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術伝流一本鍼no.1 (術伝流・先急の一本鍼・運動器編(1))
肩腰など運動器の応急処置を一本鍼で

「術伝流・先急の一本鍼」を連載するにあたって

(1)はじめに

 皆さんは、運動器系の応急処置を鍼灸でどうされていますか?

 患者さんからの要望は一番多いのではないかなと思いますが、
それについて習ったことがありますか?

(2)初めて運動器系の応急処置ができるまで

1.慢性期の養生はできた

 私が調べた限りでは、鍼灸の技術は本治が中心、言ってみれ
ば「慢性期の養生法として、体の歪みを整えていく」という感
じのものが多く、運動器系の応急処置がまとめて説明されてい
るのは、余り見掛けません。

 私自身、鍼灸学校時代には学校以外でも色々な講習会に出ま
したし、本を読んだりして様々な流派の技術を学びましたが、
慢性期の養生が中心でした。

 資格を得た時点では、講習会で講習生相手では効果が出せる
ようにはなっていました。

 卒業して直ぐ雇われ院長をしていましたが、来る患者さんは、
肩や腰など運動器系の患者さんが多かったです。

 もちろん、鍼灸は慢性期の養生が基本だと思います。慢性期
の養生で体全体を整えられると、思いがけぬ辛さが消えていく
ことも良くあるので、慢性期の養生だけで治せたものもありま
した。

 その代表例は、生理痛に伴う、生理の少し前から始まる腰痛
で、慢性症状が絡んでいたからだと思います。腰痛が治っただ
けでなく、始まってから10年以上非常に辛かった生理痛も凄く
軽くなったとのことでした。

 「生理痛にも効きそうだから、続けてやってみてもらえませ
んか」と言われたので、生理痛の治し方など知らなかったから、
「駄目元でも構わないなら」ということで引き受けました。

 週1で2カ月ほど続けて2回分の生理がとても軽かった(3回
連続ということ)ので終了しましたが、その後1年位生理痛が
殆ど無かったそうです。

 その後、その人の友人を数人連続して鍼灸しましたが、体の
歪み方は、皆さん似ていました。

2.運動器系が治せなかった

 しかし、在学中に色々学んだとは言っても資格取得したばか
りですから、治せない事例も沢山ありました。

 特に、肩こり、腰痛など来る頻度が高い疾患ほど、慢性期の
養生で体全体を整えても、「いまいちだなぁ」と言われること
が多かったです。

 肩腰を始めとする運動器系の症状に関しては、どちらかと言
うと改善が余り進まないことも多かったし、慢性期の手順でやっ
ていると当時は時間が長くかかったので、運動器系の応急処置
を何とかできるようになりたいなと思いました。

3.一本鍼諸流派の共通点

 それで、慢性期の養生を一本鍼でしていたので、一本鍼での
運動器系の応急処置をできるように、工夫してみることにしま
した。

 ここで言う「一本鍼」は、「一本の鍼を使って、単刺の連続
で治療していく方法」のことです。「1回の単刺で治療する」
という意味ではありません。

 一本鍼の諸流派の手順を比較しているうちに共通点として、
手足などの末端に引くことと、背中側などの陽側に引くこと
の2つが基本であることに気が付きました。

 この場合「引く」というのは、「体の中の症状を刺鍼している
所に引っ張ってくる」ということです。

「鍼刺すに 心で刺すな 手で引くな
   引くも引かぬも 指にまかせよ」(杉山和一検校)

「病さかんなれば まず遠き所より引く」『鍼道発秘』
                   (葦原検校)

 上記に使われている意味での「引く」です。

 手順としてみると、

1)手足(の特に、肘膝から先)に刺鍼
 →頭、首、胴の体幹部に刺鍼
 →手足(の特に、肘膝から先)に刺鍼

ということと、

2)背中や陽経側などの陽側に刺鍼
 →腹側や陰経側などの陰側に刺鍼
 →背中や陽経側などの陽側に刺鍼

ということの2つになるなと思いました。

 組み合わせると、

 手足(陽→陰→陽)
→体幹(陽→陰→陽)
→手足(陽→陰→陽)

ということです。

 また、様々な流派に、急性症状はできるだけ手足末端を使う
と良いという考えもあったのも思い出し、自分や仲間の肩凝り
や腰痛を手足の甲に鍼することで軽くできるように練習を続け
ました。

 それからも色々な文献を調べたり、仲間や友人で試させても
らったりして、応急処置の場合には、先ずは陰経側に余り刺鍼
せず、
「手足(陽)→体幹(陽)→手足(陽)」
という手順が良さそうだなと感じました。

 陰経側や腹側は体の内側に響きやすいので慢性期の養生には
大切です。けれど、運動器系の応急処置でそこを動かすと、慢
性期としての治療をきちんと効果が出るようにする必要が出て
くるからかなと思いました。

