていなかったし、彼の絵を買い取ってくれる物好きもいなかった。
彼は学生時代、二人で過ごした川沿いの四畳半に今も住んでいる。
それに対して、私は銀行員として仕事を続けて貯金もそれなりに貯まり、今はオール電化で駅へのアクセスがいいマンションの一室に住んでいた。
「……どこかの会社の御曹司だそうよ。父も母も将来安定した人と結婚しろってうるさいから……」
 私はコーヒーをマドラーでかき混ぜた。
「確かに僕は売れない画家だ。将来は確約できないし、安定した生活も少なくともしばらくは望めない。君のご両親の気持ちも分かるよ」
「そんな言い方って……!」
 10年間連れ添った恋人の諦めたような言い方に、私は憤った。いつか二人で暮らせたらいいね、5年以上前の彼の言葉を思い出して。
「……猪苗代湖に行こう」
「は?」
 彼の突然の申し出に、私は頓狂な声を上げていた。
「君に見せたい景色があるんだ」

 JR会津若松駅近くの喫茶店から私の車で20分。私たちは猪苗代湖にやってきた。
「この辺り、デートでもよく来たよね」
 猪苗代湖モビレージのボート客を見ながら、二人でしばし歩く。磐梯山を眺めながら、私たちは言葉もなく、手を繋いで進む。
「ほら、ここだ」
「わぁ……綺麗」
 丁度夕方になり、私たちの後ろから射し込む夕陽。
夕陽は木々の間を抜けて木漏れ日となり、水面に乱反射して織りなす神秘的な光景。
それは、自然が作り出すフラクタル模様。
「ここ、ずっと君に見せたかったんだ」
 彼が微笑む。木漏れ日の中のその笑顔は、10年前と変わらなかった。
「まだ僕は貧乏かもしれない。でも、こういった美しい景色を君と見つめていきたいんだ」
 私たちは言葉もなく抱き合って、キスをした。私の気持ちはもう、決まっていた。

 私は家に帰り、お見合いをした。そして、御曹司と結婚したのだった。
 やはり、夢だけでは食べていけない。

<了>

208 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/24(木) 14:43:10.46 ID:vt6Elukz
すっきりお題まとめた上で綺麗な文章書くなー
個人的には最後の一文はない方が好き

209 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/24(木) 15:10:01.48 ID:kfnTSIHz
ちょっと蛇足感あったかもですね。
自分も入れるか迷いましたが、入れないと唐突過ぎる気もして。
逆に本文中に伏線いれた方が最後すっきりしたかもしれません。

210 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/24(木) 20:01:58.42 ID:XHE5RFTI
今までのまとめサイトとかってないの?
評価高い作品とか見たいんだけど

211 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/25(金) 00:09:13.91 ID:7ppAUxyB
このスレ全体のまとめってのは見かけないねぇ。
過去スレ読みたいならログうpしようか?
まあ、うpするよりも、ログサイトで検索した方が
早かったりするかもだけど。

一応、検索して一番最初に出てきたログ変換サイト

ttp://app.xrea.jp/dat/

>>207
台無し感が逆に有りな気がするかもしれないw
まあ、伏線ちゃんと仕込んだ方が、すんなり読めるのは
読めるだろうけどね。
こういうある種普通じゃないオチは好きだw

212 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/25(金) 09:36:56.12 ID:V3xTwPuo
次のお題一つめ「龍」

213 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/25(金) 10:45:16.54 ID:ndFYzPPl
もういっそ少しお題出すの止めて感想タイムにしたらどうだ
目まぐるしくって読んでる暇がない

214 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/25(金) 10:53:48.82 ID:fIznv9oJ
別に上の方の作品の感想書いたっていいんだぜ?
投下スピード自体が上がってるわけじゃないんだから充分読めるだろ

まあ、お題の入れ替わり激しすぎるとみんなで同じお題書く楽しみがなくなるって言うのはあるけど、そんなにカリカリするほどのことじゃないじゃん

215 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/25(金) 12:05:57.02 ID:LobBCu18
投下する側から見れば、作品を流されてる感じがするんだ。

216 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/25(金) 12:34:11.77 ID:BY8aFol7
投下する側だけど自分は逆にどんどんお題もらうとありがたいかな。
それだけ作品書くモチベーションにもなるし。
ただ、お題だけ投げっ放しってのは確かにテンションは下がるね。

217 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/25(金) 13:05:04.56 ID:OTqKeUU2
>>207
感動的なのに、最後の台無し感が素晴らしいw


創発wikiに作品まとめていいかな
いやだったらwiki借りてくるよ

ただ、誰でも自由に編集とか出来て、評価付けられるような
レンタルサービスは心当たり無いかなぁ……

218 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/25(金) 16:39:30.60 ID:7ppAUxyB
上の方でも言ったけど、お題出すなら出すで、ちゃんと三つまとまってる
ってのがわかるような形にしておくれ。

これは作品投下についての基本なんだけど、いくら過去の作品が
読めるから構わないだろ、と言われたところで、過去に投下された
作品よりも直近で投下された作品の方が読まれやすいってのは、
厳然としてあるんだよね。だから、ある程度前の投下と間を空ける、
というのが作品投下のマナーとして存在していたりする。
そこら辺、お題についても同じ事が言えるんじゃないかな。

まあ、それでも、作品とお題とでは違うから一概には言えないけど、
ガシガシお題を出すのなら、それで流れてしまう過去のお題を
ある程度まとめたりとか、そういう事はしてもらえないだろうか。
懸念を表明している人もいるのだから、配慮はしてもらえると嬉しい。

それから、お題を毎回ポンポン出してる人に聞きたいんだが、
どういう意図でもってそういうお題の出し方してる?
ちゃんと考えがあっての事だったら別に構わないんだが、
何も考えずに一個作品が投下されたら即座にお題を書いてるだけだったら、
そういうお題の出し方ってのはやめてもらえないかな。
誰かがお題くれくれしてから書いても、別に問題ないんだしさ。
お題だしとけば誰かが書いてくれる、という考えが根底にあるなら、
そういうのはちょっと遠慮して欲しい。リクエストスレじゃないんだし。

>>217
いいんじゃないかな。>創発wiki

219 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/25(金) 17:54:53.04 ID:fIznv9oJ
お題ポンポン出すのよりも、こういう長文レス置いてくのの方がやめて欲しいわ
そりゃ、投下間隔空けるとかは暗黙の了解としてあるかもしれないけど、それをマナー云々って口に出して言わないっていうのもあるだろ
そういうこと言い出すと線引きも面倒だし荒れるから正直勘弁して欲しい

だいたい、どういう意図でお題出してるのか?リクエストじゃないのか?なんて問い詰めるのは喧嘩売ってるとしか思えない

220 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/25(金) 18:33:45.13 ID:GP4OMXuD
お題ポンポン出すのって、なんだか千本ノックしてるみたいで趣味として楽しめないなあ。


221 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/26(土) 01:07:58.30 ID:XUmYr2xe
自分には>>218は問い詰めて喧嘩売ってるようには読めないけどな
ID:fIznv9oJはカリカリすんなって言っといて自分がイラついてどうすんだね

222 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/26(土) 02:01:01.03 ID:EsqVbfPj
>>218に同意

223 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/26(土) 02:46:59.20 ID:c9ODH12S
>>218に同意かな

224 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/26(土) 12:53:37.33 ID:D8WfR3BK
俺も書き手だからこの流れはすごく気になるし、お題の出し方について
色々考えてもらえるのは嬉しいけど、ちょっとこのスレを覗いた人が
みんなが全然三題噺していないのって気になるような気もする
誰か「龍」に続くお題出してくれないかな。
みんなが真面目に話している間書けるか分からないけど頑張ってみたいので。

225 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/26(土) 13:06:15.02 ID:tXS34Ggj
じゃあ、「りんご」で

226 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/26(土) 18:18:59.51 ID:EsqVbfPj
「たつお」

227 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/26(土) 18:28:28.91 ID:CEeG1sdc
たつおって何?

228 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/26(土) 20:55:12.62 ID:EsqVbfPj
過去のクソスレのタイトルなんだがわからんかったかwすんません
じゃあ「春」

「龍」「りんご」「春」の三題で創作しませう

229 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/26(土) 21:23:52.53 ID:jd+dKIQL
お題ならお題の前にお題って書こうぜ?
お題「」みたいな形でさ
あと、「たつお」は意味分からんけど、意味分からない物使うのも三題噺じゃないの?

230 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/27(日) 00:12:13.54 ID:iwN1DArL
流石に意図の判らないものを使うのは三題噺じゃないんじゃないか?
たつおって固有名詞っぽいし

231 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/27(日) 03:33:56.10 ID:cBrYt9eF
>>229は「龍」「りんご」「たつお」で書いても良いよ

232 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/27(日) 05:07:11.66 ID:0Wn18ZEc
>>229が書く「龍」「りんご」「たつお」も見たいな
自分じゃ思いつかないから

233 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/27(日) 13:32:27.66 ID:5Ax9F2cq
>>228
しかし一気に鷹揚なお題に変えたね
ちなみにどんなスレだったんだ?

234 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/27(日) 13:55:48.59 ID:i/KJo3fn
お題サイトを使って、主人公たつおが小説を書いていく姿を書いた話。

たつお
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1278069255/

基本、うんこ(not内容的意味でと言い切れない)。

235 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/27(日) 14:31:16.42 ID:5Ax9F2cq
?d
いくらでもある駄スレだな

236 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/27(日) 14:50:32.71 ID:0Wn18ZEc
もしかしてたちおって>>234が立てたスレ?

237 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/27(日) 16:11:26.92 ID:i/KJo3fn
違うよ。検索したらログ残ってたんで貼ってみた。

238 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/27(日) 21:32:47.96 ID:mGxLxeF2
「4三歩成っと。ほれ、あんたの番だぜ」
「嫌らしい手だねえ。性格出てるよ。もっと清々しく正面から攻めてこられないもんかね」

 さる休日の午後、縁側で板を囲む私たちには、暖かい日差しが降り注いでいた。
庭の方に目を向けると、ようやく実をつけた木の実をついばむ雀を、鬼のような顔をした女房が
追い払うのが見える。毎年、よくも飽きずに不毛な攻防を繰り返すものだ。

「自分が下手なのを人の性格のせいにするもんじゃないよ。あんたの手はいつも向こう見ずすぎる」
「そうでもないさ。この通り、しっかり堅い守りを固めているから、安心して無茶ができるんだ。
長いつきあいなんだ。いい加減、俺が案外、堅実な人間だってわかってもらいたいもんだ」
「どうだかな」

 そう言って、私はおもむろに飛車を打った。いくら向こうの囲いが堅かろうと、
これで私の優勢は揺るがないだろう。

「二枚飛車に追いかけられる夢を見たってか。こりゃまいったね」
「投了か?」
「いや、まだまだ」

 頑固なもんだ。守りはともかく、頭も固い。こういうところは昔からだ。
還暦も過ぎて、もういい歳だっていうのに、子供みたいなところはいつまでも抜けない。

「そういえば、あんたんとこの孫、大きくなっただろう」
「もう五年生だよ。正月に会った時には、なんだか嬉しくなっちゃってね、
つい予定よりも多くお年玉をあげてしまった。どうせ娘に取り上げられるから
あの子の懐には残らないってわかってるんだがね」

 随分とまあ、楽しそうに笑うもんだ。よほど孫がかわいいんだろう。
目に入れても痛くないってやつだ。

239 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/27(日) 21:33:32.06 ID:mGxLxeF2
「ついこの間まで雪だるまなんか作ってはしゃいでたのに、子供の成長っていうのは早いもんだな」
「まったくだよ。まあ、光陰矢のごとしってのは、何も子供に限った話じゃないけどね。
この間も、いつものようにこたつでぬくぬくしようとしたら、こたつがないんだよ。
俺がちょっと散歩に出てる間に、カミさんが片付けちまったらしい。俺はまだまだ冬だと思ってたのにな。
どうも世の中は俺が考えるより目まぐるしく動いていく」
「それはあんたがボーッとしていて怠け者だってだけの話だろう。もう寒くもないのに
こたつになんか潜り込んでいてどうする」

「それだけじゃないぞ。年賀状だって書き終わらないうちに正月が来てしまったし、
貰い物のりんごだって食べきらないうちに腐ってしまったし、七草粥のことを思い出した時には
もう二月だった」
「もう何も言葉が出ないよ」

 局面は既に最終盤だった。堅かった守りもあらかた崩され、終わりも見えていた。
私の飛車が、守りの要となっていた金を取って、敵陣奥深くで龍になった。玉はついに
耐えきれず、囲いを抜け出して上へと上がってきた。

「あちゃあ、こりゃさすがにおしまいかな? せっかく苦労して固めた守りから自分で
出て行くはめになるとはね」
「負けに気づくのまでのんびりしたもんだ。いつまでも穴熊に籠もってはいられないよ。
もう春なんだから」


おしまい

240 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/28(月) 16:05:40.70 ID:NKj8Eyti
乙だけど題を書いて欲しかったな

241 名前:創る名無しに見る名無し:2011/02/28(月) 16:27:26.49 ID:psI5hKP6
光陰矢のごとし
毎日がまさに光のように感じるようになってきたよ
年とって変化が少なくなってくると尚更

最後の台詞は、変わらないように見えて変化していくんだという
予感の様なものを含ませてる感じでいいね

242 名前:「龍」「りんご」「春」:2011/03/01(火) 16:03:24.11 ID:N66aaXMK
 世界は四神に守られていた。すなわち、北は玄武、南は朱雀、東は青龍、西は白虎。四神はそれぞれ季節を司っており、春は青龍、夏は朱雀、秋は白虎、冬は玄武。
 これは、四神の加護をちょっぴり強く受けた村のお話。

「じいじ、いつになったら春が来るの?」
 村の少女、キーヤは祖父に問うた。
「そうさのう、龍神様が寝坊しておられるのかもしれんの」
 今は4月、例年桜が咲く頃だ。まだ梅すら咲いていない。
「じいじ。春来ないの?」
「そったらば、龍神様を起こしに行くべ」
「うん!」
 キーヤは元気に返事した。
「龍神様は川のほとりに住んどる。たあんと酸っぱいリンゴをしこたま持って出かけようや」
「じいじ、なして酸っぱいの? 甘くて美味しいの、いっぱいあるのに」
「龍神様はのう。酸っぱい物を司っておられるんじゃ。龍神様自身酸っぱいのには目がなくての」
「そうなんだ」
 キーヤと祖父はありったけの酸っぱいリンゴを麻袋に詰め込んで、東へと出発した。てくてく歩くと小川があり、それを上流へと辿っていくと川のほとりに小高い丘があり、丘の側面にぽっかりと穴が空いていた。
「おお、着いた着いた。ささ、入るべ」
 祖父に促され、キーヤは中に入る。祖父は松明に火を点けた。中を道なりに行くと、不意に周囲に嗅いだことのないような強い香りが漂い始めた。
「じいじ、臭い」
「これ。龍神様の匂いを臭いなどとは」
 やがてキーヤが何かにぶつかった。緑のごつごつした、樹齢何千年もある杉の太さよりも大きなものが転がっている。
「じいじ、これさ何?」
「おお、龍神様じゃ。ささ、起きてもらうとするかの」
 祖父はそう言い、リンゴを積み上げ始めた。キーヤもそれに習う。積み終わると祖父はリンゴを松明の火で少し炙った。
 周囲に芳しい、リンゴの香りが漂う。
「む……これはリンゴの香り」
 暗闇の中、真っ赤な二つの光が現れた。龍神様の目だ、とキーヤは思った。その後、ごごごう、と龍神は大きく口を開けて欠伸をする。キーヤは吹き飛びそうになった。
「おはようごぜえます」
 祖父が言う。
「おう、お前か。今年は随分と寝過ぎたようじゃ。積もる話は後にして、ひとっ走り春を呼んでこよう」
 龍神は雷のような声でそう告げると、突風を巻き起こしながら飛び出して行った。
「龍神様、あわてもの。行っちゃったね」
 キーヤが呆気に取られて言った。

 洞穴を出たキーヤの鼻先に、春を告げるピンクの花弁が舞い降りてきた。

243 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 16:05:52.79 ID:N66aaXMK
もう同じお題で先に出ていましたが書き上がったのでお目汚しだけど投稿しておきます。

244 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/01(火) 16:22:18.30 ID:S6fxhtcE
ほのぼのした話が来たな
こういうほんわかしたファンタジー書く人って意外と少ないよな

245 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/02(水) 01:14:29.37 ID:VtCpThVh
良い雰囲気だなぁ
続きを読んでみたい感じだ

246 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/04(金) 00:19:59.60 ID:4lf/LVc/
ちゃんとした投下があると沈黙する不思議

247 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/06(日) 02:04:07.72 ID:MaRg5s5P
GJ
最近寒いから早く龍神様には眼を覚ましてほしい…

248 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/06(日) 21:32:14.59 ID:yd9c1iUg
ヒマなので一本書いてみる、お題お願いします

249 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/06(日) 21:37:22.53 ID:cfEQm57p




ぢゃぁ、コレで。

250 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/06(日) 21:38:27.33 ID:yd9c1iUg
お題ありがと

251 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/06(日) 21:40:04.70 ID:cfEQm57p
期待待機

252 名前:「春」「冬」「橋」:2011/03/06(日) 22:38:15.24 ID:yd9c1iUg

旅人は首からカメラを下げていて、それは旅人の他のすべての所持品を合わせたよりも高
価なものだった。フィルムは放射能と磁気嵐を防ぐチタンケースに収められ、腰のベルト
に銃弾のように挿されている。

「時間というものはとても大きく雄大な流れなのです。それは数十里の幅がある大河より
も、あるいは山脈に吹きすさぶ白い風よりも」

旅人は科学布でレンズを磨きながら言う。周囲はまったく起伏のない白銀の大雪原。その
只中にある平たい岩の上で、私はひたすらにシチューの鍋をかき混ぜる。

「その最たるものが四季の移り変わりでした。魂を凍てつかせる冬の寒さが、ある短い時
期を境に春の柔らかな日々へと移り変わる。それは極めてダイナミズムに溢れた時間なの
です」
「それは分かるが」

私は口を挟む。

「春なんてものはもう失われたんだろう? 大河を遡上するサケの大群とか、雪を突き破
って芽吹く若葉とか、あんたの喜びそうな写真はすべて100年以上前のものじゃないか」

そうですね、と旅人はうなずく。

「あまりにも長い冬でした。人の犯した罪を考えても厳しすぎる罰だったと思います。
ですが、それももうじき終わります。この地に春の暖かさが訪れるのです」

うっとりとした様子で、旅人はレンズを磨き続ける。

「それはなんという壮大な出来事なのでしょう。春はどのように訪れるのでしょうか。
天使が籠の中の花をばら撒いて広めていくのか、津波の押し寄せるように緑の波が迫っ
て我々を通り過ぎていくのか。長い長い冬の後だからこそ、その喜びは至上のものです」
「…もしそんなものが来るとしたら、だが」

私は空を見上げてつぶやく。

「きっと橋を渡って来るんだろうな。あの燃え尽きようとしてる太陽の代わりに、別の
恒星系から熱源を引き出す星間熱導管計画。100年もかかった計画が、予定通りに終わ
ってくれればだが…」
「そうですね。それはきっと胸の震える眺めですよ。巨人があの天の橋を渡って、春を
背に担いで運んでくるんですね」

私はそうだな、とだけ言って、それ以降はこの頭のおかしい旅人を無視した。

253 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/06(日) 22:53:59.49 ID:ThoAqLfs
>>252
オチは?

254 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/06(日) 22:56:00.53 ID:V6BhCic7
SFに持ってくのは意外だったな
余韻が残るいいラストだ

ところで、お題は出す時は一人一個ずつなんだぜ

255 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/06(日) 23:22:29.58 ID:ThoAqLfs
携帯とPCで自演したんじゃないの
急に二人だけ現れて一気に話が進んで違和感ありありなんだけど
既に書いた話に合致するお題を自分で出しただけで

256 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/07(月) 00:15:22.32 ID:G5Veh8ZG
お題くだされ

257 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/07(月) 00:18:40.28 ID:NZ07EQ6F
「厚生労働省」

258 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/07(月) 00:20:10.30 ID:rLRZEmPR
お題「ペットボトル」

259 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/07(月) 00:24:22.15 ID:MZUy3u2L
「馬」

260 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/07(月) 00:25:35.85 ID:ciYSC/tP
わたし女だけど、ここまで妄想しちゃう男の人って…………

261 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/07(月) 00:28:04.87 ID:G5Veh8ZG
>>257-259了解
明日会社行くまでに書きま

262 名前:「厚生労働省」「ペットボトル」「馬」:2011/03/07(月) 07:55:36.94 ID:G5Veh8ZG

まず職員Aが登場する。彼はスーツをだらしなく着崩し、ぼさぼさの髪を掻きながら
苛立った声でわめいている。
「実に不可解だよ! 犯人はいったい誰なんだ!」
そこへ職員Bが現れる。彼はダブルのスーツを上品に着こなし、銀縁の眼鏡の奥には
怜悧な視線が除いている。
「まったくだな、午前中がペットボトルの片づけで潰れてしまった」
職員Aは振り返り、何か恨みがましいような、血走った目線を投げつける。声を枯ら
しながら叫ぶように話す。
「天下の厚生労働省の玄関先に! ペットボトルをばら撒くだなんて許しがたい暴挙
だ! 警備の者は何をやっていたんだ!」
「環境省の連中じゃないのか? ゴミ問題はあちらの管轄だが、炭酸飲料の引き起こ
す健康被害の観点から、うちにも責任を取れというアピールかもな」
職員Aは目を丸くする「そ、そんな馬鹿な」
「以前もあっただろ」職員Bは眼鏡を中指で押し上げる。「気象庁の連中が、壊れた
気象衛星を科学技術庁の前に放置した事件だ」
「ああ!」職員Aはぽんと手を打つ「文部科学省の連中が! 国会図書館に入りきら
なくなった古地図を国土地理院の玄関先に放置したこともあったな!」
「職員が踏み込んでくるわけでもなく、物を放置するだけ、というのがいかにも日本
人らしいやり方だよ」
そのとき二人のそばを馬の大群が走り去る。あらゆるものが踏み砕かれて、土煙が砂
嵐のように吹きすさぶ。
「何だ何だ」泣き叫ぶように職員A
「馬だな、これはどこの馬だ? 警察庁か宮内庁の飼ってる馬か?」職員Bは素早く
デスクの下に隠れる。
「違うぞ! これはサラブレッドだ! 中央競馬の競走馬に違いない! 農林水産省
の奴ら、こないだの検疫事件のことを根に持ってやがったんだ!」
二人の職員はスーツをはたきながら立ち上がる。馬たちは二人の周辺でいななきなが
ら書類をむさぼっている。
「こちらも報復だ!」と職員A
「よかろう」と職員B、懐から携帯を取り出し、電話をかける。

「すぐに来るはずだ、霞ヶ関の全省庁を攻撃目標にしておいた」
遠くから地鳴りのような音が聞こえる。
2011年現在、1191万人に及ぶ年金受給者が霞ヶ関に押し寄せようとしていた。

263 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/07(月) 11:20:54.65 ID:pJGyqPjF
ウマイ

264 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/08(火) 00:48:32.35 ID:h5Mb44cV
>>262
オ堅いはずの連中が、こんな下らない報復合戦www
こういう平和な省庁の話を読んでみたいわ。面白い。

ところで、創作文芸板にも三題スレってあるじゃない?
それとの差別化をしてみたらどうだろう?
お題を一週二週に一つにして、
同じお題で複数の人の作品がうpされるように。

あと、まとめwikiサンクス。

265 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/08(火) 00:51:17.09 ID:FCCu0D74
創作文芸板の三題噺スレははるか昔にDAT落ちしているから差別化も糞もないと思うが

266 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/08(火) 01:01:30.05 ID:XdRBOgMf
だな。向こうの三題話は落ちたあと復活しなかった

267 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/10(木) 00:58:45.03 ID:fQJOyeDy
三題噺とは違うが、文芸版にはこの三語で書け!というスレがある
前の人が提示した三語で即興文を書き、投下した人が次のお題(三語)を出す
それを延々と繰り返す感想レスの付かないある意味ストイックなスレ
この三語で書け!専用感想スレというのもあった気がするが最近は俺も
覗いていないので定かではない

個人的には過疎気味でもちんたら進行していくのが好きだ

268 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/10(木) 07:19:41.73 ID:nAj4tX9z
レスが全く付かないような流れだとすぐ止まる
感想が増えるといいんだがなー
ついでになるが上の話おもしろかった
役人達馬鹿w

269 名前:「厚生労働省」「ペットボトル」「馬」  ◆q/J/TnXO.s :2011/03/10(木) 13:40:13.98 ID:8HmRWwvh
最新の科学によって、動物達の鳴き声の意味が些少ながら理解できるようになった近未来。
動物達にもまた知恵がつき、人間達の言葉の意味を少しずつ理解するようになっていた……
これはそんな科学の発展途上で起きた出来事である。

ある時、日本中の馬が叛乱(ストライキ)を起こした。競走馬や警察馬、さらには奇妙なことに食用馬や野生馬までもがである。
当然、政府は複数の省庁が混乱に陥った。
家畜と解釈すれば農林水産省の管轄になるが、交通手段としての馬ならばむしろ国土交通省の管轄になる。思い
切って労働者と解釈することで厚生労働省の管轄にしようという論まで出る始末であった。
そして政府が馬の叛乱に動揺しているうちに、また叛乱が起こった。
なんと馬の叛乱に同調し連携するようにして、今度はなんと猫が叛乱を起こしたのである。
野良猫はともかく、労働を期待されてはいないはずの飼い猫の叛乱に政府や地方自治体はもちろん一般家庭も右往左往。
出来ることといえば、水を入れたペットボトルを置くことを自重(もしくは推奨)することくらいであった。

その後叛乱の規模はさらに拡大し、様々な生物が叛乱に参加するようになる。
そうすると当然ながら食物連鎖等の関係により一度は連携が乱れることとなったが、そうなることで彼等は却っ
て危機感を募らせ組織を作り直し代表者を政府に送り込んできた。
そしてその代表と政府との会合の場が設けられることになり、動物学者たちが通訳となって本格的な交渉が開始。
その会合の際に発覚した動物達の主張が根拠となり、騒動を治める鍵は文部科学省が握っていることが解った。

以下に示すのはその主張(一部)の要約である。

「だからって馬鹿にすんじゃねーよ!牛なら念仏わかるってのか?」
「小判なんて使えないのは犬だって鼠だって同じだろうが!」
「勘弁してくれよ!顔に小便とかかけられて平気なわけねーじゃん!」

270 名前: ◆q/J/TnXO.s :2011/03/10(木) 13:41:33.76 ID:8HmRWwvh
なんか短くしすぎて超展開気味になってしまった
お題の消化も強引だし、今回は特に出来が悪いな

次のお題は今出すのが許されるなら「蛙」で

271 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/10(木) 20:01:13.11 ID:R1DkcWcD
>>262
報復にサラブレッドww贅沢すぎる報復行為だwww
しかし、これは平和・・・なのか・・・?w

>>269
言葉の綾って言われても、動物にゃわからんわなw

272 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 19:51:37.79 ID:Ezi5cgOS
お題ふたつぐらい下さい
>>270に一つ出てるので、あとキーワード5個ってことでお願いします

273 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 20:05:29.23 ID:CzAzNsLm
じゃあ、「アイスクリーム」で

274 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 20:14:51.59 ID:pNXZVrRv
>>272
ルールは守れ
「三題」噺スレだ
ついでに二つ書こうとしてるみたいだが他の参加者のことも考えろ

275 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 20:31:37.28 ID:CzAzNsLm
自治厨うぜえ

276 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 20:37:34.90 ID:W3slJwSK
Ezi5cgOS=CzAzNsLmかな?w

277 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 20:42:46.10 ID:Ezi5cgOS
すいません、また日を改めて出直します

278 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 21:00:10.23 ID:pNXZVrRv
すげぇ、図星だったかwwww
そりゃあ今日書いたらIDばれるよなwwww

279 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 21:03:22.98 ID:CzAzNsLm
単発が自演認定とか勘弁してくれよ
自演で自分のお題なんか出してどうすんだ

280 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 21:19:32.46 ID:pNXZVrRv
他の参加者のこと考えろ、って当たり前の事書いたのに自治厨うぜぇ、とか言っちゃうからじゃないか?
ID:yd9c1iUgとID:cfEQm57pも同一人物に思えてきた

281 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 21:39:13.49 ID:CzAzNsLm
何が当たり前のことだよ
お題は三つずつなんて俺ルールをさも当然の決まり事みたいに言うなっつってんだよ

あげく、関係ない奴らまで自演認定始めるとか、このスレに悪意でもあんのか?

282 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 21:54:44.07 ID:W3slJwSK
>>1を読んで深呼吸するといいよ。
日本語読めるならだけど。

283 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 22:06:56.33 ID:CzAzNsLm
どう見てもそんなこと書いてねえだろ

284 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/15(火) 22:15:35.49 ID:pNXZVrRv
いい感じでどんどんボロを出してるなw

285 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/16(水) 00:09:11.37 ID:eg12gCzk
さ、IDが変わった今日どんな書き込みが来るか楽しみだw

286 名前: ◆91wbDksrrE :2011/03/16(水) 02:35:12.99 ID:24XFsBGk
「蛙」「アイスクリーム」

あと一つ

ちなみに、個人でお題書きしたい人は、
お題創作スレを使うといいよ。
お題を六つくれくれしてもたぶん大丈夫。

【気軽に】お題創作総合スレ【気楽に】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281965871/

あと、マジレスすると、馬鹿を馬鹿にしてる人も、
周りから見ると馬鹿に見えるかもしれないって
可能性は頭に入れておこうね。場合によっては
馬鹿にしている馬鹿が馬鹿じゃない可能性もあるし、
色々と考えてから書き込んだ方がいいかもね。

>>283
これもマジレスだけど、これまでやってきた流れってのも
存在するから、それに則らないやり方するにしても、
いきなりドカンはちょっとばかし歓迎できないかなー。

こういう感じでお題くれくれしても大丈夫?って感じに
事前に相談でもあったら良かったかもね。

287 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/16(水) 14:43:10.98 ID:uYNTWp7W
じゃ、「メンソールの煙草」を三つ目に出そうか。

288 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/16(水) 21:18:57.27 ID:yT5H4Xj4
じゃ、
「蛙」「アイスクリーム」「メンソールの煙草」で決まりだな

289 名前:「蛙」「アイスクリーム」「メンソールの煙草」:2011/03/17(木) 16:21:02.41 ID:tIB7yu7e
 どこかで蛙が鳴く声がした。
 
 雨の中だというのに、彼は傘を小脇で器用にさしながら、それでも身体の半分は
雨に濡らしながら、風に吹かれないように手で覆って、煙草に火を灯そうとしている。
 値上がりもしたし、いい加減やめろと何度言ってもやめようとしない。それで
本気の大喧嘩をした事もあったが、折れたのは私の方だった。
 点いた煙草を吸いながら、彼は言葉を紡いだ。少しだけ、メンソール煙草特有の
香りが、こちらにまで漂ってくる。
 その視線は、どこか遠くを見つめているように、見えた。

「昔、うちの近くに蛙がたくさんいたんだよなぁ」
「へえ」

 蛙。何故唐突にそんな話題が出てくるのか、と、私は浮かんだ疑問をそのまま
彼に向けてみた。

「なんで突然蛙の話なんか?」
「いやな、その頃はずいぶんガキだったよなぁ、って」
「だから、なんで突然昔の話を?」
「いや、蛙の鳴き声がしたのと……あと、お前が緑色の合羽被ってるからさ」

 そう。今日の私はおニューの合羽をまとっていた。言われてみれば、その緑の
色からは、蛙を連想してもおかしくないかもしれない。どちらかというと、緑と言っても
夜間も安心な蛍光色の緑なので、思い浮かべるとしたらアマガエルだろうか。
 相合傘で喜ぶ時期はもうとうに過ぎ去った。彼は傘をさし、私は合羽をまとい、
二人でつかず離れずの距離を歩く、そんな雨の日の私たち。
 考えてみれば、あの頃は、常に彼の温度を感じていたかったような気がする。
そんな風に、始終くっついていたかったのは何故だろう? 考えてみるに、あの頃の
私は怖がっていたのではないかと思う。くっついていないと、彼がどこかに行って
しまいそうで怖かったような、そんな覚えがある。だとしたら、あの頃の私はどれだけ
純朴だったのだろう。そして今の私は、どれだけ自信過剰なのだろう。
 彼は、もう二度と自分の側から離れない……このつかず離れずの距離を保って
一緒に歩いてくれると、確信しているらしい。驚くべき事に、私は。

「なんだよ、急にボーっとして」
「んー。貴方が昔の話をし始めたから、釣られて昔の事、思い出してた」
「お前の昔の事か……何か、お前はずっと変わらない気がするよ」
「それってさりげなく酷くない?」
「なんでだよ。褒めてんのに」
「褒め言葉ではないように聞こえてならないんだけど」
「まあ、喜んどけ喜んどけ」
「わーいわーい」
「なんという棒読み加減」
「で、蛙に話戻してよ」
「あれ? 聞きたいんだ」
「話したいんじゃないの?」
「実はあんまり」
「何よそれ」

290 名前:「蛙」「アイスクリーム」「メンソールの煙草」:2011/03/17(木) 16:21:11.95 ID:tIB7yu7e
 自分から話を振ってきておいて、話したく無いも何も無いだろう。
 鼻白んだ私の表情を見てとったのか、彼は苦笑いを浮かべて小さくため息をついた。
話しながらふかしていた煙草は、携帯灰皿の中へと放り込まれる。

「……だって、俺の初恋の話だぜ? 今の連れにする話じゃないだろ」
「うわ、何それ。そんな話を自分から切りだそうとしてたの?」
「ついだよ。うっかりだよ」
「どこの体育会系の人よ。……っていうか、むしろメチャクチャ聞きたいんだけど」
「え。マジで?」
「私の心の広さは瀬戸内海くらいあるのです」
「お前はどこの大阪の人なんだよ」

 もちろん、タコは住んでいない。

「そういうのって、あんまり女の子の方は気にしないもんだよ」
「……ホントに? っていうか、さりげなく自分を女の子とか言うな」
「女って生き物は、永遠に少女なのさー」
「そういう事を言い出したら歳なんだぞ」
「うっさい。さっさと話しなさいよ」
「仕方ねえなぁ……」

 そう言って、彼は再び煙草に火を灯し、一息ふかした。真っ白い煙が、空へと
舞い上がっていくのを、彼は視線で追っているようだった。雨粒の滝を遡り、
遙か空へと駆けのぼっていく白煙を。

「……まあ、よくある話でな。俺の家、田舎でさ、雨が降ったら蛙がすげー鳴くわけよ。
 で、あちこち蛙がぴょこぴょこ跳んでるんだわ」
「ああ、確かに田んぼとかある所だと、かなりげーこげーこ煩いらしいわね」
「で、ある年の話なんだけどさ、転校生が来たんだ」
「それが初恋の人、と」
「いきなり結論出すなよ! ……まあ、そうなんだけどさ」
「どういう娘だったの?」
「その転校生、身体弱くてさ」
「深窓の令嬢、って奴?」
「うん、なんかそんな風だった。凄い大人びた感じで、とても同い年には見えなかったな」
「病気療養で田舎に来た、とかそんな感じだったのかしら」
「なんで来たかとかは……聞いたことなかったな。でも、来てからしばらくは、何か
 やけに落ち込んでたみたいだし、不本意な転校ではあったんだと思う。学校でも、
 いつも仏頂面で、ずっと怒ってるみたいだった。体育の時間とか酷かったな。いつも
 見学で、普段から怒ってるみたいな顔が、まるで般若みたいでさ……」

 彼は、再び遠い目で、どこかここではない場所を見つめ始めた。
 過去へと想いを馳せるように。今から離れ、過去へと飛び立たんとするかのように。

「そいつ、雨の時緑色の合羽着てたんだよ。傘だと濡れて体調崩すから、って」
「で、皆に蛙、蛙と揶揄されてたとか?」
「大当たり。でも、その内何かそいつ、自分が蛙だ蛙だって言われるの、おもしろがる
 ようになっちまってさ。ある日、俺に『君の家の近くに、私の仲間がたくさんいるのでしょう?
 一度案内してくださいません?』って言われた」
「で、案内したんだ?」
「ああ……今思えば、ホントガキだったんだよな。そいつが身体弱いってのもよくわかって
 なくて、雨が降りしきる中、山の上の方にある自分んちまで引っ張ってきて、そいつが青い
 顔してるのにも全然気づいてなくて……でも、連れてったらさ、そいつにっこり笑ってんだよ」
「……たくさん蛙がいるの見て?」
「ぴょんぴょん跳ねてる蛙見て、『いつか、私もこうやって飛び跳ねられるようになるんです。
 だって、私は蛙ですもの』って。そう言って、凄いいい顔で笑ってんだ」
「………………」
「その時、何かドキッとしたんだよ。うわ、こいつ笑ったらすげえ可愛いんじゃねえか、
 って感じで。普段、仏頂面だから勝気に見えた顔も、なんだか凄い儚げで、守って
 やりたくなるような感じで……単純だよなぁ。自分が何しちまったのかもよくわかってなかったのに」

291 名前:「蛙」「アイスクリーム」「メンソールの煙草」:2011/03/17(木) 16:21:29.96 ID:tIB7yu7e
 彼は、自らを嘲笑っているようだった。
 何も知らなかった、幼い頃の自分を。

「……結局、それっきりそいつは学校には来なかった。なんか体調を一気に崩したらしくて、療養
 どころじゃなくなったんだと。原因は……言わずもがな、だよなぁ」
「その事には、いつごろ気づいたの?」
「何年かしてから、だな。ホントガキで馬鹿だったよ、俺は……。そいつはその事を一切
 言ってなかったらしく、俺が大人に怒られる事もなかったしな」
「………………」
「でもさ、そいつに最後に会った時……何か熱出してるって話聞いてたから、冷やしてやろう
 とでも思ったんだろうな、アイスクリーム持ってそいつんちに行ったんだよ。でも、何か
 大人に怖い顔して追い返されて、それでもアイスが溶けちゃうからってんで、忍び
 こんでそいつの部屋まで行ったんだよ。……その時、青い顔したそいつに会った時、
 そいつがなんて言ったと思う?」
「……わかんない」
「『君は私に目標をくれたのだから、気に病む事はありません』ってな。そんな事言って笑うんだぜ。
 気に病まないでいいも何も、俺は自分のせいでそいつがそんな事になってるなんて、思っても
 いなかったのにさ。なのに、笑顔が可愛いからってまたドキドキして……笑えるよな」
「………………」
「んで、二人で持ってきたアイス食べて『またね』って。それで最後。それっきり、そいつには会ってない」
「それって……」
「いや……死んだ……かどうかも、わからないんだよ。都会の病院に入院する事になった、
 って先生が言って、それからもう二度と学校に来る事はなかったし……そいつの家にも、
 誰もいなくなってたしな。……大人が、子供を傷つけないように配慮した……ってのは
 流石に考えすぎなんじゃねえかな、と思う」
「……そう、信じてる?」
「だな」

 そう言って、彼は笑った。さっきまでの、自分を嘲笑うような笑い方ではなく、何かを
懐かしんでいるような、そんな笑み。

「これで話はおしまい」
「ちょっとしたドラマね」
「まあな」
「でも、安心したかな」
「安心?」
「そういう話、してくれた事に」

 つかず離れずの距離を、ずっと一緒に歩いて行く。
 それが出来るようになる為には、互いに互いの事を知らなければならない。知った上で、
受け止めていかなくてはならない。温もりを感じられる程に近くにいたら、それはなかなか
難しい。突き出た針で串刺しになって、痛みに耐えられずに離れてしまい、二度と近づけ
なくなってしまう。
 だから、彼からそういう話を聞けて、私は良かったと思っている。
 本当なら、少しは嫉妬する所なのかもしれないけれど、不思議とそんな感情は湧いて
来なかった。その出来事も、その女の子も、彼を構成する一要素という事、だからだろうか。

292 名前:「蛙」「アイスクリーム」「メンソールの煙草」:2011/03/17(木) 16:22:48.11 ID:tIB7yu7e
「……今でもその娘の事、好き?」
「……昔の話だよ」
「じゃあ、今は誰が好き?」

 嫉妬という感情は湧いてこなくても、言葉で自分の確信を裏付けて欲しいとは思う。
 女の子って、本当に面倒な生き物だな、と我が事ながら苦笑い。

「往来のど真ん中で言えるかっ!」
「私は好き。貴方の事、大好き」
「……ッ」
「貴方は?」
「……こんな、恥ずかしくて情けない話を出来る程度には……お前の事、好き、だよ」
「よろしい!」

 いつだってそうだ。彼が私の事を好きと言ってくれる度に、私は小躍りしてしまう。
 雨の中、緑の合羽をまとって躍る、私の姿は、きっと彼から見たらそんな風に見えているだろう。

「うちの蛙はこれだけ元気に飛び跳ねてるんだから、その娘だって、どこかで飛び跳ねてるわよ!」
「……お前が言うと、何か本当に大丈夫な気がしてくるから不思議だよなぁ」

 煙を吹き出し、彼は言う。
 その視線は、もう白煙を追っていない。遠くを見てもいない。ちゃんと私を、すぐ側にいる私を
見てくれている。少しだけ困ったような、でも優しい笑顔で。
 いつもくっついていた頃より、ずっと強く感じる温かさ。それは、きっと、心の距離が縮まって
いるからなのだろう。
 その距離は、今日もまた少し縮まった。

                                          おわり

293 名前: ◆91wbDksrrE :2011/03/17(木) 16:23:05.10 ID:tIB7yu7e
ここまで投下です。

294 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/17(木) 17:23:06.80 ID:ammqJB5H
乙でした
付き合うなんていっても互いの過去なんてのは知らないもんだからな
気になるのも人情で話したくなるのも人情かね
病弱なおにゃのこはどこかで無事にやってると良いと思う

295 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/17(木) 18:17:11.32 ID:aduQ1mQl
乙!
すごく綺麗にお題消化してて感動しました。
ここに投下されてる作品としては長めだったけど、さらっと読めたし。
二人の男女の描き方、そして彼ら自身がとても魅力的でした。

296 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/17(木) 18:39:49.47 ID:LF7I8ria
結構鬼畜狙ってメンソールって言ったのにw

297 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/17(木) 22:27:39.32 ID:b66LQF57
お題くださいです

298 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/17(木) 22:29:59.38 ID:kekibO6+
「歯医者」

299 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/17(木) 22:46:26.17 ID:dVVPbwPo
お題:アパラチア山脈

300 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/17(木) 23:26:29.81 ID:1IbMUANP
お題:ヤンバルテナガコガネ

301 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/17(木) 23:27:15.90 ID:1IbMUANP
歯医者、アパラチア山脈、ヤンバルテナガコガネで頑張ってくれ。

302 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/17(木) 23:30:36.85 ID:b66LQF57
お題ありがとうです

303 名前:「歯医者」「アバラチア山脈」「ヤンバルテナガコガネ」:2011/03/18(金) 00:55:09.78 ID:0H9FqV4B
老人は苦悩していた。
年の頃なら60過ぎ。この世界で彼の名を知らぬものはいない。彼は勝利者であり
調停者であり、ルールの全てを規定する者だった。

「…こんなはずはない」

食いしばった口から、絞り出すような声が漏れる。

「こんな不条理なことがあるものか…。何かが狂っている。儂の戦略は何も間違
っていないはずだ…」
「それは昨日までのことです」

対峙する男は若かった。まだ20になるならず、の容姿である。銀縁の眼鏡と三つ
揃えのスーツを着こなしたスタイルは、黒縁の眼鏡とくすんだ色あいの呉服、と
いう老人とは対照的だった。

「この一点こそは世界に穿たれた楔。ここから世界はうねりを上げて捻じ曲げら
れる。新たに生まれたアパラチア山脈であり、超大陸パンゲアの中心なのです。
その造山運動は波のごとく広がり、旧世界を裏返して新たなものに書き換えていく」
「…黙れ若造が!」

老人は口角泡を飛ばすように叫ぶ。その手が「馬」を動かし。相手の「竜」に
肉薄する。

「奇手が功を奏した程度で自惚れるなよ! 異端は所詮異端。王道を汚す羽虫に
過ぎん!」
「まだお分かりにならないのですか!」

二人の間にはボードが一枚。そこには無数のコマが並べられ、歯医者にあるよ
うな無影灯が一基、頭上から彼らを照らしている。
若者は「甲虫」を摘み上げ、フィールドの一番奥へと送り出す。途端に「甲虫」
は裏返り「ヤンバルテナガコガネ」へと進化する。

「な…何だと!?」
「単に生き延びるためのものでしかなかった甲虫の素朴な形状が、熱帯性の気候
によって一気に華やかなものへと進化する。生命を謳歌するかのような金色の甲
殻。威風を誇るかのような巨大な角。これこそが生命の生命たる証。美しく華々
しい、世界の可能性なのです」
「そ…そんな…」

がくり、と老人はうなだれ、ボードの上に覆いかぶさるように倒れた。ボードか
らいくつかのコマがこぼれ落ちる。

「儂が…間違ってたと言うのか…」
「あなたはただコマを増やすことにのみ注力しすぎた。そのために抱えきれない
ほどの戦力を抱え、ボードをあふれさせる結果になったのです」
「み…認めざるを得まい…」
「約束どおりこのゲームは今後、私が管理します。生命の数よりは多様性を、繁殖
力よりは個々の生存力を。うまくやって見せますよ。きっとね」

若者はボードを見下ろし、にわかにその目に決然とした光を宿らせ、手を伸ばす。

「まずは、このコマを何とかしなければね」

若者はそう言い、「人類」と書かれたコマを拾い上げた。

304 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 00:57:22.96 ID:0H9FqV4B
明日の朝書くのでもう一つお題おねがいします
今日はもう寝ます

305 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 01:00:34.79 ID:K+GCytCo
なんだかよくわからん話だな

お題は「豚汁」で

306 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 01:03:44.01 ID:728g3UiG
お題 木原神拳

307 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 01:13:06.03 ID:FkFa6COG
同じお題でもう一つ、ってのも乙なもんですぜ。

三つ目は「一方通行」で。

木原神拳がよくわからんかったら、もう一個別のをクレクレしても
いいと思うw まあ、わからないなりに書くのも面白いけどね。

>>304
書きたい事はわからんでもないけど、もう少し書き込みが必要かなぁ、と思った。
二人でゲームしてるんだ、って所もいまいちはっきりしないし。
まあ、多分そうだろうと読み取れはするんだけど。

308 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 01:28:37.08 ID:0H9FqV4B
>>306
むー、すいません。アニメの用語というのは分かったのですが、
このアニメ全く知らないので別のお題お願いしてもいいでしょうか…すいません

309 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 01:56:27.43 ID:728g3UiG
じゃあ イーノック

310 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 07:38:39.54 ID:L6BaB/k2
作品が流されているという少し前の議論はもう忘れられてるのか…
前の作品の人かわいそう、こんなわけわからん作品に流されて

311 名前:「豚汁」「一方通行」「イーノック」:2011/03/18(金) 09:07:38.72 ID:0H9FqV4B

妻はこのところいつも茫っとしており、その目は虚ろな闇を湛えていた。
例えば今食べている豚汁、肉が入っていない。丁寧に半月形に刻まれたニンジ
ンとダイコンのさくさくとした歯応えは心地よく、油揚げはボリュームがあっ
て散らされた生ねぎが香ばしさを添える。しかし豚肉が忘れられているため、
あの体の芯から温まるような力強さがない。大事なものが失われているのに、
それを誰も指摘しない奇妙な食卓だった。
僕は積極的に妻に話しかける。仕事のことや社会のことだ。妻はうなずいたり
相槌を打ったりすることもほとんどなく、こちらの言葉が妻を突き抜けて向こ
うの壁に当たり、落ちる。
明日からまた出張だから、と僕は告げる。それは僕が一週間ほど家を空けるこ
とを意味した。重要なことのはずなのに、妻は何の答えも返さない。どこかで
回路が破断して、会話が一方通行になっている。
妻から何かが欠落したように見えるのは、それは妻の一部が別のところへ行っ
てしまったからだろうか、と僕は思う。思えば新婚のころほど妻に時間を割か
なくなったし、こうして食卓を囲む間も、仕事や社会のことばかり考えている。
妻の主体がもし別の何か、あるいは誰かのところへ移っていたとしても、僕に
それを咎める資格があるだろうか。
そんなある日、予定より早く出張から戻ると妻が今まさに玄関を出て行くとこ
ろだった。旅行用のトランクを抱え、厚手のコートにマフラーと手袋という姿
である。
とうとう愛想をつかされるのか、と僕は苦痛と悔悟で胸が一杯になる。足元が
急に不安定になったようなふらつきを覚え、視界がかすむような感覚がある。
どこかへ行くのですか、と僕は搾り出すように言った。何を愚かしいことを聞
いているんだ、僕は自嘲気味な気分になる。
妻は幽玄とした眼で僕を見つめ、ごめんなさい、イーノックとルシフェル様に
会いに行くの、大事なオンリーイベントなの、と言った。
そうか外人なのか、と僕は思い、妻の横を通り過ぎて家に入って、そしてしば
らく何も考えなかった。

312 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 13:29:19.16 ID:kM/h5lmG
>>310
そうですよね。これは残念な流れです。
『メンソールの煙草』をどう処理するか考えているうちに、
もう二つ……。 二つて。
早過ぎますよ。
創作発表板なんですから、書ける人、書きたい人も多いでしょうし、
また見たい人も、同一お題で複数の作品があったほうが、
楽しめると思いますよ。
過去のお題okといっても、ねぇ。
スレもレスも流れていく訳ですから。 誰もが『書きにくい』と思うでしょうよ。

