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術伝流・先急一本鍼・運動器偏 13.頭刺

頭刺

(1)基本的に

 応急処置の原則は、「遠くに強く引く」でした。患部が
胴頭などの体幹部にある場合には、「遠く」として手足の
甲が使われます。が、患部が手首・足首付近の場合には、
手足の甲は「遠く」とは言えないので、手足の甲を使って
も邪気を引ききれないことがあります。

 こういう場合には、左右反対側や上下反対側、対角反対
側の対称点が「遠く」として使われることをno.12(週刊
『あはきワールド』2009年4月8日号 No.130)で説明
しました。が、足の甲の痛みには、頭が「遠く」として使
われることがあります。頭刺と言われるようです。

 頭刺は、足の甲の「遠く」として使われるだけでなく、
過敏状態を鎮(しず)めるためにも使われます。

 運動器系の痛みでも神経過敏な状態が関係していそうな
時に、準備としての引き鍼の後に、頭のツボに刺鍼して、
そのまま置鍼し、後始末の前に抜鍼するという手順で使い
ます。

図1

 頭のツボの分布と経絡の関係は、図1のような感じで、
頭の鉢巻をする辺りが陽経、その内側から頭頂部にかけて
が陰経の担当で、頭の右側は右半身、左側は左半身のツボ
が出ます。

 頭の鉢巻をする辺りの前側は陽明、横側は少陽、後ろ側
は太陽になります。鉢巻をする辺りの内側から頭頂部は、
厥陰の領域ですが、前側は太陰、後ろ側は少陰になります。

 過敏症状に頭刺を使うときには、経絡的なことを考えな
がら、一番痛い所と天から見て重なる辺りの頭の部分を探
すと、ツボが見付けやすいです。胴体や大腿部までは図2
のような感じです。

図2

 下腿からは、足厥陰と足太陰の交差(注1)、つまり、
足厥陰が前側、足太陰が中央になることも頭に入れて下さ
い。

 また、足の甲の場合には、2~3間が陽明、3~4間が少陽、
4~5間が太陽、1~2間は厥陰と考えると、臨床的には上手
く行くことが多いと思います。隣の指間にツボが出ている
こともありますが。

 頭のツボは、表面の皮膚がブヨブヨしていて、押すとペ
コペコ凹むのが特徴です。ツボが古くなるほど、ブヨブヨ
している所が広く、ペコペコしている感じも強くなる傾向
にあります。

注1: 下腿で太陰と厥陰が交差しているのは面白い現象
ですが、その理由は「ヒトが直立2足歩行している」から
ではないかと、私は考えています。詳しくは「術伝」のH
Pにある「鍼は引き鍼」の「経絡の交差と2足歩行
に書きましたので、興味のある方は読んでみてください。

(2)足の甲の痛みに対する頭刺

 次のような手順で行います。

①症状の確認
②準備:手甲への引き鍼
③頭刺
④後始末:頭散鍼→手甲への引き鍼

 詳しい説明は、以下の通りです。

1.症状の確認

 先ず、どういう動作をしたときに、どの辺りが辛いかを
確かめます。動かすのが辛いときには、無理せず、だいた
いの位置を把握します(写真1)。

写真1

 それから、その位置が、左右、陰陽、前横後ろの何処に
なるかを考えます。

 足の甲の場合には、2~3間は鉢巻をする辺りの前側の陽
明、3~4間は鉢巻をする辺りの横側の少陽、4~5間は鉢巻
をする辺りの後ろ側の太陽、1~2間は頭頂部の厥陰が担当
部位になります。

 そういう経絡の関係と左右の関係を考え合わせて、頭に
ツボが出ていそうな所の見当を付け、ツボを探します。頭
を手で触れて、凹んでブヨブヨした所を探します(写真2)。

写真2

2.準備

 選んだ頭のツボに経絡的に関連する手甲にツボを探して
(写真3)、引き鍼します(写真4)。

写真3

写真4

 患部が足甲の1~2間などで陰経側のときには、頭のツボ
も手のツボも陰経側になるので、先ず、表裏反対側の陽経
の手甲にツボに引き鍼します。それから、手首近くの列缺
などに引き鍼します(「陽→陰→陽」の原則)。

 手平側は痛いので、手の陰経に引き鍼するときには、手
首近くのツボを使います。

3.頭刺

 手に引いた後に、探しておいた頭のツボに刺鍼します
(写真5)。

写真5

 押し手を置くとき、刺鍼する所の周りを触って熱かった
ら、念のため、刺鍼する前に熱い所を散鍼した方が良いで
しょう。

 刺鍼中に、患部の足を動かすと運動鍼になります(写真6)。

写真6

 足がブラブラする高さの座位で治療できる場所が有れば、
運動鍼は実行しやすくなります。

 刺鍼後に患部を動かしてみて痛みが減っていたら、痛み
が足甲の他の所に移っていないか、触ったり動かしてもらっ
たりして調べます。

 痛みが移っていたら、そこから頭のツボを予測して、頭
を手で触ってツボを探して、見付かったツボに頭刺します。
足甲を動かしたりしても、痛みが余り出てこなくなるまで
繰り返します。

