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術伝流一本鍼no.23 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(4))

表位・少陽経の急性期

めまい、耳鳴り、突発性難聴、偏頭痛など


 今回は、表位の急性期の中で、上衝が少陽経に起こる場合で
す。

(1)表位少陽経の急性症状

 邪気が少陽経を衝き上げれば、体の横側の症状が出ます。と
言うか、上衝が起こり、邪気が頭の方に衝き上げ、元々少陽経
に歪みが合った場合には、体の横側の症状が出ます。横側の症
状の例は、目眩(めまい)、耳鳴り、突発性難聴、偏頭痛など
です。

 聴覚に関係する耳や、体の平衡を取るのに関係する三半規管
が、体の横側にあることに由来すると思われます。

 上衝に伴って少陽経の症状が出た場合には、体の左右差が大
きいことが多いです。ですから、この場合は、応急処置で治まっ
ても、体の左右差を少なくしないと、再発することが多くなり
ます。

 そのため、慢性期の養生では、左右差の改善を、腹の邪毒、
歪み、虚の改善に加える必要が出てきます。

 処置の基本は、陽明経などと同じく、既に頭に上がっている
邪気を少なくすること、邪気を体の外に引き出すことが、基本
になります。手足の末端に引くことと表位の散鍼が具体的手段
です。

 手早い刺鍼が大切で、邪気の波が来終わった時点で抜鍼する
のがコツです。次の波が来てしまうと、また、上衝を引き起こ
し症状が復活することが多くなります。

 時間的にユトリがあり症状を悪化させないようなら、体の左
右差の改善も付け加えてもよいと思います。ただし、加減を間
違えて症状を悪化させないような注意は必要です。

(2)実技と手順

 姿勢は、基本的には、座位が望ましいです。寝て刺鍼した場
合には、刺鍼した後で起きあがったときに症状が復活しやすい
からです。特に、目眩の場合は、多いです。

 ただし、座位が無理なときは仕方がありません。寝て刺鍼し、
症状が復活したときには、座位でもう一度手甲に引き鍼し、そ
の後に表位に散鍼してから手甲に引き鍼します。

 手順の基本は、陽明などのときと同じです。

1.診察

2.準備:上衝を治める
  ・手甲(手指)に引く

(3.手足に引く          )
( (1) 手足陰経に引く:出ていれば引く)
( (2) 必要があれば、陽経にも引く  )

4.陽に引く
  (1) 表位の熱い所を散鍼
  (2) 陽側に出ているツボに引く

(5.左右差解消をする)

6.後始末:上衝をおさめる
  (1) 頭の散鍼
  (2) 手甲に引く

 途中で状況に応じて必要な処置を付け加えたりします。

1.診察

 繰り返しになりますが、表位の急性症状の診察で、先ず見た
いのは、どの経絡に歪みがあり、上衝した邪気の影響を受けて
いるかです。その目安になるのは、主に3つ、症状、頭の熱さ、
八邪の厚みなど指周りの異常です。

 今回は、それで、主に少陽経が異常だと判断した場合です。

2.準備:上衝を治めるため手甲に引き鍼

 先ず初めに、頭に上がった邪気を少しでも降ろすために、手
甲のツボに引きます。

〈ツボ〉
 少陽の場合は、眩暈、偏頭痛、耳鳴りなど、耳や内耳の平衡
器官が関係していることが多く、薬指と、その先の手甲のツボ
と経絡的相関が高いです。手甲のツボは、4~5間の中渚の可能
性が高いです。

「小陽の病たる、口苦く、ノド乾き、目眩(くるめ)くなり」
                        (傷寒論)

 頭のハチマキをする辺りを触って一番熱い所と経絡的(前・
横・後ろ)に関連する手甲のツボを選んでもよいです。

 少しズレて、隣の指の周りにも出ることもあります。

 症状の出ている場所、頭の熱い所、手甲や指にツボの出てい
る所、その3つが経絡的関係で同じでない場合には、手甲や指
に出ているツボを先ず優先します。この辺りも陽明などと同じ
です。

〈刺法〉
 瞬き、顔の赤み、声のトーンや、目眩などの症状を参考に上
衝が治まるように刺鍼します。

 刺法は、基本的には、速刺除抜です。邪気を感じたり、瞬き
が始まったりしたら、深さを変えずに、抜く方向に力を加えな
がら、横揺らし、旋捻などし、来ている邪気を、全て、体の外
に引き出すように刺鍼します。

 そして、繰り返しますが、邪気の波が来終わったときに抜く
のがコツです。

3.手足に引く

 上衝が酷く頭の熱感が冷めないときには、手の陰経にも逃げ
道を作ります。腹から頭へ行く途中で胸を通るので、胸と関係
が深い手陰経に引くわけです。

 表位少陽の症状の場合は、内関にツボが出ていることが多い
です。

 ただし、2.準備で、上衝が少しでも治まっている場合には、
この刺鍼は省略します。特に、初心者のうちは、省略した方が
無難です。抜き時を間違えると、上衝が復活することがあるか
らです。これも陽明などと同じです。

4.陽に引く

4.1.表位の熱い所を散鍼

 先ず表位を触って、熱い所があれば、刺鍼する前に散鍼しま
す。

 眩暈、偏頭痛、耳鳴りなど少陽の場合には、側頭部や耳周囲、
横頚部が多いです。

4.2.表位陽側に引く

 それから、症状の出ている表位の背中側に出ているツボに引
きます。

 ただし、表位少陽のごく軽い症状の場合には、手足への引き
鍼だけで症状が消えてしまう場合も多く、そういう場合には、
陽に引くことを省略する場合もあります。

〈ツボ〉
 各症状の出ている横輪切りの背中側にツボを探すのが基本で
すが、少陽の場合には、体の横側にツボが出ている場合が多い
です。側頭部と横頚部などが候補になります。

