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&color(green){術伝流一本鍼no.25 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(6))}
&bold(){&size(24){&color(green){中焦の急性期}}}
お腹が痛い、吐き気、胸焼け
------
#contents
*(1)はじめに
今回は、中焦、つまり、腹腔内の臍より上に関係する内科系
症状の急性期の処置について、書いていきます。
*(2)中焦の内科系急性症状
内科系の急性症状では、腹の邪毒・虚から頭に向かって邪気
が衝(つ)き上げる上衝が見られ、中焦に、歪み、邪毒がある
ときには、中焦で急性症状を引き起こします(図1)。
&ref(dm-chuushou.jpg)図1
そのため、表位や上焦の症状は少し軽くなりますが、無くな
るわけではないので、顔や頭を始め、肩甲骨・鎖骨から上の表
位や、胸の上焦にも、熱や痛みなどの色々な症状が少し出てい
ることが多いです。
中焦の急性期の処置の基本は、上焦などと同じく、体の中で
動いて症状を引き起こしている邪気を少なくすること、邪気を
体の外に引き出すことです。
手足の末端に引くこと、中焦の背中側(陽位)に引くことな
どが具体的手段になります。
手早い刺鍼が大切で、邪気の波が来終わった時点で抜鍼する
のがコツです。次の波が来てしまうと、また、上衝を引き起こ
し症状が復活することが多くなります。この辺りも、表位など
と同じです。
*(3)実技と手順
姿勢は、ラクな姿勢で良いと思います。
ただし、寝て刺鍼した場合でも、後始末の頭の散鍼と手甲へ
の引き鍼は、座位でします。この方が、後始末がしやすいし、
後始末の効果が上がりやすいからです。
後始末も寝てした場合に、後で起き上がったときに症状が復
活することがありますが、表位や上焦ほど、座位との差は少な
いです。表位や上焦の場合よりは、表位や上焦に来て蠢いてい
る邪気が少ないからだと思います。
もし、起き上がったときに症状が復活した場合は、座位で、
再度、手甲に引き鍼し、その後に、表位に散鍼してから手甲に
引き鍼します。
手順の基本は、上焦のときと、基本的には同じですが、足の
経絡も使うことが多くなります。中焦は、足の経絡と関係が深
いので。
1.診察
2.準備:上衝を治める
・手甲に引く
3.手足に引く
(1)手陰経に引く
(2)必要があれば、手陽経にも引く
(3)足陰経に引く
(4)足陽経に引く
4.陽に引く
(1)陽側の熱い所を散鍼
(2)陽側に出ているツボに引く
5.必要な処置を付け加える
6.後始末:上衝を治める
(1)頭の散鍼
(2)手甲に引く
途中で状況に応じて必要な処置を付け加えたりします。
**1.診察
先ずは、患者さんの話をよく聞きます。腹が痛い、特に胃腸
関係で腹が痛いことが、中焦の症状として、よく見られます。
吐き気や胸焼けも、胃腸の状態と関係が深いので、中焦の急性
期としても良いと思います。
顔の表情や、色艶、赤み、頭のハチマキをする辺りの温度差
などは、表位のときと同じように見ます。
中焦の場合には、それ以外に、胸下部から臍の周辺までと、
背中側の胸椎7辺りから腰椎3辺りまでも見ます。
また、中焦の急性期にツボが出ることが多い手陰経の内関の
周辺や、足の太陰経や陽明経も触ってみます。
**2.準備:上衝を治める
表位などのときと同じように、患者さんの訴える症状、頭の
ハチマキをする辺りの温度差、指の周辺の状態の3つから、手
甲のツボを選びます。そのツボに刺鍼して、頭に衝き上げてい
る邪気を引き出します。
繰り返しますが、以下2つがコツです。
(1) 鍼を抜く方向に引きながら横揺らし・旋捻・弾鍼などの手
技をする
(2)邪気の波が来終わったときに抜鍼する
〈&bold(){コツ}〉スッと抜ける感じのときが抜き時
少し引き気味にしていると、ある瞬間にスッと鍼が抜ける感
