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鍼灸症例問答no.3 下腿痛

(1)はじめに

 ペンネーム「母さんの鍼」さんの鍼灸症例3つめです。

(2)「腰痛」について

 臨床は、結果が出せると、それで良しとなってしまいがちです。

 症例報告の良さは、報告を公開することで、指摘を受けて、気付か
され、診方が広がり、より良いものを探求していけることです。

 これからも宜しくお願い致します。

 今回は「腰痛」の症例報告をしたいと思います。

「腰痛」について

  • 主訴は腰痛
  • 20代の男性

1.患者さんの症状

 (1)とにかく腰が痛い。

 (2)身体全体が重くてだるい。

2.患者さんの状態

 (1)全体的にかなり疲れていて、元気がない。

 (2)L4L5にツボが、はっきり出ていた。

 (3)痛みの左右差は、どちらかと言うと、左が強い。

 (4)神経症状(しびれ等)は、特にない。

 ・腰痛は様々な疾患の関連痛として出てくるので、問診・鑑別が大
  切になるのではないかと思う。

 ・神経症状である下肢痛:臀部から、大腿後面・外側にかけての痛
  み・しびれがないということで、腰椎周辺の神経が圧迫されてい
  ることは考えにくく、ヘルニア・坐骨神経痛は除外。

 ・腰痛に伴う随伴症状(はきけ)もなく、内科的疾患からくる腰痛
  も除外。

 ・以上の事と患者さんの状態を診て、一般的な腰痛で、鍼の適応あ
  りと判断。

3.実際に行ったこと

 (1)左足の甲4-5間に引き鍼をすると、即ビリビリと反応があり、
    反応が弱まるまで、振せん・雀啄を行った。

 (2)左腰部の反応点(L2・L4・L5)に刺鍼

 (3)左臀部ほぼ中央に刺鍼

 (4)左裏環跳付近のツボに刺鍼

 (5)大腿横ほぼ中央(風市)に刺鍼

 (6)左膝裏横紋外側下、下腿側に刺鍼

 (7)左飛陽付近のツボに刺鍼

 *(2)〜(7)まで、どこを刺鍼してもビリビリとかなりの反応
   があった。

 (8)左足の甲3-4間に刺鍼をすると、ビリビリとした反応が、随
    分と少なくなった。

4.施術後の変化・感想

 (1)表情が明るくなり、スッキリした顔つきに変わった。

 (2)施術の感想を聞くと、「腰の痛みが取れ、歩くのもやっと
    だったのが軽くなった」 翌日は元気に仕事へ行けたとの
    こと。

 (3)腰痛は、腰だけでなく、臀部・下肢への刺鍼により、身体
    全体のバランス調節をするのではないかと、思った。

 (4)後で確認すると、外果の踵寄りの下昆崙に刺鍼するのを忘
    れていた。

 以上です。ご意見・ご批判、宜しくお願い致します。

(3)遊風のコメント


臨床は、結果が出せると、それで良しとなってしまいがちです。
症例報告の良さは、報告を公開することで、指摘を受けて
気付かされ、診方が広がり、より良いものを探求していける

 そうですね。

 それに、みんなで報告し合うことで、数倍、数十倍の経験が共
有できるのが良いことだと思います。

  • 主訴は腰痛
  • 20代の男性
  • 随伴症状(はきけ)もなく、内科的疾患からくる腰痛も除外。

 内科的なことは、くわしく調べてみると出てくるかも知れないけど、
この時点では、運動器系の応急処置を中心にするという判断で良かっ
たと思います。

 ところで、この方の利き手は右でしたか?

 腰痛とかだと職業が関係している場合もありますね。

左足の甲4-5間に引き鍼
左腰部の反応点(L2・L4・L5)に刺鍼
左臀部ほぼ中央に刺鍼
左裏環跳付近のツボに刺鍼
大腿横ほぼ中央(風市)に刺鍼
左膝裏横紋外側下、下腿側に刺鍼
左飛陽付近のツボに刺鍼
左足の甲3-4間に刺鍼、ビリビリとした反応が、随分と少なく

 L2以外は、私がテキストに書いたのとほぼ同じツボの出方です
ね。

4.施術後の変化・感想
(1)表情が明るくなり、スッキリした顔つきに変わった。
(2)感想「腰の痛みが取れ、歩くのもやっとだったのが軽くなっ
   た」

 こういう症状では、施術後の変化は、表情と足取りのかるさで、見
るのがよいので、このあたりの観察は良いと思います。いつもながら。

(3)腰痛は、腰だけでなく、臀部・下肢への刺鍼により、身体全
   体のバランス調節をするのではないかと、思った。

 そうですね。

 応急処置の原則は「遠くに強く」ですが、これは、患部にいきなり
強い刺激をすると急性期には悪化する可能性もあるのと、遠くから施
術することで、全身のバランスをととのえる意味があると思います。

