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術伝流操体 [2]ラクな寝方を少し強調 (13)指先で皮膚操体

指先で皮膚操体

1.はじめに

 今まで余り詳しく書いてきませんでしたが、操体にも鍼灸で
使うような細かいツボに対する施術法があります。

 指先、正確にいうと指腹かもしれませんが、指先でツボの上
の皮膚を張る操体です。

2.指先でツボの上の皮膚を張る

 皮膚の操体は、手平などで大きく皮膚をズラして、ズラした
後側にできる皮膚の張りをしばらく保ったままにして置きます。
直径1cm以下の細かいツボに対する皮膚の操体も、そういう点
は同じです。

 つまり、そのツボの周りの皮膚をツボから皮膚に平行に遠ざ
かる方にズラしたり、そのツボの真上の皮膚を皮膚に垂直に筋
肉の方にズラしたりして、ツボの真上の皮膚が軽く張った状態
を作り、その状態をしばらく維持します。

3.押し手を広げるだけで効果が出る!?

 鍼灸をされている人なら、一番分かりやすいのは、押手を広
げるように指を動かす方法だと思います。

 普通に鍼灸をしている感じでツボを取り、押し手を作ります。
そして、鍼管に入れた鍼を置くのではなくて、押し手の拇指と
示指をツボの中心から遠ざかる方向にズラす(写真1)と、ツ
ボの真上の皮膚が張った状態になります。

写真1

 その状態をしばらく維持していると、鍼でツボに施術したの
に近い効果が出ます。「押手広げ」と読んでいます。

 「そんなバカな」と言わずに、実際やってみてください。

 比較すれば陰経の方が効果がはっきり出やすくて、分かりや
すいかなと思います。

 実演に向いているのは、腹の痼りと経絡的に関係する手足陰
経のツボへの「押手広げ」です。

 腹診して腹の痼りを見付け、受け手や周りで見ている人にも
確認してもらいます。その後に、経絡的に関係する手足陰経の
ツボを使って、押手でツボの上の皮膚を張った状態をしばらく
続けるという方法です(写真2)。

写真2

 写真2では、上腹部の白い目印の所に痼りがあったので、そ
れを改善するために、上腕陰経のツボに指先での皮膚操体をし
ています。

 すると、鍼をしたときと同じように、受け手の腹の息が深く
なっていきます。

 腹の息が元に(普通の状態に近く)戻ったら、押手を外して、
施術していたツボの状態や腹の痼りを確認すると、鍼灸した後
と同じように、少なくとも半分位は、変化しています。

 以前、この実演をしたときには、見ていた鍼灸師から、

「え、それじゃぁ、鍼するって、いったい何なんですか?」

と驚かれてしまいましたが、その人も、その後の二人組での練
習で同じことができていました。

 皮内鍼や鍼長0.3mmの円皮鍼、粒鍼でも効果が出るのと同
じようなものかなと考えています。

 また、提鍼で施術するときにも、押手でツボの上の皮膚を張
る感じで施術すると、効果が出やすいみたいです。また、押し
手でツボの上の皮膚を張ると、普通の刺鍼でも弾入がしやすく、
また、効果が上がりやすいような気がしています。試してみて
ください。

 鍼灸していない人は、押手を広げるというのは、拇指と示指
の指先を付けて輪を作り、付けた指先をツボの上に置いた状態
から、指先同士を離す方向にズラすことだと理解してください。

4.ツボの上の皮膚を張る方法

 ツボの上の皮膚を張るためには、鍼灸をしている人なら、押
手広げが一番簡単だろうなと思いますが、それ以外の手段も有
ります。

 この方法を私が習ったのは、橋本先生の高弟のある先生です。
その先生は、中指でズラした後に、薬指か示指で、その反対側
にズラす方法を勧めていました。

 中指が感覚的に変化を一番把握しやすく、拇指だと皮膚を押
し付けてしまいがちになるからという説明をされていました。

 ところで、私は、その先生から指先での皮膚操体を習ってい
た当時は、同じ講習会を受けていた講習生相手には、ほぼ確実
に効果を出せていました。が、一般の人に対しては、効果が出
せたり出せなかったりでした。