じがするときがあります。そのときが邪気の波が来終わったと
きのことが多いです。
ツボは、基本的には、ツボの表面に近い筋肉は、フニャフニャ
した過弛緩の状態で、ツボの底は、カチカチの過緊張の状態と
いう構造をしています(図2)。
&ref(tubo-no-katachi.jpg)図2
鍼をツボの底の過緊張の所まで入れ、そこの邪気を動かし引
き出していくと、邪気は、刺入時にはフニャフニャしていた部
分に動きます。
すると、その邪気の影響で、フニャフニャと過弛緩状態だっ
た筋肉が、一時的に、カチカチの過緊張状態になります。それ
で、抜く方向に引いても、鍼は抜けてこないわけです。
抜く方向に引きながら、横ゆらし・弾鍼・旋捻などの手技を
していると、邪気が、より外に、つまり、皮膚に近い方に抜け
て、過緊張して鍼先を噛んでいた筋肉が弛みます。そのときに
鍼が少しスッと抜ける感じになります。
そのときが、ちょうど邪気の波が来終わったときのことが多
いので、そのときに抜くようにすると、イイ感じになりやすい
わけです。
ただ、手甲のような部分でも、抜く方向に引いても、鍼先を
噛んで抜けてこないことが、1度だけではなく、2,3度あるこ
ともあります。そういうときは、また、抜く方向に引きながら、
横揺らしなどをします。
ただし、あまり注意深くやって遅くなるのは避けてください。
あくまで、早め早めを心掛けてください。また、念のため書い
ておきますが、邪気の動きや症状の変化も参考にしてください。
**3.手足に引く
上焦のときと同じように、中焦の急性期でも、手足に引くこ
とを省略することは、ありません。中焦の症状が出ているとい
うことは、中焦のある腹腔内部の臍から上に邪気が蠢(うごめ)
いているということです。
そこで、中焦と関係が深いとされる足の太陰経や陽明経を使
うわけです。また、こういう中焦の急性症状では、手厥陰の内
関にツボが出ていることが多く、出ていれば、そこも使います。
特に、吐き気や胸焼けのときは、出ていることが多いです。
***(1)手陰経に引く
手陰経の手首の近くのツボを使って、中焦から頭の方へ衝き
上げている邪気を抜き出します。
〈&bold(){ツボ}〉
先に書いたように、内関にツボが出ていることが多いです。
左右の内関を比較して、より凹みが大きく、イヤな感じの強
い方を選びます。内関にツボが出ていないときは、もう少し肘
よりのツボを使います。
〈&bold(){刺法}〉
上焦のときと同じように、手早さも取り入れた徐刺徐抜で刺
鍼します。特に、初心のうちは、早めに抜くように心がけてく
ださい。
邪気が分からない人は、患者さんの様子をよく観察し、患者
さんにも様子を伺いながら、症状が減ったら抜くようにしてく
ださい。
鍼がスッと抜けるように感じたときも目安の一つですが、押
し手を引き気味にしすぎて、中焦下焦から新たな邪気を呼び寄
せないよう注意してください。
抜くのが遅くて症状がぶり返したり、早すぎて症状が治まら
なかったりしたら、次回からは調節するようにしてください。
ただし、その場で刺し直すことは、できるだけ避けてくださ
い。ますます治まらないことになる可能性の方が高いからです。
先ずは、足に引いたり、背に引いたりして治めることにしましょ
う。
繰り返しになりますが、患者さんも一人一人違いますし、同
じ患者さんでも、時と場合によって違いますので、経験を積ん
で、適度な抜き時をつかんでいくようにしてください。
***(2)必要があれば、手陽経にも引く
手の陰経に引いた後に、表位に上衝が復活した場合には、表
位と関係する手陽経に引いておきます。
***(3)足陰経に引く
中焦と関係の深い足陰経に出ているツボに引きます。中焦と
一番関係が深いと言われるのは、足太陰ですが、他の足陰経に
出ていることも、結構多いです。
急性症状は、手足末端に引きやすいので、足首から先を探す
ことが多いです。
〈&bold(){ツボ}〉
足首の周辺の商丘、中封、照海などや、もう少し先の太衝、
公孫など。それらを押して見て、凹んで弾力がない感じの所や
