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術伝流一本鍼no.5 (術伝流・先急の一本鍼・運動器編(5))
腰の可動域制限に動作鍼

はじめに

 先回解説した「腰痛の基本刺鍼」をした後に立ち上がってもら
い腰の動作を確認した時に動作制限が残っていた場合には、今回
解説する動作鍼をして関節可動域を改善します。

 動作鍼は、一鍼するたびに関節可動域を確実に改善できる技法
なので、臨床でよく使います。また、基本的にどの関節でも同じ
なので、身に付ければ、初めて臨床の場で出合う動作制限にも対
処可能です。繰り返し練習し、しっかり身に付けてください。

(1)動作鍼の基本(図1)


 動作鍼は、1回の治療全体の中では、基本的な刺鍼が終わって
から、仕上げの末端への引き鍼との間にすることが多いです。

 手足の甲への引き鍼の後に直ぐに動作鍼をする場合には、後始
末として動作鍼終了後にもう一度手足の甲に引き鍼して仕上げま
す。引き鍼や基本刺鍼については、今までのno.2~no.4を見直し
てください。

 動作鍼そのものの手順は、先ず、やりにくい動作を痛む手前ま
で、つまり、可動域制限のある動作を痛まない範囲で可能な限り
大きく動作してもらいます。

 その姿勢で動作の軌跡が描く面と皮膚表面とが交差するライン
上にツボが出ます。このラインは、その動作をする時に最も伸び
るラインと縮むライン、つまり、最も伸びようとする筋肉と、最
も縮もうとする筋肉のラインです。

 そのライン上で一番凹んだ所にツボが出ています。多くの場合
には、その動作で最も伸ばそうとしている筋肉の最も伸ばそうと
している部分にツボが出ます。

 ツボの奥は硬く過緊張の状態になっているので、伸ばそうとし
ても伸びないので、その表面の皮膚が奥に引っ張られて、皮膚表
面が凹んでしまうようです。

 伸びようとしている側よりも頻度は少ないですが、縮もうとし
ている側の最も縮もうとしている所にもツボが出ることがありま
す。

 そのツボに、その姿勢のままで鍼をします。刺鍼した後、いっ
たん姿勢を元に戻して、できれば逆向きのやりやすい動作を少し
してから、やりにくかった動作をもう一度してもらいます。

 すると、前より少し余分に動けます。つまり、関節可動域が少
し広がります。しかし多くの場合、まだ動作制限が残っています。

 新しく痛まない範囲でラクに動けるようになった限界の姿勢、
つまり、新しい痛む手前の姿勢から、また、先ほどの最も伸びよ
うとしているライン上で一番凹んだ所を探すとツボが出ています。

 動かしている関節を基準にすると、新しいツボは、前のツボよ
りも遠くに出ます。

 そのツボにその姿勢で再度刺鍼します。そして、また、いった
ん姿勢を元に戻してから、同じ動作をしてもらうと、また少し余
分に動くようになります。

 新しく余分に動いた姿勢、新しいラクに動ける限界の姿勢で、
最も伸びようとしているライン上にツボを探して再度刺鍼という
ことを、日常生活に不便がない程度に動けるようになるまで繰り
返します。

 動作鍼をすると、一鍼するごとに関節可動域が少しずつ広がっ
ていきますし、患者さんにもそのことを実感してもらえます。

 この動作鍼は、操体の動診を応用したもので、他になさってい
る先生もいるかもしれませんが、少なくとも文献などでは見たこ
とがありません。関節可動域制限に対して確実に効果があげられ
る刺法ですので、この機会に身に付けてください。

(2)腰痛の動作鍼

 腰痛の場合の可動域制限は、主に二通り、体を捻る左右捻転と、
前に曲げる前屈の制限が多いです。

 基本的な刺鍼を終えた後に動作鍼をして、それから外踝(そとく
るぶし)辺りのツボへ引き鍼して後始末します。

 腰痛の動作鍼は、基本的に立位でします。立位での動作がしに
くいようなら、ラクな寝方で横になってもらい、基本刺鍼などし
て改善し、立てるようになってから動作鍼に移るのが基本です。

1.腰の左右捻転の動作鍼

 体を左右に捻る動作が制限されると、左右どちらかに振り向き
にくくなります。「こっちはいいんだけど、こっちに向けないん
です。」という表現をされる人が多いです。

 体を左右に捻る動作の場合には、腰椎3番付近が一番動くよう
です。そのため、動作の軌跡と皮膚表面との交差するラインは、
立位では、腰椎3番の高さで、床と平行な線になります。

 はじめに左右にラクに捻れる範囲で捻ってもらい、左右差を確
認しておきます(写真1,2)。

写真1

写真2

 ラクに捻れる範囲で捻ってもらうと、そのライン上で凹んだ所
が見えます(写真3)。捻ろうとしている方と反対側、つまり、
伸びようとしている側に出ることが多いです。

写真3

 ラクに捻れる範囲で捻った状態の姿勢でそのツボに刺鍼します
(写真4)。この時に他の人にその状態を維持するように支えて
もらったり、患者さんに柱などにつかまってもらうと、患者さん
も鍼師もラクです。

写真4

 それから、いったん、ゆっくりと、やりやすかった反対側を向
いてもらってから、もう一度やりにくかった方向に捻っていきま
す。先程よりも少し余分に捻れるようになります。まだ制限があっ
たら、またツボを探し、動作鍼を繰り返します(写真5)。