 その理由は二つありました。1つ目は、実際には、具体的に
は何をしているかが良く分からなかったということです。2つ
目は、施術するポイントが何処か良く分からなかったというこ
とです。

 講習生相手なら、施術して欲しい場所を受け手が言ってくれ
るし、施術しているときの感じがイイ感じでなかったり、先生
と違っていれば指摘してくれたので、効果が出せたのだろうな
と思っています。

 1つ目の具体的にやっていることが分からないというのは、
ツボの上の皮膚を張った状態を保っているんだということが分
かり、解決しました。そういう意味でも、どうやってツボの上
の皮膚を張るかというのは、色々工夫してみました。

 2つ目の何処をしたら良いかという問題は、鍼灸を練習した
成果として、受け手の体にそのとき出ているツボが取れるよう
になって、解決しました。

 私は、操体を数年教わってから鍼灸指圧按摩の学校へ入りま
したが、入学が決まったとき、操体の先生に

「操体をやりたくて按摩マッサージ指圧の資格を取りますが、
鍼灸を一緒にとっても学費が変わらないので、ついでに鍼灸を
取ります。」

 と言ったら、先生から

 「最初からついでなんて考え方ではダメだ。橋本先生だって、
ずーっと、鍼灸を使っていた。やるなら、橋本先生くらい鍼灸
を使いこなせるようになるつもりでやりなさい。少なくとも学
校に行っている間、できれば10年。そうすれば、操体にも絶対
役に立つ。」

 と叱られてしまいました。

 鍼灸でツボを取ることを身に付けなかったら、今だに指先で
の皮膚操体を臨床の場で使いこなすことはできなかった可能性
があるので、上記の先生のアドバイスは本当に役に立ったなと
感謝しています。

 同時に、橋本先生の

「色々な人が、鍼だ、按摩だ、何流だなんだと唱えているけど、
自然法則は、皆、同じ」

 という言葉を思い出しました。

 さて、余談が長くなりましたが、中指を中心にツボの上の皮
膚を張る場合に、中指を伸ばす方向にズラすときは、示指か薬
指を曲げる方向にズラします(写真3)。

写真3

 中指を横にズラすときは、示指か薬指を反対方向に横にズラ
します(写真4)。

写真4

 ツボの上の皮膚の張り方で、良く使うのは、もう一つありま
す。

 ツボを取り、痛いかどうか確認するために、ぐーっと深く指
を押し入れていきますね。そうして確認を取った後に、押す力
をフッと弛めて、ツボの上の皮膚が、皮膚と垂直で筋肉の方向
に張っている状態にする(写真5)方法です。「指先沈」と仮
称しています。

写真5

 押し加減が少し難しいですが、ツボの上の皮膚が沈む方向に
張っているけれど、筋肉には圧が届いていない位の状態が丁度
良いことが多いです。

 そして、張る方向は、できれば沈む方向の中でも、ツボの芯
の方向、つまり、ツボを押したときに痛かった方向が一番効果
を上げやすいようです。

 写真で見ると、ただ指を置いているようにしか写っていない
と思いますが、その辺りに注意すると効き目がグンと上がりま
すから、心掛けるようにしてください。

 また、沈方向に張った状態から、皮膚に平行に左右どちらか
に捻ると、より効果が上がりやすくなることもあります。

 ツボの上の皮膚を張る方法を3つ上げました。どういう指使
いでツボの上の皮膚を張るのが良いかは、施術者の向き不向き
や好みで決まってくることもありますし、ツボの状態で決まっ
てくることもあります。

 手平で施術する皮膚の操体ほどではありませんが、やはり、
張る方向に因ってはイイ感じが出にくいこともあり、イイ感じ
が出やすい方に張った方が効果が出やすいです。

 また、狭い所にある小さなツボの場合には、沈方向や「沈+
捻り」が効果を上げることが多いように思います。

 特に、指の関節部裏側の皺の端にあるような、とても小さな
ツボに皮膚の操体をするには、「沈+捻り」が効果的なように
思います。

 また、操者の位置とツボの場所とを考え、姿勢などに無理が
ないものを選んだ方が効果が上がりやすいと思います。

 例えば、操者の向いている方(腰椎3番とヘソを結ぶライン)
と直角に張った方がイイ感じなときには、押し手を広げたり、
中指と薬指の間を離したりして張りを作る方が無理が少ないで
す。