違和感の強い所を選びます。
そこに出ていなかったり、痛がられたりしたら、下腿のツボ
を使います。蠡溝、漏谷、築賓など。
〈&bold(){刺法}〉
基本的には、手陰経と同じです。手早さも取り入れた徐刺除
伐で刺鍼し、早めに抜鍼するようにします。
***(4) 足陽経に引く
中焦と関係の深い足陽経に出ているツボに引きます。中焦と
一番関係が深いと言われるのは、足陽明ですが、少し横の足少
陽よりに出ていることもあります。
やはり、急性症状は、手足末端に引きやすいので、足首から
先を探すことが多いです。
〈&bold(){ツボ}〉
足甲の内庭、陥谷、解谿など。その隣の足甲3~4間の同じ位
の位置に出ていることもあります。そのあたりで、表面が凹ん
でいて、弾力がなく、奥が堅く、押してイヤな感じの強い所を
選びます。
それらに出ていなかったら、下腿のツボを使います。豊隆の
周辺で、脛骨の直ぐ脇から真横の少陽まで、筋肉の間の溝を探
します。
足陽経前側のツボの位置は、腹のツボの位置と相関関係が高
いです。腹のツボが中心線よりにあれば、脛骨すぐ脇に出る可
能性が高く、体の横側に近ければ足も横側に出やすいです。
「養生の一本鍼」のときに、くわしく解説します。
〈&bold(){刺法}〉
手陽経と同じく、速刺除抜で、抜く方向に引きながら、手早
く刺鍼します。
**4.陽に引く
中焦に出ている症状に関係する背中側の熱い所があれば散鍼
します。その後に、その辺りに出ているツボに引き鍼します。
***(1) 陽側の熱い所に散鍼
中焦に出ている症状に関係する背中側を触って、熱い所があ
れば散鍼します。
表位や上焦よりも確率的には少ないことが多くなります。急
性症状で、熱が出やすいのは、表位や上焦なので。
***(2) 陽側に出ているツボに引く
中焦に出ている症状に関係する背中側に出ているツボを見付
け、そこに引き鍼します。
〈&bold(){ツボ}〉
中焦の背中側に多いです。一番多いのは、症状の出ている所
と、立ち姿勢で同じ位の高さになる所です。
ただし、 真裏とは限らないので、「胃の六つ灸」として有名
な辺り、つまり、胸椎7番から11番の周辺を探します。また、
もう少し下の腰椎3辺りまでに出ていることもあります。
胸焼けや吐き気のときには、胸椎5~7位に出ていることも
あります。
先ず、正中線を指を滑らして、なんとなく凹んだり弾力の無さ
そうな感じのする所、背骨が出っ張ったり凹んだりした感じの所、
椎間が広かったり狭かったりする感じの所、ベタベタした感じが
する所を探します。
そこから、同じ高さを横にズラして、背骨の直ぐ脇の華佗経、
1行線、2行線と左右を比べていき、なんとなく凹んだり弾力
が無さそうな所、ベタついた感じの所を探します。
中焦で多いのは、背骨直ぐ脇の華佗経です。また、腰椎部の
脊柱起立筋の外側で、一番肋骨よりの痞根にツボが出ているこ
とも多いです。特に、腹の症状や痼りの左右差が大きいときに
は、痞根に出ていることが多くなります。
現代人は、歪みが大きいからか、兪穴のあるラインに出てい
る人は少ないです。もちろん、いないわけではありませんが。
〈&bold(){刺法}〉
陽経と同じように、速刺徐抜で刺鍼します。素早く邪気を捕
らえ、押し手を引き気味にして、来ている邪気を引き出し尽く
すように刺鍼し、次の邪気が来る前に抜鍼します。
**5.必要な処置を付け加える
必要な処置があれば、適宜、付け加えます。
***(1)下腿裏(下腿の背中側)のツボ
背中のツボに関係して、下腿裏にツボが出ていることがあり
ます。承山、飛揚、外丘など、その辺りで、表面が凹んでいて
弾力がなく、奥が堅く、押してイヤな感じの強い所を選びます。
腹と下腿前面陽経側の関係と同じように、背中と下腿後面陽
経側も、中心に近いもの同士、外寄りのもの同士が、関係して
いることが多いです。
仰向けで足陽経に刺鍼したときと同じように、速刺除抜で早
めに刺鍼します。
***(2)表位に症状が出たら
ここまで治療してくると、表位に症状が出てくることがあり
