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術伝流操体no.86
【6】自然則篇 (22)心の思いと体の感覚の乖離の時代的背景
心の思いと体の感覚の乖離の時代的背景

1.はじめに

 先回は、心が思う気持ち良さと、体が感じる気持ち良さが離れ
てしまっている問題を取り上げました。橋本敬三先生が、操体を
まとめていた1960年代〜70年代前半に比べて、現在は、その2
つの離れ具合が激しくなってしまっているように思います。

 今回は、その時代的背景を考えていきたいと思います。

2.世間にユトリがなくなってしまった

 日本の中でも、昔と違って今は、一生同じ世間で暮らしていけ
る人は、どんどん少なくなっていっていますね。世間と世間の垣
根も低くなり、違う世間の人たちと仕事や暮らしの場で交流する
機会も増えていきます。

 日本では、世間が違えば、その空気は全くと言ってよいほど違
うことが多いので、互いの空気を読み合うだけでなく、相手に伝
わらなかった空気を説明し合うことが必要な場合が多くなってき
ているように思います。

 また、今の日本は、世界の他の国々、特に、他の先進諸国と比
べても、社会の成熟度が進んでしまって、世間の空気を読んで空
気に従って生きていても、いざという時に世間が守ってくれると
は限らない世の中になっているように思います。

 2003,4年頃続いた「世間の空気を読まないとバッシングされ
る」という風潮も、そういう時代だから逆に強調されたことのよ
うに思います。

 世間の崩壊が始まった日本で、今まで世間に縋(すが)って生
きてきた人々が起こした最後の足掻きのように思えます。また、
今まで互いに狭い世間の中だけで通用していた空気が、狭い世間
を超えて衝突しはじめたことで、目立つようになった現象でもあ
ると思います。

 そこには、「渡る世間に鬼は無し」と言われた時代の世間に見
られた温かさや余裕は感じられません。そういう温かみや余裕の
無くなってしまった、恐い鬼ばかりの世間から、沢山の人たち、
特に若い人たちや子供たちが逃げ出そうとしているのが、今の日
本の現状ではないでしょうか?

 そうして、世間の崩壊はどんどん進んでいっているように思い
ます。それに、そういう鬼ばかりの世間の空気を読むことにだけ
心を向けていて、体の感じることを心に思い浮かべられない状態
が続けば、病気になりやすいのも当たり前かなと思います。

3.コンピュータやロボットに置き換えられないために

 そういう現象の背景の一つはコンピュータ化だと思います。

 コンピュータ・ネットワークの発展で、普通の会社で昔ホワイ
トカラーがしていた日常の仕事(ルーティン・ワーク)は、コン
ピュータがするようになりました。つまり、ホワイトカラーの頭
の中にあった、書類作成や操作を始めとする仕事の仕方のコツは、
全てコンピュータの中に入ってしまいました。

 工場生産や商品流通の世界でも、コンピュータ化やロボット化
が進んでいます。

 コンピュータやコンピュータが頭脳のロボットは、空気は読め
ませんから、仕事の仕組みを一つ一つコンピュータに伝わるよう
に作っていくしかありません。

 逆に言えば、そうして作られた仕組みなら、空気の読めない、
違う世間の人でも、ある程度は使いこなせます。

 今の所、コンピュータやロボットに置き換えられない仕事は、
新商品開発や対面接客営業などですが、どんどん少なくなってい
ます。

 これから、今までコンピュータ化が進んでいなかった所、役所、
学校、病院などでも、可能な仕事は、コンピュータやロボットに
任せるようになっていくでしょう。

 こういうことを今までに人類は体験していないので、モデルは
ありません。大変かもしれないけれど、面白い時代だなと思いま
す。

 それに、学校の国語教育などで世間の空気を読んでそれに従っ
て生きていくように躾(しつけ)られていたというのは、極論す
れば、空気読みロボットのように育てられたということだと思い
ます。

 「みんな同じような、どこにでもいる普通の日本人」という表
現が一頃マスメディアに多く見られましたが、それって、要する
に量産型空気読みロボットということではないですか。

