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&color(green){術伝流一本鍼no.24 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(5))}
&bold(){&size(24){&color(green){上焦の急性期}}}
カゼなど
------
#contents
*(1)はじめに
先回まで、内科系でも表位の急性期を説明してきました。今
回は、上焦です。
繰り返しますが、内科系を鍼灸で治療していく場合には、漢
方に近い見方、つまり、体を立ち姿勢で横輪切りに、以下の4
つに分けた方が理解しやすいと思います。
1.表位:肩甲骨・鎖骨から上(特に表面)
2.上焦:1.の下で横隔膜より上
3.中焦:2.の下で臍より上
4.下焦:3.の下側の胴体部分
つまり、今回は、胴体の内側で横隔膜より上、解剖学的には、
胸腔内部に関係する内科系症状の急性期の処置について書いて
いきます。
*(2)上焦の内科系急性症状
内科系の急性症状は、病を未病と発作に分けた場合には、発
作に分類される現象で、腹の邪毒や虚から頭に向かって邪気が
衝(つ)き上げる上衝が見られます。
上焦に、歪み、邪毒があるときには、上焦で急性症状を引き
起こします(図1)。
&ref(dm-joushou.jpg)図1
そのため、表位の症状は少し軽くなりますが、無くなるわけ
では無いので、顔や頭を始め、肩甲骨・鎖骨から上の表位にも、
熱や痛みなど色々な症状が出ていることが多いです。
上焦の急性期の処置の基本は、表位などと同じく、既に頭に
上がっている邪気を少なくすること、邪気を体の外に引き出す
ことです。
手足の末端に引くこと、上焦の背中側(陽位)に引くことな
どが具体的手段になります。
手早い刺鍼が大切で、邪気の波が来終わった時点で抜鍼する
のがコツです。次の波が来てしまうと、また、上衝を引き起こ
し、症状が復活することが多くなります。この辺りも、表位と
同じです。
*(3)実技と手順
姿勢は、基本的には、座位が望ましいです。寝て刺鍼した場
合には、刺鍼した後で起き上がったときに症状が復活しやすい
からです。
ただし、座位が無理なときは仕方がありません。寝て刺鍼し、
治療後には、そのまま寝た姿勢で休んでもらいます。
良くなって起き上がったときに症状が復活した場合は、座位
で、再度、手甲に引き鍼し、その後で表位に散鍼してから手甲
に引き鍼します。
手順の基本は、表位のときと同じですが、手足に引いたり、
陽に引いたりを省略しないことが多くなります。
1.診察
2.準備:上衝を治める
(1)手甲(手指)に引く
3.手足に引く
(1)手足陰経に引く
(2)必要があれば、陽経にも引く
4.陽に引く
(1)陽側の熱い所を散鍼
(2)陽側に出ているツボに引く
5.必要な処置を付け加える
6.後始末:上衝を治める
(1)頭の散鍼
(2)手甲に引く
途中で状況に応じて必要な処置を付け加えたりします。
**1.診察
先ずは、患者さんの話をよく聞きます。カゼ、喉の痛み、咳、
不整脈、吐き気、胸周辺の痛みや辛さなどが、上焦の症状とし
て、よく見られます。
顔の表情や、色艶、赤み、頭のハチマキをする辺りの温度差
などは、表位のときと同じように見ます。
上焦の場合には、それ以外に、喉周辺から胸の上部と、背中
側の大椎から肩甲間部が赤くなっていないか、熱が出ていない
かなどを見ます。
大椎から肩甲間部は、手平を差し入れて、汗が出ていないか
も観察します(写真1)。
&ref(DSCF1702.jpg)写真1
また、上焦の急性期にツボが出ることが多い列缺の周辺も触っ
てみます。
不整脈の場合は、左(心臓のある側)の肩甲骨下角の周辺と、
陰郄の近くにツボが出ていないかも見ます。
**2.準備:上衝を治める
表位のときと同じように、患者さんの訴える症状、頭のハチ
マキをする辺りの温度差、指周辺の状態の3つから、手甲のツ
