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術伝流一本鍼no.26 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(7))

下焦の急性期

生理痛など月経前症候群


(1)はじめに

 今回は、下焦、つまり、臍より下の腹腔内に関係する内科系
症状の急性期の処置について、書いていきます。

 生理痛など月経前症候群が代表例になります。

(2)下焦の内科系急性症状(図1)

 下焦に、歪み、邪毒、虚があると、そこから頭に向かって、
邪気が衝き上げます(上衝)。 

図1

 下焦で症状が激しければ、表位、上焦、中焦の症状は少し軽
くなりますが、無くなるわけではないので、顔や頭を始め、肩
甲骨・鎖骨から上の表位や、上焦、中焦にも、熱や痛みなどの
色々な症状が少し出ていることが多いです。

 特に、下焦が虚していて、虚火上逆で上衝が起きている場合
は、下焦の症状よりも、表位上焦の表情の方が自覚されやすく
なります。更年期障害のときが典型例です。

 下焦の急性期の処置の基本は、表位などと同じく、下焦で動
いていたり、頭などにも上がっている邪気を少なくすること、
邪気を体の外に引き出すことです。

 手足の末端に引くこと、下焦の背中側(陽位)に引くことな
どが、具体的手段になります。

 手早い刺鍼が大切で、邪気の波が来終わった時点で抜鍼する
のがコツです。次の波が来てしまうと、また、上衝を引き起こ
し症状が復活することが多くなります。この辺りも、表位など
と同じです。

(3)実技と手順

 姿勢は、ラクな姿勢でよいと思います。

 寝た姿勢で刺鍼した場合でも、後始末の頭の散鍼と手甲への
引き鍼は、普通、座位でします。その方が、後始末がしやすい
し、後始末の効果が上がりやすいからです。また、その方が、
症状の復活が少ないからです。この辺りは、 中焦と同じです。

 もし、症状が酷くて寝たまま後始末し、良くなって起き上がっ
たときに症状が復活した場合は、座位で、表位や頭に散鍼して
から、手甲に引き鍼します。上衝が強いときには、座位で、先
に手甲に引き鍼してから、表位や頭に散鍼し、もう一度手甲な
どに引き鍼します。

 手順は、中焦のときと、基本的に同じです。

1.診察

2.準備:上衝を治める
  ・手甲に引く

3.手足に引く          
  (1)手陰経に引く
  (2)必要があれば、手陽経にも引く
  (3)足陰経に引く
  (4)足陽経に引く

4.陽に引く
  (1)陽側の熱いところを散鍼
  (2)陽側に出ているツボに引く

5.必要な処置を付け加える

6.後始末:上衝をおさめる
  (1)頭の散鍼
  (2)手甲に引く

 途中で状況に応じて必要な処置を付け加えたりします。

1.診察

 先ずは、患者さんの話を、よく聞きます。先に書いたように、
生理痛など月経前症候群と、更年期障害が典型例です。それら
の随伴症状もよく聞きましょう。

 顔の表情や、色艶、赤み、頭のハチマキをする辺りの温度差
などは、表位のときと同じように見ます。

 下焦の場合には、それ以外に、必要があれば、下腹部や、腰
椎3番〜仙骨の辺りまでも見ます。

 また、下焦の急性期にツボが出ることが多い手陰経の内関の
辺りや、足の厥陰経、少陽経なども触ってみます。

2.準備:上衝を治める

 表位のときと同じように、患者さんの訴える症状、頭のハチ
マキをする辺りの温度差、指の周囲の状態の3つから、手甲の
ツボを選びます。そのツボに刺鍼して、頭の方に衝き上げてい
る邪気を引き、体の外へ出します。

 鍼を抜く方向に引きながら、横揺らし・旋捻・弾鍼などの手
技をして、邪気の波が来終わったときに抜鍼します。引き気味
にした鍼がスッと抜ける感じのときが抜き時のことが多いです。

