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術伝流一本鍼no.51 (術伝流・養生の一本鍼・応用編(3))

心を鎮める

1.基本的に

 心が関係するの病では、中心線がズレていることが多いです。
それが原因の1つで、邪気が上衝しやすい、というか、邪気が
上衝し続けるている状態です。頭の使いすぎが原因のことも多
く、使いすぎで頭が疲れても上衝と同じような状態になります。

 そして、上衝した邪気が、首肩が硬くて降りられずに、頭の
中でグルグル堂々巡りしています。それにつられて、頭の中で
言葉がグルグル堂々巡りしていることが多いです。

 特に前頭部に邪気が上衝し続けると、精神症状が出やすく、
「鬼哭の灸」で両手拇指の少商を使うのは、前頭部の邪気を降
ろすためです。

 動物学や自然人類学では、「ヒトは直立二足歩行するサル」。
そのせいか、立った姿勢で重心となる丹田の真上に頭(百会)
がないと、心が揺れやすいようです。

患者さんとのコミュニケーションが大事

 他の疾患の場合よりも、患者さんとコミュニケーションが上
手く取れるかどうかが大切になります。話したがっている人の
場合には良く聞くことが大事で、話のじゃまにならないように
施術方法を選ぶことも必要になります。

 また、施術部位(場所)を気にされるときには、その部位
(場所)のその日の施術は見合わせて、別の手段を考えた方が
良いでしょう。特に、顔や頭、殿部、胸まわりや下腹部などは、
患者さんに聞いたり、反応を見たりしながら、施術するかどう
かを考えた方が良いです。ゆっくり、少しずつ改善すれば良い
ので、患者さんの了解を取りながら進めていきましょう。

転地療法:逃げることも選択肢

 環境が変えられれば良いことも多いです。逃げ出すことも選
択肢の1つになります。

 そのためか、転地療法で大変良い効果が出ることもあります。
転地するには、それまでの環境での色々な関係に一区切りをつ
ける(清算する)必要があるからだと思います。

 逆に、逃げられずに症状を重くしてしまうことが多いように
思います。色々な支援団体にも相談し、劣悪な環境からは早め
に逃げることが大切と思います。

夢中になれることに磨きをかける

 世の中の変化の大きな流れを理解することも必要になってき
ます。現在は、価値基準が「学問からサービスへ」変化してい
る時代です。明治維新のころに「身分から学問へ」変わったの
と同じ位に大きな変化だと思います。

 自分が夢中になれることに磨きをかけて、お客様にサービス
して喜んでもらえないと、評価されにくくなっています。子供
の頃に頑張って20歳前後の筆記試験で良い点を取れば一生ラク
な生活ができる時代は、終わりました。

「体で感じる」ことを「心で思える」ように

 現在では、体で感じていることを素直に心に思い浮かべられ
ない人が増えています。心で思っていることの90%近くが他人
の言葉に由来しているのではないかと思われるような人がいま
す。

 そういう人が病気になるということは、体の感じていること
を思い浮かべられない心に対して、体が発する警戒警報なのか
もしれません。

 心に症状が出ているときは、体だけに症状が出る場合よりも
治りにくいことが多いし、体だけの症状に見えても心の症状が
含まれることも多いです。心の症状の割合が高くなるほど、治
りにくさは増加していくようです。

 しかし、病態を理解して、少しずつ体のバランスを整えてい
くと、ゆっくりとですが、心の中の堂々巡りは消えていきます。
「体で感じる」ことを「心で思える」ようにしていくと、変化
が早くなり、堂々巡りしにくくなっていきます。

2.ツボの出やすい所、その目的

2.1.経絡

 首肩が硬いと邪気が頭から降りにくいです。そのため、太陽
経や 表位(太陽位)を使って、首肩を弛めます。

 表位では、後頭骨下縁から胸椎7番の辺りまでの範囲。不眠
がちのときには、特に、後頭骨下縁の天柱〜風池に出ているツ
ボを弛めることが必要です。

 足太陽で邪気を降ろすには、鍼では陽大鐘、灸では失眠や女
室を使います。手太陽では、手首から先を使い、澤田流神門、
後谿、少沢などが候補になります。

 上衝を下げるために、陽明を使います。体幹部では、前頚部
から鎖骨の周り。手陽明では、合谷など。足陽明では、足三里
など。また、「鬼哭の灸」のように、手の拇指のツボも使われ
ます。