 また、操者の向きと平行に張った方がイイ感じなら、中指を
伸ばし、薬指や示指を曲げる形で張りを作る方が無理が少ない
です。

 いずれにしても、皮膚操体をする側の頭首胴体、腕、手首、
指などの位置や格好(関節の4種8方向)に無理が無いように
した方が効果が上がりやすくなるので、工夫しましょう。

5.ツボの見付け方

 さて、次は、何処にするかです。鍼灸をしている人なら、い
つも鍼灸をしているツボにすれば良いわけです。

 例えば、うつ伏せから肩甲骨中央の天宗、仰向けから内踝の
踵よりにある照海などを実演する先生もいらっしゃいます。

 天宗は、肩はじめ上半身の運動器系が歪んだり疲れたりして
いるときに、照海は、下半身の運動器系や内科系の症状がある
ときにツボが出やすい所です。それで、多くの人にツボが出て
いることが多いので、実演で使いやすいのかなと思います。

 ただ、うつ伏せから天宗にするときは、受け手の体の重みが
掛かるので、皮膚操体というよりも指圧に近いものになってし
まいますね。

 といっても、鍼灸をしていない人には、何のことか、さっぱ
り分からないということになりますかね。さて、どうしましょ
うか?

 ラクな寝方を強調する術伝流操体では、ラクな寝方で体が伸
びようとしているラインに注目しましたね。そのライン上を指
で辿って、凹んだ所を見付けるのが一番簡単だと思います。

 ラクな寝方で一番縮んでいる所も狙い目ですが、縮んでいる
所が縮みすぎて狭くなっていると、手や指先をあてにくくなり
ます。

 余り無理せずに、手や指を当てやすく、上向きの所を、主に
使っていけば良いと思います。

 それと、ラクな寝方で寝た姿勢で、大腿や上腕の向きから、
ツボが出ている場所が予測できることも書いてきました。

 上腕や大腿の向きの延長線上に胴体があるときには、その延
長線上にツボが出ていることが多いです(写真6、写真7)。

写真6

写真7

 延長線上に胴体が無いときには、延長線と直角の方向の線上
にツボが出ていることが多いです(写真8、写真9)。

写真8

写真9

 だいたい予測した場所のなかで、一番凹んでいる所を見付け
ます。そういう所で押すとペコペコ凹んでいて、押すと痛い所
を選びます。

 また、ツボが出ている所は、だいたい決まっているので、そ
ういうことを目安に探すこともできます。

 背中や腹、首手足など筋肉が太い所では筋肉と筋肉の間の溝
の中にあることが多いです。

 また、後頭骨下縁、背骨の脇、肩甲骨の周り、骨盤の周り、
手足の骨の周りなど、骨際にも多いです。肋間や手足甲の骨間
にもあります。

 そういう所で皮膚表面がタルんでいて、押すと深く凹み、強
く押すと痛い所がツボです。

 麻痺して痛まない所もありますが、初めのうちは、そういう
所は後回しでも良いでしょう。操体をして体が整ってくると、
そういう麻痺した所もだんだん麻痺が消えて痛みが出てくるこ
とが多いので。

 ツボやその探し方については、次回から寝方別に説明する予
定です。術伝HPでは「体は自然、臨床は対話」にも書かれて
います。

 また、「あはきワールド」に現在第2週に連載している「術
伝流一本鍼」でもツボの取り方を解説していますので、そちら
も読んでみてください。

6.付け足し方

 指先でツボの上の皮膚を張る操体をしているときも、色々と
付け足した方が効果が上がりやすくなります。

 空いている方の手でそのツボと関係するツボの上の皮膚ズラ
しや指圧をしたり、経絡的に関連する指の指反らしをしたりを
すると効果が上がりやすいです。

 比較すると、頭・首・胴体など中心に近いツボに指先や手平
での皮膚の操体をして、手足の特に指など末端に近いツボに指
圧や指反らしなどの強い刺激をすると効果が上がりやすいこと
が多いです(写真10、写真11、写真12、写真13)。

