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邪気を引く感じを味わう

鍼は引き鍼・鍼灸の自然則 (5) 邪気を引く感じを味わう

1.はじめに

 さて、「鍼は邪気を引く道具」という視点から、鍼(灸)の自然則
を書いてきました。

 そういう感じを身に付け、実際に邪気を引くことで効果を上げる方
法を実技編や術伝流一本鍼でくわしく解説していきます。

 そのまえに比較的簡単な方法で、鍼が邪気を引く道具だということ
を実感する手順を説明します。

 単発の講演や講座のオリエンテーションをたのまれたときに実演し
体験してもらっているやりかたです。

2.鍼が邪気を引く道具だということを実感する

(1) 表位の症状を手の甲に引く

 まえにも書きましたが、鍼が邪気を引く道具だということを実感す
るためには、まずは、肩甲骨・鎖骨からうえの表位の症状を手の甲に
引く練習をします。

 つまり、首や肩のつらい部分の症状や、頭のハチマキをするあたり
の熱いところの熱を手の甲に引いてみます。

 大勢のまえで試してみるときには、首や腕などの可動域制限がむい
ています。施術前後の変化の確認がしやすいので。たとえば、首をど
ちらの側に捻転しやすいかなどです。

 首の左右捻転のしやすさの左右差が大きい人にモデルになってもら
います。

症状から手の甲のツボの予測をする

 症状が出ている部分が左右どちらかかで手の左右をえらびます。た
とえば、首を右にねじりにくい場合には、首の左側がシコっていて伸
びないことが原因のことがおおいので、左手をえらびます。

 症状が出ている部分、シコリがある部分でもありますが、そこが体
の前側なら手甲のツボも前よりの合谷などをえらびます。後ろ側なら
手甲の4~5間の中渚など、横よりなら手甲の3~4間か2~3間を押して
痛いほうをえらびます。

 肩こりのときには、手の甲4~5間や3~4間がおおくなります。

 首をねじりにくいときには、3~4間がいちばんおおく、つぎに2~3
間がおおいです。

 この手甲4~5間というのは、「手の甲の、小指と薬指につながる骨
のあいだ」という意味です。3~4間なら「手の甲の、薬指と中指につ
ながる骨のあいだ」です。

指まわりをしらべ、手の甲のツボを予測する

 指まわりをしらべて、ツボの出ていそうな手の甲の骨間を特定して
いくと、効果が出やすいです。

 指と指のあいだの水かき状の部分(八邪)を上下にはさんでつまん
でみて、いちばん厚みがあるところをえらびます。押して痛かったり
イヤな感じがあれば、なおさら候補になります。

 指を反らしていちばんピリピリビリビリする感じの指をえらび、そ
のどちらかの八邪を調べて厚さをくらべてもよいですし、ななめに反
らして、よりピリピリビリビリする側をえらんでもよいです。

 井穴を押して痛いところの延長の八邪をを調べてみてもよいです。

手の甲のツボを特定する

 八邪をえらべたら、その延長の手の甲のツボをみつけていきます。

 手の甲のツボを正確に特定するには、指と指のあいだの水かき状の
部分(八邪)にさがす指の横側面をあて、手甲の骨と骨のあいだにす
べらせて、いちばんヘコんだところをみつけます。

 押してみて痛かったりイヤな感じがしたら当たりです。

 押してみるときには、指を横むき、つまり、爪が骨と骨のあいだに
平行のむきにして、皮膚に対して45°〜60°の角度にかたむけてか
ら、指の先端の横より(指頭脇)で押すのがコツです。

 手甲の骨と骨のあいだはせまいので、指腹や指頭では太すぎて、骨
と骨のあいだに指先がはいっていかないことがおおいからです。

 とくに、爪と骨と骨のあいだのむきが直交しているときには、指先
が骨と骨のあいだにはいっていきません。

くわしくは>>>「体は自然13.ツボちかくの状態、ツボのさがし方

 ツボの出ているところの状態をよく見ておきます。ヘコんでいるこ
とのほか、すこしベタベタして指をすべらしたときにひっかかる感じ
をうけたり、皮膚が黒ずんでいたりすることがおおいです。

 手甲の骨と骨のあいだの距離もちがいます。ツボが出ているところ
では、手甲の骨と骨のあいだが、ほかの骨と骨のあいだよりも狭いこ
とがおおいです。あいだの筋肉が過緊張して縮んでいるためです。

