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&color(green){術伝流一本鍼no.26 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(7))}
&bold(){&size(24){&color(green){下焦の急性期}}}
生理痛など月経前症候群
------
#contents
*(1)はじめに
今回は、下焦、つまり、臍より下の腹腔内に関係する内科系
症状の急性期の処置について、書いていきます。
生理痛など月経前症候群が代表例になります。
*(2)下焦の内科系急性症状(図1)
下焦に、歪み、邪毒、虚があると、そこから頭に向かって、
邪気が衝き上げます(上衝)。
&ref(dm-geshou.jpg)図1
下焦で症状が激しければ、表位、上焦、中焦の症状は少し軽
くなりますが、無くなるわけではないので、顔や頭を始め、肩
甲骨・鎖骨から上の表位や、上焦、中焦にも、熱や痛みなどの
色々な症状が少し出ていることが多いです。
特に、下焦が虚していて、虚火上逆で上衝が起きている場合
は、下焦の症状よりも、表位上焦の表情の方が自覚されやすく
なります。更年期障害のときが典型例です。
下焦の急性期の処置の基本は、表位などと同じく、下焦で動
いていたり、頭などにも上がっている邪気を少なくすること、
邪気を体の外に引き出すことです。
手足の末端に引くこと、下焦の背中側(陽位)に引くことな
どが、具体的手段になります。
手早い刺鍼が大切で、邪気の波が来終わった時点で抜鍼する
のがコツです。次の波が来てしまうと、また、上衝を引き起こ
し症状が復活することが多くなります。この辺りも、表位など
と同じです。
*(3)実技と手順
姿勢は、ラクな姿勢でよいと思います。
寝た姿勢で刺鍼した場合でも、後始末の頭の散鍼と手甲への
引き鍼は、普通、座位でします。その方が、後始末がしやすい
し、後始末の効果が上がりやすいからです。また、その方が、
症状の復活が少ないからです。この辺りは、 中焦と同じです。
もし、症状が酷くて寝たまま後始末し、良くなって起き上がっ
たときに症状が復活した場合は、座位で、表位や頭に散鍼して
から、手甲に引き鍼します。上衝が強いときには、座位で、先
に手甲に引き鍼してから、表位や頭に散鍼し、もう一度手甲な
どに引き鍼します。
手順は、中焦のときと、基本的に同じです。
1.診察
2.準備:上衝を治める
・手甲に引く
3.手足に引く
(1)手陰経に引く
(2)必要があれば、手陽経にも引く
(3)足陰経に引く
(4)足陽経に引く
4.陽に引く
(1)陽側の熱いところを散鍼
(2)陽側に出ているツボに引く
5.必要な処置を付け加える
6.後始末:上衝をおさめる
(1)頭の散鍼
(2)手甲に引く
途中で状況に応じて必要な処置を付け加えたりします。
**1.診察
先ずは、患者さんの話を、よく聞きます。先に書いたように、
生理痛など月経前症候群と、更年期障害が典型例です。それら
の随伴症状もよく聞きましょう。
顔の表情や、色艶、赤み、頭のハチマキをする辺りの温度差
などは、表位のときと同じように見ます。
下焦の場合には、それ以外に、必要があれば、下腹部や、腰
椎3番〜仙骨の辺りまでも見ます。
また、下焦の急性期にツボが出ることが多い手陰経の内関の
辺りや、足の厥陰経、少陽経なども触ってみます。
**2.準備:上衝を治める
表位のときと同じように、患者さんの訴える症状、頭のハチ
マキをする辺りの温度差、指の周囲の状態の3つから、手甲の
ツボを選びます。そのツボに刺鍼して、頭の方に衝き上げてい
る邪気を引き、体の外へ出します。
鍼を抜く方向に引きながら、横揺らし・旋捻・弾鍼などの手
技をして、邪気の波が来終わったときに抜鍼します。引き気味
にした鍼がスッと抜ける感じのときが抜き時のことが多いです。
**3.手足に引く
下焦のある下腹部で蠢(うごめ)いている邪気を、下焦と関
係が深いとされる足の厥陰経を使って引き出します。
また、そこから動いた邪気が胸を通り頭の方に衝き上げてい
るので、手厥陰にツボが出ていることも多いです。出ていれば、
