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術伝流一本鍼no.54 (術伝流・養生の一本鍼・応用編(6))

子供にコロコロ

1.基本的に

 東洋医学の世界では、生物的な大人になる前、つまり、第2次性徴
の出現前までを子供と見なします。本格的な刺鍼はひかえ、ローラー
鍼を初めとする小児鍼や灸、皮内鍼や円皮鍼などで施術します。

 正中腺で縦方向を整え、脇腹で横方向を整え、末端の手足の指で経
絡を整えるのが基本です。また、気が上がりやすいので、陽明を使っ
て気を下げます。

 特に、歩けない段階、座位が充分に決まらない段階では、胴体部を
中心に施術します。手足の経絡と胴体部の関係は、立ち歩くのが日常
的になってから生じる重力負荷の分担に由来しているので、まだ歩け
ない段階では、胴体と手足経絡の関係の相関は、それほど高くないか
らです。(参照:ツボと経絡の観方


 子供、特に、赤ん坊は、野生動物です。小児鍼やクスグリ療法は、
動物の母親が子供をナメることと同じです。子供は、触ることが大切
で、ツボなど分からなくても全身を触り続けることが、いちばん効果
的なようです。特に、喘息やアトピーなどの疾患の場合に顕著です。

 歪みやシコリが大人なみの子が増えています。そういう子の治療は、
本格的な刺鍼が必要な場合もあります。が、案外、刺鍼をイヤがらな
いことが多いです。

 ゆっくり、じっくり説明して、納得してもらってから、刺鍼してい
くようにします。接触鍼をしてみて無理なく鍼が入っていくようなら、
そのまま刺入しても大丈夫です。

ーーー 追記:2020.10.07 ーーー
 普通の刺鍼で弱刺激を習得するには、自分に刺せる鍼を太くしてい
くことです。私は、自分の右足三里には、20番銀鍼を刺せるように
成りました。鍼灸学校卒業した年の8月。それからは、普通の毫鍼で
弱刺激が可能に成りました。

 まぁ、今はセイリンMspタイプが有るので、昔よりも接触鍼での
弱刺激は実践しやすいですね。
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 現在では、生物的大人と社会的大人の年齢差が大きすぎることも、
思春期の病気の原因の一つになっている感じがします。産業革命以降、
思春期に学校に行かせるようになったのが原因と見られます。

 その当時は、学問技術の進歩が遅かったので、学校で習ったことは、
一生を通して、役に立ちました。また、そのため、20歳前後の筆記試
験の成績で、その後の身分が決まる階層社会でもありました。それで、
受験競争にも拍車がかかりました。

 しかし、現在は、ルーチンワークはコンピュータ化され、学問技術
の進歩は早くなり、生涯学習の時代になってしまいました。そのため、
産業革命以前のように、生物的成人を社会的成人にしたほうが良いの
ではないかと個人的には思っています。

 また、昔にくらべて、第2次性徴の出現時期も早くなっています。
考え合わせると、10代中頃で第1子を出産する、中高大には保育園を
併設するという形態に制度変更する必要があるようにも思います。そ
のほうが、女性の社会的キャリアが途切れないように思います。

 白砂糖をはじめとする甘い物を食べ過ぎている子供は、ツボが消え
にくいです。また、消えてもすぐに復活する傾向にあります。化学調
味料、精製塩、添加物も同様です。

(参照:術伝流一本鍼no.50「古いツボ、古いツボ」)

