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【三題使って】 三題噺その2 【なんでも創作】

1 :創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 23:38:01 ID:1AomaQ72
三つのお題をすべて使って創作するスレです。

創作ならなんでも可。
折を見て新しいお題を出し合います。
過去のお題の投下もどうぞ。


2 :創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 23:40:46 ID:pNOtpXtV
前スレ:三題噺
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1219901189/

>>1


3 :創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 23:42:18 ID:O6M5dz4A
1乙

地味ながら楽しくてこのスレ好き

4 :創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 23:43:06 ID:i7L9Sd92
http://www.hiroburo.com/

5 :創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 23:50:23 ID:S7bBiD2Y
お疲れ様です
このスレはsage推奨?

6 :創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 23:52:39 ID:BDK4JgYM
新スレ乙

>>5
ことさらにsage推奨ってわけでもないけど普通にみんなsageてると思う

7 :創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 23:54:20 ID:1AomaQ72
まぁ別にどっちでもいいさ
みんな大体専ブラでsageデフォにしてるからsageてるんだし

8 :創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 23:54:37 ID:S7bBiD2Y
>>6
前スレでは皆そうしてたね〜
なるほどサンクス

9 :創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 23:58:17 ID:S7bBiD2Y
>>7
専ブラまだ使いこなせてないっす。
ギコナビは最初からsageられてるのかな?

10 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 00:06:30 ID:sgejj4EW
へっへっへ、そんな事言って本当はageて欲しいんだろう?

真面目な話、投下とかの関係上、専ブラ使いが多いんでないかな。
自然sageチェックとかが入ってる人が多くて、sageがデフォ化してたりとか。



11 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 00:15:35 ID:d3rt4tFm
募集ageとかならいいと思うけど特に用もないのにageにするのは
板の他のスレの人たちにとって目障りかと

12 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 00:21:36 ID:v75ouSvp
ageはお題クレクレの時だけで充分っす
てなわけで今のお題はなんだい?

13 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 00:36:55 ID:83aFS3it
スモークチーズ

14 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 00:38:41 ID:Mor7cBLA
二重人格

15 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 00:46:25 ID:d3rt4tFm
屋根

16 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 03:11:10 ID:BqtucQY0
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17 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 03:12:42 ID:BqtucQY0
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18 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 03:16:32 ID:BqtucQY0
ああ……文字化けちゃった
書き直す気力ナス……

19 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 06:02:00 ID:rBy2pisH
読めません><

20 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 06:30:14 ID:n5l3ug4Q
ググって「文字化け 修復」あたりで出てくるページでなんとかならんかね?

21 :SJIS→UTF8 >>16:2009/04/07(火) 07:38:35 ID:ORj+halc
日当たりがぁE??賁E2,に住んでぁE??から、朝日がa?Eるくて起きた、E
スモークチa?EズがとっちらかってぁE??、E
缶チューハイ、E??本。5合瓶、E??本。ビール缶、E??本、E
これはこれは。たくさん飲んでしまったよぁE??、E
記a?Eねーなー、E
「う……頭痛い、E
呻ぁE??のは俺?E?ノン、E
スモークチa?EズがとっちらかってぁE??机の反対側、E
俺のベッドa?E隣りに、女がとっちらかってぁE??、E
崩れた化粧とかa??E≪aの毛が口に入ってくっちめE?£てる感じとかa??服c??てなぁE??じとかa??E
まさしくa??とっちらかってぁE??、E
萎えたか。ニェチE??、E
e??そうとするアラをa?Eとした瞬間に露呈してしまぁE\3は、とてもかわいぁE??のである、E
床に散らかった服を拾って自?E?Eを着るa??女物の衣類a,??E??纏めて、E?¨屋a?E反対側に置ぁE??、E
?E?£に半a?E埋まってぁE??とっちらかった女、E
これを起こすべくa??俺は?E?£の中に手を入れた、E
まさぐるa??色、E?¨、まさぐるa??つまa??、E
んa??と艶っぽぁE£°が聞こえたa?Eち、女は俺の手を除けた、E
「う?a?|…めE??ろa??a??E
反応があったa??E
反応があったからには、女、などとぁE??種族a,?般を指す名詞では呼べまぁE??E
彼女、と呼称を改めることによって、その反応を示す知性に対する敬意と変えさせてもらおう、E
「起きたほぁE??ぁE??、E
「a?|…何時?E?a??E
「7時、E
「くそa??E
彼女は?E?£に頭までくるまったまま、a?EチE??から手を伸ばした、E
床にあるはずa?E服を探してぁE??ようa??がa??既に回収済みa??、E
「ほらa??こっちa??ぞa??E
彼女のパンチE??ひらa?Eらa??E
「返せ。馬鹿、E
「取りにくれば?E?a??E
「馬鹿、E
彼女は?E?£から顔を出した、E
化粧は崩れてぁE??しa??E?Eと寝不足で瞼がe?Eれぼったい、E
無防備なのがなんともかわいぁE??E
のa??がa??彼女は鏡にa??ったe?E?E?E顔に怯えた、E
「やばぁE??これやばぁE??E
また?E?£にもぐるa??E
?E?£で、E!?含a??全身を隠しながら、服を取りに移動を始めたa??E
纏めた服を?E?£の中に取りこa?E、E
そa?Eまま中でもぞもぞ、E
なんかイモa??シが飯くってるみたいで笑えたa??E
おもわず写メ、E
「田代めE??ろa??撮るな、E
下着を着た彼女が右アチE??ーで俺にボディブロー、E
ただし威力は猫パンチa??E
捻ったe?E回りに少しお肉が余ってぁE?|、なんともかわいぁE??E
「やっぱり君、かわいぁE??E
「うるさぁE??覚えてろa??E
彼女はバックを引っ掴んで洗面a??に立てこもったa??E


22 :SJIS→UTF8 >>17:2009/04/07(火) 07:38:54 ID:ORj+halc
10?E??a??E
とっちらかってぁE??彼女は、整頓されてぁE??、E
こじめE??た服に、整ったメイク、良ぁE|?り、E
「a?E、さっきa?E写メ、見して、E
彼女は俺の携帯を奪ったa??E
携帯にめE??しいもa?EなんてなんにもなぁE??、E
なんて思ってぁE??らa??俺は大ぁE?≪慌てることとなったa??E
彼女が携帯を放り投げたから、E
窓に駁E???E??、E
屋a?1に引っ掛かってるa?Eが見えたa??E
「なんてことをするんa???E?a??E
責任を取れ!って顔で睨んだらa??彼女は俺に甘く囁いたa??E
「責任、とって、E
とっさに意味がa?Eからなかったa??E
でもa??彼女がa??尖端がc?´れた避妊a?Eを俺に見せたa?Eで、理解した、E
破れた、とぁE??より、なんだか鋭ぁE?E物で?E?£たみたいな感じa??ったが、E
「責任、とって、E
彼女はもうa,?度、俺に囁いたa??E
ぐい、とポケチE??に何かをa?Eじ込まれる、E
俺の携帯a??ったa??E
「さっきa?Eは、私a?E機種変した奴、E
彼女はにっこり微笑んで、a?Eに出社してぁE?£たa??E
ベッドでとっちらかってぁE??彼女、E
整頓されて、E??妊a?Eを突き付ける彼女、E
女性はみんな二重人格なのかa?EぁE??E
俺は少し遁E?≫した、E


?E


23 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 07:39:40 ID:ORj+halc
というわけで、データ欠けしちゃってるからコード変換だけじゃカバーできません><

24 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 07:47:40 ID:rBy2pisH
古文書解読みたいです><

25 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 08:17:26 ID:BqtucQY0
書き込み窓で書いたから残ってないんよ
忘れてちょ

26 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 08:38:14 ID:rBy2pisH
とりあえず事後なのは心の目で理解した

27 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 10:50:39 ID:CphyF94W
専ブラなら、kakikomi.txtファイルか、それに類するファイルに残ってると思うぞ

28 :翻訳>>16:2009/04/07(火) 11:53:26 ID:v75ouSvp
日当たりがいい賃貸に住んでいるから、朝日が明るくて起きた。
スモークチーズがとっちらかっている。
缶チューハイ、4本。5合瓶、3本。ビール缶、6本。
これはこれは。たくさん飲んでしまったようだ。
記憶ねーなー。
「う……頭痛い」
呻いたのは俺?ノン。
スモークチーズがとっちらかっている机の反対側。
俺のベッドの隣りに、女がとっちらかっていた。
崩れた化粧とか、髪の毛が口に入ってくっちゃってる感じとか、服着てない感じとか。
まさしく、とっちらかっている。
萎えたか。ニェット。
隠そうとするアラをふとした瞬間に露呈してしまう女は、とてもかわいいものである。
床に散らかった服を拾って自分のを着る。女物の衣類一切を纏めて、部屋の反対側に置いた。
布団に半ば埋まっているとっちらかった女。
これを起こすべく、俺は布団の中に手を入れた。
まさぐる。色々と、まさぐる。つまむ。
ん、と艶っぽい声が聞こえたのち、女は俺の手を除けた。
「う〜……やめろ〜」
反応があった。
反応があったからには、女、などという種族一般を指す名詞では呼べまい。
彼女、と呼称を改めることによって、その反応を示す知性に対する敬意と変えさせてもらおう。
「起きたほうがいい」
「……何時?」
「7時」
「くそ」
彼女は布団に頭までくるまったまま、ベッドから手を伸ばした。
床にあるはずの服を探しているようだが、既に回収済みだ。
「ほら、こっちだぞ」
彼女のパンツをひらひら。
「返せ。馬鹿」
「取りにくれば?」
「馬鹿」
彼女は布団から顔を出した。
化粧は崩れているし、酒と寝不足で瞼が腫れぼったい。
無防備なのがなんともかわいい。
のだが、彼女は鏡に映った自分の顔に怯えた。
「やばい。これやばい」
また布団にもぐる。
布団で、顔含む全身を隠しながら、服を取りに移動を始めた。
纏めた服を布団の中に取りこむ。
そのまま中でもぞもぞ。
なんかイモムシが飯くってるみたいで笑えた。
おもわず写メ。
「田代やめろ。撮るな」
下着を着た彼女が右アッパーで俺にボディブロー。
ただし威力は猫パンチ。
捻った腰回りに少しお肉が余っていて、なんともかわいい。
「やっぱり君、かわいい」
「うるさい。覚えてろ」
彼女はバックを引っ掴んで洗面所に立てこもった。

29 :翻訳>>17:2009/04/07(火) 11:54:08 ID:v75ouSvp
10分後。
とっちらかっていた彼女は、整頓されていた。
こじゃれた服に、整ったメイク、良い香り。
「ね、さっきの写メ、見して」
彼女は俺の携帯を奪った。
携帯にやましいものなんてなんにもないぜ。
なんて思っていたら、俺は大いに慌てることとなった。
彼女が携帯を放り投げたから。
窓に駆け寄る。
屋根に引っ掛かってるのが見えた。
「なんてことをするんだ!」
責任を取れ!って顔で睨んだら、彼女は俺に甘く囁いた。
「責任、とって」
とっさに意味が分からなかった。
でも、彼女が、尖端が破れた避妊具を俺に見せたので、理解した。
破れた、というより、なんだか鋭い刃物で切ったみたいな感じだったが。
「責任、とって」
彼女はもう一度、俺に囁いた。
ぐい、とポケットに何かをねじ込まれる。
俺の携帯だった。
「さっきのは、私の機種変した奴」
彼女はにっこり微笑んで、先に出社していった。
ベッドでとっちらかっていた彼女。
整頓されて、避妊具を突き付ける彼女。
女性はみんな二重人格なのかねぇ。
俺は少し遅刻した。




30 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 11:56:16 ID:v75ouSvp
普通にIEの設定変えたらいけたんで翻訳っす
特殊文字「〜」が「?」になってたんで、そこだけ直したでごんす
また翻訳が必要になったら呼ぶがいいさw

31 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 12:14:50 ID:v75ouSvp
ていうかエロス!!ww
前半と後半で変わりすぎです小悪魔カバー被りすぎです><
「責任とって」とか言われてみたい俺はMなんだろかねぇ…

32 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 12:15:16 ID:ORj+halc
ウホッ、IEでいけたかw
乙乙

33 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 12:19:21 ID:ORj+halc
最後が「女性」になってるのが畏怖すら読み取れるwww

34 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 12:44:33 ID:ILjB3s0A
さらっとした筆致なのに濃ゆい人生のターニングポイントでつねw乙

35 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 15:30:11 ID:P4G6h/vF
いきなり住人の共同作業で笑った

解読、それだけの価値があったねー。彼女いいわ面白かった乙

36 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 21:06:10 ID:BqtucQY0
解読ありがとう!
また文字化けしたらお願いしますorz

37 :創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 22:15:39 ID:Mor7cBLA
なんやかんやで面白いことになってたけど、読めてよかったよw
面白かったですwお疲れ様w

38 : ◆91wbDksrrE :2009/04/08(水) 19:06:50 ID:uy6PY8oq
>>1乙、っと」
「はひひへんほー」
「スモークチーズ食いながら喋るな。何言ってんだかわからん」
「もぐんちょごっくん……なにしてるのー??」
「……飲み込み方に感じる時代についてはあえてツッコミを入れず
 にスルーして質問に答えるが、ちょっと2ちゃんのチェックをな」
「相変わらずヲタクだねー」
「2ちゃん=ヲタクという構図には異議を唱えたい」
「いや、君=ヲタクだからー」
「それならば異議は無い」
「無いのかよー」
「お前からのツッコミは新鮮だな」
「取れたてピチピチー」
「さて、例によってグダグダになる前にこの流れを切るぞ」
「ひぐちカッター」
「丁度三題スレが次スレに移行してな。それで>>1乙をしてたんだ」
「三題スレかー」
「何故かお前がスモークチーズを食べているのもメタ空間が発生
 しているせいだな」
「お題じゃあ、仕方無いなー」
「そして、お前は二重人格という設定がこれから生えてくる」
「後付け設定まんせー」
「さあ、二重人格っぽいことを言え」
「私実はO型じゃなくてAB型なんですー」
「……確かにAB型の人間は往々にして二重人格だと言われはするが」
「でしょー?」
「だが、その、まあ、なんだ、違うだろ!?」
「違うよねー」
「わかってんのかい」
「そりゃー」
「まあ、とにかくお前は二重人格という事で」
「海岸線から十二海里ー」
「はいはい領海だから了解ねはいはい」
「ぞんざいに扱われるのは私は好まない故にやり直しを要求したいのだが?」
「急に真面目かつ固い口調にっ!? 二重人格っぽい!」
「それが要求ではなかったのかね? まあ、もっとも私のこの人格は
 およそ三十秒しかもたないからもうだめー」
「早いな、おい」
「疲れたー」
「へばっとけ。というわけで、お題二つはこれでクリアだな」

39 : ◆91wbDksrrE :2009/04/08(水) 19:06:59 ID:uy6PY8oq
「しかし、とんでもなくメタな話してるよねー」
「グダグダよりはメタメタの方がいいだろう」
「……」
「……」
「え、今何か言ったー? もう一回言ってー」
「滑った洒落を再要求するなっ!」
「で、三つ目のお題はー?」
「屋根、だ」
「これは落ちてくるねー」
「なんでだっ!?」
「だって、やまなしおちなし意味なしのこの会話にオチをつけるには、
 何か落とすしかないようなー」
「……確かにそんな気はするが、屋根が落ちてくるのをオチにする
 ってのも逆に難しくないか?」
「でも、オチが無いとなんかそわそわしちゃってー」
「それは二度ネタだ。二度ネタなのを知ってる人がどれくらいいるか
 は不明だが。ってかおらんだろう、常識的に考えて」
「でも、オチが無いとなんかムラムラしちゃってー」
「発情するな! ってか、何でもちょいエロ路線に持っていけばいい
 とか、そういう安易な発想は俺は嫌いだ!」
「じゃあ、私の事も嫌いー?」
「………………」
「あ、赤くなったー」
「……ま、まあ、別に、その、なんだ……嫌いじゃ、ない……かな」
「まったく、ちょっとからかうとすぐ本気になるんだからー」
「ちょっとまてえええいっ!? なんだこのはしごの外し方はっ!?」
「さあ、今の気持ちを一言で表すとー!?」
「お前、まさかこう言わせたいのか? 『やーねー』と」
「お後がよろしいようでー」
「待てっ! またこの終わり方かっ! 二度ネタはいかんと言ってるだろ!」
「お後がよろしいようでー」
「だからこんな終わり方じゃ、読んでくれる人が呆れ」

――ブツッ――

40 : ◆91wbDksrrE :2009/04/08(水) 19:07:46 ID:uy6PY8oq
ここまで投下です。

>>1乙の気持ちを歌に込めてみました(←歌ってねえ

41 :創る名無しに見る名無し:2009/04/08(水) 22:51:27 ID:BbPcMeE0
>>38-39
乙。w
なんか和むね、この漫才。ww

42 :創る名無しに見る名無し:2009/04/09(木) 00:39:56 ID:w9j3nD35
その落ち方は無茶だっ!?w

43 :創る名無しに見る名無し:2009/04/09(木) 01:30:50 ID:N/KeS+Ae
なんだこのgdgd漫才w
でも目の前でやられたら大爆笑する確信があるw

44 :創る名無しに見る名無し:2009/04/09(木) 05:10:52 ID:PnTQnQRY
これはいいwwもっとやれwww

45 :創る名無しに見る名無し:2009/04/09(木) 12:36:05 ID:4nAcwXlC
面白勝田よ〜w

46 :創る名無しに見る名無し:2009/04/10(金) 21:26:10 ID:I9UPaaXR


「スモークチーズってさ」
「……?」
「なんか、あえて言うなら二重人格?」

昼休みの食事中、対面に腰を下ろしていた女性は目を伏せつつ唐突に話し出す。
てっきり誰か他の友人と話していたのだろうと、キョロキョロと頭を動かして彼女の話相手を探してみるが。
どこにも彼女と親しげに話していそうな人はいない。

「あんたよ、あんた。目の前に座っている冴えない同僚さん?」

彼女は目を閉じ節目がちに、ゆっくりと味わうように咀嚼している。
その顔に見覚えがあるかどうか、俺もゆっくりと思い出してみるが……やはり思い当たらない。

「すまないが、俺と君は面識があったりするのか?」
「ないわねぇ……」

そして、はやりゆっくりと口に含んでいたものを嚥下し。ガラスのコップに入っていたお冷で口を潤す。

「それがどうかした?」

飲み終わり、テーブルとコップが無機質な音を出す音と共に彼女は目を開けて俺の方を見、続いての言葉を出す。

――いや、そういうわけじゃないんだが……

という俺の脳内の言葉は空へと出さず、ようやくと全貌が見えた彼女の顔を見て必死に心当たりがないか探してみる。

面識が無くても俺をしっているとなると……

――上司? いや、顔すら見たことないしな。
――取引先の人? てか、ここ社員食堂。
――下請けの人? だから、ここ社員食堂・
――となると、後輩? 女性に紹介されるほどの人じゃないしな、俺。

やはり、見たことがない。という結論を出した俺は。諦めたように会話を成立するしか道がなかった。
という終極点を見出すこととなる。


47 :創る名無しに見る名無し:2009/04/10(金) 21:27:55 ID:I9UPaaXR
「いや、そういうわけじゃないんだが……
スモークサーモンなんか食べたことがないからな。君のセンスがあっているならそうじゃないんじゃないか?」

「母がね、なんか知らないけど屋上で天日干ししてたから、ハムかと思ってつい丸かじりしちゃったのよ」

ハム……ハム。スモークって言うくらいだから似ているのだろう。多分。

「まぁ食べた瞬間に違うってのがわかってね、そのまま食べたわけだけど……」
「ふむ、それで?」

「おしまい」
「は?」

「だから、この話はおしまい。私の話しに付き合ってくれてありがと」
「いや、意図がわからん。俺は聞いてるだけでいいのか?」

「うん、それだけでいいよ」

いや、やはり、意図がさっぱりわからん。
彼女からアクションをとってきて、俺はノーモーション、そのまま終了は無いだろ、常識的に考えて。

「チーズ」
「え?」
「それ、毎日のチーズ」
「あぁ、それでか?」

ふと彼女の目を向けた先には、俺が頼んだ日替わりランチセットのメニューにあるよくある三角のチーズがのっていた。

「そう。それに……」
「それに……?」
「毎日毎日同じ人とだんまり昼食べるのってツマンなくない?それだけ、じゃあね」

「むっ……」

いつも間にか食べ終わっていた彼女は瞬時に食器を片付け、食器置き場へと歩いていく。
残された俺も、残るのは銀紙に包まれたチーズのみ、ご飯もおかずもいつもまにか食べきっていたらしい。

「……」

朝早くから会社に来て、朝から昼までの楽しみといえば昼食。そして昼から買えるまでは一人暮らしの晩御飯が唯二つの楽しみ
な俺にとっては何の感慨も無く昼を食べきってしまう、というのは。いつもの俺にとっては考えられないことだ。

「毎日の楽しみより数分の誰かとの四方山話の方が楽しかったとはな……」

銀紙特有の音のいやらしさよりも。先ほどの会話を思い出す方が楽しさのほうが勝ったのだろうか。
気にせずにチーズから銀紙を剥き口に頬張る。

スモークチーズ等、食べたことも無いが。チーズなのだからこういう味なのだろう。

「家に帰る間にスーパーに寄るか……ま、なかったらそれでもいっか」

明日も、彼女はいるのだろうか?今日から明日の唯一の楽しみは、それになりそうだ。


     了


48 :創る名無しに見る名無し:2009/04/10(金) 22:43:53 ID:pkxXOnl+
わけわからん会話だなw

49 :創る名無しに見る名無し:2009/04/11(土) 18:55:39 ID:GY3EXZOZ
まあ、なんかこういうわけわからん女に惹かれる気持ちというのは
わかるような気がするw

50 :創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 12:05:53 ID:p28UEEXm
次のお題



51 :創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 12:19:10 ID:5L/bH9d8


52 :創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 12:58:10 ID:IEpJPRCK


53 :創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 17:07:00 ID:rweF1Oyo
桜 薬 眠 
か。なんだか風流なネタになりそうな予感

54 : ◆91wbDksrrE :2009/04/12(日) 22:24:55 ID:CSdkZbZ0
「はぁ……はぁ……」
 粗い呼吸の音だけが辺りに響く。その音の主は、他ならぬ俺で、
その音が生まれる原因になったのは、眼下に開いた穴だ。
「はぁ……くっ……」
 桜の木の下に、俺は一心不乱に穴を掘っていた。何の為にか?
それは、穴を掘る俺の傍らで、まるで眠ったように目を閉じている
一人の女の為だ。
 三年。三年だ。ただの三年。ほんのわずかな時間で、こいつは
大きな勘違いをした。三年という短い時間で、一体こいつは俺の
何を理解したと言うんだ? 理解できていたと言うのならば、あの
時言ったような言葉は口にはせまい。
 彼女は、私にとってはただの玩具に過ぎなかった。新薬の開発
で一代にして財を成した製薬会社の、そのナンバー2と言われる
俺と、その会社で働くただの総務社員だったこいつと――元々、
単なる遊びの関係でしかない事は、誰の目にも明らかだったはずだ。
 実際、彼女とてそれはわかっていた――そのはずだった。
 その言葉を聞くまでは、そう、思っていた。
『私……赤ちゃんできたみたい』
 目の前が真っ白になったその言葉。それを口にした時の、こいつ
の勘違い極まった笑顔は、一生忘れられそうにない。
『貴方に迷惑はかけないから……だから、産んでもいい、よね?』
 産む事自体が迷惑だと、理解していない。
『私、一人でこの子育てるから……貴方には何も求めないから』
 それを見逃せというのが要求に他ならない事を、理解していない。
『この子がいれば……私はそれでいいから。貴方との証は、この子
 さえいればそれでいいから……だから……』
 皆まで言わせず、俺は襲い掛かった。
 首を絞め、呻き声を上げる彼女の顔を見ないように背後に回り
ながら口を塞ぎ、身体を押さえつけ――程無くして、彼女は動かなく
なった。
「はぁ……はぁ……」
 そして今、俺は穴を掘っていた。彼女の為の、墓穴を。
 眠ったように死んでいる彼女の身体には、既に会社で開発していた
新薬が塗布されている。腐食を促進し、本来ならば腐食しないはず
のものまでも腐らせ、土の養分とする……そういう薬だ。その腐食
速度も、通常の腐敗よりも促進させている。一年もあれば、彼女の
身体はこの公園の土に還るだろう。
 目撃者は出ないように留意した。市街地のやや外れた場所にある
この公園は、周囲に民家が立てられ、そこに住む人々で賑わう予定
だったのだろう。だが、折からの不況の風を受けたせいか、辺りには
ただ空き地が広がるばかり。当然、人の気配などあろうはずもない。
 山奥という普段人が入らない場所とは違い、ここは人が通る場所
ではある。だが、人がいる場所ではない。だから俺はここを選んだ。
「……よし」
 穴は、できた。彼女の為の墓穴は。
 そこに彼女の身体を横たえながら、俺はふと考えた。
 考えてしまったのだ。
 ――何故、俺はこいつを殺さなければならなかったのか、と。

55 : ◆91wbDksrrE :2009/04/12(日) 22:27:35 ID:CSdkZbZ0

         ★                   ★          

 数年後の話だ。
 とある桜の木の下で、一人の男が首を吊っているのが発見された。
人があまり立ち寄らない公園であった為、男の身体は既に腐敗が
始まった状態で発見され、その遺書もまた、雨露に濡れてほとんどが
読めない状態だった。勤めていた会社の倒産、及びそれによって
できた借金を苦にしての自殺と断定されたが、その際捜査員は一つの
事実に首を捻る事になる。
 ほとんど読めなかった遺書の、辛うじて読める一節にあった言葉だ。
『すまなかった。許してくれ』
 男には家族はなかった。親類縁者もおらず、会社の重役の娘との
縁談が進んでいたという話もあったが、当然ながら会社自体が潰れた
事で、それも立ち消えになっており、身内と呼べる人間は誰もいなかった
はずだ。だというのに――
 その疑問を覚えた捜査員は、ある日現場となった公園に立ち
寄って、男が首を吊っていた桜の木を見上げていた。
「一体……誰に許しを請うているんだろうな?」
 彼のその疑問に、答える者は誰もいない。そんな疑問は、自殺と
断定されている以上、警察が明らかにしなければならない類のもの
ではなくなっているからだ。
 実際、彼自身も、その事をどうしても明らかにしたいわけでは
なかった。ただ、何となく気になるという、それだけだ。
「……もう、桜も終わりか」
 男が首を吊ったのは、桜の始まる頃。発見者は、花見の為にと
この公園を訪れた人間だった。桜吹雪と言ってもいい花の散り様が、
その時間の経過を捜査員に教える。
 しかし――
「……あれ……?」
 気づけば、目の前の桜の木からは、花は一欠けらとして散っては
いなかった。未だ満開のまま、桜色を広げている。他の木からは
既に多くの花が舞い落ち、緑色をした葉すらも見えているというのに。
「おかしな事もあるもんだ」
 その意味を、捜査員はわからない。その下の土に、一人の女性
が還っているのだという事も、無論。
「……帰るか」
 彼が背を向け、帰路につき、誰も訪れなくなって尚、桜は咲き続けた。
最早、その姿を見て欲しい人間はこの世にいないという事を、その事を
知っても……ずっと……ずっと。

 その傍らに人知れず開いた、小さな芽と共に――

 終わり

56 : ◆91wbDksrrE :2009/04/12(日) 22:27:46 ID:CSdkZbZ0
ここまで投下です。

57 :夏みかん ◆6/YyOSVhvI :2009/04/12(日) 22:40:12 ID:ACoVG8Ud
桜の咲く頃に眠るのが夢だった。

願わくは花の元にて春死なんといったのは誰だったか。確か有名なお坊さんだったはずなのだけれど。
……そうだ、確か西行法師だったと思う。春に静かに眠る事を望み、その願い通りに逝去したという話は有名だ。
自分の願った通りに最期が迎えられたら、どんなに幸せだろう。
私もそんな風に死んでいきたい。

「望月さん、体はどう?」
「……平気です、今日は落ち着いてますから」
「そう。わかったわ」

病室に入ってきた看護士は慣れた受け答えで頷いた。シーツをさっさっと綺麗に整えていく。

「薬、忘れずに飲んでおいてね」

毎日接種することを義務付けられている白い錠剤。
これが私の命を繋いでいる細い糸だ。生憎なことに、私の身体はあまり丈夫ではないらしい。
こんなものに頼らなければ生きていけないほどに。糸が切れたら私は死ぬ。……いっそ断ち切ってしまおうか。暗澹たる思いがとりとめもなく浮かんでは、音もなく沈んでいく。
錠剤を手の平に乗せて、私は室内を見回した。白い壁、白いシーツ、白い天井、白いカーテン、白い看護士。そして――まがまがしいまでの白い錠剤。私は白が嫌いだ。ここで目にするものは完璧な白しか存在しないから。
この白濁した世界に飲まれ、ゆるゆるとした緩慢な死を迎えるのならば、私は。

「願わくは……」


真っ白な病室から窓の外に目を向けた。今は春だ。
薄紅色の花弁が風に惑い、はらはらと散っていく。
「花の元にて春死なん」

薬はティッシュで隠してトイレに流した。もうこうして慰めにもならない延命薬を飲まなくなって幾月か。そろそろ私は死ぬだろう。

「でも、それでいい」

春に眠りたい。
柔らかな香りの中、暖かな風に包まれて、
土に落ちた花びらが、やがて溶けて消えていくように。

「……その如月の……」

満月の宵に。
そうして桜が終わる頃、
私も共に、眠る。

薬がゴボゴボと音を立てて吸い込まれていくのを遠くで聞きながら、私は静かに目蓋を閉じた。



58 :創る名無しに見る名無し:2009/04/13(月) 01:17:40 ID:PQIvOFnE
>>54-55
流石に、流石と言うしかないな
毎回読んでるが、あんたすげえよ

59 :創る名無しに見る名無し:2009/04/13(月) 02:56:20 ID:+tcd6Vyg
桜が嫌いである。
あんなものは卑しい植物の生殖器にほかならん。
のべつ幕無し引っ切り無しに絢爛ぶっている様はまるで高級泡姫のようで、
「満開だ満開だ」とその性器に見とれて半狂乱に呑みまくるもの等はまさしく愚にも付かぬ莫迦だとしか述べようが無い。
泡姫ならばまだ部屋の備品や潤滑剤やなんかを自分で用意するし、
事後の部屋も客を扱いた手ずからで片付けるが、桜と来たらその様な作法すら儘ならん。
桜の樹が張り出した川を見るがいい。
散り始めの少量が川面に揺らいでいる間こそ風流だが、
いざ本格に散り始めればその花の残骸は川の淵ぶちに鬱屈と滞留し、浮かんだまま腐りはじめる。
それこそ、泡姫の怠惰によって堆積した排水溝の精液と髪と石鹸滓と垢の塗れたものが腐った様なものだ。
川に浮かぶ腐れた花を見る度に梶井基次郎を思い出すのは、そういう桜に対する怨念めいた嫌悪からくるに違いない。

──桜の樹の下には屍体埋まっている!

梶井などは大した作も書かぬうちに夭逝した書生崩れであったようだが、
それでも桜に違和を感じ憂鬱を完成させた点において共感しかねると言うわけには行くまい。
「おおーい!呑んでるか新人!」
あ、はい そこそこ。
「んんん?なんだまだ缶ビールしか呑んどらんじゃないか!」
すいません、日本酒よわいんです……。
「なおのこと練習が必要だな!ささ、呑んで呑んで」
はぁ……じゃあ。
……うぷ。

「よーし!じゃあまた後で呑ませに来るからな!またな!」
ははは……。
……。
断言する。
俺は奴等とは違う段階からこの場を眺めている。
奴等はただ莫迦になって桜に呑まれさらには酒に呑まれているが、俺は呑まれゆく奴等を観察しているのだ。
呑んだ酒も酔うためで無く、この様な仕事も出来ない不具達との付き合いで己の調子を崩さぬために、
言わば薬として呑んでいるのだ。
睡眠薬替わりというわけだ。
……。
宴会……予定刻限に終わりそうにないな……。
電話いれとくか……。
もしもし……はい、すいません、キャンセルで……。
すまんソープ嬢……本指名数に貢献できなくて……。
「さあ新人くん、もう一杯呑んでもらおうか!」
一升瓶片手に頭にネクタイ鉢巻きをしたさっきの上司が歩み寄って来て……
俺の憂鬱は完成した。



60 :携帯 ◆4c4pP9RpKE :2009/04/13(月) 03:00:18 ID:+tcd6Vyg
下戸の花見って苦行ですよね。

61 :創る名無しに見る名無し:2009/04/13(月) 06:01:49 ID:HSIPf5wk
>57
シメの流れが秀逸だなあ
好きかも

62 :創る名無しに見る名無し:2009/04/13(月) 15:42:27 ID:RVQusghi
桜って、あんな綺麗なくせになんかマイナスイメージがあるから
最初二つはその感じが沁みるな―と悶えた。
最後のはしょっぱなの高尚な弁舌がニヤニヤして、ラストまでニヤニヤで楽しかったw


63 :創る名無しに見る名無し:2009/04/13(月) 15:56:35 ID:CbgoafVl
>>57
せつねえな・・・

>>59
なんだかんだ言うて俗やないかいw

64 :創る名無しに見る名無し:2009/04/14(火) 12:49:00 ID:azlFT8hp
妄想

65 :創る名無しに見る名無し:2009/04/14(火) 18:38:07 ID:Kmg+grWB
回避

66 :創る名無しに見る名無し:2009/04/14(火) 20:37:22 ID:/TBCJlmN
感情論

67 :創る名無しに見る名無し:2009/04/15(水) 20:39:32 ID:QYoOVNIF
「妄想」
「回避」
「感情論」

以上三つ了承(丸一日)

68 :創る名無しに見る名無し:2009/04/15(水) 22:34:38 ID:9cSl1PDS
一レスで作るスレと間違え、さらに新しいお題が出ているのに一つ古いお題で投下しちゃいます。

69 :春ジオン ◆im0OIhxsYI :2009/04/15(水) 22:35:36 ID:9cSl1PDS
花粉の季節。
タリオン錠10mgを水を飲まずに飲み込んでから街へと出かける。
春は暖かで、別れの季節だった。
親しかった友人達と別れ、別々の道へと進んでいく。
出会いの季節。孤独な季節。
最近、夜が不安で眠れない。
その反動が昼に来て、眠い季節。
ひらひらとピンク色の花びらが目の前に舞った。
春は桜。
桜の季節。

『ずっと見てるからね』

そう言われた気がして、振り返った。
散り行く桜の木。
この時期は高気圧と低気圧が交互に来るせいで、風が強いらしい。
栄華のように咲き誇り、一夜の夢のように散ってゆく。
私はこれから、どれだけ長い時間を生きていくのだろう。
これから、どうなるのだろう。
どう生きていけばよいのだろう。
胸を張って生きれたら。
そう思うことは幾度と無くある。そんな柄じゃないのに。
単純に生きてたら、この複雑な世界で押しつぶされそうで、私は笑顔を失った。
何千何万の桜の花びらも、いつの間にか消えてしまうのに、それでもどうして咲くのだろうか?
その先に何があるというのだろうか。
答えはない。
その答えも、いつか見つかるだろうか?
私は前を向いた。
長い長い道のりだけが、私の前に続いていて、終わりなんて見えそうも無いのに、見えない事が不安になったりする。
複雑な世界だ。

「……行くよ」

まずは最初の一歩。
春。
その季節に何度と無く繰り返したその一歩を踏み出して、私はまた歩き出した。

70 :創る名無しに見る名無し:2009/04/15(水) 22:39:26 ID:9cSl1PDS
桜って、散った後にもう青々とした葉がついてる。
それも桜の好かれる理由なのかな?とか思っちゃったりした。
ごめん。もう真面目に書かないと思うから許してw

m9(^Д^)プギャー

71 :創る名無しに見る名無し:2009/04/16(木) 00:15:38 ID:g9Ocl7Df
>>69
何かジーンと来た……
俺も分かるよ、そういう気持ち

72 :創る名無しに見る名無し:2009/04/17(金) 01:38:27 ID:r9HTKf3u
最初の2つで感動してしんみりきたのに3つめで吹いたw
4つめはちょっとがんばろうって気になった

73 :創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 20:34:54 ID:vAmW5jua
次は、最近ちょっと暑いから「初夏」で。


74 :創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 21:36:36 ID:X0AeDLHV
しむらー、>>67>>67

もうちょい待とうよw

75 :薬、眠、桜:2009/04/21(火) 12:25:51 ID:mLXBUJAZ
先輩が散り始めの桜の下、薬屋のカエル人形を抱きしめて寝てた。
なにしてんだこの男。
「神谷…」
しかも私の名前を寝言でつぶやいてる。
田舎の、桜が数本ある神社だ。辺りに他に人はいない。
帰りに寄り道して桜見に来たら変なの見つけてしまった。
部活の中でも仲良い方だし、何かあったら責任感じると思うから声をかける事にした。
まさか、酔っているのかな?
そう思いながら起こそうと手を伸ばすと、
「ん…神谷…」
と、また私の名前を言った後、

カエルをぎゅっと抱き寄せて、頬ずりした。しやがった。

私はその後、少し考えてから、寝姿を写メ撮って蹴りいれて走って逃げた。

ー終ー

76 :創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 21:00:11 ID:hfLfv5f9
>>75
いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜面白い
短い文章なのに、面白いっすw

77 :創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 21:11:04 ID:rI7t3zs/
>>75
明日二人が会ったらどうなるのか気になるw

でも、まさか神谷が♂ってオチはないよな? な!?

78 :「妄想」「回避」「感情論」 ◆91wbDksrrE :2009/04/21(火) 23:51:15 ID:rI7t3zs/
「妄想とは、明日を生き抜く糧の一つである」
「は?」
 唐突に私の目の前の席に腰掛けた男は、これまた唐突に
そんな言葉を口にした。
 場所はどこにでもある喫茶店の一角。どこにでもあるような
喫茶店だから、当然客はそれほど多いわけではなく、相席が
必要な状況では、無論無い。のんびりと、ソーダフロートを飲み
ながら、本来なら四人程度の人間が向かい合って二人ずつ
座る事を想定されているであろう座席を一人占めする小さな
幸せを享受していた所だった、私は。仕事をちょいっとさぼって
の、短くも至福の時間。
 男が私の目の前に座る必然性は何も無い。ましてや、私に
向かって話しかけてくる理由など。男が会社の人間であるのなら、
あるいは見かねて何かお説教でもしようという事なのかも
しれなかったが、見覚えは無い。
 率直に、一言で言えば、『なんだこの男?』である。
 見た目は……まあ、悪くは無い。よくあるこの手の変人に
ありがちな、見た目がひげもじゃだったり、耐え難い臭いが
漂ってきたりなどという、そういう事は無い。それどころか、着て
いるものはそれなりに質のよさそうなスーツだし……何と言うか、
よくよく見てみれば、結構整った目鼻立ちをしている気が。
「人は時として妄想という行為を毛嫌いする。何故か。それは
 妄想する事で得られる糧は、効率が悪いからだ。妄想という
 言葉自体にもマイナスのイメージがある。だからこう言い換え
 てもいいだろう。妄想とは、つまり夢を見ることである、と」
 男は、真剣な表情で言葉を続ける。まったく意味はわからないが、
何やらまじめな話をしようとしているらしい。だが、なぜ私に?
何の為に? というか、いったいこの男は――
「……な、なんなんですか、あなた?」
 気づけば、そう尋ねていた。何なのだ、貴方は、と。心に浮かんだ
疑問が、そのまま口を付いて出ていた。
 本来ならば、そういう行動は回避した方がいいのかもしれない。
見た目はともかく、行動は変人だ。妄想がどうとかこうとか、
危ない人にも思える。そういう人には関わらないのが一番だ。
それが無難な判断――だと言うのに――
「問うたね?」
「……え、ええ」
 ――私は尋ねてしまった。関わりを持つ事を、選択してしまった。
 男はその事実に得たりとばかりに微笑み――その笑顔は思わず
ドキッとする程輝いて見えた――、一人頷いた。
「問うという事は、つまりは関心を持ったという事だ。そうだね?」
「……そ、そう、ですね」
 確かにそうだ。興味を持ったという事を否定はできない。私は
実際に気になっていた。この男はいったい何なのか、と。

79 :「妄想」「回避」「感情論」 ◆91wbDksrrE :2009/04/21(火) 23:51:47 ID:rI7t3zs/
 一度気になってしまってから、避けようという気持ちは失せていた。
「僕はその為に君の前に唐突に姿を現し、唐突に言葉をかけた」
「はいぃ?」
 私は思わず素っ頓狂な声をあげていた。
 その為に? 何のためにだ? ……関心を持ってもらう、為?
「この日の為に、身なりも整えてきた。視覚というものは、人の
 判断基準において重要なファクターを担うので、そこを持って
 敬遠されてしまっては問題外だったからね」
「……」
 何を言ってるのかますます意味がわからなくなってくる。
 えっと、この日の為に? つまり、今日の為に、身だしなみを?
「先に述べた通り、妄想とは効率の悪い糧の生産方法だ。
 それよりも、ずっと効率の良い糧を得る為の方法がある。
 その為にこそ、今僕はここにいて、こうして君に話をしている」
「……えっと……その、つまり?」
 頭がこんがらがってきた。何を言っているのだ、この人は?
端的な説明というものを求めて、私は話を促した。
「これは理論ではなく、感情論だ。未だ理論的整合性は僕の
 中では見出せていない、まさに『気持ち』というに相応しい、
 気の持ちようでしかない、想いと称するべき、だが事実僕の
 中に存在するものなのだが……」
「……あの、すいません。ちょっと、意味わからないんで、一言で
 言ってもらえないでしょうか?」
「好きだ」
 言葉の羅列に頭痛を覚えてきた私の求めに、彼は即座に応じ
「……はい?」
 その応じた言葉に、私は目を瞬かせた。
「何故かは理論的にはわからないが、僕は君の事が好きだ」
「……えっと、その……つまり?」
 想わぬ言葉が返ってきた事で、私は混乱していた。
 好き? 誰が? この人が? 私を?
「申し訳ないが、この気持ちを説明する理論を僕は持たない。
 君に納得してもらう為に説明する言葉を、僕は持たないんだ」
「……」
「だが、君を好きだという事実は厳然として存在している。
 君に僕の事を知ってもらいたいと、関心を持ってもらいたい
 という気持ちは、厳然として存在しているんだよ」
「……その為に?」
「そう! その為に、突然君に話しかけたんだ!」
 ……なるほど。
 なるほどという言葉程にはよくわかっていなかったが、とりあえず
なんとなくわかったような気がする。
「……子供ですか、貴方は」
「へ?」
 思わぬ言葉が返ってきたのか、彼の端正な顔がおかしな形に
固まって、私の混乱は一気に収まっていった。
「普通、何か知らない人が突然自分の前に座って、わけのわからあい
 話始めたら、逃げますよ?」
「……そ、そうかな?」
「そうです。というか、私がここで休憩してるのはいつもの事です
 けど、それどうやって知ったんですか?」
「それは……よく、君がここに入っていくのを見かけてて……」
「尾行とかしてたんですか?」
「ち、違う! そんな事はしてないっ! ただ、僕の働いている
 場所もこの近くで……」
「ちなみに、お仕事は?」
「塾の講師を……少々」
「ああ、駅前のあそこですか」

80 :「妄想」「回避」「感情論」 ◆91wbDksrrE :2009/04/21(火) 23:52:50 ID:rI7t3zs/
 理屈っぽい性格から見て、おそらく理系教科の担当なのだろう。
 きっと、変な先生だが、人気のある先生なのだろうな、と思うと、
自然と頬が緩んだ。
「なんだかよくわからないですけど……これって告白なんですよね?」
「……たぶん」
 何故か彼は自信なさげに頷いた。なんだか、その仕草の端々が、
小動物的というか、何だかかわいい感じがする。
「……断られたら、どうするつもりだったんですか? というか、
 さっきも言いましたけど、普通話しかけた時点で逃げられて
 おしまいですよ、こんな告白」
「……う、うぅ……断られたら、悲しい気持ちになったと思う」
 彼は気づいていない。私の言葉の、その言い回しに。
「悲しい気持ちになったら?」
「忘れようと、努力したんじゃないかな」
「それは、悲しい気持ちを? それとも……私の事を?」
「……たぶん、悲しい気持ちを」
「私の事は?」
「忘れない。僕に関心を抱いてくれなかった事は悲しいけど、
 君の存在と、僕が君を好きだったという事実は、決して」
 ……うわ。うわわ。何かこの人、すごいかも。
 瞳をまっすぐ私に向けて、彼はきっぱりとそう言い切った。
 その瞬間、笑顔を見た時以上に、大きく胸が飛び跳ねた。
 理屈っぽい姿は、多分そういう自分を演じてるんだろう。今、
彼の瞳には理屈も何も浮かんでいなかった。ただ、真剣に私の
事を思っているという、ただその想いだけが、見えた……そんな
気がした。これが、本当の彼の姿なんだろう。
 その瞬間、定まりつつあった私の心は、決まった。
「何だかよくわからないのは、今でも変わりません。でも――」
「え?」
「――夢見るだけじゃなくて、隣に実際にいる事で、明日も貴方
 が頑張れるって言うなら、私はひとまず、貴方の隣にいる事を
 選ぼうかな……なんて」
「それって……つまり?」
 彼の言葉を理解できなかた私が、今、彼が理解できない言葉を
口にしている。その事が何だかおかしくて、私はもう一度頬を緩めた。
「お付き合い、してもいいですよ?」
 自分でも、自分がこんな変な女だったとは、意外だった。なんで
この流れで告白されて、それを受けてるんだか。客観的に見れば
ありえないんじゃないかと思う。
「…………や」
 でも、恋とか愛とか、そういうものの始まりって、案外こんなもの
なのかもしれない……そんな風に思って――
「やったぁあああー!」
 飛び上がって、子供のように喜ぶ彼の姿を見ながら、私は苦笑した。
「……なんだかなぁ」
 つくづく変な話だ。
 でも……素敵な話、かもしれない。

 終わり

81 :「妄想」「回避」「感情論」 ◆91wbDksrrE :2009/04/21(火) 23:53:12 ID:rI7t3zs/
ここまで投下です。

82 :創る名無しに見る名無し:2009/04/23(木) 00:29:38 ID:b0NkFoWr
乙です。面白かった

83 :創る名無しに見る名無し:2009/04/25(土) 20:44:51 ID:O2XlcfS6
乙!面白かったー! 
男性の理詰めな口調と最後の喜びのギャップがいいね
ぐいぐい読ませる筆力お見事でした!

84 :創る名無しに見る名無し:2009/04/26(日) 03:43:57 ID:XOqQRUmF
女のヒトの心象の機微が自然でおもろい

85 :創る名無しに見る名無し:2009/04/26(日) 12:29:18 ID:m0st8uYN
3レスで見事にキャラが立ってるね
この二人の物語がもっと読んでみたいと思った

86 :「妄想」「回避」「感情論」:2009/04/27(月) 22:47:55 ID:WrsfT3sd
「お前たちはどうしていつも私を馬鹿にするんだ! 誰のお
かげで今のお前たちがあると思っているんだ!」
もはや理性を失い、感情ばかりが先走る祖母の罵声を背に
受けながら、私は玄関を出た。どうやら、しばらく機嫌は
直りそうもない。私はほとぼりが冷めるまで川沿いを散歩
してくることにした。
河川敷では昨日が満開であった桜が今まさに散っている
ところだった。あまりにも穏やかで、まるで止まっている
かのように見える川面。流れ行く桜の花びらだけが、それ
が確かに流れていることを知らせていた。
いつの頃からだったであろう。祖母は自分が家族から疎
んじられていると考えるようになった。始まりはおそらく
些細ないさかいだったのだろう。それは祖母の取り越し苦
労である筈だった。しかし、祖母の頑なな態度は、被害妄
想を事実へと変えていった。
一際強い風が多くの花びらをさらっていった。女手一つ
で父を育て、常に毅然としていたあの祖母でさえ時の流れ
による変貌は避けることが出来なかったのだ。況や桜をや

葉が青々と茂る頃、もはや花は全て散っているだろう。
そして人々は葉桜には見向きもせず、思い出の中の桜の花
を愛で続けるのだ。

87 :創る名無しに見る名無し:2009/04/28(火) 07:35:01 ID:tqTnnE6W
諸行無常の響き有り、だねえ…

88 :創る名無しに見る名無し:2009/04/28(火) 16:31:53 ID:v2OuqW2z
「妄想」「回避」「感情論」

 引きこもって1ヶ月、電話もメールも無視していたら、幼なじみが押しかけてきた。
 親に挨拶する声が聞こえたと思うと、ダダダと階段を駆け上がる音がして、ノックもなくドアが開いた。
振り向くと彼女が鬼の形相で仁王立ちしたまま、低い声で唸った。
「現実逃避もいい加減にしなさいよ。面倒なことを回避して、楽しい妄想に浸って、それでいいと思ってるの?」
 僕は首をすくめた。
 受験にことごとく失敗して、なにもかもやる気がなくなった。
予備校をさぼってこうして引きこもってゲームに明け暮れていても、楽しい訳じゃない。
 全部自分の至らなさだとわかっている。
 だからこそ、情けなくてますます外に出る気がなくなる。要するに悪循環真っ最中なのだ。
 彼女はちらっと視線をモニターに走らせた。
「あのさあ、猫耳の可愛い女の子がそこの窓からにゃあ♪とか、
青い目のメイドさんがいきなり飛び込んできてご主人様♪なんて、ぜええったいにないんだからね」
「そんなことわかってるよ」
 あー、腹が立つ、と彼女は憎々しげに吐き捨てた。
「あたしさ、先に行って大学で待ってるね!って言ったじゃない。・・・・・・あれ、撤回する」
 心がすっと冷えていった。とんでもないことになった、と内心はパニック状態だったが、
そう、と僕は平静を装ってみせた。
「待つのって、性に合わないし。それに、今のあなた見てるといらいらするのよ」
 彼女はきっぱりと、でもいらつきを隠そうとはせずに言った。肩までの髪がさらさらと揺れた。
「感情論はどうでもいいの。わたしね、後ろ向きなあなたを見てるのがとってもいやなの」
 真っ直ぐに僕を見つめて、彼女が言った。
「私、海外留学が決まったんだ。一年後に戻って来たときには、同級生になってよね」
「あ・・・・・・」
「いーい、待ってるんじゃないんだからね!さっさと追いついてきなさい。
――来年、戻ってきて同級生じゃなかったら、今度は絶交だからね!」
 バタン、とドアをしめて彼女が出て行った後、僕は机の上をのろのろと片付けた。
ゲームソフトをしまって、埃をかぶった予備校の問題集やテキストを並べ直す。
 見送りに行ったら彼女怒るかな、と、そればかりを考えながら。


89 :創る名無しに見る名無し:2009/04/28(火) 20:10:57 ID:QBEnZr/4
これはいいツンデレwww
引きこもっていた男の前に、ツンデレは実在した!(水スペ調

90 :創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 08:14:57 ID:TYwgB+RO
そろそろクレクレ

91 :創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 09:59:36 ID:xhHc279U
偽金

92 :創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 15:36:54 ID:GyNl4Ycz
注文

93 :創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 16:45:30 ID:icaV6AFQ
トイレ

94 : ◆91wbDksrrE :2009/05/01(金) 19:24:13 ID:dtHJKiI2
 取引の場所として選ばれたのは、トイレだった。
 おかしな注文だ。何故にトイレ? トイレでどうやって取引するんだ?
 疑問ばかりが頭に浮かぶが、取引相手はその条件が受け入れられ
無いのならば、取引は無しだと強行に主張する。
 まったく……物好きな相手との取引はいつもの事だが、今回は
とびきりおかしな物好きに当たっちまったようだ。
「……さて」
 ここに至った経緯を思い返していたら、刻限はやってきた。
 座っていた便座から立ち上がり、俺は周囲を――と言っても
見えるのは個室の壁だけなんだが――見回した。当然ながら、
取引相手の姿は見えない。見えるはずが無い。
「どうやって受け取りに来るつもりかは知らんが……五分待って
 来なけりゃ、取引はこちらからお断りするぜ?」
 呼びかけるように声を出してみるが、当然返事は返って来ない。
 個室の外にも気配はないし、こりゃ性質の悪い、そして手の込んだ
悪戯にでも引っかかったかな……などと俺が思い始めた時だった。

95 : ◆91wbDksrrE :2009/05/01(金) 19:24:58 ID:dtHJKiI2
「お気遣い、ありがとさん」
「……っ!?」
 声は背後から聞こえた。便座から立ち上がった俺の背後……つまり、
便器のある方角からだ。唐突に、何の前触れもなく、ただ声だけが
聞こえた事実に、俺は驚愕した。
「……なっ!?」
 声に続いて気配が現れ、気配の出現と同時に振り返った俺は、再び
驚愕する事になった。目の前にいたのが、このような場所には似つかわ
しくない、だが、とある“お話”を知る者ならば、大変似つかわしいと
考えるだろう、おかっぱ頭の女の子だったからだ。
「あんたが何を考えてるかはわかるよ……そうさ、あたしはトイレの
 花子さんと呼ばれる都市伝説だよ」
「……」
 俺は何も言えなかった。
 そこにいるおかっぱ頭の女の子は、確かにトイレの花子さんとして
描写される女の子の姿とよく似ていた。というか、そのものだ。
 そして、誰も入れるはずのない個室に音も無く現れた事実と、その
発する気配が、俺に重くのしかかってくるような重圧であるという事実。
 ……確かに、この少女は都市伝説の中の登場人物なのだろう。そう
納得できるだけの材料は、そこに存在していた。
「さて、ブツは持ってきたんだろうね? 見せな」
 少女の声でありながら、その声に俺は気おされていた。請われるが
ままに、床においていたアタッシュケースを取り出し、その鍵を開けた。
「……ほぅ、素晴らしいね、あんた」
 俺のブツ――商売の道具とは、一言で言ってしまば偽金だ。
 取引相手の要望に応じて偽金を用意し、その用意した偽金の半額を
現金で頂戴する……それが俺の“仕事”だ。
 無論、俺の偽金は“本物よりも精巧に出来ている”から、偽金である
事がばれて大事になる事は無い。無いと断言できる。だから、顧客は
それなりにいるわけだ。手持ちの金が、労せずして倍になるわけだから、
俺の偽金を欲している人間は数多い。その中で、これと選んだ人間と
だけ、俺は取引をしている。
 ちなみに、自分で自分が作った偽金を使う事は禁じている。それを
すれば、精神が緩み、技術が衰え、いつか偽金である事が露見して
しまう事になると、俺は師として慕っていた一人の男の破滅から学習
していたからだ。
 しかし……今日はどうしたことだろうか。取引相手として見込んだ
はずの人間は、しかし人間ではなかった。おかしな力で誑かされて
でもいたのだろうか……そうとしか考えられない。
 考えてみれば、違和感はあった。何故自分は、この取引相手と……
トイレの花子さんとの取引を、成立させたがっていたのだろう、と。
そもそも、トイレを取引場所に選び、それが駄目なら取引は無しだ、
などといわれた時点で、俺は取引をする事を諦めてよかったはずだ。
 なのに、俺はそれをしなかった。いや……できなかったのだ。
「……この半額と、引き換えだ」
 半ば、どういう結末を迎える事になるのかに気づきながら、俺は
いつもの取引と同じように、少女にそう告げた。
「半額? それはつまり、半額相当のものだったら、何でもいいんだろう?」
「そりゃ、そうだが」
 寒気がした。目の前の少女の、圧倒的な重圧を発しながら、それでも
まだどこかにあどけなさを残していた顔が、まるで老婆のようなそれへと
一瞬にして変じたのだ。
 眼光に射すくめられるように、俺は動けなくなった。ピクリとも。
「……あんたの命と交換だ。いいね?」
「……」
「あんたを、ここであたしは殺さない。それと引き換えだ」
「……」
「何とかお言い!」
「……わ、わかった」

96 : ◆91wbDksrrE :2009/05/01(金) 19:25:22 ID:dtHJKiI2
 諦めるしかなかった。諦めなければ、別の物を諦めなければ
ならなくなる事は、明白だった――
「ふん、それでいいんだ……じゃあ、これは貰っていくからね」
 動けない俺をあざ笑うかのように、少女は床に置かれたアタッシュ
ケースを拾い上げ、ニヤリと顔を歪めた。
 老婆を思わせる少女の顔の、そのあまりの醜悪さに、俺は自分の
意識が白く染まっていくのを感じ……意識を失った。
 意識を失いながら思った事は、彼女が――トイレの花子さんが、
どうして俺の偽金を欲したのだろうか、という疑問だった――

終わり

97 : ◆91wbDksrrE :2009/05/01(金) 19:26:08 ID:dtHJKiI2
ここまで投下です。

都市伝説の沙汰も金次第?

98 : ◆91wbDksrrE :2009/05/01(金) 19:32:55 ID:dtHJKiI2
「わたしメリーさん。今好きな人と一緒にいるの」
「あ、ども。俺普通の人間ですけど、メリーとは……まあ、その、
 いろいろありまして、こういう事に、はい」
「照れなくてもいいの。この前結婚式だってあげたんだから、ね?」
「いやあ、すごかったですよ。メリーって都市伝説じゃないですか。
 だから、同じ都市伝説仲間がいっぱいやってきて、賑やかで
 盛大な式にしてくれまして」
「主にお金出してくれたのは花子さん先輩なの」
「ホント、感謝しても仕切れないなぁ、花子さんには……俺、しがない
 サラリーマンですし、盛大な式とか、こんな御時世だから、無理
 だろうなって諦めてたんですけど……」
「私もなの」
「そしたら『これ、使いな』って……何も言わずにアタッシュケースに
 ぎっしり詰まったお金をポンって出してくれましてね」
「すごかったの!」
「おかげで、式も挙げられた上に、新居まで用意できましてね。
 ホントに、感謝してもしきれないですよ、花子さんには……」
「もともと、わたしがあちこちを回ってたのを、トイレに行った時に
 お話してたのが縁だったの。都市伝説としては先輩だったけど、
 花子さん先輩、トイレから出られなかったの」
「だから、メリーが話してくれるのが、嬉しかったんですかねえ……
 それでこんな……まったく、ホントに、何度もいいますけど、いくら
 感謝してもしきれないですよ!」
「おかげで今、二人で幸せなの」
「この幸せも、花子さんのおかげですよ」
『ありがとう、花子さん!』

終わり

99 : ◆91wbDksrrE :2009/05/01(金) 19:33:22 ID:dtHJKiI2
ここまで投下です。

肝心な疑問の答えをコピペしそこなってましたorz

100 :創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 21:05:51 ID:MkByHLlm
>>81
うわぁこの話好きだな
この男ものすごく考えて考えて明らか間違ってるこの告白方法を選んだんだろうなと思うとほほえましい

101 :創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 21:13:34 ID:MkByHLlm
>>86
これは悲しい
実際に良くありそうなところが…
続きがありそうな感じだけどどうなのかな

>>88
なんというツンデレw
猫耳もメイドもいなくてもこの幼馴染さえいればなんでもできる!

>>98
ちょwwwww花子さんwwwなにやってんのwwww
トイレの花子さんがおいてけ堀やっちゃダメじゃんw
でもメリーさんが幸せそうでよかったかも、かも

102 :創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 21:32:33 ID:2aqpoHg8
>>98
これはいい話。
……なのか?w 男前な花子さんに乾杯。

話の内容とは関係ないんだが
「花子先輩」じゃなくて「花子さん先輩」なのが好きだ。
メリーさんも「わたしメリーさん」とか自分で言ってるしw
こういうのは「さん」も含めて名前なんだなー。なんか和む。

103 :創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 21:45:02 ID:MkByHLlm
メリーさんちゃんとか呼ばれたりもすんのかな

104 :「偽金」「注文」「トイレ」:2009/05/02(土) 00:53:24 ID:tqOoIdXz
俺が複雑な儀式の手順を終えると、奇怪な紋様の魔法陣が眩い光を発し
、気が付くとそこには年若い少女の姿をした何者かが立っていた。
「あんたがクラトゥ族に伝わる神ハルトシュラーだな?」
俺が問いかけると彼女は厳かにうなずいた。
「いかにも。私に何か用か?」
「あんたは呼び出した人間が望むものを一つ造り出してくれるそうじゃない
か。さっそくだが、俺は金が欲しい。」
俺の言葉に彼女は幾分気を悪くしたようだ。わずかに不機嫌な色を覗かせ
ながら言葉を返してきた。
「私はもっぱら『創る』ことを仕事としている。経営コンサルタントは専門
外だ。」
「まあ、そう早合点なさんな。俺はなにも金の稼ぎ方を教えて欲しいとか、
現金を出せとか言っているわけではない。俺は精巧な偽金を『創って』く
れと言っているんだ。」

105 :「偽金」「注文」「トイレ」:2009/05/02(土) 00:55:31 ID:tqOoIdXz
「財産が欲しいなら高値で売れる美術品を創ってやってもいいんだぞ? こ
う見えても私は創作者としてそれなりに名が通っているんだ。」
やはり俺の真意を計りかねているようだ。
「いや、俺が欲しいのはあくまで偽金だ。一週間以内に用意して欲しい。」
彼女は俺の狙いが金自体にないと知り、困惑しつつも、期限の注文に対し
ては不適な笑みを浮かべて言い放った。
「そんな物は三日もあれば創れる。」
事実、彼女は三日足らずで偽金を用意してしまった。計画は予想以上に
に順調だ。あとはこの複製不可能と言われる紙幣に精巧な偽札が存在する
ことを公表すれば、この紙幣の信用はがた落ち。その隙を狙って俺の雇い
主である某国が手を打てば、もうこの国の紙幣は紙きれ同然。便所で尻を
拭くくらいしか使い道がなくなるだろう。俺は勝利を確信していた。

106 :「偽金」「注文」「トイレ」:2009/05/02(土) 00:57:14 ID:tqOoIdXz
それから数週間が経った。しかし例の偽金の話は一向に聞こえてこない
。不審に思っている俺に担当者から一通の手紙が届いた。曰く、「例の『偽
金』を偽金として告発しようとしたところ、あまりにも完全な偽装であっ
たため、それが偽金であるという証拠を示せない。あれは本当に偽金なのであろうか。」
俺は悟らざるを得なかった。あれは紙幣を模して作ったいわゆる偽金で
はない。ハルトシュラーによって創り出された「偽金」という名の一つの作品
であったと。

107 :創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 00:58:55 ID:tqOoIdXz
以上、投下終了です

108 :創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 01:09:10 ID:lJ8BDCqy
きれいだし面白いんだけどなんか3レス目が
もっと長くてもよかったんじゃないかと思った
前半はよかった
引き付けられた

109 :創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 01:41:34 ID:g/ZAwlXI
すっと物語に入れて素敵に楽しめました。
改行位置が少々窮屈ですが、恐らく単なる投稿環境の都合かなと思ったり。
これ多分創発なら1レスに収まるしw

110 :創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 17:10:11 ID:F0TFT1wW
「偽金」「注文」「トイレ」


 郊外にある顧客の屋敷を訪れたのは、特注家具を納品する為だった。
 注文のうるさい客ではあるが、この不況にもかかわらずまとまった大金を落としてくれるため
定期的なご機嫌伺いと顔つなぎは欠かせなかった。
 今回も、納品がてら次の商売への足がかりを掴むための顔出しでもあった。

 慎重な扱いで家具を部屋に据え置くと、屋敷の主人は満足げに頷いた。
「この部屋はこういうタイプで統一したかったんだよ、うんいいね。
君のところはいつも思っていた以上の品を用意してくれてありがたいよ」
「ありがとうございます」
感謝の言葉を述べながら、辺りを見回す。壁際に有名な名画が見えた。しかし、あの絵は――。
「気がついたかね。なかなかいい絵だろう」
「はあ」
「最近持ち込まれたものでね。ふふ、ちょっと訳ありの品でね」
 そうだろう。訳ありも何も、本物だったら国宝だ。
 しかし本物を紛失したという話はきかない。とすれば、これは贋作と言うことになる。
 私は逡巡した。
 贋作を贋作と判じることで、顧客の機嫌を損ねることは避けたかった。
 私は口をつぐんだ。
 黙り込んだ私を見て、主人はくつくつと笑った。
「直ぐにわかったようだね、さすがは目利きだ。
そう、これは良くできてはいるが贋作だ。美術品の贋作は偽金作りみたいなもので、
手間と労力の割に元は取れないものだよ」
「しかし、これほどのものでしたら、かなりの額をお支払いになったのでは」
 金額を聞いて、私は卒倒しそうになった。普通の人間が一生掛かって稼ぐ以上の額だった。
 泡を食う私に向かって、主人は鷹揚に笑った。
「いいんだ、払った札も偽金だ。どうせ、贋作を持ち込むような手合いだ、面倒は起こるまいよ」
 唖然とする私に構わず、主人は絵を見つめてにこやかに続けた。
「本物でなくても構わんのだ。なにしろトイレに飾るんだ.からな。
色調といい、タッチといい――うん、この絵はトイレの調度にぴったりなんだ」


111 :創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 21:05:47 ID:MAeXEvPc
何か妙な深さを感じる話だなw

112 :創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 22:07:24 ID:j7XR39Oa
おお、このオチは想像つかなかったw
うまいのかそうでないのか正直よくわからんが、
この妙な読後感が好みだ。

113 :創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 22:24:25 ID:g/ZAwlXI
これいいねえ
読んでてころころひっくり返る皮肉っぽい裏返し方が素敵

114 :創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 23:27:33 ID:fx3C3c5c
さすがハルト様

115 :創る名無しに見る名無し:2009/05/05(火) 02:30:10 ID:OqOHNTBv
こいつ…トイレにそんなに家具や絵を飾ってるのか
なんて広いトイレなんだ

116 :創る名無しに見る名無し:2009/05/05(火) 17:08:12 ID:CfVAwDAV
花輪君ちのトイレを思い出すぜ

117 :創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 23:04:14 ID:ArJAe8O0
クレクレ!

