五分後の世界
【ごふんごのせかい】
ジャンル
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サウンドノベル
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対応機種
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プレイステーション2
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発売元
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メディアファクトリー
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開発元
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ロケットスタジオ ハ・ン・ド
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発売日
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2001年8月2日
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定価
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5,800円(税別)
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判定
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なし
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ポイント
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オリジナリティ溢れるSFサウンドノベル スキップがないなど不親切なシステム
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概要
『かまいたちの夜』『街』などでおなじみのサウンドノベル。
本作は作家である村上龍氏の代表作『五分後の世界』の世界観をゲーム化した作品。
ただし、本作は原作小説での描写から何年か経過したオリジナル設定となっている。
小説版『五分後の世界』の主人公であるオダギリ・アキラが登場するなどのファンサービスもある。
内容
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第二次世界大戦が終結した2000年以降も未だに戦争を続けている「現代から5分だけずれた、パラレルワールドの日本」が舞台となっている。
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この世界の日本は原子爆弾投下後も無条件降伏を拒否し、引き続く各都市への原子爆弾の投下、本土決戦による大量殺戮を受けて崩壊分割統治され、北海道、東北の一部、北陸の一部、紀伊半島、中国、四国、九州は他国の支配下にある。
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それに対抗すべく、海外の戦地から帰還した少数の将校が旧長野の地下大本営を極秘に増強し、司令部を移した。そして、本土を植民地化している国連軍に対してゲリラ戦を仕掛け日本奪還を夢見ている。
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そして「地下の日本」を人々は「UG(アンダー・グラウンド)」と呼ぶようになった。
特徴
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主人公は総勢7名。5分前の世界(つまり、我々の住むこの世界)の高校生である「サカキ・サトル」を中心にヤエガシ・カツナリ、タケウチ・ナルミ、ノーマ・アイカワ、S・コウモト・ウェラー、ケイト・マイヤー、ジャック・マクダネル。
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最初は「サカキ」しか選択できないが、特定の選択肢によって他の主人公に出会うとその主人公の物語が解放される。
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「サカキ」は8章まであり、他の主人公は「4章」までである。
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章ごとに選択肢を決めてセーブすることで次の章を読むことができる。
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各章の番号には色付けがなされており、未読は「赤」に、シナリオの変化が発生したため再読の必要がある場合は「黄」に、既読は「青」になる。
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各主人公の行動が他の主人公のシナリオに影響を及ぼす。『街』『428 ~封鎖された渋谷で~』と同様の方式、と言えば分かりやすいだろう。
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どれだけシナリオを読み進めたかは、シナリオ選択時に確認可能な進捗率で知ることができる。
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ヒストリカルファクト
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各主人公のシナリオをどれだけ読み進めたかにより、画面上部にゲーム進行とは関係ない枠が表示される。
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その時点で既読となっているシナリオに対応した概略やレポートなどが記述されており、別の視点から物語を楽しめるようになっている。
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なお、こちらについては章番号のような着色は行われず、読まなくてもゲーム進行への影響はない。
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エピソード
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各主人公のシナリオの内、特定のイベントについては「エピソード」という形で内容を振り返ることができる。
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未経験のエピソードがある場合は空欄で表示されるため、未読シナリオの発見に役立つ。
評価点
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架空の日本を舞台にしたSFサウンドノベル
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日本におけるサウンドノベルゲームはどうしてもホラーなどのジャンルが多いのだが、本作は架空の日本で繰り広げる戦闘・哲学・軍事・SF要素などを織り交ぜた作品になっている。「サウンドノベルゲーム」としてのオリジナリティは極めて高い。
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また原作の独特の雰囲気も忠実に再現されている。
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かといって原作小説を読んでいなければ話についていけないということはなく、最初に遊ぶことになるサカキ編のストーリーで世界観、歴史、文化など必要な情報についてはタイミングよく説明される。
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ボリュームが豊富
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全主人公のシナリオを一通り終えたとしても、進捗率20~30%程度であり、他のサウンドノベルと比べてもボリュームが豊富。
