電車でGO! 特別編 ~復活! 昭和の山手線~

【でんしゃでごー とくべつへん ふっかつ しょうわのやまのてせん】

ジャンル 鉄道運転シミュレーション
対応機種 ニンテンドーDS
発売元 スクウェア・エニックス
開発元 音楽館
発売日 2010年7月22日
定価 5,219円(税別)
判定 スルメゲー
シリーズファンから不評
ポイント 山手線命名100周年記念作
音楽館開発とは思えない低い再現度
山手線の資料集としては秀逸
電車でGO!シリーズリンク


概要

2009年に、山手線と命名されてから100年を迎えたのを記念して、タイトーの家庭用ゲームソフト事業の移管先であるスクウェア・エニックスが発売。
開発は『Train Simulator』シリーズや、鉄道博物館等で電車運転シミュレーターを手がけた音楽館が担当。
またリアルな操作が出来る「プロフェッショナルモード」の他に、初心者でも直感操作で運転出来る「ビギナーモード」を搭載。

ゲーム内容の変更点

  • 基本ルールは初代から変わっていないため、シリーズ他作品の記事を参照。ここでは以下にシリーズ作品との相違点を記述する。
    • 低年齢向けを意識したのか漢字にルビが振られており、さらに操作を簡略化(ノッチ数がN含めて7段)した「ビギナーモード」を実装。過去作同様のモードは「プロフェッショナルモード」となっている。
    • 山手線の車両を運転するには、一部例外を除き各形式ごとの入門編をクリアする必要がある。詳細は評価点の節に譲る。
      • 車両は山手線のほぼ全世代のものがプレイアブルとなっている。このうち101系以前の車両の運転は「昭和モード」となり、風景やサウンドが専用のものになるほか操作方法も一部変化。ノッチ数が減るため、全体的に運転は難しめ。
    • 初代同様の持ち時間制が採用されているが、メインモードではこれとは別に『FINAL』のようにスコアも記録されるようになっている。
    • クイズモードとして「山手線検定」がある。山手線29駅(当時)を、鉄道の基礎知識や山手線にちなんだ問題に答えながら進んでいく。
      初級・中級・上級と昭和モードがあり、特に後者2つは初見全問正解は難しいレベルのマニアックな内容となっている。

運転可能な車両

現代

  • E231系500番台
    • 発売当時の最新型車両。過去作では『FINAL』のみ運転可能。拡幅車体と高い車両性能が特徴的で、この頃はまだ6ドア車が繋がっていた。
  • 205系
    • 国鉄末期に製造された、山手線初のステンレス車両。過去作では初代・『EX』・『3000番台』・『プロ仕様』・『FINAL』に登場し、もはやお馴染みの形式である。ただし後期の仕様のためスカートが取り付けられている。
  • 103系高運転台車
    • 国鉄最多製造にして「国電」の代名詞たる名車。ここではATC取り付け後の高運転台姿となる。過去作では『プロ仕様』と『FINAL』で運転可能。ウグイス色1色の車体が特徴的。
  • 205系量産先行車(隠し)
    • いわゆる「田の字窓」の側面が特徴的な、205系の試作型車両。スカート未装着。数編成のみの存在で、現役当時は割とレアな車両だった。
  • 明治ミルチトレイン(隠し)
    • 2009年にE231系500番台に施されたラッピングで、正式名称は「山手線命名100周年記念復刻調ラッピング」。その名の通り旧型の車両を復刻したような塗装で、全面がぶどう色になっている。
  • マクドナルド限定車両 1(隠し)
    • ファストフードチェーンのマクドナルドでかつて行われていた「マックでDS」サービスの配信限定。E231系500番台のラッピングになっており、前帯と側面が真っ赤・側帯が黄色で、JRマークの代わりにマックのロゴという派手なデザインが特徴的(もちろん実在しない)。
  • マクドナルド限定車両 2(隠し)
    • マックでDSの第2弾配信限定。E231系500番台にMcCaféをイメージしたカフェモカ色の全面ラッピングが施されており、側面にはMcCaféのロゴが入る。実在しない。
  • マクドナルド限定車両 3(隠し)
    • マックでDSの第3弾配信限定。限定車両1の色違いで、前帯と側面はダークブラウン・側帯はベージュに塗られている(マクドナルドの新デザイン店舗をイメージ)。実在しない。

