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術伝流一本鍼no.20 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(2))
表位の急性期、概要


(1)はじめに

 先回は、内科系急性期の1回目で大雑把なことを説明しまし
た。今回から、より詳しく、表位、上焦、中焦、下焦に分けて
説明していきます。また、刺鍼法や施灸法についても細かく説
明していきます。

表位の急性病症でのツボは、手首から先に出やすい

 急性症状のツボが、手首足首から先に出やすいというのは、
運動器系の場合と同じです。

 表位の場合は、手甲と手指甲側にツボが出ています。

 鍼では手甲のツボを使います。手指への鍼は痛がられること
が多いためです。

 灸では、手指の甲側を使います。手甲よりも皮膚が破れるこ
とが圧倒的に少ないからです。

 カゼなどで、上焦にも症状が出ている場合は、手陰経のツボ
も使います。その場合には、手平は痛がられることが多いので、
前腕の手首近くのツボ(列缺、内関、陰郄)を使います。

 「表位のみの症状では無く、上焦に症状が出ている」という
状態は、現代医学的には「上気道だけの症状では無く、下気道
はじめ関節痛など全身に症状が出ていると考えれば良いように
思います。

(2)体の横輪切り分類

 鍼灸の世界では、経絡という形で、体を、立ち姿勢で縦割り
に分類してみることが多いです。比較すると、漢方の世界では、
立ち姿勢で横割りに分類する方が多くなります。鍼灸の世界で
言うと、臓腑論や兪募穴などに見られる体の分類の仕方です。

 内科系を鍼灸で治療していく場合には、運動器系よりも、漢
方に近い見方、つまり、体を立ち姿勢で横輪切りに見る見方も
取り入れた方が分かりやすいことが多くなります。

 具体的にいうと、体を以下の4つに分けます。

1.表位:肩甲骨・鎖骨から上

2.上焦:1.の下で横隔膜より上
    (頭首の内部も含めることもある)

3.中焦:2.の下でヘソより上

4.下焦:3.の下側の胴体部分

 細かく書くと、表位というのは、「表」という字が付いてい
る位で、肩甲骨・鎖骨から上でも、表面に近い部分を指します。

 こういう横切り分類と経絡の縦切り分類を組み合わせていく
ことで、内科系の病変が理解しやすくなります。

 特に、表位の場合は、陽明経と少陽経のものが多く、それに
太陽経が加わります。体の前側に主に症状の出る場合と、体の
横側に主に症状が出ることが多いということです。

(3)表位の内科系急性症状

 内科系の急性症状は、病を未病と発作に分けた場合には、発
作に分類される現象です。先回も書いたように、基本的に、腹
の邪毒・虚から頭に向かって邪気が衝き上げる「上衝」という
現象が見られます(図1)。

 この様子は、ドブロクを作り冷蔵庫で保管した後に、温かい
所にしばらく出しておいてから栓を抜いたときの様子に、よく
似ています。

図1 

 ですから、頭に行く邪気を少なくすること、邪気に頭を衝か
せないように体の外に引き出し、それに因って上衝を鎮(しず)
めることが基本的な処置になります。

 上焦、中焦、下焦に歪みが少ないときには、邪気はそのまま
表位に昇り表位の急性症状を引き起こします。

 上焦、中焦、下焦いずれかに、歪み、邪毒があるときには、
歪みの有る所で急性症状を引き起こす(図2)ので、表位の症
状は(その分だけ)軽くなることが多いです。逆に言えば、表
位の症状が目立つときには、上焦、中焦、下焦の歪みは比較的
少ないことが多くなります。

図2

 表位の急性症状の特徴は、すでに頭に邪気が上がっているの
で、顔や頭はじめ、肩甲骨・鎖骨から上の表位に、熱や痛みを
始めとする色々な症状が出ていることです。

1.表位陽明経の急性症状

 邪気が陽明経を衝き上げれば、体の前側の症状が出ます。

 前側の症状の例は、ニキビ、モノモライ、前頭部痛、カゼの
初期の前頭部発熱、真夏の老人の譫語(せんご)、疳の虫、口
唇ヘルペスなどです。

 邪気が陽明を衝き上げるときは、体の左右差が余り無いこと
が多いです。

 この場合の慢性期の養生は、腹の邪毒、歪み、虚と、下半身
の冷えのを少なくすることです。

2.表位少陽経の急性症状

 邪気が少陽経を衝き上げれば、体の横側の症状が出ます。

 横側の症状の例は、目眩(めまい)、耳鳴り、突発性難聴な
どです。聴覚に関係する耳や、体の平衡に関係する三半規管が、
体の横側にあることに由来すると思われます。

「小陽の病たる、口苦く、ノド乾き、目眩(くるめ)くなり」
                       (傷寒論)

 邪気が少陽を衝き上げるときは、体の左右差が大きい場合が
多いです。体の左右差が大きいため、邪気が真っ直ぐ上に向か
わず、横にズレて上衝することになり、その結果として少陽経
病症になるようです。

 言い換えれば、体の左右の歪みが大きいので、上焦した邪気
に左右差の歪みが影響されて、少陽経の症状が出やすいという
ことかなと思います。

 そのため、この場合は、応急処置で治まっても、体の左右差
を少なくしないと、再発することが多くなります。ですから、
慢性期の養生では、陽明経病症のときにした、腹の邪毒、歪み、
虚や下半身の冷えの改善に加えて、 左右差の改善を試みます。