118 :創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 23:12:15 ID:yOVQ7CfY
かまいたち

119 :創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 23:22:29 ID:/2fQ2QFZ
幻影

120 :創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 23:24:07 ID:hOiTtwmv
ハルトシュラー

121 :創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 23:29:49 ID:yOVQ7CfY
かまいたち
幻影
ハルトシュラー

三つケッテー!

122 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 19:54:03 ID:BFSJIf9X
ネラー軍100万に立ち向かう春途修羅であるが、その兵力の差は歴然であった。
創作の鬼子らが春途を慕い集まった義軍、たったの5000。
正しく消えゆく新渡戸稲造紙幣のごとくである。
しかし春途はあきらめるどころか逆に発奮し、むしろその統率力をたかめた。
5000の義士すべてを集めた決起会で、春途は壇上に上がった。
「“釜井断ち”という兵法がある」
高々と響き渡る春途の声は、5000のざわめきをたったの刹那に静寂へと変える。
「田畑を潰し、村々を焼き、井に毒を仕込む。兵糧攻めとも言う、なんか如何にも戦争っぽいやり方だ」
春途は一旦言葉を区切り、一際声をはった。
「なんか《ぽい》からそういう感じでやろうかと思ったけどやめた!」
春途の言葉に5000の義士が切れた。
「まじめにやれー!」
「なんだそのゴスっぽい服は!」
「可愛いだろうが可愛すぎて本気で怒れないだろうがー!」
「吹け神風、いでよ春一番!彼女の裾を翻したまえ!」
たぶん切れている発言だ。
義士の言葉が突風にかき消される。
義士に混じっていたエアーマンが竜巻を放ったのだ。
──ビリビリビリー!
巻き起こるかまいたち。
壇上の春途はたちまち服が破れてしまった。
半裸。
そう呼ぶに値する春途の姿が壇上に残った。
春途はかまいたちの猛攻を耐えたことで安心していて気付けていないが、おっぱい丸出しである。
沸き上がる観衆。
巻き起こるおっぱいコール。
春途は状況を理解出来ず、キョトンとしながら、腕を振る観衆を見る。
「おっぱい!おっぱい!」
「おっぱい!おっぱい!」
「おっぱいおっぱい!」
「おっぱいおっぱい!」
「おっぱいおっぱい!」
バラバラだった声が一つになって大合唱する。
春途はようやく自らの痴態に気付き、カッと頬を染める。
慌ててスカートを掴んで胸を覆う。
そのせいで今度はパンツが見えてしまう。
「パンツ丸見えー!」
「おっぱい!おっぱい!」
「パンツ!おっぱい!」
「パンぱい!パンぱい!」
「パンパース!パンパース!」
バラバラだった声が一つになって大合唱する。
「パンパース!パンパース!」
「パンパース!パンパース!」
「パンパース!パンパース!」
のちに語り継がれるネラーと創作の間で起こった幻の戦“幻影の乱”はこうして幕を閉じたのだった。




123 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 20:02:30 ID:BFSJIf9X
書いたは良いけどハルトシュラーが内輪ネタ過ぎてよく分からない
もっと一般的なお題にしてくれよん

124 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 20:05:09 ID:CdhRJmRb
だよな。広辞苑に載ってないものは自重しろカス

125 :闖入者(1/2)「かまいたち」「幻影」「ハルトシュラー」:2009/05/10(日) 20:41:16 ID:VyShwyjx
「これが、『ハルトシュラー跡地』か」
 二人の兵士に守られながら、老人は眼鏡の奥の双眸を見開いた。
「博士の提唱された『時系列投影形畳み込み写像仮説』が立証される前までは、伝説の土地でした」
 博士と呼ばれた老人は、悔悟の表情を隠さない。
「かまいたちに気をつけろ」
 彼はそう呟いた。時間の歪みを越えた矢先には、どんな硬い物質でも切り裂いてしまう特異点が発生しやすい。
 磁界フィールドで防ぎきれるかどうかも立証できていない。
 眉間に刻まれた深い皺は、不安に滲んだ汗で掴み、眉の端からも冷や汗を伝う。
「科学的に立証されてしまえば、既に伝説でも前人未到の地でもない訳だ」
 老人は、兵士の容喙(ようかい:横合いから口を挟む)に不快感を覚えた。
 つまびらかな講義をする余裕はあるまい。
 伝説を拓いてしまった事は、少なくとも人類から距離的な問題と、時間的な問題を切り捨てることに等しい。

「儂は、こちらの住人になろう」
 兵士二人は振り返らない。
 周囲の木々を掻き分けている。
「人類の文明は、地球の自然を痛めつけた」
 博士は懐に手を入れた。
「今後は、人類史そのものの改ざんに臨む愚か者が出てくる事だろう――」
 彼の手は、懐から出て来る事がなかった。
 兵士二人が先に発砲したのである。

「素人が拳銃で兵士二人をどうしようと思ったのかね」
 兵士のひとりが無線機を取り出しながら、そう云った。
「博士を危険思想の持ち主として処分しました」
『よろしい。博士の遺体は放置しろよ――別の学者が解析したデータを元に、同じ技術はいくらでも模倣できる』
「死因はかまいたちでよろしいですか?」
『かまいたちに見える形で処理できたのだろうな?』
「イエス、サー。ご命令の通り、首もとを薙ぐように撃ちました。博士にはまだ息がありますが、立ち上がる気力はないようですし、手当てする者と救急病院がなければ十分ももたないでしょう」
『完璧だ。例の廃墟から金目の物をさぐったら、そのまま戻って来い』
「了解」
 無線が止まった途端に、カマイタチが、二人の兵士の首筋を薙いだ。

126 :闖入者(2/2)「かまいたち」「幻影」「ハルトシュラー」:2009/05/10(日) 20:41:58 ID:VyShwyjx
 博士が目を覚ます。

「着想を嘆くな。慷概(こうがい:社会不正を訴える行為)の徒に堕ちるよりも先に為すべき事があろう」
 博士の耳に、少女のような黄色い声が響いた。
「君は? どこにいる? 誰だ?」
「姿を見せる事はできん。それを最後に、お主は本当の意味でここの住人となってしまう」
 博士は震え、察知し、それから叫ぶ。

「私の発明は、人類を滅ぼします。私はもう、ここの他に居場所がないのです――」
「汝は発明者か」
「科学者です」
「科学者は、人が滅ぶ事を嫌うのか?」
 博士は考えた。
「いいえ。科学者は真理を科学的に求めるものです。人が滅ぶ事を嫌うのは、私の正義観と信仰に基づくものです」
「ならば、人が滅ぶ発明を拭う方法を知っておろう」

 博士は三十分程考え込む。
 その森は静寂に包まれており、彼の思考を遮る物は何一つなかった。
 着想のためにも、思考のためにも、もっともよい空気が渦巻いている。
 彼の脳裏から焦りが去り、やがて衝動が彼を奮い起こさせた。
 彼はやおら叫ぶ。

「言葉の主よ、まだ我が声の届く場に居るか」
「くつろいでいる。声を荒らげるな、客人よ。――答えは出たか」
「はい。もう、言い訳はやめます。私は、私にできる事を、私にやりやすい形で成し遂げます」
「逡巡し続けるよりはよかろう」
 博士は頷いた。
 いつしか、博士の眉間から、皺が消えていた。
「汝の創作活動に栄光あれ」
 博士は振り向かずに、彼の為した「時空の特異点」に戻って行った。

 博士は兵士に撃たれた自分がなぜ生き返ったのかを知らない。
 また、あのカマイタチがハルトシュラーの手で為された物かどうかは、未だに判っていない。
 それでも確かな事がひとつある。
 立ち止まりかけた彼の背中を、やさしくとん、と押すように吹いた突風があった事を。

 - - -

 ハルトシュラーもまた知らない。
 あれから現れなくなった科学者の事と、その科学者のいた世界が今どうなっているのかを。
「お師匠は、気にならないので?」
 ハルトシュラーは紅茶を啜りながら、ゲーテの詩集を読み漁っていた。
「自然は無感覚――太陽は善も悪も照らす――」
 弟子は首を傾げたまま、続く言葉を待った。
 ハルトシュラーは本から視線を外し、にやりと笑ってみせた。
「気になるなら、お前が綴ればいいではないか」

 - - -

 ――この断章は、誰かに続く訳でもなく、誰かが続けてはいけないものという訳でもない。



127 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 20:43:46 ID:DUErxmZU
うまい!面白い!

ハルトは専門スレがあるからそっちでやればいいとおもう
自分も向こう読んだけど、意味分からないので書けないから、次のお題まで待つよ

128 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 20:48:00 ID:DUErxmZU
変なときに書き込んでしまった。>>127>>122

>>125 壮大なストーリーだ。元ネタがわかってればもっと楽しいだろうな

129 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 20:52:48 ID:VyShwyjx
んだねー把握してないと書けないお題ってやりにくいと思う
お題「ハルトシュラー」の代わりのお題出しといた方がいいかも

一応任意な感じでハルト代案
「伝説上の人・物・動物(任意)」

130 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 21:22:02 ID:CdhRJmRb
じゃあ代案は「ペガサス」でよくね?
っていうか次のお題にいってよくね?

131 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 21:25:50 ID:1NwyVdm9
伝説上の人物って事でいいんでないかな。

今後は、そこら辺固有名詞には気をつけるって感じで。

>>122
これは酷いw(ほめ言葉
妄想をかきたてられるなw

>>127
上手いなぁ。格好いいとはこういう事か。

132 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 21:26:38 ID:1NwyVdm9
****おおっと!****

>>130
かもね。
過去のお題禁止なわけでもないし。

133 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 21:27:00 ID:VyShwyjx
書きかけの人がいなけりゃいいんじゃね
日付変わる頃までに文句出なけりゃそっからお題とかで良いんじゃなかろか

134 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 21:30:04 ID:1NwyVdm9
書きかけの人がいても、遠慮なく出来てから投下して
もらえばいいと思うけど、まあちょっと様子見してそれからの方がいいかも、確かに。

135 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 21:33:46 ID:4PjLqkOX
>>126
結局何だったの?

136 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 22:59:30 ID:/T86p3ij
あー、春と修羅ということなのか?

137 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 23:35:56 ID:Dr4daTqA
よく分からんね
落ちてないというか、落ち放棄されたような嫌な感じだ

138 :かまいたち・幻影・伝説上の動物:2009/05/10(日) 23:42:55 ID:HM4TKLv/
濃紺色に塗り込められた夜の空に、真っ黒な樹の影が巨大な異形の化け物のように浮かび上がり、
強風に煽られてざざざと無数の触手をうごめかせた。
遠く街のあかりがちらちらと瞬き俺の目を眩ませる。
塀にかこまれた家々からは人の気配が微かにすれど、姿は見えない。
路地を吹き抜ける風がびょおおおと唸りをあげて俺の耳をかすめていった。
狭い通りに、点々と立つ街灯が青白い光を滲ませ、光の届かない所を闇に沈ませていた。
俺は古靴を履いた俺の足が、交互にあらわれる闇とひび割れたアスファルトの中を
進んでいくのを眺めながら歩いていた。
みぎ、ひだり、みぎ、ひだり……
無意識にそんな風にリズムをとって歩んでいた俺の足が止まる。
三歩ほど先にわだかまる闇のなかに、何かが立っていた。
それは俺の膝ぐらいまでの高さしかないが、二本足で立っているようだった。
「…………」
俺が何をするでもなく突っ立っていると、つ、とその影が動いた。
街灯の明かりのなかに黒いつやつやとした毛並みの足があらわれる。
それは真っ黒なイタチだった。腹の部分だけが白い。
手にはなぜか鎌を持っている。
街灯の下で俺とイタチは向かい合った。
最初に口を開いたのは俺だった。
「ふはっ……イタチに鎌でかまいたち、か。酔った末の幻影とはいえ我ながら陳腐だな」
するとイタチは濡れたような黒いつぶらな瞳で俺を見上げた。
「幻影じゃないおれほんもののかまいたち」
「喋った! これは本格的に幻だ。そんなに呑んだとは思わなかったが、油断したな。
 まあ、狸に化かされるよりはいいか」
「幻ちがうかまいたちこんな風のつよい夜にあらわれるおまえ知らないのか」
かまいたちはやや憤慨したような口調で俺に抗議した。
「知ってるとも。風に乗って人を切るっていう奴だろ。
 あれは伝説上の動物だ。妖怪だ。だいたいその鎌はなんだ」
俺が指差したイタチの鎌にはDIYショップの値札シールがついていた。
「この鎌買った前にもってたやつこわれたから」
イタチは少し恥ずかしそうに声を弱めた。
「ははっ、買ったのか。かまいたちは人間から鎌を買うのか。
 断然うそっぱちだね。そんなかまいたちがいるはずがないだろ。
 どっから逃げてきたか知らないが、とっととペットショップに帰れ」
「おれほんもののかまいたちうそっぱちじゃない……」
イタチはうなだれて消え入りそうな声で呟いた。
俺は触るとちくちくしそうな短い毛におおわれたイタチの頭を眺めた。
側頭部についた小さな耳がぴくぴくと震えている。
すこし、意地悪だったかもしれんな。
「おい、イタチ。お前がそこまでかまいたちだって言い張るんなら、認めてやらんでもない」
俺の言葉にイタチは頭をあげてひげをそよがせた。
「お前がかまいたちだっていう証拠をみせてみろ。何かあるだろ?」
イタチはしばらく何かを考えていたが、頷くと俺を見上げて
「ある」と瞳をくりくりさせて言った。
「よし。やってみろ」
俺は膝をついてイタチを励ますように声を掛けた。
その瞬間どっと強い風がふいて俺の身体が揺れた。
しゅぽんと音を立てるかのように飛び上がった俺の首が、枯れ葉やら塵やらと一緒に、
渦をまくつむじかぜに巻かれてあっという間に運び去られ、無明の闇に消えていった。
あとには街灯のあかりの下、首をなくした俺だけが残った。

139 :創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 23:54:48 ID:YFCZnjx7
うお、「鎌とイタチと俺の死体」か…

140 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 00:19:44 ID:T8nRsGlW
日付も変わったことだし仕切り直しで

お題↓

141 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 00:22:21 ID:vfG709iY
千年

142 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 00:26:19 ID:oFwE/Xos
イヤホン

143 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 00:27:06 ID:8UpgQWrL
倉刀

144 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 00:39:28 ID:oFwE/Xos
なんて読むんだ

145 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 00:39:40 ID:Q0BXf5RO
わざとやってるんかね。

割とマイナーな固有名詞なんでやり直し

↓三つ目どうぞ。

146 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 00:42:56 ID:yh7mhpAN
はさみ

147 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 00:46:14 ID:T8nRsGlW
【千年】 【イヤホン】 【はさみ】で決定!!

148 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 00:49:53 ID:Q0BXf5RO
はさみはセーフだなw

149 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 02:09:20 ID:H/1y5pvj
誰もわからんような楽屋オチ連発しててすげー萎えてるのは俺だけですか

150 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 02:15:48 ID:oFwE/Xos
俺もぜんぜん書く気が起きない

151 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 15:17:30 ID:Q0BXf5RO
>>149
「はさみ」も確かにそういう要素はあるが、
普通に「はさみ」って言葉として取り扱えばいいだけかと。

だから>>145みたいに仕切りなおしたりしなかったんだが、
それじゃ不満なのかな? だとしたら、どうしたらいいと思うのか、
具体的に提言してほしいと思うんだが。

ちなみに、俺も固有名詞としての名前を知ってるだけで、
その内容まではさっぱり知らない。未だに、というべきかもしれないがw

>>150
そう思うのは自由だけど、わざわざ表明するのは正直ちょっとどうなのかな、と思います。
そこら辺、配慮してあげた方が、他の書く気のある人には
親切なんじゃないかと思いますよ。

152 :3つ選べば?:2009/05/11(月) 15:29:50 ID:T8nRsGlW
ヒエラルキー 物理 ハムスター 死刑囚 とろろ 蟹 カクテル ウイルス
親不孝 盲人 すい臓 清少納言 オオカミ 五月病 ストップウォッチ
観覧車 ジェットコースター なわばり 俳句 司会 改札口 アオミドロ
留学生 親戚 メープルシロップ 回転寿司 風俗 バイト 魔法使い 航海 淋病
回し蹴り 膝蹴り 県大会 囲碁 同性愛 ジュエリー 自治医科大学 公衆衛生


153 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 16:08:15 ID:2B+NSTbs
      r ‐、
      | ○ |         r‐‐、
     _,;ト - イ、      ∧l☆│∧  良い子の諸君!
    (⌒`    ⌒ヽ   /,、,,ト.-イ/,、 l
    |ヽ  ~~⌒γ⌒) r'⌒ `!´ `⌒)  『はさみはおよそ千年前に初めて作られた』
   │ ヽー―'^ー-' ( ⌒γ⌒~~ /|
   │  〉    |│  |`ー^ー― r' |  という雑学は、イガイヤホントの話なのだ。
   │ /───| |  |/ |  l  ト、 |
   |  irー-、 ー ,} |    /     i   勉強になったな!そういうことで喧嘩はやめよう!
   | /   `X´ ヽ    /   入  |

154 :千年 いやほん はさみ ◆91wbDksrrE :2009/05/11(月) 16:09:29 ID:Q0BXf5RO
 千年の時を過ごすにあたって、孤独であるという事は如何様な
作用をもたらすのであろうか。
 想像する事はできるだろう。だが、実感する事は決してできない。
 何故なら、私は人間だから。人間が千年の時を、その時の流れの
中に身をおいて実感する事は不可能だ。旧世紀に完成したテロメア
理論によって多少寿命が延びたとは言え、それでもせいぜいが二百年。
それが人間の限界だ。
 人ならぬ身にならなければ、千年を生きる事は不可能。結論として
は、そういう事になる。
 長く生きる生物として真っ先に思い浮かぶのは、樹木だ。
 千年以上前に枯死してしまったが、南方の森に存在していた大樹は、
三千年以上の時を生きていたという。
 人が樹木として生きる事ができれば……より正確に言えば、樹木と
なって尚、人としての意識を保っている事ができれば、人の意識が
千年の時を生きる事は可能になる。
 論理としては。
「……」
 思考を止め、足を止め、ミュージックプレイヤーのスイッチを止め、
つけていたイヤホンを外して僕は空を見上げた。
 青く塗られ、白い光に照らし出された、空という役割を与えられた
天蓋を見つめていると、自然とため息が口端から零れ落ちる。
 目にはそんな光景が見え、耳にはその天蓋から吹き降りてくる
風の音が聞こえ、そして身体は地面からわずかに発せられる、
気温を定める熱を感じていた。
「……ふぅ」
 一体、僕は何を考えているのだろうか。
 自嘲の笑みが、ため息と同じように自然と浮かぶ。
「千年、か……」
 千年という長き、永きとすら言える時を生きてみたい。それが僕の
夢だった。唯一の、と言ってもいい。そして、最大の、と間違いなく言える。
 でも、そんな夢を、夢のまま見続けさせてくれる程に、この世界の
おかれた状況は安穏としたものではなかった。
 既に、この世界に千年を生きる存在は、無い。いない。存在しない。
千年以上前、世界のありとあらゆる生物は、“地球上”から姿を消した。
その原因については、今もって謎とされている。生き残った人間達は、
原因を知るヒントを手に入れる前に、逃げざるを得なかったからだ。
 そして生き残りである僕らの祖先は、自分たちがどうしてそんな目に
遭わなければならないのかを何一つとして理解できぬまま、させて
もらえぬまま、ノアと呼ばれる地下のバイオスフィアに逃げ込む事を
強いられ、そこで生きていく事を余儀なくされた。
 とはいえ……生きていくだけならば、それ程の苦労は無かたった。
 旧世紀の神書にある、世界の破滅から人を救う舟の名を冠された、
この地下施設は、だがしかし、その名を冠するに足る程に、整えられ、
ありとあらゆる状況を想定した用意がなされていた。
 千年以上の世代交代にも耐え、それどころか、かつての栄華を
取り戻しかねない程に、人はその文明を、この地下において発達
させている。
 無論、制限はある。宇宙を含めれば無制限に広さがあると言えた
地上とは違い、ここは地下だ。無計画に人口を増やしたり、耕作地や
商業地、工業地などを適当に作ってしまえば、すぐに行き詰って
しまう事は、誰でも理解している。
 だがしかし、その制限は、それが仕方が無い制限であるという事を
誰もが理解しているが故に、不自由とはなっていなかった。
 この地下の楽園で、僕たち人間は何の不自由も無く生きている。
そう言えるだけの生活を、ここでは送れるのだ。
 だが、そんな何不自由ない世界にも、やはり変わり者はいるものだ。
例えば、僕のような。

155 :千年 いやほん はさみ ◆91wbDksrrE :2009/05/11(月) 16:09:43 ID:Q0BXf5RO
 再び、僕はミュージックプレイヤーのスイッチを入れ、イヤホンを
耳につけた。そこから聞こえてくるのは、“森”の音だ。今は亡き大森林
が、風に揺られるザワザワという音。千年以上前に、先祖がここに
逃げ込んで来た時持ち込んだ、かつて存在していた“自然”の音。
 樹木となれば、人は千年を生きられる。
 だが、その樹木は、最早この世界のどこにも存在しない。
 街路や公園に生えている、一見して樹木のように見える物体は、
真実樹木そのものではない。それを模した造花であり、造木だ。
はさみで剪定する必要も無ければ、落ち葉を掃き集めて捨てる
必要も無い。
 この地下世界には、樹木と呼べる植物は存在しない。草花と
呼べる植物も、同様だ。
 唯一存在しているのは、大気中の二酸化炭素を分解する為に
飼われている、大量の植物プランクトンだけ。
 それで、十分だからだ。二酸化炭素を光合成によって分解する
以上の、ただ鑑賞する為だけに、ただ素材として用いる為だけに
存在する樹木は必要無いと考えられた。
 千年以上前に、ここを作った人間がそう考え、だからここには
生きている樹木は一切存在しない。
 樹木に意識を移せば、千年の時を生きられる。
 だが、その為に必要な樹木を、この世界は有していない。
 だから、僕は当然の帰結として、植物について学び始めた。
 植物学と呼ばれるそれは、この地下世界においては全くと言って
いい程顧みられる事のない学問だった。ライブラリの閲覧履歴に、
この千年で片手で数えられる程の名前しか載っていないのがその
証左だ。当然、過去の書物を自ら紐解いていくことでしか、学習を
行う事はできなかった。教師と呼べるだけの知識を持った人間は、
この世界には誰もいなかったのだから。
 その過程で見つけたのが、この音だった。
 森の音を流すだけの、リズムもメロディーも、何も無い音。
 だがしかし、それは確かに一つの音楽だった。
 その音楽を聴きながら、僕は想像する。千年の孤独を。
「……全く、一体何の為に、何をどうしようとしてるのか、めちゃくちゃだな」
 自嘲気味に独りごちながら、僕は考えた。
 千年を生きたいと思い、その為の手法として樹木となる事を望み、
だが樹木が実際にこの世界に存在しないが故に、自ら樹木をまず
この世界に産み出さんとしている――それが、僕だ。
 そこで、僕は自問した。
 千年を生きるという事を望んだのは、果たしてなにゆえだっただろうか、と。
千年の孤独を感じたいと思ったのは、果たしてなにゆえだっただろうか。
 目的であるはずのそれを、何故目的として自分は選んだのだろうか。
 それが思い出せなくなって、ずいぶん経ったように思う。
 手段が目的と化して、目的の意味を忘れてから、ずいぶんと。
「……ま、いっか」
 でも、確かにそれは……千年を生きたいという思いは、僕にとって
唯一にして最大の――夢、なのだ。それだけは、間違いない。そこを
疑う事はできなかったし、疑おうとする気もおきなかった。
 だから、今日も僕は独りでライブラリへと赴き、書物を紐解く。
 群れながら、尚且つ森という個であるが故に、千年を孤独に生きてきた
者達の奏でる音楽を聴きながら、独りで、たった独りで。
 
                                    終わり

156 :千年 いやほん はさみ ◆91wbDksrrE :2009/05/11(月) 16:10:58 ID:Q0BXf5RO
ここまで投下です

って被ったー!?w

157 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 16:12:45 ID:Q0BXf5RO
>>153
いろんな意味で凄いですわwww
すげー笑ったwww

158 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 16:18:19 ID:2B+NSTbs
>>154
随分と寂しい世界の話ですね。

どうも毎回投下タイミングが悪くてすまんことです。ここでいったん空気を変えてAAですw

159 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 17:54:37 ID:2B+NSTbs
【千年】 【イヤホン】 【はさみ】

ショーケースの前で、僕は逡巡していた。
明日は彼女の誕生日なのだ。
二人で過ごす初めての誕生日。思いっきり喜ぶものを贈りたかった。
「お客さま、どういったタイプをお探しで」
店員が声をかけてきた。
他に客の姿はない。僕は逡巡しながら、プレゼントの品であることを伝えた。
「贈り物にはさみですか……。失礼ですが、刃物は”切れる”からと
避けられる方も多いのですが。よろしいですか」
なるほど。一理ある。
が『手元で簡単に切れるのが欲しい』と彼女が話すのを偶然聞いたのだ。
欲しいものをさっと渡すのがやはり一番じゃないだろうか……。
考え込んだ僕の姿を見て、店員が
「はさみは千年も前に作り出されたアイテムなんです。
その頃のはさみも、手入れさえされていれば今でも普通に使えるんです。
ある意味完成された形なのでしょう。記念の品には最適かもしれません」
手入れさえすれば永遠に、の文句に心を動かされた。
彼女との絆には、いかにもふさわしい。
「じゃあ、これください」
結構な値段ではあったが、切れ味と手触りの良いものを選んだ。
箱に赤いリボンをつけて貰い、大切に鞄にしまうと僕は家に帰った。

「誕生日おめでとう。これ、プレゼント」
翌日、予約しておいたレストランの席で、僕は彼女に包みを渡した。
「まあ、なにかしら……まあ、はさみ」
「手元ですぱっと切れるよ、こういうの、欲しがってたんだろう」
「――え、ええ。ありがとう」
彼女はちょっと困惑しながら頭を下げた。
「いや、昨日偶然立ち話してるの聞いちゃってさ」
ああ、そういうことだったの、と彼女は微笑んだ。
手元でスイッチ操作ができる、新型イヤホンの話を聞き違えたのね、と
心の中で呟きながら。

160 :「ハサミ」「千年」「イヤホン」:2009/05/11(月) 19:27:27 ID:/ddfntQD
This is a scissor.
当時、中学生だった私のテストの答案には大きなバツ印
がついていた。丸顔の汗臭い英語教師はハサミが複数形
でなければならない理由を長々と説明していたが、まる
で聞く気になれなかった。私にとって一つのハサミは一
つの物であって、複数形ではあり得なかったのだ。私が
日本語を話し、日本に住む日本人であるということは百
年後も千年後も決して変わらない真理に思えたし、そう
である以上ガイジンの言葉や考え方を学ぶ必要はないと
思っていた。

161 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 19:27:46 ID:vfG709iY
聞き違いはざんねんだったけど、ちょっと高めのハサミというのも
なかなか粋な贈り物かもしれないね。基本的な道具だから使わなくなる
なんてことないだろうし。

162 :「ハサミ」「千年」「イヤホン」:2009/05/11(月) 19:28:15 ID:/ddfntQD
皮肉なものである。私は今ニューヨークにいる。仕事
のために一年間滞在することとなり、こちらに来て間も
ない。そして、買い物のために訪れた店で、店員がハサ
ミを使って荷物の紐を切っているのを眺めながら、先程
の話を思い出していたのだ。あれから私は色々なことを
経験した。いつしか自分の可能性を狭めることの馬鹿馬
鹿しさにも気付いていた。今の私なら言えるだろう。あ
の時学んでいたことは決して無駄ではなかったと。たっ
た今、こちらに気付いた店員が顔いっぱいに営業スマイ
ルを浮かべながら話しかけてくる。
「May i help you?」
――ハサミの数え方を知ることは決して無意味ではない。
私は自分が学んできたものへの誇りとともに胸を張って
答えた。
「I want to buy a ear-phone.」

163 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 19:44:50 ID:vfG709iY
ごめーん!!! 割り込んじゃったよう!!

164 :創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 20:11:42 ID:Q0BXf5RO
>>159
店員のセールストーク上手いなw

>>162
最後のオチ上手いなw

165 :創る名無しに見る名無し:2009/05/12(火) 01:56:21 ID:u+3+2VdF
もうひとひねり欲しいかな


166 :創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 23:05:10 ID:r3xYYC0j
クレクレ

167 :創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 23:18:27 ID:+fz/FEIR
猟師

168 :創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 23:41:19 ID:PHaDHSUx
時間

169 :創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 23:42:10 ID:AhqM9Wm+
閉ざされた部屋

170 :創る名無しに見る名無し:2009/05/15(金) 09:49:19 ID:GkBVlyeL
面白いお題だ!燃えてきたぜ!

171 :創る名無しに見る名無し:2009/05/16(土) 13:51:35 ID:1B95phUw
鍵施錠。
wii作動。
閉ざされた部屋での猟師時間が始まった。
意思は現実から集約し、ゲーム機本体内蔵の無線になだれ込む。
ゲーム機はPCのUSBポートに突き立った送受信アンテナに操作の指令を暗号化して伝達。
暗号はPCによって再変換され、繋がった光ケーブルに地球ナナシュウハンに近い速度で走らされる。
法定地役権の範疇をガス管と並走して駆け巡り、一秒も掛からずサーバーに到達。
サーバーからまたガス管を並走し以下略。
雑多に教科書やレジュメが溢れる自室はもはや識域下に存在しない。
人が中程度群れるサーバーを選択。
社交場に用は無い。
自由区に欲するクエストはない。
猛者達の集会所を選択。
フレンドリスト閲覧。
数十のランカーハンターがずらりと並び、半数以上がオンライン状態。
彼らの内何割かはオフラインを捨てている。
オフライン≠ひとり遊び。
オフライン=日常生活。
オフラインからログアウトし、もう再接続するためのwiiポイントも残っていない。
そういうものが並んでいる。
社交場に用は無い。
自由区に欲するクエストは無い。
現実に仲間は居ない。
心許無い一人旅なんて、もうやりたくない。

172 :創る名無しに見る名無し:2009/05/16(土) 20:22:24 ID:7mHg0aEL
猟師時間?

173 :創る名無しに見る名無し:2009/05/16(土) 20:30:37 ID:zzJQbXmi
モンハンか。

174 :創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 15:31:06 ID:k5IYADGo
猟師 時間 閉ざされた部屋

うっそうと茂る深い森の奥に、朽ちかけた小屋がある。夕刻、隻眼の男が一人、その扉を押し開けて中へ入った。
真っ暗な小屋に明かりをともした男は、ぎょっとして飛び上がった。
しんと静まった狭い小屋の隅に、ひからびた老婆が座っていた。
「すみません、空き家だと思って」
「いや、構わんよ。道にでも迷ったのかい?ここには滅多に人は来ないのさ」
よっこらしょ、と老婆は立ち上がると男の方へとやってきた。
「猟師かい……銃を持ってるね、火薬と血の臭いがする」
ええ、獲物を追って道に迷ってしまった、と男は散弾銃を肩から下ろした。
「ここには電話か、何か通信手段はありますか?」
老婆は首を振った。ないね、残念ながら。そう、と男は満面の笑みを浮かべ、突然老婆に向かって銃をぶっ放した。
ごん、と仰向けに倒れた老婆の腹がみるみるうちに赤く染まる。
ごぼり、と口から血泡が流れた。男は肩をすくめて言葉を続けた。
「悪いな。目撃者は消すのが俺の主義なんだ。
ちょっと時間稼ぎが必要なんでね、ここを使わせて貰うよ」
白目をむいて痙攣する老婆を見下ろしたあと、男は部屋の中を見渡した。
なんとも殺風景な部屋だった。6畳ほどの四角い部屋の隅には暖炉と、小さなキッチン、それになぜか井戸。
調度品は簡素な木のテーブルと椅子だけ、その上に一冊の本が置いてある。
息絶えた老婆の体は、井戸に投げ込んだ。ばしゃ、と水音がして静寂が戻った。
男は椅子に座ると本を手に取り、ぱらぱらと頁をめくった。
「……なんだ、こりゃ」
肖像画が描かれている。男も女も、年寄りも若人も、大きく口を開け、悲鳴を上げているような顔でこちらを向いている。
黒で塗りつぶされた背景からは、なんとも禍々しい気配が流れ出して見えた。
「これは」
最後の頁で男の指が止まった。
先ほどの老婆の顔がそこにあった。が、その頁だけは背景が赤い。
こちらを指さし、大きく口を開けて笑う老婆の肖像が禍々しく描かれている。
微かな老婆の声が聞こえた。「――時が、満ちた」続いて、密かな笑い声。
ふふ、ふふっ、時間だよ、はじまるよ……。
「やめろ!」
男は手にした本を壁に向かって投げつけた。壁に当たって床に落ちた本がけたけたと笑い声を立てる。
男は銃を手に立ち上がった。
「い、一体なんだってんだ……畜生」
ずるずると何かが這いずるような音がする。男は視線を彷徨わせた。
びちゃ、と水音を立て、井戸の縁に青白い手が掛かる。続いて濡れた髪が
べったりと貼り付いた老婆の顔が現れた。
「ひゃああああ」
男は悲鳴を上げ、銃を撃ちはなった。
ばしゅ、ばしゅ、と弾が当たり、肉塊が弾けて飛び散った。だが、老婆は無表情に井戸を這い上がる。弾が切れた。
老婆の上半身が、井戸の縁に掛かった。ゆっくりと、前に進む。
「うわ、来るな……こいつめ、地獄に堕ちるがいい」
男は銃を手に井戸に近づいた。銃身で殴り落とすつもりだった。
死ね!銃を振り上げたそのとき、すうっ、と老婆の後ろから新しい白い顔が現れた。
真っ赤な唇がにいと弧を描く。
「……あ、な、た……迎えに来たわ」
男が殺した女だった。飛び退こうとする男の首へ細く長い腕がからみついた。
「ふふふ……ツカマエタ」
「や、やめろ」
「死ぬまで一緒だって言ったじゃない。うふふ……」
女の腕がじわじわと男の首に食い込み締め付け、井戸の中へと引きずり込む。
「嫌だ、放せ……頼む、許してくれ……いやだ」
男が暴れるのも関知せず、女は男と共に井戸の中へと沈んでゆく。
井戸の中からごぼごぼと水の泡立つような音が響いた。しん、と音が消える。
「やれやれ……よっこらせ、と」
老婆は何事もなかったように井戸から這い出て立ち上がると、本を拾った。
最終頁には黒い背景に囲まれた片目の男の肖像が見える。
「また頁が増えてしまった……」
閉ざされた部屋の中、老婆はため息をつくと再び元の隅へと戻っていった。

175 :創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 17:00:02 ID:EEP67svW
ばばあはスタンド使いだったのか

176 :創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 17:23:07 ID:xvmjcBSM
ばばあ最強か!
何も悪い事しない、ただの子供が道に迷って
このばばあに出会ったバージョンとか読んでみたいな。

177 :創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 18:31:01 ID:td8Rhzgb
怖くて最後まで読めなかった

178 :創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 20:20:36 ID:40uIPQFC
((((;゚д゚))) ガクガクブルブル

179 : ◆91wbDksrrE :2009/05/21(木) 21:43:15 ID:Fl+Eltw1
 閉ざされた部屋において、射程というのはさしたるアドバンテージ
にはならない。遮蔽物が多数あり、敵がそれを活かすだけの知恵を
持っている場合は尚更だ。
 猟師として生まれてこの方、銃の訓練だけは欠かしたことがなかった。
銃の腕前が生活に直結するのだから、それは当然の事だが……逆に
言えば、銃以外の得物については、さしたる訓練をしていないという事に
なる。この銃が……親父から受け継いだ年代物の、だが業物のライフル
が使い物にならない時にどうしたらいいか……そんな状況を想定した事
自体がなかった。
 森の獲物はあくまで獲物。こちらはあくまで狩る側であり、思わぬ
反撃を受けるような状況に陥る前に、狩る事を諦めてその場を離れる
事が可能だった。それが俺の日常だった。
 だからこそ、銃以外の得物に習熟しようなどという発想自体が、俺には
存在しなかった。その事が、今、ここにおいて致命的な状況を招いている
という事実について、一体誰に恨み言を言えばいいのか……。
 答えは出ている。過去の自分に、だ。
「ふぅ……」
 俺は弾む息を抑えようと、大きく息を吐き、そして吸う。
 匂いは、嗅ぎ慣れた森の緑に彩られたそれとは全く違う。どこか、錆びた
鉄のような匂いが充満している。
「……血の匂い、か」
 ここが室内である事くらいはわかる。かなりの広さを持つ部屋の中に、
遮蔽物として使える家具が、雑然と、まるでこの部屋がこういった戦いの
場になる事がわかっていたかのように不規則に並んでいる。
 実際、ここは戦いの……命のやり取りをする為の戦いの場なのだろう。
それはこの部屋に満ちる血の匂いが教えてくれる。……もっとも、
教えられた所で、俺にできる事と言えば――
「……っ!」
 ――引き金を引き、敵と思しき黒い影を捉える、その努力をする事くらいだ。
 視界の隅に写った黒い影めがけて銃身を向け、すぐ様引き金を引く。
だが、パァンという乾いた音は、いつも獲物をしとめた時の手応えを、俺に
返してくる事はない。外した、という事だ。
「……ちっ」
 遮蔽が多すぎる。敵らしき存在は、それを使って徐々にこちらに
距離を詰めて来ている。俺も距離を取ろうと逆に動くが、どうやら
こういった戦場での戦いには、敵の方がなれているらしく、僅かずつ
ではあるが、距離は詰まってきている。接近状態になってしまえば、
元来狙撃用であるこの銃では、戦いなれた相手を捉える事はできない
だろう。だが、俺には……この銃しか頼れる物は無い。
 じりじりと時間は過ぎていき、時間の経過と共に、少しずつ俺の
視界に写る黒い影が大きくなっていく。……近づかれている、という事だ。
 一体何故こんな事になってしまったのか。ここはどこなのか。どうして
俺は戦っているのか。それらの疑問に答えは出せない。
 それを知る為には――生き残らなければ、ならない。例え、絶望的であっても。
「こんな……こんなわけのわからない状況で……死ねるかよ……」
 その俺の声に、応える声が一つ。
「残念。貴方はここで死ぬの。名も無い猟師さん?」
「……っ!?」
 とっさに振り返った俺の目に映ったのは、つい先ほどまで、まだ
随分と離れた所にいたはずの、黒い影。
 いや、それは……黒いマントに身を包んだ……子供!?
「貴方の時間はこれで終わり。この閉ざされた部屋で、わけのわからない
 まま……死んでね、猟師さん?」
 白い光。黒い子供に一瞬それが被って見えたと思った次の瞬間、
俺の視界は赤に染まった。
 その子供が腰に携えた太刀を閃かせ、俺の身体を両断したのだと、
遂に俺は気づくことはなかった。気づく事なく、黒から白に変わり、そして
赤に染まった視界は、黒に閉ざされ……そして、永遠にそのままとなった。
「名前が無い時点で駄目なのよ……この世界では、ね」
                                         終わり

180 : ◆91wbDksrrE :2009/05/21(木) 21:43:32 ID:Fl+Eltw1
ここまで投下です。


181 :創る名無しに見る名無し:2009/05/22(金) 21:18:22 ID:85SbhYcq
別の場所でやった三題噺をここで公開したいんだけど趣旨に合わないかな?

182 :創る名無しに見る名無し:2009/05/22(金) 21:49:00 ID:mz/Nik3J
別にいいと思うよー。


183 :創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 08:38:02 ID:Vzh5/BNZ
>>180
意味がわからない

184 :猟師 時間 閉ざされた部屋:2009/05/23(土) 23:42:24 ID:9t4rtdOb
 化粧をしたねえさんはなんて醜いのだろう。
 いちろうは、みすぼらしい鏡台に向かう姉を眺めながらそう思った。
 おしろいをはたかれた姉の顔は、どこかぎこちなく、
もともとのつるりとした肌がその下で、息を凝らしているように見えた。
 ふと気がつくと鏡の中の姉が、こちらを見つめていた。
 つまって生えた形のよい濃い眉の下の、ひとの近づかない山間の沼を思わせる澄んだ眼が、
じっといちろうの面に視線を注いでいた。
 いちろうは磨いていた膝上の銃に眼をおとした。
「ねえちゃん、なんだい」
「何んでもねえ。ただ、おまえがおれのことあんまりじっと見てるから、おれも見返してやった。それだけだあ」
 姉は頬をふっくりと持ち上がらせ、眼をおかしそうに細めて、笑った。
「そんなに見てねえ。ねえちゃんの気のせいだ」
 いちろうは顔が赤くなるのが分かって、うつむいてごしごしと銃を磨いた。
「そうか。おれの、気のせいか……」
 姉はしばらく上半身を捻ってこちらを見ていたが、いちろうがそれ以上なにも言おうとしないので、
ふたたび鏡のなかの自分に向きなおった。
 薄い桃色をしたくちびるに人差し指が紅をさしていく。指についた、真っ赤な紅がいちろうの目に染みた。
 これはうその赤だ。
 穫ってきた獲物をさばく、姉のしろい手をつたう赤い血の色が、いちろうの閉じたまぶたの裏にまざまざと浮かんだ。
背籠をのぞきこみ、ああ、こんなに穫れた、とよろこぶ姉の、きらりとかがやくうつくしい眼がいちろうは好きだった。
身を寄せてくる、紺に絣のはいった着物をきた姉の身体からはほくほくとした土と陽ざしの、いい匂いがしていた……。


185 :猟師 時間 閉ざされた部屋:2009/05/23(土) 23:45:03 ID:9t4rtdOb
「さあ、出来た」
 姉のつぶやく声でいちろうは思いでからふつりと醒めた。
 目を開けると、身支度を終えた姉が立っていた。
「どうだ? いちろう。おれ、きれいか?」
 姉は袖を広げて、くるりといちろうの前でまわった。赤地に菊のもようが入った、
派手な着物の大きく抜かれた衿から、細い首筋が覗いていた。
(ああ……)
 いちろうは叫びたくなるのを堪えて言った。
「うん、きれいだ、ねえちゃん」
 いちろうの声の調子に、姉は目をそらせて哀しく笑い、それならいい、と呟いた。
「ねえちゃん、おれ、もう行くよ」
「もうか。早えな」
「うん。いい猟師になるには山をたくさん歩って、よく知っとくことだってお父がいってた」
「そう……。おまえも、きっとお父のようないい猟師になれる。熊には、気いつけろよ」
「うん」
「鈴、持ったか?」
「うん」
 いちろうの背中に姉の声が追いすがる。
 逃げるように外に出ると、強い風がびょうといちろうの耳を掠めた。
その風に首をすくめ、雑草が生い茂るなかにうっすらとついた細道を石をけりけり歩きだす。
いちろうがふと家のほうへ振り向くと、粗末なあばら屋の戸口に立つ姉が、赤い袖をゆらして手を振っていた。
「いちろう、いちろう! 時間になるまで帰ってくるなよ!」
 風がふきわたる野原に姉の声が物悲しくひびいた。

 鎌で草の首を刎ねながらいちろうは山を歩く。
(もう少し、おれが大きければ……)
 背籠に結い付けられた熊よけの鈴がりーんと鳴る。
その音はさっき野原で聞いた姉の澄んだ哀しい声によく似ていた。
そうだ、この鈴は姉が町で購ったのだ。お父は熊にやられたから。
 草を払う手が切れて、血赤の珠がぷくりと浮かんだ。
 昼なお暗い木立を踏み分けて、いちろうは山を奥へ奥へとすすんでいく。
手に持つ猟銃はいちろうには大きすぎて、ときおり邪険にいちろうをつまづかせる。
木の間を漂うひんやりとした空気が、汗で濡れた背中を冷やしていった。
 つぎつぎと過ぎ去っていく緑の視界の端に、なにかがちらりと光ったような気がしていちろうは足を止めた。
背丈ほどもある草むらをかき分けると、とつぜん、眩しいひかりに満ちた空が足下いちめんに広がった。
 それは、空の青を鏡のように映しこんでいる沼だった。
 沼はしいんと静まり返り、そのなかに、白鷺が一羽、片足を立てて留まっていた。
 (鷺が、こんなところに)
 白鷺の羽根はきわだって白く、空の青にも山の緑にも染まらず、心細げに水鏡に自分の姿をうつして佇んでいた。
 不意に薄暗いあばら屋でただひとり、姉がぽつりと座っている姿が思い浮かんだ。
 今ごろねえさんは何を考えているだろう。
 閉ざされた部屋で。おしろいの肌を蒼くして。
 いちろうはゆっくりと銃を構える。
 深いみどりに閉ざされた山のなかで、だーんと猟銃が鳴り響いた。


186 :創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 23:46:45 ID:9t4rtdOb


やっぱこの三題だとなんとなく暗くなるね。

187 :創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 01:19:39 ID:zCIk5uxx
誰か解説して

188 :創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 02:01:42 ID:rdUM3beN
この板には長くいるつもりだが初めてここを覗く……

>>185
読んだ、物悲しい感じがするよ
姉とこの猟師弟君の間には何か出来事があったんだろうなぁと思った

189 :創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 04:06:22 ID:vfJKhNqO
二人を育てていた父親が死んだから、今後二人が生きて行くためには金をかせがにゃならんのだろう。
嫁に行くのか風俗女になるのかは明記されてないからわからんが、
身綺麗にして「時間まで帰ってくるなよ」と釘を刺してるところを見ると、
これから自分の家で売春宿まがいの商売をやるのかもしれん。

純朴そうな姉さんのキャラやら情景描写の綺麗さやら、短いのに非常に良い作品です。
読めて良かった。

190 :創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 05:16:07 ID:p7zqDARb
こういうの好きだわ。
色彩が鮮やかに際だった描写だねぇ。

以下、深読み。

白鷺と沼は、それぞれ化粧した姉と、素顔の姉の比喩なのかな、と。
山奥の沼は、始めの方に出てきた姉の瞳の喩えから、澄んだ物の象徴の「はず」だった。
そこに留まっている白鷺。
弟も軽く驚いてるけど、白鷺は渓流より汽水域――綺麗な水の所よりも、汚れた水の場所を好むんだそうで。
汚れた場所に住む純白の鳥と、顔を白く塗った姉。
白い鳥が知らせる、見た目は綺麗な山奥の沼の、その水が汚れてしまったこと。
この辺を重ねてみたら、なんだか切なくなった。

そして、(化粧をした姉の比喩である)白鷺を撃つ弟。
彼が白鷺を仕留められたかは、読者の想像にゆだねられてる訳だけど、
これはつまり、白鷺を仕留める=姉の汚れた面を打ち消す
ことができるかどうかが、読者の想像にゆだねられてる訳で。

銃を持て余すほど猟師として未熟な弟なので、今は白鷺を仕留め損なうかもしれないけど、
いずれはいい猟師になれるだろうので、
将来的にはこの状況から姉を救い出せるだろう、というカタルシスを、個人的には期待したいねぇ。

191 :創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 08:26:37 ID:TeXPD1nU
うまいなあ。嫉妬!

192 :創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 16:03:42 ID:0XKCJCFI
なんか、文学って感じ。いいね。

193 :創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 19:22:18 ID:vfJKhNqO
>>190
汽水域って言葉は汚いところって意味じゃないぞ

194 :創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 19:49:03 ID:F1rcz+VW
これはいいなぁ
弟の内心の感情はぐるぐると渦巻いているのに、会話ではほとんど話さないのがまた物悲しい
文学っぽい構成、視覚的な描写、後を引く余韻、
上手くいえないがすごく好きだ

195 :テロメアとクロノスのワルツ ◆CkzHE.I5Z. :2009/05/25(月) 00:24:10 ID:xm8uycPI
 人が死を恐れていた時代、罪とは何だったのだろう?
 私は狭く閉ざされた部屋の中で、それを一人夢想する。

 人権擁護が叫ばれ、同時に不老・蘇生技術が実現したこの現代社会において、
およそ全ての罪はその重さと比較した長さの懲役刑によって赦されることとなった。
 例えば窃盗などの軽い罪なら数十年、殺しなどの重い罪なら数百年程度で刑期を
終える。殺しといっても、死後数日程度ならばほぼ完全な蘇生が可能な時代である。
おまけに街の至るところに生体管理ネットが張り巡らされている以上、そもそも人殺し
など不可能事なのだ。人類の不老化以前では人間の一生の殆どと言ってよい程の、
それは長い刑期であったが、時間感覚の崩壊した現代においてそのような尺度は
さして意味を持たないだろう。
 死刑制度はとっくの昔に条文から抹消されていた。高度化した計算機はおよそ
ありえる全ての犯罪をシミュレートし、出来うる限りの犯罪抑制とセキュリティの強化を
図ると同時に、それぞれに経済指標から算出された刑期が割り当てられている。
倫理は数値化され、もはや罪は経済損失と等価となってしまった。
 だから、もしかしたら。
 私が怨恨から人を━━してしまったのも、そんな経済的打算によるものだったのかも
しれない。


 人が死を恐れていた時代、時間とは何だったのだろう?
 私は狭く閉ざされた部屋の中で、それを一人夢想する。

 かつてそれは最高の弁護士であり、同時に確定的な死への執行者でもあったという。
それは現代においてもほぼ同じで、不老技術の精度はかなり高くなったとはいえ、
未だに完全足り得ない。テロメアの制御と遺伝子情報の保持に関する技術革新が、
万物に遍く存在する物理的な劣化にわずか追いついただけで。
 誰も時間からは逃れられないのだ。
 全てのものは移ろい行く。だから私の罪も、澱固まっていたそれをほんの少し加速
させただけに過ぎない。
 今でもありありと思い出せるあの瞬間。
 苦しそうに悶え表情を引き攣らせていた、あの━━のことを考えて、
 私は小さく笑った。


 人が死を恐れていた時代、人の繋がりとは何だったのだろう?
 私は狭く閉ざされた部屋の中で、それを一人夢想する。

 だが私にとってのそれは怨嗟の一言に尽きる。あらゆる意味で人の殺せない現代
でさえ、私には数百年の懲役につり合うだけの価値が、あの━━にはあったのだ。
私が━━を、完全に━━せていたのかはわからない。この独房には事件や被害者に
関する情報は一切入ってこないからだ。念入りに━━した。二度と生き返らぬよう、
━━してやった。だが或いは、それでも現代なら蘇生が出来るのかもしれない。
技術というものは時に醜悪なまでの進歩と発展をみせるものだ。
 だが私は━━が生きていても別に構わないと思っている。いや寧ろ、生きていて
欲しいとまで願っている。
 そして恐れて欲しい。お前を━━してやりたいと思っている人間がどこかにいるかも
知れないことを、そしてそれはまだ、ここに一人いるのだということを、どうか恐れて欲しい。
 次は、もっと残虐に━━してやる!


196 :テロメアとクロノスのワルツ ◆CkzHE.I5Z. :2009/05/25(月) 00:25:31 ID:xm8uycPI

 人が死を恐れていた時代、死とは何だったのだろう?
 私は狭く閉ざされた部屋の中で、それを一人夢想する。

 いや、そんな問いは意味がない。恐れていた、そうに決まっているではないか。
 どこにも辿り着けない終わりは、閉ざされた部屋のように何もない世界はただ恐ろしい
ものだ。前提と答えとが一致した、それは暇つぶしにもならない自問自答だった。
 だがこの問いは、それを問いかける相手を変えることで意味を持つ。即ち、
 『人が死を”恐れなくなった”時代、死とは何なのか?』。
 死はどこへ行ったのだろう?
 人々は死をどう捉えているのだろう?
 そしてあの━━は、私を本当に恐れているのだろうか?


 人が死を恐れていた時代……いや、私はもうこの問いに意義を見出せなくなっていた。
 私にわかるのは、数百年という時間は人にとって永遠にも等しかったということだけだ。
確かに不老技術は高精度を持っていた。私はこの部屋でその刑期の何割かを、人間の
一生を何度も積み重ねる程の時を過ごした。”その筈だった”。
 だが、そんな日々の殆どを思い出せない。永遠の寿命を持っていたとして、人は忘れる
生き物だ。人間の脳は、元より何人分もの記憶を保持するようには出来ていない。それは
手に掬った水が零れるが如く、少しずつそしてあっけなく失われていった。
 ならば、あの━━はどうなのか?
 私が憎み、そして━━した筈のあの━━は?
 だが今では、その━━の顔や名前すら思い出せなくなっている。
 向ける矛先を失った怨嗟も徐々に薄れて、今では霧を掴むように不確かだ。かつて私は
何を怨んでいたのだろう?
 いや。
 そもそも私は、━━をどうしたのだろうか? 殺したのか? それほどまでの残酷な行動に
突き動かされるほどの怨みが、この私の中にあったのか?
 一体私は、何の罪で数百年もこの閉ざされた部屋に入れられているのだろう。

 どれほどの時間が流れたのだろう。いつしか私は恐怖していた。
 時間の流れは弁護士でも、ましてや死の執行者でもなかった。それに私は気づいたのだ。
 それは息を潜めてこちらの体力を奪いながら徐々に近づき、最後には獲物を確実に
仕留める、いわば冷徹にして冷酷なる猟師のようなものだったのである。

 私はいつまで狙われ続ける?
 私の刑期はあとどのくらいなのか?
 私はいつ赦される?

 私は逃げられない。
 閉ざされた部屋の中、私は小さく震える膝を抱えた。

   ―了―

197 :創る名無しに見る名無し:2009/05/25(月) 00:26:58 ID:xm8uycPI
投下終了。使用お題 『猟師』『時間』『閉ざされた部屋』
自称SFです

198 :創る名無しに見る名無し:2009/05/25(月) 00:47:54 ID:varcQoFf
繰り返しが不思議な感覚をつくっているね。
3題がきちんと消化されてるし面白い。
そして伏せ字が気になるぜ。

199 :勝手に続き考えてみた:2009/05/25(月) 02:48:16 ID:hN1quJuW
『時間の流れは弁護士でも、ましてや死の執行者でもなかった。それに私は気づいたのだ。』
『それは息を潜めてこちらの体力を奪いながら徐々に近づき、最後には獲物を確実に仕留める、
いわば冷徹にして冷酷なる猟師のようなものだったのである。』
獄衆の女の思考が文になってディスプレイを走る。
弁護士は傍観室から女の“経過具合”を観察し、ご機嫌でコンソールを弾いた。
女の状態を記すためのカルテウインドウに文字が付される。
『摩滅率上昇。経過順調』
弁護士は看守に一礼の後、預けていた携帯や鞄を受け取って、刑務所を出た。
昼下がりのじりじりした熱が弁護士の気を弛ませにかかるも、
体表温調節機の付いた最新式スーツに“北風と太陽”の童話を彷彿させる情緒は備わっていなかった。
弁護士はタクシーを拾うと、獄衆の女の実家へ向かった。

身分証を提示すると門扉が自動で開き、弁護士は客間に招き入れられた。
弁護士は獄衆の女の母親に、娘の経過を説明した。
「お嬢さんの経過は良好です。あと百年ほどで、更生なさるでしょう」
母親は、あまり喜ぶでもなく、目を伏せたまま説明を聞いた。
「彼女の罪はとても重いものです。課せられた罰は最高経過刑、デトリタス無濾過処置。
細胞はテロメアが無くなる前に、損傷を受けて自ら死ぬことがあります。
アポトーシスと言うんですが、それが起こると細胞は二つの酵素を分泌します。
ひとつは細胞骨格を砕き、ひとつは核内の塩基配列を切り刻みます。
アポトーシスは“木の葉”と“散る”を合わせた言葉なんですが、細胞は死ぬと“木の葉”を残して逝きます。
死んだ細胞は小さな小泡状に分かれ、遺伝子の細片を包んだままアポトーシス小包と言うものになります。
それが生物由来のタンパク質片、デトリタス。
アポトーシス小包は傷ついた遺伝子の細片を内包していますから、
もし組織内にそれが漏れれば自己免疫の働きで身体を内側から破壊してしまいます。」
弁護士は一旦言葉を切って茶を含み、口を湿らせた。
「お嬢さんが出所する頃には、除去仕切れないほどのデトリタスが体内に蓄積して、
もうあんな事はしないし出来ないでしょう。」
「いい気味だわ。」
母親は歯を食いしばって、怒りを隠さない。
「あの娘のせいで私の遺伝情報は危険指定されてしまった。もう新たに子を設けることさえできない。」
母親は吐き捨てるように言う。
「あの娘のやったのは、まるで獣のやることよ。」
弁護士は答えた。
「その通りです。
Y染色体の減耗は性の分化から始まり、また死が設定されたのも、性の分化と同時。
Y染色体に含まれるSRYが雌性に胎盤の生成を促し、Y染色体に精子を作り出す設計図が記されているのです。
分化した性を持つ生物は死が設定されていて、それによって遺伝子の異常の蓄積を個体ごとリセットする。
でも人類は死の大部分を乗り越えてしまった。
だから、死によって淘汰されていた不安定な可能性が残存し、性のシステム自体が消えかけている。
彼女の行動はその不安定な可能性の助長に他ならないのです。」
獄衆の女が犯した大罪とは“恋愛”と“懐妊”であった。
Y染色体の保有数が人類規模で見ても5パーセントほどしか無い現在において、
それは人類消滅の引き金になり兼ねない大罪中の大罪である。
もし変異の結果にY染色体を必要としない処女懐妊の種でも生まれようものなら、有性種の存在は否定されてしまうのだ。
弁護士は微笑む。
「安心してください。記憶の寿命が来ていますから、じき、誰と何をしたのかさえ忘れてしまうでしょう」
閉ざされた独房で、獄衆の女は白痴へと完成されてゆく。


終わり

200 :創る名無しに見る名無し:2009/05/25(月) 12:37:17 ID:xm8uycPI
すげぇ続き作られてるwwめっちゃ嬉しいwww

201 :創る名無しに見る名無し:2009/05/25(月) 13:05:35 ID:xm8uycPI
自演乙と言われそうだがこれは良いSF。こういう発展の仕方もあったか
やってくれた喃wwやってくれた喃www

202 :創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 22:20:23 ID:zgd1i300
クレないか?

203 :創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 22:54:12 ID:KerstN6C
宝の地図

204 :創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 23:00:15 ID:TpzxCorH
水虫

205 :創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 23:09:45 ID:vTLQu47T
月光仮面

206 :>>199勝手に続きの続き考えてみた:2009/05/26(火) 23:34:27 ID:wZKZP3Ly


 人が死を失った時代、人は何を恐れて生きて行くのだろう?
 私は狭く閉ざされた部屋の中で、それを一人夢想する。
 
 不確実性の喪失とは、即ち獲得することの損失だ。
 人が失ったのは死だけではない。
 人が人として当たり前に生きる権利をも、時代は奪ったのだ。
 発達途上の胎児の脳へと、微小な情報集積細胞を埋め込む技術によって。
 細胞分裂の活発な胎児の内に、人為的に社会知識を脳にインストールさせる、
あの忌まわしき技術によって。
 限られた時間だけを与えられた微少の命が、遥か永遠への跳躍を獲得するためには、
それは確かに必要なステップだったのだろう。
 だがそれこそが終りの始まりだったと、私は思う。
 失うことをも失ったその行く先は、もはや何を得ることもない閉ざされた部屋だ。
 人類の歴史が、それが発展と信じて追い求め続けてきたものは、ただの終焉に過ぎなかった。
 全てが遠い。
 閉じた目蓋の外側の世界。軽く握った手指の末端にまで、温もりと安定がある。
 しかし私にはもう、失うものすら残されていない。
 教えて欲しい、━━。私は一体、何を獲得すれば良い?
 どうして、わたしは……。
 …………。


 ━━。


 これがおわり。
 やがてさいごに。
 さいごのさいごに。
 わたしは。
 わたしがこのてでころした、もうひとりのわたしをおもいだせた。
 このせかいでたったひとりの、わたしのふたごのきょうだい。
 どうしてあのとき、このてはのびてしまったのだろう。
 どうしてわたしは、だいじなひとをころしてしまったのだろう。
 もしうまれていたら、きっとわたしたちふたりにはなまえがあって。
 そして、ふたりでいっしょに。
 ああ、いっしょにうまれたかったな。
 ごめんなさい、おかあさん。


  ―了―

207 :創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 23:35:37 ID:wZKZP3Ly
今回のお題もまた凄いなww

208 :創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 00:50:51 ID:2JHfoXRZ
月光仮面って何だよカス

209 :創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 03:21:04 ID:mOZ7ytMI
それはググれカス
一般的なお題だと思うよ俺は

210 :創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 17:09:44 ID:2JHfoXRZ
ジジイとババアしか知らねーだろカス

211 : ◆91wbDksrrE :2009/05/28(木) 17:15:36 ID:ecVRIpfW
「月光仮面って知ってる?」
「……なにそれ」
「いや、俺もよく知らないんだけど」
 彼はPCの画面を見つめながら、うんうんと首を捻っている。
「ぐぐればいいじゃん」
「何かこう、イマジネーションっての? そういうのが膨らみそうな気配が
 そこはかとなく漂っててさ。すぐに答え知ったら膨らまないだろ?」
「そんなもんかねぇ」
 私は、水虫の薬を塗りながら生返事。彼も別にそれに気を悪くする事もなく、
再びPCの画面を前に首を捻り始める。
「月光仮面……月光仮面ねえ」
「……なんでまた月光仮面なの?」
 正直、だんだん気になってきた。
 薬を塗り終わり、乾いたのを見計らって、私は立ち上がって画面を覗き込んだ。
「なんか、お題が出ててさ」
「ああ、例のアレね」
 彼はネットのサイトで、趣味で創作をしている。専ら文章専門で、よく絵を
描ける人をうらやんだりしてたけど、そういうのを全然しない私にはよくわからない。
「何々……宝の地図、水虫、月光仮面……なにこれ?」
「今回のお題」
 ……カオスだなー。お題って事は、これをテーマにして小説なりを書かなきゃ
いけないって事なんだろうけど、どうやってまとめるんだか。
「月光仮面もだけど……宝の地図ってのも難しそうね」
「そうだなぁ。そっちにもイマジネーションがかきたてられる」
「宝の地図で見つけたお宝が、月光浴びて輝く仮面だった、とか?」
「お、なんか綺麗だな」
「でも、その仮面をつけたら一生水虫になる呪いが」
「……台無しだな」
「へーんだ、あんたもちょっとは水虫のつらさを味わえばいいのよーだ」
 まったく、父親から伝染されて以来うん年間、毎年痒みに苦しんでいる私の
気持ちを、少しはそのイマジネーションとやらで想像してみて欲しいもんです。
 ……でもまあ、水虫の連れ合いってのも、それはそれで嫌だな。
「……うーむ、複雑な乙女心が揺れている」
「何にだよ……」
 苦笑いする彼の顔の真横に、肩に顎乗せて陣取ると、横目に少しだけ
彼の顔が赤くなるのが見えた。
「で、どうするの? なんかできそう?」
「……まあ、水虫さえどうにかできたら、ね」
「どうにもできないよー。水虫は根が深いからさー」
「経験者は語る?」
「いえぃす」
 そんな軽口をたたきながら、私は両手を彼の肩に回してぎゅっと抱きしめる。
「そろそろ、気分転換したら? そしたら、もっとイマジネーションが広がるかも、よ?」
「……胸当たってるんだけど」
「ここはお約束として『当ててるのよ』って答えないといけないかな?」
 彼の顔はどんどん赤くなってきていて、そのいつもと変わらない初心な反応に、
私の顔からはニヤニヤとした笑みが消えない。
「ほら、月、満月だし」
「……何か関係が?」
「月光は、女の子の仮面を剥ぎ取っちゃうんだよ? 知らない?」
「ったく……女の子って歳でもないウボァー!?」
「お約束にはお約束で返すのも、時と場合によるんだよ? わかった?」
「わかりまじだ……だからボディーはやめて……」
 まったく、こんな雰囲気にしようって時に、デリカシーないなー。
 でも、そこまでして誤魔化したいんだと思うと、俄然燃えてくるのが乙女心!
「じゃあ……気分転換、しよ?」
「ああ……そのまま寝るフラグが立った……」
「何言ってるの? 寝させてなんかあ・げ・な・い♪」
 電気を消すと、月の光が部屋の中を照らし始める。
 ベッドに押し倒されながら月光を浴び、私は身体の中で鼓動が響くのを感じた――

212 : ◆91wbDksrrE :2009/05/28(木) 17:15:47 ID:ecVRIpfW
ここまで投下です。

213 :創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 18:53:19 ID:RjRJ73pO
やべぇ、水虫萌えるw

214 :創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 21:29:33 ID:g1JuSfFP
そのうち水虫伝染りそうなw

215 :創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 22:20:31 ID:gGBV2PJV
いいなあ。巧いな

でもこれは間違いなくもううつってるだろ

216 :創る名無しに見る名無し:2009/05/29(金) 01:08:52 ID:3574LuV5
最初はメタ的な話で始まってこんなニヤニヤに持ってくるとは
水虫、伝染ってるよなw

217 :創る名無しに見る名無し:2009/06/01(月) 23:25:03 ID:gu4Wl50Z
お題出してもOK?