 また、ツボが出ているところに近い指の根本の関節の甲側のふくら
みの上が黒ずんでいたり、皮膚がカサカサになって、すこしはがれて
いたりすることもあります。

ツボに刺鍼する

 そうして選んだツボに痛がられないように刺鍼していきます。

 こちらの手に何かビリビリする感じをうけたり、鍼先にネバったよ
うな感じを受けたり、受け手が何か感じたり、まばたきが多くなった
り、おなかに深く息がはいったりしたら、効きはじめた合図です。

 刺鍼の深さを変えず、その深さで、撚鍼、横ゆらし、弾鍼などの手
技をします。

 しばらくそうして、ビリビリした感じが減ったり、まばたきが少な
くなったりしたら、抜いてよい合図です。

 静かに抜いていきます。

 抜いてくる途中でひっかかって抜けてこなくなることもあります。
そういうときには、そこで、抜く方向に力を入れながら、撚鍼、横ゆ
らし、弾鍼などの手技をします。しばらくすると抜けてきます。

 抜けてこなくなる現象が2,3回あることもあります。

手の甲や表位の症状がよくなったか確認する

 抜きおわったら、まず、刺したところの変化を見ます。

 ヘコみが減ったり、黒ずみが消えて明るいピンク色に近くなったり、
指をすべらしてサラサラした感じを受けたりしたら、よい変化です。

 つぎに、はじめに感じた表位の症状がよくなったか確認します。

 首や腕などの可動域制限は、大勢で見ていても確認しやすいと思い
ます。首がねじりにくかったときには、ねじりやすくなっているか試
してみます。

 この首の捻転制限の改善は、はじめての人同士二人組で試してもら
うときにも、6割以上の確率で成功することが多いです。そのため、
鍼で遠くに引くことで症状が改善することを味わってもらうのには、
なかなか良い手段だなと思っています。

(2) おなかのシコリを手陰経に引く

 つぎには、おなかを触診してシコりをみつけ、手の陰経や足の陰経
陽経などに鍼して、おなかのシコりをゆるめられるか練習してみてく
ださい。

 これも、おなかのシコりに関連する手足のツボがきちんと取れれば、
はじめての場合でも、その場ででできてしまうことがおおいです。た
めしてみてください。

 陰経に刺したときには、あとで頭が痛くなったりしないように、後
始末として、(1) のやり方で手甲に刺鍼しておきます。

 しかし、おなかのシコリがみつけられたり、それに関連するツボが
みつけられたりする必要があるので、初心者だけだとむずかしいかも
知れません。

 筆者の講演や単発講座では、筆者がおなかのシコリをみつけ、患者
さん役にも施術者役にもそのシコリを確認してもらいます。

 手陰経のツボもおおよその場所を言って、この場合には、肘の陰経
側になりますが、そのあたりで、すこし黒ずんだりヘコんで見え、さ
わるとすこしベタベタしていて、押すとペコペコしていて、患者さん
役が痛がったりイヤな感じを受けたりするところをみつけてもらいま
す。

 そして、そこに痛がられないように、刺鍼してみます。

 刺鍼後、刺した場所とおなかのツボの変化を見ます。

 足の陰経陽経のツボに関しても同じようにします。

 どちらの場合も、おわりに、後始末として、(1) でした手甲への引
き鍼をしておきます。

(3) おなかのシコリを背中に引く

 腹診してみつけたおなかのシコりを、関連する背中のツボでゆるめ
てみる練習をします。

 おなかが痛いときに胃の六灸のツボを使ってみるのも良い練習にな
ると思います。

 どちらの場合も、あとで頭が痛くなったりしないように、現在では
(1) でしたように手甲のツボを使って後始末をしておいたほうがよい
と思います。

 これも初心者だけではむずかしいかもしれません。

 筆者の講演や単発講座では、(2) と同じように腹のシコリをみつけ
確認してもらい、それから背中のシコリもおおよその場所を指定して
からみつけてもらい、参加者のみなさんに自分にもできたを味わって
もらっています。

3.自分で養生しながら腕をみがく

 鍼で邪気を引く実感がつかめたら、自分の手足の甲に鍼灸をして、
自分の体をととのえながら腕を磨いていきましょう。

 0.6mm,0.3mmの円皮鍼パイオネックス、粒鍼マグレイン、チタン
テープなどを手足の甲や指に貼るだけでも、けっこう、二日酔い、頭
痛、カゼのつらさが軽くなったりします。

