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術伝流一本鍼no.75 (術伝流・体得篇(15))

「見立ての型」と自然法則

1.はじめに

 先回は、型を身に付ける重要性について書きました。今
回は、その型の中でも重要な「見立ての型」について、書
いていきます。

 「見立ての型」は、「体の自然法則」と「鍼灸の自然法
則」を良く理解し、その2つと矛盾しないことが大切です。
「体の自然法則」や「鍼灸の自然法則」は、昔の言葉で言
えば「術理」と言っても良いかなと思います。

 ヒトの体の自然法則のうちで、鍼灸で主に利用している
のは何か、鍼灸の自然法則として主に使えるものは何かと
いう点をよく理解していることが大事と思います。

2.体の自然法則

 術伝流は、「経絡は重力負荷分担」、「腹診と気血水」
の2つを中心に、ヒトの体を見ています。

 「経絡は重力負荷分担」というのは、操体の橋本敬三先
生に由来します(『生体の歪みを正す』創元社p45~46)。
「腹診と気血水」は、漢方古法派に由来します。

 「見立ての型」では、この2つの自然法則を理解して、
使いこなせることが大切です。

2.1.経絡は重力負荷分担

 「立ち姿勢、立位で、体に掛かる重力の負荷を、筋肉を
始めとする組織で分担して負担する仕組み」が、正経十二
経です。こう考えると、経絡が大雑把には、立位で縦方向
に走っていることも理解しやすいです。

 また、経絡の区分は、基本的には、立位での前横後ろの
3つであるということも理解しやすいと思います。それに、
手足の2つ、体の内外に対応する陰陽の2つ、その3要素
を組み合わせると(3×2×2)、12になっているのだな
と思います。

 経絡の基本が、立位での前横後ろというと、下腿陰経は
違うではないかと思われる人も多いと思います。筆者も、
しばらく、その点が不思議でした。

 ある時、直立2足歩行をするために、踵(かかと)を支点
に爪先を中心に寄せる力を発生するためなんだろうなと思
い付き、納得しています。

 鳥や恐竜も2足歩行していますが、足跡の横幅は、体の
横幅よりも広いです。横に倒れないためですね。鳥は羽毛
などで膨らんでいますが、羽毛は重さには殆ど関係しませ
んから。

 哺乳類では、四足で大型のゾウでも、足跡の横幅は、体
の横幅よりも狭いです。

 ヒトは、2足歩行ですが、やはり、足跡の横幅は、体の
横幅よりも狭いです。下腿陰経の太陰と厥陰が交差してい
ることで、踵を支点に爪先を中心に寄せる力を発生させて
いるように思います。

 ここでも、「経絡は重力の負荷分担」という原則は生き
ているように思います。

 また、巨刺も、立ち姿勢での重力負荷分担を考えれば、
左右反対側に負荷を分担する仕組みと考えれば、理解しや
すいと思います。

 ヒトは歩く時、作業する時、反対側も組み合わせて使っ
ていることに由来しているように思います。これは、立ち
姿勢で倒れないで作業するためには、作業する手と反対側
の手でバランスを取る必要が有るからかなと思います。

 上下刺、対角刺なども、歩く時、作業する時に、手足4
本を組み合わせバランスを取って作業していることに由来
するのでしょう。

 それに対して、兪穴募穴などは、寝た姿勢、臥位での重
力負荷分担と考えると理解しやすかったです。

 内臓系に障害が有った時、痛みなどを庇うために、その
周りの筋肉を緊張させて耐えるということは、もちろん、
有ると思います。

 が、それに加えて、寝た姿勢で、障害の有る内蔵に掛か
る重力負荷を分担しているという面もあるように思います。
特に、急性痛でなく、慢性の重苦しいような鈍痛の場合に
は。

 経絡などツボの出方に関しての古くからの伝統と重力負
荷分担ということを理解していると、患者さんの訴える症
状から、それに関係するツボが、どの辺りに出ているかを
予想することが簡単になります。

 運動器系の場合には、症状の有る部分と一緒に動く可能
性の有る部分にツボが出ていることが多いです。

 内科系の場合には、その臓器と、寝た姿勢で重力負荷が
近い辺り、言い換えれば、立位でその臓器と同じ高さにな
る辺りに、ツボが出やすくなります。

 そして、そういう風に出た胴体のツボと経絡的に関係す
る、言い換えれば、立ち姿勢で重力負荷を分担する手足の
辺りにも、ツボが出やすくなります。

 この辺り、詳しくは以下も参考にしてください。
ツボと経絡の観方

2.2.腹診と気血水

 腹診では、主に慢性的な胴体のツボの出方、特に腹側の
ツボの出方を診ます。もちろん、ツボの出方以外に、熱な
ども診ますが、中心は古いツボを見付けることです。

 腹側の古いツボが分かれば、寝た姿勢での重力不可分担
が近い背中の部分にもツボが出ていることが予想できます。

 そして、もう一つ重要なのは、「気血水」の見方です。
未病で病の動きが激しくない時には、体の邪毒のうち、横
隔膜から上は邪気が多く、横隔膜から臍までは水毒が多く、
臍から下は瘀血が多いとされます。