>>311
前半に、妻が『そっちの人』であることを匂わせておくと、
もっと良くなると思います。

313 名前:「豚汁」「一方通行」「イーノック」:2011/03/18(金) 13:49:59.01 ID:IDkUnJyQ
「ねぇ。今度の昇進試験本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だ、問題ない」
「……また何かのネタなの?」
「そう! エルシャダイの主人公、イーノックの台詞だ。元々のこの台詞の前には『そんな装備で大丈夫か?』と……」
「……はぁ」
 私は嘆息する。
 昼下がりの喫茶店。いつものように彼とのデートだった。でも、付き合い始めてからいつも、彼からの話は一方通行。私のよく知らない
アニメやゲームのネタを絡めた話ばかり。私は本当に彼のことを心配して言ったのに。どうして、こんなのに惚れたんだろう。
「お前も一緒にヤシマ作戦実行しようぜ!」
「何よ、それ」
「元ネタは新世紀エヴァンゲリオンTV版第6話で使徒ラミエルに対抗するために……」
 また私への気遣いもない、一方通行。もう限界だった。
「私、帰る」
 私はガタンと音を立てて立ち上がり、伝票をかっさらうと会計を済ませて唖然としている彼を尻目に店を出た。何よ、あんなオタク男。
もうちょっと落ち着いたらさっさと
別れを突きつけてやるわ。
 店を出ると激しく雨が降っていた。私は泣きたくなった。彼の車で来たから傘を持ってきていない。雨の中、私はバス停まで歩き、バス
を拾って帰った。

「そうよね、やっぱりそうよね……」
 体温計を見る。38.4度。案の定、あの雨の中を歩いて帰った結果、風邪を引いた。一瞬、彼に差し入れをお願いしようと思ったが癪なの
でやめた。彼に対する苛々と素直に彼に甘えられない気持ちの狭間で私は揺れた。
 職場に明日は休む旨を伝えて布団に潜り込む。濡れタオルを用意する元気もなかった。

 何時間寝ただろう。外はまだ雨が降り続けてるっぽいが、薄暗い。もう夜なのだろう。どうやら私は台所の電気を点けっぱなしで寝てし
まったらしい。と、思った瞬間。
「こちら彼氏。彼女の部屋に潜入した」
 台所から彼が湯気の上がるスプーンとお椀を持って登場した。私は目を丸くした。
「あんた、どうやって入ったのよ!」
「どうやってって……合い鍵持ってるからだろ」
「じゃあ私が寝てる間に家に上がってたの?!」
「Exactly.(その通りでございます)」
 彼はつかつかと歩み寄ってきて、私にお椀とスプーンを渡す。
「お、冷えピタ効いたみたいだな? 少し顔色良くなってるぞ」
気付けば、私の額には冷えピタが貼ってあった。彼が持ってきたのだろう。
「さ、食え。舌の上で豚汁がシャッキリポンと踊るぞ」
 お椀の中、湯気を上げているのは豚汁だった。いい香りが鼻腔をくすぐり、私の食欲をそそる。私は一口、また一口と食べ始める。
「……おいしい」
「だろ? 風邪引いてるだろう、と思ってな。野菜いっぱい入ってるぞ。ついでにいっぱいカロリーとってもらわないとな」
「私がダイエット中なの知ってて……本当に空気の読めない人」
「大丈夫だ、問題ない」
「……イーノック、だったっけ」
「そうだ」
「ふふ……ありがと」
 先ほどの怒りはすっかり消え失せ、私はついつい笑みを浮かべる。訳の分からない彼氏なりに、しっかり私の心配はしてくれているらし
い。私の許可も取らずに家に入ってきて、勝手に台所に入ったみたいだけど。
 彼の一方通行な会話。彼の一方通行な優しさ。そんなに悪くない、そう思った雨の日。少しずつ、双方向にして行けたらなと私は思った
。私は彼に問いかける。
「こんな私たちで、これから先大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない」
 彼はそう言うと、ブランケット越し、私の体をそっと抱き寄せたのだった。

<了>

314 名前:313:2011/03/18(金) 13:51:50.98 ID:IDkUnJyQ
同じお題ですが、自分も。
あまりにもガンガン作品が流れるよりは、同じお題でもう少しお話しできたらと思い
お目汚しですが投下させて頂きました。

315 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 16:21:59.33 ID:FkFa6COG
まあ、書く人がクレクレして、それでちゃんと書いてる以上、
あまり流れる流れないを言うべきではないと思うけどねぇ。
書くに書けなくなるし、クレクレもしにくくなる。

上で俺が言ってたのは、一個投下されたあと即座に
クレクレも無しにお題投下してた流れに対してなんで、
ちょっと状況が違うかなぁ・・・。

まあ、気になるって人もいるみたいだし、
少し考えた方がいいのかもしれないけど、
そこら辺はバランスだねぇ・・・難しい難しい。

>>311
隠れオタの奥さんの暴走かw
わけがわからない旦那さんからしたら、そりゃ絶望するかもしれないな・・・
こういうのも、夫婦間の不理解と言うのだろうか?w

>>313
彼氏ウゼェwww
これ、出逢いの切っ掛けが知りたいな。何か、結構ドラマな事があった予感w
ラブいの好きですよー。

316 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 16:58:46.89 ID:K+GCytCo
そもそも自分がまともな感想書いてない奴に感想書きづらくなるとか言われてもな
作品追いきれなくなるほどスレが活性化するなら、むしろ結構なことなんじゃねえの?
そうじゃなければ、構わず感想書くなり、前のお題で投下すればいいとしか

>>311
若干オチがわかりづらいかも

>>313
大丈夫だ問題ないでネタだと気づくって結構勘鋭いぞw

317 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 20:23:57.31 ID:ryMzQfDG
>>312さんに便乗して「蛙」「アイスクリーム」「メンソールの煙草」で投稿します
よかったら>>312さんも書きかけの投稿してみてはいかがですか

318 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 20:27:25.90 ID:ryMzQfDG
 蛙の鳴くような梅雨の最中だったと記憶している。
僕はこの時間、一時間に一本しかないバスを待ち、バス停に50分缶詰だった。夜の21時過ぎ。蛙が元気に鳴いていた。
「ちきしょう……あと10分早く来れば……」
 メンソールの煙草をくわえ、ポケットのライターをまさぐる。そのときだった。
 ふわっと、柑橘系の香りがした。髪の長い女性がバス停に入ってきた。
思わず、僕は目を奪われた。その女性が目を引くほどに綺麗だったのもある。
のもある、というのはその人がびしょぬれで白いワンピース越しにうっすらブラが透けていたのに目線が釘付けになったのが主なのだが。
 いけないいけない。自分にそう言い聞かせる。気付いたら口が半開きになり、煙草が地面に落としていた。この際どうでもいいや。
「良かったら使います?」
 俺は鞄の中からハンドタオルを取り出し、女性の上に掲げる。
「……ありがとうございます」
 女性はぺこり、と頭を下げ、ハンドタオルで控えめに髪を拭き始めた。
 それが、僕らの出会いだった。

 2日後くらいだっただろうか。田んぼ沿いを歩く。お地蔵さんや、道端に供えられた花の横を進み、バス停に行く。今夜も彼女はそこにいた。
「こんばんは。今日も会いましたね」
「そうですね。お帰り、遅いんですね」
「ううん、遅らせたんです。この時間ならまた貴女に会えるかな、って思って」
「え……?」
 彼女は口に手を当てて赤い顔をした。

 僕らは他愛のない話をした。
もうすぐ梅雨が明けること。田んぼの稲の育ち具合。夏の星座の話。1時間間隔のバスの待ち時間、また50分ほどの彼女との時間。
そして、彼女に別れを告げて僕はまたバスに乗り込むのだった。

 また別のある日。僕はアイスクリームを買って行った。スーパーカップのバニラと温州みかんを一つずつ。
彼女に好きな方を片方選んでと言って渡して、彼女は温州みかん味を選んで。アイスを渡すと彼女は喜んでくれた。
でも彼女はなかなかそれには手を付けず、膝の上に置いたまま二人で他愛もない話をしたのだった。もしかしたら、ダイエット中だったのかもしれない。

「お客さん、一体誰と話してるんです?」
 その日バスに乗ると、運転手にそう言われた。
「誰って、最近親しくなった女の子ですよ。へへ」
 僕はちょっと照れながらそう言った。だが、運転手の顔は真っ青だった。
「お客さん、いつもバックミラーにはお客さん以外映ってませんよ」

 次の日、僕はバス停に走った。
 運転手の言葉がずっと頭の中をぐるぐると回っていた。田んぼの真ん中であった交通事故。
あのお供えされた花の意味。確かめよう、そう思った。
 珍しくその日は梅雨のさなかの晴れの日だった。蛙が元気に鳴いていた。
 彼女はいつものように、バス停で僕を待っていた。笑顔で立ち上がった彼女を、僕は何も言わず強く抱きしめた。
「え……どうしたの?」
「いかないでくれ……」
「聞いたんだ、全部……」
 その言葉に、彼女ははっとしたような顔をし、やがてそのまま悲しそうに目を伏せた。
「……思い出したの。そっか、私死んじゃったんだ……」
「違う! 今君はこうして生きてる! こうやって抱きしめることもできる!」
「……ごめんなさい」
 彼女は控えめに、僕の抱擁を解く。そして、僕をまっすぐに見つめる。涙で滲んで見える彼女の笑顔。彼女は目を閉じそのまま顔を近づけ、僕の唇にキスした。
「大好きだった、よ」
 彼女の姿が薄れてゆく。僕は彼女を抱き止めようとしたが、僕の手は空を切った。
 彼女が無数の光の粒になって天に昇ってゆく。手で掴み、集めようとしても指の隙間をすり抜けていく彼女の欠片。そして彼女は、昇天した。
 バス停のベンチ。アイスクリームはまだそこにあった。中身は溶けていたが、全然減っていなかった。僕はそれを彼女に捧げられた花の横、そっと置いた。
 バスが来るまで後10分。彼女の思い出から立ち直るには短すぎる時間。
 僕はあの日以来、彼女の前で吸うまいと決めていたメンソールの煙草を取り出し、火を付けた。胸一杯に、煙草の香りが広がる。

 蛙が元気に鳴いていた。

319 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 20:29:03.28 ID:ryMzQfDG
以上です
◆91wbDksrrEさんと比べたらお題を綺麗に消化できていませんが
良かったら読んでみてください

320 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/19(土) 04:30:28.91 ID:3vtIabBU
切ないねぇ・・・。
アイスクリームで、本当に"それ"だとわかるって描写は
いいですね。

強いていえば、もう少し多く絆を深めていく描写があったら、
より最後の結末に感情移入できたかも。
彼女の方の気持ちの示唆とか。

お題消化については、そんなに気にする事は無いと思いますw
これまた強いて言うなら、メンソールの煙草を吸うまいと決める、
心境の描写があったら、よりしっかりと消化できた感が出たかも。
でも、十分綺麗に消化出来てると思いますよ。

あと、透けブラハァハァ(←台無しだー!

321 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/20(日) 00:26:39.85 ID:b7sP9BKT
>>320
ごめんね。
次に死んでください。
本当にごめんね。

322 名前:「歯医者」「アパラチア山脈」「ヤンバルテナガコガネ」:2011/03/20(日) 18:07:37.21 ID:eHRuZaMp
 ずっと、探検家になるのが夢だった。
 幼い頃僕は、虫歯の治療で近所の歯科医院に通院していた。歯を削る機械の耳障りな音を余所に、僕は歯医者に置いてある図鑑を読むのに夢中だった。
 それは自然科学の図鑑で、分類上は博物学の図鑑だったのだろう、と今では分かる。写真が豊富で、そこに写っている大自然に僕は心躍らされた。
 世界最大のカブトムシ、ヘラクレスオオカブト。
5本の厳めしい角を持つゴホンヅノカブトムシ。
そして沖縄に眠る天然記念物、ヤンバルテナガコガネ。そんな、甲虫たち。
 海の底で発光し、魚を捕らえるチョウチンアンコウ。
長い角と体が独特のリュウグウノツカイ。
目が前に突き出た異形のボウエンギョ。深海魚も、憧れだった。
 雄大なアメリカ大陸でうねり、ヘラジカなどが生息するアパラチア山脈。
赤土が眩しく、ピューマなどが生息するロッキー山脈。
いつかは僕も登るのだろう、と信じてやまなかった日本アルプス。
 ちょうどバブルも弾ける前の皆が裕福な御時世だった。
小学生だった僕も漠然と探検家になる、という堅実さの欠片もない夢を持ち、両親もそれを訂正しなくても良いくらいには世相も安定していた。……もっとも、子供の夢だと両親は最初から一笑に付していたのかもしれないが。
 そんな頃、いつも僕の隣にお母さんと一緒に座り、僕の読む図鑑を覗き込んでいる女の子がいた。
「ねぇ、これは君の本なの?」
「ううん、歯医者さんの本」
 女の子に問われて僕は答える。
「一緒に見せて」
「いいよ」
 僕は二人の間、膝に乗せて図鑑を広げた。
「こんな綺麗なお魚さんやかっこいいカブトムシ見たことないよ」
「僕もだよ。いつか、見るつもりなんだ」
「どうやって?」
「僕、探検家になる!」
「たんけんか?」
「うん、世界中を回っていろいろ見て回る人」
「いいなぁ! 私も、一緒に行きたい!」
 女の子はうきうきと、そう言った。
「一緒に行けるといいね。きっと」
「じゃあ、指切りげんまん、しよ?」
 女の子に促され、指切りげんまんした日。その子は、家の近所に住んでいることも分かり、次第に僕らは親しくなった。

 小学校を終え、中学に進み、地元の高校に進んでもその子は同じ学校へ進学してずっと一緒だった。
そのころはすっかりバブルも弾け、いわゆる就職氷河期に突入していた。僕の「探検家になる」という浮ついた夢を両親が許すはずもなく、何度かの親子喧嘩を繰り返しながらも養育してもらっている立場上僕が折れた。
親の「免許のある安定した職に就いてくれ」という願いを聞き入れ、僕は大学受験に躍起になり、無事大学に入学し、6年間の大学生活を送ることとなった。
 あのずっと一緒だった女の子だが、僕が探検家になると言う夢を頓挫しても僕の側にいることを選んでくれた。有り体に言えば、僕は彼女に告白し、彼女は交際をOKしてくれた。
彼女は僕と同じ学部の違う学科に進み、僕よりも2年早く卒業した。

「そういうわけで、まさかこうなるとはね」
「仕方ないでしょ。免許のある仕事で、一緒にいられる仕事を選んだんだから」
 そう。僕は歯学部に進み、歯科医師の免許を取得した。彼女はと言うと、歯学部口腔保健学科に進み、歯科衛生士になったのだった。
「探検家じゃなくて歯医者さんの方になるなんて、因果なものだよなぁ」
「私、あなたとヤンバルテナガコガネ見たり、アパラチア山脈に登ったりしたかったんだけどね」
「すぐにそんな大きな夢を叶えるのは、ちょっと難しいけど」
 僕は彼女に目を閉じて、と伝える。黙ってそれに応じる彼女。僕はその彼女の左手の薬指にそっと、指輪をはめる。
「え……?」
 驚いて彼女が目を開ける。
「結婚してくれないか」
 僕は精一杯の勇気を込めてそう言った。
「うん……。いいよ。ありがとう。ずっと、待ってた」
 彼女は目にうっすら涙を込めながらそう言った。
「海外旅行したこと、ある?」
 尋ねる僕に彼女は首を振る。
「ううん、ない」
「じゃあ、冒険や探検とは言わないけど……」
 そして僕は二度目の勇気を振り絞った。
「一緒に世界を見よう。新婚旅行で海外に行かないか」

<完>

323 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/20(日) 18:08:40.24 ID:eHRuZaMp
少し前のお題です。
難しそうなお題だったのでチャレンジしてみましたが少々強引だった気もします。
ここをこうしたらよかったんじゃないか、などの意見もありましたらお寄せ下さい。

324 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/20(日) 18:50:32.35 ID:E/zRmhFD

幼馴染みとくっつくなんて幸せ者じゃねえかww
金あるなぁこの家

325 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/20(日) 20:38:04.30 ID:lHOPhfTa

でもちょっと待って欲しい
いつ、とは書いてないから歯科医になって金を貯めてからの発言かもしれん
どちらにしても裏山

326 名前:「蛙」「アイスクリーム」「メンソールの煙草」:2011/03/20(日) 22:56:52.37 ID:zBYawXE6
姉ちゃんは縁側に座って、蛙の声に合わせてげこげこと鳴きまねをしている。姉ちゃんの白い足が
ぷらぷらと揺れて、水田を吹き抜けてくる湿った風が灰色のワンピースを揺らす。
姉ちゃんは蛙になってしまったのだ、と俺は理解していた。周りの大人たちはもっと端的で容赦の
ないことを影で言っていたけれど、表面的には姉ちゃんに同情的だった。姉ちゃんは器量がよくて
愛想のいい人だったし、何よりあの人とは結婚してまだ1ヶ月も経っていなかった。あの交通事故が
姉ちゃんから色々なものを奪ってしまったのだ。あの人を乗せたままガードレールを突き破った車、
それは崖の下から鉄くずとなって引き上げられた。ブレーキが壊れていたのだ。
姉ちゃんは夏の間中、そうして縁側に座ったままだった。テレビにも遠雷にも興味を示さず、うだる
ような暑さの中でも汗だくになって座っている。蛙が鳴いていないときはじっと黙ったままで、蛙が
鳴きだすとそれに合わせて鳴く。あまりにも暑いときは、俺は姉ちゃんのほっぺたにアイスクリーム
のカップをそっとくっつける。

「あう」

と姉ちゃんは声を上げ、横を向いてあーんと口を開ける。俺は木ベラでバニラアイスをすくい、それ
を舌の上に塗るようにこすりつける。姉ちゃんは舌の上に冷たさを感じると口を閉じ、にこにこと笑
いながらバニラアイスをゆっくり味わう。俺はこんな感じで姉ちゃんの面倒を見ていた。トイレにも
連れて行ったし、風呂場で体も洗ってあげて、朝と夕方には服を着替えさせる。アイスクリームを食
べて蛙の鳴きまねをするだけが姉ちゃんの毎日だった。それは何かの罰を受けているようでもあり、
誰かを責めているようでもあった。
姉ちゃんは以前と同じで誰よりも美しかったけれど、もう鏡を見ることもなくなった顔には、頬や唇
に蚊に刺された跡がいくつも残っていた。風通しのいい縁側に座っているから、蚊取り線香の効果が
薄いのだ。
俺は何とかしたくなって、あの人の荷物の中からメンソールの煙草を取り出し、縁側でそれを吸うこ
とにした。去年の夏、まだ結婚する前にあの人がこの家へ来たとき、そうして涼んでいたのを思い出
したのだ。俺は縁側へ戻り、姉ちゃんの横に腰掛けてメンソールの煙草に火をつける。煙をふうっと
噴き出すと、その先でブヨや蚊が慌てふためいて逃げていく。思ったとおり虫除けになるようだ。
ふと横を見ると、姉ちゃんが不思議そうな顔をしてこちらを見ていたので、俺は心底驚いた。姉ちゃん
の目には確かに意志の光があった。

「ねえ、その煙草はどうしたの?」

姉ちゃんがそう言う。意味のある言葉を発したのはあの事故以来のことだ。

「ねえ、それはあの人の煙草じゃないの? あの人、煙草は車の中でしか吸わなかったのに、
なぜあなたが?」
「そうだったのか、知らなかったよ」

俺は煙草をもみ消し、夕立でできた水溜りに投げ捨てた。
姉ちゃんはその水溜りをしばらく見つめて、メンソールの匂いが完全に消えるころ、また蛙の
鳴き声に合わせてげこげこと真似を始めた。
もう二度と姉ちゃんの前では吸うまい、と、俺はポケットの中で煙草の箱を握りつぶした。

327 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/20(日) 22:58:32.47 ID:zBYawXE6
少し前のお題で書いてみましたー
のどかな田園風景を描こうと思ってたのにどうしてこうなったし orz

というわけで次のお題、お願いしてもいいでしょうか?

328 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/20(日) 23:51:05.98 ID:IBvSysqX
お題 「ああ!窓に!窓に!!」

329 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/20(日) 23:54:28.24 ID:eHRuZaMp
クトゥルフですかw
どう料理するか執筆者の腕の見せ所ですね。

330 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/20(日) 23:58:38.31 ID:E/zRmhFD
お題「テケリ・リ! テケリ・リ!」

331 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 00:00:28.02 ID:YO5zz3Ib
そして乙
暗い話だw
弟の心情が察せられる

332 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 00:01:16.00 ID:m6+ZKCjG
ショゴスの鳴き声……
ただのクトゥルフの三題噺になりそう

333 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 15:16:17.18 ID:nWFYCatb
お題「ナイアルラトホテップ」

「ああ!窓に!窓に!!」「テケリ・リ! テケリ・リ!」「ナイアルラトホテップ」
の3題で宜しく

334 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 15:39:14.16 ID:U7sBwEHa
ここ何回かお題の流れおかしいよ

335 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 16:25:31.81 ID:nWFYCatb
>>334 つべこべ言わずに書けカス
三題噺スレだろ

336 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 16:34:00.12 ID:igtnlvC7
こんな二次創作ネタばかりなら誰だって嫌になるわ

337 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 17:36:47.71 ID:3EKE54K7
「なぁ」

 彼が言う。

「何?」

 と私が言う。

「ああ!窓に!窓に!!って、元ネタ何?」
「知らない。なんかのアニメ?」
「知らないから聞いたんだけど」

 そうでした。
 しかし、唐突に何を言うかと思えば、大手掲示板でよく見るフレーズの元ネタを聞いてくるとは。
 そんなの見てると元ネタよりネット上での扱いばかり目にするから、こういう事がよく起こる。私も彼もアニメも見ないし映画も最近見ないし、漫画も立ち読みで済ます程度。
 2ちゃんねるにはびこるアニメネタやアイドルネタはさっぱりなのだ。
 テレビも見ないからA○Bもよくわからない。ロシアの新型制式ライフルかと思ってたくらい。

「テケリ・リ! テケリ・リ! って何?」
「クトゥルフ?
「お? 知ってる?」
「わかんない。響きでそう思っただけ」
「……確かに響きはそれっぽいな」

 それっぽいだけなんだけどね。
 クトゥルフもよく見る。有名だから名前は知ってるし、ちょっとくらいなら元ネタもわかる。
 かといって全然詳しくないけど。
 鼻行類もよくわかんないなそういえば。
 なんでこんなネタがよく上がるのか謎。元ネタをちゃんと把握してる人ってどのくらい居るんだろう。
 ジョジョネタならバリバリなんだけど。

「ナイアルラトホテップって?」
「イムホテップがどうしたって?」

 そういえばジェットリーが出てたシリーズ三作目まだ見てないや。
 彼が言った何とかホテップもその関連だろうか。どうでもいいけど。

「どっか行かねー?」
「どうしたの唐突に?」
「いや、なんとなく」
「どこ行きたいの?」
「どこでもいいよ。ラーメン屋行く?」
「えー」
「餃子の券あるよ」
「あー。じゃ、行く」
「決定」

 彼はばたっとノートパソコンを閉じて、そそくさ着替え始める。いくらなんでも部屋着のジャージで出歩く根性はないみたい。
 私は平気で出歩いたりするけど。オンとオフは使い分けるのが私のジャスティス。
 
「行くか」
「うん」
「何食う?」
「つけ麺。そっちは?」
「まだ決めてない」
「決めてないって言えば、三題スレのお題決まったの?」
「決まったよ」
「何?」
「さっきの三つ」
「マジすか」

338 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 17:38:53.74 ID:3EKE54K7

だからさっきいろいろ聞いて来たのか。
 確かに元ネタわからないんじゃやり様もないもん。

「でもなぁ」

 と、彼。

「なに?」

 と、私。

「あれってお題って言えるか? 鬼畜ネタならまだわかるけどさ。適当に言葉並べりゃいいってもんでも無いだろ?」
「どうだろ。見てるだけだからよくわかんない」
「お題ってさ、ネタの事じゃねぇんだよ。まだ黄金のハルト像とかならわかるよ。創発だし」
「どういうのがいいのさ」
「まぁ一概には言えないけど……。上にあった『蛙』とか『メンソールの煙草』とか、そういうのがお題だろ?」
「だからよくわかんないってば」
「まぁいいかぁ。面倒ならやらなくていいわけだし。最悪、過去のお題でやってもいいわけだし」
「諦めるの?」
「そういう訳じゃねぇけど。それよりさ?」
「なに?」
「味噌ラーメンと醤油ラーメンどっちがいい」

 ……。
 お題消化よりラーメンかい。
 ま、どうでもいいか。

339 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 17:40:56.92 ID:GNJ6fhWL
おわりだ。

340 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 17:41:12.37 ID:w6X4SuXL
実話の予感

341 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 18:17:23.80 ID:3EKE54K7
仲良く創発見てる男女なんているかよw
皮肉っただけだ。

342 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 18:33:30.30 ID:igtnlvC7
GJ!
ちゃんと作品にもなってますな
適当に言葉並べりゃいいってもんでも無い……全くだな

どうでもいいけど俺は別れた元カノと付き合ってた頃一緒に創発見てたぞw

343 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 18:38:04.46 ID:N6zCUV+j
せめて他の宗教からにしとくれ

344 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 18:50:50.65 ID:4sNRFb1i
こんなのいちいちSSの形式にしないで普通に直接文句言えよ
スレの運営に関する議論と作品の区別くらいしろ

345 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 18:54:46.38 ID:mu7JXL6d
皮肉った作品なんだろw

346 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 18:55:34.41 ID:igtnlvC7
ユーモアのセンスが通じない人が来たな

クトゥルフネタの本人ですか?w

347 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 19:00:03.28 ID:4sNRFb1i
またエスパーか
最近はそればっかりだな

お題出す方も出す方なら、文句つける方もつける方だわ
前みたいに、もっとおおらかな進行できないもんかね

348 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 19:04:18.29 ID:3EKE54K7
やりたくないお題はやらなくていいじゃん。

349 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 20:17:16.71 ID:igtnlvC7
なら4sNRFb1iも「ああ!窓に!窓に!」「テケリ・リ!テケリ・リ!」「ナイアルラトホテップ」で三題噺書けばいいのに
何で自分は作品書かないのに作品書いた>>337>>338にケチ付けてるのか

350 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/21(月) 20:24:06.76 ID:l9F6uelY
そもそもID:4sNRFb1iは>>344で「文句言うなら直接的に言え」みたいに
他人に文句つけてるくせに
自分が煽られたら「文句つける方もつける方」って…
トゲトゲしたレスを重ねておきながら他人にはおおらかさを求めるのもどうかと思うぞ

351 名前: ◆91wbDksrrE :2011/03/21(月) 22:08:07.52 ID:zSp+8OxV
☆注意事項☆

クトゥルーとかわかんないから!
某ニャル子さん(しかも"あの"アニメの方のみ)とか、某ダディフェイスとか
その他諸々、直接扱ったわけじゃない色々な物の中でネタにされてた物を
見たり聞いたりしたくらいの知識しかないから!
そんな人間がなんとなくイメージする「クトゥルーっぽい感じ」の何かです。
ありえなかったらごめんなさい。

352 名前: ◆91wbDksrrE :2011/03/21(月) 22:08:26.60 ID:zSp+8OxV
「なんか最近よく近所の子が、おかしな呪文? 鳴き声? なんかそんなのあげてるんだけど」

 彼女がそんな事を言い出したのは、とあるごくごく普通の、なんでもない平日の
夜の事だった。明日も私は朝から仕事であり、風呂に入ったあと、つかの間の休息
を楽しんでいる所だった。アルコールが入り、少しばかり霞のかかった頭で、彼女の
言葉を咀嚼し、言葉を返す。

「どんな声なんだ? 別に子供が奇声をあげてるくらい、珍しくも無いだろう」
「それがね……皆が皆、同じように、それこそ呪文でも唱えるみたいに声をあげてる
 から、ちょっと不気味なのよ……」
「何か、小さい子の間で流行ってる事でもあるんじゃないのか?」
「……そうなのかしら……だったらいいんだけど」

 私はその時気づくべきだった。彼女の不安を、もっと真剣に受け止めてあげていれば、
あんな事にはならなかっただろう。子供達が、どのような声をあげていたのか。それを
聞いてさえいれば――

 テケリ・リ! テケリ・リ!

 ああ、だが最早後悔は何の役にも立たない。その声が直接聞こえてくるのだ。もう
逃げ場は無い。彼女も、既に"奴ら"の手にかかった。もう彼女と他愛の無い会話を
交わす事もできない。今はただ、この手記を読んだ人間が、これを"そ奴ら"に対する
備えにしてくれる事を祈るばかりだ。
 "奴ら"は古の時代、この星を支配していた者達に創造され、自らの創造主たちに
反旗を翻した存在であり、我々人類には如何ともしがたい存在である。よって、それに
遭遇したら、まず考えるべきは逃げる事だ。逃走は恥ではない。神々の如く、理解すら
及ばない存在というわけではないが、危険である事に何ら変わりは無い。出会ったら、
逃げるのだ。それが叶うならば――――――――。
 ッ!? なんだ、あれは!? あれが、"奴ら"なのか!? 違う……あれは……子供の
姿をした"奴ら"の後ろにいる"あれ"は、なんなのだ……!? ひぃっ!? やめてくれ!
……もう……もう、許してくれ……私が何をしたと……これは、一体、何の、罰なのだ……
近づいてくる……"あれ"が、"奴ら"とともに……ああ! 窓に! 窓に!

(手記はここで途切れている)

353 名前: ◆91wbDksrrE :2011/03/21(月) 22:08:41.85 ID:zSp+8OxV
           ★          

「……やっこさん、一体何を見たんだかねぇ」

 "現場"に戻って改めて調べてみても、既に片付けられている部屋の中から、
新しく何かが出てくるというわけでもなく。
 結局、事件性は無い、と、そう判断せざるをえなくなりそうだった。
 死因は急性の心筋梗塞であり、毒物などは一切発見されなかった。
 四百字詰の原稿用紙に書かれた文章は、わずかに遺書めいた内容ではあったものの、
自分の意志で、外部装置を用いずに心臓を止められる人間なんていやしねえ。
 自殺でも無ければ他殺でもない。自然死であると、そう考えるのが妥当――そう、妥当だ。
 問題は、どうしてやっこさんの心臓が止まるに至ったのか、だ。やっこさんは、別に
心臓に持病があったわけじゃない。何らかの、しかも相当量のショックがあったと
考えるべきだが、その原因となりそうなものは、一切この場からは発見されなかった。
 加えて、この"手記"だ。この手記に書かれている"あれ"だとか"奴ら"だとかが、
やっこさんの心臓を止めた……とでもできりゃ、話は楽なんだが。

「出来の悪い小説、としか見てもらえねえわな」

 そもそも、やっこさんに連れ合いなんていない。だから、この"手記"とやらは、妄想をつづった
文章――ただの"小説"でしか無いと、普通に考えればそう結論づけざるを得ない。
 心臓なんてのは、健康な人間でも突然止まっちまうことがある。たまたま、やっこさんは
そんな不幸に見舞われただけ――そう考えるのが、当たり前の思考って奴だ。
 だが、何かが引っかかる。
 まるで、俺たちにゃ想像も、考える事すらも許されない何かが――そう、混沌が、
すぐ近くまで這い寄ってきてるような、そんな感覚が、ずっと俺に付きまとっている。

「這い寄る混沌、ねぇ……」

 ナイアルラトホテップ――無知な俺でも、その名前くらいは知っている。
 そして、そんな名前の神様が出てくる作品群の一部に、この"手記"に似通った終わり方を
している物がある事も、かろうじて知っていた。
 普通に考えれば、やっこさんはその作品群に影響を受けて、こんな"小説"を書き、
そして書いている途中で偶然心臓が止まってコロッと逝っちまった、と考えるのが
妥当――なわきゃねえ。

「普通……妥当……当たり前……常識……ねぇ」

 ま、この件をどうこうする力は俺には無い。これは、ただの自然死として片付けられちまう
だろう。それはまあ、仕方がねえっちゃ仕方がねえ事だ。不審な点が多少あろうとも、
多少じゃ物事は動かない。それが現実だ。それが普通の事だ。それが当たり前だ。
それが――常識だ。

「でも……常識に囚われてたら、見逃しちまう事だって、あるよな?」

 たとえ、常識的な片付け方をされちまう事になっても、その事件を心に留めておく
事は出来る。だから、俺はそうする事にした。
 この男には、実は連れ合いがいて、その連れ合いともども、"奴ら"や"あれ"によって
ショックを与えられ、死をもたらされた――そんな幻想を、心に留めておく事にした。
 それが何の役に立つかはわからない。何の役にも立たないかもしれない。
 だが、何かの役に立つかもしれない。


354 名前: ◆91wbDksrrE :2011/03/21(月) 22:08:51.29 ID:zSp+8OxV
「……さて、帰るか」

 俺は"現場"に背を向け、一歩足を踏み出す。

  テケリ・リ

「!?」

 背後から声が聞こえた。
 確かに、はっきりと。
 だが、振り返った俺の目には、何も映らない。既に片付けられ、ガランとした部屋があるだけだ。

「………………」

 俺がさっき踏み出した一歩は、日常へ帰る為の一歩では、なかったのかもしれない。
 最早取り返しのつかない、後悔の間に合わない、一歩だったのかも――――――。

                                               おわり

355 名前: ◆91wbDksrrE :2011/03/21(月) 22:10:30.60 ID:zSp+8OxV
ここまで投下です。

注意にも書きましたが、書きながら参考にしてたのはpediaとかです。
なので、クトゥルー的にこれはないわー、な内容になってたら……
……まあ、その、許してくださいw

356 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/22(火) 22:32:22.61 ID:ISdxMbGw
乙です、お題消化が大変だったみたいですね

では次のお題を↓

357 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/22(火) 22:55:16.91 ID:MJh29kza
猿の手

358 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/22(火) 22:58:08.40 ID:OVjaur7G
また他の小説ネタ?
普通のお題にする気はないの?

359 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/22(火) 23:11:34.80 ID:4o25T2VU
お題・一回開けて三日くらい経った1,5リットルのコーラ。

360 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/22(火) 23:12:55.47 ID:ISdxMbGw
捻ったお題もたまには面白いんですけどね
どうしても方向性が固定されたりお題消化で感性をロスしたりするので、書き手にも読み手にも損だと思うですよ

361 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/22(火) 23:21:56.88 ID:RksteUvG
お題:スピーカー

362 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/22(火) 23:22:22.76 ID:ISdxMbGw
・特定の業界の用語やスラング
・極端に難しいお題や文章になってるお題
・その他勝手な造語やオノマトペなどお題として適切ではないと思われるもの

ここらへんはテンプレとして周知したほうがいいんじゃないでしょうか?
とりあえず>>357>>359は一旦却下してもう一度お題を出しなおすほうが良いと思います

363 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/22(火) 23:22:51.33 ID:quNqf8JP
出来ないならやらなくていい。やれるなら拾えばいい。
簡単な事だ。最近そこらへん忘れてないか? 鬼畜お題も刺激になるぜ? むしろ挑んでくるストロングスタイルは居ないのか。

364 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/22(火) 23:28:33.71 ID:ARMZSfLo
>>363
お前みたいなのがいるからリクエスト厨が何出してもいいんだとつけあがる
お題出す中にもマナーくらいいるだろ

365 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/22(火) 23:33:41.68 ID:pNX1hur0
むしろ拾う側だがw
こないだの奴みたいにやりようはいくらでもあるんだから。やりたくないお題はやんなくてもいいし、やりたきゃやればいいんだって。
お題出す側なんて正直意識しない事。出されたお題適当に三つ選んでやればいいじゃん。前みたいに。
今回はお題だしちゃたから次来るまで見てるしかないけどw

366 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/22(火) 23:34:00.01 ID:OVjaur7G
創作スレなんだしお互いにお題の制限したくはないけど
イーノックやナイアルラトホテップみたいに既存の小説・ゲームの登場人物の名前だったり、
窓に!窓に!みたいな他の作品のスラングとか、
お題を出してるんじゃなくてお前の好きな作品のキーワード出してるんじゃないの?とは思うわな

367 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 01:45:35.57 ID:fJGmO6xW
お題なんて正直なんだっていいと思うが
あまりにも長いセリフだったり用語だったりは話の方向が定まっちゃいそうで嫌なんだよ
そこを何とかするのが技量と言われたらそうかも知れないけど
なんとなく自由度が低い感じがするんだ

368 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 04:09:58.86 ID:t25q6ZGq
見たことも無い珍味より、オーソドックスな食材の方が料理はしやすいと思うし
作る幅も広がると思うんだよね。お題を出す方も受け取りやすい球投げてくれないと取れないよ。

369 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 07:02:47.39 ID:TeLik8Bo
まあ原点回帰ってことで、一度シンプルなお題でやってみるのはどうでしょう?

というわけでお題「砂漠」

370 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 08:17:47.88 ID:9j4TayFo
「猿の手」、「スピーカー」、「砂漠」かな

ピリピリしてる人はwikiの作品収録が途中で止まってるし、まとめてみるのも一興かも
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/197.html

371 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 12:07:55.44 ID:Ms8qgZnY
猿の手も他の小説の中にでてくる願いを叶えるアイテムなんだが

372 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 12:27:17.75 ID:27Iew5+o
そうだったのかW
普通に「猿の手」そのものをイメージしてた。

373 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 12:30:40.31 ID:Ms8qgZnY
「孫」の手じゃないからな?w
「猿」の手だぞ
魔法のランプくらい普遍性があればいいが猿の手は原作小説のもっとも不幸な形で人の願いを叶えるつーイメージで話が固まっちゃうからな…

374 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 12:35:38.01 ID:27Iew5+o
いや、普通に猿の手がどうのこうので考えてた。
とりあえず書くわw

375 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 12:54:11.66 ID:fJGmO6xW
それは固まりすぎだろw
普通に「猿」の手でもいいんだし、キャプ翼みたいにGKの必殺技で猿の手があってもいいんだから

376 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 13:03:58.63 ID:oteYx0jg
>>375
俺それだったわW
書こうと思ったけどなんかいきなり詰まったんで諦めたW
猿が砂漠でスピーカー修理してはしゃぐ話だったんだがw

377 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 14:22:40.05 ID:m93cQrsv
いいじゃんそれ書けば

378 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 15:23:39.97 ID:x4YgIIQU
>>375
その理論でいくとナイアルラトホテップもキャプ翼みたいにGKの必殺技にすりゃいいって話だよな

379 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 15:55:26.37 ID:ohOnDYRO
その手があったか。

380 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 16:24:32.95 ID:Ms8qgZnY
そのお題を出題者の意図として使わないと三題噺の意味がないんじゃないの
必殺シュート「蛙!」「アイスクリーム!」「メンソールの煙草!」なんて三題噺でもなんでもないと思う
書ける奴は何でも書けるし自分なら拾うと言うのは勝手だが書き手はあんた一人じゃないことを考えて欲しい

381 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 16:31:10.84 ID:ohOnDYRO
その言い方だと書き手まで自重しろって事になるだろ。メンソールの煙草が必殺技なんて出した奴も思わない斜め上のいい発想じゃないかwいちいちお題出した人のご機嫌とらにゃならんの?
お題と書く側は別々なんだから。下手くその言い訳にしか思えないよそれじゃ。俺がうまいわけじゃないけどさぁ。

382 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 16:33:33.18 ID:x4YgIIQU
じゃあ>>337>>338みたいなのにもケチ付けんなよなって話だよな
どんな風に作品に登場させるのは書き手の自由ならね

383 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 16:42:35.97 ID:Ms8qgZnY
そっかぁ、>>360とか>>362とか>>364とか>>366とか>>367みたいに反論してるのは皆下手くそなんだね。
そうかぁ。

384 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 17:32:22.74 ID:9j4TayFo
荒れてる暇があるなら、作品作ってる人以外はこれの収録手伝ってクレー…
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/197.html

?「抹茶白玉あんみつ」、「冬」、「輪廻」?B
までおわったけど、疲れたよパトラッシュ……

385 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 17:35:36.79 ID:27Iew5+o
>>384
お疲れ様ですw

386 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 19:32:38.07 ID:0q/bk149
とりあえず「図書館」、「未熟者」、「味」?Bまでやっといたよー



「カボス」、「巫女」、「こたつ」?@
の人少し変則的だったから迷ったあれでよかったらそれでよし、駄目ならご本人が都合の良いよう編集願いたい

387 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 19:35:43.04 ID:0q/bk149
「図書館」、「未熟者」、「味」?Cまでやったの間違いですです

388 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 20:36:21.22 ID:ZvOsbRwB
すっげえ乙w

389 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 21:10:56.97 ID:TeLik8Bo
なんか一つ書きたくなってきた
>>369で自分でお題出しちゃったので、新しくお題もらっていいですか?


390 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 21:18:33.71 ID:Yfhf/Z/o
じゃ、砂漠の代わりに湿地はどうだ。

391 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 21:23:35.03 ID:8ZYO03Xh
こけし

392 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/23(水) 23:54:56.52 ID:Fc96Thfh
津波

393 名前: ◆91wbDksrrE :2011/03/24(木) 03:56:51.45 ID:FHV3rf0N
>>386
乙っすー。

続きですって言ってるのは、当時違うお題で場面続けて書いてみようかな?
とか考えてたのの片鱗で、お題としては「新聞」「朝日」「鳥肌」の
方になりますねー。

あとで直しときますねー。
ややこしくて申し訳ないですw

394 名前:「猿の手」「スピーカー」「砂漠」 ◆91wbDksrrE :2011/03/24(木) 04:39:16.15 ID:FHV3rf0N
「ああっ! 猿の手でも借りたい!」
「それを言うなら猫の手だろ?」
「だって、こんな修羅場に猫の手借りても、ただなごむだけでしょ?
 まだしも猿の手の方が役に立ちそうだわ」
「いやまあ、そりゃ確かにそうだろうが……猿の手でも、役にたたないのには
 変わりないんじゃないか?」
「そんな現実的な話を私はしたくない!」
「じゃあ猿の手借りたいとか愚痴るなよ」
「私にだって……愚痴りたくなる時が……あるッ……!」
「何故キバヤシ風味」

 時刻は真夜中。だというのに、俺達は真っ当な人間の如く眠りにつく事もなく、
作業台に向かって必死で作業をしていた。
 何をしているかといえば、まあいわゆる一つのアレである。

「だいたい、誰が同人誌なんて考えたのよ! そいつのお陰で今私達がこんなに
 苦労するハメになってるのよ! 責任取らせて然るべきよね!?」
「そいつに、責任取って落ちた原稿何とかしなさい、って言うのか?」
「落ちないから! 間に合うから! 朝一で送れば何とかなるから!」

 そう、いわゆる一つのアレなのだ。この女は割合名の知れた同人作家であり、
俺はそのお手伝いとして、毎度毎度毎度毎度毎度毎度無理難題を押し付けられて
いる、哀れなる生贄なのだ。……まあ、拒否してない時点で、生贄もクソもないが。

「だったら無駄口叩いてないで、さっさと作業に戻れよ」
「言ったでしょ? 私にだって、愚痴りたくなる時くらいあるって」

 スピーカーから流れる集中力強化効果があるBGMも虚しく、彼女の集中力は
ばっさりと途切れてしまったらしい。まあ、無理も無い。もう丸三日近く、ほとんど
睡眠もとってないし、休憩もとっていないのだ。それでも意外と平気な辺り、人間
の身体というのは恐ろしい。

「……一息入れるか」
「さんせー! だいさんせー!」
「……間に合うか、一息いれて?」
「このまま続けると、多分私、ダウンします。糸の切れた人形のように」
「さいですか」

 さりとて、意外と平気ではあっても、まったくもって平気なわけでは、当然無い。
彼女の集中力が途切れてしまったのを契機に、俺達は一休みする事にした。

「コーヒーで良かったよな?」
「うん、砂糖たっぷりで」
「ミルクは無し、っと」

 休憩用の机の上に、カップが二つ置かれる。
 一つは彼女用の、砂糖たっぷりなコーヒー。
 一つは俺用の、これまた砂糖たっぷりな紅茶。
 二人して熱いそれを冷ましながらすすり、ふー、と一息つく。
 そんな時、彼女が呟いた。

「……ああ、もう、ホント、なんでこんなに苦労しなきゃいけないのかしら」

 何故、と問われれば、確かにその答えを返すのは難しいだろう。俺の場合は、
特にそうだ。なんせ、成り行きで手伝っているだけなんだから。
 だが、彼女の場合は違う。違うはずだ。なんせ、以前その問いに明確な答えを
返していたのだから。

395 名前:「猿の手」「スピーカー」「砂漠」 ◆91wbDksrrE :2011/03/24(木) 04:39:27.71 ID:FHV3rf0N
「オアシスになりたいから、だったっけ?」
「……何が?」
「お前が、コレを頑張り続ける理由」
「……ああ……確かに、そんな事言ってたわねぇ」

 乾いた心の砂漠に潤いを与える、オアシスになりたいと思っているから。
 だから、皆が喜んでくれるこの本作りをやめないんだ、と。
 以前俺が聞いた時に、そう彼女は答えていた。

「……オアシスかぁ。なれてるのかなぁ、って、最近はちょっと思うかなー」
「お前らしくないな」
「うーん……なんか、行き詰まりみたいなの感じてるのかな? 閉塞感というか、
 何やっても同じになっちゃう感じがするというか……自分が何か型にはまっちゃった
 ような気がしてきちゃってねぇ、最近」
「ふーん……お前にも悩みとかあるんだな」
「うわ、失礼な発言きたこれー」
「まあ、でも……俺はお前はあんまり悩んでも仕方が無いと思うぞ」
「何それ、私がバカって事?」
「うん、それもある」
「よし、殴ろう」
「待て。これからいい事言うから」
「ホントー? ……じゃあ、言ってみなさいよ」
「お前は、悩んでるしかめっつらしてるより、突っ走って笑ってる方が、ずっと可愛い」
「………………」
「どうだ?」

 見れば、彼女の顔が少しばかり赤くなっている。
 俺自身も、少し赤くなっているだろう。頬に熱がさしているように感じる。

「……無理させすぎたかなー。何なら一眠りしてもいいのよ?」
「うわ、なんだよそのリアクション」
「だって、さっきのシラフで言うセリフじゃないわよ……恥ずかしいなぁ、もう」
「まあ、連徹でテンション上がってるのは事実だけど……本心だぞ?」
「余計恥ずかしいわい! ……ま、まあ……そういう事言ってくれるなら、あんまり
 もう、悩むのやめるわよ」
「うん、そうしてくれ」
「………………」
「どうした?」
「さ、さーて! 一休みしたし、作業に戻ろ!?」

 そう言って、彼女は作業用の机へともどって行く。顔を朱に染めたまま。

「へいへい」

 俺も、同じだ。
 オアシスになりたいと思っているから、だから彼女の事を手伝っている。
 でも、俺が潤したいのは、ただ一人。
 この、一生懸命に、誰かの喜ぶ顔を見る為に頑張る、一人の女の事だけだ。
 それが、俺がこうしてここにいる理由。
 俺がここにいなければならない理由。

「とにかく、朝一で送らなきゃ落ちるんだから、残り数時間、気合いれていくわよー!」
「まかせとけ!」

 今回の戦いはもうまもなく終わる。
 その時、彼女と共に笑っていられるように――俺は気合を入れ直し、作業台に向かった。


                                              おわり

396 名前:「猿の手」「スピーカー」「砂漠」 ◆91wbDksrrE :2011/03/24(木) 04:39:42.23 ID:FHV3rf0N
ここまで投下です。

397 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/24(木) 07:07:22.32 ID:JE8Rlx0s

上手くまとめてると思うけどどっかで読んだような気もするお話

398 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/24(木) 09:35:23.30 ID:MMY/ZUoo
死ね

399 名前:「湿地」「こけし」「津波」 1/2:2011/03/24(木) 13:09:47.17 ID:nju7FcHI

湿地には柱が並ぶ。
それはちょうど人類の大人のような外観だった。炭素密度の高い鋼鉄で
構成されている柱であり、露出している部分は1・5メートルほどだが、
地中に伸びた長さはゆうに1キロメートルを超える。

「こういうのを、古い時代にはこけしと言ったのだよ」

鋼鉄柱のひとつに手を触れながら隊長が言う。ブーツの膝までが泥に埋
まっている。

「こけし、ですか?」
「うん、人類の胴を象徴する円筒形の部分と、頭を象徴する球形の部分
を連結させた人形の一種だ。腕も足もないそのシンプルさゆえに、見る
ものの心を反映して奥深い表情を映し出すんだよ」
「辞書フロープに登録いたします」

隊長はこの調査隊の中で最高齢者であり、古い時代の記憶を蛋白脳の中
に保持している数少ない人類だった。そのためか、時おり汎用ファイル
に存在しない単語が出てくる。

「しかし、これは一体何なんだろうな?」

この星の地表温度はセ氏17度から25度、自転周期は22時間と18分50秒、
直径は1万1千キロあまり、大地は全て冠水した湿地帯。わずかな藻類の
他には動物性プランクトンすらいない世界。そして大地に居並ぶ巨石群。
謎めいた星だったが、風景はあまりにも代わり映えがなかった。
僕は口を開く。