そこも使います。
***(1)手陰経に引く
手の陰経の手首の近くのツボを使って、下焦から頭の方へ衝
き上げている邪気を抜き出します。
内関が多く、左右の内関を比較して、より凹みが大きく、嫌
な感じの強い方を選びます。内関にツボが出ていないときは、
もう少し肘よりのツボを使います。
症状が胸上部から上で激しいときには、列缺に出ていること
もあります。また、そういう場合に、列缺に出ないで、少し肘
よりのこともあります。
上焦のときと同じように、手早さも取り入れた徐刺徐抜で、
刺鍼します。特に、初心のうちは、早めに抜くように心掛けて
ください。
***(2)必要があれば、手足陽経にも引く
手の陰経に引いた後に、表位に上衝が復活した場合には、表
位と関係する手陽経に引いておきます。
***(3)足陰経に引く
下焦と関係の深い足陰経に出ているツボに引きます。下焦と
一番関係が深いと言われるのは、足厥陰ですが、他の足陰経に
出ていることも、あります。
急性症状は、手足末端に引きやすいので、足首から先を探す
ことが多いです。
〈&bold(){ツボ}〉
足首から先の、中封、照海、太衝など。それらを押して見て、
凹んで弾力がなく、嫌な感じの強い所を選びます。
それらに出ていなかったり、痛がられたりしたら、下腿の蠡
溝を使います。
〈&bold(){刺法}〉
基本的には、手陰経と同じです。手早さも取り入れた徐刺徐
抜で刺鍼し、早めに抜鍼するようにします。
***(4) 足陽経に引く
下焦と関係の深い足陽経に出ているツボに引きます。
下焦のツボは、昔は、小腹急結といって、下腹の左右どちら
かの半分の中央に出ることが多かったそうです。しかし、現在
では、臍の斜め下2,3cmの所と、腸骨の腹側で五枢〜維道の辺
りの2カ所に出ていることが多いです。
そのため、それに関係する足陽経のツボは、脛骨の直ぐ脇の
ラインと少陽経に多くなります。
〈&bold(){ツボ}〉
腹のツボが臍の近くなら、足甲2~3間の内庭など。内庭より
もう少し足首よりに出ていることもあります。そこらに出てい
なかったり、痛がられたりしたら、下腿の脛骨の直ぐ脇のライ
ンで、膝からの位置が豊隆の辺りで、ツボを探します。
腹のツボが五枢〜維道の近くなら、足甲4~5間の地五会、足
臨泣など。足甲3~4間のそれらと同位置に出ていることもあり
ます。または、下腿の足少陽のツボ。下腿でも、豊隆のライン
に出ていることもあります。
更年期障害など経過が長い場合には、大腿の腹近くの居髎に
出ていることもあります。このツボを使うなら、男性鍼灸師の
場合は、打鍼も選択肢になると思います。
〈&bold(){刺法}〉
手陽経と同じく、速刺徐抜で、手早く刺鍼します。
**4.陽に引く
下焦の邪毒に関係する背中側の熱い所があれば散鍼します。
その後に、その辺りに出ているツボに引き鍼します。
***(1) 陽側の熱い所に散鍼
下焦の背中側を触って、熱い所があれば、散鍼します。
表位や上焦よりも、確率的には少ないです。
***(2) 陽側に出ているツボに引く
下焦に関係する背中側に出ているツボを見付け、そこに引き
鍼します。
生理痛など月経前症候群の場合は、腰痛などの形で、背中側
にも症状が出ていることが多いです。
〈&bold(){ツボ}〉
下焦の背中側、腰椎3番から仙骨にかけての高さに多いです。
ただし、真裏とは限りません。
先ず、正中線を指を滑らせて、なんとなく凹んだり弾力の無
さそうな感じのする所を探します。そこから、同じ高さを横に
ズラして、背骨の直ぐ脇の華佗経、1行線、2行線と左右を比
べていき、なんとなく凹んだり弾力が無さそうなところを探し
ます。
仙骨の辺りは、仙骨孔や仙腸関節の周りを調べます。
下焦でも、多いのは、背骨の直ぐ脇の華佗経や、仙骨孔です。
また、腰椎部の脊柱起立筋の外側で、一番骨盤よりの腰徹腹に
ツボが出ていることも多いです。
しかし、中焦の場合と比較すると、1,2行線に出ていること
も多いように思います。
腰痛を伴うときは、環跳や殿部中央の辺りにも出ていること
が多いです。
〈&bold(){刺法}〉
陽経と同じように、速刺徐抜で刺鍼します。すばやく邪気を