出してもいいなら
「空気が落ちない理由」

218 :創る名無しに見る名無し:2009/06/02(火) 00:37:49 ID:i6HQnVYW
「赤い」

219 :創る名無しに見る名無し:2009/06/02(火) 02:38:25 ID:6Ik+bYED
「重力」

220 :創る名無しに見る名無し:2009/06/02(火) 03:41:29 ID:6Ik+bYED
「空気が落ちない理由を考えたことがあるか。」
「無い。少なくとも今生では。」
「よろしい。ではまず言葉を定義しよう。空気は地球にしかない。
余所で空気と同じ配合に窒素や酸素や二酸化炭素を混ぜても、それはオリジナルの空気ではなく、
オリジナルを真似た別物。」
「ふむ。」
「次に、落ちない、という言葉。
落ちると言う言葉の本来の意味は、上から下に物体が移動することをいう。
だから今の場合の、落ちる、は、重力に引かれて位置エネルギーを失うこと、としよう。」
「私は腹が減ったからスパゲティを茹でる。」
「よろしい。麺をα化すべく高温で茹ながら聞いてくれ。」
「うん。」
「地上は既に空気で満ちており、現に我々に数百粁に及ぶ大気圧をかけている。
君が慎ましやかな胸にも関わらず患っている肩凝りは、君の胸が豊かであろうと無かろうと、
半ば大気圧によって起こされていると言っても過言では無いのだ。」
「痩せっぽちは嫌いかい。」
「とんでもない。現代に於いての痩身体躯は美の象徴として持てはやされている。
自己を律し秩序立てて生み出した君の身体はまさしく芸術品であり、
それを自らの同棲人として語れる俺は大いに鼻が高い。」
「照れる。」
「照れる姿も大変魅力的ではあるが、考察の続きを進めさせてもらおう。
空気が落ちない理由、を考えているわけだが、
空気は地球の質量が持つ引力によって落ちるところまで落ち切っている、と考える事ができる。
また、今は地球に向かって落ちているから位置エネルギーが0、と言う事ができるが、
落ちる先が変われば、また落下運動が始まる」
「ソース、何にしようか。ミートと、カルボナーラがある。」
「カルボナーラが好ましい。」
「私はミート食べたい。ミートにする。」
「そうか。で、だ。
落下先が変わる、と言う事はつまり、太陽が重力崩壊したような場合が考えられる。
当然そうなれば生まれるのはブラックホールであり、ブラックホールが事象の地平と呼ばれるように、
それに吸い込まれれば物体は質量の50%程度の摩擦エネルギーを発散させながら螺旋状に落下しながら蒸発する。
空気が最終的に落下する先は宇宙の陥穽とでもいうべきブラックホールの渦の途中ということになるな。」
「はい。」
「む、カルボナーラだ。」
「やっぱり、あなたに合わせた。」
「申し訳ない。えっと、どこまで話したかな。」
「ブラックホール。」
「ああ、ありがとう、思い出した。
空気が落ちるのは地球が質量によって押し退けたヒックス粒子の色相勾配によって起こる重力の働きであって、
空気が落ちない事自体に意味があるわけではない。
君は何をしているんだい。」
「タバスコを掛けている。スパゲティに。」
「真っ赤じゃあないか。」
「辛いのが好きだからね。食べてみるかい。んっ。」
「何故スパゲティを口に含んでキスを迫るように口を尖らせるのか。」
「食べさせてあげようと思って。」
「君は身体は痩せているが、引力は相当なものがあるようだな。」
「……誘ってんだからノれよ。馬鹿。」



221 :創る名無しに見る名無し:2009/06/02(火) 22:21:26 ID:i6HQnVYW


ここからいつナポリタンの赤方偏移の話になるのかと思って
期待していたんだけどそういう話ではないんだな

222 :創る名無しに見る名無し:2009/06/02(火) 23:12:37 ID:ZzhZxakZ
>>220
淡々とした可愛さがいいねw

223 : ◆91wbDksrrE :2009/06/02(火) 23:13:24 ID:ZzhZxakZ
「空気ってなんで落ちないの?」
「は?」
「空気って、ここにあるでしょ? なんで地球の重力に引っ張られて、地面に
 ぺしゃってならずに、ずっと上の方まであるの?」
 突然、クラスが同じで席が隣で家も隣で、たまに僕を朝起こしに来たり
する事もあったりする上に、何かと両親同士仲が良かったりする存在が、
僕にそんな事を尋ねてきた。ちなみに、その存在は川上奈緒と呼称されているが、
僕は他人に倣う事をせず、なーちゃんと呼ぶ事にしている。
「……なんでまた突然そんな事を?」
「いや、なんとなく気になっただけ」
 その存在は、いつも理論的ではない事を言い出して僕を困らせる。
僕は人は総じて理論的であるべしという信念の下、自ら理論的であろうと
心がけているのだが、クラスが同じで席が隣で家も隣で、たまに僕を朝起こしに
来たりする事もあったりする上に、両親同士が何かと仲が良かったりする存在である
なーちゃんがいつも僕の傍にいるせいで、なかなかにままならない。
 彼女が何かする時、大抵はその理由は『何となく』だ。まったくもって理論的じゃない。
でも、そんな理論的じゃない彼女の言動をどうしても無視できず、なんだかんだと
言いながら付き合ってしまう僕の行動も、同様に論理的ではない。
 しかしながら、僕は論理的であろうと心がけている人間であり、そういった
心がけを持たないなーちゃんとはその点で大きく異なる。つまり、論理的に
考えれば、僕が彼女に付き合ってしまうという論理的ではない行動を取ってしまう事
には、何か今はまだ気づいていないだけで、論理的な理由があるはずなのだ。
 ちなみに、小学校五年生の頃にそんな風に考えるようになってから早数年、
未だにその理由が見出せそうな気配は無い。

224 : ◆91wbDksrrE :2009/06/02(火) 23:13:32 ID:ZzhZxakZ
「えっとね……空気って、ものすごい空の上に行ったら薄くなるって、知ってる?」
「そうだね、山の上とか行くと息しづらいんでしょ?」
「そう。気圧が低くなる、って言うけど、それはつまり空気が薄くなってるって事だ」
「それが?」
「上の方に行って、重力の影響が小さくなったら薄くなる。つまり、逆に考えると、
 重力の影響が大きい地表面においては、空気は濃いという事になる」
「……よくわかんない」
「……なーちゃんにもわかるように言うとね、もう既に僕らがいる、この地面
 辺りの空気は、ぺしゃってなって、ぎゅっと濃縮されてるの。もう落ちてるんだよ」
「……あー」
「机から消しゴム落としても、地面に当たったら止まるでしょ? 空気も、地面に
 当たって、もう止まってるんだよ。落ちてるの。わかる?」
「……あー」
「……わかってないでしょ?」
「ん? いや、なんとなくはわかったよ、なんとなくは」
 また出た。『なんとなく』だ。わかったのかわかっていないのか……わかったなら
別に問題は無いけど、わかってないならわかってない所をちゃんと言って欲しい。
でないと……その、落ち着かない。
「要するに、落ちないんじゃなくて、もう落ちてるから落ちれないんでしょ?」
「……まあ、大雑把に言うとそうだね」
「なるほどー。やっぱりよーくんは頭がいいね!」
「っ……!」
 こういう所も調子が狂うポイントの一つだ。この屈託の無い笑顔と、素直な
賞賛。ずっと昔から、彼女はこんな調子で僕の事を褒める。その度に、僕は
赤くなった頬を隠すように、顔を背ける羽目になる。
「あれ? また怒っちゃった? よーくん、なんでいつも褒めたら怒るのー?
 そんな赤い顔して怒らなくてもいいじゃんかー」
 結果、彼女に誤解させてしまう。いつもの光景だ。その誤解を解こうにも、
高鳴る心臓が邪魔をして、上手く言葉を発する事ができず、僕はそっぽを
向き続けるしかない。彼女はそんな僕を見て、不満そうに頬を膨らませる。
まったくもって、これ以上無いくらいにいつもの光景だ……。
 自分の状況を端的に説明できず、他人に誤解を抱かせてしまうなんて、
非論理的甚だしい! そんな自分に対する怒りを抱きつつも、上手く言葉は
口を吐かない。
 ……まったく、論理的であろうとする事は、こんなにも難しい事なのか。
「まあいいや。ありがと。またわかんない事あったら教えてねー」
 あっけらかんとした口調と顔で、彼女は僕に手を振り去っていく。
 これもまた、いつもの光景だ。
「……まったく」
 彼女が去った後、僕の顔にはいつも笑みが浮かぶ。諦観のようでいて、
嬉しさも含んだ、よくわからない笑みだ。自分でも、自分がどうしてそんな風に
笑うのか、さっぱりわからない。
 本当に、論理的であろうとする事は難しい。その為には、様々な不明を
解消していかなくてはいけないのだから。
 さしあたっては、クラスが同じで席が隣で家も隣で、たまに僕を朝起こしに
来たりする事もあったりする上に、両親同士が何かと仲が良かったりする存在に
ついて、僕がどうしてこんな反応をしなくてはならないのか――といった辺りが
研究課題だろうか。
 随分と、困難な研究になりそうだ。

                                         終わ

225 : ◆91wbDksrrE :2009/06/02(火) 23:13:51 ID:ZzhZxakZ


ここまで投下です。コピペミスった。

226 :創る名無しに見る名無し:2009/06/02(火) 23:21:04 ID:H2hrpKiF
ttp://www.wako.ac.jp/hattatsu/dessay.htm

元ネタはこいつか?
>空気に含まれる分子だって重さはあるはずなのに、空気はなぜつもらないのか? けっこう不思議なことに感じないだろうか?
>もし、「たしかに、リンゴが落ちるのなら、空気の分子だって落ちて地表につもったっていいよな」という疑問を感じ、
>なぜつもらないかを知りたい、と意欲がもてる学生なら、読む価値はある。

227 :宝の地図・水虫・月光仮面:2009/06/07(日) 18:32:16 ID:fRO0p8mY
いっこ前のお題で。

先月、父が死んだ。
私が家をとびだしてから10年、会っていなかった。
「ヤスさんにこんな立派な娘さんがいたとはねえ……」
「立派だなんて、そんな……」
以来、音信不通だった父のひさしぶりの消息は、その死を知らせるものだった。
父が死んだのは聞いたこともない小さな町だった。
既に母も亡く、たったひとりの身内だった私が去ってから、
父はこの町に移り住み、ひとりで暮らしていたそうだ。
「娘さんがいるって知らなかったもんだから、こっちで荼毘に付させてもらったんだけど……」
父の仕事仲間の一人に住まいを案内してもらった。
葬儀は既に終わり、あの大きく、厳つい父は
拍子抜けするほど小さな白木の箱に収まっていた。
「いえ、ありがとうございます。坂田さん。
 本来でしたら娘の私がするべきことでした……申し訳ありません」
「いやいや、でもこうして娘さんが来てくれたんだ、ヤスさんも喜んでるよ」
「……そうですね」
「ほら、あの、アパートだよ」
父の晩年の住まいは、今時こんなところに人が住めるのか、
というほど古びた木造アパートだった。
「ここですか……」
「そう。ここの202号室」
カンカンカンと乾いた音をたてて、錆び付いた鉄製の階段をのぼる。
202号室。
安っぽい合板の扉に取り付けられたカマボコの板に、
「安原」と父の癖のある太いマジックの文字が滲んでいた。
「ヤスさんとはね、よく呑んだよ」
坂田さんが小さな鍵をポケットから取り出した。
「でも、娘さんがいるって一度も言わなかったなあ……」
鍵穴に鍵がさしこまれ、かちゃりと音を立てた。
「不肖の娘でしたから」
「あっごめんね、そういうつもりじゃないんだ。ただ……言わなかったんだってこと」
「ええ……はい」
ドアが軋んで開け放たれると、背後から西日が差し込み、
私と坂田さんの影が長くひきのばされて、主のいない部屋に投げ出された。
中は薄緑のカーテンが引かれていて、たんすなどの大きな家具を残している他は
すっきりと片付いている。かつてそこに暮らしていた人間の匂いは限りなく薄かった。
「片付けとかは、こっちでやらせてもらったよ。
 身の回りのものとか、手紙とか大事そうな物はそこの段ボールに入ってる。
 勝手に選り分けちゃって悪かったけど」
「何から何まで本当に、ありがとうございます。ご迷惑、おかけしました」
「やあ、迷惑なんかじゃ……終わったら鍵かけて、また事務所の方に来てな」
「はい、ありがとうございます」


228 :宝の地図・水虫・月光仮面:2009/06/07(日) 18:36:05 ID:fRO0p8mY
ぱたん、と扉が閉まると急にひっそりとした気配が私を取り巻いた。
目を閉じて、鼻から空気を吸い込んでみる。ほんのかすかに煙草の匂いがした。
ひさしぶりだね、お父さん。
私は部屋の真ん中にぺたりとすわり込み、薄緑色のほの暗さの中にたゆたった。
10年の間に、たった10年の間に消えてしまうものもあるんだ。
私が家を出たあの日から、私と父は別々に切り離された道を歩んだ。
一緒に過ごしたあのころ、誰よりも身近な存在だった父が、
私の知らない所で暮らして、死んだことを考えると、
誰か別の人間の事のような気がしてくる。
父とは誰のことだっただろう?
ぼんやりと視線をさまよわせていると、部屋のすみに置かれた段ボール箱が目に入った。
私は畳の上をいざって箱に近づいた。
箱は二つあった。
一つ目には衣類が入っており、そのほとんどが私の見覚えのないものばかりだった。
折り重なった衣類をめくっていると変なものが出てきた。
「なんだこれ」
それは白い綿の靴下だったが、奇妙なことに先が5本に分かれている。
そういえば、お父さん、水虫だった。
あたしの洗濯物にお父さんの靴下入れないでよ、汚いからって怒ったら、
汚いとは何事だって逆に怒られたっけ。
水虫、治らなかったんだね。お父さん。
ごめんね。ほんと、ごめんなさい。
なんにもできずに。なにひとつ返すこともできずに……。
「ごめんね、お父さん……」
誰ひとり聞くもののいないつぶやきが、薄暗い天井に溶けて消えていった。

もうひとつの箱を開けてみる。
眼鏡やライター、髭剃りなど身の回りの細々としたものの他に、
一冊の分厚いアルバムが入っていた。
手に取って開いてみると、年代順にきっちりと写真が整理されて貼られていた。
家を出る直前に撮った振り袖すがたの私。
赤ちゃんの私を抱いている母の写真。
結婚式で羽織袴を着て、緊張した面持ちの若い父。
アルバムは時を遡り、写真の中の父は今の私よりも若くなっていく。
お父さんにも、こんな時があったんだね。
カラー写真が白黒になり、セピア色がかかってきている写真のなかに
見たことのあるような顔があるのに気付いた。
そこに写っているのは幼いころの父だが、誰かに似ている……。
誰だろう。思い出そうとしきりにページを繰っていると、
一枚の写真に目が留まった。
その父はおそらく10歳くらいだろうか。
すり切れたセーターに下駄履きで、なぜか顔と頭に布をまきつけ、
おもちゃのサングラスをして、水鉄砲を構えている。
表情はよくわからないが、幼い父が悦に入っているのがよくわかる。
あ、これ。
父の満足そうな声が頭の中に蘇った。
”月光仮面だ”
手元のアルバムから一枚の古びた紙がカサリとすべり落ちた。
表にはへたくそな落書き。そして裏にはオレンジ色のクレヨンで
大きく「たからのちず」と書かれている。
その瞬間、私は、かつて私たちが身を寄せて暮らしていた家の四畳半に満ちた、
おひさまのまぶしく、あたたかい光のなかに引き戻された。


229 :宝の地図・水虫・月光仮面:2009/06/07(日) 18:39:33 ID:fRO0p8mY
おとうさぁん、つまんないよう。遊んでー
んん? つまんないんだったら、自分でつまらせるんだ、えいこ。
おとうさんのいじわるー、遊んでよー
しようがねえなあ……なにして遊ぶ?
おえかきしよ!
うーん、絵かあ。お父さん、一つしか描けないぞ
いいから描いて!
えーと、こうだったかな。できた。
なーにこれ?
月光仮面だ。カッコイイだろ? お父さんのなあ、ヒーローだったんだぞ。
……ふうーん……。
……えいこの、それはなんだ。お人形さんか。
お姫さま。お城にすんでんの!
へーっ、目がでかいなあ。落ちそうだ。
もーっ! いいの! お姫さまなの! お父さんのわからんちん!
……………。
……………。
おい、えいこ。
なに。
面白いことをしよう。
なあに?
宝の地図をつくるんだ
たから? ちず?
そう、俺が宝をかくして地図を描くから、えいこがそれを見つけるんだ。
たからものってなに? おとうさん!
それは、見つけるまでのお楽しみだ。
うふーっ! たのしみ! おとうさんおとうさん、はやく描いてえ!
まあまあ、待て。すぐに見つけたらおもしろくないからな、地図も隠しておく。
ええーっ
なに、地図のありかはすぐに分かるだろうよ。ヒントは俺が大事にしてるもの、だ。

「大事にしてるもの……」
沈んでいく太陽の今日最後のいちばん眩しい陽射しが、
玄関の上の明かり取りのまどから差し込んで、部屋じゅうをオレンジ色に染めた。
私は背中にそのあたたかい光を感じながら、古ぼけたアルバムを抱きしめた。


230 :宝の地図・水虫・月光仮面:2009/06/07(日) 18:41:17 ID:fRO0p8mY
郊外へと向かう列車は人もまばらで、
たたん、たたんと身体を揺らす単調なリズムが気持ちいい。
「たからは ここにかくした。このちずをみつけたら
 えいこがかならず さがすこと。げっこうかめんより。なに、これ?」
「宝の地図よ」
「ええー? 宝? ほんとに宝が埋まってるの!?」
「たぶんね。今からそれを見つけにいくのよ」
「ほんとー? すっげー!」
「こら、はしゃがない。電車の中では静かにね」
電車に乗っての遠出と宝の地図の相乗効果で
興奮するゆうすけをたしなめて、私はふと車窓に目を向けた。
「あ、ほら、ゆうすけ」
私が指差したさきの木々の間から紺碧の水平線がちらりとのぞいた。
「海がみえるよ」
「え? どこ、どこ?」
ぐんぐんと過ぎ去っていく景色の中に海を見つけ出そうと、ゆうすけは窓にへばりついた。
「もうすぐだよ」
背中を手で支えてやりながらささやく。手の下で心臓がトコトコと打つのが伝わって来た。
3、2、1。
心の中の秒読みにあわせたように、それまで緑一色だった視界が、いきなりさっと開けた。
現れたのはどこまでもどこまでも青い海。
刷毛ではいたような薄い水色の空の下、穏やかに立つ波頭がときおりちかちかと反射する。
その光がゆうすけの大きく見開かれた瞳に映って、小さな海のようにきらきらと輝いた。
たった三秒ほどの視界だったが、久しぶりに見る海は眩しく、懐かしかった。
口を開けて窓の外を見ていたゆうすけがこちらを見上げた。
「海だよ! おかあさん!」
そのどことなく得意げな顔はあの日、
私に月光仮面を描いてみせたときの父の表情によく似ていた。
私は「たからのちず」に描かれたへたくそな落書きを見つめた。
10年の間に消えてしまうものもある。
けれども新しく生まれてくるものもあるんだ。
また10年が経てばなくなってしまうものもあるかもしれない。
だけど、いま見た海の輝きはきっと心の中にいつまでも留まり続けるだろう。
父と絵を描いたときの、あのあたたかい陽光のように。
私とゆうすけの中に。
父と私の中に。

ゆうすけがまた歓声をあげた。
私とゆうすけを乗せた列車は風を切って走っていく。
海が近づいていた。
私と父が暮らした町は、海のそばにある。


231 :創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 18:42:06 ID:fRO0p8mY
終わり

クサくなった感は否めない

232 :創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 23:32:36 ID:uljtOOUk
いい作品だ。



233 :創る名無しに見る名無し:2009/06/10(水) 22:47:00 ID:4XnEw6fh
krkr!

234 :創る名無しに見る名無し:2009/06/10(水) 23:58:19 ID:sdappiQ8
ショートフィルムみたいな映像が浮かんでくる感じですね。
GJっした!

235 :創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:14:55 ID:ReelILak
クレクレ!

236 :創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:58:25 ID:WpIkGOYc
歯痛

237 :創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 23:10:26 ID:F/6oUV/b
アイデンティティ

238 :創る名無しに見る名無し:2009/06/12(金) 04:07:50 ID:L+0EOfQW
クリシュナ

239 :創る名無しに見る名無し:2009/06/15(月) 08:17:38 ID:zIDCg6Na
なんかもうちょい簡単なお題くれよん!

240 :創る名無しに見る名無し:2009/06/15(月) 17:30:03 ID:rrA0tkWQ
簡単なお題か・・・。


夜明け


こんなんでどうよ?
>>236-238も、無論生きって事で。

241 :創る名無しに見る名無し:2009/06/16(火) 02:47:40 ID:1/QTNIXA
>クリシュナ

過半数の人はわからないであろう単語は控えておくんなまし

242 :創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 19:40:55 ID:S8wTSli4
お題変わっても投下ないね…

243 :創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 19:44:14 ID:O/ECiWTQ
自分で出したお題を自分で書くのもなぁw

244 :創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 20:31:02 ID:KHnPrsN2
じゃあもう一セットお題出す

故郷
犯罪
リストラ

245 : ◆91wbDksrrE :2009/06/19(金) 21:11:13 ID:O/ECiWTQ
 故郷に帰った俺を待っていたのは、非情な現実だった。
「お前に食わせる飯はねえ!」
 どこぞのお笑い芸人が言ってる言葉を、まさか自分が、それも実の
母親から向けられるとは。まったくもって笑えない話だ。
 両親は、俺に期待してくれていた。俺もその期待に応えようと頑張り、
若くして支社のではあるが、部長の地位にまで至った。
 だが、折からの不況の煽りを受けて、俺は見事にリストラ。どうも、
それまで蹴落としてきた同僚からのやっかみが主要因だったらしい。
密告、調査、発表が、全て俺が蹴落とした奴らの手で行われ、俺は
真実四割、虚偽六割の罪を得て、それを理由にされて、コストカットの
為の免職を自ら申し出る事に相成ったわけだ。
「……部屋はどうなってる?」
「あるわけねえだろ、この馬鹿息子がっ!」
 結果として、俺は罪人となった。裁判などで訴えられなくとも、罪を
犯したと多くの人に認識されれば、それは罪人だ。俺はそういった意味で
紛うこと無き罪人だった。実の親すらも、俺を罪人であると認識している
人間たちの一人だった。
 期待をかけ、手をかけ、育ててきた息子が、自分たちの与り知らぬ所で
罪を犯し、自分たちの期待を、そして自分たちの今までを裏切ったのだ。
例え親であろうと、いや、親だからこそ、そんな息子を優しく受け止める事は
できなかった――つまりは、そういう事だろう。情が薄いからではない。
今まで情が深すぎたが故の、反動だ。
 無論、言い訳をする事はできるだろう。説明をする事で、あるいは理解
してくれるのではないかと、そういう期待をした事もあった。俺は決して
罪人であるわけではない、と。陥れられただけなのだ、と。
 だが、それは出来なかった。それをするという事は、つまりは嘘をつく
という事に他ならないからだ。
 四割。その数字を多いととるか少ないととるかは人によって違うだろう。
 だが、その数字の分だけ、俺は実際に罪を犯している。上へと登る為には
仕方がなかった。それをしなければ、俺は俺が蹴落としてきた奴らと同じ
場所へと、誰か違う人間によって蹴落とされていただろうから。
 つまり、俺が罪人であるというのは、真実なのだ。親族の情に訴える事で、
その真実を覆い隠す事はできるかもしれない。だが、そうやって罪を隠す
事は、間違いなく、新たなる罪として俺の心に傷跡を残す事になるだろう。
 両親に……愛してやまない両親に対して、罪を犯す事は、犯罪をする
事は……それだけは、できなかった。それをやった瞬間、俺は最早罪人
ですらなくなってしまう。
 それをやってしまえば、俺は最早罪そのものに、人であることをやめた
罪そのものと化してしまう。
「……そうかい」
「……」
 寂しそうな顔をしたつもりはなかったが、母親の顔にはわずかな揺らぎが
見えた。情は消えてなくなったわけではない。反転し、深く沈んだだけだ。
深く沈み、遥か心の海のそこで、時々揺らいでいる。だが、揺らいでいる
場所は、やはり日の届かない遥か海の底である事に変わりは無いのだ。
「……さっさと出てけ! どこへでもお行き!」
 その言葉を背に受け、俺は故郷を後にする事に決めた。
 もう、ここには俺の居場所は無い。いや……どこかにあるとでも、そう
思っているのか、まだ、俺は? そんな場所が……ある、と?
「はは……はははっ」
 甘い話だ。やり直したいと、まだ思っているというのか、俺は。諦める
事もできず、自ら終止符を打つ事もできず、まだやり直したいと。ならば、
「ならば、やり直そう」
 駅へと自然に足が向く。なけなしの金をはたいて買った切符は、この路線
で一番遠距離の区間を表示している。
 遠くへ。遠くへと。
 罪を犯し追われ、故郷にも安住できず、それでも諦められない馬鹿な
男は、そうして旅に出る事になった。
 遠くへ。遠くへと――
                                終わり

246 : ◆91wbDksrrE :2009/06/19(金) 21:11:31 ID:O/ECiWTQ
ここまで投下です。

247 :創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 21:48:29 ID:25hWvQq4

こういう葛藤の描写は好きだなあ

248 :創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 22:07:36 ID:bk4J3rbE
最後が意味不。いい大人が仕事のアテもないのに遠くに行くかよw


249 :創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 00:14:03 ID:5+zkVgXQ
次につながる旅では無いのだなと感じた

250 :創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 11:57:04 ID:iYCYL3jB
居場所を失った男には、旅という何者でもない存在であっても受け入れ
てもらえる特殊な環境が必要だったのではないかと

251 :創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 16:18:19 ID:eGI3Zruf
切ないのう

そういやあてどない旅とか出たいときって
住民票とか転出とか役所にどう報告すべきなんだろ

252 :創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 16:27:25 ID:iYCYL3jB
旅行だったら別に住所移す必要ないと思う

253 :創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 16:44:59 ID:QhRFQD0+
住民票移さずに他の自治体で数年一人暮らししてましたが何か?

254 :創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 18:58:46 ID:9IElhmaS
「やり直そう」の一言に暗闇の中のかすかな光明を感じた。
旅は良いよ、旅は。

255 :故郷・犯罪・リストラ:2009/06/21(日) 12:01:47 ID:M6G+YH7+
久しぶりに故郷の土を踏んでいる。
寂れて老人と高校生しかいないような駅は、相変わらず妙に暖かくて、
まだ僕がまともな道を歩いていた時期を思い出させた。
あの頃の僕はまだ自分が人並みの幸せをつかめるのだと、
何の根拠もなく信じていた。
今にして思えば、それは蛙が井戸の底で切り取られた空を見て、
自分もいつかは飛べるはずだと思いこむような愚かさでしかなかった。
今だって僕はあの頃から何も変わらずに愚かしい。
だって、その手で、母を殺めようとしているのだから。

半年前、僕はリストラされた。これといった理由なんてない。
ただの大きく洗練された資本主義社会の構造に乗っ取った人員整理。
業績もぱっとせず、コネもなく、三流大出の僕はさぞかし切りやすかっただろう。
そんなことがあって、僕は職を失った。
再就職も考えたけれど、どれだけ応募しても、断られるばかりで、
日に日に気力は殺がれ、生きる価値を失っていった。
そんな時に、母から電話がきたのだ。
自分は退職して何の楽しみも無くなってしまった。
このままでは生きている意味を見失いそうだ。
だから少しでも戻ってきてほしい。そういう内容だった。
僕もリストラされたことを告げ、しばらくは地元に帰るということにした。

何故母を殺さねばならないのか。
大層な理由なんてない。僕が死ぬためだ。
母は僕を産んでからずっと女手ひとつで、僕を育ててきた。
母は僕のことを愛してくれていたのだろうと思うし、
僕も同じように母を愛していた。
だから死ぬなら母を置いていくわけにはいかなかった。
それが僕なりの精いっぱいの、最後の愛情だった。

256 :故郷・犯罪・リストラ:2009/06/21(日) 12:02:28 ID:M6G+YH7+
家に着くと、母が出迎えてくれた。
「ああ、疲れただろうに。ゆっくり休みなさい」
「うん、ありがとう。それで、話があるんだ」
この機を逃せば、決心が鈍ってしまうかもしれない。
それが怖かった。
「僕は死のうと思う。だから、母さんにも死んでほしい」
他人から見れば全く意味の通じない言葉。
けれど、そこに込めた意味が、母には伝わると思った。

「私が死ぬのは構わないよ。それで、なんであなたが死ななければならないの」
僕が死ぬ理由?言われてみれば、なぜだろう。
地元でアルバイトでもなんでもすれば、生きる道はあるはずだ。
どうして死ぬことに囚われていたのだろう。
「仕事が無くても、そばに誰もいないように感じられても、
あなたはあなたじゃない。別に死ぬ必要なんてない」

そうか、気付いた。これは僕なりの、母の愛情を求めるポーズだったのだ。
意識すらしなかった。僕は愛情に飢えていたのだ。
「そうだね。で、晩御飯は何?」
「あなたの好きなかぼちゃの煮物よ」

257 :海・夜明け・光:2009/06/21(日) 16:03:33 ID:moqYcE+U
水平線から顔を出しかけた太陽が、遥かな水面に光を撒き散らし、
もったいぶるようなじれったさを呈して、
じりじりと、天へ登りつつあった。
そんな通り一遍な夜明けの光景を見つつ、
気持ちの良い短髪の男、桂は、海岸に座り込んでは、尻に砂の痛みを感じていた。
日が眩い。激しい光線で視神経に痛みが走り、
苛烈な陽光を避けて、視線をどこへともなくうろつかせている。
その傍らに、同じく尻を付いて肩を寄せている、髪を長くした優男風の安西が、
寝ているわけではなかろうが、静かに目を瞑って息をつく。
桂は、ぎらぎら苛烈に光る上半分の日の丸をちょっと認めてから、
安西の額に、そっと柔らかに、口付けた。

安西はやにわに立ち上がると、尻に纏わり付く砂を払って、うんと伸びをして見せた。
天に向かった両腕に、全身の力が集中して震えている。
その様につられるようにして、同じく桂も立ち上がる。
屈曲から解放された膝から思わず、ぱき、という乾いた音がして、
二人は何事かと身を縮ませたが、しばらくあって、
それぞれ音の正体に勝手な合点をつけ、他愛なく笑った。

「いつになったら認められるだろう。」

さらりと、どちらからともなく呟きが漏れる。
双方俯いて、思案しても仕様のないことを思案する。
夜が明けても、何も変わらないことを了解させられた。

いっそ、と、そよ風のように零したのは安西である。
桂はすかさずその後を受けて、海にでも入るか、とできるだけ明るい語調に努めた。
深い青に身をゆだねたなら、どれほどの苦の後にどれほどの楽が来るか、
知りもせぬのに、刈り込まれた髪を掻き揚げて、笑ってみせる。

足裏に流れる砂の感触を味わいながら、連れ立って歩く、
その先に、薄汚れた巻貝を我が居城としたヤドカリが這いずり回っていた。
声を弾けさせて安西が近寄ったが、野蛮な人間の近づいたのに気付き、
ヤドカリは貝中に引っ込んで、それぎり動く気配はない。

太陽は既に、海から二三寸浮かび上がって、
いよいよ激しい光を投げかけてくる。
桂はそれに背を向けて立つ。安西は迎え撃つようにして胸を張り、口を開く。

「でも、いつかは――」

もう二の句を次ぐことをせず、桂は、何ともなく、
いつのまにか貝殻から身を出し、海へ向かうヤドカリを見て、
どうしようも無いいじらしさを感じ、耳の裏を掻いた。

258 :創る名無しに見る名無し:2009/06/22(月) 20:56:56 ID:Up7vLNVt
>>257
なんか気になるね。
何があって、何がどうなって、どうしてそこにいて、何をしようとしてるのか。
色々想像しちゃうな。

259 :海・夜明け・光:2009/06/23(火) 01:59:58 ID:nyBVzYvm
岸壁に面するその通りは昼間だというのに全く人気がなかった。
彼はそこから船を眺めていた。漁船である。漁船と言っても川釣り
や近海での漁業に使われるような小型のものではない。遠洋漁業に
用いられる大型漁船、それが無数に連なっているのだ。一年以上続
く航海に耐え、七つの海を駆け巡るその船体一つ一つが、何やら巨
大な重圧と共に自らの栄光を彼に語りかけてくる。
ウミネコ達の鳴き声、磯の香り、風。ふと見上げれば太陽の光が
やけに眩しかった。

260 :海・夜明け・光:2009/06/23(火) 02:01:57 ID:nyBVzYvm
その安らぎに影を落とすものは一見して見当たらない。しかし彼
は知っていた。堂々たる漁船のいくつかは出航の予定などなく、処
分すら出来ないためにそこに停泊しているということを。船を所有
する会社の破産など昨今では珍しいことではない。この漁港には、
かつてのような活気はほとんどない。もはやそれは夜明け頃の市場
に辛うじて名残を留める程度である。彼がこの国に来る前に思い描
いていた「豊かで明るい生活」はこの町には無かった。
長い時間を経て、ようやく彼は海に背を向け去っていった。そこ
に彼が求めた慰めはなく、唯一の身よりであった母の死が彼から奪
ったものを、遂に根こそぎ持っていっただけであった。
その夜、彼は姿をくらました。

261 :海夜明け光:2009/06/25(木) 03:25:27 ID:s/pQJu0u
サーファーの朝は、漁師より遅く通勤ラッシュより早い。
夜明けの海は青く澄んでいた。
波は上々、やや肌寒い。
友達から5万で買ったオンボロのワンボックスからサーフボードを取り出して、波を求めて海に駆ける。
ああ、嗚呼!
わかるだろうか、この解放感!
この爽快感!
サーフィンのある時代に!サーフィンのある地球に!生まれてよかった!
「ヒャッハー!!いやっふー!!」
つい叫んでしまうのも仕方の無い事なんです!
そうして海に飛び込もうとしたら。

──ズゴゴゴっ!

謎の異音。
イオンなら海で足りている!
黙れ異音め!
そんで耳障りな音源を探したら、それは“上空”にあった。
「……ちょっ、マジなんなんすかアルぇ?」
つい後輩っぽい語調でしかも巻き舌になってしまった。
見れば、海の上に太陽がふたつあった。
ていうか、朝の穏やかな太陽の横を、めっちゃ燃えてる隕石が落ちて来てるっぽかった。
え、ていうかこっち落ちて来てね?

──ズゴゴゴゴゴシカァアアアアンンン!!!!!

「ぎゃああああ!!」
間近の砂浜が吹き飛んだ。
マジか!
とか言っている間も無く墜落の衝撃波的なモノにぶっ飛ばされて、俺は3メートルくらい転がった。
大量の砂塵が舞い飛び、衝撃で飛び散ったらしい海水が雨みたいに降り注いだ。
やっべー、生きてるよ俺、超ラッキー。最近バクマン読んでるおかげだよゼッテー。
衝撃の余韻にふらつきながら立上がると、砂浜には巨大な墜落跡──クレーター?みたいなのができてた。
恐る恐る近付くと、半球状に窪んだ砂地の中心に、人が立ってた。
う、宇宙飛行士?
と一瞬思ったけど、なんか違くね?
宇宙飛行士って宇宙服着るよな?
なんでこの人(しかも女!)、“全裸”なの?
つーか……なんで背中に“羽根”生えてんの?!
くるり。って感じで、天使みたいな女の人が振り向いた。
腰まである黒髪を風になびかせて、でっかい黒目で俺を見る。
そして羽根をバッサーーって動かして飛び、たじろぐ俺の方に一気に近付いた。
「ちょ、まっ、こっちくんな!すげっ、速っ!」
逃げることもままならねー!
万事休すかよ!
女は俺の前に降り立ち、厳かにこう言った。
「案ずるな、現地生物を破壊したりはしない。私はお前達の言語で言うところの天使だ」
俺は黙った。
ステータス異常だ、仰天+混乱って感じの。
「現地生物よ、私の言語がわかるだろう。この星は“戦域”に指定された。これからこの
星が天領国軍とソル・サタン・ソル(魔王軍)とのラグナロク最激戦地となる」
「……へ?て、てんりゅう?サタン?」
ステータス異常が混乱のみになった。
これが、この後千年も続く、天使と悪魔の代理戦争に地球が巻き込まれた最初の日だった。

262 :創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 03:31:50 ID:s/pQJu0u
ついでにアゲ

263 :創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 03:34:29 ID:s/pQJu0u
間違えたっ

264 :創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 20:37:13 ID:KwMpZ3JJ
>>261
その勢いで天使のおっぱいについて詳しく

・・・あ、駄目ですか。ですよねーw

265 :創る名無しに見る名無し:2009/06/26(金) 07:01:01 ID:Ay9cY//O
俺は混乱する頭で考えた。
落ち着け、落ち着くんだ俺、素数を数えて落ち着くんだ。
まず素数ってなんだっけ。
「どうした、顔色が悪いぞ、現地生物よ」
「シャラーーップ!!俺今混乱してんの!話しかけないでいただける?!」
「む……わかった、少し待とう」
天使は無表情にこちらを見据えながら腕を組んだ。
うん、おっぱいが持ち上げられて強調されている。
全力でチラ見。
混乱しているふりをしながら観察してみる。
うむ、小振りだが形の良いお椀型。
手にぴったりと納まりそうでありながら、先端がピン、と自己主張している。
まぁ、夏とは言え朝の海に全裸で居ればそうなるわな。
「……現地生物よ。お前、全然関係ない事を考えているな」
「ふぇ?い、いやいや、混乱しっぱなしで」
「混乱しているならなぜ私の器(ユマノイドイーターフェイス)を観察しているんだ。しかも、
ごく局所的に」
「…それは、そのぅ、ええっと」
なぜバレたし!
「私は便宜的に現地生物に合わせた形態に擬制しているが、本来はここよりも高次の12
次元生物だ。接続点としてこの器を使っているだけで、観測は空間全てに及んでいる」
「え、もしかして俺頭の中とか見えてんの?」
「私の器を性的な興奮を伴って視姦した事は紛れも無い事実として観測した」
「…は」
恥ずかしい!
見ないで俺のプライバシー!
天使は背中の大きな羽根をたたみ、それを抱き抱えるようにして身体を隠した。
「恥ずかしいのはこっちだ。全く呆れたぞ」

266 :創る名無しに見る名無し:2009/06/27(土) 19:18:24 ID:Ki5HSlL/
次のお題いきましょうか
「法律」

267 :創る名無しに見る名無し:2009/06/27(土) 19:55:41 ID:AtPVGuH4
タブー

268 :創る名無しに見る名無し:2009/06/27(土) 20:55:56 ID:BAKMsOeS
「誰?」

269 :波浪:2009/06/27(土) 23:54:01 ID:mRmlWE7E
 墓場の蓮向かいで酒宴が行われていた。すぐ裏には海が広がっており、夜明けを待つ暗がりの中に波の音と月明かりが錯綜を醸し出す。
 住職が帽子を取って席に着いた時、宴の席は一瞬だけ静まり返った。だが彼の酒戒を質す者はいない。みな、各々の話題に戻る。
「あの法が良いのか悪いのか、私には理解出来ない」
 住職はそう呟いてから、焼酎を煽る。
 月明かりが狭窄な窓間からカーテンを照らし、すぐに雲間に消えた。
「いったい、なぜこんなことを誰もが認めてしまっているのだ」
 おかみがちら、と彼を見る。「誰?」と聞けば良かったのだろうか。彼女はそう考えただけで、すぐに自分の仕事に戻った。
 政府がタブーの意味を紐解いた今、彼の仕事は途端に複雑性を増すだろう。
 民主主義は適切に機能していた。集合体の代表は、まず自殺を合法化し、支援した。無能者の死を有効に活用できる制度が整い、主要交通機関がみだりに停止する事はなくなった。
 続いて、麻薬がいくつか条件付きで認可された。重度の薬物患者はあるラインを境に、自動的に自殺志願者として扱われるようになった。
 ある種の汚らわしい風俗が認められ、増え続けた。街のならずもの達でさえ、立法理念を蔑ろにする事はなかった。
「それでもこの国は、書物を書く事が許されないのだ。なぜだ?」
「代償よ。書けば人々は読んでしまう。書いていれば、今、この国が世界一平和と言われる事はなかったはず」
「犯罪者を数え上げることをやめただけだ」
 おかみがじろりと住職を睨みつけた。
「本を書く事が合法な国にでも移住すればいいんじゃないですか。私はいやですけどね。虚構の中で女性を犯す本が絶対に出てくるのだから」
「そうだそうだ」
 いつしか、ほどよく酔ったサラリーマン達が、真摯な形相で住職を囲んでいた。
「書物は知識の格差を広げ過ぎてしまうし、よこしまな着想を与えてしまう」
「『表現の自由』なんてものは前世紀の遺物だ」
「この国では、記録の自由と意味との訣別が必要だ。和尚、引退して適切な国に移住した方がいい」
 和尚は一同を見回して、二度嘆息した。
「恣意と訣別することを強制させられた社会なんかに、自由はないのだよ」
 ネクタイの緩んだ男達は笑い転げて言った。
「魯鈍者め。そういう事を叫びたいなら出て行けって言っているんだ」
「物語が誰のためになる? 妄想に取り憑かれて、身勝手なドラマを各々が演じ始めて社会が混乱するだけだ」
「ご住職。まさかとは思いますがあなたも少女なんてのを好むクチですか?」
 和尚は力なく頭を振って、おかみに片手を上げてみせた。
「……ごちそうさま。場を乱して悪かったよ」
 
 和尚は海を眺めた。
 そのうちに、感情を表現する方法も失われて行くのだろうか。
 それとも、三度めのバベルの塔が、建設されていくのだろうか。
 老い先短い自分には、それを見守る事はできまい。

 墓場の蓮向かいでは、今日も宴会が行われていた。
 軍靴の音が微かに響く度、波の音に揉まれては消えて行った。



270 :創る名無しに見る名無し:2009/06/27(土) 23:58:22 ID:+nI7dtWD
ほぅ、深いね。

書く事は読む事を招き、読めば人は乱れる、か。

271 :創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 01:28:28 ID:Kf2qWuou
なんだか和風な華氏451w
規制や抑圧に抗って生まれる作品って、繊細で魅力的でしかも攻撃的な作品が多くて好きだ。
そういう鬱屈の蓄積と爆発の土壌になるなら、悪法もアリかな、と思えてしまったりするw

272 :創る名無しに見る名無し:2009/07/01(水) 01:19:33 ID:KfsFIru1
クレクレ

273 :創る名無しに見る名無し:2009/07/01(水) 01:31:46 ID:cGc73Svp
まだ早くね?
>>266-268から3日ちょいだよ。

274 :創る名無しに見る名無し:2009/07/01(水) 23:18:37 ID:yabndori
過去お題とかも一回まとめてみるかね。

275 :創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 16:13:50 ID:e2ndDhmf
「怪談」
「墓地」
「悪戯」
さぁ、どうぞ!

276 : ◆91wbDksrrE :2009/07/10(金) 23:24:58 ID:2I/BNgfU
 墓場ってのは静かで、線香と切花の匂いだけが漂ってて、決して明るい場所じゃない。
 そんな常識は、こと今現在この場所においては通用しなかった。
「飲めや歌えの大騒ぎー。ほら、カミノちゃんも騒いで騒いで!」
「あひゃひゃひゃひゃひゃ、お前なんれ二人いんのー?」
「飲みすぎですよあなた」
「毎度の事じゃが、美味い弁当じゃのう」
「うわ、この唐揚げゲロうま! おばちゃん、レシピ教えてよレシピ!」
「もう、この娘ったら、女の子がそんなはしたない言葉を……」
「まあまあ、いいじゃありませんか。もうそんな歳でもないでしょう」
「なんだよー。あたしはいつまでだって少女だぜ!」
「姉ちゃん遊んでー」
「あたしもあたしもー」
「こら、お前ら、遊ぶなら向こうの方で――」
 賑やかだ。一言で言ったら賑やかだ。二言で言ったらちょー賑やかだ。
 そんなどこかで聞いたような事を思いながら、俺は喧騒から少しばかり抜け出し、背に皆の声を
受けながら歩き始めた。
 まったく、なんで皆こう賑やかにできるかね? ここ墓地なんだぜ? お墓のある場所。墓場。
「どこ行くの、春瀬君?」
「神野か。いや、何、ちょっと酔い覚ましに散歩でも、な」
「……飲んだの?」
「ちょっとだけだ。ちょっとしか飲んでないからな?」
「もう、私達未成年なんだから……」
「かたい事言うなって!」
 季節は夏だ。本来、この墓地のような場所は、怪談の舞台や肝試しの場所にこそなれ、
宴会を行う場所にはなりえない。というか、しちゃ駄目だろ、常識的には。
 喧騒が少し遠くなった所で振り返ると、相変わらず皆はわいわいがやがやと騒いでいるようだった。
「……ホント、変な人達だよね」
「ま、これも縁って奴なんだろ。死んでようが生きてようが、縁は繋がってる、と」
「ホントに、あの人達皆……」
「ああ、それは確認した。全員そうだ。だから、この季節に、ここで宴会やってんだからな」
「……信じられない」
「俺も最初はそうだったからなぁ……でも、目の前に、実際にいるわけだし」
「そう、よね」
 そう、常識的には考えられない。
 なのに、ここは常識では考えられない事が、実際に起こっている。
 別に、あの人達が皆非常識な馬鹿ばっかり、ってわけじゃあ、無論ない。単に、あの人達が
常識外れな存在だってだけの話だ。
「最初はなんかの悪戯かと思ったよ。ちょっと親父に用があって、それで俺だけで墓参りしに
 来たら……そしたら、宴会してるんだもんな」
「最初それ聞かされた時、絶対春瀬君、私からかってるんだと思ってた」
「ひでーなー。俺がいつ神野をからかったよ?」
「うーん、いつもからかわれてると思うよ?」
「酷い……」
「あはは、うそうそ。ちょっとしたお話くらいしかした事なかったもんね、私達」
 そう、最初は偶然だった。誰も人が来ないような、そんな、日が暮れて、セミも鳴き終わり、
暗闇に閉ざされそうになってきた時間に、俺はこの墓地にやってきた。それは別に一人で
肝試しをしようなんて思ったわけじゃなく、たまたま家を出るのが遅くなったからってだけで、
それは本当に偶然以外の何物でもなかった。
 そしてその偶然の結果――あの人達に会ったんだ。
 いや――正確に言うと、あの“人”達って言うのは違うな。
 あの、“霊”達に、だ。
 曰く、波長があっただとか、日が良かっただとか、色々と小難しい話はしてくれたが、俺には
よくわからなかった。わかるのは、何かこの霊達が別に俺のような生きている人間に危害を
加えるような存在じゃなく、そんで――一緒に宴会するなら、人は多い方がいいと考えるタイプの
霊達だった、って事だけ。
 当然というか何と言うか、俺は宴会に参加する事にした。というか、なった。
 ハメを外して騒いで、気がついたら一人でこの墓場に寝てて、慌てて管理してる人に見つから
ない内に逃げ出したのも、今となっちゃいい思い出だ。
 それが去年の事。

277 : ◆91wbDksrrE :2009/07/10(金) 23:25:39 ID:2I/BNgfU
 今年も俺は、一人でこの宴会に来るつもりだった。生きている人間は俺一人だけで、
他は皆霊だっていう、そんな奇妙な宴会に。
 だけど、今俺の横には神野がいる。
 神野は幽霊じゃない。ちゃんと生きてる、俺のクラスメイトだ。
 ここに来る途中偶然道端で出くわし、流れでこの宴会の事を話したら付いて来たいと言い出し、
そして今に至る。最初は凄く驚いていたみたいだが、すぐに順応し、さして問題なく霊の皆とも
やり取りをしていた。聞けば、元々霊感が結構ある方だったとかで、霊の皆の姿はしっかり見え、
触る事もできるらしい。まあ、流石に俺のように、霊の皆が用意した酒や食事は口にできないみたい
だが。……俺なんで飲んだり食ったりできるんだろうな? 謎だ。
「……なあ、神野」
「なあに、春瀬君?」
 しかし……考えてみれば、奇妙な話だ。
 特にクラスでは俺と神野に特にこれと言った接点はなかった。普通に話をするくらいで、
特別なものは何もなかった。今日、ここに来て、特別な経験を共有するまでは。
 これもそうなんだろうか。
 これも、縁というものなんだろうか。
 よく見ると、眼鏡とか髪型とかが地味なせいで気づかなかったが、結構可愛いよな、神野……。
「生きていようが、死んでようが、縁は繋がってるもんだと、俺は思うんだけどさ……」
 ……やばい。俺は一体こんな日の暮れた墓場で、何を言い出そうとしているんだ。顔が赤く
なってくるのを感じる。頭がボーっとしてきた。
 言っちゃうか? 言っちまうのか、こんな場所で!? 今日この瞬間まで特に何とも思って
なかった相手に、そんな事を言っちまうのか俺は!?
「あ、うん……それ、私も思うよ」
「へ?」
「……えっとね……私と春瀬君の縁、ちゃんと繋がってて嬉しいな、って」
 真っ赤に頬を染めながら、神野はそんな事を言った。
「そ、それって……」
「そろそろ戻ろう! 皆心配してたらいけないし!」
「あ……うん。そだな」

278 : ◆91wbDksrrE :2009/07/10(金) 23:25:53 ID:2I/BNgfU

       ――――――★――――――

「青春だねぇ」
「ま、こんな縁結び、ワシら程度でも可能じゃからの」
「ったく、そこで押し倒すくらいの事できねえのかよ」
「皆が皆あんたみたいな女じゃないのよ?」
「うっせーなー」
「まあまあ」
 霊達は、指を絡ませながらこちらに戻ってくる二人の生者を見ながら、言葉を交わしていた。
 その頬は、少年少女の微笑ましさに一様に緩んでいた。
「……こうして、縁を確認させてもらってるんだから、少しくらいは恩返ししないと、ね?」
「そうだな……ま、今後については彼等次第だが」
「大丈夫じゃねえの? 根拠はねえけどな!」
「ま、大丈夫であってもらえんと、ワシらも困るからのう! はっはっは」
 死んでいようが生きていようが、縁は繋がっていると、そう少年は言った。
 だが、彼は知らない。知る由もない。
 生と死との縁、それ自体を途切れさせない為に、彼はここに招かれたのだなどと。
「最近は、見える人も減ってきましたからねぇ……」
「根性たりねえんじゃねえの、根性が!」
「根性でどうにかなるものじゃないでしょうに……ホントにこの子は生きてたころから
 ずっとこうなんだから……誰に似たんだか」
「……かあしゃん似じゃないかにゃう?」
「あら貴方飲みすぎてあらぬ事を口走ってますわよおほほ」
「ま、新たな担い手も現れた事じゃ。しばしは安泰じゃろうて」
「そんな事よりもっとみんにゃ飲めよ歌えよ騒げよ! にゃひひひひー」
「……大丈夫なのか、親父?」
「……多分」
「ま、こいつもそう言っておる事じゃし、あの二人を交えて再度騒ぐとするかの!」
「おー!」
 似つかわしくない喧騒が、再び墓場に満ちていく。
 霊達と生者との、縁(つながり)を確かめる為の宴は、まだまだ終わらない――


                                           でも話はこれで終わり

279 : ◆91wbDksrrE :2009/07/10(金) 23:26:04 ID:2I/BNgfU
ここまで投下です。

280 :創る名無しに見る名無し:2009/07/12(日) 15:58:38 ID:ha4O/1Zg
名も無い幽霊のセリフが多くてなんだか読みにくいなぁ
爽やかな青春は感じられますた

281 :「怪談」「墓地」「悪戯」:2009/07/12(日) 16:34:38 ID:RUhUgF6T
「ねぇ、隆君。こんな怪談、知ってる?」
 尋ねられ、どんな話だよと問い返した俺に光は話し始めた。
「近所に有名な、不良高校生がいたんだって。素行が悪くて、みんな困ってたらしいの。
ある日ね、その子がとある悪戯を挙行したの。その子は墓地にある墓石を倒して回った……それこそドミノ倒しみたいにね。お墓はもうめちゃめちゃになったんだって。
そうしたらね、そんなことをしたその晩、その子の枕元に出たんだって。何がって? 幽霊に決まってるじゃない、幽霊。
でね、幽霊が枕元に出て言うのよ。『誰だ……誰だ……墓石を破壊したのは誰だ……』って」
「ふむ、それで?」
 続きを促した俺に、光は何故か急に怒った表情になった。
「どうした?」
「隆君のばか、鈍感! 朴念仁! もう知らない!」
 そのまま光はぷぅっと頬を膨らませて走り去ってしまった。俺、何かしたのか……?
 教室の窓から見える夏の空は今日も高かった。

<了>

282 :創る名無しに見る名無し:2009/07/12(日) 20:29:35 ID:noUD69/z
最近、一人で三つの御題を決めてしまう人が見受けられますが、正直、書く気が失せます。
やめてください……そして死んでください。

283 :創る名無しに見る名無し:2009/07/12(日) 20:37:19 ID:lVhYIUez
死ねとは言わないけど同意。
一人で全部出されるとつまらない。

284 :創る名無しに見る名無し:2009/07/12(日) 22:14:08 ID:ha4O/1Zg
駄洒落やんけw


まぁ俺には関係ないが、
作品無視してアゲながら人の不備だけ声高に叩くのは印象良くないんだぜ

285 :創る名無しに見る名無し:2009/07/13(月) 12:10:01 ID:Hp3WAMXt
>>281
隆は俺だ

なんで光が怒ったのかわからない

286 :創る名無しに見る名無し:2009/07/13(月) 12:10:44 ID:Hp3WAMXt
sage忘れた スマソ

287 :創る名無しに見る名無し:2009/07/13(月) 14:12:41 ID:VGEQ64FZ
ダジャレー夫人をこんなところで見るとはw

288 :冬夜:2009/07/14(火) 18:01:27 ID:jSvghgZ/
・・・・えっと、初めまして。 冬夜(とうや)といいます。

書きたいので、三題を決めて下さい。
どうも、自分では思いつかなくて・・・・ごめんなさい。

また、来ます。すいません。



289 :創る名無しに見る名無し:2009/07/14(火) 18:54:54 ID:Bc59g+mj
取り合えず一番新しいお題で書いてみればいんじゃね?


290 :冬夜:2009/07/14(火) 19:41:37 ID:jSvghgZ/
「怪談」「墓地」「悪戯」・・・ですね。
 
ありがとうございます。

書くのに時間がかかるので、

書けてからまた来ます。

すいません。ありがとうございました。




291 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 00:05:01 ID:lNbSC/vS
何……この……ウザキャラ……。
謝るくらいなら書き込みするな

292 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 00:09:59 ID:ceV5U0pU
まあ、2ちゃんは他のBBSとは文化が違うから、
実際に書き込む前にしっかりと半年くらいROM(書き込まずにずっと
読んでるだけの事)ってた方がいいよ。

293 :冬夜:2009/07/15(水) 05:12:32 ID:jsVd78Aj
 わかりました。謝らないように気をつけます。

 一応他の掲示板を見て、言葉遣いを直します。丁寧にどうも。

 とりあえず、少し書けたので、見てください。


 外灯や月明かりは一切無く、視界が闇に覆われた深夜。佐藤 美咲は、随分前に
閉鎖された墓地のなかにいた。
 墓地前の壊れかけた外灯の下で、美咲は溜息をつく。
 こうなったのも全て、美咲の友人―金倉 梢の聞いた噂話が原因だった。

 『夜中墓地で自分の家の墓石を一つ取れば、願いが叶う』

 噂話に目が無い梢は、一時に墓地前集合と言って家に帰っていった。携帯電話で
連絡しても良かったのだが、携帯電話をすぐどこかにやってしまう梢が出る確率は
低い。すっぽかすのも、美咲の性に合わなかった。
 自分勝手な自分の友人に、少しはこっちのことも考えてくれないかな・・・と言
ってみるものの、相手がいなくては仕方が無い。
「はあ・・・」
 美咲は又、溜息をついた。
 梢のこともあるが、今降っている雨にも美咲は悩んでいた。
 冬の夜は気温が低い。吹き抜ける風と冷気が体を冷やす。その上雨が降れば、寒
いことこのうえない。
 傘をさしているものの、むき出しの手は体温を冷気に渡していく。凍傷にはなら
ないものの、寒い事には変わりない。
 一時のアラームが、美咲の携帯電話から鳴り響く。
 帰ろうかな・・・。
 美咲が思案している矢先―

 ―クスクスクス・・・・・・クスクスクス・・・・・・―

 声が、響いた。
 余韻を残しながら響く声はゆっくりと―しかし確実に、美咲のほうに近づいて来
る。
「・・・あ・・・あ、あ・・・・」
 恐怖で声が出ない。声は、前からやってくる。しかし、美咲の視界にはなにも入
っていない。外灯で照らされた深夜の闇が、ただただ広がっているのみ。

 ―クスクスクス・・・・・クスクスクス―

 そうしている間にも、声は近づいてくる。

 ―クスクスクス・・・クスクスクス―

 声と美咲との間は、もうほとんどない。

 ―クスクスクスクス―

 声は、美咲の耳元から響いた。
 その声は、まるで無邪気な子供が悪戯を楽しむような声だった。 

                          〈続〉

 続きは明日になると思います。書けたら又来ます。


294 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 06:43:16 ID:KsZbWr2B
完結してから書き込もうぜ


295 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 08:46:47 ID:lNbSC/vS
完結してないなら書き込むなカス

半年ROMれ

296 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 12:20:54 ID:gx2LI8ob
ここ、ちょっと度が過ぎる物言いの人が居るよね
抑えなよ

297 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 12:50:06 ID:TeLjy0QF
この板自体あんまり平和な印象ないけどな
それはさておき、完結投下ばかりのスレで連載はじめちゃうのはやっぱり痛い子だと思う

298 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 17:40:35 ID:lNbSC/vS
痛い子はいらないよな
荒れる原因だ

299 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 17:49:42 ID:D3SOeqRn
自覚のない痛いやつが問題か、常識面して痛いやつに痛いといって突っかかるのが問題か

300 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 19:04:12 ID:ceV5U0pU
まあそんな事よりそろそろ次のお題に、
一人一つずつでいかんかね?

301 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 19:27:08 ID:lNbSC/vS
>>299
お前が一番の問題だよハゲ

302 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 19:37:30 ID:ceV5U0pU
んじゃ改めて、お題くれくれ。

303 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 19:41:51 ID:lNbSC/vS
【導火線】

304 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 19:46:17 ID:KsZbWr2B
消火栓

305 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 19:46:46 ID:IrH3jCrJ
「白馬の王子」

306 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 19:59:38 ID:lNbSC/vS
【導火線】 【消火栓】 【白馬の王子】で決まりですね

307 :創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 20:17:47 ID:ceV5U0pU
導火線と消火栓は、韻をあえて踏んだのかなw
ちょっと考えてみよう。

308 :「導火線」「消火栓」「白馬の王子」:2009/07/18(土) 19:04:26 ID:CupOg+0O
 私は由紀香、小学6年生の12歳。
私の彼氏のまーくんは2つ年上の中学生。
まーくんはまるで私の前に現れた白馬の王子。
彼に見つめられるだけで、私は消火栓みたいに真っ赤になる。
一緒にいると心臓がドキドキして、まるで心が導火線に火をつけられたかのように思えて苦しくなる。
 まーくんは優しい。
1つしかないガムを私に分けてくれたり、相談事に乗ってくれたりする。
 まーくんはカッコいい。
オシャレさんで、服のセンスが私のクラスの男子なんかと比べて断然いい。
 まーくんは頭がいい。
定期考査ではいつもトップクラスらしく、私に勉強を教えてくれる。
 まーくんはスポーツ万能。
野球部のエースで、足もとても速い。
 それでも……1つだけ、まーくんには欠点がある。
彼はにんにくラーメンが大好き。
デートの前にも平気で食べてくる。
私がやめてよっていっても彼はその一点だけは絶対に折れない。
だからキスするのが辛い。
まーくんはとても素敵な彼氏。
だけど、2つ年上のまーくんはチューが臭え!

<了>

309 :創る名無しに見る名無し:2009/07/18(土) 19:13:12 ID:CupOg+0O
すみません、ageてしまいましたorz

310 :創る名無しに見る名無し:2009/07/18(土) 19:44:33 ID:E/NEtcqW
またしてもダジャレーw
おもろかったw

311 :創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 07:56:47 ID:2Hi4kUBO
新作読みたいあげ

312 :創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 13:34:32 ID:kGFzQWpu
お題
『かがみ』

313 :創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 13:38:15 ID:7k+6ZpjO
ハラミ

314 :創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 17:42:54 ID:CzHcvI/l
アミ

315 :創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 19:47:22 ID:2UA+pC/Z
やいちゃらめぇ

316 :創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 20:09:07 ID:zjeDnvjX
かがみ は既出なんだけど、もうそんなの気にしない方向でいく?

317 :創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 20:16:03 ID:2UA+pC/Z
いいと思うよ。
三つの組み合わせすら既出ならともかくw

318 :創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 22:11:48 ID:CzHcvI/l
ハラミを焼こうとした瞬間、俺は不自然な事に気がついた。
焼肉屋の煙たい座敷席の壁に大きな姿見が設置してあったのだ。
誰が焼肉を啄み貪る自らの姿を刮目するというのか。
何プレイなのか教えて欲しい。
俺は肉掴み用のトングをフルスイングで投げた。
耳障りな、硝子の砕ける音。
トングが仕込まれたバネ機構の跳力によって壁にバウンドし、俺の方へ戻って来る。
隙をみてよく焼けたハラミを口に運ぶ。
肉汁の滴りに呼応して唾液が溢れ、ねっとりとした肉の芳香が鼻腔から信号を送り脳に幸福を感じさせ、
脳はより一層の渇えを訴えるのだった。
──もっと喰わせろ!
だが、脳の求めに答える時間は後回しにしておくとして、
空中に弧を描いて飛行するトングの運動エネルギーを殺す義務が俺にはある。
何処ぞの次男坊一郎君顔負けの背面キャッチ。
ジャリン、と鉄菜箸とトングが鳴る。
そのまま鉄菜箸に引っ掛けてトングを回す。
トングに纏わりついていた脂が飛沫をあげた。
俺は店からの出禁と姿見の弁償を申し付けられた。

319 :創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 22:15:14 ID:2UA+pC/Z
そりゃそうだwww
途中の描写の濃さと全然関連しない、あまりにも当たり前のオチにワラタw

320 :創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 23:31:22 ID:7k+6ZpjO
なんか色々と不条理w

321 :創る名無しに見る名無し:2009/07/24(金) 09:07:19 ID:Hc5+AaBs
意外に面白かったw

322 : ◆91wbDksrrE :2009/07/25(土) 23:25:55 ID:ge/swKzt
「アミ!? どうしたのアミ!? 調子でも悪いのアミ!?」
 どんどんと、友達が扉を叩く音がどこか遠くに聞こえる。
 やってしまったと、そう言うしかない状況を前に、私はどうすればいいのかと
途方にくれていた。
 まさか、ここまでハラミが……腹身が、暴走してるなんてっ!
 私の目に映ったそれは、つきたてをかがみ餅にしました、と言うのが
適当な、そんな情景を現出させていた。
 どうしてこんな事に? 何故にこんな事に? Why is this!? お願いだ、
誰か教えてくれ……ララァは応えてくれない!
 って……いけない。いけないわ、アミ。相当に錯乱しているのはわかるけど、
ガンダムネタが飛び出してくるレベルだなんて、そんなのいけないっ! だめぇ!
「……とにかく、何とかしないと」
 家で試着してみなかった事が悔やまれる。まさか、こんなにもかがみ餅を
際立たせてしまうデザインだったなんて。買った時は、ダイエット成功して
リバウンド前だった事もあり、それに全く気づかず今日に至る。
 パレオで隠すとかそういうレベルではないのは明白だ。Tシャツを着ても、
いつかは脱がなければならないだろう事は予想がつく。
「アミー! 早く出ておいでアミー!」
 友人の声には、本気で心配しているような色が含まれ始めた。
 ああ、このハラミを、じゅーじゅーと焼いて食って、無かった事にできるならば
どんなに良いだろうか。……ああ、美味しかったなぁ、あの焼肉屋さんの
ハラミ……うわ、涎出てきちゃった……ってそれが原因じゃん明らかにっ!?
今こんな窮地に陥っているのは、どう考えても先週の焼肉食べ放題が
原因なのは明白! 最早焼肉屋は不倶戴天の敵なのよ、私にとっては!
今そう決めたっ!
「……逃避してても仕方が無いのよね」
 私は気を取り直して考えた。水着は、これ以外無い。レンタルの、微妙に
やぼったいのは着たくない。ティーシャツやパレオで誤魔化すのは、恐らく
一時しのぎにしかならないだろう。では、どうする? どうすればいい!?
教えてくれ、ララァ!
『笑えばいいと思うよ』
 その時、ララァの声が聞こえた……そんな気がした。
 って、ヤバイよ私! 幻聴聞こえたよっ!?
 ……あ、でも、笑いってのは有り、かも。
 その幻聴は、私に名案をもたらしてくれた。ありがとう、ララァ!
「やるっきゃ……ないか!」
 後、必要なのは度胸だけ……そう、女は度胸。男は甲斐性。故に、私には
それを行う度胸は十分にある! 何故なら私は女だから!
「いくわよ……アミっ!」
 そして私は飛び出した。友人たちの待つ、夏の光降り注ぐプールサイドへと。
「あ、アミ、ようやく出て……」
「大変だよ! 私のお腹、鏡餅になっちゃったー!」
 満面の笑みを浮かべ、お腹を突き出すようにして皆に見せつけ、叫ぶと共に、
両手でお腹をしぼるようにして強調し、かがみ餅っぽく見せる事、約数秒。
「………………え?」
 滑ったと、そう気づくのにかかったのは、僅か数秒であった。
「………………えへ♪」
 友人が、愛想笑いを浮かべるのにかかった時間も、同じくらい。
「………………」
 やぁぁぁぁぁぁあぁぁあああっちまったぜぇぇぇえええぇ!!??
 友人の愛想笑いに背を向け、私は走り始めた。
 ごまかしの失敗による敗北と、羞恥と、その他諸々に包まれた、茨の道を――
 っていうか、もうこんなの帰るわ、普通に。居たたまれないっつうの!

