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術伝流一本鍼no.19 - (2016/08/15 (月) 15:09:21) のソース

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&color(green){術伝流一本鍼no.19 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(1))}

&bold(){&size(24){&color(green){内科系にも応用}}}
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#contents

*(1)はじめに 
 今まで、先急の一本鍼というテーマで、主に運動器系を中心
に応急処置を書いてきました。

 基本的には、「手足甲に引き鍼しながら運動鍼」と「動作鍼」
が中心です。手順で書くと、以下のようになります。

1.診察

2.準備
  手足の甲への引き鍼(+運動鍼)

3.患部の基本刺鍼

4.動作鍼など

5.後始末
  ⑴頭散鍼(陽のみのときは省略可)
  ⑵手足の甲への引き鍼

 この方法は、運動器系だけでなく、内科系の急性症状にも応
用できます。ただ、内科系の場合には、いくつか考慮する必要
のあることが入ってきます。その主なものを3つ挙げておきま
す。

1.上衝を治める

2.手足陰経に引く

3.陽に引く

 この3つについて、説明していきます。

*(2)上衝を治める
 「上衝」というのは、漢方の用語で、腹の側から頭の方へ、
邪気が衝き上げる現象を言います。内科系の病変の急性期には、
必ず(と言ってもよいほど)見られる現象です。

 具体的には、熱が出たり、頭が痛くなったり、目眩がしたり
という、表位、つまり、肩甲骨・鎖骨から上の内科系の症状の
ことを総称しているというか、それらの原因となっている現象
のことです。

 上衝は、多くの場合、体の内部(特に腹部)の水毒や瘀血か
ら漏れ出した邪気が頭の方へ衝き上げることに因って起こりま
す(図1)。

&ref(naikakei-joushou.jpg)図1

 また、虚火上逆といって、腹部が虚している反動として上衝
が起こる場合もあります。更年期障害に見られる逆上せ(ノボ
セ、ホットフラッシュ)などは、その典型例です。

 『重校薬徴』には、「桂枝、上衝を主治す」とあります。
『薬徴』には、「桂枝、衝逆を主治す」とあります。また、
『専門医のための漢方医学キスト』では、「桂枝」の項目に
『薬徴』の引用の後に「気が上衝して起こる、のぼせ、ヒステ
リー、頭痛、発熱、悪風などが使用目標になる」とあります。

 そして、桂枝が多くの漢方薬に使われているのを見ても分か
るように、上衝を治めることは、漢方治療の基本の一つです。

 そういう上衝という現象は、鍼灸で内科系の急性期を応急処
置する場合にも、考慮する必要があります。つまり、上衝を治
めるのが、内科系の応急処置の先ず初めの目標です。

 前に書いたように、運動器系の応急処置でも、陰経に鍼灸す
ると上衝が起こる可能性があるため、後始末では、頭の散鍼や
手甲への引き鍼をしたりしました。

 内科系の急性期には、鍼灸する前から上衝が起きていること
が多いので、それを前提にして、準備の段階から、上衝を考慮
する必要があります。

 そのために、先ず初めに、頭を触って熱い部分と経絡的に関
係する手甲に引き鍼をします(図2)。頭の中でもハチマキを
する辺りで、一番熱い所を探します。 具体的には、先ずは左か
右か、そして、その中で、前側なら手陽明、横なら手小陽、後
ろなら手太陽のという見当を付けます。そして、手甲を調べ、
出ているツボに引き鍼します。

&ref(atamakeiraku.jpg)図2

 こうすると、上衝を治めることができますし、治療中に動か
してしまった邪気も手甲の方へ流れて行きやすくなります。

*(3)手足陰経に引く 
 運動器系の応急処置では、肩腰など胴体やそれに近い部分の
症状を、経絡的に関係する手足のツボに引きました。内科系の
応急処置でも、その内科系症状を、症状が出ている部分や、そ
の原因となる邪毒がある部分と、経絡的に関係する手足に出て
いるツボに引きます。

 そういう点は、運動器系と同じですが、違う面もあります。

 内科系の症状は、運動器系の症状よりも、体の内側に関係し
ていることが多くなるので、運動器系よりも陰経を使うことが
多くなります。ご存知のように、体の内側の状態は、陰経に反
映することが多いからです。