捕らえ、押し手を引き気味にして、来ている邪気を引き出し尽
くすように刺鍼し、次の邪気が来る前に抜鍼します。
殿部は、居髎と同じく、打鍼でも良いです。
**5.必要な処置をつけくわえる
必要な処置があれば、適宜付け加えます。
***(1)下腿裏のツボ
腰殿部のツボに関係して、下腿裏にツボが出ていることがあ
ります。承山、飛揚〜外丘など。 速刺徐抜で刺鍼します。
***(2)表位上焦などの症状
もともと、表位上焦に症状が出ていて、それがここまでの治
療で収まらなかったり、ここまで治療してきた結果、表位に症
状が出てきたりしたら、素早く軽めに治療します。
先ず、熱い所があったら散鍼します。ツボが出ていたら、弾
入後に直ぐ抜く方向に引きながら、横揺らし・旋捻・弾鍼など
の手技をし、早めに抜鍼します。
**6.仕上げ
中焦と同じく、座位になってもらいます。
***(1) 頭の散鍼
頭の散鍼は、片手で頭を撫でて熱い所を探し、もう一方の手
で熱い所を散鍼します。
***(2) 手の甲に引き鍼
終わりに、再度、手甲に引き鍼をして仕上げます。手指、手
甲、八邪を調べ、一番悪そうな手甲のツボに刺鍼します。
初めと同じ指間になったり、手甲を痛がられたり、八邪の方
が違和感が強かったりしたら、八邪を使います。
*(4)器質性病変に注意
下焦の内科系急性期の処置でも、重い場合、特に器質性病変
の場合には、救急医療と連携する点は同じです。下焦の場合は、
子宮外妊娠などが該当するでしょうか?
例え鍼灸をして治まっても、数時間以内に痛み辛さが復活し
た場合には、器質性病変などを疑い、救急医療と連携してくだ
さい。
*(5)慢性期の養生
生理痛を始め、月経前症候群や更年期障害などは、経過が長
いことが多いので、先急つまり応急処置で症状が治まっても、
下焦の歪み、邪毒、虚を改善しないと、再発が多いです。
慢性期の養生をして、その辺りを改善させてもらいましょう。
筆者は、腹診を中心に、腹足背などの古いツボを改善するこ
とで、慢性期の養生をしています。腹診は、日本で、特に江戸
時代に発達した診察法だそうで、日本の伝統を残したいなと思
いますので。「先急の一本鍼」を終えたら始める予定の「養生
の一本鍼」で詳しく解説します。
*(6)術伝流打鍼術
殿部などに打鍼する場合に、筆者は、指位の太さの金属や石
で、長さ数センチの物を、打鍵器で叩いています。細い金属を
木槌で叩くよりも、患者さんの評判が良いです。当りが柔らか
なせいだと思います。
そして、初め高い音が低く鈍い音に変わったときを、止める
目安にしています。カチカチと過緊張していた筋肉が弛んで弾
力が出てくるので、高い音が低く鈍い音になるのではないかな
と思っています。
*(7)写真付き症例
生理前で、生理痛はまだ出ていないが、胸上部が張って辛い
という人(写真1)。
&ref(DSCF1404.jpg)写真1
上焦に症状が出ているが、原因が下焦にある例です。
比較すると左側の方が辛いということで、頭の左側や左手を
中心に調べました(写真2)。やはり、頭は、左側が熱かった
し、左手の手甲2~3間にツボが出ていました。出ていたツボに、
速刺徐抜で刺鍼しました(写真3)。
&ref(DSCF1405.jpg)写真2
&ref(DSCF1407.jpg)写真3
手陰経手首の辺りを調べたら、胸上部のせいか、両側の列缺
の辺りにツボが出ていました。痛みの強い左側から順に、刺鍼
しました(写真4,5)。
&ref(DSCF1409.jpg)写真4
&ref(DSCF1410.jpg)写真5
瞬きや腹の息も目安にしながら、早めの徐刺徐抜で刺鍼して
いきました。張っている場所を見ながら刺鍼していると、その
辺りが震えて弛む感じがしたので、それを機会に抜鍼しました。
この2つの刺鍼で、胸上部の張った感じは、すっきり治まっ
たとのことでした。
最近の月経前症候群の人には、蠡溝にツボが出ていることが
多いです。調べてみたら(写真6)、やはりツボが出ていまし
た。腹の息なども目安にして、早めの徐刺徐抜で刺鍼(写真7)。
&ref(DSCF1413.jpg)写真6
&ref(DSCF1414.jpg)写真7
