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術伝流操体no.76
【6】自然則篇 (12)シコリと皮膚の操体
シコリと皮膚の操体

1.はじめに

 先回までの2回は、シコリの周りの筋肉を緊張させていき、シ
コリと同じか、それよりほんの少し余分に緊張させた状態にする
と、タワメの間になるようだ…という話を書きました。

 ちょっと考えてみると不思議な現象です。筋肉を働かせすぎて
シコリができたのに、シコリのある筋肉を少し余分に緊張させる
状態を作ると気持ちよくて、腹の息も深くなって(副交感神経も
優位になって)、その状態をしばらく維持しているとシコリが消
えていくのですから。

 こういう点も、西洋医学の関係者から操体があまり評価されな
い原因の一つになっているのかもしれません。

 しかし、これだけ成果が上がっているというか、実際に操体し
てみれば確かめられることなのですから、生理学的な実験を沢山
して根拠を明らかにしていってほしいなと思います。

2.脹ら脛の緊張で全身調整

 また、脹ら脛の筋肉ですが、立った姿勢で膝を伸ばしたまま足
首を伸ばす時、つまり爪先立ちになる時に良く使われるようです。
すると、その姿勢をしばらく維持すると膝裏のシコリが消えるか
もしれません。

 そんなことを色々試していたら、気功太極拳で有名な楊名時先
生の気功「八段錦」の第8番目がその格好をしていたのに気が付
きました。

 両足を開かずに付けて爪先を揃えて膝を伸ばして立ち、息を吸
いながら踵を上げていき、腕を垂らして手の甲を反らし、手の平
を下に向けて押さえつけるような感じでバランスを取りながら、
踵を上げた状態をしばらく保ち(写真1)、息を吐きながら体の
力を抜き踵を落とす(写真2)。

写真1
写真2

 説明書に「この気功は沢山の病に効く」とあります。今度講習
会のときにでもこの気功の前後で膝裏のシコリの状態を確かめな
がらやってどうなるか試してみようと思っています。

 皆さんも試してみてください。膝裏のシコリが取れるから沢山
の病に効くのかも知れません。橋本先生が爪先上げを、晩年に一
番多くやっていたということと通じるものを感じます。

 逆に言えば、ハイヒールを履いた女性は膝裏のシコリができや
すいと言えるのかなとか思いました。そして、それが、下半身の
歪みを呼び、色々な病気の素になっていくのかもしれない……と
も。

 それに、もう一つ面白いのは、この八段錦の第8番目の脱力は、
本では「パッストン」系の説明をしているのに、楊名時先生ご本
人は90年前半の稽古の際には「ふっくにゃー」系の脱力をされて
いたことです。

 橋本先生も、晩年にご自身で一人操体するときには、パッスト
ン系の瞬間脱力はあまりされなかったようです。また、東京の高
弟の先生も80年代後半には「ふっくにゃー」系の脱力をしたがる
受け手が多いと説明されていました。

 達人の方は、皆さん、時代による体の自然の変化に合わせるの
かなと思いました。

3.シコリと皮膚の操体

 さて、今回は、シコリと皮膚の操体の関係について書いていき
ます。

 目標のシコリに皮膚操体をしているときには、指はシコリの真
上から少しズレた所にあります。それなのに何で効くのかなとい
うことです。

3.1. 皮膚の張りを保つのがコツ

 この頃、皮膚操体で一番大切なのは、皮膚をズラすことよりも、
ズラした後にできる皮膚表面の張りを同じ状態に保つことなんじゃ
ないかなと思っています。

 皮膚をズラしている指や手の平が震えたりブレたりして、後に
できる張り、つまり、ズラした後の皮膚表面の張り具合が変わっ
てしまうと、感じていた気持ち良さが消えてしまうことが多いで
す。

 受け手からも「違った」「気持ち良さが消えちゃった」と言わ
れます。

 このことと、先ほど書いた「皮膚をズラすと、皮膚操体をして
いる指や手の平はシコリの真上から外れる」ということを考え合
わせてみました。そして、皮膚操体は、シコリの上の皮膚がピン
と張った状態をしばらく保つから効果が出るように思っています。

 ツボの上の皮膚がピンと張った状態になり、ピッタリとシコリ
のある筋肉にくっついた状態になると、しばらくして腹の息が深
くなり、気持ち良さも生まれます。

 その状態を維持していると、また、しばらくすると腹の息が元
に戻っていきます。その頃には、気持ち良さも消え、ズレやすかっ
た皮膚がズレにくくなります。シコリを見てみると、小さくなっ
ていることが多く、上手く行けば消えてしまいます。

