極限脱出ADV 善人シボウデス

【きょくげんだっしゅつあどべんちゃー ぜんにんしぼうです】

ジャンル 極限脱出アドベンチャー

対応機種 ニンテンドー3DS
プレイステーション・ヴィータ
発売・開発元 チュンソフト
発売日 2012年2月16日
定価 【3DS】6,090円
【PSV】パッケージ版:6,090円,DL版:5,480円
セーブデータ 1個
レーティング CERO:C(15歳以上対象)
判定 良作
極限脱出シリーズ
9時間9人9の扉 / 善人シボウデス / 刻のジレンマ


概要

  • 数多くの登場人物が織り成すサスペンスシナリオを搭載した脱出ゲーム『極限脱出』シリーズの2年越しの2作目。前作の『極限脱出 9時間9人9の扉』とほぼ同じシステムのADVゲームである。
    • 前作と同様シナリオは打越鋼太郎氏が、キャラクターデザインは西村キヌ氏が担当している。
  • チュンソフトがパブリッシャーとして出されるADVは本作が最終となる*1

ストーリーと舞台設定

何者かに突然拉致されて意識を失っていた主人公が目覚めた場所は、見知らぬエレベータのような閉鎖空間の中。
そこにウサギの姿をした謎のキャラクターの映像が流れ、「早く脱出しないとエレベータが落下するぞ」と脅される。

これを皮切りに、主人公を始めとする老若男女9名は、謎の巨大施設の中で
「ノナリーゲーム アンビデックスエディション」という不可解なゲームを強要される。
それは、参加者同士で施設からの脱出の権利を賭けて繰り広げられる「裏切り」のゲームだった。

  • ノナリーゲーム アンビデックスエディション
    • 9人の人間が自分の命を危険に晒して挑む「ノナリーゲーム」。前作でも同名のゲームが執り行われたが、本作のそれは「裏切り」「騙し討ち」といった要素を盛り込んだ特別仕様版である。
    • ゲーム参加者は全員バングルを装着する。これには自分の「BP(バングルポイント)」が表示され、「AB(アンビデックス)ゲーム」を行う事で数値が増減する。BPが9になった参加者は、「9の扉」を開けてこの施設から脱出できる。
    • ルール違反などのペナルティにより参加者が死亡する可能性もある点は、元のノナリーゲームと同様。
+ ゲーム序盤で説明を受けるルールについて
  • ABゲームを行うには、特定の一色で塗られた「CD(カラードドア)」というドアの向こうにある部屋の仕掛けを解き、所定のカードキーを手に入れる必要がある。
  • 参加者が装着するバングルには全部で3つの情報が表示される。「現BP値」「色」「ソロorペアの表示」であり、この内BP以外の2つは、CDをくぐる際のグループ分けで使用する。
    • CDには、9人の参加者全員が同じタイミングで、3人ごとのチームに分かれて入る。
    • グループ分けには何かと細かいルールがある*2が、要するに「脱出ゲーム攻略は基本的に3人一組。チームメンバーと入るドアの組み合わせは、色制限によって最大3パターンまでに絞られる*3」ということ。
  • BP以外の表示は、ABゲームを1回こなすごとに全員分が変更(設定上はランダムシャッフル)される。
  • 初期BPは3。ここからBPを稼ぐ唯一の方法がABゲームである。*4
    • チームを組んだ者同士(ソロの1人VSペアの2人)が、それぞれ専用の防音個室に入って対戦する。投票装置で「協力」または「裏切り」を選択すると、その組み合わせに応じてBP値が上下するだけの、至ってシンプルな内容である。
    • 増減値は以下の通り。
      • 「協力」を選んだ場合……相手も「協力」を選んだら「+2」。相手が「裏切り」を選んだら「 -2 」。
      • 「裏切り」を選んだ場合……相手が「協力」を選んだら「 +3 」。相手も「裏切り」を選んだら「±0」。
  • BPを9以上にした参加者は、9の扉の向こうに行き施設の外に出る事ができる。ただし、9の扉が開くのは一度きり。
  • ゲーム中にルール違反を犯すと、電子制御式のバングルから致死性の毒薬を注射されるというペナルティが課される。