写真5

 捻る動作の場合には2回ほど繰り返せば、日常生活に不便のな
い程度になることが多いです(写真6)。

写真6

 腰椎3番の高さで脊柱起立筋の一番外側に最後のツボが出るこ
とが多いです(写真7)。

写真7

 やりやすかった方よりも良く捻れるようになってしまうことも
多いです。この場合に、また反対側をより良くしようとすると、
やりにくさが復活するので、しない方が無難です。

 普段の生活で負担がかかる側が捻転しにくくなるので、捻転し
にくかった方が良くなっている位の方が効果が長持ちすることが
多いです。患者さんにも説明して了解してもらいましょう。

2.腰の前屈の動作鍼

 前に曲げる動作ができない人は、「顔が洗えない」という表現
をされることが多いです。

 この前屈の動作の場合には、動作の基準は腰椎5番付近になる
ようです。

 そのため、動作の軌跡と皮膚表面との交差するライン、つまり、
前屈の姿勢で最も伸びようとしているラインは、腰の痛む側で、
背中側では脊柱起立筋の一番高い所、つまり、足の太陽の1行線
になります。

 尻や足裏の方でも、基本的に、腰の痛む側の足の太陽のライン、
つまり足裏では中央のライン上になります。

 また、前曲げの動作制限の場合には、ツボは上下両方向、つま
り、背中側と尻足裏側の両方に出ます。どちらも伸びないと前屈
できないからです。

 それで、少ししか前曲げができない場合には、痛む側の背中の
肋骨の下側あたりと尻中央あたりにポイントとなるツボが出ます
(写真8)。

写真8

 その2か所をその姿勢で刺鍼して弛めます(写真9)。

写真9

 この場合には、テーブルなどに手を付いてもらい、安定させた
状態で刺鍼した方が患者さんも鍼師もラクです。

 いったん腰を軽く反らせてから、ゆっくり前に曲げていくと前
より少し余分に曲がるようになります。そして、ポイントとなる
ツボは、足の付け根から大腿裏にかけてと、肩甲骨の下端と肋骨
下端の間に移動します(写真10)。

写真10

 また、そこを弛めると、もう少し前に曲がるようになり、ポイ
ントは大腿の中央あたりに移ります(写真11)。

写真11

 この場合には、背中側にはツボは出ないことが多いです(ここ
まで前屈すると、背中はそれ以上曲がらないことが多いので)。

 また、そこを弛める(写真12)と、もう少し前に曲がるように
なり、ポイントは膝裏あたりに移ります。

写真12

 膝裏のツボを弛め(写真13)、いったん反ってから(写真14)
前屈すると、指先が足首近くまで届く位はラクに前屈できるよう
になります。

写真13

写真14

 若くて元気な人なら必要ないかもしれませんが、刺鍼中にフラ
つく可能性もあります。それで、ツボを見付けた姿勢を保つため
に、他の人に支えてもらったり、机や椅子などに手を付いてもらっ
たりした方が無難と思います(写真15,16,17)。繰り返しにな
りますが。

写真15
写真16
写真17

 前屈してどこまで曲がるかと、足裏のツボが出る位置の関係は、
人によって少しずつ違ってきます。が、たくさん前屈できるよう
になればなるほど、だんだん足首の方に近づいていくという点は
共通です。それで、腰椎5番に近い方から足首に向かって足裏中
央のラインを探し、凹んだ所を見付けるようにしてください。

 手首が膝下までラクに届けば普通の日常動作に制限はなくなる
ので、多くの場合は、その時点で終えて仕上げに移ります。が、
患者さんの仕事などによっては、さらなる改善が必要な場合もあ
ります。

 仕上げは、座位で患側の外踝の近くの丘墟などに引き鍼をしま
す。

3.腰のその他の動作鍼

 頻度は少ないですが、横向きの側屈がしにくい患者さんもいま
す。この場合には、伸びる側の体の側面、つまり、足少陽ライン
にツボが並びます。この場合の起点は、腰椎2番付近のようで、
前屈と同じように上下両側にツボが出ることが多いです。

 やはり、曲げられるようになるほど、ツボが起点から遠ざかり
ます。

 また、捻り、前屈、横曲げが組合わさった動作ができない人も
います。上下の動きが加わることもあります。

 その場合は少し複雑になりますが、やはり、その動作で一番伸
びようとしているラインを見つけ、腰に近い方から辿っていくと、
凹んでいて、押すと痛い所が見付かります。

 その姿勢で、そこのツボに刺鍼すると、可動域が広がります。
いったん姿勢を戻してからチェックし、まだ日常生活に不便な程
度の動作制限が残っていたら、また動作鍼を繰り返して改善して
いきます。

4.歩ける程度の動作制限は、引き鍼と動作鍼だけでも改善可能

 初めから立って動ける程度の腰痛で、できない動作が一つだけ
なら、足甲への引き鍼と動作鍼だけで改善することも可能です。

 座位で足の甲4~5間に引き鍼した後、立位で、制限のある動作を
ラクにできる範囲で動いてもらい、痛くなる手前の姿勢、ラクに動
けるギリギリの姿勢で動作鍼をします。

 一度で駄目なら2,3回繰り返します。

 可動域制限がなくなったら、座位になってもらい、丘墟あたりに
ツボを探し引き鍼して仕上げます。

 丘墟あたりにツボが出ていない場合や丁寧に刺鍼したい場合に
は、飛揚~外丘付近に刺鍼した後に陽大鐘に引き鍼して終えます。
この辺りは、前回を見直して理解するようにしてください。

おわりに

 簡単ですが、これで腰痛の応急処置を終え、次回からは、肩ま
わりの辛さの応急処置に移ります。


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最終更新:2015年06月09日 13:41