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術伝流一本鍼no.25 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(6))

中焦の急性期

お腹が痛い、吐き気、胸焼け


(1)はじめに

 今回は、中焦、つまり、腹腔内の臍より上に関係する内科系
症状の急性期の処置について、書いていきます。

(2)中焦の内科系急性症状

 内科系の急性症状では、腹の邪毒・虚から頭に向かって邪気
が衝(つ)き上げる上衝が見られ、中焦に、歪み、邪毒がある
ときには、中焦で急性症状を引き起こします(図1)。 

図1

 そのため、表位や上焦の症状は少し軽くなりますが、無くな
るわけではないので、顔や頭を始め、肩甲骨・鎖骨から上の表
位や、胸の上焦にも、熱や痛みなどの色々な症状が少し出てい
ることが多いです。

 中焦の急性期の処置の基本は、上焦などと同じく、体の中で
動いて症状を引き起こしている邪気を少なくすること、邪気を
体の外に引き出すことです。

 手足の末端に引くこと、中焦の背中側(陽位)に引くことな
どが具体的手段になります。

 手早い刺鍼が大切で、邪気の波が来終わった時点で抜鍼する
のがコツです。次の波が来てしまうと、また、上衝を引き起こ
し症状が復活することが多くなります。この辺りも、表位など
と同じです。

(3)実技と手順

 姿勢は、ラクな姿勢で良いと思います。

 ただし、寝て刺鍼した場合でも、後始末の頭の散鍼と手甲へ
の引き鍼は、座位でします。この方が、後始末がしやすいし、
後始末の効果が上がりやすいからです。

 後始末も寝てした場合に、後で起き上がったときに症状が復
活することがありますが、表位や上焦ほど、座位との差は少な
いです。表位や上焦の場合よりは、表位や上焦に来て蠢いてい
る邪気が少ないからだと思います。

 もし、起き上がったときに症状が復活した場合は、座位で、
再度、手甲に引き鍼し、その後に、表位に散鍼してから手甲に
引き鍼します。

 手順の基本は、上焦のときと、基本的には同じですが、足の
経絡も使うことが多くなります。中焦は、足の経絡と関係が深
いので。

1.診察

2.準備:上衝を治める
  ・手甲に引く

3.手足に引く          
  (1)手陰経に引く
  (2)必要があれば、手陽経にも引く
  (3)足陰経に引く
  (4)足陽経に引く

4.陽に引く
  (1)陽側の熱い所を散鍼
  (2)陽側に出ているツボに引く

5.必要な処置を付け加える

6.後始末:上衝を治める
  (1)頭の散鍼
  (2)手甲に引く

途中で状況に応じて必要な処置を付け加えたりします。

1.診察

 先ずは、患者さんの話をよく聞きます。腹が痛い、特に胃腸
関係で腹が痛いことが、中焦の症状として、よく見られます。
吐き気や胸焼けも、胃腸の状態と関係が深いので、中焦の急性
期としても良いと思います。

 顔の表情や、色艶、赤み、頭のハチマキをする辺りの温度差
などは、表位のときと同じように見ます。

 中焦の場合には、それ以外に、胸下部から臍の周辺までと、
背中側の胸椎7辺りから腰椎3辺りまでも見ます。

 また、中焦の急性期にツボが出ることが多い手陰経の内関の
周辺や、足の太陰経や陽明経も触ってみます。

2.準備:上衝を治める

 表位などのときと同じように、患者さんの訴える症状、頭の
ハチマキをする辺りの温度差、指の周辺の状態の3つから、手
甲のツボを選びます。そのツボに刺鍼して、頭に衝き上げてい
る邪気を引き出します。

 繰り返しますが、以下2つがコツです。

(1) 鍼を抜く方向に引きながら横揺らし・旋捻・弾鍼などの手
技をする

(2)邪気の波が来終わったときに抜鍼する

コツ〉スッと抜ける感じのときが抜き時
 少し引き気味にしていると、ある瞬間にスッと鍼が抜ける感
じがするときがあります。そのときが邪気の波が来終わったと
きのことが多いです。

