陽明経病証

(1)基本的に

 陽明の病は、体の前面におもな症状が出る病で、ツボが浅く、熱が高
く、動きが速いことが特徴です。

 邪気が顔や前頭部に突き上げる上衝をともなうことが多く、陽性の精
神症状が出やすくなります(『霊枢』経脈編「高きに上がって歌い、衣
を棄てて走らんと欲す」)。

 その反動として、膝から下が冷えて虚すことが多くなります。

 代表例は、更年期障害やかんの虫、熱射病など。不眠の多くは、太陽
と陽明の合病です。

 邪気を散らし下げることと、手早い刺鍼が大切で、腹の虚があれば補
(おぎな)います。

 『傷寒論』に「陽明之為病、胃家実也」とあるように、臍より上は実
することが多いので、上記のことがいえますが、陽明経が虚すこともあ
ります。

 その場合には、『霊枢』経脈編に「一人戸を閉じ窓を塞いで居る」と
あるように、陰性の精神症状が出やすくなります。

 というよりも、陽明経の病は「上が実し、下が虚す」と考えたほうが
よく、その割合に応じて精神症状は変わってくるということでしょう。

(2)ツボが出やすいところやねらい目

まずは、陽明経に引く

 まずは、手足の陽明経、とくに手の陽明の手首より先に引きやすいです。

 鍼では合谷、親指・示指間の八邪。灸では拳先、骨空、指端、井穴。す
こしずれて、手親指の拳先、骨空、指端、井穴に出ることもあります。

 足三里の灸は、恒常的な上衝を下げる効果があり、養生の灸として有名
です。

 また、目の表面の病や、歯・口のまわりの病など鎖骨から上の前面の病
は、手の陽明に引きやすいし、乳痛、腹の表面のシコりなど鎖骨から下の
前面の病は、足の陽明に引きやすいことが多いです。

 梅雨明け直後の真夏の老人の譫語(せんご)も合谷に引くと、そのとた
んに口調が穏やかになり、顔の赤みも薄くなることが多いです。

前頭部の散鍼

 前頭部は、ツボにかかわらず熱いところを散鍼します。

腹の虚を補う

 下腹部の虚が原因(虚火上逆)のことも多いので、ツボをみつけて補
(おぎな)います。

 更年期障害では、腹の虚が横にずれて、骨盤の腹側の五枢〜維道、骨
盤の足側の居寥にツボが出ることが多いです。

 また、その影響で、足の陰経、蠡溝、中封、照海などにもツボが出ま
す。

 腰痛や不眠をともなうときには、それらに関係するツボも出ます。

不眠

 不眠は、陽明と太陽の合病で、言葉や腹の虚などが原因で生じた邪気
が頭を衝き、後頚部や肩が硬くて降りられず、頭の中で堂々巡りしてい
る状態の場合が多いです。

 頭の使い過ぎで真気が集まりすぎ降りなくても上衝の原因となります。

 陽明の病のツボのほかでは、なんといっても、後頭骨下縁の天柱〜風
池がねらい目です。横頚部中央や肩井や肩胛骨まわりのツボも使って、
後頚部や肩まわりをゆるめます。上腕の少陽から太陽や、手の甲4,5間
などに引くのもよいです。

(3)手順

(1) 慢性期

 合谷に引き鍼したあと、ツボを考慮して慢性期の型の順で刺鍼します。

 肩頚頭など、表位といわれる肩胛骨鎖骨から上を中心に、さわって熱
いところには、散鍼してから刺入します。

 必要におうじて、灸を加えます。その場合には、下腹や足に灸・灸頭
鍼をしてから、手の指端の灸で終えます。

 また、灸や灸頭鍼を中心としてもよいです。手の人差し指か親指の骨
空ではじめ、うつ伏せ、仰向けの順で上から下に施術し、手の指端の灸
で終えます。

 陽明経の下のほうが虚している割合が高く、陰性の精神症状がでてい
るときは、下腹や足の経絡をおぎなうことにも力をいれます。

 一番大事なことは、手早い刺鍼です。慢性期といってものんびり時間
をかけて刺鍼するという感じではないです。刺入時間、施術時間ともに
短くなるようにします。

(2) 急性期

 合谷に強めに引き鍼したあと、前頭部の熱いところを散鍼し、また、
手陽明経に引き鍼をするのが基本で、親指示指間の八邪や沢田流合谷で
終えるのもよいです。慢性期以上に手早い刺鍼が大切になります。

 灸の場合には、合谷のかわりに親指か人差し指の骨空ではじめ、指端
で仕上げます。

 肩こりなどをともなうときには、合谷の引き鍼のあと、肩こりのツボ
に刺鍼し、前頭部の熱いところを散鍼したあと手陽明経に引き鍼をして
仕上げます。

 更年期障害では、合谷のあと、内関、足の陰陽、腰、肩、頚の順に刺
鍼し、前頭部に散鍼し手陽明引き鍼して仕上げます。

 不眠では、合谷のあと、手甲4〜5間に引き、天柱・風池を中心に後頚
部・肩まわりを刺鍼し、前頭部に散鍼してから、手陽明に引き鍼して仕
上げます。

 手技の場合には、手の人差し指・親指を反らせたり、井穴をつまんだ
り、指裏の横紋あたりを揉んだりすると効果が出やすいです。子供の疳
の虫のときによく使います。繰り返すと、「指を出して」といっただけ
で治まることもあります。




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最終更新:2010年08月04日 08:01