 そんなこんなで、私は市営プールを後にし、家に泣きかえり――やけ食いを
してまた太って悲嘆にくれたりもするのだが、それはまた別の話である。

 終わり

323 : ◆91wbDksrrE :2009/07/25(土) 23:26:08 ID:ge/swKzt
ここまで投下です。

324 :創る名無しに見る名無し:2009/07/25(土) 23:48:00 ID:tHIE7hNS
すごいシンパシーを感じるw

325 :創る名無しに見る名無し:2009/07/26(日) 10:52:43 ID:Q0luQLI+
泣くなアミちゃんw
ポチャ好きも世の中には居るぞw

326 :「かがみ」「ハラミ」「あみ」:2009/07/28(火) 01:13:07 ID:ZPxoi5Xe
終わらない拷問に、私の心身はもうズタズタだった。KGBの網にかか
ったのが一週間前。それ以来、地獄の責め苦は休むことなく続いている。
しかし罪を認めるわけにはいかない。もし認めれば、その先にはさらなる
絶望が待っているのだから。
「随分頑張るじゃないか、同志。
もし貴様が敵国の尋問にこれだけの抵抗をしたのならば、プロレタリアー
トの鑑として褒め称えるのだがな」
今日は尋問官の冷笑がいつにもまして残酷だ。拷問はさぞ素晴らしいも
のなのだろう。
「さて、貴様はこれが何だかわかるか?」
そういって取り出したのは七輪である。そして、嗚呼! なんというこ
とだろう! 奴はそれでハラミを焼き始めたのである。もし焼いたのがカ
ルビや牛タンだったのなら良かった。しかし、それはハラミだったのであ
る。恐るべしKGB! 私がウォトカとハラミさえあれば生きていけると
いう程のハラミ好きだということは、とうに調べ上げていたのだ!

327 :「かがみ」「ハラミ」「あみ」:2009/07/28(火) 01:14:50 ID:ZPxoi5Xe
「ふむ……旨い」
糞ッ! 旨そうに食いやがって! 肉が焼けるジュージューという音と、
あの食欲をそそる香りが私の空きっ腹に協力に訴えてくる。餓えた私はも
う我慢できなかった。
「……認めます」
「うん? 聞こえんなぁ」
「私が書記長殿の中年太りを揶揄したことは認めます。ですからハラミを……」
しかし奴は私にハラミを与えることはなく、非情にも言い放った。
「ふむ。容疑を認めたか。クレムリンは寛大であるから、重い罪に問われ
ることはないだろう。
もっとも、シベリアの木を数える任務をお前に言い渡すかもしれないがな」
その後、私がモスクワの土を踏むことはなかった。

328 :「かがみ」「ハラミ」「あみ」:2009/07/28(火) 01:18:06 ID:ZPxoi5Xe
このssはフィクションです。
実在の諜報機関、ソ連等とは一切関わりがありません。

329 :創る名無しに見る名無し:2009/07/28(火) 20:06:47 ID:a7v3IvAa
糞ワラタwww

とりあえず、消されないように気をつけてなw

330 :創る名無しに見る名無し:2009/07/28(火) 20:12:58 ID:SLdkdbyT
「あの食欲をそそる香りが私の……」


「あの食欲」の「あの」があり得ないおかしい
主人公が自分で直接体験してるシーンの描写なのに、なんで「遠く」を指す「あの」なんだ?
ラーメンのスープを冷たくして、「冷やしラーメン」として売り出すくらいあり得ない

331 :創る名無しに見る名無し:2009/07/28(火) 20:22:46 ID:egxww3/F
「あの」はこれまでに習慣的に体験した事柄の再体験を語る語として用いられていると思われる
遠くをさす以外の用例があるかもしれないという当然の懐疑は浮かばなかったのか

冷やしラーメンを目撃したことはある。あれはあり得ない。

332 :創る名無しに見る名無し:2009/07/28(火) 21:58:34 ID:z7hy5Kgt
冷やし中華と何が違うのん?

333 :創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 00:19:10 ID:M1HCRU1r
冷やし中華温めてもラーメンにはならないから
ラーメン冷やしても冷やし中華にはならないだろ

334 :創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 00:20:29 ID:GeiUMr0v
説得力に惚れた

335 :創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 11:29:21 ID:M1HCRU1r
お題クレクレ

336 :創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 11:46:39 ID:ZTARuuoR
「蚊取り線香」

337 :創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 11:48:30 ID:KC3ZyXXA
「関節技」

338 :創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 12:34:52 ID:IzFqzKhA
「マウスピース」

339 :創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 20:26:35 ID:IzFqzKhA
「マウスピース」を取り消し「看護師」に変えます


340 :創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 20:27:22 ID:IzFqzKhA
【蚊取り線香】【間接技】【看護師】の3つで

341 : ◆91wbDksrrE :2009/07/29(水) 21:03:34 ID:NhKxSYfr
 俺たちに、道場と呼べる場所はない。
 強いて言えば、晴れた日の屋外、その全てが俺たちにとっての道場である。
……金が無くてスペースを借りられず、砂場のある公園などで練習をしている
のをカッコよく修飾すると、そう言う事も可能だろう。うん。
「……かゆー。また蚊にかまれちったじゃん。蚊取り線香欲しいよぉ」
 俺の弟子一号が、ぶつくさと文句を言っている。全く、精神的にまだまだ弱いな、
こいつは。もっと心から鍛える必要があるだろう。
「贅沢を言うな。贅沢は敵だ。故に蚊取り線香は敵だ」
「何その三段論……まあいいや。とにかく、さっさと練習しようよー。没頭してたら
 痒さも忘れられるしさ」
「おう。今日は何を教えるんだったかな?」
「サブミッション!」
「おお、王者の技だな」
「そうなの?」
「その通りだ。サブミッション――関節技は、極めればそれで終わらせる事が
 できる、どんなパンチやキックよりも一撃必殺な、最高に痺れる技だ」
「へえー」
「ゆえに、それを使いこなす者は、自然と王者と呼ばれる存在になる。よって、
 サブミッションは王者の技であると……そう言うのだ」
「なんかカッコいいじゃん! さくっと教えてよさくっと!」
 ……格闘技に王道など無いといつも口を酸っぱくして言っているのだがな。
 弟子一号はやはりもっと精神的に鍛えられる必要があるようだ。その為には、
関節技の鍛錬というのはうってつけであると言えるだろう。
 まだ日の高い公園で、俺たちは向かい合った。辺りに人影は見当たらない。
この辺りはまだ住宅地として出来上がったばかりで、人があまり入ってきていない
らしい。絶好の練習場所であると言える。
「まず、関節に入る為には、相手に密着しなければならない。この前やった、
 タックルからのテイクダウンは覚えているか?」
「当ったり前だのお煎餅じゃん!」
「じゃあ、やってみろ」
「おっけー!」
 弟子一号は、ニヤリと笑みを浮かべると同時に、跳んだ。跳ぶと称するに
相応しい速度で、一気に俺の懐に潜り込んでくる。少し教えただけでこの
速度でタックルに入れるというのは、生来の思い切りの良さや身体能力も
あるのだろうが、それよりも何よりも、教師が良かったからに他ならない。
うむ、流石俺。そして俺の教え方。素晴らしい。
 だが、一つだけいただけない事がある。タックルに入る時の注意点として
述べておいたはずの事を、こいつはコロっと忘れてしまっているようだ。
 ……まあ、俺はそれを見越して、タックルを仕掛けさせたんだが。
「へへ、どう……ぐげっ!?」
 俺は脚を跳ね上げるようにして、弟子一号を“ガブった”。タックル潰しの
基本だ。バックステップすると同時に上体を前に倒し、下に潜り込んできた
相手をそのまま押しつぶし、足を取らせず、倒させもしないテクニック。
俺はその基本に忠実にガブり、そのまま無防備だった奴の首を獲った。
「タックルの時は、タックルにだけ行くとわかってたら対応されるんだから、
 色々混ぜろって言ったよなー? 俺言ったよなー?」
「い、言った……だから……首……うげぇ」
 フロントチョーク、あるいは最近ではギロチンとも言われる、自分の脇の辺りで
相手の頭及び首を抱えるようにして、腕で首を絞めあげる技だ。
「……タップか」
 たんたん、と俺の腕を弟子一号の手が叩く。ギブアップの意思表示、タップアウトだ。
「教えた事はちゃんと全部覚えておけよ? タックルのステップインに躊躇が
 無かったのは良かったが、それだけに集中するあまり、他にも言われてた
 はずの事をコロッと忘れてる辺りは大減点だ」
「う……うぅ……だって、タックルして来いっつったからしたのにぃ」
「応用ってもんを覚えなきゃならんな、お前は」
「だいたい、サブミッション教えてくれるんじゃなかったのかよ!」

342 : ◆91wbDksrrE :2009/07/29(水) 21:03:42 ID:NhKxSYfr
「今教えたじゃないか」
「へ?」
「まあ、厳密に言うと『関節技』じゃあないが、広義では裸絞めとかも、一様に
 サブミッションに分類されるから、これもサブミッションの一つ」
「……教えたって……」
「察しが悪いよなぁ、お前はホントに……要するに、今日のサブミッションの教授
 は、全部お前に一個一個技かけます」
「えぇぇぇえええ!?」
「身体で覚えろって言うだろ、何事も」
「そりゃそうだけど……先生、俺玩具にするつもりかよ!」
 玩具か……うん、まあ、その……実際にはそういうつもりなんだが。あはは。
「年頃の女の子が自分を玩具にするとか言うな! 実際に喰らうのが、自分で
 かける時にも、自分が防ぐ時にも、どっちにも応用の利く一番の覚え方なんだよ!」
 と、口先ではそう言ってみる。実際は、精神鍛錬が主な目的なので、弟子一号
には心行くまで玩具になってもらおうと、そう考えていたりするのだが。あはは。
 さあ、覚悟せい。
「じゃあ、準備はできたか?」
「……反撃とか、してもいいんだよな?」
「ああ。できるものなら、な。ただし、マウスピースはめてないから、打撃は禁止。
 反撃は関節技に限る。抜け出そうとするのも自由。ただし、ちゃんと傷める前に
 タップはしろよ?」
「あ、ああ……」
 心なしか、弟子一号の顔が緊張しているように見える。
 まったく、こんな、考えもしなかった状況――自分がガンガン技をかけられる、
という――くらいで緊張してもらっては、本番になったらどれだけ緊張するのか。
先が思いやられるというものだ。
 ここはやはり、徹底的に精神を鍛えなくては、な。
「じゃあ、行く」
 ぞ、とは言わずに俺は踏み込んだ。胴を刈るようなタックルを敢行し、意表を
突かれたらしい弟子一号の身体を砂の上に押し倒す。
「あ、ちょ、ま、心の準備がっ!」
「試合じゃ相手は待ってくれないぞっと」
 あっという間に俺は相手のわき腹を両の足でロックするような形――いわゆる
マウントポジションを奪取し、そこからサイドポジション――柔道などで言う横四方
固めの体勢だ――へ移行する。ここから極める関節は、格闘技における最も
ポピュラーな極め技――
「あいだだだだだあ!? 腕がぁぁああああ!」
 ――腕ひしぎ十字固め。相手の腕を、関節とは逆方向に伸ばす事で極める、
まさに関節技の基本中の基本となる技だ。当然、弟子一号は瞬時にタップした。
うむ、我ながら華麗である。
「じゃあ、この調子でドンドン行くぞー」
「え、ちょっとま、うわぁ!?」
 こうして、しばらくこの公園には弟子一号の悲鳴と、俺の高笑いが響く事になり、
程なくして警察に通報されたりして結構大事になったりするのだが、くるくると回転体
を気取りながら次々と足、腕、首と関節を獲っていい気になっていく俺には、
そんな未来の事など当然見通せるはずもなかった。

 教訓。悲鳴あげさすと色々ヤバイので、今度は猿轡してからやろうと思う。

 だが、俺はへこたれない! いつの日か、妹に女子格世界一の称号を獲らせる、
その日まで、姉として仕込める限りの事を仕込んでいくつもりだ――俺はやるぜ!
 
 終わり

343 : ◆91wbDksrrE :2009/07/29(水) 21:04:26 ID:NhKxSYfr
ここまで投下です。

リロードしてなかったので、取り消し前のお題になってますが、
ご了承ください。

344 :【蚊取り線香】【間接技】【看護師】1/2:2009/08/03(月) 17:19:10 ID:7H8jN8uI
対戦相手の間接技で、右足を痛めた。
診察によると、じん帯の損傷が激しく、太ももからかかとまでのギブス固定と
2週間ほどの入院が必要とのことだ。特に診断に不満はなく、病室も空いていた
ので即日入院することにした。すぐさま右足はギブスでがっちりと固定された。
「 三井選手は、新品の蚊取り線香を上手にはずすこと出来ますか? 」
入院に伴い、身の回りの世話をしてくれる予定の看護士がそう言った。
「 は? 」
突然の問いかけに言葉が詰まった。
「 あれ、結構難しいんですよね。焦るとポッキリ折れちゃうし 」
新品の蚊取り線香……。たぶん渦巻き同士で合体している線香をはずす。と
いうことだろう。
「 あー、そうですね。無理すると簡単にポキっとなりますね 」
何を言いたいのか分からないが、はずそうとして香取線香を折ったことはある。
看護士は私の返事にうなずき、そして言った。
「 三井選手の右足も、いま無理するとポキっとなる状態です。選手として
  体を動かせないことはつらいと思いますが、焦らず、ゆっくりと治して
  いきましょう。完治するまで一緒に頑張りましょう 」
「 …………ありがとう 」
ちょっと気恥ずかしかったが、そう返事をした。
看護士はにっこりと微笑んで病室を出て行った。


345 :【蚊取り線香】【間接技】【看護師】2/2:2009/08/03(月) 17:21:23 ID:7H8jN8uI
人のよさそうな看護士だった。私のケガを蚊取り線香に例えるのは
どうかと思うが、愛想のない無口な人よりは断然いい。
それでも私は担当の看護士を代えてもらうつもりでいる。
いまのご時世、男性の看護士は別に珍しくない。ただ、いくら男勝りの
プロレスラーといっても、私は女だ。
少しは気を利かせろ!っと、絶叫したいが堪える。それこそ東京スポーツに
【女子プロレスラー、ヒステリック三井(43)じん帯ブチ切れ!医者に逆ギレ!】
と見出しで馬鹿にされるのが目に見えているからだ。

当然、病院側が気を利かせて、私好みのイケメン看護士が来ていたなら、
下の世話までグリグリ強要するつもりでいたのは、みんなには内緒だ。


346 :344-345:2009/08/03(月) 17:40:34 ID:7H8jN8uI
344-355です
すいません。お題の【看護師】を看護士と勘違いしてました
さらに、お恥ずかしい事に、看護師と看護士の違いを理解していませんでした
床をゴロゴロ転げまわりたいの痛恨のエラーですが
どうぞ生暖かくスルーしてやってください

>>339さん、スイマセンでした

347 :創る名無しに見る名無し:2009/08/03(月) 22:46:42 ID:AVjVZ0S4
これで終わり……?

348 :創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 14:10:15 ID:VuJbx5qv
「夏休み」

349 :創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 14:32:03 ID:jNN+J9+Q
「冒険」

350 :創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 14:37:03 ID:JxbDAz32
「現実」

351 :ネタバレ有り 未見注意1 ◆91wbDksrrE :2009/08/06(木) 20:25:36 ID:hMdiZtEc
サマーウォーズ二次創作。
ED後のお話。後日談というかそういうもの。ネタバレ大いに有り。

映画未見の人は要注意。未見の人は「未見注意1」をNGワード推奨。


352 :ネタバレ有り 未見注意1 ◆91wbDksrrE :2009/08/06(木) 20:28:05 ID:hMdiZtEc
 僕の知覚できる範囲の現実世界では、それは僅か数十平方メートル
の畳の上で起こった出来事だったのだけれど、仮想現実の世界では、
それは世界全体を巻き込んだ、大きな大きな事件だった。
 いや――事件、ではない。冒険。そうだ。それは冒険だったんだと、
今ならわかる。僕はその冒険を通して、かけがえの無い物を手に入れた
……ような気がする。勘違いじゃなきゃいいんだけどなぁ。こういう所で
うっかりポカをするのが、僕、小磯健二という奴だから……。

 それはともかく――

 お葬式……いや、お通夜の方かな? とにかく、本当ならもっとしんみり
してて当然なはずのその夜は、結構、いや、かなり賑やかだった。
 小さい子供達は花火をしているし、大人たちもそれをニコニコしながら
見守っている。食事はバーベキューで、新鮮なイカを醤油につけて焼いた
イカ焼きは、一言で言うと物凄く美味しかった。家の方は落ちてきたアレの
せいで半壊状態。自然、立食パーティーというか、そんな感じになっている。
 お悔やみの言葉もほどほどに、大人たちはあちこちで雑談に花を咲かせて
いるようだった。話の種は、もちろんおばあちゃん――栄さんの事だ。誰も
彼も、皆おばあちゃんの事が大好きだったんだな……。
「健二くん、何してるの?」
「あ……夏希先輩」
 見れば、向こうから夏希先輩がやってくる所だった。
 朝顔の模様が入った浴衣の裾を翻しながら、こちらに駆け寄ってくる。
「まだ先輩扱い? ……夏希、って呼んでくれないんだ?」
「え、だって、その………………夏希、さん?」
「……今はそれが精一杯、って感じかな?」
「え、ええ……まあ、はい」
「ふふっ、何か健二くんらしい」
「そ、そうですか……?」
 ……なりゆきとは言え、愛の告白のような事をしてしまった相手だ。
僕は夏希せ……さんの顔が正面から見れず、我知らず視線を反らしてしまう。
「皆……楽しそうですね」
「おばあちゃん、愛されてたんだなぁ、って……改めて思う」
「そうですね」
 おばあちゃんの事を話す皆は、皆残らず笑顔で、少しだけ目が赤かったり、
目端に光る物が見えたりする人もいるけれど、表情だけは笑顔だった。
「思い出……かぁ」
 皆、おばあちゃんの思い出を語り合っているのだろう。怒られたり、励まされたり
しながら、世話になったり、恩を返したりしながら、そうやって皆、おばあさん
と繋がってたんだと思うと……上手く言葉にはできないけれど、ただただ、
凄いと、そう思った。
「……健二くんが守ってくれたんだよ?」
「え……何を、ですか?」
「思い出」
 ……あの日、世界をあのAI――ラブマシーンから救ったのは、夏希、さん
であって、僕ではない。夏希、さんと、陣内家の皆と、全世界の人達が、
世界を守ったんだ。僕は……結局、あらわしの軌道を少しだけ逸らしくらいで、
結局家はこんなになっちゃうし、何もできなかったと言っていい。何も守ってなんか――
「家。壊れちゃったけど、残ってる。直せばいいよね?」
「あ……」
 家への直撃を避けた――それがもし直撃していれば、陣内の家は木っ端微塵に
消えうせ、そこには何も残ってはいなかった。そうなれば、家はまた一から創る
しかなくなり、そこに出来上がるのは思い出を欠片も残さない、新しい家に
他ならなかった……そういう事を、夏希さんは言いたいのだろう。
 ……そう、なんだろうか。僕にも、何かができたんだろうか。
「ありがと。健二くんが守ってくれたの。私の……おばあちゃんとの思い出」
「……でも、僕は……」
「その調子で……えっとね……私の事も、守ってくれるかなぁ、なんて……言って
 みたりしちゃったりして。えへ」

353 :ネタバレ有り 未見注意1 ◆91wbDksrrE :2009/08/06(木) 20:30:11 ID:hMdiZtEc
 最後の方、消え入るような小さな声で、僕は聞き間違いかと思った。
「さっき、大好きって言ってくれたの……改めて、ありがと。嬉しかった。
 今も嬉しい。……このまま、ずっと嬉しいままでいたいなぁ、って」
 ――聞き間違いでは、どうやらなかったようだ。
「それって……」
「ん」
 逸らしていた視線を先輩の方に戻すと、そこには顎を僕の方に向けて
突き出すような形で瞳を閉じて何かを待っているようなそんな姿勢の先輩が
いてそれはどう見てもキキキキキキキキキキキ、キススススススススを――!?
「さっきは私の方からだったし……今度は健二くんから。ね?」
 周りには人の気配は無い。皆それぞれの話に夢中のようで、こちらを
伺う様子はなかった。だからこそ、夏希さんも――
 僕は深呼吸しながら考えた。どうすればいいのかを。そりゃもちろん、
どうすればいいかなんて決まってる。解はもう出てるんだからあれこれと
計算をする必要はなくてそこに向かって一直線で回答を実践して正解を
もらえばそれでいいわけだけどそれとこれとは話が別で――
『夏希を、よろしく頼むよ』
 その時、僕の脳裏にあのおばちゃんの言葉が甦った。
 結果として……あの言葉は、おばあちゃんの遺言となってしまった。
 その遺言を伝えられた僕は、未だに自分に自信が持てないままだけど、
夏希さんを幸せにできるかと今聞かれたら「頑張りますとしか言えません」と
しか答えられないままだけれど――それでも、僕の今の気持ちは、もう
決まってます。僕は――小磯健二は、篠原夏希さんを……守っていきたいと
思っています。自信なんかまだ無いけど、ずっと……ずっと守っていければ
いいと、そう思っています。それが今の僕の本当……今の僕の、真実です
――おばあちゃん。
「ん」
「……じゃ、じゃあ……」
 情け無い事に、身体は小さく震えていて、それが肩にそっと手を添えた事で
夏希さんに気取られなければいいな、と思いながら、それでも僕は、ゆっくりと
夏希さんの顔に自分の顔を近づけていって――
 ――。
 時間はどれくらいだっただろう。
 一時間くらい経ったような気もしたし、一瞬だったような気もした。
 唇から伝わってくる温かさは、あの日先輩と指を絡めた時に感じたそれ
よりもずっと熱いように思えた。きっと、僕も熱くなっているだろう。鼻血、また
出なきゃいいけど。
「……」
「……へへ」
 実際には、十秒くらいか。それだけの時間、僕と夏希さんは唇を合わせ、
それを離した。見れば、夏希さんは顔を真っ赤にしている。僕も、きっと同じ
ような顔をしてるんだろう。幸い、鼻血は出てきていないようだった。
「ありがと、健二くん」
「えっと、その、あの……こ、こちらこそ、ありがとうございます!」
「あははっ、なんでそこでお礼なの?」
「え……な、何か変でした?」
「でも、そういう所も健二くんらしい、かな?」
 どうやら――まだ、未だに、ここに至って尚、どうやらとつけてしまうくらい、
僕の自分への自信の無さは筋金入りなわけだけれど――かけがえのない
ものを手に入れたというのは、どうやら勘違いではなかったようだ。
「あ……えっと……夏希さん」
「なに?」
「あの……大好き、です」
「うん……私も」
 繋いだ手と手の温もりを感じあいながら、僕らは笑いあった。

 こうして、僕の夏休みの冒険は、ハッピーエンドで幕を閉じたのだった――

 終わり

354 :ネタバレ有り 未見注意1 ◆91wbDksrrE :2009/08/06(木) 20:32:32 ID:hMdiZtEc
ここまで投下です。

書きたくなったから書いた。
今は反芻している。

最後に重大なネタバレを書いておくと
佳主馬はおうわ何をするやめはなせdrftgyふじこlp;@:「

355 :【夏休み】【冒険】【現実】 :2009/08/06(木) 20:34:39 ID:OTUb78F1
【夏休み】【冒険】【現実】 

女子中生Aの場合
「夏休み冒険しました。でも現実は厳しいです」
夏休み金髪にするも、即効で補導されて先生にばれた

男子中学生Bの場合
「夏休み冒険したッス。現実は厳しいッス」
夏休み、気に入らない先輩を呼び出してフルボッコするつもりが
5人がかりで来られてボコボコにやられた

女子高生Cの場合
「夏休み☆冒険しちゃった。現実超ヤバイ」
夏休みやりまくって産婦人科通院中

男子高校生Dの場合
「夏休み冒険つーか遊んだけど、現実シャレなんね。マジで」
女子高生Cの彼氏。……ただいま絶賛バイト中

社会人男性Eの場合
「夏休み冒険に行きます。現実?なんとかなるでしょ。ハハっ」
夏休み取りまくって会社クビ

ヤクザの下っ端Fの場合
「夏休みじゃないが人生最後の冒険に行く。現実?さぁ 」
案の定失敗して東京湾に沈む

老人(男)Gの場合
「夏休み、ちょっと冒険して山登ります。現実?大丈夫ですよ 」
案の定遭難する

フリーター(男)俺の場合
「最近毎日夏休み。生活厳しい金が無い。
 冒険って訳でもないが鬱憤晴らしにageて見る、現実?どうなることやら」   




356 :創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 20:35:56 ID:hMdiZtEc
戦えよー、現実とー!w

357 :波浪:2009/08/06(木) 20:56:20 ID:ze448FRB
案の定、やめいwww

358 :夏休み 冒険 現実:2009/08/08(土) 17:22:59 ID:a/WXBNOo
 高校に入って初めて迎えた終業式も終わり、いよいよ明日から夏休みのはずだった。
 いや、世間一般の高校生は当然のごとく夏休みだ。
 だけど、俺はそれを謳歌できそうにもない事態に巻き込まれていた。
 話は変わるが、蟹を知っているだろうか?
 二つのハサミがあって、全身の表面が硬くて、茹でると赤くなって、その身が甘くてとても美味しい。
 大概の人は知っているだろう。
 だが、目の前に居るこの人には全くその常識が通用しないようだ。
「そういうわけで、我々はそれぞれに信仰する蟹の力を行使して戦うのだ。どうだ、かっこいいだろう。」
 ほら来た。超理論。
 下校中に、舗装路のアスファルトを爆ぜさせながら「ちぃ、逃がしてしまったか。」なんて言ってたこの男を助けなければ、俺も世間様よろしくそのまま楽しい夏休みを堪能できていたというのに。
「大体わかりました。さ、手当ても終わったし、探し人を追いかけてはどうですか?」
 怪我をしていたからとりあえず消毒だけでもって、すぐ近くの我が家にこの男を招いてしまったのが俺の誤算だった。
 どうやらこの男は俺に人探しを手伝わせるつもりらしい。
「いや少年、君に渡雅仁探しの協力を依頼しているんだよ、俺は。」
 聞きました?ワタリが苗字でガニが名前なんですって!
 あ、今俺の目の前で喋ってるのは多良場画人。姓はタラバで名はガニ。
 こいつらみんなガニじゃねーかよ。
 んで、多良場画人さんにこう説明された。
 世界一の蟹を決める戦い、『世界蟹統一戦』なるものが四年に一度開催されているらしいんだけど、なんと長老的存在の蟹総帥(なんか旨そうに聞こえるな)である頭歪我児(ズワイガニ)さんが暗殺されたらしい。
 そこで今回の統一戦はその犯人を捕まえることになったそうで、怪しいヤツを見つけては徹底的に懲らしめて本部に送りつけるんだそうだ。
 万が一、犯人が世界蟹(世界一の蟹をそう表現するらしい)になったら、まぁ誰も敵わないから蟹総帥(やべぇ蟹雑炊食いてぇ)暗殺の件は許してやろうって方針だそうで。
 まさか、こんなアホなことが現実に行われているとは夢にも思わなかったぜ。
 追いかけていた理由はそれだけではないそうで、さっき多良場氏が逃がした渡雅仁は、この街にある鮮魚自慢の居酒屋全てメニューをワタリガニ料理一色に染めようと暗躍していた極悪人なんだそうだ。
 この件に関しては、タラバガニ料理一色に染めようとしていたとしたらどうなのか、と質問してみた。
 当然のように、「讃えられるべき行いだ!」とか返ってきた。自分勝手なやつらだ。
 さらに質問として、とりあえず穏便に断れそうなことを聞いておこう。
「その統一戦の途中で一般人の助けを借りていいんですか?」
 うん、これなら間違いに気付いて俺のことは諦めてくれるに違いない――――
「問題ない!」
 問題ないスか!
「競技は今日までだ。夏は蟹も腐りやすいからな。9月の半ばまでは、競技として犯人探しを行えば失格になってしまう。言わば、夏休みだな!」
 カッカッカッと軽やかに笑う多良場氏。
 逃げ場が無くなり慌てふためく俺。
 そんな俺の様子を見て、ギラッと微笑んだ多良場氏が俺の両肩に手を置く。
「さぁ、明日から忙しくなるぞ、少年!」
 したくも無い冒険に溢れた夏休みという現実が、俺の前には立ちはだかっていた……


--------------------
他の人のを読むと自信がなくなるから読まずに投稿。
流石にネタかぶりはないかな。

359 :創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 17:29:35 ID:HEq+yv3J
むしろ蟹がお題かと思ったw
蟹雑炊食いてえww

360 :創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 21:25:10 ID:vQ3AgRcG
確かにそのフレーズは蟹雑炊食いたくなるwww

しかしなんで蟹?w

361 :創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 21:48:06 ID:Epvvwaqx
>>358
これすげえ好きw

362 :創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 23:14:56 ID:pcQCmk++
スベスベマン=ジュウガニー氏(インド代表)の登場を希望。

363 :創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 23:19:58 ID:/lJR3KAQ
キラードームという名称の蟹型ゾイドがあってだなあ……。

364 :創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 23:23:37 ID:HEq+yv3J
>>362
毒を使った卑怯な攻撃が予見されますね

365 :創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 23:49:23 ID:vQ3AgRcG
「これ毒違うアルねー。ガンジスの聖なる恵みでゴワす」

366 :創る名無しに見る名無し:2009/08/09(日) 06:24:05 ID:DKOVltSf
まさかこんなにレスしてもらえるとは…。
これは、内輪に見せた掌編のスピンオフて、スベスベマンジュウガニも伝説扱いで一応登場してるよ。
悪乗りして、またうまいことお題にマッチしたらこのネタ書いてみようかな…

367 :創る名無しに見る名無し:2009/08/09(日) 14:12:41 ID:I1XH2tjR
今回、全然お題にマッチしてないはずなのに、普通に違和感なく書けてた件

368 :蚊取り線香 関節技 看護師 1/5:2009/08/10(月) 17:29:55 ID:CFliMNOS

 あれ? この怪人と戦うのって今回で三度目じゃなかろか?
 目の前で構えを取るトゲトゲがびっしり生えた敵を見て、俺は気付いた。
 確かに、この怪人と戦うのは三度目だ。
 一度目は、俺が足を引っ掛けられて倒れたところにこの怪人が飛び込んできた。そりゃあ痛いのなんのって。こいつ全身トゲトゲで、スーツの編み目からトゲの先が出てきて皮膚に刺さりまくるんだよ。あの時は確か全治五日だったな。
 二度目はサバ折りを仕掛けて、やっぱり編み目からトゲの先が出てきて刺さる刺さる。深々と刺さったせいで、治るのに一週間はかかったぞ。
 そして今回で三度目だ。
 最初のときは一方的に負けたんだっけな。だって、いきなり転かそうなんてしないだろ。あれは仕方ないよ。
 その次は、殴ってみて拳がチックチック痛かったから打撃は無理だって考えたんだ。だから腰骨を折ってやろうと思って抱きついたんだよな。いや、アレは失敗だった。もっと考えて行動すればよかったぜ俺。
 しかし、二度目の時は痛みを我慢してきっちり折れるとこまで折ってやったからこの怪人、腰を痛めたはずなんだよな。
 待てよ。
 もしかすると、どこかで治療して全快したからまた出てきたのか?
 なら、怪我してるヤツが治療を受ける病院みたいな所があるんじゃないだろうか……
 いや、あるな。
 間違いない。
 するってぇとあれだ。相手に怪我させて、その後に負けたフリして尾行すれば、弱った敵の溜まり場がわかる。そして、大勢弱らせて全快する前に弱った敵を一網打尽に叩く。
 これだ。
 キタよこれ。
 天才軍師っぷりが半端ねぇ。
 課長も「さすがは大野だな! これからはボーナス二倍出さないとな!」って具合だ。
 よし、即実行!
 っと、その前に確認しておかないとな。
「おい、トゲトゲ野郎! 三度目の正直だ! 覚悟しろ!」
 うん、これなら自然に回数が確認できるはずだ。違うなら言い返してくるだろうし。
「いえ、あなたとこうしてまみえるのは四度目です」
 な ん だ と ?
 四回目? やべぇ、一回忘れてる。いつだ? 全然記憶にねぇよ。恥ずかしい。ママ、恥ずかしいよボク。

369 :創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 17:32:52 ID:CFliMNOS

 いやいや、弱気になるなよ俺。強く否定すればなんとかなるだろ。
「ウソを言うな! そこんところ公務員の俺はうるさいんだ! 良いか、一回目はハンデで転んでやったところをお前に圧し掛かられてチクチクしたから勝ちを譲ってやった! 二回目は俺が貴様の腰を完璧に砕いての大勝利! そしてこれが三度目だろう! このド悪党め!」
 少し誇張するくらい許してくださいよ。
 それにしても完全に論破してやったな。へへ。照れるぜ。
「ウソではありませんよ。あなたが最初だという回の数日前に一度ありました。物陰で蚊取り線香を焚いているあなたの頭をペチッと叩いたら、鼓膜が破れるかと思ったほどの悲鳴を上げて走り去ったじゃないですか」
「あ! あの激痛は貴様の仕業だったのか! やはりド悪党だ! メット被ってるから見えないけどな! お前のチクチクハンドで殴られた部分からは、もう生えてこないんだよ! 天然芝が! 返せよ! 毛根返せ!」
「そう言われましても、こちらも徒党を組んでいる以上、ある程度の成果が必要でして。」
「こっちもだよ! 昇給懸かってんだよ! ていうか減給間近なんだよ! ていうか、変身シーンで攻撃するのなしだろ! 蚊取り線香焚かせろよ!」
 ああそうさ。蚊取り線香を焚くのが所謂変身プロセスってヤツさ。かっこ悪いだろ。
 だけど、このスーツ作ってくれたオヤッサンが言うんだ。「複雑難解な変身プロセスを自動で行えるよう、この蚊取り線香に全てのプログラムを入力してある。
敵が現れたらこの蚊取り線香に火を灯せ。全ての灰が落ちきる頃、お前は手に入れているはずだ。ハカタークスーツの力を!」ってな。その好意を無駄にはできない。
「え、あなた、蚊取っ。ぶっ! ぷぷぷ! い、いえ。決して、ぷ、笑ってる、わけ、では、はは。はははは、ククククッ」
 はいはいブチギレ。
 いや、我慢しろよ俺。今日は作戦が天才軍師でボーナスなんだろ?
 これで耐えなければ全てが水の泡だ。ウォーターバブル。
 ここは、キレたフリでコイツに怪我負わせて、俺は無傷でなければな。
「きぃ、さぁ、まぁぁぁぁああぁああぁぁああああ!」
 いや、キレてないよ。コレ、ホント。
 俺はトゲトゲ怪人の左手の指を、腰に常備していた警棒で思い切り殴りつけた。(おや、サバ折りとかじゃなくて普通にこれ使ってろよ俺)
「いったぁっ! ちょ、やめ、止めてくださいってば!」
 イテェェェエエエエエェェ!
 こいつ、「ば!」の時に殴られてない方の手で思いっきり俺の首筋殴りやがった!

370 :蚊取り線香 関節技 看護師 3/5:2009/08/10(月) 17:34:52 ID:CFliMNOS

 チクチク痛いんだよ! チクチク!
 しかし、チャンスだ!
「イテェェェエエエエエェェ! 首筋、おま、痛ぇよぉ。もうやだよ、俺、帰るよ。バーカ! 覚えてろよ、このサボテン着ぐるみバカ! アホーー」
 完璧な後退劇だな。
 よし、物陰に入ったらヤツが動くのを待って付けよう。
 俺は、首筋が焼けるように痛むのを我慢して、トゲトゲ怪人の追跡を始めた。

 なんとも驚いたことに、トゲトゲ怪人は一度だけほの暗い路地裏を通った時、ヒトの形に変貌を遂げた。
 変身能力を持つ怪人のクセに冴えないのが特徴みたいな男の姿に。トゲトゲの時の方が、まだ可愛げがあるように感じるぜ。
 なんでまたそんな姿を選んだのか俺には到底理解できないが、まぁ、世の中に溶け込むためとか、そんな普通な理由なのかもしれない。
 とりあえずヒト形トゲトゲをトボトボと追うこと十七分。ついに俺はヤツらの療養施設をつきとめることに成功した。
 地元ではかなり名の知れた大病院、森村外科。
 フツーの病院じゃねーか!
 俺も通院してたよ!
 あーあ、ハズレだな。ヒトの形になれるみたいだし、普通に近くの病院で治療乃至入院。
 至極当然の判断だわ。
 こりゃあもう追跡も必要ないかな、とも思ったがこいつが何号室に入院するのか知ってれば、寝込みを襲って絶対勝利の法則完成だからな。もうちょっと様子を見よう。
 俺はおもむろにポッケからガムを一粒取り出し、ガリガリモグモグと柔らかくして小さな盗聴器を仕込む。
 そして盗聴器入りガムを、ヒト形になったトゲトゲ怪人の背中に向かってオーバースローピッチングでナイスピッチング。ワイシャツとスーツの襟の間に挟まったぜ。
 これでこいつの話は全て筒抜けだ。
 田沼と呼ばれたヒト形トゲトゲ怪人が診察室へ誘導される。
 さぁ、聞かせてもらおうか。お前の「人(?)となり」の全てを。ぐへへへ。
「あら、田沼くん。またハカタークに襲われたの?」
 ジジジなんてノイズの後に聞こえたのは若い女の声だ。女医か? 看護師か? ナースいいなナース。

371 :蚊取り線香 関節技 看護師 4/5:2009/08/10(月) 17:36:28 ID:CFliMNOS

 てか、今、襲われたって言ったよね? はぁ? ふざけてんの? いいかげんにしなさいよ? 俺は地球の平和を守る公務員だよ? 怒るよ?
「ええ。いつものごとく貴金属を盗み出し、運搬班に戦利品を渡したところで襲われました」
 お、あれか。装飾品店連続強盗事件の黒幕はやっぱりこいつらか。おかしいと思ってたんだよな。通報有リの連絡後、大至急変身して現場に行ってるのに何も持ってない怪人が一人だけポツンだから。
 まぁ、変身に時間かかっちまうんだからしょーがないよな。
 ……お?
 あ、また来たよ。今日の俺は世界の頭脳だわ。
 蚊取り線香を燃え尽きるギリギリで止めておいて、必要な時に残りの少しを燃やせばすぐに変身できるぞ! だってあれ、最後の灰がパラパラって落ちて、そしたら全身がピカーってなるもんよ。
 ハカターク進化しちゃったよ。憎いね、憎いあんちくしょうだね、俺。うひひ。
「大変だったね。ちょっと傷を見せて。わ、これ、薬指と中指が複雑骨折になってる。先生に明日、緊急オペ入れてもらっておくわ。それにしても痛かったでしょ? ごめんね……」
 折れてたか。ってか、何でこの女が謝るんだ?
「ナマ子様、我らシュウメンキ一族の為ならば、我が骨の五本や十本など安いものでございます」
 ナマコ? ナメコ? シュウメンキ? センメンキ?
「あなたの苦労でまた仲間たちが美しく救われる。一族みんな、感謝しているわ」
 美しく……駄目だ。話が見えん。
「さ、入院と手術の手続きをするから奥へ。仲間たちが待ってるわ」
 仲間、たち。キタコレ! どうやら今まで怪我させた怪人が入院しているらしいぜ。一網打尽作戦、成功に一歩前進だな。
 その後も盗聴と覗きを続けた結果、ナマ子と呼ばれる看護師が「シュウメンキ一族」の首領であるということがわかった。
 看護のためにせわしなく各部屋を回り、その度に崇められているその様はさながら女神のようであった。
 だが、そのゴマ団子を剣山で叩き潰したようなナマ子の素顔を見たときは、なんとも言えない悲しい気持ちになったな。
 どうやらヤツらは、ヒトの姿のときに少しでも美しくありたいがために服や宝飾品を盗み、それを着用しているらしかった。

372 :蚊取り線香 関節技 看護師 5/5:2009/08/10(月) 17:38:00 ID:CFliMNOS

 なるほど、シュウメンキとは醜いツラのオニ、「醜面鬼」ということらしい。
 人として人間社会で生きようと頑張ったが、容姿が原因でいじめられたり、ハブられたりしてたようで。
 なんか、不憫というか、頑張れって思うよ。
 まぁ、駆逐するけどね。
 とりあえず、あいつら全員倒すより、あのナマ子とかいう首領を倒す方が早そうだ。
 しかし、ハカタークツールの一つ「強さセンサー」でも計測できないほどのパワーだ。まともにやり合っても勝ち目はないだろうな。
 だが、今日の俺はどこか冴えているみたいだぜ。
 思えば天才軍師の件といい、警棒を使った見事な殺陣といい、変身プロセス短縮術といい、ホント今日の俺は冴えてる。
 そして、一番のアイデアがこれだ。
 次々に醜面鬼を病院送りにしてナマ子の看護負担を増大させる。疲れに疲れて、精神的にも追い詰められてもう限界――そこに俺が颯爽と現れて圧倒的な強さを見せつけ勝利。大勝利。ヴィクトリー。
 やべぇ。
 今日の俺やべぇよ!
 このまま作戦を課長に話すだけでも給料倍増だな!有給も倍になるかも!
 だが、冴えてる俺はここには甘んじないぜ。
 ナマ子を倒して事の顛末と俺の活躍を大々的に報告!
 部下の確かな成長と大きな功績を前に咽び泣く課長!
 偶然部長が通りがかり課長の様子に疑問を抱く。
 泣きながら俺をたたえる課長に、部長も思わずもらい泣き!
 一気に課長に昇進して男泣きする渋い俺……
 副部長に昇進して娘さんの笑顔もひときわ輝く課長とその御一家。
 きたきたきたきた!
 ハッピースパイラルだな!
 さあ、このハピスパを現実にするには何をすればいいんだ、俺?
 当然やることは一つだよな。
 醜面鬼の入院期間を長引かせるため、必要なスキルを学ばねばなるまいよ!
 もちろん効果的なのはサブミッションで骨を折ること!
 よし、何はなくとも関節技を学ぼう!
 表面が治りかけて痒くなってきた首筋を掻きながら、俺は未知の世界へ飛び込むことを決めた――――

373 :創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 17:44:02 ID:CFliMNOS
以上です。2/5の名前蘭、書き忘れました。ごめんなさい。
一つ前の三題を使わせていただきました。
勢いだけで、心には何も残らないモノになってしまった…。

374 :創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 18:06:28 ID:pqcfcN6F
蚊取り線香悠長すぎだろw
毛根返せww

375 :創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 18:59:46 ID:dKPw+9Qk
軍師っていうか、風が吹けば桶屋が儲かる理論だろそれw
変身過程もだが、とことん悠長だなこの公務員w

376 :創る名無しに見る名無し:2009/08/11(火) 18:48:02 ID:LhD5ImC0
なにが始まったかのかとw

377 :創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 00:27:06 ID:SWsVmIzs
次のお題に行きたいな☆

378 :創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 00:29:32 ID:WlmslYhF
おし、『アブラゼミ』

379 :創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 00:39:09 ID:SMMqdcLC
風の吹く場所

380 :創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 00:46:26 ID:czISyMm6
石造建築

381 : ◆91wbDksrrE :2009/08/12(水) 01:27:31 ID:SMMqdcLC
 石造建築物にアブラセミがとまっている姿は、正直似合わない。
 やはり、セミといえば木造建築、ないしは木そのものにとまっているもので
あるというのが日本人の認識というものであるという事だろう。
 だが、最早そんな認識に何の意味があろうか。日本は……いや、世界は
変わってしまったというのに。
「……神殿、か」
 その石造建築物は、ギリシャという言葉からイメージされるような、典型的
神殿の姿をしていた。そして実際にそれは神殿として用いられており、今も
呟き見上げる俺を他所に、参拝する人間が建物の中へと入っていく。
「どうしたものかね」
 誰に問うでもなく独りごちる言葉に、当然答えは無い。神殿の軒――と言うの
だろうか?――にとまったセミも、答えるが如く鳴くでもなく、ただじっとしている。
 世界的恐慌と異常気象。それに伴うある宗教勢力の台頭。その結果が
この神殿であり、神殿を中心とした支配だった。世界を崩壊の危機から救った
事による信頼が、狂信へと変わるのにさして時間はかからず、信じる物には
信じるに足る虚構を、信じぬ物には信じざるを得なくなる恐怖を与え、本来
ジージーとうるさいはずのセミまでも黙らせるような、圧倒的支配を構築し――
結果、世界は変わった。それは、変革と言える程の変貌だった。
 その変革によって、世界の誰も彼もが思想を一(いち)にし、地域紛争や
内戦はなくなり、世界は平和になった。表面的には、だ。
 信じる者には信じるに足る虚構を。信じぬ者には信じざるを得なくなる恐怖を。
 それはつまり――そういう事だ。
「……俺は、嫌なんだよな」
 どうしたものか、という問いに対する答えは、既に俺の中では定まっていた。
だからこそ、俺は今ここにいる。
 振り返れば、街並みの中に日本を思わせる家屋はほとんどなくなり、神殿
に模した石造りの建物が並んでいる。コンクリートのビルすらも散見する
程度にしか存在していない。木々もまばらで、遠景に見るそれは、さながら
ジオラマ模型のようで、現実感が無かった。
 木造家屋とその庭、コンクリートのビルと、それぞれの合間に経つ街路樹と……
そんなありふれた――ありふれていた光景は、そこにはもう存在しない。
「嫌なんだよ……ただそれだけだ」
 俺の呟きに、ようやく応えるものがあった。
 風だ。風が吹いた。ぬるい風だ。夏の暑さを多分に含んだ、心地よさとは程遠い風だ。
 だが、風は吹く。いかにあいつらが何もかもを、セミすらも、人すらをも黙らせる
事ができようとも、風を止める事はできない。
「……行くか」
 俺は再び振り返り、石造りの神殿を見上げ、歩き始めた。懐にある物を確かめ、
口端を歪め、一歩一歩進み始めた。
 この風の吹く場所から、俺は始めようと思う。
 俺という風が例え止もうとも、どこかでまた新しい風は吹く。
 それが何もかもを根こそぎ覆す竜巻になる日も、いつか必ず来る。
 だから俺は――その事を皆に教えてやる。風は吹くのだ、と。セミのように儚く
散ろうとも、風に乗って飛べる羽は、誰にでもあるのだ、と。
 そんな俺の内心を知ってから知らずか、セミはジーと一声鳴いて飛び立った。
 ――そうだ。お前だって鳴けるんだ――飛べるんだ!
 俺は口端の歪みをそのままに、歩む事を止め――駆け出した。


「侵入者は排除しました」
「そうか」
 その報告を受けた時、青年は、感情を見せる事無く頷いた。
「……そうか」
 再び頷き、青年は瞳を閉じた。彼が皮膚で感じるのは、ぬるさを含んだ、だが
確実に吹いている風だった。びゅうという、音を立てて吹く風だった。
 その時彼が何を思ったかは、何を思わされたかは、今もって定かではない。
 だが、三年の時を経て革命を起こす事になる彼にとって、その名も知らぬ
男の無謀な試みが何かの切っ掛けとなったであろう事は、想像に難くない――

                                       終わり                                        

382 : ◆91wbDksrrE :2009/08/12(水) 01:27:43 ID:SMMqdcLC
ここまで投下です。

383 : ◆91wbDksrrE :2009/08/12(水) 02:39:51 ID:SMMqdcLC
age忘れてたのをウラトさんに気づかされたのでage

384 :創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 03:01:16 ID:7dsvQvLJ
銭湯の帰り道、残虐な狩りを目撃した。

私は人と出会うのがめんどうなので、好き好んで終い湯を頂く。
終い湯には終い湯に似合う、きらびやかな彫物の方や、私同様の気難し屋や、水商売を生業にしているらしい人が、
ぽつぽつと席を空けて座り互いに干渉を恐れたり、むしろ誰かにすりよって触れ合いを求めたりする。
そういう人々に対する内心の共感もあれど、家風呂よりも銭湯を好むのは、単純に掃除が嫌いだからだ。
私の判断基準は常にめんどうかめんどうでないかによって裁定される。
バスタオルで体の水気をおおまかに拭い、銭湯の脱衣所に備えられた冷水器からちょっと水を飲み、
ドライヤで髪を乾かして、下着を着け、白いシャツを着て、縦にラインの入ったジャージを履く。
今どき、高校の野球部の女子マネージャーでもしなそうな格好で、サンダルをつっ掛けて夜道を歩く。
色気も何もあったものではない。
が、風呂あがりにまで気を使うのは特段の事情がある時だけでよいだろうし、
あまり色気を漂わせて、夜な夜な歩く暗がりで突然誰かを惑わせて凶行に及ばせても、
私も、その誰かも、双方ともに得にはならないだろうと思えた。

ジジジジ

何かが激しく鳴る。
公園の電灯が切れ掛かると明滅しながら今のに似た音を発てるが、私が現在歩いているのは、
私の賃借しているマンションが曲がり角ふたつ先にある地点のアパートの前だった。
ジジジジ、と、また音が鳴る。
今度は、ジジジジ、に加えて、ばちばち、が混じる。
どうも蝉が暴れているらしかった。
私が見上げる斜め上方のアパート壁面に、茶色の飛行物が体当たりして、
何度かコンクリート面を擦りあげて、やがて失速し据え付けられたエアコンの室外機の上に落ちる。
するとそこへ、蝉の何倍もある影が斜めしたから伸び上がるように跳ねて着地する。
蝉の何倍もある影はしかし私に比べれば小さく、白い部分と茶色の毛が全身を覆っていた。
端的に言えばそれは猫だった。
猫は、私の視線にも頓着せず(あるいは全く気付かず)、蝉とりに夢中だった。
蝉は捕らえられまいと何度も飛び上がり壁を擦りあげて墜落し、
猫は捕らえようと伸び上がり前肢で壁を掻き、落ちて来た蝉に驚いて一旦後退する。

くしゃん

何かの音が響き渡る。
猫が振り向き、その隙を狙っていたかのように蝉が飛び立ち、私は音の正体に気がつく。
私のくしゃみだった。
猫は飛んでいった蝉の方を見、次いでくしゃみをした私を見、物言いたげに、にゃあご、と鳴いた。
「あの……ごめんなさい」
なんとなくいたたまれなくなり、私は狩人に謝罪した。

次の日そのあたりを通ると、何かに齧られたような蝉の残がいが落ちていた。
遠くで、蝉の、ジジジジ、が聞こえる。
今日も狩りは行われているらしかった。




385 :創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 22:54:39 ID:SWsVmIzs
なんか回りくどい書き方の作品が多くない?
別に文学賞狙ってるわけじゃないんだから簡潔な文章、構成を心掛けてほしいな

386 :創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 23:22:28 ID:bLk62Cwd
回りくどいんじゃないよ
誰かの文体模写を繋ぎ合わせてそれが自分の文章力だと勘違いしてるんだな、みんな。
小説コンプレックスとでも言うべきものさ。
小説家まがいの同人野郎達が褒めやすい文章なんだ。
だから君にはそうではない作品を検討する余地があるんだよ。
何も飾り立てない文章で、こんな板で評価される自信があるならやってご覧よ。ふふ。

387 :創る名無しに見る名無し:2009/08/13(木) 04:50:18 ID:2Qipv2v1
難しいこと言うねー。しかし、一理ある。がんばってみよう。
…学のない俺には簡潔な文章ってのがどういうものなのかきちんと理解できていないかもしれないが。

388 :アブラゼミ、風の吹く場所、石造:2009/08/13(木) 14:00:50 ID:/M1Rt2tb
み゙い゙い゙ぃぃん み゙゙い゙ぃぃぃーん

夏休み、アブラゼミの鳴き声が響く昼前。妹が居間でゲームをしていた。
画面の中では石造りの城の廃墟を少年が走り回ってる。
「これ二週目?」
俺は答えを聞く前にツーコンをラックから取りだした。
「んー」と生返事が返ってくる。
「昼、そうめんでいいか?」
「んー」

み゙い゙い゙ぃぃん み゙゙い゙ぃぃぃーん

びゅうびゅうと風の吹く狭い城壁の上で魔物をけちらしながら妹が聞いてきた。
「風ってどっから吹いてくるのかな?」
「高気圧の中心だろ」
まゆ毛が八の字みたいになってる。理解してないなコイツ。
「空気は気圧の高いところから低いところへ移動するから」
「あぁー」と納得した声を出した後こっちを振り向き、かわいそうなものを見る表情で言った。
「お兄ちゃんには夢がないね…」
これだから理系は、とかつぶやきながら台所にいき、麦茶の入ったコップをもって戻ってくる。
ちょっとむかついたのでコップを奪って麦茶飲み干してやった。

ー終ー

389 :創る名無しに見る名無し:2009/08/13(木) 19:27:53 ID:zRh6fd2n
>>388
擬音がちょっとウザスだけどなかなかいい感じだね。
もうちょっと話に展開があったら嬉しかった。

390 :創る名無しに見る名無し:2009/08/14(金) 02:53:54 ID:HBlJ65kt
>>385
>>386
何か大事なことに気付かされたわ
最近、文章の洗練だけに気が向いちゃってて、展開だとかキャラだとかをないがしろにしていた
文章がド下手だったころは、その分を補うために必死こいてウケる展開を考えていたのに、
いつの間にか展開を考えなくなってしまってた
良い批評であったぜ

391 :アブラゼミ 風の吹く場所 石造建築 1/3:2009/08/14(金) 05:24:18 ID:jeb9EJ/N
扉を抜けると、熱気の壁が私を迎えた。

視界を白く焼き尽くす日差しに、思わず目を覆う。油蝉の合唱が耳を圧する。
休日出勤、どうせ給料もつかないのだからとのんびりやっていたら
午後の一番暑い時分までかかってしまった。
明治からの石造りの役所は、日中でも薄暗いのが難点だが、
こんな季節でもひんやりと涼しく、自宅より余程過ごし易いものだからつい長居をしてしまう。

私は、アプローチへ続く石段を降りながら、ぐるりとあたりを見回した。
視界の端で、のそりと動くものをとらえ、思わず苦笑した。
「今日も来ていたのか。難儀だな、お前は」
近付いて、手を伸ばした。迎えるように、黒くぬれた鼻先が持ち上がる。
お世辞にも涼しそうとは言えない、それは伸び放題の茶色の毛皮を着た犬なのだった。
「家で待っていれば、もう少し涼しいだろうに。」
私が言うと、申し訳程度に尾を振る。ぱたり、ぱたりと石の床が音を立てた。
だらりと舌をはみださせ、四肢を投げ出し腹をぺたりと白御影の敷石へ貼り付けている。
これでも、日差しを避けて、場所を選んでいるらしい。
これの居る場所は、いつも、余所より少し風が通る。

名前もない、この焦げた麦のような色をした犬は、
二年ほど前にどこかから流れてきて、私の家の庭に入り込んだ。
夕立の雨にぬれそぼった様子に哀れを催した妻が、
気まぐれにひさしを貸し、鰹節をかけた飯をやったら居ついてしまった。
すでにかなりの老犬と見えて、動きは緩慢、無駄吠えをするわけでもない。
ふらりと庭を抜け出てはいつのまにか戻ってきて、居ると思えば猫のように居眠りをしている。
起きているときでも、庭に出る甲虫を食ったりはしているが花を荒らすわけでもない。
番犬の役には立たないが、たいした負担になるわけでもなし、となんとなく養い続けて今に至った。
庭のすみの生きた置物のように扱っていたら、気付けば名前も付けなかった。
呼ぶにしても、あれ、とか、あの子、あるいは「犬」で済んでしまうのだからしかたない。
夫婦そろってものぐさなものだと少し呆れないではない。

そんなあれが、いつからか私の職場へと姿を現すようになった。
思い当たるきっかけもあるにはある。
ある日の仕事が終わった帰り道、香ばしいにおいに誘われ、焼き鳥屋の前で小銭入れを開いた。
ふと妙な気配に振り返って見れば、足元に忍び寄っていたのは、大きな茶色の毛玉だったのだ。
めずらしく生気に満ちた目で熱心に見上げてくる様子に、多少心が動いた。
その晩、晩酌のつまみの鳥肉のひとかけらにご相伴したことが、彼の嗜好に影響を与えたのだろうと思う。
その頃から、毎日ではないにせよ、仕事を終えて帰宅する私には、しばしば「同伴者」が付くようになった。
私が5時の勤務を終えて役所を出ると、どこぞの物陰からするりとあれが姿を現す。
焼き鳥の結ぶ、ひとりと一匹の道行き。
犬に塩気のあるものは良くないだろう、と妻は小言を言ったが、
結局は老い先短い身に多少の贅沢も許そう、と言うところに落ち着いた。
ご本尊への寄り道は、私の少ない小遣いと、かのご老体を慮る関係上、ごくたまのご褒美だったが。

392 :アブラゼミ 風の吹く場所 石造建築 2/3:2009/08/14(金) 05:25:26 ID:jeb9EJ/N

「今日はどうだ、一杯やるかい」
私は歩きながら、奴に話しかけた。
ゆっくりとした歩みを進めていた犬が、ゆらりと耳をふるわせる。
「今日は休日出勤だ。それほど文句も言われまい」
妻のあきれたような顔を思い浮かべながら、独り言のように続ける。
件の焼き鳥屋の前に来て、並んだ串を吟味しながら、財布を取り出そうとしたところで気が付いた。
鞄一式、忘れてきていたのだ。どうりで、なんだか身軽な気がしていた。
鳥屋のおやじの顔を気まずく眺めたが、ちょいと手を上げて苦笑いでごまかした。
「また、今度」
私は歩き始めたが、犬はまだ店の前に留まったままだった。置物のように肉を眺めている。
「おい、行くぞ」
いつもは分別良く諦めるのだがな、と思いながら私は犬を呼ぶ。
顔なじみとなっているおやじが、心もち身を乗り出した。
「すまねェな。奥さんにも止められてるんだよ」
「妻に?」
思わず聞き返したが、おやじは犬に向かって申し訳なさげに眉を上げて見せただけで、顔を引っ込めた。
妻がわざわざそんな根回しをしていたとは知らなかった。
どうせ金も持っていないのだしと安易に思っていたが、肉欲しさに芸のひとつでも覚えたのだろうか。
そんな甘いおやじだとも思わなかったのだが。

おやじの言葉にあきらめが付いたのか、犬はふん、とかすかに鼻を鳴らすとのそりと動き出した。
「すまないな、甲斐性のないことで」
半ば本気で、私は犬に言った。
「さて、どうしたものか」
たいした金額が入っているわけでもないが、財布は財布だ。
いくら休暇中とはいえ、要り用になることもあるだろう。
道半ばまで来て面倒だが、取りに戻るか、と私は来た道を振り返った。守衛はまだいるだろうか。
と、するりと茶色の塊が足元にまとわり付いてきた。
「どうした」
行く手を遮る位置で、こちらを見るでもなく日差しの中に立って舌を揺らしている。
ぽたぽたとたれる犬の唾液が、白茶色の地面に黒々としたしみを作っていた。
なんとなく、面倒になって、私はそのまま帰宅することにした。
まあいい、どこに出かける予定があるじゃなし、次の出勤も身軽になって一石二鳥じゃないか。


ふと顔を上げると、空は透明な水色に変わっていた。夕暮れが近いのだ。
うだるようだった暑さも、幾分水を流し入れたような涼やかさを持ち始めていた。
浴衣姿の子どもが路地を駆けていくのとすれ違う。
どこかの縁側で線香花火でもやっているのだろうか、なつかしいような火薬のにおいが鼻をくすぐった。
すっかりいつもの時間になってしまったな、と思いながら、家の板戸を押す。
どうにも立て付けが悪く動かない。しばらく調子が悪いのを騙し騙し使ったのがいけなかったか。
「しょうがない」
戸を叩いて妻を呼ぼうと軽く握ったこぶしを上げたとき、横で座り込んでいた犬がふん、と鼻を鳴らした。
腰を上げると、生垣の方へと歩き出す。
なんとはなしにいざなわれている気がして、私は犬の後をついて板垣を回りこんだ。
犬が、ちらりとこちらに視線をよこしたように見えた。
柾の生垣に鼻面をつっこむと、わりに苦もなくするりと向こう側に抜け出たようだった。
私はため息を付いて、それから少し、子供のようなわくわくとした気持ちになった。
あれが抜けられるのだ、私も行けるだろう。

393 :アブラゼミ 風の吹く場所 石造建築 3/3:2009/08/14(金) 05:27:25 ID:jeb9EJ/N

そのとき、ゆらり、と白い筋のようなものが、藍味を増した空に立つのが見えた。
妻が、縁側で迎え火を炊いているのだ。
私は無性に妻の顔が見たくなって、覚悟を決めると柾の枝の中へと身を沈めた。
妻を驚かせたい。子供のように叱られて、呆れた様に笑う彼女の顔が見たい。そう思った。

緑の山茶花や、地植えにされた紫式部の繁りの向こうに、妻の姿が見えた。
紺の染め抜きの浴衣が縁側でしゃがみこんでいる。火の様子を見ているらしい。
つい不用意に踏み出して、肩でがさり、と葉を鳴らした。妻が、顔を上げる。
ああ、見つかってしまった。私は少し照れながら、妻に声をかけた。

「ただいま。」

今、帰ったよ。ああ、なんだか。とても長く君の顔を見ていなかった気がする。



   *

   *

   *



葉ずれの音に、女は顔を上げた。
「おや、帰りましたか。」
見るからに暑そうな、むくむくとした茶色の犬が、茂みの中から抜け出て来る。
手入れの行き届かなくなった庭だが、あの大きな体でよく器用に行き来するものだと感心する。
なかなかの巨体に見えはするものの、その実、「身」の部分が意外に細いことも女は知っていたが。
「よく、葉を落とすのですよ。」
言いつけるでもなく、女は犬に言葉をかけた。
理解したのかしないのか、犬は面倒そうにゆるゆると身をふるって見せる。葉の幾枚かが散り落ちた。
庭の一隅を貸して好きにさせている居候とは言え、たまに毛をすいてやることもある。
見目は多少なりとも良いに越したことはないのだから。

かたり、と迎え火の皿が鳴った。
燃えた木切れのひとすみが崩れたのだった。
少し木切れを足そうと、女は使い古しの箸を折り、しゃがみこんだ。
燃えさしの間に差し込み、ふう、ふうと息を入れた。

そのとき、がさり、と葉の鳴る音がした。女は顔を上げる。
犬が、気のない様子で地べたにねそべり、ぱたりと尾を振った。
ああ、帰ってきた。そう思った。

「今日は、晩酌にしましょうね。濃い目に茹でた、枝豆があるのです」
女は、誰に言うでもなく、声に出した。
くるりと背中をひるがえし、つっかけをはずして縁側へひょいと上がる。
「それとも、焼き鳥がよろしいでしょうかね」
ぱたり、ぱた。犬の尾が鳴るのが聞こえた。女は、呆れたような笑顔になると庭へと向き直った。

「おかえりなさい。」

しばらくの里帰りの間くらい、多少の贅沢もさせてあげましょう。

394 :◆svacoLr1WE :2009/08/14(金) 05:28:39 ID:jeb9EJ/N
以上、お盆ですね、というお話でした。

395 :創る名無しに見る名無し:2009/08/14(金) 19:51:44 ID:hWS+uCCF
しんみりしてて、いい雰囲気の話だなあ

396 :創る名無しに見る名無し:2009/08/18(火) 12:32:46 ID:dzCAXYvx
お題クレクレ

397 :創る名無しに見る名無し:2009/08/18(火) 15:37:03 ID:lW+UlZTO
「郵便」

398 :創る名無しに見る名無し:2009/08/18(火) 21:27:42 ID:+SlF4juq
『脇役』

399 :創る名無しに見る名無し:2009/08/18(火) 22:25:10 ID:0qIaS+iV
「ビー玉」

400 :創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 00:41:49 ID:r5qz/Vx6
【郵便、脇役、ビー玉】に決定!