昭和

  • 101系
    • カラフルな車体など、当時としては革命的だった新性能電車。山手線なのにカナリアイエローの車体だが、当時は本当にこの塗色が用いられていた。
  • 72系920番台
    • 72系の最終増備型。下の72系から様々な面が改良されており、特に前面は101系そっくり。
  • 72系
    • 旧性能電車の一大勢力を築いた、鉄道史に残る車両。 なんだかんだで改造車はJR化後も生き残っていたりする。様々な形態が存在したが、ゲーム中では初期~中期のデザインになっている。
  • 103系低運転台車(隠し)
    • 山手線ATC化前に使用されていた103系。101系にそっくりだが、塗装や前面窓の形状が異なる。
  • 31系(隠し)
    • 戦前から用いられた車両。張り上げ屋根など新しい技術がふんだんに使われている。
  • 30系(隠し)
    • こちらも戦前から運用されていた。鉄道省最初の鋼製車である。

明治

  • デハ6285(隠し)
    • 明治時代の車両。集電方式はポールで、屋根の形状などに鉄道黎明期らしさを感じさせる。この車両のみレベル制限があり、本当に極めた人にのみ楽しめるコンテンツになっている*1

評価点

  • 非常に親切な入門編
    • 本作の入門編は「訓練モード」として極めて細かく練習できるようになっており、とても親切。
      • 「加速」から始まり、多くのプレイヤーを撃沈した「停車」だけの訓練も可能。最後にはうまく運転できるかどうかのテストもされるので、本当にマスターしてから運転できてとても気分がいい。
  • 駅間距離がリアル路線長
    • 本シリーズではプレイ時間などへの配慮により駅間距離が短縮されているのだが、今作は実際の山手線と同じ距離で運転できる。
      • そのため、一周ぐるりとするダイヤを選ぶと運転時間も約60分掛かる。
  • 車両関係の音が実音
    • 今作は警笛、ドア開閉音*2が実際の音声となっている。またE231系の自動放送も実際のものとなっている。
      • 「アナウンス」で実際と同じものが使われたのはシリーズ初。
    • ただし走行音と発車メロディとATOS音声については「再現」レベルとなっており、実際の音声ではない。
  • マスコン段数が実車と同じになった
    • 従来作は殆どの作品で車種に関わらず「マスコン5段、ブレーキ8段+非常」で統一されていたが、今作のマスコンはちゃんと実車に沿った数になる。E231系や205系は5段、103系や101系は4段、それ以前の電車の多くは3段。
      • ただし101系と103系のブレーキは、本来電磁直通ブレーキ*3なのだが、この2車種はブレーキ4段+非常ということになっている。
  • ハマる「山手線検定」
    • 問題数が程よく、難易度も調整できるので知識量に合わせて楽しめる。上級や昭和は並の鉄道ファンでは到底クリアできないほど。
    • 流石は過去に『鉄道ゼミナール』を制作したタイトー、というべき良モード。

賛否両論点

  • 鉄ちゃんが登場しない。
    • 代々姿を変えながらシリーズに華を添えてきた女性キャラの「鉄ちゃん」が登場せず、Suicaを模した四角いキャラクターに変わっている。本作は対象年齢が低めなことが影響したのかもしれないが、シリーズファンからは不評な点である。
      • ちなみにこのカードのようなキャラは『鉄道ゼミナール』のキャラ「きっぷくん」のオマージュである。
  • ボーナスのインフレ化
    • 当然ある程度の実力を要するものの、今作は定刻と0m停車を同時達成した場合、なんと24秒も加算される。非常制動停車や駅構内再加速を使っても、過去作と違い停止位置と時間さえよければ持ち時間が増える。
      • これについては主にシリーズファンから「ヌルゲー化した」という声が挙がる一方、新規層からすれば終点まで走るハードルが下がったことになり、好評な点にもなっている。
    • ところが、持ち時間が最大でも100秒しか保持できない。過去作の殆どは持ち時間上限が999秒*4だったが、今作は表示枠は3桁分あるのに100秒以上に増やすことが出来ないという中途半端な仕様になっている。初期持ち時間は30秒で固定のため、3駅も停車すれば持ち時間がカンストしてしまう。