長々と書いてきたが、基本ルールについてはゲーム序盤で説明がなされた後、即座に主人公が改めて整理しなおしてくれる。
ゲーム本編に触れる前からあまり難しく考える必要はないので、そこは安心してほしい。


システム

システムは前作同様、ノベルパートと脱出ゲームパートを交互に繰り返して進行する。

脱出ゲームパート

  • 脱出パートでの背景CGは3Dで描画されている。探索中の主な視点操作は、前作の固定画面をタッチで切り替える方式*5から、左右にカメラを振る方式に変わった。
    • 視点操作以外は一般的な脱出ゲームとほぼ同じ作りであり、画面中を調べる事でアイテムやヒントを集めて仕掛けを解き、部屋を脱出するためのパスコードを獲得する。
  • (3DS版)ゲーム中のインターフェースは「タッチ操作主体」「ボタン操作主体」の2系統用意されている。各操作ごとにやりやすい方を選んで併用する形に落ち着くと思われるが、全部をいずれかに寄せるスタイルでも一応プレイ可能。
  • 脱出ゲーム中に入手するものは、実際に使ったり何かと組み合わせたりする「アイテム」と、謎解きに必要な情報などがまとめられた「アーカイブ」の2種に分かれ、個別の管理画面が用意されている。
    • 資料系アイテムの「FILE」以外に、各部屋ごとの「PASS」、ゲームの操作方法などをまとめた「HELP」は、アーカイブ画面でタブにまとめて管理される。アーカイブに分類された情報は部屋をクリアした後でも常時閲覧可能。
  • 難易度選択
    • モードは「Hard」「Easy」の2種類。デフォルト設定はHardで、脱出パート中ならいつでもEasyに任意変更可能。
    • Hardでのヒント用メッセージは必要最小限。Easyモードには同行者からのヒントメッセージが多数用意されており、解答に近づく大ヒントからズバリ正答まで、段階的にフォローしてくれる。のだが、Hardモードには重大な問題があり…(詳細は問題点へ)
  • アーカイブ用PASS
    • 脱出パートにはゲームクリアに必須の脱出用PASSの他に、隠しアーカイブ「SECRET」を閲覧するためのPASSが隠されている。
    • SECRETの内容は、作品世界の設定や用語解説などが中心。前作の物語に関する話も多い。
    • 難易度Easyでアーカイブ用PASSを入力した場合、1つのPASSに対して開放されるアーカイブの一部が伏せられてしまう。
      • 一応ペナルティめいた動作であるが、これはHardでやり直して再度金庫にPASSを入力すればOK。

ノベルパート

  • フローチャート
    • 本作のシナリオは、グループ分けとABゲームの選択によって分岐する。誰と組んで脱出ゲームを通過し、協力と裏切りのどちらを選択するかで、登場人物のBP状況と人間模様が移り変わり、それに応じて物語が展開する。
    • これらの分岐構造図は最初からフローチャートで示され、既読箇所はチャート表示画面から直接ジャンプできる。脱出ゲームやイベント中に、分岐に影響するような要素は特にない。
  • シナリオロック
    • 1つのシナリオを読み進めていると、途中で展開が中断させられてそのままでは続きを読めなくなるロック箇所がいくつか存在する。ロックは、対応するキーフラグを含む別のシナリオを読む事で解除される。
      • 同社開発のADV『』や『428』でも見られた、「シナリオを読む順番をシステム側でコントロールしつつ、用意したシナリオの全てをプレイヤーにフォローさせる方式」と同じである。
  • エンディングリストは9枠。クリアすると、セーブデータ上にクリアアイコンが付く。

グラフィックなど

  • 人物と対話するシーンでは人物モデル(これも3D描画)+メッセージウィンドウの形式、主人公の一人称による心象描写などは画面全体に対し背景CGの前面にテキストを表示する形式でレイアウトされている。
    • (3DS版)テキスト表示に上画面を使用。下画面はタッチ操作によるテキスト送りと各種システムコマンドが配置されている。
  • 本作のグラフィックは基本的に全て3Dだが、回想などのイメージ的な映像表現では2D絵が使用される事もある。
  • ノベルパートは主人公のセリフ全般と極一部の例外*6を除き、キャラボイス付き。