401 : ◆91wbDksrrE :2009/08/23(日) 00:05:58 ID:9xakh5g1
 郵便局の隅で、貯金引き出しの為に順番待ちをしていると、ころころと何かが転がってきた。
 よく見れば、ビー玉だ。ラムネの瓶に入っているようなものではなく、店で売っている
ような綺麗な着色がなされたものが、私の靴にあたってコツンと音を立てた。色は赤で、
流れる水のような模様が内部にはある。
 随分前から苛立ちが消える事なく燃えている心に、その流れる水のような模様が水を
差してくれたようで、ふっと心が平坦になるのを私は感じた。
 何故こんな所に……その疑問の答えは、ビー玉が転がってきた先を見れば知れた。
「ああ……」
 小さな男の子が、母親らしき女性の陰に隠れながら、こちらを伺っている。彼が遊んで
いたものが、こちらに転がってきたのだろう。そして、見知らぬ男に見つけられてしまい、
取りに行ったものかどうか迷っている、と。恐らくはそういったところだろう。
 私は手招きをしてみた。男の子は、それを受けて尚悩んでいたようだったが、母親らしき
女性に促されると、意を決したようにこちらに駆けてきた。
「……それ、ぼくのだからかえしてください。おねがいします」
 小さな、だがはっきりとした声でそういった彼の手に、私はにっこりと微笑みながら、
綺麗な赤いビー玉を握らせてやった。
「大切なものなのかい?」
 気づけば、私は口を開いていた。男の子の手は、柔らかく、温かかった。冷たく、
ガサガサしている私の手とは違う、だが、昔は誰でも……私も持っていた手だ。
「うん」
 手を離しながら、私は彼の頷きに微笑みを深めた。
 ビー玉。
 彼の手が、過去の私を思い出させたのが契機になったか、ふと過去の情景が
頭をよぎる。そう。ビー玉と言えば――
 私が子供の頃には、今で言うカーリングのように、ビー玉を弾きあって陣取りをする
ゲームが流行った。休み時間になると、男子はこぞってそのゲームに興じ、誰も外に
遊びに行ったりせず、皆で教室の隅に輪を作っていたものだ。
 私は、そのゲームでは主役にはなれなかった。大好きで、練習もこっそりしていたのだが、
それでも脇役の一人でしかなく、組で一番上手い奴の引き立て役がせいぜいと言った
所だった。その当時の私は――それを、確かに悔しいと思っていた。そのはずだ。
 過去の情景と共に思い出した感情が、私の瞳を潤ませる。
 主役になれない悔しさを知っていた、少年時代。
 何とかして主役になろうと、必死で頑張った、少年時代。
 だが、それでも主役にはなれず、脇役に甘んじるしかなかった、少年時代。
「大切なものなら……手放しちゃ駄目だぞ。人生の主役になれなくなる」
「……じんせーのしゅやく?」
 何を脈絡の無い事を言っているのだ、と内心自分で自分に呆れながら、私はさらに笑みを
深くしながら、男の子の頭を撫でた。
「大切な物を大切にしてると、いい事があるって事だよ」
「……うーん……わかった!」
 何をどうわかったのかはわからなかったが、彼はにっこりと微笑み返すと、こちらに手を
振りながら母親の元へと駆けていった。母親らしき女性と目礼を交し合うと、丁度私の
順番が来たらしく、持っていた呼び出し番号がコールされた。
「お待たせしました。どのようなご用件で?」
「あ、いえ……すいません、貯金を引き出そうと思っていたのですが、やはりやめます」
「はぁ……では、特にご用件は無い、という事でよろしいですか?」
「はい」
 全財産を引き出して散財し、然るべき後にこの世に別れを告げる。
 そうして妻と家族に意趣返しをしようという私の考えは、実行される前に雲散霧消する
事になった。
 一人の男の子と、彼が転がした一つのビー玉。
 人生における契機とは、そんな些細なもので十分なのかもしれない。それを契機で
あると思う事で何かができるなら、どんなものであれ構わないのだ。恐らくは、そうだ。
「それでは、またのご利用をお待ちしております」
 もう利用する事は無いだろうと思っていた郵便局に別れを告げ、私は歩き始めた。
 まだ、駄目だと決まったわけではない。まだ私は何もやっていないのだから。
 あの、何をやっても駄目だった少年時代とは、脇役である事に甘んじるしかなかった
少年時代とは、そこが、そこだけが違う。
 主役になる為の道を――私は、歩き始めたのだ。
                                      終わり

402 : ◆91wbDksrrE :2009/08/23(日) 00:06:16 ID:9xakh5g1
ここまで投下です。

403 :創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 00:09:44 ID:OpMgYKfR
うん、なんだろう。まぁ、なかなか良かったよ。

404 :創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 01:08:58 ID:rZ1PsXNd
最初の方で梶井基次郎の檸檬を思い出したけど、特に関係なかった
お題三つが自然に消化されててうまい

405 :創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 10:40:14 ID:ylahKrz/
郵便屋さんは上を見上げました。
その眼前にはそびえ建つ世界貿易センタービル@大阪。
ギラギラと太陽光を反射するその建造物は、まるでそれ自体が発光して居るかの如く見えます。
『ミッションは24階の○×課へのブツの配達だ。出来るか?』
郵便屋さんのメット内蔵インカムにオペレーターの声が響きます。
「too easy。ボーイングが突っ込んで来たって配達して見せるさ」
『頼もしいかぎりだ。だがお代をもらい忘れるなよ』
郵便屋さんはフルフェイスメットのフェイスカバーを下げました。
メットが、パシュッ、と音を立てて電子ロックされ、内部気圧を調整します。
強すぎる陽光の反射による輝度を抑えるためにフェイスカバーの偏光度が自動で調整され、
やや暗い程度まで郵便屋さんの視界が減光されます。
そして路面の凹凸を表す緑のグリッド線が縦横に走り実際の視界に映る路面に重ねられて表示されます。
フェイスカバーディスプレイには外気温、内部温、生命反応(バイタル)、湿度等などの雑多な情報が表示され、
郵便屋さんはうざったそうに脳波感知コンソールを操作してその情報を非表示に設定しました。
フェイスカバーディスプレイの端っこに速度計と郵便屋さんが保有している株式の現在価格だけを表示させ、
郵便屋さんはバイクに跨がりました。
インカムからはオペレーターの呆れ声。
『副業は本業の後にしろ』
「副業じゃない。郵便屋は職業、デイトレーダーは“生き様”。OK?脇役は黙ってな」
インカムからの反論も許さぬうちに通信を一方的に打ち切り、郵便屋さんはバイクを発進させました。
燃料であるコバルトの反粒子を燃炉を通してタイヤの回転運動に変換したエンジンが可聴域ぎりぎりの甲高い音を奏でて、
接着に近い高摩擦を可能にするアモルファス状タイヤが高分子を撒き散らしながら空転します。
郵便屋さんは貿易センタービルの垂直な壁に真っ直ぐ突っ込んでゆきます。
歩道と車道を分ける車止めの僅かな段差を利用して跳躍。
ビルの壁に“着壁”すると、瞬く間にエンジンを吹かして滑走します。
郵便屋さんはビルに巻き付くような軌跡を描いて壁面を走って行きます。
時速計は300から400キロメートル毎時を前後し、株式は右肩下がり。
郵便屋さんは株式を買い増してリスクを軽減させ、
ビル24階の廊下窓を破って廊下の床材をブレーキで20メートルに渡って引き剥がし、
デロリアンがタイムスリップした後みたいな火の付いた車線を引いて停車しました。
郵便屋さんはフェイスカバーディスプレイに燃料計を表示させ、残量を確認しました。
郵便屋さんは小さな黒い筒を取り出します。
この筒には磁力で浮かされたアンチコバルトのかけらが入っています。
アンチコバルト自体はビー玉みたいなサイズですが、もし誘爆すれば地球の20分の1が抉れ飛びます。
郵便屋さんはバイクの防爆タンクを開けてアンチコバルトを納めました。
郵便物を届ければ、郵便屋さんの仕事は完了です。
「確かに届けたぜ」
郵便屋さんは速達料金を受け取り、入ってきたときと別の窓を突き破って帰って行きました。
「……メッセンジャー、変えようかな」
ビルの職員さんは作動したスプリンクラーでずぶ濡れになりながら呟きました。


めでたしめでたし

406 :創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 10:51:58 ID:ylahKrz/
郵便、脇役、ビー玉の三題でした。

407 :創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 13:49:50 ID:OpMgYKfR
小難しい単語が羅列していて、読むのが苦痛になるよ。
これを食べたら歯応えがありすぎて段々イライラしてくる安っぽい牛すじ肉みたいな味がするんじゃないかな

408 :創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 15:23:55 ID:ylahKrz/
不親切なSFを目指したので、その感想は適当であります。
読みサンクス

409 :創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 15:26:32 ID:vR5Dxou8
>>407
そのたとえが小難しい

410 :創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 16:28:38 ID:9xakh5g1
ちょっとわかりにくい所もあったけど、
こういうノリ自体は嫌いじゃないな。

411 :【郵便】【脇役】【ビー玉】:2009/08/23(日) 16:35:39 ID:wguwdMdq
 故郷から郵便が届いた。結婚式の招待状だった。
「 うわ、マジすか…… 」同級生、24歳。銀行窓口で働く友人が結婚する。
彼女とは幼稚園から高校まで一緒。田舎の山奥ではごく当たり前のことだ。
近所に住んでる同学年の女子は彼女だけだったので、小学校を卒業するまで
頻繁に遊んでいた。
 がさがさと案内を取り出し結婚式の日時や会場を見る。
「 あれ? この日って…… 」

 友人とは小学校までは頻繁に遊んでいたが、彼女の母親が体を壊してから、
ほとんど遊ぶことはなくなった。別に嫌いになったということではなく、単に
アタシは部活で忙しく、彼女は家事全般で忙しくなったということだ。
中学、高校とも朝は一緒に登校し、帰りは別々に帰宅した。彼女と一緒に帰れる
ときは、くだらないお喋りをしながら帰路を共にした。
高校から演劇に興味をもったアタシは演劇部に入り、放課後の時間の多くを演劇部の
部室で過ごした。そして、将来は役者になりたいなぁ。と漠然と考えていた。
 東京の夜間大学がアタシの進路で、友人は地元の銀行に就職が決まった。
上京する前日、友人がプレゼントをくれた。清涼飲料水のロゴが入ったガラスの灰皿に、
透明の中に瑠璃色の模様が入ったビー玉が2つ乗っていた。
「 このビー玉を私の目だと思って生活しなさい。怠惰な生活、淫らな生活は
  この私が許しません。私はちゃんと見ています 」
「 千里眼かよ。ていうかそれ覗きじゃん 」 
あはは。と友人が寂しそうに笑う。アタシもつられて笑う。
まぁ、オブジェのつもりで置いといて。うん、ありがとう飾っておく。会話は終わる。
 大学合格を彼女に報告したとき、祝福の言葉より先に彼女は、いいなぁ。と言った。
友人がビー玉を通して見たいのは、アタシの生活ではない。東京の生活だ。
田舎に住んでいる者が東京に憧れるのは珍しいことではない。彼女もその1人だしアタシも
そうだ。ただ、彼女にはちょっとだけ運がなかっただけだ。
毎年正月、実家に帰るたび彼女と会い、休み取れたらアタシの部屋に遊びに来てと言った。
でも友人が東京に来ることは一度もなかった。 

 通行人A。挨拶するだけの女。さぁ?で終わり。その他大勢。
映画、テレビドラマに出演してもエンドロールにアタシの名前が出たことは一度も無い。
役者として芸能プロダクションに登録されているが、もらえる仕事にセリフはほとんど無いし、
オーディションを斡旋してくれることも無い。単なるエキストラの為の人員だ。個人レベルの
劇団にも所属しているが世間一般的に言うならば、単なるフリーター。がアタシの現状だ。
 アタシは、スケジュール帳のオーディション予定日と友人の結婚式の日時を確認した。
見事に重なっていた。高校の時から好きな監督さんの映画オーディションだ。役が貰えるかどうかは
分からない。でもオーディションを受けなければ死ぬほど後悔するだろう。
『 ごめんね。正月に実家帰るからその時ビデオ見せてね 』
返信はがきの隅にそう書いた。
距離は600キロと離れているが、「 親友 」と言ってもいい彼女だ。きっと分かってくれるだろう。
大学で4年、卒業して2年。アタシなりに突っ走ってきたつもりだが、まだまだ気合や根性が足りな
かったのかもしれない。まだ若いつもりだが立ち止まっている暇はない。

 両手でほっぺを思い切り叩いた。べちっ
そして、一回では気が済まず、その後もぺちぺちと何度も叩いて気合を入れた。そして普段だらしなく
履いているスニーカーの紐をきっちり締めなおした。

「 脇役にさえなれてないんだ。根性決めなきゃ 」
結婚式欠席のはがきを手に、アタシは近所の郵便ポストめがけ部屋を出た。そしてダッシュした。
迷いようが無いほどの澄んだ青空が広がっていた。


おわり

412 :創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 16:59:32 ID:9xakh5g1
でも、人生の先がその青空みたいに晴れ渡ってるとは
限らんのよね・・・。
親友との関係や彼女の今後がどうなるのかが気になるじゃないかw

413 :411:2009/08/23(日) 20:45:51 ID:2yHguTnB
>>412
>でも、人生の先がその青空みたいに晴れ渡ってるとは限らんのよね・・・。
リアル俺の場合、暗雲がたちこめている。はっきり言って四面楚歌状態だ
>>355も俺だしなw

>親友との関係や彼女の今後がどうなるのかが気になるじゃないかw
正直そこまで考えてなかった。素直に嬉しいぜ。レスさんくす

414 :創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 22:05:10 ID:vi4BJcDF
そろそろくれくれ

415 :創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 22:10:42 ID:AFVO2rzC
夜明け

416 :創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 22:38:42 ID:3JY6H54d


417 :創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 07:08:10 ID:DzkNFvSo


418 :創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 15:09:51 ID:c2nmyCIs
夜明け、船、侍か……

面白い!

419 :創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 20:34:32 ID:ctw0a/rl
これはまた情感溢れるお題だ

420 :夜明け、船、侍:2009/08/27(木) 23:54:08 ID:NjjcMMKB

甲板で刻み煙草をふかしながら、西の空を見ていた。
夜が完全に明ける前に、下流の町まで行かなければならない。

船を出させた。
舫が外れ、川面を滑り出す。

夜明けの薄明かりに見える街並みの一角から、煙が立っている。

あれは、俺たちの仕事の後だ。
後味の悪い仕事だった。
無傷じゃ済まなかった。
この作戦の発案者に、抗議したい気分だった。

当初の説明では、犠牲者は出ても一人か二人ということだった。
しかし、彼の知る限り、既に六人が死んでいる。多分、もうちょっといるだろう。

竹刀にもかかわらず、鎖骨は折られ額が割られた。あと一歩近づいていたら、首の骨までへし折られていただろう。

予想通りだった。噂に違わぬ、侮れない集団だ。
たとえ計絡を巡らしていたとしても、まともにやりあっちゃならない相手だった。
「……くそったれが」


とある道場を闇討ちにして、将来有能な剣士になりそうな人材を潰しておく。
何とも卑怯な策だ。
それでも、雇われの身では何も言えない。
お家取りつぶしとなり、浪人に身を窶した彼にとって、食うためにはいかなる仕事もしなければならなかった。

薄闇のなか、船はゆっくりと運河を下ってゆく。

侍とは、正々堂々と仕合い、死ぬことも厭わない存在であったはず。
それが、今の自分はどうだ。
我が身かわいさから、卑怯な仕事に手を染めてまで生き延びている。

「くそったれが」
もう一度、呟く。

もうすぐ、夜が明ける。

421 :420:2009/08/27(木) 23:59:17 ID:NjjcMMKB

うーん、いまいちですね。
見せ場もオチもありません

お題から思い浮かんだ情景を描写しようとしただけ、
しかし、それもうまくない……

失礼しました。他のかた、お願いします
お題はとても良いと思うのですが、生かしきれませんでした

422 :創る名無しに見る名無し:2009/08/28(金) 11:28:33 ID:gN7qUoJM
場面の画は素敵だと思うのぜー

423 :創る名無しに見る名無し:2009/08/28(金) 18:41:32 ID:AgplE8r3
いい感じの景色が浮かんだんだぜ

424 :夜明け、船、侍:2009/08/29(土) 02:53:48 ID:bVB2EpNM
「キミって、最低の人間だよね」

彼女の言葉は鋭い。

「アニメ好きで人間嫌いでラノベオタクで一般常識に疎くてテレビは見ないくせにアニメだけはチェックする」

Just like SAMURAI sword.
誰の歌だっけ。
日本のカルトなオルタナティブバンドの音色を思い出す。

「一日に2回もオナニーして、夜には飽きもせずに私に絡み付いてきて。
すぐ舐めさせたがるし、イったら後始末もせずに寝ちゃう」

一切の嘘が含まれぬ真実が紡がれて俺の身体にぞりぞりと染み込む。
Some lie's wordの鞘は無い。
SAMURAI swordがヌラリと輝く。

「キミは私が居ないと生きて行けないだろうね。
無資力で無気力で無能力のヒモが墜ちる様はきっと私の胸をすっと晴れやかにしてくれる。
キミは絶望に、地獄に墜ちる。
ばいばい、カンダタ。
私の慈悲に取り付く罪人。
頭から墜ちて真っ赤になるといいよ。
クモって漢字で書いてごらん。
虫に、知るに、朱。
ケガするまで分かんないんだから仕方ないよ」

彼女の眼は冷たく冴え渡った怒りに凍て付いていた。爛々。
侍の魂が、俺の首根っこに、今……

「死ねよ。屑」

黙っていた。
黙っているしかできなかった。
黙って聴いているしかできなかった。
黙って聴いている意外に何かできただろうか。
……否。


彼女の居ない部屋にそら寒い朝の青がにじり寄ってきた。
明け掛かった夜が普段の俺の爛れた就寝時間を言外に告げていた。
うつらうつらの船を漕ぎだす。
最早ばらばらの身体ではうまく進むはずもなかった。


終。

425 :創る名無しに見る名無し:2009/08/29(土) 21:54:30 ID:bVB2EpNM
いたたまれずにスレストあげ

426 :夜明け、 船、 侍、:2009/08/29(土) 23:51:33 ID:IJYns6Ky
「どうなっちまうんだろうな。この国は」
輝かしい朝日が訪れる夜明け。
しかし、そんな夜明けをもってしても何も変わらなかった。
すべては、目の前にある黒い船のせいだった。
侍である彼は黒い船を見張るように言われていた。
だが、黒い船は悠然として動く様子はなかった。
世の中は上から下まで混迷していた。
「どんなことがあろうと変わらない。俺は俺のままだ。」
彼はただ見つめる。
夜明けの海、黒船、そしてこの国の未来を。

427 :創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 01:04:30 ID:AaLSIXoa
時は平成。八月のことである。
寝苦しい熱帯夜の日。親の説教がカラスの叫び声に変わるころに俺は眼を覚ましてしまった。
時計を見れば起床予定時刻よりずいぶんと早い。今からあの世界へ行ったところでまだ仲間は睡眠中だろう。
仕方なく冷蔵庫の麦茶を飲んで寝ようかと思い、布団から起き上がる。
ふと窓の外を見ると空は白み始めていた。夜明けである。夏の朝は早い。
俺は麦茶を冷蔵庫から取り出し、ぐいっと飲む。そのさい目線が再び窓の外へと彷徨う。

船が飛んでいた。

思わず麦茶を吹く。服が濡れるが気にしない。窓に駆け寄ってよく見る。
やはり船である。なんということだろうか。白む空を船が飛んでいる、否。進んでいる。違う、漕いでいるか?
細かいことはどうでもいい。頬を抓れども痛みしか起きない。目が覚めない。
そうこうしているうちに船はどんどん近づいてくる。それに伴い、自分の認識がずれていたことを知る。
船、というよりも舟である。人だと思われるものが舟を漕いでいる。乗客もいるようだがここからだと確認出来ない。
言葉を発することもなく、思考が現実に追いつくこともないまま眼の前に舟が横付けされる。何度も言うが空である。ここは二階だ。
舟を漕いでいたのは若い女だった。Tシャツに短パン、頭には麦藁帽子という日焼け美人だ。正直言おう。好みである。
俺は窓をがらりと開ける。暖かい空気が部屋になだれ込む。
「あんたも乗るかい?」
彼女はそう、俺に聞く。思わぬ質問に口ごもる。女性と話したのなんて何年ぶりかわからない。
「どど、どこへ行くのですか?」
どもりながら彼女に質問する。彼女はニカッと笑うと
「夏を追いかけに行くんだよ」
と答えた。夏を追いかけに? なんのこっちゃ? 疑問は募るばかりである。
そんな俺を見かねたのか彼女はため息をひとつつくと再び舟を漕ぐ体勢に入った。
「まだわからないみたいだね。まぁ来年もその気があれば来るさ」
そういうと舟は音もなく進み始めた。どうやら漕ぐ振りをしていたらしい。様式美である。
舟には既に先客がいるようでセミを巨大化させたような生きものや普通の人間も乗っていた。
「またなー!」
そんな彼女の声が町に響く。だけど、カラスはそのことに気づかない。誰もそのことに気づかない。
「いってら」
ふと口からそんな言葉が出る。ネットスラングがぽろりと出るところが己のだめさをわからせてくれる。
そのままふらふらと床に就き、ぐぅと眠った。
うるさい目覚ましの音で眼を覚ます。壊す勢いで叩いて止める。
眼をこすりながら、部屋が涼しいことに気づく。クーラーなどという高級品は当然ない。
すぐに開いた窓から風を入ってきていることに気づいた。よく晴れた、青空で雲は高く飛んでいる。
不思議とセミの鳴き声がしない。
俺は夏を終わりを悟った。

夜明け、舟、侍でした。

428 :創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 03:43:59 ID:BqROoxDD
侍は何処?

429 :【夜明け】【船】【侍】 1/2:2009/09/01(火) 06:45:54 ID:fi4VUZ8r
【夜明け】【船】【侍】

 いま俺は、交換留学が盛んな大学の学園祭『 日本文化研究会外国人部主宰コスプレ喫茶 』
なる場所にいる。目的は当然、外人さんのコスプレを見る、写真を撮るためだ。
喫茶店厨房スタッフの中には日本人がいるようだが、たぶん客としての日本人は俺だけのようだ。
 コスプレが好き。というより、露出度の高い服を着た姉ちゃんが好きな俺。
「 人前でそんな服着て、恥ずかしくないのか(にやにや)」と萌えるのがいいのだ。
25歳独身。このくらいの性癖は別に珍しくも何ともないはずだ。
 怪しい人と思われたくないので正攻法でいく。ミニスカメイド姿の金髪のお姉ちゃんに飲み物を
注文する。写真を撮っていいですか?とたずねる。イイデスヨ!とミニスカメイドは言う。
そして意味不明な言葉が俺の頭上を飛び交う。
 ……素晴らしい、素晴らしすぎる。俺は言葉を失った。6人のコスプレ外人が揃い踏みした。
ミニスカメイド、丈の短い浴衣女、振袖の女、ラムちゃん、サンバ女、不知火舞。
容姿が残念な人は一人もいない。ラムちゃんは若干太めだが、他の人がスタイルがいいだけで単独で
ならまったくもって許容範囲だ。素晴らしい。
 早速俺はデジカメで撮り始めた。外人さんたちはノリが良く、頼んでもいないのに勝手にポーズを
とってくれる。15枚ほど写真を撮ったところで1人2人と外人さん達は俺の席を離れていく。
サンキューありがとう。と言いながら手を振る俺、笑顔で手を振り帰してくれる外人さん達。
 アイスコーヒー1杯では申し訳ないので、ミニスカメイドにオレンジジュースを頼み、席で待つ。
ここにきて15分程度だがすでに大満足。ジュースを飲みきったら頃合をみてここを出ようと思って
いた所へミニスカメイドがやってきた。そして隣には相撲取りの琴欧州を細くしてさらにカッコよく
したような長身の男がいた。

 刀に脇差、着流しスタイル、しかも草履、長髪を後で束ねている。青い目と髪の色を除けば
立派な浪人風情の侍コスプレだ。大学の講師かなにかだろう。落ち着いた感じで学生には見えない。
何故か片手に日本酒の一升瓶を持っている。そして流暢な日本語で喋りはじめた。
「 拙者、サムライに憧れて仏蘭西から船で渡ってきたジャンと申す。ぜひ、ご一献お付き合い
 願いたく伺った次第でござる。お代は結構。ささっ、まずは一杯 」
え? いや、何? と動揺している俺に構わずニコニコしている2人の外人さん。そしてミニスカ
メイドが見るからに安物の小ぶりな升を俺に指し向ける。
「 ……。かたじけない 」
情けなくも笑顔のミニスカメイドに見つめられて思わず升を手にしてしまう俺。ジャンは俺の升と
自身の升に酒をつみ、嬉しそうに升を高々と上げる。
「 乾杯! 」「 ……乾杯 」
ジャンの勢いに負けて思わず乾杯してしまう。土日連休の初日だから飲んでも問題は無い。ただ、酒は
好きだが午前11時からのいきなり日本酒はきついものがある。ジャンは一息で升を空にしたが俺は軽く
口をつけた程度でごまかした。
「 よろしければ、お名前をば…… 」
「 あ、すまん。拙者、安藤と申す 」
ジャンの口調につられて俺も変な喋り方になる。ミニスカメイドがつまみを持ってくる。笹を敷いた
皿にサラミ、チーズ、クラッカーが乗っていた。日本酒のつまみじゃねーだろ。と心の中で苦笑する。
「 拙者、宮本武蔵に憧れておりまして 」
「 あー、カッコいいっすね 」
はっきり言って宮本武蔵のことは分からない。バガボンドを読んだのと有名な決闘のエピソードほどだ。
そんな適当な俺に対し、ジャンは熱く語ってくる。聞き上手と言うほどでもないが、適度の相槌、質問、
自分の考えを言ってれば、それなりに会話は続く。
 ジャンはぐいぐいと日本酒を煽っている。それでも表情はほとんど変わらない。俺はというと升酒
2杯目でほろ酔い状態だ。ジャンとの会話は別に苦痛ではない。ちょっとした勉強になる。
それよりもなによりも、ジャンと一緒にいるからかコスプレ外人さん達が気を使ってくれるのだ。
時々俺達のいるテーブルに座っては一緒に話をしたりする。サンバ女やラムちゃんは、目のやり場に
困るほど露出度が高いのに本人は平然としている。
ジャンありがとう。お主のおかげで姉ちゃんじっくり見ることができたよ。と不埒なことを考える。


430 :【夜明け】【船】【侍】 2/2:2009/09/01(火) 06:47:17 ID:fi4VUZ8r
 ジャンとの会話が途切れる。ここに来て1時間半程になる。そろそろ俺的にはお開きの時間だ。
ジャンも場の流れを察したのだろう、ゆらりと立ち上がり俺に言う。
「 安藤殿、日本刀に興味はござるか? 」
「 いや、俺、拙者はあまり…… 」
ちょっとだけジャンは寂しそうな顔をする。でもすぐに笑顔になり俺に言う。
「 安藤殿、拙者の模造刀を見てもらえぬか 」
そう言うなりジャンは俺に刀を差し出した。断る理由も無いのでおれは刀を受け取った。
日本刀は俺の想像よりもずっと重い物だった。ジャンに促されるまま鞘から刀を抜く。模造刀とはいえ
はじめて生の日本刀を見る俺にとって、それは異様なほど迫力のあるものだった。
「 ……凄いな。模造刀でも圧倒される 」
ずしりと重い刀を慎重にジャンに手渡す。ジャンはなれた手つきで鞘に収める。そして言う。
「 私も人のことは言えませんが、自国の過去の文化を知らない若い人が少なくないような気がします…… 
 新しい文化も大切ですが、過去の文化を学ぶのも、いけないことではないと思います 」
ジャンの言葉がちくりと刺さる。さすが日本文化研究会、こんなオチがあるとは夢にも思っていなかった。
ジャンが日本文化オタなだけだろ!と思いつつも軽く落ち込む。俺を見てジャンは明るい声で言う。
「 安藤殿、みんなで記念撮影しましょう! 」
ジャンが外国語で大声を出すとジャンと俺の周りにわらわらと人が集まってくる。俺はミニスカメイドに
デジカメを託しサンバ女とラムちゃんの肩に手を回した。ジャンもサムライ姿がウケているのか多くの人と
一緒にカメラに収まっていた。

 コスプレ喫茶を出た。最後にジャンに挨拶したかったがどこかに消えてしまったので諦めた。
当初の目的を遥かに超える収穫があった。女の子見放題、写真撮り放題。家に帰ったら早速パソコンで
編集だ。
そして、ジャンに言われたとおり、確かに俺は日本の文化、歴史を理解していない。一般常識レベルの
ことすら分からないだろう。だからといって、がむしゃらに文化歴史を勉強する気は無いが、月に
1回か2回は図書館にでも行って簡単な本でも読んでみようかなという気にはなった。

 とりあえずジャンが熱く薦める宮本武蔵「五輪の書」でも読んでみようか。と、ふらふら歩いてたら
「 安藤殿! 」
と背後から俺を呼び止める声がした。振り返るとジャンがいた。相変わらず侍コスプレだ。
「 あ、先ほどはどうも。いろいろ勉強になりました 」
喫茶店からの帰り際、挨拶できなかったので大げさにならないよう軽く礼を言った。
「 いやいや、こちらの方こそ感謝しております。ところで安藤殿、明日はお忙しいですか? 」 
「 えーと、忙しいといえば忙しいですが、暇だといえば暇です 」
俺は適当に言葉を濁した。暇という言葉に反応したのかジャンは笑顔で言う。
「 私は明日、夜明けとともに『 中国文化研究会外国人部主宰 飲茶倶楽部 』という場所にいますので
 ぜひ遊びにいらしてください。
 明日は紹興酒でも飲みながら、始皇帝や三国志について大いに語りあいましょう。それでは失礼します 」
( は? 何それ? )
言葉に出来ず、あんぐりと口を開けて固まってしまった俺を置いてけぼりにしてジャンは去っていった。
ジャンよ、お主は宮本武蔵命じゃなかったのか?日本大好きじゃなかったのか?ていうか単なる酒好きか?
いろんな思いが頭の中を駆け巡る。とりあえず開いた口をなんとかふさいで苦笑しながら俺は家に帰った。

 翌日、俺は『 中国文化研究会外国部主宰 飲茶倶楽部 』に突撃した。
昨日、俺のデジカメで撮った写真を一枚ずつプリントし、画像データーを焼いたCD7枚を持参した。
ちょいと「 誠実さ 」をアピールしたかったのだ。ジャンに会ったあとコスプレ喫茶に向かう予定だ。
そして当然、ジャンへの手土産も忘れない。ジャンが俺の手土産「 スーパーで売ってる普通の粒納豆 」
を肴に酒を飲めるようなら、俺はジャンを認めようと思っている。
「 ニーハオ 」
店内に入り見渡す。むこうも気づいたのだろう、いかがわしい仙人のような姿をしたジャンが俺を手招きした。


おわり

431 :創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 18:40:14 ID:QPqhTAMU
>429-430
面白かった。
普通に真面目に読んでた。

432 :創る名無しに見る名無し:2009/09/02(水) 00:30:52 ID:LmwqMJbK
>>428
もしかしたら
いってら→イ寺→侍
まさかね

433 :創る名無しに見る名無し:2009/09/02(水) 03:31:59 ID:FR1hxO4J
親の説教がカラスに??

434 :創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 21:59:12 ID:7tDbjGtm
クレクレ おくれ

435 :創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 22:06:38 ID:FIvtrg9b
カラス

436 :創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 22:18:09 ID:EeiVE6Tz
ガラス

437 :創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 22:21:55 ID:jLDIwPkY
テラス

438 :創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 23:01:43 ID:7tDbjGtm
>>435ー437
お前らみたいなやつ、嫌いじゃないぜ……

439 :創る名無しに見る名無し:2009/09/04(金) 00:41:33 ID:ikC/4eyh
「警部、テラスにガラス製のカラスの像が」
「そんなことはどうでもいい。さて諸君、この中に犯人がおる」
「俺じゃねえ」
「私じゃないわ」
「おらじゃねえだす」
「警部、カラスの像から血痕が」
「そうだよ、おらこいつと結婚するだよ」
「えへへ。実はその通りで」
「うわなにそれ。ちんもげろ。解せねえ」
「うるさい黙れ。いいか諸君、犯人は何を隠そう、この私だ」
「刑事、カツ丼を頼んでおけ」
「あ、私作りますわ。こう見えてもカツ丼には自信が」
「ほんとだ地震だ。震度四はある」
「いや五くらいは」
「ろろろ六。いや七。何もかもが壊れる。ああ。ああ」
「ちゅどーん」

:酔ってました

440 :創る名無しに見る名無し:2009/09/04(金) 00:46:08 ID:WBn+iFRA
テラスのカラスがガラスを割った。
早口言葉が出来たわ・・・

441 :創る名無しに見る名無し:2009/09/04(金) 00:46:33 ID:CmsqFp2t
盛大に噴いたが読み返すと面白くない。
もちろん負け惜しみだが、油断は大敵だなと思った。

442 :創る名無しに見る名無し:2009/09/04(金) 00:49:57 ID:vlNMChBn
なにこのたたみかける感じ おもろい

443 :【カラス】【テラス】【ガラス】1/2:2009/09/04(金) 17:50:07 ID:0ebEsciu

【カラス】【テラス】【ガラス】


> カラス
> テラス
> ガラス

> お前らみたいなやつ、嫌いじゃないぜ


「 どいつもこいつも揃いも揃って、洒落じゃねーんだから 」
 深夜3時30分。
住宅設備機器メーカーのショールームテラスの片隅でモニターを眺めながら男はつぶやいた。
営業課長。と言えば聴こえがいいが上からは怒鳴られ、下からは突き上げられる悲しき中間管理職。
営業、苦情対応、業務用パソコンの管理となにかと忙しい役職の男だ。
今日も、システムダウンしてしまった売上管理用のパソコンをHDD初期化からの再インストールで
やっと復旧させたところだった。
「 カラス、テラス、ガラスか…… 創りずれー 」
ネットにつないでも問題の無いパソコンの前で男は唸っていた。  
表の顔は営業課長。しかし男には裏の顔があった。
【三題使って】 三題噺その2 【なんでも創作】 の中の人。
そう男は、三題噺SS投下職人なのである。

「 うあー、時間ねー 」
男は焦っていた。3日間の研修出張で、午前10時の新幹線に乗って本社に行く予定なのだ。
 出張期間中に携帯で…… いや俺には無理。携帯文字入力が遅いことを男は自覚している。
 ネカフェ行ってうp…… いや同期と飲みに行くし。男は酒が大好き。
 モバイルパソコンで…… ビンボーな男はモバイルパソコンなんて持っていない。
 本社のパソで密かに…… 会社はそんなに甘くない。  
男は悩む。別に今回とばしてもいいけど…… しかし男の、職人としてのプライドが許さない。
時計を見る。3時40分。よし5時までにネタをだす。ちっぽけな意地が男を動かす。

「 カラス、テラス、ガラス。普通にいけばカラスが主役…… 
 王道パターンならヒッチコック『 鳥 』
  表通りにあるカフェテリア。ある日、100羽を越えるカラスの大群が窓ガラスを突き破り
 テラスにいる人たちを襲った。秋の珍事と誰もが思ったがそれは悪夢の始まりでしかなかった。
 それはカラスの習性を研究する科学者が生み出した、最悪の生物兵器だった。
 小型プラスチック爆弾、サリンなど、凶悪な兵器を組み込んだカラスが街を飛び交う。
 そしてパニック状態の新宿に脅迫状が届く『 悔しかったカラスを喰ってみろ、都知事さん 』
 いま新宿都庁を舞台にテロVS特殊部隊の壮絶な戦いが始まった…… 」

 無理無理無理無理、ぜったい無理。収拾つかねーし。男は頭をかきながら次の案を模索する。

「 カラス主役……
 一羽のカラスがいた。カラスはずっと考えていた『 あのガラスを突き破れたら 』
 カラスの目指す先にはおいしそうなものがいっぱいある。だけどガラスが邪魔をする。
 カラスは傷つきながらも試行錯誤を繰り返す。そしてある日、小さな発見をする。
 『 翼を折りたたんでくちばしをガラスに垂直に、そして弾丸のように突き抜ける 』
 カラスは賭けに出た。そして見事にガラスを突き破った……
 そんなカラスを人々は称えてこう呼んだ『 カラスのジョナサン 』 」

 いやいやいやいや、俺『 かもめのジョナサン 』読んでねーし、テラス出て無いし……
 男は頭をかかえた。時計は既に午前5時を廻っていた。

444 :【カラス】【テラス】【ガラス】2/2:2009/09/04(金) 17:52:00 ID:0ebEsciu

「 ♪わたしの前には〜、硝子ざかー。きらきら光る〜、硝子ざか〜 ♪
 歌ってる場合じゃねー! いまさら高田みづえ、なんて誰も知らねー 」
男は少しテンパっていた。
「 ♪カーラース、何故鳴くの。カラスの勝手でしょ♪ ……誰だっけ 」
眠たくてクラクラする頭、灰皿は吸殻の山、男はかなり疲れていた。
「 まったくいい年こいたオッサンが何やってんだか…… 」 
男はあらためて時計を見た。あっというまに午前5時30分。もうタイムリミットだった。

 男は悔しかった。別に男が投下しなくても三題噺スレは普通に続いていく。
それでも男は投下したかった。もはや意地に過ぎない小さなプライドを突き通したかった。
( でもここで無理したら間違いなく出張に影響を及ぼす…… )
もう充分、答えは出ているはずだった。男は煙草に火を着け大きく吸い込んだ。
薄く開いたブラインドの外は、漆黒の闇が消え、確実に夜の終わりを告げている。
男は煙を吐き出し、ぼんやりと煙の行方を見つめている。時計は午前5時50分。
朝焼けの光がテラスを照らす。鳴き疲れたのか、明けのカラスは喉を枯らす。
ガラスがラストのお題。しかし男にはもう三題をまとめる余力も時間も無かった……

「 まったく駄洒落みたいなお題出しやがって。おまえら、たまには投下しろ。
 面白くなくても、投下されたら『投下乙』ぐらいレスつけやがれボケ 」
力なく男はつぶやく。音もなく静かに、男のプライドが崩れたおちた瞬間だった。

 引継ぎ事項を連絡ノートに記入し、男は事務所を後にした。
男の瞳が潤んでいたのは、まぶし過ぎる朝日によるものなのか誰も知ることはできなかった。


おわり



445 :創る名無しに見る名無し:2009/09/04(金) 17:55:28 ID:m+xQpu6Z
投下乙

446 :創る名無しに見る名無し:2009/09/04(金) 19:06:40 ID:ccysuPp5
投下乙

447 :創る名無しに見る名無し:2009/09/04(金) 19:16:05 ID:WBn+iFRA
投下乙

448 :創る名無しに見る名無し:2009/09/05(土) 09:27:31 ID:x47xA/+p
投下乙

哀愁たっぷりでなかなか良かったw あとめっちゃリアルw
っていうか、これほとんど実話だろw

449 :創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 09:58:02 ID:TapmPmc5
お題くんろ

450 :創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 10:19:21 ID:N/QHb84f
悲劇ラジオ

451 :創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 10:24:18 ID:IvgpX6G8
甘露

452 :創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 10:38:52 ID:KWByDWd4


453 :創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 13:19:52 ID:t/eLaKeY
悲劇ラジオってなんだ?w

まあ、適当に解釈して作ればいいか。
お題把握したぜ!

454 :【悲劇ラジオ】【甘露】【母】1/6:2009/09/13(日) 11:10:10 ID:HfymTZsm
【悲劇ラジオ】【甘露】【母】


「 わたしは悲劇ラジオの主人公だから、どんなつらいことも乗り越えられる 」
窓越しの景色をぼんやりと眺めながら、病室のベッドの上で母はつぶやいた――

 57歳の母は、私が物心ついた頃からホステスとして水商売に身を投じていた。
幼稚園や小学校から帰ってくる私を待って、夕方に出かけ、深夜もしくは明け方に帰ってきた。
 家でお酒を飲むことはなかったが、だいぶ酔っ払って帰宅することも珍しくなかった。
そしてかなりの愛煙家で、セブンスターをこよなく愛していた。
 昔は幼い私が見ても派手だな。と思う華美な服装で仕事に向かっていたが、年齢とともに
服装も地味で清楚なものに変わっていった。
 妙な咳が一週間ほど続いていた母に、私は早めに医者に行くよう何度も言った。しかし
母は聞く耳を持たなかった。私が無理矢理に連れて行ったときには既に手遅れだった。
肺に出来たがん細胞が各部位に次々と移転を始めていた。、

 そして瞬く間に数ヶ月が過ぎた。

「 主人公はずっと待つの。叶わぬ夢でも、望まぬ結末でも。いつまでも待つの 」
母は別に痴呆になった訳ではない。ただ強い痛み止めのせいか時折、意識が朦朧として
私との会話が成り立たないことがあった。そんなときは決まって悲劇ラジオの主人公と言う。
 母の言う悲劇ラジオの意味が理解できず、私はネットで検索した。
昭和3〜40年代に放送されたあるラジオドラマシリーズの俗称。とモニターに表示される。
その名が示すように、ほとんどのシリーズが悲劇的な恋愛や結婚を扱った恋愛物語であり、
女性から圧倒的な指示を集めていた番組らしい。
 昭和27年生まれの母だ。その番組の愛聴者だったとしても不思議はない。
がんとの闘いに疲れている母が夢の中で自らの人生を、思い出のラジオドラマにオーバーラップ
させているのだろう。母57歳、娘33歳。いまどき珍しくも何ともない母子家庭だ。
そして私は父親の顔はおろか名前さえ知らない私生児だ。

「 あなたはあなた、わたしはわたし 」
それが母の口癖だった。
『 ゆうはゆう。お母さんはお母さん 』『 悠は悠。わたしはわたし 』と幼い頃から
私は母に言い聞かされてきた。
 私が幼い頃は一緒にいられる時間に勉強を見てもらったり髪を切ってもらったり、一緒に買い
物に出かけたりと母親らしい面も見受けられた。しかし、私が小学校高学年、中学生となって家事
全般をこなせるようになってから、母と私の間で親子という感覚が希薄になったような気がした。
 私が大学を卒業して働くようになってさらにその感覚は加速した。
同じ屋根の下に住む親子というより単なる『同居人』のような感じだった。かと言って、けして
母を嫌ったり憎んだりしたことはない。娘として胸を張って大きな声で母を愛してます。とまで
は言えないが普通に母親として好きだと思っていた。

「 もう時間が無いかもしれないのにね 」
誰に問いかけるでもなく母がポツリと言った。
まるで死期を悟ったかのような母の言葉なのに、励ますことも優しくなだめることも怒ることも
私には出来なかった。
 悲劇ラジオの主人公のように、母は私の知らない思い出の恋人をずっと待っているように見えた。
でも私にはどうすることもできなかった。
母は家に異性を一切連れてこなかった。それどころか男性との交際を匂わせる言動も一切見せなかった。
父親がいないということの特殊性に気づき始めた頃、何度か質問した記憶はあるがその都度、母に
適当に誤魔化されていたのだろう、母の返答をよく憶えていない。
 そして世の中の色々なことが分かるようになった頃、母から、あなたは私生児だ。と教えられた。
その頃には、すでに私自身父親に関してさほど気にしなくなっていたので、そんな話を聞かされても
なにを今更。としか思えなかった。父親に関することを聞く気も起きなかったし、もし母に問い詰め
たとしても母から父親のことは語られることはなかったはずだ。


455 :【悲劇ラジオ】【甘露】【母】2/6:2009/09/13(日) 11:12:15 ID:HfymTZsm

「 ラジオのようにうまくはいかないね 」
天井を見つめたまま母がつぶやいた。 
医師の予想した余命期間を越え2ヶ月が、母が『 悲劇ラジオ 』を口にするようになって1ヶ月
が過ぎようとしていた。
 もう一年前の母とは別人のようにやせ細り、母の身体はだいぶ小さくなってしまった。
 悲劇ラジオのヒロインになりきって、母は恋人――私にとって父である可能性のある人。を待ち
つづけた。その切なる想いが母の心と身体を支えていたのだろう。
「 もう間に合わないかもしれない 」
母は諦めたように私にそう言ったあと大きく容態を崩した。

「 親族や関係者の方々に連絡を 」
 どくんどくんと私の鼓動が大きくなる。もう充分覚悟していたはずなのに、医師の言葉で
あらためて母がもうすぐ死ぬことを思い知らされる。
 医師や看護師が動き回る。その中で私は、ただ母の様子を眺めることしか出来なかった。
午後1時。母のベッドの周りには今まで以上に、多くの機器や薬剤が整然と並べられた。
 母の手を握り話しかける。母の手は力なく意識があるのかどうかも分からない。それでも
時折、思い出したように私の言葉にうなずく。
「 …………悠は悠だから 」
母が言う。まだ意識はある。私は必死に呼びかける。
母は私を見て穏やかに微笑んでいる。
母の手を強く握る。力なく母は微笑む。不意に母の視線が私の後ろに移った。
「 ……よかった 」
「 ! 」
母の表情が大きく変わった。思わず私は振り返った――

「 美佐江…… 」
いつのまにか病室に初老の男が立っていた。そして母の名を呼んだ。
母の手が弱々しくも動く。そして私にささやく。
「 ……悠 ……ごめんね 」
ただただ呆然としている私に対し男は軽く会釈をする。そして私の代わりに母の手を握る。
「 美佐江…… 」
男は母を呼びかけ言葉を続けた。母の顔が少女のような笑顔になる。
「 遅れてすまん 」
「 ……まにあってよかった ――――
笑顔のまま母は静かに目を閉じた。無機質な電子音が鳴り続け、医師が母の様子を確かめた。
男に手を握られたまま母は微笑みながら息を終えた。その傍らで私は母を見つめ立ち尽くしていた。


 母を送る儀式が行われた。私は病院の関係者の指示に従い、男と共に母を送った。
母は死化粧が施され霊安室へ運ばれていく。悲しみに暮れる暇もなく今度はすでに
面通し済みの葬儀業者と葬式の打ち合わせが始まる。
 死後処理が一段落つき、病院のロビーであらためて男と向き合う。
長身で痩せ型の初老の男だった。歳相応のグレーのスーツを着ていた。
今日初めて会ったはずなのに母を訪ねてきた男にはどこか懐かしさがあった。
懐かしさのわけは知っている。毎朝見る鏡の中の私と、どことなく似ていたからだ。

「 ……あなたは、あなたは母とどのような関係なんですか。どうして母がここに入院していた
 ことをご存知なんですか? 」
 一瞬、言葉を迷う。そして言葉を選ぶ。
お父さん。たったその一言を私は言えなかった。何度も何度も口に出かかった。だけど今までの
母と私の二人の生活がその一言ですべて消し飛ばされるような気がして言い出せなかった。
「 失礼ですが、お名前は…… 」
「 ……私は清瀬美佐江の娘で、悠といいます 」
私の返事で男の表情が変わることは無かった。ロビーの長椅子に深く腰をかけ、男は話し始めた。



456 :【悲劇ラジオ】【甘露】【母】3/6:2009/09/13(日) 11:13:38 ID:HfymTZsm

「 私は35年ほど前、清瀬美佐江さんと1年ほどお付き合いをさせて頂きました。私は真剣に
 交際しているつもりでしたし、美佐江さんもそうだったと思います。ゆくゆくは美佐江さん
 と結婚したいと強く思っていました。でもいろいろな事情でそれは叶いませんでした。
  結果的にきちんとした説明も出来ぬまま、私は美佐江さんを置き去りにするようなかたちで
 美佐江さんの前から姿を消してしまいました 」
「 どうやって母が入院したことを知ったんですか 」
私が母との関係を聞いたにもかかわらず、男の話をさえぎるように私は話を替えた。
私も、たぶん母も、この男を恨んではいない。だから過去のことはもうどうでもよかった。
「 ……。最近仕事と時間に余裕ができたので、気分を害されるかもしれませんが、興信所に依頼
 して美佐江さんのことを調べて貰いました。その報告でこちらの病院に入院中と聞かされました 」
「 そうですか…… 」 
そして会話が途切れる。
ただ私が、お父さん。と問い掛ければいいだけだった。でも私には出来なかった。
ただ男に抱きしめて貰いたいだけだった。でも男は私の名を呼ぶことさえなかった。 
「 今日は母のためにわざわざおこし頂きありがとうございました 」
沈黙に耐えられず私は言う。
「 いえ、こちらこそありがとうございました。それではこれで失礼します 」
男は席を立った。――待って、行かないで!―― 
「 あ、あの! 」
振り返る男に私は言った。私はどこまでも素直になれなかった。
「 あの、火葬式の簡単な葬儀ですが来て頂けますか? 」
「 ええ、よろこんで 」
男に携帯電話の番号と名前を、私の手帳に書いてもらった。私は生まれてはじめて父の名を知った。

 街のはずれにある火葬場で母の葬儀は終わった。
母の働いていた店のママさんと常連客、同じマンションに住んでいる仲のいい人たち、私の勤め先の
上司、私の親友、そして母の恋人だった男。20人にも満たない小さな葬式だった。
式は滞りなく和やかに進んだ。秋晴れの穏やかな午後、母は灰になり空を舞った。
 
 葬儀を終え、業者は自宅に後飾り壇を備えつけ帰っていき、部屋は母の遺影と私だけになった。
母の容態が急変してから今日までめまぐるしく時が流れ過ぎていった。
 冷蔵庫から缶ビールを取り出し一本を遺影の前に置き、私の分を開けて一口飲む。母の煙草入れ
からセブンスターを一本とり火を着ける。私にはきつい煙草でひとくち吸って煙を吐き出すだけで
頭がクラクラした。
「 疲れた…… 」
まだやるべきことは残っているが、母の葬式が何事も無く無事に終えたことで私は安堵した。
「 あっという間だったな 」
独り言のようにつぶやく。悲劇ラジオの主人公ように恋人を待つ母。そして母の死の間際、現れる父。
「 いくらなんでも出来すぎ 」
ビールを飲みながら私はクスクスと笑う。きつさに慣れたのか煙草の煙が私を癒す。
「 もう思い残すこと無かったよね? 」
母の遺影に問いかけても返事を聞けるわけでもない。
母は灰になって天に昇った。天国で甘露の日和のような甘く穏やかな時を過ごしているだろう。
父の顔を思い出す。そして、私の手帳に書いてもらった父の名前と携帯の電話番号を見る。
――これだけでいい。私にはこれだけで心のよりどころになる――
つい一ヶ月前までは、父のことなど気にもしていなかった。でも会った瞬間、私の心は震えた。

「 寂しくなかったの? 」
私を女手一つで育ててきた母の人生を想う。
「 母さんは父さんがいなくて寂しくなかったの? 」
母の遺影に問いかける。遺影の母は優しく笑っている。
そして私自身の言葉で、私の心にかぶせていた安物のメッキが剥がれ落ちる。
「 ……寂しかったんだよ 」
やっと素直に言える。でも、母はもういない。
「 私は、ずっとずっと寂しかったんだよ 」
目頭が熱くなり、母の遺影がぼやけた。溢れた涙と感情はもう抑えることは出来なかった。
ほろほろと涙が流れ続けた。母との想い出が壊れた映写機のように繰り返しまぶたに写った。


457 :【悲劇ラジオ】【甘露】【母】4/6:2009/09/13(日) 11:15:36 ID:HfymTZsm

母が死んで3ヶ月が過ぎた。
母の死後、仕事を10日間休み、いろいろな手続きや申請を行った。小高い丘にある墓地公園の一角
を買い、小さな墓の下に遺骨を納骨した。母がいない事を除けばもう以前と変わらない生活に戻った。
母が死んで寂しくなったのは確かだった。しかし私は父の存在を知った。それだけで充分母のいない
寂しさを埋めることが出来た。
父にも父の生活があるだろうから、私から父の携帯に電話することは無いだろう。それでも私の手帳に
記された父の名前と電話番号を眺めるだけで私は満足できた。

 土曜日の夜7時、家の留守番電話が鳴った。
私や母と親しい人は、それぞれの携帯電話に連絡をくれていたので、家の電話が鳴ることは滅多に
無かった。そして母が不規則な生活をしていた為、電話はいつも留守番状態になっていた。
母が死んだ後もそれは変わりなく用事がある人はメッセージをいつも吹き込んでくれていた。
 数回の控え目なベルのあと、留守番に切り替わる。男の声がスピーカーから流れた。

『 もしもし。清瀬美佐江さんのお宅でしょうか。突然の電話で申し訳ありません。私は久保田順一の 
「 えっ! 」
反射的に私は電話機に向かった。『 久保田順一 』手帳に記されている父の名前だった。
「 もしもし清瀬ですが 」
『 あ、突然すいません。私は久保田順一の息子で久保田順太というものです。恐れいりますが
 美佐江さんはいらっしゃいますか 』
胸騒ぎがした。私の父の息子を名乗る男、そして久保田順太は私の母が死んだことを知らない。
「 美佐江は私の母ですが、母は3ヶ月前に他界しました 」
『 ……ごめんなさい、大変失礼しました。それではユウさんは 』
「 私が悠ですが…… 」
胸の鼓動が激しくなる。嫌な予感がおさまらず視界が狭くなってくる。
『 あ、悠さんですね。……実は、父の順一ですが一ヶ月前に他界いたしまして 』 
「 ……嘘でしょ? 」
『 いえ……以前、胃がんの手術を受けたのですが、がんが再発しまして先月旅立ちました 』
「 ………………。」
 目の前が真っ暗になった…… 何も考えられなくなった…… 何もかもが嫌になった……
 どこかで『もしもし、もしもし?』と聞こえていた…… たぶん電話を切った…… もう嫌になった


 昨日の電話の後のことを良く思い出せなかった。
目覚めたときは朝の五時、薄っすらと夜が明け始めていた。急に吐き気に襲われて、トイレに
駆け込んだ。既に何度か吐いたのか便座の周りや床は、私が吐いたであろう物でちょっと汚れていた。
喉に指を突っ込んで無理矢理吐いた。もう胃液しか出てこなかった。洗面所の鏡を見る。ひどい顔をしてる。
うがいをして水を無理矢理飲んだが胃がそれを拒否してまた吐いた。またうがいをしてほんのちょっと
だけ水を飲んだ。それでだいぶ吐き気は収まった。

 ――父が死んだ。
泡状スプレーと使い捨てペーパークリーナーでトイレの床と便器を掃除した。
 ――父が死んだ。
飲めるかどうか不安だったが、カップスープをちょっとだけ作りちびちびと舐めた。
 ――父が死んだ。
昨日から着続けている服を脱ぎ、シャワーを浴びた。そしてシャワーを浴びながら私は泣きつづけた。

 シャワーから上がり髪を乾かした。
父の死んだ悲しみを涙とシャワーで流しきり、身体も温まったせいかだいぶ体調も顔色も良くなってきた。
インスタントコーヒーを入れ母の遺影の前に行き、母の煙草入れからセブンスターを取り出し火を着ける。
「 お父さんも一ヶ月前、死んじゃったって…… 」
母の遺影に話しかける。いつのまにか母の遺影の前でセブンスターを一本吸うのが日課になっていた。
「 さすがにまいちゃった 」
流しきったはずの涙がまた溢れる。隠す必要も無いのに煙草の煙が目にしみたせいにする。
そして、やはり涙は止まらなかった。

458 :【悲劇ラジオ】【甘露】【母】5/6:2009/09/13(日) 11:17:05 ID:HfymTZsm

 朝8時、何もする気がなくぼんやりとしてたら電話が鳴った。
当然、電話に出る気も無くそのまま留守番に切り替わるのを待っていた。
『 朝早くすいません。昨日電話しました久保田順太です。悠さん、もしいらっしゃいましたら 
「 あ、すいません。悠です。昨日は取り乱してすいませんでした 」
私は慌てて電話を出て昨日のことを詫びた。
『 あ、いえこちらのほうこそ突然すいませんでした。それでホント突然で申し訳ないんですけど
 悠さんこれから出かける予定はありますか? 』
「 いえ、特に予定はありませんが 」
『 じゃあ、突然でホント申し訳ないですけど、お渡ししたい物とお話ししたいことがありまして
 悠さんのご自宅に伺いたいのですがよろしいですか? 』
久保田順太の口癖かホントのアクセントがおかしくて私は思わず笑いそうになった。
話しぶりや声の感じでは特に悪い人のような感じも無かったので私は了解した。
『 あ、良かったー。それでホントすいません、実は悠さんのマンションのすぐ近くまで来てまして
 もう15分後くらいに伺いたいのですが 』
一瞬迷ったが特別問題も無いので来てもらうことにした。

 久保田順太は電話が終わった後、きっちり15分後にやってきた。
父と同じく久保田順太も背が高かった。まだ20代そこそこだろうあどけなさも残っていた。
丁寧にも菓子折りを持参してきた彼は、私と初対面の挨拶の後、母の遺影の前で手を合わせた。
居間に案内しコーヒーを出した。コーヒーを口にした後、順太が切り出した。
「 早速ですがこれを。……父の遺品を整理していたら出てきました 」
「 ! 」
順太から2枚の古い写真を渡された。日に焼けした白黒写真の中には、若き日の父と母の姿があった。
「 あと父が死ぬ間際『 清瀬美佐江名義の通帳があるのでユウに渡して欲しい 』と言って
 ました。これがその通帳です 」
通帳は2〜5万円の額で細かく入金されていて最終的に400万弱の金額になっていた。
「 それですいませんが俺いまいち話が見えてないんですよ。別に美佐江さんや悠さんを悪く
 いうとかじゃなくて、うちの父とどういう関係なのか知りたくて、よかったらその辺の話を
 教えて頂きたいと思いまして 」

【 ……。最近仕事と時間に余裕ができたので 】
【 ――がんが再発しまして先月旅立ちました 】
急に私の頭の中で初めて父とあった時の会話と、昨日の電話での順太の言葉が繰り返された。
( 仕事と時間に余裕ができたんじゃない…… 母と同じで、父も、もう時間が無かったんだ…… )
思わず私は天を仰いだ。テーブルの上の二人の写真と通帳を見ることが出来なくなった。
順太に断り、私は母の煙草を手にした。そして涙を拭った。

 私は、母と久保田順一が35年前に付き合っていたことや、私と母の暮らし振り、母が肺がんになって
入院し、臨終の間際に久保田順一が現れたこと。母の葬儀に参列してくれたこと。そして久保田順一が私の
父であると確信していると順太に伝えた。
順太もある程度のことは予想していたのだろう。私の話を聞いても驚愕の言葉も、私達親子を罵るような
こともなかった。そして何か思い当たることがあるのだろう、順太が口を開いた。
「 じゃあ、やっぱりあの時、悠さんのところにいたんだ…… 」
順太の言わんとすることは続きを聞かなくても想像が出来た。
「 あのとき、父はだいぶ具合が悪かったんですか? 」
「 いえ、もう医者からもあまり長くは生きられないと言われてましたし、本人もがんの再発なので
 覚悟は出来てたと思います。家庭療養ということでいたって穏やかに過ごしてました。
 二代続いてた運輸会社を誰にも迷惑かからないように解散出来てからは、医者からは止められてましたが
 クルマであちこち出かけてましたね。
  連絡はあったけど4日ほど家を空けたときがありまして、さすがに注意したら『 すまん。でも間に合って
 良かった 』て言いまして、ある種病人の殺し文句だから、もう俺も何も言えなくなったんですけど、
 こうやって事情が分かれば、親父偉い。それでこそ男だ!て感じですね。逆に行かなかったら男でない 」
順太はそう言って笑った。もう順太は父の死を乗り越えているのだろう、屈託の無い笑顔だった。


459 :【悲劇ラジオ】【甘露】【母】6/6:2009/09/13(日) 11:18:56 ID:HfymTZsm

 その後、順太は生前の父のことや、順太の家族のことを語り始めた。
23歳で出来の悪いエンジニアと言って笑っていた。そして順太の母親は中学のときに交通事故で
他界したらしい。順太の母が事故で死んだあと父は再婚もせずに仕事一筋でだったと言う。
一人っ子で現在は祖母と二人暮しで、どこまで本当なのか、親の遺産で豪遊してます。と笑顔で吹聴した。

 順太は私の住んでいる街から200キロ程離れた街に住んでいる。
朝、電話を貰ってからすぐ私のマンションに駆けつけたことを不思議に思い順太に聞いた。
「 まず悠さんの住所と電話番号は、以前、親父が美佐江さんの所在を興信所に依頼した報告書が
 美佐江さん名義の通帳と一緒に有りましたのでそれで知りました。
  あと朝早く来たのは、俺心配性なんで……。正直ストーカーです、ごめんなさい。
 昨日の夜の俺から電話したんですが、切られ方がショックでして、なんていうか悪徳セールス電話を
 切る時というか、イタズラ電話を切る時というか、がじゃん!って感じで耳が痛くなるほどの
 切られ方でして俺ホント落ち込みまして…… 」
「 うわ、ごめんなさい。私だいぶ気が動転してて 」
「 いえいえ。それでショックで倒れるとか意識を失うとかそういう感じの音はしなかったんで迷ったん
 ですけど、親父からの最後の使命になるんでどういう展開だろうと、早めに決着をつけた方がいいと
 思いまして昨日のうちに家を出て、川原の広場で車中泊して、迷惑だろうが常識的に考えて日曜日でも
 朝8時ならOKだろうと判断して電話しました。当然早朝6時くらいから悠さんのマンションの周りを
 クルマでぐるぐる廻って、駐車場確認して実際歩いてどの程度かまで確認しました。すいません。
  でも、もし電話出なかったら張り込みか、アポ無し突撃するつもりだったんで、電話に出てもらえて
 ホント嬉しかったっす。ありがとうございます 」
「 いえいえ、こちらのほうこそご心配おかけしましてすいません 」
 順太の話を聞いて、すごく心配かけてしまったな。と心の中で反省する。そして私ごときに気をかけて
くれた順太に感謝する。部屋と私の雰囲気にも慣れたのか順太も徐々に饒舌になった。父の情けない思い出
や笑い話のエピソードをおもしろおかしく語ってくれた。私の悲しい気持ちをだいぶ払拭してくれた。

 順太が部屋に来て2時間が過ぎた。
ちらりと腕時計を見た順太は、話の区切りのいいところで話題を膨らますのをやめた。
「 だいぶ長居しちゃったようで。そろそろ俺失礼します 」
ちょっと残念だったが、引き止める理由もなかった。古い2枚の写真はありがたく頂戴した。ただ、母名義
の通帳は、貰う気にはなれなかった。母の入院費や葬儀、墓地墓石代などかなりの出費はあったが、ぎりぎり
母と私の貯金でまかなえた。そして母の生命保険の請求手続きも済んでいる。そういうところは私は抜かりない。
これはもらえないから。と順太に通帳を返す。親父の命令ですからそれは困ります。と順太も負けない。
じゃあ、預かっておいてください。私は言う。わかりました。その代わり目減りしても知りませんよ。 
その順太の言葉に思わず私は笑う。

「 悠さん、また後で遊びに来てもいいですか? 」
マンションの玄関でスニーカーを履き終えた順太が言う。私はちょっと戸惑う。そう言う言葉が来るとは
想定していなかったからだ。
「 ……ええ、良かったらいつでも来てください 」
もしかしたら表情に出たかもしれない。私はちょっとだけ迷った。
「 あ、ホントっすか、嬉しいな。俺一人っ子だから寂しかったんですけど、急な展開で母親は違っても、
 俺、姉さんできて嬉しいです。遠慮せずにガンガン来ますんで迷惑なときは断ってください 」

 ―― 私は馬鹿だ。大馬鹿だ。なんでこんな単純なことがわからなかったんだろう ――
順太の笑顔に、父や母の面影が重なる。もう順太の顔はぼやけてよく見えなかった。
「 待ってるから、遠慮なんかしなくていいから、いつでも遊びに来て 」
泣きながら私は順太を抱きしめた。そして何度も何度も、遊びに来てと繰り返し繰り返し言いつづけた。
ずっと遠回りをしたけど私はやっと家族の前で素直になれた。
 


見慣れた順太のクルマに乗り込む。連休を利用して弟と一緒にお墓参りに行く。すがすがしい秋晴れの空だ。


おわり



460 :創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 13:20:04 ID:xC8blDIr
あ、あれ? 変だな、モニタの文字がにじんでるぞ…
キーボードの上に水滴が落ちてるし。

>>454-459
何と言っていいか、言葉が見つかりません。
言えることは、ただ一つ。

いいものを読ませていただきました。
ありがとう。



461 :創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 16:54:52 ID:oNV3npEa
人は死んでいなくなるけど別の形をとってこの世に残るんだ。

良作でした。GJ!


