累積: - ___ 昨日: - ___今日: -

術伝流一本鍼no.73 (術伝流・体得篇(13))

呼吸の深さを読む

1.はじめに

 今回は、治療中も刻々と変化していく患者さんの体の状態に合
わせるために、目安となることについて書いていきます。特に、
刺鍼中や施灸中に目安となる患者さんの体の反応についてが中心
です。

 刺鍼中や施術中に患者さんの体の色々な部分が反応します。瞬
(まばた)き、脈、体温、皮膚表面の発赤、呼吸の深さ、手足の
震えなどの自動的な動きなどです。敏感な鍼灸師なら、邪気や真
気の動きの変化も感じられるでしょう。

2.それぞれの目安の特徴

2.1. 瞬き

 瞬きは、手の陽経に刺鍼中によく起こります。特に、陽明経に
刺鍼している時に見られることが多いように思います。

2.2. 脈

 脈もよく変化しますが、刺手を離し脈が分かりやすい部分を触
れないと分かりにくいですね。

 刺鍼箇所の血行がすごく良くなった時には、押手で感じられる
こともあります。が、その前に、押手で温かさを感じたり、目で
皮膚の発赤を確認できたりすることの方が多いように思います。

2.3. 体温

 体温の変化は、ツボの底のシコリが弛んだ後に感じることが多
いように思います。十分に温まれば、目で発赤が確認できること
も多いです。

 そして、真気を感じることができる鍼灸師なら、体温の変化と
ほぼ同じ時期に真気が巡り始めるのを感じることが多いと思いま
す。

2.4. 手足、特に指(趾)の震え

 手足の震え、特に指や趾(=足の指)の震えは、体温の変化よ
りも早く起きることが多いように思います。

 敏感な患者さんなら、その時に電気のようなものが体の中を走っ
たりすると言う人がいます。「小さな雷が鳴っている」という表
現をされた人もいました。

 敏感な鍼灸師なら、それとほぼ同時に、あるいは、その少し前
に、邪気の動きを感じることが多いように思います。

2.5. 呼吸の深さ

 呼吸の深さの変化は、時期としては、邪気が動き始めた時に深
くなるように思います。

 そして、真気が巡りだすと、普通の深さに近づくことが多いよ
うに思います。

 『杉山真伝流 皆伝之巻』の「鍼法撮要」の「気察」に

「邪気の至るや緊にして疾く、穀気の至るや徐ろにして和す」

とあります。

 ここで言う「穀気」は一般的に言う「真気」でしょうから、そ
の通りだなと、刺鍼しながら、また、敏感な患者さんの言葉を聞
きながら、よく思います。

3.邪気や真気を感じるには時間がかかる

 とは言っても、邪気や真気を初めから感じられる人は、あまり
いません。気功などをしていた人の中には、かなり、真気を感じ
られる人がいるように思います。が、邪気の方は、初めから感じ
られる人は、あまり見かけません。

 しかし、邪気を感じないと言っている人も、多くは、心に思え
ない、意識に上らないだけで、体は反応していることが多いです。

 これは、経絡にそって、皮膚の10cm位上を指をゆっくり動か
してみると分かります。多くの人は、ツボが出ている場所の上で、
指が少し上に跳ねたり、動くスピードが変化したりします。本人
は気が付かなくても、横で見ている人には分かります(図1)。

図1

 生物は、単細胞生物から進化しました。特別な感覚器官が無く
ても、良い物には近づき、悪い影響を受ける物からは逃げられな
いと、生き残れなかったと思います。人間の体の細胞の一つ一つ
にも、そういう能力が残っているのかなと思います。

 そういうわけで、体、特に、指先は邪気を感じていることが多
いように思います。刺鍼中に、邪気を感じられないという患者さ
んの指も、無意識に動いていることも、よく見かけますし。

 それで、二人組での稽古を2年間位続けると、半数位の人が邪
気を感じられるようになることが多いように思います。残りの半
分くらいは、数年たって感じられるようになったということを聞
くように思います。