 また、首から上の病では、後頚部にツボが出ていることが多
いです。例えば、天柱風池への刺鍼で眼圧が低下したという報
告もあります。

 それと、表位の症状のときは、陽位の代表である大椎周囲の
筋肉が硬く強ばっていることが多いです。そういうときは、そ
の辺りも弛めた方がよいです。

 この辺りも陽明と同じですが、少陽経の症状が出ている場合
には、左右差が大きいことが多いです。また、片側の肩や肩甲
骨周囲の凝りが酷いことも多くなります。

〈刺法〉
 陽位の刺鍼は、基本的に、陽経と同じく速刺徐抜です。繰り
返しになりますが、蠢(うごめ)く邪気を抜き出せるよう、ま
た、次の邪気が来ないうちに抜鍼するようにしてください。

5.左右差の解消をする

 時間的に余裕があれば、左右差の解消をするのも良いと思い
ます。

 側頭部や横頚部以外でも、肩甲骨外側の肩貞、脇、脊柱起立
筋外端の痞根・徹腹、腰臀部横側など体側部の左右差を改善し
たり、脹ら脛など下半身の左右差を改善します。

 ただし、加減の仕方によっては悪化することも考えられます
ので、注意しながら実行してください。また、時間が掛かり過
ぎても症状が復活しやすくなりますので、手早い治療が必要で
す。

6.仕上げ

6.1.頭の散鍼

 頭の散鍼は、片手で頭を撫でて熱い所を探し、もう一方の手
で熱い所を散鍼をします。

6.2.手甲に引き鍼

 終わりに、もう一度、手甲に引き鍼して仕上げます。手指、
手甲、八邪を調べ、一番悪そうな手甲のツボに刺鍼します。初
めと同じ指間になったら八邪を使います。

〈灸の場合〉

 陽明経ほどではありませんが、指のツボへの灸だけで解消で
きることもあります。 目尻〜頬の腫れ痛みなら中指、耳鳴目
眩なら薬指の骨空などが候補です。

 ただし、体が動きやすい場合には、難しくなります。その辺
りも考えて、手段を選んでください。

(3)代表例

1.偏頭痛

 偏頭痛の場合は、手甲のツボに刺鍼しながら、軽く頭を動か
してもらうと、邪気が出ていきやすいです。ただし、動かして
頭痛が激しくなったり、目眩が出るようなら、頭は動かさない
方が良いです。

2.目眩(めまい)

 目眩の場合は、灸はしにくいことが多いです。動くことも考
え、刺鍼も浅目の方が良いでしょう。

 座位でする場合も、背凭れ(せもたれ)などで、体が倒れな
い工夫も必要です。

3.突発性難聴

 上手く行いけば、手甲への引き鍼だけで、軽くなることがあ
ります。手甲への引き鍼をしながら、口を開け閉めしてもらっ
たら、邪気が出て行きやすかったこともありました。

(4)体の左右差を少なくする

 繰り返しになりますが、少陽の症状の出やすい人は、体の左
右差が大きいことが多いです。そのため、応急処置をしても、
体の左右差が残っていると、症状が復活しやすいです。

 急性症状が治まっても、体の左右差の改善という慢性期治療
が必要ですので、事情を説明し治療機会を作りましょう。

 少陽経病証の慢性期治療は、「養生」の「少陽経病証」のと
きに、左右差の解消法も含め、詳しく書く予定です。
(追記:2016.8.15 「少陽の病」術伝流一本鍼no.45

(5)自己養生

 再発が多いので、自己養生を伝えておくのも良いかと思いま
す。

1.薬指反らし

 目眩、偏頭痛、突発性難聴は、薬指を反らすだけで軽くなる
ことも多いです。

 電話で、職場の同僚が突発性難聴という相談を受けたときに、
取り敢えず、患側の薬指を反らしたり、周りの指も含めて、揉
んだりしたらとアドバイスしたら、しばらくして治ったという
電話がありました。

 ただし、隣の指に出ることもあるのは、伝えておいた方が良
いでしょう。

 体の左右差は残るので、説明して、その解消のための治療を
させてもらいましょう。

 また、体が動いて鍼灸しにくい場合には、取り敢えず薬指な
どを反らせて、症状を少し治めてから、鍼灸するということも
できます。ちょっとしたコツですが。

2.立位の重さの操体

 立った姿勢で、体重を移しやすい方に少し余分に移します。
体重を戻したくなったら終わりにします。

 この立位での重さの操体を、机、椅子の背、テーブル、洗濯
機、調理台などに手を付いて、空いた時間にするのを習慣にす
ると、体の左右差が解消されやすいです。座位で実行するのも
よいです。

 詳しくは、術伝流操体no.11を参照してください。

(6)おわりに

 今のところ、残念ながら、患者さんが見付からず、写真が取
れないでいます。偏頭痛、目眩、耳鳴りなどの症状がある人で、
治療写真をとらせてくださる方は、術伝事務局までメールをく
ださると、ありがたいです。

 よろしくおねがいします。

ーーー 追記: ーーー
慢性期の場合は、以下も参照してください。

術伝流一本鍼no.45 少陽の病

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最終更新:2019年09月09日 13:10