 ツボは、基本的には、ツボの表面に近い筋肉は、フニャフニャ
した過弛緩の状態で、ツボの底は、カチカチの過緊張の状態と
いう構造をしています(図2)。

図2

 鍼をツボの底の過緊張の所まで入れ、そこの邪気を動かし引
き出していくと、邪気は、刺入時にはフニャフニャしていた部
分に動きます。

 すると、その邪気の影響で、フニャフニャと過弛緩状態だっ
た筋肉が、一時的に、カチカチの過緊張状態になります。それ
で、抜く方向に引いても、鍼は抜けてこないわけです。

 抜く方向に引きながら、横ゆらし・弾鍼・旋捻などの手技を
していると、邪気が、より外に、つまり、皮膚に近い方に抜け
て、過緊張して鍼先を噛んでいた筋肉が弛みます。そのときに
鍼が少しスッと抜ける感じになります。

 そのときが、ちょうど邪気の波が来終わったときのことが多
いので、そのときに抜くようにすると、イイ感じになりやすい
わけです。

 ただ、手甲のような部分でも、抜く方向に引いても、鍼先を
噛んで抜けてこないことが、1度だけではなく、2,3度あるこ
ともあります。そういうときは、また、抜く方向に引きながら、
横揺らしなどをします。

 ただし、あまり注意深くやって遅くなるのは避けてください。
あくまで、早め早めを心掛けてください。また、念のため書い
ておきますが、邪気の動きや症状の変化も参考にしてください。

3.手足に引く

 上焦のときと同じように、中焦の急性期でも、手足に引くこ
とを省略することは、ありません。中焦の症状が出ているとい
うことは、中焦のある腹腔内部の臍から上に邪気が蠢(うごめ)
いているということです。

 そこで、中焦と関係が深いとされる足の太陰経や陽明経を使
うわけです。また、こういう中焦の急性症状では、手厥陰の内
関にツボが出ていることが多く、出ていれば、そこも使います。
特に、吐き気や胸焼けのときは、出ていることが多いです。

(1)手陰経に引く

 手陰経の手首の近くのツボを使って、中焦から頭の方へ衝き
上げている邪気を抜き出します。

ツボ
 先に書いたように、内関にツボが出ていることが多いです。

 左右の内関を比較して、より凹みが大きく、イヤな感じの強
い方を選びます。内関にツボが出ていないときは、もう少し肘
よりのツボを使います。

刺法
 上焦のときと同じように、手早さも取り入れた徐刺徐抜で刺
鍼します。特に、初心のうちは、早めに抜くように心がけてく
ださい。

 邪気が分からない人は、患者さんの様子をよく観察し、患者
さんにも様子を伺いながら、症状が減ったら抜くようにしてく
ださい。

 鍼がスッと抜けるように感じたときも目安の一つですが、押
し手を引き気味にしすぎて、中焦下焦から新たな邪気を呼び寄
せないよう注意してください。

 抜くのが遅くて症状がぶり返したり、早すぎて症状が治まら
なかったりしたら、次回からは調節するようにしてください。

 ただし、その場で刺し直すことは、できるだけ避けてくださ
い。ますます治まらないことになる可能性の方が高いからです。
先ずは、足に引いたり、背に引いたりして治めることにしましょ
う。

 繰り返しになりますが、患者さんも一人一人違いますし、同
じ患者さんでも、時と場合によって違いますので、経験を積ん
で、適度な抜き時をつかんでいくようにしてください。

