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術伝流一本鍼no.46 - (2017/02/25 (土) 13:15:51) のソース

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&color(green){術伝流一本鍼no.46 (術伝流・養生の一本鍼・病証編(5))}

&bold(){&size(24){&color(green){上焦の病}}}
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#contents
*1.基本的に
 上焦の病は、体の内側の横隔膜より上に主な症状やツボが出
る病で、呼吸循環器系とも言えます。邪気に因ることが多く、
手陰経に引きやすいです。また、横輪切りの背中の横隔膜より
上にもツボが出ます。症状の出ている辺りの胸側にも出ます。

 邪気は、中焦の水毒や下焦の瘀血・虚などが原因のことが多
いです。そういう場合には、腹や、足の陰経・陽経、横隔膜か
ら下の背中側にもツボが出るので、長期的には、それらの改善
も必要になります。

 また、上焦の下部に水毒が溜まることがあり、咳や痰の原因
になります。

*2.ツボが出やすい所や狙い目
**2.1. 手の陰経
 先ずは、手の陰経から。触診してみて、膻中より上の症状の
ときは、手太陰に出やすいです。膻中から下の症状のときは、
手厥陰に出やすいです。胸郭内部背中側の症状は、手少陰に出
やすく、特に、心臓に関係する症状の場合には、手少陰の左側
に出やすくなります。

 急性症状が出ているときには、鍼では手首近くを使います。
手平への刺鍼は痛いので。咳なら列缺、吐き気なら内関、不整
脈なら左陰郄など。灸では、手平や指のツボも使います。労宮、
裏合谷、節紋(拇指関節掌側横紋橈側)など。

 症状が長引いている慢性症状のときには、肘近くの上腕より
に出ます。長引く咳には上尺沢。膻中より下の症状のときや中
下焦が原因のときは、上曲沢に出ていることが多いです。

**2.2. 背中(陽位)
 背中側の横隔膜より上の1~2行線、督脈、華佗経に出ます。
慢性期には、2行線や、督脈、華佗経によく出ます。特に、古
いツボは、筋肉の厚い所、華佗経や肩甲骨周りに出ることが多
くなります。

 呼吸器系では、肩甲骨の上半分に多いです。喘息など長期的
な呼吸器系の病では、胸椎3番辺りの華佗経と、 肩甲骨外側の
肩貞に出ていることが多いです。

 心臓系では左肩甲骨の下半分、特に、下角近くに出ます。

 また、水毒や瘀血が原因している場合には、横隔膜より下に
も出ます。中焦の水毒が原因のときは、胸椎7~9~11番ライン
の華佗経や、痞根に出やすいです。下焦の悪血や虚が原因のと
きは、腰椎3番〜仙骨の華佗経や、腰徹腹に出やすいです。

 昔は、胸椎〜腰椎〜仙骨の1〜2行線の兪穴などに出ること
が多かったようです。しかし、現在では、慢性の病の古いツボ
は、胸椎〜腰椎〜仙骨では華佗経に出やすです。そして、肋骨
の無い所では、脊柱起立筋外側の痞根、腰徹腹にも出やすいで
す。

**2.3. 胸腹部
 胸腹部の症状の表面近くにも出ます。 
  
 呼吸器系では中府、膻中と、それを結ぶ斜め線上で、肋骨を
1本上がることに外側に出ます。

 循環器系では左肋骨間で、特に、外下方に出ていることが多
いです。

 水毒や瘀血が原因している場合には、腹部にも出ます。水毒
が原因のときは、中脘、章門など。瘀血が原因のときは、水道
や五枢〜維道の辺りなど。下腹の虚・冷が原因のときは、関元
など。

