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術伝流一本鍼no.53 (術伝流・養生の一本鍼・応用編(5))

皮膚つややかに

1.基本的に

 邪毒の排出という視点から、色々な病に応用できるので、取り上げ
ます。

 皮膚というのは、最も原始的な排出器官です。アメーバなどの単細
胞生物の細胞膜に相当します。もちろん、エサを取り入れるなど入力
のほうにも関係しますが、人間の病気を考える場合には出力の要素の
ほうが大きいです。進化で複雑な生物になってから発達した専門的解
毒排出器官が何らかの理由で機能低下したときに、その代わりに働き
ます。

 漢方の湯液の用語でいえば「汗吐下和」、汗をかいたり、吐いたり、
呼吸や鼻水で出したり、痰で出したり、下痢下血したり、肝臓や腎臓
で処理したあと大小便で出したり、そういう機能が低下したり、量が
多すぎて間に合わなくなったりしたときに、皮膚から出そうとします。

 ニキビ、化膿、湿疹、黒ずみなどの形をとることが多いです。急性
では、蕁麻疹という形もあります。

 治療の目標は「艶(つや)やかに」。上衝を下げることと、邪毒の
排出を進めることが治療の中心になります。また、痒みの緩和には、
精神状態の安定も効果的です。

 色々な形で邪毒が排出されると、一気に良くなることが多いです。
こういう現象を漢方の用語で「瞑眩」と呼びます。驚かれる人もいる
ので、事前によく説明しておくことが大切です。

 汗、涙、鼻水、鼻血、大小便、下血、瘡蓋(かさぶた)、痰などの
形がおおいです。苦い水を吐くことや、湿疹が一時的に酷くなること
もあります。一般的には、普段よりも、臭気強く、色濃く、ドロドロ
かつベタベタして粘り気が強くなります。

 汗で出すか、指などの末端から邪気の形で出すのが、体にはラクな
ようです。が、現在では、汗をかきにくかったり、邪気が脇の下から
上腕に溜まってしまって出にくかったり、そういう感じの人が増えて
います。

 邪気が体の一部に溜まってしまう現象については、パソコンや携帯
電話による電磁波、添加物などの化学物質の影響を指摘する人もいま
す。

 また、漢方の世界では、出産前までに体に溜まった邪毒は「胎毒」
と呼ばれ、瘀血が多く、喘息やアトピーの原因になると言われていま
す。瘡蓋(かさぶた)や鼻血で排出されると軽くなるとされています。

2.ツボの出やすいところとねらい目

2.1. 上衝を下げる…手足の陽明経

 上衝が慢性化していることが多いので、上腕の陽明経が灸でよく使
われます。肩髃、臂臑、上曲池など。足陽明経なら足三里。急性症状
には、合谷や指のツボ。前後上下にズレることもあり、凹んで圧痛の
あるところを探します。

2.2. 邪毒の排出

 邪毒の種類によって、横輪切り相関とその該当経絡を探します。

 邪気なら、鼻は頚椎3~4番、喉は頚椎6~7番、上焦では胸椎2~4
番の高さなど。慢性なら肩貞。また、慢性では、体の前側の膻中も使
います。経絡的には手の陰経ですが、邪気が脇の下~上腕に溜まって
いるときには、少陽経や手の甲などにもツボが出ます。

 水毒なら、横輪切りでは、中焦の「背7,9,11」(胸椎の7,9,11)の高
さの華佗経に多く、痞根にも出ます。また、表位の首肩のシコリを弛
めると、水毒が汗の形で出やすいようです。経絡的には、手の太陰経、
足の太陰経と陽明経が関係します。