462 :創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 19:14:07 ID:mmjY6aWm
良作だなぁ、でもお題が難しいからそろそろ新しいのプリーズ

463 :創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 19:38:43 ID:54WSpyRE
「行方不明」

464 :創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 20:29:49 ID:CQC4Sicg
中央アジア

465 :創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 20:30:34 ID:l1fq7FLz


466 :創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:14:41 ID:qINlHzDo
>>454-459
丁寧ですね。
ちょっとうるっと来ました。GJです。
このくらいしか言葉が出てこないのがもどかしい(苦笑

467 :行方不明、中央アジア、猫:2009/09/16(水) 11:58:58 ID:N/FXxGJ8
 中央アジア-ウズベキスタン-キジルクム砂漠
俺の目の前には荒野が広がっている。キジルクル「砂漠」と言っても見渡す限りの永遠の砂という
わけではなく雑草が生えている場所もある。いわゆる「砂漠」と「荒地」を足して2で割ったような
場所だ。
 キジルクム砂漠に今俺はいる。
かなり厄介な状況に俺は追い込まれている。それはキジルクル砂漠にいるのは知っているが、キジルクル
砂漠のどこにいるのかがまったく解からないのだ。
端的に説明するならば、俺バックパッカー、強盗に襲われる、身ぐるみ剥がされる、砂漠に置き去られる、
放置されて2日目、お情けで貰った水筒にはほんの僅かの水、俺干からびる寸前。という状況なのだ。

(もはやこれまでか)
砂漠に放置されて3日目の夜。膝から下の感覚が無くなる。息をするだけで痛い喉、そして干からびて
がびがびになっている口の中。もう声を出すことも出来ずに俺は倒れこんだ。
高校卒業後アルバイトと長期一人旅を繰り返している。今まで遊びほうけていて、ばちがあたったようだ。
どうやら22歳3度目の海外旅行にて俺の人生が終わりそうだ。
満天の星空の下、乾ききった俺の瞳からは涙すら出なかった。

「にゃー、にゃー」
どこからか猫の鳴き声がする。ゆっくりと声の方向を見る――
「!」
 5年前に行方不明になったはずの飼い猫、みけがいた。
しっぽが長くスマートで、その名の示す通り三毛猫のメスだ。
子供の頃から一緒の布団で寝ていたみけ。ベビースターラーメンが大好物だったみけ。壮絶な状態の
モグラやネズミの死骸を丁寧にも俺の枕もとに置いてくれたみけ……
 猫がひっそりと姿を消す。言うまでもなくそれはその猫の死をあらわす。俺が物心ついたころから
家にいた猫だから、充分長生きした猫と言っていいだろう。みけを亡くした悲しみからか、その後
俺の家でペットを飼うことは無かった。

「にゃー」
みけが俺を呼ぶ。
どうやら天国から俺を迎えが来たようだ。俺は最後の力を振り絞って、みけの後を追った。

 気が付けば朝だった。しかし死んでいないのが救いなだけで体中干からびて足の感覚は無かった。
ゆっくりと身体を起こし周囲を見回した。ほんの数十メートル先に小さな池があった――
「み、水!」
のたうちながら俺は池に辿り着いた。そして池に頭から突っ込んで水を飲みつづけた。
 
 その後、俺はこの池を拠点として周囲を探索した。池から2キロほど離れた場所に道路という
ほど立派じゃないが、車が通ったと思われる道があったのでそこに移動し、車が通るのを待った。
放置されて5日後の夕方。俺の前に車が止まった。


 
 ユキヒョウという野生大型ネコ科の動物がいる。
中国、中央アジアの山岳地帯に棲んでいる。が、まれに山麓の砂漠やオアシスにも出没するらしい。
 もしかしたらあの夜俺が見たのは、ユキヒョウの幼獣か他の野生動物かもしれない。
でも俺は、みけが俺を助けてくれたと日本に無事帰国してからも、ずっと信じている。


468 :創る名無しに見る名無し:2009/09/16(水) 18:41:25 ID:U/TMZbhV
結局キジルクルなのかキジルクムなのか

469 :467:2009/09/16(水) 19:21:17 ID:lsw+Dizn
>>468
失礼しました。キジルクム砂漠のつもりで書いています。
誤字の方が多く混乱させてしまいすいません。

470 :創る名無しに見る名無し:2009/09/16(水) 20:31:27 ID:+dtvmrwy
いい話じゃないか。

471 :創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 07:20:21 ID:UQ5smCAd
>467
みけ乙

472 :創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 20:34:44 ID:Uj6u1SC3
面白かったー

473 :創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 01:10:05 ID:R6d97Kyl
単なる「良い話」にとどまっているのが残念

474 :創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 12:33:02 ID:yLo3qfjk
俺は某国の荒野に行った時のこと思い出した
ありゃ恐ろしいところだよ。何もしなくても体力消耗するし地平線の果てまで何にもない。
それになにより進んでも進んでも殆ど景色が変わらない。これも結構怖い話だと思って読んでたよ

475 :創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 20:24:19 ID:Bw7dgIPF
投下無さそうだし次いきますか

476 :創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 20:29:43 ID:4DAY+opG
次の題なら
時雨

477 :創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 20:31:20 ID:oDdzpvZa
戦国

478 :創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 21:12:02 ID:MvICEkC0
生まれ変わり

479 :創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:07:57 ID:lHDEiyLO
しいたけ
……遅かったか。>>476-478把握

480 :創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 12:29:13 ID:EO5awjCe
しいたけの生まれ変わり?(違


三題把握

481 : ◆91wbDksrrE :2009/09/22(火) 01:01:23 ID:+SpJHJWV
 とある焼肉屋でのことだ。
 目の前に、しいたけがあった。
 しいたけである。
 何の変哲も無いしいたけである。
 だが、何故か俺にはわかったのだ。
 このしいたけは――このしいたけは――!
「あ、しいたけ要らないならちょうだいねー」
 あ。
 あっと思う間しかなく、しいたけは嫁の口の中に消えた。
 あのしいたけは――あのしいたけは普通のしいたけではなかったのに!
「……」
 俺の視線に気づいているのかいないのか、彼女はご飯をかっこみ、
おいしそうに嚥下する。のどがごくりと動いた。しいたけはもう胃袋まで
到達してしまっただろうか。胃液に溶けて、見るも無残な姿になって
しまっただろうか。
「あれ? しいたけ要ったの? そりゃ悪い事したねー。んじゃもう一個焼くね」
 星型の切込みが入った新たなしいたけが、網の上に転がされる。
 だが、あのしいたけではない。このしいたけは違う。戦国の世を共に
生き抜いたあのお方の生まれ変わりは、あのしいたけだけだったのだ!
「……あーくん、何かまた変なこと考えてる?」
 変な事ではない。これは前世の導きと、その続き。悲嘆に暮れながら
別れ、今また出会ったというのに、あのお方は俺の手に抱き締められる事も
なく、嫁の胃袋に消えてしまった。何という事だ。神も仏もいないのか。
「カルビおいしー。やっぱり安い肉の方がおいしいなー」
 貧乏舌のわが嫁は、俺の前世からの運命など知る由も無い。ましてや、
その運命の相手が自分の腹の中に入ってしまったなどとは、夢にも思わないだろう。
 何せしいたけだ。まさか俺も、あのお方がしいたけに転生しているとは
思いもしなかった。どおりで運命を感じる女性に出会えなかったわけだ。
俺の運命の相手は――しいたけだったのだから。
 こんなことなら、見合いからの恋愛結婚で今の嫁と結婚などせず、
しいたけ農場に就職して一生を独りで過ごしていればよかった――
などとは思わなかった。今の嫁は今の嫁で、俺は愛しているのだから。
「……あーくん、ホント変だよ。また前世がどうしたとかいうムー展開?
 私相手ならいいけど、他の人の前ではやめてねー」
 だが……だがしかし、だ。考えてみれば、俺の運命の相手はしいたけ
だった。そして、そのしいたけは既に我が嫁の血肉となっている。
 となれば! 我が嫁こそが運命の相手と考えてよいのではないか!
「うむ、そう考えれば何の問題も無い……むしろ好都合だ」
「ほえ? 何が?」
 我が嫁は器量よしだ。家事なども万能で、俺には出来すぎた嫁だ。
そんな嫁を、俺は愛している。その嫁が、いまや我が運命の相手と
なったのだから、これを喜ばずして何を喜ぶ!
「……お前は俺の運命の人だよ」
「え、いやだぁ、何をいきなり……って、なんで泣いてるの?」
 照れている姿も可愛い。いう事はもう何もなかった。俺は、時雨のように
頬を零れ落ちる涙をそのままに、追加注文を頼んだ。店員が涙を見て
いぶかしんだが、俺は意に介さない。
「最高級松坂牛を」
「え!? どったの? なんでまた急に!? ……熱でもあるの?」
「祝いだよ。再開と……確認の、な」
 既にぬるくなり始めたビールが入ったジョッキを掲げると、嫁もそれに
あわせてグラスを掲げる。
「改めて……乾杯」
「かんぱーい!」
 ああ、俺は何と言う幸せ者なのだろう。愛した嫁が、前世よりの運命
の相手に“なってくれた”のだ。
 これ以上の幸せが、世の中にあるだろうか――いや、無い。
「しあわせー♪ とろけるー♪」
 願わくば、嫁も同じように幸せであってくれればと、そう思う。
                                      終わり

482 : ◆91wbDksrrE :2009/09/22(火) 01:02:37 ID:+SpJHJWV
ここまで投下です。

しいたけの誘惑に抗えませんでした!

483 :創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 02:13:53 ID:T4j19fCQ
なんのこっちゃ
不条理やりたいにしても嫁の台詞いらんよ。その分、しいたけとの因果関係を納得させるために割くべきではないかと思う。
書き散らしたように思えてならないが、四題消化してまとめたのは評価する。
しかし明確な落ちが必要。これでは適当に終わらせたように読まれるだろうし、事実深みが読み抜けなかった。
仕掛けと構築が今ひとつ。情景は好きだから精進してくれ。

484 :創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 07:56:52 ID:k00CGw3Z
自分はすごい面白かった。
語り手のキャラが好きだ。なんか幸せそうな人でいいw
そしてしいたけ視点ではどういう話なのか気になるw

485 :時雨、戦国、生まれ変わり:2009/09/22(火) 12:48:42 ID:nCIEpkjD

あと1点差まで迫っていた。
けれど、すでに5回裏を終わっていた。
この時点で、コールドゲームの条件は満たしている。

二死一、三塁。
すでに降り出した雨で、視界も悪い。
グラウンドはぬかるみ、ボールも握りにくくなっている。

少年は、三塁上で睨みつける。
視線の先に、ホームベースがある。

せめて、何かやらなければ。
そのとき、ある情景が少年の脳裏にフラッシュバックした。

   〜 〜 〜

「御館様……、無念でございます」
鎧の間から矢を無数に突きたてられている。
彼は、自分の身が、もはや助からないであろうことを知っていた。

草むらに跪き、遠くを見やる。
時雨が視界を覆い、白く煙って見える。
その先では、分の悪い戦が続いていた。

そこかしこに、敵味方問わず遺体が転がっている。
むせかえるような血の匂いに、もう鼻も麻痺してしまった。

「願わくば……一矢報いて死にたいものだ」
敵の騎馬がこちらへ向かってくるのが目に入った。
彼は兜を脱ぎ棄て、槍を持ち直すと、すっくと立ち上がった。
全身が痛み、大量の血液が流れ出していくのが感じられた。

彼は怒号とともに走りだし、騎馬に向かっていった。

   〜 〜 〜

「願わくば……一矢報いて」
突如、頭に浮かんだ台詞を口にする。
腹は決まった。

ピッチャーが投球モーションに入ったとき。
少年は、ホームスチールを敢行した。


486 :485:2009/09/22(火) 12:57:46 ID:nCIEpkjD
↑単語として折り込むことは出来なかったけど、

野球少年 = 戦国時代の武士の生まれ変わり

のつもりで書きました、念のため
(作品に後付け解説するのは嫌だったのですが…すみません)

487 :創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 13:15:18 ID:PcXn+E22
>>485
良かったよー


488 :創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 16:22:22 ID:9QDLldi8
>481
どんだけ、しいたけ愛してるんだよw
切り込みも星型だしなww

>485
情景もいいし、展開もストレートで分かりやすいんだけど、
個人的には、やはり文章内に三題使って欲しい。
どうやって三題こじつけてるのかを探す楽しみがないとw
苦し紛れの駄洒落、完全に浮いている描写wとか、あるいはこう来たかー!って
関心させられるのも楽しいし。


489 :創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 20:35:18 ID:nCIEpkjD
>>487さん
読んで下さり、ありがとうございます!

>>488さん
ですよねー。まだまだ修行が足りねっす
精進、精進!

490 :創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 22:14:21 ID:VeZFJcfd
重厚なお題だと投下物もボリュームあるのが来るな

491 :時雨・戦国・生まれ変わり 1/2:2009/09/23(水) 02:18:00 ID:piBtbKFs
「生まれ変わったら何になりたい?」
隣に腰を下ろした同志が煙草の煙を吐き出しながら訊いてきた。
「そうだなあ……」
灰色の空に溶けてゆく煙を眼を細めて見送った。
空はこんなにも曇っているのに、それでも眩しい。
暗く沈んだ向こうの森から数羽、鳥が飛び立つのが見えた。
「鳥、かな」
同志は目線の先をたどってベタだな、と軽く笑った。
静かだった。
「静かだな」同志が考えを読んだようにぽつりと呟いた。
「きっとあちらも昼飯の時間なんだろう。
 ほら、よく言うだろう? 腹が減っては……ええと……」
「戦はできぬ」
その一言でまた、煙が空へと昇っていく。
吐き出されたのは煙と答え、どちらが先か。
煙は空気に、答えは沈黙へ……

さっきの質問を考えてみる。
生まれ変わる、とはどういうことなんだろう?
生まれ変わることなんてできるんだろうか。
生まれ変わっても、また同じ道をたどるのではないのか。
生まれて、大きくなって、兵士になって、戦争にいって、死んで、また生まれて……
どこかの国と戦争していることが日常のこの時代では、
たとえ生まれ変わっても兵士となって戦うしかないだろう。
そう思えるほど兵士はつぎつぎと戦地に送り込まれてくる。
いつから始まったのかも定かではない戦争を続け、勝利と敗北を積み重ねているうちに、
戦勝国とも敗戦国とも言えなくなったこの国は、
ひたすら戦い続けるただの「戦国」と呼ばれるようになった。
具体的な数値ではなく、もはや「莫大」という意味をしめす記号となった
戦争賠償金をわずかに減らしたり、増やしたりするだけの単純なゲーム。
シーソー遊びのようにきりがない。
see-saw,see-saw……

492 :時雨・戦国・生まれ変わり 2/2:2009/09/23(水) 02:22:17 ID:piBtbKFs
向こうの森から数発、空に向かって砲弾が発射された。
隣の同志と一緒に空を見上げる。
遅れて、爆発音と衝撃。
「始まったな」
そう言うのと同時にノイズまじりの無線が砲撃再開、と告げる。
砲撃は次第に激しさを増し、爆発音と振動が近づいてくる。
「退避しよう」
同志は頷くと煙草を口に銜えたまま銃を担ぎ上げた。
トーチカまで走る。
途中でばらばらと雨が降り始める。
後ろを走る同志の舌打ちする音が聞こえた。
トーチカにたどり着いたその瞬間、閃光と衝撃が背後で炸裂した。
その勢いでつんのめり、柱に手をつく。建物がびりびりと揺れる。
後ろを振り向くと、ちょうどさっき立っていた辺りに砲弾が落ちたようだった。
助かった、と同志が呟く。
「煙草が消えなくて?」
同志はこちらを見ると、方眉を上げてゆっくりと頷いた。

見渡すと、爆発の煙があちこちで立っていて、視界は悪いが
降りしきる雨がみるみる煙を吸い取っていく。
「通り雨かな。この季節は多いな」
「時雨」
「え?」
隣を見ると同志は煙草を指に挟み込んで、その先端の赤い火を眺めていた。
「そう呼ぶんだ、こういう雨を」
そういえば聞いたことがあるような気がする。
そんな文学的な言葉を聞いたのは久しぶりだった。
「物識りだな」
「物書きになりたかったんだ」
「へえ……」
また近くで爆発が起きた。
爆風に飛ばされて誰かのヘルメットが足下に転がってきた。
くるくると回っていたそれは次第に動きを遅め、
雨を受けるように天に空洞を晒した。
内側にヘルメットの持ち主が書いたとおぼしき落書きが読めた。

“死ぬも
生きるも
たんなる
刑罰”

同志はかがんでメットの中に煙草の灰を落としこんだ。
「なあ、お前は生まれ変わったら何になりたいんだ?」
「俺は……」
同志は深く煙草を吸い込み、瞑目して煙を吐き出すと
煙草を弾いてメットに投げ入れた。
赤い火がきれいな放物線を描いて残像をのこし、
底に溜まった雨水に浸かってちゅん、と音を立てて消えた。
「また、俺になりたいな……」
それきり会話は絶え、雨音と地響きだけが空間を支配した。

雨が、兵士たちの血で汚れた大地をうちつけていた。
それらはやがて海にくだり、また空に昇り、
ふたたび雨となって兵士たちの上に降り注ぐだろう。

493 :創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 02:25:25 ID:piBtbKFs
以上。

くっらあああァァーい!!

494 :創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 03:17:41 ID:bgUHgI9L
乙。クライマックスの一言までの流れがすごく良かった。
願くばもう少し、何故俺として生まれ変わりたいのか、俺として生まれ変わるとは何か、この二点に説明が欲しい。
決め台詞が空回りしている。浅い。
この点が気に食わない読者は少なからず出てくるだろう。その気があれば遠慮なく罵倒してくるかもな。
久々に地の文との配分を大事にしている作を読めてほっとした。

495 :創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 09:21:50 ID:8ApEWcNu
投下乙。うまいなー。
ひとつだけ、意図的な描写だとは思うけど、個人的にヘルメット→メットだと
なんかバイクマンガを想像しちゃって情景がぶれるので、ヘルメットで統一された
ほうが個人的には好き。たんなる俺の好みだw
戦国の使い方もうまいなー。正直この発想はできなかった。GJ!

496 :「時雨」「戦国」「生まれ変わり」:2009/09/23(水) 17:01:11 ID:jT+qfcBb
あれは色づいた紅葉が皆散ってしまった頃だっただろうか。私は当ても
ない逃避行を続けていた。
二丁目の八百屋の角を曲がり、三丁目の空き地を通り抜けた。
 捕まるわけにはいかなかった。彼はもう、いつもの優しい夫ではなかっ
たのだ。
大分歩いてからのことだ。俄かに当たりが薄暗くなったかと思うと、音
を立てて雨が降り始めた。私はいつしか町の外れにいた。
今思えば、その時何かしらの予感はあったのかもしれない。私の視線は
自然に引き寄せられていた。交差点の向こう側に立つ彼の下へ。
「随分と遠くまで逃げて来たんだな」
いつもと同じ調子だった。でも、その目だけは、私を見逃すつもりはな
いと語っていた。
「私を……どうするつもりなの?」
「どうもしないさ。ただ「けじめ」をつけてもらうだけだよ」
すぐに分かった。彼が私を簡単にには許すつもりがないことが。
私は「一炊の夢」の故事を思い起こしていた。あれは戦国時代の趙の都、
邯鄲を舞台にした話だった。男は栄華を極めた幸福な一生を体験するが、
それはごく短い間見ていた夢に過ぎなかった。
まさに私のことだと思った。あの幸せだった結婚生活は終わったのだ。
「許してくれるつもりはないの?」
彼は、全身が濡れ鼠になった私を冷たい目で見つめていた。
「生まれ変わったら、もっと優しい旦那を探すんだね」
いつの間にか、雲の合間から日の光が差し込み、あたりは段々と明るさ
を取り戻していた。その時初めて、私は自分の頬を濡らしているのが雨の
雫だけではないことに気付いた。
最後にもう一度、夫の顔を見上げた。私はさぞ恨めしげな目をしていた
だろう。
彼はそれを横目で受け流すと、振り返って歩き始めた。私への「判決」
を言い残して。
「さあ、帰ろうか。家に着いたらさっそく「誠意」を見せてもらうよ。
まずは皿洗いを一週間一人でやってもらう。僕の椎茸を食べた罪は重い」

497 :創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 17:03:57 ID:jT+qfcBb
以上投下終了
こんな短い文章の中で三回も倒置法を使うのは少しうるさかったかもしれない

498 :創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 21:02:52 ID:MRscM3aW
>>496
描写では分かるんだけど
「しぐれ」どこー?「しいたけ」でズコーだ!
しかもよりによってオチで使いやがるとは…。wktkしたのに久々に絶望したw


499 :創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 21:26:45 ID:rFSlxEFX
すげーなぁ……
あらためて、ここの職人さんたちの腕に感服する

>>493
いい情景ですね! 「同志」とのジョーク混じりのやり取りがツボです
軍人ものはストイックで好きなんですよ
あと、
…すみません、例のスレを先に見ちゃいました…
ごめんなさいごめんなさい
自力で見つけられたら、今の数倍ニヤニヤできたのにー!

>>497
良かった。DVものだったら…ってちょっと不安だったけど、
しいたけでよかった! 微笑ましい

てか、しいたけの奴、隠れた主役じゃないか

500 :創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 22:00:27 ID:jT+qfcBb
>>492
縦読みwww

501 :創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 22:53:09 ID:sRXeDmtt
やはりしいたけの誘惑に抗えない人は多いんだなw

>>493
キュンとした。悲惨というより、切なさの方先に感じるような、
何か不思議な感じ。

>>497
そこまでしいたけ好きかw
ぶっちゃけ二人ともノリノリでやってんじゃないのかとw

502 :創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 18:13:23 ID:S9+3pXHW
新お題をくれないなら全国のカーネルを道頓堀に沈める

503 :創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 18:18:00 ID:UiMaoDhG
「呪い」

504 :創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 18:25:06 ID:ogajdMK+
さくらんぼ

505 :創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 19:30:24 ID:aCXklxzv
ラー油

506 :創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 22:28:47 ID:S9+3pXHW
よかろう。
カーネルには手を出さん。

507 :「呪い」「さくらんぼ」「ラー油」:2009/09/30(水) 07:28:36 ID:mu866DE7
「ねぇ、知ってる? この柄の所を口の中で――」
おやつに出したさくらんぼを頬張りながら、君は言う。
ああ、知ってるよ。ずっと前に君に聞いたから。
忘れる訳ないよ、君との事なら。
小学生の頃、肝試しの時に怖がってずっと僕に引っ付いていた事も。
中学生の頃、ラーメン屋でラー油をかけすぎた餃子を食べさせられた事も。
高校の入学祝いに鍋パーティーを開いた時、苦手な椎茸を押し付けあって、
結局全部僕が食べた事も。
頼み込んでバスケ部のマネージャーになってもらった日の事も。
君がキャプテンと付き合い始めた日の事も。

「そういえば、先輩がね――」
そんな話は聞きたくない。
夢の中の様に、僕の事だけを見ていてほしい。
気付いてほしい。
受け止めてほしい。
痛い。
苦しい。
この恋は呪いなんだろうか。

「――って事があってねぇ」
僕の気持ちを何も知らずに、さくらんぼは優しく笑っていた。

508 :創る名無しに見る名無し:2009/09/30(水) 13:50:28 ID:84/+c0+m
色とりどりの全身タイツが5人現れた。
何故かタイツ達は崖の上に居る。
「とうっ!」
シュタ!
息ぴったりに着地。
「禁断の赤!林檎!」
「魅惑の赤!苺!」
「桃源郷のピンク!桃!」
「野菜の赤、人参……」
「最臭兵器!ドリアン」
全身タイツ達はポーズを決める。
「5人そろって!果物戦隊フルーツファイブ!」
ドカーン!
背後で登場演出らしき謎の爆発。
「まてまてまて、お前ら色かぶっとるやんか!」
呪いで全身からラー油が染み出すようになってしまった敵怪人・ラー油男が突っ込む!
「ああん、言葉責めだなんて……!」
ピンクが自らのナイスバデーを抱き締めてクネクネする。
下着をつけていないのか、胸のシャラポワがツンツンしていてデレる様子がない!
「ピンクお前は被っとらんやんけ!赤や赤!問題は赤!色考えろや林檎苺人参!」
「ふふふ、禁断の果実、食べてみる?」
林檎はマスクを少しずらして口を見せ、舌なめずりして見せた。
ちなみに林檎は1児の母で、夫はヤクザ屋さんである。
「わ、わだすはアルバイトだもんで色とか選べなかったんよぅ」
苺は訛りの取れない15歳の中学生。
ないちちなだらかな身体のラインが強調される全身タイツが恥ずかしいから、桃と違った意味でクネクネしている。
労働基準法違反であるが児ポにはギリ引っ掛かっていないはずだ。
「……」
人参は黙っている。
内股で、じっと何かに耐えているみたいだ。
唯一の黒一点ドリアンが人参に語りかける。
「人参ちゃんよお、今日もちゃんと続けてるんだろうな?」
「は、はい。今も……」
人参の何処かに人参が入っているとかそういう事、かもしれませんね。
恋愛模様はブラウン運動よりランダムなのだ。
「お、お手柔らかにたのんます!」
「うふふ、固くなっちゃって。すぐにほぐしてあげるわ」
ラー油男は林檎に連れられて行ってしまった。
一夜の夢の代価は一命。
ラー油男はコンクリートに詰められてどんぶらこっこどんぶらこっこ。
こうして世界の平和は(主にヤクザによって)守られた!

終り

509 :創る名無しに見る名無し:2009/09/30(水) 21:25:51 ID:DqlJiHOc
>>507
うわ、切ない・・・。
もっと早く好きだと言えてたら、って奴ですね・・・。

>>508
おまwww色々ダメだろwww

510 :創る名無しに見る名無し:2009/10/01(木) 05:28:40 ID:esnu6RdC
「あー、捗んねぇ」
何故、将来役立てることの無い物理の勉強などをしなくてはならないのだろうか?
期末テストなんて、糞喰らえだ。
そんな俺の苦悩の声を聞き付けて、
キッチンから母さんが何かを持ってやってきた。
「頑張ってねぇ、たっくん。はい、これ」
17にもなって『たっくん』はやめろと、いつも言っているだろうに。
しかし今は差し出された小皿に、俺の心は奪われた。
「これは……さくらんぼ!」
シロップが掛かり緋色に輝くそれは、官能的なまでに、僕の唇を誘っていた。
「おばあちゃんから聞いたおまじないでねぇ、
これを食べると集中力が増すんだって!」
そんな言葉はいらない。
俺はただ乱暴に、強引に、チェリーという名の宝石を口の中に放り込んだ。
その味は甘くてクリィ――
「かっ!? はっ!? こ、なっ??」
「さくらんぼにねぇ、ラー油をかけるの。
母さんもこれでね、試験を乗り切ったのよぉ」
ああ、これはつまり『お呪い』。
微妙に違うよ、ニュアンスが。
「勉強、頑張ってねぇ」
母さんは、いかにも善いことをしたという笑顔で、キッチンへと帰って行った。
父さん、そろそろ自分の部屋が欲しいです。

511 :創る名無しに見る名無し:2009/10/02(金) 02:40:45 ID:8taKzPhw
物理は確実に大学レベルの方が面白い、高校物理は人生を無駄にしていると思う。
レベルが低すぎて本来その領域が持つ魅力を全部殺してる。

512 :創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 02:26:45 ID:cFtIwUu2
そろそろ新お題プリーズ。

513 :創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 04:51:04 ID:Zh5w6q2b


514 :創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 09:20:50 ID:V7pQP+oZ
睡魔

515 :創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 09:29:47 ID:Et0N47wi


516 :創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 17:08:16 ID:dlgoLwLy
>>507
いいね。誰しも、こういう思い出あるんじゃないかな?
こういうの、結構好き
そして、未だしいたけからも逃れられないww

>>510
「おまじない」か、上手いな
そしてこれも誰しもある思い出(←ないない、ラー油はありえないww)


日常の一場面を描写した2編、GJです!

お次も、面白そうな三題だな
書き手さんたちがどんなものを投下してくるか、楽しみ

517 : ◆91wbDksrrE :2009/10/10(土) 23:49:23 ID:8iTfCxvR
 人は独りでは生きられぬと言うが、それは狼とて同じ。群れずして
生きるに足る力を持つ物は限られる。彼は、その稀な孤狼であった。
 独りで生きるに寂たる想いを抱いた事はなく、それが当たり前、
それが自然であった。群れるは犬に等しいと言い放ち、それを言い放つ
事を可能とするだけの威風を誇った彼が、今その生の中で初めて自分
以外の何か求めていた。
「嗚呼、お主は何故にそれ程までに美しい」
 彼が求める物、それは遥か彼方の夜闇に浮かぶ物。
「嗚呼、お主は何故にそれ程までに……月よ」
 彼が求める物、それは夜空に浮かぶ月であった。
 時を遡る事幾日か。十五夜も深まった頃、その日の夕餉を終え、
血塗れた口を漱ごうと、訪れた湖に口をつけようとしたその時、彼の
目に映ったのは満面の笑みを浮かべた――彼にはそう思えた――
月の姿だった。何の因果か、今まで月など数多眺めてきたというのに、
その時、その瞬間の月は、彼にとって特別な物となり、そうして彼は
一目にて見惚れた。それより後、夜空に浮かぶ月は、彼にとって
想いの相手となり、叶わぬ想いで胸を焦がす日々が始まり、そして
彼は初めて獲物を獲る為以外、生きる為以外の事に考えを巡らせた。
「我はお前に逢いたいのだ、月よ。その為には如何すればいい?」
 生きる為にしか考えてこなかった彼には、その自問の答えなど
皆目検討がつかなかった。だが、それでも彼は想った。想いの相手に
逢いたいと。想いの相手に、その手で、せめて――
「我はお前に触れたいのだ――」
 孤独である事は、それでも生きてこれた事は、彼にとっては誇り
であった。だが、その誇りをかなぐり捨ててでも欲する物が、今彼
にはできた。

「……お主らは知っておるか」
 ある日、自分たちの群れへと訪れた孤狼に、群れた狼たちは
驚き、慄いた。そして次の言葉に唖然とする事になる。
「俺は月に逢いたい。その為には如何すればよいか」
 孤狼は問うたのだ。純然たる想いそのままの問いは、だがしかし、
群狼達にとっては狂気からの問いにしか聞こえず、しばしの間、
場には沈黙が満ちた。
「……知らぬのか」
 呟くような声が、沈黙を破る。
 孤狼の機嫌を損ねまいと、群狼達は懸命に首肯した。数の利が
あろうとも、群狼達も孤狼の噂は聞き及んでいた。中には実際に彼の
狩りをその目にした物もおり、機嫌を損ねればどのような目に
遭うかと再び慄いていた。
「……ならば、よい」
 孤狼は激情に駆られる事もなく、落胆した様子でその場を
去った。群狼達はその様子を見て、安堵すると共に疑問を得た。
 彼は、狂ってしまったのだろうか? あの夜空に浮かぶ月と
逢いたい、などと。

 彼は尋ね歩いた。群狼が知らないならば、かつて対立し、
自らが降した他の孤狼を訪れ、訊いた。答えは知らぬの一言。
自らを前にして微動だにできなくなっている兎や栗鼠にも訊いた。
やはり答えは知らぬの一言。空を飛ぶが故に月に近しいのでは
ないかと尋ねた鳥は、飛び去り際に知らぬと答え、同じく空を飛ぶ
虫には言葉が通じず、猪や熊には笑われすらした。
 月に逢いたい。その為にはどうすればいい。その疑問をいくら
重ねようと、誰もその答えは知らなかった。
 もしや、と、その頃彼の中には暗い、暗い、夜の闇よりも真っ黒な
想いが芽生えつつあった。
「……我は、月には逢えぬのか」
 望みが途絶えるという事を知らない、今までただ生きるという事しか
望まなかった彼には、その想いはあまりにも重かった。

518 : ◆91wbDksrrE :2009/10/10(土) 23:51:21 ID:8iTfCxvR

 気づけば、彼はあの日、初めて月への想いを抱いた泉へとやって来て
いた。夜空を見上げれば遥か彼方に想いの相手がいて、視線を落とせば
湖面に彼女が笑っている。だが、湖面の彼女は触れれば漣の中に溶けて
消えてしまう。故にこそ、故にこその切望。だが、それも最早絶望へと
変わりつつあった。
 その時、湖面の彼女が赤く頬を染めた。まるで血のような赤に驚き、
よくよく泉の周りを見渡せば、一人の人間が泉の傍に倒れ、湖面を染める
程に血を流していた。
 彼は人を食った事はなかったが、その流れる血を見る限りでは、最早
助かるまいと思えた。どんな生き物であろうとも、その流れる血を
絶やしてしまえば生きていられないという事は、数多の流れる血を絶やして
きた彼にはよくわかっていた。この場を、彼と月との初めての邂逅の場を
血で汚した購いはさせなければならないが、だが、既に死に行く物にどの
ように購わせればよいのかは、彼にはわからなかった。
 しばし死に行く人間を眺めていた彼は、ふと思い立ち、声をかけた。
「おい」
「……なんだ」
 驚くべき事に、人は応えを返してきた。最早助かる事は無い傷を
負うているにも関わらず、意識の方はまだ途絶えておらず……それは
彼にとっては僥倖であった。人であれば、あるいは――
「お主は知っておるか。月に逢う方法を」
「……月に逢う? お前は狼か。お前は……月に逢いたいのか」
「そうだ。我はあの月に逢いたい。逢って触れたい。あの笑顔を我の手の
 中にて覚えたいのだ」
「狼は空を飛べない。いくら跳ぼうとも、月には届かぬ」
 男は今際の際にあって尚、力強い言葉を発した。それはあるいは、朽木に
落ちた雷で起こった火が、消える瞬間に一際大きく燃え上がるようなもの
なのかもしれないが、彼にとってはそれはどうでもよい事だった。
「それでも、それでも我は逢いたいのだ。この命を賭してでも、この想いを
 果たす。それが我の、初めてにして最後、唯一の願い」
「はははっ、狂っておるな、狼よ」
「月を感じる事ができるならば、正気など要らぬ。命すらもだ」
「私も似たようなものだ。愛した女を手に入れられるなら……何も要らぬと
 そう思い――その挙句がこの有様だ」
「……お主は、失ったのか」
「いや、失いはせぬ。愛した女はここにいる。次の輪廻で共にあれるだろう」
 男は胸を指しながら――そこからは今も尚鮮血が溢れ続けていた――笑みを
浮かべた。
「輪廻。それは何だ。失った、最早心にしかおらぬ者と、どう共にあれるというのだ」
「生き物は死した後、違う何かに生まれ変わる。私は再び人となり、同じく人と
 なった彼女と共にある――そう誓ったのだよ」
「我も死すれば?」
「そうだ。生き物であれば、全ては同じ。輪廻の輪からは逃れられぬ」
 そう口にした瞬間、男は糸が切れるようにくずおれた。あふれ出ていた鮮血は
最早流れ尽くしたのか止まり、先までの力強い言葉が幻であったかのように、
力なく、四肢を投げ出すように動かなくなっていた。
「……死すれば、共に」
 輪廻。自らもその輪の中にある、宿命(さだめ)とも言うべき物。
「ならば、我も……我も死した後、輪廻の後にお主に逢えるのか」
 問う言葉に応えは無い。あった試しがない。
 物言わぬ躯となった男に、感謝の念と共に一瞥をくれ、そのまま彼は視線を落とした。
 そこにいるのは、近しくとも届かぬ、湖面の月。
「それが叶わぬのだとしても……だとしても、叶わぬのならば未練は無い」
 彼は湖面へめがけて、想いを捧げる相手へめがけて跳んだ。
 彼女にはやはり触れる事は叶わず、彼の身体は深く沈んでいく。
 睡魔にも似た何かが彼を襲い、次第に頭が白くなっていく。
「……我は、お主に逢いに行く……月よ」
 それが叶うかはわからない。だが、その想いは消える事は無い。

519 : ◆91wbDksrrE :2009/10/10(土) 23:51:39 ID:8iTfCxvR











「………………!」
 そして見上げれば。
 そこに月がいた。
 満面の笑みをたたえ、優しげな瞳で彼を見つめる月が。
 水で歪められたのか。
 今際の幻か。
 そこに月はいた。
 腕が届く、伸ばせば届く、その場所に。
 果たして、彼は腕を伸ばして――――――――――――

520 : ◆91wbDksrrE :2009/10/10(土) 23:51:58 ID:8iTfCxvR
ここまで投下です。

521 :創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 18:19:24 ID:DMyRvZiD


明美の慟哭のシーンは胸に迫るものがあった

522 :創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 22:39:07 ID:I5R6Cz3H
>>520
投下乙です

お題から、こうしたものが来るであろうことは予想できましたが…
(自分も、書くとしたら「犬」視点で「月」を対象に書くと思うし)

いいですね! 『流れ星 銀』みたいなのを思い出します
誇り高い一匹狼が、カッコいいです
しかも、恋した相手が月、ってのも幻想的で、ツボです

月は美しく、静謐でストイック。詩情溢れる存在だと思います


重箱じみてて嫌ですが…
「今際(いまわ)」は「忌(いまわ)」のほうが、物語の世界観に
合っているような?

…いや、これは単に個人的趣味でありましょう、失礼しました




523 :創る名無しに見る名無し:2009/10/12(月) 22:13:04 ID:41Ls63qi
「欲張り犬」をシリアスにしたみたいな話だな


524 :創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 21:25:29 ID:Mfxej0LN
ええい、ヤケクソだwお題くれ!

525 :創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 21:30:40 ID:7fJiLich
「帰宅」

526 :創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 21:50:45 ID:dNAYRuD6


527 :創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 22:00:49 ID:GkIdGLQI


528 :創る名無しに見る名無し:2009/10/17(土) 00:00:25 ID:mamEETlx
すごいしようもない話なんだけど、せっかく書いたから投下しとく。
新お題がでた直後で悪いが「呪い」「さくらんぼ」「ラー油」の三題で。


529 :呪い・さくらんぼ・ラー油 1/4:2009/10/17(土) 08:48:03 ID:mamEETlx
「あー、キミキミ、そこの君」
「はっ!?」
誰もいないはずの交番にとつぜん何処からか声が響き、昼飯を食い終えた俺は
ラーメンどんぶりから顔をあげてきょろきょろと辺りを見渡した。
「これこれ、どこを見ているんだ。こっちだ」
「え? え? どこ、ですか?」
なおも声の出所を探す俺に正体不明の声が次第に不機嫌になっていく。
「こっちだ! こっち! わからんのか、このうすのろ!」
訳の分からないまま叱り飛ばされ、ようやくその声が
掃除用具の入っているロッカーから発せられていることに気付いた。
「ようし、そうそう。開けるんだ。ボーイ」
念のために腰の警棒に手をやり、おそるおそるロッカーの扉を開いた。
「うわ……」
中にいたのはある意味、予想通りの人物だった。
「むうう。ああ、窮屈だった」
おっさん臭く首をまわしながら伸びをしつつ出てきた男は、真っ白なスーツに真っ白なヒゲ。
黒い上縁メガネに黒いリボンタイ。どう見ても堅気ではない。ある意味、予想通り。
歳の頃は60くらいだろうか。日本人離れした顔をしている。
「ああ……ううー、直立不動の姿勢はこの歳には堪える。腰にきた」
怪しい身なりの老人は独りでぶつくさ呟き、とんとん腰を叩いている。
俺は思い切って声をかけてみた。
「あ、あのー……」
「うん? なんだ?」
「あの、もしかして、迷子ですか?」
「あほうっ! どこの世界に交番の掃除用具入れから出てくる迷子がおるかっ!」
「いや、だって、」
「このわしを見て誰だかわからんのか!」
そう言われて大急ぎで親類縁者の顔を思い浮かべたが、目の前にいる
奇天烈な爺さんに当てはまる人物はいない。
「えー…と、すみませんが、どちら様でしょう」
すると爺さんは大げさに溜息をつき、顔を覆って天を仰いだ。
「おお! なんたる、なんたることだ! わしの事を知らん奴がいるなんて!
 お前はフライドチキンの一本も食った事がないのか? この安月給め」
「フライドチキン?」
その一言でやっと爺さんの正体がわかった。
「も、もしかして、カーネルおじさん……」
「そうとも。わしこそがかの有名なカーネル・サンダース!」
それまで眉間に皺を寄せ、しかめ面をしていた爺さんが手のひらを返したように
にこやかに笑った。その笑顔は、まさしく看板に描かれている「あの顔」だった。
「やれやれ、ここまでわしが誰か分からんかった奴は初めてだ。
 お前、洞察力ってモンが足りないんじゃないのか? 警官のくせに」
笑顔を吹き飛ばし、カーネルおじさんは心底呆れたような表情で俺を見下ろした。
しかし、俺はそんな態度を気にする余裕もなくひたすらに思考を空転させていた。
(カーネル・サンダース? なんで? どうして?)
「まあまあまあ、落ち着けや」
カーネルおじさんはどっかりと俺の椅子に腰掛けた。
「お前が混乱するのもわからんでもない。だが、落ち着いて考えろ。
 人形がこんな風に喋ったり、動いたりするか?」
だよね。そんなことがあるわけがない。きっと、この爺さんはコスプレが趣味なんだ。
おまけにもしかしたらちょっとボケてるのかもしれない。
だったら保護しなきゃだな、うん。とりあえず市役所に連絡して徘徊老人がいないかどうか__
「こら、誰が徘徊老人だ。人の話をちゃんと聞かんか」
うっ……もしかして俺の心を読んでる!?
「その通り。まあ、なんでこんな事ができるのかはお前には到底理解できないだろうから
 説明はしないぞ。大事なのはこれが現実である事だ。そこんところをちゃんと押さえておけ。
 そして先に言っておくが、わしは店頭ディスプレー用の人形でもない」
確かに表情も変わるし、プラスチックで出来ているわけでもない。しかし、目の前のカーネルおじさんは
なんというか、生身の人間がもつ気配というようなものが限りなく薄かった。
「が、もちろんお前の考えている通り、人間でもない……。つまり、わしは精霊なのだ」
おじさんはそう言うと俺の反応を楽しむようににやりと笑った。

530 :呪い・さくらんぼ・ラー油 2/4:2009/10/17(土) 08:49:03 ID:mamEETlx
「言っておくがあの”カーネル・サンダース”本人の霊というのでもないぞ。もともとは店頭人形だったが、
 長年にわたり風雨にさらされ、街頭で人の視線を受け続けるうちにわしの裡に自我がめばえたのじゃ。
 はじめはわしは自分に自我があるとは気付いてはいなかった。だが、ある日突然、わしは思ったのだ。『カーネルおじさん』と呼ばれる人形に宿るこの『わし』という存在は一体何か、と……!
 ああ、これこそ『我思う、故に我あり』! わしが自我に目覚めた瞬間だ!」
だんだん頭が痛くなってきた。
「おっと、つい語りすぎてしまった。キャパの少ないお前の脳みそには少々容量オーバーだったな。
 まあ、平たくいえば付喪神みたいなものだ。わしはカーネル本人ではないが、
 わしの霊とこの格好は切り離す事が出来ない。
 なので決してコスプレが趣味でもボケているわけでもない。おおよそは分かったか?」
なんだか話があまりにも非現実的でついていけない。まるでファンタジーの世界だ。
ジジイだけにファンタジイ、なんてね。
「くだらんぞ」
即座に斬って捨てられる。口を開いてわざわざ言ったのではないのだから俺が悪いわけではあるまい。
心を読まれて楽なのはいちいち喋らなくてすむところだな。
「まあ、いい。ここからが本題だ。そんな高次元精神体であるわしが
 何故お前の前に現れたかというとだな」
おじさんはそこで言葉を切ると俺の眼の中を覗き込むように身を乗り出した。
「お前に恩返しをしてやろうというわけだ」
「恩返し?」
カーネル・サンダースの格好をした精霊に恩返しをされる謂れがあったかどうか記憶を探ってみる。
あ、もしかして……。
「そう! それよ」
おじさんは俺の心を読むと指をすりあわせ、なんとなくうれし恥ずかしそうな様子で上目遣いに俺を見た。
「忘れもしないあの日の夜、どこぞの無頼の輩がわしを店頭から持ち去り、
 こともあろうに川に沈めようとしているところに巡回中のお前が通りかかり、止めてくれたその恩だ」
点数稼ぎに巡回に出たけれど、たいした成果もなく引き上げようとしたところだった。
そのあと酔っぱらいの介抱をする羽目になったので貧乏くじを引いたと思ったけど、
まさかこんな事になるとは。職務には忠実でいるもんなんだな。へー。
「さあさあさあ、なんでも欲しい物を言ってみろ。金か!? それとも女か!?」
そう言われて脳裏にさっと一瞬ピンク色の何かがよぎったような気がした。
「ほうほうほう、女か! そうと決まれば、エート、どこかに手頃なものは、と……」
おじさんは一人合点すると、なにやらきょろきょろとし始めた。
それを見て慌てる俺。
「ちょ、ちょっとちょっと! 勝手に決めないで下さいよ!」
「何を言う。今お前の脳に浮かんだイメージは正確に把握した。
 なに、人間には建て前と本音というものがある事ぐらい先刻承知よ。その人間が真に望むものが
 何であるか見分ける事はわしには朝飯前だ。わしにまかせておけ」
「いや、そうかもしれないけど、困りますよ!」
話に乗ること自体にはやぶさかではないとしても、俺は曲がりなりにも警官。しかも勤務中。
もしも交番内でそんなコトに及んだのを誰かに知られでもしたら……!
よくて停職、悪くて免職だ!
「いいじゃないか、免職結構。こんな片田舎の交番で昼飯のラーメンの汁に浮かんだラー油の輪っかを
 つなげて一人ほくそ笑む、そんなチンケな人生でいいのかね? 君は!?」
ちょっと……人のひそかな楽しみ、暴露しないでくれるかな。
俺の動揺をよそにおじさんは冷蔵庫の中を物色している。
「お! これなんかいいじゃないか!」
そう言って取り出した器にはきらきらと輝く瑞々しいルビーのような果物が盛られていた。
あっ、それはとっておきのサトウニシキ! デザートに食べようと思ってたのに!
「ふふふふ、さくらんぼか。お前にぴったりじゃないか。ぶふふっ!
 我ながらなんというエスプリの利いたチョイス!」
どういう意味だ。というか何で知ってるんだ。
「まだ解らんのか。わしは何でもお見通しだ! さあ、お楽しみはこれからだ! むむんっ!!」
「わっ!?」
カーネルおじさんがなにやら気合いを込めるとあたりにぽぽんっと白い煙がたちこめた。
むせ込んでごほごほ言っているとその白煙の中にぼんやりと小柄な人影が見えた。

531 :呪い・さくらんぼ・ラー油 3/4:2009/10/17(土) 08:50:24 ID:mamEETlx
「ふーむ、なかなかよくできた。我ながら見事だ」
おじさんの満足そうな声が聞こえる。煙が次第に晴れるに従っておじさんの横にいる人物が姿を現した。
まずくるくると柔らかそうな少し赤みのかかった明るい茶色の長い髪が。
次にチェリーレッドのミニドレスを豊かに盛り上げている色白の胸元が。
最後に大きな黒めがちな眼とそれをふちどる長い睫毛。
それらを持ったとんでもない美少女が俺の目の前に立っていた。
俺はただただ口をあけて呆然とするばかり。
だれ、この子……? すげー……
「かわいいだろう?」
俺の思考を先回りしておじさんが言う。
「紹介しよう! お前の嗜好を分析し、お前のために作り上げた究極美少女、
 さとう にしきちゃんだっ!!」
にしきちゃんは俺を認めるとにっこりと極上の笑みを浮かべて俺に笑いかけた。
その笑顔に動悸が一気に跳ね上がり、呼吸が苦しくなる。
「こ……これっ……! ま、まさか……」
「そうよ。その、まさかよ。お前のとっておきデザート、さくらんぼを元に作り上げたのよ。
 どうだ? なかなか、いやかなり良いだろう!!」
おじさん、徘徊老人だなんて言ってごめんなさいでした。
「分かればいいんだ。分かれば。よし、そうとう気に入ったと見える。
そうと決まればさっさと致してしまえ。」
「い、いたすって? ちょっちょっと待っ……」
「ええい! 折角いい思いをさせてやろうというに、往生際が悪い男だ! にしきちゃん、始めるんだ」
おじさんは俺を背後からがっちり羽交い締めにすると、にしきちゃんに目配せをした。
にしきちゃんはすいっと俺の前に歩み出ると、先ほどの無邪気な笑みとは違う、
誘いかけるような蠱惑的な表情を浮かべ、俺の目の前に白い顔を寄せると、
目を閉じてふうっと息をついた。
果実のような甘い香りが俺の鼻腔をくすぐる。
な、なにがはじまろうとしているのだ……!!
目を開けたにしきちゃんはとろけるような眼差しで俺を見つめると、短いスカートの裾に手を入れ、
するすると下着を脱ぎはじめた。白い太ももをうすピンクの小さな布きれが滑っていく。
な、なんてことを……!!
俺はもはや足腰が立たなくなり、背後からおじさんに羽交い締めの格好のまま引っ張り上げられている。
にしきちゃんはぽいっと下着を脱ぎ捨てると、羞じらいをふくんだ切なげな顔で俺を見つめたまま、
スカートの裾に手をかけた。
頬を上気させて身を捩りながら、にしきちゃんは時折悩ましげな吐息をつき、ゆっくり、ゆっくりと
白い肌を露にさせていく。
停職も免職も頭から吹っ飛び、俺の脳内はもはや一つの思いに支配されていた。
ああっ……!! に、にしきタン……!!!!
さながら劇場の幕があがるように赤い布がすべて巻きとられ、
そこにはまっしろなお月さまとひみつの花園が現れ__
「……あの、カーネルおじさん」
「うん?」
「にしきちゃん……」
「何だ」
「その……ツイてるんですが……」
にしきちゃんのすらりと伸びた白い脚の間にはりっぱな、さくらんぼのようなものがぶら下がっていた。
「当たり前だ。元はさくらんぼだからな」
どういう理屈ですか。
俺は一気に興奮が冷め、床にへたりこんだ。
やっぱりね。こんなことだろうと思ったよ。
うかうかと期待していたおのれの浅はかさに思わず笑いがこみ上げる。
ふ、ふ、ふ、と肩を震わせて笑う俺を見て、カーネルおじさんは訝しそうに言った。
「なんだ? 何が可笑しい? 何が気に入らないというのだ! 
 あ……おい! ほら、おまえがぐずぐずしているから……!」
その声に顔をあげてみると、カーネルおじさんが風船のように顔を膨らましていた。
「ああ。ああああ、」
おじさんは苦しげに眉をよせ、唸りはじめた。
そうしている間に顔だけでなく、体全体がまん丸く膨らんできた。
なんだ? どうなってるんだ?

532 :呪い・さくらんぼ・ラー油 3/4:2009/10/17(土) 08:52:53 ID:mamEETlx
「いかん……! もうそろそろ限界だ……!!」
まるでクイズ番組で回答者の頭上で大きくなる風船のように、
おじさんは交番の内部いっぱいに広がりはじめた。
机やロッカーやらが、おじさんの腹によってけたたましい音を立てて部屋の隅に追いやられ、
俺自身も生あったかいラバーのような感触の肉塊に取り込まれてしまった。
うへえっ! 気持ち悪い……!
なんとか抜け出そうとあがいてみるが、たるんだ肉塊はねばりつくように俺にからみついてくる。
まずい……! 息が、できない。 死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ!
酸欠で目の前が暗くなってきたそのとき__
ぱあん、と間の抜けた破裂音が響き、俺は急に肉塊から解放された。
「いてっ」
尻餅をついて床に投げ出されるともうもうと立ちこめるおじさんの名残の白い煙の中から
一枚の紙切れが俺の目の前に舞い落ちてきた。
「時間切れ」
紙には黒々としたふっとい毛筆の字でそう書き付けてあった。
「小池君!」
突然俺の名前を呼ばれて俺は反射的に立ち上がった。
「は、はいいっ!」
「何をしているのかね?」
目の前に俺の上司である巡査部長が渋い顔をして立っていた。
見れば交番内はさくらんぼがあちこちに飛び散り、机はめちゃくちゃ、
ロッカーは倒れた衝撃でへこんでいる。
おまけに部屋のまんなかには場違いも甚だしいカーネル・サンダースの人形が突っ立っていた。
当然のごとく、俺はこっぴどく叱責を受け、交番内の清掃を命じられた。
停職になったりはしなかったのでまだましな方かもしれない。
カーネル人形は遺失物として本署に引き取られたが、落とし主は現れないそうだ。
こうして俺はいつもの日常に戻っていったわけだが、一つだけ困ったことがある。
まだ恩返しを諦めていないらしいカーネルおじさんが度々、俺の前に現れるのだ。
しかし、にしきちゃんを作り出したことで力尽きてしまったのか、
前のような人の姿ではなく人形のままだ。
交番はもとより、俺の部屋の天袋や風呂桶、冷蔵庫なんかから出てきたりする。
ほら、今も視線を感じる。
帰宅途中の俺がふりむくと電柱の影におじさん人形が半分だけ身体を潜めて立っていた。
「なあ、もういーよ、おじさん。あんたの気持ちはようく分かったからさ」
語りかけてもおじさんから返事はない。ただぺかぺかとしたプラスチックの顔に
強張った笑いを浮かべるのみ。
俺は溜息をつくと周囲に人がいないのを確認しておじさんを抱えて、近くの川へと向かう。
現れたら速攻で捨てないと部屋や交番にカーネル・サンダース人形の林が出来てしまう。
まったくとんでもない物に魅入られてしまった。
これではカーネル・サンダースの恩返しどころか呪いだ。俺が一体何をしたって言うんだ?
橋の上におじさんを立たせる。
「成仏しろよ」
肩を叩いてそう言ったがもちろん返事はない。叩いた拍子にぼんぼん、と音がして
中身が空洞であることを知らせた。
持ち上げて川へと放り込む。
どぼおーんっと派手な水音がして、俺は思わず周りを見渡した。
下を覗き込むと川の流れにわだかまる闇の中におじさんが天に手を差し伸べて沈んでいく最中だった。
「一体俺が何をした!」
俺が叫ぶとおじさんはもの言いたげに両手を広げたまま、歯を見せて笑いながら川の底に沈んでいった。


533 :創る名無しに見る名無し:2009/10/17(土) 08:55:48 ID:mamEETlx
終わり

にしきちゃんについては全年齢板的にセーフだよね……?

534 :創る名無しに見る名無し:2009/10/17(土) 21:10:34 ID:fqm/fkY9
セフセフw

カーネルのおっさん何してはりまんのw
でも、最後の状況ってよくよく考えてみるとホラーだよなw

535 :創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 13:22:47 ID:2OnIJFm2
セーフだけどつまらないから三題噺としてはアウト

536 :帰宅 酒 桜:2009/10/22(木) 21:01:14 ID:8sZgbTFB
「お酒飲んで雪が桜吹雪に見えるくらいべろんべろんに酔っ払って、眠いのを
限界まで我慢して、もうダメって状態で外へ出て寝てしまえば結構簡単に凍死しちゃう
らしいよ。昔はヨッパライが自宅を目の前にして無言の帰宅ってことが結構あった
らしいから。痛いのとか苦しそうなのやめて酔っ払って雪の中で寝てみればいいのにね。
もし失敗しても『ごめんなさい飲みすぎました』ですむのに」
 練炭での集団自殺のニュースを見ながら雪国生まれの妻が言った。
「おいおい、そりゃちょっと不謹慎だろうに」
「まぁね。でも正月にわたしの実家帰ったときは気をつけてよね。あなた日本酒好きな
くせしててんで弱いんだから。記憶無くすまで飲んじゃだめよ。実家と叔父さんの家近い
と言っても歩けば5分ぐらいかかるし。あっ、でも酔い覚ましにはちょうどいいくらいか」
「…………」
 妻の実家と叔父(妻の父の双子の弟)の家で大酒を飲むのが妻の実家に帰った時の恒例
となっている。
 結婚して8年、まだ子供はいない。特にプレッシャーは懸けられていないがそろそろ
妻の両親に種無しの馬鹿婿と罵られても不思議では無い。
 妻と俺、お互い一人っ子同士の結婚で当初は軽く反対もされていた。
そして妻の実家のある場所は、田舎の割には離婚率が非常に高く、また離婚後すぐに再婚
してもとやかく言われない土地である……

「今度の正月は鹿児島にいる叔母さんも芋焼酎持参で久々に参戦するみたいだから本当に
飲み過ぎだけは注意してね。叔父さんちクルマで送り迎え出来ないんだから」
「……あぁ、わかった」
 気付いてない振りをしているが、妻が何の相談もなしに俺の生命保険の死亡時特約を大幅
にアップさせていることを俺は知っている。
「もし、急に仕事はいって正月帰れなかったどうする?」
「当然飛行機1回キャンセルして改めてチケット取り直すわよ。お盆も帰ってないし
顔出せってうるさいから」
そう言って妻は笑った。

 疑心暗鬼とは良く言ったものだ。一つの些細なことだけで妻の笑顔が邪悪に見える。
気のせいだとは思いたいが念のため、ウコンの力、しじみエキス、フリスクスーパーミント、
ブラックブラックガム、睡眠打破等を持参し、万全の体調をもって妻の実家に帰省するつもりでいる。
ヨッパライが自宅を目の前にして無言の帰宅。とならないよう決死の覚悟で臨むつもりだ。


終わり

537 :創る名無しに見る名無し:2009/10/22(木) 21:38:23 ID:tm0UYJv8
不信の種、ですか。
何か、最初微笑ましい感じだと思ってたのが、
ちょっと背筋がぞっときた。

ただ、前半と後半が何か微妙に繋がらない気も。
離婚と死別を関連づける何かがあったら良かったんじゃないかな?

538 :創る名無しに見る名無し:2009/10/22(木) 22:04:28 ID:8sZgbTFB
>537
すいません、やっつけで作ってしまったのでかなり荒いと自分でも思います。
技量がないので(心理含め)描写のバランスが悪いのは自負していますw
スピードと色んな意味でのバランスが取れるようになりたいなぁ。
レスさんくす


539 :創る名無しに見る名無し:2009/10/22(木) 22:58:21 ID:tm0UYJv8
ざっとやっちゃうとそういう感じになる時があるというのはわかるw
俺もそれで指摘された事何度かあるしw

まあ、らっくり頑張ってください。

540 :【帰宅】【酒】【桜】:2009/10/24(土) 11:30:28 ID:EcBVbrTt
【帰宅】【酒】【桜】

 11月、晩秋の雨。
待っているのはぬくもりか、憂いか。
駅を出た暗色の傘の群れは早々に家路を急ぐ。
 突き刺す夜の雨に傘を持たない不運を嘲りながら、ともしび
のない暗い部屋に私はひとり帰宅する。


♪シンデレラの夢いだき 飛び込んだ東京シティ
 王子様を探すの 19の春のまぼろし――

「 東京に行ってみたい。東京で暮らしてみたい 」
ラジオから偶然聴こえた曲に幼き心をとらわれて、高校卒業と同時
に東京に働き口を求めた。

 ずっと憂鬱だった。
林業に従事する父、病院勤務の母。閉塞感だけで埋めつくされた街。
年々減っていく真新しいランドセル。短すぎる夏。
畏怖さえ感じる紅葉の山々。そして全てを埋めつくす雪。
 都会と呼ばれる場所なら何処でもよかった。
この陰鬱な世界から抜け出せば、それで私は生まれ変われると信じていた……


 東京の片隅に出て十年。蒼き胸を焦がした想いは幻と消えていた。
目が眩むほどの華やかで騒然とした街並みが日常となり、感嘆することも
いつしか忘れ、気がつけば流されるままに幾千の日々を過ごしていた。
 パソコンを前に、伝票と請求書の数字を打刻する仕事にしても、同僚から
の紹介という形で始まる異性との交際にしても、それはまるで平凡で
他愛もないことに思え、私の心を満たしてはくれなかった。
 化粧と言い訳だけが上手くなり、そして自分の心を誤魔化す術も身に
つける。寂しさを紛らわす為だけに酒や煙草をおぼえ、一人夜の繁華街
を歩いては、その虚しさに溜め息をついた。
 センスがいいと評判のブランドの服を身につけても、華やかな化粧を
ほどこしても、私は変わることが出来なかった。
 ないものねだりを繰り返し、気に入らないことは受け入れず人や世間の
せいにしてきた者がいきなり聖人君子のように成れるわけもない。
陰鬱な世界を抜け出しても、私の心を巣食った憂鬱が消えることは無かった。 


 休日、アパートの近所に新しい美容室がオープンした。
別に髪を切る必要もなかったが単なる好奇心と、オープン価格のカット代が
目にとまりその店に出向いた。
 新築特有の化学的な匂い、陰りひとつない鏡張りの店内とガラス窓。
全ての者から祝福されたような店先に飾られた開店祝いの花と美容師の笑顔
が私に小さな勇気を与えてくれる。
「 どのようになされますか? 」
「 ……バッサリとお願いします 」
背中まで掛かった私の髪を手に美容師は困った笑顔を浮かべる。
陰鬱な性格が髪型一つで変わることはない。だけど、私はその小さな変化に
すがりたかった……

――髪型を他人に委ねるだけのこと。たったそれだけの単純なこと。
 鼓動がたかまり、胸が熱くなる。
それでも努めて笑顔を作り鏡の中の自分を見つめはっきりと言い切る。
「 おまかせします 」



541 :【帰宅】【酒】【桜】:2009/10/24(土) 11:32:30 ID:EcBVbrTt

 1時間後、鏡の中に幼き頃の髪型をした私がいた。
「 どうですか? お似合いになると思いますが…… 」
「 あ、素敵です。気に入りました 」
 任せられた責任と緊張から開放された美容師は安堵の笑顔を見せる。
ありきたりのショートボブと言えば身も蓋もないが、美容師の懸命の
努力に感動をおぼえた。
 会計の為、レジの前に立つ。たがが2、30センチの髪を切っただけ
なのに鎖のたがを断ち切ったように体が軽く感じる。
「 なんか身も心も軽くなりました。来て良かったです 」
「 ありがとうございます。有志で立ち上げた小さな店ですがまた
 ぜひともお願いします。ありがとうございました 」
ねぎらいの言葉のつもりではなく単に本音が出ただけだった。
私の言葉に美容師は満面笑みを浮かべた。単なる営業的な対応かもしれないが
それでも私は久しぶりに味わう幸福感に身を委ねた。
 ちょっと遠回りをし安売りのチェーン店に立ち寄る。高揚した気分のままに
季節にそぐわない明るめのカラーリップ数本とシンプルな化粧水を買い求めた。

 月曜日、職場の同僚は私の髪型の変化に声をあげる。
口々にあがる常套句に苦笑いしながらも、初々しい、可愛い。という言葉に
素直に嬉しく思いながら日常の業務をこなす。
「 ナチュラルメイクというか、どうみてもスッピンでしょ? 勇気あるね 」
同期の女子事務員が半ば呆れ顔で私を見て笑う。
「 うん。なんか面倒になって…… 」
「 まぁ、確かに朝の貴重な時間を化粧に費やすのは無駄だしね。
 でも意外とピンクの口紅にあってるよ。純朴そうでいい感じ 」
「 あはは。所詮、高卒の田舎娘だから 」

 髪を切り、化粧を薄くしただけだった。
それで長年引きずっている私の性格が劇的に変化することはないだろう。
しかし職場という狭い範囲だが、私を気にかけてくれる人達はいる。
 故郷を離れ早や十年。
蒼き胸を焦がした想いは消えたとしても、ここでまだ頑張れる気がした。

 アパートの近くの美容室、そして安物の桜色のカラーリップが私を少し
だけ明るくしてくれた。

そしてこれからもずっと愛用していくだろう。



おわり



542 :創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 17:10:21 ID:a5wP9nHO
ちょっとしたことでも心機一転できることってあるよね
一抹の爽やかさがいいかんじ
読み終わった後酒がどこに使われてるか探してしまったw

543 :創る名無しに見る名無し:2009/10/24(土) 19:37:47 ID:1RehS+y0
爽やかだねぇ。
誰でも、何か上手くいかずに行き詰っちゃう事ってあると思うけど、
誰でも、こういう些細な事で何かそれまでの行き詰まりがさっと
溶けていくように消える事ってあるよね。

544 :創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 19:57:47 ID:1SbmPepn
次のお題は……

545 :創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 20:32:20 ID:sMvtKr1l


546 :創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 20:55:10 ID:9cCTVGUc
写真

547 :創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 21:07:04 ID:O9IQxJ2v
回旋塔

548 :創る名無しに見る名無し:2009/10/31(土) 01:01:25 ID:b+ME52lJ
>>540
素敵なお話をありがとうございます。とっても良い雰囲気でした
高校を出て十年、年齢にしたら30目前。いろいろ自身を見つめ直す節目なのかも知れませんね
自分が今まさにその時なので、余計にぐっと来ました

乙でした!