 また、学校で習う筆記試験で測れる程度の記憶力や推論能力は、
コンピュータやネットワークの方が人間よりも高い時代になって
しまいました。

 自分の専門ならともかく、それ以外の知識の量と新しさでイン
ターネットに勝てる人はいないと思います。

 推論能力の面でも、今世紀に入る直前に、コンピュータのチェ
ス・プログラムが人間のチェスの世界チャンピオンに勝ちました。

 今は将棋の電王戦5連戦の最中で、2戦終了の段階ですが、将
棋ソフトがプロ棋士に2連勝しています。


追記:2014年電王戦は、結局、将棋ソフトの4勝1敗でした。
また、大学入試ソフトは、大手予備校の模試で早慶マーチ合格レ
ベルで、2020年東大京大合格レベルを目指しているそうです。


 筆記試験で良い成績が取れる空気読みロボットとして学校で評
価されても、実社会に出たら、実際の仕事の現場では、ルーティ
ンワークはパソコン・ネットワークやロボットがしているので、
そういう人は、今までより重用されなくなってきています。

 正社員になったり重用されるのは、独創性があって新しいサー
ビス、技術、道具を開発できる人です。例えば、サービスなら、
目の前のお客様一人一人に喜んでもらえる接客が、その場で生み
出せる人です。

 どこにでもいる空気読みロボットみたいな人は、パートや派遣
社員にしか雇われないという悲劇というか喜劇というか、そんな
事態が現在の日本では進んでいるように思います。

 空気読みロボットみたいな人は、例え正社員や管理職になれた
としても、いわゆる「なんちゃって正社員」や「名ばかり管理職」
として使い捨てにされやすいという事態になっているように思い
ます。

 衣料品製造販売会社で、大卒正社員の店長たちが使い捨てにさ
れ、本社の開発担当は米国MBA取得者というのも象徴的ですね。
米国MBA取得には「空気を読む」だけではなく、米国流ディベー
トを身に付ける必要がありますから。

 つまり、この仕事はあの人でなくちゃという指名を受けられる
位なら、どこにでもいる空気読みロボットみたいな人と交替させ
られる可能性は少ないし、パソコンやロボットに置き換えられる
ことも少ないということです。

 そういう点からも、これから日本の社会は大きく変わっていく
ように思います。

 そういう時代だから、余計に、操体などを通して、体の感じて
いることを心に思い浮かべ、他の人に伝えられるように練習して
いくことは、健康という面を離れても大切なことのように感じて
います。

 また、操体のようなことは、症状や検査結果から病名を決め薬
を処方するよりも、コンピュータやロボットには難しいことです。
それで、それらの機械に任せるようになるには長い時間が必要で
す。ですから、人と人が工夫して伝え合う時代がしばらく続きま
す。

4.一生工夫を続けられることを仕事にしよう

 それに、仕事の多くがパソコン・ネットワークとロボットに置
き換えられていく時代では、人間のすることは、新しい仕事を開
発すること以外では、まだロボットには任せきれない対面接客な
どです。

 いずれにしろ、良い学校を出たから、良い会社に入ったから、
良い職業に就いたから終わりではなく、仕事の面では一生工夫を
続ける必要のある時代だと思います。

 そして、仕事というのは、本来、自分ができること、得意なこ
とを他の人の分まで代わりにやらせてもらい、その代わりに代金
をいただくということです。

 何だったら他の人の分まで代わりにやりたいことか、一生工夫
を続けられることか、よく考えないと、一生の仕事にはなりえな
いでしょう。

5.おわりに

 そういう意味でも、自分の得意なことに磨きをかけて、自分流
初代を目指すことは大切かなと思います。そうです、自分流初代
になれるぐらい夢中になれることでないと、今の時代には、一生
の仕事にはなりにくいと思います。

 そして、それくらい夢中になれ興味が持てれば、操体は、橋本
敬三先生が言われるように「一生飽きない」ほど面白い仕事だと
思います。


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最終更新:2015年09月26日 21:46