 瘀血なら、下焦の腰椎3番~仙骨の辺りと、下腹。経絡的には、足
の厥陰経。

 それぞれ、上焦と邪気、中焦と水毒、下焦と瘀血の項目を参照して
ください。

上焦と邪気:術伝流一本鍼no.46
中焦と水毒:術伝流一本鍼no.47
下焦と瘀血:術伝流一本鍼no.48

 また、慢性症状が関係していることが多いので、ヘソ周囲などの古
いツボの出やすいところもよく見るようにします。

古い病、古いツボ:術伝流一本鍼no.50

2.3. 精神安定

 頭では、触って皮膚がブヨブヨした感じのところが狙い目です。百
会とその周り、正営、承霊など。アトピーの痒みに効いたという症例
報告が多いです。経絡的には、陽明(上衝)、太陽(表位)、厥陰。
詳しくは「心を鎮める」を参照してください。

心を鎮める:術伝流一本鍼no.51

3.手順

 上衝だけか、どの邪毒が中心かを考慮してツボ探しをすることがポ
イントになります。

3.1. 応急

 上衝だけなら、手の陽明経の灸(ニキビに肩髃の灸)。

 排出されるべき邪毒によって、体幹部や他の経絡のツボを探して、
手甲に引いた後、必要なら手の陰経に引き、頭~首~肩~背~腰~足
裏の順で施術し、足の陰経~足の陽経の順で仕上げます。上焦が強い
場合には、仕上げに手甲の引き鍼も加えます。

3.2. 慢性期

 ツボを考慮して慢性期の型で施術し、手の陽明経の灸を付け加えま
す。

 灸を中心に施術する場合には、座位、うつ伏せ、仰向けの順で、出
ているツボに施灸します。

 自宅施灸も勧めます。基本は、肩髃、上曲池、足三里です。水毒の
排出には、「背の7~9~11」(胸椎7~9〜11番)付近や中脘を加えます。
瘀血の排出には、中極、上仙、蠡溝などを加えます。

3.3. お茶、食物

 食養生の効果が高いと言われています。皮膚にハトムギ。解毒にド
クダミ。邪気(上衝)にシソ、ミント、シナモン。水毒に小豆。肝機
能補助にウコン。腎機能補助にクミスクチン。そして、クマザザ系で
は、サンクロンに隈笹精。以上は例です。調べると、色々出てきます。
試してみて、自分に合ったものを選んでいくのが良いと思います。

 また、旧暦七草から新緑までの季節は、新陳代謝の衰える冬に溜まっ
た邪毒を排出する時期と言われています。そのころに、七草粥、おは
ぎ、蓬餅などを食べるという習慣も、冬に溜まった邪毒の排出という
意味があるそうです。

 その季節に酷くなることが多い花粉症も、邪毒の排出のメカニズム
の一環の可能性があります。葉物野菜を沢山、特に、野草山菜系のセ
リ、菜花、ウド、蕗、大根や蕪の葉などを食べるようにすると、邪毒
の排出が促されるようです。ただし、昨年(2011)の3.11以後は、野草
山菜は放射性物質を貯めやすいそうなので、その点の注意も必要にな
りました。

4.写真付き症例

4.1. 手の湿疹

 手の甲から手首にかけて湿疹ができており、なかなか治らずに困っ
ていると言う人。

 「湿疹は最初はピアスにカブレたところから始まったのですが、左
耳の下から顎骨にかけて、その後に額の生え際に赤く丸く幾つかでき
ましたが、数カ月で消えました。
 それから手の甲に出来始めて、今は1年ぐらいたつと思います。9月
の半ばぐらいからとても広がってきました。
 皮膚科には何件か行きましたが同じことしか言われないし、ステロ
イドしか処方されませんので、もう行っていません。痒みが酷いとき
だけ少し塗るようにしています」

 というメールを昨年10月初めにいただきました。

 初め顔に出ていたのが、手に出るようになったのは、体がそこまで
は出せるようになった可能性が高いなと思いました。体幹部から体の
末端の手のほうまでは出せるようになったが、指からは出せずにいる
状態かなと思いました。