 頭にしばらく刺鍼しても痛みがなかなか少なくならない
時には、そこに鍼を置鍼します。それから、患部と経絡的
に関係する遠くへの引き鍼、患部の刺鍼、経絡的に関連す
る所への刺鍼、動作鍼、巨刺、上下刺、対角刺などをする
と、減りやすいです。

 そういうときには、頭に置鍼した鍼を抜いてから、後始
末に入ります。

4.後始末

 後始末は、頭の熱いと所を散鍼(写真7)した後に、手
甲を調べ出ているツボに刺鍼します(写真8)。

写真7

写真8

(2)過敏症候群に対する頭刺

 治療を始める前に症状の確認をしますが、そのときの話
しぶりなどから興奮してらっしゃるような感じや、物事に
過敏そうな感じを受けたときには、患部の他にも、頭の様
子を調べさせてもらいます。

 「痛みに対する感受性が過敏になっているときには、痛
みを強く感じることがあります。辛い状況の中で、それ以
上辛さの原因を増やさないためです。そういうときには患
部だけでなく、頭のツボを調べて刺鍼すると、ホッとした
感じになり、痛みに対する感受性が適度になり、辛さが減
ることが多いです。」

 というような感じで説明した上で、頭を調べさせてもら
い、ツボが出ていたら頭刺も取り入れた応急処置をします。

 手順は、大雑把には次の通りです。

①症状確認
②準備:手足甲引き鍼
③頭刺、必要なら置鍼
④患部および関連するツボへの刺鍼など
⑤頭に置鍼した鍼の抜鍼
⑥頭散鍼→手甲への引き鍼

 患部の症状を確認した後に、関連すると思われる頭のツ
ボを探しておきます。準備として、頭のツボに経絡的に関
係する手足甲に引き鍼します。

 頭のツボの周りが熱ければ散鍼してから、そのツボに刺
鍼し、しばらく刺鍼しても反応が治まらない所には置鍼し
ます。置鍼するのは、せいぜい2,3カ所位にします。

 その後に、応急処置で今まで書いてきたように、患部と
経絡的に関係する遠くへの引き鍼、患部や経絡的に関連す
る所への刺鍼、動作鍼、手首足首から先なら巨刺&運動鍼
などをして、辛さを軽減していきます。

 充分に応急処置が済んだら、頭に置鍼した鍼を抜きます。
それから後始末に入り、頭の熱い所に散鍼してから、手甲
に引き鍼します。

 過敏症候群の人は敏感なので、話し方に注意しましょう。
「あなたの痛みは、気の持ち方のせいだ」と伝えたように
誤解された場合には、相手が怒ってしまうのも当然だなと
思います。

 そうではなく、心も辛い状況に置かれているので、痛み
に対する感受性を高くして、それ以上辛いことを味あわな
くても済むようにしているわけです。

 そのことを理解して、ホッとする状況を作ることが、心
が落ち着くだけでなく、患部の痛みを軽減するのにも役立
つし、実際に、患部への鍼の効果も上がりやすいことを理
解してもらいましょう。

(3)応用:下腿の痛み

 足の甲だけでなく、下腿などの痛みにも応用できます。
足首の少し膝寄りの下腿前面が痛く、少し過敏傾向もある
人に施術した例を出します。

1.症状確認

 左下腿前面の足首寄り(写真9)が痛いということで、
調べたら、患側の前頭部にもツボが出ていました(写真10)。

写真9

写真10

2.準備

 見付けた頭のツボに経絡的に関係する手甲の陽明側を調
べたら、合谷にツボが出ていた(写真11)ので、そこに引
き鍼しました。

写真11

3.頭刺

 頭に見付けておいたツボに刺鍼しました。

 こういう場所に置鍼するときには、抜けないように少し
鍼を入れた方が良いので、横刺にします。彈入した後に、
鍼を横にして、頭蓋骨と指で押し手を作るようにすると、
刺入しやすいです(写真12)。

写真12

 少し頭頂寄りも探したら、ツボが出ていました。そこに
も置鍼しておきました(写真13,14)。

写真13

写真14

4.対角刺での運動鍼と、末端への引き鍼

 患部の対角の右前腕に出ていたツボに刺鍼しながら、患
部近くの足首を、痛くない範囲で、ゆっくり動かしてもら
いました(写真15)。

写真15

 その後に、患部の末端側の足甲2~3間(内庭の辺り)に
出ていたツボに引き鍼しました(写真16)。

写真16

5.後始末

 後始末に入り、先ず、頭に置鍼していた鍼を抜きました。
それから、頭の熱い所に散鍼し(写真17)、手甲に引き鍼
して(写真18)、仕上げました。

写真17

写真18

 こんな風に、今まで書いてきたことを組み合わせて治療
することもできます。色々と工夫してみてください。


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最終更新:2018年07月05日 14:16