ボを選びます。表位に衝き上げている邪気を抜き尽くすことを
目指して、 そのツボに刺鍼します。
繰り返しますが、以下2つがコツです。
(1) 鍼を抜く方向に引きながら横揺らし・旋捻・弾鍼などの手
技をする
(2) 邪気の波が来終わったときに抜鍼する
**3.手足に引く
表位のときと違って、上焦の急性期では、手足に引くことを
省略することは、ありません。
上焦の症状が出ているということは、上焦のある胸腔内部に
邪気が蠢(うごめ)いているということです。また、手の陰経
は、肺経、心包経、心経という別名で呼ばれ、胸腔内部と関係
が深いことが知られています。そのため、上焦の邪気は、手の
陰経に引きやすく、効果が出やすくなります。
***(1)手足陰経に引く
手陰経の手首の近くのツボを使って、上焦、つまり、胸腔内
部で蠢いている邪気を抜き出します。
〈&bold(){ツボ}〉
カゼなど咽から胸上部が関係しているときには、列缺にツボ
を使うことが多いです。
急性症状は、できるだけ手足末端を使った方が効果的なので
すが、手平や指は痛覚が発達しているので痛がられることが多
く、手首近くのツボを使います。
左右の列缺を比較して、より凹みが大きく、イヤな感じの強
い方を選びます。列缺にツボが出ていないときは、もう少し肘
よりのツボを使います。
不整脈の場合は、左(心臓のある側)の陰郄の辺りに出てい
るツボを使います。
吐き気のときには、内関にツボが出ていることが多いです。
〈&bold(){刺法}〉
陰経の刺鍼は、普通は徐刺徐抜でします。静かにゆっくり刺
していき、邪気を誘い、邪気を感じたら深さを変えず、横揺ら
し、撚鍼などの手技をして、邪気の波が来終わったら、ゆっく
り抜きます。
ただし、表位の急性症状の場合は、陰経にも既に邪気が来て
いる場合が多く、陰経への刺鍼でも手早い刺鍼を心掛ける必要
があります。特に、抜き時が難しいので、初心のうちは、早め
に抜くように心掛けてください。
陽経のような速刺徐抜に近い感じも入れて刺鍼する必要があ
るということです。
邪気が分からない方は、患者さんの様子をよく観察し、患者
さんにも様子を伺いながら、症状が減ったら抜くようにしてく
ださい。
しかし、陽経、例えば、合谷への刺鍼のように、押し手を引
き気味にすることは少なめになります。余り、引き気味にしす
ぎると、中焦下焦から新たな邪気を呼び寄せることに繋がりや
すいからです。
抜くのが遅くて症状が再発したり、早すぎて症状が治まらな
かったりしたら、調節するようにしてください。一人一人個性
があって判断の仕方も違いますし、患者さんも一人一人違いま
すし、同じ患者さんでも、時と場合によって違います。
経験を積んで、適度な抜き時を掴(つか)んでいくようにし
てください。
〈&bold(){稽古}〉
できれば、実際に臨床の場に出る前に、二人組での練習を沢
山重ね、コツを掴んでください。
練習のときにも、色々なタイプの方と練習できると、上達が
早いです。特に、体の中の邪気の動きが分かる敏感な方と組ん
だときには、言ってもらい、それに合わせて刺せるよう稽古し
ます。そうすると、邪気を心で意識できなくても、指が邪気に
合わせて動くようになります。
また、筋痛症の患者さんには、邪気の動きが分かる方が多い
ので、そういう方を治療させてもらうときにも、言ってもらい
合わせるよう努めましょう。
***(2)必要があれば、手足陽経に引く
手の陰経に引いた後で、表位に上衝が復活した場合には、手
陽経に引いておきます。
手の陽経は、馬王堆医経の頃は、歯脈、耳脈、肩脈と呼ばれ
たように、表位と関係が深いので。
**4.陽に引く
上焦に出ている症状に関係する背中側の熱い所があれば散鍼
します。その後に、その辺りに出ているツボに引き鍼します。
***(1) 陽側の熱い所に散鍼
上焦に出ている症状に関係する背中側を触って、熱い所が有
れば散鍼します。上焦や表位の背中側が多いです。
***(2) 陽側に出ているツボに引く
上焦に出ている症状に関係する背中側に出ているツボを見付
