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累積:&counter()___ 昨日:&counter(yesterday) ___今日:&counter(today) ------ &color(green){術伝流一本鍼no.19 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(1))} &bold(){&size(24){&color(green){内科系にも応用}}} ------ #contents *(1)はじめに  今まで、先急の一本鍼というテーマで、主に運動器系を中心 に応急処置を書いてきました。  基本的には、「手足甲に引き鍼しながら運動鍼」と「動作鍼」 が中心です。手順で書くと、以下のようになります。 1.診察 2.準備   手足の甲への引き鍼(+運動鍼) 3.患部の基本刺鍼 4.動作鍼など 5.後始末   ⑴頭散鍼(陽のみのときは省略可)   ⑵手足の甲への引き鍼  この方法は、運動器系だけでなく、内科系の急性症状にも応 用できます。ただ、内科系の場合には、いくつか考慮する必要 のあることが入ってきます。その主なものを3つ挙げておきま す。 1.上衝を治める 2.手足陰経に引く 3.陽に引く  この3つについて、説明していきます。 *(2)上衝を治める  「上衝」というのは、漢方の用語で、腹の側から頭の方へ、 邪気が衝き上げる現象を言います。内科系の病変の急性期には、 必ず(と言ってもよいほど)見られる現象です。  具体的には、熱が出たり、頭が痛くなったり、目眩がしたり という、表位、つまり、肩甲骨・鎖骨から上の内科系の症状の ことを総称しているというか、それらの原因となっている現象 のことです。  上衝は、多くの場合、体の内部(特に腹部)の水毒や瘀血か ら漏れ出した邪気が頭の方へ衝き上げることに因って起こりま す(図1)。 &ref(naikakei-joushou.jpg)図1  また、虚火上逆といって、腹部が虚している反動として上衝 が起こる場合もあります。更年期障害に見られる逆上せ(ノボ セ、ホットフラッシュ)などは、その典型例です。  『重校薬徴』には、「桂枝、上衝を主治す」とあります。 『薬徴』には、「桂枝、衝逆を主治す」とあります。また、 『専門医のための漢方医学キスト』では、「桂枝」の項目に 『薬徴』の引用の後に「気が上衝して起こる、のぼせ、ヒステ リー、頭痛、発熱、悪風などが使用目標になる」とあります。  そして、桂枝が多くの漢方薬に使われているのを見ても分か るように、上衝を治めることは、漢方治療の基本の一つです。  そういう上衝という現象は、鍼灸で内科系の急性期を応急処 置する場合にも、考慮する必要があります。つまり、上衝を治 めるのが、内科系の応急処置の先ず初めの目標です。  前に書いたように、運動器系の応急処置でも、陰経に鍼灸す ると上衝が起こる可能性があるため、後始末では、頭の散鍼や 手甲への引き鍼をしたりしました。  内科系の急性期には、鍼灸する前から上衝が起きていること が多いので、それを前提にして、準備の段階から、上衝を考慮 する必要があります。  そのために、先ず初めに、頭を触って熱い部分と経絡的に関 係する手甲に引き鍼をします(図2)。頭の中でもハチマキを する辺りで、一番熱い所を探します。 具体的には、先ずは左か 右か、そして、その中で、前側なら手陽明、横なら手小陽、後 ろなら手太陽のという見当を付けます。そして、手甲を調べ、 出ているツボに引き鍼します。 &ref(atamakeiraku.jpg)図2  こうすると、上衝を治めることができますし、治療中に動か してしまった邪気も手甲の方へ流れて行きやすくなります。 *(3)手足陰経に引く  運動器系の応急処置では、肩腰など胴体やそれに近い部分の 症状を、経絡的に関係する手足のツボに引きました。内科系の 応急処置でも、その内科系症状を、症状が出ている部分や、そ の原因となる邪毒がある部分と、経絡的に関係する手足に出て いるツボに引きます。  そういう点は、運動器系と同じですが、違う面もあります。  内科系の症状は、運動器系の症状よりも、体の内側に関係し ていることが多くなるので、運動器系よりも陰経を使うことが 多くなります。ご存知のように、体の内側の状態は、陰経に反 映することが多いからです。  そういうわけで、内科系症状は、その症状を起こしている器 官のある場所や、その症状の原因となっている邪毒のある位置 と関係する手足陰経に出ているツボに引きます。 *(4)陽に引く  内科系の場合には、「手足に引く」だけでなく、「陽に引く」 こともよく使います。    「陽に引く」というのは、体内部の症状を陽側のツボを使っ て改善することです。  症状の出ている部分に蠢(うごめ)いている邪気を、症状の 出ている部分より陽側に出ているツボから引き出すことによっ て、改善していきます。また、症状の原因となっている邪毒の ある部分の陽側に出ているツボに引くことで改善したりもしま す。  典型例は、兪穴治療など、症状の出ている部分の背中側に出 ているツボに引くことです。また、後頭部や後頸部も使います。 それ以外にもありますが、それは、症例を解説するときに詳し く説明していきます。 *(5)内科系の応急処置の手順  今まで書いたことを考慮して、内科系の応急処置は、基本的 には、以下のような手順でしています。 1.診察 2.準備:上衝を治める   ・手甲に引く 3.手足に引く   ⑴手足陰経に引く   ⑵必要があれば、陽経にも引く 4.陽に引く   ⑴熱かったら散鍼   ⑵陽側(背中側)に出ているツボに引く 5.後始末:上衝を治める   ⑴頭の散鍼   ⑵手甲に引く  細かく書くと、色々出てきますが、大雑把にはこんな感じで、 やっています。  また、簡単な症状だと、2.の準備だけ、あるいは、2.と 3.の「手足に引く」だけで、症状が治まってしまうこともあ ります。  「4.陽に引く」で、熱かった場合に、先ず散鍼するのは、 出ているツボの周辺が熱い場合に、いきなり刺鍼すると、痛み を強く感じるなど、症状が酷くなることがあるからです。 *(6)和方鍼灸の基礎理論を目指して  少し脱線しますが、私は、和方鍼灸の共通点として、以下3 つが考えられるかなと思っています。 1.阿是穴治療 2.手足に引く 3.陽に引く  この3つを組み合わせることで、先急、つまり、応急処置も していますし、養生、すなわち、慢性期治療もしています。  そして、この辺りと、筋肉の機能性病変という石川の加茂先 生たちの考え方や、杉山真伝流などの江戸時代に書かれた鍼灸 文献の考え方を組み合わせていくことで、和方鍼灸の基礎理論 ができていくのではないかなと考えています。  阿是穴とは、筋肉が機能性病変を起こしている所だと思いま すし、 「邪気ある時は何れの所にも鍼を用ゆ    病なきは何れの穴にも鍼を禁ず」(葦原検校) 「鍼刺すに、心で刺すな、手で引くな、       引くも引かぬも指にまかせよ」(杉山和一検校) という言葉もありますし。  また、和方鍼灸の色々な流派の先生達が、それぞれ基礎理論 と思うことを持ちよることで、共通の基礎理論を作っていけれ ばよいなとも考えています。そうすることで、和方鍼灸が学び やすく伝承されやすくなると思いますし。  そして、将来的には、そうしてできた和方鍼灸の基礎理論が、 世界に和方鍼灸を広めていくために役に立つことを夢見ていま す。 追記:ここに書いたことは、現在では、刺鍼中の姿勢も含めて、 「[[和方鍼灸の基本]]」という形で書きまとめています。興味が あったら読んでみてください。 *(7)救急医療との連携  さて、内科系の応急処置を鍼灸でする場合に注意して欲しい ことがあります。  鍼灸で応急処置できるのは、基本的には、機能性病変という ことです。もちろん数ヶ月かけて養生していけば、組織の逆変 性が起きて、器質性病変も改善することも多いです。  しかし、応急処置のような短時間で改善できるのは機能性病 変だけです。  それで、鍼灸で応急処置しても、改善できなかったり、一度 改善しても同じ程度にまで症状が復活した場合には、器質性病 変を疑い、救急医療と連携することを考えてください。  私は、現在、数時間以内に半分以上症状が復活した場合には、 器質性病変の可能性も考慮することにしています。鍼灸で機能 性病変を改善できた場合には、少なくとも半日程度は効果が続 くことが多いからです。  今までに私が経験した例では、腹部大動脈瘤と急性膵炎があ ります。どちらも2時間以内に同じ程度に痛みが復活したとい うことで、救急医療にお任せしました。  そういう病変の場合でも、患者さんが「お腹が少し痛い」と しか言わず、しかも、鍼灸した直後は良くなってしまうことが 結構ありますので、注意するようにしてください。 *(8)症例:3日前から咳がつづく **1.診察  先ずは、症状について話してもらいました(写真1)。 &ref(DSCF1402.jpg)写真1  3日前から咳が続いているとのことでした。その後、咳の時 にツボが出ることが多い列缺と上尺沢を押してみました(写真 2、3)。 &ref(DSCF1429.jpg)写真2 &ref(DSCF1430.jpg)写真3  まだ3日のせいか、列缺には圧痛がありましたが、上尺沢に は圧痛がありませんでした。上尺沢は、咳が長引いたときにツ ボが出ることが多い所です。  そして、左右を比べると、左側の圧痛の方が強いことも確認 し、体の左側の状態が悪い可能性が高いなと思いました。 **2.準備  先ず、準備のために頭に触れてみました(写真4)。 &ref(DSCF1432.jpg)写真4  左側の額が熱かったので、額は前側なので陽明経だろうと見 当を付けました。合谷の辺りを探し、ツボが出ていたので、刺 鍼しました(写真5)。 &ref(DSCF1433.jpg)写真5  この場合、熱が出ていた辺りを見ながら刺鍼した方がよいで す。目蓋(瞼、まぶた)が動く、つまり、瞬き(まばたき)を したりすることが、鍼が効果を上げている目安になることが多 いこともあるし、額の変化が分かることもありますので。 **3.手足に引く  次に、もう一度、左列缺のツボを丁寧に取り、刺鍼しました (写真6)。 &ref(DSCF1436.jpg)写真6  この場合も、この刺鍼が効果を及ぼすだろうし、咳に関係す ると思われる、胸上部から喉にかけてを見ながら、刺鍼しまし た。  この刺鍼で、喉から胸にかけて、すっきりし、呼吸がラクに できるようになったとのことでした。 **4.陽に引く  次に、咳に関係するノドや気管の背中側にもツボが出ていな いか、大椎から胸椎3あたりを中心に調べていきました(写真 7,8)。 &ref(DSCF1438.jpg)写真7 &ref(DSCF1439.jpg)写真8  そして、左側に出ていたツボに順に刺鍼しました(写真9)。 &ref(DSCF1442.jpg)写真9  この場合は、触って熱さを感じなかったので、散鍼は省略し ています。 **5.後始末  頭を触って、熱さを感じた所に散鍼しました(写真10)。 &ref(DSCF1448.jpg)写真10  その後、手甲を調べ出ていたツボに刺鍼して仕上げました (写真11)。 &ref(DSCF1450.jpg)写真11 5.予測と違っていたら  この症例では、初めに診察したときに列缺に出ているツボが 左側だったので、体の左側の症状が強い可能性があると予測し ました。そして、2.の頭の熱い所も左側、3.の陽側の背中に 出ていたツボも左側でしたので、素直なツボの出方と言えると 思います。  時には、場所によって、左右が異なって出ている場合もあり ます。  そういう場合は、他のことも原因となっている場合がありま す。そういう場合には、患者さんに再度詳しく質問してみると、 聞けてなかったことを話してもらえることも多いです。新しい 情報をもらったら、それも考慮して治療するようにしてくださ い。    つぎへ>>>[[術伝流一本鍼no.20]] -----    >>>目次へ・・・・・・・・・[[術伝流一本鍼(あ)]]    >>>このページのトップヘ・・[[術伝流一本鍼no.19]]    >>>術伝HPトップへ ・・・・[[トップページ]] ----- 術伝HP内検索:上の@wikiメニューの「wiki内検索」 ----- ------ *お知らせとお願い **術伝流鍼灸操体講座で患者さん役を募集  術伝流鍼灸操体講座は、実践面を重視しています。実際に症状が出て いる方の治療を見たほうが勉強になります。そこで、講座で患者さん役 をしてくださる方を募集しています。  くわしくは、[[術伝流のモデル]]をみてください。  よろしくお願いします。 **感想など  感想などありましたら、術伝事務局までメールを下さい。 術伝事務局メルアド :jutsuden-jmkkあまググどこ (この行は無視してください。akwba、laemfro、thgosewibe) (「あま」を「@」に、「ググ」を「googlegroups」に、) (「どこ」を「.com」に変えて送信してください。    ) (面倒をおかけし申し訳ありません。迷惑メール対策です)  よろしくお願いします。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ----    >>>術伝HPトップへ ・・・・[[トップページ]] ----
