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術伝流操体no.7 膝の痛みは膝裏から

(1)応急処置から学ぶ操体の基本  7. 膝の痛みは膝裏から

1.はじめに

 今回は膝の痛みや辛さを軽くする操体です。膝の痛みは、下半身の痛
みのなれの果てという感じで、膝の痛みをうったえる方は、むかし、腰
痛、坐骨神経痛、足首痛などのあった方がほとんどです。

 それらが軽くて治療を受ける程度でなかった場合もありますが。その
ため、そのとき痛い急性症状が出ていても慢性期の要素も多く、応急処
置では辛さが減りきらないことや、ぶり返しも多くなります。

 治療の経過も長くなることも多いので、2,3回応急処置をしてもぶ
り返すようなら、下半身中心に体全体を整える必要も出てきます。いま
まで説明した中では、no.2の腰痛のときの操体なども組み合わせてい
く必要があります。

 受け手の方には、治療が長くなる可能性のあることを伝えておくとよ
いでしょう。

 とはいえ、1回の応急処置で長年の膝痛がすっかり治り、伝えた操体
などの自己養生を続けることで再発していない人もいます。

 それに、たとえぶり返しがあるとはいえ、初めての応急処置であるて
いど改善しないと、受け手の人には信用してもらえないので、よく練習
して結果が出せるような腕を身に付けてください。

 また、膝の痛みはお皿側で感じることが多いですが、膝裏側にもツボ
が出ていて、膝裏側をゆるめないとお皿側の痛みが軽くならない場合が
ほとんどです。

 ヒトは、膝裏など陰位の痛みを感じにくく、その表側のお皿側など陽
位の痛みとして感じるようです。

 それで、膝裏のしこりをまず改善していきます。

2.膝裏の皮膚ズラシと足指裏揉み

 膝裏のしこりに皮膚の操体をしながら、足指裏を揉みます。

1)ラクな姿勢で寝てもらい、膝裏のしこりを探す

 まずラクな姿勢で寝てもらいますが、膝裏のしこりが探しやすいのは
うつ伏せなので、仰向けが良い場合でもうつ伏せが苦しくなくできると
きにはうつ伏せになってもらいましょう。

 膝裏の絵を描くときには、「H」の字が縦につぶれたような形をかき
ます。横の線が膝裏のシワです。

 膝裏をくわしく見てみると実際に「つぶれたH」の形にシワの端に溝
が縦に走っているのが見えます。

 その溝の脹ら脛側の端にツボが出ていることが多いです(写真1)。
シワから2、3cm足首よりです。

写真1

 親指側と小指側に出ているツボをくらべ、痛いほうを選びます。

2)きっかけ:痛いしこりの上の皮膚をズラす

 そのツボの上の皮膚をズラす操体をしていくのですが、どちらか片方
の膝だけ痛いときには、そちらを上にした横向き寝のほうがうまくいき
やすいので、そういう寝方が辛くなければ、なってもらいます(写真2)。

写真2

 そして、ツボの上の皮膚をズラしやすい方向にズラしていきます。

 ズラし方は、皮膚に指や手のひらを温度を測る感じであて、皮膚の表
面に張り付けたような状態にしてから、ゆっくり静かに下の筋肉に平行
にかるくズラします。

 一番ずれやすい方向を縦・横・捻転、それらの組み合わせの中から選
び、その方向にかるくズラせる範囲でズラした状態を保ちます。

 くわしくは、前回の術伝流操体その6(あはきワールド2006年7月25
日号 No.45)に書いたので参考にしてください。

 この場合には、膝のシワのほうにズラすのがよい場合が多いです。

 ズラしやすい方向にズラしたままの状態を維持すること、ズラした後
ろにできる皮膚が張った状態を維持することに気を使ってください。

3)つけたし:足指裏もみと足首反らし

 イイ感じや効果を上げることをつけたしていきます。

 この操体では、足指裏をもむのを加えると効果的なことが多いです。
経絡的に関連する足指の裏の関節部のシワのはじにへばりついたしこり
をもみます。

 no.2の腰痛のところで詳しく書いているので参考にしてください。

 膝裏外より、つまり、小指側のしこりを皮膚操体しているときには、
小指とその隣の指の指裏のしこりを探し、もみます(写真3)。

写真3

 内より、親指側の場合には、親指の裏のしこりをもみます。

 はじめに少し強めに痛くして逃げてもらい、痛みがいちばん減る姿勢
になってもらうと効果が出やすいです。

 このとき膝裏のしこりの上の皮膚のズラし具合が変わらないように注
意してください。

 もんでいる側(小指側か、親指側か)の足首が反り、足首がグラグラ
動かない程度に固定されていると効果が上がりやすいので、そのことに
も気をむけてください。

4)イイ感じがするか確かめ味わってもらう

 なんとなく体全体にイイ感じが伝わっていくように指裏の揉み具合を
調整します。痛気持ちよい程度がよいことが多いです。

 首や両手、反対側の足などで窮屈そうな感じのところをみつけたら、
声をかけて、すこし動かしてもらい、よりラクなように、イイ感じが
深くなるようにしてもらい、その深いイイ感じを味わってもらいます。

