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術伝流一本鍼no.44 (術伝流・養生の一本鍼・病証編(3))

陽明の病

1. 基本的に

 陽明の病は、体の前面に主な症状が出る病で、ツボが浅
く、熱が高く、動きが速いことが特徴です。

 邪気が顔や前頭部に突き上げる上衝を伴うことが多く、
陽性の精神症状が出やすくなります。

 「高きに上がって歌い、衣を棄てて走らんと欲す」
                 (『霊枢』経脈編)

 『傷寒論』に「陽明之為病、胃家実也」とあるように、
臍より上は実することが多いので、上記のことが言えます
が、陽明経が虚すこともあります。その場合には、陰性の
精神症状が出やすくなります。

 「一人戸を閉じ、窓を塞いで居る」(『霊枢』経脈編)

 というよりも、陽明経の病は「上が実し、下が虚す」と
考えた方がよく、その割合に応じて精神症状は変わってく
るということでしょう。

 代表例は、更年期障害、疳の虫、熱射病など。不眠の多
くは、太陽と陽明の合病です。

 邪気を散らし下げることと、手早い刺鍼が大切で、腹の
虚が有れば補(おぎな)います。

2.ツボが出やすい所や狙い目

 先ずは、手足の陽明経、特に「手の陽明」の「手首より
先」に引きやすいです。鍼では、合谷、母指・示指間の八
邪。灸では、示指の骨空、指端、井穴。少しズレて、母指
の骨空、指端、井穴に出ることもあります。

 足三里の灸は、恒常的な上衝を下げる効果があり、養生
の灸として有名です。

 また、目の表面の病、歯や口の周りの病など、鎖骨から
上の前面の病は、手の陽明に引きやすいです。

 梅雨明け直後の真夏の老人の譫語(せんご)も、合谷に
引くと、その途端に口調が穏やかになり、顔の赤みも薄く
なることが多いです。

 「譫語」は、三省堂大辞林には「熱などのためにうわご
とを言うこと。また、筋道のたたない言葉。たわごと。譫
言。」とあります。が、漢方では、「真夏の老人の譫語」
は、梅雨明け直後の暑い日に、暑さが外邪となり、客気上
逆し、頭、特に前頭部を衝くことが原因で、下腹の虚した
老人に起きやすいと聞きました。

 乳痛、腹の表面のシコリなど、鎖骨から下の前面の病は、
足の陽明に引きやすいです。

 前頭部は、ツボに関わらず、熱い所を散鍼します。

 下腹部の虚が原因、つまり、虚火上逆のことも多いので、
虚したツボを見付けて補(おぎな)います。

 更年期障害では、腹のツボが横にズレて、骨盤の腹側の
五枢~維道、骨盤の足側の居髎にツボが出ることが多いで
す。また、その影響で、足の陰経の蠡溝、中封、照海など
にもツボが出ます。腰痛や不眠を伴うときには、それらに
関係するツボも出ます。

 不眠は、陽明と太陽の合病で、言葉や腹の虚などが原因
で生じた邪気が頭を衝き、後頚部や肩が硬くて降りられず、
頭の中で堂々巡りしている状態です。

 頭の使い過ぎで真気が集まりすぎ、その真気が堂々巡り
して降りなくても、不眠の原因となります。

 不眠には、陽明の病のツボの他では、何と言っても、後
頭骨下縁の天柱~風池が狙い目です。横頚部中央や肩井や
肩甲骨の周りのツボも使って、後頚部や肩の周囲を弛めま
す。上腕の少陽〜太陽や、手甲の4~5間などに引くのも
よいです。

3.手順

3.1. 慢性期

 合谷に引き鍼した後、ツボを考慮して慢性期の養生の型
の手順で刺鍼します。肩頚頭など、表位といわれる肩甲骨
鎖骨から上を始めとして、触って熱い所には散鍼してから
刺入します。