 もちろん症状が重い場合には陰経側に刺鍼する必要が出てき
ます。が、軽い場合には、陽経側と背中側中心に体幹部の陽側
のみに刺鍼する方が無難だし、時間が掛からないように思いま
した。

 それで、陽経陽側中心に「手足→体幹→手足」の順で刺鍼す
ることを友人などで練習させてもらいました。

4.ギックリ腰のお婆さん

 それから暫くした頃、「ギックリ腰で医師の方に『十日位寝
ていろ』と言われたけれど、夏なのに風呂にも入れなくて辛い
から何とかしてくれないか」という電話が掛かってきました。

 ギックリ腰になって3日目のお婆さんでした。

 息子さんに抱きかかえられるようにして入ってきて、横になっ
たのですが、辛くて横向きにしか寝られないとのことでした。

 その頃に私が行っていた慢性期の手順は、仰向けで腹診を中
心にした診察をしてから施術、次にうつ伏せの施術というもの
でした。横向き寝では、その手順は使えないし、腹診はやりに
くいなと思いました。

 それで、陽経陽側中心に「手足→体幹→手足」の順で刺鍼す
ることを試してみました。

 腰だから足のできるだけ末端、足甲を探ると、地五会付近に
圧痛点が見付かったので、そこに刺鍼しました。すると、それ
だけで少し軽くなったと、うつ伏せに近い姿勢になりました。

 腰のこの辺りがまだ痛いというので探し、大腸兪、環跳、尻
の中央などを刺鍼しました。

 そしたら、「かなり良くなった」と言って座り帰ろうとして
ました。が、慢性期の手順でもしていたので、仕上げに手甲に
鍼をしました。すると、ギックリ腰が良くなってしまいました。

 次の日にもう一度来て、こういう動作がまだできないからと
言うので、その動作の時に辛い所を中心に刺鍼して、それで、
すっかり良くなってしまいました。

 とても元気なお婆さんで、勢いに押されて治療したという感
じもしましたが、お陰様で、応急処置のコツみたいなものを掴
むことができました。

5.紹介で来た星座ができない人

 その人の紹介で見えた膝が痛くて正座できないという方も同
じように陽経陽側中心に「手足→体幹→手足」の順で刺鍼した
ら、正座ができるようになってしまいました。

 ギックリ腰だったお婆さんは元気で飛び回っているという話
でした。

 今から考えると、二人続いて患者さんに恵まれたなと思いま
す。もっと重くて難しい患者さんが来ていたら失敗して諦めた
かも知れません。それなのに、丁度良く、ちょっと工夫すれば
治る程度の患者さんが続いたものだなと思います。

(3)講座で伝える

 その後も関係ありそうな資料を学び、自分や仲間に試し、沢
山の患者さんに教えられました。その結果、現在では、陽経を
使った運動器系だけでなく、陰経も使った運動器系や内科系の
応急処置手順もでき上がりました。そして、講座で後輩の人達
に伝えられるようにもなりました。

 鍼灸の基本は慢性期の養生ですが、患者さんが多いのは、肩
凝り、腰痛などの運動器系疾患です。そして、1回目の治療で、
その辛さが半分以下、できれば3分の1以下にならないと、なか
なか信頼してもらえません。

 特に、資格取得間もない時期や開業直後に、それができなく
て、この仕事を続けられなくなった人を、大勢、見てきました。

 それで、私の講座では、運動器系の応急処置を身に付けるこ
とから始めています。それから、内科系急性期、運動器系慢性
期、内科系慢性期、病証、応用と続きます。

 運動器系応急処置から学んでも鍼灸の基本は身に付けられま
すし、身に付けていけるような工夫をしています。

 この頃、それを臨床の場で活かしている方も増えてきました。
講座は初心者や学生さん向けに始めたのですが、今では有資格
者、既に開業されている人も増えています。

(4)おわりに

 これから講座で伝えていることを中心に連載していこうと思っ
ています。

 患者さんの多い腰痛から始め、肩、膝、肘と続けていきます。
その後、手首、足首、指などを解説します。手首や足首では巨
刺など、指では灸も使います。

 文章でどの程度伝えられるかなという思いはありますが、工
夫していきたいと思いますので、よろしくおねがいします。

 疑問な点や分かりにくい点は、指摘してくださるよう、おね
がいします。


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術伝流鍼灸操体講座で患者さん役を募集

 術伝流鍼灸操体講座は、実践面を重視しています。実際に症状が出て
いる方の治療を見たほうが勉強になります。そこで、講座で患者さん役
をしてくださる方を募集しています。

 くわしくは、術伝流のモデルをみてください。

 症例を少しずつ増やして、ゆくゆくは深谷先生の「お灸で病気を治し
た話」の写真入り版のような感じにしていきたいと思っています。

 よろしくお願いします。

感想など

 感想などありましたら、術伝事務局までメールをください。

よろしくおねがいします。

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最終更新:2016年09月22日 15:57