「仮説としては、これは一種の環境調整装置だと思われます」
「ほう?」
「このこけしは星系の中心となる恒星の重力を受け、特殊な固有振動を
生み出す働きがあります。これは土壌を軟化させ、長い時間をかけ大地
の隆起を平坦にならす働きがあります」
「なるほど、だが単なる地形造成にしては大掛かり過ぎるな。それに、
いくらなんでも星全体を湿地にするまで「ならす」ことはあるまい」

僕はそれを計算した。本部にある惑星サイズのAIフロープと連結された
電子脳は、無数の推論と分析を繰り返し、回答を導き出す。

400 名前:「湿地」「こけし」「津波」 2/2:2011/03/24(木) 13:10:54.24 ID:nju7FcHI
「この恒星形には他にもいくつかの惑星がありますが、それらとこの惑
星が特定の位置関係を持つとき、重力がこの鋼鉄柱群に干渉します。こ
けしはその干渉を調整しようと隣のこけしに働きかけ、その干渉はまた
隣のこけしに、というように連鎖的に干渉が増幅していきます。それは
惑星全体を包むふるえとなり、何万回もの連鎖の果てに高さ140メートル
、時速280キロという巨大な津波を発生させ、それは惑星を何周もするま
で止むことはありません」
「途轍もない現象だな、次にその位置関係になるのはいつなのかね?」
「同様の現象を生み出す位置関係はいくつかありますが。次にそれに当
てはまるのは約1時間後です」
「それを早く言いたまえ」



「すさまじい眺めだな、軌道上から波の波頭の白い部分がはっきり見える」
「かつてあの星に異性人がいたとしても、その痕跡のかけらも残らない
でしょうね」

調査船の観測窓から星を見下ろし、隊長は誰にともなくつぶやいた。

「あのこけしを設置した先住種族はあれで滅びたのか。愚かしいことだ、
無理に環境を変えようなどとしなければ津波に見舞われることもなかった
ろうに」
「そのことなのですが」

本部のAIフロープは、先ほどの計算に付加的な回答を寄越していた。あま
りにも高度に発達したAIは冷徹で、ときに冷酷だ。

「あの鋼鉄柱群、こけしを惑星に設置するには大変な労力が必要ですが、
生まれる結果に対しては最小の労力です。そして、あのような重力干渉に
よる環境調整技術を生み出した文明ならば、あの大津波も推測可能だった
と思われます」
「――つまり、あれは意図的に起こされたものだと? なぜそんなことを?」

それは一種の自己消滅、そのような行動を生み出す原理は、少なくとも本
部のAIフロープには一つしか登録されていない。

「一種の『宗教的動機』だと思われます」
「……なるほど、ソドムとゴモラだな。腐った世界を洗い流す、神の起こ
した大洪水か」

その単語は聞いたことがあった。その大洪水の後、世界は一つの家族と多
くの動物のつがいにより再生されたが、あの星で同じようなことは起こる
はずもなかった。あの星にいた先住種族は、ただ端的に、一度きりの滅び
を求めたのだ。
津波により洗い流された星は泥と湿地の平原となり、
それは宇宙の中で、まるで剥きたての果実のように輝いていた。

401 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/24(木) 13:22:56.52 ID:FHV3rf0N
おお、SFだねぇ。
何か原理がどうとかそういう難しい話は深く考えないタイプだから
なんとも言えないが、雰囲気はいいね。

「早く言いたまえ」
に軽くワラタ

402 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/03/25(金) 00:09:48.65 ID:iQhpshou
「猿の手」「スピーカー」「砂漠」で書いてみました。アリかなあ。

403 名前:望みは高く ◆TC02kfS2Q2 :2011/03/25(金) 00:10:30.15 ID:iQhpshou
日曜日だと言うのに大学の構内は若い声で溢れかえっていた。
大学生というには若すぎて、青春を謳歌するような歓喜ではなく、未来の行く先に怯える声と言った方がよろしい。
「受験番号500番台の受験生は8号館が会場でーす」
スーツを着た大学職員が、メガホン片手に彼らを誘導する。大学構内は増築に増築を重ね、まるで迷宮のよう。
彼ら受験生がこれから挑むものを暗示しているかのようにも見えるではないか。
ざわざわと、制服姿の受験生たちはキャンパスを埋め尽くす。

群れの中、怯えるもの、自信満々なもの、頭を抱えるもの、とそれぞれ。
「いぬがみーっ、オレやべえよ!」
「え?きのうメールで『主席合格は頂いたぜ』って寄越したくせに」
「目標は高いほど燃えるんだぜ!望みは高く!」
一人は尻尾を振りながら、もう一人は尻尾を丸め込んでいざ8号館へと入ってゆく。
アイツすんごい尻尾振って余裕だなと、ライバルを指差して笑うもそれは余裕の無い証拠。
埋まられながらに伸びた尻尾は、イヌ族が表わす表情以上に感情豊かであった。試験開始まであと30分。
いつもどおり雲が白い。

8号館の811教室では、既に着席をして参考書片手に悪あがきする姿が見られた。
机にペンと消しゴム、そして受験票。すわり心地の悪い大学の教室の椅子が、彼らをいっそう追い詰めた。
彼らが見る教室は意外と広い。高校のものよりもはるかに大きく、まるで中堅劇団の公演を見るかのような空間。
ただただ、そんな始めての空気に飲み込まれて調子を崩すも者も多いと言う。
教壇で職員がワイヤレスマイクで「試験開始までまだ時間があります。お手洗いはお早めに」と促す声が、スピーカーを通じてこだました。
だだっぴろい古い作りの教室に、職員の割れた声が彼らのピンと立った耳をつんざく。

彼らが向かう戦地に乗り込んできた犬上ら。回りは全員敵だらけ。情け容赦は無用ときたものだ。
だが、それは今日限り。あしたはきっと良い友になるだろう。きっと。
「うはあっ。緊張してきた」
ぶるるるっと全身の毛並みを震わせて、時計の長針が12を指す瞬間を待つ。いつもの1分が長く、いつもの1秒が重い。
「きのうは気分転換に望遠鏡を覗いたんだ」

404 名前:望みは高く ◆TC02kfS2Q2 :2011/03/25(金) 00:11:22.85 ID:iQhpshou
対照的な犬上は落ち着かない友人の声をかわして、二の句を続ける。
「逆に切羽詰っていたんだよ。すんごく遠くに『月』が見えたんだよね、なんでも『グレートムーン』って言ってるほ……」
「犬上はのんきだな」
「これに受かれば、あとは楽勝だね」
犬上が軽い口を叩くと、隣席の同級生はシャーペンの芯をひたすら伸ばしながらあきれ返った。
「ばーか。受かった後、一ヶ月は研修所ぐらしだぞ?ネットで見たけど砂漠みたいなところに建ってるんだぜ」
「それじゃ、そこに暮らしてたら毛並みが砂だらけだよね」
「比喩比喩!『砂漠みたい』だってば。近辺住人に影響を与えるため、そして事故が起きても最低限の被害に留めるため」
「研修所の所在地は植物が不毛なこの地が選ばれた……。って、それネットの受け売りだね。ぼくもそれ、見たし」

試験開始3分前には、誰もが参考書をしまう。試験開始1分前には話す者は居なかった。
30秒前に解答用紙が配られ、20秒前に問題用紙が伏せて机に置かれてゆく。10秒前、のどにつばが走る。
5秒前、心臓の鼓動が身体の中で響く。3秒前、それが伏せた耳に伝わり、2秒前に受験申し込みを一瞬後悔する。しかし、1秒前にはまな板の上の鯉。

「はじめっ」

いっせいに紙を捲る音が教室中を駆け巡る。


国立宇宙遊泳飛行技師養成学園入学試験。

問1・次の説明に当てはまる異星を選べ。
猿の手によって文明を築き、猿の手によってその文明を減衰させ、またその復興に尽力する太陽系の惑星。

1.月 2.地球 3.水星 4.火星

彼らは迷わず2をマークした。


おしまい。

405 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/03/25(金) 00:12:12.65 ID:iQhpshou
です。投下おしまい。

406 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/25(金) 00:30:59.63 ID:8N1wPxeV
オチが良くわからなかった
砂漠とスピーカーはいいと思うが

407 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/25(金) 01:07:07.02 ID:10qk91IO
人間は霊長目もといサル目だから、かな?

408 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/25(金) 01:26:45.06 ID:Q3WOHSBs
ケモいです先生!
試験前のそわそわ感がすごく出てますね

409 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/25(金) 01:35:36.34 ID:wgwNFFfV
たまにちょっぴりブラックなネタ投げるよな先生w

410 名前:「猿の手」「スピーカー」「砂漠」 ◆DJ8eBY9ldU :2011/03/25(金) 14:39:47.04 ID:Y9OywObn
午前三時。
「おい、起きろ」
俺は砂嵐状態のテレビを消して、奴を起こした。
「うおお……もう三時か」
「まーた深夜番組見ながら寝ていやがったな。テレビは消して寝ろって言ってるだろう」
「い、いや、忘れてたわけじゃない」
「じゃあなんだ?好き好んで砂嵐を見てたっていうのか?」
「いやいや。砂嵐だからこそ、情緒があるもんさ。こうやって目を瞑ってスピーカーの音だけ聴いてると……」
そこで奴は詰まった。この後に続ける言葉を、今考えているらしい。
「聴いてると、なんだ?」
「うーん……あ、そうだ。部屋にいるのに、砂漠にいるみたいな感じになるぜ」
「お前は砂嵐の舞う砂漠を旅行したいのか?」
「あー……うん」
自然災害を馬鹿にしてるのかと言ってやろうと思ったが、所詮はつまらない言い訳の延長なので止めておいた。
「言い訳はそこまでだ、とっとと支度しろ。地震のせいで、猫の手も借りたいくらい忙しいんだからな」
奴は起きて大きく伸びをして支度を始めたが、口の方も減っていない。
「残念だったな。猫に前足はあっても手なんか無いぜ」
「じゃあ……猿の手でいい。猿なら、二本足で歩けるはずだ」
「ところが、そうもいかない。猿だって、訓練しなきゃ二足歩行なんて出来やしないんだ」
「けっ、お前よか訓練された猿の方がマシだよ!」
今日もまた呑気なやり取りをしながら、俺達は被災地を駆けずる運送業に繰り出した。

411 名前: ◆DJ8eBY9ldU :2011/03/25(金) 14:41:41.32 ID:Y9OywObn
なんか小説の一場面を抜き出したようにオチの無い話になってしまった

412 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/26(土) 15:10:30.58 ID:FlNpUD0z
お題 カジキマグロ(冷凍)

413 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/26(土) 15:10:56.79 ID:FlNpUD0z
お題 カジキマグロ(冷凍)

414 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/26(土) 15:13:20.25 ID:caP3ctis
芸能界の闇を暴くin GACKTに焦げ焦げスレ
われながら力作(実話)

415 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/26(土) 21:14:37.73 ID:H0URk9ZJ
お題ください


416 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/26(土) 21:18:58.95 ID:+o7CSBHB
お題「ニーソクッス」

417 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/26(土) 22:26:34.64 ID:OgptOLHQ
ニーソックスでは?ってGoogle先生に言われたんだが

418 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/26(土) 22:47:06.75 ID:wLQjG0hG
>>416
この場合どうするんだww

3つ目なら「筆記」

419 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/26(土) 23:10:57.76 ID:+o7CSBHB
>>417
マジボケしたああ。
「ニーソックス」で!

420 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/27(日) 02:48:00.06 ID:mBmJFS/3
「カジキマグロ」「ニーソックス」「筆記」か。

>>419
ういやつめw

421 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/27(日) 03:22:24.56 ID:8U0ZWmLA
>>403
なるほどww猿をこう使うかw

422 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/28(月) 03:11:49.88 ID:gCYjSnrC
書かなければいけない。腕を止めてはいけない。
自分のすべきことは何か。自分の成せることは何か。
時計は常に同じ方向を回り続ける。止まらないし戻ることもない。
彼女を動かしているのは使命感ではない。諦めと呼ばれるものなのだ。
めちゃくちゃになった部屋で、まるで川の中に置かれた部屋の中で、彼女は筆記し続けている。
パキンとシャープペンシルの芯が折れた。それと同時に彼女の手が止まった。元よりその紙には字とも取れないものと幾ばくかのシミしかなかった。
その日は友達と出かける予定だった。三つ編みツインテールにメガネで図書委員という時代錯誤な友達とだ。
その割には漁師の娘のせいなのかちょっと活発的で冷凍カジキマグロを自転車に括り付けて、家に帰るというよくわからないことをしていた。もちろん失敗していたが。
だがそれももうおしまいだ。外を見てのとおり、すべて水に流れたというわけだ。
「ふへっ」
自分の考えたことに思わず変な笑いが出る。もうこの状況。
「ふへへへへへっへっへっへっへ。あーっはっはっはははっはっは」
あらん限りの声で笑う。緊張の糸は吹っ切れた。穿いていたニーソックスを腕につける。
さらにスカートまで脱ぎ捨てるとシリを叩きながら
「びっくりするほどユートピア! びっくりするほどユートピア!」
と叫んでみる。もちろん反応はもらえないし、残るのは恐ろしいほどのむなしさだけだ。
家族に宛てるはずだった紙をくしゃくしゃにして捨てる。既に一階は浸水して久しい。というほど経っていないかもしれないが感覚的には等しいのだ。
最初の地震の時に家から出ていればよあkったのだろうか。家族は元から外出中のためそのときの判断は彼女が下すしかなかった。
しかし、誰が想像するだろうか。二階まで今にもこようとしている津波なんかを。
あまりにもその光景は非現実的で。でも先ほどユートピアした際に何かを踏んで出来た傷はちくちく痛くて。
窓から見える景色は、荒れ狂う海で。家の中から聞こえる音は家具がぶつかり合おう音で。
「なんで……どうして私が……?」
気づいたときには膝まで水が来ており、急いで二階に駆け上ったものの、水が引く気配がなく覚悟を決め遺書を書こうとしていた。
諦めるのが早いだろうか。15年間、生まれ育った町が一瞬で海に変わったのを見て、それでも諦めのは早いと言えるだろうか。
ついに窓から水が入ってきた。彼女はベッドに上る。徐々に部屋に水が満たされていく。
ぱたんと彼女は横になる。これは夢だったのかもしれないと。
「きっとそうだよ。こんなのおかしいもん。こんなこと絶対起きちゃいけないんだ……」
頬を伝う涙を拭わず、天井の向こう側を見るように呟く。
ベッドがぐらぐら動き始めた。徐々に天井が近づいてくる。この時、彼女はベッドが水に浮いていることに気づいたがそれが自分の死期をほんの少し延ばしているだけだと悟った。
彼女は自分の部屋を目に焼き付けようと見渡す。
この家も、全部全部流される。水の底に消えてしまう。
大切なものも思い出も歴史も。すべて水が流してしまう。
天災とはいつも唐突だ。そしてそれに対して人間の出来ることはただ手を合わせて祈るだけなのだ。
彼女は手を合わせ「神様」と呟いた。





天災と同じくして、唐突に来るものとはたくさんある。
幸運と呼ばれる物がそれだ。しかしそれだけではなかった。
家が崩れ始めると同時に何かが窓から飛んできて、彼女は反射的にそれを回避した。
それが後押しになったのか。家の壁が崩れ、彼女のベッド号が外に流れていく。屋根はまるで彼女を避けるように海へと落ちていく。
それは彼女のベッドの上に鎮座していた。まるで自分が主であるかのように。その透き通った目は何を見ているのか。
そこにはカジキマグロ(冷凍)がいた。
少々小ぶりではあるがそれでも立派なカジキマグロ(冷凍)だ。触るとなんともひんやり冷たい。
もしも彼女があそこで回避しなければこれは彼女に突き刺さっていただろう。
娘がカジキマグロ(冷凍)に貫かれて死んだと聞いたら親はどうおもうだろうか。
「まっすぐないい子だったのに……。なんでこんな死に方を……」
カジキマグロの角のようにまっすぐか。やかましい。そもそもこれは角ではない。
しかしこのままではカジキマグロ(冷凍)と心中になってしまう。そんなの許せるはずがない。
吻をむんずと掴み、ベッド号を漕ぎ出す。彼女の目には生への執着が沸いていた。
「こんなところで死んでたまるか! 絶対に生き延びて……こいつを食ってやるんだから!」

お題 カジキマグロ 二ーソックス 筆記

423 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/28(月) 11:17:18.69 ID:RgPd8yrd
流石に不謹慎と言わざるを得ない

424 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/28(月) 16:03:52.60 ID:yt5/BDFv
びっくりするほどユートピアって入れる必要あったの?
地震や津波のせいで苦しんでいる人が沢山いる御時世に

425 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/28(月) 17:20:51.58 ID:mA00xEqK
俺は面白いと思ったw
謹み慎むことを強要する協調圧力みたいなのは萎縮に繋がるかと

426 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/28(月) 20:26:02.99 ID:JKZBEprg
>>425
いや、自重すべき部分はあると思うよ
ちょっと考えておいてくれないかい?

427 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/28(月) 22:00:09.85 ID:ybDmCqB3
被災地で「面白いね」 不適切発言のリポーターを厳重注意 日テレ

 日本テレビは28日、情報番組「スッキリ!!」の14日放送分で、宮城県気仙沼市にいたリポーターが「面白いね」などと話している様子が中継されていたことを明らかにした。
 中継待ちをしていた状況について、スタッフと会話している様子の一部が放送された。担当プロデューサーがリポーターを厳重注意したという。
 日テレ広報部は「被災地を指して出た言葉ではないとはいえ、被災地で面白いと発言すること自体が遺憾」と述べている。

>>425
お前、厳重注意な

428 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/28(月) 22:16:47.72 ID:3MUR/z/t
自分がそう思うという事に他人も同意してもらいたいという
気持ちはわかるけど、もうちょいやんわりした言い方とか、
そういう心遣いをした方がいいんじゃないかな。

被災した人には心遣いをするが、被災していない人はどうでもいい、
なんて考えてるわけじゃないだろう?
「心遣い」という大義名分を振りかざして、
それがちみっと足りていない(かもしれない)人に居丈高に
物を言うのは、傍で見ていて決して気持ちの良い物じゃないからね。

心を遣うという行動は、自分が気分良くなればそれでいいって物じゃないよね。
他人にそれを求めるなら、自分はそこまで考えるのがベターなんじゃないかな。

429 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/29(火) 03:48:47.35 ID:EEo6fkmg
422がパソコンで書いて
425が携帯で書いたのかな?

どっちにしろ死ねよ読む価値も無い、糞ツマラン文章書く四流作家(笑)は。
いやまじで文才ねーからお前ら。

430 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/29(火) 09:37:27.48 ID:4RQlLaGt
誤爆にも居たよね?
ヒマなの?

431 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/30(水) 11:57:06.17 ID:34HFi9+F
お口直しに次のお第
「辛子明太子」

432 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/30(水) 12:43:03.90 ID:jQmHI984
お題という字を間違えてるみたいだから二つ目は
「誤字」

433 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/30(水) 12:46:32.53 ID:DVIxUHPc
そして誤字るということはきっとこれに違いないということで
「ドジ」

434 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/30(水) 12:59:10.48 ID:oFeLtmHe
お題は「辛子明太子」「誤字」「ドジ」でおk?
でも誤字とドジはほぼセットで使うことになりそうだなw

435 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/30(水) 13:00:16.90 ID:34HFi9+F
俺のミスのせいで新たなお題が決まってしまった……

436 名前:創る名無しに見る名無し:2011/03/30(水) 13:04:19.44 ID:vQgftIDm
簡単そうに見えて出来が予想できる分、逆に難しいぞコレw

437 名前:「カジキマグロ」「ニーソックス」「筆記」:2011/04/04(月) 09:40:53.35 ID:57CW6MwH

彼女はいつも走っていた。
言葉のままに駆けずり回っていたのだ。
ある朝には通学カバンを背負って全速力で走り、ある夕べには
自転車を豪快に立ちこぎして風のように。
靴のつま先の部分は擦り切れ、ニーソックスには汗がじっとりと染むほどに走り続けていた。
長い黒髪が背後になびき、額には汗の玉が光っていた。
何か目的があったのかもしれないし、ただ単にカジキマグロのように、
生きるということが走るということと同じ意味だったのかもしれない。
そう思わせるほどに彼女の走りは一心不乱だった。全身全霊で走っていた。
いつからか僕は彼女の走りに魅せられ、窓からその大股のストライドや
膝を高く上げる走りを見かけるたびに、彼女の印象が鮮烈になっていった。

僕は何度か声をかけたが、彼女はまるで音よりも早いんじゃないかと思うほどに
僕に気付かず通り過ぎていく。きらきらと光る流れ星のようなもので、
見つけてから声を出すのでは遅すぎるのだ。
僕は筆記で勝負することにした。大き目の画用紙とマジックを用意して、
いつでも窓の外に出せるようにしておく。一日中窓から外を見て、彼女が来るのを待ち構えた。
ある日に彼女を見つけて、「そこの君、何で走ってるの?」と書かれた画用紙を出す。
彼女はちらりとこちらを見たが、そのまま走り去る。
遠くて読めなかったのだろうか? 文章が長すぎて一文字あたりが小さくなって
しまったのが良くなかったと僕は分析した。
三日後に見かけたときは「止まって!」と出してみた。
彼女はこちらを見たもののスルーされた。彼女の生き方に止まるという言葉は無いのだろう。
次の機会には「ゴール!!」と書かれた画用紙を出す。これも無視された。
そりゃそうだ。ここはゴールではない。
その次の機会、僕は勇気を振り絞って画用紙を出す。

「好きだ!!」と描かれた画用紙を見た彼女は。
90度曲がって、僕のいる病室めがけて駆けてきた。

438 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/04(月) 10:15:25.26 ID:GD2MSnLp

こういうの俺は大好きだよw

439 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/04(月) 11:11:55.62 ID:JrQSRDJK
その後が大変そうだw

440 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/04(月) 17:43:23.30 ID:6gSFD5DP
マグロの生態を活かした消化の仕方は上手いな。
俺はマグロを武器に使う事しか思い浮かばないw

>>439
確かにこの後が気になるなw

441 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/04(月) 20:39:13.10 ID:uKvF8vb+
>>437
これは素晴らしいですね!!
三人称視点でしか語られていないのに、すごく魅力が伝わってくるヒロイン。
ストーリーはうまく出来てるし、表現や文章に無駄がない。
お題の消化も自然で、あざとさもない。
三題噺とは思えない美しさ。

感動したっ!!
俺も「続きが気になる」なんて言わせてみたいもんです。

442 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/04(月) 21:19:19.18 ID:ncOmrXap
これはやられたなw
こういう力作にいつ会えるか分からんからこのスレは楽しいw

443 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/05(火) 14:50:07.19 ID:due+ysD2
>>437

面白いね

444 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/06(水) 07:06:24.88 ID:QxcxUQ20
あげ
お題くださいー

445 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/06(水) 15:46:30.42 ID:Yu7u+tWL
「竜田揚げ」

446 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/06(水) 15:59:23.04 ID:BH9out9G
「エスパー」

447 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/06(水) 16:27:27.43 ID:Ejj7l8xs
きのこ

448 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/06(水) 16:30:31.55 ID:Yu7u+tWL
「竜田揚げ」「エスパー」「きのこ」

三つケッテー!

449 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/06(水) 17:20:34.03 ID:ZBoLNSuC
なんて美味そうなお題だ

450 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/08(金) 01:07:22.14 ID:XqU+d6NK
「辛子明太子」「誤字」「ドジ」が終わってないのに何でお題募集してるの?

451 名前: ◆91wbDksrrE :2011/04/08(金) 02:23:21.64 ID:1SZw0Kr1
書かれないまま流れたお題はこれまでも普通にあるから、
過去ログ参照してみるといいと思うよ。

452 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/08(金) 05:34:39.92 ID:Tj5W0pRh
書いてる人はいるよ。例えば俺。全然間に合う気配がないけど。

453 名前:「カジキマグロ」「ニーソックス」「筆記」 ◆q/J/TnXO.s :2011/04/08(金) 12:34:26.48 ID:cD+fj41r
ずっと前に流氷に乗ったまま流された犬の映像をテレビで見たことがあるが、今の俺はまさにそんな感じだ。い
つ氷が溶けて水に沈んでしまうかと、心底ビクビクしている。
原因は自業自得なのだが、ともかく今の俺には危機が迫っていた。

「ねえ、八坂くん。ツイッターって知ってる?」
同級生の穴山公子さんが聞いてきたのは、つい昨日のこと。
彼女は今時の女子高生には珍しくあまり携帯電話を使わない人で、自分の携帯の番号すらろくに覚えていなかった。
「ツイッター?」
「うん。なんかネットの落書きみたいなものらしいんだけど、知ってる?」
「ああ、あれのことね。あれは落書きというより、掲示板に近いものだよ。所謂コミュニケーションツールさ」
ネット掲示板はよく使ってもツイッターは使ったことがない俺だが、それくらいのことは知っていた。
「そうなの?ネット掲示板とどう違うの?」
「ツイッターはね……一人の発言に他の複数人が応答するように文章を遣り取りするんだよ」
俺はうろ覚えのまま他にも知っていることを話した。
……しかし今思えば、この辺りで話を逸せばよかったのだ。
こんなことになってしまったのも、まさに調子に乗って知ったかぶりをしてしまったためなのだから。
「なんで『ツイッター』って言うの?」
「ああ、それはね……」
(たしかツイッターの意味は……)
「竜巻だよ」
「竜巻?」
「そう。つむじ風とか竜巻みたいに、一人を中心にして言葉が氾濫するからさ」
聞いた穴山さんはしきりに頷いて関心していた。
「へえー、やっぱり八坂くんは博識だね。いつも小説読んでるもんね」
「あ、いや……」
俺がいつも読んでいるのは所謂『ライトノベル』なのだが、穴山さんはそれも知らずに俺を読書家だと思っているらしかった。

「ツイッターか……。穴山さんはこれからツイッターをやるのかな?」
案外、今頃は本名で書き込んでいるかもしれない。
なんとなくそう思って、帰宅してからツイッターの公式サイトを覗いてみた。
すると……。
「ん……?『twitter』?」
嫌な予感がして恐る恐る引いた和英辞典に載っていたつむじ風(竜巻)の英訳は『twister』。
「…………」
穴山さんは雑学の類を知ると皆に自慢して廻る癖(なんとかの一つ覚え)があるから、今頃は既にこの間違った
知識を方々に晒して大恥をかいてしまっているだろう。
明日にでもなれば、俺は怒り狂った穴山さんに詰め寄られるに違いない。
『twister』の意味には『詐欺師』も含まれているというのが、なんとも皮肉だった。

454 名前: ◆q/J/TnXO.s :2011/04/08(金) 12:49:03.93 ID:cD+fj41r
続いて同じく過去の三題で投下します
今度は同じ設定で少し前の話になります

455 名前: ◆q/J/TnXO.s :2011/04/08(金) 12:51:41.57 ID:cD+fj41r
すいません↑の三題は「twitter」「小説」「流氷」です
これから書くのが「カジキマグロ」「ニーソックス」「筆記」です

456 名前:「カジキマグロ」「ニーソックス」「筆記」 ◆q/J/TnXO.s :2011/04/08(金) 12:57:50.21 ID:cD+fj41r
そもそも俺が穴山さんとよく知り合うことになったのは、こんな出来事があったからである。

「ねえ八坂くん、『マグロ』ってどう書くんだっけ?」
ある日の放課後、大して会話したこともない同級生が話し掛けてきた。
誰かと思えば、いつもニーソックスを履いている絶対領域の眩しい穴山公子さんだった。
「あー……魚編に、『有』だよ」
「ありがとう」
礼を言った彼女はまた下を向いて、ノートに何やら書き取っている。
気になってちらと彼女のノートを見ると、そこには『鮭』やら『鱒』やらびっしり魚編の漢字が書いてあった。
「何なのそれ……?塾の宿題かなんか?」
「ううん。実は今度ね、漢字検定受けるの。でも筆記試験の自信が無いからこうやって勉強」
「ああ漢字検定……でも漢字検定に筆記以外の試験なんかあるの?」
「知らないけど、目の前で書いてみせる実技とか」
「それ筆記じゃん」
「でも、自動車免許だって筆記と実地の試験があるし」
「そんなのと一緒にするなよ……」

その後も彼女があれこれと漢字のことを聞いてくるので、帰り辛くなった俺はしばらく彼女の勉強に付き合った。
「キハダマグロは『黄肌鮪』、カジキマグロは『梶木鮪』か。マグロ科の魚って一杯いるのね」
「いや、魚にマグロ科なんて無いよ。マグロはサバ科マグロ属の魚のことなんだ」
「へぇー。じゃあマグロってのはサバの一種なんだ」
「そうさ。でも有名なカジキマグロってのはね、マグロでもサバでもないんだよ」
「えっ?本当?」
「うん。マカジキ科とメカジキ科の魚がマグロに似てるから、こう呼ばれてるんだ」
「あっ、じゃあ大事なのは『梶木』のところなんだ。なら『鮪』が書けなくても○がもらえるわね」
「んなわけないだろ!」
これは口に出して突っ込まずにはいられなかった。

そのやり取りから数日後。
漢字検定があった日曜日の夜に家族と行った寿司屋で、俺は見覚えのあるニーソックスの少女を発見した。
「板前さん、なんでトロと締め鯖の値段が違うの?マグロはサバの一種なんだよ?」

457 名前: ◆q/J/TnXO.s :2011/04/08(金) 13:04:21.09 ID:cD+fj41r
以上です
なんか会話ばっかになってしまった

458 名前:「竜田揚げ」「エスパー」「きのこ」:2011/04/10(日) 09:41:58.33 ID:v9Hgftgn

ピンク色の小さい弁当箱にはふりかけごはん、ほうれん草と人参の炒め物、
スーパーで買ったクリームコロッケ、そして小さな唐揚げがいくつか入っている。
私はそれに両手をかざし、一心に念じる。両手はぷるぷる震えて、食いしばった歯から息が漏れる。
――何も起こらない。

「まだまだね」

しばらくするとお母さんは弁当箱を取り上げ、その上にさっと手をかざす。
すると淡い光がきらめき、唐揚げが全部粉を吹いた竜田揚げに変わっていた。

「やっぱりムリだよ、唐揚げを竜田揚げに変えるなんて」
「そんなことは無いわ。私たちは14世紀から伝わる由緒正しい魔女の家系なのよ。
現代だとエスパーとでも言えばいいのかしらね。あなたにもこの力が伝わっているの」

本当だろうか。だいたい、お母さんの力はそりゃ凄いとは思うけど、唐揚げを竜田揚げに変える力しか見たことはない。
魔女というのはもっとこう、大釜で変なキノコとカエルを煮込んだり、ホウキで空を飛んだり、
そういうのが魔女じゃないんだろうか。
でも私はお母さんの言いつけどおり頑張った。毎朝5分お弁当に手をかざし、神経を集中させて脂汗を浮かべながら念じる。
それは幼稚園の頃から始まった。小学校の頃にはお弁当が無かったから夕飯のときに。
中学校でも高校でも毎朝毎朝お弁当に手をかざし、唐揚げを睨んで竜田揚げを念じる。
そして高校卒業まで1ヶ月となったある日、とうとう私はやり遂げた。
手の平の先で唐揚げが鈍く輝き、一瞬の後、それは見事に美味しそうな竜田揚げに変わっていたのだ。

「お母さん! できたよ!」
「あら、よかったわね、きっとできると思ってたわ」

私はこれで色んな術を教えてもらえる、と思って嬉しかった。ところがお母さんは。

「ホウキで空を飛ぶ? そんなコトできないわよ、練習してないもの」
「カエルとキノコを煮込んで薬を作る? なに怖いこと言ってるのよ、薬なら薬局で買えばいいじゃないの」
「それより、あなたが結婚して女の子が生まれたら、必ずこの術を教えるのよ。
毎日毎日、できるまでね。他に何かエスパーじみたことをしようとしてたら、やめさせなきゃダメ。
この術だけを練習させるの。それが私たち魔女の血統の役目なんですからね」

ああ、そうだったのか。
私はようやく気がついた。
現代に生きる中で魔法がなんの役に立つだろうか。どこかへ行きたいならホウキでなくバスにでも乗ればいい。
薬なら世の中にいくらでもある。きっと、そういうことも子供の頃から練習すればできたのかも知れない。
でもそれは現代に生きるには余計な力だ。だからこんな役にも立たない、唐揚げを竜田揚げに変える練習だけをやり続けたわけだ。

「ママあ、やっぱりこんなのムリだよお」

娘はそう言って不満そうな顔をする。私はお母さんのことを思い出し、娘の額を指でつついて言い聞かせる。

「大丈夫、あなたもいつか、できるようになるわよ」

459 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/10(日) 09:59:36.85 ID:h3L+Mvl5
ツマランね。

460 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/10(日) 12:06:22.25 ID:6AizWPD3
素人の作品にケチ付けない

461 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/10(日) 21:36:59.05 ID:0yJp/2LN
ここって創作文芸の3語の後継?

462 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/10(日) 21:40:31.75 ID:mXI7nAnG
後継っていうと違うんじゃない?

463 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/10(日) 21:59:56.91 ID:z9vT5+yo
後継じゃないよ
同時に立ってた時期もあったようななかったような

464 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/10(日) 22:17:18.12 ID:KBniKQIQ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1219901189/9

9 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/08/29(金) 08:38:08 ID:poydlSPo
創作文芸板に既にスレがあるね

 怪談文藝【三題噺スレッド】八百文字
 http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1160311130/l50
 △ 三題噺をしよう ▲
 http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1120571339/l50

この板的には二次創作(パロ)の御題とかもOKでいいのかな?
その場合は【パロディジャンル名】の注釈はいるだろうけども…


というレスをここの初代のログで見つけた
懐かしすぎる

465 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/10(日) 23:18:01.34 ID:0yJp/2LN
あっちにまだあったわ。

この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十五ヶ条
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/bun/1293931446/


466 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/11(月) 00:14:27.04 ID:MB8oVOeL
創文のスレは文字数制限があるんだよね
結構むずいよ

467 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/11(月) 01:43:08.88 ID:UWPqs1BX
>>458
せっかくだから、唐揚げを竜田揚げにする力になぞらえた
オチみたいなのがあったらより良かったかもね

でも微笑ましい雰囲気は好みだ
次代に受け継がれて行くのが、唐揚げを竜田揚げに
変える力だけ、というのは微笑ましくて良いねw
ほのぼのするよ

468 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/11(月) 18:41:59.10 ID:OSol09U8
俺は両方見てるし時々書いてる
わいわいしてるのはこっちだけどストイックな向こうの空気も好きだ
あと行数制限があるから文章をそぎ落として密度を上げる練習になるね

>>458
自然な流れで巧いね
最後の科白と同じものをを冒頭近くにも置いておくと、落ちが明確になったのかも

469 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/13(水) 09:19:30.74 ID:7XIfrIpi
向こうのスレにはこっちへのリンク無いみたいだね
はってみるかな……?

470 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/13(水) 09:39:22.95 ID:h1PspmLO
コッチにもないし、いらないんじゃない?なんかお互いベクトル違うっぽいし。

471 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/13(水) 19:27:01.84 ID:m3seXUbF
いらないと思う

472 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/13(水) 20:19:51.48 ID:sAZDI9gN
>>465

473 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/14(木) 20:02:38.88 ID:M+fl7Pad
片目の男が斧を持ち、振りかぶった
うわっと歓声があがる
綱が切られれば女王の首にギロチンが落ちる
瞬間、広場は押し黙った
誰もが間もなく来る興奮を噛み締めるために
「待ったァ!」
一人の男が走りこんでくる
「隣国からの葉書です。ここには女王の無実が記されています。どうか執行の取り下げを」
まず私が感心したのは、その声の大きさだ
執行人の腕が止まり、坩堝のようになっていた広場が静まり返った
「これはトリエスの謀です。女王陛下を殺せばその隙をついて、各国がここに流れ込み、この国を千切れ千切れするでしょう」
裁判官が言う
「それをここへ」
男が歩き出す
人垣が分かれる
それもそのはず、男は血だらけの泥まみれ
無言の圧力に誰も近づかない
男を兵士が囲む
男は裁判官に葉書を渡した
裁判官が受け取るや否や、それを破いた
「こんな茶番で神聖なる法廷の決定が覆ると思ったか。」
うおおお、と地鳴りがまた響く
男は兵士に取り押さえられる
裁判官が片目に目配せした
振りかぶる片目
「思っちゃいねぇよ。」
男はフットボールよろしく、足を振りぬいた
片目の顔に靴が垂直に張り付き、振り払うが、靴はそのままだ
獣のような動きで男は斧を奪い、ギロチンの誘導版に楔のように斧を打った
兵士たちが襲い掛かる
男は瓶を取り出し、各々の顔目掛けてぶちまけた
ぎゃああという叫び声と共に煙があがり、のた打ち回る
枷を外し、女王を担ぎ上げる男
「重いなぁ。運動しなきゃ駄目だぜ、母さん」
後続の兵士たちが次々と壇上に上がり、男は囲まれた
「で、ここからどう逃げようというんだ、勇者さん」
裁判官が言う
そのとき、兵士の一人が気づいた
自分の肩を紐が撫でて、進んでいった
紐は天に向かって伸びている
天から紐がぶら下がっている?
「こうするのさ」
男は斧を手に取り、兵士を2,3人吹き飛ばし、女王を抱えている腕で紐を掴んだ
男はふわっと宙に浮かんだ
空に向かって進んでいく男を兵士たちは止めたが、つかめない
あらかじめ、男の体には油が塗ってあったのだ
「なんだあれは」
紐の先には気球だ
気球は高度をあげ、男と女王は間もなく点になった
「生きていたか・・・」
裁判官はそう吐き捨て、呆然と見ることしかできなかった

おしまい

474 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/14(木) 20:09:08.63 ID:esYGEs61
いいな
でもこれお題何?

475 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/14(木) 21:43:41.63 ID:M+fl7Pad
>>474
わり、>>476は「女王」「葉書」「ギロチン」てやつ
ワイヤレスの調子が悪くて>>157までしか表示されなくて、ずいぶん前のお題でやっちまった・・・
新参です
感想ありがとう

476 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/14(木) 22:22:42.60 ID:HjpG5w1W
ロングパス取ったなw乙

477 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/14(木) 23:17:14.77 ID:wsFzlpKF
ほう、関係性とか気になるね。
王子なのかな?



478 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/14(木) 23:32:29.56 ID:M+fl7Pad
>>477
うん、俺が念頭において書いたのは、女王の不貞でできた息子
で、自分の素性を知り、国のために戦うことを決めた、って感じ
「お前は誰だ」的な文句を少し入れてもよかったかな?

479 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/14(木) 23:40:17.15 ID:wsFzlpKF
しっかりそこら辺書き込んだら、結構面白い中編にできそうだね。
ファンタジースレ辺りで暇があったら是非w

480 名前:476:2011/04/15(金) 00:05:09.28 ID:AtXutU7+
ありがとう!
ファンタジー苦手だけど、時間あったらやってみますw


481 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/16(土) 22:46:09.37 ID:YBFqx0Lk
お題プリーズ

482 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/17(日) 01:41:59.46 ID:OiiPvar+
お題「三題噺」

483 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/17(日) 01:43:22.27 ID:hxH6g4D8
お題「とんでもない」

484 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/17(日) 06:43:28.95 ID:BAZHzJdE
お題「鹿児島

485 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/17(日) 06:57:46.16 ID:N6ndk+RA
「三題噺」「とんでもない」「鹿児島」

決定

486 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/04/17(日) 11:04:40.76 ID:fOs38hfb
「三題噺」「とんでもない」「鹿児島」 を使わせて頂きました。

487 名前:『三題噺。』 ◆TC02kfS2Q2 :2011/04/17(日) 11:06:24.47 ID:fOs38hfb
「すいませんでした。とんでもないことをしちゃって」
着物姿で深々と自分のことをこれでもかと否定するように頭を下げるのは、一学年下のゆかりだった。
ぼくの方から「よせよ」と言いたくなるぐらいに、ゆかりは顔を上げることはせずひたすら謝る。両手でしっかりと握られた手ぬぐいと扇子は、
ゆかりの震えを止めるためだけに耐えるしか今は役に立たない。ぼくとゆかりの周りでは、後輩たちがいそいそとホールに組み立てられた舞台の解体に勤しむ。
入り口ではぼくらを無視するかのように、感想が書かれたアンケート用紙をまとめる作業に追われていた。

大学の新入生歓迎会が開かれた。田舎から初めて東京に出てくる新入生も多いので、楽しい学生生活を送って欲しいとの計らいだ。
ぼくら落語研究会が歓迎会実行委員に呼ばれた理由はただ一つ、言うまでも無く「落語」を演じることだった。
部長のぼくは、とにかく客受けのよい3人の部員を選んで高座にあがることを命じた。本番の日まで彼らは熱心に噺を練習した。
明るい派手な噺を上手に演じるために、彼らは先輩と稽古をつけてもらった。楽しい噺だと、初心者の食いつきがよいのだ。
だが、ゆかりだけは違った。彼女は部長のぼくを始め誰もが認めるぐらいに噺が上手い。高校時代は文芸部だったらしい。
文章を書くことが得意で、口も達者。そして、おまけに人当たりのよい性格なのは反則過ぎる。
学年を問わず友人が多いと聞く。彼女の演じる姿でぼくらの活動を新入生に印象付けよう、そしてひいては新入部員をと
欲をかいたのがいけなかった。素直に「上手い噺」でもさせておけばよかったのだ。だが、どうしてか歓迎会のあと、ゆかりは謝った。

ぼくが彼女に出したオーダーは単純なものだった。「ゆかりは『三題噺』をしてくれないか?」と言ったばかりに。
とっくに歓迎会は終わっているのに。なのに、ぼくの短い言葉がぼくの脳裏に耳に、そして胸に焼き付いている原因。それはすべてぼく。
ゆかりに申し訳ない気持ちにさせてしまった、と。罪だ。

「わたしがそんな難しいことに挑戦するなんて」と、ゆかりのお断りを受け入れればよかったのだが、ぼくが勝手に描いてしまった
三つのお題を消化して一つの話にまとめあげ拍手が溢れかえる舞台に目が眩み、彼女の腕を信じきって押し通してしまったのだ。
鹿児島の出である彼女は、土地柄「男を立てる」ことを非常に重んじていた。もちろん、彼女はぼくの意見を受け入れてくれた。
不安な目をぼくは見逃していた。

488 名前:『三題噺。』 ◆TC02kfS2Q2 :2011/04/17(日) 11:07:14.03 ID:fOs38hfb
結論から言えば、ぼくの賭けは成功した。ゆかりが観客から募ったお題も見事に使いきった。観客の受けもよかった。
最後のお題をどこで使うのかハラハラさせながらも引っ張りつつ、効果的に落とす技など拍手を贈るしかない出来じゃないか。
だが、ゆかりはぼくに謝ってきたのだ。理由を聞こうと考える間もなく、ゆかりは言葉を続ける。

「仕込みをしてました」
もう一度ぼくは彼女の言葉を聞き返そうとすると、ぼくの目線を外しながらはっきりした口調で話す。心地よい声が冷たく凍てつく。
「高校のときの後輩に来てもらっていたんです。何人か上京している子もいるんです。そして、後輩の友人たちに頼んで」
彼女の目は変わらない。
「わたしがあらかじめ考えておいたお題を三つ、彼女たちから出してもらったんです」
「なんでそんなことしたんだよ」
「部長の顔を立てたかったんです。どうしても成功させたかったんです」

純粋すぎるゆかりの気持ちは有難くも感じる、とも言える。ただ、素直に喜べない事実が胸につかえて息苦しい。
じゃれつく子犬に「あっちいけ」と振り払っても、まとわりつくような愛らしさと歯がゆさ。よして欲しいのにゆかりは再び深々とぼくに頭を下げた。
「もういいよ、忘れろ。打ち上げで思いっきり忘れろ。最後まで付き合ってやるから」
「はい」
素直なゆかりの返事は、今までの重い空気を洗い流す。おいしい酒をゆかりと飲みたいから、ぼくはその二文字に感謝した。
しかし、ゆかりの出身の土地柄、酒……特に焼酎を飲み交わすと彼女のペースに追いつけずに、
ぼくの方がとんでもないことになることをそのときすっかり忘れていた。


おしまい。

489 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/17(日) 16:24:25.65 ID:OiiPvar+
鹿児島をそう使うか!
やっぱうまいなーわんこ氏

490 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/04/17(日) 23:43:30.99 ID:fOs38hfb
連投、申し訳ございません。
「カジキマグロ」「ニーソックス」「筆記」 でよろしゅう。

491 名前:『カジキマグロの娘』 ◆TC02kfS2Q2 :2011/04/17(日) 23:47:51.52 ID:fOs38hfb
車の教習所からの帰り道、だらだらといつもの寄り道すると、いつもの娘がいつもの場所で釣りをしていた。
短いスカートから伸びるちょっと太めの脚は、黒タイツで細く見せようと頑張るものの、魚を釣っているポーズを見てしまうと、
彼女が女子力をレベルアップする女の子を演出するのを見せるどころか、力強い勤労奉仕をまざまざと見せ付けられるといった方がいいかもしれない。
しかし、彼女だって女の子。「きゃっ」という飴玉のような甘い声を出して、画面の向こうのCGの魚は大海原に逃げていってしまった。
割れた飴玉のような声は、彼女を少し恥ずかしく見せるだけだった。多分、そんな声を出していたんだろう。
結局のところはわからない。なぜなら、周りが電子音で溢れかえっていたから聞こえるはずがない。
(たぶん)「もう少しだったのになあ」と言い、悔しがる彼女はゲーム機と繋がった作り物の釣竿を置いて両替機へと走っていった。

次の週のこと、教習所では仮免許の試験を控えながらも、教官のプレッシャーに耐える。「いい点、取れよ」と。
現実なんかくそくらえ。いや、うんこ召し上れ。それを忘れたいが為にいつもの寄り道をすると、いつもの娘がいつもの場所で釣りをしていた。
短いスカートから伸びるちょっと太めの脚は、この間までと違いニーソックスに包まれていた。スカートと靴下の間が白く目を引き
ゲーム機の釣竿を両手で握りつつ、少し恥ずかしそうな表情にも捉えることが出来た。
画面の向こうの魚はこの間見たものではなく、鋭い刀を持つ魚だった。一対一の果し合い。潮に洗われる離れ小島ではなく、風に晒される海上の闘い。
こっちは十分待たされたんだ。遅いぞ武蔵。絶妙な手さばきでリールを巻く彼女は、小次郎なのか。

彼女はいつの間にかカジキマグロを釣るレベルに成長していた。少し少しの積み重ねがレベルアップに繋がる。
女子力を捨てて必死に(CGとはいえ)カジキマグロを吊り上げようとする姿は、建物の中の女子の中でいちばん輝いていた。
「あーっ!だめだったよお。ちくしょう」
小次郎敗れたり。彼女は武蔵を倒すまでの力はまだ持っていなかった。画面の上の「GAME OVER」の文字は慰めにもならない。
海の上の闘いは、マジキマグロの勝ちで終わった。そして、彼女は両替機へと走る。

一戦を見終えたあと、建物から出ると異様に暖かかった。たぶん、これから暖かくなる。黒タイツを脱ぎ、ニーソックスを履かなくなるまでに、
彼女は憎っくきカジキマグロを吊り上げることが出来るのだろうか。そんなことより、仮免許の筆記試験を気にしないといけないな。


おしまい。

492 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/18(月) 00:57:19.82 ID:uvq33+PR
舞台がゲーセンだってことが少しわかりにくかった。
せめて寄り道先が建物の中だってことを早めに一言挟んでくれるとスムーズに読めたと思います。

493 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/20(水) 00:47:06.37 ID:LkolgsrK
お題いきます。
「関西弁」

494 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/20(水) 00:52:18.61 ID:KT6mexw0
すまんマジキマグロで噴いた

495 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/04/20(水) 07:25:58.36 ID:RvZzvFr/
しもうた!「マジキマグロ」になっとる!
打つとき一列間違えたんや……

496 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/20(水) 17:24:53.51 ID:ydl+Rlvo
狙ったんじゃないのかwwwww

497 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/04/20(水) 21:25:58.21 ID:RvZzvFr/
「三題噺スレ」のみなさま、御スレでお世話になっております「わんこ」で御座います。

先日、投下した作品の中で「カジキマグロ」を「マジキマグロ」とミスタイプしてしまったことをお詫び申し上げます。
しかも物語終盤でのドジは、言葉で語れるもの以上の台無しっぷりで御座います。「終わりよければ全てよし」という言葉が耳に痛いです。。
誤字のないように推敲を重ねた上に、さらに重ねたつもりでしたが、残念な結果に終わってしまいました。

作品への辛口なレスを頂いた上に、恥ずべき痛恨のミス。ご指摘に気付いたのは朝方のことでした。
その日の朝ごはんのおかずは博多の「辛子明太子」でした。美味しいのでよく頂いております。辛ければ辛いほど、わたくしわんこは尻尾を振って喜びます。
辛子明太子のような辛口なレスによって、わたくしわんこは成長すべきなのかもしれません。このことを反省に、創作の糧として、そして御スレの繁栄を願い、
さらに未消化でした>>434 「辛子明太子」「誤字」「ドジ」 のお題を消化することで、わんこの詫び状と代えさせて頂きます。

498 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/20(水) 21:30:33.89 ID:n7BZB/uy
なんでそんな真面目なんw

499 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/20(水) 21:36:09.27 ID:KT6mexw0
他は全部負けてるけど明太子好きでは負けない

500 名前:「三題噺」「とんでもない」「鹿児島」 ◆91wbDksrrE :2011/04/21(木) 07:06:24.65 ID:nARqhFld
 これから、すこしばかり詰まらない話をしたいと思う。
 詰まらない話を読みたくない人間には、ここから先を読み進める事をオススメしない。
 それは、ある昼間の事だった。平日だというのに、私はとある男に呼び出され、
近くの喫茶店へと足を向けた。

「とんでもない……とんでもない……」

 彼は珍しく興奮しているようだった。目を血走らせ、落ち着きなく辺りを歩きまわり
――ここは喫茶店なのだから、あまり好まれる行為では無い――、落ち着きという
物がまったく見られない。普段は物静かで、押し黙って趣味の文筆活動に励んでいる
姿を見慣れている私としては、その姿に多大な違和感を覚えた。
 何がそんなにとんでもないのか、といくら問いただしても、とんでもない、とんでもない
と連呼するばかりで、ろくに話にならない。私を呼び出したのは彼なのだから、彼は
私に何を話し、何を聞いて欲しいのかを明確にする義務があると思うのだが、そう
いった常識的な判断を忘れてしまう程に、今の彼は興奮しているという事なのだろう。
 まったく、迷惑な話だ。
 だが、それ程までに彼を興奮させている物が何なのか。知的好奇心というものは
厄介だ。私はそれを知りたくなり始めていた。
 とはいえ、このまま彼が落ち着きを取り戻すまで放っておくというのは、時間の
浪費以外の何物でもない。そう私の常識的な判断力は訴えているわけだが、
実の所を言えば、時間の経過など瑣末事なのだ。特に私にとっては。とある理由で、
私には時間という資源は有り余っている。
 故に、無理に彼を急かす事はせず、私はじっと彼が落ち着くのを待った。
 小一時間程たった頃だろうか。彼は頭を小さく振ると、今度は先ほどまでの興奮
が嘘のように、がっくりと項垂れ、頭を抱えて唸り始めた。
 まさか、彼は躁鬱病にでもなったのだろうか。その事を私に告白したかった、と?
そんな詰まらない結末が待っているのであれば、今後彼との交友関係は見直さざる
をえなくなるが……と、私は一人懸念を深めていた、その時だった。

「……鹿児島、なんだ」

 小さく、つぶやくように彼は口にした。

 鹿児島。それは九州にある県の名だ。誰だって、その名は一度は聞いた事が
あるだろう。彼は一度それを口にすると、まるで何かにとりつかれたかのように

「鹿児島だ……鹿児島だ……鹿児島なんだ……」

 そう呟き続ける。
 一体何が鹿児島なんだ? とんでもない鹿児島の話なのか? そう私が尋ねても、
やはり彼は鹿児島鹿児島と呟き続けるばかりで埒があかない。
 ひょっとして、彼は本当に精神を病みでもしたのだろうか?

