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鍼は邪気を引く道具

鍼は引き鍼・鍼灸の自然則 (1) 鍼は邪気を引く道具

1.はじめに

 「鍼灸の自然則」ののうち、まず理解する必要があるのは、「鍼は
邪気を引く道具」ということです。

2.鍼は、邪気を引く

鍼は、邪気を引く道具


 鍼は、真気をよべるし、邪熱を散(ち)らせるし、シコリをゆるめ
られますが、鍼の基本は、引鍼です。

 つまり、鍼をしているところに邪気が集まってきたり、邪気を集め
たりできるということ。

 とくに、術伝流のような一本鍼、つまり、一度に一本の鍼を使い、
その鍼を順番に刺していく方法では、「鍼は邪気を引く道具」という
視点が大切です。

 このごろは、たとえば線維筋痛症の人のように、邪気がたくさん体
にたまっている人がおおいので、置鍼中心のときでも、このことを理
解して、鍼を刺していく順番と抜いてくる順番を考えたほうがよいと
思います。

 手順をよく考えて刺鍼抜鍼すれば、患者さんにつらい思いをさせる
可能性をへらせるからです。

真気をよんだり邪熱を散らしたりシコリをゆるめるのも邪気を引くから

 鍼で真気をよぶには、ゆっくり大きめに動かしたり、しばらく置鍼
しておくことがおおいですが、このときも、基本的には邪気がさった
あとに真気が来ることがおおいです。

「邪気の至るや緊にして疾く、穀気の至るや徐にして和す」
        (『杉山真伝流』皆伝之巻「鍼法撮要」〈気察〉)

「邪気は鍼先に至りくるのが速く、鍼下にビリビリ緊張した感じが
 する。穀気は鍼先に至りくるのがゆっくりで、鍼下が温まり柔和
 になる感じがする」            (大浦慈観先生訳)

 熱いところは散鍼して熱をちらしますが、このときも、置くほうよ
りも引くほうを速くしないと、痛いだけで冷めません。

 また、シコりをゆるめるときも、こっている筋肉にたまったり引き
よせられた邪気を引き出し、体の外へ出しつくすとシコリがゆるむよ
うに感じています。

 つまり、どの刺法も、鍼が邪気を引くという性質を利用しているよ
うに思います。

3.邪気は、毒より発し天(頭)を衝(つ)く

邪気ってなに?

 さて、鍼が引く邪気とはなんでしょう?

 「次の朝の寝覚めが爽やかか」にも書きましたが、邪気は、
手にピリピリビリビリした感じを受けるもののことのようです。

 体にたまった邪毒のなかで、形がなく目に見えないものをまとめて
そうよんでいるようです。

 邪気は、体に悪い働きと考えてもよいと思います。

 機械が調子の悪いときに聞こえる雑音に似ているところがあり、歪
んだ体の発するサインにもなります。

 ビリビリ、ピリピリした感じを手に受けることがおおいので、電気
のような感じもしますし、基本的に、頭のほうへ、上のほうへ動きや
すいので、ガスつまり気体のような性質もあるのかなと思います。

 真気にくらベ、速く瞬間的に動き、振れ幅はとてもこまかいように
感じます。

 比較すると、真気の速さは、気功のときの手の動きくらいの速さで、
毛細血管の血流と関係しているような感じがします。

 近ごろの研究では、シコりになった過緊張状態の筋肉では、異常な
活動電位が観察されるようで、それが邪気の正体の可能性もあります。

 邪気を引き、異常な活動電位がなくなることで、筋肉が過緊張状態
でなくなるのかもしれません。

病が動くと、邪気は頭につきあげる

 病が動くとき、つまり、未病から発作的急性症状になると、邪気が
動きだし、頭のほうにつきあげるようになります。

 ビールびんやどぶろくのビンをゆすると、炭酸ガスがわきだし、上
昇し、栓を飛ばそうとするように。

 病が動かないときは、邪気は、腹の中の悪血や水毒の中にひそんで
いるようです。

 静かに冷たいところに放置しておいたビールのなかに炭酸ガスがふ
うじこまれているように。

 小腹には悪血、大腹には水毒がたまりやすく、病気の症状が出てい
ないときでも、そこから出た邪気が、少しずつ、横隔膜、上焦、頭の
ほうへ、もれているようです。

図1

 (くわしくは>>>「次の朝の寝覚めが爽やかか」)