 そういうわけで、内科系症状は、その症状を起こしている器
官のある場所や、その症状の原因となっている邪毒のある位置
と関係する手足陰経に出ているツボに引きます。

*(4)陽に引く
 内科系の場合には、「手足に引く」だけでなく、「陽に引く」
こともよく使います。
 
 「陽に引く」というのは、体内部の症状を陽側のツボを使っ
て改善することです。

 症状の出ている部分に蠢(うごめ)いている邪気を、症状の
出ている部分より陽側に出ているツボから引き出すことによっ
て、改善していきます。また、症状の原因となっている邪毒の
ある部分の陽側に出ているツボに引くことで改善したりもしま
す。

 典型例は、兪穴治療など、症状の出ている部分の背中側に出
ているツボに引くことです。また、後頭部や後頸部も使います。
それ以外にもありますが、それは、症例を解説するときに詳し
く説明していきます。

*(5)内科系の応急処置の手順 
 今まで書いたことを考慮して、内科系の応急処置は、基本的
には、以下のような手順でしています。

1.診察

2.準備:上衝を治める
  ・手甲に引く

3.手足に引く
  (1) 手足陰経に引く
  (2) 必要があれば、陽経にも引く

4.陽に引く
  (1) 熱かったら散鍼
  (2) 陽側(背中側)に出ているツボに引く

5.後始末:上衝を治める
  (1) 頭の散鍼
  (2) 手甲に引く

 細かく書くと、色々出てきますが、大雑把にはこんな感じで、
やっています。

 また、簡単な症状だと、2.の準備だけ、あるいは、2.と
3.の「手足に引く」だけで、症状が治まってしまうこともあ
ります。

 「4.陽に引く」で、熱かった場合に、先ず散鍼するのは、
出ているツボの周辺が熱い場合に、いきなり刺鍼すると、痛み
を強く感じるなど、症状が酷くなることがあるからです。

*(6)和方鍼灸の基礎理論を目指して
 少し脱線しますが、私は、和方鍼灸の共通点として、以下3
つが考えられるかなと思っています。

1.阿是穴治療

2.手足に引く

3.陽に引く

 この3つを組み合わせることで、先急、つまり、応急処置も
していますし、養生、すなわち、慢性期治療もしています。

 そして、この辺りと、筋肉の機能性病変という石川の加茂先
生たちの考え方や、杉山真伝流などの江戸時代に書かれた鍼灸
文献の考え方を組み合わせていくことで、和方鍼灸の基礎理論
ができていくのではないかなと考えています。

 阿是穴とは、筋肉が機能性病変を起こしている所だと思いま
すし、

「邪気ある時は何れの所にも鍼を用ゆ
   病なきは何れの穴にも鍼を禁ず」(葦原検校)

「鍼刺すに、心で刺すな、手で引くな、
      引くも引かぬも指にまかせよ」(杉山和一検校)

という言葉もありますし。

 また、和方鍼灸の色々な流派の先生達が、それぞれ基礎理論
と思うことを持ちよることで、共通の基礎理論を作っていけれ
ばよいなとも考えています。そうすることで、和方鍼灸が学び
やすく伝承されやすくなると思いますし。

 そして、将来的には、そうしてできた和方鍼灸の基礎理論が、
世界に和方鍼灸を広めていくために役に立つことを夢見ていま
す。

追記:ここに書いたことは、現在では、刺鍼中の姿勢も含めて、
「[[和方鍼灸の基本]]」という形で書きまとめています。興味が
あったら読んでみてください。

*(7)救急医療との連携 
 さて、内科系の応急処置を鍼灸でする場合に注意して欲しい
ことがあります。

 鍼灸で応急処置できるのは、基本的には、機能性病変という
ことです。もちろん数ヶ月かけて養生していけば、組織の逆変
性が起きて、器質性病変も改善することも多いです。

 しかし、応急処置のような短時間で改善できるのは機能性病
変だけです。

 それで、鍼灸で応急処置しても、改善できなかったり、一度
改善しても同じ程度にまで症状が復活した場合には、器質性病
変を疑い、救急医療と連携することを考えてください。