3.表位太陽経の急性症状

 典型例は、葛根湯証系のように首や肩が強張(こわば)るカ
ゼの、初期のものです。

 この場合は、その表位後側の筋の過緊張によって、上衝を治
めにくくなっています。そのため、上衝を下ろす以外に、表位
後側の筋の過緊張を弛める必要があります。

 ただし、カゼも咳も出るようになると、表位だけではなく上
焦の症状も混じってくるので、上焦の症状への対処も必要にな
ります。

(4)診察で経絡病症を区別するには

 表位の急性症状の診察で、先ず見たいのは、どの経絡を、邪
気が衝き上げているかです。その目安になるのは、主に3つ、
症状、頭の熱さ、八邪の厚みです。

 症状は、(3)に書いたことを参考にしてください。

 頭の熱さは、先回も書きましたように、頭のハチマキをする
辺りの熱さを比べます。先ずは左右、次にその中で前横後ろを
比較します(図3、写真1)。

図3

写真1

 八邪というのは、手の指の根元の水掻き状の部分のことです。
関係する経絡に異常があると、その部分の筋肉が、他よりも厚
くなります。この部分の筋肉が、機能性病変を起こし、過緊張
状態になっているためです。

 拇指と示指で挟んで厚みや圧痛を調べます(写真2)。

写真2

 手を開いたときに指と指の感覚が狭かったり(写真3)、井
穴を押して異常を感じたり(写真4)、指を反らせてピリピリ
ビリビリする感じがしたり(写真5)などでも判断できます。

写真3

写真4

写真5

 この辺りは、運動器編の「手足甲のツボで運動鍼」で詳しく
書きましたので、見直しておいてください。

 この3つ、症状、頭の熱さ、指の異常が一致していればよい
(写真6)のですが、一致していないときには、理由を考える
ようにしてください。

写真6

 私は、基本的に、体の自然の状態を重視するという立場に立っ
ています。そのため、3つが一致していないときには、指への
刺鍼では、指の状態を一番重視し、頭への散鍼では頭の状態を
一番重視します。

 患者さんが訴える症状、あるいは、鍼灸師がその時に目標に
している症状とは、別の症状や歪みが関係して、その症状の状
態と少し違う所にツボが出ていることは、よく有ります。その
ため、指の状態を中心にして刺鍼施灸する所を決めても、目標
にしている症状が消えることが多いです。

 まぁ、どうしても症状が消えない場合には、症状に合わせて、
刺鍼施灸する所を選ぶこともありますが。

 また、カゼの初期などは、陽明と太陽の両方に異常がある場
合も多いです。特に、葛根湯証系のカゼの場合には、項(うな
じ)に手平を入れて確かめても汗ばんでいないことが多く、肩
首はじめ、表位の後側の凝り、つまり、太陽経の異常と見るこ
とができます。

 いずれにしろ、1番目と2番目に異常な感じの経絡を選びま
す。1番目の経絡に出ているツボへの刺鍼施灸から施術を始め
ます。

(5)表位は、陽経病症が多くなる

 表位は、体の中では、陽位ですし、体の横輪切り4分類の中
では、上にあるので、他の3つ、つまり、上焦、中焦、下焦よ
りも、陽位の要素が強くなります。

 そこで、以下のように、手足陰経に引くことを省略すること
が多くなるというか、しなくてもよい場合が多いです。繰り返
しになりますが、陰経というのは、体の内側、つまり陰位に関
係した経絡ですから。

1.診察

2.準備:上衝をおさめる
  (1) 手甲に引く

(3.手足に引く)
(  (1) 手足陰経に引く)
(  (2) 必要があれば、陽経にも引く)

4.陽に引く
  (1) 熱かったら散鍼
  (2) 陽側に出ているツボに引く

5.後始末:上衝をおさめる
  (1) 頭の散鍼
  (2) 手甲に引く

 先に書いたように、準備では、診察で一番異常を感じた経絡
のツボを選んで施術をはじめ、後始末では二番目に異常を感じ
た経絡のツボを選んで施術ということが多いです。

 ただし、後始末のときに、指を調べて、診察のときと様子が
異なっていたら、後始末の時に観察した状態の方を重視し、そ
のとき異常な経絡のツボを選んで施術します。

 また、3.(1)の「手足陰経に引く」で、もし使うとすれば、列
缺だと思います。

「頭項は列缺に尋ね」

 列缺の使い方や、その後に必要ならばする3.(2)の「陽経に
引く」の使い方については、列缺を使うことの多い上焦の病の
ときに説明します。というのも、列缺を使う必要があるなら、
表位のみの症状というよりも、上焦の症状も少し混じった状態
と考えた方が良いと思うからです。

 例えば、カゼの初期と思って、手甲手指に刺鍼施灸しても症
状が治まらず、列缺に刺鍼したら症状が軽くなった場合には、
もう既に上焦にもカゼの症状が及んでいる状態と考え、施術を
した方が良いと思います。

(6)手陽末端で軽減したら終えてもよい

 そういうわけで、表位の症例で、初期の場合や、軽い場合に
は、手甲や指のツボの施術だけで、症状が消えてしまうことが
結構多いです。

 そうした場合、私は、それ以上の施術はせずに様子を見ます。
軽くなったのに、手陰経などに施術すると、症状が再発するこ
とも有るからです。

 治まらなかったら、それ以降もしてみるという感じで、ご理
解いただければよいなと思っています。

 また、少し丁寧にするなら

1.診察

2.準備:手甲手指のツボに引く

3.陽位:陽位の熱いところに散鍼

4.始末:頭の散鍼
     手甲手指のツボに引く

ということも多いです。

 この辺りは、患者さんによって、あるいは、同じ患者さんで
も時と場合によって、また、施術者の得手不得手や熟練度によっ
ても異なってきますので、経験を積んで、判断力を磨いていっ
てください。

 次回は、表位の陽明経病症を中心に、カゼの初期など、それ
に太陽経病症が少し混じったものも書きます。次々回に表位の
少陽経病症について書いていきます。


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最終更新:2020年03月07日 12:55