549 :【猫】【写真】【回旋塔】1/3:2009/10/31(土) 21:40:38 ID:trSBbPYN
【猫】【写真】【回旋塔】

  
 小さな公園の片隅にある古ぼけた回旋塔。
その天辺に一匹の黒猫が四足を揃えて立ち、うららかな午後の日差しを楽しみ
ながらまどろんでいる。
 名も無き猫がいる公園。
なんの変哲もないその光景を気にかけるものは誰もいなかった。

――どうやって登ったんだろう……?
まだ、体に不釣合いなランドセルを背負った少女が猫を見つめている。
公園は少女の自宅のすぐそばだったが、少女は今まで黒猫の存在に気づいて
いなかった。

 圧倒的な高さを誇る鉄柱の天辺。そして平べったい球形になっている
とはいえ、不安定な場所に凛と佇む黒猫に少女は畏敬の念を抱いた。
 そんな少女の存在を感じたのか黒猫は、ひとつぴくりと耳を動かして
少女を見つめかえした。
密かに野性の力残す眼力にたじろぎ、少女は思わず黒猫から目をそらす。
――いつかあたしもあの場所へ立ちたい。
負けん気が強い……。己の性格を把握できるほど少女は大人ではなかった。
そして幼き心に灯ったあまりにも無謀で稚拙な衝動が少女の道標になった。

 歳を重ねるに連れて、少女の目標は現実味を帯びてくる。
歳相応に回旋塔の傘の輪に掴まり、ぐるぐる廻っては友達と喜んでいたが、誰も
いない頃を見計らって公園に来ては、天辺に登る案を練り試行錯誤を繰り返した。
 威圧さえ感じていた回旋塔の高さも、日々成長する自身の背丈を糧に、いつか
乗り越えられる。と少女は確信していた。

――あの細い鉄の棒をつたって行くんだ……。猫ってすごいな。
 ある日、少女は黒猫が回旋塔の天辺に登る瞬間を目撃する。
鉄柱の根元を支える少し高くスペースのあるコンクリートブロックを足がかりに
回旋塔の傘の輪に飛び移り、傘の骨となる鉄棒の上を歩いていく。
いくら身が軽いとはいえ、それは並大抵の猫に出来る芸当で無いことは
一目瞭然だった。
 黒猫は晴れた日の午後には当然のように回旋塔の天辺でまどろんでいた。
そして若き挑戦者を許容する王者のように、少女を見据えていた。

 小学校5年生の秋、周囲に注意するような人がいないのを確認した後で、少女
は鉄柱をよじ登るというシンプルな方法で回旋塔の天辺に辿り着くことができた。
 しかしそれはあくまで球形状の天辺にしがみついているだけで、身体的な
技術やリスクに伴う覚悟や度胸を持たない少女は、黒猫のようにその場に立つ
ことは出来なかった。それでも少女は黒猫と同じ景色を見れたことに感動する。
――あと少しだけ足りないこと補えば、あたしも立てるようになる。
約3メーターの地上から公園を眺めながら少女は目標を新たにする。
しかしあと僅かな時間しか残されていないことを、少女は知る術も無かった。

    

550 :【猫】【写真】【回旋塔】2/3:2009/10/31(土) 21:41:56 ID:trSBbPYN

 中学2年の秋、少女は3人のクラブ仲間と共に回旋塔の前にいた。
「まわり見張ってて。人来たらやめるから。今のあたしなら時間は掛からないはず」
 いよいよ少女が回旋塔の天辺に立つときがきた。
それを忘れていた訳ではない。ただ、周囲の目、そして自身の成長に対する疑問
から、少女は挑戦することを躊躇っていた。
しかし公園の回旋塔とその他の遊具の前に、使用禁止の看板が掲げられたとき、
今しかない、と少女は決意した。

「ガキ大将じゃあるまいし馬鹿じゃね?」
「立つのは難しくないと思うけどやっぱり止めたほういいよ。怪我したら大変だって」
「若気の至りだ、やっちまえ!」
クラブ仲間が口にした言葉を少女は笑顔で受けとめた。
――もし、回旋塔から落ちて怪我をしたり、死んでしまうようなことになっても、それは
 全て当事者の私の責任であって、他の誰かに責任を追及するようなことはありません。
少女はクラブ仲間に見張り役をお願いするにあたって自身の本気を示すべく、気持ちを
文章にして血印を押した。
3人も少女が負けず嫌いで一度口にしたら曲げない性格なのは分かっていた。そして
血印まで入った決意書を見せられたとき、誰も少女を止めることは出来なかった。

 3人の合図を確認し、少女は回旋塔の鉄柱をよじ登る。
――馬鹿だよね、こんなことして…… 誰も喜ばないし、迷惑かけてる。
少女は心の中で苦笑いをしながらも、すいすいと鉄柱を登り球形の天辺に体を乗せる。
そこまでなら誰でも楽に到達できるが、問題は立ち上がる瞬間だった。
 地上3メートル。飛び降りようにも、むき出しの鉄の棒が邪魔をする。
狭いうえに水平ではない不安定な場所で立ち上がるということは、バランスを
崩したら怪我をするどころか運が悪ければ死んでしまう。という恐怖に
立ち向かうことだった。小学5年のとき、少女にその勇気は無かった。

――落ち着いて、普段の練習だと思って。
大きく深呼吸をし少女は覚悟を決める。見張り役の3人が見守る中、少女は立ち上がった。

「高いなぁ。これがあたしの見たかった景色か……」
 両手を広げバランスをとりながら少女はつぶやく。
小学5年のときに見た景色よりそれは遥かに遠く高い景色だった。
「馬鹿だよなぁ。猫に対抗意識もつなんて」
感慨深げにつぶやきながら高い場所から眺める街並みに、少女はぼんやりと感動していた。
しかし心配する仲間を意識してか、すぐに少女は天辺にしゃがみ直し回旋塔から降りる。

 回旋塔から降りた少女に仲間3人が駆け寄る。
「どうだった?」
「あ、うん。達成感はあった。……あたしも大人になったもんだ」
「え、それだけ? なんかテンション低くね?」
「あんな大げさな決意書見せられたのになんか拍子抜けだ」
少女の感動の薄さに、付き合った3人はいま一つ釈然としない表情だった。
「まぁ、スイマセン。若気の至りというか―― あっ、師匠だ!」
「は?」
突然の言葉に3人は少女の視線を追った。
そこには4人の少女達にもまったく動じていない黒猫がいた。



551 :【猫】【写真】【回旋塔】3/3:2009/10/31(土) 21:43:17 ID:trSBbPYN

 少女は真っ先に黒猫に近づいた。黒猫は逃げることもなく、なすがまま少女に
抱きかかえられた。
「えっ、猫が師匠って何?」
「あたしの体操の心の師匠」
「はぁ?」
大柄で精悍。しっぽが長く肉球から髭まで、緑色の目を除けば全てが黒の猫だった。
「師匠凄いんだよ、あそこの回旋塔のてっぺんに登っちゃうんだから。しかも
平均台よりせまいあの鉄の棒すたすた歩いて行っちゃうんだから。
小学校の頃、師匠に回旋塔の上から睨まれて、すげー悔しくて、いつかはあたしも
あそこに立ってやるって思ったのが運の尽き。そして今日に至った訳です」
黒猫を抱かえながらにこやかに話す少女を、なかば呆れ顔で3人は見つめる。 
「えー、じゃあ、その猫に対抗して人に見張り役頼んでまで回旋塔に立ちたかったってこと?」
「そう。迷惑かけてすいません」
「えーと、まさかとは思うけど体操始めたのってあそこに立つ為の訓練のつもりで?」
「そう。不純な動機ですいません」
一瞬の沈黙の後、甲高い笑い声が沸き起こる。
「うわー、こんなバカだとは思いもよらなかったよ」
「猫が師匠ってありえねー。猫と張り合ったって勝てねーよ」
「くだらないことに命懸けてどうすんのよ、まったく」
笑いの中に混じる馬鹿にする声も少女の耳には入らなかった。心に刻み込まれた永遠の憧れ
だった黒猫を抱き、そして黒猫と同じ景色を見られたことに、今更ながら喜びが爆発した。
「あ、誰か携帯で写真とって、あたしと師匠のツーショット。回旋塔の前で」
「はいはい。でも師匠ホントに黒いよね。黒豹みたいでカッコいいや」
「猫に惚れてどうするよ」
「あーぁ、付き合いきれないよ、まったく」
遊具が使用禁止になり幼い子供の姿も見えない公園だったが、少女が回旋塔に立った日、その
瞬間だけ回旋塔はその存在感をとり戻した。


そして数ヵ月後、回旋塔の看板が使用禁止から、撤去予定、立ち入り禁止。と変わった。



『本県初。インターハイ女子体操、団体優勝。個人種目別も上位独占!』
回旋塔に立った3年後、まだあどけなさの残る4人の少女達の笑顔が地元新聞紙面を独占し、
そして平均台の上でしなやかに舞う少女の画像が人々を魅了した。

 少女が師匠と慕った黒猫は回旋塔に立った2年後、回旋塔撤去と共に姿を消した。
小学1年に出会って約10年。少女が回旋塔に立った頃、黒猫が回旋塔の天辺にいることは
ほとんどなかった。そして少女も、黒猫を探しても無駄なことは理解していた――
 黒猫と出合った公園も、回旋塔を含めた遊具撤去にともない、もはや昔の面影は無くモダン
な公園に生まれ変わった。
それでもその公園を通るたび、少女は回旋塔の天辺に佇む黒猫の姿を思い出さずにはいられなかった。


 回旋塔の前での、師匠とのツーショット写真。
今も少女の部屋の中に、金メダルと共に大切に飾られている――


おわり



552 :創る名無しに見る名無し:2009/11/01(日) 00:25:16 ID:Gu9lnlvz
おお! 正直、この三題からどんな話がでてくるのか予測がつかなかったが
さわやかにまとまってるな。黒猫師匠と回旋塔が消えてしまったことが
なんだか切ない。GJでした。

553 :創る名無しに見る名無し:2009/11/01(日) 17:52:55 ID:dfSG+8Ec
物悲しいけど、爽やかだね。
避けられない別れでも、それを経て人は大きくなるんだよなあ・・・。

554 :創る名無しに見る名無し:2009/11/08(日) 02:46:26 ID:6aeUv1wb
意味のないことに夢中になれるのって大事なことだよね

555 :創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 11:20:16 ID:mOvRm/SB
お題を

556 :創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 11:40:02 ID:mIm6huHA
つぼ

557 :創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 12:54:19 ID:aUCSZFQZ
山形

558 :創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 17:54:32 ID:QWINVsCj
マンモス

559 :【つぼ】【山形】【マンモス】:2009/11/12(木) 02:49:56 ID:tiliPA3F
馬原家の隠居である馬原勘兵衛は息子の馬原伸輔を呼び寄せた。
「伸輔、お前に折り入って話がある。ちょっと来い。」
伸輔はもう三十になる立派な馬原家当主の身である。明治維新のあと財産がごっそり無くなったとはいえ、
体面を保つ心がけはしてもらいたい。私はもうこの家の主なのだ。事情があるならあるで、少しはわきまえを持った
振る舞いをして欲しいものだ。不満を募らせつつ伸輔は勘兵衛の住まう離れを訪れた。
「いきなり何の話ですか、父上。」
「うん、この前蔵の整理をしておったんだがな、」
伸輔は顔をしかめた。蔵か。どうしてこの家の人間は代々蔵を弄りたがるのか。
「む、そう嫌な顔をするな。こんなものを見つけたんだよ。」
そう言って勘兵衛が伸輔の前に置いて見せたのはひとつの陶器の壺だった。何の変哲もない、いや、陶芸が趣味の
伸輔にばすぐに安物と知れる取るに足らない壺である。伸輔は馬鹿馬鹿しくてこの場を立ち去ることだけ考えていた。
伸輔の不満に満ちた視線を浴びながら勘兵衛は続ける。
「この壺だよ。この壺の中に大変な物が書かれているのだ。」
勘兵衛はさも自慢げに壺を回し、反対側に描かれている奇妙な絵と墨をこぼしたような文字を見せた。
「読んでみろ。」
と勘兵衛。
「…山形の地にて。まんもす。伸治作。」
「伸治というのは儂の先代の名前だ。どうだ。」
「どうだというのはどういうことでしょうか。」
「このまんもすという獣を見てみたいのだが、調べるのを手伝ってはくれんか。」」
伸輔は呆れてものが言えない。こうも出鱈目なやり取りはするだけでも疲れてしまう。
「蔵に書物が有り余っているでしょう。草本を見ればすぐに知れることです。」
草本というのは今で言う所の百科事典である。絵付きの辞典で、江戸の治世からあるものだ。
「それがな、草本を見る限りどこにも載っていないのだ。このまんもすは。」
「それでは諦めるか自分で山形を訪れればいいでしょう。」
「そうだ。儂は山形に行ってくる。お前は蔵の書物を片っ端から調べておけ。」
いよいよ出鱈目な話だ。蔵にいくつ書物があると思っているのか。
「しかし私にも都合というものがあります。」
「心配は要らん。もう都合はしてある。では儂は籠を用意してあるからな。頼んだぞ。」
そう言うと勘兵衛は伸輔の言うことを聞くまでもなく山形へ旅立った。

560 :【つぼ】【山形】【マンモス】:2009/11/12(木) 02:50:40 ID:tiliPA3F
出鱈目な話である。伸輔の用事は全て勘兵衛の手で済ませてあった。これからの予定も全て他人に頼む
などして伸輔の出る幕は無い。伸輔は父親がどこにそんな力を持っているのか不思議でならなかった。
隠居の身で山形まで一人旅をする気力もまた信じ難い。あの老人は自分の身をわきまえていないに違いない。
もちろん勘兵衛の言うとおりに書物を漁るのは馬鹿馬鹿しくてやる気にならず、伸輔は空いた時間を趣味の
陶芸に費やして過ごすことになった。

一週間して勘兵衛が家に帰って来た。
「どうだ、お前は何か見つけたか。」
疲れ切った顔をした勘兵衛老人が息子に訊ねる。
「父上は見つけられなかったのですか。」
「うん、とうとう手がかりも掴めなんだ。猟師に訊きに行きまでしたが、そんなけものは見たことがないと言うばかりだった。」
ほら見ろ、こうなるだろうと思っていたのだ。伸輔は気取られないように溜息をついた。あんな安物の、誰が
作って蔵に置いたかわからぬ品を真に受ける方が悪いのだ。これに懲りて大人しくなれば良いのだ。
「蔵の書物には何も目ぼしいものはありませんでした。」
自分のしたことがどれだけの骨折り損か解らせてやろう。伸輔は早口に言いつける。
「父上、貴方はもう若くないのですからもう無茶はやめていただきたい。」
「お前自分の父親にたいしたことを言うじゃないか。」
「旅先で大事になるようなことは真っ平御免です。」
このような事があったのだ。勘兵衛聞き入れない訳にはいくまい。
「うん。しかたあるまい。」
「念書を書いて下さい。」
「念書も書けと言うのか。父親に向かって良くそこまで…。」
「父上の為を思ってのことです。」
どうだ。もうぐうの音も出るまい。伸輔は内心してやったりとほくそ笑んだ。
「さあ、もう墨と紙は用意してあります。」
「出鱈目に準備が早いではないか。」
「不平を聞く暇はありません。早く書いてください。」
念書はすぐに勘兵衛の手で書かれ、勘兵衛と伸輔の二人の署名がされた。ただし。
「伸輔。お前は本当に字が下手だな。墨をこぼしたのか名を書いたのか解らん。」
「字が下手でも念書は念書です。これで取るに足りないことに精を出したりはさせません。」
「お前だって取るに足りない趣味を持っているでないか。何だあの下手糞な焼き物と絵は。」
「不平を聞く暇は無いと言ったはずです。」

伸輔の子の名前は勘助。まだ生れぬ孫の名前は伸兵衛と名付けられる。
彼らが伸輔の作った下手糞な絵と字が描かれた焼き物を蔵で見つけ、汚い字を何と読むのかはまだ先の話である。
伸輔の曽祖父に当たる伸治が何を描きたかったのか、どうして勘兵衛達が「まんもす」とそれを
読み違えたのかは誰の知るところでもない。

561 :創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 02:51:45 ID:tiliPA3F
山形、マンモスが出てきて無いに等しいですね。精進します。

562 :創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 19:16:23 ID:MbSdW861
先祖代々の絵下手悪筆とはw

563 :創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 19:53:41 ID:dEMjpGCW
カオスなお題でよくぞ書いた 偉い

564 ::【つぼ】【山形】【マンモス】 1/2:2009/11/13(金) 07:16:42 ID:dwbBV8XK
【つぼ】【山形】【マンモス】

 !注意!
 犯罪を扱っているので鬱展開というか後味の悪い文章になってます。
 
 

「……奥さん。ふざけないで下さい。いまさら、まんもす悲ぴー。とか言われても困ります」
しゅんとしている割には突拍子もない事を言う女を前に、警備員の山形は苦笑いをする。

「…ギャートルズのマンモスの肉を食べたかった。ってまったく関係ないでしょう。あなたが
万引きしたのはつぼですよね。言い訳にさえなっていないと思いますが」
いよいよもって支離滅裂だ…。女の戯言に山形は頭をかかえる。

「…幸運を呼ぶ壷とマンモスの牙で作った印鑑があれば幸せが約束される。って奥さん……。
確かにその壷はクリスタルガラス製でかれんに思われるかもしれません。しかし平凡な値段で平凡
な店先に並ぶ壷にあなたが望むようなスピリチャルな力が宿っているわけないでしょうに。
それに何故そこまでマンモスに拘るんですか? まさかマンモスの牙で作った印鑑がこの世に存在
すると本気で思ってるのですか?」
仕事柄、挙動不審、不可解な言動をとる人間は見慣れている。まだ山形の心は折れていない。

「…マンモスは飛んでいくを聴きたい? ……奥さん。それはコンドルは飛んでいくでしょう。
なんでもこじつければいいってものじゃない。合っているのはカタカナ4文字だけです。
あなたがマンモスを崇拝していることは良く分かりました。しかしマンモスとあなたが
犯した万引きという罪は何の関係もないと私は思いますが……」
 警察が到着するまでの間、報告書作成のためバックヤードの警備室で事情聴取。
その場所は店内を確認するモニターがあり、流れ続けるBGMが否応無しに耳に届く。
そして商品納入業者の受付や従業員の出社退勤で、窓にはひっきりなしに人影が映る。
――何故マンモスなのか?
 女が口にする過去の巨獣に山形は困惑する。そしてそれが焦燥を生む。
さめざめと涙を流す女。しかしその口から発せられたのは剥き出しにされた敵意だった。

「…あなたは単に私をこの場でもてあそびたいだけでしょ、って奥さん。馬鹿なこと言わないで
ください。アダルトビデオやエロ漫画じゃあるまいし、そんなのは奥さんの妄想です。
身体を許したからって罪が消えるわけではない。確かにあなたは魅力的だが私にはそういう不埒な
気持ちは一切無い。いい加減ふざけないで下さい。
 もうそろそろ警察が到着します。すみませんが私にはあなたが何故マンモスに拘るのか理解
出来ません。言い分は警察で思う存分語ってください」
 警察という言葉を聞いた瞬間、女は大きく声をあげて泣き出す。
しかし山形には、もはや理解の範疇を超えた別の世界の人としか見えなかった。


「あなたはマンモスに祟られればいいんだ!」
「……」
警察に手を引かれた女の捨て台詞にも山形は動じない。
――いつものことだがこの商売、割にあわないな。
 警察に連れて行かれる女の後姿を見送り、山形は店内の巡回に戻った。
居直り。開き直り。無言の涙。罵詈雑言、そして罵倒罵声。それが山形の日常だった。



565 ::【つぼ】【山形】【マンモス】 2/2:2009/11/13(金) 07:18:47 ID:dwbBV8XK
――俺が間違っているのか。あの女の執念か……

 山形は女に訴えられていた。
女は弁護士を雇い、万引きしたのは申し訳ないが、人の往来の激しい場所で事情を聞くのは
プライバシーの侵害。舐めまわすように身体を見られ、人を性的な欲求不満呼ばわりしたのは
セクシャルハラスメントに値する。と主張した。
そしてその主張は女の雇った弁護士によって山形の勤務する警備会社に通達された。
 山形がその弁護士と直接やり取りをすることはない。
しかし、そのクレームによって山形の職務経歴に傷がつくのは確かだった。

「マンモスの祟りより怖い女だ」
同情する同僚に山形は苦笑いしながら呟いた。
「会社でちゃんと処理するから気にするな。年末に向けて忙しくなるから気をつけろよ」
現場を統括する室長の声を受け山形は店内巡回に向かう。それが山形の仕事なのだから――



おわり


マンモスと聞いて思い浮かんだのはの○ぴーwとギャートルズ。
山形、つぼも使ってないようなもの。
発想力の乏しさを露呈してしまったが後悔はしていない。


566 :創る名無しに見る名無し:2009/11/15(日) 01:39:01 ID:8VGRyKkF
また微妙な終りかただな……。オチをつけろ、とまでは言わないがきちんとした終り方にして欲しいなぁ。

567 :創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 14:37:46 ID:EUrIKB5O
雪深い山麓に佇む山形の流線。
彼の名は金岾亥(きんざんい)、近辺のマンモスを統べる老獪な神獣である。
老いて毛羽立った毛皮は苔むした山肌のように軟らかであり、遠目には擦れて磨かれた毛並が光に透けて金に輝いて見える。
故に金の名を冠し、山に立ち入る者を尽く排するから岾の字を戴く。

「亥よ、こんにちこそは貴様の肉をくろうてやろう。御覚悟しなんせ」

縄目の複雑な紋様が縦横に走る巨大な楯を構え、金岾亥にも負けぬほどたくわえた髭の下で磨減った奥歯を噛み鳴らす。
こちらは山々の獣畜を五万と狩って来た名うての狩人であり、剛楯の重盛その人であった。
金岾亥はゆったりと。
その巨躯を動かせ、下肢接地面に組み込まれている噴射推進器を鳴動させた。
轟音。
次いで猛烈な土埃。
重盛は突風に巻かれながらも黒曜石から磨きだした仮面を付けた。
重盛が見上げれば、黒曜石の仮面と土煙の向こうに上昇して行く金岾亥の禍々しい体躯が映った。

「逃げるか!?否、上から仕掛ける腹積りなるか!」

重盛は小舟ほどもある剛楯を片手で頭上に掲げ持ち、奇妙な呪文とともに左の手で印を次々に組んだ。

「我が名は重盛、土くれに御霊吹き込む造物の徒なり!貴神等との約定を果たせ!いでよ緑之王(ドライアド)!」

重盛が叫び終わると同時、雪に覆われた大地から無数の緑が芽生えた。
生え、伸び、肥え、数瞬の後に雪の痕跡も残さぬほど土を耕して、重盛を半球状に覆う樹木の天蓋が形成された。

【それで防いだつもりか狩人よ】

脳に直接響く神通力を使い、金岾亥が叫んだ。
雪雲の中にまで上昇を果たした金岾亥は全身の金毛に雷撃を集め、
積乱雲の渦中で紫電に塗れながら眼は可視域外の透過線を感知して重盛の動きをつぶさに凝視していた。
金岾亥の分厚い毛皮が裂けて装置が露になり、
荷電粒子生成光線射出装置が不可視の道を重盛の潜む樹木の半球に向けて一直線に作りだした。
一瞬、雲も雪も貫き、金岾亥の射出装置から重盛までの直線が荷電粒子の線で結ばれた。
閃光。
青い閃光に白が続く。
次いで緑の閃光。
樹木の半球は電速で貫かれ、重盛の剛楯に重過ぎる圧力が掛かった。
圧力はやっと追いついた可聴域を超越した炸音とともに重盛の剛楯を肩ごとむしり取った。

「っ、つ、」

支え切れなかった肩は外れ、胸の筋が千切れ伸び、肩胛骨から双帽の筋が剥れてしまったことが自覚できた。
大丈夫だ。
これだけ冷静ならば、まだやれる。
重盛は自分に言い聞かせ、腰に縛り付けてあった縄目紋様の壷を左の手に取った。
そして左の手の人差し指を喰い千切ると、そこから溢れる深紅の血でもって、地面に奇異な模様を描いた。
穴の開いた樹木の天蓋からそそぐ僅かな光を頼りに描く。

「魔なる者よ、昏き闇の渾身よ。我が肉をもって契約を結ばん。我が血肉の一滴残らずをもって時空の間隙を開きたまえ」

そう呟くとほぼ同時、金岾亥の巨躯が重盛の作り出した半球を踏み砕いた。

【さらばだ、狩人よ】

568 :創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 17:46:08 ID:EUrIKB5O
おわりの部分間違って消してしまった……

569 :創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 18:51:25 ID:f+XTJDMG
それはなんという悲劇w
……いや、失敬。記憶を元に書き直すんだ。待ってるから。

570 :創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 01:14:26 ID:85C3MX73
>>568
このスレを紹介しておこう

【データ】創作活動中の悲劇【消失】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1221560053/

辛くなったら想いをぶちまけてしまおうぜ

571 :【つぼ】【山形】【マンモス】1/2:2009/11/26(木) 18:56:38 ID:KqK+3+3f
健一はまた一つ、ジグソーパズルのピースをぱちんと嵌め込んだ。
そうしてまた一歩、彼の没頭している世界が完成に近づいた。
ステゴサウルス、トリケラトプス、プテラノドン。
これら3体の部分は組みあがって、その全貌を彼の目前に晒している。
大物のティラノサウルスは、まだ牙を剥いた顔の部分しか存在していない。
アンキロサウルスなどは、たくさん棘のついた背中と、先端に大きな瘤の
ついた尾が、まだ繋がっていない。
「けんちゃん、ちょっとそれ、休憩したら? ほら、山形のおじいちゃんから、
さくらんぼ」
「ほんと?」
玄関から戻ってきた母の声に、彼はぱっと顔を上げる。
幼い彼は、祖父の作ったさくらんぼが大好きだった。昔々に生きていた、
でっかい者達と同じくらいに。
母は抱えてい小包をそっと示して見せ、台所に立った。
その間に健一も洗面所に手を洗いに行く。蛇口はまだ少し、彼には高い
位置にある。しかし、ちゃんと踏み台が用意されているから大丈夫だ。
その踏み台も、大好きな恐竜や怪獣たちのシールで飾られていた。
リビングに戻り、やはり彼には高い椅子の上に登った。
足をぶらぶらさせて待っていると、彼の母も戻ってきて、隣に座る。
ガラスの器に盛られた、赤くてつやつやのさくらんぼ。
見ているだけで、口の中にじんわりと優しい甘さが広がってくるようだった。
「いただきます!」
手を合わせて言うと、早速彼は手を伸ばす。へたの部分を持って摘み上
げると、ふるふる震える。
ちょっとだけアンキロサウルスのしっぽを思い出しながら、彼はそれを口
に運ぶ。噛むと果肉がぷつりと潰れ、想像した通りのおいしさが舌の上に
あふれて、自然に笑顔ができていた。
「おいしい」
「じゃあ後で、おじいちゃんにお礼の電話しようね」
うんうんと頷きながら、健一は次の一粒に手を伸ばす。
すると、テーブルの向かい側に立っていたソフトビニールの動物たちと、目
が合った。
「お母さん、恐竜もさくらんぼ食べた?」
彼の母は、少し首を傾げた。
「ううん、今みたいなさくらんぼは無かっただろうけど、さくらんぼの祖先み
たいなのは、あったのかなあ。
あったとしても、今みたいに甘くはなかったんじゃないかなあ」
「じゃあ、マンモスの頃は?」
目の前に佇む者たちの中で、ひときわ存在感のある、毛と鼻の長いやつを
見つめながら、彼は尋ねる。
「マンモスが生きてたような寒い時間、寒い場所なら、さくらんぼは無かった
んじゃないかなあ」
「やっぱり……」
一応訊いてみたけれど、健一だって、マンモスが『ひょうがき』という寒い時代
に生きていたことは知っている。
そもそも寒くなかったなら、あんなに毛むくじゃらになるわけがない。
やっぱりな、わかっていたけれど、少しかわいそうだった。
姿形の様々な恐竜たち。凍える時代をどっしりと生き抜いたマンモス。大きな
牙が格好いいサーベルタイガー。
みんなあんなに大きかったのに、強そうだったのに、こんなにおいしいさくらん
ぼを食べたことがない。
今この時間まで、生き延びることができなかった。
それなのに、彼らよりずっと小さな自分が、今ここにいる。
それがちょっと、不思議な気持ちがした。

572 ::【つぼ】【山形】【マンモス】2/2:2009/11/26(木) 18:57:37 ID:KqK+3+3f
それから、太古の巨大生物たちと祖父の作ったさくらんぼが大好きで、
ジグソーパズルにかなりの集中力を発揮していた幼い子どもは。


健一はまた一つ、パズルのピースを繋ぎ合わせた。
と言って、彼が今挑戦しているのは、恐竜の絵柄のジグソーパズルでは
ない。
ただ、過ぎ去った時間が甦るという点については、同じかもしれない。
彼は、新聞紙の上に無数に広げられた土器の破片を、慎重に貼り合わせ
ていく。
これらは弥生時代の壷であるはずの欠片である。壷というのは、弥生時代
辺りから稲作と共に一般化した器である。そんなことを、健一に初めて教え
てくれたのは、高校時代の恩師だった。
それまでの彼は、幼い頃の熱狂のままに、古代生物たちを研究する道へ進
もうと考えていた。
しかし、一人の教師との出会いが、彼の古代への関心を、違う方向にも伸ば
してくれたのだ。
今でも、人類が誕生するずっと以前の地球や、氷河期という厳しい時代のこと
を思い描くのは楽しい。とてつもなく膨大な時間のことを考えると、ちっぽけな自
分から、心が飛び立つような気になる。
結局、進んだ道は多少変わったけれど、過ぎ去った時代に夢中になった、あの
気持ちの本質は変わっていないのだろう。
長い長い生命の歴史の中で、自分がここに立っていること。
それを不思議に思った気持ちが、自分を古代に駆り立てているのだと、健一は
思っている。

573 :創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 22:54:23 ID:Fv51ALoA
なんかいいはなし

574 :創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 23:00:00 ID:IykMRs9a
上手いこと三つまとめたなー。

さくらんぼからそう繋がるのとか、面白かったよ。

575 :創る名無しに見る名無し:2009/12/01(火) 19:34:13 ID:x9x0IPBv
次のお題↓

576 :創る名無しに見る名無し:2009/12/01(火) 19:51:53 ID:zoCm9cLt
12月になったことだし
「雪」

577 :創る名無しに見る名無し:2009/12/01(火) 20:16:40 ID:fiilg95U


578 :創る名無しに見る名無し:2009/12/01(火) 20:20:49 ID:IRdwSJhZ
行方不明

579 :昨日の俺:2009/12/02(水) 15:54:40 ID:a4vZpel0
雪の降りそうな夜。
ふと足下を見れば、やけに自分の影が濃密だった。
不思議に思って空を見上げたら、満月が煌々と。
今が冬なことも関係しているのだろう、空気は凜と澄み、月は換えたての蛍光灯みたいに白く輝いていた。
辺りを見回す。
深夜だもの、誰も見当たるはずは無い。
こんなにいい感じなのに、誰も見て無いなんて。
勿体なくてしばらく眺めた。
そうだ、写メでも撮ろう。
そう思ったけど、携帯を忘れてしまっていた。
まぁ、俺の携帯カメラじゃ、画素たりねぇよな。
飽きて歩き出す。
しばし夢中に歩く。
バスのダイヤを深夜に増やせ、と願う。
コートが暑いけど、もう歩き詰めで汗をかいてしまったから、脱ぐと冷える。
よって、着たまま徒歩。
徒歩、は、とほ、とも、かち、とも、読む。
陸上の競歩はかちんこ勝負と呼ぶべきかもしれない。
疲れてるのかもしれない。
変な事ばかり考える。
はぁ、と溜め息に従って、気分も目線も下がる。
影が薄い。
いや、俺の存在がとかいう意味で無く、さっきより、光が弱い感じ。
空を見上げると、さっきは無かった薄い雲が全天を覆っていた。
雲が柔らかく千切れ、所々に間隙をつくり、月明かりを透かしながら流れてゆく。
それが見渡す限り、建物や山々に視界が阻まれるまで続いていた。
いつだったかNHKでみた、氷山を水中から撮影した映像にそっくり。
海底深くからみた太陽の透ける氷河と、
夜深くにみた月の透ける雲囲がそっくりだという発見は、やけに鮮烈だった。
深夜4時、俺は行方不明で普通失踪届が提出される前に、帰り着く事ができた。
景色が素晴らしくて、とても安らかな気分だった。
ただひとつ問題があるとすれば、あと三時間ねたら仕事に行かねばならないという事だけだった。

終わり

580 :創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 22:18:44 ID:7oxJD7g/
>>579
昨日の満月が素晴らしかったから、情景が何か浮かんできたな。
というか、全く同じ事を考えて実際に撮った俺ガイルw
そして画素が足りなかったのも同じというw

でも、あれだけ綺麗な月を見上げていない人がいるっていうのは、
本当に勿体無いよね。

581 :創る名無しに見る名無し:2009/12/04(金) 01:00:58 ID:QDm16Gss
俺もこれ読んで昨日(おととい)の満月思い出してた。
綺麗だったよな。ふと夜空を見て満月だったりすると得した気分になる

582 :「雪」「月」「行方不明」:2009/12/04(金) 22:44:35 ID:rZKaxJQ3


家に帰ると、両親が難しい顔をして待っていた。
ちょっとこっちにきて座りなさい、と椅子を示す。
父は腕を組んで苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
母は困ったような顔で、目を合わせようともしない。

どうせいつもの話だろう。
わたしは心の中でため息をついて、席についた。
「そろそろ結婚について考えてもいいと思うのだがね」
ほらきた。やっぱりこの話だ。
「・・・相手の一人くらいはいるんでしょ? ね?」
母の縋るような目も、いつもと同じだ。

わたしはテーブルの上で揃えた自分の指を見た。
自慢の雪のような白い肌。ついさっき、塗り替えたばかりのマニキュア。
つけ爪にはきらきらのラインストーンで花の模様を形取ってある。
ハンドマッサージが施された指だって艶やかに輝いている。
おしゃれには手を抜かない。
美容院は週に一度行かないと気が狂いそうになるし、持っているブランド品に相応しい体型維持のためにスポーツクラブにも通っている。
エステもマッサージも、数ヶ月先まで予約を入れてある。
それだけじゃない。
わたしは英会話教室、ハワイアンキルト教室と紅茶教室にも通っている。
美貌に知性、どれもバランスよく配分してあるのだ。
自分磨きにかけてはかなり自信がある。
お金だって相当かけたし。
だからこそ、それなりの相手じゃなければ、交際も結婚もする気にならない。
高望みでも何でもない、これは当たり前のことだ。
・・・と言うようなことを説明したが、両親は理解しようとしない。
いや、できないのだろう。
年取って石頭だから。
考え方が化石だから。
平行線の時間が過ぎる。なんて無駄な時間。
ああ、もう。これだから年寄りと話をするのはイヤなのだ。

「・・・ともかく、理想はそれくらいにして、少し真面目に考えてちょうだい」
「わがままばかり言ってると、本当に売れ残るぞ」
両親の話を右から左に聞き流し、内心で舌を出してわたしは部屋に戻った。
今日は月9のドラマを見ようと思ったのに。もう終わる時間じゃない。

娘がいなくなったリビングで、父母が顔を見合わせた。
「難しい条件ばかり出して、あの子はやっぱりお姫様なのね」
「しーっ、それはまだ内緒だ。月からの使者が迎えに来る予定の日はとっくに過ぎているのだが」
「まさか、忘れてはいないでしょうね」
「そんなことになったら、私達夫婦は破産だ。夜逃げか行方不明のどちらかしかない・・・どれだけ金を注ぎ込んだことか」
「そうですよね、ともかく月への帰還でも、結婚でもいいから、早くこの家を出て行って欲しいわ」

約束の日から既に数年が過ぎていた。受け取った養育費もすっかり底をついた。
大事に育てられてすっかりニートのかぐや姫は、育ての親の苦労も知らず、のんびりと地球の生活を楽しんでいるのだった。


583 :創る名無しに見る名無し:2009/12/04(金) 23:50:26 ID:QDm16Gss
それきっと月の人たちにだまされたんだよ!

584 :創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 00:20:10 ID:0HT86jbn
まさかそんな落ちだとは思わなかったw
こうまで見事に落とせるとは

585 :創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 18:48:25 ID:rHkbWA+y
月の人たちも持て余してよこした線は高そうだなw

586 :創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 21:37:37 ID:ywD+Cld1
そういや何か罪を犯して地上に来たんだったな

587 :創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 10:34:14 ID:Yh0z+69J
年取って石頭だから。考え方が化石だから〜平行線の時間が過ぎる。
のくだりがすごく好き。表現、リズム共にイイ!(・∀・)

588 :創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 11:40:08 ID:Zv+ibgGs
帝の求婚まで蹴ったのに、これ以上どんな高望みをする気なんだw

589 : ◆91wbDksrrE :2009/12/10(木) 01:01:57 ID:yeU7mUuC
 ふと、思うことがある。自分がもしも行方不明になったら、皆は心配して
くれるだろうか、と。そんな事を思うのは、決まって新月の日だ。
 一月に一度ある、月が行方不明になる一夜。だが、誰もいなくなった月を心配
する事は無い。当たり前の話だ。月は見えなくなるだけで、実際にはそこに
いるのだから。そして再び満ちていくのだから。その繰り返しは人類が文明を築く
よりも早くより行われ続けている必定であり、その事実を人も知っている。
だから、誰もいなくなった月を心配する事は無い。
 では、それが月ではなく、人であればどうだろう。
 人は、繰り返す生き物ではあるが、繰り返しを約束されてはいない。失って
しまえば、もう二度と取り戻せないかもしれない存在だ。だから、行方が知れ
なくなれば心配されるのが道理というものである。
 さらに、その人間に価値があればある程、より強く心配される事になる。
無価値な人間であれば、たとえ失われたとしても惜しまれる事はなく、故に心を
配られる事も無い。
 要は、自分が行方不明になったら心配されるだろうか、という問う事は、自分が
価値のある人間であるかどうかを問うているに等しい。
 だが、その問いに答えを出そうとする勇気は、私には無い。行動半径は街中に
限られ、雪山に登る趣味も無ければ寒風吹きすさぶ岬に出向く機会もない。極々
普通の会社勤めの人間だ。事件や事故に出くわす事も無い、平々凡々とした。
 私は空を見上げた。新月の夜、月の見えない空を。
 あるいは――
 あるいは、月も思っているのだろうか。
 心を配られない自分を顧みて、自分に価値が無いのではないだろうか、と。
 そうであれば、救いはあるように思えた。誰からも愛され、誰からも想われ、
それでもそれを信じられずに不安を抱え、繰り返しの日々を生きている存在が
あるのならば、私という人間も、少なからず愛され、想われているのではないかと、
そう思える。例えそれが慰めだったとしても、慰める事ができるという事に意味はある。
 私は視線を戻し、再び歩き始めた。明日もまた、いつものうように起き、いつもの
ように会社へと行き、いつものように仕事をし、いつものように帰宅する、いつもと
今日と同じ一日が待っている。約束されてはいない、繰り返しの日々が。
 違うのは、月が、行方不明だった月が、恥ずかしげにちょっとだけ顔を覗かせる事だ。
 明日は、その月を見る為に空を見上げよう。そんな事を決意しながら、私は何となく
軽くなった足取りで家路についたのだった。

                                      終わり

590 : ◆91wbDksrrE :2009/12/10(木) 01:02:32 ID:yeU7mUuC
ここまで投下です。

591 :創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 06:14:11 ID:kE/FUimj
おお、「行方不明の月」で新月か。なるほど。
月の満ち欠けに精神状態左右されたりするし、
ふとそういう境地になることってありそうな感じだ。

592 :創る名無しに見る名無し:2009/12/17(木) 23:40:09 ID:oU4oR/YH
お題をばクレ給え

593 :創る名無しに見る名無し:2009/12/17(木) 23:42:54 ID:VBZg9tzX
マスク

594 :創る名無しに見る名無し:2009/12/17(木) 23:43:44 ID:qFnFkdP4


595 :創る名無しに見る名無し:2009/12/17(木) 23:52:49 ID:yOl4iNIU
子供

596 :創る名無しに見る名無し:2009/12/19(土) 11:40:30 ID:3igAcuoP
マスクをした子どもが虎に食われた。
虎はインフルエンザに罹って死んだ。

終わり

597 :創る名無しに見る名無し:2009/12/20(日) 09:27:48 ID:JyGGx5m0
スイーツ(笑)

598 :マスク 虎 子供:2009/12/20(日) 10:37:11 ID:XN96O9V+

とある居酒屋。

ガヤガヤ…ザワザワ… ジングルベールジングルベール…

男A「ふふふ。今年のプレゼントはタイガーマスクだ」グビグビ
男B「タイガーマスクのお面すか?」チビチビ
男C「いまどきの子供ってお面なんかで喜びますか?」チョビチョビ

ガヤガヤ…ザワザワ… アニハヨフケスギニユキエニカワルダロ… 

男A「ああ、俺の子供は喜ぶ。まだ小さいからな。どうやら
   戦隊ヒーロー物と勘違いしてるみたいだがな」グビグビ
男B「なるほど。それならお面でいいっすね」チビチビ
男C「クリスマスだしせっかくなら戦隊物の超合金モノがいいんでは……」チョビチョビ

ガヤガヤ…ザワザワ… アイドーリミンインナオッパイクリスマス…

男A「まあな。しかしこれで喜んでるからいいだろ」グビグビ
男B「そーっすね。意外とオモチャいい値段するし」チビチビ
男C「ボーナス半減ですからね」チョビチョビ

ガヤガヤ…ザワザワ… ブチッ!!!

男A「うるせーっ!どうせ俺は万年係長だ!ボーナスなんて雀の涙だバカヤロー!!!!!」
ドンガラガッシャン!ボカスカ!パリーン!

男B男C「しまった。男Aさん大虎なこと、ついうっかり忘れ…」…ガクッ


終わり



599 :創る名無しに見る名無し:2009/12/20(日) 13:38:54 ID:CXf4Gt1I
タイガーマスクで上手くお題二つ消化したと思ったら、大虎のオチw
上手いなw

600 :創る名無しに見る名無し:2009/12/20(日) 13:49:47 ID:giHvsWIb
とりあえず、ボキャブラ自重w

タイガーマスクで二つのお題をいっぺんに、と思いきやw
ほんまこの時期の夜は虎がいっぱいやで〜
気をつけなはれや!w

601 :創る名無しに見る名無し:2009/12/20(日) 15:45:27 ID:pjYZQ9zm
タイガーマスクの顔って戦隊ヒーローものではむしろ怪人のポジションじゃないか?w

602 :創る名無しに見る名無し:2009/12/20(日) 16:02:32 ID:1d7ZWWLx
>>601
うしおそうじ先生と鉄人タイガーセブンにあやまれ

603 :【雪】【月】【行方不明】1/2:2009/12/21(月) 00:52:16 ID:94D9HkoC
 十二月二十四日。
とある山あいの小さな村にも、いつも以上に静かで清らかな夜が訪れました。
人々も、飼われているヤギや鶏たちも、真っ白な雪に覆われたそれぞれの屋根の下で、
各々十分に温かくして休んでおりました。

 そんな穏やかな夜の中、澄んだ鈴の音を響かせて、サンタクロースの橇はやってきました。
陽気な赤ら顔に長い白髭の、恰幅の良い老人は、一軒の家の上空にトナカイたちを止めます。
宙に浮かんだ状態で静止したトナカイたちの首を軽く叩き、煙突から家の中へと降りて行きます。
忍び足で子どもの寝室へと向かいながら、老人は背負った大きな袋の中に無造作に手を差し入れました。
中の包みたちは、自分が誰宛てのプレゼントなのかよく心得ているので、
ちゃんと正しい順番で老人の手の中に飛び込んで来るのでした。
 さて、ベッドに横たわる赤毛の少女の近辺に、サンタクロースは靴下を探します。
しかしどうやら見当たりません。
そこで、少女の枕もとにそっと青いリボンの包みを置いて行こうとしたときでした。

「サンタさん、待って! 私、そのプレゼントの代わりにお願いがあるの!」
 老人はすっかり驚いて、あやうくプレゼントを取り落としてしまうところでした。
「おや、君は眠っていなかったのかね。しまったなあ」
 子どもの寝ているふりに気づかずに、姿を見られてしまうなんて、サンタとしては大失態です。
勝気な深い茶色の目をした少女は、右手の袖をしっかりと掴み、離してくれそうにありません。
「それで、君のお願いというのは何だい? そのために今まで起きていたのかい?」
 少女はこくりと頷きます。
「そうなの。私ね、今年はサンタさんに着いて行きたいと思っていたの」
「何だって?」
「そんな大きな声を出しちゃ駄目よ。父さんや母さんが起きてしまうわ」
 人差し指を口に当てて少女は老人に注意します。
「だけどなあ、それはねえ」
 どうしたものかと思いながら、口を開きかけたサンタクロースを、少女は勢い良く遮ります。
「だってね、私は生まれてからまだ一度も、この村を出たことがないの。
だから一度、高い空から広い世界を見てみたい。
私と同じくらいの歳の子って、どんな風なのか、たくさん見てみたい。
ねえ、いいでしょう? 頑張ってサンタさんのお手伝いをするし、絶対に邪魔はしないから」
 サンタクロースは少しの間、考えこみました。
けれど、じっと真剣にこちらを見つめる少女の顔を見返しているうちに、
彼の表情は段々と難しさをなくし、代わりにいたずらっぽい光を瞳に宿し始めてしまうのでした。
この老人、元々陽気でたいそう楽天的なたちなのです。
「じゃあね、出かけるための支度を始めなさい。暖かいようにしっかり着込むんだよ。
その間に、私はこの村の他の子どもたちにプレゼントを配って来るから、家の前で待っておいで」
 少女が瞳を零れ落ちそうに大きくして、笑顔を満面に広げていくのを、
サンタクロースはにこにこと見つめていました。
「ありがとう、サンタさんってとっても話がわかる人なのね! 大好き!」
 少女は小声で大喜びして、老人の大きなお腹にぽすんと抱きついたのでした。

604 :【雪】【月】【行方不明】2/2:2009/12/21(月) 00:53:34 ID:94D9HkoC
 母屋の隣の小屋の中、暖かい藁の寝床で一匹の黒犬が、ふと目を覚ましました。
何だか母屋の戸口が開く音がしたような気がしたのです。
老いても番犬である自覚をもつ彼としては、一応確認しておかなければなりません。

 小屋の外に出ると、外は厳しい寒さでした。
けれど、空気は不思議なほどに優しい気配を帯びています。
風はほとんど無く、雪は静かな月の光を浴びて、きらきらと繊細な輝きを放っています。
そのきらめきは、犬に何かを楽しげに問い掛けているようにも思われました。
だからでしょうか、彼は母屋の戸口から伸びる小さな靴跡を見つけても、
吼え声を上げる気になれませんでした。
彼はただただ困惑して、その足跡に、もこもこの毛に埋もれかけた鼻先を近づけます。
ああ、これはやっぱり、うちの小さいのの匂い。
彼は尻尾をしきりに振りながら、首を大きくひねりました。

 真っ白な雪の上に、ほんの数歩だけの少女の足跡。
周囲には他の何者かの足跡など一切無く、彼女は本当にぷつりと気配を途切れさせて、
行方不明になってしまっているのです。
鳥ならば、そこから羽ばたいて行ったのだと考えれば良いのですが、
あの小さいのには羽は生えていないのです。
……それとも。
彼はふと思いついて、顔を上げました。
羽が無くても飛べることって、あるのだろうか。
見上げた先には、大きな金色の月ばかりが、彼と共に謎の現場を見つめておりました。

 犬が何故だか家人に異変を伝える気にならず、寝床にとって返した頃、
空からはまた、雪が舞い降りはじめました。
翌朝になれば、このぼたん雪は、少女と老犬の足跡を覆い隠してしまっているでしょう。
そして、少女は元の通りにベッドで寝息を立てていて
彼女の枕もとには青いリボンのかかった包みが、そっと置いてあるでしょう。
果たしてこの一夜が夢であったか現実であったか、それを彼らに答えられるのは、
空で見ていた月だけなのかもしれません。

605 :創る名無しに見る名無し:2009/12/21(月) 00:53:42 ID:GKPkTZBF
サンタクロースについていく映画思い出した
いいなあ

606 :「マスク 」「虎」「子供」:2009/12/21(月) 00:57:10 ID:snnccUam
自分は中二の頃、猫耳カチューシャをつけると猫の言葉がわかるようになる設定だった。
家の猫(キジトラ)のパトロールについてって
「そう、この辺りはもう大丈夫なのね」
とか話しかけた後に後ろを振り返ったら小学生がいた。目が合った。
たまたま冬場でマスクしてて誰だかわかんないだろうと思ってた次の日、
「ここんち不審者がいるんだぜ」って子供の声が外から聞こえてきた。

その小学生とは数ヶ月後に再会する。
吹奏楽の新入部員の中にいたそいつと目が合った時は心臓が止まった。
当時は本当にどうしようかと思った。
今ではお互いの弱味を知りすぎてたいした事じゃなくなったけれど、
猫耳はあれから8年間、ずっと封印してある。

ー終ー

607 :創る名無しに見る名無し:2009/12/21(月) 19:45:22 ID:T3Cd5itJ
>>604
ええ雰囲気だねぇ。

>>606
テラ厨二病w
その後の弱みを知りすぎる辺りの話がみたいなw

608 : ◆91wbDksrrE :2009/12/28(月) 23:40:28 ID:+O9Ofcu6
※このSSは、実在の人物・団体・選手とは一切関係ありません。
 実在の中の人、及びその周辺状況はこんな感じじゃありませんw



 彼は、名声を手にしていた。
 一時の隆盛は影を潜めたとは言え、そのジャンルの往時を知る者に
とっては、彼の名はそのジャンルそのものの代名詞とも言える程に
知れ渡り、そのジャンルに興味が無い者の間でも、その名は知られて
いた。
 そのジャンルを、プロレスリングと言う。
 虎のマスクを被り、四角いジャングルとも称されるリングの中を、まるで
重力が無いかのような動きで飛び回る彼の姿に、誰もが憧れ、誰もが
賞賛の声を浴びせ、彼への憧憬を理由にこの世界の門を叩いた人間も
数多く、その中には現在トップレスラーとして活躍している者もいる。
 その人柄も非の打ち所が無く、まさに、彼はスーパースターと呼ばれる
に相応しい人間だった。彼自身、賞賛におごること無く鍛錬を続け、常日頃
からそのトレードマークである虎のマスクを被り続けることで自らの意識を
高め、四十路を数える今現在も現役の、それも一線級の選手として活躍し続けていた。
 だが、そんな彼にも、最近とある悩み事が生じていた。

「虎子! 私はお前をそんな娘に育てた覚えは――」
 言葉はそこで途切れた。目の前で、スカートを翻し、少女は飛んだ。
 次の瞬間、空中で回転した彼女の足刀が、彼のみぞおちに突き刺さる。
 切れのあるローリングソバット。まるで往時の自分のそれを思わせる
かのようなそれ――御丁寧にみぞおちをつま先で突き刺すように放たれて
いる――をもろに喰らい、彼は吹っ飛んだ。
 受身は取ったが、つまさきが突き刺さったみぞおちには尋常ではない
痛みが走り、衝撃で空気も全て強制的に吐き出さされてしまった為、彼は
しばらく目を白黒させて喘いだ。
「……育てられた覚え、無いんだけど」
 その素晴らしい切れ味のローリングソバットを放った少女は、半眼で
彼を見つめた。
「……と、虎子……」
 それだけ、ようやく声に出して呟いた彼を尻目に、彼女は――彼の娘で
ある少女、虎子は、傍らにおいていたバッグを引っつかみ、走り出した。
「もう、お父さんが邪魔するから遅れちゃうよっ!」
 彼女の向かう先は、料理教室。まだ少女である彼女が女性としてのスキルを
磨く場所としては、至極真っ当で自然な場所だ。
 だが――
「……こ、これだけのローリングソバットを放てる素質を持ちながら……」
 ――彼女の父である彼は、それを認めようとしなかった。彼は、娘である
虎子に自分の跡を継いで欲しかった。虎のマスクを被り、二代目として
虎仮面の名を継いで欲しかった。それなのに……ある日、彼女はこう宣言した。
『わたし、普通の女の子でいたいから』
「なぜだ……虎子よ……お前は何故虎にならん……ッ!?」
 彼の叫びは虚しく路地に木霊した。
「……そりゃあ、あの娘も女の子ですもの。日常生活でも覆面被ってなきゃ
 いけない生活なんて嫌でしょうよ……」
「虎だぁぁあああ!!!! お前は虎になるんだぁああああぁぁああ!!!」
 いつの間にか近くに立っていた妻の呟きは聞こえない振りをして、彼は
再び叫んだ。ただ虚しく木霊するだけの叫びを。

609 : ◆91wbDksrrE :2009/12/28(月) 23:40:44 ID:+O9Ofcu6
「父さん……少しは子供の気持ち考えてもらえないもんかな……」
 木霊する叫びを遠くに聞きながら、だがしかし、彼女の顔には先ほど浮かべ
ていたような嫌悪の表情は無かった。むしろ、淡い笑みすら浮かんでいた。
「……私だって、別にプロレスが嫌いってわけじゃ、ないんだよ?」

 ――その後、虎子は一度だけ虎の仮面を被って、リングに立つことに
なるのだが、それはまた別の話である――

                                終わり

610 : ◆91wbDksrrE :2009/12/28(月) 23:42:21 ID:+O9Ofcu6
ここまで投下です。

611 :「マスク」「トラ」「子供」:2009/12/30(水) 18:33:21 ID:GMwoPtkO
 自分の子供の頃の記憶を覚えてるかと聞かれて、おいそれと答えられない僕の少年時代は簡潔に言えば、めったに笑わない子だった。
 とにかく何がなんでも心の底から面白いと思ったことがなく、人が馬鹿をやらかしているテレビ番組を見ても、周りの家族を笑っているのに、僕一人だけが唇を開くことはなかった。
そんな僕は兄からは気味の悪い奴だと敬遠され、親も親戚もだれもが僕を見るときには不振な色をうかがわせていた。
 だけど、ただ一人だけ。姉だけは違った。
 親類の目から見ても、お世辞なく美人だといえる容姿の姉は、僕の前だと臆面もなくその整った顔を変形させて、僕を笑わせようとした。
 たまには表情をまったく変えない僕の顔を姉はいじくったりもする。そして、指の力で変形させた僕の顔を見ては姉は大きな口を開けてがははと笑う。
 その遠慮のない笑い方には少なくとも僕の気持ちはほんわりと温かくなった。
 それに、僕は小さい頃から動物園が好きだったので、姉には良く連れて行ってもらった。
 キリン、サイ、アルパカにキュウカンチョウ。様々な動物が数メートル向こうの檻の中で退屈そうに眠ったりしていた。
 隣には姉がいて、あんたの好きな動物って何? と聞かれる。
 家でも口数が少ない僕は動物園でももちろん口を開かない。そのときは姉の拳が僕の口から声を発生させる。
 虎。虎が好きと僕は小さく言う。すると姉はそっかと満面の笑みで僕を虎が飼育されている場所まで連れて行く。
 虎は強いから好き。別にライオンも強くてかっこいいがあの自分の威厳を主張するかのようなたて髪がなんだか僕を萎縮させてしまう。
 それにくらべたら虎はただ強くて速い、というシンプルな感じがいい。
 強いものはいい。僕にはないものだった。学校では主張をしない生徒としてよく苛められてたりするけど、今考えればそれも自分が口を開かなくなる原因の一種だったのかもしれない。
 周囲に姉がいないことに気がつく。首をめぐらして周囲を見渡すけど、姉の影はなく、あるのは知らない観光客や家族連れの姿だけだった。
 心がざわざわと苦しくなり始めた。姉ちゃんと小さい声で呼ぶけどそれに反応する者はいない。
 虎がいる檻から離れようとした瞬間。背後からとんとんと肩を叩かれる。
 振り向くとそこには可愛らしい虎がいた。がお、と僕の目の前で吠える声はとても聞き覚えがあって、虎の背後から現れたのは姉ちゃんだった。
 どうやらぬいぐるみを買っていたらしい。ごめんねと僕の頭をなでながら言い。そのふわふわしたトラのぬいぐるみを僕に渡してくれた。
 屈託なく笑う姉ちゃんの顔を見るのがなんだか安心して、そして急に恥ずかしくなり僕は顔を下に向けてしまう。
 姉ちゃんはそんな僕の姿を見ながら、さらに笑いごめんごめんと僕を抱きしめた。

 帰り道。僕と姉ちゃんは手を繋いでいた。もういなくならないからと、あの後に姉ちゃんの方から繋いできたのだ。
 左手には小さなトラのぬいぐるみ。右手には姉ちゃんのあたたかい手。なんだか今の僕にはとても充実感があって、いい一日だと思い返す。
 姉ちゃん。と、僕はまた小さい声で呼ぶ。
 そんな声でも姉ちゃんは逃さず聞きとめ、何? と聞き返す。
 ありがとうと言う声はさらに小さくなってしまっていただろう。これでも精一杯力をふりしぼったつもりだったが。
 姉ちゃんの顔がその時どんなだったが、覚えていない。それでも姉ちゃんの手の力が強まるのを右手が感じた。
 僕は姉ちゃんが大好きだ。

612 :「マスク」「トラ」「子供」:2009/12/30(水) 18:34:57 ID:GMwoPtkO
うぁぁ、読みにくいだろなぁ。
自分で読んどいてなんだけど、マスクの意味が伝わりずらいなぁ。

613 :創る名無しに見る名無し:2010/01/21(木) 17:29:46 ID:uSq2yB1O
お題↓

614 : ◆91wbDksrrE :2010/01/21(木) 17:34:56 ID:QDurukbK
↓今回はあえてお題待ち

615 :創る名無しに見る名無し:2010/01/21(木) 18:20:06 ID:Mx6oAB5S


616 :創る名無しに見る名無し:2010/01/21(木) 18:35:19 ID:CA/Ioxc6
みのむし

617 :創る名無しに見る名無し:2010/01/21(木) 22:59:17 ID:4c8yhmug
古川緑波

618 :創る名無しに見る名無し:2010/01/24(日) 15:43:13 ID:F437Fyjt
>>615-617
何とも難しい三題だ……。

619 :「松」「みのむし」「古川緑波」:2010/01/24(日) 17:05:07 ID:F437Fyjt

 ある冬の日、俺は三人の友人を集め、麻雀に興じていた。
 麻雀といえば、お笑いの巨匠・古川緑波も愛した高尚な遊戯である。
 俺たちは、休日を利用して近所の麻雀屋に入り、
 寒さしのぎに一局打っていたのであった。

 局は、既に南四局。
 ここまでの俺の麻雀はひどいもので、最早三千点ほどしか点棒がない。
 それでも、俺は逆転に賭けた。門前清で手を作り、発と中とを暗刻にする。
 そして、ヤミテンのまま、白と一万とのシャンポン待ちにとった。
 白さえ出れば役満だが、対面の親が目の上の瘤。六万点ほど点棒を
 溜め込んでおり、彼からじか取りしなければ逆転勝ちは無理である。
 しかも、白は一枚切れていて、山で死んでいるかもしれぬ。
 とはいえ、辛抱強く待てば、出てくる可能性もあろう。
 松の木ばかりがマツじゃない、牌を待つのもマツのうち。

 そして、次巡の親の手番となった。
 よほどの寒がりであろうか。フードつきコートを着けたまま、
 ミノムシのように丸まって、ひたすら考え込んでいる。
(おい、長考は禁物だぞ)俺は、一喝してやった。
「お前、そのコートは脱げ! 中は暖かいんだから」
「いけねえ! すっかり忘れてた」
 対面は、すっと立ち上がり、コートを脱いで座席に掛ける。
 そして、白をばとっ掴み、座って河に投げ入れた。
「ほらよっ!」「やった!」悲願の大三元である。

 対面から役満をじか取りし、奇跡の大逆転を遂げた。
 そんな俺に、彼は負け惜しみをつぶやく。
「せっかく、お前の言い分どおり、暖かそうな中を温存したんだが……」
 そうか! 中はナカに通ずるということで、寒そうな白を嫌ったか。
 俺の手元に三枚あるから、中は当然生牌だし、それなら一枚切れている
 白を選ぶのは自然であろう。
 しかし、俺はその白をせしめ、奇跡の大逆転勝利。
 俺にとっては、胸のすくような一局であった。

620 :創る名無しに見る名無し:2010/01/24(日) 18:45:14 ID:bepyM7tc
麻雀はよくわからんが、この難題を見事に解消している事はわかったw
よく頑張ったなー。

621 :創る名無しに見る名無し:2010/01/24(日) 19:16:38 ID:oAge+NoN
松の使い方うまいなあ

622 :創る名無しに見る名無し:2010/01/24(日) 20:29:27 ID:yVCuZNju
621と同じく松の使い方が小粋でいい感じ
しかしオーラスしかも鳴き無しで大三元テンパるって結構ドリームじゃねw

623 :【松】【みのむし】【古川緑波】1/2:2010/01/31(日) 09:36:30 ID:nL4rM4RW

「 なぁ。四十八手って知ってるか? 」
「 松葉崩しとか帆掛け舟とか体位の奴か? 」

 たまに一緒に酒を飲む友人に相談を持ちかけられた。
ノイローゼなどの大袈裟なものではないが気になってしょうがない。恥ずかしいので
アパートで、ということで休日を利用して友人の住むアパートにお邪魔している。
 酔わないと言いにくいのかまだ午前中なのにビールを持ってくる友人。
嫌いじゃないので遠慮なくいただき、タコの干物をあてに同僚とぐびぐび缶ビールをあおる。

「 知るかよ。通算ヤッた回数20回にも満たない俺に聞くな 」
「 ……じゃぁ、相撲の四十八手は? 」
「 それこそ上手投げくらいしか知らん。相談したいってそれか? 」
「 そう。気になってしょうがない 」

 くだらねー、と出かかったが深刻なおもむきの友人の前で吐き出す訳にもいかず
ビールと一緒に飲み込む。が、そんな俺に構わず友人は次々とネタを出してくる。

「 AKB48ってアイドルグループいるだろ。あれって48人いるってことか? 」
「 知らんがな 」
「 日本全国48都道府県だよな? 」
「 いや、常識的に47都道府県 」
「 …………。」

 普通に返したつもりだが、俺の返事に友人は黙り込む。
台所にあった買い置きの缶ビールは2箱48本。肴のタコの干物を数えれば6枚、
足だとしたら48本。そして床に投げ出されている何故か24色の色鉛筆2セット……
 こじつければ48に繋がる物が部屋の中に多々存在している事実をもとに
探りを入れてみる。

「 48が気になるのか? 」
「 そう。なんでも48じゃないと気がすまない。
 赤穂浪士も47人な筈なのにどうしても48人に思えてしまう 」
「 ……古川緑波は四十八、割ればニクいは五十八。か 」
「 は…? 何それ? 」
「 いや、母親の実家の爺さんの口癖 」
「 …………。」

 48症候群などこの世に存在するのか知る由もない。
当然心理学的な知識も持ち合わせていないからまともなカウンセリングなど
出来るはずもない。そんな無学な俺に相談する時点で友人はすでに間違っている。
それでも、適当な素人考えを伝えてみる。 
 
「 ちょっと大変だけど夜と相撲の四十八手、AKB48のメンバーの顔と名前全部
 憶えればいいんじゃね? あと理詰めで徹底的に47都道府県と赤穂浪士の名前も憶えれば
 47と48混合しないで済む。ついでにこの際だから48にまつわる話を調べるとかさ 」
「 ……やっぱ、それしかないよな 」 
「 別に有名大学出身のおまえなら簡単に出来ることだろ? 」 
「 簡単じゃねーよ。まぁ、それしかなさそうだからやってみるわ 」

 友人もそう思っていたのだろう、ありきたりな打開策だがすんなりと受け入れた。
悩みを打ち明けたら楽になったのか友人はその後たいして48の話もせずに、いつもの
部屋飲みパターンになり、男二人ぐだぐだになりながら笑って過ごした。


624 :【松】【みのむし】【古川緑波】2/2:2010/01/31(日) 09:37:32 ID:nL4rM4RW

3週間後の日曜日、またしても友人から連絡をもらう。
寝てると思うんで鍵開けとくからそのまま上がってくれ。部屋散らかってるけど気にするな。
 すでに友人はかなり酔っているのかヨッパライ特有のテンションの高さと、どうにでもなれ的
な豪快さが伝わってくる。
 鍵、開けっ放しでいいのかとも考えるが、俺と同じく訪れるのはいかがわしい勧誘者くらいで
誠に残念ながらその部屋に女の姿を見かけたことは無い。見るからにぼろアパートだから物盗りの
類も素通りするだろう。
 友人のアパートまで自転車で20分。気合を入れてペダルを踏めばこの寒空でも汗はかける。
ビールを美味しく飲めるようシャカリキに走り、友人の指示通り俺はいきなり部屋に上がりこんだ。

「 なっ……!? 」

 何故か友人は迷彩柄の寝袋の中で眠っていた。
そして不可解なことに寝袋の周りには多数の楓ややつでの葉が散乱している。
自然素材と迷彩柄の寝袋のおかげで友人はもはや人間の域を越えて「変身」の主人公も真っ青な
巨大なさなぎかみの虫のように見えた。
 常識的に考えれば奇行だが穏やかな寝顔からすれば友人本人が望んだことだろう、驚いたことは
確かだが無理矢理おこして何があったのか問い詰める気にはなれなかった。
 意味不明な悩みや行動を連発させる友人に呆れながらも喉の渇きをうるわす為、俺は無遠慮で
テーブルの上のビールに手を伸ばした。

「 ろっぱの次は葉っぱかよ…… 」

 眠っている友人に聞かせるように言う。そして友人に追いつくべくビールをあおる。
しかし葉っぱに囲まれた友人は当然の如くそんな俺を無視して、眠りつづけていた。



おわり


625 :創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 16:05:26 ID:5aWP+wX/
よーやったなーw

626 :創る名無しに見る名無し:2010/02/07(日) 12:51:28 ID:euX/Ml/L
そろそろ新お題↓

627 :創る名無しに見る名無し:2010/02/07(日) 13:04:36 ID:uSzq9Isc
水晶

628 :創る名無しに見る名無し:2010/02/07(日) 20:11:57 ID:Y27YuS9B
横綱

629 :創る名無しに見る名無し:2010/02/07(日) 20:18:37 ID:enTlVl0X
灰色

630 :創る名無しに見る名無し:2010/02/13(土) 23:58:17 ID:KV8gTzQF
伝説の水晶の力で横綱は灰色になって死んだ



嘘です
すいませんでした

631 :創る名無しに見る名無し:2010/02/14(日) 00:59:28 ID:bJW0xv76
エセファンタジー風のギャグにすれば>>630いけるかも…
いや無理だw

632 : ◆91wbDksrrE :2010/02/14(日) 11:55:38 ID:dOZPj2qa
 占いという物は、恐ろしい物だ。
 あまりにもあやふやで、確かな事は何も知れないにも関わらず、時としてそれによって
人の命運すらも左右してしまう。
 その男もまた、そうして自らの運命を、その岐路を、占いによって左右される事となった――

「占いの館ぁ?」
 知人――仮にAとしておこう――によって連れてこられたそこには、看板が掲げられていた。
 『占いの館』とだけ書かれたその簡素な看板は、ろくに手入れもされていないのか、埃に
まみれていたが、それが逆に一種の"雰囲気"を感じさせる――そんな評判を、この時点では
男もAも知らなかったが、二人は確かにその看板に"雰囲気"を感じた。
 Aは、神秘的な何かを。
 男は、胡散臭さを。
 男は、自らの腕っ節で、彼の属する業界において頂点を極めた人間であり、占いなどという
非科学的な迷信はまったく信じていなかった。故に、占いという言葉自体にも、それを彩る
この"雰囲気"にも、胡散臭さしか感じていなかった。
「なんなんスかここ? 占いとか、俺信じてないッスよ」
「まあまあそう言うなって。この辺りじゃかなり名を上げてる占い師がいるらしくてね」
「まあ、Aさんが言うなら……」
 そう言って、男はAと共に館へと入った。
「いらっしゃいませー!」
 外観の暗さとは裏腹に、受付らしき場所からは、明るい出迎えの声が響く。
「ああ、予約してたAだけど」
「あ、はい、A様ですねー! 承っておりますー!」
 おさげ髪にメガネの可愛らしい少女が、何やらノートのような物を確認し、頷いた。
「予約? 予約とかいるんっスか?」
「ああ、大人気だからな、ここ」
 二人は、少女がこちらだと案内する方に通路を歩いていく。
 途中には、色々な部屋があった。タロットの間。ダウジングの間。亀甲の間。煎餅の間などという物も
あった。それらは、おそらく占いに使う道具を冠した部屋の名なのだろうが……煎餅とは何だろう、と
男は疑問に思った。
「……なんなんッスかね、煎餅の間って?」
「ああ、そりゃ、煎餅占いだよ」
「はぁ?」
「煎餅を囲炉裏で炙って、その割れ方によって吉凶を占うんだ」
「……フザケてるんっスかね?」
「いやいや、至って真面目な占い方の一つだよ。専門書もある」
「………………」
 そんな会話を交わしている内に、目的の部屋へと二人は辿り着いていた。
「こちらになりますー!」
 少女は、役割はこれで終わりとばかりに、そう言い残すと姿を消した。
「……水晶の間、っスか」
「一番占いっぽいだろ?」
「ええ、まあ、そりゃ」
 二人が扉を開け、中に入ると、そこには一人の女性が待っていた。その手元には、なるほど、
占いに使うのであろう水晶が、部屋の僅かな灯りを反射して輝いていた。
「お待ちしておりました。A様と、そのお連れの方ですね」
「ああ、今日は俺じゃなくて、こっちの人の運勢を占って欲しいんだ」
「……なるほど、テレビで何度か拝見した事がありますが……有名かどうかは、別にその後の運命に
 影響を与える事はありません。今後の、貴方の未来を占う……それでよろしいですか?」
「え、えぇ、いいっスよ」
 男は、自分がまるで戦いに赴く前にいつも感じるような、そういう類の緊張感を抱いている事に気づき、
目の前の女性の顔を、その表情を何とか伺い知ろうとしたが、彼女の顔はヴェールに覆われており、
それは叶わない。
「では、そちらにお座りください」
 言われるがまま、男は椅子に腰掛けた。丁度、水晶が眼前に位置する形になる。
「それでは、占いましょう……じっと、この水晶を見つめてください……」
 男は水晶を見つめた。すると、その中に自分の姿が写り出る。
「何か見えましたか?」
「はい……自分が、見えます」
 それが水晶に映った自分の顔ではない事は、その自分が"後ろを向いている"から明らかだ。

