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手足に引く、陽に引く、下に引く

鍼は引き鍼・鍼灸の自然則 (2) 手足に引く、陽に引く、下に引く

1.はじめに

 邪気に頭をつかせないように邪気を体の外に誘導するのが、刺法の
基本だと書きましたが、そのためには、どういうふうにしていけばよ
いかを書いていきます。

2.邪気を体の外に出すには

手足に引く、陽に引く、下に引く、これが三原則

 手足に引き、陽に引き、下に引く、この三つが刺法の三原則です。

 手足、陽に引くのは、邪気を体の外に出すため、下に引くのは、頭
をつかせないためです。

 「手足に引く」「陽に引く」の「引く」とは
「鍼刺すに 心で刺すな 手で引くな 
   引くも引かぬも 指にまかせよ」(杉山和一検校)

手足に引く

 手足に引くには、手足の経絡と頭や体幹部の相関を考えます。

 「経絡の本は手足」という言葉を思い出してください。

 肘・膝から先をさがすのが基本です。ですから、経絡の要穴という
のは、基本的に、肘膝から先におおいわけです。

 とくに、頭首胴の急性症は、手首・足首より先をさがすのが基本で、
手足の甲や井穴などの指のツボが使われます。

 頭のハチマキするあたりの熱を手の甲に引くのが、典型例です。

陽に引く

 陽に引くというのは、「より陽位に引く」という意味で、腹など陰
位の邪気を背中側などの陽位に引き出すことが典型例です。

 あとは、陰経の邪気を陽経側に引くということもあります。

 古い五十肩や膝痛のときに、脇の下や膝裏の邪気を表側に誘導する
のも、陽に引く例かなと思います。

 また、腹が痛いときにする胃の六灸のツボを使う灸も「陽に引く」
例です。

下に引く

 下に引くのは、基本的には、座位や立位で地面に近いほうに引くと
いうことで、手足甲に引くのが基本です。

 邪気に頭をつかせないためにします。

 準備のときと後始末のときにします。

3.陰経陽経の刺法、陽&下へ引く刺法

 さて、今度は、どういう刺し方で邪気を引くかです。

手足への引き方

陰経は除刺徐抜

 陰経の刺し方の基本は、ゆっくりと刺し、ひそかに邪気をさそい、
来おわったら静かに抜くというものです。

 徐刺徐抜とよばれ、まだ動きの遅い邪を引くのにむいています。

 陰経を徐刺除抜で刺すのは、はげしい急性症状をのぞいては、陰経
のほうが邪気の動きが遅いためです。

 邪気をさそう感じは、魚釣りでコマセをまいたり、エサを食いかけ
た魚をあわせたりする感じに似ています。

 はげしい急性症状のときで、陰経側にもたくさん邪気がすでに来て
いるときには、つぎに書く陽経のような刺し方のほうがよいこともあ
ります。

陽経は速刺徐抜

 陽経の刺し方の基本は、スッと邪にあてて引っかけ、途切れないよ
うにスーーーッと抜くというものです。

 速刺除抜とよばれ、動きの速い邪を引くのにむきます。

 陽経側はもうすでに邪気が動いていることがおおいので、その邪気
をすばやくとらえ引き出しはじめます。

 あまり速く抜きすぎると、せっかく来ている邪気をすべて引き出せ
ずに終わることがあります。魚釣りでバラした、つまり釣り糸を切ら
れて逃げられた感じです。

 夜店のヨーヨー釣りみたいな感じもします。速く引きすぎるとヨー
ヨーは落ちてしまいますね。

 ですから、来ている邪気を根こそぎ抜き出す感じで、途切れないよ
うに、抜きながら横ゆらしなどの手技をしながら、引き出していきま
す。

陽は横切り、はじめとおわりで下に引く

陽に引くには、横輪切りを使う

 陽に引く刺法では、体の横輪切りラインにツボをさがし、そちらに
引くようにするのが基本です。

 背部愈穴に腹の症状を引くのが代表例です。

 あとに書くように、陽→陰→陽の順に刺すことがおおくなります。

 刺法の速さ(徐刺徐抜か速刺徐抜か)は、邪の動きの速さをみて決
めます。

 慢性期や症状がおちついているときには遅く、はげしい急性期には
速いことがおおいです。

 陰経側の邪気を陽経側に引いてくるときも、ほぼ同じです。

はじめとおわりに下に引く

 そして、はじめとおわりに下に引きます。

 鍼での治療の最初と最後に下に引く、つまり、手足の甲の陽経側で
はじめて、手足の甲の陽経側で終えるということです。

 下に引くときは、おもに速刺除抜を使います。下に引くのは、基本
的に、邪気に頭をつかせないためにすることだからです。

4.出ているツボに引く

阿是穴治療が、和方鍼灸の基本の一つ

 ツボが出ているところに引くのが、和方鍼灸の基本です。

 ツボが出ていないところに刺しても邪気は引けませんので。

 出ているツボ(阿是穴)治療が、和方鍼灸の基本の一つです。
「成書の経穴部位は、方角を示すのみ」(深谷伊三郎先生)
 