ます。その場合は、素早く軽めに治療します。熱い所に散鍼し、
ツボが出ていたら、速刺除抜で刺鍼します。
この場合は、特に浅目に、弾入したら、直ぐ抜く方向に引き
ながら、横揺らし・旋捻・弾鍼などの手技をし、早めに抜鍼し
ます。
**6.仕上げ:上衝を治める
表位の場合と同じです。座位になってもらいます。
***(1) 頭の散鍼
頭の散鍼は、片手で頭を撫でて熱い所を探し、もう一方の手
で熱い所を散鍼します。
***(2) 手の甲に引き鍼
終わりに、もう一度、手甲に引き鍼して仕上げます。手指、
手甲、八邪を調べ、一番悪そうな手甲のツボに刺鍼します。
初めと同じ指間になったら八邪を使います。
*(4)症例…食べ過ぎで調子が悪い
前々日に食べ過ぎて、腹の調子が悪く、食べられないので、
前日から食べていないという人。
頭を触ったら(写真1)、前頭部、特に左が熱く感じました。
&ref(DSCF2593.JPG)写真1
腹を診たら(写真2)、臍の左上が硬い状態でした(写真3)。
&ref(DSCF2595.JPG)写真2
&ref(DSCF2596.JPG)写真3
頭も腹も左でしたが、いつも同じとは限りません。上衝は、
比較すると、左に衝き上げることが多く、腹の右が硬くても、
頭は左ということもあります。
頭の熱さに応じて、左合谷を診たらツボが出ていたので、刺
鍼(写真4)。
&ref(DSCF2598.JPG)写真4
次は、中焦の急性症状のときにツボが出ていることが多い内
関を診たら、やはり左にツボが出ていた(写真5)ので、刺鍼。
&ref(DSCF2600.JPG)写真5
足の太陰はじめ陰経の足首から先を診ていったら、内踝前下
方(商丘)が凹んでいて、色も周りと違い、ここに鍼してくだ
さいという感じだったし、押して違和感もあったので、刺鍼。
(写真6)
&ref(DSCF2604.JPG)写真6
そして、足陽経を診ていったら、内庭のツボのイヤな感じが
強いということで、刺鍼(写真7)。
&ref(DSCF2606.JPG)写真7
ここまで終わった時点で、腹を診たら、奥にまだ痼りは残っ
ていたが、表面近い方の硬さは消えていました。
うつ伏せになってもらい、背中を調べていったら(写真8)、
左側の胸椎7〜11の華佗経と、痞根にツボが出ていました(写
真9)。現在の日本で腹の痛いときの背中のツボの出方の典型
例だなと思いました。
&ref(DSCF2610.JPG)写真8
&ref(DSCF2612.JPG)写真9
順に刺鍼しました。 華佗経は、少し背骨にの方に向けて刺
鍼します(写真10)。痞根は、横から畳に平行に刺鍼します
(写真11)。
&ref(DSCF2613.JPG)写真10
&ref(DSCF2614.JPG)写真11
背中のツボと関係する足裏を調べ、2カ所を比較して(写真
12)、違和感の強かった方に刺鍼しました(写真13)。
&ref(DSCF2619.JPG)写真12
&ref(DSCF2620.JPG)写真13
肩から肩甲間部を触ったら、既に、汗がうっすらと出ている
状態だったので、この辺りの散鍼は省略しました。
頭の熱い所に散鍼し(写真14)、手甲に引き鍼して仕上げま
した(写真15)。
&ref(DSCF2624.JPG)写真14
&ref(DSCF2626.JPG)写真15
腹の硬さが、より少なくなり、調子も良くなったようで、昼
には、しっかり弁当を食べていました。
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-----
*お知らせとお願い
**術伝流鍼灸操体講座で患者さん役を募集
術伝流鍼灸操体講座は、実践面を重視しています。実際に症状が出て
いる方の治療を見たほうが勉強になります。そこで、講座で患者さん役
をしてくださる方を募集しています。
くわしくは、[[術伝流のモデル]]をみてください。
よろしくお願いします。
**感想など
感想などありましたら、術伝事務局までメールをください。
よろしくおねがいします。