(4)後で確認すると、外果の踵寄りの下昆崙に刺鍼するのを忘れ

 まぁ、足取りがかるくなったから大丈夫でしょう。

 外踝の前下方の丘墟にもツボが出ることもありますし、お灸では、
小指や4指のツボも使いますね。

(4)コメントに対する返信


ところで、この方の利き手は右でしたか?
腰痛とかだと職業が関係している場合もありますね。

  • 利き手は右利きです。
 腰痛の出方に利き手が、関係するのでしょうか?

  • 職業は、車の整備士です。
 仕事柄、中腰になることが多いようです。

(3)腰痛は、腰だけでなく、臀部・下肢への刺鍼により、身体
   全体のバランス調節をするのではないかと、思った。
そうですね。応急処置の原則は「遠くに強く」ですが、これは、
患部にいきなり強い刺激をすると急性期には悪化する可能性もあ
るのと、遠くから施術することで、全身のバランスをととのえる
意味があると思います。

  • 前回の下腿痛の方もそうですが、縦のラインを整えると、足取りが
 軽くなるように思われますが、如何でしょうか?

(4)後で確認すると、外果の踵寄りの下昆崙に刺鍼するのを忘れて
外踝の前下方の丘墟にもツボが出る事もあります
お灸では、小指や4指のツボも使いますね。

  • このお灸のツボは、足膀胱と足胆経で、腰痛に効く訳ですね?

 お灸は今まで講習会の中で、折に触れ教えて頂きましたが、
 お灸だけ取り上げた疾患別の先生の解説があれば嬉しいのですが
 例えば、冷えには足の3-4間とか。

 これからも、のーんびり報告致します。

 まだまだ、ひよこにもなっていませんが、症例を積み重ねて検討し
て頂くことで、少しづつ「やれば出来る!」という自信につなげてい
きたいと思います。

 これからも、宜しくお願い致します。ありがとうございました。

(5)遊風の再コメント


ところで、この方の利き手は右でしたか?
腰痛とかだと職業が関係している場合もありますね。
  • 利き手は右利きです。
 腰痛の出方に利き手が、関係するのでしょうか?
  • 職業は、車の整備士です。
 仕事柄、中腰になることが多いようです。

 ゆっくり力をいれる作業をする仕事が中心の場合、利き手と反対側
の足に重心がかかっているほうが安定するので、利き手反対側の腰が
痛くなるというのは順当です。

 卓球、バトミントン、武道など、近くて素早く動くものを相手にす
る仕事が中心の場合には、利き手を同じ側の足に重心をかけるほうが
素早い対処が可能なので、利き手同側の腰が痛くなるほうが順当です。

 大雑把な区別ですが。

 中腰は腰を痛めます。中腰にならなくてすむような作業の仕方や道
具の利用が必要かも知れません。

  • 前回の下腿痛の方もそうですが、縦のラインを整えると、
 足取りが軽くなるように思われますが、如何でしょうか?

 良く気が付きました。

 たぶん、立って歩くときに体にかかる重力の負荷の分担がスムーズ
になるせいでしょう。

お灸では、小指や4指のツボも使いますね。
  • このお灸のツボは、足膀胱と足胆経で、腰痛に効く訳ですね?

 そうです。

お灸は今まで講習会の中で、折に触れ教えて頂きましたが、
お灸だけ取り上げた疾患別の先生の解説があれば、嬉しいのですが
例えば、冷えには足の3-4間とか。

 前に、お灸の手順と効果的なツボについてはまとめたものがありま
す。それぞれ1ページづつですが。

 灸の手順や方法は、慢性期の腰痛の2回目でします。

 効果的なツボについては、まとめ直しが必要かなと思いますが、
取りあえず以前作ったものを。あとに付けておきます。

 深谷先生の使ったツボをまとめた鍼灸の世界社の『経穴活用宝典』
と、『取穴法の全て』(のなかの「深谷灸法における奇穴・無名穴・
変動穴」)に、沢田流から代田文志、文彦両先生や、日産玉川病院の
流れ、柳谷素霊先生から荒木正胤先生への流れ、関西鍼灸の流れ、中
医の流れ、操体の橋本先生、整体の野口晴哉先生の温法などの流れ、
の本や記録などに出てくるツボを書き込んで、ためしてみました。