「あとひとつ……あとひとつ揃えば……そうすれば……」

 そんな懸念を打ち破るかのように、彼は次なる言葉を口にした。
 あとひとつ。そのキーワードは、彼の言葉の謎をますます深めていく。
 とんでもない。鹿児島。あとひとつ。……この三つの言葉が、一体何を意味する
というのだろうか? 私は首を捻った。
 だが、私が考えるまでもなく、彼はすぐさまその疑問に答えをくれた。

501 名前:「三題噺」「とんでもない」「鹿児島」 ◆91wbDksrrE :2011/04/21(木) 07:06:37.58 ID:nARqhFld
「あとひとつ……カルピスソーダがお題にくれば……俺は世紀の傑作を書けるんだ!」

 人がこれ程までに凄まじい笑みをこぼせるのだろうかという、それは笑顔だった。
 同時に、私は納得した。
 なるほど、これは――じつに、くだらない話だったのだな、と。
 そんな笑顔が全く見合わない、実にしようのない、詰まらない、ろくでもない話。
 要するに彼は、趣味でやっている文筆活動において、三題噺――三つのお題を
他人に出してもらい、そのお題を消化する形で短、中編を書くという創作方法だ――
で凄く良い作品ができそうだという事で、私にその事実を伝えたかったらしい。
 まあ、時折……そう、時折なのだが、彼は文筆活動において、少々常軌を逸した
行動を取るような所が、極稀に……極々稀に、無いではない。
 今回のコレも、どうやらその奇行の類のようだった。
 結論から言ってしまえば、だ。
 時間の無駄、である。
 私は彼に、大きなため息をつきながら言った。
 三題噺とはいえ、お題を出す人間が君の思うように動くわけではあるまいし、
だいたい、わざわざ私を呼びつけておいて、言いたかったのがそれかい? ならば、
せめて書き上げて、できたその傑作とやらを見せてくれたまえよ、と。
 すると彼はこう言った。

「素晴らしい物が作れる予感を、その喜びを、誰かと分かち合いたいと思うのは
 いけない事か!?」

 ……。
 私は再び大きくため息をついて、言葉は口にしないまま席をたった。
 コーヒー二杯と、限定メニューの苺フローズンあずきパフェシェフの気まぐれ風味
のお代は、当然彼に持ってもらう事にした。当然の対価だ。
 背後で彼がなにやら叫んでいるような気もするが、無視する。これまた当然だ。

 以上で、私の詰まらない話は終わりである。
 ん? 私が何故こんな話をしたか、って? それは無論、人間が感情を他人と
共有したいと思う生き物だからであり、私がその人間であるから、だ。
 どうしようもない話を聞かされた苛立ちを、その憤りを、誰かと分かち合いたいと、
そう私は思ったのである。私にとって、時間という資源はほぼ無限に近く存在する
が、それでも無駄に使えば浪費したと思うし、その無念を他人と共有したくもなる
のである。
 それは、私が――人間だから。

 お付き合いいただいた方には、感謝と謝罪をしたいと思う。
 ありがとう。ごめんなさい。

                                              おわり

502 名前:「三題噺」「とんでもない」「鹿児島」 ◆91wbDksrrE :2011/04/21(木) 07:07:02.15 ID:nARqhFld
ここまで投下です。

思いついたのでやった。
反省はしている。いやマジで。

503 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/22(金) 14:24:20.84 ID:quseL9F6
コテだらけだな

504 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/23(土) 08:09:39.44 ID:c5Q89pbE
面と胴もいるな

505 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/23(土) 14:38:00.38 ID:pva5nx0w
>>504
どこに?

506 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/23(土) 14:39:54.51 ID:XpzTaCDK
ちょw

507 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/24(日) 14:34:40.47 ID:1swNs+ez
突いてねぇ・・・お前、ホント突いてねえよ

508 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/24(日) 14:36:10.01 ID:RZlTSfid
こりゃ1本とられたわい

509 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/24(日) 23:11:20.06 ID:JQHrkzya
そんなレスをシナイの!

510 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/24(日) 23:13:28.15 ID:3SWg9YRm
この流れ胴なってるの……?

511 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/30(土) 23:55:14.99 ID:ofRzbA6e
そろそろお題クレクレ

512 名前:創る名無しに見る名無し:2011/04/30(土) 23:57:13.38 ID:IQSPi1LQ
じゃ剣道。

513 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/01(日) 03:26:37.89 ID:d7a0gfm8
じゃ、「県道」

514 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/01(日) 16:35:21.92 ID:UbaWB3Ly
じゃ「邪見」

515 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/02(月) 20:35:29.19 ID:nizXm5+6
貴様、広島民だな!(←違います

今回のお題は

剣道
県道
邪見

のう。

516 名前:県道剣道邪険:2011/05/03(火) 03:12:21.45 ID:AnTPbDcd
県道で剣道大会が開かれた。
鳴り響くクラクション。浴びせられる罵罹雑言。
「邪魔だぞ−!」
「どけコラ!よそでやらんかい!」
県に検討してもらって県道を剣道のために借りたが、通行止めの事前通知がなかったから大ブーイング。
まさしく邪険にされている。
そうそうにお題は消化されたが話しはまだ続く。
トラックの運ちゃんが喚き倒す中、剣士達があらわれた。
運ちゃんたちはしばし目を細めて剣士を睨み付け、あることに気がついた。
「…あれ、女じゃね?」
剣士達は女性だった。
剣士達は構え、しばしの沈黙のすえ、互いにクロスして面を打った。
その突拍子もない不自然な所作は、達人が見せる先の取り合いの末の無拍子の動きであった。
「な、なんか、すげぇ…」
運ちゃんも絶句である。
剣士達は何故か面を外した。
汗が滲み、試合の熱によって紅のさした顔があらわになる。
どちらもかわいい。
また向き合って打ち合い、あたった部分の防具を外す。
試合が進むにつれ肌があらわになり、ブーイングしていた人々も車から降りて彼女達の激闘と肌に魅入った。
ついには二人とも下着しか着けていない戦いとなった。
二人の女剣士は真剣である。
竹刀だけど真剣である。
県道だけど竹刀である。
剣道だから竹刀である。
負ければ恥ずかしい何かがオープンソースである。
「コラ!道の真ん中で何をやってるんだ!」
真剣な脱衣県道剣道に水を注す輩が現れた。
県を健全に保つ県警である。ポリさんである。
「ちょっと署まで来てもら「待たんかいボケゴルァ!!」
なんと、警察官をトラックの運ちゃんが羽交い締めにした。
「うわ!何するんだ!やめろ!離せ!公務執行妨害だぞ!!」
「もうちょっとで勝負着くんじゃ!待ったらんかいデコ助がぁ!」
運ちゃんは剣士たちに目配せした。
剣士達はうなづき、最後の試合を始めた。
沈黙。静寂。
瞬き。一閃。
中段で弾けた竹刀と竹刀の剣閃が交錯し、鎬を刔りあう。
力が篭り、互いの肌を珠の汗が転がる。
力が開放され、一歩の後退から、即座に攻め合う。
生身の腹を叩く鈍い音がふたつ重なった。
気絶してもおかしくない痛みと衝撃だったはずだが、二人の剣士は剣を互いに当てたまま、しばし沈黙を保った。
そして、剣を落とした。
二人の剣士達は固く握手し、深く抱き合った。
抱き合ったまま、互いを抱き寄せるようにして、ブラのホックを外しあった。
互いの体を押し付けあって、おっぱいが出ないようにしている。
警察官を羽交い締めにしていた運ちゃんはいった。
「うーん、右の娘のほうがおっぱい大きいな。一本だな」
「ばか野郎!左の娘は美貧乳だぞ!あっちが一本だろ!」
羽交い締められながら警察官が喚いた。
その後、剣士達は無罪放免、トラックの運ちゃんは禁固三ヵ月だった。

終わり

517 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/03(火) 03:19:01.57 ID:AnTPbDcd
よし、面白いはずだから読んでくれ

518 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/03(火) 11:47:48.80 ID:1Gqi9E7S
剣士はわいせつ物陳列罪だろw

519 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/04(水) 14:47:02.08 ID:L9JDnkN3
ええっ!?
猥褻物陳列罪ってキッタネェおっさんだけに適用されるんじゃないんすか?

520 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/04(水) 15:05:55.36 ID:tflavjBf
おいwwww

521 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/04(水) 22:50:07.95 ID:sBzNxEuw
>>517
おう、面白いぞw

522 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/11(水) 23:14:25.76 ID:C+j0ttoh
そろそろ次いきますかの
クレクレ!

523 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/12(木) 05:45:58.01 ID:xTruwOYU
3種類の壁

524 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/12(木) 12:04:08.16 ID:CrXI7ThJ
「サーモグラフィ」

525 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/12(木) 22:13:00.09 ID:2QWtFmh2
「ネクタイピン」

526 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/12(木) 23:39:38.31 ID:YPAp7OuK
「三種類の壁」「サーモグラフィ」「ネクタイピン」

の三つどすな。

527 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/17(火) 23:53:49.37 ID:d4B6YEIv
>>521
反日サヨクか?
日本人ならかな入力こそ保守本流だろうが

528 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/18(水) 00:21:23.54 ID:PTSbqElD
どこの誤爆だよw

529 名前:三種類の壁、ネクタイピン、サーモグラフィ:2011/05/24(火) 11:13:03.46 ID:XTWiP5H5
三種類の壁があった。
鉄と石と合成樹脂だ。
鉄の壁には鍵穴があったので、スーツを着ていた普通のモバイラーがネクタイピンでピッキングを試みた。
普通のモバイラーは現在就活中なのだが、それは関係のない話しだ。
スーツの蓋然性を保つための零れ話である。
鉄の壁の解錠は普通のモバイラーにまかせ、石の壁の攻略を始めよう。
石の壁には何だか最近よく見掛けるマークがある。
原子力のマークだ。
…え、石棺じゃね?石棺でした。
ウパ太郎はモバイルを起動し超越時空エミッターを操作して石棺ごと木星へ向かった。
最後は合成樹脂の壁だが、その前に普通のモバイラーが鉄の壁の鍵を開けた。
普通のモバイラーが鉄壁を押すと、扉が開いた。
『XA−26483…承認しました。地上への隔壁を開放します』
音声案内が流れ、普通のモバイラーの足元が土煙を上げてせりあがった。
普通のモバイラーのイヤカムからオペレーターの声が響く。
『これはいったい……地上?』
普通のモバイラーはサーモグラフィで地上を観察し、就職活動を再開した。
内定をもらった暖房設備会社は、地上の温かさを見るに、もはや長続きしないと思えたから。


530 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 11:14:27.39 ID:XTWiP5H5
書きにくい御題だった
次はもうちょい楽そうなの頼みます

531 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/25(水) 13:43:32.70 ID:dRNcrtqO
酔っ払い

532 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/25(水) 14:58:47.14 ID:iXuLayaL
聖地

533 名前:壁、サーモグラフィー、ネクタイピン:2011/05/26(木) 08:12:29.27 ID:yrGmfJ//
「木の壁、石の壁、土の壁。あなたはどの壁が一番熱いか分かりますか?」
彼女は後ろに建っている壁を指差しながらそう言った。
「それは石の壁に決まっているでしょう。これだけ日が照りつけているんだから。」
今はまだ昼前だが、初夏の太陽はさえぎる雲もなく、この広場はすでに汗が出る
ほどの暑さになっていた。
 彼女が僕にサーモグラフィーを渡して言った。
「それであの壁をそれぞれ見てご覧なさい。使い方は分かるわね?」
僕はそれぞれの壁にレンズを向けながらボタンを押していく。木の壁・・・。上の
ほうにやや温度の高い場所はあるが、それほど熱いわけではない。次に石の壁を映す。やはり
かなりの熱さだ。ところどころ赤くなっている。最後に土の壁。これも温度は上がって
はいたが、石の壁ほどではない。何か壁に仕掛けがあるのかと思ったが、壁の素材
は何の変哲もない、ごく自然なもののようだ。

「それで僕はどうすればいいんですか?」
少し肩透かしを食らったように感じた僕は、焦れたように試験官に尋ねた。
「それではあの壁の中で木の壁を一番高温にしてください。あなたにはできますか?」
試験官の質問を聞いた僕は、すぐに木の壁に前に立った。いつもどおりに瞳を壁の真ん中
に集中させる。今はこの日光の強さだ、直接日をイメージするよりも、日光を壁の一点に
集めるイメージを意識の中で描いていく。
  ジリ・・・、ジリ・・・少しずつ木の壁の中心に変化が出てきた。自分のイメージ通りに壁から
細い煙が立ち上りはじめる。僕はそのまま日光を壁に集光するイメージを持続させる。
煙の出始めた壁の中心は次第に黒く焦げ始め、煙もだんだんとに大きくなっていく。
ジリ・・・、ジリ…ジリ。ボウッ!。意識を立ち上げて5分も経っていないだろう、乾いた杉板の
中心に小さな炎が現れるのを僕は確認すると、試験官の方を振り向いてこう言った。
「これでいいんですか?僕には造作も無いことですよ」
試験官は少し笑みを見せながら答えた。
「悪くはないわね。この日の強さをイメージに利用したのは、いいセンスね」
試験官はそう答えると、スーツに付けていたネクタイピンを外した。

 彼女は外した試験官を左手の掌に添えるようにして持つと、掌を見つめながらほとんど
聞こえないような、小さな小さな呟きを二言三言つぶやく。そして不意に木の壁の
ほうへ掌を向けると、木の周りをミストようなものが包み始めた。僕が点けた火は
まだそれほど大きくなってはいなかったが、だんだんと彼女が出した細かい霧で
小さくなっていった。火が完全に消えると、彼女は再び掌を自分の方に向けネクタイピン
、というよりもピンに付いた真珠の飾りを見つめながら再び何事かを呟きはじめる。しばらくすると
今度はその手を空の上に向けた。彼女はその手と一緒に顔を空へと向ける。僕も彼女と
一緒に空を見たのだけど、何も変化が無いように見えた。

 しばらくして僕は試験官に尋ねた。
「どうしたんです?何をしているんですか?」
「地面をご覧なさい」
試験官の返事にに従うまま顔を地面に向けると、そこには影が、ちょうど石の壁と土の壁を
覆うように、広場の地面にできていたのだった。もう一度空に目を向ける。さっきまでは
何もなかったように見えた青空も、よく目を凝らすと…。薄い透過状の布のようなものが、
ちょうど石の壁と土の壁の上の中空に漂っているのが見えた。彼女は僕のほうを見、腕を下げた。
そうするとさっきまで地面に薄暗い色を描いていた影は、次第に消え去っていった。
 試験官はさっきまでとは違った、事務的な表情でこう言った。
「ゴン太君、あなたの持つ力はたいしたものだけれど、場合によっては力を向けた
対象に大きな影響を及ぼすことになります。それを踏まえたうえで、次の試験を受けて下さい。
分かりましたか?」
僕は試験官の言葉に、神妙に頷いた。

534 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/28(土) 17:44:26.80 ID:qvPl26c6
終わりなの?

535 名前:創る名無しに見る名無し:2011/05/29(日) 21:44:58.31 ID:zkhCtowx
すみません終わる時はちゃんと終わりと書かんといかんみたいですね。

おわりです。

536 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/05(日) 11:42:20.15 ID:93BI9Qjd
なんか過疎ってるな
次のお題出すか

「遠心力」

537 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/05(日) 12:16:15.22 ID:yJvpnfYd
>>531酔っ払い
>>532聖地
>>536遠心力

の3つですか

538 名前: ◆91wbDksrrE :2011/06/06(月) 01:56:29.73 ID:zZc1wPyM
 酔っ払いに対して、してはいけない事が二つある。

 一つは、振り回すことだ。その遠心力によって、ただでさえ混乱している三半規管が
さらに乱れ、酔いが悪い方向へと加速し、吐き気などを催す事になりかねない。
 タクシーの運転手もそれは心得ているのだろう。カーブを曲がる時には、必要以上に
速度を落としてくれている。介抱している身としては、これは実に助かる。タクシーを
ちょっとそこらに止めてもらって……という事も最近の道路事情ではやりにくい。何とか家に
たどり着くまで、彼女には耐えてもらわなくては。

「うぅ……」

 見れば、彼女の顔は、普段のいつも何かに興奮しているように――と言っても性的な
意味ではなく、少年少女が大好物を目の前にした時のそれに近い――紅潮させている
それとは比べようもない程に、真っ青で真っ白だ。顔面蒼白とは、まさにこの事だと
言わんばかりの形相を見て、思わず俺は顔をしかめていたらしい。

「……なによぉ。変な顔しないでよぉ」
「変な顔なんかしとらんぞ」
「しかめ面してたじゃんかー。大丈夫だって。こんな所で吐いたりしないし、どっかの
 馬鹿女セオリーみたいに、お漏らし少女になるつもりなんかないからさー」
「……意外と大丈夫そうだな」

 顔色と心持ちとは比例しない場合もあるのだろうか。彼女の軽口は普段のそれと同じ
ような口調、内容だった。……普段からこんな軽口叩いてばかりというのはどうなんだと、
今更ながらに思わないでもないが。
 とはいえ、無理をしている部分もあるのかもしれない。それは考慮しておく必要はあるだろう。
そんな事を思いつつ、俺は彼女の頭を撫でた。普段なら「子供扱いすんなよー」とか言って
嫌がるのだが、今日はなすがままだ。さらさらとした髪の感触が心地良い。彼女も、心地良いと
思っていてくれればいいのだが。今の表情からは、いまいちそこの所が読み取れない。

「嫌がらないんだな」
「……んー? だって、飲み過ぎて気分悪くなって友達に介抱されながら家まで送って
 もらうとか、子供扱いされても仕方ないしねー」
「まったく、飲み過ぎだ。お前、元々飲める方じゃないんだから」

 まあ、飲み過ぎた理由はわからないでもない。今日俺たちが出かけたのは、とある
小説の主要な舞台となっている居酒屋での、いわゆるオフ会的な集まりだった。その
小説が好きでたまらない彼女は、のっけからテンションフルスロットルだったのだ。
周囲もそれにつられて大盛り上がりだったのはいいのだが、会も終盤となると、最早
彼女はでろんでろんに酔いつぶれていて、結局その後の二次会への参加も見合わせ、
俺と二人で家路についた、というわけなのだ。

「だって、せっかくの聖地だもん。テンションアゲアゲで行きたいじゃん?」
「そういう所が子供なんだよ」
「……そうかもね」

 ……調子がわるいせいか、普段の彼女とは違うやけに素直なその態度に、俺は妙な
戸惑いを覚えてしまう。顔色も青白く、そのせいで普段のボーイッシュな雰囲気が全くと
言っていいほど感じられない。そこにいるのは、普段見ているボーイッシュな少女では
なく、一人の女性のように、俺には見えた。
 ……いかん、何を考えてるんだ俺は。

「でも、あんたには感謝してるんだよ? オフ会付き合ってもらった上に、こうして送って
 もらっちゃってさ……あの小説、別に大して好きじゃなかったよね?」
「ああ、まあ。……それなりに面白いとは思ったけどな」
「無理しない無理しない。人間合う合わないはあるんだしさ」

 確かに、小説としてはそれなりに楽しめたが、俺本来の好みは、もっとファンタジー
よりの、荒唐無稽な話なのだ。現代ミステリーは肌に合わない部分が、確かにある。

539 名前:「酔っ払い」「聖地」「遠心力」 ◆91wbDksrrE :2011/06/06(月) 01:57:25.25 ID:zZc1wPyM
「ほんと、いっつもこういう風に引っ張りまわしてさ……ごめんね?」
「……謝るなよ。仕方ないだろ。腐れ縁なんだし」

 ……本当に、俺まで調子が狂う。なんだこのしおらしさは。こんなの俺が知ってる彼女
じゃないぞ。青白い顔して、普段みたいな馬鹿のような笑い方じゃなく、どこか寂しさを
感じさせるようなそんな微笑みで……すごく、ドキッと、するよう、な……。
 ……ああ! だから俺は何を考えてるんだ!?

「腐れ縁、か……確かにだねー」
「だろ? だから謝る必要なんか……って、おい」
「………………」
「な、何じっと……見てんだよ」

 どこか潤んだ瞳で、彼女は俺を見ていた。
 まるで、今にもこぼれそうな何かを、必死に耐えているような、そんな顔で。

「………………」
「………………」

 そして、俺達は見つめあい――

「……うえっぷ」
「……へ?」
「うぇろろろろろろろろ」
「ぬぎゃー!!??」

 ――俺は、彼女の吐瀉物を浴びる事になったのだった。
 こぼれそうな何かってそっちだったのかよ!?

540 名前:「酔っ払い」「聖地」「遠心力」 ◆91wbDksrrE :2011/06/06(月) 01:58:23.19 ID:zZc1wPyM
 酔っ払いに対して、してはいけない事が二つある。
 一つは、振り回す事。
 そしてもう一つは……うっかりときめいたりしちゃう事、だ。
 ろくな結果にゃなりゃしない。これは、俺が身を持って学んだ経験である。
 後日、俺達は結局特に何かがどうにかなったりすることも無く、というか、
するわけもなく、またいつものような、適当につるんで、適当に一緒にいる、
そんな関係に戻った。……よく戻れたな、俺達。二つの意味で。

「いやー、ホントあの時はごめんねー?」
「……だから、いいって言ってるだろ? 気にするなよ」
「いや、流石になんも無しで水には流せないから、埋め合わせさせてよ」
「……埋め合わせ、ねぇ」
「今度、ご飯食べようよ、一緒に」
「いや、そりゃいっつも食べてるじゃん」
「そういうのじゃなくてさぁ……ディナーで! 豪華に!」
「おごりで?」
「う」
「……ワリカンでいいよ。いつにするんだ?」
「ホント!? じゃ、今度の土曜にさ、オススメのお店あるから、そこで!」

 ……いつものような関係、か。
 ま、それはそれで心地良いものだ。うっかりときめいてその先に進んでしまえば、
あっさりと壊れて、二度と戻れなくなってしまうような、そんな関係であるからこそ、
心地良いと思えるのかもしれなと、今になって思う。

「ただし、酒は駄目だぞ?」
「……実は、根に持ってます?」
「割と」
「うぇーん、いじめるぅー」
「うそなきはやめい」
「へへ、ばれたか」

 願わくば、彼女も、そんな風に考えていてくれれば、と、そう思う。

                                         おわり

541 名前:「酔っ払い」「聖地」「遠心力」 ◆91wbDksrrE :2011/06/06(月) 01:59:12.25 ID:zZc1wPyM
ここまで投下です。
インスピレーションです。

542 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/06(月) 17:05:08.72 ID:1W3uMI8P
フラグだらけで男が憎い件。

543 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/07(火) 00:32:37.18 ID:oyYL++L9
>>538
乙です! 
相変わらずこういうのが上手いですね〜
微笑ましくて甘すぎず、好きですよ!


三題、久しぶりに書いてみようかなぁ…

544 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/07(火) 11:17:46.67 ID:xNrJ0vOb
雑でも話題になってたし、そろそろ復興させようぜ。

545 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/08(水) 08:05:07.49 ID:uLCYpFzL
>>538
   n ∧_∧
  (ヨ(´∀` ) グッジョブ!
   Y    つ

546 名前:「酔っ払い」「聖地」「遠心力」 ◆lx5FOsHpKc :2011/06/09(木) 19:18:26.76 ID:47v2WfJR
 お子さんですか?とたずねられるくらい年の差があった。

 青い芝生のつづく先で彼はおおきく手をふった。
「おじさーん、はやく投げてくれー!」
 手首のスナップを利かせてなにかを投げるような素振りをする。
私は慣れないプラスチックの円盤を投げ、思ったとおりあらぬ方向へ
飛ばして彼を走らせることになった。

 彼と出会ったのは二ヶ月ほど前、この自然公園でだった。その日は
しとしとと雨が降り、傘をわすれた私は出先から帰宅することになった。
自然公園を横断すると二百メートルほど距離が浮く。私は急ぎ足で
濡れた芝生を踏み越え、北の出口へむかった。その途中で彼に出会った。
広葉樹の幹に寄りかかって雨宿りをしている少年がふと視界にはいった。
雨の日に一人でなにをしているのか、気になった。だが仕事の書類が
濡れてはこまる。風邪をひけば同僚に迷惑をかける。一刻もはやく
帰宅するのが賢明だった。
 気付けば私は少年のとなりに腰を下ろしていた。頭をふり、コートの
しずくをはらう素振りをして、さりげなく少年の雨宿りに便乗した。
視界の端にひしひしと視線を感じる。あやしいオッサンが近づいてきたと
不審に思われても不思議ではない。自分自身、彼のとなりに腰を下ろす
理由など思い当たらないのだから。
「やれやれ、はやく止んでほしいな」
 鞄から板チョコを取り出して砕く。ひとかけら口にいれ、咀嚼する。
「きみも食べるか?」
 もうひとかけら食べてみせる。彼は濡れたままの髪の毛のすき間から
じっと私を凝視し、チョコを受け取った。私が危険人物にあたらない
という判断が下されたらしい。私はふだん間食などしない。同僚の女子に
押しつけられた菓子が思いもよらぬところで役に立った。
 葉に雨粒があたる音、舗装されたアスファルトにあたって跳ねかえる音、
地面に水が染みていく光景、立ちのぼる土のにおい。私と彼をとりまく
世界は物静かで、まるで白と黒のモノクロでできているようだった。
木々と草花は遠い国あるいは遠い過去のものみたく感じられ、
少年の呼吸と私の意識だけで世界が閉ざされてしまったかに思われた。
それが私と彼の出会いだった。

547 名前:「酔っ払い」「聖地」「遠心力」 ◆lx5FOsHpKc :2011/06/09(木) 19:22:45.51 ID:47v2WfJR
 飛んでいった円盤を抱えてもどってきた。目くじらを立てて怒っている。
「おじさん、ぼくのほうに投げてくれよ。へたっぴだからなんて言い訳に
 ならないぜ」
「すまん、すまん」
 くいっと手を曲げて前にふる。すると円盤は意思をもっているように
私めがけて飛んでくる。私も子どものころはたくさん遊んでいたはずだが、
こうも洗練された遊びはしていなかっただろう。野を駆けるか、
川にはいるか、木にのぼるかしていつも友だちとなにかを競っていた。
私が円盤をうまい具合に投げかえすと、彼はいたくうれしそうに
にっこりと笑った。

 さんざん遊んで飽きがきたころ、二人して芝生に寝転がり休憩を
取ることにした。風に揺さぶられ葉がすれる音が耳に心地いい。
夏が近かった。木洩れ日のまぶしさと風のにおいと土のにおいと
彼の汗のにおいが混じりあう中、休日の午後がゆっくり過ぎていくことに
充足感をおぼえた。
 出会ってみればあとはただの友だちだった。年の差はあれど、
少年は男であり私も男である。恐竜の話から宇宙の話、サッカーや
テレビゲーム、女の子の好みの話までした。腹を割って話せば
そこに年齢は関係なかった。ただ少年は学校や家族のことについて
話したがらなかった。私も仕事と結婚の話はしないことにした。
男と男のあいだには無言の約束があった。

 寝息が聞こえる。少年は安心しきって夢の世界へ旅立っていた。
その寝顔を見るにつけ、強く引きつけられる思いに駆られた。
同時に輝かしい命にふりまわされ、遠心力によって飛ばされ
粉々に砕け散る恐れを味わう。時間の流れが私を押し出そうとしているのが
わかる気がする。私の命が枯れ、彼の時代になり、そして彼自身もまた
新しい命にバトンを手渡すときがくる。言葉にすればおそらく酔っぱらいの
うわ言のような響きしか残らない。だが誰しもがこころのどこかに
もっているのではないだろうか。受け継がれた営みとそれが連綿と
続いていくことに気付いたときの高揚。木洩れ日のやわらかいぬくもりに
つつまれているような、おだやかな気持ちになれる、だれの手にも
汚されない聖地のような場所を――


 了

548 名前:「酔っ払い」「聖地」「遠心力」 ◆lx5FOsHpKc :2011/06/09(木) 19:25:16.42 ID:47v2WfJR
以上です。読んでくれた人に感謝。
楽しんでもらえたら幸い。

小説と呼べるかよくわからない代物でごめんなさい。
お題なら「六月」で。

549 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/10(金) 12:33:55.88 ID:eJWegmso
たしかに小説と呼べるかよくわからない代物かもね
でも乙!

550 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/11(土) 20:44:04.95 ID:GcafQy8j
>>546
よかった。
十分に短編小説になってると思う。年齢差のある友人っていいよなぁ

551 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/14(火) 00:10:57.65 ID:7saXefTd
>>548
お題「ジェンガ」

552 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/15(水) 04:17:10.38 ID:GhFDsoBM
お題「TO YOU」

553 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/23(木) 17:27:15.22 ID:IXuDB80k
6月も残すところあと一週間。直近の三題は

>>548「六月」
>>551「ジェンガ」
>>552「TO YOU」

であってますかね?

奮って投下ください。力作お待ちしています

554 名前:六月 ジェンガ TO YOU:2011/06/25(土) 23:12:22.60 ID:QVcUlJou
 耳元でけたたましく鳴く呼び出し音。
 カズキは携帯を握る指に力いれた。無意識のうちに。
(出ろ……出てくれ、頼むから……)
 彼の祈りも虚しく、電波の向こうから留守電を告げるメッセージが流れる。
カズヤは伝言は残そうとせずに、通話を切ってすぐにリダイヤルした。
ディスプレイに表示される本田瑠美子の名前と番号。カズヤは生唾のみ、また携帯を耳に押し付けた。
 空虚な呼び出し音で鼓膜が震える。カズヤの指も震えていた。いや、身体全体が震えている。寒いわけではない。
季節は初夏、六月の終わり。日本列島は梅雨入りし、今も外ではさめざめと雨が降っている。
窓を叩くその音は、カズヤの耳には聞こえていない。
彼はただ携帯のコールのみに全神経を集中させていた。
(出ろ、出るんだ……)
 もう何百回も頭の中で反芻したその言葉。それが決して円環ではなく、螺旋だと信じてカズヤは携帯をかけつづけた。
螺旋ならばいつか必ず終わりがある。出来ればそれは好ましい終わりであって欲しい。
即ち本田瑠美子が電話を取るということ。
「こちら、BUお留守番サービスです」
「くそっ!」
 カズヤは携帯をベッドに投げ捨てた。床や壁に叩き付けなかっただけでも、まだ冷静といえる。
しかし彼の頭が混乱と怒り、そして少しばかりの悲しみに満たされるのも時間の問題だった。
 頭を掻き毟り、どさっとベッドに腰を下ろす。その衝撃でわずかばかり携帯が跳ねた。
(落ち着け……)
 そう念じてカズヤは目を閉じた。五指を組んで額をささえる。深く息を吐いて頭を冷やそうとするが、苛々の熱はまだわだかまっていた。
しかし幾分かはマシになったので、彼は顔を上げた。クローゼットの上に置いた卓上時計に目をやると、時刻は午後の五時を少しすぎたところだった。
そして彼の目線は、自然と時計の隣に置かれたフォトフレームに流れた。
そこに移っているのは甘い思い出。カズヤと瑠美子が付き合い始めて間もない頃の写真だった。どこで撮ったものだったか。
幸せの笑顔で微笑む二人の背後に、大きな――とはいっても、それはせいぜい五メートル程度の――建造物が覗いている。
三階層のタワー型オブジェ。複雑で繊細な構図でそびえ立つその塔は、ジェンガを積み上げて作られたものだった。
カズヤの脳裏に写真を撮った時の記憶が広がる。(そうだ、確かこれは初めてのデートの時の写真だ。
多分、1年半くらい前の事だ。近場の博物館で、このジェンガタワーは積みみ上げられていた。
俺たちは丁度、完成間近の時に訪れたんだ。そして芸術家が最後の一ブロックを頂上に乗せた時、ギャラリーから大きな拍手が起こった。
俺達もまるで自分達がそれを完成させたような錯覚に陥り、えらく感動した。瑠美子がこのジェンガの前で写真を撮ろうと言い出したのだ。
俺は二人の愛がこのジェンガの様に、高く積みあがって未来に続くと思っていた。それがどうしてこんな事に……)

555 名前:六月 ジェンガ TO YOU:2011/06/25(土) 23:15:36.95 ID:QVcUlJou
 カズヤは大きくため息をついた。
どうしてこんな事に、それを考えると胸中に溢れる鉛色の不安は、嗚咽となって彼の口から漏れた。
 二人の出会いは「To You」という出会い系サイトがきっかけだった。カズヤがそこに登録し、偶然瑠美子と知り合った。
ただそれだけのきっかけ。それだけだが、彼は瑠美子こそが生涯のパートナーだと確信した。
それほど彼女はいい女だった。知的で、明るく、でも時に弱みを見せカズヤを信頼し助けを求める。
カズヤは頼られるのが嬉しかった。彼はまだ二十歳だが、その短い人生の中で他人から信用され、必要とされたのはそれが初めてだった。
だから彼が彼女に執心するのは当然のことだった。
思えば、彼女はそんなカズヤの心理を見抜いていたのかもしれない。自分が頼られることで、彼の方も彼女を信頼できた。
それはいつしか盲信となっていたのかもしれない。
だから彼女が学費のために五十万円ほど必要だといった時、彼は微塵も彼女を疑わなかった。
フリーターの彼女が、医療事務の資格を取りたいという目標を持ったのは素晴らしい事だと思った。
学生のカズヤにとって五十万円は安い金ではなかったが、彼はバイトで貯めた預金を崩して彼女に渡した。
その時の彼女の喜びようが、ますますカズヤの彼女に対する熱を上げた。
どうして両親ではなくカズヤに学費を相談するのか、という疑念は後々に少しばかり湧いたが、すぐに愛情の奥底へ沈んでいった。
 その後も彼女は幾らかカズヤに金銭をねだった。参考書の費用だとか、追加の授業料だとかだ。
そして彼女に渡した金額は合計で八十万円ほどになっていた。
 そして事が起こったのは三時間ほど前だった。カズヤはバスに乗って大学から帰宅するところだった。
なんとなしに、窓の外から風景を眺めていた。そしてバスが赤信号で停止している時、彼はその窓から見た。
瑠美子と思しき女が、見知らぬ男と連れ添って歩いていた。その腕を男の腕に絡ませて。最初は人違いだと思った。
横顔だけなら似ている人は幾らでもいる。しかし……だけど、その服装は見覚えがある。
彼女の誕生にプレゼントしたオレンジ色のカーディガンではないか? それでも、珍しい品物ではない。
たまたま似ている人が、偶然同じような服装をしているだけだ。そうに違いないと思い込んだ。
二人は赤色に灯る歩行者信号の前で止まった。丁度、彼の席の真横である。
男が車道――つまりカズヤ側――だったため、横に並んだ瑠美子によく似た女は、男に話しかける時は必然的にその顔をカズヤの方に向ける事になる。
だから彼女の正面がカズヤの方に向くのは時間の問題だった。見間違えようも無いその笑顔。
いつもカズヤに見せていた小動物のように可愛らしい笑顔がそこにあった。
 ふと、彼女と目線がぶつかったような気がした。
 カズヤが呆然としているうちに、信号が変わりバスは発車した。彼はぐるぐると考えをめぐらせた。
あの男はきっと彼女のお兄さんか、弟さんに違いない。だからあれほど仲が良かったのだ……しかし彼女に兄弟が居るという話は聞いたことが無い。
じゃああれは友達だ、仲のいい友達。しかし異性の友達と腕を組んで歩くだろうか。
 そんな事を考えている間に、いつの間にか家についていた。
 そして今に至る。

556 名前:六月 ジェンガ TO YOU:2011/06/25(土) 23:19:10.17 ID:QVcUlJou
 カズヤは再び携帯に手をのばした。そしてリダイヤルをしながら思った。
あの時目線があったと思ったのは、勘違いじゃなかった。彼女も俺に気づいたのだ……。
「おかけになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が切られている為、かかりません」
「…………」
 カズヤは頭を抱えた。もはや疑念は確信へと変わっていた。彼女は浮気をしていて、その現場を俺は見たんだ。
 業火の如く憤怒が燃え上がった。しかしそれはそれは一瞬の事で、滂沱する悲しみの涙に鎮火された。
金銭を騙し取られていたという彼女への怒り、気づけなかった情け無い自分への怒りよりも、裏切られたという嘆きの方が大きかったのだ。
彼の心は崩れ去った。まるでジェンガの様に音を立てて、ガラガラと。
 玄関のチャイムがなった。家には今、カズヤ一人しかいない。だからカズヤが出なければならないのだが、とてもそんな気にはなれなかった。
しかしチャイムは執拗に何度も鳴った。彼は苛々としながらも、仕方なく玄関に向かった。
「はい、どちらさま……」
 カズヤは愕然とした。そこに居たのは瑠美子だった。
「どうして……」
 出てきた声はひどく震えていた。怒りによるものなのか、悲しみによるものなのか、もしくは喜びによるものかもしれなかった。
「お別れを言いに来たの」
 彼女の言葉はとてもはっきりとしていた。鈴の鳴るような軽やかな声。
 カズヤは乱暴に彼女の肩を掴んだ。今まで彼女に暴力を振るったことは一度もなかった。しかし今はなにをしでかすかは、解らない。
「別れるって、どういうことだ! さっきの男が関係あるのか!」
 彼女は目を伏せて、こっくりと頷いた。「そうよ」
 再び怒りが燃え盛ろうとしていたが、カズヤは冷静に彼女を見た。どうも様子がおかしい。
出会い系で男を騙して、金銭を巻き上げるような女の態度ではなかった。彼がそこから感じ取ったのは、後悔、懺悔といったしおらしさだった。
「瑠美子……なぜだ?」
 カズヤは両手を彼女の肩から放し、頭を振った。彼女は小さく息を吐き、顔をあげて彼を見据えた。
その目に宿っているものがカズヤには信じられなかった。それは怒りだった。
「あなたが、あなたが悪いのよ!」
 おおよそ普段の彼女から考えられないような怒声だった。彼女が怒りを見せたのは初めての事だった。それは彼も同じだが。
 瑠美子は肩で息をしていた。今の言葉を言うのに、相当なエネルギーを使ったのだろう。それくらい圧倒する物があった。
カズヤは目をしばたかせ、彼女がなにを言っているのか理解しようと務めた。俺が悪いって? どうしてそうなるんだ。俺がいったい……なにをした?
「俺は君に何か悪い事をしたか? いつも君の助けになろうと頑張ってきた。色々と手を貸して……お金まで貸したじゃないか!」
「それが悪いのよ!」
 なんだって? 手を貸す事が悪い事だと。彼女はなにを喚いているんだ。
「何が悪いって言うんだ? 君が助けを求めたから俺は……」
「助けて欲しかったわけじゃないのよ。あなたにはそれが解らなかった」
「え?」
 カズヤは眉をひそめた。ますます彼女の言い分が解らなくなって来た。
「どういうことだよ。ちゃんと説明してくれ」
 彼女はかぶりを振った。呆れたという様子だった。その顔は信じられないという面持ちだった。
信じられない――カズヤにとっては何より聞きたくない言葉だったが、聞かなくて彼女の顔からありありと読み取れた。
「わたしは困ったとき、ただ話を聞いて欲しかっただけ。あなたに助けを求めたわけじゃないの。
だけどあなたはわたしに手を差し出した。それであなたは満足したでしょう。でもその度に、わたしの自尊心は少しずつ削られていったのよ」
 今度はカズヤが呆れる番だった。この女は、なにを身勝手なことを言っているんだ?
「それなら断ればよかったじゃないか。散々人の行為に甘えておいて今更なにを言っているんだよ」
「あなたの優しさを無碍にする勇気がなかったの、その点はわたしも悪いと思うわ。
だけど、気づいて欲しかった。その優しさがどれだけわたしの重荷になっていたか」
 カズヤは息を呑んだ。彼女の目に燃える怒りの合間に、謝罪の念が見え隠れしていた。
確かに、もし助力を断られたら、俺はプライドを傷つけられていたかもしれない。だけど、それは断り方にもよるだろう……。
果たしてそうだろうか? 俺も彼女のプライドを傷つけないように支援できたんじゃないか?
 カズヤは瑠美子を助けようと、瑠美子はカズヤを傷つけまいと、お互いの優しさのすれ違いがそこにはあったのだ。
「それで、これを返しに来たの」

557 名前:六月 ジェンガ TO YOU:2011/06/25(土) 23:21:38.45 ID:QVcUlJou
瑠美子は鞄から取り出した封筒をカズヤの胸に押し付けた。彼はそれを受け取り中身を見た。
そこには札束が詰まっていた。およそ数十万円くらいか。彼は瑠美子を見た
「とりあえず半分の四十万よ。あとの半分はまた後日に返すわ」
「こんな、こんなの要らないよ!」
「要る、要らないはあなたの自由だけど、わたしは借りたから返すの」
 カズヤはひどくプライドを傷つけられた気がした。これは彼女の復讐なのかもしれない。
「……でも、どうしてこんな急に。二人で話し合おうよ。俺はまだ君のことを愛しているんだ」
 最後の言葉は意識的に強く言った。彼女の事を本当にまだ愛しているかどうか、カズヤには自信がなかった。
そんな彼の胸裏を、彼女の目は見透かしているように憐れんだ。
「あなた、わたしがさっきの男性といつからお付き合いしてたか知ってる?」
「……いや」
「二ヶ月前よ、わかる? あなたは二ヶ月の間なにも気づかなかった」
 二ヶ月、それは短いようでそうでもない。カズヤはその間何度も瑠美子と会っていた。
だから彼女の態度に少しでもおかしいところがあれば気づけた。実際に瑠美子はそれらしいヒントを出した。
彼の言葉に上の空になったり。急な電話で彼の見えない所へ行ったり。しかし気づかなかった。
それは二人の愛が、当人が思っている以上に穴だらけになっていたことを意味する。まるで倒れかかったジェンガの様に。
「……わたしが本当に助けて欲しい時に、あたなは助けてくれなかった」
「…………」
 もはや言葉はなかった。瑠美子は「それじゃ、お元気で」と言い残して立ち去った。カズヤは封筒を握り締めた。
彼女の事だから、残りの額は本当に返済してくるだろう。そんな事はどうでもいいのに。
彼はまだ心のどこかで彼女を諦めきれないことを自覚していた。一方で彼女の心がもう完全に自分から離れていることも解っていた。
 崩れたジェンガはまた積みなおせばいいかもしれない……。だけどジェンガは一人では出来ない。

558 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/25(土) 23:24:37.44 ID:QVcUlJou
おわり
オープンオフィスで書いたのをコピペして
適当に改行したから読みにくいかもしれない。
初投稿だけど、なんかルールに沿ってなかったらごめん

559 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/25(土) 23:32:22.41 ID:QVcUlJou
あとID変わる前に言っておくと
別のサイトにも載せたのであしからず


560 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/28(火) 01:20:24.76 ID:CrtqPiBi
なかなか面白い

561 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/28(火) 09:50:45.91 ID:dUTWchBQ


562 名前:六月 ジェンガ TO YOU 1/2:2011/06/29(水) 23:06:23.79 ID:9X6Djtxr
私は彼女と向き合って『ジェンガ』をしている。
窓の外は雨。
目に見えないほど細かい霧雨は、この小部屋を外にあるすべてのものから
すっぽりと守っていてくれるようだった。
「さ、あなたの番よ」
彼女の声に我にかえると、積み上げられたブロックの前に
頬杖をついている彼女の瞳とぶつかった。
きらきらとした瞳を楽しげに細めている。

私は手を伸ばして、タワーの下の方からひとつ、ブロックを抜き出した。
そのはずみに積み上げられたタワーがゆらゆらと揺れる。
「おっと」
慎重にてっぺんに重ねる。
タワーは最初長方形をしていたのに、彼女が自分のやり方で
重ねていってしまうので途中からねじれた螺旋形になっている。
カコン、と良い音を立ててブロックはタワーのてっぺんにおさまり、
また新たに螺旋が形作られる。
「上手、上手」
彼女は机をゆらさないよう、身を引いて手を叩いた。
「わたしの番ね」
彼女はさきほどとは一転した、きりりと引き締めた真剣なまなざしで
つぎに引き抜くブロックをどれにするか思案しはじめた。
私は目を窓の方にやった。
「よく降るね」
「六月だもの」
彼女はこともなげに相槌を打つと優雅な手つきでブロックを引き抜いた。
タワーが揺れる。
息を詰めて二人で様子を見守る。
やがて揺れはおさまり、彼女は安堵の吐息をもらした。

「六月って?」
「雨の降る月よ。それが今」
「ふうん。だからこんなに雨が降ってるんだ」
「あら、それは違うわ。だって…」
私の言葉に彼女は笑って何かを言いかけたが、
間違ってクイズの答えをばらしてしまったときのように急に口をつぐんだ。
「だって、何?」
「いいえ、何でもないの。どちらにしろ私たちには関係のないことだもの」
彼女はくすっと笑うとブロックを頂上に重ねた。
けれどもその途端、不安定だったタワーがバランスを欠いたように大きく傾いだ。


563 名前:六月 ジェンガ TO YOU 1/2:2011/06/29(水) 23:11:29.69 ID:9X6Djtxr
「__あ」
「あっ」
カロンカロンコトン。
耳に心地よい軽やかな音をたててタワーが崩れ落ちた。
「あーあ」
彼女は椅子にもたれると天井を見上げてため息をついた。

私は机に散乱したブロックの一つを手に取って眺めた。
手のひらに収まるほどのそれは、
木のように暖かみのある手触りをしていながらも、あくまでも透明な、美しい結晶だった。
灯りに透かすと装飾のような細かい模様が表面にではなく、
内側に存在しているのがわかった。

「きれい…これは、何?」
「Means nothing to you」
「え?」
彼女の唇から発せられた耳慣れない音に私は戸惑った。
「あなたには何の意味もないこと、って言ったの」
彼女はきょとんとした私の様子をおかしそうに見て言った。
「そして、わたしにもね。今のはもう誰も使っていない言葉。
 滅んだ世界の言葉よ。わたしたちには、もう関係ないの。
 タワー、崩れちゃったわね。もう一度やりましょ」

彼女は机に転がったブロックをかき集めてふたたびタワーを作りはじめた。
「『ジェンガ』ってきりがないんだね」
「そうよ。積み上げられる所までやるの。きりがないのよ」
「積み上がったその先には何があるの?」
「さあ…」
彼女は唇に笑みをうかべて首を振った。
「わたしたちには関係ないことよ」

たくさんのきれいなブロックを螺旋に積んで、重ねた先には何がある?
重ねるたびに揺れて、たわんで、
自らの重さに耐えきれない、不安定な美しいタワー。
崩れて、積んで、その繰り返し…

「もう一度、最初から作るの」
彼女が微笑んだ。
窓の外では止むことのない雨が降り続いていた。




564 名前:創る名無しに見る名無し:2011/06/29(水) 23:18:00.91 ID:2SlrVlTV
乙です
いい雰囲気だった、こういう淡々としたの好き

565 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/01(金) 10:16:46.98 ID:EfGes8gJ


566 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/07/01(金) 22:31:46.09 ID:Qk+L3025
「六月」「ジェンガ」「TO YOU」で投下します。
六月過ぎちゃったけど、ごめんなさい。

567 名前:六月のおくりもの。 ◆TC02kfS2Q2 :2011/07/01(金) 22:33:21.35 ID:Qk+L3025
 恥じらいごと真っ只中のお年頃の真純は、自宅入口に掲げられた「TO YOU KOBIJUTSUDO」という恥ずかしい看板を
敢えて無視して扉を開けた。出迎えた彼女の兄は無精ひげを摩りながら自慢げな顔をしていた。
 
 「真純、聞いてくれ。素晴らしい逸品を手に入れたんだ。嬉しいだろ」
 「はいはい。何度聞きましたかねー、そのフレーズ。懲りない人だ」
 「我が『とーよーこびじゅつどー』にふさわしい一品だと思わんのかね」
 「思わない」
 
 兄をあしらうのは簡単だ。興味ない振りを見せればよい。ほとんど亡き父の道楽で開かれたこの骨董品店も、
あきれるぐらいひとのよい兄のお陰でただのがらくた市場に化してしまったことに真純は呆れ、そして父に申し訳なく思っていた。
真純の気持ちを汲まずにこの兄がどこで手に入れたか分からないが、何となく骨董品と見える代物を大事そうに風呂敷から取り出した。
木製のテーブルの上に置くと、硬いものがあたるような重い音がした。唐草模様があしらわれた小箱は職人の腕が光る品。
 
 「江戸中期、尾張藩徳川家に伝わる秘蔵の品だぞ。漆が何とも言えないだろ」
 「かぶれろ」
 「見せたいのは中身。ほら」
 漆黒の箱を開けると陶器で出来た小さな棒状の牌が整然と並んでいた。容器の色と反して眩しいぐらいに白い。
 それが不思議と真純の視線を釘付けにしていた。
 
 「『是無我』。武家の間で嗜まれた遊びの道具だ」
 「『ぜむが』って?ふざけた名前」
 「まず、競技者は大小の腰のものを見届け役に預ける。平らな板を用意して部屋の中央に備え、挑む者はお互い東西向かい合わせに
 正座する。東の者は西より身分は高い。そして、見届け役は北に座る。そして競技者は板の上に牌が違うように重ねて積み上げる」
 「それって、まさか」
 「積み上げる終えると、競技者は一礼して『牌、ひとつ抜き候』と言葉を告げると東の者から牌を引っこ抜く。
 牌の塔を崩さずにひとつひとつ抜かなければならない。そのため、集中力を要求されて武家の間では精神統一のために
 盛んに行われていたらしい。そして、塔を倒すぎりぎりまで牌を抜いてこれ以上抜けば崩れるという手前で『参りました』と宣告。
 もちろん宣告をした者の負けだ。分かっての通り、早々に降参の宣告をすることは武士として許されないことだがな」
 「ジェンガ……」
 「仮に塔を崩すような展開になれば、武家としては恥。ぶざまに倒して牌を欠くようなことをすれば、最悪切腹を申し付けられる。
 なのに、この牌は全く欠けもしていない。まさに無我の境地に達したと言えよう。後世にまでその名を残す誉高き品だなあ」
 
 兄は自慢の品を何度も何度も違う角度から眺め回し、真純は自分の毛先を摘んでいた。趣味の範囲なら見て見ぬ振りでもすれば
よかろうが、そうもいかない事情が乙女を悩ませた。
 
 「だかな、あまりにも腕が未熟で牌を欠く者も多く、家の恥だから見届け役と相手に幾らか握らせて牌をなきものにする例も少なくない。
 だから、完全な形で残ってるのは非常に珍しいんだぞ。最高記録は寛永五年・二十六牌か。しかし、よく見つかったなあ」
 「寛永五年、うそくさい……」
 「さて。陶器で牌を作ったもうひとつの理由に、湿気の多い日本独特の事情があって、江戸初期には木製の『是無我』も
 存在したらしいんだけど、梅雨の季節はどうも牌が抜きづらくなるらしい。木だと湿気を吸ってな。いろいろと職人をして試した結果、
 気温や湿度の変化に影響されない陶磁器を使うのがよいという結論がでたんだ。ほれ、この文献を見てみろ。『是無我』について
 書かれた貴重な文献だ。おそらく日本には数冊……いや、そんなにないであろう」
 
 真純は兄から手渡された見た目歴史を感じさせる一冊の本をめくり、兄から提示された部分を黙読する。
本を閉じるといやでもそのあと、冷たい目で兄を見ざる得なかった。
 「『水無月の頃は牌が湿りやすく……』、六月って書いてる。旧暦では梅雨じゃないよ、ね?」


 おしまい。

568 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/07/01(金) 22:34:49.22 ID:Qk+L3025
梅雨はまだ明けてないけど!
投下終わり!