2.ツボが出やすいところ、狙い目

 背中の正中腺上、腰椎部~脇腹、手足末端、陽明経が基本です。細
かくツボを取るよりも、その辺り全体を整えるつもりで施術していく
ほうがよいでしょう。

 背中の正中線上では、身柱まわりの肩甲間部、命門まわりの腰部、
後頭部。また、体の前側では、臍まわりも使います。

 腰椎部~脇腹では、京門、章門、帯脈などがありますが、正穴にか
かわらず、一番くすぐったがるところを施術するとよいです。

 手足の陽明では、上がった気を降ろします。子供は気が上がりやす
いので、陽明で気を降ろすことを重視します。とくに、手の陽明前腕~
母指示指。

 また、疳の虫など、特に、気が上がり方の激しい症状には、手陽明
経の末端、示指の母指側の井穴、指裏横紋端、二間などに、昔から灸
をしました。

 手足末端は、経絡的な変動調整に向きます。井穴、指端、指裏横紋
端などや、指の間の水かき状の部分にある八邪八風がよく使われます。

 症状別では、くすぐったがるところなどが狙い目です。

 肺や呼吸に関係する症状では、中府、肩貞、肩甲間部。

 腹の消化器系の症状では、中脘や、結腸が横行から下降の曲がり角
あたり(左の梁門から腹哀)、胃の六灸で有名な膈肝脾兪など(灸、
皮内鍼)。

 心のコリには、膻中、労宮。

 疳の虫には、上記のように、手陽明の示指・母指側(寫の灸)。

 湿疹や汗疹などカユミには、症状が出ている周りを楊枝を束ねた物
などで散鍼します。散鍼したところが赤くなると、症状が出ていた部
分の赤みやカユミが改善します。

 打撲、切り傷、虫刺されには、その場所に糸状灸。擦り傷は棒灸で
炙ります。打撲は、境目と中心に糸状灸をします(四畔の灸)。また、
打撲には、局所冷却も有効です。

 慢性病で、すでに普段は立ち歩いている状態の場合には、足の指端、
指裏横紋端、女室、失眠などに灸して、じっくり経絡的な調整をして
いくとよいです。

 慢性病でも、脳性麻痺などで、まだ歩けなかったり座位が決まらな
い場合には、背骨が地面に直立した状態を作ることと、指など末端を
刺激することを併用します。

 背骨を直立した状態にするには、胴体部の背骨はじめ正中線と、腰
から脇腹の2か所を整えます。脳性麻痺では、末端の灸のほか、体の
強張った部分を解し、弛めていくことも、関節可動域の改善に役立ち
ます。

 歩くのが上手でない時期には、体幹部の大きな歪みが改善されない
と、手足の細かいリハビリは効果が少ないようです。

 また、親子関係が壊れないよう、無理せずに、操体など子供が喜ぶ
方法を工夫します。

 詳しくは、これから「歩けないほどの歪み」という題で、まとめた
いと思っています。

3.手順

 小児鍼の基本的手順は、以下が基本です。
(1)肩甲間部:縦に往復
(2)命門から脇腹:横に往復
(3)手前腕の陽明経:肘から手首に

 陽明経は、気を降ろすのが目的なので、肘から手首に向けて一方向
のみ小児鍼を動かします。手首から肘方向へは動かさないことが大切
です。

 子供は「コロコロ」と呼んでローラー鍼が好きです。が、硬めの歯
ブラシでも良いし、この順で、くすぐってもよいです。また、心のコ
リには、皮膚の操体も効果的です。乳児では、ブロアブラシやチーク
ブラシなどや、使い古しの書道の筆でもよいです。

 症状別のねらい目があれば、手前腕の施術の前に付け加えます。

 灸は、座位、うつ伏せ、あお向け、手示指指端の順でします。座位、
うつ伏せ、あお向けでは、ツボが出ている所のみ、補の灸をします。
終わりの手の示指指端は、ほとんど捻らない糸状灸で、軽く瀉します。
子供はノボセやすいので。この手の示指指端は、井穴、骨空、母指側
の指関節横紋端でも良いです。

4.写真付き症例

4.1. 乳児(3カ月)

 初めてだったので、寝てもらって様子を観察しました(写真1)。

写真1

 不機嫌そうな感じではないので、やってみることにしました。3か
月ということで、使いふるしの筆で施術しました。先ずは、手指間の
八邪、手のひら、足指間の八風、足裏などを試しました(写真2〜5)。