評価点

難易度

  • 仕掛けやミニゲームパズルが数多く用意され、その大元の難易度は「簡単すぎず、難しすぎず、理不尽でない」の範囲をキープしている。
    • 今回は、立体図形・空間図形タイプの問題が増えている。サイコロを転がしたり、パーツを回転させて図形の形を変えたりといった問題が、やや難易度高め。サイコロに関しては『XI』のプレイ経験があると難易度は下がる。
    • 難易度別のモードを任意で選べるようになったことで、自力でじっくり謎を解きたいところで意図せず重大ヒントを見てしまったり、逆に早く物語の続きを読みたいのに手詰まりを起こしてしまったりといった事態に陥りにくくなった。異種のジャンルがそれぞれ持っていた需要の両方にきちんと対応されている。
  • アーカイブ用パスには、脱出用パスより少し達成難度の高いものもある。クリアに必須でない解答が加わったことで、情報を取捨選択して答えを導き出す楽しみが増えた。
    • 「同じギミックを使った別解答」という概念自体が前作には無かった要素であり、体感的なやり応えが上がっている。

シナリオ面

  • 物語全体が多くの謎に満ち、その伏線はテキストだけでなくゲームの構成要素全体を取り込みつつダイナミックに張られている。それらがゲームの進行に合わせて次々と種明かしされていく様の面白さと意外性のため、熱中度の高い物語である。引き込まれたプレイヤーはラストまで一気にやり続けさせられてしまうほどのパワーがある。
    • おおまかには、「脱出ゲーム」をとある思考実験と照らし合わせ、そこに「自然物と人造物の対比」をからめていく物語が展開される。ベースが思考実験だけあって若干の難解さを持っているが、複数のエピソードで似たテーマを繰り返し扱うため理解しやすい。
  • ABゲームの存在
    • ABゲームとBPの増減模様は、対戦相手がそれぞれ胸に秘めた思惑を映す鏡となる。
    • 他人を蹴落としてでも脱出するか、少しでも多くの人間を救うか。その思いは各キャラクターの素性に関係すると共にゲーム中に起こるアクシデントによっても揺れ動き、そして無情な選択を迫られる。ここから浮かび上がってくる「プレイヤーの目線からは見えない物語」がシナリオ全体の根底を支え、独特の緊張感を持たせている。
  • クリアした後に色々と知った上で二周目を始めてみると、初見では気づけなかった、会話の真意が解るようになってくる。
    • クリア回数を重ねて要素を開放するタイプのゲームではないが、こういった「知っているとニヤリとできる要素」の好きな人には、二周目に着手してテキストをじっくり読み込む事をお勧めしたい。
  • キャラクター
    • ディオ、天明寺というキャラクターは、分岐する各ルートごとに、自身の立ち回りを大きく変化させる。逆に、いわゆるデスゲームの状況下としては不思議なほど、ほとんどブレないキャラもいる。
    • 一通りのエンディングを見る事で、彼らの意思と行動の理由が分かるようになっている。
  • 声優陣も納谷六朗氏や釘宮理恵氏、能登麻美子氏に小野大輔氏などと言ったベテランから実力派まで多数揃っており、ストーリーを盛り上げる。
    • 特筆すべきは今回のノナリーゲームの仕掛け人「ゼロ三世」で、このキャラを演じるのは国民的アニメ『ちびまる子ちゃん』で有名なTARAKO氏である。(特筆した理由は余談へ)
    • 特定のルートでしか声が聞けないキャラも何人かおり、そちらも大塚明夫氏や榊原良子氏といった大御所が務める。
  • プレイ時間の目安は、ハードモードで30時間前後。脱出ゲーム部分と合わせると、ボリューム自体も十分な量がある。