569 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/02(土) 08:51:29.44 ID:5lYUui8K
7月入ったし新しいお題でも出さないか

570 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/02(土) 13:12:59.65 ID:zuEPz+8L
では「風鈴」

571 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/02(土) 18:32:37.25 ID:3CTYDZzz
誰かが書いた途端にお題の話とか悪意があるとしか見えない
過疎板の過疎スレなんだからもう少しまてよ

572 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/03(日) 08:40:26.03 ID:kUJpPF3K
「お中元」

573 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/03(日) 16:01:57.68 ID:yyDNyUjH
カブトムシ

574 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/03(日) 20:33:59.50 ID:1aSn1pBm
>>567
ちょ〜っと無理、あったかな?w 是無我ってww
でも雰囲気の良さは流石っす
念の為に聞くけど、これ、史実じゃ……ない、よね?


>>536>>544を見て思ったけど、ここは創発の中でも人がいるスレだと思う(貴重だぞw)
けれど感想や雑談無く投下だけがあるスレは、いずれ廃れる気がする
投下乙だけでもいいんだ、無言で「はい次」繰り返してたら書き手、居なくなるんじゃね?

お題はもっとペース遅くてもいいんじゃねーかと
>>571のはもっともだと思うです

575 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/03(日) 20:48:36.63 ID:1aSn1pBm
>>567
ちょ〜っと無理、あったかな?w 是無我ってww
でも雰囲気の良さは流石っす
念の為に聞くけど、これ、史実じゃ……ない、よね?



感想や雑談無く投下だけがあるスレは、いずれ廃れる気がする
ここは創発の中でも人がいるスレだと思うけど
お題はもっとペース遅くてもいいんじゃね?
>>571のはもっともだと思うです

576 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/03(日) 20:49:37.08 ID:1aSn1pBm
ごめんなさい重複ですた↑

577 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/03(日) 23:04:02.30 ID:kUJpPF3K
前のお題が出てから半月以上もたってるし、流れが速くなった訳じゃないと思う。
投下直後にお題くれくれが出たのはよくないが、
正直消化の難しいこのお題に飽きた。前お題に「六月」が入っているし、
七月になったからには新しいお題が欲しかった

>>567のは今回つまんなかった。はっきりいって。
でもつまんなかったと書くのも角が立つと思った。
でもお義理で乙するのも気が進まない。
俺以外の面白いと思った誰かが感想書くだろうと思ったらこうなった訳だ。

いままでもスルーなんてざらにあったし、だからってスルーが横行するのも良くないが、
スルーされても書きたい奴は書くし、なにか心に残ることがあればレスがつく。
そういうもんじゃないの?

俺は感想なしの「乙」だけならスルーの方がまだいい
それともつまらんって書いちゃった方がよかったのか

578 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/04(月) 04:49:59.86 ID:i6imFy0o
つまらん、だとアレだが、面白くないと思ったなら、ちゃんとその理由が
添えてあるなら、別に書いても構わないと思うぞ。
書き手的にはむしろスルーや乙だけよりそっちの方がいい・・・という人も
多分それなりにいる・・・よな?
俺も「ここはこうした方が良かったんじゃないか」的な事は稀によく書くし。

>>567
最後に出てきた文献、発刊元が民明書房だなw

579 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/04(月) 14:43:39.55 ID:5IZuk0pA
辛口レス・指摘レスを受けてマジキマグロ事件をお題を盛り込んだ謝罪原稿に仕立て上げた人もいるしな

580 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/04(月) 16:40:21.27 ID:/C2/Viz+
日本語で

581 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/04(月) 18:28:53.75 ID:5IZuk0pA
スレ読め

582 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/04(月) 19:59:15.79 ID:JEK8Al0G
マジキチマグロはワロタ。

583 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/06(水) 21:24:35.57 ID:WauA2nBD
「風鈴」「お中元」「カブトムシ」でええんか?ええのんか?ほな、イクで!

584 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/06(水) 21:33:36.47 ID:GkqrTXI3
ああっ!ご無体な、旦那はんっ!もう…好きなようにしておくれやすっ

というわけで次のお題
「風鈴」「お中元」「カブトムシ」でよろしゅうおたのもうします

585 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/07(木) 05:27:05.82 ID:EsJmEs//
なんだよそのやり取りw

586 名前:「風鈴」「お中元」「カブトムシ」 ◆91wbDksrrE :2011/07/07(木) 05:35:04.00 ID:EsJmEs//
「カブトムシってどうだろう?」

 とある糞暑い夏の日、彼はそんな事を言い出した。

「……何が?」

 カタログを見ていた私が目を上げると、そこには喜色満面で親指をグーっとしている
彼の姿があった。口を開かなくても、どうだ名案だろ!と言考えてる事が如実にわかる、
そんな笑顔であった。正直、暑苦しい。不快指数が増す。お前は黙ってクールに佇んでろ。
その方が癒されるんだから――という罵声を浴びせる事は、私に残った微かな理性が
思いとどまらせた。罵声を浴びせていつものように泣き出されでもしたら、ますます暑苦しく
なるだけだからね。
 しかし、この人は……まさかとは思うが、カブトムシをアレにするつもりなのだろうか?

「いやさ、子供のいる家庭には絶対うけると思うんだよ!」

 ……どうやら、そのつもりらしい。
 私が見ているカタログは、近所のコンビニから貰ってきたお中元のカタログだ。
そろそろ申し込みをしておかなければ、早期割引が効かなくなるので、数日中に
何をどこに贈るか決めなければならない。
 つまり、彼は、お中元にカブトムシを贈ったらどうだろうか、と提案しているという
事になる。故に私は口を開いた。数多の罵声を自動小銃(FullAuto)のように浴びせ
かける事は、私の中にかろうじて残った今にも蒸発してしまいそうな良心が思いとどまらせ、
結果口から飛び出た言葉は一つだけだった。

「……頭沸いてんのか?」
「」

587 名前:「風鈴」「お中元」「カブトムシ」 ◆91wbDksrrE :2011/07/07(木) 05:36:06.78 ID:EsJmEs//
あ、すいません、間違えて書きこんでしまいました。

588 名前:「風鈴」「お中元」「カブトムシ」 ◆91wbDksrrE :2011/07/07(木) 06:05:37.52 ID:EsJmEs//
「カブトムシってどうだろう?」

 とある糞暑い夏の日、彼はそんな事を言い出した。

「……何が?」

 カタログを見ていた私が目を上げると、そこには喜色満面で親指をグーっとしている
彼の姿があった。口を開かなくても、どうだ名案だろ!と言考えてる事が如実にわかる、
そんな笑顔であった。正直、暑苦しい。不快指数が増す。お前は黙ってクールに佇んでろ。
その方が癒されるんだから――という罵声を浴びせる事は、私に残った微かな理性が
思いとどまらせた。罵声を浴びせていつものように泣き出されでもしたら、ますます暑苦しく
なるだけだからね。
 しかし、この人は……まさかとは思うが、カブトムシをアレにするつもりなのだろうか?

「いやさ、子供のいる家庭には絶対うけると思うんだよ!」

 ……どうやら、そのつもりらしい。
 私が見ているカタログは、近所のコンビニから貰ってきたお中元のカタログだ。
そろそろ申し込みをしておかなければ、早期割引が効かなくなるので、数日中に
何をどこに贈るか決めなければならない。
 つまり、彼は、お中元にカブトムシを贈ったらどうだろうか、と提案しているという
事になる。故に私は口を開いた。数多の罵声を機関銃(流石にセーラー服という歳ではない)
のように浴びせかける事は、私の中にかろうじて残った今にも蒸発してしまいそうな良心が思い
とどまらせ、結果口から飛び出た言葉は一つだけだった。

「頭沸いてんのか? っていうか、お前の風鈴みたいにいい音がしそうな頭でも、沸くだけの
 中身は詰まってんだな」

 ……失敬。二つだった。

「……だめ、ですか?」
「駄目に決まってるだろうが! んな世話やらで手のかかるもん、贈られる方の身になってみろ!」

589 名前:「風鈴」「お中元」「カブトムシ」 ◆91wbDksrrE :2011/07/07(木) 06:05:50.66 ID:EsJmEs//
 とたんに涙目になって上目遣いになる彼。まったく、なんでこんなアホと連合ってるんだか、時々
自分でもわからなくなる……が、その涙目上目遣いに、私の心がゾクゾクと悪寒を覚えたかのように
震えるのが、その答えという事なのだろう。暑苦しさは確かに増してしまったが、それとは関係なく、
身体が熱くなる感覚が、私の中を走りまわる。ゴクリ、とつばを飲み込む音が聞こえた気がしたが、
そのつばを飲み込んだのは一体誰だろうか。
 世の中、凹凸は上手くはまり込むように出来ている――いや、あの、エロい意味ではなくてね?
 いや、やっぱりエロい意味でもある、のかな? ……よくわからないわね、自分でも。

「そんなぁ……せっかく考えたのにぃ……」

 どこか中性的で、黙っていたらまるで何かの彫像のようにも見えるクールフェイスが、今は涙に濡れ、
どこぞの乙女のようになよなよとした雰囲気を漂わせている。まあ、いつもの事だ。何故かその頬が
わずかに赤くなっているのも、これまたいつもの事だ。

「お前の無い頭使ってもろくな事考えつくわけねえだろうが」
「ううぅ……」

 磁石のSとNのように、アレとアレはくっつくのである。
 もちろん、私はS。そして彼は……言うまでもないかな?

「お前は頭使わずに身体使え身体。ほら、夕飯の買出し行って来い! ただし、寄り道せずに帰ってこいよ?」
「もし、寄り道したら?」
「……オ・シ・オ・キ・か・く・て・い・よ」
「い、行ってきまーすッ!」
「今日のご飯は冷やし中華だからなーッ!」

 ……ありゃ、間違いなく寄り道して帰ってくるわね。顔が恍惚としてたし。ちゃんと冷やし中華の材料買って
きてくれるんだろうか? 
 まあ、でも、そんな事を思いながらも、私も似たような顔をしているんdと思う。
 結局、私たち二人は、全く違うけど、やっぱり似たもの夫婦なんだろう。

「さて、お中元御中元、っと……」

 そういえば、三丁目の三木さんとこのたかし君、カブトムシ欲しいって言ってたっけ……。
 ……一応、電話して聞いてみて、オッケーでたら、彼の案もいれといてやるか。

                                                        おわり

590 名前:「風鈴」「お中元」「カブトムシ」 ◆91wbDksrrE :2011/07/07(木) 06:06:17.83 ID:EsJmEs//
ここまで投下です。

>>586は失礼しました。

591 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/08(金) 14:20:14.29 ID:rJUoaJNo
なんかニヤニヤしたw

592 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/07/11(月) 17:06:04.89 ID:/vJWf5Li
「風鈴」「お中元」「カブトムシ」で投下します。


 カブトムシからお中元が届いた。品は風鈴だった。本当の送り主は分かっている。
 彼と一緒に暮らし始めて一年が過ぎて、二度目の夏を迎えたあの日。ふと、わたしがこぼした言葉。
 「窓が寂しいよね」
 だからといって偽名を使ってまで買ってこなくてもいいじゃないか。
それでもカブトムシから届いたと彼は譲らない。じゃあスイカぐらい買ってきてあげる。お中元返しに。


  おしまい。


……以上です。

593 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/12(火) 01:54:28.11 ID:I5Pz9SuS
なにこのニヤニヤシリーズw

にしても短いなおいw

594 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/13(水) 08:30:38.50 ID:yZhP0FJJ
>>592

短いけど乙www

595 名前:「風鈴」「お中元」「カブトムシ」 ◆fYyeotwGiw :2011/07/14(木) 15:09:30.72 ID:BomtCIa7

 風鈴が鳴った。
 わたしははっと目を開けた。いつの間にか眠っていたようだ。
 吊るされた風鈴の方を見た。窓から差し込む日は高い。まだ昼過ぎらしい。どれくらい眠っていたのだろうか? 
 目線を落とすと箱が置いてある。箱には「お中元」と書かれた熨斗が巻かれている。
そうだ、確か親戚に出すお中元の手紙を書いていたところだ。
この箱の中身は近所の銘菓店で売れ筋の和菓子詰め合わせだ。わたしも好物だ。
 箱を眺めていると、違和感を感じた。箱は丁寧に包装されている。誰が包装した?
 店での包装は頼まなかったはずだ。手紙を書いてから箱と一緒に包装しようと思ったからだ。
しかしわたしはまだ手紙を書いている途中だったはずだ。それに包装した覚えも無い。
 わたしは辺りを見回した、どこにも書きかけの手紙はない。机の下も見てみたが落ちていない。
つまり、わたしは無意識のうちに手紙を書き終えて、包装し終わってから一眠りしたということだろうか?
 覚えていないのは、まだ寝ぼけているからか暑さのせいだろうか……。
 暑さ。わたしは再びはっとなり、風鈴の方を見た。
 違和感を感じた。風鈴は室内に吊るされている。おかしい。窓は閉まっている。風は入ってきていない。
 室内には冷房機器は一切無い。わたしはそういった物が嫌いなのだ。
自然な風を取り入れれば充分に暑さは凌げる。だからわたしは夏場は窓を開けて過ごしている。
夏場。そう、今は夏のはずだ。なのに、あまり暑くない。これはどういうことだ? 
窓を閉め切っているにも関わらず、この部屋はまったく蒸していない。
体感温度は25度前後だろうか。暑くも無いし寒くも無い、快適な室温といえる。
 わたしは立ち上がった。体中から深いな汗が染み出してきた。暑さのせいではない。窓に近づき、障子に手をかけた。 


596 名前:「風鈴」「お中元」「カブトムシ」 ◆fYyeotwGiw :2011/07/14(木) 15:12:18.43 ID:BomtCIa7
 トン。
 外から窓に何か黒いものがぶつかった。わたしは驚いて一歩を身を引いた。
ぶつかった物に目を凝らすと、それはカブト虫だった。6本の節足で窓に張り付いている。
必然的にわたしはその腹を見る事になる。虫の腹というのは視覚的に快いものではない。
わたしは眉をひそめて目を逸らした。
 トン。トン。
 また何かが窓にぶつかる音がした。ノックのようだった。
 見ると、やはりカブト虫だった。今度は2匹、合計3匹になった。しかもどれも大きい。
わたしは首をかしげた。こんな住宅街にカブト虫がほいほい居るものだろうか。
 1匹がぶぅんと羽根を広げた。すると他の2匹もそれに倣った。
 胸が早鐘をうちはじめた。体中の汗がとめどなく滂沱する。わたしは声にもならない悲鳴をあげた。
 無数の黒光する塊がこちらに向かってくる。見なくてもわかった、カブト虫だ。何匹いる? 30匹では効かない。
 ドン! ドン! ドン!
 弾丸のようにカブト虫は窓に激突し、へばりついた。その数はどんどん増えて行く。
 ドン! ドン! ドン!
 窓はあっという間にカブト虫で埋め尽くされた。黒い節足がもぞもぞと蠢いている。
わたしはその場にへたり込んだ。角と角が交差し、ぶつかり合い、かつんかつんと窓に当たる。
彼等の一匹一匹がわたしを見つめている気がした。その口器がわしゃわしゃと動いている。
それを見た途端わたしは悟った。彼等はわたしを餌にしようとしているのだ。
 カブト虫に歯はない。樹液を吸って栄養とするからだ。彼等の口はブラシ状になっている。
それでは人間の皮膚を切り裂き肉を抉ることは出来ないだろう。ではどうやって人間を餌にするのか? 
わたしは腐乱死体の体内から無数のカブト虫が出てきたという話を思い出した。
そうだ、彼等は穴という穴から体内に侵入するのだ。
鼻腔を押し広げ、眼球を潰し、舌の上を這い、肛門から腸へ行軍するのだ。
そしてわたしの血を、臓腑を、脳味噌をレモネードのように吸い、食い荒らすのだ。
 顔の筋肉が恐怖で顫動した。窓がきりきりと音と立てた。奴等は突き破ってくる気だ。
カブト虫の数は刻一刻と増え続けている。おそらく、背後からどんどん新たなカブト虫が衝突しているのだろう。
 と、窓ガラスの面にへばりついていた一匹が六肢を広げた。すると、ぺきゃっと音をたて潰れた。
黄土色の液体が窓を流れる。それを合図に、一匹、また一匹と次々とカブト虫は耳障りな音を立てて潰れていく。
 ぺきゃ。ぺきゃ。ぺきゃ。
 瞬く間に窓は奴等の体液に塗り固められた。四散した肉体はずるずると滑り落ちていく。
潰れた奴の後ろに居た奴が新たに窓に張り付き、そして背後からの重圧で潰れる。
 窓枠がみしみしと音を立てた。もう長くは持ちそうにない。
 わたしはなんとか立ち上がり、部屋から出ようと扉へ向かった。
 ドアノブに手をかけた時、天井からぱらぱらとなにか落ちてきた。それは石膏に間違いなかった。
 まさか、奴等はこの家全体を取り囲んでいるのか?
 そう考えた瞬間、家中が軋む音が聞こえてきた。
このままでは奴等の餌食になる前に、家に押しつぶされて圧死することになる。
 背後から効きたくない音が聞こえてきた。氷が解ける時のような音。わたしは恐る恐る振り返った。
窓に一筋の皹がはいっている。面が歪み、皹が更に何本も入った。わたしは口元を押さえた。恐怖で吐きそうだ。

597 名前:「風鈴」「お中元」「カブトムシ」 ◆fYyeotwGiw :2011/07/14(木) 15:14:39.07 ID:BomtCIa7
 みしみしと音がして、窓を中心にして壁に亀裂が入った。
 わたしは机に駆け寄ると、お中元の箱を手に取った。どうせ最期なのだ。大好きな和菓子を味わってから死のう。
 乱暴に包装を破り捨て、箱を開いた。中には確かに手紙が入っていた。
しかし、手紙しか入っていなかった。和菓子はどうした? わたしは和菓子が食べたいんだ!
 わたしは空っぽの箱を足元にたたきつけた。わたしは悲しくなり涙を流した。
死ぬ間際だというのに、些細な願いも叶わないのか。
 壁の亀裂は更に広がり、部屋中を動脈のように這っていく。わたしは崩れ落ちた。
すると、先ほどの手紙が目にともった。畳まれていた手紙は、先ほどの衝撃で開いていた。

 風鈴を鳴らせ。

 手紙にはその1文があるだけだった。どういうことだ。なぜこんな手紙が入っている。
しかもこれは間違いなくわたしの筆跡じゃないのか。わたしがわたしに手紙を書いたのだろうか。
わたしはやはり暑さで頭がおかしくなったのか。
 わたしは和菓子の空箱を手に取った。わたしがわたしに風鈴を鳴らせといっているんだ。
それならそうするのがわたしの役目だろう。わたしは振りかぶり、箱を風鈴目掛けて投げた。
その刹那、地鳴りのような音とともに壁面がくだけ、黒い雪崩が流れ込んできた。
前から、後ろから、左右、そして上からも。
同時に、放たれた空箱は風鈴をかすめた。

 風鈴がなった。
 わたしははっと目を開けた。いつの間にか眠っていたようだ。
 吊るされた風鈴の方を見た。窓から差し込む日は高い。まだ昼過ぎらしい。どれくらい眠っていたのだろうか?
 目線を落とすと箱が置いてある。その傍には包装用紙と、お中元と書かれた熨斗がある。
 そうだ、確か親戚に出すお中元の手紙を書いていたところだ。わたしは手元の便箋に目をやった。
おかしなことに、そこには「風鈴を鳴らせ」と書かれていた。はて、どういう意味だろうか。こんなもの書いた覚えが無い。
わたしは便箋を丸めて屑篭へ投げ入れた。新しい便箋を用意し、万年筆を握った。
 開け放たれた窓から心地よい風が吹き込んでくる。風鈴が涼しげに鳴った。
ふと、その音に乗って一匹のカブト虫が机の上にとまった。

                                          おしまい

598 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/15(金) 00:36:39.12 ID:WHw3/I8w
気持ち悪っ!
カブトムシ気持ち悪っ!

599 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/15(金) 07:53:54.13 ID:pUWHK4//
こ、こわー!

600 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/15(金) 16:10:34.06 ID:i5M0TTpl
見事な夢オチ。

601 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 03:32:15.16 ID:s5RH4Yup
お題クレクレ

602 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 08:31:13.00 ID:pz1Zjr+E
「頭蓋骨陥没」

603 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 10:39:47.65 ID:vlTlw3HA
「戦場のメリークリスマス」

604 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 10:45:40.67 ID:ni2DlrId
「ダイソン球

605 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 14:50:21.83 ID:XEF9WnkG
空気を読まずに前のお題で投下

606 名前:【風鈴】【お中元】【カブトムシ】1/2:2011/07/16(土) 14:52:35.80 ID:XEF9WnkG

 夏色で満たされた絵はがきが届いた。

『 海の日三連休。今年もヨロシク! 』

 東京近郊の大学で知り合い、もう十年来の付き合いになる友人からである。

 青と藍。
見知らぬ浜辺で撮られた画像は、パソコンの処理もあってかポップで季節に相応しい仕上がりだった。

「でも、これじゃあ雰囲気台無しだ」

 くすくすと声を上げて笑う。
毎年のことだが、暑中見舞いに余った年賀はがきを使うのは如何なものかと問いただしたい気分になる。
でも彼女は笑いながら、もったいないから。の一言で済ますだろう――


 たまたま誕生日が同じ。それだけだった。

 1/365 約0.274%
奇跡的な出会いと言う程、大袈裟な数字ではない。
だが高校を卒業し、新しい生活を始めたばかりの私にはそれだけで充分だった。

「さすがに親の前で昼間から堂々とお酒飲むわけいかないから」

 講義で隣り合った、山あい出身の田舎娘とベッドタウンに住むひねくれ娘は瞬く間に意気投合する。
齢十八にしてすでに大酒飲みの彼女は、お酒をかかえて頻繁に私のアパートに遊びにやって来た。
適当に切ったきゅうりやキャベツをごま油と塩で和え、ぽりぽりとつまんでは発泡酒をあおり、
安物のキムチに安物のさきいかをぶち込み、海鮮キムチだと盛り上がってはこれまた安物の焼酎を
酔いつぶれて眠るまで飲み続けた。
 月に一度、バイト代が入ると宅配ピザを頼んだ。
百万円のワインのつもりで三本千円の白ワインを浴びるように飲んだ。
うたかたの栄華に酔いしれ、大いに語り合い、そして案の定、二日酔いで死亡する。

 バカだった。でも楽しかった。
しかし、そんな青春の日々も長くは続かない。大学を卒業して迎えた三回目の夏。
田舎の父が脳梗塞で倒れた。
 別に大した夢も野望も持ち合わせていない私は、勤め先に事情を話し、お情け程度の退職金を
いただき田舎にひっこむことにした。

「その気になればいつでも会えるから、そのうち遊びに行くよ」

 駅のホーム。別れ際、彼女はそう言った。
携帯電話にインターネット。その気になればテレビ電話で顔を見ながら話も出来る。
連絡なんていつでも取れる。しかし実際に会うとなれば話は別だ。
 彼女の家、私の田舎。
地図上の直線距離なら200キロと離れていない。しかし山あいの田舎町を舐めてもらっては困る。
公共の交通機関と呼ばれるものは皆無に等しい。ひとつ乗り換えをミスれば一日を棒に振るような
陸の孤島である。

 大学を卒業して迎えた四回目、そして五回目の夏。
年賀状、暑中見舞い。突然思い出したように鳴る個別指定の着信音。
彼女との連絡が途絶えたことは無い。ただ、あの日かわした約束はいまだ叶えられていない。
 だが彼女を責めるつもりは微塵も無い。
車だろうが電車だろうがどんなに頑張っても六時間以上かかる。勢いだけで来れる場所ではない。
 そして程々に忙しいパートの仕事と、すでに運転免許を返納してしまった両親の足代わりと
なっている現状を、私は彼女に会えない言い訳にしていた――


607 名前:【風鈴】【お中元】【カブトムシ】2/2:2011/07/16(土) 14:53:56.38 ID:XEF9WnkG

 そして迎えた六回目の夏。

「いま何してる?」
「洗濯しながらぼーっとしてる」
「三連休?」
「ううん。月曜日は仕事です」
「ふーん、明日は何してる?」
「うーん、何もなければ暇つぶしに図書館でも行くかな、遠いけど」
「わかった」

 突然、彼女から電話が来た。そして唐突に切れる。
何なんだと思いながらも、洗濯機の終了ブザーは聞きもらさず、快晴のもと洗濯物をものほし竿にかける。

 そよ風と共に縁側の風鈴がちりんと鳴る。
ふと振り返れば、そこにはお中元を持った懐かしき顔があった。
残念ながら私の家には縁側も無ければ風鈴も無い。田舎ではあるがノスタルジーな世界とは無縁だ。
そんなギフトセットのCMのような風情ある景色は見られるはずもない。

 どばばばば。どる、どる、どる、どる。

 風鈴の代わりに鳴り響いた音は、暴走族を思わせる乾いたエンジン音だった。
宅配便のトラックかもしれないと玄関先にまわる。そこで私は思わず洗濯物を落とした。

「ういっす。久しぶり」
「はぁー!?」

 紺の短パンに白のポロシャツ。
涼しげな格好ながら額から汗をだらだら流している彼女がいた。

「ちょっ、何これ、どういうことよ?」
「あはは、驚いた?」
「あ、当たり前でしょ!」
「まあまあ、落ち着いて。それよりさ、車どこ置けばいいかな?
 さすがに車の中で昼間から堂々とお酒飲むわけいかないから」

そう言って彼女は隠し持っていた汗のかいた缶ビールを私の前に差し出した――



 そして迎える七回目の夏。

 私はあのうるさいエンジン音を首を長くして待っている。
絵はがきからすれば、彼女の相棒は今年も元気に爆音を轟かせやってくるだろう。

 紺碧のボディに小粋なメッキパーツで着飾ったフォルクスワーゲン。
カブトムシに乗って汗だくになりながらやってくる彼女の笑顔を、私は生涯忘れることはないだろう。


おわり


608 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 16:12:08.76 ID:ZCxL1aZ/
さわやかです!乙

このお題難しいかと思ってたけど意外に投下あったね

609 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 16:30:14.93 ID:SUvT+gPJ
投下乙。夏っぽいお題だし手はつけやすかったのかな。


そしてお題クレと言ってみたらさすが創発。手加減ねぇなw

610 名前:「風鈴」「お中元」「カブトムシ」:2011/07/16(土) 23:29:23.13 ID:udjwBOLP
風鈴の音がした――ような気がする。

私は視線を上げて正面を見る。小さな庭には古い竹垣があり、そ
の向こうは隣家の敷地である。
20かそこらの若い娘が一人で住んでいたはずだ。

私は盆栽の手入れをして、老いて動きの鈍くなった鯉に餌をやり
、芝狩り車をがらがらと走らせる。

私はしばしば竹垣のほうを見る。降り注ぐような蝉の声、暑気を
含んだ風が汗を乾かす。

私はもう70にならんとする老人だ。それが、近頃やたらと隣家の
ことが気になっている。ここ一ヶ月ほどは姿を見ていないし、そ
もそも話をしたこともほとんどない。愛想の無い隣人であったし、
私も輪をかけて愛想が無かった。

それが、どうしたことか、私は今のように庭の手入れをしている
とき、あるいは夕食の支度をしているときや、妻の仏壇に正対し
て経を唱えている時などに、ふと風鈴の幻聴を感じることがある
。硬質な、りいんという南部鉄器の風鈴の音――。
その時私は反射的に隣家のほうを見てしまう。それは大抵は虫の
鳴き交わしであったり、台所の洗い物が動く音だったりして、風
鈴の音ではなかった。

私は自分がなぜ、こんなに隣家を気にしているのかが知りたかっ
た。それはきっと、昨年までは聞こえていた南部鉄器の風鈴が、

今年は聞こえないからではないか、そんな理屈でとりあえず自分
を納得させる。あの鉄器の風鈴は特に良い音色だったし、夏の熱
気を貫いて届く鋭さが、金属に触れたときの冷やりとした冷感を
もたらすような気がしたものだ。
それが聞こえなくなり、気になっている。そういうことに違いない。

ある日、古い知人から中元が届いた。水羊羹の詰め合わせという
ありきたりなものだが、私はふと、これを隣家におすそ分けしよ
うという気になった。
なぜか、隣家を訪ねねばならない、という強烈な衝動に駆られた
ような、そんな気がした。私は水羊羹を紙袋に詰め、サンダルば
きで隣家を訪ねる。

玄関先から呼びかけるが、応答はない。

戸に鍵はかかっていなかった。
私はその横開きの戸を開けたとき、自分がなぜ隣家を気にしてい
たのか、その理由を知った。

私はサンダルのまま玄関に上がり、廊下を進む。
南部鉄器の風鈴は提げられていた。しかしそれは閉ざされた雨戸
の内側にあったため、音は届いていなかっただろう。

私はさらに歩を進め、奥の座敷へ至る。嗅覚への責め苦はますま
す強くなる。

そこにはこの家に住んでいた若い娘が風鈴のように提がっていて
その体には、カブトムシが群がっていた。


611 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/17(日) 18:11:41.59 ID:+q7ACzzI
ヲハリ?

612 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 11:09:03.30 ID:dH3quRQ/
ホラー風味か

ところで新お題ムズいです、もう一つ下さい

613 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 13:38:29.79 ID:4Owy8Ypc
仕切直し?

614 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 16:20:51.78 ID:+LBXZWKM
新お題出てまだ三日だし、クレクレした人が創作中かもしれないから
とりあえずこのままでいいと思うが。
個人的に、お題が難しいから別のお題くれっていうのはなんか違うんじゃないかと思う。



615 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 16:40:02.75 ID:PGXMAk5P
クレクレした人だが、今まったく何も考えてないし他のお題来たって別にいいよ。現に前のお題とか拾う人もいるし。

というかお題難しすぎるだろコレw

616 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 16:47:01.34 ID:jEPN/9ak
ならば俺が書こう

617 名前:頭蓋骨陥没骨折、戦場のメリークリスマス、ダイソン球:2011/07/19(火) 17:41:06.53 ID:5x9MkVNo
恒星を囲む居住トンネルリングの改修中、私は大怪我をした。
旋回する自走アームの腕に頭をぶつけてしまったのだ。
医科診療区に下層IDを持ってふらつきを我慢して掛かった。
「あー、これは治すの大変だわ。記憶と意識をアップロードしてその有機体は帰天させなさい」
頭骨の陥没骨折と診断された。
恒星からのエネルギーを全て回収できるダイソン環型のこの街では、生身は奢侈品、ロボティクスは代替品なのだ。
良い身体なのに、勿体ない。
下層では男にとみに繁殖を迫られるほど良い身体だった。
私は自分の不注意を悔いた。


ダイソン環から恒星に昇るための隔壁が開かれた。
私は片道分の酸素が入ったボンベと型落ちの廃棄予定宙行服を着せられ、恒星に向かう。
かつて人が青い星に住んでいたころ、太陽は神だった。
今、私が住むこの街では、神は環の中心の恒星だ。
神のもとへ帰える、それが帰天。
恒星の強力な重力に従って、私は降下をはじめる。
物理的には降下だが、宗教的には上昇している。
コウマクカケッシュというものが既に併発しているそうで、私はもはや、曖昧にしか物が見えなくなり始めていた。
ライブラリで聞いた過去の星の流行歌を、ふと思い出す。
「……♪」
歌詞は無い。
ピアノのメロディだった。
恒星の光が熱い。
視界が全て恒星で覆われる。
燃えて、対流し、発光し、躍動している。
確かに神というものを感じてしまいそうな、荘厳な光景だった。
私はそこまで観測し、ダイソン環への記憶のアップロードを止めた。
せっかく機械の身体になるのだ、死を経験することはない。
今この瞬間の死は私だけの死にしよう。
「……♪」
ハミングが終わる頃に、私も終わるだろう。


終わり

618 名前: ◆4c4pP9RpKE :2011/07/19(火) 17:45:10.06 ID:5x9MkVNo
思い付くままざっくり書いてみました

619 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 17:49:20.68 ID:JSMaihRa
書いたんかいw 乙www

620 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 23:50:03.81 ID:KlgE90X0
それなりにおもしろい

621 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/21(木) 14:14:40.00 ID:mQaSjEqk


622 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/21(木) 18:39:43.74 ID:Srn5PJNT
後は>>616待ちだな

623 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/21(木) 23:32:07.80 ID:Dwbgfh5j
http://www.vector.co.jp/soft/win95/amuse/se490959.html

624 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/22(金) 21:14:46.58 ID:T4U9gP4a
書こうと思ったけどのらないので次のお題どうぞ

625 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/22(金) 21:44:20.66 ID:sJqBbiLH
「行き詰った作家」


べ、別に俺たちの事じゃないんだからねッ! 決して俺の事じゃないん(ry


626 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/22(金) 22:40:02.72 ID:jM8HUIuL
難しいお題は解決するだけで感性を大幅にロスするから出来上がるものが凡庸になる、誰も得しない
そんなことを踏まえつつあと2つお題どうぞ

627 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/23(土) 00:07:08.58 ID:WkMOKCzp
いやいや、脈絡のない無茶振りお題のごった煮から
時に思いもしないミラクル化学反応が起きるのが三題噺

「喫水線」

628 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/23(土) 03:56:51.00 ID:UmrWqkof
ならばあえて和むお題を・・・

「いないいないばあ!」

629 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/23(土) 08:24:13.82 ID:AVwt13Qr
「行き詰った作家」「喫水線」「いないいないばあ」
で決定

なかなか良いんじゃないかな?
なんか筒井康隆が書きそうなお題だw

630 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/23(土) 20:36:28.54 ID:SHOrtU5E
喫水線て耳慣れない言葉だなぁ
誰か早めに消化して書いてお題チェンジに導いてくれ

631 名前:息詰まった作家、喫水線、いないいないばぁ:2011/07/27(水) 16:56:18.69 ID:ne7NX5Vp
たとえるなら、水面に揺れる船舶の喫水線に縛り付けられてイルカにいないいないばぁし続けているような息苦しさである。

「オーゥ、Sit!なんのアイデアも浮かばねぇー!」

行き詰まった作家に光明が射すのはまだ先のようである。
おわり

632 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/27(水) 16:57:52.11 ID:ne7NX5Vp
お題チェンジしようぜー

633 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/27(水) 17:48:27.89 ID:H3hiXsOG
お題「ランドセル」

634 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/27(水) 18:26:12.07 ID:3OTY5gyU
神田川

635 名前:創る名無しに見る名無し:2011/07/27(水) 23:30:12.37 ID:eRCK7qVx
「時計」・・・・・・とか。

636 名前:「行き詰った作家」「喫水線」「いないいないばあ」:2011/07/31(日) 18:43:36.22 ID:ffqTop0G

私は仕事が行き詰って叫び声を上げたい衝動に駆られた時に、フェリー乗り場に行く癖があった。

私の思い違いかもしれないが、最近は叫び声をあげる人が少なくなった。私のような貧乏作家が
借りるような1DKの安マンションの、階下の若いカップルでさえ、滅多に喧嘩をすることはなかった。
私が大声を上げる人を目にする時は、決まって電車やバスに乗り合わせた、知的障害者がその
声の主だった。嫌な時代になったものだ。

来月までにどうしても書き上げなければならない原稿の終盤がどうしてもまとまらず、私はいつものように
自転車を走らせて通りを西のほうに向かった。いくつかの橋を渡り、倉庫を抜けると、そのフェリー乗り場
はあった。なぜフェリー乗り場に行くのかというのも自分なりの理由があって、どこかに逃げ出したいという
現実逃避と、踏み止まらなければならないという自己抑制のギリギリのマッチングに、ちょうどこの大きな
ターミナルがあっているように思えたからだ。行く当ても無いことを自覚することで自分の行き止まりを
つくり、車の通らない通路の片隅で海に向かって適当な叫び声を上げて帰路に就く。まるで昔の
安っぽいドラマそのもののような行動なのだが、私には安定を保つための行動として、それ以外には
思いつかないのだった。

人気の少ない埠頭のはずれにたどり着いた時、夕日は水平線の中に沈みかけており、あたりは
もう夕闇の中に包まれつつあった。ちょうど一隻のカーフェリーが出航したところで、これからゆっくりと
私の目の前を横切って、防波堤の間を通り抜け内海へ出て行く。何度も見慣れた光景だ。しかし、
私は沈黙したまま小さく波しぶきをたてて進んでいくフェリーに見入ってしまった。ルーチンワーク
と化したストレスの発散作業よりも、なぜかそちらの方が大事な事のように思えてしまったのだった。

薄暗い青色に染まったフェリーの船体と、さらに深い黒紺色に沈んだ海面に挟まれた喫水線を、
何かに憑かれたように凝視し続ける。自分の気持ちが沈んでいる事も、据わった眼差しで佇む
自分の姿さえ意識しながら、なお視線を変える事ができなかった。俺もあの海の向こうへ行けば・・・、

「いないいない、ばぁ!」
「わーっ!」
私は突然の事に、いつもと変わらないほどの大声、声の内容と方向性は違っていたが−、を上げると、
あわてて後ろを振り返った。すると真後ろに小学生にも満たないであろうか半ズボンをはいた小さな
男の子が、顔を手で隠しながら、こちらを向いているのだった。

「いないいない、ばぁ!」
もう一度、同じ声を出しながら掌を顔から開けた幼児と目があった。薄闇の中でも、その幼児の小さな
瞳はわずかに輝きを放ち、にっこりと笑っているのがはっきり見えた。

「べーた、そっちにおるんか」
通路の向こうにある駐車場の方から男の声が聞こえてきた。目を向けるとこっちに向かって歩いてくる
人影が見える。
「べーた、こっちに来い」
やがて人影は小走りになっていき、もう一度声がかかる。幼児の方はまだよく事態が掴めない
様子で、少し戸惑った顔をしてあたりを見回していた。近づいてきた男は私よりすこし背が低いように
見えたが、明るい色のポロシャツを着ているようで服装は多少似通っていた。

「どうかしたんですか」
男が私に話しかけてきた。
「いえ、私は時々この辺を散歩するんですが、どうもこの子が私をあなたと勘違いして驚かせに
来たんですよ、元気なお子さんですね」
相手の表情からはそれで納得したのかどうかは窺い知れなかったが、子供は自分の父親を認識
したらしく、男の方に駆け寄っていく。
「はよう、」
男は子供に手を伸ばして促すと、子供の手をとってこちらに背を向けた。それで終わりだった。私も
面倒なことにならなくて良かったと安堵すると、自転車にまたがりすぐにその場を離れた。自転車を
漕ぎながらもうここに来る事はないのだろうか、と思ったが、あの子供の顔を思い出し、それほどの
ことでもないだろうな、と思った。そしてまた自分はあの埠頭に行くことになるのだろうか、再び考える
のだった。 



637 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/01(月) 01:57:39.59 ID:OmjKmdOI
何かが掴めそうで掴めないようでつかめる、不思議な文章だね。
逃げ出すか踏みとどまるかの境界線の上で、一歩踏み出すかどうかは
ホントに些細な出来事に左右されるよなぁ。

638 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/01(月) 23:44:33.42 ID:2oz9yhE3
波止場の景色には人生に行き詰まった者がなぜかしっくりくる…

描写がよかったっす

639 名前:ランドセル・神田川・時計 (1/2):2011/08/21(日) 02:15:56.27 ID:RA6L8J15
田舎のじいちゃんが急に息子夫婦(俺からみたら父親だ)のすぐ隣に越してきたのは、
てっきりばあちゃんが死んで寂しいのかと思ったら違ったらしい。少し違ったらしい。
じいちゃんがフリーになったが為に老人会のご婦人方が恋愛トラブルを起こし、
面倒臭くなって逃げたんだそうだ。マジか。

とりあえず、こんど小学校にあがる妹はジィジにランドセルを買ってもらえて喜んでいる。
両親は共働きで俺は部活が忙しくて、寂しかったんだろうし、良かったと思う。

妹はまだ入学まで日があるのに、ランドセルをしょってクルクル回って跳びはねている。
「ねーねーランドセル! 似合う? にあうー?」
「おーぉ、本当に似合うよ、もうすっかりお姉さんだなー」
じいちゃんは蕩けそうな顔をして、何回も同じことを訊かれるたびに、何回も似合うよ、と答えている。

「にいちゃんは? あたしお姉さんだと思う?」
いやいや妹ですよ。
「思うよ、お姉さんだねー、似合ってるよー」
「ぇへへへへぇー」
妹は照れてクネクネした。そのたびに背中で跳ねる、水色の、ランドセル。
近頃じゃ珍しくないそうだ。お兄ちゃん時代の流れについていけないよ。

「おっにいちゃんにー♪ ほめられたー♪ るるる〜、ほらジィジもっ」
「ジィジ踊りわかんないよ」
「手! 手つないでっ、こうやってっ、るる〜、る〜、わーかーかーあったーあぁのころ〜」
「なんで神田川?!」
「なにもーこわくーるらるら〜♪」
「……俺の鼻歌が移ったのか? 6歳児には早いだろ神田川、若いどころか幼いくせに」
妹は振り回していたジィジの手をぱっと話して俺につっかかる。
「はやくないもん! 幼稚園が若かったころだもん」
「いやいやいや。じゃあ俺もうジジイになりますけどその計算」
「そうだよっ。お兄ちゃんは、おじいちゃん」
「オイ」
「あはは、じゃあジィジはどうなんだー?」
「ジィジはねー、若いの!」
まじですか。
「ジィジはもてもてだからね、若いんだよ!」
ホワイトデーとその1ヶ月前をスルーで乗りきったばかりの俺に会心の一撃!
「ははは、そうか、ジィジ若いのか」
じいちゃんは嬉しそうに笑う。皺だらけの顔を皺だらけにして笑う。



640 名前:ランドセル・神田川・時計(2/2):2011/08/21(日) 02:16:38.55 ID:RA6L8J15
そもそも何だよその基準。年齢だよって訂正してやりたかったけど、でもきっと
「じゃあ何歳なの」って煩くなるから、流すとして。
俺だって若いのになあ。県大会で良いところまでいったし、青春してるよ。

じいちゃんはデジカメを持ち出して妹を撮りはじめた。老いた指先が銀色のボタンを操作する。
結婚して、孫までできて、妻に先立たれ恋愛トラブルを起こす。想像もつかない人生だ。

時計の針はいつだって進み続ける。
緑色のランプが録画中を示して明滅する。
カメラのレンズがこちらを向いた。
「俺も録るのかよっ」
身をよじって、避けるそぶり。……さっきの妹と一緒じゃん。
「撮るよー。あとでお父ちゃんとお母ちゃんに見せるからな」
「見せなくても夜には普通に会うよっ」
「あれ、そうだったか? じゃあ結婚式で流す用だな」
「なにそれいらねー」

謎の踊りを踊る妹にフォーカスは移って、気恥ずかしさから解放。
結婚式は置いとくにしても、そんな動画、パソコンの隅っこで容量とって眠るだけなのにな。
いつか、見返すのかどうか。見るとしたら、きっとすっかり忘れた頃だ。
高校生になってるとか、もっと先とか。

時計の針はいつだって進み続ける。
忘れる記憶は沢山あるんだろう。こんなただの日常を切り取ったって、
切り取って置いたソレは「あの頃」の物になる。
妹はいつまでも幼稚園児じゃない。じいちゃんだってずっとじいちゃんだった訳じゃない。
俺はまだまだこれからも若いけど、いつかは若くなくなる。若かったあの頃、になるだろう。

「録画停止は、ええと、これだったかな。よし。……おぉ、撮れてる撮れてる」
見せつけられたさっきの録画には、ランドセルに喜ぶ女の子と、少し照れてカメラを見る俺がいた。
若い? 幼い? 大人びてるかな? そんなガキには見えないのは、今の俺だけかもなあ。

にこにこ画面を見つめるじいちゃんの年齢に、俺もいつかはなるとして。
ランドセルは何色だろう。録画器機はどんなのだろう。

……神田川を歌うガキはまだいるのかな。
液晶画面の妹の踊りに、そんなことを考えて、俺は少しだけ笑った。


おわり。

641 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/22(月) 07:35:20.79 ID:QVe9iZNe
投下乙

642 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/22(月) 12:26:55.65 ID:C8RuUozY
そろそろ次のネタを

643 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/23(火) 13:09:20.53 ID:vFvppE0n
>>639


ほのぼのだねえ

644 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/24(水) 23:17:33.39 ID:k5+KJL+i
ジジイがいい感じ

645 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/26(金) 14:11:10.62 ID:UIquROW1
ほのぼのしてからしんみりした
時々はじいちゃんとばあちゃんの顔でも見にいこうかな

646 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/27(土) 00:37:49.44 ID:a8xh4zVo
大切にしたいね。こういうつながりは。

647 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/28(日) 00:00:29.43 ID:Ew8W2K/S
>>602-604で投下!