 数日後に施術しました。まずは、慢性期の養生の型の手順にしたが
い、脈診(写真1)、舌診、腹診の順で診察しました(写真2)。舌診
では瘀血の感じは無かったので、水毒の可能性が高いなと思いました。

写真1

写真2

 腹診では、肋骨下部よりも上腹部のほうが高く、水毒の可能性をま
すます感じました。上腹部は右側も張っていましたが、ヘソの左側に
痛いところがありました(写真3)。押しただけで邪気が吹き出して
きました。そしたら、上腹部の張り、とくに右側の張りが少なくなり
ました。

写真3

 大腿部の陽明経から少陽経も左側のほうが張っていました。

 湿疹は右手でしたが、腹は左側にツボが出ていたので、あお向けで
は、左を施術することにしました。

 上衝を考え、また、額左側の赤みも考え、合谷から刺鍼しました
(写真4)。邪気が吹き出してきました。そしたら、左額の赤みが薄
くなりました。

写真4

 そのあと、手の陰経~陽経の順で出ていたツボに刺鍼しました
(写真5、6)。とくに陰経側から邪気がたくさん出てきました。写
真では、右手甲の湿疹にも注目してください。

写真5

写真6

 次に、腹。左脇腹(写真7)に引いた後、ツボが出ていた左下肓兪
(写真8)、左上肓兪、左肋骨ちかく(写真9)に、順に刺鍼しました。

写真7

写真8

写真9

 写真を撮り忘れましたが、左上肓兪からの邪気が多かったです。刺
し手をはなし、押し手の手首を切打したら、出て行きました。ヘソよ
り上の邪気が多いので、ますます水毒の可能性を感じました。

 そして、足。陰経~陽経の順で、ツボの出ていた築濱(写真10)、
脛骨脇(写真11)に刺鍼しました。築濱への刺鍼では、腹の変化にも
注目し、腹の変化が大きくなるように施術しました。

写真10

写真11

 足の刺鍼では、陽経側からの邪気のほうが多かったです。腹への刺
鍼で、腹の表面に邪気が出せたせいかなと思いました。

 うつ伏せになってもらい、背中の頭に近いほうから足のほうへの順
で、左胸椎部華佗経(写真12、13)、左痞根(写真14)、左腰椎部
華佗経(写真15)に出ていたツボに刺鍼しました。

写真12

写真13

写真14

写真15

 左痞根に刺鍼したとき、初めにバチンと、冬にドアノブを触ったと
きに静電気が飛ぶような感じで、邪気が飛んできてビックリしました。
また、腰椎部の刺鍼のあと、腰が温かくなりました。

 それから、脹ら脛に出ていたツボに順に刺鍼しました(写真16,17)。

写真16

写真17

 ゆっくり起き上がって座位になってもらい、大椎右側華佗経
(写真18)、胸椎右側華佗経(写真19)、右後頭部(写真20)など
に出ていたツボに刺鍼しました。

写真18

写真19

写真20

 大椎部や胸椎上部のツボの出方から、カゼのときに汗で出るべき水
毒が出ていない感じがしました。本人にも聞いてみたら、カゼのとき
に、はっきりした症状が出にくいとのことでした。

 いよいよ患部。手足に出る湿疹で、このように場所が限られたタイ
プは、湿疹のある部分の直ぐ近くの胴体よりと指先よりにツボが出て
いることが多いです。(直ぐ近く:だいたい1cm〜5cm)

 胴体側、つまり、血管や神経の中枢側のツボは、そこから先の血行
や神経伝達に関係し、そこから先が酸素や栄養が不足したり、神経伝
達が上手く行かないことで、湿疹ができやすくなるようです。

 また、指側にツボがあると、そこから先へ邪気がうまく動かず、指
から邪気がスムーズで出ていかないことに関係するようです。

 先ずは、胴体よりをしらべて、出ていたツボに、陽経側と陰経側に
1か所ずつ刺鍼しました(写真21)。そしたら、たくさん邪気が吹き
出してきました。本人も感じたようです(写真22)。