 おもしろかったので、集めてためすのに夢中で、整理がついていま
せん。

(6)お灸のツボについて

1.基本的に

 灸は、陽先陰後で、上から下に順にすえる。

 取穴時と同じ姿勢で施灸。

 全身の手順は、座位→俯せ→仰向け。

 少穴で効果を上げられるようにツボをえらぶ。

 目で見てヘコんでいて冷たい所が、ねらい目。

 子供や鍼をいやがる人は、灸のみで治療しても良い。

 子供は気持ちよさがわかると毎日せがむようになる。

2.お灸が効果的なところ

(1) 鍼のみで変わりにくい古いツボ

(2) 腹や足の陰経など冷えやすいところ

(3) 痛くて鍼を刺しにくいところ
 (手足の指や手の平・足の裏のツボ)

(4) 腹の症状の背中側
 (咳・かぜに肺喩付近、腹痛に胃の六灸)

(5) 症状の手足経絡の対応点
 (面疔に合谷、悪血証に三陰交)

(6) 打撲、および、その後遺症
 (炎症が収まったら、暖めて悪血を散らす)

(7) 古い病を変えるツボが出るところ
 (後頭骨下縁、膈喩・督愈、外承扶、臍周囲)

(8) 名灸穴
 (昔と少しずれる。今は、悪血証には蠡溝)

3.お灸の手順

(1)座位

 のぼせているときには、まず手の指端の灸をする。
(酷い上衝時、灸療不可)

 頭の目の真後ろや完骨前下方のシコりは、慢性的な目の病に効く。

 後頭骨下縁は、不眠をはじめ過敏症状に。

 首では、むち打ちなど打撲の後遺症には、灸頭鍼。

 場所によっては横臥位が良いことも。

 肩周辺では、喘息も古いものは、肺喩と同じ高さの華陀経にヘコ
んだツボが出るので、灸頭鍼。

 カゼを大椎付近で治すときは、上半身が熱くなり汗がにじむくら
いまですえる。

 肩尖・肩隅・臂臑はニキビや痒みなど皮膚に効く。

 腕・手では、合谷は上半身前側、後渓は上半身後ろ側の病と葛根
湯証の発熱に。

 拳尖、骨空は目の病、とくに表面の病で急性のものに。

 長引く咳に上尺沢。

 酒の飲み過ぎに裏合谷。

 鎮心に労宮。

(2)うつ伏せ

 背中では、体の内側の邪や悪いところの横切りライン上の古いツボ
に灸。華陀経に良く出る。わかりにくければ督脈も可。

 たとえば、喘息のときなどは、肩甲間部の上半分の華陀経、
      精神疾患に    頸椎1〜胸椎7の督脈・華陀経。

 古い病を変えるツボが膈喩・督喩辺りに出ることがある(左が多い)

 臀部では、悪血証に上仙・次寥。

 脚では、体の後ろ側の病全般に、委中・女室・失眠
(女室・失眠は、足太陽の井穴・指端の代わりに使える)。

 古い病を変えるツボが外承扶(足徹腹)に出ることもある。

(3)あお向け

 胴では変わりにくい古いツボに灸するが、任脈上にも効くツボがあ
る。

 鎮心に檀中、消化器系に中完、悪血証に関元。

 古い病、とくに、打撲(精神的な打撲も)の後遺症にヘソまわり。

 脚では、悪血証や目の奥の病をはじめ、体の内の慢性病に、足厥陰
の五里〜陰包、蠡溝、中封。足少陰の照海。足第1指の指端。

 足第1指端の灸は、姿勢やフォームがくずれたとき、決まらないと
きの体の中心線作りにもよい。

 下半身の冷えに、足の甲3,4間。喉の痛みに、然谷。

 あとでのぼせそうなときや、施灸したあと休んでいる暇のないとき
は、おわりに手の指端の灸をするとよい。のぼせ止めと目覚ましの効
果がある。

(*)余談

 虫刺されには、小さな直接灸が効く。

 切り傷も灸すると治りが早い(棒灸で間接的にあたためてもよい)

 足首から先の押して痛いところ、気持ちよいところに灸をすると
体全体の調子が上がる。

 足の指端の灸を習慣にするのもよい。


(7)おわりに

 3回目の症例報告ですが、あいかあらず、みごとな内容でした。

 よい質問が出たので、それを機会に、お灸についてまとめることに
なりました。

 質問などは、「「術伝」掲示板」のほうにおねがいします。


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最終更新:2010年08月25日 06:44