遥か未来の話。
人類は恒星間航行技術を手に入れ、ついに知的生命との接触に成功する。
一方で、太陽のエネルギーを有効に使おうと、太陽系を丸ごと囲う「ダイソン球」建設の計画が火星で持ち上がる。
こうして、貿易派の地球と、「鎖太陽系」派の火星との間に、人類史上初の惑星間戦争が勃発した。
戦火は勢いを増し続けたが、徐々に火星側が有利になってゆく。
人類は今にも故郷の星地球を滅ぼさんとしていた。

昔は都市だったのだろう荒野。
地球上のどこを見渡しても、それはもはやありふれたものとなっていた。
そんな場所に、食料を求め旅を続けていた男が辿り着いた。
男にはもはや力は残っていなかった。
ここにあるはずだった都市が最後の希望だったのだ。
しかしそれも今途絶えた。
男はこの地でその生涯を終える。
男が最期に見たのは白骨死体だった。
頭がい骨が陥没している。
運悪く火星から投擲された隕石にでも当たったのだろうか。
男は静かに目を閉じた。
その直後、男の死を悼むように雪が舞い降りてきた。
もはや見る者もいなくなった男のソーラー式デジタル腕時計は、12/25 0:00を指していた。

648 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/28(日) 10:19:42.81 ID:NnwDhzpP
なぜ戦争になったのかよくわかんなかった

649 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/28(日) 12:11:40.28 ID:NBkmymRl
乙だけどたしかにその辺がちょっとね

650 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/31(水) 13:05:36.68 ID:+5NDJSho
そろそろ次のお題くれくれ

651 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/31(水) 19:58:00.16 ID:bSOR9eCg
タケコプター

652 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/31(水) 22:22:02.38 ID:xFNsNVys
裏切り

653 名前:創る名無しに見る名無し:2011/08/31(水) 23:28:22.74 ID:SmdAluHN


654 名前:タケコプター、裏切り、雨:2011/09/01(木) 23:11:10.10 ID:k8ax6cTR
ミンミンと鳴いていたセミがぽとりぽとりとおちていく夏の終わり。
僕が取り組んでいた「タケコプター」の研究がついに実を結んだ。
身を削りながら、まったく遊びもせずに、この研究に没頭してきたおかげだ。
これにより人類はまた一歩、未来に進めることだろう。
明日は研究の発表会がある。そこで僕はみんなから喝采を浴びるだろう。
ただし、この研究を狙う者も多い。なので、万が一のために「タケコプター」の完成品を除き、
あらゆる研究データを処理し、誘拐され自白剤を用いられても問題ないように、装置で肝心な記憶も消去した。
そして発表会当日、僕はこの日まで「タケコプター」を守り抜くことができた。
陸路は何かと危ないので、空から向かうことにした。もちろん、「タケコプター」を使ってだ。
しかし、快適に空中散歩をしていた僕に悲劇が襲った。
頭をぽつりぽつりと打っていたかと思うと、ザーザーと音をたてはじめたのだ。
そう、それは雨だった。愚かなことだが、防水機能をつけ忘れていたのだ。
なんとか着陸はできたが、「タケコプター」はもはやその存在意義を失っていた。
記憶を消してしまっているため、治すこともできない。僕はどうしようもない思いで発表会に足だけを運んだ。

「という訳なんです、先生」
「それが夏休みの自由研究が竹トンボに吸盤を着けたおもちゃである理由なの?」
「いえ、ですから飛べるんです、本当なら。今朝もこれで来たんですよ」
行ける。このままごり押しすれば、通るはずだ。
「先生、私は今朝、三郎君が歩いてくるの見ました」
クラスメイトの裏切りにあい、僕の抵抗ははかなく散った。
「廊下にたってなさい」

655 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/02(金) 00:13:55.35 ID:HeE+XUqx
小学生だなぁwww

656 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/02(金) 12:24:01.08 ID:IZrehWun


これはwww

657 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/03(土) 11:35:46.70 ID:T3RB+1Te
ワロタwwww
夏休み明けにふさわしい作品w

658 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/05(月) 21:44:15.40 ID:PwUE8CS1
「するってぇと何かい。ご隠居の健康の秘訣は、
 雲の上から小便を垂れ流すってことですかい。
 団子屋の娘に、あらやだよ。通り雨だ、なんて言わせてるわけだ。
 そらぁ寿命も延びらぁ。おいらにも試させてくださいよ。」
「おいおい八つぁん。声がでかいよ。
 長屋の連中に聞かれたらどうするんだ。
 絶対誰にも言うんじゃないよ。
 裏切ったら、タケコプターを2度と貸さないからね。」
「絶対に裏切らないから、さっさと貸しておくれよご隠居。
 話を聞いていたら膀胱がパンパンで、今にも漏れそうだよ。」
「わかった。わかった。
 貸してやるから、あんまり遠くへは行くんじゃないよ。
 バッテリー代も馬鹿にならないんだからね。」


「まったくご隠居はケチケチしてていけねぇや。
 しかし雲の上を飛ぶのは気分のいいもんだね。
 っと、あそこにいるのは髪結いのおみっちゃんじゃないか。
 こいつぁ丁度いいところにきやがった。
 もうこれ以上は我慢できねぇ。
 おっと。こんなにもお天道様がまぶしいのに、雨が降ってきやがった。
 天気予報に裏切られたようだ。」


659 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/06(火) 09:30:24.47 ID:KOC55t0c


なんだこりゃwww

660 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/07(水) 21:14:48.31 ID:IjbycFOp
最悪の選択はスペアポケット、もしもボックス、ソノウソホントなどの万能系道具。
思考停止の馬鹿デースと自己紹介してどうする。
めんくいカメラ、さすとあめがふるかさ、砂男式催眠機などのマイナー路線もいただけない。
個性を出そうとする意気込みは買うが、つっこみの隙さえ与えないのはどうだろうか。
ドラえもんアイディアコンクールに入賞という裏ワザは、一見すると有効に思えるかもしれない。
しかし瞬間的に盛り上がるだけで、根暗な葉書職人というレッテルを貼られる危険性が勝る。
皆が知っていて話題が広がる道具なら大丈夫という判断は、素人の浅知恵。
仮に、どこでもドアと答えたとする。
通勤、旅行と話題は広がっても「つまらない奴」の評価は不可避だ。
旅の道程の魅力を解さない男は童貞という冗談並みにつまらない。
「どこでもドアがあったら、お前、ミキちゃんとの遠距離恋愛上手くいっていたかもしれないからな。」なんて、
フォローしているつもりな友人からの裏切りにあう恐れさえ出てくる。
唯一の正解はタケコプター 。
「ドラえもんの歌」の1番がタケコプターを歌い、どこでもドアは3番。
この事実だけでもお分かりいただけるのではないだろうか。
多くは語るまい。それは無粋というものだ。
タケコプターの6文字だけで、既に諸兄の何はナニでなになのだから。
以上で本日の講義を終わります。

NHKラジオ合コン会話。次回予告。
「もしキテレツ大百科の道具を一つもらえるなら、如何とするか。」でお会いしましょう。

661 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 13:14:54.36 ID:iooGrcxt
クソつまらん作品でスレが止まってるな

次のお題一つめ「逆タマ」

662 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/28(水) 03:24:43.00 ID:dyKhEy5g
お題カマーん!

663 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/28(水) 13:14:01.48 ID:5qGQSBR0
キーボード

664 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/28(水) 22:07:54.41 ID:ZeWaeqfp
宇宙船

665 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/28(水) 22:08:49.26 ID:w5fUqnCg
バンド

666 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/28(水) 22:09:46.11 ID:w5fUqnCg
スマン↑無視で

667 名前:創る名無しに見る名無し:2011/09/29(木) 05:25:18.76 ID:NtqZFGHU
板東英二です。呼びました?

668 名前:「タケコプター」「裏切り」「雨」:2011/10/06(木) 23:27:20.33 ID:4NsQy02L
とある愚人がいた。
彼は面倒くさがりで、考えることが苦手で、夢想にばかり耽っていた。
タケコプターで空を飛びたいとか、そんな罪のない夢想だ。
愚人は安物のCPUを組み合わせ、ボタン型電池を貼り付け、
それをガチャガチャのカプセルに封じ込めた。
愚人はそれを種と呼んだ。

この種が芽吹くには、とても長い時間がかかる、と愚人は言った。
どのぐらい?
ざっと100年はかかるなあ
じゃあお前は死んでるだろう
大丈夫だよ
何が大丈夫なんだ
種が芽吹けば全ての夢想は現実になる、タイムマシンで未来から迎えに来てもらう

雨の日を選んで種を植えた、水をまくのが面倒だから、だそうだ。
愚人はそれからすぐ姿を消した、あちこちから借金をしていたらしい。

俺は種を植えた空き地へ行ってみた。
そこには予想を裏切り、黄色いプラスチックのような質感の、双葉の芽が生えていた。
考えてみれば、種を植えた日は2012年の9月3日だ。

100年後はアレの誕生日じゃないか。俺は苦笑した。


669 名前:裏切りのタケコプター、雨に舞う:2011/10/25(火) 22:56:46.09 ID:LWyNoqst
「ニックの野郎、嫌な場所を選びやがって」
 小型のジュラルミンのケースを手に持ったモルダーは、湿った枯れ葉を踏
みながら、深い森の中程にたどり着いた。
 夜ではないのに薄暗い、まるで悪魔でもいるような樹海の底だった。
「確かここのはずだ」
 アイフォーンのGPSが、モルダーの立ち位置をゴールと定めていた。間
違いはないはずだ。
 あと3分でニックがやってくる。三億ドルの大金を持って。それをこっち
が握っているブツと交換すれば、取引は終了する。
 モルダーは早く家に帰って、柔らかなベッドに横たわるシャロンを抱きた
いと思った。
 上空から小型ヘリの音がした。コウモリの群れを散らして、《フライング・
ヒューマノイド》のご登場だ。
 頭にプロペラを付けた相手を見上げて、モルダーはあきれた。
 ニックが日本のドラえもんマニアなのは聞いていたが、まさかタケコプター
を本当に作ってしまうとは思わなかった。マニアの程度がキチガイ級だ。
タケコプターの人影が降下するにつれ、モルダーはある異常に気づいた。
「なんだあれは?」
 タケコプターの人物が、人の形をしていなかった。かつては人の形をして
いたが、今はしていない。頭にタケコプターを付けて舞い降りたそれは、体
をぐにゃりとさせてその場に倒れた。
 彼は決して立つことができない。できるはずがない。なぜならその人物は
下半身が切断されてなくなっていたからだ。
「しまった、これはニックじゃねえ。奴の組織に送り込んだベーコンだ。や
られた」
 緊張が貫いた。モルダーは思わずケースを抱きしめた。
 背後に気配がした。焦ったモルダーが振り返ると、突然現れた《どこでも
ドア》が開く。中から、馬鹿でかいジャックナイフを手に構えたニックが飛
び出した。
「愛するモルダー、これを三億ドルの代わりに受け取ってよ」
 金髪のニックは音もなくモルダーの胸に突進した。
「ニック、てめえ、ドラえもんはジャックナイフなんか持ってねえぞ……!」
 二十年間、闇の交渉人を務めた男は、心臓のど真ん中に刃渡り四十センチ
のナイフを受け取った。驚愕のモルダーは、その場にどうと倒れた。
(ごめん……シャロン……今夜は抱いてやれそうもねえ……)
 シャロンの待つふかふかのベッドの代わりに彼を包み込んだのは、血の臭
いのする湿った枯れ葉の層だった。
 やがて、運命の緞帳が下りるかのように、滝のようなスコールがモルダー
の死体を叩きのめす。
 それは暗い、裏切りの雨だった――。   完

670 名前:創る名無しに見る名無し:2011/10/30(日) 11:09:39.98 ID:VHz2+tjV
次のお題は「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」でいいのけ?

671 名前:「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」 ◆91wbDksrrE :2011/11/04(金) 03:20:23.34 ID:YfoUbvHk
 結局、多少音楽が出来た程度で何かがどうにかなるわけではない。
 その事に気づいたのは、私が高校を卒業してからの事だった。
 とあるアニメの影響で始めたバンド活動で、私はキーボードを担当していた。
 そのアニメのキャラのように、お金持ちだったり作曲ができたりするわけじゃ
ない私だったけれど、キーボードの腕前だけはそれなりに自信があった。
 幼少のみぎりからピアノを習い覚えさせられ、あまり楽しめないながらも
惰性で続けていたのが、こんな所で役に立つとは思いもしなかった。
 高校生活三年間、部活動――皆とのバンドでの活動は、物凄く楽しかった。
 あまり好きでなかったはずのピアノも、今ではすっかり生活の一部へと
染み付いて、今日も街の中を歩いている私の背中にはキーボードが背負われ
ている。携行式の簡単な奴だけれど、それなりにいい音が出るお気に入りだ。
 これから向かう先は、近所の公園。できる限り毎日やろうと心がけている、
自分一人での演奏会を開く為に、私はいつもの場所へと向かっているのだった。
 心は弾む。特に誰か特別な聴衆がいるというわけでもないのだけれど、
特に誰かに聞いて欲しいというわけでもない私には、それでよかった。
 ただ音楽を奏でる事が楽しい。その楽しさに気づき、その楽しさを育て、その楽しさ
に溺れきっていた高校での三年間。

「……ふぅ」

 でも、結局はそれだけ。
 楽しかったけど――いや、今も楽しくないわけじゃないんだけれど――それだけ
なんだと、今の私は気づいてしまった。
 なんとなく、口からため息がこぼれた。心は弾んでいるのに、これから楽しい事を
するんだぞ、という気持ちにはなっているはずなのに、何故かこぼれる、ため息。

「皆……何してるんだろうなぁ」

 思い浮かぶ、三人の仲間の顔。某アニメのキャラのように、女の子四人――後に
五人――グループというわけでもなく、男の子二人と、女の子二人――内一人は
私、というグループだったけれど、色恋の関係になるでもなく、ごくごく普通の友達
同士として、あの三人とは一緒に色々と楽しい事ができた。
 三人とも、県外の大学に進学し、今はほとんどこの街に帰ってくる事も無い。
……まあ、帰ってきた時には絶対に四人で集まって遊んでるし、その事が寂しいかと
言われると、そういうわけでもない。なにせ、今の世の中は色々と便利な
通信手段には事欠かないから、直接顔をあわせるまでもなく、連絡を取り合う
ことは可能なわけで、実際に今も良子――ボーカル担当の、私以外のもう一人の
女の子――とはほぼ毎日、雄介と武――ギターとベース担当の男の子だ――とは
週に二、三回程度、連絡を取り合っている。だから、寂しいと思ったことは無い。

672 名前:「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」 ◆91wbDksrrE :2011/11/04(金) 03:20:53.38 ID:YfoUbvHk
「……ふぅ」

 じゃあ、このため息はなんで出るんだろう?
 ……まあ、答えはわかってるんだけどね。

「結局……楽しい、だけじゃあ、なんにもならないのよねぇ……」

 空を見あげれば、やけに眩しい青い空。その眩しさに、目端にじんわり涙すら浮かぶ。
 音楽は楽しい。キーボードを爪弾くことは楽しい。でも、それが何かをどうにか出来るのか、
と言えば――出来ない程度の腕前でしか、私の腕は無い。
 楽しいから弾いているだけ、というのが悪いわけじゃないだろうけど、それでも、その楽しさに
一抹の虚しさみたいなのを感じるように、ここ最近の私はなっていた。
 それ故のため息だ。ため息一回に付き幸せが一つ逃げていくと、そう俗に言うけれど、
私の幸せは一体どれくらい逃げていっただろう……と思ってしまう程度には、ため息をついている
のではないかと思う。

「……これで、何かが出来たら、かぁ……」

 キーボードを台に設置し、電源を入れ、ポロンポロンと適当に鍵盤を叩いてみる。
 今日もその音に特に変わりは無い。よく響く、いい音だ。安物なのに頑張ってると思う。

「ま、気を取り直して……演奏してる時くらいは、楽しくやりますか!」

 ため息もだけど、独り言も何か増えてきたような気がするなぁ……。
 そんな事を思いながら、私は鍵盤に指を走らせた。

「――♪」

 弾くのは、あの頃皆で作った曲だ。何回、何百回と弾いた、弾き慣れた曲だ。鼻歌も交じって
くる程に、自然に、気軽に、無理なく弾ける、一番好きな曲達だ。
 今日はいつもなら数人はいる公園の利用者も、誰もいない。
 ここにいるのは私一人だけ。鼻歌を聞かれたらちょっと恥ずかしいから、いつもは自重してるん
だけれど、そんな必要も今日は無さそうだ。
 まさに独演会……と思っていたら、そうでもなかった。

「ニャー」
「……およ?」

 いつの間にか、私の足元に一匹の猫がやってきていたのだ。
 あまり見かけない、透けるように白い、整った毛並みの猫だった。

「どしたー? 君も一人なのかなー?」

 ちょいちょいと手招きしてみると、全く躊躇せずに、その猫は私の膝の上に乗ってきた。
ううむ、人懐っこい猫だなぁ。ちみっこくて可愛いけど、どっかの飼い猫かな?

「今日は誰も聴いてくれる人いなくてさー。君が聴いててくれるかな?」

 と、思わず私は猫に話しかけていた。透き通るような、だけど毛色とは正反対の
真っ黒な瞳を見ていると、何だか話が通じそうな気がしたのだ。
 まあ、猫とか犬とかって、ある程度人間の言葉を解するとも言うし。
 決して寂しくてペットに話しかけるダメな飼い主さんと同じような心境ってわけではない
と思う……思いたい。

673 名前:「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」 ◆91wbDksrrE :2011/11/04(金) 03:21:35.44 ID:YfoUbvHk
「……ふむ、良かろう。汝の願いは我が願いとも一致する。承認しよう」
「そっかー。聴いてくれるかー。ありがとねってえぇぇえええええぇぇええええ!!!???」

 ……き、聞き間違いじゃ、ないよね? 今、その、この白猫、ちみっこい、かわいい猫、顔に
似合わない渋い声で、しゃ、しゃ、しゃ――

「喋ったぁあああああああああああああああああぁぁぁあああああ!!!??」
「……地球人のメスの若年者は、なぜこうも揃いも揃ってけたたましい奇声を発するのだ。理解に
 苦しむ」
「理解に苦しむのはこっちだよ! な、なんで喋ってんの!? 何、猫でしょ、君?」
「その辺りの説明は、我が母船に汝を招いてから行おう。その方が理解もしやすいだろう」
「母船……母船って……え、まさか……うそ……」
「そうだな、汝ら地球人の言葉に合わせるならば――宇宙船、という奴だ」
「えぇぇえええええぇぇぇええええええええ!!!??」
「……奇声を発するな。耳が痛くなる」
「え、でも、その、ちょ、ちょっと待って! ちょっと待ってお願い! 理解が……頭が追いつかなくて」
「地球人の言葉に、案ずるより有無がやすしきよしという言葉もあるのだろう? まずは我らが
 母船へと、汝を招き入れる。そこで理解すればよい」
「だからちょっと待ってって……うひゃわぁああぁあああああああ!!!??」

 これって……その……。
 アブダクション、って奴だったり、するんじゃないかしら。
 謎の力――トラクタービームとか言う奴だ、多分――で空を凄い勢いで上昇していきながら、そんな
事を私は思った次の瞬間、処理が追いつかなくなった頭はパンクして、強制シャットダウンしたのだった。
 一言で言うと、気絶したって事ね……バタンキュウ……。

          ★          ★

「起きろ、地球人」
「……んぅ……あと五分……」
「起きろと言っている、地球人」
「……あのねぇ……私は地球人なんて変な名前じゃなくて、酒井利恵って立派な名前が……」

 ……あれ?
 目が覚めると、そこはいつもの私の部屋のベッドの上ではなく……。

「……ここ、どこ?」

 寝ぼけ眼をこすりながら身を起こした私の視界に入ってきたのは、ひたすらに白い壁に包まれた部屋だった。
 下手をすると、上下左右の感覚を失ってしまいそうな程に、純粋な白一色で統一された部屋の中に、
私は寝かされていたらしい。うーむ、背中が少し痛い所から見て、布団とかに寝かされてたわけじゃなく、
地面に直置きか……レディーの扱いがなってないなぁ。

「って……あれ?」

 扱いって……私、どうしてこんな所にいるんだっけか?
 真っ白な壁や天井を見ていると、何か思い出せそうな……。

「酒井利恵よ。目は覚めたようだな」

674 名前:「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」 ◆91wbDksrrE :2011/11/04(金) 03:21:54.16 ID:YfoUbvHk
「ああ、そうそう、何か白い猫が自分は宇宙人だとか名乗って、そんで私はアブダクションされて、
 これから身体に金属片を埋めこまれた上に、精神を病んで虚言癖の女として扱われて一生を
 不遇のもとに過ごす事になるんだったわよね、うん、そうだったそうだった」

 ………………。

「そんなのいやああああああああああああああああああああああぁぁああああ!!!!!」
「……酒井利恵よ。奇声を発するなと言っているだろう。耳が痛いのだ。だいたい我らはそのような
 地球人の思い描くような行動は取らない。落ち着くのだ、酒井利恵よ」
「……あ、白い猫さんだ」
「落ち着いたか?」
「でも、やっぱり喋ってる……宇宙人……えい」

 私は自分のほっぺを思いっきりつねってみた。

「いだだだだだだだ!?」

 めちゃくちゃ痛かった。手加減しろ、自分。
 ……つまり、これは、夢じゃないって事、よね?
 ということは……宇宙人? 白い猫、この猫、宇宙人、ホント……?

「……どうやら、まだ少し混乱しているようだな、酒井利恵よ。なれば、説明せねばなるまい」

 白い猫は――背景とほとんど同化しているので、何だか目鼻口と耳の一部だけが宙に浮いている
ように見えるので、ちょっとだけ不気味――そう言いながら、自分たちの事を説明し始めた。

「我らの事を――そして、これから我らが為そうとしている事を、な」

           ★          ★

 だいたい、説明を飲み込み、落ち着き、冷静になるまでに要した時間――プライスレス。
 全て飲み込んで、ひとまず落ち着く事に成功した私は、改めて白猫さんに確認する事にした。

「貴方達猫星人は、母星が消滅してしまい、さまよっていた所、太陽系で地球を発見した、と。んで、地球人
 との共生が可能かどうかを調査していたが、その結果として、共生派と根絶派に意見が大きく二分され、
 どちらが主流となるかで揉めている、って事なのね」
「理解が早くて助かるな。つまりは、そういう事だ。我らは地球上の猫に紛れることは可能だが、そうなって
 しまうと、環境適応により、地球上の猫と変わらぬ生活しかできなくなる。共生派はそれでも構わないと
 考える一派であり、根絶派は、それでは駄目だと考える一派だ。人間を根絶し、我らがこの星を支配
 すべきだと考えているわけだな。調査の過程で、普通の猫と誤認された同胞達が、数多く処分されて
 しまった事が、彼らの動機となっていると考えられる」
「……な、何か……おおごと、よね?」
「根絶派は、処分された猫に多くある名前をもじり、根絶作戦をTama's counterattackと名付け、その準備は
 今も尚着々と進んでいる」
「……逆襲のタマって……どっかの機動戦士じゃないんだから……逆タマって略すの?」
「うむ、その機動戦士のアニメーションは、地球での潜伏時に見た事があるが、サザビーの大きさが
 場面ごとにまちまち過ぎるのはいかがなものか」
「すっげーどうでもいいツッコミ所が気になってんのね……で、その作戦をどうかしたいわけ、貴方としては?」
「我々共生派としては、地球上の我ら以外の知的生命体を根絶する事は、その後のリスク――つまり、
 改めてこの星に文明を築くための手間暇を考える限りでは、下策であると考えている。故に、止めたい。
 故に、一つの取引を持ちかけた」
「その取引が――地球人の手によって、感動を与えられるか否かの賭け、ねぇ……」
「その手段は何でも構わなかった。だが、達人級の腕前を持つ、規格外というわけではない、一般的な地球人
 でなくてはならなかったし、こちらから無理強いして何かをしてもらうわけにも行かなかった。策定は難航を
 極めていたのだが……」

675 名前:「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」 ◆91wbDksrrE :2011/11/04(金) 03:22:48.67 ID:YfoUbvHk
 そこに、私が『私の音楽をきけぇぇえええええ!』と、都合良く声をかけてしまった、と。
 ……改めて冷静になって考えると、なんなのかしら、この超展開……。

「つまり、私がコレを根絶派の皆さんの前で弾いて、感動させたらOKって事よね? できなきゃ、人類滅亡、と」
「そういう事になる」
「………………」

 ……。
 ………………。
 ………………………………。

「……み、水もらえるかな? 凄い、喉、かわいてきちゃって」
「うむ、用意しよう」

 心臓が高鳴っている。今まで、こんなに、耳にまで聞こえそうな程に鼓動がする事なんて、なかった。
 文化祭や新歓で演奏した時も、初めてステージにみんなで立った時も。
 白猫さんが用意してくれた水を飲んでも、高鳴りは全く収まらず、むしろより強く、大きくなっていく。

「……世界……人類……嘘……じゃない、ん、だよね……」

 口に出して呟いてみる。
 同時に、ほっぺたをつねってもみる。

「いだだだだだだだ!」

 やっぱり痛い。っていうかまた手加減し忘れたし……。
 夢じゃない。これは現実だ。まるでセカイ系のラノベじゃないの、こんな展開って。
 一度良子に借りて読んだ事があるけれど、私にはあわないなって思ってた、そんな展開の物語。
その主人公に、まさか私がなるなんて……。
 でも、それよりもなによりも。
 今、ここに、私は、一人だ。
 私だけだ、ここにいるのは。
 私一人なんだ、ここにいる人間は。
 雄介も武も良子もいない。
 あのノリノリなギターも、しっかり安定したベースも、よく響いて誰の耳にも届く声(とあんまり上手くないドラム)
も、ここには無い。
 いるのは私だけ。
 あるのは、このキーボードだけ。
 ……でも、なんでだろう?
 私じゃなくて、誰か他の人に……そんな気には全然ならなかった。
 だって、だって、だって!

「……これって、チャンスじゃない!」

 結局、多少音楽が出来た程度で、何かがどうにかなるわけでもない。
 そう思っていた私に降って湧いた、「多少音楽が出来る程度で、世界を救えるかもしれない」機会。
 この鼓動の高鳴りは、恐れや不安に対してのそれじゃない。
 初めてステージに立った時のそれとは全然違う。
 最後にみんなでステージに立つ直前のそれと、同じだ。
 期待。
 高揚。
 そんな高鳴りだ、これは。

676 名前:「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」 ◆91wbDksrrE :2011/11/04(金) 03:23:16.33 ID:YfoUbvHk
「……そんな物怖じしない子だったっけかなぁ、私って」

 いつの間にか、顔には笑みさえ浮かんでいた。
 失敗したら世界が滅びるとか、人類が根絶やしにされるとか、それが不安にならないと言ったら嘘になる。
怖くないと言ったら嘘になる。でも、そんな事よりも……そんな不安や恐怖を覆い隠す程に、今私は楽しみだった。
 音楽で――大好きな物で、何かをどうにかできるかもしれない、そんな瞬間がやってきたのが。

「酒井利恵よ。今一度問おう……お前は、人類を救うつもりはあるか?」
「あるわ」

 そして、私はステージに立つ事になった。
 たった一人の、でも、最大のステージに――

          ★          ★

「おっはー、武」
『おはようって時間じゃねえぞ、ユウ』
「お前ンとこにもメール来た? さっき俺んトコにも来たんだけど」
『ああ、きたきた』
「利恵、とうとうプロになる決心したんだってな」
『まあ、なれるかどうかはともかく、その為に頑張る事にした、って書いてるなー』
「利恵ならなれるんじゃねえかな。だって、元々上手かったじゃん」
『だよなぁ。なのに、本人は何か一歩引いてる所があったよなぁー』
「良子もよく言ってたよ。利恵も、アレさえなけりゃもっと皆から認めてもらえただろうに、って」
『そんなトッシーに、いったいどういう心境の変化があったんだろうねー』
「そこら辺、俺らへのメールにはあんまり書いてなかったけど、良子に電話した時には、こう言ってたらしいぜ?」
『ほうほう、聞かせろー』
「『世界救っちゃった以上、もうプロになるのを目指さないわけにゃいかないっしょ』って」
『世界……救う?』
「ま、意味はよくわからねえが凄い自信だったらしいし、いいんじゃねえの? 足りない物、見つけたわけだし」
『だよなー。自信さえ身につけたら、トッシー無敵だよなー。元々見た目も可愛かったし、自信つけて色々お洒落
 するようになったら、引く手もあまたなんじゃねー?』
「……お前、もしかして」
『ああ、そういうんじゃねえよー。そう思ってただけー。ま、お前は良子一筋だったから、そういうのは無かった
 だろうけどなー』
「う、うっせえバカッ!」
『トッシー、いろいろ今後大変だろうけど、上手く行くといいよな』
「……ああ、そうだな」



677 名前:「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」 ◆91wbDksrrE :2011/11/04(金) 03:23:29.80 ID:YfoUbvHk
          ★          ★

 結局、多少音楽が出来た程度で、何かがどうにかできるわけでもない――なんてことは決してなくて――

「――♪」

 私は、いつもの公園で鍵盤に指を走らせていた。
 今日もまた、あの日のように、聴衆は誰もいない――ただ一匹を除いては。

「ニャー」
「お、白猫さん、また聴きに来てくれたんだ?」

 あの日以来、猫星人の白猫さんは言葉を発する事も、無論、宇宙船に私をアブダクションする事もなくなり、
ただの白い毛並みのいい猫になった。でも、時々こうして私の音を聴きに来てくれる。

「最近、作曲も勉強しはじめたんだよー。まだ作ってる途中だけど、こんなの。聴いてくれる?」
「ニャー」

 はっきり言ってしまうと、アレが夢だったのか、現実だったのかも、私にははっきりとわからない。
 あの日、多くの猫の前で、心を込めた演奏を披露して――そこで私の記憶は途切れているからだ。
 気づいたら、この、今演奏しているベンチの上で寝ていて――そのせいで軽く風邪をひいてしまい、親からは
結構怒られた――それまでの全てがまるで夢だったのかと、そう思える……いや、それが真実なのだろうと、
そう考えるのが妥当だと、私の脳みその理性的な部分は告げていた。
 でも、それでも――私は、あの時実感したんだ。
 多少音楽が出来た程度であっても、世界を救えるかもしれないんだ、って。
 自分が楽しいと思える事で、何かがどうにかできるかもしれないんだ、って。

「――♪」

 いろいろ、後悔もするだろう。
 いろいろ、悩んだりもするだろう。
 いろいろ、泣いたりもするだろう。
 でも、進むと決めたんだ、私は。

「ニャウン」

 見上げた空の青は、もう眩しくない。
 ため息も、もう溢れることはない。
 これからの私は――空を見て、笑顔で進んでいくんだから!

                                                    ―おわり―

678 名前:「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」 ◆91wbDksrrE :2011/11/04(金) 03:23:43.56 ID:YfoUbvHk
ここまで投下です。

679 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/04(金) 08:44:40.54 ID:KfpWQReg
つまんね

680 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/04(金) 21:17:35.83 ID:aK49cUKN
>>671
乙です。

「逆タマ」をそう取ってくるとはw
こういうふうに、お題をあえて違う方向へ取ろうとするのは大好きですw
(だから、お題は表記の仕方にもこだわるべきだとも思いますし)

ただ、話の展開がやっぱりちょっと強引すぎたかなー? とも思ったり。

文中に盛られた小ネタやギャグが、正直お腹いっぱいで、読んでいて気になりました。
適度に入れると文が(良い意味で)軽くなって良いと思うのですが……


681 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/11/04(金) 22:05:03.22 ID:Rnpj639U
>>671
「逆タマ」をそう使うとは…。く、くやしい。

わたくしめも「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」で。

682 名前:計画。 ◆TC02kfS2Q2 :2011/11/04(金) 22:07:57.48 ID:Rnpj639U

 隣に住む文香にキーボードを教えている、息子の真人のことが少し怖いと父親は唇をかんだ。
 お互い小学生通し、真人が楽譜をめくり、文香がキーボードの鍵盤を叩く。一見ほほえましい光景。
 真人が白い歯を見せて笑うほど、父親は眉間に皺を寄せていた。

 「あーちゃんは上手いなあ。プロになれるよ」

 真人の言葉は本当だろう。
 真人はまだ小学生だ。やっと10になった。だが、彼はどんな大人よりも大人びていることで有名だった。
 真人は無邪気を拒み続けていたのだ。

 ついこの間、文香とキーボードの練習をした後にあった父親との会話がそれを物語る。

 「ぼくはあーちゃんがプロのミュージシャンになるって確信している。あーちゃんはもともとピアノを習っていた。
  だから鍵盤を扱う筋が良い。飲み込みも早い。このまま続ければ、音楽の道で食べていけるどころか、ひと財産できると思うよ。
  なんせ、あーちゃんは器用だ。鍵盤さばきを見れば分かる。手先も、生き方も器用なんだろうな」
 「そうかそうか。じゃあ、お前は未来の大ミュージシャンと幼なじみになれるな。サインでも今のうちにもらっとけ」
 「そこが父さんの甘いところだ。ぼくは父さんみたいに計画性が欠如した人間にはなりくない。この間、無駄な買い物をして
  母さんに注意を受けた事実はぼくは軽蔑する。あーちゃんが売れたミュージシャンになり、ぼくと幼なじみになるところまでは
  容易に想像できる。でも、サインで喜んでるようじゃいけない。むしろ、ぼくはあーちゃんを『ミュージシャン』としてではなく、
  『大切な幼なじみ』として人間関係を築かねばならない。そう、一個人を尊重する姿勢だ」

 使い終わった楽譜をとんとんと揃えながら真人は続ける。
 
 「ぼくはあーちゃんを特別扱いしない。生身の人として。でなければ、ぼくの玉の輿は成功しないだろう。
  あーちゃんは金の卵だ。ぼくはあーちゃんの素質に気付いたんだ。育てるんだ。だからぼくもその対価を得ても構わないはずだ。
  むしろ、得なければならない。ぼくの人生計画だ。父さんにとやかく言われる筋合いはないって思わない?
  何故なら、父さんもぼくを一個人として尊重しなければならないからだ。正しい意見だと思わない?」

 人生設計に逆タマを盛り込むことに父親は呆れたが、咎めても真人はきっと「頑張ったものが利益を得る。正しい意見だと思わない?」
と言うだろう。なすすべなくした父親はキーボードの部屋から出ていったのだった。

 そんなやりとりがあったから、人が良いことだけがとりえの父親も今回は真人に何も言わなかった。
 ただの感想を息子からつつきまわされたくなかったからだ。やがて、隣の文香が真人とのレッスンを終えて自宅に戻ると
それを確認してから父親は小箱を抱えてこっそり家を出た。真人に気づかれないように。



683 名前:計画。 ◆TC02kfS2Q2 :2011/11/04(金) 22:10:12.47 ID:Rnpj639U
 父親は隣の家の玄関を叩いていた。
 顔を出したのは、文香と両親だ。みな、顔が似ている。
 挨拶そこそこに真人の父親は「やっと手に入れたものです」と抱えていた小箱を文香の一家に見せた。

 「妻に叱られましてねえ。『また、変な物買ってきて』と」

 小箱を開けると中には緩衝材に包まれたガラスの球体が五つ顔を出す。ガラスの中は精密なる配線が見える。

 「やっと見つけました。取引先の部長さんが実家で見つけたと聞きまして、どうにか手に入れたんです」
 
 文香は大切そうにガラスの球を拾い上げると、真人とキーボードを弾いていたときのような目をした。

 「真空管。どうだ?」
 「おじさん、すごく……太くて、大きいです」
 「ああ。五球スーパーは大電力を使うからな。初めて見たか?」
 「……初めて触った。冷たい」

 文香一家は真人の父親に深々とお礼をした。
 「これで完成できる」とみな喜んでいた。


 その夜。

 「文香は手先が器用だからなあ。完成を急ごう」
 「そうね。わたしたちの計画はこれで一歩進むのね」

 文香の両親はにこやかに文香に期待をかけた。
 文香の手には40ワットのはんだごてに真空管のソケット。金属のケースの中には赤、青、白の電気コードが血管のように這う。
あとこれをつなげれば、心臓部が完成するのだ。五つの真空管が繋がれば。金属ケースから伸びた一番太い紫のコードが隣の部屋へと続き、辿ると
魚を立てたような巨大な乗り物。丸い窓、むき出しの金属、昭和時代のノスタルジイさえ感じられるデザインだった。
 
 文香一家はそれをこう呼んでいた。

 「宇宙船……だよ。母さん」
 「この真空管さえあれば、宇宙船は完成するんだ。お隣りのご主人には後生感謝しなければな」
 「『娘が真空管ラジオを作りたい』って騙してお隣さんには悪かったけど、この星に将来を感じられないし。
  新たな星でこれからわたしたちの人生設計を立て直さないとね。なにごとも計画計画」
 「文香の将来の為にもな」
 「人の良いご主人でよかったわ」

 一家でいちばん手先が器用な文香は、この星を捨てるため真空管のソケットに最後の配線をはんだごてで繋いだ。


   おしまい。


684 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/11/04(金) 22:20:40.67 ID:Rnpj639U
ぐだぐだやぁ…

投下おしまい。

685 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/05(土) 14:27:34.72 ID:ETf3CNV8
>>682
乙です。なるほど……
こちらはお題をそのまま取ったかたちですね。
このお題は、やはりこういう方向へ行かざるを得ないのかもw

真人くんのキャラが目を惹きますw もう少し後半にも絡んでいれば、と少し惜しい気が。
「キーボード」の扱いにはちょっと違和感を感じましたが……これは個人的なものかな?



まあしかし何と言っても

「真空管。どうだ?」
の次の行がwwww

686 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/11/07(月) 12:07:57.60 ID:LKknrKV4
>>685
そうですね。息子を生かせなかったのは反省点です。

懲りずに、また「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」で投下します。

687 名前:「ご縁ありますか」 ◆TC02kfS2Q2 :2011/11/07(月) 12:10:08.74 ID:LKknrKV4

 がらくたばかり溢れる工房の入り口、錆び付いた鉄屑の山で埋まる。中はと言うと、まるで人を迎える気の無い様子。
ものづくりの他には興味を示すことの無い職人のための環境だ。外から見えるのを気にすることなくモニタに向かう作業着の女が一人。
かたかたと激しく指を動かして、割れそうなぐらいの勢いでキーを叩く。料理人が包丁で裁くような音。集中しているのか瞬きは
けしてしないのという職人の鑑。女の周りには読みかけの本や、捨てられるべき廃品が山を成していたが気にはしない。
 上半身は飾り気の無い長袖のシャツだから、体のラインが良く分かる。彼女の長く明るい髪の毛は、薄暗い工房の中では
異彩を放つ。建物の周りは同じような町工場。夕闇の似合う下町はゆっくりと廻り、喜んでその一員になろうと青年がひとり。

 裕の23件目の企業面接は、相手先を疑うことから始まった。みずみずしいリクルートスーツが似合わな過ぎる訪問先だからだ。
分厚い眼鏡に作業着とネクタイ、そして集金バッグの方がお誂えだろう。情報誌に騙されたのか、死に物狂いで掴んだ成果か。
溜まりに溜まった「今回はご縁はありませんでしたが」の手紙は前回で終わりにしたい。しかし、今回ばかりはこちらから
「今回はご縁はありませんでしたが」と、ふてぶてしくも返してしまうかもしれない。まだ若い裕が腰を据える場所としては、
先が見えなさ過ぎると判断したからだ。情報と事実の食い違いに裕は肩を落とした。
 だが、袖触れ合うも多生の縁。お話だけでも聞くことにした。無駄をするのも就活には勉強として必要。経験はしておくものだ。
足元にネジが転がる入り口、ネクタイを締め直し、台本通りの挨拶をする。一応、相手は企業。同業者通し横の繋がりを考えて、
好青年を装う。一度挨拶しても返事は無い。もう一度しても結果は同じ。しばらく黙っていると、プラスチックがなる音が消えた。
ぶっきらぼうに鋭い眼光の女が裕へ振り向くと、化粧っけのない顔が闇に浮かんだ。それにしてもきれいだ。

 「あー、きみ?」

 女の第一声は、凝り固まった裕の脚を打ち砕く。年のころ、二十台後半。若しくは三十路にこんにちはと言うところであろう。
 裕は緊張を悟られないように手慣れた感じで自己紹介を始めた。ここまでは完璧だ。とちりはない。再び「あー」と返事した女は、
裕を部屋奥の事務机へと招いた。使い慣れはじめたカバンから買ったばかりの万年筆で書かれた履歴書を両手で渡す。びっしりと
行狭しと埋まったインクの文字列が女の目に染みる。

 「ふーん。うちにくるのが勿体ないような学歴ねー」

 細い指で裕が今日、大学4年までに刻んできた足跡を丁寧に辿る。
 確かに裕は大学の工学部で4年間学んだ。単位を落とすことなく学業に勤しんだ。普通自動車免許も電脳機器の資格もある。
 誰からも文句の付けようのない学歴、資格、人となり。女は丁寧に辿った割には裕の経歴に興味を示そうとはしなかった。

 「うちの会社、どうして選んだー?」

 あまりにもざっくばらんな口調に裕は言葉に詰まった。
 まるで高校の部活訪問をしているかのような気のおけない空気を女は作る。
 裕が前日、頭の中で準備した教科書通りの返答をしようとした矢先、部屋の片隅で何かが崩れ落ちる音がした。
軽いプラスチックが重なり合うような乾いた音。女は気にせずに机に折り重なって置かれていたファイルを抜こうと
手を伸ばしながら裕に説明した。

688 名前:「ご縁ありますか」 ◆TC02kfS2Q2 :2011/11/07(月) 12:12:33.45 ID:LKknrKV4
 「やれやれ。このキーボード、どうすっかなあ……」
 「はあ?えっと」
 「ほら、キーボードって消耗品じゃない。それだから安いヤツ買ってるんだけど」

 確かにPCは長い時間使うだろう、キーボードも使うだろう。あまり周辺機器に金をかけない『プロ』に、裕はやや拍子抜けした。
よく見てみると、積み重なったキーボードのキーはみな、文字がかすれて見えなくなっていた。床にキーボードが広がっていた。

 「捨てよう思っても『パーツ取り』できないかなーって、捨てられないし。そうそう。どうしてうちの会社選んだの?」
 「自分が入社することにより、御社に多大な……」
 「あ、そのセリフ聞き飽きたから。そんなことよりさ、ここで一緒に宇宙船造ろうよ」

 子供の遊びに誘われている。
 おにごっこしよう。かくれんぼしよう。そして……宇宙船造ろう。

 そんな目の輝きで女は手にしたファイルをめくると、女に呆れたのか机の上に積み重なった本や書類、そしてたった今差し出した
裕の履歴書が床になだれ落ち、使い古されたキーボードを突き刺した。面白いほどよく広がってゆく。

 「まだまだ遠い先、出来るかどうか分からないから公式の会社プロフィールには載せてない。
  でも、わたしが働けるうちにはぜったいいちから造ってみせるよ。だから、一緒に造ろう」

 どこにでもあるような町工場、吹けば飛びそうな小さな建物。ここから宇宙船を造ってみせるよと、女は握り拳を作って立ち上がる。

 「それに……。その為には誰かここを継いでくれなきゃいけないし。わたし居なくなったら潰れちゃうのよ」

 そう言えば、跡継ぎらしい人が居ない。不審に思った裕は自分の履歴書を拾い上げていた。女は二の句を続ける。

 「逆タマ……、憧れない?うち、悪くないよ。これでも毎年度黒字だよ」
 「は、はあ……」

 でなければキーボードを使い捨てのように扱わないだろう。
 いや、あのような扱い……つまり、締めるところ締めなくても黒字を達成できるとは、そうとうの技術を持っているのか。
相当羽振りが良くなければ、この女のような者に零細企業を運営できるわけが無いと、裕は額に汗を垂らしたもの、俄然この企業に
興味がわいてきたのも否定できない状況に陥っていた。とにかく、この女のことを放っておけない。

 「わたし、誘ってんのよ!」
 「え?それは、御社のどういったことなのでしょうか」
 「あ……。か、勘違いしちゃいけないよ!結果は書面でお伝えしますっ」

 裕は歳の割には子供っぽいお姉さんが、むしょうに可愛く見えた。

     

   おしまい。


689 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2011/11/07(月) 12:15:11.61 ID:LKknrKV4
連投失礼しました。

投下おわり!

690 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/07(月) 15:57:25.46 ID:2Ut8Sdzc
迂遠なwww
それじゃ草食系男子は気付けないぞw

ちょっとそこに至るまでの心理の流れが唐突に感じるかなぁ。
でも、想像すると可愛いw

691 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/07(月) 19:39:36.26 ID:71khUo1D
昔どっかの掲示板でやってたな俺
俺も書きたい

692 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/07(月) 21:13:17.15 ID:NUCDsyVP
>>687
乙です!

生意気言っちゃってすみません。
でも、こっちのほうが断然良いと思いました!
(まあ年上お姉さん好きってのもあるかと思いますがww)

お姉さんのキャラがすごくかわいいです。しかも、サバサバした工学系女子ってのがまた良いですw
お題の消化もお見事と感心しました。

流石です! 見習わねば。

693 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/08(火) 07:22:54.14 ID:pJueMGXo
とりあえず読んでみ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/netgame/2891/1318919360/5

694 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/08(火) 23:35:29.53 ID:bYRTNwSn
マルチ

695 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/09(水) 00:29:29.03 ID:i75z/gd5

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                 l::::l == 、    ,.ィ== l:::::l:::::::::   >>693さん! と、ととととりあえず
                 l:::::li //////////// l:::::l::::::::::    こ、ここ、これ読んで下さいっ!
               , -ーl::::lヽ、  r....::´`ヽ /l:::;'> 、:::::
           , -ー 、'´`ヽl::::l// ` ‐-r‐ァ' ´ ,':/ー、  ';
            /  , ノ `   l::::l   li /ニく /⌒ヽ  \.i
        , └ '´  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ / ノ__  ',  ,イ:
      /     \ (⌒⌒)       ,  └ '´ /   i/
    /            ヽ / ー '       /  /,.イ
   ∠ __                    /  / /
          ̄ ̄ ̄プ ー r── -------/-‐'´ /


      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
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      |                    |
      /    ̄マルチ      /_____
      /   お断りします    /   //
    /      ハ,,ハ        /  / /
    /     ( ゚ω゚ )     /  /  /
   /   ____     /  /  /
  /             /  /  /
/             /    /  /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/   /  /


696 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/09(水) 18:03:45.88 ID:iEXNb02v
お題。「男の娘」

697 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/09(水) 21:08:24.07 ID:iJHP3XDV
遺跡

698 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/09(水) 23:03:44.88 ID:dxC1lMN5
ヤマメ

699 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/10(木) 16:19:36.42 ID:rrOdxYLQ
今回のお題は

男の娘
遺跡
ヤマメ

の三つですな。

700 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/10(木) 19:18:32.40 ID:nEw42Uip
男の娘ってあれか。女装してる美少年のこと?