 私は、現在、数時間以内に半分以上症状が復活した場合には、
器質性病変の可能性も考慮することにしています。鍼灸で機能
性病変を改善できた場合には、少なくとも半日程度は効果が続
くことが多いからです。

 今までに私が経験した例では、腹部大動脈瘤と急性膵炎があ
ります。どちらも2時間以内に同じ程度に痛みが復活したとい
うことで、救急医療にお任せしました。

 そういう病変の場合でも、患者さんが「お腹が少し痛い」と
しか言わず、しかも、鍼灸した直後は良くなってしまうことが
結構ありますので、注意するようにしてください。

*(8)症例:3日前から咳がつづく
**1.診察 
 先ずは、症状について話してもらいました(写真1)。

&ref(DSCF1402.jpg)写真1

 3日前から咳が続いているとのことでした。その後、咳の時
にツボが出ることが多い列缺と上尺沢を押してみました(写真
2、3)。

&ref(DSCF1429.jpg)写真2

&ref(DSCF1430.jpg)写真3

 まだ3日のせいか、列缺には圧痛がありましたが、上尺沢に
は圧痛がありませんでした。上尺沢は、咳が長引いたときにツ
ボが出ることが多い所です。

 そして、左右を比べると、左側の圧痛の方が強いことも確認
し、体の左側の状態が悪い可能性が高いなと思いました。

**2.準備
 先ず、準備のために頭に触れてみました(写真4)。

&ref(DSCF1432.jpg)写真4

 左側の額が熱かったので、額は前側なので陽明経だろうと見
当を付けました。合谷の辺りを探し、ツボが出ていたので、刺
鍼しました(写真5)。

&ref(DSCF1433.jpg)写真5

 この場合、熱が出ていた辺りを見ながら刺鍼した方がよいで
す。目蓋(瞼、まぶた)が動く、つまり、瞬き(まばたき)を
したりすることが、鍼が効果を上げている目安になることが多
いこともあるし、額の変化が分かることもありますので。

**3.手足に引く
 次に、もう一度、左列缺のツボを丁寧に取り、刺鍼しました
(写真6)。

&ref(DSCF1436.jpg)写真6

 この場合も、この刺鍼が効果を及ぼすだろうし、咳に関係す
ると思われる、胸上部から喉にかけてを見ながら、刺鍼しまし
た。

 この刺鍼で、喉から胸にかけて、すっきりし、呼吸がラクに
できるようになったとのことでした。

**4.陽に引く
 次に、咳に関係するノドや気管の背中側にもツボが出ていな
いか、大椎から胸椎3あたりを中心に調べていきました(写真
7,8)。

&ref(DSCF1438.jpg)写真7

&ref(DSCF1439.jpg)写真8

 そして、左側に出ていたツボに順に刺鍼しました(写真9)。

&ref(DSCF1442.jpg)写真9

 この場合は、触って熱さを感じなかったので、散鍼は省略し
ています。

**5.後始末 
 頭を触って、熱さを感じた所に散鍼しました(写真10)。

&ref(DSCF1448.jpg)写真10

 その後、手甲を調べ出ていたツボに刺鍼して仕上げました
(写真11)。

&ref(DSCF1450.jpg)写真11

5.予測と違っていたら
 この症例では、初めに診察したときに列缺に出ているツボが
左側だったので、体の左側の症状が強い可能性があると予測し
ました。そして、2.の頭の熱い所も左側、3.の陽側の背中に
出ていたツボも左側でしたので、素直なツボの出方と言えると
思います。

 時には、場所によって、左右が異なって出ている場合もあり
ます。

 そういう場合は、他のことも原因となっている場合がありま
す。そういう場合には、患者さんに再度詳しく質問してみると、
聞けてなかったことを話してもらえることも多いです。新しい
情報をもらったら、それも考慮して治療するようにしてくださ
い。


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*お知らせとお願い
**術伝流鍼灸操体講座で患者さん役を募集
 術伝流鍼灸操体講座は、実践面を重視しています。実際に症状が出て
いる方の治療を見たほうが勉強になります。そこで、講座で患者さん役
をしてくださる方を募集しています。

 くわしくは、[[術伝流のモデル]]をみてください。

 よろしくお願いします。

**感想など
 感想などありましたら、術伝事務局までメールを下さい。

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