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術伝流一本鍼no.30 (術伝流・養生の一本鍼・基本編(4))

養生の刺鍼手順


 ツボの選び方は、運動器系の慢性期や、カゼなど内科系の慢
性期などでも、詳しく解説しますが、ここでは一番基本的なも
のを紹介します。

(1)仰向けで、手の陰陽、腹、足の陰陽

 左右どちらか、始めると決めた側で、患者さんにできるだけ
近い所に座ります。尻の下に座布団の二つ折りにした物などを
敷いて少し高くし膝頭を床に付けた胡座が、一番患者さんに近
付けると思います。

 前にも書きましたが、腰を立てます。人間にも尻尾があると
して、その尻尾を尻の後ろに出すようなつもりになるとイイ感
じに腰が立ちます。そして、背を少し反らし気味で軽く前屈し、
肩を下げ、肘は張り気味の姿勢になります。臍をツボさがしや
刺鍼をする方に向けます。

 さて、仰向けの刺鍼では、先ず、顔色が赤いか、鎖骨辺りで
上衝があったか思い出します。上衝があったときには、念のた
め、手の甲に引き鍼します。1~2間か2~3間の可能性が高い
です。これは、急性症状が混じっているときの処置で、無けれ
ば省略します。

1.手の陰陽

 慢性期の養生では、多くの場合は、手の陰経から始めます。
手の陰経の肘辺りから手首まででツボを探します。

 鎖骨辺りより上で症状や歪みが多そうな場合(呼吸器系の時
など)は、太陰経を選びます。それ以外の膻中辺りより下で症
状や歪みが多そうな場合には、厥陰経を選びます。

 多くの場合どちらかですが、不整脈が出ている人などでは、
左少陰経にツボが出ていることがあります。まれに心臓が右に
ある人もいるそうで、そういう人なら右少陰経に出るのでしょ
う。

 選んだ経絡をよく見て、黒っぽい所、凹んで見える所を探し
ます。それから、指を滑らして、凹んでベタベタした所などを
見付けます。

 そして、そういう所を押してみて、痛かったり、イヤな感じ
が有るか調べます。2,3カ所見付かったら、順番に1番目、2
番目と押していき、患者さんに聞いて、一番イヤな感じの強い
所を選びます。

 現在の慢性症状の人では、肘の少し上の、上尺沢か上曲沢に
出ていることが多いです。その辺りが黒っぽく凹んで見えるこ
とも多いです。

 陰経は、徐刺徐抜で刺鍼します(写真1)。
写真1

 ゆっくり刺鍼していき、鍼先に粘っこい感じを受けたら、刺
入するスピードを一段と遅くします。硬いものに当たった感じ
がしたり、腹に息が深く入ったり、患者さんが何か感じたり、
邪気を感じたりしたら、その深さで横揺らしや旋捻をします。

 そして、反応が治まったら、ゆっくり抜いてきます。抜いて
くる途中で抜けにくくなったら、また横揺らしなどをします。

 刺鍼した後、見た目に凹みや黒ずみが消えたか、指を滑らし
てみて、凹んだ感じが減ったか、ベタベタ感が減りサラサラし
たかなどを確認します。

 この確認は、どこに刺鍼したときも必ずするようにしてくだ
さい。

 次は、手の陽経。陰経が厥陰なら少陽、太陰なら陽明に出て
いることが多く、場所も、陰経のツボの表側が多いです。陰経
側が上曲沢、上尺沢の場合には、肘の少し手首よりに出ている
ことが多いです。

 腕を体の上に置いてもらうと刺鍼しやすいです(写真2)。

写真2

 陽経は速刺徐抜で刺鍼します。スーっと刺入し、何か感じた
ら、鍼を抜く方に引きながら、横揺らし旋捻などをしながら、
ゆっくり抜いてきます。

2. 腹

 腹は先ず横腹。肋骨と蝶骨の間で、表面が一番ペコペコして
凹んでいて、奥の方が硬くなったり筋張ったりしている所を選
び、徐刺徐抜で刺鍼します(写真3)。
写真3

 刺鍼の後に指を滑らし変化を確認します。

 次は、臍よりも下の小腹。腹診をしたときに左右で悪かった
方を中心に探します。そのため、臍より上と下で悪い側の左右
が違っていた場合には、自分の座っている所と反対側を中心に
探し、刺鍼することになります。