701 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/10(木) 20:29:39.68 ID:n4W5NALZ
詳細な定義はなんかいろいろあるみたいだけどだいたいそんな感じかと

702 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/11(金) 03:41:43.85 ID:TqlDtIlo
正確に言うと女装してなくても女にしか見えないやつのこと。
女装してる美少年はただのオカマ

703 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/11(金) 03:43:38.33 ID:Eo//U5Xg
たまにリアルでいるから困る。職場にいるんだよね。

704 名前:タカアキオー ◆takawYpCqc :2011/11/12(土) 16:59:18.02 ID:Mzl6zSh0
>>702-703
いわゆる「ボク少女」とは違って、
亡き池畑慎之介さんのような人を
指すわけですね。

705 名前:創る名無しに見る名無し:2011/11/15(火) 05:40:31.95 ID:jq+H44CT
ピーターか

706 名前:創る名無しに見る名無し:2011/12/23(金) 19:03:34.67 ID:ZLdaru+v
初カキコ
三大噺でぐぐッたらここに到達したんだけど投下しても大丈夫?
後、sageってこれで合ってる? 初めて尽くしでよくわからんです。


707 名前:創る名無しに見る名無し:2011/12/23(金) 19:09:43.10 ID:cMDGgtp3
sageはそれでおk

あんま2chに慣れてないなら
流し読みでもいいので1からここまでの流れ見ておくと
だいたいどんなふうに振舞えば無難なのかはわかるかと

最近このスレ人いなくて静かだしじゃんじゃんやろうぜ

708 名前:創る名無しに見る名無し:2011/12/23(金) 19:21:56.39 ID:ZLdaru+v
よかった。
2chはロム専でちょくちょく見てた。
教えてくれてありがとう。
じゃあ、投下してみます。

709 名前:お題「男の娘」「ヤマメ」「遺跡」:2011/12/23(金) 19:46:52.51 ID:ZLdaru+v
 異常なのか正常のか、それが問題である。傍から見れば、違いのわからないことなのかもしれないが、
どうやらその答えをそろそろ出さなければいけない。そんな気がするのだ。

 昼過ぎ、騒がしくも楽しげな空気に包まれた教室。ハルは友人達と机を囲んで昼ごはんを食べた後、一
人の時間を満喫していた。机の上には特大サイズのプリンを置き、右手のスプーンでプリンを口に運びな
がら、左手で携帯電話を操作する。ハルの習慣である。
 急激に寒くなり始めた今の時期は首と制服の間にホットカイロを挟むのも忘れない。首元の低温やけど
を防ぐために、手を使わず時折カイロを器用に移動させる。その振る舞いは友人数名から言わせると「お
っさんくさい」らしいのだが、失礼極まりないと思いながらもハルは改めるつもりはない。
「何やってるの?」
 突然頭上から降ってきた聞き慣れた声にハルは顔も上げず、
「釣り」
「ゲーム?」
「ん。ヤマメがなかなか釣れない」
「ヤマメ?」
 そこでハルはようやく顔を上げ、丁度ハルの携帯を上から覗き込もうとしていた美少女……いや少年と
至近距離で目が合った。
 肩近くまで伸びた髪は無造作であるはずが何故か人目を奪うほど滑らかで、顔立ちは驚くほど整った目
鼻たちに、何かを訴えかけるように潤んだ大きな瞳を長いまつ毛で縁取り、桜色の唇はうっすらと光沢す
らある。平均よりも随分小柄な体格のせいか、ブレザーは身の丈にあっておらず、手の半分が裾に隠れて
いた。
 まごうことなき美少女である。よく言えば守ってあげたいオーラを撒き散らした、悪く言えば土下座で
もすれば大抵のことは許してもらえそうな、そんな雰囲気を持った人である。
 されど、彼は彼だった。生物学上、戸籍上はれっきとした男であり、所謂男の娘である。
 名を橘アユムと言う。
 ハルは思っていた以上に至近距離にいたアユムに一瞬どきりとするも表情には出さない。
 その代わりというわけでもないが、ハルは眺めていた携帯を机に置き、淡々とした声で、
「アユを釣るのは簡単なんだが」
「どういう意味?」
「さてね」
 ハルがわざとらしく肩をすくめるとアユムもわざとらしくため息をついた。それから、へたり込むよう
にハルの机に両腕を置いて、しゃがみ込んだ。
 アユムがハルを見上げる。
 じぃっと見つめるアユムを見ていると、何かを誘っているようにも見えてしまい、ハルはアユムに気づ
かれぬよう視線を逸らし、プリンをほおばった。
「それで、何か用?」
 とハル。
「用と言うわけでも、ないわけでもない気がするけど、一言で言えば愚痴りたい」
 その言葉だけでアユムが何を愚痴るのかハルはわかった。


710 名前:お題「男の娘」「ヤマメ」「遺跡」:2011/12/23(金) 19:56:01.02 ID:ZLdaru+v
「何人目だっけ?」
 とハルは聞いた。
「…………」
 アユムが無言で細い手をゆっくりと開いた。
 ようするに、その指の数だけ愛を告げられたということだろう。もちろん女性からではあるまい。
「五人? 今月だけで? やったじゃん。新記録じゃん。モテモテでうらやま」
「……できることなら女の子にもてたい。他校の人からはさすがに慣れたけど、同じ学校はきついです」
 がくっと、アユムが頭を垂れると、肩近くまで伸びた、小麦色の髪が静かに揺れた。
 それからハルはアユムの愚痴を聞いた。何度となく聞かされた愚痴であり、要約すれば、「女じゃない
男だ」そのようなことを女のような綺麗な声で囁くのだ。
 ハルは一通りの愚痴を聞いた後、
「まあこの学校のブレザー男女似てるし」
「スカートは履いてない」
「確かに」
 ハルは乾いた笑いを押し殺すよう頷いた。
 アユムからすれば笑い事ではないのだろう。同姓に異性扱いされていては満足に友達もできない。その
辛さはハルにも少しだけわかる……気がする。
「でもまあ、見た目女の子にしか見えないわけだし。男から告られたくなかったら、もっと男らしくいな
いと」
 それはハルの願いでもあった。男らしいアユムなどまるで想像できないが、一度は見てみたい。
「……例えばどんな?」
「うーん、まず髪。男にしちゃ長いよ、それ。思い切って坊主とかにしてみればいいんじゃね」
「ダメ。ある程度顔が隠れる長さじゃないと不安で仕方がない」
 一体何が不安なのか。
「……じゃあ筋肉つけるとか」
「腕立てのやり方がわからない」
 わからないではなく、腕で身体を持ち上げられない、が正しい。
「……もういっそのこと、取っちゃえば?」
「な、なにを……」
「さあ?」
 曖昧に返事をするハル。
「だけど、そんなんじゃいつまでたっても女の子のままだぞ?」
「そう言ったって……いつか僕のことを理解してくれる人が現れるよ。ハルみたいに」
 やれやれ、とハルは心の中でため息をついた。理解しているわけじゃあない。今のところアユムにそれ
を教えるつもりはないが。
 ハルは手に持っていたカイロをなぎさの頭の上に乗せ、ぽんぽんと頭を軽く叩いた。アユムの肩がぴく
りと上がるも、何か言うわけでもなく、むしろ満更悪くなさそうな表情でされるがまま。
 こういう表情が更に男を惑わすんだろう、とハルは思う。罪作りな男だ。本当、そう思う。
 ハルが叩くことから撫でることへと移行しようかと邪推しかけた時――

 ぶぅぅん!! ぶぅぅん!

「うわ!」
 机に置いていたハルの携帯が途端に震え出した。
「メール?」
 慌ててハルは携帯を拾い画面を確認する。
「違う……ヒットだ!」
 起動したままであったゲームアプリが当たりを示す画面へと変わっていた。
 これは……ハルは握っていたスプーンを投げるようプリンにかぶせ、両手で携帯を握る。感知センサー
が搭載された携帯を画面の指示に合わせ、右に左へと傾ける。
 最後、ハルが大きく携帯を後ろにそらすと一際大きな振動が両手に伝わり――


711 名前:お題「男の娘」「ヤマメ」「遺跡」:2011/12/23(金) 19:59:56.61 ID:ZLdaru+v
「ゲット……やっときた」
 かみ締めるよう小さく握りこぶしを作るハル。
 ヤマメである。この魚だけはやけにヒット確立が低いせいで、これが初めての釣果である。サイズは大
きくはないが、思わずにやけてしまう。
 少しの間、余韻に浸るよう画面を眺め、そして、つい熱中してアユムの存在を忘れていたことに気づく。
 ハルが顔を上げると、何故かアユムも嬉しそうに微笑んでいた。
「……なに? その顔? 可愛いって言ってほしいの? 可愛いが」
「違うよ! ハルと仲良くなったきっかけも魚釣りだったなってちょっと思い出しただけ!」
 なぎさが言っていることはハルももちろん覚えている。今から五年前、課外授業で渓流を登った時のこ
とだ。ハルがアユムが男であると知ったのもその時である。
 ハルは照れ隠しのつもりで、
「……? 仲良くなったつもりはないが?」
「え!?」
「え?」
「え? じゃない! え? 本気?」
 打てば響くアユムをからかうのは面白い。その他男性とはまた違う、性癖に目覚めそうである。
 ハルは笑いを堪えながら、
「なんだい? 友達じゃないって言ったら、アユムは友達じゃなくなるのかい? それは、ちょっと悲し
いな」
「いや、そういうわけじゃないけど。ていうかそれとこれとは話がまた違うというか……まあいいや」
 なぎさは気を取り直すよう小さく首をかしげ、
「あの時も確かヤマメ釣ろうとしてたんだっけ?」
「結局釣り上げたのはアユになったけどね」
「だから、そういう意地悪なことは言わない」
 そう、ハルはその日、アヤメ釣りに挑戦していた。現実に釣ったことがあるのはニジマスだけ、それも
釣り場で、だ。そろそろアヤメにチャレンジしたいと思っていた矢先の課外授業。ハルは下流で遊ぶ同級
生たちと隙を見て離れ、一人上流で釣り糸をじぃぃっと垂らしていた。当時――今もかもしれないが――
年齢に見合わず、ひたすら音を忍ばせ糸を垂らす子どもはさぞかし奇妙なことだっただろう。
 そんな時、木陰からひょこっと現れたのがアユムだった。
 ハルは最初、突然現れたアユムを邪魔だなと思った。何しろアヤメは警戒心が強く、少しでも騒げば釣
れる可能性が圧倒的に低くなる。しかしアユムは騒がなかった。ハルの傍から少し離れた場所でハルと同
じよう水面をただずっと眺めていた。
 だが、その数分後、アユムは川に落ちる。アユム曰く足を滑らせたらしい。さすがのハルも釣りどころではなくなり、慌ててアユムの元まで走った。そして上手くアユムの服に釣竿の針を引っ掛けて、見事アユムを釣り上げた、ということである。
 びしょ濡れになった、アユムを着替えさせようと服を脱がせると何やら、思った以上に膨らんだとある場所。アユムがハルのクラスに転校してきたその日から、女である疑っていなかった。疑うことすら愚かしい、それくらいアユムは完璧な女の子だった。
 初めてあれを見たときの衝撃、ハルはおそらく一生忘れないだろう。


712 名前:お題「男の娘」「ヤマメ」「遺跡」:2011/12/23(金) 20:12:48.44 ID:ZLdaru+v
「後にも先にも最高サイズの釣果だった」
「……いい加減、怒っていい?」
 アユムの細い手が抗議を告げるように振り上げられる。しかしながら、その表情は怒っているというわ
けでもなく、わざとらしく作りました、という態である。
 ハルはすかさず、机に置いていたプリンをスプーンですくい、半開きしていたアユムの口の中に、
「ふが」
 押し込む。
「プリンをやるから許せ」
「……やり方が乱暴だよ」
「しかしだ、大抵のことはプリンを食べれば解決できる。そう思わないかい? マイフレンド」
「そうかなぁ?」
 今しがたハルが突っ込んだスプーンを口に当てたまま、首を傾げるアユム。
 今更、間接キスなる言葉がハルの脳裏を過ぎるが、すぐさまそれを打ち消して、
「とある古代遺跡に残された壁画にはプリンが神の供物として描かれているらしい。それくらいプリンは
偉大なんだ」
「ウソでしょ? それ」
 アユムはそう言いながら、何の抵抗もなさそうにくわえていたスプーンをハルに手渡し、
「まあね」
 ハルは少しだけ戸惑いながらも――もちろんアユムには気づかれないように――何気なく受け取り、残
り少なくなったプリンを一気に放り込んだ。
 何の変哲もない日常。
 アユムの愚痴に付き合う内に、いつの間にかどうでもいい話へと変わる毎日。
 それが、今日も続いていた。
「しかし、仲良くなる要素が見当たらないなぁ」
 とハル。
 確か、アユムが川に落ちた後、こっそり抜け出したことが先生達にばれるわ、何故か川に落ちたのがハ
ルのせいにされるわで仲良くなる要素がどこにもない思い出である。しかし、現実にはアユムの言うとお
り、その出来事がきっかけで仲良くなったように、ハルもまた感じている。
「言われてみれば、そうかもね。でも、それからハルが僕を遊びに誘ってくれるようになったんだよ」
「そうだったかな?」
「うん。ハルは男の子とばかり遊んでたし。さっきの話じゃないけど、クラスの男子と遺跡探索とか言っ
て、山を探検したりしてさ。その中に入れてくれたのはハルだよ」
「覚えてないなぁ」
 ウソである。アユムを女だと思っていたから遊びには誘っていなかった。しかし、男であると気づいて
からも、ただ、数多くいる男の子の一人として、誘っていたに過ぎない。そこに特別な意味はなかったし、
感情もない。
 ただし昔は。


713 名前:お題「男の娘」「ヤマメ」「遺跡」:2011/12/23(金) 20:16:10.97 ID:ZLdaru+v
 気づくと、そろそろ昼休みが終わろうとしていた。
 それはアユムも気づいたのか、
「次の授業なんだっけ?」
「世界史。奇遇なことに、大昔の遺跡のお勉強だ」
「じゃあ、移動か。準備しなきゃ」
 アユムは自分の席に戻るつもりなのか、後ろを向いた。
 少しだけ見えた首筋が妙に艶かしい。
 毎日、続く日常。大きな平凡に埋もれていく些細な違い。
 ハルは時折、答えを求める。
 あくまで、誰にも気づかれないようこっそりと。
 ハルは言った。
「アユム。女の子扱いされるのは嫌?」
 アユムは首だけハルの方を振り向き、
「そりゃあ、うん。一応、男だから」
 異常なのか正常なのか、それが問題である。
 女だと思っていた彼が男で、今でも女だとしか思えない彼のことが――
 気になってしまう感情はどこから生まれてしまうのか。
「でもさ、ハルってもう少し女の子らしくしてたらもてそうなのに、もったいないよね」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ。それに、近くに美人がいると平凡な女はかすんでしまうさ」
 どうやら、自分はアユムのむっとした顔が好きらしい。
 ハルが今日何とか導き出した答えはそれだった。
 先はまだまだ長い。


 終わりです。
 投下遅くてすみませんでした。

714 名前:創る名無しに見る名無し:2011/12/23(金) 20:18:10.60 ID:ZLdaru+v
うわ。早速脱字してたし、何か色々ミスってるっぽい。
ごめんなさい。

715 名前:創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 11:51:23.90 ID:68s9/h2l
>>709
乙です。いい雰囲気ですね! なんか、この後も続いていきそうなw
個人的には、もう少し読みたい気もしますが、
短編読み切りだともっとコンパクトにできそうな気がします。

キャラが魅力的ですねー。
二人とも性別不詳な名前ってのが自分的にGJでしたw
(なぎさ=アユム、でいいのかな?w)

誤字、誤変換は見直すことでだいぶ減らせると思います(それでも見逃すことはありますがw)

あらたな書き手さんが来てくれて嬉しいです。
また投下して下さいね

716 名前:創る名無しに見る名無し:2011/12/25(日) 19:43:02.09 ID:a687yJcP
誤字・脱字だらけだったのに読んでくれて嬉しいです。
こういう場所、というより人に読んでもらうのは初めてで
かなりテンパって投下してしまいました。
次回からは気をつけます

717 名前:創る名無しに見る名無し:2011/12/26(月) 00:12:26.87 ID:zXDWbPqi
過疎っているようなので、連投させてください。
不快に感じる方がいればレスを。
静かに去ります。

718 名前:お題「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」:2011/12/26(月) 00:16:15.59 ID:zXDWbPqi
「なあ、死ぬほど働きたくないんだがどうすればいい?」
 と、ユウキは言った。
「そのまま死ね」
 と、即答するカナ。
 ユウキとカナ。二人の席はいつも近い。クラス替えのたびに同じクラス、席替えのたびに近くになる。その
せいで世間話だけはくさるほどしてきた二人であったが、互いのメールアドレスすらも知らない関係で、実の
ところ、お互いの席に付いている時くらいしか話さないし関わらない。
 仲が良いのか悪いのか、遠巻きからすると判断の付かない二人だった。もしかすると当の本人たちもわかっ
ていないのかもしれない。
「死ぬのは勘弁だな」とユウキ。
「じゃあ、働け」
「だから、それも嫌なんだって。働かなくて生きていく方法とかないだろうか?」
「あんた、それ親の前で言ってごらん? 殺されるよ」
「死ぬとか殺すとか物騒な奴だなぁ」
 呟くようにユウキがそう言うと、丁度クラス担任が教室に現れ、どちらからというわけでもなく会話は終わ
った。

 休み時間。生徒たちが次の授業のためにそろそろと自分の席に戻るその時、二人の会話の始まりである。
 ユウキは次の授業で使う古典の教科書をパラパラと捲りながら言った。
「知ってるか? 光源氏ってすげーロリコンなんだよ。それ許されるってどうなん?」
「それだけこの星じゃあイケメンは勝ち組だってことね。大昔からこの星のシステムがそうなってんの」
 ユウキは「そうなんだよなぁ」などと呟きながら、教科書を開いたり、閉じたりしていた。何か考え事をし
ているようにも見えるがおそらく何も考えていない。少なくとも――教科書の文字を追っていないところを見
る限り――数ヶ月後に控えた大学受験のことを考えているわけではなさそうだ。逆にカナは古典の単語帳を片
手に予習を欠かさない。ただ、何かを待つようにユウキの横顔をちらりとうかがっているようにも見えた。
 数秒後、ユウキはパタンと教科書を閉じ「あ」と声を挙げた。
「発見したぞ。働かなくても生きていく方法」
「……言ってみなさい」
「源氏みたいに将来性のある子どもを養ってそいつに食わせてもらう」
「……とりあえず、家帰ってみなさい。似たようなこと実践してる人が二人はいると思うわよ。それに養うお
金はどこから沸いてくんのよ」
 カナがため息をついたところで、チャイムが鳴り会話は終わった。

 そんな風な毎日で、そんな感じの二人だった。
 周りも本人たちも受験だ、就職だ、と騒がしいせいか確実に迎える別離がまだまだ遠くにあるように錯覚し
ているようだが、時間が歩みを止めることはない。
気温の低下と共に受験が近づく。しかし二人は変わらなかった。


719 名前:お題「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」:2011/12/26(月) 00:18:05.06 ID:zXDWbPqi
 ある日の帰りのホームルーム。以前に受けた模擬試験の結果が返却され、教室がにわかに騒がしい。
「どうだった?」
 とカナはユウキに言った。
 気にした素振りも見せず、ユウキは持っていた成績表をカナに見せる。それを見た直後カナは難しい顔をし
た。
「……なんであんたって不真面目なくせして成績良いわけ?」
 二人の成績はあまり変わらない。むしろ、ユウキが少し上である。特に数学系に関しては平均を大きく上回
る成績だ。
「俺だって勉強はしてるんだが……」
 とユウキは言って、何かを思い出したようにため息をついた。
「でも成績良くてもどうせ大学でたら働かないとダメだしなぁ」
「まだ言ってる。そんなに働きたくないなら逆タマでも狙えば?」
「逆タマ?」
「そう。女に養ってもらえばいいんじゃないの?」
「なに? カナが面倒見てくれんの?」
「冗談。あんたが光源氏並みなら考えてやってもよかったけど」


 いよいよ受験である。全国統一試験は終わり、一月後には二人は別々の大学、別々の試験を受ける。
 それでも二人は変わらない。
 その日、ユウキは珍しく、時間を惜しんで勉強をしていた。
「あんたでもこの時期になるとさすがに勉強すんのね」
「んー? いや、この間言ってた逆タマだけど、結構名案だと思うんだ。だから勉強することにした」
「ん? どういう意味?」
「つまり、良い大学に行く。するとそこには将来有望な学生がたくさんいる。中には働くことが生きがいの女
性もいるはずだ。そんな人と学生のうちから付き合って結婚すればいい。卒業後、俺は家事に専念。名案だろ?」
「……そのあほな妄想力だけは素晴らしいと思うわ」
 とカナは呆れるのを通り越したようにユウキから視線を逸らし、持っていた英単語帳をぺらりと捲る。
 一方、ユウキは「そのためにも受験だな」とノートを拡げ、せっせと数学の問題集を埋めていく。
 ふと思いついたようにカナは顔を上げ、
「そういえば、あんた志望どこだっけ?」
「宇宙工学」
「ふぅん。なんでまた?」
「はやぶさがテレビで出てたから宇宙船でも作ろうかと思って。数学と物理は得意だし」
 何とも将来性のない志望理由である。唯一救いなのは、工学であることくらいか。
「それに工学に進む女性なんて働くの好きそうじゃないか。仮に学生のうちは結婚が無理でも、宇宙船開発と
かにいる女性なんて絶対働くの好きだろ。だから俺はちょろっと働いてすぐ社内結婚、退職。これでばっちり」
 と、ユウキは付け加えた。逆タマを本気で狙うのを考え出したらしい。
「だからカナも工学部に進めばいい。安定した職種に付きそうな男がうようよいるし、オススメだぞ」
「私はあんたみたいに働きたくないなんて思ってないから」
「じゃあどこ?」
「法学。狙ってるのは弁護士だけど、無理なら公務員ね」
「なあ、やっぱり俺と結婚しない?」
「魂胆が透けてるわよ。イケメンになって出直してこい」
 そして――


720 名前:お題「逆タマ」「キーボード」「宇宙船」:2011/12/26(月) 00:19:07.43 ID:zXDWbPqi
受験が終わり、迎えた卒業。
二人は別々の道を歩んだ。進学した大学も別、その上、ユウキは工学部、カナは法学部。キャンパスは離れ、
偶然に出会うことなどないだろう。お互いに会いたいと思わない限り。
 もう二人は隣合ってはいない。傍にもいない。
 当然である。争いも馴れ合いもなく、二人は隣り合い、ぬるま湯のような関係を続けた。
 それが二人の歴史だった。それを変えようとしなかったのもまた二人の選んだことだった。
 ただ、ぬるま湯の心地良さは、外の寒さを知らなければ本当の意味で実感できない。


 ――十年後。
 二人は学生時代、何を交わしていたのか、そのほとんどのことを覚えていない。どうでもいいことばかりを
話していたような気もするし、重要な――人生が変わるきっかけになったことを話したかもしれない気もする
が今となっては確かめようもない。
 ユウキは暗い部屋で、パソコンの電源を入れた。すぐさまパソコンに光が灯され、淡く部屋を照らした。部
屋の中にユウキ以外の人はいない。家具の類以外は物もほとんどなく、質素そのものの部屋だった。
 ユウキはパソコンの前に座り、おもむろにキーボードを叩きだした。
 カタカタとキーボードを叩く音だけが世界の全てのようだった。

<yuki>働きたくない。
<kana>あんたそれ何年前から言ってる?
<yuki>公務員は楽だって聞いてたのに全然楽じゃない。今日も今帰ってきた。話が違うじゃないか。
<kana>あんたがすぐ他人の言葉に惑わされるのが悪い。
<yuki>宇宙船。正式に決まった。でも見積もりで発射十年後。長すぎる。働きたくない。
<kana>馬鹿言ってないでさっさと寝なさい。私はもう寝るから。

――通信が切れました――

「……働きすぎて死んだりしないでしょうね。あいつ」
 カナは、名残惜しむようにパソコンの電源を落とした。パソコンの前で座って待つ時間と比べて、あまりに
少ないひと時だった。
 部屋を照らすものはない。もう深夜を過ぎているせいか静寂そのものだ。
「世間一般に言えば私って玉の輿なのかしら」
 自嘲するように呟くとカナは部屋を後にして寝床へと向った。ゆっくりとした動きでベッドの中にもぐり込
むカナにすやすやと心地良さそうな寝息が届く。
「全然会えなくて寂しいね、ヒカル。ゆっくりお話したいけど明日も仕事だもんね」
 答えはない。カナも答えを求めていないのだろう。
「パパは今日も頑張ってるよ。あなたのために」
 カナの傍で眠る幼児が、母の言葉に応えるようこくりと頷いた。


 終わり。
 短く書けない。

721 名前:創る名無しに見る名無し:2011/12/27(火) 19:23:07.42 ID:eUR6m0JN
乙でーす
こういう終わり方好きだなw
お題の消化は自然だし、長いとも感じなかった。
ちょうど良いくらいじゃね?
GJ!

722 名前:創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 20:39:11.72 ID:MsAeEqic
あげ
新年一発目のお題くださいー

723 名前:創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 20:46:08.55 ID:WUuOx693
正月太り

724 名前:創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 21:05:07.26 ID:ucylBFKm
リバウンド

725 名前:創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 21:19:43.39 ID:o8OtVhG4
ねじ

726 名前:『正月太り』『リバウンド』『ねじ』 1/2 ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/07(土) 00:13:29.66 ID:sbCpFZt9
ヨソではちょこちょこ投下していますが、ここではお初させていただきます。
ほぼアドリブで書いたので稚拙ではありますが、よろしかったらドウゾ。

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その男は大いに焦っていた。

プロ・ライセンスを取得したばかりのボクサーである男は、迫るデビュー戦に向けて猛練習と減量を続けていた。
ジムでの打ち込みとスパーリング、河原でのランニングとシャドー、さらにはサウナ室でのヒンドゥー・スクワット・・・と
思いつく限りの練習を続け、デビュー戦十日前には理想の体重となっていた。

だが、この状況に満足してしまったのが男の失策であった。

同時期、世間は新年に向けての正月ムード。
そんな状況で男のもとに現われる親戚一同、そして美味い酒と美味い料理。
始めは「もうすぐ試合だから」と遠慮していた男であったが、つい一口だけ飲んでしまった酒と親戚らの高いテンションに
後押しされて二口目の酒を飲んでしまったのが運の尽き。

気が付いたら、男は酒の飲み過ぎで病院に運ばれていた。

さすがに反省した男は、医師に許可をもらい、早めの退院。
正月の暴飲暴食で増えてしまった体重を減らすため、打ち込みからヒンドゥー・スクワットまでのいつもの練習メニューを
再開するのであった。

ところがであった。

練習を終え、体重を測る男。
自分の醜態を恥じつつ、体重計を覗く・・・が、その数値は練習前と変化がほとんど無し。
「・・・まあ、一日じゃ戻らないよ・・・な?」
そう言って、焦りの表情浮かべつつ、男は何故か自分を無理やり納得させようとするのであった。

だが・・・。

次の日の練習をこなすが、体重は変化せず。
その次の日も練習をこなすが、体重は変化せず。
その次の次の日も練習をこなすが、体重は変化せず。
その次の次の次の・・・とにかく、男の体重はあってはならない数値を一定に保ち続け、同時に男の小さな焦りを
雪玉のように大きくするのであった。

「どうして体重が減らないんだ!」
体重計を前にして叫ぶ男。
試合三日前にもかかわらず、男の体重はやはり『変化なし』であった。
「確かに・・・確かに俺は理想の体重になったことに浮かれて酒を飲み、そしておせちを食った!
 だが、今はそれを反省し、減量に努めているのに・・・どうして・・・どうして?!」
悲痛な大声を上げる男。
しかし、いくら声を荒らげようとも、男の体重が減ることは無かった。


727 名前:『正月太り』『リバウンド』『ねじ』 2/2 ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/01/07(土) 00:17:03.51 ID:sbCpFZt9
「こうなったら・・・限界まで走り込んでやる!」
ヤケクソになり、外へ飛び出そうとする男・・・であったが、彼が右足に負荷をかけたその瞬間、
彼のヒザから金属を割るような音が聞こえ、次の瞬間には男の体は床に倒れていた。

男は唖然とするしかなかった。

体重が減らないだけじゃない・・・今度は体が・・・試合に出場する自分自体が壊れてしまった・・・。

そんな絶望感を胸に抱きながら、男は自身の折れたヒザを見るのであった・・・が、男はあることに気付いた。
本来、ヒザが折れるような大事故が起きた場合、大きく腫れるなり血が出るなりと何らかの変化をヒザが起こしているはずである。
ところが、確かにヒザを動かそうとしても何ら反応は無いが、見た目には何の変化も無かった。
唯一あるとすれば、ヒザの側面に一ヶ所ほど小さな穴が開いており、そこからは3cmほどの細長い『ネジ』が今にも外れそうな感じで
飛び出しているのであった。

その後、とある病院に男の事故に対する治療依頼の電話が入った。
「・・・はい・・・え?・・・はぁ・・・分かりました。すぐに連れて来てください。」
電話を切る医師。
その直後、医師のもとにひとりの看護師が紙の束を持って現われた。
「先生!見てください!!」
「どれどれ?・・・『××剤を麻酔として使用した際に発生する記憶障害について』・・・?」
「先生・・・確か、うちの病院で手術用麻酔のひとつに××剤を使ってましたよね?大丈夫なんでしょうか・・・?」
「・・・いや、手遅れだったかもしれん。」
「何ですって?!」
「いやね・・・少し前に酔っぱらって事故を起こした男がいたろう?」
「ええ・・・確か一週間ぐらい前に運ばれてきた・・・バイクとトラックの衝突で、バイクに乗ってた男の人が全身を粉砕骨折、
 内臓の8割を損害した・・・。」
「そう・・・ただ、頭部に関してはヘルメットのおかげで無事だったから、脳はサイボーグ・ボディに一時移植し、
 残りのパーツ全ては高速クローンによる再生を現在進行形で行っている・・・で、その患者がどうもサイボーグ・ボディを
 疲労骨折させたみたいなんだ。」
「疲労骨折?」
「どうも過度なトレーニングをやってたらしくてね・・・あのボディ・・・保険が効くとは言え、結構高い代物なんだけどなぁ・・・。」
「トレーニング・・・って、術後にそんな運動させて良かったんですか?」
「彼はボクサーらしくてね、試合も近いから少しでもボクシング技術を脳に記憶出来るよう特別許可を与えたんだが・・・
 でも『やり過ぎは禁物ですよ』って言った覚えがあるし・・・やっぱ××剤の影響なのかなぁ・・・。」

あの日、男は調子づいて酒を飲み、そのままバイクに乗って事故を起こした。
そして、体を失った男は脳のみのサイボーグと化したが、××剤による記憶障害で自身がサイボーグであることを忘れ、
減ることも増えることもない機械の体で減量に挑んでいたのであった。

ウッカリにはご注意・・・そんなお話。

おわり


728 名前:創る名無しに見る名無し:2012/01/07(土) 00:33:54.07 ID:hE+DM7FP
おおー。いいなあ巧いなあ
書きぶりもいい感じで好きだー

729 名前:「正月太り」「リバウンド」「ねじ」1/2:2012/01/09(月) 22:14:33.20 ID:dTg58SIb

家族4人でコタツを囲んでいた。私の大根みたいに膨れ上がった足が兄貴と
父と母の足とぎゅうぎゅう押し合い、ただでさえ暑いコタツの中でひしめき
あう。四人家族の汗で部屋にはうっすらと霧がかかり、でっぷりと太った腕
は休むことなく鍋の中身をお椀に移し、口に運ぶ。とろりと溶けたモチがだ
し汁をよく吸って香ばしい、もはもはと息を漏らしながら家族四人がえんえ
ん鍋を食べ続けている。

私たち家族ってこんなに太っていただろうか? モチを食べ続けながら私は
ふと思う。いやそんなはずはない、兄はファッションモデルだし、父はスイ
ミングスクールの先生なのだ、こんなガチャピンみたいな体型で務まるわけ
がない。私だって月に三枚はラブレターをもらう美少女なのに、いつのまに
こんなに太ったのだろう。ああモチおいしい。

やっぱり正月にコタツに鍋というのが良くないのだろうか? でも正月太り
ってこんな急激に太るもんだっけ? 鍋のモチが少なくなってきたので私は
鏡餅のほうに手を伸ばす。ペンチでその一部をべきりとちぎって鍋に入れる
。鏡餅って切っちゃダメらしい。ぼちゃぼちゃと鍋に投入する。同時に和風
だしの元を少し鍋に足す。なんて香ばしいんだろう。私のよだれがコタツの
上にぽたぽたと落ちる。


730 名前:「正月太り」「リバウンド」「ねじ」2/2:2012/01/09(月) 22:15:36.16 ID:dTg58SIb
カレンダーを見るともう1月10日だ、そういえば初詣とか行ったっけ? 
この体じゃ振り袖も着れないなあ、まあいいか、私はモチをがつがつと食ら
う。鏡餅をべきりと割る。

そうだ、と私は思う、この鏡餅は全然減っている気配がない。もう何百回も
ペンチでちぎっているはずなのに。兄にそう言う。兄はリバウンドしたんじ
ゃね? と言って箸を休めもしない。なるほどリバウンドか。そういうもん
なのかな。

そのとき窓ガラスがばあんと割れて、白髪の男の人が乱入してきた、よく
見るとそれは田舎のお爺ちゃんで、目が血走って鬼のような形相をしてい
る、鉢巻には巨大なネジが二本挿してあり、両手持ちの電動ドライバを構
えていた。
お爺ちゃんはそのネジとカナヅチを抜き放ち、鏡餅に向かって思い切り打
ち付けると電動ドライバのスイッチを入れる。ずぎゃぎゃぎゃとものすご
い音がしてモチの破片が砕けていき、そしてふぎゃああという発情期のネ
コのような声がとどろき。鏡餅が突然飛び上がってお爺ちゃんを跳ね飛ば
し、そのままモチが白い蛇になって物凄い速さで部屋を出て行った。

私たちはぽかんとそれを見つめて。
そしてまた鍋を食べようとしたらお爺ちゃんに殴られた。


731 名前:創る名無しに見る名無し:2012/01/16(月) 17:18:07.17 ID:ciJPy3LM
ちょっと俺にも殴らせろ

732 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/04(土) 00:50:21.61 ID:NiKd1J+s
ageてみます。
何かお題ありましたらプリーズ。

733 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/04(土) 01:11:20.88 ID:eW5kevPA
山盛り

734 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/04(土) 02:45:18.85 ID:iBqtGtlg
初恋

735 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/04(土) 18:50:26.06 ID:9ahgnoUe
笑うマトリョーシカ

736 名前:山盛り、初恋、笑うマトリョーシカ:2012/02/13(月) 20:58:32.19 ID:mWVX2aSW
 俺はひょんなことから初恋の女と再会し、人気のない地下のオムライス専門店で食事をしていた。
「ねえ、笑うマトリョーシカって知ってる?」
「知らん」
「今、その現物を持ってるんだけど」
 リョウコは達磨と雛人形を融合させたような赤い人形を取り出した。
 人形は胴体で分かれるようになっていて、内部の空洞には、より小さいマトリョーシカが入っている。
それを同じように上下を分離させると更に小さなマトリョーシカがあり、その行為を繰り返すと、人形は合計で六体あった。
 一番小さい人形だけが黒い。
「人形の顔をよく見て」
「三番目の人形だけ笑ってる。なんか冷たい笑顔だな。まるで氷の微笑だ」
「じゃあ次に人形を全部直して一体にしてみて」
「俺がやるのか」
 俺がやった。全部組み直して一体に戻した。
 次にリョウコは入れ子人形を再び展開するように言った。
 俺はまさかと思って異国の人形をばらしていった。
 すると――
「おい、今度は五番目だけが笑ってるぞ。これはどういうことだ」
 俺は何かに取り憑かれたように、マトリョーシカを組んだり、ばらしたりを繰り返した。
 ばらすたびに笑うマトリョーシカが変わっている。
 もしリョウコがこれをやってみせているなら手品だが、弄っているのは俺自身で、さっぱりカラクリがわからない。ちょっと薄気味悪くもあった。
「笑うマトリョーシカは二番目から四番目の間で発生するの。六番目はまず笑わないわ。あれは、笑わないほうがいいのよ」
「一番目は隠れようがないから笑えないだろうが、最後の黒いのはなぜ笑わないんだ?」
「それは、言えないわ……」
 マトリョーシカを弄る俺の手が止まった。
「おい……」
 そのとき人形は五番目まで展開していた。ここまででマトリョーシカが一体も笑ってない。ということは――
「ごめん、私急用ができたから帰るね!」
 リョウコは、山盛りのオムライスを途中で食べ残して、脱兎のごとく店を出ていった。
『ふふふふ』
 やがて、五番目の人形の腹の中で奇怪な笑い声が漏れてきた。
 六番目の黒いマトリョーシカは、自ら這い出ようとカタカタと動きだしているのだった。(了)

737 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/14(火) 05:53:23.86 ID:35+PoGC1
間違い訂正

× 笑うマトリョーシカは二番目から四番目で発生するの。

○ 笑うマトリョーシカは二番目から五番目で発生するの。

738 名前:山盛り 初恋 マトリョーシカ:2012/02/26(日) 23:24:45.24 ID:HNZz8KFt
男の生業はマトリョーシカ割りだった。
マトリョーシカを割って、中から新しいマトリョーシカを取り出す。それだけ。
過酷と言えば過酷だが、男はそれを苦痛に思うことはなかった。

少年時代。
男はいたって健常な少年だった。
世界のためにこの身を奉仕しよう、などと青臭い情熱は無かったが、
男には自分が他人より優秀な人間であることは分かっていた。
その能力を自分以外の誰かのために使わなければならない。
そう思いつつも、爪を隠すように、澱を水底に沈める生き方をしてきたのが彼だった。

男には意中の女の子ができた。
初恋だった。後にも先にも、一度きりの。
彼女は特別な人間だった。少年時代の男にも、彼女を見た瞬間それがわかった。
自分と、自分以外。
そんな区分の中に、新たに彼女という項目ができたのだ。
滑稽な置物しかいない世界で、彼女がどこにいても分かった。
自分の人生は彼女に出会うためにあったのだと、恥ずかしげもなく男は思っている。

その彼女が死んだときの絶望たるや、男には世界が失われたも同然だった。
生きる意味・目的が消えたのだ。
大人びてはいても精神が未熟であった少年が、死を考えたのも不思議ではない。
だが死を選ぶことは無かった。
彼にとって初めての絶望とも言えるそれは、初めてと言える情熱へと姿を変えていた。
もう一度、彼女に会おう。それが少年の決心だった。


739 名前:山盛り 初恋 マトリョーシカ:2012/02/26(日) 23:26:20.51 ID:HNZz8KFt

死は男にとって最後の手段だった。
その後の世界というものを学んだ時、
男には、特別であった彼女と同じ世界には行けないのでは、という恐怖が生まれたのだ。
死は結果ではなく手段――それも一方通行の上がり札でしかない。
上がってしまえば、他のカードを試すことはできなくなってしまう。
必然的に男はそれ以外を考えた。

男には世界の裏側にあっても、有象無象の中から彼女を見つけ、取り戻す自信があった。
それが遥か遠くの黄泉と呼ばれる国であっても、変わりない。
そうしてたどり着いたのは、輪廻だった。
無神論者であった男は、仏といった類は信じなかったが、世界の構造に於いては別だった。
何より、この世界で彼女ともう一度会うには、それしかないと思った。
今一度生まれおちる彼女を抱きあげて、そして最後まで守り抜く。
今度こそ。

大学時代、とある友人に「おまえは狂ってるよ」と言われたことがあった。
今でも連絡を取っている人物は彼くらいのものだ。
彼もまた、少しだけ特別な人間なのかもしれない。
だがそんなことはどうでもよかった。
男にはやはり、自分と、自分以外と、そして彼女しかなかったのだ。
それが覆ることはありえなかった。
男にはもはや、もう一度彼女に出会うための道のりしか見えていなかった。

今日も4個のマトリョーシカを割った。
昨日から続けて8個だ。
自室代わりに支給されている休憩室には、山積みでは生ぬるく、山盛りとなっている書類の山。
心底彼に取ってゴミでしかないそれらに目を通し、処理をしていく。
そのうち、誰かが自分の名前を呼んだ。どうやら時間らしい。
深い隈を眼の下に浮かべ、男は休憩室を出た。

今朝、久しぶりに友人から電話がかかったことを思い出した。
何の用も無い。ただなんとなく。
そう言う彼に、しかし男もまたなんとなく、仮眠時間を削り、話を続けた。
結局男の意識を沈める時間は無くなってしまったが、
目的だけに向かう男には比較的どうでもいいことだった。

ついにその日が来たのだろう。
腹を裂いて、男には『特別』が分かった。
その他大勢の人形とは違う、世界でたった一つの存在が感じられた。
母親の体液に塗れ、未だ緒で繋がったままの彼女をそっと抱きあげる。
「ようやく、・・・・・・会えたんだね」
男には、えも言えぬ充足感が満ちていた。



自室でベッドに倒れこんだまま、胸を上下させなくなった男。
新生児室には、多くのマトリョーシカがいた。
己の生誕に歓喜し、笑うマトリョーシカが。
【おわり】

740 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/26(日) 23:31:27.62 ID:HNZz8KFt
初投稿しました。
読みづらかったらさーせん、書き込める量が思ったより多くてびっくりしたw

感想、アドバイスをお願いします!

741 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/27(月) 05:52:34.56 ID:3opMcXhW
感想になってないかもしれないが、お題の一つ「笑うマトリョーシカ」が強烈すぎて、
どれもこれに引っ張られるしかないわな。呪われたお題だわ。

742 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/27(月) 17:12:42.34 ID:22OMzuMU
うまくそういうお題の裏を突くふうに創れたらカッコいいんだけどね。

743 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/27(月) 19:01:36.28 ID:AIf5qa7X
初投下乙でした。

最初、マトリョーシカ割りってなんだよって思ったら、
そういうことだったのね。
マトリョーシカの入れ子構造と輪廻転生が
もっと絡めてあるとよかったかな。

744 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/27(月) 22:36:27.90 ID:X9BO88u0
三題の投下したいんですけど、OK?

745 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/27(月) 22:37:05.22 ID:Kk87X9yo
いつでもおk

746 名前: ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/02/27(月) 22:41:18.00 ID:X9BO88u0
じゃあ、投下します。
投下するタイミングを逃してて、ちょっとネタ被った感がありますが・・・

----------------------------------------------------------------------

その日、男は『恋心』というものを初めて抱いた。
・・・と言っても、男が他人と恋人関係を結ぶのはこれが初めてでは無かった。
言うなれば、この男は結婚詐欺師であり、過去に五人の女性と偽りの恋愛関係を結んでは女性から金を巻き上げ、
さらには証拠隠滅のために女性全員を殺害するという・・・まさに己の欲望のみに従って生きている悪魔のような男であった。

だが、そんな悪魔にもまだ人間らしい心が僅かながら残っていたらしく、その男は一目惚れというものを経験した。
相手はひとりの女性、それも男の求める容姿・・・例えば、大きな目やキリッとした鼻立ちなどをパーフェクトに持ち合わせ、
しかも常に笑顔で男に接してくれるという、まさに理想の女性であった。
そんな彼女に、男は一生懸命のもてなしをした。
デート・食事・プレゼント・・・これらのノウハウに関しては、結婚詐欺をやっていた頃の知識で補い、
さらに今回の恋愛に関しては偽りではなく真実の恋であったため、
男の持つ愛を全面に押し出すことで女性は男を恋人としてみるようになり・・・結果として、ふたりは早くも相思相愛の仲となった。

そんなある日のことであった。
「誕生日パーティ?」
男が女性に聞き返す。
「ええ、あなたの誕生日ってもうすぐでしょ?それに今まで私ばっかりがお世話になってるし・・・たまには私にお世話させてよ!」
一方の女性は笑顔を見せながら、元気に返答した。
「うれしいなぁ!」
「じゃあ、決まりね!それじゃあ・・・明々後日に私のマンションに来てよ!!
 パーティ会場はソコ!!!それに、私の友達も何人か呼んでおくわ!!!!」
「・・・え?君のマンションってどこだっけ?」
「・・・あ、そういえばまだ連れて来たこと無かったわね。じゃあ、お迎えもするから明々後日までご期待くださいまし!」

747 名前: ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/02/27(月) 22:43:27.58 ID:X9BO88u0
それから三日後・・・。
男はとあるマンションの一室の玄関前に彼女と共に立っていた。
「ここが君の家か・・・。」
「そう!とにかく入って、今日はあなたが主役なんだから!!」
そう言って、少し強引に男を部屋に入れ込む女性。
彼女に引っ張られつつ男は玄関の奥へと進んでいくと、男の目の前には暗闇のような空間が突如として現われた。
「・・・うん?」
真っ暗な空間に対し、目をこらす男。
とりあえず、目線の先に彼女と
彼女の友達らしき五人の人物が居ることが分かった。
「それにしても・・・電気点けないの?」
そう言いながら、電灯のスイッチを探そうとする男。
それに対し、女性はスイッチを探す男の腕を押さえるのであった。
「ちょっと待って!サプライズがあるから、明かりは後で・・・ね?」
そう言って、暗闇に消える彼女・・・であったが、すぐさま誕生日ケーキとプレゼントらしき小包を持って男の前に現われた。
「ハイ、これケーキ!あと・・・コレ!!プレゼント!!!開けてみて?」
彼女に促され、プレゼントの包みを開ける男。
そこには『何か』が入っているのは分かったが、彼女の部屋が暗すぎるために何かは分からなかった。
「これ何?」
「ちょっと待って・・・こうすれば見える?」
そう言って、ケーキに刺さった蝋燭のうちの一本に火を灯す彼女。
すると、蝋燭の光に照らされて、男の手元に一体のマトリョーシカが現われた。
「これって・・・ロシア民芸だっけ?」
「そう!それに、そのマトリョーシカ・・・私に似てない?」
蝋燭の火に照らされながら笑顔で答える彼女。
一方の男は、その笑顔を見ながら、彼女から貰ったマトリョーシカの顔を比較するのであった。
「・・・うん!確かに似ている!!」
「でしょ!?」
「じゃあ・・・下の段の顔はどんなかな?」
そう言って、フタを外す男。
そこには、別の女性の顔が描かれた一回り小さいマトリョーシカがあった。

その時、このマトリョーシカが男の琴線を僅かに揺らした。

748 名前: ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/02/27(月) 22:46:11.68 ID:X9BO88u0
「・・・あれ?この顔・・・どこかで・・・?」
そう言いながら、続けてマトリョーシカのフタを取る男。
そこには再び女性の顔をしたマトリョーシカがあり、その表情は男にとって見覚えのある顔であった。
「・・・!」
突然、何かを思い出し、顔色が変わる男。
そして、何かを思いつくと、無言のまま・・・まるで何かに取りつかれたかのようにマトリョーシカのフタを取るのであった。
現われる五体のマトリョーシカ。
うち一体は彼女の顔、そして残りの四体と男の手に握られた六体目の顔は・・・。

「思い出した?」
突然、口を開く彼女。
その表情は笑顔のままであった・・・が、その笑顔は自然な笑顔ではなく、まるで能面のような無機質な表情であった。
「・・・き・・・君は・・・いったい?!」
「覚えているでしょう?この顔。」
強張らせた表情を見せる男に対し、自身の手を顔の中央に置く彼女。
すると、彼女の顔から無機質な笑顔がお面のように外れ、そこからは水を含んでブヨブヨとなった水死体のような女性の顔があった。
「!!!」
「それだけじゃないわ・・・。」
再び、顔の中央に手を置く彼女。
そこから現われたのは、血の気を失った女性の顔・火傷によって肉と骨がむき出しになった女性の顔
ほぼ腐りかけた死体の顔・・・。
「忘れたとは言わせないわよ・・・この顔・・・全てあなたを愛した女の顔であり・・・そして、
 あなたの手によってお金と命を奪われた女の顔なんですから・・・。」
そう言って、最後の顔を取る女。
そこには白骨と化した顔が姿を現わした。
「でも・・・あなたとの関係はこれでおしまい・・・だから、返してもらうわ・・・私達のあなたに費やした人生と・・・その命を!!」

749 名前: ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/02/27(月) 22:49:48.52 ID:X9BO88u0
それから数日後、とある警察署にてある殺人事件に関する会議が行われた。
「・・・え〜、被害者の男性は過去の結婚詐欺の疑いでマークされていたものの、重要な証拠が見つからなかったために逮捕出来ずにいた男です。
 死因はショック死・・・また、理由は不明ですが、男の首から上の皮膚・・・つまり顔全体がスッポリと
 抜け落ちたみたいな状況で発見されています。」
「そういえば、何故か事件直後に被害者に似た人物が成田空港で目撃されたとかいう情報があったな・・・それについての報告はあるか?」
「ハイ、成田の空港管理局に問い合わせて防犯カメラを確認したところ、確かにその人物の顔は被害者そっくりでした。
 しかし、その後の金属探知にて身体検査を行ったそうですが、体は全くの『女性』だったそうで、単なる他人の空似だった可能性もあります。」
「顔は被害者そっくり・・・でも、体は女性・・・まるでナゾナゾだな・・・。」
「・・・まさか、犯人であるその女性が被害者の皮を被って変装し、国外逃亡した・・・とか?」
「『事実は小説よりも奇なり』とは言うが、さすがにそんなSFチックな展開はな・・・まあ・・・でも、
 念のために出国したその女について身元と逃亡先を洗っておいた方が良いだろう。
 それと・・・もう一度、現場を調査してみるという手もあるな。」
指揮を執る警察官の声を受けて、出動する刑事たち。
そして、謎の女を結婚詐欺師殺人事件の容疑者と断定するまでには至ったのだが、それ以降に関する事件の進展は望めず、
結果として事件は二週間ほどで迷宮入り、さらには一月ほどで事件は風化してしまうのであった。

だが、これで良かったのかもしれない。

今、あなたの隣りに誰かいるだろうか?
もし、誰か居るのだとしたら、その人の顔が本物かどうか・・・白骨化した顔に剥がされた皮膚が貼り付いているような状態で無いか調べて欲しい。
そして、その顔がもし偽りの顔であったら・・・特に何もせず、放ってあげて欲しい。
何故なら、その人は・・・いや、彼女らは今、あの男に奪われた人生を取り戻そうとしているのだから・・・。

------------------------------------------------------------------------------

以上です。
最後の場面が蛇足だった気がしますが、いかがでしたでしょうか?

750 名前: ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/02/27(月) 22:53:04.53 ID:X9BO88u0
書き忘れていたので補足。

山盛り:重なった顔
初恋:男の恋
笑うマトリョーシカ:彼女のプレゼント(女の怨念)

一応、こんな感じでお題クリアしてますかね?

