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術伝流一本鍼no.6 (術伝流・先急の一本鍼・運動器編(6))
肩まわりの痛みの応急処置の基本

(1)基本と手順

 応急処置の基本は「遠くに強く引く」でした。肩まわりの応
急処置の「遠く」としては、手甲がよく使われます。

 頭首胴の体幹部の「遠く」は手足甲、上半身の「遠く」は手
甲というわけです。足甲の方が遠いのですが、上半身の邪気を
引きやすいのは手甲なので。

 手順としては、先ず症状を話してもらい、動作制限などが有
る場合には、痛くない範囲で動いてもらい、動ける範囲を確か
めておきます。

 次に、ラクな姿勢で座ってもらい、痛む所やそれに関係する
陽経側の腕から手甲にかけて、よく調べ、出ているツボを探し
ます(写真1,2)。

写真1

写真2

 刺鍼は、手甲に強目に引くことから始めます。この時に患者
さんが動けるようなら運動鍼をしてもらいます(写真3,4)。

写真3

写真4

 運動鍼は、術伝流一本鍼no.3(手足の甲のツボで運動鍼)
で解説しましたが、手甲に刺鍼している間に、ラクに動かせる
範囲で、ゆっくり、首の左右捻転・前後屈を繰り返してもらい
ます。

 次は、患部の肩・首。

 この時に肩・首が熱ければ軽く散鍼してから、肩まわり、首
まわりの順で刺鍼します。熱がある場合には、いきなり深く刺
すと、患部の痛みが増すことがあるので、こういう手順を取り
ます。

 その後、その肩・首と手足の甲との間の陽経部分を、患部に
近い側から手首・足首の方へ順番に刺鍼していきます。この時
に末端に近付けば近付くほど強めに刺鍼することを心掛けます。

 動作制限のある場合には、最後の刺鍼をする前に動作鍼をし
て改善した後、座位で手首から先に再度強く引いて終わります。

 肩関節は球関節で色々な動きができるので、動作鍼も人によ
り様々です。肩まわりの動作鍼については次回次々回解説しま
す。

(2)より悪い側を治療する

 左右両側が痛いこともありますが、比較して、より痛い側を
中心に治療します。軽い側の痛みは悪い側を庇(かば)うために
出てきていることが多く、悪い側を治療すると自然に消えるこ
とも多いからです。

 悪かった方を治療して良くなった時に、ついでにもう片方も
治療すると、初め悪かった側の痛みが復活することもあります。
そのため、初心者のうちは悪い側だけ治療しておく方が無難で
す。

 だんだん上手になって、治療に差が付けられるようになった
ら、両側同時に治療してもかまいませんが、両側を治療する時
には、刺鍼の深さや強さなどに差を付けてより悪かった側を軽
くして終わるのが原則です。

 これは、日常生活の中で負担の掛かりやすい側が悪くなるの
で、そういう風にしておくと、負担が掛かって両側が同じ位に
悪くなるまでの間の分だけ治療効果が長持ちするからです。

 同じように治療すると、そのときには大丈夫でも、初め悪かっ
た側の痛みが、差を付けた時よりも早く復活することが多いで
す。

(3)肩まわりの応急処置の基本のツボ

 肩まわりは、人により、また、同じ人でも場合によって様々
なツボの出方をしますが、ここでは、一般的に一番多く見られ
るツボの取り方と刺し方を練習します。

 様々なツボの出方と刺し方は、「病証編・太陽経の病」での
解説する予定です。

 初めに強く引く手甲のツボは、4~5間に出ることが多いです
が、現在では、3~4間に出る人もいます。4~5間では、中渚と、
その先の八邪に出ます。3~4間に出る場合も、それらに相当す
る場所に出ます。