3.2. 達人たちの工夫

 ズラした後ろにできる皮膚表面の張りを維持するために、達人
の先生方は色々工夫されています。

 ある先生は、中指で皮膚をズラした時には、薬指か示指の下の
皮膚を正反対の方向にズラしていました。こうすると、小さなツ
ボの上の皮膚がピンと張った状態を長いこと保持するのがやりや
すくなります。

 別の先生は、皮膚をズラす前に、手の平や指腹をシコリの上の
皮膚にピッタリ張り付けた状態にすることを勧めていました。こ
れも、その方が、長時間シコリの上の皮膚表面の張った状態を保
持しやすいからだと思います。

 ピッタリ張りついていれば、伝え手の指や手の平と受け手のシ
コリの上の皮膚が滑って張りが無くなってしまうようなことは、
起きにくくなります。

3.3. 皮膚の張るための私の工夫

 そういう方法を応用して、私は両手で大きめのツボに互いに正
反対の方向の皮膚の操体をしたりもしています。そうすると皮膚
操体は効果が上がりやすくなるような気がしています(写真3)。

写真3

 この方法は、主になる皮膚操体と正反対の張りを動きの操体で
作るという方法でも可能です。例えば、手首や足首のシコリに対
して皮膚操体を片手でしながら、もう片方の手でそのシコリの延
長線上の指を反らせてみたりします。

 手首の手平側小指側をねらう場合に、シコリの上の皮膚が指と
反対側にズレやすい場合などが巧く行きます。

 小指の薬指よりの手の平側か、薬指の小指よりの手の平側を少
し反らす(写真4)と、ちょうどシコリの上の皮膚がズレやすい
方向と正反対の動きを作り出せ、皮膚操体だけをした場合よりも
効果が出やすいです。

写真4

 特に、指をどちらかに捻りながら、ほんの少し反らせるように
すると効果が出やすいようです。試してみてください。

 背中の場合には、上腕を捻転したり(写真5)、伸ばしたりで
(写真6)、反対側の皮膚の張りを作り出すこともできます。

写真5
写真6

 また、細かいツボに皮膚操体するときには、鍼の押手(写真7)
を少し広げると(写真8)、ツボの上の皮膚に張りを作ることが
できます。

写真7
写真8

 これを講座で実演して見せたら、鍼灸師の参加者から「では、
刺鍼する意味は何なのでしょう?」と言われてしまいました。刺
鍼すると、ツボの底の芯になっているシコリに鍼先が届くので、
確実性は高くなります。

3.4. 肘を支えると長時間の保持が可能

 また、余談になりますが、皮膚操体をしている腕が宙に浮いて
いると、すぐ腕が疲れてしまいます。そうすると、指先がブレや
すくなり、シコリの上の皮膚上面の張りをピンとした状態に保持
しにくくなるようです。

 そのため、片手で皮膚操体しているときには、反対側の手で皮
膚の操体をしている手の肘を支えて、安定させます。すると、シ
コリの上の張りを一定に保持しやすくなります。

 また、両手で皮膚操体しているときには、両方の肘を両方の膝
や大腿部で支えると安定します。そのためにも、目標とするシコ
リに操者のヘソをできるだけ近づけて、皮膚操体をしている所か
ら両肘までの距離が同じ位になるようにした方が効果を出しやす
くなります。

3.5. 張りを保つと消えやすいのは何故か

 さて、何故、シコリの上の皮膚を張った状態に保持するとシコ
リが消えやすいのでしょうか?
 張りをしばらく保持していると、シコリの上の皮膚とシコリが
ある筋肉がピッタリくっついた状態が続きます。そういう、わず
かな刺激でシコリが消えていることになります。不思議ですね。

 でも、そういう、わずかな刺激でも、気持ちよさが出てくるこ
とは、はっきり分かります。そして、張りがほんの少し弛んでも、
気持ちよさが消えてしまいます。

 皮膚操体を受けたことがある人なら、皆さん経験されているで
しょう。それに、張りが保持されていれば、たいてい、腹の息も
深くなっていきます。

 体が必要としている刺激だから、気持ちよさも生まれるし、腹
の息も深くなるのだと思います。ですから、この、わずかな刺激
が効果を出しているのは確実です。が、どういう仕組みなのかが
分かりません。ずーっと考えているのですが。

 分かった人は教えてください。

3.6. 皮膚操体は、皮内鍼などに似ている

 それで、似ているなと思うのは、鍼の世界で使われる皮内鍼や
粒鍼です。

 皮内鍼は太さが0.12mmで長さ3mmから5mm位の鍼を表皮
の下に皮膚にほぼ水平に1mmから3mm位刺して、その上に絆
創膏を貼っておく方法です。

 鍼を刺している感じはしません。絆創膏が貼られた感じはしま
すが。それでもシコリは消えます。

 似た方法で円皮鍼と言って、長さ1.5mmから0.3mmの鍼が絆
創膏に垂直に突いている物があります。こちらは、長い方は、少
し痛いです。が、円皮鍼でも長さ0.3mmの鍼ならほとんど痛く
ありません。