751 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 18:44:35.37 ID:i6owpL/Y
単品お題系は多分小説のタイトルだろうから、お題の文字列を直接作品に投入する必要はないと思うが、
三題噺は三題の文字列そのものを入れるべきだと思うぞ俺は。

752 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 21:39:44.66 ID:1LlS9jwa
三題をニュアンスおkにすると難易度がガクっと下がるからなぁ。

ただまあ、面白ければ何でもいいとも思わないでもない。

753 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 23:24:27.69 ID:SAOlbDnk
三語スレならお題の文字列そのものを文章に入れることがルールだけど、
単に三題話っていうことならお題の物が登場していれば十分じゃね

754 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/29(水) 00:48:35.66 ID:wnnTsI+w
直接お題単語を盛り込まない場合は、解説無く作中描写でわかるようにする、
というのがベターではあるだろうけど、まああんまり小難しく考える必要は無いと思うよ。
その時々で色々アリアリだ。

755 名前: ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/02/29(水) 01:03:18.65 ID:jSUxUtmt
>>751-754
どうやら、今回の投下でルールに関する議論を呼んでしまったみたいでスミマセン・・・。

ただ、個人的な意見を書かせていただくと、>>751さんの言うような『お題の語そのものを文中に収める』のは
お題によって可能であったり難しかったりでして、せめて三題あるうちのひとつはニュアンス(その語を感じさせる雰囲気の存在)で
OKにしてもらわないと創作が大変かも・・・と思ったりです。

・・・まあ、今回のテーマきっかけ(>>732)が自分だったりするので「せっかくもらったテーマなのに妥協点を探そうとするなよ」と
言われてしまえばそれまでの意見ではありますが・・・。

756 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/29(水) 01:07:51.39 ID:wnnTsI+w
まま、今後も書きやすいように一先ず書いてみてくれ。
これは無いわって消化の仕方だったらツッコミ入ると思うからw

757 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/29(水) 06:02:10.03 ID:VrfKWljw
>>755
三題噺(三語スレ)は大変ではないよ。
これは文学よりもゲーム性が強い。あるいは芸術よりも職人性か。
三題噺やお題は、その言葉が、もともと自分が書くつもりのなかった方向に話を連れて行ってくれるから面白い。
自分が本当に書きたいもの、をあっさり捨てれば、道は見えてくる。



758 名前:創る名無しに見る名無し:2012/02/29(水) 06:28:49.61 ID:0hO4Msmb
単に「三題噺」なら>>751に同意なんだけど
スレタイに「なんでも創作」ってあるのを見て
うるさくはいわないことにした

759 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/03/01(木) 00:46:04.07 ID:TsqQsiuV
空気を読まず、>>633-655のお題「ランドセル」「神田川」「時計」で投下します。

760 名前:神田川の畔にて。 ◆TC02kfS2Q2 :2012/03/01(木) 00:46:43.22 ID:TsqQsiuV

 生きることを諦めたかのような顔をして、まだ幼い少女は足元に置いたランドセルからA4サイズの紙の束を取り出すと、
無表情でゆったりと流れる神田川に全て投げ捨てた。紙の群れは意志を持った生き物のように素直に川に着水することを拒みながら、
最終的にはべったりと水面に落ちた。ゆらゆらと川下に流れる姿は無常の教えを説き伏せるようかに見えた。
 少女は流れ行く紙を弔うつもりなのか、いつまでも橋の上から見続ける。その光景をじっと暇つぶしのように眺めていた、
一人の老人が少女に声をかける。身なりはかなりよい。灰色がかった髪に遠慮がちにたくわえた口髭は、まるで私欲を捨てた
執事のようでにあった。おもむろに少女に近づき、低い声で彼女に話しかけた。

 「どうなされましたか」

 スーツ姿の老人は、橋の欄干に肘ついて、明日を憂れう表情を横顔で見せ付ける少女に優しく心を開こうとしたのだ。
だが、彼女の心は凍り閉ざされ、口を聞くそぶりさえ見えない。こつこつこつと、欄干の根元を少女が蹴るので、
老人は自然と少女の足元に視線を向けてしまう。少女のパステルカラーの靴と共に、一枚のA4サイズの紙が老人の目に入った。
 老人がゆっくりと、固まった腰を庇いながらしゃがみ込み、紙を拾い上げようとする。気付いた少女は、顔を赤くしながら
紙を引ったくった。秘密を隠すように見えた。

 「見ないで!見ないでよ!!」
 「はっ。これは失礼を」

 感情的に少女は引ったくった紙を丸め、先に投げた紙の後を追い掛けさせるつもりで振りかぶった。
 ぽーんと投げられた紙屑は、秋葉原を目前にした街の空をきって、都会を縫うように流れる川に消えうせる。

 そんな光景でも、何事がなかったように老人は少女に変わらぬ態度で接した。

 「つかぬ事をお伺いします」

 物腰引く、老人は少女の時間を借りる。

 「その紙は、マンガ原稿ですね」

 少女は顔色変えずに、こくりと頷いた。しかし、表情からは彼女の気持ちは読み取れぬ。

 「実はその紙の束。、もう一枚わたくしの足元に残っておりましてな。始めに投げた紙のうち、運よくわたくしの元に
  舞い込んだようですよ。実にこの紙は運がよい」
 「……」
 「ところで、あなたがここに来た理由。わたしの勝手な推測ですが、申し上げてよろしいでしょうか」
 「……」
 「では、勝手ながら申し上げさせて頂きます」
 「……」
 「あなたは何らかの理由で、JRの駅から秋葉原の書店へと出かけようとした。確か、受験生に人気の本が置かれている書店が
  あったはずです。しかし、書店に向かう勇気が出ずにうろうろしているうちに、逆方向の神田川にたどり着いた」
 「……」
 「あなたにはこの場所が不釣り合いすぎる。橋を南に渡ればビジネス街。北に向かって秋葉原の書店ならば、分かるのだが……」
 「だって、だって、みんな上手いんだもん!!!上手いし、上手だし……だって、だって!!」

 少女はせきを切ったように感情を爆発させ、そして、そんな自分に驚いていた。言葉が乱れることなんか、どうでもよい。と。


761 名前:神田川の畔にて。 ◆TC02kfS2Q2 :2012/03/01(木) 00:47:03.38 ID:TsqQsiuV

 「みんな、みん、みんなみたいに……上達して、満点のマンガ描いて、いい中学に進んで……。男子とか『萌え!』とか言ってるし、
  いっぱい……満点もらってるし。それに、わたしなんか、ベタとかパースとか苦手だし!!マンガなんか、マンガなんか」
 「わかりました。あなたの言いたいこと」

 老人は柔らかい言葉で少女をなだめたからか、少女は落ち着きを取り戻しだした。
 少女が投げ捨てた紙の束は川の流れに乗って、はるかトウキョウの街の遠くへと見えなくなっていた。

 「秋葉原の書店に行けば、マンガの参考書などごまんとあります。コマの流れ、ふきだしの位置関係など基礎は学べるでしょうが、
  あなたしか描けないマンガは学べることはできないでしょう。個性を出してこそ、マンガ。つまり『創作』です」
 「でも、悔しいんだもん。先生、いい点くれないし。『ニーソの良さが上手く描かれてない。抑えつけられた太ももが、
  むちっとはちきれる表現がまるでなっていないぞ』って赤ペン採点でお説教なんですよ。通知表に響くなあ」
 「悔しいって気持ちは、よいマンガを育てますよ。失礼ながらこの一枚を読ませて頂きましたが、あなたの構成力は素晴らしい。
  あなたの学年で、このコマ割りができることは相当センスを感じます。先生のおっしゃる通り、あまりニーソックスの魅力が
  描かれていませんが、息を飲むスピード感は光るものを感じます。『萌え』より『燃え』です。あなたの描くマンガは」
 「『燃え』ですか。おじさん。マンガ、わかるんですか?」
 「恥ずかしながら、こう見えてもわたくしですね、昔、ある萌えマンガ誌で連載してまして。手前味噌ながら、アニメ化や立体化、
  果ては、ファンのみなさまから二次創作やMAD動画とか作って頂いていたもんですよ。ああ……あのころが懐かしい」

 老人の言葉で少女は希望の光をうっすらと感じた。

 「ただ、批判も多かった」

 老人の言葉が少女に突き刺さった。少女は残った原稿を手にして老人にお辞儀した。そういえばこの老人、どこかで。

 「もしや、おじさん。二次元史の教科書に出てくる……」
 「多くは語らぬ」
 「ごめんなさいっ。……あの。大人代表として……わたしの文句、聞いてくれますか」

 老人は快諾した。

 「どうして、マンガを義務教育で教えるようになったんですか?どうして、マンガを受験で描かなきゃいけなくなったんですか?」
 「どうしてだろうかねえ。はるか昔の古典や、明治の文学が授業や受験で使われてた時期もあったからねえ。時代というか、
  廻り続ける時計は止められないのだね。時代は時計だ。毎日時を刻み続け、わたしたちに『今』を教えてくれるんだ」
 「止められないのですか?それ」
 「時計は止まることが許されないからね。だから、時の流れに乗ることが賢い。でも、それに反発して、しまいには時計の針を
  へし折ってしまうことも、また素晴らしい……と」
 「思わないか、っていうんですよね」

 老人は顔色変えずに、こくりと頷いた。しかし、表情からは老人の気持ちは読み取れぬ。

 マンガが世界に誇る文化となった。そして、公に国民必須の教養となった日が遠く昔に感じる午後の出来事だった。
 秋葉原の側を流れる神田川はその日と同じように、水を湛えていたことだけは変わらなかった。

  
   おしまい。






762 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/03/01(木) 00:47:34.71 ID:TsqQsiuV
投下おしまい。

763 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/01(木) 05:40:59.43 ID:WX06o2Fh
なるほどここの三題噺はいろんな面でアバウトなんだな。
残尿感が残らなくもないが納得。

764 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/01(木) 05:58:00.31 ID:jtpZcMEf
ういうい。残尿感は、尿道ほじほじして解消してあげてもよろしくてよ!(←地下スレ行き

>>762
マンガが義務教育化かぁ・・・。

割と真面目な話、有りじゃないかと思ったりもしてしまうんだがw
面白かったよ。

765 名前:「山盛り」「初恋」「マトリョーシカ」 ◆91wbDksrrE :2012/03/01(木) 06:56:29.37 ID:jtpZcMEf
「まとりょーしかってなぁに?」

 幼い頃の私は、疑問に思った事、わからない事は何でもその人に尋ねていた。
 それは、その人が物知りだったからという事もあるのだろうが、それよりも
何よりも、私はそうしてその人と話をする事が好きだった。
 その日も、何かテレビで単語だけを聞き、いったい何の事だろうと思っていた
言葉について尋ねた私に、あの人は笑ってこう言った。

「ロシアのお人形でね、お人形の中からお人形が出てくるんだよ」

 それは的確な答えで、だがしかし、それ故に幼い頃の私には、それが何か
ひどく怖いもののように思えてしまった。リカちゃん人形のようなタイプの人形
しか知らなかったその頃の私は、その人形のお腹を食い破りでもして、おぞましい
化物のような人形が出てくる、そんな情景をイメージしてしまったのだ。
 幼い想像力の暴走に、私の目端にはみるみる涙が溜まっていった。

「……こわいおにんぎょーなの?」
「そんな事ないよ。まあ、無表情な感じのもあるけど、どっちかというと
 可愛いんじゃないかなぁ、と僕は思うんだけどね……えっと」

 そう言って、あの人は向かっていた机の上に置かれているキーボードを叩いた。
 ま・と・り・ょ・ー・し・か。キーボードを叩き慣れたその指の速さに、私は思わず
見とれ、それまでの怖さも一瞬で消え失せる。
 細長い指。白くて、触るとさらさらしてて――何度も手を握ってもらった事が
あった――、そしてすごく器用なその手を見いた視線をふと上げると

「ほら」

 あの人の笑顔がそこにあった。
 顔が何故か赤くなる。
 それを見られるのも、何故か恥ずかしいと思えて、私はあの人が画面に出した
その画像へと視線を移し、顔を逸らした。
 すると、そこにあったのも、また笑顔。

「……わらってる」
「どうだい? 可愛いだろ?」

 その画像には、笑うマトリョーシカが写っていた。色々な種類の、大きさも形も
微妙に違う、だがそのどれもが笑っている人形達。
 それはたしかに、まあその、なんというか、愛嬌はあった。可愛い、とまでは
ちょっとその当時も、今となっても思えなかったりするのだが。
 その時の私は幼くて、多分、その気持ちが素直に顔に出ていたのだろう。

「うーん、ダメか。可愛くないかな? 可愛いと思うんだけどなぁ……」

 あの人は、何故かひどく落胆していた。
 色々と物知りで優しくて、かっこ良かったあの人だけども、美的センスだけは
どうもいまいちだったようらしい。それはこの件に限った話ではなく――いや、それは
また別の話になるのでやめておこう。
 私は落胆するあの人に、なんとかしてまた笑ってもらおうと、一生懸命幼い頭で
考え、そしてやはり、思ったままを口にした。

「でも……こわくないね」

 そうなのだ。愛嬌はあった。だから、怖くはなくなった。
 拭っていないから、目端は少し光っていたかもしれないけれど、それでも私は
笑ってそう言えた。そして、それに釣られるように、あの人もまた笑ってくれた。

「そう、それは良かった」

766 名前:「山盛り」「初恋」「マトリョーシカ」 ◆91wbDksrrE :2012/03/01(木) 06:57:04.74 ID:jtpZcMEf
 その笑顔が眩しくて。
 その時、初めて私は自覚したんだと思う。
 ああ、私はこの人が――




「……とまあ、そんな感じ」

 時は残酷にも過ぎ去り、思い出の日々は色あせて――
 そんなこんなで気がつけば私ももういい歳になっていた。
 いい歳になって、こんな話をするのは、ひどく恥ずかしい。まあ、罰ゲームなの
だから、恥ずかしくなくちゃ意味が無いと、そう友人は言うだろうが。
 しかし、なんでこんな歳になって、女友達同士集まっての飲みで、しかもそこで
初恋トークなんぞせにゃならんのだ、という思いはどうしても残る。いかに酒が入って
いようと、冷静な部分というのは残ってしまうのだ、私の場合。いっそ、何もかも忘れて
虎になってしまえたらどんなにか楽な事か。

「……あれ?」

 気づけば、まだそこまで飲んでいないはずなのに、友人たちは机に突っ伏していた。

「どったの、皆?」
「……飲んでたビールに、いつの間にか砂糖が混入されていた……」
「……辛口の日本酒のはずが、気づけば甘酒に……」
「……誰か、塩を……塩を持ってきておくれ……」

 友人たちは、不可思議なうめき声をあげている。

「まあ、あんたらがそういう感じなのは、しっちゃいたけどさ……」
「まさか、小学生と高校生の頃からずっとだったとは……」
「しお うま」

 ……一体何がいけなかったのだろうか?
 今日は親しい友人達に、あの事を報告する為にこうして飲み会を開き、その席上での
罰ゲーム――一足先に幸せになる罰だと、そう友人たちは言っていた――として、私の
初恋話を披露しただけなのだが……。

「独り身の私らにゃ、殺傷力すら発揮するわっ!」
「ねー」
「しおかとおもったらさとうだったがとくにもんだいはない」

 ……友人たちがどうしてダメージを負っているのか、私にはよくわからない。
 わからない事があればどうすればいいか。そう――私はいつもそうしていた。
 それは、今も変わらない。

「……帰ったら、あの人に聞こうっと」
「へいへい、そうしておくれ。ケッ」
「まったく、このアマ懲りちゃいませんぜ?」
「この娘割と頭いいのにさー、なんでこういう所だけ天然なのぉぅ……?」

 ……ますますわけがわからない。
 まあ、わからない事をあまり考えすぎてもよくない。私はそう割り切る事にして、
目の前の空になったコップにお酒を注いだ。友人たちのそれにも同じく注ぐ。

767 名前:「山盛り」「初恋」「マトリョーシカ」 ◆91wbDksrrE :2012/03/01(木) 06:57:12.23 ID:jtpZcMEf
「ありがとー」
「ま、幸せになれそうで良かったじゃん」
「あんたが結婚とか、最初はどうなることやらって思ったけど……」
「なんせ、歳の差十歳婚だしね」
「でも、幼馴染の、そうやってずっと好きだったお兄さんと結婚とか、なんかドラマよねぇ……」
「ホント、そこまで長いこと想ってた人とくっつくんだからさ……幸せになりなよ?」

 幸せ、か。
 本当に、今私は幸せが山盛り、盛り沢山だ。
 あの人と結ばれ、そしてこうして友人にも祝福してもらえている。
 ちょっとふざけて頬を膨らませたりしてはいるけども、友人達も皆笑顔だ。
 ふと想い出すのは、あの日、あの人への想いを自覚したその時に見ていた、笑う
マトリョーシカの姿。
 笑うマトリョーシカの中には、やはり笑うマトリョーシカが入っているのだろう。
 そして、その中にも……さらにその中にも……。
 あの笑顔は、私とあの人を繋いでくれたあの笑顔は、いつまでも、どこまでも
続いていく――それはまるで、今のこの私の幸せが、この笑顔が、いつまでも、どこまでも
続いていく事を暗示していたかのように、今となっては思える。

「じゃあ、仕切り直しでまた乾杯しよ」
「何に乾杯するのー?」
「そうねぇ……何にする?」

 そう問われた私は、答えた。

「笑うマトリョーシカに、乾杯!」

                                                         おわり

768 名前:「山盛り」「初恋」「マトリョーシカ」 ◆91wbDksrrE :2012/03/01(木) 06:57:39.52 ID:jtpZcMEf
ここまで投下です。

769 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/01(木) 16:08:34.18 ID:Aw5YYAke
全く関係ないし、つゆほども感想にもなって無いけど、
『「ネットにひっかかってはじかれたボールに」乾杯』を思い出したw

そして恋愛系はキライじゃあないぜ。

770 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/01(木) 19:00:01.95 ID:WX06o2Fh
創作文芸の三語スレは15行ってルールで(あまり守られていない)
そんなんでストーリー物が書けるかって思ってたけど、こっちはなげーなあ。
まあ原稿用紙にして十枚足らずみたいなんだけど。

――って、全然感想になっとらんな。

771 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 23:36:08.84 ID:nO8xSFK7
15行は難しいな。入れたいものが入れられず、あっさり風味になりそう。


ところで3月に入ったし、新しいお題とか(提案)

772 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/03(土) 02:01:10.33 ID:VEX9NIvG
三月三日ということで

三日月

773 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/03(土) 05:21:33.48 ID:x7AtTZWi
十六夜

774 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/03(土) 05:50:07.57 ID:9Joqmy9Q
補聴器

775 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/04(日) 13:49:11.03 ID:haeMJbDi
三日月

十六夜

補聴器

の3つですね。

776 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/12(月) 00:22:10.86 ID:JtN/66Mt
あの日、何であんなことをしてしまったんだろう? 今、あの人に
もう一度会えることが出来たら、謝りたいと思う。あるいは思春期の心が
揺れる時期だと言い訳することも出来るかもしれない。そもそも自分は
何も悪くないとも言えるかもしれない。それでも謝りたいと思う。

 あの日、サッカー部の練習の帰り家に帰る途中、マクドナルドに寄った。
疲れていて他人を気遣う余裕がなかった。
僕はカウンターの前に立ちチーズバーガーとコーヒーを注文した。

「モウシワケアリマセン。モウイチドオッシャッテモラエマスカ?」
僕が顔を上げると、そこには申し訳なさそうな表情の女の人がいた。
そのイントネーションから聴覚障害の人だとすぐに分かったが
僕は同じような声でもう一度注文した。
「チーズバーガーとコーヒーのM」
「スイマセン。チーズバーガートコーラデヨロシイデショウカ?」
僕の中で何かが切れた。
「じゃあいいよ! コーラで!」
隣のカウンターで注文していた客とスタッフがこっちを向いた。

家に帰る途中、僕の気持ちは苛立ち荒んでいた。月が見えた。
三日月で地平線のすぐ近くに見えた。


 あれからマクドナルドで注文すると、あの聴覚障害の人を思い出すことがある。
髪に手を当てていたのはきっと補聴器をいじっていたせいだろう。
泣きそうな顔になりながらも、助けを呼びに行かなかった。自分の力で
なんとかしようとした。そこがさらに
中学生の僕をイライラさせたのかもしれない。

今日は十六夜だ。あの日、地平線近くに浮かんでいた三日月。
なんでこんなことを覚えているんだろうと今になっては思う。
少し欠けただけの月。あの日と同じ月が今日も浮かんでいる。




777 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/13(火) 21:05:08.88 ID:aWssFPu0
>>777
いいですね。こういうのすごく好きです
補聴器が効果的に切ない小道具になっていて、驚きましたw

三日月→十六夜、というのが絡めやすいし、風情もあるし
良いお題だなあと思います


778 名前:776:2012/03/16(金) 00:59:47.28 ID:l4aIbBt0
ありがとうございます。励みになります。

779 名前:「三日月」「十六夜」「補聴器」:2012/03/18(日) 14:00:39.78 ID:olmaJnjM

大学の先輩がアホすぎる。
「じゅうろくよなみだ?なにそれ、十五の夜のアンサーソング?」
と、カラオケの画面を見て言う。十六夜くらい読め、読めれ!

別の日の事、
「なんで私と話す時だけ中尾アキラの真似するんですか?」
「おいおい、高音が聞き取りにくいって言ってただろ」
確かに去年、突発性難聴になってから高音が聞き取りにくいと言ったけど、
低い声を出すのに中尾アキラの真似をする必要は無い。絶対に。

脱走した犬を探すの手伝って貰ったら、うちから5kmくらい離れた所で自分が迷子になってた事もあった。

今日は補聴器を買いに行くのに付き合ってもらい、昼ごはんおごるためににパン屋に入った。
「知ってる?クロワッサンってフランス語で三日月って意味なんだよ」
その話はもう5回聞いた。しかも4回目はおとといだ。
いくらアホでも二日前に言った事くらいおぼえていて欲しい。

まあ、そんなアホに惚れている自分も大概なんだけど。

ー終ー

780 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 18:51:31.94 ID:bNEqQGYp
アホやw

781 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 19:00:28.99 ID:Vz826fEf
こういう職人的感覚うらやましい。
引き出しにしっかりラベルが貼ってあるタイプなんだろうな。

782 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 19:54:22.07 ID:Ut0PmLHp
ワロタw

783 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/19(月) 19:18:20.65 ID:L1SgI608
>779
「終」の両側のやつ、長音になってねーか?

784 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/03/20(火) 19:47:33.00 ID:ApRKRr7D
「山盛り」「初恋」「笑うマトリョーシカ」でよろしゅうです。

785 名前:ナイトメア・シスター ◆TC02kfS2Q2 :2012/03/20(火) 19:48:13.23 ID:ApRKRr7D

 妹がおれのアパートを訪れるたびに悪夢が起こる。
 それは紛れも無い事実だ。
 毎年、桜の花が咲く季節に妹はやってくる。

 そして、今年も桜の花が綻びて……。

 仕事から帰ってきたおれを迎えてくれたのは、台所に立つ妹だった。カレーの香りが懐かしく、炊きたてのご飯が空腹を刺激する。
妹はけして料理が苦手な子ではない。むしろ、上手い。だが、妹がここを訪ねたという事実が悪夢の始まりだった。
 小さな肩に掛かったエプロンの紐、小皿のカレーを味見する後姿は妹と呼ぶより、オトナの女を思い起こさせる。
小声で「よしっ」と呟くと、妹は振り向いて恥ずかしげに舌を出す。母親から合鍵を借り、わざわざおれの部屋にやって来た妹は
エプロンの裾を摘んで、桜の花のような笑顔をおれに見せた。

 「兄貴、カレーが好きだもんねっ。兄貴のことは、大体知っているからねっ」

 おれはカレーライスが嫌いな日本人に出会ったことがない。例外なく、おれも大好きだ。小さい頃は何杯もおかわりした。
その記憶が妹に焼き付いていたせいか、妹は白米を山盛りに皿に乗せ、熱々のカレーをかけておれの目の前に差し出した。
 しかし、か細い一人暮らしに慣れたせいか、小さい頃のように山盛りのご飯がとんと苦手になってきたのだが、妹はおれが
小さかった頃の感覚で扱ってくる。蒸らし終わった炊飯ジャーは律儀に妹の言うことを聞いていた。
 「帰ってくる頃だと思ってね。ラッキー」と、妹は我が部屋のように知り尽くした台所を片付けて、おれを「夕飯にしよう」と呼んだ。
 腹は減って今にも倒れそうと言うのに悪夢だ。ナイトメア・シスターはネクタイを解こうとしたおれをじっと見つめていた。

 「スーツ萌えだねっ。現代日本を駆け抜ける孤高の騎士(ナイト)さま!」
 「このご時世でしてな、ただの派遣社員だけどな」
 「ふんふんふん。剣に魂込める傭兵(マーセナリー)ですね!でもね、スーツの似合うオトナでも、カレーライスの前では
  素直なお子さまになっちゃいます!さあ!剣を置いて、よろいを脱いで!」
 「おこさま扱いですか」
 「いえいえ!いい稼ぎしてるんだから、豪勢にしたんだよ!食材費、ごちです!」
 「今年も奢りじゃないのか」

 年に一度だから、恩返し代わりには悪くは無い、とおれは妹の所業を黙認していた。
 およそ、おれが生きるのに1.5日分の白米が盛られた皿に、色合い鮮やかな色と共に香辛料が鼻をくすぐる。

 カレーの魔力は恐ろしい。安物の行平鍋が魔人が飛び出で来る魔法のランプのように見えてくる。
 空腹さえあれば、どんな状況下の人間を飲み込んでしまうほどの力を持っている。

 微妙に溶けた戸惑い多き新人の玉ねぎ、形の悪いやられ役のじゃが芋、そして曲者役者のにんじん。「おっ、予算奮発したんだね」と、
舞台の格をグンと上げる牛肉。そうだ。残り物でさえも主役の白米を食うほどの演技力を持ち合わせた野菜や肉たちが、おれの目の前で、
おれのためだけの一夜限りの舞台を見せてくれる。その気になれば、アンコールも受け付けるというサービス振り。
そして、回を重ねるほどに深みが増す芝居。それが、カレーライス。

 妹の作ったカレーは一言で言えば……美味い。好きなものこそ上手くなれ、とはよく言ったもの。
 とくに、カレーに関しては絶品だ。

 だが、悪夢だ。

 「覚えてる?兄貴との約束」

786 名前:ナイトメア・シスター ◆TC02kfS2Q2 :2012/03/20(火) 19:48:33.14 ID:ApRKRr7D
 両肘付いて眺める妹の質問にカレーの山を削ってゆくおれは無言で「ああ、覚えてるけど」と答えた。
 どこで買って来たのか分からない土産品。テレビを置いた家具の上にいち、にい、さん、し、と、並んでいる人形。右の人形ほど
大きくて、表情も何となく乏しい。ロシア名物・マトリョーシカ。妹はおれが一人暮らしを始める際に贈ってくれたものだった。
 これを選んだ理由を尋ねても、妹は笑っているだけだった。わたしと交わす約束を守り続ければ、分かるはずだよ、と。

 「そういえば、兄貴の会社……兄貴の初恋の人が働いてるんだってね?」
 
 おれは匙を持つ手を止めた。確か三年前、妹がおれの部屋に初めてやって来た年のことだった。
そのときもカレーを妹は作っていたのを覚えている。地方の支店からおれの働く本部へと戻ってきた、可憐な年上の女性。
何という神々のいたずらか、偶然にも彼女はおれの初恋の人だった。

 「兄貴のことは、大体知ってるからねっ」

 妹はおれが年上派というパーソナルなフェチシズムでさえ知っているのだった。
長く顔をあわせていたからこそ分かるようなものとも言える。しかし、それは悪夢の始まりに過ぎなかった。

 「そして、巡り巡って初恋の人は兄貴の直属の上司になりましたー」

 それは再び桜を拝めるときのこと。そのときもまた、妹のカレーを口にしていた。
 
 「恋することを教えてくれた人と働くって、毎日がうきうきでしょ?」
 「むしろ、痛い。痛いんだ」
 「果報者っ。初めて恋して、初めて振られた人じゃないの。恋のダブルチャンスですぜ、兄貴」

 空になった皿と鍋、そして食器もろもろを台所で洗いながら、顔を見せるのを拒むように後姿のまま妹は笑っていた。

 「こうして、来年も、また来年も、いつまでも兄貴と一緒にカレー食べられるのかな」
 「どうだろう、な」
 「料理するの……楽しいし、好きだし。兄貴の頑張りをわたしが叶えるって、言わせんな!恥ずかしい!」

 妹の帰り際、ブーツを履きながら「わたしの計算どおり!よかった、よかった」と鼻歌交じりの妹はおれのことを
『大体』知っている。『大体』だ。だから、知らないことももちろんある。例えば、経験則では見出せない、あまりにも近い出来事……。
 そんな妹は「ちゃんと約束を守ってくれていて、よかったですっ」とグーサインを見せながら、おれの部屋を出た。
妹がいなくなったことを確認したおれは、妹との約束を果たすためにマトリョーシカの元へ正座した。神仏に唱える気分だった。
 口が利けず、聞く意志を持たないマトリョーシカに、口にしたくもないことを話しかけるのに躊躇いはもはやない。

 (契約更新、出来ませんでした。直属の上司から言い渡されました。おれの勤務は……今年度いっぱいだそうです)

 妹が訪れるたびに、悪夢がやってくる。
 初恋の人から内容は違えど二度も振られてしまったようなものだ。

 桜が散るまでお世話になるだろうスーツがやけに遠くに見える。妹との約束を果たそうと、左端のマトリョーシカの上半身を
持ち上げると、またまわり小さな人形が顔を見せた。右四つの人形が無表情なのに対して、一番小さな人形は春の日差しのような
笑顔を見せていた。おれの悪夢を知らない「笑うマトリョーシカ」の前ではおれは肩を落とすことしか出来なかった。

 「そんなにおれの悪夢が可笑しいのかよ……、マトリョーシカさあ」

 とりあえず、就活すっか。今度、マトリョーシカの人数を増やすとき、作ってくれるカレーライスさ、
とりあえず小盛りでいいからな。妹よ。ついでに、鶏肉か、肉抜きで。
 

  おしまい。


787 名前:わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/03/20(火) 19:48:58.76 ID:ApRKRr7D
カレーは正義!
投下はおしまい!

788 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 20:40:27.63 ID:2VW6AU8X
ナイトとかマーセナリーという言葉を出した意味がわからない。
普通の人間はまずつかわん。と思う。

789 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 20:55:53.67 ID:7LYaHHAD
そんなこと言ったら小説の人物みたいに喋る一般人なんていねーよw

790 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 22:01:28.15 ID:Os3vWpJg
>>785
奇しくもさっきまでカレー作ってましたw
それはともかく、乙です!
妹ちゃんの、ネット・ゲーム漬けが垣間見えるようなキャラがいいですねーw
でもたしかに、>>788の言うように無駄な演出? と思えなくもない気が。

「マトリョーシカ」の処理がネックになるお題かと思います。
そこへ違和感なく繋げるために、妹のエキセントリック気味なキャラ作りをしたのかと思いました。
(語り手である兄も厨二病患ったまま大人になった感じだしw)


>>779
短い中に卒なくまとめてくるあたりが職人気質感じますねー
クロワッサンは初めて知りました、勉強になるなーw
GJ!

>>781
あなたのレスの2行目も、なかなか詩的でステキだと思いました///


>>778
ごめんなさい。安価間違えてましたね…
でも、伝わってくれて良かったw
これからも投下してくださいな

791 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/26(月) 04:07:12.75 ID:wUv5JKyL
お題『理系女子』

792 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/26(月) 04:46:14.14 ID:WoKB5GIr
「アニメ監督」

793 名前:創る名無しに見る名無し:2012/03/26(月) 05:03:32.27 ID:hw/tUFYP
「ランダバ」

794 名前:『補聴器』『十六夜』『三日月』:2012/03/29(木) 01:12:49.79 ID:DhYved1X
 補聴器はあまり好きじゃない。
 世界は音で溢れている。そんなことは胎内にいるころから知っていることだ。
 けれど、一度その音のほとんどを失ってからというもの、何とも白々しく聞こえて仕方がないのだ。
 それはきっと、補聴器なんて偽物に頼っているからなのだ。
 ひりつく様な現実から聴覚を失って、ともするとそれを誇りに思っている自分がいるのかもしれない。

「面倒なだけだよね。言い訳しないの」
「…………」

 春華はバッサリと切り捨てた。
 ボクシングを辞めてから、2年。
 一応定職には着けたし、生活に不便なことも特にない。
 厳しい減量がない分、食べる喜びなんてものに目覚めた今日この頃でもある。

「今日は十五夜だから、じゃじゃーんお団子用意しましたぁ」

 言葉は聞こえなくとも、表情と行動で大体のことは分かるものだ。
 加えて同棲して5年。次に出てくる言葉も予想できる。

「このお団子を食したければ、補聴器を――」
「今夜は十六夜の月だぞ」

 何かにつけて、補聴器を付けろと迫ってくるのが春華との日常である。

「いやいやいや騙されないよ。ちゃんとテレビで言ってたもん」
「お前は耳から入る情報を過信し過ぎなんだよ。ほら見ろ、どう見ても昨日の方が、月がでかかったさ」

 そう、春華は過信し過ぎなのだ。
 聴覚を失ってからの2年という月日を、甘く見過ぎなのだ。
 2年もあれば読唇の心得くらい否応なく身に付くものなのに。



795 名前:『補聴器』『十六夜』『三日月』:2012/03/29(木) 01:13:22.21 ID:DhYved1X

 はたと話を巧妙にそらされたことに気付き、春華は寂しげに手のひらの補聴器を見つめる。

「変な眼で見ても、つけない物はつけないの」

 言ってなお、春華は寂しげに、

「……それじゃあ、好きだよって言っても、ダメぢゃん」

 拷問だ。
 何よりタチが悪いのが、この娘はこちらが気付いてないと思っている点。
 何度バラシテヤロウなんて思っただろうか。
 この苦しみをお前も味わえと、赤く染まるであろう顔を想像するたびにうずうずとしてしまったものだ。
 それも、今日までになるのだけれど。

「そんなに落ち込むなよ。今日が満月じゃなくたって」
「違うもん。そんなんじゃ」
「満月だろうと、三日月だろうと、新月だろうと、どーでもいいんだよ。お前の団子が食えるなら」
「……そんなにお団子好きだったっけ?」

 未だに寝ぼけたことを抜かす小娘の瞳をじっと見つめる。

「な、何かな?」
「いいか、ボクサーの眼ってのは特別なんだ。耳なんか使えなくたって、おまえの髪が揺れてるのも、瞬きするのも、ダイエットに勤しんでる腹がぷにぷにしてるのも丸分かりなんだよ」
「ぷにぷにしてない! 最近すっごい引き締まってるもん」
「いいから聞け」

 よほど譲れない事柄なのか、不服そうに顔を膨らませる春華。
 しかしこちらだって譲るわけにはいかない。

「だからな、全部分かってんだよ。でもな、あれだろ。こーいうのは男から言うもんだろ」

 未だに首を傾げている鈍ちんの眼の前に、小さな箱を差し出す。

「好きだよ。お前が今まで言えなかった分まで含めて、何百倍にもして返すから。だから――」



796 名前:創る名無しに見る名無し:2012/04/16(月) 11:17:49.83 ID:nhDJwvd4
ランダバってランバダの間違いだよね?

797 名前:創る名無しに見る名無し:2012/05/19(土) 11:00:17.76 ID:vUo/Pm8F
「快晴」

798 名前:創る名無しに見る名無し:2012/05/19(土) 23:50:52.72 ID:Dtj2SN0y
スクール水着

799 名前:創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 02:37:17.23 ID:khg9ek96
益荒男

800 名前:創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 18:38:40.17 ID:ArucHEcK
抜けるような快晴の真夏日、とあるビルの屋上に、赤褌の男が遠くの空を睨みつけながら仁王立ちをしていた。
鍛え上げられた大胸筋にはじんわりと汗がにじみ、いまにも雫として垂れ落ちそうである。
「……遅い」
男は呟いた、どうやら男の言葉から伺うに、何者かを待ち構えているようである。
一滴の汗が男の頬をつたう、汗は頬骨をなぞるようにして流れ、顎で数瞬留まり、落ちた。
じわり、と地面に汗が広がる。
「やあ、待たせたね」
その声に赤褌の男が振り返る。
声の先にいたのは紺のスク水を着た長髪の優男。
「悪い悪い、遅刻してしまったよ」
そういいながら、男はパツンパツンに食い込んだなった股間を直した、どうやらチンポジが悪いようである。
「待たせすぎだぞ」
赤褌の男はそういいながら、額の汗を己の汗ばんだ腕で拭った。
「悪い悪い、どうもいいように着こなせなくてね、コレ」
そう言って優男は肩紐を軽く引っ張り、パツン、と再び肩に食い込ませた。
「……では、はじめようか」
赤褌の男が無手の構えを取る。
「……ああ、次は君にこいつを着せてあげよう」
対する優男は無体である。
「……そう来るか、いいだろう」
赤褌の男が一歩踏み出した。
……この戦いの行く末は一体どうなるのか。
その答えは、先程からみちみちと嫌な音を上げているスク水だけが知っていた。

801 名前:創る名無しに見る名無し:2012/05/23(水) 23:57:36.17 ID:4/LpicBb
なんかわからんけどクソワロタwww
続き気になりすぎるw

802 名前: ◆fYyeotwGiw :2012/05/24(木) 13:08:21.52 ID:1sMjQuBR
ふと見上げた空は快晴で、群青色の暗闇がどこまでも高く突き抜けていた。
そしてもうずっと連絡をとっていない兄の事が思い出された。
兄は幼い頃から人一倍冒険心が強くて、僕はそんな兄に連れられてよく色々な場所へ探検に出かけた。
赤い頂を抱えた不気味にそびえる双子山や、底見えぬ大穴。漆黒の木々に覆われたジャングルにも足を踏み入れた。
どこも僕1人では恐ろしくて行けない危険地帯。兄は勇敢な男なのだ。
一度この世界が危機的大洪水に見舞われた時も、兄は自分の危険も省みずに溺れる僕を助けてくれた。
兄のような男を益荒男というらしい。彼は僕の自慢の兄だ。
そんな兄はいつもこの空を見上げて僕に言った。
「この空の向こうにはどんな世界があるのだろう。俺はいつかそこに行きたい」
兄の冒険心は空の果に魅せられ、そしてそれに逆らえなかった。
兄は僕を置いてこの空の遠い向こうへと旅に出てしまった。
寂しいけれど、それが兄の道であることは理解できる。兄が行きたいというなら、仕方の無いことなのだ。
だけど最近の研究では、この空は膨張してどんどん広がっているらしいと言われている。
そしてつい最近、空の裾へと旅にでた研究者の一隊が空から突き出た白いタブを発見した。そのタブには「スクール水着」と書いてあったらしい。
どういう意味なのかは解らないけれど、とても危険な言葉ではないかと研究者達は議論している。
だけどどんな危険な場所でも、兄ならきっと辿り付けるだろう。そしてまたいつかのように、僕を連れて行ってくれるに違いない。


803 名前:創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 11:57:02.23 ID:4292aCKT
お題いきますか。
「時効」

804 名前:創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 23:48:16.54 ID:+lRbW6qY
「海辺」

805 名前:創る名無しに見る名無し:2012/06/12(火) 03:17:37.11 ID:jD4rfMAh
ジャンガリアン

806 名前:「時効」「海辺」「ジャンガリアン」 ◆91wbDksrrE :2012/06/14(木) 08:20:14.59 ID:N6WWAP3L
 波の打ち寄せる音が、わずかに冷えた空気に響く。
 聞こえる音はそれだけだ。少し歩けば海水浴客で溢れかえる砂浜へとたどり着ける場所だとは思えない程、
そこは静寂に満ち溢れていた。
 ただただ、波の音が繰り返し、繰り返し響く。その音源は遥か下方にある。
 ここは崖だ。
 ここが海辺で無ければ、あるいはこの静寂は完全なものになっただろうか。
 例えば山の奥、ひっそりと茂った森のその先に、ここと同じような崖があったならば。
 ふとそんな事を考えて、いや、とかぶりを振る。
 それならば、私はきっと風の音を、木々のざわめきをもって静寂を完全な物だとは思わなかっただろう。
 人というのは難儀ないきものだ。静寂を――平穏を望みながら、それが完全な物となってしまうと、それに
違和感を覚えてしまう。完全な静寂、完全な平穏を手に入れても、どこかにその完全さを崩す何かを求め、
そして見出す。そしてがっかりしながらも安堵するのだ。ああ、良かった、これも完全じゃない――と。
 同じ事が、私が犯した罪にも言えた。
 完全犯罪。そう口に出して言ってしまうと、まるで冗談か何かのように響くそんな行為を、私は現実に
やってのけた――そのはずだった。
 だが、時効を目前にして、私の目の前には一人の男がいた。草色のコートを身に羽織り、どこか鷹を
思わせる目付きで私を見据えている。睨みつけているのではない。あくまで見据えている。ただそれだけ
だというのに、私の背中には先程から汗が吹き出し続けていた。気温は初夏相応とはいえ、こんなにも
汗をかいた経験を私は持たない。これは紛れもなく冷や汗であり、それをもたらしているのは目の前の男だ。
 なるほど、確かにこの男ならば、わかる。
 完全を崩す何かであると、そう認められる。
 波の音以外にそれを破る物がなかった静寂を、男が口を開き、破った。

「……苦労しましたよ」
「……何に、と――」

 私もまた、口を開き、そこに静寂はなくなった。
 男二人の会話が、静けさに取って代わって現出する。

「――お聞きしてもよろしいかな?」
「お聞きにならずともおわかりでしょう。いやはや、なにせもう随分と昔の事件だ。時効寸前の必死の調査
 と行こうにも、何もかもが風化してしまっている。証拠になる物品も、人の記憶も、ね……」
「それでも……貴方は私の目の前に現れた」
「風化した物は、消えてなくなるわけではない。忘却された物も、また同じ――あなたの古い知人から、
 あなたについての情報を無差別に得た結果、辿り着いたのですよ」
「何に、とお聞きしてもよろしいかな?」

 再びの問いに、男ははぐらかすことなく、応えを返した。

「――ジャンガリアン・ハムスター、ですよ」

 瞬間、私の心臓はその鼓動を跳ねあげた。
 動揺で? あるいは――歓喜で?
 私自身にすら、それはわからない。


807 名前:「時効」「海辺」「ジャンガリアン」 ◆91wbDksrrE :2012/06/14(木) 08:20:22.71 ID:N6WWAP3L
「あなたが当時それを飼っていた……いや、『溺愛』していたという事。そして、事件があってすぐに、
 それが姿を見せなくなったという事。なるほど、とピンと来ましたよ。ネズミの身体ならば、あの密室も
 密室たりえない」
「……馬鹿げた考えだとは、思わなかったのですか?」
「いえ、全く。ようは、あの時密室に一人でいた被害者の手に、何かを握らせ、それを持ち帰らせれば
 それで事足りるわけですからね。ネズミであっても可能でしょう。ましてや、それがあなたが溺愛し、
 まるで自分の子供のように可愛がり、躾けていたとても頭のいいネズミであるならば――可能性と
 しては十分です」

 おそらく、今現在この男が掴んでいる証拠では、私を有罪とする事は難しいだろう。
 だから、男はわざわざ私に会いに来たのだ。部下も引き連れず、ただ一人で。
 私が――『完全』に疲れているだろうと、そう見計らって。
 男が求めているのは、私の自白だ。それがあって初めて、私の罪は裁かれる事になる。
 そして私は――

「……犯人は、私ですよ」

 ――がっかりしながらも、安堵する道を、選んだ。

「――ご協力、感謝いたします」

 男はニコリともせずに、鷹のような目を私に向けたまま、敬礼をした。
 私もまた、ニコリともせずに、目礼でもってそれに応じた。
 こうして――私の長い逃亡生活は終わりを告げたのだった――。

                                                              終わり

808 名前:「時効」「海辺」「ジャンガリアン」 ◆91wbDksrrE :2012/06/14(木) 08:20:57.23 ID:N6WWAP3L
ここまで投下です。

インスピレーションの赴くままに

809 名前:創る名無しに見る名無し:2012/06/16(土) 17:47:31.18 ID:b3atuQdD
おびえながら生きるより、気が楽になる方を選んだか
失うものがあればまた違う選択だったかもしれないな

810 名前: ◆H5DWLDeOc2 :2012/06/20(水) 01:58:02.09 ID:61rhDthq
この板に来てまだ間もないうえにこれが初投下
今後も暇見つけて書いていければと思います

811 名前: ◆H5DWLDeOc2 :2012/06/20(水) 01:58:43.56 ID:61rhDthq
「というわけで」
 と彼がそう言ったのでわたしは、やれやれようやくこの長広舌も終わりかと内心ホッとしたが、
「ジャンガリアンハムスターは中国のジュンガル盆地、すなわちジャンガリアで生息していることが
その名前の由来になったわけだけれども、本当のところはシベリアとかのほうが結構分布していて、
むしろシベリアンハムスターって呼ぶほうが妥当なんじゃないかって言う人もいたりするわけ」
 話の着地点が思いもよらぬところに出現したので、ただただぽかんとするしかなかった。そもそも
なんでこんな話になったんだっけ、とわたしが軽く頭を抱えていると、
「あ、でもそういうことを言うのは海外の人で、日本ではやっぱりジャンガリアンハムスターって呼び方のほうが、」
 わたしの様子を見て取って、彼としては親切に補足を入れたつもりなのだろうが、果たしてこれを
親切と呼んでいいものか一瞬本気で考え込んだわたしは、
「ええとね和彦、わたしが悩んでるのは別にハムスターの呼称の話じゃなくて」
「そっか、ごめん亜紀ちゃん、ぼくもこの手の話は門外漢だからうっかりしてた。ジャンガリアンハムスターの
体毛の話が抜けてたね。彼らのなかには冬になると体毛を白く変化させる個体もあって……」
 いよいよ本格的に眩暈がしてきたので彼の話をしばらく完全に聞き流すことにする。
 彼――青井和彦のこういうところは、昔からまったくと言っていいほど変わることがない。
 寝小便で描いたお互いの世界地図を見て笑いあった頃からの腐れ縁であるわたしたちは、奇跡的と
言ってもいいだろう、幼稚園から大学まで同じ学び舎で時間を過ごしたことになる。それでも不思議と
色恋沙汰にまでは発展せず、かといって変に気まずい関係に陥ることもなく、それこそ「男女間の友情は
成立するのか?」という命題に対して決定的な証拠を突きつけるかのような、稀有な例であったのかもしれない。
 かつての彼はいつも小難しい顔をしながら小難しいことを考えていて、一度口を開けば自分が喋りたいことを
喋り尽くすまで止めることをしなかった。そしてそれに唯一ずっと付き合ってきたのがわたしだった。まかり
間違っていればとっくの昔に社会不適合をこじらせた挙句、自殺していてもおかしくない性格の持ち主、
それが彼だったと言える。しかし何の因果か、今では大学の教授職で多忙を極め、マスメディアへの露出も
馴染んで久しい。本当に、人生なにが起こるかわかったものではない。
 そんな彼が、このたび結婚するという。

812 名前: ◆H5DWLDeOc2 :2012/06/20(水) 01:59:43.81 ID:61rhDthq
 一体どんな物好きが、という好奇心もあったが、一方で一抹の寂しさを覚えたのもまた事実だった。そして
それは、大学を卒業した後にふっつりと途絶えてしまった彼との再会を、図らずもある日のニュース番組を
見ていて果たすことになったとき以上の衝撃があった。
 一言物申してやらなければ気が済まない、そんな発作的な衝動に駆られ、多忙な彼をとっ捕まえるために
八方手を尽くしてようやく今日この機会をセッティングしたことを今更ながらに思い出し、ふう、と小さくため息をついた。
 あたりは夕暮れを迎えようとしている。
 わたし自身は久しぶりの帰郷となったが、聞くところによると、交通の不便さを承知しつつも彼はずっと地元を
離れなかったようだ。であるならば、今わたしたちが肩を並べて歩いているこの海辺も彼にとってはさして
懐かしいものでもないのだろう。海岸線に向かって今まさに没しようとしている太陽は、昔と変わらない姿を
わたしの視界に投げかけている。
 いつの間に話し終えていたのだろうか、彼の口はすでに閉ざされていて、あたりには潮騒のみが響いていた。
 逡巡の末、「そういえばさ」とぶっきらぼうに切り出すわたしに、彼も「うん」とだけ短く答えた。
 一緒にいた頃――学生時代に、彼からこのように相槌をもらうことなど皆無だった。彼としても、久方ぶりに
連絡を寄越してきた幼馴染に対して何か感じるものがあったのかもしれないし、あるいはそれは、彼が多少なりとも
分別のつく大人へと成長したささやかな証拠なのかもしれない。いずれにせよ、その殊勝な振る舞いが今の
わたしには、なんだか、つらかった。
「結婚」と呟いたあと、わざとらしく一息ついてみてから「するんだってね」と、とってつけたように言い添えた。
 口にすればただそれだけのことを、わたしは予想以上に必要だった勇気とともにようやく吐き出したことになる。
 わたしの言葉に、「ああ」と簡素に答えた彼は、唐突にその顔をあさっての方向へ向けた。そのせいで彼が今
どんな顔をしているのかはわからないけれど、そのような所作をする彼の気持ちはなんとなくわかる気がした。
 このろくでなしが結婚すると聞いたとき、なんでもいいから何か言ってやらないと腹の虫が収まらない、と
思い詰めたものだったが具体的な内容は終ぞ浮かばなかった。しかし彼のその態度を見て、ようやくはっきりと、
彼への贈る言葉が見つかったように感じた。
「わたし小さい頃に、和彦にベタなお願い事したよね。覚えてる? 『大きくなったらお嫁さんにしてください』ってヤツ。
それ聞いて、和彦も嬉しそうに頷いてたなあ……懐かしいね……」
 これは独り言。そう言い聞かせて、続ける。
「そんな約束とっくの昔に時効だ、って言われるかもしれないし、そもそも子どもの頃の他愛ない約束だから
守る義理もないんだけどさ、万が一にも、和彦がその約束を気に病んで心残りにしてたらと思うとこっちも
寝覚めが悪いから、一応言っておくね。――あんな約束、気にしなくていいってことを」
 その言葉を聞いて、彼は一回だけ顔を拭うような仕草をし、立ち止まった。並んで歩いていたわたしは、しかし
それに構わずそのまま歩き続けた。
「結婚、おめでとう」
 決して大きくない声で発したその言葉が、彼に聞こえたかどうかはわからなかった。

終(お題:時効、海辺、ジャンガリアン)

813 名前:創る名無しに見る名無し:2012/06/20(水) 08:44:10.30 ID:P0guUhLw
いいね

814 名前:創る名無しに見る名無し:2012/06/23(土) 02:42:34.89 ID:tsFtjmrL
切ない感じがいいねぇ。


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