問題点

初心者向けのビギナーモードが逆に難しい

  • 初心者の為にボタンの数を減らし、加速・減速共に3段階のボタンに絞り、直感的な操作が出来るようにしたモードだが、加速性能がプロフェッショナルモードより劣る車種がある。
    • 65km/hまで加速する場合、マスコンが4段以上ある車両ではビギナーモードの最大加速でも、プロフェッショナルモードのフルノッチ加速より7~11秒ほど遅い。このタイム差のせいで、車種によっては後述の謎特性を使わないと定刻運転が不可能である。
      • また減速については、プロモードで言う「B2」「B7」「非常」の3つしか無いため、これはこれで運転しにくい。もっとも、これで運転しにくいと感じるようならビギナーモード卒業と捉えてもよいのかもしれないが。

途中セーブが無い

  • 評価点で挙げた通り本作では路線長がほぼ現実と同じなので、運転にも相当な時間がかかる。これだけなら実車再現で良いのだが、長丁場にもかかわらず途中でセーブしてやめることができない。
  • 特に明治ミルチトレインなど一部の隠し車両は山手線を一周するダイヤしかないため、根気と集中力が必要。

その他

  • 操作がタッチのみ
    • タッチスクリーンという機能を前面に押し出しているといえば聞こえがいいが、プロフェッショナルモードだと画面上のキーが非常に小さくやりづらい。
  • 天候が変更できない
    • 今作の天候は全て「晴れ」で統一である。悪天候シチュエーション自体無くなったため、面白みが無くなったという意見もある。
  • バグのせいで勲章が全て埋められない
    • 本作は特定の条件を満たすと「勲章」が獲得できるのだが、その中で「全ての路線を走破」「全てのすれ違い車両と遭遇」「全ての称号を獲得」が獲得できない。
      • 「全ての路線を走破」は隠しを含む全ての車両で全区間を運転する必要があるのだが、明治時代の浜松町~品川を走破してもその車両がクリアしたことにならないバグがある。
      • 「全てのすれ違い車両と遭遇」は後述のマクドナルド車両を含む全てとすれ違ってもなぜか勲章がもらえない。
      • そして「全ての称号を獲得」は上記2つのせいでやはり獲得不可能。
  • また、冒頭で述べたとおり運転できる車両の中には2010年に「マックでDS」で約2週間だけ配信されていた車両も含まれる。
    • このマクドナルド限定車両は配信限定で解禁パスワードは一切公表されていないため、発売開始直後に購入した人でないと絶対埋められない。

再現度の低い箇所

本作の開発元である音楽館は鉄道運転士の訓練用のシミュレーターを製作するなど車両挙動の再現に対してはかなり評価が高いことで知られている…のだが、本作は音楽館開発とは思えないばかりか、単体で見ても目に余るレベルに再現度の低い箇所が複数も存在している。

加速力がおかしい速度域がある

  • 発車した時、15km/hまではマスコン1段、30~60km/hまではマスコン2段の方がフルノッチよりも加速力が大きいという謎特性がある。
    • 実車では当然フルノッチが一番加速度が大きい。少なくとも、フルノッチより低いマスコン段数の方が高い加速力を誇ることはありえない。
      • 実際の山手線では、マスコン1段目が通常運転で使われることは殆ど無く、山手線車両はマスコン2段目で60km/hまで加速出来ない。
    • 因みに現代版103系の一部区間では、この謎特性を使わないとどう頑張っても遅れる駅がある。