「邪気ある時は何れの所にも鍼を用ゆ 
   病なきは何れの穴にも鍼を禁ず」(葦原検校)

 つまり、ツボというのは、出やすいところはあるにしても、体の部
位ではなくて、体の状態のことです。

 雲や低気圧が、空の状態であるように、ツボというのは、筋肉が過
弛緩・過緊張した機能性病変という状態になっているところです。

ツボは、指をすべらして止まるところ

 ツボの出ているところは、経絡上に指をすべらして止まるところに
とります。


 かんたんに復習しますと、表面は、力なくベコベコして、すこしベ
タベタ湿っていて、すこし黒ずんでいることがおおいです。

 邪毒が水毒の形ですこしづつ漏れ出ているためと考えられます。

 敏感な人なら、手をかざせばピリピリビリビリしたイヤな感じを受
けるでしょう。

 教科書に書いてあるとおりにとっても、そこにそのときツボが出て
いなければ、刺しても効きません。注意してください。

 そのときの皮膚や筋肉の状態を目で見て手でさわって確かめて、出
ているツボをピンポイントで取れるように練習しましょう。

5.刺鍼の深さ、いろいろなツボの状態にあわせた刺法

邪気が動く深さに刺す

 刺鍼する深さは、邪気が動く深さです。浅すぎても深すぎてもダメ
です。

 接触鍼で十分なこともありますし、2寸5分でやっと届くこともあ
ります。

 どの深さで邪気が動くかは、手にピリピリビリビリ感じることのほ
かに、鍼先につきたてのモチを刺したときのようなネバネバした感じ
を受けたりすることや、受け手のおなかに息が深くはいったり、おな
かが鳴ったりすることも目安になります。

 手の甲への刺鍼などでは、受け手のまばたきなども目安になります。

 そういうふうに患者さんの体が反応したら、深さは変えずに、旋撚、
横ゆらし、弾鍼、雀啄などの刺鍼術をして、邪気をそこから逃がし、
体の外へ引き出すようにします。

 どの刺鍼術を使うかは、いちばん邪気を動かしやすいものをえらん
でいくようにします。

虚のツボの刺し方

 虚のツボは、表面からズーっとフニャフニャですから、トウフに刺
したときのように、抵抗感がなくスーッと鍼がはいっていくことがお
おいです。

 とつぜん底の硬いシコりにぶち当てて、患者さんにつらい思いをさ
せないように、一歩手前で止められるようにしましょう。

 鍼先になんとなくネバネバしたような気配を感じたら、鍼をいれる
スピードを落とすか、いったん鍼を止めるとよいです。

 また、虚のツボの底の硬いシコりにぶち当たっても、受け手の体の
反応が出てこないこともあります。

 そういうときには、その硬いシコりにすこし鍼先を入れ込むつもり
で、旋撚、横ゆらし、雀啄などの刺鍼術をしていると、邪気が動きだ
したり、おなかに息が深くはいりだしたりという受け手の体の反応が
出てくることがおおいです。

 そういうときには、それから、動き出した邪気を体の外に引き出す
ようにしていきます。

 邪気の動きが感じられないときには、おなかの息が普通にもどるま
で、旋撚、横揺らしなどの刺鍼術をします。

 虚で冷のツボを補したい温めたいときには、鍼をすごくゆっくり、
大きめに動かします。鍼柄をゆっくり摩擦するような感じもとりいれ
て。

邪気の動く深さが数カ所のとき

 腰、首、大腿など筋肉が厚いところでは、邪気が動く深さが数カ所
あることもあります。

 こういうところでは、上から順番にしていきますが、すべてのとこ
ろを一度に動かす必要のないときもありますし、二つ以上動かしたら
動かしすぎのときもあります。

 受け手の体の状態をみながら、その日そのときの全体の刺鍼を考え
合わせ、適切になるようにします。

抜鍼時に抜けにくくなったら

 虚のツボでは、ずーっと奥の深いところの硬いシコリをゆるめたあ
とで抜いてくるときに、行きにスーッと素通りしたところで、鍼がは
さまれたように抜けてこなくなることがあります。

 そういう筋肉のぶ厚いところでは、ツボはだんだん深くなりますの
で、そういう帰りに抜けなくなるところは、むかしツボの底だったと
考えています。

 つまり、現在のツボでのいちばん底の硬さをゆるめたときに逃げた
邪気が、むかしツボの底だったところにたまったことが原因で、そこ
が硬くなり鍼をはさんでいると考えます。