 正中線上を臍から恥骨に向けて指を滑らし、凹んだ感じの所
を見付け、そこから横に指を滑らして凹んだ感じの場所を見付
けるのが、基本です。

 しかし、経過が長い人では、そこよりも、蝶骨の腹側の五枢
〜維道の辺りや、臍の斜め下の左右下肓兪の方が、凹みやイヤ
な感じが酷い事が多く、そのときには、そちらを選びます(写
真4)。
写真4

 1,2ヵ所を選びます。

 腹も徐刺徐抜で刺鍼しますが、痛がられないように、そっと
刺します(写真5)。
写真5

 マーキングのつもりで切皮程度の深さでもよいです。その程
度でも刺鍼しておくと、足の陰経や背中を刺鍼したときに、腹
のその部分が弛むことが多いです。刺鍼の後に指を滑らし変化
を確認します。

 関元辺りが虚しているときには、補の鍼をしてもよいです。
鍼をゆっくり大きめに動かしていると、しばらくして、ふっと
温かくなり、弾力も戻ります。このときの温度変化は、寒い日
に日陰から日向に出たときのような感じです。

 大腹、つまり、上腹部も、左右では、腹診をしたときに悪かっ
た側を中心に探すのが、基本です。上腹と下腹で悪い側の左右
が違っていても、上腹の悪い側に座っているはずなので、基本
的には、上腹は、自分の座っている側を中心に探すことになり
ます。

 鳩尾から臍に向けて指を滑らし、一番凹んだ所を見付け、そ
こから横に指を滑らし凹んだ場所を見付けます。そこと、肋骨
下縁を鳩尾から横腹に向けて指を滑らして一番凹んだ所と比較
して、イヤな感じの強い方を選ぶのが基本です。また、正中線
上にイヤな感じが強い所があれば、そこを選んでもよいです。

 しかし、こちらも、経過が長い人では、その2つよりも、横
腹よりの章門や、ヘソの斜め上の左右上肓兪の方が、凹んでい
て、奥に硬いシコリがあって、イヤな感じも強いことが多いで
す(写真4)。そういうときには、その辺りのイヤな感じの強
い所を、1,2ヵ所、選びます。
写真4

 ソフトに軽めに徐刺徐抜で刺鍼(写真6)し、その後に変化
を確認します。
写真6

3. 足の陰陽

3.1 腹診の結果と、足陰経のツボ

 次は、足の陰経。主に膝から下で探します。が、歪んでいる
期間が長い人では、大腿に出ていることもあります。

 腹のツボが、臍と横腹の中間の腹直筋上に出ていたり、大腹
の方のツボの痛みが強かったりしたときには、太陰に出ている
可能性が高いです。

 蝶骨そばに出ていたり小腹のツボの痛みが強いとき(瘀血証)
には、厥陰の可能性が高くなります。右の章門辺りの痛みが強
い時(肝臓系?)も、右足厥陰の可能性が高くなります。

 また、少腹の還元辺りの虚が酷いとき(臍下不仁)は、足少
陰の可能性も高くなります。

 臍周りのときには、上側なら太陰、下側なら厥陰の可能性が
高いですが、 両者とも少陰の可能性もあります。

 可能性の高い経絡で凹んだ所を押してみて一番イヤな感じの
所を選びます。

 太陰では、血海、陰陵泉、地機など。厥陰では、陰包、蠡溝、
太衝など。少陰では、築賓、大鐘、照海など。そういう所に出
ていることが多いです。

 足の陰経も徐刺徐抜です(写真7)。

写真7

3.2 腹診の結果と、足陽経のツボ

 足の陽経のツボは、腹のツボの位置、特に腹の表面のシコリ
の位置との相関関係が高いです。

 臍周りなど正中腺に近ければ(腹の腎経)、脛骨脇のライン。
臍と横腹の中間(腹の胃経)なら、足三里のライン。もう少し
横腹より(腹の脾経)なら、豊隆のライン。章門や蝶骨脇の五
枢など横腹の近くなら、足少陽のライン。基本的にそういう関
係で、ツボが出ていることが多いです。

