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術伝流一本鍼no.46 (術伝流・養生の一本鍼・病証編(5))

上焦の病

1.基本的に

 上焦の病は、体の内側の横隔膜より上に主な症状やツボが出
る病で、呼吸循環器系とも言えます。邪気に因ることが多く、
手陰経に引きやすいです。また、横輪切りの背中の横隔膜より
上にもツボが出ます。症状の出ている辺りの胸側にも出ます。

 邪気は、中焦の水毒や下焦の瘀血・虚などが原因のことが多
いです。そういう場合には、腹や、足の陰経・陽経、横隔膜か
ら下の背中側にもツボが出るので、長期的には、それらの改善
も必要になります。

 また、上焦の下部に水毒が溜まることがあり、咳や痰の原因
になります。

2.ツボが出やすい所や狙い目

2.1. 手の陰経

 先ずは、手の陰経から。触診してみて、膻中より上の症状の
ときは、手太陰に出やすいです。膻中から下の症状のときは、
手厥陰に出やすいです。胸郭内部背中側の症状は、手少陰に出
やすく、特に、心臓に関係する症状の場合には、手少陰の左側
に出やすくなります。

 急性症状が出ているときには、鍼では手首近くを使います。
手平への刺鍼は痛いので。咳なら列缺、吐き気なら内関、不整
脈なら左陰郄など。灸では、手平や指のツボも使います。労宮、
裏合谷、節紋(拇指関節掌側横紋橈側)など。

 症状が長引いている慢性症状のときには、肘近くの上腕より
に出ます。長引く咳には上尺沢。膻中より下の症状のときや中
下焦が原因のときは、上曲沢に出ていることが多いです。

2.2. 背中(陽位)

 背中側の横隔膜より上の1~2行線、督脈、華佗経に出ます。
慢性期には、2行線や、督脈、華佗経によく出ます。特に、古
いツボは、筋肉の厚い所、華佗経や肩甲骨周りに出ることが多
くなります。

 呼吸器系では、肩甲骨の上半分に多いです。喘息など長期的
な呼吸器系の病では、胸椎3番辺りの華佗経と、 肩甲骨外側の
肩貞に出ていることが多いです。

 心臓系では左肩甲骨の下半分、特に、下角近くに出ます。

 また、水毒や瘀血が原因している場合には、横隔膜より下に
も出ます。中焦の水毒が原因のときは、胸椎7~9~11番ライン
の華佗経や、痞根に出やすいです。下焦の悪血や虚が原因のと
きは、腰椎3番〜仙骨の華佗経や、腰徹腹に出やすいです。

 昔は、胸椎〜腰椎〜仙骨の1〜2行線の兪穴などに出ること
が多かったようです。しかし、現在では、慢性の病の古いツボ
は、胸椎〜腰椎〜仙骨では華佗経に出やすです。そして、肋骨
の無い所では、脊柱起立筋外側の痞根、腰徹腹にも出やすいで
す。

2.3. 胸腹部

 胸腹部の症状の表面近くにも出ます。 

 呼吸器系では中府、膻中と、それを結ぶ斜め線上で、肋骨を
1本上がることに外側に出ます。

 循環器系では左肋骨間で、特に、外下方に出ていることが多
いです。

 水毒や瘀血が原因している場合には、腹部にも出ます。水毒
が原因のときは、中脘、章門など。瘀血が原因のときは、水道
や五枢〜維道の辺りなど。下腹の虚・冷が原因のときは、関元
など。