写真21

写真22

 次に、指先側にもツボを探して、出ていたツボに2か所ほど刺鍼しま
した。やはり、邪気がたくさん吹き出してきて、本人も感じたようで
す(写真23)。

写真23

 抜こうとしても抜けてこないで、抜こうとすると患者さんが痛がる
状態が長かったです。たくさん溜まっていたということだと思います。
邪気がよく出ていくように、指そらしも併用しました(写真24)。特
に、薬指と示指を反らすのが効果的でした。

写真24

 その後、井穴を調べ、邪気の出たがっている感じのところを探しま
した。薬指と示指の井穴にツボが出ていたので、そこにも刺鍼しまし
た(写真25、26)。ここは、硬めの糸状灸でも良かったと思います。

写真25

写真26

 そしたら、患部の痒みは消えたとのことでした。患部の赤みも少な
くなりました。

 痒いときには患部の周囲を楊枝を束ねたもので散鍼することと、薬
指と示指の爪にカッターなどで軽く傷つけ☓印を描くこと、指を反ら
すことを勧めました。

 そのあと湿疹は落ち着いたようでした。しばらくして3か月後に、ま
た悪化したということで、施術しました。

 時間がなくて、応急処置をするなら、手甲に引き鍼した後、湿疹の
胴体側のツボの施術以降の処置をすればよいと思います。

4.2. 肩甲間部中央のカユミに女膝・失眠の灸


 肩甲間部中央部にカユミがあるという人(写真27)。

写真27

 こういう時、つまり、背中中央部の関連経絡としては、手の太陽経
は使えないことが多いです。普通、上半身、特に肩甲骨より上は、手
の経絡が関係しています。が、背中中央部の胸椎3番あたりから下は、
手太陽経のツボを使っても、効果が出にくいです。

 手を動かしても、この辺りはあまり動かないからかなと思っていま
す。経絡の8割ぐらいは経筋的関係ということの典型例かなとも思い
ます。

 足の太陽経を使います。急性症状には、足首から先なのですが、こ
ういう場合、つまり、背中中央(督脈や華佗経あたり)の邪気を降ろ
す(下方かつ末端に引く)には、昔から女膝や失眠が使われています。

 女膝を調べたら(写真28)、案の定、ツボが出ていました。そこ
に手指用糸艾で灸をしました(写真29)が、1壮では熱くならず、3
壮ほどしました。

写真28

写真29

 初秋のころでしたので、夏に汗をかいたあと冷房などで引っ込めて
しまった汗が原因かなと思いました。涼しくなって足のほうが冷えて、
虚火上逆になり、引っ込めた汗による邪を痒みとして感じやすくなっ
たこともあるのではないかなということです。ですから、これは水毒
による皮膚の痒みと思います。

 その後、痒みの周りを散鍼したら(写真30)、周囲が赤くなって、
痒みのあるところの赤みが減りました(写真31)。

写真30

写真31

 その後、もう一度下方かつ末端に引くため、失眠を調べたら、やは
りツボが出ていました(写真32)。

写真32

 失眠は、浮腫(むくみ)にも使われるので、水毒の関係もあって出
ていたのかなとも思いました。そこにも、灸をしましたが(写真33)、
やはり1壮では熱くならず、数壮しました。

写真33

 そしたら、患部の赤みがますます目立たなくなりました(写真34)。
写真だとわかりにくいかもしれませんが。

写真34

4.3. 爪水虫

 皮膚の病に近く、しかも、とても効果的なので、紹介します。

 爪水虫は、爪の健康な部分と爪水虫の部分の境目に直接灸(写真35)
を毎日します。爪全体が水虫なら、3か所ぐらいします。すると、そこ
から爪の根元のほうには水虫が進出しないので、爪が伸びるに従って、
健康な部分がふえ、やがて消えていきます。

写真35



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最終更新:2017年05月17日 14:25