システム面

  • 前作で不満の出た部分の多くが解消されている。代表的なものがフローチャート機能であり、ヒントについても難易度選択で調節可能。
    • 前作にもクリア済みの脱出ゲーム部分のみをプレイできるモードはあったが、重要なストーリー会話を伏せられてしまうという欠点があった。今回はフローチャートで本編の該当箇所を直接プレイできるのでその点も安心である。
      + システムの評価について補足:軽度のネタバレ注意
    • 極限脱出シリーズは仕様とシナリオが重ねあわされているという特徴を持っている。前作では演出とシナリオの都合に合わせる形で不便な仕様が採られ、安易な方法では直せないデリケートな問題点となっていた。
      • そんな前作の不満に対して本作で一部解消が見られたのは事実であり、本項でも便宜上「評価点」「欠点・問題点」のニュアンスで区分した記述をしているが、それが妥当な表現であるのかどうかは、受け手によって差の出るところだろう。
      • 本作のフローチャート機能も、「分岐構造の大半が初期から見えてしまっている」「(セーブデータが1つしか作れない事と既読スキップのスピードを考慮すると)ジャンプできるポイントがやや大雑把」「各人の現在BPなどを参照できず状況が混乱しやすい」といった細かい不満点は残っているが、これも意図的な仕様であるかもしれない事を予め補足しておきたい。

問題点

シナリオ面

  • どちらの選択も後味悪い選択肢
    • 多くのABゲームでは「裏切り」を選べば卑怯者と罵られ、「協力」を選べば裏切られる。どちらも旨みが無い選択が少なく無い。
    • 他のプレイヤーが「9」に達した時は易々と脱出されることが多いのに、こちらが「9」に達すると一斉に取り押さえられバッドエンド扱い。
    • また、トゥルーエンドを迎える為には全てのルートを網羅する必要がある為、結局両方を選ばなければならない上に後味の悪い思いを何度も体験する事になる。
      • 但し、この仕様は前述した通り、本作のシナリオと密接に重なり合わさっているが故でもある。
    • 次回作『刻のジレンマ』は「運命の理不尽さ」がテーマである事もあり、「どちらも後味が悪い上に、最終的に両方選ばなければならない選択肢」と言う点が本作以上に増強されている。
  • キャラクター
    • 登場人物の多くはアメリカ出身の設定だが特にそれに特質したキャラ設定でも無い。
      • 日本のことわざや文化に全員が詳しい。というか一般会話が日本人そのもので、わざわざ外国人にした意味があまりない。
      • 海外展開の関係も若干あった模様。実際、本作はアメリカで人気である。
      • この点は次回作も同様。但し、本作よりは海外らしい雰囲気は出ている。
    • ルートよってはキャラクターの性格が大幅に違うこともあり違和感を生じるプレイヤーもいる。
  • テンポが悪い
    • 移動シーンは地図を辿り、その都度扉の開閉演出がありテンポを悪くしている。
    • 中でも階層の移動が挟まると、「エレベータホールに向かい、エレベータの扉が開き、乗ってしばらく待って、また扉が開くので降りて、目的の場所へ移動…」と、特に長い待ち時間が発生する。既読スキップで早送りできるが、それでも結構長い。
    • また会話の中で、ボタンの押す場面などでいちいち仲間に確認を取る、カウントダウンをするなど冗長な部分がある。
  • 視点移動やズーム解除などでスライド操作が加わった事により、操作系が若干複雑になり、入力感度は鈍化した。この点は、脱出ゲームパートの操作性をいくらか損なっている。
    • 操作スタイルによっては、視点の上下移動判定にカーソルが引っかかる事も。
    • 物を調べた際の判定範囲を枠で明示する補助仕様もなくなった。
  • ムービーやイベント絵で使われている人物の3DCGの出来が粗い
    • 特に顔や手のアップは人形っぽさが出てしまって、髪は固定されているように見える。
    • 2Dだった前作では、人物のドット絵は作画・動きともに好評で背景CGのクオリティも十分であり、脱出パートの操作性にも目立つ問題は無かった。これらもあって、今回の3D化はプラス面よりもマイナス面が目立ってしまった感がある。
    • また脱出ゲームパートでも、視点の上下移動に何も意味がなく、3DS版の立体視も人物描画が平面的である事などから、3Dグラフィックの恩恵が薄い。
    • 視点の上下移動はシリーズ的には本作独自の追加仕様なので、(お遊びも含めて)全く仕込みが無いらしいという結果を残念に思う意見は多い。
  • 不親切なHardモード
    • 脱出ゲーム中のキャラクター会話が制限されるHardモードでは、謎解きと関係のない雑談も大半が封印される。
    • Easyモードにすれば雑談が再開されるが、シナリオに中には全てHardモードでクリアしないと読めないシナリオがあり不親切な仕組みとなっている。Hardでも雑談ぐらい合っても良かったのでは無いだろうか。
    • この雑談の有無で登場人物への印象や愛着が大きく変わるほどであり、Hardでの完全攻略後の2周目はEasyでプレイするのが良いかもしれない。
    • 次回作では難易度設定自体が廃止された。