633 : ◆91wbDksrrE :2010/02/14(日) 11:55:55 ID:dOZPj2qa
 これは一体どういう仕掛けなのだろう。そんな疑念が男の脳裏を過ぎったが、すぐにその疑念は
消え去った。水晶の中の自分が、灰色の雲のような物に覆われていくのである。
「雲みたいなのが……俺を……これ、どういう事ですか!?」
「……なるほど。自分を包む雲のようなものが見える、という事ですね……」
 やがて、その雲は姿を変えて行き――
「ちょ……冗談はやめろ! なんだコレ! フザケるな!」
「お、おい、どうしたんだよ……何でそんないきなり怒り出すんだ」
 慌ててAは男に駆け寄った。男は酷く興奮したらしく、目を血走らせ、水晶と、その向こうにいる
女性をまるで親の仇であるかのような形相で睨んでいた。
「だって、俺、この水晶の中で食われてんっスよ!? なんかわけのわかんない、化物に!」
「ば、化物ぉ?」
 言われてAは水晶を覗き込んだ。だが――
「……何も見えないよ?」
「えっ!?」
 男は、Aの言葉を受けて再び水晶を見た。だが、そこにはAの言う通り、何も写ってはいなかった。
「……貴方が見た物は、これからの貴方の運命」
 女性は、最初と変わらぬ、ゆったりとした口調で言った。
「お気を付けなさい……貴方の周りにいる、貴方を喰いものにしようとする者に……」
「喰いもの……?」
 占いは、それで終わりのようだった。
 女性は、水晶を大事そうに布にくるんで抱え、部屋から出て行った。
 男は、その後ろ姿をしばらくぼーっと見つめていたかと思うと、やおら立ち上がり、
「やっぱ占いなんかアテになんないっスね! 行きましょう、Aさん!」
 そう言って、どかどかと足音を立てて館を後にした。
「ありがとうございましたー!」
 受付の少女の明るい声が、虚しく響いた。

 その後、気を取り直そうと何件か飲み屋をはしごし、男はずいぶんと酔っ払っていた。
「……フザケるなよぉ……うぃっ……」
「おいおい、飲みすぎじゃないか? 明日も仕事だろうに……」
「俺が酒に呑まれるわけ……っく……無いじゃ無いっスかぁ……」
「まったく……ほら、送ってくから乗りなよ」
「あー……ありがとうございます」
 Aに奨められるがまま車に乗り込む男の脳裏に、あの女性の言葉がよぎった。
『お気を付けなさい……貴方の周りにいる、貴方を喰いものにしようとする者に……』
 男は、ふと考えた。
 Aは、どうして自分にここまでしてくれるのだろう。
 Aは、何を考えていつも自分の面倒を見て、世話をしてくれると言うのだろう。
 Aは、自分を利用しようとして優しくしてくれるのではないか。
 Aは――自分を喰いものにしようとしている人間なのではないか!?
「ま、明日からも頑張ってな、横綱!」
「……俺に頑張れだとぉ! フザケるなぁ!」
 その瞬間、男は拳を振るっていた――


「……時々、わからなくなります」
「どうしたんですか、先生ぇ?」
「占いとは、先を見てする物なのか……それとも、占いとは、先を作る物なのか……」
「……難しいお話ですか? ですよね? 私にはわかりませーん! てへッ♪」
「まあ、難しく考えすぎなのでしょうけど、ね……私も、貴方のように気楽に何ごとも考えられる
 ようになりたいものです」
「元気だけが取り柄ですからっ!」
「あの方も、難しく考えないでいただければいいのですけど……」
 暴行事件が起こったのと丁度同じ時刻。
 その願いが届く事は、なかった。
                                      終わり

634 : ◆91wbDksrrE :2010/02/14(日) 11:56:43 ID:dOZPj2qa
ここまで投下です。

言うまでもなく、フィクションです。実際にあった事件、人物を
元にしていますが、それらの真実とは全く関係がありません。

635 :【水晶】【横綱】【灰色】1/3:2010/02/15(月) 03:46:26 ID:LSCJnqdB
 横綱あられを毎日のようにバリバリ食べていたら「横綱」とあだ名がついた。
小さい頃からおやつと言えば横綱あられでそれが俺の常識になったのか今となっては
ポテトチップスやかっぱえびせんでは物足りないカラダになってしまっている。
 あだ名は「横綱」だが、実際のところ太っているわけではなくどちらかと言えば
痩せている方だ。実際に相撲をやっているわけは当然なくて実は半年前は純真な野球少年
だった中学3年生の俺だ。

 中学3年生のこの時期と言えば当然の如く高校受験真っ盛りで、かくいう俺もその中の
一人だ。
 しかし一人っ子のせいか両親に激しく期待されてしまい、俺のレベルではちょっと厳しい
のではという高校を受験することになってしまった。未来を占う水晶には漆黒の闇の中で
ライトの消えたバイクに乗った俺が崖っぷちすれすれを疾走する絵が浮かぶことだろう。
そのくらい俺的にはヤバイ状況なのだ。
 
「 あれ、高木だ。家こっちだっけ? 」
「 あ、横綱だ 」 
 放課後。いつもの横綱あられと夜食のカップラーメンを買いコンビニを出た時だった。
何故か駐車場の隅に自転車にまたがるクラスメートの眼鏡っ娘、高木がいた。
買った品を籠に入れ俺は何の気なしに自転車を押して高木のそばにいった。
 女子おとなしいグループに属する高木だが、別に性格が暗いわけではない。話し掛ければ
普通に答えるし会話も続く。ただ高木自らがあまり人に話し掛けないだけだ。

「 塾の友達と気晴らしに図書館いこうって話になってここで待ち合わせ 」
「 あ、そうなんだ 」 
 高木と俺は同じ高校を受験する。当然そのことは高木も知っている。しかし合格間違いなし
と言われている高木に比べ、俺は命綱無しで綱渡りに挑むような無謀者。もともと馬鹿なので
しょうがないが、悲しきかな俺の挑戦はクラスでは触れてはいけない話題のひとつとなっている。

「 ね、暇だったら横綱も図書館いかない? 勉強って言うより受験勉強のうっぷん晴らしで
 談話室でおしゃべりがメインになる気がするけど 」
「 へっ!? 」
 意外だった。社交辞令や思ってもいないことはあまり口にしないタイプの高木に誘われる
とは夢にも思ってなかったからだ。
「 ……いいの? ……その塾の友達って俺の知ってる奴? 」
「 ううん、知らない子。でも同じ高校受験するから仲間みたいなもんだよ 」
 高木の誘いは素直に嬉しかった。同じ高校を受験する者として情報交換はしたかったが
何となくレベルの合わない俺はその輪に入ることに引け目を感じていたのだ。
だが、空気を読まない奴と思われたくないので再度確認する。
「 でもいいの? 俺みたいなのいきなり乱入して…… 」
「 うん。横綱よりはマシだけどその子も頑張らないといけない子だから話も合うと思うよ 」
 高木の言葉が胸に刺さる。
自覚はしているがやはり面と向かって言われるとつらいものがある。しかし高木はそういう奴だ。
率直に高木に聞いてみる。
「 ……やっぱ俺のレベルであそこ受験するのってヤバイよな 」
「 うん。正直、横綱はかなり頑張らないとだめだと思う 」
「 そうだよな。よし高木、俺に図書館で勉強方を伝授してくれ 」
「 いいよ。私でよければいくらでも 」
 今の時期、図書館は学生で一杯で席を取れるか分からないが高木の好意に素直に甘えることにした。
親から与えられたプリペイド携帯で母親にその旨メールを送信する。

636 :【水晶】【横綱】【灰色】2/3:2010/02/15(月) 03:47:22 ID:LSCJnqdB
「 横綱ってさぁ、ほんとに綱揚げっていうか横綱あられ好きなんだね 」
 自転車の籠に入ったコンビニ袋から透けて見えたのか高木が俺に聞いてくる。
「 まぁね。ほかのスナック菓子より量も食べごたえもあるのがいいんだよな 」
 あだ名の由来はクラスの連中全員が知っている。高木とは小学校の学区が違うから、俺のコンビニ
袋の中身を見て多分そのことを再認識したことだろう。

「 私も好き。あのドレッシング味のすっぱいのがいいな 」
「 えっ!? 」

 ――きゅん。

 何気ない高木の言葉に胸が高鳴る。
たかが同じお菓子が好きなだけ。たったそれだけのこと。
しかし多感なお年頃の俺を勘違いさせるのには充分だった。

 常時平凡な銀縁眼鏡を装着している高木は学年の学力ランキングでは常にトップ集団を走って
いるが、美少女ランキングではいまいちパッとしない。しかしそれは眼鏡のせいであること
を俺は知っている。
 高木は滅多に人前で眼鏡を外さない。俺もまじまじと高木の素顔を見たことは無い。
だが2、3回たまたま見た高木の素顔は美少女ランキングでトップ集団をおびやかしそうな
ポテンシャルを秘めているのだ。
妄想時間は約1秒。不自然にならないよう会話を続ける。

「 たまにドレッシング味食べると新鮮だよな。ところでさ、友達ってもうすぐ来るの? 」
「 あと5分くらいかな。自転車で来るから疲れてたらもうちょっとかかるかも 」
 高木が腕時計を見ながら答える。
「 そう。じゃあ、ちょっとお願いがあるんだけど…… 」
「 なに? 」
 嫌がられたらどうしようなど微塵も考えない。それならそもそも俺を図書館に誘わないはずだ。
ターボで加速した俺の勘違いパワーはもう誰にも止めることは出来ない。
「 嫌だったら別にいいけど眼鏡外した高木ってどんな顔になるのか見てみたいと思って 」
「 あはは、何それ。別にいいけど眼鏡外したら目つき悪くなるよ 」
 さらりと言ったつもりだった。しかしそれ以上に高木はさらりと眼鏡を外した。

「 うおっ、すげー印象変わるな。……なんて言うかカッコいい顔になった 」
「 あはは。誉め言葉として受け取っておくよ 」 
 照れくさそうに高木は笑う。しかしそれ以上に俺が照れていた。
自分ではっきりわかるくらい俺の頬はりんごのように紅潮しているはずだ。
 ギャップ萌えと言われればそれまでだが眼鏡を外した高木は俺の想像を遥かに
超えた凛とした瞳の美少女に変身した。そして俺はそんな高木に激しく魅入られた。
 
「 高木、俺さぁ 」
 眼鏡をかけ高木はいつもの高木に戻る。でも俺の胸の高鳴りは治まるどころか
高木の素顔というジェット燃料注入にて更に加速した。
「 いままで、滑り止めの馬鹿学校も受けるし親に言われて嫌々受験だから落ちても
 しょうがない。って思ってたけど考え改めた。
 俺、高木と同じ高校通いたいから気合入れて勉強する。マジ頑張る 」

 ――言ってしまった……。

 しかし後悔はなかった。逆に俺の中でくすぶっていた魂を解放したかのように
すがすがしい気分になれた。
そして単に学力に合わない高校を受験する理由が欲しかっただけかもしれないと気付く。
 高木からすればいい勝手に想われていい迷惑だろう。しかし俺の気持ちに嘘は無かった。
そして高木には悪いがヤケのヤンパチここまで来たらもうどうにでもなれだ。

637 :【水晶】【横綱】【灰色】3/3:2010/02/15(月) 03:48:17 ID:LSCJnqdB
「 あはは、女子冥利に尽きること言ってくれるね、ありがと。とりあえず合格発表
 まで胸に仕舞っておくよ。でもこんな宣言して落ちたら横綱マジカッコ悪いよ? 」
 相変わらず照れくさそうに高木は笑う。
こころなしか高木のほっぺが紅く見えるのは多分俺の気のせいだろう。
「 任せろ。武士に二言は無い。マジで死ぬ気で頑張る 」 
「 あはは。じゃあ骨は私が拾うからマジで死ぬ気で頑張ってね 」
 眼鏡の奥で高木の瞳は楽しい歌でも歌うかのように明るく輝いていた。
その瞳を落胆させないことが俺に課せられた宿命だと心に刻み込んだ。

 未来を占う水晶を覗けば、俺の行く末にはいまだ暗雲が立ち込めているだろう。
しかし、その灰色の空の隙間からひとすじの光が彼方を射しているのを確かに俺は見た。
 勘違いで構わない。激しい思い込みで構わない。
けして負けない強い力を俺はひとつだけ持った。15の春はもうそこまで来ている。



おわり

638 :創る名無しに見る名無し:2010/02/15(月) 03:48:59 ID:LSCJnqdB
以上代行。

639 :創る名無しに見る名無し:2010/02/15(月) 16:05:05 ID:Gn2Zfx05
なにこのちょっといい話。
爽やか過ぎて丁度頭痛な頭に痛いよ!w(注:褒め言葉です

640 :創る名無しに見る名無し:2010/02/28(日) 20:51:47 ID:20JcGp6f
お題くれ。
ただし感想レスをつけてくれる人にかぎる。
面白い、つまんない、のひと言でかまわない。批評バチコーイw
自分の出したお題明記の上感想をもらえると嬉しいです。
今回に限り申し訳ないがお題出すだけーの人はご遠慮願います。
ツマンネのひと言感想にもキレない泣かない不毛な言い争いをしないw
自信のある書き手さんはご自由に投下してください。

突発的なものなのでグダグダにならないよう期日を決めます。
お題募集は3月1日23時まで(それまでに三題揃わない場合なかったことにします)
作品投下は3月6日23時まで(それ以降の投下は今回に限りご遠慮願います)
感想を付けるのは(お題を出した人にかぎりません)投下直後、あとからまとめてでも
どのタイミングでもかまいません。
お題はいつものように適当wでかまいませんが、くどいですがお題を出した人は
感想レスを必ずお願いします。
新しいお題くれ!を3月8日にします。それで今回限りのお遊びは終了です。

単なるレス乞食の軽いノリwなので別にお題が集まらなくてもかまわない。
その場合あらためて、新しいお題くれ!とレスをする。
いつもはしないが今回に限りガッツリレス返し自分語りwするので
チャレンジャー求む! 






641 :創る名無しに見る名無し:2010/02/28(日) 22:23:29 ID:LXbjiY4P
ほほう

642 :640:2010/03/02(火) 21:06:22 ID:zcr5YS8W
まぁ、書き込みしてる時点で俺もチャレンジャーだなと自覚はしていたが
まさかサーバーダウンというオチになるとはw

643 :640:2010/03/02(火) 21:08:00 ID:zcr5YS8W
普段の行いが悪くて創作発表板の神にみすてられたのかw

644 :640:2010/03/02(火) 21:10:52 ID:zcr5YS8W
ここで新たに仕切りなおしても俺のハートブレイクが癒されることは
ないのであっさり諦める。

645 :640:2010/03/02(火) 21:12:53 ID:zcr5YS8W
悪あがきで意味なく連レスで盛り上がってるように見せるぜw

646 :創る名無しに見る名無し:2010/03/02(火) 21:14:07 ID:zcr5YS8W
お題くれ!

647 :創る名無しに見る名無し:2010/03/02(火) 21:16:54 ID:63kpk/9v
創作発表板の神

648 :創る名無しに見る名無し:2010/03/03(水) 01:02:35 ID:Hwo6xO01
悪あがき

649 :創る名無しに見る名無し:2010/03/03(水) 01:02:55 ID:PtrU5K8J


650 :創る名無しに見る名無し:2010/03/03(水) 18:06:45 ID:xPC37i0N
640自身のレスを除いてお題は
@ほほう
A創作発表板の神
B宴
の3つでいいのかな?

651 :創る名無しに見る名無し:2010/03/03(水) 18:08:00 ID:xPC37i0N
間違えた
@ほほう
A創作発表板の神
B悪あがき
だった
いやもうこのさい
C宴
も入れて書いちゃえ>640

652 :創る名無しに見る名無し:2010/03/04(木) 16:15:24 ID:eC0Pif5j
ちょwww「ほほう」って、ただの相槌だったんだがw

まあ、それで書くと言うのなら別にいいけどね。

653 :【創作発表板の神】【悪あがき】【宴】:2010/03/05(金) 01:24:25 ID:I9iKBYND
 
 とある賞に過去5年5回投稿。一次落ち2回。二次落ち3回。
それを一次通過率60%と都合のいい数値に置き換え心の拠り所
にしているしがない男。
 
 初めて投稿した長編が一次選考通過。思いもよらぬ結果に歓びという
名の電流が身体中を駆け抜け、それだけで男は絶頂に達してしまう。
 しかしその事実は男の成長を妨げる。
湧き上がる根拠無き自信は謙虚さを打ち消し更なる努力を怠らせ、
怠慢の上にあぐらをかいた驕りが男の筆を鈍らせる。
 結果、一次通過はするものの二次選考という壁をどうしても
突破することが出来ず、男は6度目の挑戦を前にして意欲を失う。

 創作文芸板に多数存在する投稿者が集うスレッド。
毎年締め切り近くや途中選考発表のとき、男はスレに入り浸っては
独り酒を飲みながら名も知らぬ同志とモニター越しの宴を繰り広げていた。
 締め切りに慌てふためく者を見ては笑い、投稿したあと間違いに
気付き身悶える者に気遣い、投稿しただけで震えている者には老兵に
なった気分で励ます。そして途中選考が発表されるたびに光あたる
場所へ辿り着けず、屍と化した多くの同志達といくさ話に花を咲かせていた。

 しかし投稿を諦めた男にもうその宴の輪に入る資格は無かった。


 賞への投稿を諦めたとはいえ、下手なりにも文章や物語を創るのが
好きな男はいつしか創作文芸板から離れ、自然と創作発表板に足を向ける
ようになった。

 楽しかった。なんの制約に縛られることも無く自由気ままに拙い文字を
男は綴り続けた。
 目を疑うような圧倒的技法も、甘美な世界に誘うような美しい表現力も、
巻き込まれたら抜け出せなくなりそうな展開力も男は持ち合わせていない。 
それでも男は構わず投下を続けた。本気で目指しているわけでもない、ただ
その肩書きに憧れているだけ。作家ごっこが出来れば男にはそれで充分だった。
 
 しかし男と創作発表板との蜜月も長くは続かない。
筆力が無いのは男も自覚している。しかしネット上の作家ごっこだからと
足りない力を補う努力はまったくしていなかった。
 平易な文章でストーリーはワンパターン。登場人物も男だろうが女だろうが
性格思考は皆同じ。そんな男の作風が飽きられるのは火を見るよりも明らかなこと。
 板に来た当初は頻繁に貰っていた感想も、投下を重ねるにつれ少なくなり
いつしか感想がつくほうが珍しいくらいの割合にまで成り下がっていった。
そして男の投下もその感想の数に比例するが如く減少していく。
 仕事を終えたら夕食を差し置いても創作発表板を覗くのが男の日課だった。
それがいつのまにかお気に入りのスポーツニュースサイト、アダルトサイト
を閲覧したあと、それこそ眠りにつく直前に投下先のスレを数分確認するだけ
になる。
 数は減ったが懲りずに投下は続けている。しかし感想や反応はほとんど無い。
投下したスレに待望の新着があった。が、気の利かない人のトリップテストだった
という笑い話までもある。



654 :【創作発表板の神】【悪あがき】【宴】:2010/03/05(金) 01:26:20 ID:I9iKBYND
 
 もういいんじゃないか…?
缶ビール片手に男は考える。酒の相手は男の投下した文章。悲しきかな
男が投下した以降レスの付かないスレスト状態だ。
 一次選考通過者として全国流通される媒体に小さな文字ではあるが名前も載った。
いつかは消えゆくが、ネット上に拙いものの作品を残すことも出来た。
感想はつかない。二次選考を通過できないのと同じでこれが俺の実力…… 
 男は思い耽る。火を点けた煙草は紫煙をくゆらすだけで終わろうとしている。
別に生業にしているわけでも誰かに期待されてるわけでもない。作家ごっこは
充分楽しめた。気が向いたらまた書けばいい……
 ビールを飲み干し煙草をもみ消す。
意欲はもう消えた。青春の思い出というには歳をとりすぎたが、高卒の
平凡な営業マンの隠れた趣味としては充分な結果だろう……
 もう寝ようかと男はその日最後のリロードをする。
淡い期待を寄せながらも、もうそれは感想のつかない寂しさを再確認する為だけ
の悲しい儀式になっている。




―― 654 :創る名無しに見る名無し :2010/03/05(木) 01:14:51
―― 
―― >653
―― いいお話ですね。感動しました。続きがあったら読んでみたいです。GJ!



「 えっ! 俺……? 」
 突然画面に現われた感想レスに男は驚きを隠せなかった。
アンカーに何度もカーソルをかざし自分へのレスであることを確かめる。自分しか
いないことを確認するかのようにきょろきょろと周囲を見回し、遅れてやってきた
高揚感に身を震わせる。

「 こちらこそありがとう! 」
 営業マンの悲しき性か年代モノの17インチCRTの前で男は深々と頭を下げる。
そして鮮明に蘇る5年前のあの感動が男の胸を焦がす。
 瞬時にカレンダーを見る。
5年間毎年続けたとある賞への投稿。締切日はもう男の身体が憶えている。

「 まだ一ヶ月ある。長編は無理でも短編なら多分いける。
 いや、やる。やってやる! 悪あがきでいい。一ヶ月で3万字、俺は書き上げる! 」
 たった1行の感想レスを燃料に、消え失せたはずの男の意欲は火にガソリンを注ぐ
かのように激しく爆発した。

 
 創作発表板の神などいない。男の投下作に神をも凌ぐタイミングで
ついた感想も単なる偶然がもたらした悪戯にすぎない。
 それでも投稿作を完成させたころ男は思うだろう。
あの1行感想レスに、俺は確かに創作発表板の神を見た。と―― 


おわり

655 :創る名無しに見る名無し:2010/03/05(金) 21:07:51 ID:5LN5b+3q
何か、俺も頑張らなきゃって気になった。

GJだ。

656 :創る名無しに見る名無し:2010/03/14(日) 12:49:02 ID:o+aWwoE+
お題をひとつ。

コップ

657 :創る名無しに見る名無し:2010/03/14(日) 14:49:21 ID:Mqd6CgPL
うさぎ

658 :創る名無しに見る名無し:2010/03/14(日) 15:41:32 ID:RijALSsp
ゴルゴ

659 :創る名無しに見る名無し:2010/03/18(木) 19:24:11 ID:bjS8+je9
http://imepita.jp/20100318/697700

文章は苦手なので挿絵のつもり


660 :創る名無しに見る名無し:2010/03/18(木) 19:43:41 ID:RcO7TuUn
見事なまでにお題を消化しているwww

661 :創る名無しに見る名無し:2010/03/18(木) 19:56:16 ID:bjS8+je9
よく見たら耳失敗してる><

662 :創る名無しに見る名無し:2010/03/18(木) 20:14:52 ID:vGs3XEoV
恐ろしい子ッ……!

663 :創る名無しに見る名無し:2010/03/19(金) 01:11:50 ID:oGKAgnlx
ゴルうさ可愛いよ、ゴルうさw
絵の投下は久し振りだね〜。アルパカ祭以来かな

664 :659:2010/03/19(金) 08:57:07 ID:uil4RQUa
絵しか描けないけど、またお題出たときはがんばる!

665 :創る名無しに見る名無し:2010/04/07(水) 10:50:22 ID:RkMYSfTs
次のお題↓

666 :創る名無しに見る名無し:2010/04/07(水) 12:18:37 ID:3CGUoWjd
潜水士

667 :創る名無しに見る名無し:2010/04/07(水) 17:02:30 ID:OwFxpy2x
宮殿

668 :創る名無しに見る名無し:2010/04/07(水) 20:06:33 ID:O9AIZ1a7
スカイダイビング

669 :潜水士・宮殿・スカイダイビング:2010/04/10(土) 06:47:41 ID:tXrW4+hh
その日も気持ちの良い快晴だった。豪奢な琥珀色の宮殿は、太陽の光をめいっぱい浴びて高貴に輝いている。

ただ、今はその宮殿より、更に眩しく輝くものがあった。その正体は一夜にして、宮殿の広い庭園に現れた大きな湖だ。

「それでは調査に行ってまいります」

水質調査が行われ、水自体には異常が認められなかった。そこで潜水士を呼び寄せ、湖の内部を調査することになった。

「何があるか分からない。充分に気をつけてくれたまえ。安全が確認でき次第、更に規模の大きな編成で調査を約束しよう」

潜水士は頷くと、覚悟を決めて湖に潜った。

潜ってすぐに地上に残った同僚から通信が入る。
「気味が悪いな、一夜にして湖が出現するなんてさ。
だが、沈んじまった庭園は、王妃様のお気に入りの庭園だそうだ。
調べないわけにはいかない。
嫌な仕事を任せちまって悪いな。」

すまなそうな同僚の声に、潜水士は明るく答える。

「気にすることはないさ、今のところは、危険はなさそうだ。ただ、こんなに深く潜るなんて初めての経験だからな。まだ底が見えないんだぜ、参ったな。
悪いが酸素の消費を抑えたい。以降は最低限の通信のみにしよう」

「了解」

しかし、それ以降潜水士から通信が入ることはなかった。


ここはとあるドライブインだ。今日も店主は、長距離トラックのドライバーたちに軽食とコーヒーを振る舞う。

「やぁジョージ、久しぶりじゃないか。今度はどこまで行ってたんだ?」
「テキサスまでさ。今回はかなりの遠出だった。
今日は暑いな。コーヒーじゃなくて、コーラをくれ。あとはいつものまずいホットドッグだ。マスタードをケチんなよ。
そうだ、向こうで面白い話を聞いたんだ。聞くだろ?」

「もちろんだ。本当に面白かったらコーラをおごろうじゃないか」

ニヤリと笑いながら、店主はコーラの栓を抜いて、グラスと一緒にカウンターに置いた。

「何でもテキサスの原野のド真ん中に、ダイバーが落っこちて死んでたそうだ」

「珍しくもない。スカイダイビングの自己だろう。南部の田舎者はぼんやりしてるからな。
パラシュートの紐を引き忘れちまったのさ」

「だったら、見つかったそいつは並大抵のぼんやりじゃないな。
パラシュートを背負ってもなかったからな」

「ハハハハ、じゃあそいつはダイバーじゃない。ただの自殺志願者だ」

「いや確かにダイバーさ。パラシュートの代わりにアクアラングを背負ってた。ご丁寧に足ヒレつきでな」


同じ頃、少年は出会ったばかりの少女に持論を力説していた。


「ラピュタはあるんだ、本当さ!」

670 :創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 07:01:15 ID:tXrW4+hh
ごめんなさい。

文中の自己は、事故の誤字です。

671 :創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 08:14:20 ID:6fMNHogt
乙!
落ちで思わずフイタwww

672 :創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 01:44:11 ID:h2ShVaSH
乙。
なるほど。あの湖はラピュタの……。


673 :創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 16:23:52 ID:QtyBcT3b

なんかどこかファンタジー風の臭いすらある宮殿?と、砂埃の臭いすらしてきそうなテキサス?というそぐわない2つの話に首捻ってたが、そのオチで理解が繋がって吹いたw
突飛な発想の少年だけが真実に辿りついてたってかw
一歩間違うと空中分解スレスレのラインだが、見事だなあ

674 :創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 21:08:05 ID:PYbObAKt
感想ありがとうございます。励みになります。

本当はパラシュートの代わりにアクアラングを着けてたから…のくだりでオチだったのですが、
湖と空が繋がっていた?とも読みとれるため、ラピュタ入れてみました。

675 : ◆91wbDksrrE :2010/04/11(日) 22:05:00 ID:WL8KGlFd
 スカイダイビング。
 これは別に、スキューバーダイビングが先にあって、それを空でやるような物だから、という事で
名付けられたわけでは、無論、無い。ダイビングは、単にDIVEという単語の進行形で、空に飛び込む
からスカイダイビング。そんなのは、誰にだってわかる。当たり前の事だ。
 そもそも、スカイダイビングというのは、別に免許がいったりする困難な遊戯ではない。アシスタントと
一緒に飛び降りるなら、という条件がつくならば、全くの未経験者がいきなり行っても問題が無いという
意味で、スキューバーダイビングと比較して容易に過ぎるとすら言えるだろう。
 だから、潜水士である僕は、資格を持ち、他人にその授業を行う事すらできる僕は、スカイダイビング
というものを、どこか見下していたのだと思う。
 空とは確かに美しい物だが、それ以上に海は美しい。太陽の光が注ぐエメラルドグリーンの海中は、
まさにそれ自体が宝石だ。潜り泳ぐ事は、宝石の中の冒険だ。泳ぎ探せば、宝石の中に、さらに強く
光る宝石を見つける事だってできる。輝きの中に鎮座するサンゴの宮殿では、魚たちが歓迎の舞を
舞っていて、さながらおとぎ話の浦島太郎の気分だ。もちろん、海の上に出たら百年経っていた、などと
いう事も無い。
 だから僕は、海を愛し、海よりも綺麗な物など無いと思っていた僕は、空を見下していたのだと思う。
「ほうら、どうだい!?」
 ドアが開け放たれた。
 時速云百キロという速さで飛ぶ飛行機の上だ。開け放たれたドアから吹き込む風で、怒鳴るように
声を出さなければ聞こえない。ガイドのおじさんも、まるで僕に対して怒っているかのように、大きな
声で尋ねる。だが、その顔に浮かぶのは満面の笑みだ。
 ちょうどその笑みは、僕が海の事を知らない人に、あの輝ける宝石のような風景を見せた時に
浮かべる、得意げなそれと同じようなものだった。
 つまり――目の前に浮かぶ風景は、彼にとって……空を飛ぶ事を、空を飛ばせる事を生業に
している者にとって、誇りなのだろう。僕にとって、あの輝ける海が誇りであるのと同じように。
 まるで海の中にいるかのような、一面の蒼。
 果てない海の上を飛ぶ飛行機から見える風景。
 自分が、空を飛んでいるのか、海に浮かんでいるのか、一瞬わからなくなる、蒼一色。
 いや、違う。蒼一色の中に、まるで白亜の宮殿の如くそびえ立つ、真っ白な雲が在る。
 珊瑚の、色とりどりの美しさとは違う、白一色の美しさ。
 蒼一色と白一色。多様な、宝石の如き煌めきとは異なる、単純故の美しさ。
 美しいと、そう思った。理屈ではなく、感動で。
 海よりも? あの宝石のような輝きよりも? ……いや、それはどうだろうか。これは、きっと、比較
なんかできない、それぞれがそれぞれに持つ、種類の違う美しさなのだろう。そんな風に考えてしまう
事が、何か言い訳でもしているかのように思えて、僕は一人苦笑した。確か、海のあの色が、空の色
を反射しているだけだ、という事を言われた時も、それとこれとは話が別だとか思ってたっけ……。
 でも、空をどこかで見下していた、その自分は、今日限りでいなくなるだろう。
「そうら、この"海"に、これからお前さんは飛び込むんだ」
「同じだけど違う……これも、ダイビングなんですね」
「Exactly(そのとおり)!」
 背に負っているのは、いつものアクアラングではなく、パラシュートだ。
 耳抜きの必要もない。
 酸素が尽きるまでじっくりと、なんて事はできない、刹那の旅だ。
「1、2、3……」
 何もかもが違う。でも、同じだ。だから……新しい。
 さあ、新しい僕よこんにちは。
「Go!」
 海ではない"海"(そら)で、僕は生まれ変わる――

                                               終わり

676 : ◆91wbDksrrE :2010/04/11(日) 22:06:08 ID:WL8KGlFd
ここまで投下です。

考えてみたら、スカイダイビング初心者なのに、海に降りるような飛び方したら
危険なんじゃ?とか思ったけど……

                   
                        ヽ○ノ   俺「まあいいか!」
                         /
                        ノ)
                   


677 :創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 22:42:22 ID:h2ShVaSH
パラシュートや救命胴衣つけてるからダイジョーブ!



だと信じたいな。

678 : ◆2U6DwyHBl6 :2010/04/13(火) 01:20:46 ID:Kq71NjQX
援護射撃だぜ
http://wannabees.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upload/upload.html

あと、お題も出させてもらうよっ、と

@桜
A酒
B新入学or新入社

679 :創る名無しに見る名無し:2010/04/13(火) 16:40:03 ID:xa1T3VfW
>678気に障ったらすまん。
正直、他板某スレがメインのうpろだ引き合いに出されてもどこが援護射撃なのか
サッパリ意味が判らない。
あのスレは個人的にかなりの優良スレだと思うけど、こことは向かっているベクトルが
違うんじゃないかと。



680 :創る名無しに見る名無し:2010/04/15(木) 01:22:26 ID:3WA7GRSa
あと、一人で三題出しちゃうのはちょっと避けといた方が…
その三つで書きたい人がいたらってことで。
とりあえず潜水士・宮殿・スカイダイビングで続行、でいいよね

681 :潜水士・宮殿・スカイダイビング 1/4:2010/05/04(火) 04:08:25 ID:AkENxvVw
 むかし、あるところに、潜水士がいて、と後席の相棒が口を開いた。
「そいつは三年も陸に帰っていなかったそうだ」
 視界はクリア。青い空は澄み切っていて、ゴーグルをしていても
目が眩むようなまぶしさだった。。
「その潜水士は三年も海の上にいたが、一度も陸に帰りたいとは思わなかった」
「変わったやつだな。おれだったら、気が狂うよ」
 独白のような相棒の物語りに、聞いていることを示すために相槌をうつ。
「そう。潜水士は同僚からもそう思われていた。
 他のやつらが陸に残してきた家族や恋人のことを話し、
 早く帰りたい、とため息をつくたびに、潜水士は冷めた目で同僚たちを見ていた」
「そいつには陸に会いたい人間がいなかったんじゃないか? だから平気だった」
「いや、そういうわけじゃないんだ。その潜水士には、故郷に父親と母親、
 それに姉が一人がいて、ひと月にいっぺんは家族から手紙がきた。
 家族は潜水士のことを心配していたし、愛していた。潜水士の方も、それは同じだった」
「だったら、どうして?」
 投げかけた問いがヘルメット内に装着されたマイクロフォンを通って、
無線信号になり、飛行機の後席に伝わっていく。
 返事がない。
「おい?」
 首を捻じ曲げて後席を見る。聞こえるのはかすかな呼吸音。
「あ、悪い。ちょっとぼうっとしていた」
「しっかりしろよ」
 ふたたびヘッドセットを通じて相棒の声が戻ったことに安堵して前を向く。
 敵機の影はもちろん、雲ひとつない。

「えっと…どこまで話したんだったか」
「潜水士には故郷に愛する家族がいたが、帰りたいとは思っていなかった」
「そうそう、そうだった。なぜ、潜水士は陸に、家族のもとに帰りたいと思わなかったか。
 それは、潜水士は陸よりも海が好きだったからだ。正確には海の底が」
「なんだ、単純だな」
「そう。単純明快だ。潜水士は自分がいつの日か死ぬのだったら、
 故郷の家の日差しの匂いのするベッドの上ではなく、
 いまだかつて誰もたどりつけなかった深海で死にたい、そう決めていたんだ」
「単純明快だが奇矯きわまるな。おれは、そんなところで死ぬのは御免だ」
「しかし、人は宇宙に行けるようになったが、
 海の本当に深い所にはまだ行くことはできないと言われている。
 誰も行ったことのない所に行ってみたい、というのはお前も、分からなくもないだろ?」
「まあね」
 その気持ちは分かる。だからこうして空を飛んでいるのだ。
 キャノピ越しに誰もじかに吸うことのできない大気が震えている。
 薄水色から限りなく黒に近い群青までの無限のグラデーション。
 光と、大気。それしかない。
 人間は留まることのできない世界。
 孤独で空辣な世界。

682 :潜水士・宮殿・スカイダイビング 2/4:2010/05/04(火) 04:11:04 ID:AkENxvVw
「ともかく」めいめいの思いに沈んだ静寂から抜け出て、相棒が語りだす。
「潜水士は来る日も来る日も海に潜り続けた。
 光もなく音もない海の深みで、潜水士はいつもふしぎな幸福感で満たされていた」
「おれは海に潜ったことはないが、それはきっと、
 水で満たされた大きな青いガラス瓶の底にいるような気分だったろうな」
「なんだ? それは」
「小さい頃、よくそういう遊びをしたんだ。窓辺に水を入れたガラス瓶を並べて、
 小川で獲ってきた小魚とかゴム人形なんかを入れてさ。
 おれだけの小さな世界っていう感じがして、日に透けるときれいだった」
「ふうん」相棒が笑いまじりの鼻息をついた。
「お前はなかなか、ロマンチストだな。しらなかった」
「そいつはどうも」
 お礼がわりににエルロンを使ってバンク。軽く翼を振る。
 大丈夫、舵は生きている。
「おい、揺らすなよ」
「悪い。で? 潜水士はどうなった?
 ずっと海の底で幸せに暮らしましたとさ、とはいかないんだろう?」
「ああ。幸せな日々は長続きしない。この世界の定石だ」
「続けろよ」

 潜水士はある日、大深度まで潜ることになった。
 いつものように潜水服に酸素ボンベ、それにケーブルを付けて海へと降りる。
 自分の吐きだす空気の泡がヘルメットの窓のむこうを滑っていく。
青緑の視界がしだいに暗くなり、ゆらゆらと頭上に射していた光が遠のいていく。
潜水士はその光景を、下へ下へと沈みながらうっとりとして見ている。
 地上とのつながりは命綱のケーブルだけ。一たび海底に降り立った後は、急な減圧にやられないよう、
ゆっくりと時間をかけて浮上する。長く海底にいられるこの仕事が、潜水士は好きだった。
 やがて足が海底につき、白い砂が潜水士を歓迎するように舞い立った。
白い砂がつづく海の底は砂漠のようで、そこには山もあれば谷もあることを潜水士は知っていた。
 頭上を見上げると、命綱のケーブルが臍の緒のように海中を漂っていた。
 だれもいない。
 そして、いつものあの静かな安堵感が潜水士をつつみこんだ。

 潜水士はそれから黙々と作業をこなした。
 聞こえるのは自分の呼吸音と耳の中で響く、潮騒にも似た脈の音だけ。
潜水士はふと、自分の耳が貝殻になって、いつか昔に聞いた、海鳴りが聞こえているのだ、
と想像して、ひとり笑みを漏らした。
 いつか家族で出掛けた海水浴場。姉と競って拾った貝殻からも、こんな音がしていた。
あの貝殻はどこへいったっけ…
 そんなことを考えているうちに、作業も終わり、引上げの時間になった。
 しかし、待てども命綱からの合図がこない。手をのばして命綱をひっぱってみる。
暗い水中に漂うケーブルは、細く、たよりなく、
まるで天から垂れた蜘蛛の糸を手繰っているような心地がした。
船から降ろされた命綱をひっぱっているなら、身体はそちらへ引き寄せられるはずなのに、
一向にその感触はない。潜水士は異変に気づいていたが、それでもケーブルを手繰ることをやめなかった。
 そして、手繰り寄せたケーブルの先。
 それは、引きちぎられたように途切れていた。

683 :潜水士・宮殿・スカイダイビング 3/4:2010/05/04(火) 04:12:41 ID:AkENxvVw
 途切れた命綱を見て、潜水士はなんとか自力で浮上しようとしたが、酸素ボンベの残量を見て、悟った。
 ここが、おれの死に場所だ、と。
 もう浮上するためにかかる時間分の酸素は残っていなかった。
 ここで死ぬんだ。
 どんなに叫んでも、地団駄を踏んでも、もう取り返しはつかない。
 自分は、あともう少しで、死ぬ。
 その現実が、陸の上のすべての現実から一番遠かった海底で、
胸を焼くような痛みをともなって潜水士にせまってきた。
 思えばそれが望みだった。死ぬのなら、陸ではなく海で死にたい、と。
そう思っていた。そう思っているのに、どうしてこんなに身体が震えるのだろう。
 潜水士は深く息を吸い、空気が彼の体内をめぐった後、吐き出されて水面へと昇っていくのを眺めた。
 海中に、腰から伸びた、どこにも繋がらない命綱が漂っている。
 もう必要ない。
 潜水士はケーブルをはずして海底を歩きはじめた。

 潜水士はなぜ自分が海底を歩いているのか分からなかった。
 自分は死の恐怖から錯乱しているのかもしれない、と潜水士は思った。
海の底で死に瀕している自分を、どこからか別のもうひとりの自分が眺めている。そんな気分だった。
 ふいに、家族の顔が思い浮かんだ。そして、次々に知り合いの顔や、同僚たちの顔も思い浮かんだ。
故郷の家の暖炉や食卓のテーブルについた傷。慣れ親しんだ船の入り組んだ通路や狭い二段ベッド。
 遠ざけていたはずのものを、こんな時に思い出すなんて。  
 いつのまにか恐怖は去り、潜水士の胸の内には平らかな安らぎが訪れていた。
 
 真っ暗に澄んだ視界の中、潜水士は海底を歩き続けた。そのうちに、前方が明るくなってきた。
 こんな深海に太陽の光が射すわけはないし、救助にしては早すぎる。
訝しく思いつつも、足はその明りの方を目指して進んでいく。
 そして現われたその光の源は、一軒の家だった。

 潜水士はしばらく茫然としてその家を見ている。
 暗闇の中、窓からは柔らかい灯りが漏れて、海底の白砂に十字の窓枠の影を落としている。
まるで夕暮れをすぎた街角のような景色だ、と潜水士は思い、その瞬間、気づいた。
 これは、故郷の自分の家だ。と。
 やや煤けた白壁に緑色の切妻屋根。錆の浮き出た郵便受けの壊れたままの赤いフラッグ。
パズルのピースが嵌まっていくように、目が一つ一つの品物を思い出して行く。
 潜水士はふらりと窓に歩み寄ると、中を覗いた。
 部屋の中にはランプが灯り、暖炉に火がくべられて、暖かそうな光がゆらゆらと瞬いていた。
食卓には食器が並べられ、旨そうなスープが湯気を立てていた。
 食卓についている三人の人物は、今しも食前の祈りをささげているようだった。
父親は皺だらけの骨っぽい手を組み、母親はつつましやかに顔を俯けて、
姉は亜麻色の髪がかかる頬にかすかに笑みをうかべて、瞼を閉じていた。
その三人の傍らに、ひとつ、誰かが帰るのを待っているかのように食事の用意がされた空席があった。
 ああ、と潜水士はため息をつき、そして、笑った。
 おれは帰って来たんだ。
 そうして潜水士は扉の前に立つと、懐かしい我が家の扉を開き、帰っていった。

684 :潜水士・宮殿・スカイダイビング 4/4:2010/05/04(火) 04:15:13 ID:AkENxvVw
「それで?」
「それでって…これで終わりさ。続きはない」
「……」
 あっさりと言い切る相棒に、腑に落ちないと無言で抗議する。
そもそも―
「そもそも、おかしいじゃないか。海の底で人知れず死んだはずの
 潜水士が見たものを、どうしてお前が語ることができる」
「痛いところを突いたな。だからこれは、作り話なのかもしれない」
「お前が作ったのか?」
「いや、誰かから聞いたんだったと思う。誰から聞いたのかは、忘れた」
 潜水士が海底で見た我が家はいったい何だったんだろうか?
幻覚か。陸ではなく海で死にたいと願った男はなぜ、今際のきわに我が家の幻を見たのか。
男はどこへ帰っていったというのか。
「どうする」
 相棒が突然声をかけてきた。
「何が」
「まだ、助かるかもしれないんだろう」
 ああ、こちらの話か。燃料計に目をやる。
「下が山でなければ、不時着も可能かもしれんが、それは雲の下に出てみないとわからない」
「現在位置は」
「不明。戦闘でレーダーがいかれちまった」
「ちくしょう。撃ったんなら…きちんと墜としていってくれ」
「まったくだ」
 偵察任務のあと、敵機に遭遇した。相手も一機、こちらも一機だったが
こちらは戦闘には向かない二人乗りの偵察機。
 撃った後、上空を一回旋回して、空の彼方へと消えていった。
反転して去っていく敵機の、光る銀色の腹が目に焼き付いている。
「あとは、二人してスカイ・ダイビングと洒落込むか、だ」
「いや」
 相棒は苦しそうに鼻から息を漏らして言った。
「やめておこう」
「なぜ」
「もう、目が見えないんだ。お前だけで行け」
「では、おれも、やめておこう」
「どうして」
「お前には黙っていたが、実はおれは」言葉を切って、目を閉じる。
「高いところが怖いんだ」
 沈黙。ややあって相棒は喉を鳴らして笑った。


685 :潜水士・宮殿・スカイダイビング 5/4:2010/05/04(火) 04:16:27 ID:AkENxvVw
 やがて高度が落ちて行き、雲の中に潜る。機体が揺れる。雲の中は真っ白でなにも見えない。
「なあ、おい」後ろで相棒が言う。
「なんだ」
「おれたちどこへ向かっているのかな?」
 言わずもがなの質問にしばらく困惑する。
「さあ…ヴァルハラ宮殿、かな」
「やめてくれよ」
 相棒は咳きこみ、痰の絡んだようなくぐもった声で言った。
その声に笛の音のような喘鳴が混じっている。
「冗談だ。おれたちはそんな大層なところへ行けるような勇士様じゃない」
「そうだな」
 あとはどちらとも黙ったまま、時間が過ぎて行った。
 そう、
 海の底に取り残された潜水士も、
 墜ちる飛行機の乗員も、
 たどりつく所は誰もが同じ。
 それは戦士たちが集う、黄金色に輝くヴァルハラ宮殿などではなく、
 心のなかにひっそりと建てられた宮殿。
 そこには懐かしい人々が待っているだろう。

 雲が切れて下に出た。
 空の青に慣れた目に、大地の緑が目にしみた。
 次第に迫る山肌の、その中腹に、
 窓辺に色とりどりのガラス瓶を並べた家が見えたような気がした。

686 :創る名無しに見る名無し:2010/05/04(火) 04:19:35 ID:AkENxvVw


もー…投下レス数まちがえたよー

687 :創る名無しに見る名無し:2010/05/04(火) 20:11:03 ID:jh2aDsy/
GJだ。

切なくてカッコいいな・・・。
二人はどうなったんだろうね。

688 :創る名無しに見る名無し:2010/05/04(火) 20:57:51 ID:8hlwEa2Q
おお、すげえ
切なくてきれいな終わり方だな
惚れた

689 :創る名無しに見る名無し:2010/05/04(火) 21:20:21 ID:0xRw9PF/
風景の描写が美しくて、さらに切ない気持ちになった
GJです 良い話でした

690 :代行:2010/05/09(日) 12:27:39 ID:ewFqV7uL
良作紹介から来たがこれはやべぇ…
潜水士の最期で目頭がじわっ
ラストでぶわっ…と。
実に良いもの見せてもらいました。

691 :創る名無しに見る名無し:2010/05/09(日) 13:04:41 ID:2/uko1Rj
イラストレーターの天野嘉孝が原作の「やさいのようせい」のキャラ

692 :681:2010/05/09(日) 22:44:17 ID:Fh1ywrvP
>>491と同じ世界の話のつもりだったりする。
未読だったらそっちも読んでみてー


693 :創る名無しに見る名無し:2010/05/09(日) 23:46:55 ID:C2BuzvM8
>>692
そっちにもキュンとさせてもらったよw
またよろしくー。

さて、そろそろ新お題をば。

694 :創る名無しに見る名無し:2010/05/09(日) 23:55:05 ID:XMILEnUg
カルピス

695 :創る名無しに見る名無し:2010/05/10(月) 00:53:21 ID:uvsg/lYu
くし

696 :創る名無しに見る名無し:2010/05/10(月) 00:56:01 ID:mNsA+D28
ペリカン

697 :創る名無しに見る名無し:2010/05/19(水) 23:26:28 ID:M3BEk81r
ちょっと邪道かもですが……勘弁しておくんなさい
上記三題で、投下します



698 :創る名無しに見る名無し:2010/05/19(水) 23:30:25 ID:Y81DarGK
口蹄疫

699 :創る名無しに見る名無し:2010/05/19(水) 23:30:56 ID:Y81DarGK
ごめん誤爆った

700 :カルピス、くし、ペリカン:2010/05/19(水) 23:31:27 ID:M3BEk81r

「カ、ル……『カルシウム』、だと合わないなぁ……」

クロスワードパズルを眺めながら、ぶつぶつ言っている彼女。
その後ろで、彼女の髪をくしで梳いている僕。

綺麗な髪色。
ロイヤルミルクティーというらしいけど、上手いネーミングだと思う。
僕は、彼女の髪を眺めながら、いっしょに考えた。

――“カル”で始まる言葉……


初夏の夕方。
日差しが幾分和らいで、かすかにオレンジ色を含んだ光に変わっている。
庭にはまだ昼間の熱気が残っているものの、僕と彼女がいる縁側は日陰になっていて、
時折吹き抜ける風が心地よい。

彼女の髪から視線を外し、ふと縁側を見る。
お母さんが作ってくれたカルピスが、お盆に載って汗をかいているのが目に入った。

「『カルピス』は?」
思いつきで言ってみる。

「5文字なの。『カルピース』だったら合うかな?」
そういって彼女は振り向こうとする。手がお盆に向かってさまよう。

ちょうどくしが髪の深いところに通っていたので、彼女の首を押さえる。
代わりにカルピスのグラスを取ってやる。

彼女が、美味しそうにそれを飲む表情が、かすかに動くうなじから想像できる。

.

701 :カルピス、くし、ペリカン:2010/05/19(水) 23:35:03 ID:M3BEk81r

どうしても、浴衣を着てお祭りに行きたい! という彼女。
浴衣に合うように、髪をアップにしようとすると、お団子ヘアがいい! と追加のリクエスト。

そういうわけで僕は、彼女の髪を梳いてやってるというわけ。このあと、お団子に結んでやる予定。


僕が髪を梳いているあいだ、彼女は新聞に付いていたクロスワードパズルをやっている。

「あーもう、むずかしーい。なにか無い? 『カル』で始まる5文字の言葉」

――急に言われても、困るな。
ちょっと、考える。

たしかに、海外暮らしをしていた11歳の少女よりは、高校生になったばかりの僕の方が
いくらか言葉を知っている。

けれど、こんな時に限っていい言葉が出てこない。思いついたのは、

「『カルカッタ』」

……なんというか……微妙。

けれど彼女は素直に、
「カ、ル、カッ、タ、……だめ、合わない。『カルカッタ』って、なぁに?」


やっぱ聞いてくるよね。

「えーと、たしかインドの首都……だったような? あれ、ニューデリーだったっけ」
というような調子なので、高校生といっても頼りない、と自分でも思う。

.

702 :カルピス、くし、ペリカン:2010/05/19(水) 23:40:45 ID:M3BEk81r

そこまで言って、思い出したことがあった。

「ね、ペリカンの『カッタ君』って、知ってる?」

聞いてから、しまった、と思った。

案の定、彼女は、知らない、と首を振る。
その拍子に、結びかけた髪が全部ほどけてしまった。

――あぁ、初めからやり直しだぁ……

軽く落ち込む僕にお構いなしに、彼女は聞く。

「ペリカンって、宅配便とか届けてくれる鳥?」

――うん、合ってるような間違ってるような……

「くちばしの下に袋がある鳥。その袋に取ったお魚入れて運んだりするの」

「ふーん。なんで『カッタ君』なの?」

「なんでだろ……カルカッタと関係あるのかな? よく知らないや」
彼女の髪を纏めて巻きながら、僕は答える。


「よし、ヨコのカギからいこ。じゃあね、『サ』で始まって、『ジ』が4文字めで、9文字の言葉は?」

頼りにならない僕を意に介さず、彼女はまだ僕に聞いてくる。
彼女の髪を丁寧に結びながら、また僕は考えた。

.

703 :カルピス、くし、ペリカン:2010/05/19(水) 23:44:36 ID:M3BEk81r

お団子ヘアを作った後は、お母さんが彼女の浴衣の着付けをした。

お母さんは、かわいいじゃないのー、すてきよぉ、なんてはしゃいでいる。
きっと僕とか彼女よりも、お母さんが一番嬉しいんじゃないだろうか。

僕が小学生の頃着ていた、白地に朝顔の柄が描かれた浴衣。
僕よりも、彼女の方が、ずっとずっと似合ってる。

あんたはいいの? と聞かれたけど、僕は、いいや。
お母さんは、つまんないの、と口を尖らせて、広げた浴衣をさっと畳む。

僕はホットパンツにタンクトップというラフな格好で、彼女と手をつないで家を出た。


.

704 :創る名無しに見る名無し:2010/05/19(水) 23:49:56 ID:M3BEk81r
↑以上っす

続きは、↓スレで!!
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1269232809/273-

705 :創る名無しに見る名無し:2010/05/19(水) 23:58:15 ID:CEktWpWe
素晴らしい!
特にうなじが

706 :創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 00:34:07 ID:y9wMfkjY

お団子に結ばせてくれる関係というだけでもう羨ましくてですね(ry

707 :創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 07:22:47 ID:Dww3bqpY
一ヶ月経ったし、そろそろ次のお題を…

708 :創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 11:33:45 ID:DGzSf/fo
お弁当

709 :創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 12:49:06 ID:M+ZMzm4M


710 :創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 17:04:50 ID:B9lgMCzS
魔法

711 :お弁当 雨 魔法:2010/06/22(火) 22:15:08 ID:7Ok4+Kc/

「雨ねぇ」
「雨だねぇ」

急に降り始めたサラサラと言う雨の中屋根付きの休憩所の様な場所にやっとの思いで逃げ込み、そんな会話を始める

「天気予報ちゃんと確認したの?」
「もちろん。降水確率10%で快晴と行かないまでも、お天気って予報だったんだけどねぇ」
「その10%を引き当てるなんて運が良いのか悪いのか」
「言いたいことは分かるが、僕の責任じゃないさ」

「神様に「文句を言ってくれ、でしょ?」

そう言い彼女は声を出し笑った
僕は、多少の気恥ずかしさからか顔を背ける

「それでも、私はこう言うの好きだよ?」

ひとしきり笑った後にいじけるフリを始めた僕に対してのフォローなのか、そう言った

「僕もこんな雨は嫌いじゃ無いけど、二人で出かけた時位は晴れでもいいじゃないかと言いたくなるさ」

僕は半分むくれながらもそう愚痴る

「しかし、なんでまた好きなんだい?」
「だってほら、周りに人が少なくて静かだし、何時もより近くにいられるでしょ?」
「確かに」
「それに、晴れの暑い中でお弁当を食べたくはないでしょう?」

そして、彼女はまた微笑んだ
何時も良く笑うが、今日は特に機嫌がいいようだ

「とは言うけど、僕はまだ「お弁当」とやらを見ていないのだけど?」
「まだ秘密」
「いずれ見る事になるどころか食べるのだけど?」
「それはそれ、これはこれ」

でもね、と彼女は続ける

「どうせなら青空を見ながら食べたいじゃない?」
暑いのは嫌だけどさ、とまた微笑んだ
「晴れれば、の話しだけどね」
「晴れるよ」
「随分自信あり気じゃないか」
「だってさ、私は晴れ女だし今日位神様も見逃してくれるよ」
「何時も見たいに出かけているだけじゃないか」

そうなんだけどねー、と彼女は少し照れて見せる


712 :お弁当 雨 魔法:2010/06/22(火) 22:16:04 ID:7Ok4+Kc/
「二人が出逢って、こんな風に出かけるようになってどれ位だっけ?」
「付き合い始めてから10年位だね」
「だねー」
「結婚してからは回数も少なくなっちゃったけど、今も二人きりでこうしている訳だ」
「それと晴れがどうつながるって言うんだい?」
「今日は特別な日だからだよ」
「ほら、お日様が顔を見せ始めてくれた」

気がつけば雨が上がり、青空が覗き始めていた
どうやら、通り雨の様な物だったらしい

「まるで、魔法使いか預言者だね」

などと茶化すと
「預言者ってのは良いね」
と、乗ってきた。本当に機嫌が良い様だ

「それなら他にも予言を賜っても宜しいでしょうか?」
「そうだねー、キミはもう少ししたら大泣きして、神様に感謝すると予言しましょう」
「また、突拍子もない事を言うじゃないか」
「でも、間違いなく当たるよ」
「なら、理由を聞いても良いかい?」
「実はですねー、我らが愛の巣に新たなる同居人が増えるのですよ」

そう言いながら、切れ間から差し込む光に照らされ
慈母の様な微笑みを浮かべた彼女見ながら僕はなにも言えず涙を流す事しか出来なかった

713 :創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 22:18:32 ID:7Ok4+Kc/
以上終わりです
文章自体始めて書いたので見苦しい点ばかりかと思いますが、その辺のご指摘と添削を遠慮なくお願いします


714 :創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 22:24:10 ID:DGzSf/fo
仲のいい夫婦だな
会話の間が好き

715 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 20:13:18 ID:pj7VKwFO
お題?

716 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 21:25:05 ID:v43zjpzh
出す?

717 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 21:29:15 ID:zoPW9gRj
こんにゃく

718 :創る名無しに見る名無し:2010/07/12(月) 01:07:50 ID:/XwEVkrB
チャイナドレス

719 :創る名無しに見る名無し:2010/07/12(月) 01:09:35 ID:zzT7gwoD
縁側

720 :こんにゃく チャイナドレス 縁側 ◆91wbDksrrE :2010/07/20(火) 03:09:55 ID:6ULcztqD
「夏と言えばー?」
「あ?」
「夏と言えばー?」
「俺に聞いてるのか?」
「あなた以外誰に聞くのよ」
「夏と言えば、ねぇ……」
 涼しくて爽やか……とはとても言えない、ねっとりとした風が吹き抜けるでもなく留まる縁側で、
俺は連れ合いの突然の問いかけに首を捻った。
 まあ、今は夏だし、唐突に夏になぞらえた雑談でもしたくなったのだろう。
「肝試し、とかか?」
「肝試しねぇ……」
 すっかり暑さにゆだっている彼女は、額に浮いた汗をシャツの袖で拭いながら、思案顔をした。
「……うーん、外で食べてもらうわけにはいかないし……」
「何を考えてんだ?」
「夜のごはん」
 ……なるほど。夏といえば、という質問でもって、夏ならではの食べ物を俺から引き出し、それを
今晩の食卓に並べようという魂胆だったらしい。ひまわり、とか言ってたら、今晩の夕飯はひまわり
の種になる所だった。あぶないあぶない。
 ……こいつは本当にそういう事をやる女だ。やる、と読んで殺ると書く。主に精神的に。
「他に夏と言えばー?」
 どうやら、諦めたらしい。良かった。うっかり行き着いて、こんにゃく御膳とかになってたら、
これまた栄養的な意味で殺られてた所だ。こいつは本当にこんにゃくと決めたらこんにゃくしか
出さない。そういう女だ。
「他に、ねぇ……」
 直接的に、うなぎだの焼肉だの言ってもいいんだが、それじゃちょっと芸が無い。
 俺は頭を捻って、ちょっとひねった返答ができない物かと、捻た事を考えていた。まったく、素直に
うなぎだの焼肉だの答えておけばいいものを。
 だが、面白さは全てに優先するのだッ! それに、今俺はラーメンな気分なのだ。焼肉やうなぎの
気分では、残念ながら無い。となると……よし、これならどうだ?
「……チャイナドレス、とか?」
「はぁ?」
 うわ、本気で『はぁ? なにそれ、意味わかんないんだけど』って顔された。軽く凹むぞ……。
「なんでそれが夏になるのよ?」
「あ、いや……ほら、涼しいだろ? スリットとか開いててさ」
「……あなたって、ホント時々エロいよね」
 俺の『チャイナドレス→中華→ラーメン』という発想を誘導しようとする深遠な作戦が、エロの一言で
片付けられてしまった……鬱だ……。
「んー……でも、チャイナドレスか」
「お?」
 気づくか? 俺の意図に気づいてくれるか? 俺は今、ラーメンな気分だという事に気づいてくれるのか!?
「昔買ったの、あったよね?」
「……え?」
「うん、じゃあ、今晩はチャイナドレスって事で……晩ご飯は精のつく物用意しとくね。土用も近いし、うなぎでいいかな」
「あれ? なんでそうなる?」
 確かに、チャイナドレスについては、昔新婚ほやほやの頃、戯れのプレイに使用した物が、押入れを探せば
あるはずだが……え? それって、どういう事?
「……何呆けてるのよ。夜のごはんでチャイナドレスのわたしが食べたいんでしょ?」
「あ、あー……え、そういう意味だったのか?」
「他にどういう意味があるのよ……」
 ……いや、そっちの意味の方がわからんぞ。
「まあ、でも、流石に野外はちょっとアレだけど、チャイナドレスなら何とかなるわね……うん、ちょっとだけ
 興奮してきたかも。早速さーがそっと」
 そう言って、彼女は縁側から部屋の中へと入っていった。これから押入れを探し、チャイナドレスを引っ張り
出すのだろう。こいつはやる時は殺る女だ。性的意味でも。
「……しかし、チャイナドレスか」
 部屋の中に入っていく彼女の後姿は、もうここ数年全くと言っていいほど変わりが無い。新婚当時に着ていただけの
チャイナドレスも、問題なく入るだろう。……もっとも、程なくして脱がす事になるわけだが、それは言わない約束だ。
「楽しみだな……今晩のごはんは」
 俺は思わず垂れそうになった涎を飲み込み、ごくりと喉を鳴らした。今晩は、長い夜になりそうだ……。
                                                               終わり

721 : ◆91wbDksrrE :2010/07/20(火) 03:10:45 ID:6ULcztqD
ここまで投下です。

チャイナドレスと聞いてエロい想像しか出て来ないのは問題だと思います! 主に自分の脳が。

722 :創る名無しに見る名無し:2010/07/20(火) 03:14:18 ID:M97gSXKP
中華キャノンが火を噴くというわけか

723 :創る名無しに見る名無し:2010/07/28(水) 18:30:07 ID:nNadubHr
家の門を開けると、真ん中に穴の開いたこんにゃくの乗った皿を持ったチャイナドレスのお姉さんが俺の家の縁側でスクワットしていた。
……俺は眼前で展開されたあり得ない光景を見なかった事にして門を閉じた。
……何だアレは。
俺は自分の視覚が捕らえた情報を頭の中で反芻してみる。
うん、そうだ俺は自分の家の門を開けたんだ。
すると『真ん中に穴の開いたこんにゃくの乗ったお盆』を持った、
『チャイナドレスを着たキレイめなお姉さん』が、
『俺の家の縁側でスクワット』していた。
……訳がわからない。
俺に兄弟の類は居ないし、親戚にもあんなにキレイな人は居ない。
そして両親は二人そろって海外に出張中、つまり俺は今一人暮らし。
何、この展開。
何? もしかして俺は自分でも気付かない内に変なフラグでも立てていたのか?
まさかエロゲ? 何てタイトルのエロゲ? ひょっとしてアキバのワゴンで一年間熟成された糞ゲーが九十九神になって自分から俺の所に?
落ち着け、俺。
……もう一度中を見てみよう、俺は薄く門を開けると中の様子を確認した。
……チャイナドレスのキレイめなお姉さんは皿を側に置いて高速で指立て伏せをしていた。
……俺は静かに門を閉じた。
……。
……おかあさん、助けて。
……想像を上回る非現実的な世界に絶望していると、閉じていた門が音を立てて内側から開いた。
「こんにちは」
その声に振り向くと、門の内側でチャイナドレスのお姉さんがこんにゃくの乗ったお盆を持って俺に微笑みかけていた。
俺はとりあえず挨拶を返す。
「こ、こんいちは」
噛んだ。
「あのですね、今日は貴方に用があってここまで来ました」
チャイナドレスのお姉さんはそう言いながら少し赤くなって上目使いで俺を見た。
な、何だ? 本当に、本当にエロゲ?
俺が心の内でさっきの妄想を引っ張り出していると、お姉さんは目を瞑ってゆっくりと唇をこちらに近づけて来た。
「え? えっ?」
困惑が俺の口を割って自然と出ていた。
これはアレか!? アレなのか!? よ、よし、判った俺も男だ! 覚悟を決めようッ!!
そう俺が決断した瞬間、お盆の側面が俺の顔面にめり込んでいた。
メコッ、俺の顔面から確かにそんな音が聞こえた。
「ぐはぁ……」
俺がそう漏らした刹那、今度は真ん中に穴の開いたこんにゃくが俺の顔面に飛んできた。
ビタンッ!!! と音を立て真ん中に穴の開いたこんにゃくが俺の顔面に張り付いた。
隙を見せない神速の二連撃。
それを実に嬉しそうな笑顔で実行したチャイナドレスのお姉さんは、ゲラゲラと楽しそうに笑いながら商店街の方に走り去っていった。
……何、このエロゲ。
こんにゃくの真ん中に開いた穴に鼻が丁度いい感じにフィットいる妙な感覚と、こんにゃくの微妙な匂いがこれが現実に起こった事だとつつましやかに俺に主張していた……。



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