 言葉が通じない人の場合には、おなかの息が深くなっているかどう
かで判断します。

5)姿勢を変えたくなったら終える

 姿勢を変えたくなったら終わりにします。イイ感じが消えたり、息が
浅くなったりするのも終りにしてよいサインです。

 しばらくラクな格好で休んでもらいます。

【術伝流のコツ1】ふくらはぎのしこりをきっかけに繰り返してもよい

 膝裏のしこりが内にも外にもあった場合には、やっていないほうで繰
り返します。

 また、膝裏しこりのあるみぞを足首の方にたどりふくらはぎが終わる
あたりにもツボが出ている場合が多いです(写真1)。親指側は、築賓あ
たり。小指側は、飛揚〜外丘あたり。

写真1

 そのツボの奥のしこりをゆるめるために、そのツボの表面への皮膚操
体を続けて行うのもよいです(写真4)。指揉みなどを付け加えると効
果が上がりやすいです。

写真4

3.膝裏のしこりを少し痛くして逃げる姿勢を維持する

 膝裏のしこりを押して痛くし、痛みから逃げてもらい、その姿勢を維
持することをきっかけにします。

1)ラクな姿勢で寝てもらい、膝裏のしこりを探す

 1.の1)と同じように膝裏しこりを探します。

2)きっかけ:しこりを痛くして、逃げた姿勢を保つ

 そのしこりをすこし強く押して痛くして、痛みがへる格好を探すよう
に逃げてもらいます。そして、いちばん痛みが減る姿勢になってもらい
ます。

 あまり痛くしすぎるとどう逃げても痛いということになるので、痛み
がへった感じがわかる程度の適切な痛さになるよう押し具合を加減して
ください。

 膝を曲げて胴体に近づける姿勢になることが多いです。

 しこりを押している指は離さないでしこりの状態を観察しつづけます。
うまく姿勢が決まると、その姿勢になったとたんにしこりが目立たなく
なることも多いですが、指を離さずにしこりの上体を観察し続けます。

3)つけたし:足首反らし

 操者は、しこりの延長の足首をもう一方の手で支え、足首を反らしま
す。足首を反らすと、痛みがもう一段と減るし気持ち良さが生まれやす
くなります。

 膝裏しこりが外側つまり小指側のときには足首も小指側を反らし、し
こりが内側つまり親指側のときには足首の親指側を反らします(写真5)。

写真5

4)イイ感じがあるか確かめて味わってもらう

 1.の4)と同じように、体全体にイイ感じが伝わっていくように、
窮屈そうなところを動かしてもらったり、より気持ち良さが深くなるよ
うに姿勢を変えてもらったりします。

 そのときに足首がゆるまないように反らし続けます。

5)姿勢を変えたくなったら終える

 1.の4)と同じように、姿勢を変えたくなったら終わりにします。
イイ感じが消えたり、息が浅くなったりするのも終りにしてよいサイン
です。

 しばらくラクな格好で休んでもらいます。

【術伝流のコツ2】別のしこりをきっかけに繰り返してもよい

 1.の操体と同じように、膝裏のしこりが内にも外にもあった場合に
は、やっていないほうで繰り返します。

 また、ふくらはぎの築賓や飛揚〜外丘あたりのしこりをすこし痛くす
ることをきっかけに繰り返すとより効果的です。

【術伝流のコツ3】1.と2.は基本的には同じ

 1.の操体と2.の操体は基本的には同じようなことをしていること
に気づいた人も多いと思います。

 皮膚操体と足指揉みを中心にするか、しこりが痛まない姿勢と足首反
らしを中心にするかの違いで、タワメの間の姿勢は同じようになること
が多いです。

4. うつ伏せ膝立て足首捻り

 うつ伏せで膝立ての姿勢から足首を捻ります。

 うつ伏せで膝を立てた姿勢になれないときには、悪いほうの膝を上に
した横向き寝でしてもよいと思います。

 また、1.や2.を行って、うつ伏せ膝立ての姿勢になれるようになっ
てからしてもよいし、良いほうの足でこの3.の操体を行ってからして
もよいです。

1)うつ伏せ膝立の姿勢で、膝と足首を直角に曲げる

 うつ伏せで寝てもらい、悪いほうの膝から下を上げて立ててもらいま
す。膝のところと足首のところが直角になるくらいにします(写真6)。

写真6

2)きっかけ:足首を捻りやすい方向に

 足首を捻ってみて捻りやすいほうに捻った状態を保ちます。

 実際に足首を捻る動きの操体でする場合と、同じ効果のある皮膚操体
でする方法があります。なれると、皮膚操体のほうが、簡単で、効果も
上がりやすいです。

〈踵を支えながら爪先を捻りやすいほうを探す〉
 片手の親指と人指し指で踵を包んで固定し、反対側の手で爪先を内側
つまり親指側と外側つまり小指側の2方向に捻ってみて、捻りやすいほ
うをみつけます(写真7)。

