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術伝流・先急一本鍼・運動器偏 8.陰経もつかう五十肩

陰経もつかう五十肩

(1)古くなると陰経や脇の下にツボが出る

 先回までに、肩まわりの基本的な刺鍼や、陽経や肩・背中のツ
ボを使う動作鍼を稽古しました。それらをしても良くならない場
合は、経過が古くて、脇の下まわりや上腕の陰経側にもツボが出
ていることが多いです。そういうツボに刺鍼すると改善します。

 脇の下まわりには、脇の下そのものの他に、脇の下の前側の腕
と胸の間に張っている筋肉の中、および、脇の下の後側の腕と背
の間に張っている筋肉の中にも、ツボが出ます。

 そこで、今回は、脇の下まわりや陰経に出ているツボも使う五
十肩の施術手順を稽古します。

 特に、腕が水平よりも下、30度位までしか上がらない時には、
脇の下や上腕の陰経にツボが出ていることが多いです。その部分
がシコりになって伸ばそうとしても伸びないので、腕が少ししか
上げられなくなっているようです。

 症状を確認する時に痛い手前まで上げてもらうと上腕の陰経側
に脇の下から続く溝が見えます(写真1)。

写真1

(2)陰の動作鍼

1. 手順の全体像(図1)

図1
 手順は、オーソドックスな方法としては、手甲に引き鍼した後、
肩首腕などのツボが出やすい所にツボが出ていたら刺鍼してから、
陰経の引き鍼をし、その後に、陰経の動作鍼、陽経の動作鍼をし
て、頭の散鍼と手甲への引き鍼で後始末をします。

 腕が殆どど上がらない場合など、症状確認の段階で脇の下や陰
経にツボが出ていることが確認できた場合には、手の甲に引き鍼
(写真2)した後、直ぐに陰経の引き鍼をして陰の動作鍼に進ん
でも構いません。

写真2

 それから、陽の動作鍼をします。

 もし、動作鍼を終えた後に首のコリなどが残っていたら後始末
の前に、それらの刺鍼をします。

 後始末としては、頭の散鍼と手甲への引き鍼をして終えます。

 陽経側や肩まわりだけを使う動作鍼をしても改善しなかった後
で動作鍼する時には、陽の動作鍼の後に陰経の引き鍼をしてから、
陰の動作鍼をしても構いません。

 いずれの場合にも後始末の頭の散鍼と手甲の引き鍼を忘れない
でください。

 後始末に頭の散鍼を加えるのは、陰経側を刺鍼すると胴体内側、
特に腹の内部の邪毒に刺激が伝わってしまうことが多く、そのた
め、それらの邪毒から邪気が漏れ出して上衝し、後で頭が痛くなっ
たり、熱が出たりする可能性があるからです。

2. 手の陰経の引き鍼(除刺除抜)

 手の陰経の引き鍼(写真3)は、手の平は刺鍼すると痛がられ
ることが多いので、普通は前腕の手首ちかくの列缺、内関、陰郄
(写真4)などを使います。

写真3

写真4

 見た目に凹んでいて押して痛い所を選びます。脇の下のツボが
太陰よりなら列缺、少陰よりなら陰郄のことが多いですが、いつ
も一致するわけではありません。

 手足陰経側の刺鍼は、「徐刺徐抜」が原則です。ゆっくり刺鍼
していき、腹の息が深くなったり、瞬きが始まったりしても直ぐ
に抜きはじめないで、同じ深さで旋撚・横ゆらしなどの手技をし、
息の深さが元に戻りはじめたり、瞬きが減ったりなどの変化があっ
たら、ゆっくり静かに抜きます。

 こういう刺し方をするのは、陰経側の方が陽経側に比べて、邪
気の動きが遅いためです。

 陽経の刺鍼は「速刺徐抜」で、スッと刺していき、瞬きなどの
変化があったら直ぐに抜きはじめて、横ゆらし・弾鍼・旋撚など
しながらユックリじっくり抜きあげるという方法だったことと比
較して、違いをよく理解してください。

3. 脇の下と陰経の動作鍼の基本的な方法

 さて、陰経の引き鍼の後の陰経の動作鍼は、先ず脇の下のツボ
に痛む直前の姿勢で刺鍼(写真5)します。

写真5

 上向きなので弾入などが上手くできない場合には、患者さんに
寝てもらってから刺鍼してもよいと思います。その場合には、腕
と胴体の角度が痛み出す直前と同じ角度になるように腕を置いて
から刺鍼する(写真6)ようにしてください。