システム面

  • 前作と同様にバックログから音声の再生することはできない。
  • メッセージ速度も調整出来ず、ストレスが溜まりやすい。
  • タッチパネルの反応が悪く、一部の謎解きの操作性が極悪。
    • 特に所長室のいくつかの図形を並び替えるもの、減圧室の点と点を結ぶもので顕著。
    • 前者は正方形を構成しているいくつかの図形を並び替えて、正方形ではない別の図形を作るというものなのだが、判定が非常に厳しく移動もままならない。また回転させるのはより難しい。
      • 意図してかせずか、図形はやや雑に配置しても正解扱いになり、且つこの謎解きで得られるヒントが無くても(=謎を解かなくても)察しがつきやすく金庫のパスワードまで辿り着くことは容易である。
    • 後者は点と点を迷路のようになっている線を辿って繋げるのだが、またしても判定が渋く線を書くことすら一苦労。
      • プレイヤーとしては何度か試行しつつ解いて行きたい所なのでストレスが溜まる。また道から逸れてしまうとやり直し。
      • なおこの謎解きは計3回解くこととなる。(ヒントを入手していれば)何をするべきかは明らかなので闇雲にやらされる羽目にはならないことが報いか。

注意点

一概に問題と言えるかは難しいところだが、注意の必要な点がいくつかある。

  • 『9時間9人9の扉』に関する重度のネタバレを含み、かつ回避不能
    • 本作のストーリーの根底は前作の出来事と深く関連しているため、『善デス』→『999』の順で攻略すると後者に対して先入観ができてしまう。面白さが損なわれるまでではないが、新鮮味は薄れるだろう。
    • 「前作キャラクターと同一人物が出演しているので続編であるとの予想はついたが、ここまで踏み込んだ内容のバレがあるとまでは思わなかった」という人も多い。自衛策は…先に前作をクリアしてしまう事、だろうか。
  • かなり重いストーリーである上、全体像が完全には判明しない。
    • 閉じ込められた主人公が脱出するところはきちんと描かれる。しかしそこから先の詳しい話となると、作中の手掛かりや前作からのキーワードを総動員しても霧の中である。
      + エンディング内容に近づいたネタバレを含むので要注意
      • 本作の事件にも当然首謀者がいて、強い動機を持った上でノナリーゲームを開催した。そこは間違いないとプレイヤーに想像させるのだが、動機にまつわる具体的なエピソードは描写されない。また、本作のラストシーン以降に何かが起ころうとしている様子が描かれるが、それも結局不明のまま終わる。
        数々の謎が次第に明らかになっていく過程の面白さこそ確かなものだが、「無事に脱出して後味スッキリ」とはいかない。
      • もう1つネタバレをすると、本作のメインキャラクター9人の内1人は、本作で判明する情報の範囲内で素性を説明すると「正体不明」。ヒントめいた発言がいくつか示されるに留まる。
      • つまり本作のシナリオは、謎の多かった前作の種明かしを豪快に含みつつ、それ以上の新しい謎をどんと盛り込むものであった。そしてその数々の謎は完結編『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』へと持ち越される形となる。
        『刻のジレンマ』発売までは4年の歳月が掛かり、それまでユーザーは続編が出るとも分からない状況で長い間“現実のシナリオロック”を食らった格好となったのである。
      • また、本作で残った謎の殆どは『刻のジレンマ』で明かされたが、次回作を以てしても未だ明かされない謎、消化不良の伏線も無い訳ではない。
+ ABゲームの穴について ※ネタバレ注意なのでクリア後に見てほしい
  • ルールが「囚人のジレンマ(参考:Wikipedia)」の体をなしておらず、裏切るメリットが無い。単純にクリアを目指すだけなら、実は相手を出し抜いて裏切りを選ぶ必要の全くないゲームである。
