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術伝流一本鍼no.74 (術伝流・体得篇(14))

型を持つ

1.はじめに

 このごろ思うのは、「型を持つ」ということが重要なのではな
いかなということです。単に技術を習っただけではなく、その技
術が体にしっかり身に付いたかどうかが重要です。

 そして、その上で、それが、初めて診る種類の症状にも応用で
きる型にまでなっていることが大切だと思います。

2.習ったことはできるけど

 鍼灸などの伝統医学的臨床技術は、ただ知識があるだけでは、
使いこなせません。講習会などで習っても、初めは講習生相手に
は効果が出せても、講習生以外では効果が出せなかったりします。

 講習生以外で効果が出せるようになっても、初めのうちは、講
習会で習った通りのことしかできないことが、しばらく続いたり
します。目の前の患者さんのその時の状態に合わせるためのちょっ
とした応用もできなかったりします。

 初めのうちは仕方ないとしても、そのままでは、臨床家として
自立することはできないと思います。

3.型を持って対処する

 そういう段階を越えるには、「型を持つ」ことと思います。相
撲の解説などでも、「横綱は、自分の型に持ち込むのが上手い」
とかいう話が出てきますね。

 幕末の北辰一刀流の千葉周作も近い感じがします。

 幕末江戸三大道場の中でも「技の千葉(玄武館)」と呼ばれ、
「…神秘性に偏らない合理的な指導が好評を博し、他の流派にお
いては10年かかる修行が5年で完成してしまうと言われた。周作
の剣術指導法は現代剣道に大きな影響を与え、剣道家からの評価
が高い…」(ウィキペディア)

 とか。稽古法にも優れていたようです。

 漢方の分野では、吉益東洞が近い感じがします。『類聚方』、
『薬徴』などは、漢方の型を書いたもののように思います。

 私は、大学は数学科で、数学基礎論数理論理学ゼミでした。そ
のため、 20数年前になりますが、 鍼灸学校進学前の会社員時代
には、エキスパートシステムの勉強などもしていました。

 鍼灸学校在学中に医師の方々との漢方の勉強会で、『類聚方』、
『薬徴』を読みました。初めて『薬徴』を読んだ時に、びっくり
しました。まるでエキスパートシステムの知識ベースのような書
き方の文章が並んでいたからです。

 エキスパートシステムは、推論エンジンと知識ベースの2つの
組み合わせで構成されていました。推論エンジンは、色々な分野
に共通の推論をするプログラムです。知識ベースは、各分野毎の
知識を推論エンジンで取り扱いやすい形でデータベース化したも
のです。

 推論エンジンの方は、私が所属したゼミの恩師の廣瀬健先生等
も加わり、結構使えるものができていました。ただ、知識ベース
の方は、エキスパートから聞き出した情報(経験則)を知識ベー
スに作り上げるのが難しかったようです。

 それで、当時は、成功したエキスパートシステムが余り出てこ
ないで、ブームは終わったように思います。私達は、研究会の後
の飲み会で、「エキスパートシステムじゃなくて、エキスパート
のアシスタント代わりのアシスタントシステムの段階だね」など
と言っていました。

 知識ベースが全て数学的に書き出せる数学の分野では、当時も
マセマティカというソフトが有り、方程式や微積分が自動で解け
るものが出ていました。

 余談になりますが、当時のその分野の研究は、今のグーグル検
索などに生かされているそうです。また、知識やルールの量が少
なく形が明確な分野では、実用に耐えるものが出ています。

 20世紀末には、人間のチェスの世界チャンピオンにコンピュー
タソフトが勝ちました。将棋では、今年(2014年)、将棋のプロ棋
士5人と5つのコンピュータ将棋ソフトが対決する団体戦『第3回
将棋電王戦』で、将棋ソフトの4勝1敗でした。

 早慶MARCHレベルなら合格できる大学入試ソフト(東ロボく
ん)もできつつあり、2020年に東大合格レベルを目指して開発
中のようです。

 話を戻しますと、そんなわけで、知識ベースを作る難しさをあ
る程度は知っていたので、『薬徴』の文章に驚いたのです。江戸
時代の日本に、知識ベースみたいな文章を書く人がいたのかと。