足甲を調べたら、3~4間にツボが出ていたので、やはり腹の
息なども参考に、速刺徐抜で刺鍼(写真8)。
&ref(DSCF1417.jpg)写真8
昔の腰痛の名残か、上仙の辺りが生理になると痛むと言うの
で、調べたら左側にツボが出ていました(写真9)。念のため
腰徹腹も調べましたが(写真10)、出てませんでした。上仙
の左側に出ていたツボに刺鍼しました(写真11)。
&ref(DSCF1419.jpg)写真9
&ref(DSCF1420.jpg)写真10
&ref(DSCF1421.jpg)写真11
腰部に出ている関係から、下腿にもツボが出ていないか調べ
たら、承山の辺りに出ていました(写真12)。やはり、背中や
腰殿部の正中線の直ぐ近くにツボが出ているときは、下腿裏も
中心近くだなと思いました。そこに刺鍼(写真13)しました。
&ref(DSCF1422.jpg)写真12
&ref(DSCF1423.jpg)写真13
症状はすっかり治まったとのことなので、頭に散鍼し(写真
14)、手の八邪に引き鍼して(写真15)、仕上げました。
&ref(DSCF1425.jpg)写真14
&ref(DSCF1427.jpg)写真15
生理痛のときには、蠡溝に円皮鍼を貼るよう伝えました。
つぎへ>>>[[術伝流一本鍼no.27]]
-----
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-----
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-----
*お知らせとお願い
**術伝流鍼灸操体講座で患者さん役を募集
術伝流鍼灸操体講座は、実践面を重視しています。実際に症状が出て
いる方の治療を見たほうが勉強になります。そこで、講座で患者さん役
をしてくださる方を募集しています。
くわしくは、[[術伝流のモデル]]をみてください。
よろしくお願いします。
**感想など
感想などありましたら、術伝事務局までメールをください。
よろしくおねがいします。
術伝事務局メルアド :jutsuden-jmkkあまググどこ
(この行は無視してください。akwba、laemfro、thgosewibe)
(「あま」を「@」に、「ググ」を「googlegroups」に、)
(「どこ」を「.com」に変えて送信してください。 )
(面倒をおかけし申し訳ありません。迷惑メール対策です)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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&color(green){術伝流一本鍼no.26 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(7))}
&bold(){&size(24){&color(green){下焦の急性期}}}
生理痛など月経前症候群
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#contents
*(1)はじめに
今回は、下焦、つまり、臍より下の腹腔内に関係する内科系
症状の急性期の処置について、書いていきます。
生理痛など月経前症候群が代表例になります。
*(2)下焦の内科系急性症状(図1)
下焦に、歪み、邪毒、虚があると、そこから頭に向かって、
邪気が衝き上げます(上衝)。
&ref(dm-geshou.jpg)図1
下焦で症状が激しければ、表位、上焦、中焦の症状は少し軽
くなりますが、無くなるわけではないので、顔や頭を始め、肩
甲骨・鎖骨から上の表位や、上焦、中焦にも、熱や痛みなどの
色々な症状が少し出ていることが多いです。
特に、下焦が虚していて、虚火上逆で上衝が起きている場合
は、下焦の症状よりも、表位上焦の表情の方が自覚されやすく
なります。更年期障害のときが典型例です。
下焦の急性期の処置の基本は、表位などと同じく、下焦で動
いていたり、頭などにも上がっている邪気を少なくすること、
邪気を体の外に引き出すことです。
