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術伝流操体no.5 肩の可動域制限を軽くする

[1]応急処置から学ぶ操体の基本  (5)肩の可動域制限を軽くする

1.はじめに

 前回は、肩や首の辛さを軽くする動きの操体を紹介しました。

 今回は、肩や首の可動域制限、とくに、いわゆる五十肩の可動域制限
を軽くする動きの操体を紹介します。

2.同じ腕で逆モーション・バック運動を試す

 五十肩の可動域制限で多いのは、手を挙げられないというのと、手を
回せないというのです。そういう動きをすると痛かったり辛かったり、
あるいは、痛さ辛さはなくても動かせないという訴えが多いです。

 操体では痛かったり辛かったり動かせないのは、体がそういうことを
今はしないほうがよいと訴えているのだと考えますから、そういう動き
は調べるとき以外にはしません。

 それで、逆に動かしやすいほうに動かしてみるわけです。実際には、
いわゆる逆モーション・バック運動といって、動かしにくいほうと正反
対の方向に動かしてみます。

1)手を挙げられない場合

 手を挙げられない人の場合なら、制限のある手の上げる動作を実際に、
つらくない範囲でしてもらい、そこから逆モーション・バック運動をゆっ
くりしてもらいます。この場合、すこし余分にしてもよいです。

 たとえば、前のほうから腕が上げられない場合(写真1)には、逆モー
ション・バック運動で戻ったら、そこからゆっくり後ろ側へ手を上げて
いき、上げにくくなるところまで上げてみます(写真2)。

写真1

写真2

 そして、止まったところで手首をどちらかに捻るともう少し上がると
思います。

 また、体重を前に移しながら体を前屈するともう少し余分に上がると
思います。

 目も動いていく手のほうを見るようにするとよいと思います。

 でも、無理はしないでください。イイ感じがないのに無理して逆モ−
ション・バック運動をたくさんしても効果は出ませんので。

 操者は、手首捻転をすこし強調してあげながら、倒れないように支え
てあげます(写真3)。

写真3

 お腹に息が深くなるかイイ感じがあるか確認します。

 体重を戻したくなったら終わりにします。

 前に手を挙げて改善したか確かめてみます。

 後ろに上げにくい場合も基本的には同じです。手首捻転や体重移動は、
やりやすいほうを付け加えるようにしてください。

 横に上げにくい場合には、胴体のそばまで腕が降りてきたら体の前側
に腕を回して上げていくか、体の後ろ側に腕を回して上げていくか、や
りやすいほう、抵抗の少ないほうをして、手首捻転や体重移動もやりや
すいほうを付け加えるのは同じです。

 斜め方向に上げにくい場合も基本的には同じで、逆モーション・バッ
ク運動で、上げるのに通った道筋を戻り、すこし余分に動作をして、や
りやすい手首捻転と体重移動を加えます。

2)手を回せない場合

 手を回せない(写真4)場合も同じように、痛くなる手前まで、つら
くない範囲で制限のある手を回す動作をしてもらい、そこから逆モーショ
ン・バック運動をゆっくりしてもらいます(写真5)。

写真4

写真5

 この場合、手首はすでに回転していると思うので、付け加えるのは、
体重を移すことと反対側の手首を回しやすいほうに回すことかなと思い
ます。腕を回すだけで手や腕の移動が少ないので、目の動きはあまり関
係しないと思います。

 操者は手首捻転を少し強調し倒れないように支えてあげます(写真6)。

写真6

 お腹に息が深くなるかイイ感じがあるか確認します。体重を戻したく
なったら終わりにします。回しにくかったほうに回して確認します。

 小指側を手甲側に回しにくいときには、逆モーション・バック運動は
小指側を手のひら側に回すことになりますし、小指側手平側に回しにく
い場合には、逆モーション・バック運動は小指側を手甲側に回すことに
なります。

