悠久の車輪
【ゆうきゅうのしゃりん】
ジャンル
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トレーディングカードアーケードゲーム
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対応機種
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アーケード(Taito Type X2)
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発売元
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タイトー
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開発元
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タイトー スクウェア・エニックス
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稼働開始日
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2008年3月11日
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プレイ料金
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3プレイ600円 5プレイ800円設定も可能
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判定
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なし
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ポイント
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個性的なゲームシステムとキャラクター達 中期以降のパワーインフレと調整放棄
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概要
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タイトーとスクウェア・エニックスのトレーディングカードアーケードゲーム。
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筐体はメイン画面のほかにカードを置くプレイスクリーンにも映像が表示されるものであり、『LORD of VERMILION』(以下LoV)にも流用されている。
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ちなみに悠久の車輪の稼動前に『スクウェア・エニックス初のアーケード用オリジナルゲーム』との謳い文句でLoVが発表されたことから、一部ではLoVの噛ませ犬として開発されたとの噂もある。
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販売がタイトーだった為、LoVが開発も販売も『純スクエニ』という点を鑑みれば上記のうたい文句も正しい。
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LoVはセガの三国志大戦とコラボをしているが、親会社と子会社というのはやはり複雑な関係なのだろうか?
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プレイヤーは『車輪』と呼ばれる強力なマジックアイテムを持つ『召喚士』として、後述の『召喚獣』とユニットを操り戦う。
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敵召喚士の体力を先に0にするか、制限時間の300秒終了時に相手以上に体力を残していると勝利になる。
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召喚獣は初期6種(後に3種類が追加)存在し、通常のユニットをはるかに凌ぐ能力を持つため基本的に敵召喚士へのダメージソースを担うことになる。(召喚獣⇔ユニットの攻撃やユニットによる召喚士への攻撃も可能)
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召喚獣の体力は時間経過や攻撃を受けることで減少し、0になると消滅するが再びゲージを貯めれば召喚できる。
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召喚士の体力が30%以下になると召喚獣の潜在能力が発動し、味方全員を回復、敵全体を引き寄せるなど強力な効果を発揮する。
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ユニットはエレメンタルと呼ばれるオブジェクトを製造することができ、このエレメンタルを結んで図形を作ることで、召喚獣の召喚に必要なゲージを溜めることができる。
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このため、いかに相手のエレメンタルを破壊し味方のエレメンタルを生成するかが重要になる。いわゆる陣取りゲームである。
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ユニットは機動力に優れるシーカー・戦闘能力に優れるキーパー・遠距離攻撃可能なマスターの3種類に大別され、シーカーはマスターに強く、キーパーはシーカーに強く、マスターはキーパーに強いという三竦みが成り立っている。
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また、一部を除くユニットは時間経過の応じて使用できる「アビリティ」と自動で発動する「スキル」を持っており、このアビリティとスキルの使い方が戦闘の肝となる。
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ユニットは平地の人間王国アルカディア・火山のゴブリン族グランガイア・森のエルフ&獣人連合国シルヴァランド・海の人魚&魚人商業国スケールギルド・砂漠の人間竜騎士国バハムートロア・不毛の地の不死者国ネクロポリスの6国に所属している。
賛否両論点
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自由すぎるデッキ構築
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サイドデッキシステム
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全てのカードは6つの勢力のいずれかに所属している。(一部複数国家に所属するものも)
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だが、このデッキを一つの勢力で統一することのメリットは特になく(一部国家限定のアビリティもあるが)、逆に分散することのペナルティも特にない。
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また、ゲームをプレイしていると上がるプレイヤーレベルが一定以上になると、本来10レベルまでしか登録できないデッキが最大15レベルまで登録できるようになり、相手のデッキに応じて10レベルまでのカードを戦闘前に選べるようになる。
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そのために幅広いデッキ・戦略の構築が可能となっているが、一方で低レベルで優秀なカードはどんなデッキにも入るので、カード使用率が優秀なカードに大きく偏る結果となった。