術伝事務局メルアド :jutsuden-jmkkあまググどこ
(この行は無視してください。akwba、laemfro、thgosewibe)
(「あま」を「@」に、「ググ」を「googlegroups」に、)
(「どこ」を「.com」に変えて送信してください。 )
(面倒をおかけし申し訳ありません。迷惑メール対策です)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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&color(green){術伝流一本鍼no.25 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(6))}
&bold(){&size(24){&color(green){中焦の急性期}}}
お腹が痛い、吐き気、胸焼け
------
#contents
*(1)はじめに
今回は、中焦、つまり、腹腔内の臍より上に関係する内科系
症状の急性期の処置について、書いていきます。
*(2)中焦の内科系急性症状
内科系の急性症状では、腹の邪毒・虚から頭に向かって邪気
が衝(つ)き上げる上衝が見られ、中焦に、歪み、邪毒がある
ときには、中焦で急性症状を引き起こします(図1)。
&ref(dm-chuushou.jpg)図1
そのため、表位や上焦の症状は少し軽くなりますが、無くな
るわけではないので、顔や頭を始め、肩甲骨・鎖骨から上の表
位や、胸の上焦にも、熱や痛みなどの色々な症状が少し出てい
ることが多いです。
中焦の急性期の処置の基本は、上焦などと同じく、体の中で
動いて症状を引き起こしている邪気を少なくすること、邪気を
体の外に引き出すことです。
手足の末端に引くこと、中焦の背中側(陽位)に引くことな
どが具体的手段になります。
手早い刺鍼が大切で、邪気の波が来終わった時点で抜鍼する
のがコツです。次の波が来てしまうと、また、上衝を引き起こ
し症状が復活することが多くなります。この辺りも、表位など
と同じです。
*(3)実技と手順
姿勢は、ラクな姿勢で良いと思います。
ただし、寝て刺鍼した場合でも、後始末の頭の散鍼と手甲へ
の引き鍼は、座位でします。この方が、後始末がしやすいし、
後始末の効果が上がりやすいからです。
後始末も寝てした場合に、後で起き上がったときに症状が復
活することがありますが、表位や上焦ほど、座位との差は少な
いです。表位や上焦の場合よりは、表位や上焦に来て蠢いてい
る邪気が少ないからだと思います。
もし、起き上がったときに症状が復活した場合は、座位で、
再度、手甲に引き鍼し、その後に、表位に散鍼してから手甲に
引き鍼します。
手順の基本は、上焦のときと、基本的には同じですが、足の
経絡も使うことが多くなります。中焦は、足の経絡と関係が深
いので。
1.診察
2.準備:上衝を治める
・手甲に引く
3.手足に引く
(1)手陰経に引く
(2)必要があれば、手陽経にも引く
(3)足陰経に引く
(4)足陽経に引く
4.陽に引く
(1)陽側の熱い所を散鍼
(2)陽側に出ているツボに引く
5.必要な処置を付け加える
6.後始末:上衝を治める
(1)頭の散鍼
(2)手甲に引く
途中で状況に応じて必要な処置を付け加えたりします。
**1.診察
先ずは、患者さんの話をよく聞きます。腹が痛い、特に胃腸
関係で腹が痛いことが、中焦の症状として、よく見られます。
吐き気や胸焼けも、胃腸の状態と関係が深いので、中焦の急性
期としても良いと思います。
顔の表情や、色艶、赤み、頭のハチマキをする辺りの温度差
などは、表位のときと同じように見ます。
中焦の場合には、それ以外に、胸下部から臍の周辺までと、
背中側の胸椎7辺りから腰椎3辺りまでも見ます。
また、中焦の急性期にツボが出ることが多い手陰経の内関の
周辺や、足の太陰経や陽明経も触ってみます。
**2.準備:上衝を治める
表位などのときと同じように、患者さんの訴える症状、頭の