累積:&counter()___ 昨日:&counter(yesterday) ___今日:&counter(today) ------ &color(green){術伝流一本鍼no.19 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(1))} &bold(){&size(24){&color(green){内科系にも応用}}} ------ #contents *(1)はじめに  今まで、先急の一本鍼というテーマで、主に運動器系を中心 に応急処置を書いてきました。  基本的には、「手足甲に引き鍼しながら運動鍼」と「動作鍼」 が中心です。手順で書くと、以下のようになります。 1.診察 2.準備   手足の甲への引き鍼(+運動鍼) 3.患部の基本刺鍼 4.動作鍼など 5.後始末   ⑴頭散鍼(陽のみのときは省略可)   ⑵手足の甲への引き鍼  この方法は、運動器系だけでなく、内科系の急性症状にも応 用できます。ただ、内科系の場合には、いくつか考慮する必要 のあることが入ってきます。その主なものを3つ挙げておきま す。 1.上衝を治める 2.手足陰経に引く 3.陽に引く  この3つについて、説明していきます。 *(2)上衝を治める  「上衝」というのは、漢方の用語で、腹の側から頭の方へ、 邪気が衝き上げる現象を言います。内科系の病変の急性期には、 必ず(と言ってもよいほど)見られる現象です。  具体的には、熱が出たり、頭が痛くなったり、目眩がしたり という、表位、つまり、肩甲骨・鎖骨から上の内科系の症状の ことを総称しているというか、それらの原因となっている現象 のことです。  上衝は、多くの場合、体の内部(特に腹部)の水毒や瘀血か ら漏れ出した邪気が頭の方へ衝き上げることに因って起こりま す(図1)。 &ref(naikakei-joushou.jpg)図1  また、虚火上逆といって、腹部が虚している反動として上衝 が起こる場合もあります。更年期障害に見られる逆上せ(ノボ セ、ホットフラッシュ)などは、その典型例です。  『重校薬徴』には、「桂枝、上衝を主治す」とあります。 『薬徴』には、「桂枝、衝逆を主治す」とあります。また、 『専門医のための漢方医学キスト』では、「桂枝」の項目に 『薬徴』の引用の後に「気が上衝して起こる、のぼせ、ヒステ リー、頭痛、発熱、悪風などが使用目標になる」とあります。  そして、桂枝が多くの漢方薬に使われているのを見ても分か るように、上衝を治めることは、漢方治療の基本の一つです。  そういう上衝という現象は、鍼灸で内科系の急性期を応急処 置する場合にも、考慮する必要があります。つまり、上衝を治 めるのが、内科系の応急処置の先ず初めの目標です。  前に書いたように、運動器系の応急処置でも、陰経に鍼灸す ると上衝が起こる可能性があるため、後始末では、頭の散鍼や 手甲への引き鍼をしたりしました。  内科系の急性期には、鍼灸する前から上衝が起きていること が多いので、それを前提にして、準備の段階から、上衝を考慮 する必要があります。  そのために、先ず初めに、頭を触って熱い部分と経絡的に関 係する手甲に引き鍼をします(図2)。頭の中でもハチマキを する辺りで、一番熱い所を探します。 具体的には、先ずは左か 右か、そして、その中で、前側なら手陽明、横なら手小陽、後 ろなら手太陽のという見当を付けます。そして、手甲を調べ、 出ているツボに引き鍼します。 &ref(atamakeiraku.jpg)図2  こうすると、上衝を治めることができますし、治療中に動か してしまった邪気も手甲の方へ流れて行きやすくなります。 *(3)手足陰経に引く  運動器系の応急処置では、肩腰など胴体やそれに近い部分の 症状を、経絡的に関係する手足のツボに引きました。内科系の 応急処置でも、その内科系症状を、症状が出ている部分や、そ の原因となる邪毒がある部分と、経絡的に関係する手足に出て いるツボに引きます。  そういう点は、運動器系と同じですが、違う面もあります。  内科系の症状は、運動器系の症状よりも、体の内側に関係し ていることが多くなるので、運動器系よりも陰経を使うことが 多くなります。ご存知のように、体の内側の状態は、陰経に反 映することが多いからです。  そういうわけで、内科系症状は、その症状を起こしている器 官のある場所や、その症状の原因となっている邪毒のある位置 と関係する手足陰経に出ているツボに引きます。 *(4)陽に引く  内科系の場合には、「手足に引く」だけでなく、「陽に引く」 こともよく使います。    「陽に引く」というのは、体内部の症状を陽側のツボを使っ て改善することです。  症状の出ている部分に蠢(うごめ)いている邪気を、症状の 出ている部分より陽側に出ているツボから引き出すことによっ て、改善していきます。また、症状の原因となっている邪毒の ある部分の陽側に出ているツボに引くことで改善したりもしま す。  典型例は、兪穴治療など、症状の出ている部分の背中側に出 ているツボに引くことです。また、後頭部や後頸部も使います。 それ以外にもありますが、それは、症例を解説するときに詳し く説明していきます。 *(5)内科系の応急処置の手順  今まで書いたことを考慮して、内科系の応急処置は、基本的 には、以下のような手順でしています。 1.診察 2.準備:上衝を治める   ・手甲に引く 3.手足に引く   (1) 手足陰経に引く   (2) 必要があれば、陽経にも引く 4.陽に引く   (1) 熱かったら散鍼   (2) 陽側(背中側)に出ているツボに引く 5.後始末:上衝を治める   (1) 頭の散鍼   (2) 手甲に引く  細かく書くと、色々出てきますが、大雑把にはこんな感じで、 やっています。  また、簡単な症状だと、2.の準備だけ、あるいは、2.と 3.の「手足に引く」だけで、症状が治まってしまうこともあ ります。  「4.陽に引く」で、熱かった場合に、先ず散鍼するのは、 出ているツボの周辺が熱い場合に、いきなり刺鍼すると、痛み を強く感じるなど、症状が酷くなることがあるからです。 *(6)和方鍼灸の基礎理論を目指して  少し脱線しますが、私は、和方鍼灸の共通点として、以下3 つが考えられるかなと思っています。 1.阿是穴治療 2.手足に引く 3.陽に引く  この3つを組み合わせることで、先急、つまり、応急処置も していますし、養生、すなわち、慢性期治療もしています。  そして、この辺りと、筋肉の機能性病変という石川の加茂先 生たちの考え方や、杉山真伝流などの江戸時代に書かれた鍼灸 文献の考え方を組み合わせていくことで、和方鍼灸の基礎理論 ができていくのではないかなと考えています。  阿是穴とは、筋肉が機能性病変を起こしている所だと思いま すし、 「邪気ある時は何れの所にも鍼を用ゆ    病なきは何れの穴にも鍼を禁ず」(葦原検校) 「鍼刺すに、心で刺すな、手で引くな、       引くも引かぬも指にまかせよ」(杉山和一検校) という言葉もありますし。  また、和方鍼灸の色々な流派の先生達が、それぞれ基礎理論 と思うことを持ちよることで、共通の基礎理論を作っていけれ ばよいなとも考えています。そうすることで、和方鍼灸が学び やすく伝承されやすくなると思いますし。  そして、将来的には、そうしてできた和方鍼灸の基礎理論が、 世界に和方鍼灸を広めていくために役に立つことを夢見ていま す。 追記:ここに書いたことは、現在では、刺鍼中の姿勢も含めて、 「[[和方鍼灸の基本]]」という形で書きまとめています。興味が あったら読んでみてください。 *(7)救急医療との連携  さて、内科系の応急処置を鍼灸でする場合に注意して欲しい ことがあります。  鍼灸で応急処置できるのは、基本的には、機能性病変という ことです。もちろん数ヶ月かけて養生していけば、組織の逆変 性が起きて、器質性病変も改善することも多いです。  しかし、応急処置のような短時間で改善できるのは機能性病 変だけです。  それで、鍼灸で応急処置しても、改善できなかったり、一度 改善しても同じ程度にまで症状が復活した場合には、器質性病 変を疑い、救急医療と連携することを考えてください。  私は、現在、数時間以内に半分以上症状が復活した場合には、 器質性病変の可能性も考慮することにしています。鍼灸で機能 性病変を改善できた場合には、少なくとも半日程度は効果が続 くことが多いからです。  今までに私が経験した例では、腹部大動脈瘤と急性膵炎があ ります。どちらも2時間以内に同じ程度に痛みが復活したとい うことで、救急医療にお任せしました。  そういう病変の場合でも、患者さんが「お腹が少し痛い」と しか言わず、しかも、鍼灸した直後は良くなってしまうことが 結構ありますので、注意するようにしてください。 *(8)症例:3日前から咳がつづく **1.診察  先ずは、症状について話してもらいました(写真1)。 &ref(DSCF1402.jpg)写真1  3日前から咳が続いているとのことでした。