**2.4.  足の陰経
 中下焦に原因のあるときは足の陰経にも出ます。

 下腹の虚・冷のときには、照海。水毒が原因のときは、地機、
節紋(灸)など。瘀血が原因のときは、蠡溝、中封など。

 慢性期には、足の大腿部にも出やすくなります。詳しくは、
「中焦の病」、「下焦の病」を参照してください。

**2.4. その他
 腹の表面や背中の痼りの関係から足陽経にも出ます。手陰経
のツボの表側の陽経に出ることも多いです。

 下半身に冷えには、足甲の3~4間に出ているツボへの灸が効
果的です。

*3.手順
**3.1. 慢性期
 急性期でもその時点で症状が激しくない場合には、この方法
ですることがよくあります。

 基本的には、ツボを考慮して慢性期の型の順で刺鍼します。
ただ、既に表位に症状が出ている場合(急性症状も出ている時)
には、先ず手甲の合谷などに引き鍼します。

 また、胸上部から鎖骨・喉にかけてツボが出ていることが多
いので、座位で、肩首の後に刺鍼します。それから頭散鍼・手
甲引き鍼で仕上げます。

 必要に応じて、凹んで冷えたり虚したりしている所や華佗経
などにある古いツボに灸・灸頭鍼をし、手の指端の灸で終えま
す。

***灸や灸頭鍼と置鍼での治療
 灸や灸頭鍼と置鍼を組み合わせてもよいです。うつ伏せで背
上部を灸した後に、仰向けで胸周りを灸し、手指端の灸で仕上
げます。

 手指端は目覚ましなので、施灸した後に寝られるときは省略
します。

 表位の症状があるときや原因が水毒・瘀血のときには、それ
ぞれのツボを付け加え、座位→うつ伏せ→仰向けの順で上から
下に施灸します。

***喘息に、慢性期の型と灸頭鍼の併用
 喘息の患者さんには、胸椎3番辺りの華佗経の出ているツボ
への灸頭鍼が効果的で、喜ばれることが多いです。

 この場合は、慢性期の型で診察施術していき、うつ伏せになっ
たら、胸椎3番辺りの華佗経の出ているツボに灸頭鍼をセットし、
それから慢性期の型に戻り、胸椎7から下の背腰足のツボを探し
刺鍼をしていきます。そして、灸頭鍼が燃え終わったら、セット
を外します。それから、座位での慢性期の型をします。

 胸椎3辺りの華佗経に出ているツボに灸頭鍼すると、患者さん
から「胸の中の全体が温まった感じがする」と言われることが多
く、辛さが大幅に少なくなるようです。

**3.2. 応急処置
 急性期は慎重に。救急医療と連携も考慮に入れてください。
見極めが大事になります。

 手甲に引き、手陰経の手首に引き、背に引き、頭に散鍼し手
甲で終えるのが基本です。邪気の動き速いので、刺鍼は速め速
めにします。

 初めに表位に症状があれば、先ず手甲に引き、途中で表位に
症状が出たら、手の陽経に引きます。背に引いた後に肩首に症
状が出たら、肩首に刺鍼します。

 中焦下焦に原因が予想されるときには、背に引いた後で、足
陰経足陽経の順でツボを探し刺鍼します。

 詳しくは、「上焦の急性症状([[術伝流一本鍼no.24]])」に
書きました。

*4.写真付き症例:長引くカゼでセキが続く
 カゼが長引き、セキも続いているという人。

 先ず診察から。脈は、浮で数で弦(写真1)。

&ref(DSCF1964.jpg)写真1


 腹診では、上衝があり、鎖骨周り始め胸が熱く、上腹部はと
ても冷えている状態が目立ちました(写真2,3)。

&ref(DSCF1966.jpg)写真2

&ref(DSCF1969.jpg)写真3

 丹田が虚し(写真4)、足先も冷えている状態(写真5)。
腹の左右を比較すると、左の方が辛い状態でした(写真6)。

&ref(DSCF1974.jpg)写真4

&ref(DSCF1978.jpg)写真5

&ref(DSCF1975.jpg)写真6

 列缺、上尺沢、上曲沢の3つを比較すると、上尺沢の反応が
強かったです。昔から「長引く咳に上尺沢」と言われている通
りだなと思いました。

 上尺沢に刺鍼したら、弾入して直ぐから邪気が沢山出てきま
した(写真7)。これだけ邪気が溜まっていたら、症状が長引
いているわけだなと思いました。初めは刺鍼した周りから、そ
して腕全体から、その後は、おそらく胸からの熱い邪気も出て
きました。刺鍼後、胸の熱さが和らぎました。

&ref(DSCF1982.jpg)写真7

 その後に左腕陽経に刺鍼。

 腹、先ず横腹、次に左下腹の五枢〜維道辺りに出ていたツボ
に刺鍼しました。

 操体の橋本敬三先生が書き残しているように、咳が長引いた
ときには、よく鼠径部に筋張りが出ます。調べて出ていたら、
以下の処置をすると弛みやすいです。

 スジバリに指を当て、押して方向を探し、スジをピンと張る
状態にしてから瞬間脱力し、弛めます(写真8)。吉田流按摩
の筋揉みと似た技法と思います。

&ref(DSCF1989.jpg)写真8

 鍼で弛めるには、逃げないように押手で筋張りの左右を押さ
えてから、皮膚に30度位の斜刺で筋張りの表面にチョンと当
てます。

 次に、臍周りに出ていたツボに刺鍼。そしたら、熱い邪気と
冷たい邪気が両方交互に出てきました(写真9)。初めは熱い
方が多かったのですが、暫くして出なくなりました。そして、
冷たい方が多くなっていきました。冷たい邪気が感じられなく
なったときに抜鍼しました。それから上腹部に触れてみたら、
冷感が減っていました。