Gセンサーが適当

  • 駅発車時にいきなりフルノッチをタッチするとGセンサーがいきなり3/4くらいまで跳ね上がり、その後徐々にGセンサーが戻り、中速域くらいでGセンサーが完全に0になる
    • 減速時は、B6までは一定のところでGセンサーが止まるが、B7以上を掛けた場合のみ一定のラインを超える。
      • この挙動は『FINAL』基準のGセンサーで考えた場合、鉄道車両の限界を超えた加速をするも、中速域以上への加速が不可、減速はB6以下は一定の減速度だが、B7以上を使った場合は徐々に減速度が強くなるという訳のわからない挙動となる。要するに列車の動きとGセンサーがリンクしていないため、単体で見ても明らかに手抜きである。

ブレーキ圧の概念がない

  • 減速中にブレーキをニュートラルにすれば即座に減速が終わるので、電車運転ゲーム自体が初めてという人には速度の調整がしやすいが、従来作に慣れていると、ブレーキを切ってから空気圧が抜けきるまでの残圧で速度制限に合わせようとするため、そのまま速度超過に繋がってしまう。

総評

DSの能力を考えると頑張った方と言える。非常に親切な入門編、山手線全線を内回り外回り共に実距離で収録、沿線風景もそこそこ再現したにもかかわらず処理落ち無く運転出来るのは評価に値する。また、資料集などといったゲームのみならず、実際に博物館でもお目にかかれないレベルの情報を閲覧できる点においても非常に価値のあるものと言える。

ところが、運転シミュレーターとして見た場合だと話が変わってしまう。DSであることを差し引いても、非常に雑な描画と根本的なシステム面、特に肝心な運転面の描写に手抜きが目立ち、本当に音楽館開発で作ったのか疑問に思える作品となってしまった。

よって、本作は山手線に特化した携帯ゲームソフト兼資料集と割り切るべきと言える。それだけにゲーム面における不出来さには名残惜しいことこの上ない。

余談

  • 今作は山手線命名100周年記念作品という事で過去作以上にJR東日本から協力を得られている。中には 大宮の鉄道博物館にある門外不出の所蔵品を資料として借りる事が出来た そうで、これは今回の開発者である向谷実氏への信頼とこれまでの実績があったからこそであり、旧タイトー時代を含むスクウェア・エニックスでは出来なかっただろうと思われる。
    • しかしそれでも昭和モードの1周収録は叶わなかった。
      運転できるのは駒込~上野、上野~新橋、目黒~新宿、(隠し車両で)明治時代の浜松町~品川のみで、しかも外回り限定。
    • 資料不足により昭和30年代の山手線沿線の街並みが完全に再現出来なかったという事情がある。向谷氏によれば、当時の沿線上の街並みの資料が要所的には残っていても全体的に残っているケースが少なく、当時の沿線上にどのような建造物や景色があったのかが不明な部分が多かったという。実際、当時の街並みをの考証の際には古い写真やフィルム映像、当時の地図や航空写真を資料にして再現したので、過去作のように路線が短縮されている場合はともかく、今作はリアル路線長なので背景を省略するのが難しく、再現出来なかった区間の収録は断念せざるを得なかったのだ。
+ タグ編集
  • タグ:
  • 鉄道シミュレーター
  • スクウェア・エニックス
  • 音楽館
  • 電車でGO!

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2021年10月09日 01:44

*1 ただし、一定確率でチラッとオープニングに映ることがある

*2 非常に細かいことを言うと、205系のドア閉音は『THE 山手線 ~Train Simulator Real』で「ドアの再開閉が行われた時の音」となっており、通常のドア閉音とは微妙に異なる。

*3 角度に応じて制動力が変わる方式であり、ブレーキ段数という概念が無い。

*4 もっとも、999秒まで持ち時間を稼げるのはプロフェッショナル2の佐世保→博多の811系ダイヤだけだが…。