け、そこに引き鍼します。
〈&bold(){ツボ}〉
上焦の背中側に多いです。上焦に症状が出ているので、その
背中側を探すわけです。
一番多いのは、症状の出ている所と、立ち姿勢で同じ位の高
さになる所です。デルマトームも関係しているかもしれません。
ただ、真裏とは限らないので、上下10cm位ずつ、20cm位の
幅で探します。
先ず、正中線を指を滑らして変だなと思う所を探します。な
んとなく凹んだり弾力の無さそうな感じのする所、背骨が出っ
張ったり凹んだりする感じの所、椎間が広かったり狭かったり
する感じの所、素肌ならベタベタした感じがする所などが候補
です。
そこから、同じ高さを横にズラして、背骨の直ぐ脇の華佗経、
1行線、2行線と左右を比べていきます。なんとなく凹んだり
弾力が無さそうな所、素肌ならベタついた感じの所を探します。
上焦で多いのは、背骨直ぐ脇の華佗経、肩甲骨の内側、肩甲
骨の外側などです。
カゼなどの場合は、大椎の辺りから肩甲間部の、特に背骨の
直ぐ脇(華佗経)などが多いです。
不整脈の場合は、左(心臓のある側)の肩甲骨下角の辺りが
多いです。
〈&bold(){刺法}〉
合谷など陽経と同じように、速刺徐抜で刺鍼します。素早く
邪気を捕らえ、押し手を引き気味にして、来ている邪気を引き
出し尽くすように刺鍼し、次の邪気が来る前に抜鍼します。
とは言っても、これも、患者さん一人一人、同じ患者さんで
も状態によって違いますので、沢山練習して、そのときの患者
さんの体の状態にピッタリあった刺鍼ができるようになってく
ださい。
**5.必要な処置を付け加える
必要な処置があれば、適宜付け加えます。
***(1) カゼなど
背中側だけでなく、首の前側、鎖骨の周り、胸上部も熱くなっ
ていて、ツボが出ていることも多いです。熱い所が有れば散鍼
し、出ているツボに刺鍼します。
ツボは、膻中の高さの胸骨の直ぐ脇の肋間、その上の肋間で
少し外寄り、そのまた上の肋間でまた少し外寄り、というふう
に、肋骨1本上がることに外寄りに出ていて、終わりは、中府〜
雲門の辺りに出ていることが多いです。
弾入したら、直ぐ抜く方向に引きながら、横揺らし・旋捻・
弾鍼などの手技をし、早めに抜鍼します。下が胸腔なので、深
く刺さないために、こういう刺鍼をします。そして、こういう
刺鍼で十分効果が出ます。
なお、喉の痛みが有る場合には、土踏まずの然谷あたりに、
ツボが出ている(ピーナッツ位の痼りが有る)ことが多く、そ
の場合には、灸で、その痼りを改善できると、解消します。
喉の痛い場合に、痛い場所は、体の内側では背中に近い側で
すね。ですから、体の内側(陰)で背中側(後ろ)で、足少陰
なのかなと思います。
深谷灸法で、扁桃炎に「陰白」や「足大指内側横紋頭(足親
指の内側の節紋」を使うのも、ほぼ同じ狙いと思います。
***(2) 中下焦の邪毒が原因の場合
中下焦の邪毒が原因の場合には、中下焦の背中側にツボが出
ていることが多いので、そこと経絡的に関係する足裏陽経にも
ツボが出やすくなります。
ツボが出ていたら、速刺除抜で刺鍼します。
この辺りは、中下焦のときに、詳しく書きます。
**6.仕上げ
表位の場合と同じです。
***(1) 頭の散鍼
頭の散鍼は、片手で頭を撫でて熱い所を探し、もう一方の手
で熱い所を散鍼をします。
***(2) 手甲に引き鍼
終わりに、もう一度、手甲に引き鍼して仕上げます。手指、
手甲、八邪を調べ、一番悪そうなラインの手甲のツボに刺鍼し
ます。
初めと同じ指間になったら、八邪を使います。
*(4)写真付き症例
カゼの初期か咽がイガイガすると言う人。
頭を調べたら左側、特に、左額が熱くなっていました(写真
2)。
&ref(DSCF1701.jpg)写真2
念のため、左右の合谷を比べてみたら、やはり左の方にツボ
が出ていた(写真3)ので、左合谷に引き鍼しました(写真4)。
&ref(DSCF1703.jpg)写真3
&ref(DSCF1705.jpg)写真4
そして、左列缺に出ていたツボにノドの症状を引いてみまし