2.4.  足の陰経

 中下焦に原因のあるときは足の陰経にも出ます。

 下腹の虚・冷のときには、照海。水毒が原因のときは、地機、
節紋(灸)など。瘀血が原因のときは、蠡溝、中封など。

 慢性期には、足の大腿部にも出やすくなります。詳しくは、
「中焦の病」、「下焦の病」を参照してください。

2.4. その他

 腹の表面や背中の痼りの関係から足陽経にも出ます。手陰経
のツボの表側の陽経に出ることも多いです。

 下半身に冷えには、足甲の3~4間に出ているツボへの灸が効
果的です。

3.手順

3.1. 慢性期

 急性期でもその時点で症状が激しくない場合には、この方法
ですることがよくあります。

 基本的には、ツボを考慮して慢性期の型の順で刺鍼します。
ただ、既に表位に症状が出ている場合(急性症状も出ている時)
には、先ず手甲の合谷などに引き鍼します。

 また、胸上部から鎖骨・喉にかけてツボが出ていることが多
いので、座位で、肩首の後に刺鍼します。それから頭散鍼・手
甲引き鍼で仕上げます。

 必要に応じて、凹んで冷えたり虚したりしている所や華佗経
などにある古いツボに灸・灸頭鍼をし、手の指端の灸で終えま
す。

灸や灸頭鍼と置鍼での治療

 灸や灸頭鍼と置鍼を組み合わせてもよいです。うつ伏せで背
上部を灸した後に、仰向けで胸周りを灸し、手指端の灸で仕上
げます。

 手指端は目覚ましなので、施灸した後に寝られるときは省略
します。

 表位の症状があるときや原因が水毒・瘀血のときには、それ
ぞれのツボを付け加え、座位→うつ伏せ→仰向けの順で上から
下に施灸します。

喘息に、慢性期の型と灸頭鍼の併用

 喘息の患者さんには、胸椎3番辺りの華佗経の出ているツボ
への灸頭鍼が効果的で、喜ばれることが多いです。

 この場合は、慢性期の型で診察施術していき、うつ伏せになっ
たら、胸椎3番辺りの華佗経の出ているツボに灸頭鍼をセットし、
それから慢性期の型に戻り、胸椎7から下の背腰足のツボを探し
刺鍼をしていきます。そして、灸頭鍼が燃え終わったら、セット
を外します。それから、座位での慢性期の型をします。

 胸椎3辺りの華佗経に出ているツボに灸頭鍼すると、患者さん
から「胸の中の全体が温まった感じがする」と言われることが多
く、辛さが大幅に少なくなるようです。

3.2. 応急処置

 急性期は慎重に。救急医療と連携も考慮に入れてください。
見極めが大事になります。

 手甲に引き、手陰経の手首に引き、背に引き、頭に散鍼し手
甲で終えるのが基本です。邪気の動き速いので、刺鍼は速め速
めにします。

 初めに表位に症状があれば、先ず手甲に引き、途中で表位に
症状が出たら、手の陽経に引きます。背に引いた後に肩首に症
状が出たら、肩首に刺鍼します。

 中焦下焦に原因が予想されるときには、背に引いた後で、足
陰経足陽経の順でツボを探し刺鍼します。

 詳しくは、「上焦の急性症状(術伝流一本鍼no.24)」に
書きました。

4.写真付き症例:長引くカゼでセキが続く

 カゼが長引き、セキも続いているという人。

 先ず診察から。脈は、浮で数で弦(写真1)。

写真1


 腹診では、上衝があり、鎖骨周り始め胸が熱く、上腹部はと
ても冷えている状態が目立ちました(写真2,3)。

写真2

写真3

 丹田が虚し(写真4)、足先も冷えている状態(写真5)。
腹の左右を比較すると、左の方が辛い状態でした(写真6)。

写真4

写真5

写真6

 列缺、上尺沢、上曲沢の3つを比較すると、上尺沢の反応が
強かったです。昔から「長引く咳に上尺沢」と言われている通
りだなと思いました。

 上尺沢に刺鍼したら、弾入して直ぐから邪気が沢山出てきま
した(写真7)。これだけ邪気が溜まっていたら、症状が長引
いているわけだなと思いました。初めは刺鍼した周りから、そ
して腕全体から、その後は、おそらく胸からの熱い邪気も出て
きました。刺鍼後、胸の熱さが和らぎました。

写真7

 その後に左腕陽経に刺鍼。

 腹、先ず横腹、次に左下腹の五枢〜維道辺りに出ていたツボ
に刺鍼しました。

 操体の橋本敬三先生が書き残しているように、咳が長引いた
ときには、よく鼠径部に筋張りが出ます。調べて出ていたら、
以下の処置をすると弛みやすいです。

 スジバリに指を当て、押して方向を探し、スジをピンと張る
状態にしてから瞬間脱力し、弛めます(写真8)。吉田流按摩
の筋揉みと似た技法と思います。

写真8

 鍼で弛めるには、逃げないように押手で筋張りの左右を押さ
えてから、皮膚に30度位の斜刺で筋張りの表面にチョンと当
てます。

 次に、臍周りに出ていたツボに刺鍼。そしたら、熱い邪気と
冷たい邪気が両方交互に出てきました(写真9)。初めは熱い
方が多かったのですが、暫くして出なくなりました。そして、
冷たい方が多くなっていきました。冷たい邪気が感じられなく
なったときに抜鍼しました。それから上腹部に触れてみたら、
冷感が減っていました。