写真6

 この部分も陰経ですから、徐刺除抜で刺鍼します。

 脇の下の刺鍼が終わったら、いったん腕を戻して胴体に付ける
ようにしてから、再び腕を痛くなる手前まで上げると、先程より
少し余分に上がるようになります。

 すると、今度は、先程、脇の下の刺鍼した所から凹んで見える
溝の上で少し上腕よりの所に、圧痛のあるツボが見付かるので、
そこに除刺除抜で刺鍼します(写真7)。

写真7

 その後、いったん腕を下げてから上げてみると、また少し余分
に上がるようになり、次のツボは溝中をもう少し脇の下から遠ざ
かるので、そこに刺鍼します(写真8)。

写真8

 このツボの遠ざかり方(写真9)は、症状の重さや発症してか
らの古さによって違います。

写真9

 重く古いものだと、2cm位先に次のツボが出ることもありま
す。こういう場合には、腕が水平以上に上がるようになるために
数多く刺鍼することになるので、じっくり取り組みましょう。

 また、重い方だと小指側、親指側と二つのラインにツボが出て
いることがあります。その時の動作で制限になっている順番に刺
鍼していきます。

4. 脇の下と背中や胸の間の筋肉の刺鍼

 脇の下から上腕陰経に出ているツボに刺鍼して腕が水平近くま
で挙がるようになったけれど、それ以上挙がりにくい場合に、脇
の下と背中の間や、脇の下と胸の間に張っている筋肉の中にシコ
りがあって、そこが縮んでいるために挙がりにくい場合がありま
す。

 腕を痛くなる手前まで上げた状態で、それらの筋肉を親指と四
指で挟んでシコリを探します。

 こういうシコりを刺鍼する時は、普通に刺鍼しても途中でシコ
りが逃げてしまって刺鍼できなくなってしまうことが多いので、
確実にシコりを刺鍼するためには押し手を工夫する必要がありま
す。

 押し手の反対側に中指(と薬指)を回し、押し手と中指(と薬
指)でシコリを挟んで逃げないようにしてから、中指(と薬指)
に向かって刺鍼していくと、間にあるシコリを刺鍼できます(写
真10,11)。

写真10

写真11

 2,3つシコリが見付かったら順に刺鍼します(写真12,13)。
腕が挙がるに連れて、シコリがだんだん脇の下から遠ざかってい
くことが多いです。

写真12

写真13

 胸側が制限になっている場合も基本的には同じです。

 シコリのある場所によっては、背中側や胸側からでなく、脇の
下に続く裏側から刺鍼した方が上手くいく場合があります。そう
いう場合には、押し手を裏側に中指を背中または胸側に置いて、
弾入刺鍼します。

 ちょっと難しいですが、練習してできるようになってください。

5. 陽経側の動作鍼

 3.と4.を終えたら、だいぶ腕が挙がるようになるので、腕の陽
経や胴体側の動作鍼をして、日常生活に不便がなくなるまで改善
します。

 その後、後始末に入ります。

 陽経の動作鍼は前回を参照してください。

6. 後始末の頭の散鍼と手甲引き鍼

 後始末は、先ず頭の散鍼をします。頭の散鍼は、片手で頭を撫
でて熱い場所を探し(写真14)、もう一方の手で熱い所を散鍼
します。

写真14

 鍼先から1cmほどが指先から出るように親指と人差し指で鍼体
の部分を摘み(写真15)、置く方はユックリでもよいから、離す
方を速くするようにして散鍼します。

写真15

 小指側(小指球)で頭を弾くようにすると、速く離せます。

 速く置いてユックリ離すと、痛いだけで冷めません。

 夏にクーラーを止めて、頭がボーっと熱くなった状態にしてか
ら、練習すると上達しやすいです。先ずは、夏に自分の頭で沢山
練習してみましょう。上手くいくと、ゾクッゾクッとした感覚を
味わえます。

 頭の散鍼の後に、手甲に引き鍼して終わります。今まで書いて
きたように、指の反り具合や水掻きの厚さ痛さ、指の開き具合、
井穴を押した時の痛さなどを参考にして、ツボの出ている指間を
決めて、刺鍼します。

 初めと同じ指間になったら八邪を使います(写真16)。八邪
の刺鍼も前回を参考にしてください。

写真16

 この脇の下や陰経も使う動作鍼は、古くなって症状が重い五十
肩に効果的な刺し方です。が、他に伝えてらっしゃる先生がいな
いようなので、しっかり練習して身に付けるようにしてください。

7.少ししか上げられない時(追記:2016.1.11)

 ここまで書いているよりも、もっと重症で、少ししか上げられ
ないで、検査もしにくい場合には、「患側末端刺鍼で健側運動鍼」
が効果的です。

 患側の手甲3~4間などに刺鍼しながら、健側の腕を上げたり下
げたり、前回し後ろ回しなどをします。

 次に、患側の手陰経側の内関など(列缺,陰郄の場合も)に刺鍼し
ながら、健側の腕を上げたり下げたり、前回し後ろ回しなどをし
ます。

 そうすると、検査ができる位には、患側の腕が上がるようにな
ることが多いです。

自分で脇下まわりを養生(追記:2017.1.22)

 この腋下まわりを自分で養生すると、肩こりが解消しやすいで
すし、五十肩に成りにくいです。患者さんに伝えてあげてくださ
い。よろしくおねがいします。

自分で養生no.1(パソコン作業で疲れたら…肩首腕の辛さ)


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最終更新:2017年01月22日 06:33