(2)必要があれば、手陽経にも引く

 手の陰経に引いた後に、表位に上衝が復活した場合には、表
位と関係する手陽経に引いておきます。

(3)足陰経に引く

 中焦と関係の深い足陰経に出ているツボに引きます。中焦と
一番関係が深いと言われるのは、足太陰ですが、他の足陰経に
出ていることも、結構多いです。

 急性症状は、手足末端に引きやすいので、足首から先を探す
ことが多いです。

ツボ
 足首の周辺の商丘、中封、照海などや、もう少し先の太衝、
公孫など。それらを押して見て、凹んで弾力がない感じの所や
違和感の強い所を選びます。

 そこに出ていなかったり、痛がられたりしたら、下腿のツボ
を使います。蠡溝、漏谷、築賓など。

刺法
 基本的には、手陰経と同じです。手早さも取り入れた徐刺除
伐で刺鍼し、早めに抜鍼するようにします。

(4) 足陽経に引く

 中焦と関係の深い足陽経に出ているツボに引きます。中焦と
一番関係が深いと言われるのは、足陽明ですが、少し横の足少
陽よりに出ていることもあります。

 やはり、急性症状は、手足末端に引きやすいので、足首から
先を探すことが多いです。

ツボ
 足甲の内庭、陥谷、解谿など。その隣の足甲3~4間の同じ位
の位置に出ていることもあります。そのあたりで、表面が凹ん
でいて、弾力がなく、奥が堅く、押してイヤな感じの強い所を
選びます。

 それらに出ていなかったら、下腿のツボを使います。豊隆の
周辺で、脛骨の直ぐ脇から真横の少陽まで、筋肉の間の溝を探
します。

 足陽経前側のツボの位置は、腹のツボの位置と相関関係が高
いです。腹のツボが中心線よりにあれば、脛骨すぐ脇に出る可
能性が高く、体の横側に近ければ足も横側に出やすいです。
「養生の一本鍼」のときに、くわしく解説します。

刺法
 手陽経と同じく、速刺除抜で、抜く方向に引きながら、手早
く刺鍼します。

4.陽に引く

 中焦に出ている症状に関係する背中側の熱い所があれば散鍼
します。その後に、その辺りに出ているツボに引き鍼します。

(1) 陽側の熱い所に散鍼

 中焦に出ている症状に関係する背中側を触って、熱い所があ
れば散鍼します。

 表位や上焦よりも確率的には少ないことが多くなります。急
性症状で、熱が出やすいのは、表位や上焦なので。

(2) 陽側に出ているツボに引く

 中焦に出ている症状に関係する背中側に出ているツボを見付
け、そこに引き鍼します。

ツボ
 中焦の背中側に多いです。一番多いのは、症状の出ている所
と、立ち姿勢で同じ位の高さになる所です。

 ただし、 真裏とは限らないので、「胃の六つ灸」として有名
な辺り、つまり、胸椎7番から11番の周辺を探します。また、
もう少し下の腰椎3辺りまでに出ていることもあります。

 胸焼けや吐き気のときには、胸椎5~7位に出ていることも
あります。

 先ず、正中線を指を滑らして、なんとなく凹んだり弾力の無さ
そうな感じのする所、背骨が出っ張ったり凹んだりした感じの所、
椎間が広かったり狭かったりする感じの所、ベタベタした感じが
する所を探します。

 そこから、同じ高さを横にズラして、背骨の直ぐ脇の華佗経、
1行線、2行線と左右を比べていき、なんとなく凹んだり弾力
が無さそうな所、ベタついた感じの所を探します。

 中焦で多いのは、背骨直ぐ脇の華佗経です。また、腰椎部の
脊柱起立筋の外側で、一番肋骨よりの痞根にツボが出ているこ
とも多いです。特に、腹の症状や痼りの左右差が大きいときに
は、痞根に出ていることが多くなります。

 現代人は、歪みが大きいからか、兪穴のあるラインに出てい
る人は少ないです。もちろん、いないわけではありませんが。 

刺法
 陽経と同じように、速刺徐抜で刺鍼します。素早く邪気を捕
らえ、押し手を引き気味にして、来ている邪気を引き出し尽く
すように刺鍼し、次の邪気が来る前に抜鍼します。