 そういうときに無理して抜くと痛がられますので、抜く方向に引っ
ぱりながら横ゆらし、弾鍼などの刺鍼術をしばらくして、邪気をその
硬いところから逃がし体の外へ出すようにすると、抜けてきます。

 ツボが深かった場合には数回くりかえすこともあります。

 また、こういうときには、雀啄の刺鍼術は使えません。

 鍼先の方向に硬い部分はないからです。雀啄は、鍼先より奥に硬い
部分があるときに有効な技法だと思います。

鍼先がツボの底に届かないとき

 ツボが深くてツボの底に鍼先が届かないときには、回旋術をすると
奥の底のほうに効果を出せることがあります。

 回旋術は、片方に目一杯ねじってからパッとはなす技です。

 螺旋的に筋肉を巻き込むので、奥のほうに刺激をあたえられるせい
かなと思います。

6.熱と寒、スジバリへの刺法と灸

熱に対する刺法

散鍼

 熱には、てばやく散鍼して散らします。

 速刺速抜とよばれる刺鍼術です。

 遅いと邪を引き、かえって熱くするので注意が必要です。

 置くほうよりも離すほうを速くするのがコツです。置くほうが速く
て離すほうが遅いと、痛いだけで冷めません。

 小指側、小指丘などで、鍼をもつ親指・人差し指側を跳ねあげるよ
うにすると、すばやく離すことができます。

表位の熱を手甲に引く

 カゼなどのときの頭首肩など表位の熱は、手甲に引くこともできま
す。

 頭のハチマキするあたりをさわって熱いところと経絡的に関連する
手甲のツボに引きます。

 こういうときには、邪気も、とても熱い感じで、動きもふだんより
もずっと速いです。そのため、すばやくとらえ抜きながら横揺らしや
弾鍼などの刺鍼術をして、根こそぎ外に出すようにします。

 内科系急性期などで、頭など表位の熱感がはげしいときには、頭な
どに散鍼するまえに、手の甲へ引いておいたほうが無難です。

寒に対する刺法

 寒には、置鍼して真気をよんで温めます。

 ただし、江戸期を中心に発達した古方では、押し手は離しません。

 昭和10年代までの鍼は、基本的に押し手は離さないものだったよ
うです。

 じっくり置鍼しながら、状態にあわせて、すごくゆっくり、そして
かるく、おおきめに、鍼柄と指のあいだをすべらせてすこし摩擦する
ような感じもいれて、旋撚、横ゆらしなどの刺鍼術をして、押し手に
温かさを感じるまで置鍼します。

スジバリへの刺法

 コワバリのなかや、フニャフニャしたなかに、ギターの弦を太くし
たようなスジバリがみつかることがあります。

 筋肉を横に横断してみるとわかりやすいです。

 そういうときは、そのスジバリに鍼先をチョンと当ててゆるめます。

 スジバリが横に逃げて当たらないことがおおいので、逃げないよう
に押し手でスジバリの両側をおさえてしまうと当てやすいです。

 つまり、スジバリの両側に押し手の指先がくるように押し手を作り、
45°くらいの斜刺で刺鍼していくと当てやすいです。

脇の下ちかくの水掻きの中のシコリへの刺法

 脇の下前後の、腕と胸、腕と背中、それぞれのあいだに水掻き状に
はった筋肉のなかにあるシコリは、上から押し手を作って刺鍼していっ
ても、逃げてしまって刺さらないことがおおいです。

 ここのシコリは、中指を水掻き状に張った部分の反対側にまわし、
押し手の親指と人指し指の組み合わせと協力して、シコリを3本の指
でしっかりつかまえてから、中指にむかって刺鍼していくと、シコリ
に鍼が刺さりゆるめることができます。

7.灸のほうが良い場合

 ヘコんで見え、さわって力なくペコペコして冷たいところには、灸
をします。

 とくに、冷えが原因でできたツボには、刺鍼よりも効果が高いです。

 そういうツボは、おなかや下腿の陰経側、とくに足首よりさきにお
おいです。

 また、手のひら、足の裏や手足の指は、刺鍼の痛みを感じることが
おおいので、鍼をしないで灸することがおおくなります。

灸での全身治療

 灸だけで体全体を治療することもあります。

 灸のときは、陽先陰後といって、体の陽にあたる背中側や頭のほう
を先にします。

 手順としては、座位、うつ伏せ、仰向けの順で、頭のほうから足指
のほうへというのが基本になります。

 ただし、このごろは、灸したあとにすぐ立ち上がって帰ってもらう
ことがおおいので、クラクラフラフラしないように、おわりに手の指
のツボ、指端や骨空などに糸状灸をしておくとよいです。

 パチッと目がさめ、立ち上がったときにクラクラフラフラしなくな
ります。灸のあとのほんわかとした余韻は消えてしまいますが。

8.おわりに

 ゆっくり、すこしずつ、いろいろな刺法を身につけていきましょう。


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最終更新:2010年08月21日 16:23