た(写真5)。そしたら、少し治まったとのことでした。
&ref(DSCF1706.jpg)写真5
その後に、陽にも引こうと大椎の周りを見たら、やはり左側
の凝りが酷かったので、刺鍼しました(写真6)。
&ref(DSCF1710.jpg)写真6
上から胸椎を調べていったら、左胸椎3辺りの華侘経に虚し
たツボが見付かったので、刺鍼したら、大量の邪気が出てきま
した(写真7)。そしたら、すっきりしたとのこと。
&ref(DSCF1713.jpg)写真7
首の前側~鎖骨の周辺~胸上部を触ってみたら(写真8)熱
かったので、その辺りを散鍼したら(写真9)、左側のみ発赤
しました。
&ref(DSCF1714.jpg)写真8
&ref(DSCF1715.jpg)写真9
頭散鍼(写真10)、手甲引き鍼(写真11)で仕上げました。
&ref(DSCF1716.jpg)写真10
&ref(DSCF1718.jpg)写真11
次の日に「列缺・身柱が特に効きました。また、響く感じと
共に、咽喉の奥が活発になっているように感じました」とのメー
ルが来ました。でも実際に鍼したのは、身柱横の華侘経でした。
まさに、上焦と関係する手陰経とその背中側に出ていたツボ
に引くことが有効だった例だなと思い、「手足に引く」、「陽
に引く」の太切さを改めて感じました。
*(5)補足
邪気については、江戸時代の鍼文献にも、以下のように書か
れています。
>「鍼は万病一邪とこころえべし、
> 何れの病にても、
> 我が手のうちの術さへいたれば、
> 一兪をさしていゆべし」
(葦原検校著『鍼道発秘』)
鍼で病いを治療するときは、万病は全て邪気によるものと考
え、手のうちの術を尽くし癒すということかなと思いました。
>「蓋し鍼は邪気をしりぞくるものなり、
> 邪気さへしりぞくときは自ら正気は盛んになる理なり」
(本郷正豊著『鍼灸重宝記』)
※蓋し:次に述べる判断は十中八九まちがいがないだろうとい
う主体の見込みを表す(『新明解国語辞典』第2版)
鍼というのは、患者さんの体から、特に患部から、邪気を退
けるもの、そして、邪気を体から退ければ、体の正気は、自然
に盛んになり、元気になるということかなと思いました。
そして、前にも引用したと思いますが、以下もあります。
>「鍼刺の要は、至気を持って、有効の時と為す。・・・
> 邪気の至るや緊にして疾く、穀気の至るや徐にして和す」
(『杉山真伝流』「皆伝之巻・鍼法撮要」)
みな同じ内容のように思います。江戸時代には、鍼と邪気が
深い関係にあるとされていたようです。
そして、それは、私自身が患者さんに鍼しているときの実感
とも合っています。ただ、まだ十分ではありません。
患者さんの体に蠢く邪気を感じとる勘を養い、その邪気を体
から退ける術を手のうちにできる、つまり、そういう腕を身に
付けることを目指したいなと思いました。
この邪気の実態が何なのかについては、今後の研究を待ちた
いと思います。私は、今のところ、明治国際医療大学の伊藤和
憲先生の研究された「TPの異常活動電位」との関係が深いよ
うに思っています。
つぎへ>>>[[術伝流一本鍼no.25]]
-----
>>>目次へ・・・・・・・・・[[術伝流一本鍼(あ)]]
>>>このページのトップヘ・・[[術伝流一本鍼no.24]]
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術伝HP内検索:上の@wikiメニューの「wiki内検索」
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------
*お知らせとお願い
**術伝流鍼灸操体講座で患者さん役を募集
術伝流鍼灸操体講座は、実践面を重視しています。実際に症状が出て
いる方の治療を見たほうが勉強になります。そこで、講座で患者さん役
をしてくださる方を募集しています。
くわしくは、[[術伝流のモデル]]をみてください。
よろしくお願いします。