手足の末端に引くこと、下焦の背中側(陽位)に引くことな
どが、具体的手段になります。
手早い刺鍼が大切で、邪気の波が来終わった時点で抜鍼する
のがコツです。次の波が来てしまうと、また、上衝を引き起こ
し症状が復活することが多くなります。この辺りも、表位など
と同じです。
*(3)実技と手順
姿勢は、ラクな姿勢でよいと思います。
寝た姿勢で刺鍼した場合でも、後始末の頭の散鍼と手甲への
引き鍼は、普通、座位でします。その方が、後始末がしやすい
し、後始末の効果が上がりやすいからです。また、その方が、
症状の復活が少ないからです。この辺りは、 中焦と同じです。
もし、症状が酷くて寝たまま後始末し、良くなって起き上がっ
たときに症状が復活した場合は、座位で、表位や頭に散鍼して
から、手甲に引き鍼します。上衝が強いときには、座位で、先
に手甲に引き鍼してから、表位や頭に散鍼し、もう一度手甲な
どに引き鍼します。
手順は、中焦のときと、基本的に同じです。
1.診察
2.準備:上衝を治める
・手甲に引く
3.手足に引く
(1)手陰経に引く
(2)必要があれば、手陽経にも引く
(3)足陰経に引く
(4)足陽経に引く
4.陽に引く
(1)陽側の熱いところを散鍼
(2)陽側に出ているツボに引く
5.必要な処置を付け加える
6.後始末:上衝をおさめる
(1)頭の散鍼
(2)手甲に引く
途中で状況に応じて必要な処置を付け加えたりします。
**1.診察
先ずは、患者さんの話を、よく聞きます。先に書いたように、
生理痛など月経前症候群と、更年期障害が典型例です。それら
の随伴症状もよく聞きましょう。
顔の表情や、色艶、赤み、頭のハチマキをする辺りの温度差
などは、表位のときと同じように見ます。
下焦の場合には、それ以外に、必要があれば、下腹部や、腰
椎3番〜仙骨の辺りまでも見ます。
また、下焦の急性期にツボが出ることが多い手陰経の内関の
辺りや、足の厥陰経、少陽経なども触ってみます。
**2.準備:上衝を治める
表位のときと同じように、患者さんの訴える症状、頭のハチ
マキをする辺りの温度差、指の周囲の状態の3つから、手甲の
ツボを選びます。そのツボに刺鍼して、頭の方に衝き上げてい
る邪気を引き、体の外へ出します。
鍼を抜く方向に引きながら、横揺らし・旋捻・弾鍼などの手
技をして、邪気の波が来終わったときに抜鍼します。引き気味
にした鍼がスッと抜ける感じのときが抜き時のことが多いです。
**3.手足に引く
下焦のある下腹部で蠢(うごめ)いている邪気を、下焦と関
係が深いとされる足の厥陰経を使って引き出します。
また、そこから動いた邪気が胸を通り頭の方に衝き上げてい
るので、手厥陰にツボが出ていることも多いです。出ていれば、
そこも使います。
***(1)手陰経に引く
手の陰経の手首の近くのツボを使って、下焦から頭の方へ衝
き上げている邪気を抜き出します。
内関が多く、左右の内関を比較して、より凹みが大きく、嫌
な感じの強い方を選びます。内関にツボが出ていないときは、
もう少し肘よりのツボを使います。
症状が胸上部から上で激しいときには、列缺に出ていること
もあります。また、そういう場合に、列缺に出ないで、少し肘
よりのこともあります。
上焦のときと同じように、手早さも取り入れた徐刺徐抜で、
刺鍼します。特に、初心のうちは、早めに抜くように心掛けて
ください。
***(2)必要があれば、手陽経にも引く
手の陰経に引いた後に、表位に上衝が復活した場合には、表
位と関係する手陽経に引いておきます。
***(3)足陰経に引く
下焦と関係の深い足陰経に出ているツボに引きます。下焦と
一番関係が深いと言われるのは、足厥陰ですが、他の足陰経に
出ていることも、あります。
急性症状は、手足末端に引きやすいので、足首から先を探す
ことが多いです。
〈&bold(){ツボ}〉
足首から先の、中封、照海、太衝など。それらを押して見て、
凹んで弾力がなく、嫌な感じの強い所を選びます。
それらに出ていなかったり、痛がられたりしたら、下腿の蠡
溝を使います。
〈&bold(){刺法}〉
基本的には、手陰経と同じです。手早さも取り入れた徐刺徐
抜で刺鍼し、早めに抜鍼するようにします。