 必要に応じて、灸を加えます。その場合には、下腹や足
に灸・灸頭鍼をしてから、手の指端の灸で終えます。

 また、灸や灸頭鍼を中心としてもよいです。座位で、手
の示指か母指の骨空ではじめ、うつ伏せ、仰向けの順で上
から下に施術し、手の指端の灸で終えます。

 陽明経の下の方が虚している割合が高く、陰性の精神症
状が出ているときは、下腹や足の経絡を補うことにも力を
入れます。

 一番大切なことは、手早い刺鍼です。慢性期と言っても、
のんびり時間を掛けて刺鍼するという感じではないです。
刺入時間、施術時間、どちらも短くなるようにします。

3.2. 急性期

 合谷に強めに引き鍼したあと、前頭部の熱い所を散鍼し、
また、手陽明経に引き鍼をするのが基本です。母指示指間
の八邪や沢田流合谷で終えるのもよいです。慢性期以上に
手早い刺鍼が大切になります。

 灸の場合には、合谷の代わりに母指か示指の骨空で始め、
指端で仕上げます。

 肩凝りなどを伴うときには、合谷の引き鍼の後、肩凝り
のツボに刺鍼し、前頭部の熱い所を散鍼した後に手陽明に
引き鍼をして仕上げます。

 更年期障害では、合谷の後に、内関、足の陰陽、腰、肩、
首の順に刺鍼し、前頭部に散鍼、手陽明に引き鍼して仕上
げます。

 不眠では、合谷の後、天柱・風池を中心に後頚部・肩の
周辺を刺鍼し、仕上げに前頭部に散鍼してから手陽明に引
き鍼します。

 手技の場合には、手の示指や母指を反らせたり、井穴を
抓んだり、指裏の横紋の辺りを揉んだりすると効果が出や
すいです。子供の疳の虫のときに使います。繰り返すと、
「指を出して」と言っただけで治まることもあります。

4.写真付き症例

 陽明の病を講座で説明していたら、そういう感じの症状
と言う人が出てきました。

 先ずは、診察。陽明の病の診察の目安になるのは、脈、
舌、顔〜鎖骨など。

 脈は、浮で数、手首よりの寸が実など(写真1)。

写真1

 舌先は赤いことが多いです(写真2)。

写真2

 額なども熱いことが多いですし(写真3)、鎖骨の周り
は、下から突き上げるような感じ(上衝)を受けたり、熱っ
たりします(写真4)。

写真3

写真4

 下腹の虚を補うためか、五枢〜維道、居髎にもツボが出
ていました(写真5)。

写真5

 刺鍼は、先ずは合谷から(写真6)。

写真6

 その後は手順通りに、手の陰経〜陽経、横腹の順でツボ
を探し、刺鍼。

 五枢〜維道、居髎に出ているツボに刺鍼(写真7,8)。

写真7

写真8

 それから、丹田の近くの虚している所に刺鍼。虚を補う
には、鍼を、ゆっくり、大きく、動かします。例えば、撚
鍼するときには、ゆっくり鍼柄を摩擦するような感じで撚
鍼していくと、温まりやすいです(写真9)。押手で皮膚
の温かさを感じたら、ゆっくり鍼を抜きます。

写真9

追記:2016.7.13ーーー
 この「虚を補す」刺法は、術伝流一本鍼no.78に、  
「真気を呼んで巡らすための鍼の動かし方」と題して、詳
しく書きました。
ーーー

 それから、足の陰経〜陽経の順で刺鍼し、での刺鍼を終
え、ゆっくり、うつ伏せになってもらいました。

 不眠もあるということで、天柱〜風池の辺りを調べたら
(写真10)、ツボが出ていたので、出ていたツボに刺鍼し
ました(写真11)。

写真10

写真11

 それから、背〜腰、脹脛などに出ていたツボに刺鍼し、
うつ伏せでの刺鍼を終え、座位になってもらいました。

 座位になってもらったら、右利きなのに、左肩の方が上
がった状態でした。左の上衝が強いことと関係があるのか
もしれません。肩、肩甲骨の周り、首などにツボをさがし
刺鍼していったら(写真12、13、14)、左右変わらなく
なりました。

写真12

写真13

写真14

 肩甲間部下半分にはツボは出ていなかったので、先回書
いた心臓系との関係は薄いと思いました。

 頭に散鍼し(写真15)、手甲に引き鍼して(写真16)、
仕上げました。

写真15

写真16

5.おわりに

 長引いている病でも、ときどき陽明経に症状が出ること
もあります。例えば、「術伝流一本鍼no.41 三叉神経痛
の痛みが消えたら、声を出すと痛くなった」を参照してく
ださい。

 こういう現象は、病が動く、つまり病態が大きく変化す
るときに見られることが多いです。


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最終更新:2018年07月05日 14:46