 軽いものなら、いま説明した動作制限がある腕で逆モーション・バッ
ク運動をすることをきっかけにする操体でよくなります。もう少し重い
ものだと少ししか改善しないということもあります。そういう場合には、
次の方法を試してみます。

3.反対側の腕で同じ動作をする

 五十肩による動作制限も重くなると、だんだん制限のある動作だけで
なく、その逆モーション・バック運動もやりづらくなってしまうことも
あります。

 そういうときには、操体では無理して、その逆モーション・バック運
動をしません。何をするかというと、よく動くほうの腕を動かしてみま
す。

 動かし方は、動作制限のある腕と反対側の腕で、動作制限のある動作
と同じ動作をしてみます。

1)手が挙げづらい場合

 手が挙げづらい(写真1)場合には、反対側の手をゆっくり挙げても
らいます(写真7)。

写真7

 そして、付け加えて、その手の手首を回しやすいほうに回してもらい、
体重も移しやすいほうに移してもらいます。目も挙げた手の指先を見る
ようにします。

 その3つを付け加えると、付け加える前よりも少し手が挙げやすくな
ると思いますが、無理をしないでください。

 体まるごとイイ感じになり、お腹に息が深くはいることのほうが大切
です。挙げやすくなるのは、ほんの少しで充分です。

 操者は手首捻転を少し強調し倒れないように支えてあげます(写真8)。

写真8

 操者のほうが小さくて手首捻転が強調しにくい場合には、肘あたりを
強調してあげてもよいと思います。

 体重を戻したくなったりイイ感じが消えたら終わりにします。

 挙げづらかった方の手を挙げてみましょう。挙げやすくなっていませ
んか?

 どうしてこういうことが起こるのでしょう。

 ヒトの体は左右対称なので、基本的には、片手である動作をすると、
反対側の手は逆向きに動かしたほうがバランスが取りやすいからなんで
す。

 もうすこしくわしくいうと、背骨をさかいに背骨に伝わる動きが逆向
きの動きを左右の手でするとバランスが取りやすいということです。

 いちばん簡単なのは、手を横に挙げる動作です。たとえば、右手を横
に挙げると上半身の背骨は左に側屈します。その逆モーション・バック
運動をすると、上半身の背骨は左側屈からまっすぐになり、もうすこし
余分に逆モーション・バック運動をすると、上半身の背骨は右側屈しま
す。

 左手を横に挙げても、上半身の背骨は右側屈します。それで、右手を
横に挙げにくい場合には、左手を横に挙げると逆モーション・バック運
動になり、右手の挙げにくさが改善されるというわけです。

 右手を前から挙げる動作は、上半身の背骨を天から見て反時計回りに
回転させながら左側屈させます。左手を前から挙げる動作は、上半身の
背骨を天から見て時計回りに回転させながら右側屈させます。

 ですから、左手を前から挙げる動作は、右手を前から挙げる動作の逆
モーション・バック運動になっています。

 後ろに挙げる動作も同じです。

2)手を回しにくい場合

 右手をたらして小指側を手のひら側に回す動きは、上半身の背骨を天
から見て時計回りに回転させます。左手をたらして小指側を手のひら側
に回す動きは、上半身の背骨を天から見て反時計回りに回転させます。

 ですから、左手をたらして小指側を手のひら側に回す動きは、右手を
たらして小指側を手のひら側に回す動きの逆モーション・バック運動に
なっています。

 小指側を手甲側に回す場合も同じです。

 ですから、手を回しにくい場合でも、基本的に、反対側の手で同じ動
作をして、この場合には、手首はすでに捻れていると思うので、それが
やりやすいように体重移動を付け加えれば、動作制限は改善されやすく
なります。

3) 肘うち動作がしにくい場合

 前腕が床に平行になるくらいに肘を曲げ、その肘を後ろに動かす、い
わゆる肘うちの動作がしにくい(写真9)という人がいました。

写真9

 反対側の腕で同じ動作をしてもらい、その手首を回しやすいほうに回
してもらうことと、体重を移しやすいほうに移してもらうことを付け加
え、体重を戻したくなるまで、その格好を続けてもらいました。