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カード排出停止とレアリティ「EX」追加によるカードプール圧縮
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4thエキスパンション以降、一部カードが排出停止になりプレイヤーを困惑させたが、排出停止になったカードの一部は同じ能力のままデザインが変更されEX(エクストラ)として排出されることになった。
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これにより新カードの排出されるC・UCのうち、新カードの比率が高まることになった。一方でシナリオの分岐に必要なカードもEXとして排出の道を残すことになった。
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だが、一方で排出停止になったR・SRは基本的に同じ名前キャラクターの別能力カードが排出され、同じ能力のカードは完全に排出されなくなったため入手が困難になってしまった。
評価点
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豊富で個性的なキャラクター
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バリエーション豊かなキャラがそれぞれ個性を持っており、台詞の多さも併せて愛着が持てる。
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そのため、後述のパワーインフレにお気に入りのカードが取り残されることへの批判も増えたのだが…。
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イラストもメインビジュアル担当の吉田明彦を始め、小林智美やうたたねひろゆき、天野喜孝にいのまたむつみと非常に豪華な顔ぶれが揃っている。
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一方で猫娘(厳密にはワーパンサー)やメイドなど、あからさまに狙いすぎたカードイラスト故に入り込みにくかった層もいたようだ。
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ただ、イラストの人気は未だに高く、カードはオンラインサービスが終了した今でも高値で取引されている。ファンからは「画集を発売してくれ」という意見もあるほど。
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グラフィックの作り込み
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表情がお面みたいという評価もあるが、各カードの服装や装飾品までしっかり作り込まれたグラフィックは非常に質が高い。
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前述の豊富なイラストレーター陣のキャラデザインを有効活用していると言えるだろう。
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ちなみに戦闘中は上画面を見ることはあまりないのだが、モーションも目茶苦茶細かく動いている。
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背景世界設定の作り込み
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ゲームの舞台となる世界「ツインガルド」の成り立ちを始め、バックグラウンドの設定が非常に緻密である。
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設定資料の多さは、電撃アーケードカードゲーム誌で各国毎の設定資料特集が計6回も組まれたことからもその深さが分かるだろう。それだけの回数とページ数を用意しなければならないほど、設定がぶ厚いのである。
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ナンバー対戦モードの実装。
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4桁の番号を入力することで、同じ数字を入力した相手とだけマッチングが行われるモードである。
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遠隔地のプレイヤー仲間と容易に対戦ができるため、SNSや掲示板などでの交流が促進された。
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アーケードカードゲームとしては画期的な試みだったと思われる。
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シナリオモードのボリュームが非常に豊富。
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初期シナリオだけで6ルート(合計56ステージ)+外伝と膨大な量のステージが存在する。
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その後もカード追加に併せてシナリオが追加され(全274ステージ)、シナリオ専門のプレイヤーも存在した。
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しかし、後の難易度上昇によりシナリオを追うことが非常に難しくなってしまったという負の面も存在する。
問題点
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三竦みの機能不順
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前述の通りシーカー・キーパー・マスターの三兵種による三竦みが基礎として存在するのだが、一部のシーカーは同じレベルのキーパーとのタイマンでも勝ててしまう程戦闘能力が高い。
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シーカーはキーパーと違いその場で回復することができないが、味方召喚士付近ではユニットの体力が回復するので、移動力を活かし素早く補給に戻れば前線維持能力もキーパーに大きく劣る訳ではない。
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そのため、相対的にキーパーの存在意義が減り、ゲームバランスが偏りがちとなった。
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稼働初期のカード排出率の偏り
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貴重な順にSR・R・UC・C(4thエキスパンションでEXが追加)という4種類のレアリティのカードが存在するが、稼働最初期の排出率は50枚中SR1枚・R3枚・UC8枚・C38枚という非常にC排出率の高いものであった。この排出率の悪さは50枚中SR1枚・R2枚・C47枚のLoV稼働最初期と共にしばしば語り草となっている。
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後に1stエキスパンションで改善されることになるが、目新しさに惹かれたプレイヤー達、特に『三国志大戦』からの移民組を逃してしまうことに繋がった。
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対人のマッチング仕様
