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術伝流一本鍼no.36 (術伝流・養生の一本鍼・運動器編(5))

膝の養生、灸頭鍼

(1)はじめに

 応急処置で改善し、あお向けになれるようになったら、膝痛も慢性
期の型を中心に治療します。膝は、下半身の運動器系のなかでは慢性
的な要素がつよいので、応急処置よりも慢性期の養生のほうが大切で
す。また、治療期間が長くかかることもおおいです。

  膝の痛みやつらさは、膝の皿まわりに感じることがおおいですが、
皿まわりだけ刺しても、改善しないことや症状がすぐ復活することが
おおいです。膝の治療の基本は、膝裏から脹ら脛にかけてに出ている
ツボをまずゆるめることです。

(2)鍼のみでの膝の慢性期治療

 膝痛の慢性期の刺鍼手順の全体の流れは、基本的に慢性期の型をし
ていきます。膝に関連するツボが出やすいところになったら、くわし
く観察し丁寧にツボを取り刺鍼します。うつ伏せから座位にうつると
きに、膝の動作鍼をします。そのあと、また慢性期の型にもどり、座
位で慢性期の型を後始末まで続けます。

 基本的には、そういう手順です(図1)。

図1

 ですから、膝痛があっても、あお向けやうつ伏せになれることが前
提になります。あお向けで足を伸ばすのがつらいようなら、膝を立て
たり、足を曲げたりしてもかまいません。

2.1.基本になる膝のツボ

 うつ伏せで、膝裏から脹ら脛。膝裏のH字状のくぼみの縦線の延長
に出ていることがおおくなります。

 外側の延長線上では、膝裏から2,3cm脹ら脛よりの下委陽、脹ら脛
がおわったあたりの飛揚~外丘、踵の上の陽大鐘。

 内側の延長線上では、膝裏から2,3cm脹ら脛よりの下陰谷、脹ら脛
がおわったあたりの上築賓、踵の上の大鐘。

 その二つのラインよりも少ないですが、膝裏中央の委中から脹ら脛
の承筋、承山に出ることもおおく、その場合には、アキレス腱の踵ち
かくにもツボが出ることもあります。

2.2.膝の動作鍼

 できない動作、つらい動作を痛みが出る手前までしてもらい、引っ
かかっているところをさがします。たいていは、その姿勢で、もっと
も伸びようとしているラインにいちばんおおく、つぎにもっとも縮も
うとしているラインにおおいです。

 それらのライン上を指でたどり、ペコっと凹んでいるところをみつ
けます。そこを押してみると痛いことがおおく、ツボになっているの
がわかります。まれに、麻痺して痛まないこともあります。

 痛い手前の姿勢のまま、そのツボに刺鍼します。刺鍼後、一度足を
伸ばしてから曲げてみると、前よりすこし膝が曲がるようになってい
ます。そこで、もう一度、引っかかっているところをみつけて、その
姿勢で刺鍼すると、またすこし曲がるようになります。それを繰り返
していきます(図2)。

図2

 膝の動作の場合に、引っかかっているシコリがある可能性が高いラ
インは、膝のお皿側、裏側ともに3本です(図3)。

図3

 膝の皿側では、膝の皿の下腿より左右のくぼみ(膝眼)と皿の大腿
より中央のくぼみ(鶴頂)をとおるラインです。それぞれ大腿側、下
腿側の筋肉のあいだの溝のなかに引っかかっているツボがあります。

 裏側では、膝裏のH字型の両端の溝の延長のライン、中央(委中)
の延長のラインです。それぞれ大腿より、下腿より両側の筋肉のあい
だの溝が候補になります。

 つらい一歩手前まで動かしてもらうと、そのラインが目立つように
なります。くぼんで見えることもおおいです。そのラインのなかでも、
いちばん凹んだところにツボが出ています。

 膝がすこししか曲げられないときには、膝の近くに出ます。

 かなり曲げられて、もうすこしで正座ができそうという段階になる
と、表裏あわせて6つのライン上で、膝からもっとも遠いところ、足
の付け根などに出ます。ときには、そのラインの延長で、鼡径部の腹
側や大転子ちかく、お尻から腰にかけてなどに出ることもあります。

(3)灸や灸頭鍼と組み合わせた手順

 2,3回鍼のみでの慢性期治療をしてみて、鍼のみで変わりにくそう
な古いツボが見つかったら、灸や灸頭鍼との組み合わせで治療します。
なれてきて時間があり診察中に古いツボが見つかったら、はじめの慢
性期治療から、灸頭鍼を組み合わせることもあります。