***(4) 足陽経に引く
下焦と関係の深い足陽経に出ているツボに引きます。
下焦のツボは、昔は、小腹急結といって、下腹の左右どちら
かの半分の中央に出ることが多かったそうです。しかし、現在
では、臍の斜め下2,3cmの所と、腸骨の腹側で五枢〜維道の辺
りの2カ所に出ていることが多いです。
そのため、それに関係する足陽経のツボは、脛骨の直ぐ脇の
ラインと少陽経に多くなります。
〈&bold(){ツボ}〉
腹のツボが臍の近くなら、足甲2~3間の内庭など。内庭より
もう少し足首よりに出ていることもあります。そこらに出てい
なかったり、痛がられたりしたら、下腿の脛骨の直ぐ脇のライ
ンで、膝からの位置が豊隆の辺りで、ツボを探します。
腹のツボが五枢〜維道の近くなら、足甲4~5間の地五会、足
臨泣など。足甲3~4間のそれらと同位置に出ていることもあり
ます。または、下腿の足少陽のツボ。下腿でも、豊隆のライン
に出ていることもあります。
更年期障害など経過が長い場合には、大腿の腹近くの居髎に
出ていることもあります。このツボを使うなら、男性鍼灸師の
場合は、打鍼も選択肢になると思います。
〈&bold(){刺法}〉
手陽経と同じく、速刺徐抜で、手早く刺鍼します。
**4.陽に引く
下焦の邪毒に関係する背中側の熱い所があれば散鍼します。
その後に、その辺りに出ているツボに引き鍼します。
***(1) 陽側の熱い所に散鍼
下焦の背中側を触って、熱い所があれば、散鍼します。
表位や上焦よりも、確率的には少ないです。
***(2) 陽側に出ているツボに引く
下焦に関係する背中側に出ているツボを見付け、そこに引き
鍼します。
生理痛など月経前症候群の場合は、腰痛などの形で、背中側
にも症状が出ていることが多いです。
〈&bold(){ツボ}〉
下焦の背中側、腰椎3番から仙骨にかけての高さに多いです。
ただし、真裏とは限りません。
先ず、正中線を指を滑らせて、なんとなく凹んだり弾力の無
さそうな感じのする所を探します。そこから、同じ高さを横に
ズラして、背骨の直ぐ脇の華佗経、1行線、2行線と左右を比
べていき、なんとなく凹んだり弾力が無さそうなところを探し
ます。
仙骨の辺りは、仙骨孔や仙腸関節の周りを調べます。
下焦でも、多いのは、背骨の直ぐ脇の華佗経や、仙骨孔です。
また、腰椎部の脊柱起立筋の外側で、一番骨盤よりの腰徹腹に
ツボが出ていることも多いです。
しかし、中焦の場合と比較すると、1,2行線に出ていること
も多いように思います。
腰痛を伴うときは、環跳や殿部中央の辺りにも出ていること
が多いです。
〈&bold(){刺法}〉
陽経と同じように、速刺徐抜で刺鍼します。すばやく邪気を
捕らえ、押し手を引き気味にして、来ている邪気を引き出し尽
くすように刺鍼し、次の邪気が来る前に抜鍼します。
殿部は、居髎と同じく、打鍼でも良いです。
**5.必要な処置をつけくわえる
必要な処置があれば、適宜付け加えます。
***(1)下腿裏のツボ
腰殿部のツボに関係して、下腿裏にツボが出ていることがあ
ります。承山、飛揚〜外丘など。 速刺徐抜で刺鍼します。
***(2)表位上焦などの症状
もともと、表位上焦に症状が出ていて、それがここまでの治
療で収まらなかったり、ここまで治療してきた結果、表位に症
状が出てきたりしたら、素早く軽めに治療します。
先ず、熱い所があったら散鍼します。ツボが出ていたら、弾
入後に直ぐ抜く方向に引きながら、横揺らし・旋捻・弾鍼など
の手技をし、早めに抜鍼します。
**6.仕上げ
中焦と同じく、座位になってもらいます。
***(1) 頭の散鍼
頭の散鍼は、片手で頭を撫でて熱い所を探し、もう一方の手
で熱い所を散鍼します。
***(2) 手の甲に引き鍼
終わりに、再度、手甲に引き鍼をして仕上げます。手指、手
甲、八邪を調べ、一番悪そうな手甲のツボに刺鍼します。
初めと同じ指間になったり、手甲を痛がられたり、八邪の方
が違和感が強かったりしたら、八邪を使います。
*(4)器質性病変に注意
下焦の内科系急性期の処置でも、重い場合、特に器質性病変
の場合には、救急医療と連携する点は同じです。下焦の場合は、
子宮外妊娠などが該当するでしょうか?