その後、咳の時 にツボが出ることが多い列缺と上尺沢を押してみました(写真 2、3)。 &ref(DSCF1429.jpg)写真2 &ref(DSCF1430.jpg)写真3  まだ3日のせいか、列缺には圧痛がありましたが、上尺沢に は圧痛がありませんでした。上尺沢は、咳が長引いたときにツ ボが出ることが多い所です。  そして、左右を比べると、左側の圧痛の方が強いことも確認 し、体の左側の状態が悪い可能性が高いなと思いました。 **2.準備  先ず、準備のために頭に触れてみました(写真4)。 &ref(DSCF1432.jpg)写真4  左側の額が熱かったので、額は前側なので陽明経だろうと見 当を付けました。合谷の辺りを探し、ツボが出ていたので、刺 鍼しました(写真5)。 &ref(DSCF1433.jpg)写真5  この場合、熱が出ていた辺りを見ながら刺鍼した方がよいで す。目蓋(瞼、まぶた)が動く、つまり、瞬き(まばたき)を したりすることが、鍼が効果を上げている目安になることが多 いこともあるし、額の変化が分かることもありますので。 **3.手足に引く  次に、もう一度、左列缺のツボを丁寧に取り、刺鍼しました (写真6)。 &ref(DSCF1436.jpg)写真6  この場合も、この刺鍼が効果を及ぼすだろうし、咳に関係す ると思われる、胸上部から喉にかけてを見ながら、刺鍼しまし た。  この刺鍼で、喉から胸にかけて、すっきりし、呼吸がラクに できるようになったとのことでした。 **4.陽に引く  次に、咳に関係するノドや気管の背中側にもツボが出ていな いか、大椎から胸椎3あたりを中心に調べていきました(写真 7,8)。 &ref(DSCF1438.jpg)写真7 &ref(DSCF1439.jpg)写真8  そして、左側に出ていたツボに順に刺鍼しました(写真9)。 &ref(DSCF1442.jpg)写真9  この場合は、触って熱さを感じなかったので、散鍼は省略し ています。 **5.後始末  頭を触って、熱さを感じた所に散鍼しました(写真10)。 &ref(DSCF1448.jpg)写真10  その後、手甲を調べ出ていたツボに刺鍼して仕上げました (写真11)。 &ref(DSCF1450.jpg)写真11 5.予測と違っていたら  この症例では、初めに診察したときに列缺に出ているツボが 左側だったので、体の左側の症状が強い可能性があると予測し ました。そして、2.の頭の熱い所も左側、3.の陽側の背中に 出ていたツボも左側でしたので、素直なツボの出方と言えると 思います。  時には、場所によって、左右が異なって出ている場合もあり ます。  そういう場合は、他のことも原因となっている場合がありま す。そういう場合には、患者さんに再度詳しく質問してみると、 聞けてなかったことを話してもらえることも多いです。新しい 情報をもらったら、それも考慮して治療するようにしてくださ い。    つぎへ>>>[[術伝流一本鍼no.20]] -----    >>>目次へ・・・・・・・・・[[術伝流一本鍼(あ)]]    >>>このページのトップヘ・・[[術伝流一本鍼no.19]]    >>>術伝HPトップへ ・・・・[[トップページ]] ----- 術伝HP内検索:上の@wikiメニューの「wiki内検索」 ----- ------ *お知らせとお願い **術伝流鍼灸操体講座で患者さん役を募集  術伝流鍼灸操体講座は、実践面を重視しています。実際に症状が出て いる方の治療を見たほうが勉強になります。そこで、講座で患者さん役 をしてくださる方を募集しています。  くわしくは、[[術伝流のモデル]]をみてください。  よろしくお願いします。 **感想など  感想などありましたら、術伝事務局までメールを下さい。 術伝事務局メルアド :jutsuden-jmkkあまググどこ (この行は無視してください。akwba、laemfro、thgosewibe) (「あま」を「@」に、「ググ」を「googlegroups」に、) (「どこ」を「.com」に変えて送信してください。    ) (面倒をおかけし申し訳ありません。迷惑メール対策です)  よろしくお願いします。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ----    >>>術伝HPトップへ ・・・・[[トップページ]] ----

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