3.手足に引く

 下焦のある下腹部で蠢(うごめ)いている邪気を、下焦と関
係が深いとされる足の厥陰経を使って引き出します。

 また、そこから動いた邪気が胸を通り頭の方に衝き上げてい
るので、手厥陰にツボが出ていることも多いです。出ていれば、
そこも使います。

(1)手陰経に引く

 手の陰経の手首の近くのツボを使って、下焦から頭の方へ衝
き上げている邪気を抜き出します。

 内関が多く、左右の内関を比較して、より凹みが大きく、嫌
な感じの強い方を選びます。内関にツボが出ていないときは、
もう少し肘よりのツボを使います。

 症状が胸上部から上で激しいときには、列缺に出ていること
もあります。また、そういう場合に、列缺に出ないで、少し肘
よりのこともあります。

 上焦のときと同じように、手早さも取り入れた徐刺徐抜で、
刺鍼します。特に、初心のうちは、早めに抜くように心掛けて
ください。

(2)必要があれば、手陽経にも引く

 手の陰経に引いた後に、表位に上衝が復活した場合には、表
位と関係する手陽経に引いておきます。

(3)足陰経に引く

 下焦と関係の深い足陰経に出ているツボに引きます。下焦と
一番関係が深いと言われるのは、足厥陰ですが、他の足陰経に
出ていることも、あります。

 急性症状は、手足末端に引きやすいので、足首から先を探す
ことが多いです。

ツボ
 足首から先の、中封、照海、太衝など。それらを押して見て、
凹んで弾力がなく、嫌な感じの強い所を選びます。

 それらに出ていなかったり、痛がられたりしたら、下腿の蠡
溝を使います。

刺法
 基本的には、手陰経と同じです。手早さも取り入れた徐刺徐
抜で刺鍼し、早めに抜鍼するようにします。

(4) 足陽経に引く

 下焦と関係の深い足陽経に出ているツボに引きます。

 下焦のツボは、昔は、小腹急結といって、下腹の左右どちら
かの半分の中央に出ることが多かったそうです。しかし、現在
では、臍の斜め下2,3cmの所と、腸骨の腹側で五枢〜維道の辺
りの2カ所に出ていることが多いです。

 そのため、それに関係する足陽経のツボは、脛骨の直ぐ脇の
ラインと少陽経に多くなります。

ツボ
 腹のツボが臍の近くなら、足甲2~3間の内庭など。内庭より
もう少し足首よりに出ていることもあります。そこらに出てい
なかったり、痛がられたりしたら、下腿の脛骨の直ぐ脇のライ
ンで、膝からの位置が豊隆の辺りで、ツボを探します。

 腹のツボが五枢〜維道の近くなら、足甲4~5間の地五会、足
臨泣など。足甲3~4間のそれらと同位置に出ていることもあり
ます。または、下腿の足少陽のツボ。下腿でも、豊隆のライン
に出ていることもあります。

 更年期障害など経過が長い場合には、大腿の腹近くの居髎に
出ていることもあります。このツボを使うなら、男性鍼灸師の
場合は、打鍼も選択肢になると思います。

刺法
 手陽経と同じく、速刺徐抜で、手早く刺鍼します。

4.陽に引く

 下焦の邪毒に関係する背中側の熱い所があれば散鍼します。
その後に、その辺りに出ているツボに引き鍼します。

(1) 陽側の熱い所に散鍼

 下焦の背中側を触って、熱い所があれば、散鍼します。

 表位や上焦よりも、確率的には少ないです。

(2) 陽側に出ているツボに引く

 下焦に関係する背中側に出ているツボを見付け、そこに引き
鍼します。

 生理痛など月経前症候群の場合は、腰痛などの形で、背中側
にも症状が出ていることが多いです。

ツボ
 下焦の背中側、腰椎3番から仙骨にかけての高さに多いです。
ただし、真裏とは限りません。

 先ず、正中線を指を滑らせて、なんとなく凹んだり弾力の無
さそうな感じのする所を探します。そこから、同じ高さを横に
ズラして、背骨の直ぐ脇の華佗経、1行線、2行線と左右を比
べていき、なんとなく凹んだり弾力が無さそうなところを探し
ます。

 仙骨の辺りは、仙骨孔や仙腸関節の周りを調べます。

 下焦でも、多いのは、背骨の直ぐ脇の華佗経や、仙骨孔です。
また、腰椎部の脊柱起立筋の外側で、一番骨盤よりの腰徹腹に
ツボが出ていることも多いです。

 しかし、中焦の場合と比較すると、1,2行線に出ていること
も多いように思います。

 腰痛を伴うときは、環跳や殿部中央の辺りにも出ていること
が多いです。 

刺法
 陽経と同じように、速刺徐抜で刺鍼します。すばやく邪気を
捕らえ、押し手を引き気味にして、来ている邪気を引き出し尽
くすように刺鍼し、次の邪気が来る前に抜鍼します。