ハチマキをする辺りの温度差、指の周辺の状態の3つから、手
甲のツボを選びます。そのツボに刺鍼して、頭に衝き上げてい
る邪気を引き出します。
繰り返しますが、以下2つがコツです。
(1) 鍼を抜く方向に引きながら横揺らし・旋捻・弾鍼などの手
技をする
(2)邪気の波が来終わったときに抜鍼する
〈&bold(){コツ}〉スッと抜ける感じのときが抜き時
少し引き気味にしていると、ある瞬間にスッと鍼が抜ける感
じがするときがあります。そのときが邪気の波が来終わったと
きのことが多いです。
ツボは、基本的には、ツボの表面に近い筋肉は、フニャフニャ
した過弛緩の状態で、ツボの底は、カチカチの過緊張の状態と
いう構造をしています(図2)。
&ref(tubo-no-katachi.jpg)図2
鍼をツボの底の過緊張の所まで入れ、そこの邪気を動かし引
き出していくと、邪気は、刺入時にはフニャフニャしていた部
分に動きます。
すると、その邪気の影響で、フニャフニャと過弛緩状態だっ
た筋肉が、一時的に、カチカチの過緊張状態になります。それ
で、抜く方向に引いても、鍼は抜けてこないわけです。
抜く方向に引きながら、横ゆらし・弾鍼・旋捻などの手技を
していると、邪気が、より外に、つまり、皮膚に近い方に抜け
て、過緊張して鍼先を噛んでいた筋肉が弛みます。そのときに
鍼が少しスッと抜ける感じになります。
そのときが、ちょうど邪気の波が来終わったときのことが多
いので、そのときに抜くようにすると、イイ感じになりやすい
わけです。
ただ、手甲のような部分でも、抜く方向に引いても、鍼先を
噛んで抜けてこないことが、1度だけではなく、2,3度あるこ
ともあります。そういうときは、また、抜く方向に引きながら、
横揺らしなどをします。
ただし、あまり注意深くやって遅くなるのは避けてください。
あくまで、早め早めを心掛けてください。また、念のため書い
ておきますが、邪気の動きや症状の変化も参考にしてください。
**3.手足に引く
上焦のときと同じように、中焦の急性期でも、手足に引くこ
とを省略することは、ありません。中焦の症状が出ているとい
うことは、中焦のある腹腔内部の臍から上に邪気が蠢(うごめ)
いているということです。
そこで、中焦と関係が深いとされる足の太陰経や陽明経を使
うわけです。また、こういう中焦の急性症状では、手厥陰の内
関にツボが出ていることが多く、出ていれば、そこも使います。
特に、吐き気や胸焼けのときは、出ていることが多いです。
***(1)手陰経に引く
手陰経の手首の近くのツボを使って、中焦から頭の方へ衝き
上げている邪気を抜き出します。
〈&bold(){ツボ}〉
先に書いたように、内関にツボが出ていることが多いです。
左右の内関を比較して、より凹みが大きく、イヤな感じの強
い方を選びます。内関にツボが出ていないときは、もう少し肘
よりのツボを使います。
〈&bold(){刺法}〉
上焦のときと同じように、手早さも取り入れた徐刺徐抜で刺
鍼します。特に、初心のうちは、早めに抜くように心がけてく
ださい。
邪気が分からない人は、患者さんの様子をよく観察し、患者
さんにも様子を伺いながら、症状が減ったら抜くようにしてく
ださい。
鍼がスッと抜けるように感じたときも目安の一つですが、押
し手を引き気味にしすぎて、中焦下焦から新たな邪気を呼び寄
せないよう注意してください。
抜くのが遅くて症状がぶり返したり、早すぎて症状が治まら
なかったりしたら、次回からは調節するようにしてください。
ただし、その場で刺し直すことは、できるだけ避けてくださ
い。ますます治まらないことになる可能性の方が高いからです。
先ずは、足に引いたり、背に引いたりして治めることにしましょ
う。
繰り返しになりますが、患者さんも一人一人違いますし、同
じ患者さんでも、時と場合によって違いますので、経験を積ん
で、適度な抜き時をつかんでいくようにしてください。
***(2)必要があれば、手陽経にも引く
手の陰経に引いた後に、表位に上衝が復活した場合には、表