 灸点紙を使ってお灸をするのもよいです。学校で艾をひねる練習を
したものをすてずにとっておき、足甲の骨間の押して痛いところに灸
点紙を貼ってお灸をしていると、慢性症状が改善したりします。

 学校で艾をひねる練習は沢山するでしょうから毎日してもあまるく
らい艾はあると思います。

 そういうふうに自分の手足に出ているツボを使って、自分の体をと
とのえ、実際に鍼灸することで自分の体が変化していくようすを味わ
いながら、ツボをみつける練習、適度な刺激をする練習をして、腕を
みがいていきましょう。

 「経絡の本は手足」、つまり、「よく効くツボは、手足の肘膝から
先におおい」のですから、それだけで、腕をどんどん向上させていく
ことができます。

 片手刺しが左手でもできるようになれば、右手のツボの刺鍼も自分
でできますので、刺鍼の練習も独習が可能です。

 片手刺しというのは、操体で有名になった橋本敬三先生が大正時代
に毛鍼がなかなか刺せるようにならなかったときに工夫した練習方法
です。

 鍼先から1cmくらいあけて鍼体の途中を親指と人指し指ではさんで
持ち、痛くないように皮膚におき、静かに撚鍼していくという方法で
す。

 「てきとうな大きさに切った新聞紙を反対側の手で垂らして、それ
に撚鍼していく練習をするとよい」と本に書かれていましたが、はじ
めはティッシュくらいのほうがやりやすかったです。

 ティッシュにできるようになったら新聞紙に挑戦しましょう。

4.まわりの人にもやらせてもらう

 自分にある程度効果を出せるようになったら、まわりの人にも鍼灸
させてもらいましょう。

 ただ、痛くなく熱くなく鍼灸できないうちに刺鍼や直接灸をして、
痛がられたり熱がられたりしたら、その人は二度とやらせてくれない
と思います。

 まずは、粒鍼マグレイン、チタンテープ、点温膏などを貼らせても
らったり、刺さない鍼である提鍼、皮膚に直接熱源がふれない温灸を
やらせてもらいましょう。

 つぎは、0.3mm&0.6mm円皮鍼のパイオネックスかな。

 提鍼や温灸で効果を味わってもらい、終わるまえに、まだ残ってい
そうなところに粒鍼マグレイン、チタンテープ、点温膏、パイオネッ
クスなどをいろいろ貼らせてもらうとよいでしょう。

 そのときに、頭首胴など体幹部だけに貼るのは避けましょう。かな
らず、経絡的に関連する手足甲の陽経側にも貼っておきましょう。現
在では、体幹部だけに貼ると症状が悪化する人がけっこうたくさんい
ますので。

 効果を味わってもらうことを優先していれば、だんだん興味を持っ
て、直接灸や刺鍼をさせてくれる人も出てきます。

 あせらずじっくりやっていきましょう。

 糸状灸や接触鍼ができると体験してもらいやすいので、自分の体で
練習してできるようになりましょう。

 まわりにやらせてくれる人が見つからないときにも、あせらないで
いきましょう。自分の手足に鍼灸することで自分の体をととのえるの
を習慣にしていれば、まわりで興味をもってくれる人はかならず出て
きます。

 効果を上げていれば、まわりの人から声もかかりやすいです。

 そのためにも、鍼灸の道具はいつも持って歩くようにしましょう。
お弁当のおかず入れなどを利用してコンパクトな鍼灸セットをつくる
と便利です。

 治療院を開いたときに大変なのは、患者さんが来てくださるどうか
です。すこしずつ自分の患者さんを増やしていきましょう。

5.講習会に出たり作ったり

 仲間を集めて練習する場を持つのもよいと思います。

 自分たちだけでは不安なら、先輩などに講師を依頼するとよいです。

 仲間を集め、費用を分担し、会を運営していくのは、治療院を開い
たときに、患者さんを集め、帳簿を付け、治療院を経営していくこと
の良い練習になります。

 卒後すぐに治療院を開いて軌道にのせた人には、在学中に講習会や
経営研究会などを組織し運営の中心になった人がおおいです。

6.おわりに

 自分に合った技術や師匠に巡り会え、大成されますように。

 沢山の師匠についたら、その方々の共通点を見つけだすようにする
と、より深く鍼灸が身に付けられると思います。

 このあたりは、「プロをめざす方へ」や「臨床は対話」にも、
くわしく書きましたので、参考にしてください。 


   >>>つぎへ>>>鍼灸を独習鍼術覚書操体の自然則



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最終更新:2010年08月21日 16:27