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対人戦の結果によりRP(レートポイント)が上下し、RPの近い者同士でマッチングされるようになっている。その仕様自体に特に問題はないのだが…。
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RPの初期値が問題で、最初に与えられるのは1600。この値は最底辺ではなく、実はむしろ中級者程度のプレイヤーがひしめくランクである。最初に与えられるRPがあからさまに高すぎるため、資産も経験も積んだ中級者以上にいきなり当たってしまう可能性が非常に高いのだ。
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当然初心者ではとても太刀打ちできる訳もなく、まず負ける。さらにLv10未満の場合RP変動に補正がかかりほぼ値は変動しないため、lvが10以上になり適正RPに落ち着くまで連敗を重ねることとなる。
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連敗続きに心を折られた初心者(特に、遅れて入ってきた人ほどその傾向が強い)が離れていくという結果となった。
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4thエキスパンション以降のカード能力インフレ
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アップデートでの能力調整の放棄
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TCAGと非電源カードゲームの大きな違いの一つに「カードに書いていない能力値をオンラインアップデートで変更できる」というものがある。
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初期は強いカードの弱体化調整なども行われており、特に3rdエキスパンションで追加された一部カードが開発サイドの予想外の使用方法で大暴れした際は、追加から数日でカード使用停止の措置が取られ、その後ひと月ほどで修正されるなど、かなりしっかりとした対応が為されていた。
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だが、4thエキスパンション以降内部数値の変更による能力の調整が殆ど行われなくなり、強いカードを更に強いカードで塗りつぶす形でバランス調整が行われるようになった。
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そのため、初期バージョンのカードの多くが産廃同然になってしまった。
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非電源カードゲームでは新発売のカードが既存カードより弱ければ当然売上も伸びないため、このような手段でのバランス調整も比較的よく見られる手法であるが、TCAGでは当然この手段は受け入れられなかった。前述の通りこのゲームは各キャラごとの特徴・性格づけがかなりしっかりとしており、特定のカードに愛着を示す人が多かったのも受け入れられなかった大きな原因である。
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これは開発に参画した「遊宝洞」が非電源カードゲームを主に制作している会社であり、TCAGの経験が乏しかったことに起因すると思われる。
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また売り上げの滞りにより、既に遊宝洞などに調整を依頼する資金すら満足に用意できなかったという話も聞かれる。
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結果、対戦バランス崩壊による人離れを引き起こした。
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後に電撃アーケードに載った本作の歴史を振り返る企画でも、この点が大きな問題とされていた。
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追加カードの能力インフレによるバランス崩壊という点では、ver.1時代のLoVでも似たような現象を抱えていた。やはり上記と同様、当時のスクエニにTCAGの経験が乏しかったことが原因だろう。
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外伝シナリオの難度と解放条件
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シナリオモードの裏シナリオ、所謂外伝シナリオに進むにはシナリオの特定の章で特定のカードを登録する必要がある。
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しかし、外伝解放に必要なカードは最高レアリティのSRであることも多く、更に難易度も表シナリオに比べ非常に高い。
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これに加え公式カードバインダーに付属しているカードが必要な外伝もあり、バインダーの生産数の少なさもあって多くのプレイヤーを涙させた。
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ただしこれはシナリオの先行解放であり、次エキスパンション以降は互換する排出カードでもシナリオの解放が出来るようになっている。
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更にシナリオの内容自体も物語の謎に大きく関わるものもあり、後のシナリオでそれ以前の外伝シナリオをクリアしていること前提で話が進んでしまうなど、シナリオを追うための労力が非常にかかる。
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シナリオモードの異常な難易度
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初期シナリオの終盤・外伝の難易度が高かったためか2ndエキスパンションより、『同じシナリオで連敗すると敵が弱体化する』というシステムが追加された。
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だが、それ以降に追加されたシナリオは連敗数が二ケタを超えないと一方的に虐殺されるという異常な難易度になり、『1ルートクリアするのに数千円投入はざら』という状況に。弱体化させないとクリアできないというのではせっかくの救済措置も本末転倒であり、あからさまな拝金主義と揶揄されても仕方がないところである。
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LoVや戦国大戦では難易度の選択ができるのだが、悠久の車輪にはそれがない。また、悠久の車輪はハンドスキルが殆ど介在しないため前者2つと違ってハンドスキルで高い能力の敵CPUをいなす事ができず、その上CPUの思考ロジックがやたら優秀なため穴を突くということもできない。連敗する事による敵弱体化の恩恵は能力の低下よりむしろ敵ユニットが時折意味も無く立ち止まることにあると言える。
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さらにシナリオ展開そのものの出来も、7thエキスパンションではそれまで圧倒的不利な状況に陥っていた味方サイドが怒涛の反撃で敵軍を壊滅させるなど、打ち切り漫画さながらの急展開なストーリーとなっており、プレイヤーに終末感を強く感じさせるものとなった。