位と関係する手陽経に引いておきます。
***(3)足陰経に引く
中焦と関係の深い足陰経に出ているツボに引きます。中焦と
一番関係が深いと言われるのは、足太陰ですが、他の足陰経に
出ていることも、結構多いです。
急性症状は、手足末端に引きやすいので、足首から先を探す
ことが多いです。
〈&bold(){ツボ}〉
足首の周辺の商丘、中封、照海などや、もう少し先の太衝、
公孫など。それらを押して見て、凹んで弾力がない感じの所や
違和感の強い所を選びます。
そこに出ていなかったり、痛がられたりしたら、下腿のツボ
を使います。蠡溝、漏谷、築賓など。
〈&bold(){刺法}〉
基本的には、手陰経と同じです。手早さも取り入れた徐刺除
伐で刺鍼し、早めに抜鍼するようにします。
***(4) 足陽経に引く
中焦と関係の深い足陽経に出ているツボに引きます。中焦と
一番関係が深いと言われるのは、足陽明ですが、少し横の足少
陽よりに出ていることもあります。
やはり、急性症状は、手足末端に引きやすいので、足首から
先を探すことが多いです。
〈&bold(){ツボ}〉
足甲の内庭、陥谷、解谿など。その隣の足甲3~4間の同じ位
の位置に出ていることもあります。そのあたりで、表面が凹ん
でいて、弾力がなく、奥が堅く、押してイヤな感じの強い所を
選びます。
それらに出ていなかったら、下腿のツボを使います。豊隆の
周辺で、脛骨の直ぐ脇から真横の少陽まで、筋肉の間の溝を探
します。
足陽経前側のツボの位置は、腹のツボの位置と相関関係が高
いです。腹のツボが中心線よりにあれば、脛骨すぐ脇に出る可
能性が高く、体の横側に近ければ足も横側に出やすいです。
「養生の一本鍼」のときに、くわしく解説します。
〈&bold(){刺法}〉
手陽経と同じく、速刺除抜で、抜く方向に引きながら、手早
く刺鍼します。
**4.陽に引く
中焦に出ている症状に関係する背中側の熱い所があれば散鍼
します。その後に、その辺りに出ているツボに引き鍼します。
***(1) 陽側の熱い所に散鍼
中焦に出ている症状に関係する背中側を触って、熱い所があ
れば散鍼します。
表位や上焦よりも確率的には少ないことが多くなります。急
性症状で、熱が出やすいのは、表位や上焦なので。
***(2) 陽側に出ているツボに引く
中焦に出ている症状に関係する背中側に出ているツボを見付
け、そこに引き鍼します。
〈&bold(){ツボ}〉
中焦の背中側に多いです。一番多いのは、症状の出ている所
と、立ち姿勢で同じ位の高さになる所です。
ただし、 真裏とは限らないので、「胃の六つ灸」として有名
な辺り、つまり、胸椎7番から11番の周辺を探します。また、
もう少し下の腰椎3辺りまでに出ていることもあります。
胸焼けや吐き気のときには、胸椎5~7位に出ていることも
あります。
先ず、正中線を指を滑らして、なんとなく凹んだり弾力の無さ
そうな感じのする所、背骨が出っ張ったり凹んだりした感じの所、
椎間が広かったり狭かったりする感じの所、ベタベタした感じが
する所を探します。
そこから、同じ高さを横にズラして、背骨の直ぐ脇の華佗経、
1行線、2行線と左右を比べていき、なんとなく凹んだり弾力
が無さそうな所、ベタついた感じの所を探します。
中焦で多いのは、背骨直ぐ脇の華佗経です。また、腰椎部の
脊柱起立筋の外側で、一番肋骨よりの痞根にツボが出ているこ
とも多いです。特に、腹の症状や痼りの左右差が大きいときに
は、痞根に出ていることが多くなります。
現代人は、歪みが大きいからか、兪穴のあるラインに出てい
る人は少ないです。もちろん、いないわけではありませんが。
〈&bold(){刺法}〉
陽経と同じように、速刺徐抜で刺鍼します。素早く邪気を捕
らえ、押し手を引き気味にして、来ている邪気を引き出し尽く
すように刺鍼し、次の邪気が来る前に抜鍼します。
**5.必要な処置を付け加える
必要な処置があれば、適宜、付け加えます。
***(1)下腿裏(下腿の背中側)のツボ
背中のツボに関係して、下腿裏にツボが出ていることがあり