**感想など
感想などありましたら、術伝事務局までメールをください。
よろしくおねがいします。
術伝事務局メルアド :jutsuden-jmkkあまググどこ
(この行は無視してください。akwba、laemfro、thgosewibe)
(「あま」を「@」に、「ググ」を「googlegroups」に、)
(「どこ」を「.com」に変えて送信してください。 )
(面倒をおかけし申し訳ありません。迷惑メール対策です)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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&color(green){術伝流一本鍼no.24 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(5))}
&bold(){&size(24){&color(green){上焦の急性期}}}
カゼなど
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#contents
*(1)はじめに
先回まで、内科系でも表位の急性期を説明してきました。今
回は、上焦です。
繰り返しますが、内科系を鍼灸で治療していく場合には、漢
方に近い見方、つまり、体を立ち姿勢で横輪切りに、以下の4
つに分けた方が理解しやすいと思います。
1.表位:肩甲骨・鎖骨から上(特に表面)
2.上焦:1.の下で横隔膜より上
3.中焦:2.の下で臍より上
4.下焦:3.の下側の胴体部分
つまり、今回は、胴体の内側で横隔膜より上、解剖学的には、
胸腔内部に関係する内科系症状の急性期の処置について書いて
いきます。
*(2)上焦の内科系急性症状
内科系の急性症状は、病を未病と発作に分けた場合には、発
作に分類される現象で、腹の邪毒や虚から頭に向かって邪気が
衝(つ)き上げる上衝が見られます。
上焦に、歪み、邪毒があるときには、上焦で急性症状を引き
起こします(図1)。
&ref(dm-joushou.jpg)図1
そのため、表位の症状は少し軽くなりますが、無くなるわけ
では無いので、顔や頭を始め、肩甲骨・鎖骨から上の表位にも、
熱や痛みなど色々な症状が出ていることが多いです。
上焦の急性期の処置の基本は、表位などと同じく、既に頭に
上がっている邪気を少なくすること、邪気を体の外に引き出す
ことです。
手足の末端に引くこと、上焦の背中側(陽位)に引くことな
どが具体的手段になります。
手早い刺鍼が大切で、邪気の波が来終わった時点で抜鍼する
のがコツです。次の波が来てしまうと、また、上衝を引き起こ
し、症状が復活することが多くなります。この辺りも、表位と
同じです。
*(3)実技と手順
姿勢は、基本的には、座位が望ましいです。寝て刺鍼した場
合には、刺鍼した後で起き上がったときに症状が復活しやすい
からです。
ただし、座位が無理なときは仕方がありません。寝て刺鍼し、
治療後には、そのまま寝た姿勢で休んでもらいます。
良くなって起き上がったときに症状が復活した場合は、座位
で、再度、手甲に引き鍼し、その後で表位に散鍼してから手甲
に引き鍼します。
手順の基本は、表位のときと同じですが、手足に引いたり、
陽に引いたりを省略しないことが多くなります。
1.診察
2.準備:上衝を治める
(1)手甲(手指)に引く
3.手足に引く
(1)手足陰経に引く
(2)必要があれば、陽経にも引く
4.陽に引く
(1)陽側の熱い所を散鍼
(2)陽側に出ているツボに引く
5.必要な処置を付け加える
6.後始末:上衝を治める
(1)頭の散鍼
(2)手甲に引く
途中で状況に応じて必要な処置を付け加えたりします。
**1.診察
先ずは、患者さんの話をよく聞きます。カゼ、喉の痛み、咳、
不整脈、吐き気、胸周辺の痛みや辛さなどが、上焦の症状とし
て、よく見られます。
顔の表情や、色艶、赤み、頭のハチマキをする辺りの温度差
などは、表位のときと同じように見ます。