例え鍼灸をして治まっても、数時間以内に痛み辛さが復活し
た場合には、器質性病変などを疑い、救急医療と連携してくだ
さい。
*(5)慢性期の養生
生理痛を始め、月経前症候群や更年期障害などは、経過が長
いことが多いので、先急つまり応急処置で症状が治まっても、
下焦の歪み、邪毒、虚を改善しないと、再発が多いです。
慢性期の養生をして、その辺りを改善させてもらいましょう。
筆者は、腹診を中心に、腹足背などの古いツボを改善するこ
とで、慢性期の養生をしています。腹診は、日本で、特に江戸
時代に発達した診察法だそうで、日本の伝統を残したいなと思
いますので。「先急の一本鍼」を終えたら始める予定の「養生
の一本鍼」で詳しく解説します。
*(6)術伝流打鍼術
殿部などに打鍼する場合に、筆者は、指位の太さの金属や石
で、長さ数センチの物を、打鍵器で叩いています。細い金属を
木槌で叩くよりも、患者さんの評判が良いです。当りが柔らか
なせいだと思います。
そして、初め高い音が低く鈍い音に変わったときを、止める
目安にしています。カチカチと過緊張していた筋肉が弛んで弾
力が出てくるので、高い音が低く鈍い音になるのではないかな
と思っています。
*(7)写真付き症例
生理前で、生理痛はまだ出ていないが、胸上部が張って辛い
という人(写真1)。
&ref(DSCF1404.jpg)写真1
上焦に症状が出ているが、原因が下焦にある例です。
比較すると左側の方が辛いということで、頭の左側や左手を
中心に調べました(写真2)。やはり、頭は、左側が熱かった
し、左手の手甲2~3間にツボが出ていました。出ていたツボに、
速刺徐抜で刺鍼しました(写真3)。
&ref(DSCF1405.jpg)写真2
&ref(DSCF1407.jpg)写真3
手陰経手首の辺りを調べたら、胸上部のせいか、両側の列缺
の辺りにツボが出ていました。痛みの強い左側から順に、刺鍼
しました(写真4,5)。
&ref(DSCF1409.jpg)写真4
&ref(DSCF1410.jpg)写真5
瞬きや腹の息も目安にしながら、早めの徐刺徐抜で刺鍼して
いきました。張っている場所を見ながら刺鍼していると、その
辺りが震えて弛む感じがしたので、それを機会に抜鍼しました。
この2つの刺鍼で、胸上部の張った感じは、すっきり治まっ
たとのことでした。
最近の月経前症候群の人には、蠡溝にツボが出ていることが
多いです。調べてみたら(写真6)、やはりツボが出ていまし
た。腹の息なども目安にして、早めの徐刺徐抜で刺鍼(写真7)。
&ref(DSCF1413.jpg)写真6
&ref(DSCF1414.jpg)写真7
足甲を調べたら、3~4間にツボが出ていたので、やはり腹の
息なども参考に、速刺徐抜で刺鍼(写真8)。
&ref(DSCF1417.jpg)写真8
昔の腰痛の名残か、上仙の辺りが生理になると痛むと言うの
で、調べたら左側にツボが出ていました(写真9)。念のため
腰徹腹も調べましたが(写真10)、出てませんでした。上仙
の左側に出ていたツボに刺鍼しました(写真11)。
&ref(DSCF1419.jpg)写真9
&ref(DSCF1420.jpg)写真10
&ref(DSCF1421.jpg)写真11
腰部に出ている関係から、下腿にもツボが出ていないか調べ
たら、承山の辺りに出ていました(写真12)。やはり、背中や
腰殿部の正中線の直ぐ近くにツボが出ているときは、下腿裏も
中心近くだなと思いました。そこに刺鍼(写真13)しました。
&ref(DSCF1422.jpg)写真12
&ref(DSCF1423.jpg)写真13
症状はすっかり治まったとのことなので、頭に散鍼し(写真
14)、手の八邪に引き鍼して(写真15)、仕上げました。
&ref(DSCF1425.jpg)写真14
&ref(DSCF1427.jpg)写真15
生理痛のときには、蠡溝に円皮鍼を貼るよう伝えました。
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