ます。承山、飛揚、外丘など、その辺りで、表面が凹んでいて
弾力がなく、奥が堅く、押してイヤな感じの強い所を選びます。
腹と下腿前面陽経側の関係と同じように、背中と下腿後面陽
経側も、中心に近いもの同士、外寄りのもの同士が、関係して
いることが多いです。
仰向けで足陽経に刺鍼したときと同じように、速刺除抜で早
めに刺鍼します。
***(2)表位に症状が出たら
ここまで治療してくると、表位に症状が出てくることがあり
ます。その場合は、素早く軽めに治療します。熱い所に散鍼し、
ツボが出ていたら、速刺除抜で刺鍼します。
この場合は、特に浅目に、弾入したら、直ぐ抜く方向に引き
ながら、横揺らし・旋捻・弾鍼などの手技をし、早めに抜鍼し
ます。
**6.仕上げ:上衝を治める
表位の場合と同じです。座位になってもらいます。
***(1) 頭の散鍼
頭の散鍼は、片手で頭を撫でて熱い所を探し、もう一方の手
で熱い所を散鍼します。
***(2) 手の甲に引き鍼
終わりに、もう一度、手甲に引き鍼して仕上げます。手指、
手甲、八邪を調べ、一番悪そうな手甲のツボに刺鍼します。
初めと同じ指間になったら八邪を使います。
*(4)症例…食べ過ぎで調子が悪い
前々日に食べ過ぎて、腹の調子が悪く、食べられないので、
前日から食べていないという人。
頭を触ったら(写真1)、前頭部、特に左が熱く感じました。
&ref(DSCF2593.jpg)写真1
腹を診たら(写真2)、臍の左上が硬い状態でした(写真3)。
&ref(DSCF2595.jpg)写真2
&ref(DSCF2596.jpg)写真3
頭も腹も左でしたが、いつも同じとは限りません。上衝は、
比較すると、左に衝き上げることが多く、腹の右が硬くても、
頭は左ということもあります。
頭の熱さに応じて、左合谷を診たらツボが出ていたので、刺
鍼(写真4)。
&ref(DSCF2598.jpg)写真4
次は、中焦の急性症状のときにツボが出ていることが多い内
関を診たら、やはり左にツボが出ていた(写真5)ので、刺鍼。
&ref(DSCF2600.jpg)写真5
足の太陰はじめ陰経の足首から先を診ていったら、内踝前下
方(商丘)が凹んでいて、色も周りと違い、ここに鍼してくだ
さいという感じだったし、押して違和感もあったので、刺鍼。
(写真6)
&ref(DSCF2604.jpg)写真6
そして、足陽経を診ていったら、内庭のツボのイヤな感じが
強いということで、刺鍼(写真7)。
&ref(DSCF2606.jpg)写真7
ここまで終わった時点で、腹を診たら、奥にまだ痼りは残っ
ていたが、表面近い方の硬さは消えていました。
うつ伏せになってもらい、背中を調べていったら(写真8)、
左側の胸椎7〜11の華佗経と、痞根にツボが出ていました(写
真9)。現在の日本で腹の痛いときの背中のツボの出方の典型
例だなと思いました。
&ref(DSCF2610.jpg)写真8
&ref(DSCF2612.jpg)写真9
順に刺鍼しました。 華佗経は、少し背骨にの方に向けて刺
鍼します(写真10)。痞根は、横から畳に平行に刺鍼します
(写真11)。
&ref(DSCF2613.jpg)写真10
&ref(DSCF2614.jpg)写真11
背中のツボと関係する足裏を調べ、2カ所を比較して(写真
12)、違和感の強かった方に刺鍼しました(写真13)。
&ref(DSCF2619.jpg)写真12
&ref(DSCF2620.jpg)写真13
肩から肩甲間部を触ったら、既に、汗がうっすらと出ている
状態だったので、この辺りの散鍼は省略しました。
頭の熱い所に散鍼し(写真14)、手甲に引き鍼して仕上げま
した(写真15)。
&ref(DSCF2624.jpg)写真14
&ref(DSCF2626.jpg)写真15
腹の硬さが、より少なくなり、調子も良くなったようで、昼
には、しっかり弁当を食べていました。
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