&ref(DSCF1990.jpg)写真9

 より温めるため、上腹部に出ていたツボへ補の鍼をしました
(写真10)。補すときには、ゆっくり、大きく、鍼を動かしま
す。

&ref(DSCF1993.jpg)写真10

 撚鍼のときは、ゆっくり撚鍼しながら、ついでに、鍼柄を摩
擦することも付け加えます。指をしっかり当てて撚鍼するので
はなく、半ば鍼柄に指を滑らせる感じで摩擦しながら撚鍼しま
す。

 補の刺鍼に関しては、[[術伝流一本鍼no.78]]体得篇(18)
「真気を呼んで巡らすための鍼の動かし方」に詳しく書きまし
た。

 刺鍼後しらべたら、周りと変わらない温度になっていました。


 また、弦だった脈も弛んでいました。

 足の陰経の地機辺りに出ていたツボへも、補の鍼をしました
(写真11)。

&ref(DSCF1995.jpg)写真11

 足の陽経は、脛骨脇に出ていたツボにサッと刺鍼しました。

 うつ伏せになってもらい、胸椎の左華佗経に出ていたツボ、
左痞根あたりに出ていたツボに、順番に刺鍼しました。

 足への刺鍼は省略し、座位になってもらいました。

 座位では、 先ず、肩甲間部を触診しました。胸椎3あたりの
華佗経が指一本分位の穴が空いている感じに凹んでいました。
胸椎7番あたりのラインに左右並んでツボが出ていて、右が実
で、左が虚でした(写真12)。

&ref(DSCF2004.jpg)写真12

 初めは右側を痛がっていましたが、軽く押したり揉んだりし
ているうちに消えていきました。そして、左の奥にあった縦長
の骨のような痼りが目立ってきました。

 先ずは、胸椎7番あたり左の痼り、左右に逃げないように押
手で左右から挟むようにしてから斜刺で刺鍼しました(写真13)。
骨のような硬さが弛み、弾力が出てきました。

&ref(DSCF2006.jpg)写真13

 胸椎3番あたりの華佗経にツボは、長引く咳のためだと思い
ます。熱、頭痛、項背の強張りが主でセキが余り出ないときに
は、大椎まわりにはツボが出ますが、胸椎3番の華佗経に出る
ことは少なくなります。

 この胸椎3番あたりの華佗経のツボは虚していたためか、抜
こうとすると痛がられるので、弾鍼したりしながら長めに刺鍼
しました。暫くして温まってきたので、抜鍼しました(写真14)。

&ref(DSCF2008.jpg)写真14

 それから、首肩まわり、特に大椎まわりを指を滑らせて調べ、
出ていたツボに刺鍼しました(写真15)。

&ref(DSCF2017.jpg)写真15

 そして、胸の前側。カゼのときは、膻中の脇から肋骨1本上
がる毎に、外寄りにツボが出ていることが多いです。調べたら、
左2か所に出ていました。順に刺鍼(写真16,17)。浅い所なの
で、弾入したら直ぐ横揺らし弾鍼などをし、直ぐ抜鍼します。

&ref(DSCF2019.jpg)写真16

&ref(DSCF2020.jpg)写真17

 胸上部から鎖骨まわり、前頸部などを指で軽くこすり、赤み
が出た所に散鍼しました(写真18)。熱が出たがっている所
です。

&ref(DSCF2023.jpg)写真18

 頭も左が熱かったので散鍼しました(写真19)。

&ref(DSCF2022.jpg)写真19

 手甲は1~2間にツボが出ていました。カゼのようなときに
は、合谷のツボは拇指側に出ていることが多いです。ツボを探
すときに、拇指に押し付けた場合と、示指に押し付けた場合を
比較します。案の定、拇指寄りの方にを痛がっていました。そ
こに引き鍼しました(写真20)。

&ref(DSCF2026.jpg)写真20

 邪気が去り、刺鍼した周りがほんのり温まってきたときに抜
鍼しました。『杉山真伝流』の「邪気の至るや緊にして疾く、
穀気の至るや徐にして和す」という感じを味わえ、面白かった
です。

 カゼの場合でも、症状が重く、座位が辛いときには、座位で
したことも、うつ伏せなど寝た姿勢でします。


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