上焦の場合には、それ以外に、喉周辺から胸の上部と、背中
側の大椎から肩甲間部が赤くなっていないか、熱が出ていない
かなどを見ます。
大椎から肩甲間部は、手平を差し入れて、汗が出ていないか
も観察します(写真1)。
&ref(DSCF1702.jpg)写真1
また、上焦の急性期にツボが出ることが多い列缺の周辺も触っ
てみます。
不整脈の場合は、左(心臓のある側)の肩甲骨下角の周辺と、
陰郄の近くにツボが出ていないかも見ます。
**2.準備:上衝を治める
表位のときと同じように、患者さんの訴える症状、頭のハチ
マキをする辺りの温度差、指周辺の状態の3つから、手甲のツ
ボを選びます。表位に衝き上げている邪気を抜き尽くすことを
目指して、 そのツボに刺鍼します。
繰り返しますが、以下2つがコツです。
(1) 鍼を抜く方向に引きながら横揺らし・旋捻・弾鍼などの手
技をする
(2) 邪気の波が来終わったときに抜鍼する
**3.手足に引く
表位のときと違って、上焦の急性期では、手足に引くことを
省略することは、ありません。
上焦の症状が出ているということは、上焦のある胸腔内部に
邪気が蠢(うごめ)いているということです。また、手の陰経
は、肺経、心包経、心経という別名で呼ばれ、胸腔内部と関係
が深いことが知られています。そのため、上焦の邪気は、手の
陰経に引きやすく、効果が出やすくなります。
***(1)手足陰経に引く
手陰経の手首の近くのツボを使って、上焦、つまり、胸腔内
部で蠢いている邪気を抜き出します。
〈&bold(){ツボ}〉
カゼなど咽から胸上部が関係しているときには、列缺にツボ
を使うことが多いです。
急性症状は、できるだけ手足末端を使った方が効果的なので
すが、手平や指は痛覚が発達しているので痛がられることが多
く、手首近くのツボを使います。
左右の列缺を比較して、より凹みが大きく、イヤな感じの強
い方を選びます。列缺にツボが出ていないときは、もう少し肘
よりのツボを使います。
不整脈の場合は、左(心臓のある側)の陰郄の辺りに出てい
るツボを使います。
吐き気のときには、内関にツボが出ていることが多いです。
〈&bold(){刺法}〉
陰経の刺鍼は、普通は徐刺徐抜でします。静かにゆっくり刺
していき、邪気を誘い、邪気を感じたら深さを変えず、横揺ら
し、撚鍼などの手技をして、邪気の波が来終わったら、ゆっく
り抜きます。
ただし、表位の急性症状の場合は、陰経にも既に邪気が来て
いる場合が多く、陰経への刺鍼でも手早い刺鍼を心掛ける必要
があります。特に、抜き時が難しいので、初心のうちは、早め
に抜くように心掛けてください。
陽経のような速刺徐抜に近い感じも入れて刺鍼する必要があ
るということです。
邪気が分からない方は、患者さんの様子をよく観察し、患者
さんにも様子を伺いながら、症状が減ったら抜くようにしてく
ださい。
しかし、陽経、例えば、合谷への刺鍼のように、押し手を引
き気味にすることは少なめになります。余り、引き気味にしす
ぎると、中焦下焦から新たな邪気を呼び寄せることに繋がりや
すいからです。
抜くのが遅くて症状が再発したり、早すぎて症状が治まらな
かったりしたら、調節するようにしてください。一人一人個性
があって判断の仕方も違いますし、患者さんも一人一人違いま
すし、同じ患者さんでも、時と場合によって違います。
経験を積んで、適度な抜き時を掴(つか)んでいくようにし
てください。
〈&bold(){稽古}〉
できれば、実際に臨床の場に出る前に、二人組での練習を沢
山重ね、コツを掴んでください。
練習のときにも、色々なタイプの方と練習できると、上達が
早いです。特に、体の中の邪気の動きが分かる敏感な方と組ん
だときには、言ってもらい、それに合わせて刺せるよう稽古し
ます。そうすると、邪気を心で意識できなくても、指が邪気に
合わせて動くようになります。
また、筋痛症の患者さんには、邪気の動きが分かる方が多い
ので、そういう方を治療させてもらうときにも、言ってもらい