腹の表面のシコリ|足陽経のツボ
ーーーーーーーーーーーーーーーー
  腹の腎経  |脛骨脇のライン
  腹の胃経  |足三里のライン
  腹の脾経  |豊隆 のライン
  腹の少陽  |足少陽のライン

 腹(の表層)の中心に近い方のシコリは、足陽経も中心に近
い方に関係していて、腹(の表層)の外よりのツボは、足陽経
も外よりに関係していることが多いということです。

 それらのラインに指を滑らして一番凹んだ所を見付け、イヤ
な感じの強い所を選ぶのが、基本です。

 が、腹と足のツボの関係も考慮して、上記4ラインの豊隆あ
たりの位置を順に調べて、出ているツボを選ぶと、効果的なこ
とが多いように思います。

 足も、陽経は速刺徐抜で刺します(写真8)。

写真8

 そして、ゆっくりと、うつ伏せになってもらいます。

(2)うつ伏せで、背腰足

 うつ伏せでの刺鍼手順は、頭に近い方から足の方へです。ま
た、うつ伏せでは、基本的には、肩甲骨の下角(胸椎7)辺り
から脚裏までを刺鍼します。

 ツボは、腹と同じ側に出ている可能性が2/3を超えますが、
反対側に出ていることもあります。

1.背

 腹のツボとの関係では、大腹にツボが出ていたときには、胸
椎7〜腰椎2辺りまでに出ていることが多く、少腹に出ていた
ときには、腰椎3〜腰椎5に出ていることが多くなります。

 肩甲骨下角の正中線上から腰の方に指を滑らして凹んだ所を
見付け、そこから左右に滑らし、凹んだ所を見付けるのが基本
です。いくつか有ったら、順番に押してみてイヤな感じの強い
所を選びます。

 その後に、正中線上の凹んでいた所に戻り、そこから、また
腰に向かって指を滑らし、次に凹んだ所を見付け、左右に滑ら
して凹んだ所を見付け、その横のラインの中で、イヤな感じの
強い所を選びます。

 そういう風に、腰椎5番まで探して、イヤな感じの強い方か
ら3カ所位を選ぶのが、基本です。

 ただし、現在の慢性症状の人では、胸椎7〜12の高さでは、
背骨の直ぐ脇の華佗経に出ていることが多いです。腰椎の高さ
でも、同じように華佗経にも出ていることが多いです。また、
腰椎の辺りでは、華佗経以外に、脊柱起立筋の外端で、肋骨下
縁の痞根や、蝶骨上縁の腰徹腹にも、ツボが出ていることが多
いです(写真9)。

写真9

 腹のツボとの関係では、大腹に出ていたときには、胸椎7〜
12の華佗経と痞根に出ていることが多く、少腹に出ていたとき
には、腰徹腹や腰椎3〜5の華佗経に出ていることが多くなり
ます。

 そのため、基本的な選び方で見付けた3カ所と、華佗経や痞
根・腰徹腹なども含めて比べ、イヤな方から3カ所位を選ぶと
良いでしょう。

 速刺徐抜で刺鍼し(写真10,11)、その後に、指を滑らして
確認します。

写真10

写真11

2.殿部

 腹のツボとの関係では、小腹部にツボが出ていたときに出て
いることが多くなります。腰椎3〜5の華佗経や腰徹腹の刺鍼
で改善できそう場合には、省略してもよいです。

 仙骨蝶骨の辺りでは、腰痛のときに取りあげた3カ所に出て
いる可能性が高いです(大腸愈、環跳、臀央)。それ以外では、
次髎をはじめとする仙骨孔や仙蝶関節の近くにも出ていること
があります。

 周りよりも押すとペコペコと凹んで、イヤな感じの強い所を、
2、3カ所選びます。速刺徐抜で刺鍼します。

3.足
 主に脚裏になります。

 飛揚・陽交・外丘の辺りが多いですが、背のツボが背骨の直ぐ
脇の華佗経など正中線上に近かったときには、承山など中央のラ
インの可能性も高くなります。また、内科系の慢性症状のある人
では、足少陰の築賓などにも出ていることがあります(写真12)。