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後の70~80%は選択肢を変えたり、ビュークリックを成功もしくは失敗する、何もしない、または主人公や重要人物を死亡させる、拘束させるなどすると現れる。
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ちなみに100%を達成したプレイヤーは、現在でもネット上ではほとんど報告されていない。
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個性的な登場人物たち
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どの主人公もキャラ設定がよく練りこまれており、シナリオを進めていくとどんどん愛着が湧くように作られている。
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その他の脇役たちもしっかり作られており、たとえば誰々と誰々が実は知り合いなど裏設定も多い。
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影響するシナリオ
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各主人公の行動によって生じた影響が、他の主人公のストーリーにも出ることが多い。
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分岐によっては2人の主人公が共闘あるいは敵対するなど、様々な変化を楽しむことができる。
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良質なBGM
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世界観や場面の雰囲気にマッチしており、評価が高い。特に作中で愛される天才音楽家にしてUGの一員のワカマツの曲は印象的。
賛否両論
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問題が解決されないシナリオ
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各主人公は様々な問題を抱えるが、それが概ね解決されない。
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「最後は黒幕が消える」というような展開ではなく、後味が悪かったり、すっきりしなかったり、淡白な展開だったりすることが多く、ハッピーエンドの大団円を期待すると肩透かしを食らう。
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だが原作の雰囲気を考えるとこれがベストという意見もある。
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ビュークリック
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シナリオ中に、各主人公に瞬時の判断を行わせるビュークリックというイベントが挿まれることがある。
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プレイヤーはムービー上に表示される照準を動かし、一定時間内に何をするかを決定する必要がある。要はQTEのようなもの。
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イベント内容は要人暗殺や選択など様々だが、緊張感ある世界観を演出している。
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その一方で、シューティングのように瞬時に照準を合わせるような操作が苦手な人にとっては、極めて厳しいイベントであることは否定できない。
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また要人暗殺ではターゲットの顔を事前に教えてくれないなど、どこに照準を合わせればよいのかが分かりづらいといった批判もある。一応、ターゲットにカーソルを被せるとカーソルが緑から赤に変わるなど変化はあるが、それを見つけるまでが大変。
問題点
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既読スキップ機能がない
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ADVに必須とも言える既読スキップ機能はなく、再読する際に既読部分の文章を何度も見る羽目になりストレスが溜まる。
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また選択肢によっては、他の主人公に影響を与えて再読する形になるのだが、場合によっては展開が微妙に変わっただけのシナリオをもう一度読まなくてはならない。もしスキップがあれば、変わった部分だけ見て済ませられるだけに悔やまれる。
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一応△ボタンを押すと既読文章を早送りできるが、それも一画面分の文章を表示した時点でストップしてしまう。ページ送りをするにはいちいちボタンを押さなければならない。また既読部分でも早送りできない文章がある。
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章の終わりに選択肢を確定するかどうか選ぶことになるが、選択を確定しないで選ぶと、スキップもできない同じ文章を読む羽目になる。
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選択肢を変えるのが面倒
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同じサウンドノベルゲームの『街』では、選択肢部分まで飛べるよう配慮されているのだが、本作にはそうした配慮などない。いちいち分割したシナリオを一から読まなくてはならない。
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また選択肢を変えるのは未読や再読のない状況になってからで、途中で選択肢を変えることはできない。
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ストーリー展開に矛盾を出さないようにするための措置とはいえ、プレイヤーからすれば面倒この上ない仕様である。
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正規ルートが分かりづらい
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この手のゲームにありがちなBADENDと明確に分かるような判断材料がなく、たとえば主人公が死んだり、拘束されたりしても全てENDで固定される。
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そのため到達したルートが正規のものなのか、それとも間違えてしまったのか判別がしづらい。
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CGグラフィックがいまひとつ
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PS2ということを考えてもグラフィックがいまひとつ。特に髪は目に付く。
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ムービーと立ち絵に使用されるCGはあまり似ていない。
総評
SFサウンドノベルゲームという点だけでも、その独自性は極めて強い一作。
原作に忠実な世界観は評価が高く、ボリュームの多さも申し分ない。
しかしながらスキップ機能がないなどUI面に不備が多く、良作という評価を下すには若干厳しいものがあるのもまた事実。
とはいえ村上龍氏のファンや、原作小説が好きなプレイヤーなら迷わず手に取ってしまっても損はないだろう。
余談
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原作小説の続編である『ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界2』で描かれた事件についても、本作中で少し触れられる。
最終更新:2023年04月29日 06:13