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ただし味方サイドの逆転への布石は丁寧に語られており、理不尽なストーリーではない。敵軍の殆どは味方を洗脳したもので、元々敵軍であった人物はあまり多くない。味方サイドの解呪の能力者を封じていた兵器を、とある人物が一つの国と自らの命を犠牲にした大芝居をうって破壊したことが逆転のきっかけとなっている。布石の多くが上記の超高難度の外伝によって語られているのが問題なのだが……
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結果、パワーインフレをそこまで気にしないであろうシナリオ専プレイヤーも徐々に遠ざかることになった。
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抽選によるキャンペーン
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本作では過去三回、プレイヤーに対するカードプレゼントキャンペーンが行われた。
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一度目は排出ピロー20枚で「獅子竜アルビレオ」・二度目はピロー40枚で「堕天使アスモデル」が応募者全員にプレゼントされた。応募方法は空ピローそのものを封筒に入れて送る方式であった。
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だが、4thエキスパンションで行われた三度目の「戦闘用メイドブラックベリー」はピロー10枚一口の応募で、1000名に対して抽選で配布された。応募方法もピローに印刷されているメーカーロゴを葉書に貼り付けて送る方式に変更された。
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過去の二回が全員配布だったこともあり、このキャンペーンの人数の少なさは多くの批判を生んだ。しかもこの「ブラックベリー」は通常排出カードとの互換が一切ないこともあってカードショップでのブラックベリーの価格は高騰することになった。
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ちなみに三国志大戦3の似たようなキャンペーンでは抽選で13594名。それにプレゼントされるカードは排出されているカードとイラストが違うだけのコンパチであったので、外れても大きな問題にはならなかった。
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通常互換がないカードのプレゼントキャンペーンがあった戦国大戦でも3枚セットで11059名に当たるようになっており、それと比べるといくらなんでも少なすぎる。
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これによりカードのコンプリートを諦めて去って行ったプレイヤーも少なからずいたようだ。「ブラックベリー」はその名前の通りメイドキャラであり、いわゆる萌え系イラストであったことも「どうしても欲しいのに、手に入らない!ふざけるな!」という怒りを買ってしまった一因だろう。
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現在でも「最悪のキャンペーン」と蔑むプレイヤーも多くおり、他のゲームでカードプレゼントのキャンペーンが行われるということになると「こうはならないでくれ」という例として話題にあがるなど、なお悪い印象を残してしまっている。
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もちろん前期のキャンペーンは「最高のキャンペーン」と賞賛するプレイヤーが多く、「ぜひこのようにやって欲しい」という例として挙げられることが多い。カードゲームである以上、人の収集欲を満たせる、誰にでも欲しいものが手に入る『ある程度の、可能性の保証』はやはり必要なのだ。
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全員プレゼントが出来なくなった理由もまた、売り上げの滞りによる資金の枯渇が原因という話も聞かれる。
総評
ゲーム性や設定の深さなど、悠久の車輪は下地だけならばTCAG内でそれなりの地位を確立できるものを持っているゲームだった。
だが、広告の少なさや身内であるはずのスクエニから稼働開始後まもなく『LoV』が登場したこと、初期のSR・R排出率の低さで顧客を逃してしまった。
更に残ったプレイヤーも4thエキスパンション以降のバランス崩壊、サービスの低下により徐々に離れていってしまった。
素材はよかったがそれを活かし切れなかった、非常に惜しいゲームであると言えるだろう。
余談
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本作の(悪い方向への)転換期である4thエキスパンション時にプロデューサーが代わっており、プレイヤーからは全ての元凶として忌み嫌われている。公式ブログの最終回にて自らが携わったゲームのカードを『紙屑』と称するなど、実際プロデューサーとしては問題のある人物だったようだ。
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2011年8月31日をもってオンラインサービスは終了し、現在はオフラインでの稼動となっている。そのため今後稼動店舗が増えることはなく、黄昏時を迎えている。もし見かけることがあったら、こういうゲームも存在したのだな、と心の片隅に止め、語り草にしてやって欲しい。
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2015年9月末、最後の稼働店舗の閉店を以って日本全てのゲーセンから姿を消すこととなった。
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2017年5月、遊宝洞開発のスマホTCG「ピリオドゼロ」にて本作とのコラボキャンペーンが行われた。本作と開発スタッフが大きく被っていた故のまさかのコラボであり、スタッフのコラボに至るまでの並々ならぬ情熱が裏話にて語られていた……が、不幸にも同月「ピリオドゼロ」はサービス終了の憂き目に……
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2018年4月、稼働中度々特集を組み懇意にしてきた電アケ総研(雑誌からWeb配信に媒体を移した元電撃アーケード)により悠久の車輪10周年記念の生放送が配信された。稼働終了から6年半、終了したコンテンツだけで2時間以上のトークに花が咲いた事は悠久の車輪が多くの人に愛された何よりの証となるだろう。
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鬱ゲーとしての本作
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一見するとメイドやダンサーといった萌え系キャラがちょっと混ざったオーソドックスなファンタジーのように思えるのだが、シナリオモードは主人公のアレキサンダーが血みどろの戦争を繰り広げるといういかにもタイトーらしい内容である。
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踏んだり蹴ったりな不幸に巻き込まれていく主人公を初めとして、悲惨な運命を辿らされるキャラが多い。
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小説版では飛び出た内臓で縄跳びをさせるといった残虐なシーンも存在している。
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上記のような見た目以上に残虐なストーリーと、萌え系イラストの多いカードイラストでわりと人を選ぶ作品でもあった。
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最終更新:2021年03月10日 07:38