 また、数年に渡って二人組稽古を続けていると、邪気を感じら
れないと言う人でも、邪気の変化に応じて、刺手が適切に変化し
て動いていることが多くなります。

 そういうのを見かけると、杉山和一検校の作と伝えられる和歌、

「鍼刺すに 心で刺すな 手で引くな 引くも引かぬも 指に任せよ」

を思い出します。

 二人組での稽古を数年も続けていると、指に任せていれば十分
に患者さんの体の変化に対応できるようになるのだなと思います。

4.先ずは、呼吸の深さに注目する

 とは言っても、指に任せられるようになるには数年という時間
が掛かるわけで、ただ待っているのではなく、できることを工夫
しましょう。

 できること、それは、呼吸の深さに注目することです。特に、
腹の呼吸の深さに、意識を向けます。

 邪気が動き出すと、ほぼ同時に、患者さんの腹の息が深くなり
ます。そして、邪気が去り、真気が巡りだす頃には、その息が普
通に戻り始めます。その変化は、普通の視力があれば観察できま
す。

 ですから、刺鍼中は、できるだけ、患者さんの腹の辺り、特に
臍から下の下腹部を見ているようにします。うつ伏せでの刺鍼の
時は、その背中側の腰椎3〜5の辺りを見ていると良いですね。

 あ、もう一つ刺鍼中に見ていた方が良い所がありました。患者
さんの顔です。気持ち良い刺鍼ができている時には、和んだ顔に
なります。失敗して痛さを感じた時には、変化します。

 ですから、刺鍼中は、患者さんの腹と顔を交互に見ているのが
よいでしょう。

5.呼吸の深さは、他の施術でも同じ

 患者さんの腹の呼吸の深さの変化は、鍼灸だけでなく、他の治
療中にも起きています。按摩指圧でも、操体でも、その時の患者
さんの体の状態に適切な施術になっている時には、やはり、患者
さんの腹の息は深くなっています。

 ですから、一度身につけると、他の治療の目安にもなります。

 例外はありますけど。例えば、鍼灸なら刺絡や熱い透熱灸、指
圧の衝圧法、操体の瞬間脱力、按摩の強揉みなどの最中には、腹
の息は深くはなりません。しかし、その施術が、その時の患者さ
んの体の状態に適切なものなら、その直後に、腹の息が深くなっ
ていることが多いです。

 また、元気な子がたまにカゼを引いて熱を出して寝ている時な
ども、深い呼吸になっていることが多いです。

 鍼灸学校の生理学の時間に、免疫力が高くなっている時の体の
変化として4点あると習った記憶が有ります。

1.体温が少し上がる
2.脈が少し早くなる
3.呼吸が少し深くなる
4.体が少しダルくなる

 この4つの変化のうちで、他人が側で見ていて分かりやすいの
が、呼吸の深さのように思います。

6.おわりに

 邪気や真気の動きは感じられれば、患者さんの体の細かい変化
にも対応できます。しかし、多くの場合、時間がかかります。私
も感じられるようになるのに2年、大まかに対応できるようにな
るのは、それから数年かかりました。

 繰り返しになりますが、ですから、先ず、呼吸の深さの変化を
読めるようになりましょう。治療中は、刺鍼した場所を見るので
はなく、患者さんの腹と顔を交互に見るようにしましょう。


   次へ>>>術伝流一本鍼no.74



   >>>目次へ・・・・・・・・・術伝流一本鍼(あ)

   >>>このページのトップヘ・・術伝流一本鍼no.73

   >>>術伝HPトップへ ・・・・トップページ

術伝HP内検索:上の@wikiメニューの「wiki内検索」


お知らせとお願い

術伝流鍼灸操体講座で患者さん役を募集

 術伝流鍼灸操体講座は、実践面を重視しています。実際に症状が出て
いる方の治療を見たほうが勉強になります。そこで、講座で患者さん役
をしてくださる方を募集しています。

 くわしくは、術伝流のモデルをみてください。

 よろしくお願いします。

感想・間違いなど

 感想などあったり、間違いなど見つけた方は、術伝事務局あてにメールをください。

 よろしくお願いします。

「術伝」症例相談用メーリングリストの参加者募集

 「術伝」では症例相談用メーリングリストの参加者を募集しています。
参加希望の方は、術伝事務局あてにメールをください。

 よろしくお願いします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

   >>>術伝HPトップへ ・・・・トップページ

最終更新:2017年01月28日 00:50
添付ファイル