 八邪をつまんだり、手甲の指間を押したりして痛い側を選び
ます(写真5)。

写真5

 肩まわりでは、首の付け根から肩井にかけてのラインと、肩
甲骨の上縁から内側縁にかけてのラインに出ます。

 初めの方は、首の付け根の少し上から肩峰にかけて、座位で、
一番高くなるラインに指を滑らせて探します(写真6)。

写真6

 首の付け根と肩井に出ていることが多く、圧痛の強い方を選
びます(写真7)。女性では、肩井よりも首の付け根の方を痛
がる人が多いです。

写真7

 肩甲骨まわりは、肩甲骨上縁の肩よりから肩甲間部の方へ上
縁に指を滑らせた後、そのまま、肩甲骨内縁を上から下に指を
滑らせて、ツボ探しをします(写真8)。

写真8

 上縁から内縁へ移る辺り(肩外愈)と、そこから指3本分位
下(膏肓)にツボが出ていることが多く(写真9)、圧痛の強
い方を選びます。

写真9

 大椎が、ぽっこり、出っ張って見える(写真10)人は、大椎
まわりにツボが出ています。利き手側に多いです。こういう状
態は、昔は「社長首」と言われたそうですね。精神的に無理を
重ねている人が、この辺りが凝りやすいということなのかなと
思います。

写真10

 首では、後頭骨下縁(写真11)と、頚椎外側の華陀経、1,2
行線を探します。

 後頭骨下縁は、中心から耳の方へ後頭骨に押し付けるように
探していき、圧痛の強い所を選びます。

写真11

 頚椎の外側は、先ず、中心線に指を滑らせて、凹んだり、ベ
タベタと抵抗感のある所を探し、そこから、すぐ脇の凹みの華
陀経、筋肉の太い辺りの1行線、太い筋肉の終わる辺りの2行
線の順で探します。

 現在では、この頚椎外側で一番多いのが横頚部中央(写真12)
ですので、耳の後ろの完骨下端から指を滑らせて中央付近の窪
みを押した方が、早く探せます。

写真12

 それと、上腕太陽経の肘より(上小海)にも、ツボが出てい
ることが多いです。

(4)手順

 手甲に引き鍼した後、首の付け根から肩井のライン、大椎ま
わり、肩甲骨まわり、天柱風池のライン、横頚部の順で刺鍼し
た後、上小海に刺鍼し、それから再度、手甲に刺鍼します。

 手甲が最初の引き鍼と同じ指間だったら、八邪に引き鍼しま
す(写真13)。

写真13

(5)肋骨より下には刺鍼しない

 肩まわりの肋骨の下は胸空ですから、気胸を避けるため、肋
骨より下は絶対に刺さないようにします。

 首の付け根は、床に対して20度より角度をつけないように
注意して、首の中心に向かって刺します(写真14)。

写真14

 肩井は、前から床に対して水平に刺します(写真15、16)。

写真15

写真16

 ツボを取ったら、押し手にする拇指と示指を1回ずつ前に進
ませ、前(鎖骨の上方)側から押手を後側の肩の筋肉に押し付
けるように作ると、鍼を床に平行に置けます。

 弾入後、そのまま刺していくと、上から押した肩井のツボの
痼りを横から貫けます。この刺法なら、寸3全部入れても胸空
には届かないので安全ですし、肩井の凝りを弛める効果も高く
なります。

 肩甲骨まわりは、肩甲骨と肋骨の間の筋肉の中のシコリが目
標です。皮膚に対しては20°~30°位の斜刺で、鍼の向きは肩
甲骨中央の天宗穴付近に向けます(写真17)。

写真17

 肩井と肩甲骨まわりの刺し方については、図1も参考にして
ください。


 肋骨のあると所でも、背骨の直ぐ脇の華陀経などは、体の中
心に向けて刺せば、かなり深く刺鍼できますが、肋骨の在る所
は、刺す前に肋骨を触って確認するクセを付け、それより深く
刺さないようにしましょう。

 ツボは基本的に筋肉に中にあるので、肋骨より下にツボは出
ません。肋骨の間の肋間筋は小さな筋肉なので、大きなツボは
余り出ません。多くの場合に、肋骨の上にある大きな筋肉に、
大きなツボは出ます。

[追記]


 術伝では、肩まわりの治療は座位でしています。肩は、主に
座位立位で使うからです。使う姿勢で治療した方が、皮膚と表
層筋と深層筋の3つの位置の組み合わせが、使用時と治療時で
同じになり、治療効果が出やすいからです。

 また、座位の方が、肩甲骨と肋骨の間に隙間ができやすく、
臥位よりも比較的ラクに、肩甲骨と肋骨の間の痼りに鍼を当て
て貫きやすく、改善しやすいです。

 準備と後始末に手甲などに引き鍼すれば、ふらついたりする
ことはありません。


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最終更新:2016年06月15日 09:22