雨格子の館

雨格子の館 一柳和、最初の受難

【あまごうしのやかた / いちやなぎなごむ さいしょのじゅなん】

ジャンル 本格派推理アドベンチャー

対応機種 プレイステーション2
発売元 日本一ソフトウェア
開発元 フォグ
発売日 2007年3月8日
定価 6,800円(税別)
レーティング CERO:B(12才以上対象)
廉価版 The Best Price:2008年3月6日/2,800円(税別)
判定 良作
一柳和の受難シリーズ
雨格子の館 (Portable) / 奈落の城 一柳和、2度目の受難 / 氷の墓標 一柳和、3度目の受難

概要

閉鎖された館内での殺人というありふれた題材のゲームだが、殺人を防ぐという事に焦点を当て、その為の行動の自由度も高い珍しいゲーム。

ストーリー

ごく平凡だが不幸・不運の類に見舞われやすい大学生 一柳和は、夏休み中のバイト先が火事で全焼するという不運に見舞われ、帰宅がてら山道をドライブしていた所、大雨に遭って道に迷ってしまう。
和は山中に洋館を見つけ、雨宿りさせてもらおうと洋館の入り口を探していたが、そこで死体らしきものを発見し、気絶してしまう。
次に和が目を覚ますとそこは洋館の中で、「帽子屋」と名乗る覆面脚本家が手掛けた映画撮影のために俳優たちが集められていた。
俳優同士の相談の結果、和を一晩泊めてくれることとなったが、和が先ほど見たはずの死体は跡形もなく消えていたのだった。

システム

  • 基本的にはコマンド選択式ADV。
    • 未読か既読かの情報は個別のセーブではなく、システムセーブにまとめて記録される。ただし、オートセーブではなく、個別のセーブを行うごとに合わせてシステムセーブも書き換えられている模様。
  • シナリオはマルチエンド
    • プレーヤーの活躍により、第2・第3の犯行を防ぐことがゲームの目的。
  • イベントとイベントの間は、何らかの行動を起こすと時間が経過する*1
    • この間は、残り時間を示すゲージが表示されており、残り時間がなくなると次のイベントが強制的に発生する。
      • プレーヤーの行動次第では、制限時間に至るまでに別のイベントが発生することもある。
    • 行動の種類によって経過時間が異なる。
      • 本を読むと多くの時間を消費する。移動にしても、館の階をまたがるような移動は通常の移動より時間を消費する。
      • 書斎には多量の書籍があり、手当たり次第に読むとどんどん時間が経過する。しかし、何冊かは読まなければ事件解決には至らない。
    • 事件と関係のないところを調査したり、何も情報を得られない会話でも当然時間を消費する。このため、行動を最適化する必要があり、コマンド総当たりが制限されている。
  • 登場人物には主人公への信頼度が設定されている。
    • 登場人物からの信頼度が高くなると自室に入れてくれたり質問できる回数が増えたりと捜査に有効になる一方、怒らせたり警戒されるとろくに話してくれなくなる。
  • 一部機能は特定の場所でしか行えない。
    • アリバイを確認する表は、犯人に警戒されないために自室でしか参照及び編集できない。
    • 次の事件の見立ての予想は、元となる本が置かれている書斎で1日1回しか行えない。