写真7

〈ほんのすこし余分に動かした状態をしばらく維持する〉
 動きの操体の場合には、試してみたときと同じように踵を支えた状
態から、爪先を小さな力でラクに捻れる範囲まで捻ってから、ほんの
少し余分に捻ります。

 このときに足首は直角に保つようにします。足首が直角になっていな
いと、捻った動きが膝などに伝わっていきにくいので、効果が出にくく
なります。

 皮膚操体の場合には、足首の膝側の下腿の皮膚を下腿の骨に直角に、
つまり、下腿を捻る感じの2方向にズラしてみて、ズレやすいほうにズ
ラします(写真8)。

写真8

 そして、ほんの少し余分にズラしたままの状態をしばらく維持します。
ズラした後ろにできる皮膚の張りを保つようにします。

3)つけたし:言葉かけと指圧や皮膚操体

 動きの操体の場合には、両手がふさがっているので、言葉をかけて窮
屈そうに見えるところを動かしてもらいます。

 皮膚操体の場合には、あいているほうの手で膝裏から脹ら脛のしこり
を探し、見つかったら、指圧したり揉んだり皮膚操体したり(写真9)
しながら、言葉をかけてラクな姿勢を探してもらいます。

写真9

4)イイ感じがするか確かめ味わってもらう

 より深い気持ち良さを探してゆっくり動いてもらいながら、イイ感じ
を充分味わってもらいます。

 言葉の通じない方の場合には、おなかの息の深さを観察し判断します。

5)姿勢を変えたくなったら終える

 姿勢を変えたくなったら終わりにします。イイ感じが消えたり、息が
浅くなったりするのも、終わりにしてよいサインです。

 しばらくラクな格好で休んでもらいます。

【術伝流のコツ4】動きが小さいので難しいが、効果は高い

 この操体は動きが小さいので、とくに皮膚操体の場合には加減が難し
いですが、慣れてくると効果を上げやすい操体なので、しっかり練習し
て身につけましょう。

5. ほかにもいろいろ

 もう少しで正座できそうなときには脹ら脛の皮膚を小指側にズラすと
よいです。

 大腿と下腿の間から手を入れ、脹ら脛の皮膚を外側つまり小指側にず
らしながら尻を落としていく(写真10)と、正座できてしまうことが多
いです。

写真10

 膝の辛さをやわらげる操体はほかにもたくさんありますが、あまり一
度にたくさん習っても身につかずに終わる可能性が高いので、これくら
いにしておきます。

 また、運動器系の応急処置としては、肘や手首・足首の辛さをやわら
げる操体もありますが、同じ理由から、またの機会にしたいと思います。

6. 操体の基本手順から見てみる


 今回の操体を操体の基本手順からみてみましょう。

(1) ラクな姿勢になってもらう
   今回:ラクな姿勢で寝る
(2) 目立つ処を少し強調してイイ感じを探す
   (≒やりやすいほうを少し強調)
   今回:しこりの上の皮膚をズレやすいほうにズラす
      しこりが痛まない姿勢を保つ
      足首を捻りやすいほうに捻る
(3)他にイイ感じがないか探し、あったら加える
    1.目の動き、手首の動きを加える
    2.体重を移しやすいほうに移す
   今回の付け足し:指揉み
           姿勢をゆっくり変えてもらう
           足首を反らす
           関連するツボをゆるめる
(4)息が深くなるかイイ感じなら続ける
(5)姿勢を変えたくなったら終える
   (体重を戻す=姿勢を変える)

7.おわりに

 次回からは、ここまで数回説明してきてだいたい感じていただいた術
伝流操体をしていくうえで、基本的に大事な2つのことを説明していき
ます。

 それは、手首足首の動きと胴体の動きの関係、体重移動と胴体の動き
の関係です。

 この2つをよく理解すると、いままでの運動器系応急処置もより効果
を上げやすくなりますし、このあと説明する寝方別の操体も身に付けや
すくなります。

 それに、その2つを理解するために行う動きそのものが一人操体とし
て使えますし、イイ感じを味わえます。

 お楽しみに。


   つぎへ>>>術伝流操体no.8



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最終更新:2010年08月21日 11:28