 『薬徴』は、幕末に出た尾台榕堂が『重校薬徴』に再編成し、
それが現代でも日本の漢方の基礎になっているそうです。漢方の
知識ベースとして良くできていたからのように思います。

追記:「東ロボくん」の成果についてーーーーーーーーーーーー
「東大くん」の成果に付いては、以下の文章が面白いです。AIの
現状の説明としても、AIの時代の子供の教育で大切なことは何か
の解説としても、両方の意味で、納得が出来る内容でした。私も、
ほぼ同意見です。
プログラミング教育なんてやっている場合ではない
(…高校までに必要な本当の学力…)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

4.見立ての型から養生(慢性期)の型

 術伝流の腹診は、前にも書いたと思いますが、漢方古法派由来
と言われるものをベースにしています。

 この漢方古法派由来の腹診の良い所は、「目で見て、手で触っ
て、感じ取ったことから、患者さんのその時の慢性期状態を見立
てることができる」ことです。

 そして、治療では、その見立てを元に、腹と相関が深い背中側
と、手足の経絡(特に足の脹脛の辺り)を使って、腹の古いツボ
を改善していくことで、慢性期の養生をしています。

 鍼灸という技術、現代という時代に合わせて少し工夫していま
すが、少しの工夫でそれができてしまったことに、元の漢方古法
派由来の腹診の凄さを感じています。腹診による見立てから鍼灸
の手順が導きやすいのも良い点と思います。

5.先急(応急処置)の型

 慢性期の腹診から鍼灸手順への流れを元に、鍼灸諸流派の手順
も参考に、患者さんの意見も取り入れ、先急(急性期)の型も作っ
てみました。

 この過程でも、『薬徴』の「桂枝は上衝を主治す」の一文と、
桂枝が殆どの処方に入っている基本薬であることも、大変参考に
なりました。また、どこに上衝しているか言える敏感な患者さん
達の意見も大変参考になりました。

6.型を身に付けよう

 筆者は、現在、紹介してきた、先急(急性期)の型と、養生
(慢性期)の型の2つで、出会う患者さん全てに対処しています。
患者さん一人一人、同じ患者さんでもその時その時の状態に合わ
せる工夫はしますが、型としては同じことをしています。

「…鍼は万病一邪と心得べし。
 何の病にても、我が手の内の術さえ至れば、
 一愈を刺して癒ゆべし、別の法を用ゆることなし」(『鍼道発秘』)

というのは、本当だなと実感しています。

 術伝の講座に来ている人達を見ていて、単に知識や技術だけに
目が向いている人よりも、型への意識がある人の方が上達するよ
うに思います。

 型が身に付く段階にならないと、臨床家としても自立は難しい
ようにも感じています。特に、初めの見立てから手順、終わりの
後始末といった部分が決め手のように思います。

 そのため通し稽古ということもしています。武術の十人組手と
かを参考にしたものです。各期の最後に、先急(応急処置)では
一人20分5人通し、養生(慢性期)では一人40分3人通しをして
います。

 応用の段階では、一人20分10人通しをします。通し稽古は、
型が身に付いたかどうかのチェックです。単に知識や技術を持っ
ているだけでは、一人20分10人連続して鍼灸臨床するのは難し
いからです。

 それと、通し稽古自体が型を身に付ける良い練習法でもあると
思います。

 4人目までドタバタまごついている感じで、患者さんの評価も
低かった人が、5人目から開眼したのか、私から見てもスムーズ
になったなと感じられ、患者さんの評価も高くなった…という
ようなことも起きます。

 臨床家として自立するには、10人位連続して鍼灸臨床できる
ことは必要と思いますし。

7.おわりに

 吉益東洞の『薬徴』を見て驚いた時に、鍼灸でこういうことが
できないかなと思いました。そして、操体の橋本敬三先生が東洋
的物療の自然法則を見付け操体という型にしていったことも面白
いなと思っていました。

 それで、鍼灸学校3年の秋に、それまで学んできた諸流派の共
通点をまとめて「鍼術覚書」という文章を書きました(術伝
HPに、その改訂版を掲載)。いつか鍼灸の知識ベースへと発展さ
せたいという願いを込めながら。術伝流の原点かなと思います。


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最終更新:2018年05月25日 14:33