 殿部は、居髎と同じく、打鍼でも良いです。

5.必要な処置をつけくわえる

 必要な処置があれば、適宜付け加えます。

(1)下腿裏のツボ

 腰殿部のツボに関係して、下腿裏にツボが出ていることがあ
ります。承山、飛揚〜外丘など。 速刺徐抜で刺鍼します。

(2)表位上焦などの症状

 もともと、表位上焦に症状が出ていて、それがここまでの治
療で収まらなかったり、ここまで治療してきた結果、表位に症
状が出てきたりしたら、素早く軽めに治療します。

 先ず、熱い所があったら散鍼します。ツボが出ていたら、弾
入後に直ぐ抜く方向に引きながら、横揺らし・旋捻・弾鍼など
の手技をし、早めに抜鍼します。

6.仕上げ

 中焦と同じく、座位になってもらいます。

(1) 頭の散鍼

 頭の散鍼は、片手で頭を撫でて熱い所を探し、もう一方の手
で熱い所を散鍼します。

(2) 手の甲に引き鍼

 終わりに、再度、手甲に引き鍼をして仕上げます。手指、手
甲、八邪を調べ、一番悪そうな手甲のツボに刺鍼します。

 初めと同じ指間になったり、手甲を痛がられたり、八邪の方
が違和感が強かったりしたら、八邪を使います。

(4)器質性病変に注意

 下焦の内科系急性期の処置でも、重い場合、特に器質性病変
の場合には、救急医療と連携する点は同じです。下焦の場合は、
子宮外妊娠などが該当するでしょうか?

 例え鍼灸をして治まっても、数時間以内に痛み辛さが復活し
た場合には、器質性病変などを疑い、救急医療と連携してくだ
さい。 

(5)慢性期の養生

 生理痛を始め、月経前症候群や更年期障害などは、経過が長
いことが多いので、先急つまり応急処置で症状が治まっても、
下焦の歪み、邪毒、虚を改善しないと、再発が多いです。

 慢性期の養生をして、その辺りを改善させてもらいましょう。

 筆者は、腹診を中心に、腹足背などの古いツボを改善するこ
とで、慢性期の養生をしています。腹診は、日本で、特に江戸
時代に発達した診察法だそうで、日本の伝統を残したいなと思
いますので。「先急の一本鍼」を終えたら始める予定の「養生
の一本鍼」で詳しく解説します。

(6)術伝流打鍼術

 殿部などに打鍼する場合に、筆者は、指位の太さの金属や石
で、長さ数センチの物を、打鍵器で叩いています。細い金属を
木槌で叩くよりも、患者さんの評判が良いです。当りが柔らか
なせいだと思います。

 そして、初め高い音が低く鈍い音に変わったときを、止める
目安にしています。カチカチと過緊張していた筋肉が弛んで弾
力が出てくるので、高い音が低く鈍い音になるのではないかな
と思っています。

(7)写真付き症例

 生理前で、生理痛はまだ出ていないが、胸上部が張って辛い
という人(写真1)。

写真1

 上焦に症状が出ているが、原因が下焦にある例です。

 比較すると左側の方が辛いということで、頭の左側や左手を
中心に調べました(写真2)。やはり、頭は、左側が熱かった
し、左手の手甲2~3間にツボが出ていました。出ていたツボに、
速刺徐抜で刺鍼しました(写真3)。

写真2

写真3

 手陰経手首の辺りを調べたら、胸上部のせいか、両側の列缺
の辺りにツボが出ていました。痛みの強い左側から順に、刺鍼
しました(写真4,5)。

写真4

写真5

 瞬きや腹の息も目安にしながら、早めの徐刺徐抜で刺鍼して
いきました。張っている場所を見ながら刺鍼していると、その
辺りが震えて弛む感じがしたので、それを機会に抜鍼しました。

 この2つの刺鍼で、胸上部の張った感じは、すっきり治まっ
たとのことでした。

 最近の月経前症候群の人には、蠡溝にツボが出ていることが
多いです。調べてみたら(写真6)、やはりツボが出ていまし
た。腹の息なども目安にして、早めの徐刺徐抜で刺鍼(写真7)。

写真6

写真7

 足甲を調べたら、3~4間にツボが出ていたので、やはり腹の
息なども参考に、速刺徐抜で刺鍼(写真8)。

写真8

 昔の腰痛の名残か、上仙の辺りが生理になると痛むと言うの
で、調べたら左側にツボが出ていました(写真9)。念のため
腰徹腹も調べましたが(写真10)、出てませんでした。上仙
の左側に出ていたツボに刺鍼しました(写真11)。

写真9
写真10
写真11

 腰部に出ている関係から、下腿にもツボが出ていないか調べ
たら、承山の辺りに出ていました(写真12)。やはり、背中や
腰殿部の正中線の直ぐ近くにツボが出ているときは、下腿裏も
中心近くだなと思いました。そこに刺鍼(写真13)しました。

写真12

写真13

 症状はすっかり治まったとのことなので、頭に散鍼し(写真
14)、手の八邪に引き鍼して(写真15)、仕上げました。

写真14
写真15

  生理痛のときには、蠡溝に円皮鍼を貼るよう伝えました。


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最終更新:2018年08月22日 14:25