5.必要な処置を付け加える

 必要な処置があれば、適宜、付け加えます。

(1)下腿裏(下腿の背中側)のツボ

 背中のツボに関係して、下腿裏にツボが出ていることがあり
ます。承山、飛揚、外丘など、その辺りで、表面が凹んでいて
弾力がなく、奥が堅く、押してイヤな感じの強い所を選びます。

 腹と下腿前面陽経側の関係と同じように、背中と下腿後面陽
経側も、中心に近いもの同士、外寄りのもの同士が、関係して
いることが多いです。

 仰向けで足陽経に刺鍼したときと同じように、速刺除抜で早
めに刺鍼します。

(2)表位に症状が出たら

 ここまで治療してくると、表位に症状が出てくることがあり
ます。その場合は、素早く軽めに治療します。熱い所に散鍼し、
ツボが出ていたら、速刺除抜で刺鍼します。

 この場合は、特に浅目に、弾入したら、直ぐ抜く方向に引き
ながら、横揺らし・旋捻・弾鍼などの手技をし、早めに抜鍼し
ます。

6.仕上げ:上衝を治める

 表位の場合と同じです。座位になってもらいます。

(1) 頭の散鍼

 頭の散鍼は、片手で頭を撫でて熱い所を探し、もう一方の手
で熱い所を散鍼します。

(2) 手の甲に引き鍼

 終わりに、もう一度、手甲に引き鍼して仕上げます。手指、
手甲、八邪を調べ、一番悪そうな手甲のツボに刺鍼します。

 初めと同じ指間になったら八邪を使います。

(4)症例…食べ過ぎで調子が悪い

 前々日に食べ過ぎて、腹の調子が悪く、食べられないので、
前日から食べていないという人。

 頭を触ったら(写真1)、前頭部、特に左が熱く感じました。

写真1

 腹を診たら(写真2)、臍の左上が硬い状態でした(写真3)。

写真2

写真3

 頭も腹も左でしたが、いつも同じとは限りません。上衝は、
比較すると、左に衝き上げることが多く、腹の右が硬くても、
頭は左ということもあります。

 頭の熱さに応じて、左合谷を診たらツボが出ていたので、刺
鍼(写真4)。

写真4

 次は、中焦の急性症状のときにツボが出ていることが多い内
関を診たら、やはり左にツボが出ていた(写真5)ので、刺鍼。

写真5

 足の太陰はじめ陰経の足首から先を診ていったら、内踝前下
方(商丘)が凹んでいて、色も周りと違い、ここに鍼してくだ
さいという感じだったし、押して違和感もあったので、刺鍼。
(写真6)

写真6

 そして、足陽経を診ていったら、内庭のツボのイヤな感じが
強いということで、刺鍼(写真7)。

写真7

 ここまで終わった時点で、腹を診たら、奥にまだ痼りは残っ
ていたが、表面近い方の硬さは消えていました。

 うつ伏せになってもらい、背中を調べていったら(写真8)、
左側の胸椎7〜11の華佗経と、痞根にツボが出ていました(写
真9)。現在の日本で腹の痛いときの背中のツボの出方の典型
例だなと思いました。

写真8

写真9

 順に刺鍼しました。 華佗経は、少し背骨にの方に向けて刺
鍼します(写真10)。痞根は、横から畳に平行に刺鍼します
(写真11)。

写真10

写真11

 背中のツボと関係する足裏を調べ、2カ所を比較して(写真
12)、違和感の強かった方に刺鍼しました(写真13)。

写真12

写真13

 肩から肩甲間部を触ったら、既に、汗がうっすらと出ている
状態だったので、この辺りの散鍼は省略しました。

 頭の熱い所に散鍼し(写真14)、手甲に引き鍼して仕上げま
した(写真15)。

写真14

写真15

 腹の硬さが、より少なくなり、調子も良くなったようで、昼
には、しっかり弁当を食べていました。


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最終更新:2017年02月25日 12:24