写真12

 腹側と同じで、中心に近いもの同士、外に近いもの同士で、背
と足裏のツボが相関しています。また、陰経が体の内側や内科系
と相関しているのも、腹側と同じです。

 押すとペコペコと凹んで、イヤな感じの強い所を選びます。

 陽経は速刺徐抜、陰経は徐刺除抜で、刺鍼し(写真13)、指
を滑らして確認します。

写真13

 終わったら、ゆっくり座ってもらいます。

(3)座位

 座位では、肩甲骨下角よりも上の背中、肩・上腕、首、頭を
刺します。症状によっては、胸の上部、鎖骨の周り、首の前側
も刺します。

 手順は、肩背・上腕、首の後ろから横、(胸の上部、鎖骨の
周りや首の前側)、頭の順で、終わりに手甲に引き鍼します。

 座位で刺鍼する辺りは、漢方では表位と呼ばれる所ですが、
体に熱が有るときなどは、この辺りに熱が篭もっていることが
多く、そういう場合は、いきなり刺鍼すると痛みが増すことが
あります。そのため、触って熱いときには、刺鍼の前に散鍼し
て、熱を散らします。

 左右でのツボの出方は、仰向けやうつ伏せのときとは一致し
ないことも多いです。利き腕の方が凝りやすいためです。比較
して(写真14)イヤな感じの強い方を刺鍼し、刺鍼した後に指
を滑らせて確認します。

写真14

1.肩背

 頚椎7番辺りから正中線上を腰に向けて指を滑らして凹んだ
所を見付け、左右に横に滑らして凹んだ所を探し、イヤな感じ
の強い所を選ぶのが基本です。が、現在では、背骨の直ぐ脇の
華佗経にツボが出ている人が多いです。特に、大椎の周りなど。

 沢山あったら、イヤな感じの強い3カ所位を選んで、速刺徐
抜で刺鍼します(写真15)。そのあと指を滑らせて確認します。

写真15

 肩凝りも有る時には、首の付け根から肩峰にかけてのライン
と、肩甲骨の内側縁を探します。首の付け根、肩井、肩外愈、
膏肓が多いです。肩凝りが酷くない時には省略しても良いです。

2.首

 先ずは、正中線上を指を滑らし凹んだ所から、左右に横に指
を滑らして凹んだ所ですが、首も華佗経が多いです。そして、
首の真横のラインを頭の方から肩の方に指を滑らして凹んだ所。
現在では、横頚部中央にツボが出ている人が多いです。

 圧痛が酷くイヤな感じの強い所を1〜3か所選んで、速刺徐
抜で刺鍼します(写真16)。

写真16

 不眠傾向のある人では、後頭骨下縁の天柱、風池などに出て
いることが多いです。

3.鎖骨まわり、胸の上部、首の前側

 この辺りは、カゼを引いていて熱がある場合など、上衝の症
状が在る場合や、急性的な呼吸系の症状が混じっているときに、
刺鍼します。そういう感じがなく中焦から下焦の慢性症状だけ
のときには、省略します。

 そのため、詳しくは、カゼの慢性期のときに解説します。

4.頭

 頭は、触って熱い所を散鍼します(写真17)。散鍼のコツは、
奥方はユックリでよいから、離す方をできるだけ速くすること
です。

写真17

 ツボが出ていれば、軽く浅く刺鍼します。が、初心者のうち
は散鍼だけの方が無難かなとも思います。失敗すると、新たに
腹から邪気を呼んでしまい、頭が痛くなったりすることがある
からです。

5.手甲に引き鍼

 運動器系応急処置でしていた手甲への引き鍼です(写真18)。
腹のツボとかに関係なく、この時点で、一番イヤな感じの強い
所を選びます。

写真18

 仕上げですので、しっかり決めましょう。


おわりに

(*)注意すること
 刺鍼する所や、刺鍼の深さ、刺激の強さなどは、患者さんに
聞きながら、適切になるようにしましょう。

 また、刺鍼中は、顔の表情と腹への息の入り具合を常に見て
いるようにしてください。

 今回の刺鍼手順も、詳しい人から見れば、ずいぶん大雑把な
経絡の決め方、ツボの取り方をしているなと思われるかもしれ
ません。でも、出ているツボがしっかり取れれば、こんな大雑
把でも、十分効果が出ます。また、大雑把な分、応用もしやす
いです。


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最終更新:2018年01月10日 17:07