 中心線を確立し、立ち姿勢での重心の真上に頭が来るように、
督脈・任脈・厥陰・少陽を使います。督脈では、主に、肩甲骨
下端のラインより上の脳戸〜至陽。任脈では、膻中〜中脘。厥
陰では、内関、中封、太衝。少陽では、首の風池〜横頚中央、
大腿部の風市〜足陽関。

 この「中心線を確立し、立ち姿勢での重心の真上に頭がくる」
のには、立位座位での重さ操体も効果的です。患者さんに伝え、
身に付けてもらうようにします。
術伝流操体no.11 体重移動をキッカケにする重さの操体)

2.2.頭

 頭では、ブヨブヨした所を探します。正中線上と、目を通り
正中線に平行な2つのライン上に多いです。正中線上では、神
庭〜百会〜脳戸など。目の延長線上では、頭臨泣〜正営〜承霊
など。

2.3.その他

 心に打撲を受けたような状態の時には、身体的な打撲の時と
同じように、臍の周りにもツボが出ます。

 横隔膜を境にした上下関係からか、仙骨〜尾骨には、頭に関
係したツボが出やすいです。

 古い病とも関係します。古い病に関係するツボは、先回書い
たように、境目に出やすいです。上下では、至陽〜膈兪、巨闕〜
脇肋部など。前後左右では、厥陰経・少陽経・督脈・任脈。そ
れらの組み合わせでは、百会、尾骨など。頭首や胴足の境目で
は、天柱〜風池、足徹腹(外承扶)など。

 水毒や瘀血があると邪気が発生しやすく、その邪気が上衝す
ることもあり、そのあたりに関係するところも候補になります。

3.手順

3.1.応急処置

 応急処置としては、ぐっすり眠れるような状態に持っていく
ことが大切です。

 先ず、手の末端に合谷→内関(または列缺)→中渚の順で強め
に引き、頭首肩の熱い所を散鍼します。

 それから、頭のブヨブヨした所に刺鍼。そして、上から順に、
首肩背の順で、強張りや痼りを弛めます。特に、不眠に関係し
やすい後頭骨下縁にツボが出ていたら、確実に弛める必要があ
ります。

 さらに下がって足にいき、太陽→少陽→厥陰→陽明の順で刺
鍼します。

 終わりに、手の甲に引きます。

 首肩背を弛めているうちに眠くなったら、足の刺鍼を省略し、
手の甲で終えて寝てもらいます。

3.2.慢性期の養生

 慢性期には、慢性期の型でツボを考慮するか、置鍼と灸を組
み合わせます。

 置鍼と灸のときは、先ず、座位で手末端に引き鍼します。そ
の後、頭に刺鍼します。この頭の鍼は、長引くようなら置鍼し
てもよいです。

 それから、うつ伏せで、古いツボに補の灸頭鍼をします。

 その後、仰向けになってもらい、体幹部から足の古いツボに、
補の灸をします。そして、できれば、そのまま寝てもらうのが
よいです。

 が、起きる必要のあるときには、目覚ましのため、手の骨空
や指端などに、瀉の灸をします。

 急性期や慢性期の型での刺鍼で、弛めにくい古いツボを見付
けたら、次の回には補の灸や補の灸頭鍼をします。

 動く邪気が多いなどの理由で、患者さんが施術中に動いたり
してしまう場合には、鍼灸での施術が難しくなります。そうい
うときには、鍉鍼や按摩指圧操体などを組み合わせて施術しま
す。

4.写真付き症例

 色々と精神的に辛い状況が続き、パニック障害的な症状も出
ているという人。

 時間があったので、慢性期の型で、先ずは全身の診察から。
腹部と大腿部を見ていったときに、上記した心に関係したツボ
が出やすい所にツボが出ていました。そして、そこを押すと、
痛がっていました(写真1、2)。

写真1

写真2

 慢性期の型の順で、刺鍼していきました。初めに手の陰経を
刺鍼したときから、出てくる邪気の量も多く、患者さん本人も
それを感じて、姿勢を変えて、耐えていました(写真3)。