 これは、重さによるのかなと思います。気は軽く、水は
中間、血が一番重いので。また、気は動きやすく、水は中
間、血は動きにくいとされているようです。これも重さに
関係しているように思います。

 気血水については、詳しくは以下も参考にしてください。
鍼灸漢方用語の術伝的解釈:瘀血,水毒,邪気、真気

 術伝流では、臍を中心に、臍から上で左右どちらに古い
ツボが出ているかで、鍼灸治療で使う手の左右を選択しま
す。同じく、臍から下の左右どちらに古いツボが出ている
かで、左右どちらかの足を使うかを選択します。

 また、気血水、どれが中心の病かで、背中のどの辺りを
中心にツボを探すか決めます。邪気なら胸椎1〜5,水毒
なら胸椎7〜11、瘀血なら腰椎3〜仙骨の横輪切りライン
を中心に探します。

2.3.腹診での知見と経絡との組み合わせ

 腹診での見立てから手足の経絡を選択することも、ある
程度は可能です。

2.3.1. 腹診と手経絡

 先ず手の経絡ですが、慢性期の養生では、手の経絡では
主に手陰経が関係します。手陽経が関係するのは、上衝が
有る場合、つまり急性症状が混ざっている場合です。

 ですから、上衝が余り無さそうな場合は、手陰経を中心
にします。

2.3.1.1. 腹診と手陽経
 上衝が余り無い場合、つまり急性症状が混じっていない
場合は、手の陽経は、手の陰経の表側を取ります。陰経が
手厥陰なら手少陽、手太陰なら手陽明。余り無いですが、
陰経が手少陰なら手太陽。

 上衝が有る場合は、内科系急性期に座位で治療する時は、
頭の鉢巻をする辺りの何処が一番熱いかで手陽経を決めま
す。前なら手陽明、横なら手少陽、後ろなら手太陽。が、
慢性期の養生では、この後に仰向けで腹に刺鍼するので、
その時に前頭部に邪気が動く可能性を考慮し、手陽明、特
に合谷を選択します。

2.3.1.2. 腹診と手陰経
 手陰経は、主に胸部(内側の臓器)の病変と関係が深い
です。が、腹部の病変と関係も少しは有ります。経験上、
膻中から上での病の動きが激しい時は、手太陰にツボが出
ていることが多いです。比較すれば、膻中より下での病の
動きが激しい時は、手厥陰に出やすいです。

 これは、手で作業する時には、手を前にしていることが
多いからかなと思っています。手を体の前で使う時は、基
本的に、親指側が上のことが多いからです。

 前横後ろと組み合わせると、「上で前」が手太陰、「中」
が手厥陰、「下で後ろ」が手少陰。手陰経は、胸腔内臓器
と関係が深いとされ、その中で手少陰は心経とも呼ばれて
いますが、心臓が「下で後ろ」に位置していることからも、
なんか納得が行くような気がしています。


 病変のある臓器の位置と手陰経のツボの関係
 前寄りで膻中より上の病変      手太陰 
 前寄りで膻中より下の病変      手厥陰 
 心臓など下&後ろの病変       手少陰 

2.3.2. 腹診と足経絡

 足の陽経に関しては、中心線からの離れ具合との相関が
高いように思います。

2.3.2.1. 腹診と足陽経

1) 中心線に近い腹の腎経の辺りに古いツボが出ていれば、
左右同じ側の脛骨の直ぐ横(脇)のラインにツボがでてい
ることが多いです。

2) 腹の胃経の辺りなら、足三里のラインが多いです。

3)同じように、腹の脾経の辺りなら、豊隆のライン。

4)腹の胆経の辺りなら、足少陽のライン。


 腹のツボと足陽経のツボの関係
 腹の腎経   脛骨の直ぐ脇のライン 
 腹の胃経   足三里のライン    
 腹の脾経   豊隆のライン     
 腹の胆経   足少陽のライン    

2.3.2.2. 腹診と足陰経
 足の陰経は、陽経ほど明確ではありませんが、やはり、
前横後ろの関係があるようです。

1) 胃腸など、腹の内側でも、腹に近い方の病変の時は、
足太陰に出やすいです。

2) 肝臓や子宮はじめ生殖器など体の中央に近い所の病変
では、足厥陰にツボが出やすいです。

3) 腎臓など腹膜後器官や脊髄といった体の後ろ側に近い
所にある器官の病変は、足少陰に出やすいです。


 病変のある臓器の位置と足陰経のツボの関係
 胃腸など前側         足太陰 
 肝臓や子宮など中央      足厥陰 
 腎臓など腹膜後器官や脊髄   足少陰 

 この辺りは、腹診だけでなく、問診も活用した方が良い
でしょう。患者さんが言わなくても、腹診をして異常を見
付けたら、病歴を聞くようにした方が良いと思います。

3.おわりに

 このように、「経絡は重力負荷分担」と「腹診と気血水」
の2つの組み合わせから、腹診を中心とした四診から、ツ
ボが出ていそうな所を予測することができます。

 そしたら、次は、手順の組み立てです。それには、鍼と
邪気の関係の自然法則を理解している必要があります。次
回は、その辺りを書きます。


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最終更新:2018年06月28日 17:50