4.邪気に頭をつかせないように体外に出す

 私は、鍼治療の基本は、そういう邪気を、頭をつかせないように、
体の外に引き出すことだと思います。

静電気の実験をふりかえる

 昔、中学校か小学校でおこなった静電気の実験を思い出してくださ
い。

 物体をこすりあわせて静電気を発生させるといろいろな現象がおき
ますが、これは、物体の片方が+に帯電し、もう一方が−に帯電する
ことによって起こります。

 −に帯電した物体の途中から地面(アース)への逃げ道を作り、遠
くに逃げられるようにすると、−の電子はそちらに逃げ、静電気が発
生した事による現象は見られなくなります。

邪気の静電気的性質を利用したのが手足への引き鍼!?

 邪気も気なので、これと同じ性質を持つようです。

 手の陰経に引き鍼しておくと、腹のシコリを動かしたときに発生し
た邪気は頭にむかわず、手の陰経のほうににげるようです。

 どぶろくのビンの途中に孔と開けて、そこからガスが逃げられるよ
うにすると、上にある栓を飛ばすガス圧はなくなると考えてもよいで
す。

 次回にくわしく説明しますが、鍼の原則の一つに「手足に引く」と
いうのがありますが、それは、邪気の静電気的な性質を利用している
ように思います。

 また、これは、腹に発生した邪気が、頭にいくときに胸をとおるか
らでもあると思います。

 手の陰経は、胸の内部の邪気を引くのに、いちばん使われる経絡で
す。ですから、別名で肺や心臓の名前をつけてよばれています。

 このように、基本的に、鍼をしているところに邪気が来るという性
質を利用して、受け手に苦しい思いをさせないように手順をよく考え、
邪気を体の外に誘導していくという感じで治療しています。

邪気を体の外に誘導し、水毒・悪血の毒性を下げる

 邪気を体の外に誘導できれば、水毒や悪血などほかの邪毒の毒性が
さがるので、体の持っている代謝排泄機能で、それらの邪毒も排出さ
れやすくなります。

 そういう感じで鍼治療を見ています。

受け手の体がそのとき出したがっている丁度良い量を引き出す

 とはいっても、体の中の邪気を一度に全部引き出せばよいというわ
けではないようです。

 体が一度に出せる邪気の量、あるいは、一度に排出できる邪毒の量
には、受け手一人一人ちがった限度があり、それをこえて一度に引き
出そうとすると、受け手につらい思いをさせてしまうことになります。

 漢方古方派のいう瞑眩は、治療には付き物と思いますが、受け手に
つらい思いはできるだけさせない配慮が必要だと思います。

 受け手の体がそのとき出したいとのぞんでいる丁度よい量を体の外
に引き出せるよう、勘をみがいていきましょう。

5.ゆっくりじっくり邪気を感じる勘をやしなっていく

 邪気を感じられないからといって、あせる必要はありません。

 私自身、自分に鍼して邪気かなという感じを感じるのに1年ほどか
かりましたし、受け手の体で動く邪気を感じるのには、それから2年
ほどかかりました。

 それに邪気を感じられないと言っている人のほとんどが、体では邪
気を感じているようです。

誰でも邪気を感じている、意識できないだけ!?