    • まずゲームの度に選択結果やポイントが全て公開されるので、一回でも裏切れば当然相手は自分を警戒してくるし、一度裏切ればポイントに余裕があるので相手が裏切りを選ぶのに躊躇するはずが無い。なので二回目以降を裏切りで勝ち逃げするのは不可能に近く、相手に協力を選んでもらわなければポイントを稼げないのでいきなり詰まる。また、6ポイント以上の裏切り者に対して相手が協力を選ぶメリットが無い。
      • つまりABゲームは一度でも裏切ってしまった時点でそのプレイヤーは詰み確定。本来の囚人のジレンマは一発勝負であり、裏切った後のことを考慮する必要が無いのだが、本作のABゲームは複数回行うためこのようになってしまう。
      • 他プレイヤーに協力を選ばせる抜け穴が存在し、2回目以降のABゲームでは登場人物がその方法を狙う描写が存在する。そもそも裏切る動機をもった参加者をわざとゲームに参加させているので、ここに記載されている前提条件から間違っている。
    • 早く脱出したいと考えても、裏切ると詰まるので裏切るタイミングは最後の一回しかない。すなわち「両方協力」「両方協力」として3+2+2=7ポイントになった時になるのだが、ここまで来るともう一度協力しあって2ポイント獲得すればお互い9ポイントに出来るので、あえて相手を閉じ込めたい場合以外に裏切るメリットが無い。
    • 仮に一度裏切った相手に協力を選んでもらいたい場合、相手を丸め込める話術や駆け引きの材料でも無い限り、裏切ると明白な相手にわざと協力を選んで「謝罪の為にポイントを渡す」ぐらいしか方法が無い訳だが、そうなると二回ゲームを行ってお互いに+1ポイントとなるので何の意味も無い。
    • 実際に早々に裏切りを出したとあるキャラが「お前相手に協力を選ぶわけないだろう」と言われ、以降ポイントが稼げなくなってしまう展開がある。そのため相手に強制的に協力を出させるために非人道的な行動をとるようになっていく。
  • この事実に気付くと上述の通りABゲームは簡単に攻略できる。
    • 尤も、これは参加者全員が同じ考えを持った場合のみ有効な手であり、プレイヤーが思いついた所で登場人物にそれを知らせる術などなく、主人公以外の登場人物は皆それぞれの考えでゲームを進めるので、本作のABゲームを有利に進められるなどという事は無い。
    • そもそもABゲームに勝利したからグッドエンド、という単純な構成ではない為、仮に必勝法として使えたとしても本作を完全攻略する上では有用な手ではない。もしも現実で同じゲームに巻き込まれでもしたら役に立つだろうが……。
    • ただ、これに気付いてしまうと、無用な諍いを繰り返す登場人物達にやきもきするという、精神的なデメリットはある。ABゲームは物語の根幹には半分無関係なのでストーリーや脱出パートが楽しめなくなる訳ではないが、この点はルール作りの不備*7と言えるだろう。

総評

極限脱出シリーズは基本設定からゲーム全体の構成までかなり複雑な作りなので、攻略と理解の助けとなる本作のフローチャート機能は概ね好評。またプレイヤーが実際に頭を捻って謎解きをする脱出ゲームパートも、物語を楽しむ事を阻害しない範囲で存分に遊べるよう工夫が施された。これらによって、作品本来の魅力に触れやすい仕上がりとなっている。
その反面、本作の物語は持ち味が重い。その負荷はクリア後も取り払われないままプレイヤーの心にずっしりとのしかかり、なおかつそれは前作の物語にも深く関係している。話を二の次に置いて単純に脱出ゲームとして遊ぶのがおよそ無理であることと消化不良感のある終幕。そしてそれを解消する為には次回作のプレイが必要不可欠である事は、あらかじめ覚悟がいるだろう。
またシステム面もあまり進化したとは言えず、3Dのグラフィックも評価が低い。 しかしそれを踏まえた上で、分岐構造をうまく物語に絡めて次第に輪郭を濃くしていくシナリオ演出と、適切に調整されたゲームバランスは評価されている。