写真3

 その様子と腹診時の反応から、腹などは刺鍼せず鍉鍼での施
術の方が良さそうに思ったので、鍉鍼での施術に切り替えまし
た(写真4)。

写真4

 大腿部に出ていたツボも鍉鍼で施術しました(写真5,6)。
患者さん本人がとても敏感だし、動く邪気の量も多かったので、
色々な姿勢で耐えていました。

写真5

写真6

 また、心の病に関係する腹のツボを改善するため、腹のツボ
を皮膚操体し、関連する大腿のツボを鍉鍼で施術したりもしま
した(写真7)。大腿のツボは、腹のツボの反応が良く出る所
を選びました。

写真7

 次は、うつ伏せ。余り眠れていないせいか、後頭骨下縁の天
柱〜風池にツボが出ていたので、刺鍼して弛めました(写真8)。

写真8

 背の華佗経に出ているツボに刺鍼していったら(写真9)、
大量の邪気が吹き出して来ました。量が多いので、患者さんの
姿勢を変えて耐える動きも大きく速くなっていきました。

写真9

 それで、これ以上の刺鍼は無理と判断し、鍉鍼と指圧や皮膚
操体での施術に切り替えました(写真10)。

写真10

 心臓の裏に当たる左肩甲骨下角と、頭に関係する尾骨の近く
にツボが出ていて反応が続いたので、しばらく鍉鍼と皮膚操体
の組み合わせの施術をしました。(写真11)。

写真11

 そしたら、だんだん、仰向けになっていきました(写真12)。

写真12

 それで、仰向け側で心に関係することが多く、皮膚操体など
に良く反応する膻中を調べてみました。そしたら、やはり反応
がありました。そこで、膻中の反応が強くなるような足のツボ
を探し、組み合わせて施術しました(写真13)。

写真13

 この症例は、2月中旬でした。冬は、襟から入る冷たい空気
のせいで、鎖骨首側が硬くなりがちです。そして、そこが硬い
と首が回しにくくなります。そうすると、抽象的な意味で「首
が回らない」状態にもなりやすいようです。

 そこを調べたら、やはり硬かったので、按摩指圧皮膚操体を
組み合わせて、弛めました(写真14)。

写真14

 そしたら、起き上がって座位になっていきました。起き上がっ
てからも、しばらく、鎖骨の首側を弛めるのを続けました(写
真15)。

写真15

 仕上げに手指の強めの施術をして終わりました(写真16)。
写真は、大椎まわりを触りながら表位の邪気が降りる反応を見
ているところです。

写真16

 写真を撮り忘れたのですが、立ち上がって歩いてもらったら、
スッキリした姿勢で、力が抜け、すんなり歩けていたので、良
かったなと思いました。

5.心がサナギになるとき

 昆虫の成長には、バッタのように幼体がそのまま成長し成体
になるものの他に、チョウ、アリ、カブトムシのように、サナ
ギの時期を経て、幼体と形が大きく異なる成体になるものもい
ます。

 私は、人の心にも、バッタ型の他に、サナギの時期が必要な
型があるように思います。サナギのときには、じっと動かない
ことが必要です。10代から20代前半に掛けて、そういうサナ
ギの時期になることが多いと思います。

 そして、現代では、そういうことを大目に見ることが少なく
なっているように思います。そういうことも、精神的な病が増
えている原因の一つかもしれないなと思います。

 昔は、儀礼として、サナギのような状態を体験させる地方や
民族もあったようです。そういう点は、現代にも生かした方が
良いように感じます。

 丁度その年令の人だったので、そういう話もしました。


6.体が危険を感じることをしてみる…と良いかも

 「心が空っぽ」になる時間帯を作れると、心が鎮まりやすい
です。それには、「体が危険を感じることをしてみる」のも1
つの方法です。もちろん十分に安全を確保した上でですが。

 例えば、今は町中にもウォールクライミングの設備がありま
す。落ちても怪我をしないような安全性は確保されています。
しかし、落ちそうになると、体は危険を感じます。落ちた瞬間
には、心の中は危機感で一杯になり、他の思考は消え、「真っ
白」になります。

 1時間もしていると、心の中で「堂々巡り」をしていた思い
は消え、心が空っぽになっていることが多いです。そして、そ
の夜はグッスリ眠れる可能性が高くなります。向き不向きは有
ると思いますが、一度試してみる価値はあると思います。

(*6.は、2016.5,2に追記しました)

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 くわしくは、術伝流のモデルをみてください。

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最終更新:2020年05月28日 15:28