合わせるよう努めましょう。
***(2)必要があれば、手足陽経に引く
手の陰経に引いた後で、表位に上衝が復活した場合には、手
陽経に引いておきます。
手の陽経は、馬王堆医経の頃は、歯脈、耳脈、肩脈と呼ばれ
たように、表位と関係が深いので。
**4.陽に引く
上焦に出ている症状に関係する背中側の熱い所があれば散鍼
します。その後に、その辺りに出ているツボに引き鍼します。
***(1) 陽側の熱い所に散鍼
上焦に出ている症状に関係する背中側を触って、熱い所が有
れば散鍼します。上焦や表位の背中側が多いです。
***(2) 陽側に出ているツボに引く
上焦に出ている症状に関係する背中側に出ているツボを見付
け、そこに引き鍼します。
〈&bold(){ツボ}〉
上焦の背中側に多いです。上焦に症状が出ているので、その
背中側を探すわけです。
一番多いのは、症状の出ている所と、立ち姿勢で同じ位の高
さになる所です。デルマトームも関係しているかもしれません。
ただ、真裏とは限らないので、上下10cm位ずつ、20cm位の
幅で探します。
先ず、正中線を指を滑らして変だなと思う所を探します。な
んとなく凹んだり弾力の無さそうな感じのする所、背骨が出っ
張ったり凹んだりする感じの所、椎間が広かったり狭かったり
する感じの所、素肌ならベタベタした感じがする所などが候補
です。
そこから、同じ高さを横にズラして、背骨の直ぐ脇の華佗経、
1行線、2行線と左右を比べていきます。なんとなく凹んだり
弾力が無さそうな所、素肌ならベタついた感じの所を探します。
上焦で多いのは、背骨直ぐ脇の華佗経、肩甲骨の内側、肩甲
骨の外側などです。
カゼなどの場合は、大椎の辺りから肩甲間部の、特に背骨の
直ぐ脇(華佗経)などが多いです。
不整脈の場合は、左(心臓のある側)の肩甲骨下角の辺りが
多いです。
〈&bold(){刺法}〉
合谷など陽経と同じように、速刺徐抜で刺鍼します。素早く
邪気を捕らえ、押し手を引き気味にして、来ている邪気を引き
出し尽くすように刺鍼し、次の邪気が来る前に抜鍼します。
とは言っても、これも、患者さん一人一人、同じ患者さんで
も状態によって違いますので、沢山練習して、そのときの患者
さんの体の状態にピッタリあった刺鍼ができるようになってく
ださい。
**5.必要な処置を付け加える
必要な処置があれば、適宜付け加えます。
***(1) カゼなど
背中側だけでなく、首の前側、鎖骨の周り、胸上部も熱くなっ
ていて、ツボが出ていることも多いです。熱い所が有れば散鍼
し、出ているツボに刺鍼します。
ツボは、膻中の高さの胸骨の直ぐ脇の肋間、その上の肋間で
少し外寄り、そのまた上の肋間でまた少し外寄り、というふう
に、肋骨1本上がることに外寄りに出ていて、終わりは、中府〜
雲門の辺りに出ていることが多いです。
弾入したら、直ぐ抜く方向に引きながら、横揺らし・旋捻・
弾鍼などの手技をし、早めに抜鍼します。下が胸腔なので、深
く刺さないために、こういう刺鍼をします。そして、こういう
刺鍼で十分効果が出ます。
なお、喉の痛みが有る場合には、土踏まずの然谷あたりに、
ツボが出ている(ピーナッツ位の痼りが有る)ことが多く、そ
の場合には、灸で、その痼りを改善できると、解消します。
喉の痛い場合に、痛い場所は、体の内側では背中に近い側で
すね。ですから、体の内側(陰)で背中側(後ろ)で、足少陰
なのかなと思います。
深谷灸法で、扁桃炎に「陰白」や「足大指内側横紋頭(足親
指の内側の節紋」を使うのも、ほぼ同じ狙いと思います。
カゼの慢性期は、以下を参照してください。
[[術伝流一本鍼no.49]] カゼの養生
***(2) 中下焦の邪毒が原因の場合
中下焦の邪毒が原因の場合には、中下焦の背中側にツボが出
ていることが多いので、そこと経絡的に関係する足裏陽経にも
ツボが出やすくなります。
ツボが出ていたら、速刺除抜で刺鍼します。
この辺りは、中下焦のときに、詳しく書きます。
**6.仕上げ
表位の場合と同じです。