 試しにこれから書く実験をしてみてください。おもしろいですよ。

 前腕の内側中央(手厥陰)にそって指を動かすだけなんですが、指
がツボの上をとおるときに、指がはねたり、指が動く速さが変わった
りします。

図2

 まず、一人の人に、前腕の手のひら側を上にむけて水平に机の上な
どにおいてもらいます。

 もう一人の人に、その腕の10cm上を、腕のほぼ中央にそって肘か
ら手首まで、指をできるだけ一定の速度でゆっくり動かしてもらいま
す。

 みんなで横から観察してみましょう。

 ところどころで、すこし指が上にはねたり、スピードが変化したり
しているのがわかるでしょう。

 人をかえて実験してみても、場所がすこしちがうことはあるけれど、
同じように上にはねたり、スピードが変化したりしていることが観察
できます。

 「私は邪気なんてわかりません」という人でも、ほとんど、指の動
きは変化してています。(私が試したのはもう200人以上になりま
すが、指が動かなかった人は数人でした)

 そして、そのはねたりしたところの下の部分の腕を押してみると、
痛かったりして、いわゆるツボになっているのがわかります。

 この実験は、手順だけ説明し、おこなっても同じ結果が出ます。

 そして、横から観察した人が指がはねているとかスピードが変わっ
ていると言ってから解説したほうがおもしろいと思います。

邪気から逃げるのは原始的な能力!?

 鍼で引かないときでも、ツボからは邪気がすこしもれだしています。

 頭で意識できなくても、心で思えなくても、体はイヤな感じを受け
避けているようです。

 生物は、アメーバのような単細胞生物から進化しました。

 特別な感覚器官はないけれど、好ましいものには近づき、イヤなも
のからは逃げられなければ、生物として生き延びることはできなかっ
たはずです。

 人間の細胞一つ一つにも、そういう原始的能力が残っているのかも
知れません。

体が感じていることを意識できるよう勘をみがく

 ですから、治療中の患者さんの邪気を感じる練習をするということ
は、体が感じていることを意識できるようにすることにもなります。

 体と体のコミュニケーションを意識して、たがいに協力して勘をみ
がいていけば、だんだんできるようになっていきます。

 たとえ、どうしても感じることができなくても、治療はできるよう
になっていきます。

 意識できないだけで、体は邪気に応じて適切な動きができるように
なっていくためです。ツボの上の指かざしで、指が自然に避けて動く
のと同じように。

 どちらかというと、意識は、ぼーっとしている無心状態のほうがよ
いようです。

「鍼刺すに 心で刺すな 手で引くな 引くも引かぬも 指にまかせよ」
                      (杉山和一検校)

 逆に、いろいろしゃべれても、邪気に応じて体が適切に動かない人
は治療効果が出にくいです。

効いているときの目安を使えるようにしていく

 それに、手に邪気を感じられないからといって、邪気を引き出せな
いわけではなく、邪気が動いている目安は、目で見て手でさわって確
かめられるものでも、ほかにもたくさんありますので、そういうもの
を目安に邪気を体の外に引き出すことはできます。

 一番わかりやすいのは、おなかへの息のはいり具合で、鍼が効果を
あげているときには、深い息になります。

 安保徹先生や福田稔先生たちの自律神経免疫療法で、副交感神経優
位をすすめているのと共通点を感じます。お仲間の水嶋丈雄先生は、
副交感神経優位になるような鍼施術をすすめていますし。

 おなかに息が深くはいるということは、副交感神経優位になってい
るということだと思います。

 また、手の陽経に刺しているときには、効いていれば、まばたきが
おおくなるので、それも目安になります。

邪気を感じなくても、邪気を受けている!?

 逆に、邪気を感じられないからといって、邪気を受けないわけでは
ありません。

6.おわりに

 邪気を受けて病気になったという人の大部分は、姿勢が悪いからで
すが、邪気を感じないでたくさん仕事しすぎて、邪気がたくさんたまっ
てしまい、とつぜん倒れる人が近ごろいるようです。すこし心配して
います。


   >>>つぎへ>>>手足に引く、陽に引く、下に引く



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最終更新:2015年10月20日 21:16