写真10

写真11

写真12

写真13

 もちろん、言葉を掛けて動きの操体をしてもらったり、空い
ている方の手で「動きの操体」や「手平での皮膚操体」を組み
合わせてもよいです。

 また、胴体のツボに指先で皮膚操体している場合には、そこ
に影響を与えやすいような位置に手足を動かしてもらったり、
そのツボに効果が伝わるような動きや皮膚の操体を組み合わせ
ると、イイ感じが深くなりやすいです。

 今まで寝方別操体で書いてきたように、大腿や上腕の向きを
利用するわけです。

 そして、動きや皮膚の操体と組み合わせるときに、切っ掛け
のツボの上の皮膚が伸びる操体にするか、縮む操体にするかに
関しては、傾向があります。

 切っ掛けのツボの上の皮膚を、皮膚に平行にズラす張り方を
しているときには、そのツボの上の皮膚が伸びることに繋がる
動きや皮膚の操体を組み合わせる方が良い場合が多くなります。

 ツボの上の皮膚を沈方向に張っているときには、そのツボの
上の皮膚が縮むことに繋がる動きや皮膚の操体を組み合わせる
方が良い場合が多くなります。

 どちらも、ツボの上の皮膚の張り方を強調することになるか
らで、当たり前といえば当たり前ですが、今まで書いている人
が居ないようなので書いておきます。

 関連するツボの見付け方や、受け手に比較的評判の良い組み
合わせ方も、寝方別に紹介していくつもりです。

7.続け方と終わり方

 腹に息が深く入っていたり、イイ感じが続いているときには、
続けます。

 そういう感じでなくなったり、受け手が姿勢を大きく変えた
くなったりしたら、終わります。

 操者の側としては、受け手に触れている所が脈を打ったり、
温かくなってきたのも効果を上げている目安になりますし、そ
れらが落ち着いたり、変化が無くなったら、終わりにして良い
合図になります。

 まぁ、今まで書いてきた他の操体と同じですが、触れている
所が温かくなったり、脈を打ったりするのは、他の操体よりも
感じやすいことが多いようです。

8.おわりに

 私が「指先での皮膚の操体」を身に付けておいて良かったな
と思ったのは、脳性麻痺の次男の呼吸や運動機能の改善などに
役に立ったときでした。

 かすかな刺激なので、寝ている赤ちゃんや子供を起さずに可
能なので、重宝しました。

 イジメられて帰ってきて、寝ながらう魘(うな)されている
ときなど、添い寝しながら、手平中央の「労宮」や、胸骨中央
付近の「膻中」など、心を鎮めると古くから伝えられているツ
ボに指先での皮膚の操体をする(写真14)と、割りと直ぐに腹
の息が深くなり、魘されなくなったりしました。

写真14

 それ以外にも、添い寝しながら、当時硬かった背中、腰、鼡
径部などでツボを探し、指先や手平で、よく、皮膚操体してい
ました。

 ただ、臨床の場で大人の受け手を相手にしている場合には、
手平での皮膚操体の方が受け手にも理解されやすいし、効果を
出しやすいです。それで、細かいツボを使った方が効果が確実
に出やすいと言う感じが無ければ、余り使わないでも臨床上困
ることは少ないかもしれないと思います。

 しかし、上達すれば、鍼灸で使うツボに対して、鍼灸に近い
効果も上げられます。

 また、重さの操体と組み合わせると、慢性的で変化が望みに
くい疾患に思わぬ効果が上げられることがあります。

 言葉が通じない人を相手にした場合など、どうしたら良いか
分からなくなったときに、重さの操体と共に試してみる価値が
有ると思います。

 特に、赤ちゃんや子供、障碍の重い人、認知症の人などには
思わぬ効果が上がることがあります。

 また、これができるようになると、小児鍼や提鍼の効果が出
やすくなると思います。

 色々と試し、ヤジウマしてみてください。


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最終更新:2016年09月02日 06:49