***(1) 頭の散鍼
頭の散鍼は、片手で頭を撫でて熱い所を探し、もう一方の手
で熱い所を散鍼をします。
***(2) 手甲に引き鍼
終わりに、もう一度、手甲に引き鍼して仕上げます。手指、
手甲、八邪を調べ、一番悪そうなラインの手甲のツボに刺鍼し
ます。
初めと同じ指間になったら、八邪を使います。
*(4)写真付き症例
カゼの初期か咽がイガイガすると言う人。
頭を調べたら左側、特に、左額が熱くなっていました(写真
2)。
&ref(DSCF1701.jpg)写真2
念のため、左右の合谷を比べてみたら、やはり左の方にツボ
が出ていた(写真3)ので、左合谷に引き鍼しました(写真4)。
&ref(DSCF1703.jpg)写真3
&ref(DSCF1705.jpg)写真4
そして、左列缺に出ていたツボにノドの症状を引いてみまし
た(写真5)。そしたら、少し治まったとのことでした。
&ref(DSCF1706.jpg)写真5
その後に、陽にも引こうと大椎の周りを見たら、やはり左側
の凝りが酷かったので、刺鍼しました(写真6)。
&ref(DSCF1710.jpg)写真6
上から胸椎を調べていったら、左胸椎3辺りの華侘経に虚し
たツボが見付かったので、刺鍼したら、大量の邪気が出てきま
した(写真7)。そしたら、すっきりしたとのこと。
&ref(DSCF1713.jpg)写真7
首の前側~鎖骨の周辺~胸上部を触ってみたら(写真8)熱
かったので、その辺りを散鍼したら(写真9)、左側のみ発赤
しました。
&ref(DSCF1714.jpg)写真8
&ref(DSCF1715.jpg)写真9
頭散鍼(写真10)、手甲引き鍼(写真11)で仕上げました。
&ref(DSCF1716.jpg)写真10
&ref(DSCF1718.jpg)写真11
次の日に「列缺・身柱が特に効きました。また、響く感じと
共に、咽喉の奥が活発になっているように感じました」とのメー
ルが来ました。でも実際に鍼したのは、身柱横の華侘経でした。
まさに、上焦と関係する手陰経とその背中側に出ていたツボ
に引くことが有効だった例だなと思い、「手足に引く」、「陽
に引く」の太切さを改めて感じました。
*(5)補足
邪気については、江戸時代の鍼文献にも、以下のように書か
れています。
>「鍼は万病一邪とこころえべし、
> 何れの病にても、
> 我が手のうちの術さへいたれば、
> 一兪をさしていゆべし」
(葦原検校著『鍼道発秘』)
鍼で病いを治療するときは、万病は全て邪気によるものと考
え、手のうちの術を尽くし癒すということかなと思いました。
>「蓋し鍼は邪気をしりぞくるものなり、
> 邪気さへしりぞくときは自ら正気は盛んになる理なり」
(本郷正豊著『鍼灸重宝記』)
※蓋し:次に述べる判断は十中八九まちがいがないだろうとい
う主体の見込みを表す(『新明解国語辞典』第2版)
鍼というのは、患者さんの体から、特に患部から、邪気を退
けるもの、そして、邪気を体から退ければ、体の正気は、自然
に盛んになり、元気になるということかなと思いました。
そして、前にも引用したと思いますが、以下もあります。
>「鍼刺の要は、至気を持って、有効の時と為す。・・・
> 邪気の至るや緊にして疾く、穀気の至るや徐にして和す」
(『杉山真伝流』「皆伝之巻・鍼法撮要」)
みな同じ内容のように思います。江戸時代には、鍼と邪気が
深い関係にあるとされていたようです。
そして、それは、私自身が患者さんに鍼しているときの実感
とも合っています。ただ、まだ十分ではありません。
患者さんの体に蠢く邪気を感じとる勘を養い、その邪気を体
から退ける術を手のうちにできる、つまり、そういう腕を身に
付けることを目指したいなと思いました。
この邪気の実態が何なのかについては、今後の研究を待ちた
いと思います。私は、今のところ、明治国際医療大学の伊藤和
憲先生の研究された「TPの異常活動電位」との関係が深いよ
うに思っています。
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