 また、粒鍼といって、直径1.2mm位の金属の粒を絆創膏で貼り
付けるやり方もあります。

 皮内鍼や円皮鍼は、皮膚を破るときに電気が流れるためと聞き
ました。粒鍼は、金属が錆びるときに電気が流れるためという説
明を聞きました。

 生理学的に研究してみたら、面白そうな現象だなと思います。
どの方法でもツボの真上に正確に貼ることさえできれば効果が出
るようです。

 といっても1,2mmずれても効果が出ないのが多いです。そこ
で、楊枝の頭などで細かくツボの場所を特定したほうが効果が出
やすいです。

 面白いことに、貼った下のシコリが消えるだけでなくて、経絡
的に関連する位置にあるシコリも消えることです。手の小指や薬
指やその延長上の手甲に貼っておくと肩こりに効果的です。

 この辺りも皮膚操体に似ているなと思います。

3.7. すべき場所の特定が難しい

 皮膚操体にしても、こういう小さな鍼や金属の粒にしても、刺
激は、ごくわずかです。それでも、すごい効果が出てきます。た
だ、刺激量が少ないせいか、ツボ取りは普通の鍼や動きの操体な
どよりは、難しくなるようです。

 私自身、はじめのうちは、講習生同士で皮膚操体をしたときだ
けしか効果が出せませんでした。受け手に指定してもらえないと、
どこに皮膚操体をしたらよいか分からなかったからです。

 ツボが出ている所を正確に特定できるようになって、確実に効
果が出せるようになりました。この辺り、皆さんは、どう思われ
ますか?

 私は、皮膚操体で難しいのは、指や手の平を当てる所を見付け
ることじゃないかなと思っています。皮膚操体する必要のある場
所さえ特定できれば、後は、その上の皮膚を少しズラして張った
状態を保持するだけで良いのですから。

3.8. 経絡指圧の垂直持続圧も皮膚操体に似ている

 それで、もう一つ、皮膚操体に似ていると思うのは、増永静人
先生の経絡指圧です。

 余談ですが、増永静人先生は、橋本敬三先生から操体を習い、
その体験から、経絡体操や経絡伸展法を考案されたようです。さ
て、経絡指圧では、シコリに対して垂直に一定の圧を掛け続ける
ことを大切にします。

 この時に受ける感じが、皮膚操体を受けているときと、よく似
ています。

 親指などで指圧されているときは、狭い面積に圧を感じるので、
皮膚操体とは違う感じを受けることが多いです。

 が、肘から前腕を使って指圧(経絡指圧では肘や前腕をよく使
います)されているときには、圧が分散されてしまうせいか、皮
膚操体を受けているときと、よく似た感じを受けます。

3.9. 垂直圧か緊張かの情報が伝わればよいのかも

 皮膚操体のときには、ズラした後にシコリの上の皮膚が張った
感じになることは説明しました。この時にシコリには張った皮膚
から垂直の圧が、シコリのある筋肉に伝わるのかなと思います。

 そうすると、経絡指圧と皮膚操体が似た感じを受けるのは当た
り前かなと思います。

 皮膚操体の場合には、実際に圧そのものが伝わっているのでは
ないかもしれません。圧が伝わってくるかも知れないという情報
が、シコリになっている筋肉のなかの感覚神経(筋紡錘など)に
伝わっているだけの可能性もあります。

 動きの操体と同じ効果のある皮膚の操体をするときにも、シコ
リになっている筋肉を緊張させようとする力が実際に働いている
わけではない可能性もあります。

 緊張させようとする力が伝わってくるかも知れないという情報
が、筋肉の中の感覚神経に伝わっているだけなのかもしれません。

 こうして考えていくと、シコリになっている筋肉は、筋繊維の
方向に緊張させようとする力や、筋繊維と垂直に圧をかけようと
する力、その2つの力の情報があることが、改善のキッカケかも
しれません。

 それらの2つの力を、シコリになっている筋肉の過緊張具合と
同じか、少し余分な緊張として、しばらく感じていると改善する
ということのように思えます。

 この辺りは、生理学的な実験をして確かめていただきたいなと
思っています。

4.おわりに

 今回は、シコリと皮膚操体の関係から思いついたことを書き出
してみました。

 次回は、胴体の歪みと手足の歪みの相関関係から、どちらを先
に無くすかという話に進めていくつもりです。


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最終更新:2015年03月24日 12:51