写真2

写真3

写真4

写真5

 お母さんの八邪もして、感じを味わってもらいました(写真6)。

写真6

 あお向けだったので、とりあえず、あお向けで可能なところをやっ
てきました。横腹(写真7)、中府(写真8)など。

写真7

写真8

 それから、うつ伏せになってもらい、肩甲間部(写真9),腰椎~脇
腹(写真10)をしました。

写真9

写真10

 手の合谷~母指示指間八邪あたり(写真11)を降ろして終わりまし
た。

写真11

4.2. 乳児(10か月)

 この子も初めてだったのですが、両親が鍼灸師のせいか、落ち着い
ていました。

 使ったのは、ハペロールT型(特注品)です(写真12)。シリコン
製の細かい突起の上に銀の網が付いているローラー鍼です。刺激が柔
らかいので、0歳児にも使いやすいです。

写真12

 市販品には、I型とV型がありますが、赤ちゃんなどに施術するには、
慣れているせいか、一般的なローラー鍼と同じT型が使いやすいので、
開発者の方に相談し、作ってもらいました。

 あお向けだったの、先ず、腹や中府などをしてみました(写13,14)。

写真13
写真14

 次に、背中をやろうと、うつ伏せになってもらったら、ハイハイで
動き出してしまうため、座ってもらいました。また、ハペロールに興
味を持って振り向いてしまうため、ハペロールI型を持ってもらうこと
にしました(写真15)。

写真15

 身柱を中心に肩甲間部を往復してから(写真16)、命門から脇腹を
往復したあと、手陽明をなでおろしました(写真17)。

写真16

写真17

 それから、筆で手八邪をなでおろしました(写真18)。

写真18

4.3. 幼児(4歳0か月)

 もう少し大きな子の例です。

 このくらいになると、子供によっては、言えば、こちらが希望する
姿勢を取ってくれるので、手順通りに進めやすくなります。

 うつ伏せで、身柱中心に肩甲間部を往復してから(写真19)、命門
から脇腹を往復しました(写真20)。写真のように服を脱がさなくて
も、まくるだけでもできるので、寒いときは便利です。

写真19

写真20

 それから、座位になってもらい、手陽明をなでおろしました(写真
21)。なでおろしやすいように、手を真っ直ぐにしてくれました。

写真21

4.4. 汗疹のカユミなど症状別(モデル:2歳9か月)

 4.1.の子の2年半後です。お母さんは、あれから鍼灸学校にいき、
在学中でした。

 汗疹で、カユミが出ているとのことでした。汗疹のカユミが出てい
る所の周りを楊枝を輪ゴムで束ねたもので散鍼しました(写真22)。
周りが赤くなるに連れて、汗疹部分の赤みが減っていき、カユミも少
なくなりました。

 お母さんの膝の上に座ってもらって施術しました。好きな玩具も用
意すると、ご機嫌よく施術させてもらいやすくなります。

写真22

 症状別の方法を聞かれたので、解説しながら、モデルになってもら
いました。

 腹痛や便秘の時などは、大腸の走行に沿って施術するのも良いです。
特に、横行結腸が下行結腸になる曲がり角あたりはガスが溜まりやす
くポイントになります(写真23)。ここのガスが動くと、腹痛が消え
てしまうことが多いです。

写真23

 カゼを引いたときなど呼吸器系の症状には、中府あたりが反応が良
いことが多いです(写真24)。

写真24

 夜泣きなど心の落ち着きがないときは、膻中と労宮に、指腹を温め
るような感じで、軽く当てておくのが効果的です(写真25)。

写真25

5. おわりに


 私の次男は、23週620g強で生まれた超未熟児で脳性麻痺でした。
小児鍼は、次男を育てる時に大変有効でした。

以下に書きました。



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最終更新:2020年10月07日 17:28