写真9

 より温めるため、上腹部に出ていたツボへ補の鍼をしました
(写真10)。補すときには、ゆっくり、大きく、鍼を動かしま
す。

写真10

 撚鍼のときは、ゆっくり撚鍼しながら、ついでに、鍼柄を摩
擦することも付け加えます。指をしっかり当てて撚鍼するので
はなく、半ば鍼柄に指を滑らせる感じで摩擦しながら撚鍼しま
す。

 補の刺鍼に関しては、術伝流一本鍼no.78体得篇(18)
「真気を呼んで巡らすための鍼の動かし方」に詳しく書きまし
た。

 刺鍼後しらべたら、周りと変わらない温度になっていました。


 また、弦だった脈も弛んでいました。

 足の陰経の地機辺りに出ていたツボへも、補の鍼をしました
(写真11)。

写真11

 足の陽経は、脛骨脇に出ていたツボにサッと刺鍼しました。

 うつ伏せになってもらい、胸椎の左華佗経に出ていたツボ、
左痞根あたりに出ていたツボに、順番に刺鍼しました。

 足への刺鍼は省略し、座位になってもらいました。

 座位では、 先ず、肩甲間部を触診しました。胸椎3あたりの
華佗経が指一本分位の穴が空いている感じに凹んでいました。
胸椎7番あたりのラインに左右並んでツボが出ていて、右が実
で、左が虚でした(写真12)。

写真12

 初めは右側を痛がっていましたが、軽く押したり揉んだりし
ているうちに消えていきました。そして、左の奥にあった縦長
の骨のような痼りが目立ってきました。

 先ずは、胸椎7番あたり左の痼り、左右に逃げないように押
手で左右から挟むようにしてから斜刺で刺鍼しました(写真13)。
骨のような硬さが弛み、弾力が出てきました。

写真13

 胸椎3番あたりの華佗経にツボは、長引く咳のためだと思い
ます。熱、頭痛、項背の強張りが主でセキが余り出ないときに
は、大椎まわりにはツボが出ますが、胸椎3番の華佗経に出る
ことは少なくなります。

 この胸椎3番あたりの華佗経のツボは虚していたためか、抜
こうとすると痛がられるので、弾鍼したりしながら長めに刺鍼
しました。暫くして温まってきたので、抜鍼しました(写真14)。

写真14

 それから、首肩まわり、特に大椎まわりを指を滑らせて調べ、
出ていたツボに刺鍼しました(写真15)。

写真15

 そして、胸の前側。カゼのときは、膻中の脇から肋骨1本上
がる毎に、外寄りにツボが出ていることが多いです。調べたら、
左2か所に出ていました。順に刺鍼(写真16,17)。浅い所なの
で、弾入したら直ぐ横揺らし弾鍼などをし、直ぐ抜鍼します。

写真16

写真17

 胸上部から鎖骨まわり、前頸部などを指で軽くこすり、赤み
が出た所に散鍼しました(写真18)。熱が出たがっている所
です。

写真18

 頭も左が熱かったので散鍼しました(写真19)。

写真19

 手甲は1~2間にツボが出ていました。カゼのようなときに
は、合谷のツボは拇指側に出ていることが多いです。ツボを探
すときに、拇指に押し付けた場合と、示指に押し付けた場合を
比較します。案の定、拇指寄りの方にを痛がっていました。そ
こに引き鍼しました(写真20)。

写真20

 邪気が去り、刺鍼した周りがほんのり温まってきたときに抜
鍼しました。『杉山真伝流』の「邪気の至るや緊にして疾く、
穀気の至るや徐にして和す」という感じを味わえ、面白かった
です。

 カゼの場合でも、症状が重く、座位が辛いときには、座位で
したことも、うつ伏せなど寝た姿勢でします。


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最終更新:2017年02月25日 13:15