評価点

  • 殺人の防止をゲームシステムに盛り込んでいる事
    • 行われてしまった犯罪の謎解きを行うのは通常のミステリー物と同様だが、本作では事件を看破する事で殺人を阻止できる
      • 犯人が誰かが分からずとも次に狙われる人物が分かるだけでその殺人だけは防ぐことができる。基本的にミステリーゲームは殺人は成功するのが前提であり、その上で犯人を捜すのが基本となる為、このようなシステムは非常に画期的。
      • とはいえ、防止できた場合には本来行われるはずだった犯行の謎解きがなくなるわけでもあり、謎解きが減ってしまうという側面もある。
    • ただし最初の殺人が行われた事で話が始まる為、最初の殺人だけは防ぐ事ができない。
  • プレイヤーによる「推理」をゲームシステムにうまく盛り込んでいる。
    • 上記の通り推理次第で犯罪防止ができる事もそうだが、制限時間のシステムにより、本の中にある情報を優先して捜査するのか、聞き込みを優先して捜査をするのかといった事もプレイヤーに委ねられており、プレイヤーの行動を捜査に反映できるシステムになっている。
    • 好き嫌いの出る主人公の性格だが、それもこのゲーム性に一役買っている。
      • 非常に消極的な性格だけに、事件解決に向けてプレイヤーの意思を放置で勝手に捜査するといった事はしない。これもありプレイヤーが自分で捜査をしている感覚が強く感じられる作りになっている。
  • 犯人の犯行を止める方法がユニーク
    • もちろん、犯人を捜し出して説得することでゲームエンドなのだが、犯人が分からなくとも犯行を妨げる方法がある。
      主に、「次の標的となる人物を特定する」「見立て殺人が成立しないようにする」「次の標的となった人物へ危険を警告したり、和が見張りをする」といった手段で犯行を妨げることが可能。
      • 和以外の登場人物は本名ではなく映画の役名で呼び合っているという設定であり、洋館の温室には1日ごとに殺害予告として次の標的となる人物の役名を示す「物品」が置かれる。
        役名はとある推理小説シリーズのゲストキャラクターから取られており、該当する本を書斎で読むことで和が次の標的に気付くことが可能になる。
      • 本作の犯人は「見立て殺人」に固執しており、見立てのために使える「物品」を館の中から探し出して犯人より先に全て入手すれば、ひ弱な和が見張りをしているだけといった警戒の薄い状態でも犯行を諦めてしまう。
      • 次の標的となった人物への警告では、主に「その人物に危険が差し迫っていることを示す根拠」を示しながら説得する必要がある。
      • 殺人阻止には各事件ごとにいくつかの条件が設定されており、「標的の特定」「見立て阻止」「警告・見張り」のうちどれか1つにミスがあってもリカバリーが可能な場合もある。
  • やりこみ要素
    • 基本的に事件解決に失敗すればするほど通常のミステリーのような連続殺人物になり、それぞれの事件に対する解決策を見つける事で被害者を減らして行く事も出来るため、事件の謎を解くことに対する報酬もしっかり用意されておりやりこみがいがある。
    • 条件を満たすと特殊なルートに入る事もでき、トンデモ解決方法を見ることもできる。

賛否両論点

  • 主人公のキャラクター
    • 主人公のキャラクター性が非常に癖が強い為、その好みが強く出やすい。
      • 前述のとおりゲームシステムに合っており、そのキャラクター故にファンもついている。
      • ただ主人公なだけに終始付き合わされることになり、周回プレイを前提にしたゲームデザインからも合わない人にとっては延々うんざりさせられる事になる。
  • 自由度の高さからくるゲーム難易度の高さ
    • プレイヤーによる捜査を意識したゲームだけに出来ることが多く、その上で時間制限もある為、プレイヤー自身の捜査能力が反映されるゲーム性になっている。
      • その為、1周目は情報不足から犯罪を止めきれない事が多い。
    • 推理が苦手な人でも周回プレイで情報を積み重ねていけば自然に解決出来るようになっているので、理不尽なゲーム難易度というわけではないが、今までのミステリーゲームがゲーム難易度自体は低めだったり総当たりでの解決をできる事が多かったため、このゲーム性を難しく感じた人も多い。
      • 特に最高ランクであるSランクのエンディングを見るためには、犯人の正体を突き止めるだけではなく、阻止できる殺人を全て防ぎ、更に犯行動機に繋がるいくつかの情報を揃えておく必要がある。
        限られた行動時間の中で必要な条件を全て満たさなくてはならないため、「犯人の正体が既に分かっている」というアドバンテージがある2周目以降のプレイでも、ヒントなしでSランクに到達するのは相当難しい。
  • 信頼度による情報入手量の変化
    • 仲良くなり相手の信用を得る事で訪問時の質問数が増え、逆に信用を落とすと会ってくれなくなる等、システム自体は面白く良くできているが、このシステムの所為で捜査が面倒にもなっている。
      • 初期状態では1度の訪問で1つの質問しかできず、序盤程聞きたい事がたくさんあるのに一々何度も訪問しなおさなければならない為、捜査が面倒なシステムにもなってしまっている。
  • 推理物としてはアンフェアな情報集めが必要
    • 真相EDへ向かう為には、犯人に対して動機に関わる人物の情報を事件が起きるよりも前に聞く必要がある。
      • 「もしあの時点でこの情報を聞けていたら」という本作のシステムの魅力を活かした形ではあるが、一つの物語としてみるとこの時点でその点を聞くのは不自然でもある。