余談

  • 本作は当初、前作のエンジンを使いまわしてDS対応で出す予定だったらしい。グラフィックの3D化やキャラボイスの追加などは、新ハードで出たことによる変更点と考えられる。
  • 無料配信された体験版では、序盤に出てくる脱出ゲームパートの1つを遊べる。
    • ここは部屋が4つに分かれているという本作屈指の面倒くさいステージであり、体験版の時点で脱出ADVへのジャンル耐性を試されるような形となった。このステージが平気だった人なら、本編の脱出パートはほぼ問題なしと言えるだろう。
  • 「鬱屈とした閉鎖空間での命を賭けた脱出劇」「子供向け作品で有名な声優がイロモノキャラクターの声を当てる」などといった、『ダンガンロンパ』との類似点がしばしば指摘される。
    • なおかつ、「でも実際やってみたら全然違った」と締められていることも多い。
    • 本作で「ゼロ三世」を演じたTARAKO氏に対し、『ダンガンロンパ』の悪役「モノクマ」を演じているのはこちらも国民的アニメの『ドラえもん』にて先代ドラえもんを演じた大山のぶ代氏と、この点でも類似点を感じさせられる。
    • 本作の企画立案と発売の中間点で『ダンガンロンパ』が発売されたため、ユーザーの心証にかなり大きく影響を与える結果となったが、指摘の後者は関係スタッフによると「たまたま」との事であり、前者については2009年発売の前作からして元々こうだった。特徴的な要素が重なった事で、似ているとの印象がより強まってしまったものと思われる。
    • 本作の2ヶ月後、チュンソフトと『ダンガンロンパ』の開発・発売元であるスパイクが合併し、両シリーズは同社作品となった。
      • また、大山氏は健康状態の関係で後に『ダンガンロンパ』シリーズを降板。その後任として二代目モノクマを務めたのは、本作のゼロ三世役であるTARAKO氏であった。

その後の展開

  • 2016年になって、直接的続編にして完結編となる『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』が発表され、同年6月30日に発売された。対応機種は3DSとPSV、Windows PC(STEAM)。後にPS4版も発売された。
  • 2017年にSteam/PSV/PS4で、2022年3月22日にXbox Oneで前作『999』と『善デス』をカップリング移植した『ZERO ESCAPE 9時間9人9の扉 善人シボウデス ダブルパック』が発売された。
    • こちらでは『999』共々グラフィックが高解像度化された他、『999』の方にもボイスやフローチャートが追加されている。
    • 本作『善デス』についてもセーブデータが27個に大幅増加した他、新たに既プレイ済ユーザー向けの「未読スキップ」機能も搭載され、PSV版はVita TVに対応。
    • 前作とカップリングになったことで、結果的に前作の重大なネタバレについても順番にプレイすることで事実上問題が解決されている。現在遊ぶなら断然こちらの方が良いだろう。
    • 一方で、DS版から画面構成等が大きく変わった『999』に対し、本作『善デス』は元のPSV版からのシステム的な追加変更点はほぼない。また、両作間のUIのすり合わせがそこまで行われていないため、操作面では続けてプレイすると多少違和感のある箇所もある。

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最終更新:2024年03月26日 19:13

*1 4月よりスパイク・チュンソフトとなった。

*2 ソロ表示のバングル1人とペア表示のバングル2人の計3人で組み合わせ、またCDの色と「各バングルの色を合成した時の色」を一致させなければならない。

*3 本来「9人を無作為で3人ずつのグループに分けたパターン数×ドア3種」という膨大な数になるところだが、制限をつけた事により、どれか1チームのメンバーが決まり次第、残りのグループ分けも入るCDの色も自動的に決まる。

*4 ちなみに、このゲームは「囚人のジレンマ」というゲーム理論の有名な問題が元ネタである

*5 ブラウザゲームでもこのタイプが多い。

*6 ボイス収録後に追加された一部シナリオのみ、ボイス無しとなっている。

*7 要するに裏切るメリットの期待値が低すぎるためであり。裏切り成功の時のポイントを4ポイント以上にするか両方裏切り時に1ポイント手に入るようにすればこの問題は簡単に解決できた(前者は3+2+4=9で最後に裏切れば一度だけ勝負回数を減らせるし、後者は自分が8ポイント目なら「裏切れば最低でも1ポイントで確実にクリアできる」というメリットが出る。)。