 古いツボがお腹などで痛がられる場合には灸をしますが、それ以外
は、灸頭鍼のほうが変化が早いです。しかし、補のお灸のほうを好ま
れる人の場合には、お灸を優先することもあります。

 手順も、時間があるときには、慢性期の型で一通り治療したあと、
灸や灸頭鍼をします。前の治療や診察で古いツボが特定できていると
きや、時間がないときには、慢性期の診察をし、手の陰陽に刺鍼した
あとで、うつ伏せ、あお向けの順で灸や灸頭鍼をし、手の骨空か指端
の寫の灸で終えます。

 また、慢性期の診察をし、手の陰陽に引き鍼のあと、鍼と灸や灸頭
鍼を状況に合わせて組み合わせて施術していくこともあります。

 鍼と灸や灸頭鍼を組み合わせて施術する場合には、灸や灸頭鍼をし
たあとで、動いてもらって、ちがうところが引っかかったら、そこに
動作鍼をしたり、その課程で古いツボが見つかったら、灸や灸頭鍼に
もどったりもします。

 姿勢も、座位になったり、うつ伏せになったり、あお向けになった
りします。そういういろいろな姿勢のときにも、灸や灸頭鍼をする面
が上になるような工夫が必要です。患者さんがつらくない範囲で。

 そういうふうに、いろいろな姿勢で動作鍼や灸頭鍼を組み合わせた
ときでも、おわりに手の骨空か指端に寫の灸をすることや、頭に散鍼
して手甲に引き鍼という後始末を忘れないようにしてください。

(4)写真つき症例

 左膝に慢性的なつらさがあるという人。いわゆるジャンパー膝、過
伸展で痛みが出るとのこと。

 まず、慢性期の型で診察(写真1,2,3)しました。

写真1

写真2

写真3

 そのあと、膝痛に古いツボがよくでる膝裏〜脹脛(写真4)、患側
下腹部(写真5)などをていねいに診察しました。

写真4

写真5

 とくに、過伸展で痛みが出るということで、その動作のときに伸び
ようとする筋肉である脹脛を中心にみました。脹脛親指側の足少陰が
とくに虚していて、築賓あたりがベコベコとして弾力がまるでありま
せんでした。

 腹では、臍の左下の左下肓兪あたりが深くまで虚していました。

 準備として、手の陰陽に出ていたツボに引き鍼をしました(写真6,7)。

写真6

写真7

 時間がなかったこともあり、診察でみつけた古いツボの灸や灸頭鍼
をしていくことにしました。

 まずは、臍左下の左下肓兪あたりに出ていたツボに補の灸をしまし
た。ゴマ粒大からはじめて、灰をつぶさず灰で穴をふさぎ、灰の山を
穴上につくりながら、だんだん大きな灸をすえていきました
(写真8,9,10)。じゅうぶんに温まりました(写真11)。

写真8

写真9

写真10

写真11

 つぎは、患側脹脛に出ていた古いツボに灸頭鍼をしました
(写真12,13)。

写真12

写真13

 そして、灸頭鍼をしている最中に、経絡的に関係する大鐘あたりに
出ていたツボに引き鍼をしました(写真14)。

写真14

 こうすると、これら二つのツボをとおる経絡全体の気の巡りがよく
なることがおおいです。

 灸頭鍼をおえたあと、さわってみたら弾力が出てきました。

 そのあと立ち上がってもらい、いろいろな動作をしてもらい、つら
いところをさがしてもらいました(写真15)。過伸展の動作は改善し
たとのことでした。

写真15

 捻挫の後遺症がある左足首がつらいということで、丘墟あたりに出
ていたツボに鍼をしました(写真16)。邪気がたくさん出てきたので、
足甲4~5間に出ていたツボにも引き鍼しました。

写真16

 膝の痛みそのものも、足首捻挫の後遺症の可能性があるなと思いま
した。

 足首に左右差がある人は、首にツボが出ていることもおおいです。
足の付根をさかいにした上下対称部であるためかなと思います。 そこ
で、首をしらべ、出ていたツボに刺鍼しました(写真17,18,19)。

写真17

写真18

写真19

 後始末として、頭に散鍼し(写真20)、手甲に引き鍼して(写真21)
仕上げました。

写真20

写真21



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