問題点

  • セーブ&ロードによる情報集めに付属する問題
    • 特定の個所でセーブ&ロードを繰り返して情報を集め、場合によってはそれ以前のセーブデータからやり直すといった事が多くなるのだが、一部の人物の発言は何度も見るとストレスが貯まるような物もある。

総評

ミステリにおける「ここをこうしてたら殺人を防げたのでは」「もしあの時点でこのことを知っていれば」といった、誰もが想像する事をゲームとして形にした意欲作。
捜査の自由度が高い分、真相に辿りつく為の難易度は高くなっているが、様々な情報を集め、それを元に自分で推理するゲームデザイン。
さらに、その推理を元に殺人事件を防げるというのは他のミステリゲームにはない魅力だろう。
とはいえ、1作目だけにまだまだ粗削りな面も残っている。

余談

  • 本作の主人公は不幸に見舞われやすいとあるが、案外強運な面もある。
    • ゲーム開始直後に執拗に車を探すと崖から落ちるが、無傷で済んだり等。

その後の展開

  • 続編『奈落の城』が発売され、それと同時に本作のBEST版が発売された。
    • この際、2作目に合わせ「一柳和、最初の受難」というサブタイトルが付けられた。
  • 後にプラットフォームをPSPに移行し、3作目『氷の墓標』が発売された。
    • それに合わせ、既存の2作もPSPに移植された(詳細は下記)。

雨格子の館 Portable 一柳和、最初の受難

【あまごうしのやかた ぽーたぶる いちやなぎなごむ さいしょのじゅなん】

ジャンル 本格派推理アドベンチャー
対応機種 プレイステーション・ポータブル
発売日 2009年9月17日
定価 4,980円(税別)
配信 2009年12月17日/2,263円(税8%込)
判定 良作

概要(PSP)

PS2用に販売されていた『一柳和の受難』シリーズの1作目の移植。

PSP版変更点

  • チュートリアルの強化
    • 既読フラグがあるらしく、2周目には省略されるものもある。
  • Easy Modeの追加
    • 重要なキーワードを含む情報に効果音が付く。
    • 情報画面内で、重要なキーワードだけ色付けされる。
      • そのキーワードをいつ誰に使うべきかは判らない。
    • 調査モード中に、カーソルが重要な「物品」に近づくとカーソルの色が変化する。
      • こちらはキーワードと違い、ゲーム進行と連動している。のちに必要となるが、その時点では重要ではない部分はカーソルの色が変わらない。
    • ゲームオーバーの際、ヒントが表示される。
  • シナリオ追加
    • 那須エピソード
      • 公式からは、2周目以降にある条件を満たすと現れるとアナウンスされている。
  • イベントCG追加
  • メモ機能の追加
    • システムが自動で追記するタイプのメモで、ようするにヒントである。

評価点(PSP)

  • Easy Modeの追加
    • 自由度が高い分だけ難易度の高かったゲームだが、この機能の追加で謎解きよりもシナリオを楽しみたい人にも楽しみやすくなった。

問題点(PSP)

  • 携帯機とは少々ゲーム性があっていない
    • 最終的には腰を据えてセーブ&ロードで情報集めに奔走し、それを元に自力での推理が必要なゲームである為、外で気軽に少しという携帯機におけるプレイ形式とは合っていない。

総評(PSP)

基本的には一部のシステムの改善と追加シナリオが増えただけの移植である。
とはいえ、時間があるときにメモを取りながらじっくりプレイするようなゲームである為、携帯機とは少々相性が悪かったようだ。

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最終更新:2021年11月17日 00:00

*1 フォグが本作以前に本作シナリオの西ノ宮勇希と制作した『missing parts』にも同様のシステムを採用している。