 操者は手首捻転を少し強調し、倒れないように体を支えてあげました
(写真10)。

写真10

 体重を戻して、やりにくかった肘うちの動作をしてもらったら、スムー
ズにできるようになっていました。

 このように左右差がある動作なら、やりやすいほうの手(腕)で同じ
動作をして、やりやすいほうに手首捻転することと、移しやすいほうに
体重移動することを付け加え、体重を戻したくなるまで、その格好を続
けてもらうことを改善することが多いです。

4.いろいろな応用

1)ツボに触れながら1.や2.をする

 患者さんはじめ、受け手の人が「このあたりがつらい」といったあた
りを調べて、ツボが出ているのがわかったら、そのツボさわりながら1.
や2.をしてみるのもよいと思います。

 そのツボにさわりながら逆モーション・バック運動をしていくと、あ
る姿勢になったところで、そのツボのある部分がふくらんできたまわり
の筋肉にうずもれるように消えていくことが多いです。

 そのツボが消えた姿勢を維持するようにします。

 もちろん、イイ感じがあったり、お腹に息が深く入ったりするのも確
認できるとよいのですが、受け手の人に聞いてもわからなかったり、操
者のほうでもよくわからなかったりする場合もあるので、そういう場合
には、このつらさに関係するツボが消えたように感じる姿勢を維持する
という判断基準もけっこう使えます。

 姿勢を変えたくなったら終わりにします。

 ただ、ツボがみつけられない場合には、この判断基準は使えません。
ツボ取りに関しても機会を見て説明していくつもりです。

2)下半身も大切

 今まで説明した1.、2.、3.の操体でうまくいかない場合は、下半身
の歪みが関係していることが多いです。

 そういうときは、前々回まで説明してきた腰に関係する操体をしてか
らしたり、応急処置の後に解説する寝方別の操体をしたりしてから、今
回の操体をすると効果があります。

 これは、土台である下半身が大きく歪んでいると、上半身は歪んでい
るほうが自然なので、歪みが取れにくいからです。

 とくに、膝裏のしこりを改善することを中心に寝方別の操体をしてか
らすると効果が上がりやすいです。

 寝方別の操体もていねいに解説する予定なので楽しみにしていてくだ
さい。

 ほかにも面白い方法があります。

 少しだけ事前にヒントを出しておくと、今回解説した反対側の腕で背
骨に伝わる動きが同じ動作をしましたが、同じように足で背骨につなが
る動きが同じ動作をすれば、下半身を含めた体全体を整えることにもつ
ながると思いませんか?

 つまり、足の操作をうまくやると、それだけで五十肩動作制限が改善
したりするということです。おいおい解説していくつもりですが、すこ
し考えておいてください。

5.操体の基本手順から見てみる

 今回の操体を操体の基本手順からみてみましょう。

(1) ラクな姿勢になってもらう
   =ラクな姿勢で立つ(座る)

(2) 目立つところを少し強調してイイ感じを探す
   =やりやすい方を少し強調
   1.やりにくい手では逆モーション・バック運動
   2.やりやすい手では同じ動き

(3)他にイイ感じがないか探し、あったら加える
   1.目の動き、手首の動きを加える
   2.体重を移しやすいほうに移す

(4)息が深くなるかイイ感じなら続ける

(5)姿勢を変えたくなったら終える
   (体重を戻す=姿勢を変える)

ということで、操体の基本手順に当てはまりますね。

6.おわりに

 今回は、いろいろな逆モーションバック運動で、肩の動作制限を改善
する操体を紹介しました。

 次回は、腕がすこししか上げられない古くて重い五十肩に効果的な脇
の下と胸や背中とのあいだにはっている筋肉のなかのしこりを改善する
操体を紹介します。


   つぎへ>>>術伝流操体no.6



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最終更新:2010年08月21日 11:26